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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
管理番号 1384300
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-01-06 
確定日 2022-04-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6902588号発明「吸着フィルター」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6902588号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6902588号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜5に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)11月10日(優先権主張 平成26年11月19日)を国際出願日とする出願である特願2016−560160号(以下、「原出願」という。)の一部を、令和1年10月3日に新たな特許出願(特願2019−182692号)としたものであって、令和3年6月23日にその特許権の設定登録がされ、同年7月14日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和4年1月6日に、特許異議申立人 後藤 奈美(以下、「申立人」という。)により甲第1〜6号証を証拠方法として特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明5」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭とフィブリル化繊維状バインダーとを含む吸着フィルターであって、
前記活性炭は、体積基準の累計粒度分布における0%粒子径(D0)が9μm以上20μm以下であり、かつ、体積基準の累計粒度分布における50%粒子径(D50)が30〜110μmであり、
前記フィブリル化繊維状バインダーのCSF値が10〜150mLであり、
前記活性炭100質量部に対して、前記フィブリル化繊維状バインダーを4〜10質量部含む、吸着フィルター。
【請求項2】
前記活性炭の体積基準の累計粒度分布における50%粒子径(D50)が35〜100μmである、請求項1に記載の吸着フィルター。
【請求項3】
前記活性炭のベンゼン吸着量が25〜60質量%である、請求項1または2に記載の吸着フィルター。
【請求項4】
前記活性炭のベンゼン吸着量が25〜40質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の吸着フィルターを用いた、VOC吸着フィルター。
【請求項5】
前記活性炭のベンゼン吸着量が45〜60質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の吸着フィルターを用いた、遊離残留塩素、農薬又は黴臭除去フィルター。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第2項進歩性)について
本件発明1〜5は、甲第1号証に記載された発明及び本件特許出願の原出願の優先日における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 各甲号証
甲第1号証:特開2011−255310号公報
甲第2号証:特開平8−52347号公報
甲第3号証:特開平8−164333号公報
甲第4号証:特開2001−187305号公報
甲第5号証:特開2012−143701号公報
甲第6号証:再表2011/016548号公報

第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 各甲号証の記載事項等
(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には以下(1a)〜(1d)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭を主成分とする瀘材を、繊維状バインダーにて成形してある成形吸着体であって、前記活性炭が、体積基準モード径が20μm以上100μm以下の微粒子状活性炭であり、前記繊維状バインダーが、フィブリル化により瀘水度20mL以上100mL以下とした繊維材料を主成分とするものである成形吸着体。
【請求項2】
前記繊維状バインダーを4質量%〜10質量%含有する請求項1に記載の成形吸着体。」

(1b)「【0004】
一方、前記活性炭を主成分とする瀘材は、VOC(揮発性有機化合物)吸着能力を有し、粒度の細かいものほど単位重量あたりの外表面積が大きいので、吸着能力の点からは瀘材として好ましいと考えられる。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、粒径が小さく吸着能力の高い活性炭は、繊維状バインダーにより形成される微小な隙間から脱落しやすく、瀘材の成形吸着体として吸着能力が低下しやすいものとなるばかりでなく、活性炭どうしの間の結合強度が乏しいために、成形吸着体全体の成形強度が前記繊維状バインダーの成形強度のみに頼ることになって、全体として脆く、かつ、成形体強度が低くなりやすい。そこで、成形体密度を上げるなどの方法で成形体強度を高めると、濾過抵抗(通水圧力損失)が大きくなりすぎて、種々の用途に用いる場合に、濾過機能を発揮させることができず、製品化が困難であるという問題があった。・・・
【0007】
また、成形体強度を維持すべく、繊維状バインダーの使用量を増加したり、添加物として繊維状物質を追加したりすると、相対的に活性炭の使用量を減少させることになり、吸着能力の向上が十分期待できなくなるとともに、繊維状バインダーの使用量を増やした場合、瀘材表面を繊維状バインダーが覆ってしまって、前記活性炭の吸着能力を阻害するとともに、成形吸着体の空隙率が低下して、このような成形吸着体を浄水材として用いる場合に、全体としての濾過抵抗を上げてしまうことになるので、やはり、適用場所に制約を伴う等の問題が生じることになる。
【0008】
本発明の目的は、上記実情に鑑み、瀘材として粒径の小さな活性炭を採用して吸着能力を高めつつ、成形強度を高くかつ濾過抵抗の低い成形吸着体を提供し、その成形吸着体により吸着能力が高く、かつ、丈夫で取り扱い性の良い浄水材を提供することにある。」

(1c)「【発明の効果】
【0035】
したがって、瀘材として粒径の小さな活性炭を採用して吸着能力を高めつつ、成形体強 力が高くかつ濾過抵抗の低い成形吸着体を提供し、その成形吸着体により浄水能力が高く 、かつ、丈夫で取り扱い性の良い浄水材を提供することができた。」

(1d)「【0047】
〔各物性の測定方法〕
○濾水度
JISP8121「パルプの濾水度試験方法」カナダ標準型に準じた。」

イ 前記ア(1a)によれば、甲第1号証には、
「活性炭を主成分とする瀘材を、繊維状バインダーにて成形してある成形吸着体であって、前記活性炭が、体積基準モード径が20μm以上100μm以下の微粒子状活性炭であり、前記繊維状バインダーが、フィブリル化により瀘水度20mL以上100mL以下とした繊維材料を主成分とする成形吸着体であり、
前記繊維状バインダーを4質量%〜10質量%含有する、成形吸着体。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には以下(2a)〜(2b)の記載がある。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 水の流入側が, BET比表面積1500m2/g以上, 細孔半径0.40nm以上の粉粒状活性炭と,BET比表面積 500m2/g以上, 細孔半径0.35nm以上の繊維状活性炭とを主成分とする固定吸着層で構成されるとともに,水の流出側が,BET比表面積 500m2/g以上,細孔半径0.35nm以上の繊維状活性炭を主成分とする固定吸着層で構成されていることを特徴とする水処理用ろ過材。
・・・
【請求項3】 水の流入側の固定吸着層に用いる粉粒状活性炭は,粒径 200μm以下のものが90重量%以上を占め,かつ,50μm以下のものが50重量%以上を占める請求項1又は請求項2記載の水処理用ろ過材。」

(2b)「【0011】また,粉粒状活性炭と繊維状活性炭との吸着特性の差を大きくし, 繊維状活性炭の吸着特性の劣る部分を粉粒状活性炭で補完するためには,粉粒状活性炭の粒径は小さい方が好ましく,200μm以下のものが90重量%以上を占め,さらに50μm以下のものが50重量%以上占めるものが好ましい。粉粒状活性炭は, ヤシ殻,石炭,木炭等いずれを原料とするものでもよい。」

(3)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には以下(3a)〜(3b)の記載がある。
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 繊維状活性炭と, BET比表面積2000m2/g以上の粒状活性炭を主成分とする結合塩素を含んだ水を処理するための水処理用ろ材。」

(3b)「【0011】本発明における粒状活性炭は,一般に呼称されている粒状及び粉末状のいずれの活性炭でもよいが,好ましくは平均粒子径が10〜 500μmのものである。粒状活性炭の平均粒子径が10μm未満になると, ろ材が目詰まりしやすく,圧力損失が大きくて水が流れ難くなり,500μmを超えると, 粒子間の空隙が開きすぎて成型加工が困難となる。」

(4)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には以下(4a)〜(4b)の記載がある。
(4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 水から汚染物質を除去する水処理器に用いる活性炭を固化したフィルター成形体の製造方法において、粉末もしくは粒状の活性炭と高分子量で低メルトインデックスの重合体結合材を所要比率で混合攪拌し、モールド内にその混合原料を所定量充填した後、充填した混合原料に振動を加えて成形後のフィルター成形体高さの5〜15%増になるまで嵩を減少させた後、混合原料を加熱することによって前記重合体結合材を流動状態にした後に、加圧して成形後のフィルター成形体の高さに調整し、冷却して脱型することを特徴とするフィルター成形体の製造方法。
・・・
【請求項4】 フィルター成形体用いる活性炭として、60−100メッシュパス粒状活性炭及び100メッシュパス粉末活性炭を1対1〜4対1の割合で混合したものを用いた請求項1から3のいずれかに記載のフィルター成形体の製造方法。」

(4b)「【0041】以下、本発明で用いる原料とその性質について詳細に説明する。本発明で得られるフィルター成形体は、活性炭を重合体結合材で固化した多孔質体であり、重合体結合材としては低メルトインデックスの高分子量多孔質ポリマーを用いる。
【0042】活性炭は60メッシュパス以上のものを用いることができ、60メッシュパス未満であると、重合体結合材で活性炭を固めることが困難になることと、フィルター成形体1の空隙が大きくなりすぎて活性炭に接触することなくフィルター成形体1を通過してしまう水が多くなるので塩素や汚れなどを除去する性能が悪くなるので好ましくない。
【0043】以上のフィルター成形体1に用いられる重合体結合材と活性炭における更に好ましい形態として、粒子の大きいもの及び粒子の小さいものの2種類の活性炭を用い、粒子の大きい活性炭としては60−100メッシュパスの粒状活性炭を用い、粒子の小さい活性炭としては100メッシュパスの粉末活性炭を用いる。そして粒子の大きい活性炭と粒子の小さい活性炭を1対1から4対1の割合で混合し、このような活性炭を低メルトインデックスの重合体結合材で固化する。
【0044】このような2種類の粒径分布を有する活性炭を前記のような比率で混ぜて使用することによって、60−100メッシュパスの粒状活性炭同士の隙間に適当に100メッシュパス以上の粉末状活性炭が存在し、塩素や汚れなどを除去する性能と十分な流量が長期に渡って得られるという能力を兼ね備えたフィルター成形体1を得ることができる。
【0045】ここで上記の粒子の大きい活性炭として60メッシュパス未満のものを用いると、やはり重合体結合材で活性炭を固めることが困難になることと、フィルター成形体2中の空隙が大きくなりすぎて活性炭に接触することなくフィルター成形体2を通過してしまう水が多くなるので水の塩素などの除去性能が悪くなるので好ましくない。
【0046】そして粒子の小さい活性炭を100メッシュパスよりも細かい、例えば300メッシュパス以上の活性炭を用いるとフィルター成形体2の空隙部分が少なくなってしまい十分な流量が得られなくなるので好ましくない。」

(5)甲第5号証の記載事項
甲第5号証には以下(5a)〜(5b)の記載がある。
(5a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状活性炭(A)40〜80質量%と、繊維状活性炭(B)2〜30質量%と、熱融着性繊維(C)5〜15質量%と、パルプ(D)5〜15質量%とを含有し、これらの合計が100質量%である混合物からなる湿式抄紙シートであり、前記粉末状活性炭(A)のメジアン径が30〜120μmであり、前記シートの坪量が80〜170g/m2であり、かつシート2枚を熱接着した積層シートの剥離強度が10g/20mm以上であることを特徴とする浄水用活性炭シート。」

(5b)「【0014】
粉末状活性炭(A)のメジアン径は30〜120μmであることが必要であり、50〜100μmであることが好ましい。粉末状活性炭(A)のメジアン径が30μm未満であると、湿式抄紙法によりシートを得る際に粉末状活性炭の大半がシートに残らず、材料歩留りが著しく低下し、良好なシートが得られないだけでなく、たとえフィルター化できても目詰まりしやすくなる可能性があるため好ましくない。一方、メジアン径が120μmを超えると、接触効率が低下するため、浄水性能が低下する恐れがあるだけでなく、シート加工やフィルター加工の際に活性炭の脱落などの不具合が生じる可能性があるため好ましくない。粉末状活性炭(A)のメジアン径を測定する方法としては、レーザー回折式粒度分布測定装置などが挙げられる。」

(6)甲第6号証の記載事項
甲第6号証には以下(6a)〜(6b)の記載がある。
(6a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心粒子径が80μm〜120μmで、かつ粒径分布における標準偏差σgが1.3〜1.9である粉末状活性炭(a)および繊維状バインダー(b)を含む混合物を成型してなる活性炭成型体であって、
該標準偏差σgが、該粉末状活性炭の体積平均粒径分布の大きい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における15.87%径の値をD15.87、および該粉末状活性炭の体積粒径分布の大きい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値をD50とする場合に、D15.87/D50で示される、活性炭成型体。」

(6b)「【0019】
本発明によれば、JIS S 3201(2004)で測定される遊離残留塩素、揮発性有機化合物、CATおよび2−MIBの除去能に優れ、さらに濁りろ過能力に優れた活性炭成型体が提供される。・・・
・・・
【0028】
粉末状活性炭は、吸着容量が小さすぎると十分な吸着能力を保持しているとは言えず、吸着容量が大きすぎると過賦活状態で細孔径が増大しており、トリハロメタンの吸着保持力が低下する傾向にある。したがって、粉末状活性炭の吸着容量は、JISーK1474で定められたベンゼン吸着量が20〜60質量%とするのが好ましく、20〜55質量%とするのがより好ましく、20〜50質量%とするのがさらに好ましく、25〜40質量%とするのが最も好ましい。」

2 特許法第29条第2項進歩性)についての当審の判断
(1)本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下のとおりである。
・甲1発明における「活性炭を主成分とする瀘材を、」「フィブリル化」「繊維状バインダーにて成形してある成形吸着体」は、本件発明1における「活性炭とフィブリル化繊維状バインダーとを含む吸着フィルター」に相当する。

・甲1発明の「瀘水度」は、前記1(1)ア(1d)のとおり「JISP8121「パルプの濾水度試験方法」カナダ標準型に準じた」ものであり、本件発明1の「CSF値」は、本件特許明細書の【0037】に記載のとおり「JIS P8121「パルプの濾水度試験方法」カナダ標準ろ水度法に準じて測定した値」であり、両者は同じものであるから、甲1発明の「瀘水度20mL以上100mL以下」は、本件発明1の「CSF値が10〜150mL」を満たすことになる。
そうすると、甲1発明における「フィブリル化により瀘水度20mL以上100mL以下とした繊維材料を主成分とする」「前記繊維状バインダー」は、本件発明1の「CSF値が10〜150mLで」ある「前記フィブリル化繊維状バインダー」に相当するといえる。

・甲1発明の「前記繊維状バインダーを4質量%〜10質量%含有する」とは、甲第1号証の表1を参照すると、活性炭(濾材)と繊維状バインダーの合計質量に対するものであるから、活性炭100質量部に対しては繊維状バインダーを「約4.2〜約11.1重量部」含有することになり、本件発明1の「4〜10質量部」を満たすものである。
そうすると、甲1発明の「前記繊維状バインダーを4質量%〜10質量%含有する」ことは、本件発明1の「前記活性炭100質量部に対して、前記フィブリル化繊維状バインダーを4〜10質量部含む」ことに相当する。

・したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「活性炭とフィブリル化繊維状バインダーとを含む吸着フィルターであって、
前記フィブリル化繊維状バインダーのCSF値が10〜150mLであり、
前記活性炭100質量部に対して、前記フィブリル化繊維状バインダーを4〜10質量部含む、吸着フィルター活性炭とフィブリル化繊維状バインダーとを含む吸着フィルター。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点:本件発明1は、「吸着フィルター」が、「前記活性炭は、体積基準の累計粒度分布における0%粒子径(D0)が9μm以上20μm以下であり、かつ、体積基準の累計粒度分布における50%粒子径(D50)が30〜110μmであ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は、「活性炭が、体積基準モード径が20μm以上100μm以下の微粒子状活性炭であ」る点。
なお、前記相違点について、申立人は、甲1発明における「体積基準モード径」が本件発明1の「体積基準の累計粒度分布」に相当する旨を主張するが(申立書6頁下から3行〜最終行)、「モード径」は最頻度粒子径を表すものと認められるのに対して、「累計粒度分布」は累積の粒度分布を表すものと認められ、甲1発明における「体積基準モード径」と本件発明1の「体積基準の累計粒度分布」が、いずれも体積基準の粒度分布であるとしても、甲1発明における「体積基準モード径」が本件発明1の「体積基準の累計粒度分布」に相当するものとはいえないから、申立人の前記主張は採用できない。

(2)そこで、前記(1)の相違点に係る発明特定事項の容易想到性について検討すると、前記1(1)ア(1b)、(1c)によれば、甲1発明は、活性炭を主成分とする瀘材は、VOC(揮発性有機化合物)吸着能力を有し、粒度の細かいものほど単位重量あたりの外表面積が大きいので、吸着能力の点からは瀘材として好ましいと考えられるのであるが、粒径が小さく吸着能力の高い活性炭は、繊維状バインダーにより形成される微小な隙間から脱落しやすく、瀘材の成形吸着体として吸着能力が低下しやすいものとなるばかりでなく、活性炭どうしの間の結合強度が乏しいために、成形吸着体全体の成形強度が前記繊維状バインダーの成形強度のみに頼ることになって、全体として脆く、かつ、成形体強度が低くなりやすいのであり、そのため成形体密度を上げるなどの方法で成形体強度を高めると、濾過抵抗(通水圧力損失)が大きくなりすぎて、種々の用途に用いる場合に、濾過機能を発揮させることができず、製品化が困難である、といった課題(以下、「甲1課題」という。)を解決するものであって、瀘材として粒径の小さな活性炭を採用して吸着能力を高めつつ、成形強度を高くかつ濾過抵抗の低い成形吸着体を提供し、その成形吸着体により吸着能力が高く、かつ、丈夫で取り扱い性の良い浄水材を提供することを目的とするものである。
すると、甲1発明は、瀘材として粒径の小さな活性炭を採用して吸着能力を高めつつ、成形強度を高くかつ濾過抵抗の低い成形吸着体を提供することで、甲1課題を解決するものといえる。

(3)一方、本件特許明細書には、以下(a)の記載がある。
(a)「【0015】
本実施形態の吸着フィルターは、活性炭とフィブリル化繊維状バインダーとを含み、前記活性炭は、体積基準の累計粒度分布における0%粒子径(D0)が9μm以上であり、かつ、体積基準の累計粒度分布における50%粒子径(D50)が30〜110μmであり、前記フィブリル化繊維状バインダーのCSF値が10〜150mLであり、前記活性炭100質量部に対して、前記フィブリル化繊維状バインダーを4〜10質量部含むことを特徴とする。
【0016】
このような構成を有することにより、優れた通水性および高吸着性能を有し、特に、遊離残留塩素、農薬、黴臭およびVOCの濾過能力に優れ、かつ抵抗の低い吸着フィルターを提供できる。さらに、フィルターの強度が向上し、圧力損失上昇は抑制され、かつ生産性にも優れる。
【0017】
これは、粒子径の細かい活性炭の微粉末を含むと、形成されたフィルターの強度が低くなり、圧力損失も高くなるところ、そのような微粉末を除くことによって、成形体強度を上げ、圧力損失上昇を抑制することができるためと考えられる。
【0018】
本実施形態では、体積基準の累計粒度分布における0%粒子径(D0)が9μm以上であり、かつ、体積基準の累計粒度分布における50%粒子径(D50)が30〜110μmである粉末状活性炭を使用する。
【0019】
活性炭のD0が9μm未満の場合、成形体の強度が低くなり、圧力損失も高くなるおそれがある。また、微粉が処理水に混入するおそれもある。D0について、特に上限はないが、接触効率を低下させることなく、高吸着性能を発現できるという観点から20μm以下であることがより好ましい。」
前記(a)の記載によれば、本件発明は、前記相違点に係る発明特定事項のうち「前記活性炭は、体積基準の累計粒度分布における0%粒子径(D0)が9μm以上20μm以下であ」る、との発明特定事項により、粒子径の細かい活性炭の微粉末を除くことによって、成形体強度を上げ、圧力損失上昇を抑制するものである。
そして、瀘材として粒径の小さな活性炭を採用して吸着能力を高めることで、甲1課題を解決するものである甲1発明において、活性炭を、「体積基準の累計粒度分布における0%粒子径(D0)が9μm以上20μm以下であ」るものとして、粒子径の細かい活性炭の微粉末を除いたものとすることは、瀘材として粒径の小さな活性炭を採用して吸着能力を高めることで、甲1課題を解決する、という甲1発明の特長を損なうものにほかならないから、そうすることには阻害要因が存在するものであり、このことは、甲第2号証〜甲第6号証に記載された、本件特許の原出願の優先日における周知技術に左右されるものでもない。

(4)前記(3)によれば、甲1発明において、「吸着フィルター」の活性炭を、「体積基準の累計粒度分布における0%粒子径(D0)が9μm以上20μm以下」とすることを、本件特許の原出願の優先日における周知技術に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、甲1発明において、「吸着フィルター」を、「前記活性炭は、体積基準の累計粒度分布における0%粒子径(D0)が9μm以上20μm以下であり、かつ、体積基準の累計粒度分布における50%粒子径(D50)が30〜110μmであ」る、との前記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることも、本件特許の原出願の優先日における周知技術に基づいて当業者が容易になし得るものではない。

(5)申立人は、甲第2、4号証(前記1(2)(2a)〜(2b)、(4)(4a)〜(4b))より、粉粒状活性炭の粒径を小さくすることで吸着能力を上げることは周知であり、甲第3号証(前記1(3)(3a)〜(3b))より、粒径の細かい活性炭により圧力損失が高くなる等の悪影響が生じることは周知であり、これらを考慮して活性炭の0%粒子径(D0)を9μm以上20μm以下とすることは設計的事項にすぎない旨を主張する(特許異議申立書7頁12行〜8頁7行)。
ところが、甲1発明において、活性炭を、「体積基準の累計粒度分布における0%粒子径(D0)が9μm以上20μm以下であ」るものとして、粒子径の細かい活性炭の微粉末を除いたものとすることには阻害要因が存在することは、前記(3)に記載のとおりであって、甲1発明において、活性炭の0%粒子径(D0)を9μm以上20μm以下とすることが設計的事項であるとはいえないので、申立人の前記主張は採用できない。

(6)したがって、本件発明1は、甲1発明及び本件特許の原出願の優先日における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2〜5について検討しても事情は同じであるから、本件発明1〜5は、甲1発明及び本件特許の原出願の優先日における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 小括
よって、前記第3の1の特許異議申立理由は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるので、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-03-30 
出願番号 P2019-182692
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B01J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 関根 崇
金 公彦
登録日 2021-06-23 
登録番号 6902588
権利者 株式会社クラレ
発明の名称 吸着フィルター  
代理人 小谷 悦司  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 宇佐美 綾  

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