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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1384301
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-01-13 
確定日 2022-04-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6901619号発明「水性液剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6901619号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6901619号(請求項の数6。以下、「本件特許」という。)は、令和1年9月30日に出願された特許出願(特願2019−178641号)の一部を、令和2年11月18日に新たな特許出願(特願2020−191883号)としたものであって、令和3年6月21日にその特許権の設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和3年7月14日である。)。
その後、令和4年1月13日に、本件特許の請求項1〜6に係る特許に対して、特許異議申立人である戸原和雄(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜6に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ブリモニジン及び/又はその塩と、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤と、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属塩化物とを含み、保存剤を実質的に含まない水性液剤が、フィルター付き容器に収容されてなり、
前記フィルターの素材が、ポリエーテルスルホン、又はポリフッ化ビニリデンである、医薬製品。
【請求項2】
前記水性液剤におけるブリモニジン及び/又はその塩の濃度が、0.05〜0.2w/v%である、請求項1に記載の医薬製品。
【請求項3】
前記金属塩化物が、塩化ナトリウムである、請求項1又は2に記載の医薬製品。
【請求項4】
前記水性液剤のpHが、7〜8である、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬製品。
【請求項5】
前記水性液剤が、点眼液である、請求項1〜4のいずれかに記載の医薬製品。
【請求項6】
緑内障の治療に使用される、請求項1〜5のいずれかに記載の医薬製品。」

以下、請求項番号に対応して、それぞれの請求項に係る発明を「本件発明1」、・・・「本件発明6」といい、本件発明1〜6をまとめて「本件発明」ともいう。

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、以下の甲第1号証乃至甲第11号証(以下、それぞれ、「甲1」等と略記する。)を提出するとともに、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件発明1〜6は、甲1に記載された発明及び甲1〜甲3に記載された事項及び技術常識に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1〜6に係る本件特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである旨主張する。

<証拠>
甲1:欧州特許出願公開第2886130号公報
甲2:特開2019−6776号公報
甲3:アイファガン(R) (当審注:(R)は、原文では○の中にRの文字。以下同じ。)点眼液0.1%(医薬品インタビューフォーム),2016年6月改定[第5版]、千寿製薬株式会社、表紙、目次、7〜9頁
甲4:第十七改正 日本薬局方解説書 2016,廣川書店,2016年,A−108〜A−113
甲5:あたらしい眼科,2008年,Vol.25,No.6,pp.789〜794
甲6:薬剤学,日本薬剤学会,2002年,Vol.62,Supplement(日本薬剤学会第17年会講演要旨集),pp.48〜53
甲7:「GOOD DESIGN AWARD 2007」インターネット記事(URL:https://www.g-mark.org/award/describe/33613), 2021年5月13日アクセス日
甲8:ABAK容器カタログ,Laboratoires Thea,2011年4月18日,pp.20〜23
甲9:「Chemical Book、ベンザルコニウム クロライド」、インターネット記事(URL:https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB0712969.htm)、最終頁に「Copyright 2017」との記載あり、2021年11月18日アクセス
甲10:特許第5327809号公報
甲11:Novelia(登録商標)容器カタログ,Nemera,2018年9月

第4 甲号証の記載
本件特許の原出願の出願前(以下、単に「本件特許の出願前」という。)」に公表された甲1〜甲8、甲10、甲11及び「Copyright 2017」との記載がある甲9には、以下の記載がある(外国語で記載された文献についてはその翻訳文を示す。)。

1 甲1に記載された事項及び引用発明
(1) 甲1に記載された事項
1a 「[0001]本発明は、治療有効量の活性成分、・・・ブリモニジン又はその塩のようなα2−アドレナリン受容体アンタゴニストを含む局所投与のための眼科用医薬製剤・・・及びそれらの製造方法に関する。・・・
[0002]眼科用溶液は、主として固体粒子を含まない無菌の透明な水性溶液であり、眼に直接滴下するために適切にパッケージングする。眼科用溶液の本質的な特徴は、全ての成分(活性成分及び賦形剤)が、水性媒体中に完全に溶解され、任意の形態の可視的な不溶性粒子を含有しない、ということである。」

1b 「[0006]いずれの上記文献もプロスタグランジンを含む医薬組成物に関する安定性及び透過性を克服する試みを示しているが、そのような医薬組成物の安定性及び透過性を改善する必要が依然として存在する。
・・・
[0007]したがって、本発明の目的は、プロスタグランジン又はその塩、・・・ブリモニジン又はその塩等のα2−アドレナリン受容体アンタゴニスト・・・等の活性成分を含み、外側眼表面に影響している状態の治療に使用され、従来技術の欠点を克服する局所投与用眼科医薬組成物を提供することである。
・・・
[0009]本発明の上記目的によれば、治療有効量の活性成分・・・を含む外側眼表面に影響している状態の治療に使用される局所投与用眼科医薬組成物であって、治療有効量のプロスタグランジン又はその塩、・・・ブリモニジン又はその塩等のα2−アドレナリン受容体アンタゴニスト等の活性成分・・・を含み、かつ、組成物の安定性及び透過性の特性を改善するために、液滴サイズ、pH値、浸透圧及び粘度を最適化するのに有効量の剤を含み、かつ、ベンザルコニウム塩化物等の抗微生物性保存剤化合物を使用しない、局所投与用眼科医薬組成物が提供される。」

1c 「[0012]眼科用溶液の開発の間に、安定性、純度、生物学的利用能のあるレベルを有し、患者に安全かつ効果的な投与に適している医薬組成物を調製するために特定のパラメータを考慮しなければならない。このパラメータは、溶液中の活性成分の濃度レベル、活性成分のイオン化定数、活性成分の分配係数、pH値の影響、溶液の浸透圧、緩衝システム(緩衝キャパシティ)の種類及びキャパシティ、溶液の粘度、表面張力、保存剤及び滅菌技術を含む。」

1d 「[0033]組成物の安定性及び透過性を向上させるためには、驚くべきことに、本発明の目的は、下記の活性成分のうちの1つ又はこれらの組み合わせからなる;プロスタグランジン又はその薬学的に許容されるその塩、・・・ブリモニジン又はその塩等のα2−アドレナリン受容体アンタゴニスト及び/又は上記活性成分の組み合わせを用いること、液滴の大きさ、pH値、浸透圧及び粘度を最適化すること、及び任意の抗微生物性保存剤の使用を避けること、によって、達成されることが見いだされた。」

1e 「[0035]活性剤は、容器に使用されるプラスチック材料の選択に応じて、容器の材料により吸収及び/又は吸着され得るので、プラスチック容器は欠点を有する。一般に、眼科用薬剤は、単位投与または多回投与ディスペンサーの形態で市販されているが、使いやすさとコスト効果から後者の形態での市販が好ましい。このような多回投与ディスペンサーにおいて、製品の劣化を防止することができ、潜在的に有害な細菌の広がりを回避するために、内容物は、貯蔵中及び患者又は消費者による使用中に滅菌状態を維持しなければならない。前記必要性を満たすためにBACのような保存剤の含有は一般的である。
[0036]しかし、保存剤に起因する局所的な副作用の高い発生率は、近年において議論されたように、患者及び関連の保護期間にとって重要である。すでに公開されている前臨床及び臨床試験は必ずしも一貫していないという事実にもかかわらず、低い濃度で保存剤を含む製剤の使用は耐容性が良好であることが明らかであると思われるが、保存剤は、長期にわたる使用において、化学的刺激、過敏性及びアレルギー等の深刻な炎症性副作用を引き起こし得る。
[0037]保存剤を含まない製剤の多回投与による使用を可能にするシステムは、医薬製造業者が直面する問題のいくつか(例えば不適合性)を解決するだけでなく、慢性治療を必要としている患者に顕著な利益を提供する可能性を有する。
[0038]このような保存剤を含まない製剤の場合、微生物汚染を防ぐことができる適切な多回投与ディスペンサーが使用されなければならない。今日、オリフィス又は排気のいずれかを介した、主に汚染の抑制に対処するさまざまなメカニズムに基づいて、いくつかの技術的解決策が使用可能である。
[0039]RexamのNoveliaTM又はOpthalmic pump system750、SpectrumのThea pharmaceuticals ABAC、AptarのPharmaOpthalmic Squeeze dispenser、UrsapharmのComod−system、 Adelphi Healthecare Packaging Aero Pumpの3K system、 Mystic Pharmaceuticals VersiDoser and VRx2 and PfizerのAirless Antibacterial Dispensing Systemは既に市販されているいくつかのデバイスである。
[0040]したがって、好適な期間、十分な無菌状態を保持する好適な容器中でBACのような抗微生物性保存剤化合物を含まない効率的な眼科用多回投与製剤を開発する必要性が存在する。」

1f 「[0043]本発明によると、好適な期間、十分な無菌条件を保持する好適な容器中の、塩化ベンザルコニウム等の抗微生物性保存剤化合物を含まない適切な製剤の、多回投与医薬組成物は、BAC含有溶液と同様の角膜上皮透過性を示すために、調整された液滴サイズ、浸透圧、pH値、比重及び粘度を必要とする。
本発明は、同じ活性医薬成分を有するBAC含有眼科用溶液と比べて同様の角膜上皮透過性を提示するために、防腐剤を含まない眼科用溶液に必要とされ得る、製剤及び保存能力を有する種々の容器を使用して達成することができる液滴サイズ、浸透圧、pH値、比重及び粘度の範囲に関する。」

1g 「実施例6:ブリモニジン2.0mg/眼科用溶液の製剤6
[0066]


[0067]上記製剤は以下の製造工程にしたがって調製される。
注射用水90mlを透明な容器に入れ、25−30℃、約320rpmで攪拌する。ブリモニジン酒石酸塩を加え、混合物を25−30℃で約10分間攪拌する。ポリビニルアルコールを加え、混合物を25−30℃で60分間攪拌する。その後、クエン酸ナトリウム二水和物及びクエン酸一水和物を加え、透明な溶液が得られるまで(約10分間)攪拌する。最後に、塩化ナトリウムを加え、透明な溶液が得られるまで(約10分間)攪拌する。水酸化ナトリウム水溶液(1N)でpH=6.2に調整する。最終容量は注射用水を加えることによって調整する。

最終溶液の濾過滅菌は、PES 0.2μmメンブランフィルターを介して行われる。

[0068]濾液は、保存剤を含まない組成物に適したRexam closing tip systemのNoveliaTMを備えたポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)容器のような10mlプラスチック容器に充填される。
[0069]最終生成物のアッセイは、ブリモニジンン酒石酸塩の完全な可溶化を確認した。
[0070]この溶液は、濾過後、濾過前のこの実験の全ての段階において透明であった。
[0071]実施例1と同様にして、下記の物理化学的特性を上記の製剤について測定し、ブリモニジン、ベンザルコニウムクロライド、ポリ(ビニルアルコール)、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸一水和物、精製水、塩酸又は水酸化ナトリウムを含有する市販製品であるAlphagan(R)(当審注:原文では、○の中にRの文字、以下同じ。)と比較した。結果は表3a及び3bに示されている。

表3a 本発明によるブリモニジン BAC非含有製剤及びAlphagan(R)の物理化学的特性


表3b 本発明によるブリモニジン BAC非含有製剤及びAlphagan(R)の液滴サイズ


[0072]全ての組成物について、それらのpH値、粘度、比重及び浸透圧を試験し、全ての値は満足のいくものであった。
本発明を特定の実施態様に関して説明してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の変形が可能であることは当業者に明らかであり、添付の特許請求の範囲で定義されるとおりである。」

1h 「1.治療有効量の治療有効量の活性成分及び/又は他の活性成分との組み合わせを含む、外側眼表面に影響している状態の治療に使用される局所投与用眼科医薬組成物であって前記有効成分が・・・ブリモニジン又はその塩等のα2−アドレナリン受容体アンタゴニスト・・・から選択され、更に組成物の安定性及び透過性の特性を改善するために、液滴サイズ、pH値、浸透圧及び粘度を最適化するのに有効量の剤を含み、かつ、ベンザルコニウム塩化物等の抗微生物性保存剤化合物を使用しない、局所投与用眼科医薬組成物。」(Claims1)

(2) 引用発明
甲1には、摘記1gに記載の製剤6の組成及びその製造方法から以下の発明が記載されていると認める。

「以下の組成からなり、pH=6.2に調整された水性溶液が、Rexam closing tip systemのNoveliaTMを備えてなるプラスチック容器に収容されている眼科用製剤。

組成
ブリモニジン酒石酸塩 0.20%w/v
ポリビニルアルコール 4.30
塩化ナトリウム 0.62
クエン酸ナトリウム二水和物 0.45
クエン酸一水和物 0.05
NaOH(1N)
注射用水 残部。」(以下、「引用発明」という。)

2 甲2に記載された事項
2a 「ブリモニジンは、選択的アドレナリンα2受容体作動薬であり、眼房水の産生を抑制すると共に、ぶどう膜強膜流出路を介した眼房水の流出を促進し、それにより、眼圧低下作用を示す。このため、ブリモニジン及びその塩は緑内障の治療に使用されている。」(【0002】)

2b 「・・・ブリモニジン及び/又はその塩の濃度は、点眼剤容量あたり0.05w/v%〜0.2w/v%、好ましくは0.07w/v%〜0.15w/v%、より好ましくは0.09w/v%〜0.12w/v%である。」(【0018】)

2c 「1つの実施形態において、点眼剤は、緩衝作用を付与する緩衝剤を必要に応じて含む。緩衝剤は、限定するものではないが、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、Tris緩衝剤、アミノ酸が挙げられる。これらの緩衝剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。1つの実施形態において、緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤であり、好ましくはホウ酸及びホウ酸ナトリウムの組合せである。」(【0026】)

2d 「1つ実施形態において、点眼剤は、pH6.7〜7.5であり、浸透圧250〜350ミリオスモルである。他の実施形態において、点眼剤は、pH6.7〜7.3であり、浸透圧比0.85〜1.15である。他の実施形態において、点眼剤は、好ましくはpH7.1、浸透圧比約1.0である。・・・」(【0032】)

3 甲3に記載された事項
3a 「アドレナリンα2受容体作動薬
緑内障・高眼圧症治療剤
アイファガン(R)点眼液0.1%
AIPHAGAN(R) OPHTHALMIC SOLUTION 0.1%
ブリモニジン酒石酸塩点眼」(表紙のタイトル)

3b 「1.剤形
・・・
(2)剤形の区別、外観及び性状
・・・
2)規格
1ml中にブリモニジン酒石酸塩1mgを含有する。
・・・
(5)pH、浸透圧比、粘度、比重、安定なpH域等
pH:6.7〜7.5
浸透圧比(生理食塩液に対する比):約1
・・・」(7頁 IV.1.(2)及び(5))

3c 「2.製剤の組成
(1)有効成分(活性成分)の含量
有効成分の含量:1ml中 ブリモニジン酒石酸塩1mg含有
(2)添加物
塩化マグネシウム(等張化剤)、ホウ酸(緩衝剤)、ホウ砂(緩衝剤)・・・
を含有する。」(7頁 IV.2.(1)及び(2))

4 甲4に記載された事項
4a 「6.目に投与する製剤
Preparations for Ophthalmic Application・・・
6.1.点眼剤・・・
Opthalmic Liquids and Solutions
(1)点眼剤は,結膜嚢などの眼組織に適用する,液状,又は用時溶解若しくは用時懸濁して用いる固形の無菌製剤である.」(A−108 6.眼に投与する製剤 の項の1〜6行)

4b 「注10 多回投与容器に充填された点眼剤は注射剤とは異なり長期にわたって少量ずつ使用されることから,使用中に汚染される可能性がある.このため,多回投与容器に充填された点眼剤には適切な保存剤を加えることができる.点眼剤に使用する保存剤の配合量は,品質と安全性を考慮し設定される.」(A−110 21〜24行)

4c 「液性:前眼部では点眼液のpHが6以下,又は8以上になると不快感を生じることがある.・・・緩衝液としては各種の眼科用等張緩衝液が用いられている.」(A−111 14〜25行)

4d 「最近では投与時の微生物の汚染を防御した特殊な多回投与容器に充填した点眼剤も見られる.」(A−112 下から14〜13行)

4e 「容器:点眼剤の容器として種々の形の点眼瓶が考案されているが,微生物進入阻止性,透湿性,透ガス性,耐薬品性,成形性,透明性などに注意が必要である.・・・
プラスチック製のものは,・・・通気性,透湿性の可能性があること,水分の揮散や一部の薬品,添加物などを吸着するなどの欠点を有するものであるが,最近はかなり透明性の高い樹脂が開発され,繁用されている.・・・近年,防腐剤を含まない弁タイプあるいはフィルタータイプの多回投与容器が開発され,第四級アンモニウム塩系の防腐剤を含まないフィルタータイプの容器に充填された点眼剤が市販されている.」(A−113 5〜21行)

5 甲5に記載された事項
5a 「II 防腐剤の種類と含有量
防腐剤非含有の点眼容器を実際に臨床使用した後,内容液を調べてみると高頻度で微生物による汚染が起こることが知られている.・・・眼科用防腐剤としてBAC,塩化ベンゼトニウム,・・・などが単独あるいは組み合わされて配合されている(表2)3).・・・最近はBACによる細胞毒性を考慮してBAC濃度を減少した点眼薬(ハイパジール,リズモンTG),BAC非含有製剤として点眼容器内にフィルターを内蔵し無菌化を可能とした点眼薬や,BAC以外の新しい防腐剤を採用した点眼薬が発売されてきている.」(p790右欄1行〜p791左欄4行)

5b 「III BAC非含有製剤の種類
1. フィルター内蔵式製剤
海外では防腐剤非含有チモロールのシングルドーズ(1回使い切りタイプ)が発売されている.日本では防腐剤非含有製剤として,フィルター内蔵マルチドーズ点眼薬が2社から発売されている.
a.ブロキレートPF点眼薬,ニプラジロールPF点眼薬(日本点眼薬研究所)
これに採用されたPF(Preservative―Free)デラミ容器はノズル先端に0.22μmのフィルターを配置し,微生物による2次汚染を防ぐこと,容器本体の二重構造化,およびシリコーン弁を採用することで汚染された空気の流入を防ぐことを特徴としている(図4a).
b.ニプラジロール点眼液0.25%「わかもと」(わかもと製薬)
これに採用されたNP(Non−Preservative)容器には親水性,疎水性の2種類のメンブランフィルターが装着されている.親水性フィルターノズルからの微生物侵入を制御し,疎水性フィルターが容器内への外気の無菌的な取り込みを実現している(図4b).」(p791左欄5行〜最終行)

6 甲6に記載された事項
6a 「点眼剤は眼局所粘膜(結膜や角膜)に点眼する薬剤のため,注射剤と同様に無菌製剤の取扱いです。ご存知のように,多くの点眼剤は繰返し点眼使用するマルチドーズ容器になっています。従って,開封後は微生物汚染,更に患者の涙や目ヤニの吸込みによる汚染等もしばしば見られる事例です。微生物汚染対策として古くより防腐剤が添加されてきました。
防腐剤の効用は十分に認められている反面,防腐剤の持つ副作用もよく知られています。防腐剤の副作用はその毒性とアレルギーであり,毒性は主に細胞毒性に起因し,またアレルギーは過敏症に起因し,それぞれ角膜上皮障害や眼部周囲の接触皮膚炎が知られています。また,眼疾患によっては治癒を遅らせる原因になることもあります。
このような現状で,眼科の医療現場で望まれている点眼剤とは,やはり防腐剤を含まない点眼剤であり,近年,特にクローズアップされているテーマです。最近は防腐剤を含まない点眼剤がいくつか製品化されています。シングルドーズタイプの点眼剤はその1例で,1回使い切りのため防腐剤が添加されていません。
しかし,薬剤コストが高くなること,容器の開封,保管,携帯が煩雑であるため不便さを感じること,使う毎に容器を廃棄しなければならないことなど,やや課題が多い点眼剤です。
従って,望まれる点眼剤として,防腐剤の無い点眼剤であること,且つ繰返し使うタイプ,所謂マルチドーズの点眼剤であることが重要な点眼容器の開発コンセプトになります。
一昨年発売されたチマバック点眼液0.5%(発売元:日本点眼薬研究所)は,防腐剤フリーのマルチドーズの点眼剤です。これはフランスで開発されたアバック(ABAK)容器システムで,0.2μmフィルターを装着することで内容を常時無菌に保っています。ただし,この容器の難点は,容器の形状や大きさが通常の点眼容器と比べて違和感があることです。
これらの現状も踏まえ眼科医療現場のニーズを基に,アバック(ABAK)容器システムより更に前進した通常の点眼剤として使用できる防腐剤フリーマルチドーズ点眼容器システムを開発致しました。」(p48 1.はじめに の項の5〜28行)

6b 「この小径フィルターが付いた点眼容器は内容液がフィルターを透過する際の抵抗のため、一般の点眼容器とは滴下特性が異なりスクイズ開始から滴下までに一定の時間を要す。」(p50下から3〜2行)

7 甲7に記載された事項
7a 「プラスチック点眼容器[NP容器]」(1/4 受賞対象名)

7b 「通常、点眼薬には腐敗や細菌汚染を防ぐため、塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤が使用されています。しかし、近年、防腐剤による角膜障害やアレルギーなどの角膜・涙液系に対する影響がクローズアップされつつあり、防腐剤濃度の低い点眼薬や防腐剤無添加の点眼薬が望まれています。本点眼容器は、2種類のフィルターを装着することにより、内容液の無菌性を保ち、防腐剤の使用を控えることが可能となりました。」(1/4 概要)

8 甲8に記載された事項
8a 「製剤から防腐剤を除去することからなる決定的な開発により、ABAKシステムは、粘度が0.2μmの多孔度の抗菌膜の使用と互換性のあるほぼすべての溶液に拡張でき、該膜は1〜10ミクロンまでのサイズを有する微生物による汚染から点眼薬を保護する。」(p20左欄13〜23行)

8b 「この親水性高分子膜は、特許取得済みの表面処理によって部分的に疎水性になっている。・・・P.E.S*ベースの化合物から作られたこの革新的な膜は、・・・・滅菌状態にできることが見いだされた。これらの十分に検証されたプロセスのいずれによっても、その抗菌バリア特性は変わらなかった。
*P.E.S:ポリエーテルスルホン」(p20右欄1〜最終行)

8c 「各溶液は、表面張力、粘度及び密度が異なる液滴を形成する。したがって、溶液の密度及び粘度に関係なく、理論上、各ボトルが10ml当たり300滴を供給することを保証する液滴サイズのキャリブレーションを得ることは一見不可能である。理想的には、チップは各点眼液に適合させる必要があるが、これは製造の観点からは不可能であり、流量は全ての点眼液に適しているように平均データから計算されている。」(p23 項目「c.」の1〜8行)

9 甲9に記載された事項
9a 「ベンザルコニウム クロライド」(タイトル)

9b 「英語別名: BAK;BAC;BKC;Osvan;Welpas;DIMANIN;ZEP
HARIN;ZEPHIRAN;264-151-6;Parasterol」(1/6 英語別名の項)

10 甲10に記載された事項
10a 「容器の構造上,水性医薬組成物は容器に装着されたフィルターを通過するので、水性医薬組成物に含まれる成分と装着されたフィルターとの相互作用を考慮する必要がある。成分の化学的物理的物性によりフィルターに著しく吸着する物質も存在する。すなわち、水性医薬組成物をフィルター付き容器に充填する際、水性医薬組成物とフィルターの材質との相性が重要となる。」(【0007】)

11 甲11に記載された事項
11a 「Novelia(R)を使用すれば、防腐剤0%、目の保護100%!
防腐剤フリーの配合のための当社の多回投与点眼容器」(1/4)

11b 「システムはどのように動作するか
(1)(当審注:原文では、○の中に1の数字、(2)〜(4)まで同様)ボトル絞り
(2)弁開放液滴送達
(3)弁再閉塞緊密状態(逆流がないため、汚染された液体はボトルに入ることができない)
(4)空気補償
空気を取り入れるためのPureFlow(R)テクノロジー(汚染された空気はボトルに入ることができない)

当社の多回投与クロージングチップシステムは、薬剤中の防腐剤の必要性を回避し、治療期間中の細菌汚染を防ぐ。」(2/4)

第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「ブリモニジン酒石酸塩」、「塩化ナトリウム」、「水性溶液」、「眼科用製剤」は、それぞれ、本件発明1の「ブリモニジン及び/又はその塩」、「塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属塩化物」、「水性液剤」、「医薬製品」に相当する。
また、引用発明の「クエン酸ナトリウム二水和物」及び「クエン酸一水和物」は、本件発明1の「ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤」と「緩衝剤」である限りにおいて一致する。
そして、本件発明1は、「ブリモニジン及び/又はその塩」、「ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤」、「塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属塩化物」の含有割合や、上記以外の成分の有無やその含有割合を特定しないものであるから、引用発明が、上記成分の含有割合を特定していることや、ポリビニルアルコール、NaOH(1N)、注射用水を特定の含有割合で含むことは、相違点とはならない。
また、引用発明は、保存剤を含有していないから、本件発明1の「保存剤を実質的に含まない」との発明特定事項を満足するものであるといえる。
そうすると、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
ブリモニジン及び/又はその塩と、緩衝剤と、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属塩化物とを含み、保存剤を実質的に含まず、且つ有効成分としてブリモニジン及び/又はその塩のみを含む水性液剤が、容器に収容されてなる、医薬製品。

<相違点>
相違点1 緩衝剤について、本件発明1は「ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤」と特定しているのに対し、引用発明では、「クエン酸ナトリウム二水和物」及び「クエン酸一水和物」である点
相違点2 容器について、本件発明1は「フィルター付き容器」と特定しているのに対し、引用発明は「Rexam closing tip systemのNoveliaTMを備えてなるプラスチック容器」である点

(2)判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。

ア 相違点2について
(ア)摘記1a〜1dの記載によれば、甲1記載の眼科用医薬製剤(以下、「製剤」という。)は、プロスタグランジンやブリモニジン、又はそれらの塩等の活性成分を含む局所投与のための製剤であって、該製剤は、上記活性成分と、液滴サイズ、pH値、浸透圧及び粘度を最適化するのに有効量の剤とを含み、かつ、抗微生物性保存剤を含まないものであり、その安定性と透過性とが改善されたものであると理解される。
甲1には、また、好適な期間、十分な無菌状態を保持する好適な容器中でBACのような抗微生物性保存剤化合物を含まない効率的な眼科用多回投与製剤を開発する必要性が存在する(摘記1e)との認識の下、上記好適な容器に収容されている、BACを含有しない多回投与医薬組成物がBAC含有溶液と同様の角膜上皮透過性を示すために、上記多回投与医薬組成物は、調整された液滴サイズ、浸透圧、pH値、比重及び粘度を有する必要があることが記載されている(摘記1f)。
そうすると、甲1記載の、安定性と透過性とが改善された上記製剤は、上記眼科用多回投与製剤における組成物として適したものであるといえる。そして、甲1記載の製剤の実施態様の一つである引用発明の水性溶液もまた、眼科用医薬製剤の安定性と透過性とを改善するために、保存剤を含まない眼科用溶液に必要とされ得る保存能力を有する引用発明の容器、すなわち弁付き容器を使用して液滴サイズ、浸透圧、pH値、比重及び粘度の範囲を最適化されたものであると認められる。
(イ)一方、「好適な期間、十分な無菌状態を保持する適切な容器」(摘記1e)に関して、甲1には、微生物汚染抑制のためにオリフィス又は排気のメカニズムを使用し得ること(摘記1e)、市販のデバイス(摘記1f)が記載されている。そして、引用発明の「Rexam closing tip systemのNoveliaTM」は、上記市販のデバイスとして列挙されているものであり、保存剤を含まない製剤への微生物の混入を防止するための使用に適した眼科用多回投与容器を提供するデバイスの一種であって(摘記1e、11a)、甲11の記載(摘記11b)によれば、弁の開閉により微生物汚染を防御する弁付き容器であると認められる。
ところで、本件特許出願当時、「保存剤を含まない眼科用製剤」の微生物汚染を防ぐ多回投与容器として、弁付き容器だけでなく、フィルター付き容器が市販され、周知となっていた(摘記4e、5b、6a、7a、7b、8a、10a)。
しかし、本件特許の出願当時、点眼液等の水性医薬組成物の有効成分の中には、メンブランフィルターや容器に装着されたフィルターに吸着される物質があるとの技術常識が存在しており(必要であれば、上記甲10、佐賀県衛生薬業センター所報,第40号(平成30年度), p21-23,特に、タイトル、図−5;Journal of Pharmacological Toxicological Methods, 2019, Vol.95, p79-85,特に、Abstract, p83左欄4-8行, 40-43行(Available online 05 Dec. 2018)参照)(順に「乙’第1号証」、「乙’第2号証」という。各乙’号証は、本件特許の分割の基礎となった特許出願の特許に対する異議申立事件(異議2021−700532号、異議申立人戸原和雄)において、特許権者により乙第1号証及び乙第2号証として提出された文献である。当該異議申立事件で提出された証拠については、以下、例えば、乙第1号証であれば、「乙’1」等と表記する。)、たとえば、フィルターへの物質吸着を抑制するために水性医薬組成物に添加物を配合する等してフィルター付き容器に収容される組成物の組成を調整する試みがなされている(摘記10a)。

(ウ)これに対し、引用発明における「Rexam closing tip systemのNoveliaTMを備えてなるプラスチック容器」は、弁付き容器であって、フィルターを備えていないから、有効成分であるブリモニジン酒石酸塩のフィルターへの吸着は起こっておらず、該容器に収容される組成物の組成について、ブリモニジン酒石酸塩の吸着抑制の観点からの特段の配慮は不要であると推測される。
加えて、フィルター付き容器に関しては、本件特許出願当時、フィルターを透過する際の抵抗のため、一般の点眼容器とは滴下特性が異なることが知られており(摘記6b)、たとえば、フィルター付き容器であるABAKが粘性溶液には不適切であることが、ABAK容器カタログ,Laboratoires Thea,2011年4月18日,p25 項目「b.」の1〜3行(乙’11)に記載されている。引用発明の水性溶液は、粘度増強剤(甲1[0025])であるポリビニルアルコールを4.30%w/v含有するものであり、該含有割合は眼科用剤としての最大使用量10mg/g(医薬品添加物事典 2007,株式会社薬事日報社,2007年7月25日,p.275 「ポリビニルアルコール(部分けん化物)」)(乙’8)の4倍以上と通常の眼科用剤より多量の粘度増強剤を配合した組成に調整されたものであることから、高い粘度を示す眼科用剤と推測される。

(エ)以上のとおり、引用発明の水性溶液は、引用発明における弁付き容器の「Rexam closing tip systemのNoveliaTMを備えてなるプラスチック容器への収容に適したものであるものの、収容される組成物のフィルターへの吸着についての配慮を要するフィルター付き容器に適したものであるか否かは不明であるし、粘度増強剤を通常より多量に含有するものであることを考え合わせると、当業者であれば、むしろ、引用発明の水性溶液は、粘性溶液には不適切な場合があることが知られているフィルター付き容器への収容には適さないと考え、収容フィルター付き容器において使用できる程度の粘性とするために、該水性溶液の組成を調整する必要があるものと考えるのが自然である。
そうすると、引用発明における弁付き容器の「Rexam closing tip systemのNoveliaTMを備えてなるプラスチック容器」に代えて、あえてフィルター付き容器を採用する動機付けがあるとは認められない。
したがって、引用発明を相違点2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得るとはいえない。

イ 効果について
本件特許明細書等には、本件発明1に係る水性液剤が、金属塩化物を含まない点でのみその組成が異なる液剤に比べて、PES膜又はPVDF膜によるフィルター通過後において高いブリモニジン酒石酸塩回収率を示すことが記載されている(【0136】〜【0139】【表1】)。そうすると、本件発明1に係る水性液剤は、ブリモニジン及び/又はその塩のフィルターへの吸着を抑制し、その含量低下を抑制することができるという効果を奏するものといえ、また、該効果は、上記アで示したとおり、眼科用点眼液等の水性医薬組成物の有効成分の中には、容器に装着されたフィルターに吸着される物質がある、との本件特許出願当時の技術常識があることからすれば、当業者が予測し得ないものといえる。

ウ 申立人の主張について
申立人は、甲1には、複数回投与ディスペンサーとして、Thea PharmaceuticalsのABACが記載されており(摘記1f)、ここで、ABACとの記載が、甲6及び甲8の記載や甲1及び甲9の記載からみて、フィルター付き容器であるABAK(摘記6a)の誤記であることを当業者は当然に理解するから、甲1には、フィルター付き容器が記載されていると主張する(申立書p23 12行〜p24 10行)。
さらに、申立人は、本件特許出願当時、保存剤を含まない点眼液においては、その無菌性を担保するために、単回投与タイプとするか、又は、多回投与タイプとする場合には、弁付きかフィルター付き容器を採用するか、という限られた技術的手段の選択肢が存在するにすぎないから、引用発明の弁付き容器を甲1に例示のあるABAKをはじめとするフィルター付き容器に置き換える動機付けはあるといえるし(申立書p24 11〜15行)、また、フィルター付き容器を用いる際、フィルターに吸着する成分が存在するから、成分とフィルターとの吸着特性を考慮する必要があることは本件特許出願前に既に知られていたところであるから(申立書p21 1〜4行)、該吸着特性を調べて、その結果に基づいて実際に採用するフィルターの素材を決定する作業は単なるルーチンワーク程度のものにすぎず、当業者が容易に想到し得たことである(申立書p24下から6行〜p25 5行)と主張する。
しかし、ABACがABAKの誤記であるか否かはさておき、引用発明の水性溶液が、フィルター付き容器への収容に適したものとは考えがたく、むしろその組成の調整が必要と考えられることは上記アにおいて説示したとおりである。そして、いかに調整すればフィルター付き容器への収容に適したものとし得るかについては、甲1には記載も示唆もされていないし、また、そのような組成の調整をしてまで、フィルター付き容器へ変更する動機付けがあるともいえない。この判断は、仮に、ABACがABAKの誤記であるとしても変わらない。よって、上記申立人の主張を採用することはできない。

以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1について、引用発明及び甲1〜甲3に記載された事項及び技術常識に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の医薬製品の水性液剤におけるブリモニジン及び/又はその塩の濃度が、0.05〜0.2w/v%であることを特定するものである。
ここで、ブリモニジンを含む水性液剤において、ブリモニジン及び/又はその塩の濃度を本件発明2で特定される濃度範囲程度とすることは当業者に既に知られた技術的事項であったといえる(摘記1g、2b、3b、3c)。
しかしながら、本件発明2は、本件発明1の医薬製品を更に限定するものであって、上記1において示したとおり、本件発明1は引用発明及び甲1〜3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に想到し得たものと認められない以上、本件発明1の医薬製品の水性液剤におけるブリモニジン及び/又はその塩の濃度を、0.05〜0.2w/v%とした本件発明2についても、同様の理由により当業者が容易に想到し得たものと認めることはできない。
したがって、本件発明2は、引用発明及び甲1〜3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本件発明3〜6について
本件発明3〜6は、いずれも、本件発明1の医薬製品を、請求項3〜6に規定する発明特定事項を備えてなるものにそれぞれ限定するものである。そして、上記1において示したとおり、引用発明における弁付き容器の「Rexam closing tip systemのNoveliaTMを備えてなるプラスチック容器」に代えてフィルター付き容器を採用する動機付けがあるとはいえず、本件発明1について、当業者が容易に想到し得たものと認められない以上、本件発明1を更に限定する本件発明3〜6についても同様の理由により当業者が容易に想到し得たものと認めることはできない。
したがって、本件発明3〜6は、引用発明及び甲1〜3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1〜6に係る特許を、特許異議申立書に記載した申立理由によって取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-03-29 
出願番号 P2020-191883
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 田中 耕一郎
渕野 留香
登録日 2021-06-21 
登録番号 6901619
権利者 千寿製薬株式会社
発明の名称 水性液剤  
代理人 水谷 馨也  
代理人 戸原 健太  
代理人 田中 順也  
代理人 迫田 恭子  

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