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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1384303
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-01-14 
確定日 2022-04-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6903090号発明「蓄電デバイス用セパレータ、及びそれを用いた捲回体、リチウムイオン二次電池、並びに蓄電デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6903090号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6903090号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成31年4月1日に出願され、令和3年6月24日にその特許権の設定登録がされ、令和3年7月14日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年1月14日に特許異議申立人星正美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申し立てがされた。

第2 本件発明
特許第6903090号の請求項1ないし11の特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明11」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記基材が、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜であり、前記熱可塑性ポリマーが、下記式:
T1.00−T0.25≦13℃
{式中、T1.00は、DSC(示差走査熱量測定)によって測定された単位時間当たりの熱流差を、温度で微分した値をDDSCとしたとき、0℃から150℃までにおけるDDSCの最小値を示す温度であり、T0.25は、0℃から150℃までにおけるDDSCの最大値と前記最小値の差をXとした際に、DDSCが前記T1.00よりも低温側において、前記最大値からの差が0.25Xとなる温度である。}
で表される関係式を満たし、
前記T1.00が35℃以上、130℃以下の範囲にあり、
下記式:
P1/P2≧1.1
{式中、P1は、前記蓄電デバイス用セパレータの一つの面(A)と、前記面(A)とは反対側の面(B)とを重ねて積層体を作成し、この積層体を、温度90℃、及び圧力1MPaの条件下で5秒間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度であり、かつP2は、前記積層体を温度25℃、及び圧力5MPaの条件下で12時間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度である。}
で表される関係を満たし、
前記熱可塑性ポリマーは、ガラス転移温度が40℃以上である粒子状重合体を含み、
前記熱可塑性ポリマー含有層の前記基材に対する被覆面積割合が95%以下であることを特徴とする、蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
基材と、前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記基材が、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜であり、前記熱可塑性ポリマーが、下記式:
T1.00−T0.25≦15℃
{式中、T1.00は、DSC(示差走査熱量測定)によって測定された単位時間当たりの熱流差を、温度で微分した値をDDSCとしたとき、0℃から150℃までにおけるDDSCの最小値を示す温度であり、T0.25は、0℃から150℃までにおけるDDSCの最大値と前記最小値の差をXとした際に、DDSCが前記T1.00よりも低温側において、前記最大値からの差が0.25Xとなる温度である。}
で表される関係式を満たし、
前記T1.00が35℃以上、130℃以下の範囲にあり、
下記式:
P1/P2≧1.1
{式中、P1は、前記蓄電デバイス用セパレータの一つの面(A)と、前記面(A)とは反対側の面(B)とを重ねて積層体を作成し、この積層体を、温度90℃、及び圧力1MPaの条件下で5秒間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度であり、かつP2は、前記積層体を温度25℃、及び圧力5MPaの条件下で12時間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度である。}
で表される関係を満たし、
前記熱可塑性ポリマーは、ガラス転移温度が40℃以上である粒子状重合体を含み(ただし、ガラス転移温度が80℃以上である粒子状重合体を除く)、
前記熱可塑性ポリマー含有層の前記基材に対する被覆面積割合が35%以下であることを特徴とする、蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
P1/P2≧1.1
で表される関係を満たし、かつ前記P1が、5N/m以上である、請求項1または2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項4】
前記P2が15N/m以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項5】
前記熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステルの重合単位を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリマー含有層が、異なるガラス転移温度を有する2種類以上の熱可塑性ポリマーを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項7】
前記熱可塑性ポリマーは、前記粒子状重合体を60質量%以上含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータが捲回された捲回体。
【請求項9】
請求項8に記載の捲回体を前記T0.25以下の温度で輸送、または保管する方法。
【請求項10】
請求項8に記載の捲回体から前記蓄電デバイス用セパレータを繰り出し、電極と重ね、前記T1.00以上の温度でプレスする方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータを備える蓄電デバイス。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記甲第1ないし16号証を提出して、以下の申立理由1ないし2により、請求項1ないし11に係る本件特許を取り消すべきである旨主張している。
1 申立理由1(新規性
本件発明1、3ないし7および11は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件発明1、3ないし7および11に係る特許は、特許法第29条第1項に違反してなされたものである。

2 申立理由2(進歩性
本件発明1ないし11は、甲第1号証と、甲第2号証ないし甲第16号証に記載された発明と、本件特許出願時の技術常識とに基づいて当業者が容易に想到し得るものであるから、本件発明1ないし11に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してなされたものである。
また、本件発明1ないし11は、甲第2号証と、甲第1号証、甲第3号証ないし甲第16号証に記載された発明と、本件特許出願時の技術常識とに基づいて当業者が容易に想到し得るものであるから、本件発明1ないし11に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してなされたものである。

<証拠方法>
甲第1号証:国際公開第2016/110894号
甲第2号証:国際公開第2016/017066号
甲第3号証:国際公開第2014/017651号
甲第4号証:国際公開第2018/021398号
甲第5号証:国際公開第2019/039560号
甲第6号証:国際公開第2013/146515号
甲第7号証:特開2019−8883号公報
甲第8号証:特開2017−107851号公報
甲第9号証:国際公開第2013/118841号
甲第10号証:特開2014−101423号公報
甲第11号証:特開2010−184963号公報
甲第12号証:特開2014−160194号公報
甲第13号証:特開2017−62408号公報
甲第14号証:特開2011−219635号公報
甲第15号証:特開2009−120706号公報
甲第16号証:特開2000−44671号公報

第4 文献の記載事項、引用発明等
1 甲第1号証
(1)甲第1号証(国際公開第2016/110894号)には、次の記載がある(下線は、当審で付与した。)。
「[0015] 以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の非水系二次電池用セパレータは、リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池のセパレータとして用いられ、例えば本発明の非水系二次電池用セパレータの製造方法を用いて製造することができる。そして、本発明の非水系二次電池は、本発明の非水系二次電池用セパレータを備えるものである。
[0016] (非水系二次電池用セパレータ)
本発明の非水系二次電池用セパレータは、セパレータ基材と、セパレータ基材の少なくとも一方の表面(機能層形成面)上に形成された機能層とを備えている。そして、本発明の非水系二次電池用セパレータの機能層は、特定の電解液膨潤度を有するコア部とシェル部とを備える特定のコアシェル構造を有する有機粒子を含んでいる。また、当該有機粒子は、機能層中において、単独で、または、複数集合して有機粒子の相を形成している。更に、有機粒子の相は、例えば図1に機能層の一例のSEM画像を示すように不規則な形状で存在しており、且つ、機能層形成面中に特定の面積割合で存在している。なお、図1に示すようなSEM画像において、有機粒子は、直径約0.3〜0.7μm程度の球状のドットとして観察される。」

「[0018] <セパレータ基材>
ここで、少なくとも一方の表面(機能層形成面)に機能層を形成するセパレータ基材としては、特に限定されることなく、例えば特開2012−204303号公報に記載の微多孔膜などの既知のセパレータ基材を用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜(有機セパレータ基材)が好ましい。そして、セパレータ基材の厚さは、任意の厚さとすることができ、通常0.5μm以上、好ましくは5μm以上であり、通常40μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
なお、セパレータ基材は、機能層以外の、所期の機能を発揮し得る任意の層をその一部に含んでいてもよい。」

「[0023] ここで、本発明の非水系二次電池用セパレータの機能層は、電解液膨潤度が5倍以上30倍以下の重合体からなるコア部と、電解液膨潤度が1倍超4倍以下の重合体からなり、且つ、コア部の外表面を部分的に覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有する有機粒子の相が不規則な形状で存在する構成を有している。また、機能層において、有機粒子の相が存在する部分の面積の割合は、機能層形成面の面積に対して20%以上80%以下である。そして、この機能層は、電解液中で優れた接着性を発揮すると共に、良好なイオン伝導性を有している。
なお、機能層は、セパレータ基材の一方の表面のみに形成されていてもよいし、両方の表面に形成されていてもよい。また、本発明の非水系二次電池用セパレータは、一方の表面に上述した構成の機能層を備え、他方の表面には上述した構成を有さない機能層(例えば、有機粒子を含有しない機能層や、有機粒子の相の面積割合が上記範囲を満たさない機能層など)を有していてもよい。
[0024] また、機能層は、有機粒子以外に、任意に、機能層用結着材、非導電性粒子(有機粒子および機能層用結着材に該当するものを除く)、その他の成分を含有していてもよい。
なお、機能層中の有機粒子の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。
[0025] [有機粒子]
機能層中に含まれている有機粒子は、電解液中において機能層に優れた接着性を発揮させる機能を担う。
そして、有機粒子は、コア部と、コア部の外表面を部分的に覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有しており、前記コア部は、電解液膨潤度が5倍以上30倍以下の重合体からなり、前記シェル部は、電解液膨潤度が1倍超4倍以下の重合体からなることを特徴とする。
[0026] ここで、上記構造および性状を有する有機粒子は、電解液中において優れた接着性を発揮し、しかも電解液への成分の溶出が少なく、優れた接着性を長期に亘り保持することができる。そして、有機粒子を含む機能層は、二次電池の電池特性を良好に向上させることができる。また、この有機粒子は、電解液への浸漬前には大きな接着力を発揮しないので、有機粒子を含む機能層を備えるセパレータは、ブロッキング(機能層を介したセパレータ同士の膠着など)を生じ難く、ハンドリング性にも優れている。
[0027] なお、上記有機粒子を使用することで上述したような優れた効果が得られる理由は、明らかではないが、以下の通りであると推察される。
即ち、上記有機粒子のシェル部を構成する重合体は、電解液に対してある程度膨潤する。このとき、例えば膨潤したシェル部の重合体が有する官能基が活性化して、機能層が形成されるセパレータ基材の表面、或いは、機能層を有するセパレータと接着される電極等の表面にある官能基と化学的または電気的な相互作用を生じるなどの要因により、シェル部はセパレータ基材や電極等と強固に接着できる。一方、シェル部は、電解液に膨潤する前には大きな接着力を発揮しない。そのため、当該有機粒子を含む機能層では、ブロッキングの発生を抑制しつつ、セパレータと電極とを電解液中において強力に接着することが可能となっているものと推察される。
また、シェル部の重合体およびコア部の重合体はいずれも電解液膨潤度が所定の値以下に設定されており、電解液に対して過度に膨潤することもない。そのため、例えば二次電池の長時間稼働後にも上述した優れた接着性を十分に発揮することができると推察される。
そして、上記有機粒子を含む機能層を使用した場合、上述したように電解液中において機能層が強力な接着力を発揮することができるので、当該機能層を備える二次電池では、機能層を介して接着されたセパレータと電極との間に空隙を生じ難い。そのため、当該有機粒子を含む機能層を有するセパレータを使用した二次電池では、二次電池内において正極と負極との距離が大きくなり難く、二次電池の内部抵抗を小さくできると共に、電極における電気化学反応の反応場が不均一になり難い。さらに、当該二次電池では、充放電を繰り返してもセパレータと電極との間に空隙ができ難く、電池容量が低下しにくい。これにより、高温サイクル特性などに優れる二次電池を提供できるものと推察される。
さらに、上記有機粒子のコア部を構成する重合体は、電解液に対して大きく膨潤する。そして、重合体は、電解液に大きく膨潤した状態では、重合体の分子間の隙間が大きくなり、その分子間をイオンが通り易くなる。また、有機粒子のコア部の重合体は、シェル部によって完全に覆われてはいない。そのため、電解液中においてイオンがコア部を通りやすくなるので、有機粒子は高いイオン拡散性を発現できる。従って、上記有機粒子を使用すれば、機能層による抵抗の上昇を抑制し、低温出力特性などの電池特性の低下を抑制することも可能である。
なお、上述した通り、有機粒子は電解液に膨潤することで優れた接着性を発揮し、電解液への浸漬前には大きな接着力を発揮しない。しかし、有機粒子は、電解液に膨潤しない限りは接着性を全く発揮しないというものではなく、電解液に膨潤していない状態であっても、例えば一定温度以上(例えば50℃以上)に加熱されることにより、接着性を発現し得る。」

「[0037] −コア部の重合体のガラス転移温度−
また、有機粒子のコア部を構成する重合体のガラス転移温度は、−50℃以上であることが好ましく、0℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがさらに好ましく、また、150℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがより好ましい。コア部の重合体のガラス転移温度を前記範囲の下限値以上にすることにより、機能層の強度や耐ブロッキング性を一層向上させることができる。また、コア部の重合体のガラス転移温度を上記範囲の上限値以下にすることにより、機能層の電解液中での接着性および二次電池の高温サイクル特性を向上させることができる。」

「[0040] これらの単量体の中でも、コア部の重合体の調製に用いられる単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いることが好ましく、メタクリル酸メチルおよび/またはアクリル酸ブチルを用いることがより好ましい。即ち、コア部の重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むことが好ましく、メタクリル酸メチルおよび/またはアクリル酸ブチルに由来する単量体単位を含むことが更に好ましい。上述した単量体を使用することにより、コア部の重合体の電解液膨潤度の制御やコア部の重合体のガラス転移温度の制御が容易になると共に、有機粒子を用いた機能層のイオン拡散性を一層高めることができる。」

「[0050] −シェル部の重合体のガラス転移温度−
また、有機粒子のシェル部を構成する重合体のガラス転移温度は、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましく、また、200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。シェル部の重合体のガラス転移温度を50℃以上とすることにより、ブロッキングの発生を抑制できることに加え、二次電池の低温出力特性を向上させることができる。また、シェル部の重合体のガラス転移温度を200℃以下とすることにより、機能層の接着性を更に向上させることができる。」

「[0052] −シェル部の重合体の組成−
シェル部の重合体を調製するために用いる単量体としては、その重合体の電解液膨潤度が前記範囲となるものを適宜選択して用いうる。そのような単量体としては、例えば、コア部の重合体を製造するために用いうる単量体として例示した単量体と同様の単量体が挙げられる。また、このような単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。」

「[0061] [[有機粒子の調製方法]]
そして、上述したコアシェル構造を有する有機粒子は、例えば、コア部の重合体の単量体と、シェル部の重合体の単量体とを用い、経時的にそれらの単量体の比率を変えて段階的に重合することにより、調製することができる。具体的には、有機粒子は、先の段階の重合体を後の段階の重合体が順次に被覆するような連続した多段階乳化重合法および多段階懸濁重合法によって調製することができる。」

「[0068] [機能層用結着材]
ここで、上述した通り、有機粒子は、電解液に膨潤しておらず、且つ、加熱されていない状態では、通常、大きな接着性を発現しない。そのため、機能層の形成直後(加熱前または電解液への浸漬前)に有機粒子が機能層から脱落するのを抑制する観点からは、機能層は、電解液に膨潤しておらず、且つ、加熱されていない状態においても接着性を発揮する機能層用結着材を含むことが好ましい。機能層用結着材を用いることにより、電解液に膨潤しておらず、且つ、加熱されていない状態においても、有機粒子等の成分が機能層から脱落するのを抑制することができる。
[0069] そして、上記有機粒子と併用し得る機能層用結着材としては、既知の結着材、例えば、熱可塑性エラストマーが挙げられる。そして、熱可塑性エラストマーとしては、共役ジエン系重合体およびアクリル系重合体が好ましく、アクリル系重合体がより好ましい。
ここで、共役ジエン系重合体とは、共役ジエン単量体単位を含む重合体を指し、共役ジエン系重合体の具体例としては、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)などの、芳香族ビニル単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位を含む重合体や、アクリルゴム(NBR)(アクリロニトリル単位およびブタジエン単位を含む重合体)などが挙げられる。また、アクリル系重合体とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体を指す。ここで、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、有機粒子のコア部の重合体を調製するために用いる単量体と同様のものを用いることができる。
なお、これらの機能層用結着材は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、2種類以上の重合体を組み合わせた機能層用結着材を用いる場合、かかる機能層用結着材としての重合体は、上述した所定の重合体からなるコアシェル構造を有する有機粒子とは異なるものとする。」

「[0078] [機能層の構成]
そして、セパレータ基材の機能層形成面に形成された機能層には、例えば図1に機能層の一例の表面のSEM画像を示すように、単独の有機粒子または集合した複数の有機粒子よりなる有機粒子の相(即ち、有機粒子が存在する部分)と、有機粒子が存在しない部分(例えば、機能層用結着材などの有機粒子以外の成分のみが存在する部分など)とが混在している。なお、セパレータ基材の機能層形成面には、有機粒子や機能層用結着材などの機能層を構成する成分が存在しない部分が存在していてもよい。
[0079] [[有機粒子の相]]
ここで、有機粒子の相は、機能層形成面の全体を覆うことなく、機能層形成面の面積に対して20%以上80%以下の割合で存在している必要がある。機能層形成面の面積に対する、当該機能層形成面上に存在する有機粒子の相の面積の割合(=(有機粒子の相が存在する部分の面積/機能層形成面の面積)×100%)が20%未満の場合には、電解液中において優れた接着力を発揮する有機粒子の量が少なくなり過ぎて電解液中での機能層の接着性が低下し、セパレータを用いた二次電池の高温サイクル特性が低下するからである。また、有機粒子はある程度高いイオン伝導性を発揮するものの、有機粒子が存在する部分は有機粒子が存在しない部分と比較すればイオン伝導性が低下する。そのため、機能層の電解液中でのイオン伝導性を向上させ、セパレータを用いた二次電池の低温出力特性を高める観点からは、機能層形成面の面積に対する、当該機能層形成面上に存在する有機粒子の相の面積の割合は、80%以下とする必要がある。
そして、電解液中での機能層の接着性を十分に確保して二次電池の高温サイクル特性を向上させる観点からは、機能層形成面の面積に対する有機粒子の相が存在する部分の面積の割合は、25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、35%以上であることが更に好ましい。また、機能層の電解液中でのイオン伝導性を更に向上させ、セパレータを用いた二次電池の低温出力特性を更に高める観点からは、機能層形成面の面積に対する有機粒子の相が存在する部分の面積の割合は、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、45%以下であることが更に好ましい。」

「[0100] (実施例1)
<コアシェル構造を有する有機粒子の調製>
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、コア部形成用として、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのメタクリル酸メチル75部、酸基含有単量体としてのメタクリル酸4部、架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート1部;乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部;イオン交換水150部、並びに、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した。その後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になるまで重合を継続させて、コア部を構成する粒子状の重合体を含む水分散液を得た。
この水分散液に、シェル部形成用として、芳香族ビニル単量体としてのスチレン19部および酸基含有単量体としてのメタクリル酸1部の混合物を連続添加し、70℃に加温して重合を継続した。重合転化率が96%になった時点で、冷却して反応を停止して、コア部の外表面が部分的にシェル部で覆われたコアシェル構造を有する有機粒子を含む水分散液を調製した。
なお、得られた有機粒子の体積平均粒子径D50は、0.45μmであった。
そして、得られた有機粒子のコアシェル比率および被覆率を評価した。結果を表1に示す。
<機能層用結着材の調製>
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、製品名「エマール2F」)0.15部、および過流酸アンモニウム0.5部を、それぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
一方、別の容器で、イオン交換水50部、分散剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、および、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのアクリル酸ブチル94部、アクリロニトリル2部、メタクリル酸2部、N−メチロールアクリルアミド1部、アクリルアミド1部を混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、粒子状の機能層用結着材(アクリル重合体)を含む水分散液を調製した。
なお、得られた機能層用結着材のガラス転移温度は−40℃であった。
<非水系二次電池機能層用組成物の調製>
前記のコアシェル構造を有する有機粒子を含む水分散液を固形分相当で100部に対し、前記の機能層用結着材を含む水分散液を固形分相当で15部、濡れ剤としてのエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体(固形分濃度70質量%、重合比:5/5(質量比))を固形分相当で1.9部混合し、さらにイオン交換水を固形分濃度が15質量%になるように混合し、スラリー状の非水系二次電池機能層用組成物を調製した(組成物準備工程)。そして、得られた非水系二次電池機能層用組成物の表面張力を測定した。結果を表1に示す。
<セパレータ基材の準備>
ポリエチレン製の微多孔膜(厚み16μm、ガーレー値210s/100cc)を用意した。用意した微多孔膜を、春日電機製の「エアプラズマAPW−602f」を使用して50W・min/m2の処理強度でコロナ放電処理し、セパレータ基材とした(基材準備工程)。そして、セパレータ基材の水滴接触角を測定した。結果を表1に示す。
<セパレータの調製>
セパレータ基材の両面に、スラリー状の非水系二次電池機能層用組成物をグラビアコート法(線数300)により塗布し、50℃で1分間乾燥させた(機能層形成工程)。これにより、1層当たりの厚みが0.8μmの機能層をセパレータ基材上に形成して、セパレータ基材の両面に機能層を形成してなるセパレータを得た。このセパレータは、機能層、セパレータ基材および機能層を、この順に備えている。そして、セパレータの機能層をSEMで観察し、有機粒子の相が存在する部分の面積の割合を求めた。得られたSEM画像を図1に示し、結果を表1に示す。なお、機能層には、有機粒子の相が不規則な形状で存在していた。また、粒子としては有機粒子のみが観察され、機能層用結着材はSEMでは粒子として観察されなかった。

(中略)

<リチウムイオン二次電池の製造>
プレス後の正極を49cm×5cmに切り出した。切り出された正極の正極合材層上に、55cm×5.5cmに切り出したセパレータを配置した。さらに、プレス後の負極を50cm×5.2cmに切り出し、この切り出された負極を前記セパレータの正極とは反対側に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うよう配置した。更に、負極上に、55cm×5.5cmに切り出したセパレータを配置した。これを捲回機によって捲回し、捲回体を得た。この捲回体を60℃、0.5MPaでプレスし、扁平体とした。この扁平体を、電池の外装としてのアルミニウム包材外装で包み、電解液(溶媒:エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)/ビニレンカーボネート(VC)=68.5/30/1.5(体積比)、電解質:濃度1MのLiPF6)を空気が残らないように注入した。さらに、アルミニウム包材外装の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム包材外装を閉口した。これにより、800mAhの捲回型リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、得られたリチウムイオン二次電池について、高温サイクル特性および低温出力特性を評価した。結果を表1に示す。」

[0113]
[表1]


(2)甲第1号証に記載された技術事項
ア 段落[0015]によれば、甲第1号証は「リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池のセパレータ」に係るものである。

イ 段落[0016]によれば、「非水系二次電池用セパレータは、セパレータ基材と、セパレータ基材の少なくとも一方の表面(機能層形成面)上に形成された機能層とを備え」る。

ウ 段落[0018]によれば、「セパレータ基材」は、「ポリオレフィン系」「の樹脂からなる微多孔膜」である。

エ 段落[0016]、[0024]によれば、「機能層は、」「コア部とシェル部とを備える」「コアシェル構造を有する有機粒子」、「機能層用結着材」「を含有」する。

オ 段落[0025]、[0026]、[0027]によれば、「有機粒子は、電解液中において機能層に優れた接着性を発揮させる機能を担」い、「電解液への浸漬前には大きな接着力を発揮しないので、有機粒子を含む機能層を備えるセパレータは、ブロッキング(機能層を介したセパレータ同士の膠着など)を生じ難く、ハンドリング性にも優れて」いるが、「電解液に膨潤しない限りは接着性を全く発揮しないというものではなく、電解液に膨潤していない状態であっても、例えば一定温度以上(例えば50℃以上)に加熱されることにより、接着性を発現し得る」。

カ 段落[0040]、[0052]によれば、「コア部の重合体の調製に用いられる単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体を用い」、「シェル部の重合体を調製するために用いる単量体としては、」「コア部の重合体を製造するために用いうる単量体として例示した単量体と同様の単量体」が用いられる。

キ 段落[0061]によれば、「コアシェル構造を有する有機粒子は、」「コア部の重合体の単量体と、シェル部の重合体の単量体とを用い、経時的にそれらの単量体の比率を変えて段階的に重合する」、「連続した多段階乳化重合法および多段階懸濁重合法によって調製する」。

ク 段落[0113]の表1には、実施例1ないし4、6ないし11として、コア部のガラス転移温度が87ないし90℃、シェル部のガラス転移温度が103ないし107℃の有機粒子が記載されている。

ケ 段落[0068]、[0069]によれば、「機能層用結着材」は「アクリル系重合体」であり、「電解液に膨潤しておらず、且つ、加熱されていない状態においても、有機粒子等の成分が機能層から脱落するのを抑制」する。

コ 段落[0023]、[0078]、[0079]によれば、「セパレータ基材の機能層形成面に形成された機能層には、」「単独の有機粒子または集合した複数の有機粒子よりなる有機粒子の相」「と、有機粒子が存在しない部分」「とが混在」し、「有機粒子の相が存在する部分の面積の割合は、機能層形成面の面積に対して20%以上80%以下」である。

(3)甲1発明
上記アないしコの技術事項を総合勘案すると、甲第1号証には、「リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池のセパレータ」として次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「セパレータ基材と、セパレータ基材の少なくとも一方の表面(機能層形成面)上に形成された機能層とを備え、
セパレータ基材は、ポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜であり、
機能層は、コア部とシェル部とを備えるコアシェル構造を有する有機粒子、機能層用結着材を含有し、
有機粒子は、電解液中において機能層に優れた接着性を発揮させる機能を担い、電解液への浸漬前には大きな接着力を発揮しないので、有機粒子を含む機能層を備えるセパレータは、ブロッキング(機能層を介したセパレータ同士の膠着など)を生じ難く、ハンドリング性にも優れているが、電解液に膨潤しない限りは接着性を全く発揮しないというものではなく、電解液に膨潤していない状態であっても、例えば一定温度以上(例えば50℃以上)に加熱されることにより、接着性を発現し得るものであり、
コア部の重合体の調製に用いられる単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体を用い、シェル部の重合体を調製するために用いる単量体としては、コア部の重合体を製造するために用いうる単量体として例示した単量体と同様の単量体が用いられ、
コアシェル構造を有する有機粒子は、コア部の重合体の単量体と、シェル部の重合体の単量体とを用い、経時的にそれらの単量体の比率を変えて段階的に重合する、連続した多段階乳化重合法および多段階懸濁重合法によって調製され、
コア部のガラス転移温度が87ないし90℃、シェル部のガラス転移温度が103ないし107℃であり、
機能層用結着材はアクリル系重合体であり、電解液に膨潤しておらず、且つ、加熱されていない状態においても、有機粒子等の成分が機能層から脱落するのを抑制し、
セパレータ基材の機能層形成面に形成された機能層には、単独の有機粒子または集合した複数の有機粒子よりなる有機粒子の相と、有機粒子が存在しない部分とが混在し、有機粒子の相が存在する部分の面積の割合は、機能層形成面の面積に対して20%以上80%以下である
非水系二次電池のセパレータ。」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証(国際公開第2016/017066号)には、次の記載がある(下線は当審で付与した。)。
「[0007] 更に、非水系二次電池の製造に際しては、セパレータ基材などの基材に接着層などの機能層を形成してなる電池部材を、そのまま捲き取って保存および運搬することが一般的であるところ、上記従来の接着層を形成した電池部材には、保存および運搬中に接着層を介して隣接する電池部材同士が膠着する(即ち、ブロッキングする)のを抑制するという要求もあった。」

「[0009] しかし、本発明者が更に検討を重ねた結果、電解液に膨潤することにより初めて接着性を発現するような粒子状重合体を使用した場合には、二次電池の製造時に以下の新たな問題が発生することが明らかとなった。即ち、二次電池の製造においては電池部材同士が機能層を介して積層され、必要に応じて捲き回されるところ、電解液に膨潤することにより初めて接着性を発現する粒子状重合体を使用した機能層を備える電池部材を用いた場合には、機能層が電解液への浸漬前には大きな接着性を発揮しないため、積層された電池部材同士が電池の製造中に捲きズレなどの位置ズレを起こし、不良が発生するという問題が生じることが明らかとなった。」
[0010] そこで、本発明は、電池部材に高い耐ブロッキング性をもたらすことができる上、電解液への浸漬前および浸漬後のいずれにおいても優れた接着性を発揮させることができる非水系二次電池用機能層を形成可能な非水系二次電池機能層用組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、電池部材に高い耐ブロッキング性をもたらすことができる上、電解液への浸漬前および浸漬後のいずれにおいても優れた接着性を発揮させることができる非水系二次電池用機能層付き基材を提供することを目的とする。
更に、本発明は、機能層を介してセパレータ基材と電極基材とを接着してなる非水系二次電池用積層体であって、電解液への浸漬前および浸漬後のいずれにおいてもセパレータ基材と電極基材とが機能層を介して強固に接着される非水系二次電池用積層体の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、高温サイクル特性や低温出力特性などの電池特性に優れる非水系二次電池を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0011] 本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、所定のコアシェル構造および性状を有する粒子状重合体を用いることで、電池部材に高い耐ブロッキング性をもたらすことができる上、電解液への浸漬前および浸漬後のいずれにおいても優れた接着性を発揮させることが可能な機能層が得られることを見出し、本発明を完成させた。
[0012] 即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池機能層用組成物は、粒子状重合体を含有する非水系二次電池機能層用組成物であって、前記粒子状重合体は、コア部と、前記コア部の外表面を部分的に覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有しており、前記コア部は、ガラス転移温度が−50℃以上60℃以下で且つ電解液膨潤度が5倍以上30倍以下の重合体からなり、前記シェル部は、ガラス転移温度が50℃以上200℃以下で且つ電解液膨潤度が1倍超4倍以下の重合体からなることを特徴とする。このように、上述した所定のコアシェル構造および性状を有する粒子状重合体を含有する組成物を機能層の形成に用いれば、電池部材に高い耐ブロッキング性をもたらすことができる上、電解液への浸漬前および浸漬後のいずれにおいても優れた接着性を発揮することが可能な機能層を提供することができる。
なお、本発明において、粒子状重合体のコア部およびシェル部の重合体の「ガラス転移温度」および「電解液膨潤度」は、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。」

「[0021] 以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の非水系二次電池機能層用組成物は、基材上に機能層を形成した本発明の非水系二次電池用機能層付き基材を調製する際に用いられる。そして、本発明の非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層は、例えばセパレータや電極などの電池部材同士を接着する接着層として有用であり、セパレータ基材または電極基材の上に形成されてセパレータまたは電極の一部を構成し得る。なお、本発明の非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成される機能層は、セパレータや電極等の電池部材の耐熱性および強度を向上させるための多孔膜層としての機能を発揮する層であってもよい。更に、本発明の非水系二次電池用積層体の製造方法は、少なくとも本発明の非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層を使用することを特徴とする。そして、本発明の非水系二次電池は、本発明の非水系二次電池用積層体の製造方法により製造される非水系二次電池用積層体を備えるものである。
[0022] (非水系二次電池機能層用組成物)
非水系二次電池機能層用組成物は、所定の構造および性状を有する粒子状重合体を少なくとも含有し、任意に、機能層用結着材、非導電性粒子(粒子状重合体および機能層用結着材に該当するものを除く)、その他の成分を含有する、水などを分散媒としたスラリー組成物である。
そして、本発明の非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成される機能層は、当該機能層を表面に備える電池部材に高い耐ブロッキング性をもたらすことができる上、電解液への浸漬前および浸漬後のいずれにおいても優れた接着性を発揮することができ、また、非水系二次電池に優れた電池特性を発揮させることができる。
[0023] <粒子状重合体>
非水系二次電池機能層用組成物に含有される粒子状重合体は、非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層に優れた接着性を発揮させる機能を担う。そして、粒子状重合体は、コア部と、前記コア部の外表面を部分的に覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有しており、前記コア部は、ガラス転移温度が−50℃以上60℃以下で且つ電解液膨潤度が5倍以上30倍以下の重合体からなり、前記シェル部は、ガラス転移温度が50℃以上200℃以下で且つ電解液膨潤度が1倍超4倍以下の重合体からなることを特徴とする。」

「[0040] これらの単量体の中でも、コア部の重合体の調製に用いられる単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体、(メタ)アクリロニトリル単量体を用いることが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いることがより好ましい。即ち、コア部の重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、(メタ)アクリロニトリル単量体単位を含むことが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むことが好ましい。これにより、コア部の重合体の電解液膨潤度の制御やコア部の重合体のガラス転移温度の制御が容易になると共に、粒子状重合体を用いた機能層のイオン拡散性を一層高めることができる。」

「[0054] そして、シェル部の重合体を調製するために用いる単量体としては、その重合体の電解液膨潤度およびガラス転移温度が前記範囲となるものを適宜選択して用いうる。そのような単量体としては、例えば、コア部の重合体を製造するために用いうる単量体として例示した単量体と同様の単量体が挙げられる。また、このような単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。」

「[0065] [粒子状重合体の調製方法]
そして、上述したコアシェル構造を有する粒子状重合体は、例えば、コア部の重合体の単量体と、シェル部の重合体の単量体とを用い、経時的にそれらの単量体の比率を変えて段階的に重合することにより、調製することができる。具体的には、粒子状重合体は、先の段階の重合体を後の段階の重合体が順次に被覆するような連続した多段階乳化重合法および多段階懸濁重合法によって調製することができる。」

「[0072] <機能層用結着材>
ここで、上述した通り、粒子状重合体は、電解液に膨潤しておらず、且つ、加熱されていない状態では、通常、接着性を発現しない。そのため、機能層の形成直後(加熱前または電解液への浸漬前)に粒子状重合体が機能層から脱落するのを抑制する観点からは、機能層用組成物は、電解液に膨潤しておらず、且つ、加熱されていない状態においても接着性を発揮する機能層用結着材を含むことが好ましい。機能層用結着材を用いることにより、電解液に膨潤しておらず、且つ、加熱されていない状態においても、粒子状重合体等の成分が機能層から脱落するのを抑制することができる。
[0073] そして、上記粒子状重合体と併用し得る機能層用結着材としては、非水溶性で、水などの分散媒中に分散可能な既知の結着材、例えば、熱可塑性エラストマーが挙げられる。そして、熱可塑性エラストマーとしては、共役ジエン系重合体およびアクリル系重合体が好ましく、アクリル系重合体がより好ましい。
ここで、共役ジエン系重合体とは、共役ジエン単量体単位を含む重合体を指し、共役ジエン系重合体の具体例としては、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)などの、芳香族ビニル単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位を含む重合体や、アクリルゴム(NBR)(アクリロニトリル単位およびブタジエン単位を含む重合体)などが挙げられる。また、アクリル系重合体とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体を指す。ここで、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、粒子状重合体のコア部の重合体を調製するために用いる単量体と同様のものを用いることができる。
なお、これらの機能層用結着材は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、2種類以上を組み合わせた機能層用結着材を用いる場合、かかる機能層用結着材としての重合体は、上述した所定の重合体からなるコアシェル構造を有する粒子状重合体とは異なるものである。」

「[0084] <基材>
機能層を形成する基材としては、特に限定されず、例えばセパレータの一部を構成する部材として機能層を使用する場合には、基材としてはセパレータ基材を用いることができ、また、電極の一部を構成する部材として機能層を使用する場合には、基材としては集電体上に電極合材層を形成してなる電極基材を用いることができる。また、非水系二次電池機能層用組成物を用いて基材上に機能層を形成して得られる機能層付き基材の用法に特に制限は無く、例えばセパレータ基材等の上に機能層を形成してそのままセパレータ等の電池部材として使用してもよいし、電極基材上に機能層を形成してそのまま電極として使用してもよいし、離型基材上に形成した機能層を基材から一度剥離し、他の基材に貼り付けて電池部材として使用してもよい。
しかし、機能層から離型基材を剥がす工程を省略して電池部材の製造効率を高める観点からは、基材としてセパレータ基材または電極基材を使用し、機能層付き基材を電池部材としてそのまま用いることが好ましい。セパレータ基材または電極基材に形成された機能層は、上述の粒子状重合体を含むので、耐ブロッキング性を発揮しつつ、機能層を介して電池部材同士を積層して捲回する際には、加熱されることにより接着性を発揮して捲きズレの発生を抑制することができる。また、電解液中において優れた接着性を発揮すると共に、二次電池の電池特性を向上させることができる。
[0085] [セパレータ基材]
機能層を形成するセパレータ基材としては、特に限定されることなく、例えば特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
なお、セパレータ基材は、機能層以外の、所期の機能を発揮し得る任意の層をその一部に含んでいてもよい。」

「[0110] <電解液浸漬前の電極基材とセパレータ基材との接着性>
調製した正極基材およびセパレータ基材を備える積層体、並びに、負極基材およびセパレータ基材を備える積層体を、それぞれ10mm幅に切り出し、70℃、0.5MPaの条件でプレスして試験片とした。その後、これらの試験片を、電極基材(正極基材又は負極基材)の集電体側の面を下にして、電極基材の表面にセロハンテープを貼り付けた。この際、セロハンテープとしては、JIS Z1522に規定されるものを用いた。また、セロハンテープは、水平な試験台に固定しておいた。そして、セパレータ基材の一端を鉛直上方に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した。この測定を、正極基材およびセパレータ基材を備える積層体、並びに、負極基材およびセパレータ基材を備える積層体でそれぞれ3回、合計6回行い、応力の平均値をピール強度として求めて、電解液浸漬前の電極基材とセパレータ基材との接着性を下記の基準で評価した。
A:ピール強度が1.0N/m以上
B:ピール強度が0.5N/m以上1.0N/m未満
C:ピール強度が0.3N/m以上0.5N/m未満
D:ピール強度が0.3N/m未満」

「[0112] <耐ブロッキング性>
調製した機能層付き基材(セパレータまたは電極)を、一辺5cmの正方形および一辺4cmの正方形にそれぞれ切って試験片とし、これら試験片を二枚重ね合わせた。これを二組用意し、一方はそのまま「未プレスの状態のサンプル」とし、もう一方は、重ね合わせた後に40℃、10g/cm2の加圧下に置いて、「プレスしたサンプル」とした。そして、これらのサンプルを24時間放置したのち、重ね合わせられたセパレータ同士の接着状態(ブロッキング状態)を目視で確認し、耐ブロッキング性を下記の基準で評価した。
A:「未プレスの状態のサンプル」および「プレスしたサンプル」において、機能層付き基材同士がブロッキングしていない
B:「未プレスの状態のサンプル」においては機能層付き基材同士がブロッキングしておらず、「プレスしたサンプル」においては機能層付き基材同士がブロッキングしている(ただし、手で剥がすことができる)
C:「未プレスの状態のサンプル」においては機能層付き基材同士がブロッキングしておらず、「プレスしたサンプル」においては機能層付き基材同士がブロッキングしている(手で剥がすこともできない)
D:「プレスしたサンプル」および「未プレスの状態のサンプル」において、機能層付き基材同士がブロッキングしている」

[0135]
[表1]


(2)甲第2号証に記載された技術事項
ア 段落[0010]によれば、甲第2号証は「電池部材に高い耐ブロッキング性をもたらすことができる上、電解液への浸漬前および浸漬後のいずれにおいても優れた接着性を発揮させることができる非水系二次電池用機能層付き基材」に係るものである。

イ 段落[0021]によれば、「非水系二次電池機能層用組成物」が「基材上に機能層を形成した」「非水系二次電池用機能層付き基材を調製する際に用いられ」、「非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層は、」「セパレータ基材」「の上に形成されてセパレータ」「の一部を構成」する。
してみると、「非水系二次電池用機能層付き基材」は、非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層付きセパレータ基材であり、機能層とセパレータ基材によりセパレータが構成される。

ウ 段落[0085]によれば、「セパレータ基材としては、」「ポリオレフィン系」「の樹脂からなる微多孔膜」である。

エ 段落[0022]によれば、「非水系二次電池機能層用組成物は」「粒子状重合体」、「機能層用結着材」「を含有する」。

オ 段落[0023]によれば、「粒子状重合体は、」「機能層に優れた接着性を発揮させる機能を担」い、コア部と、前記コア部の外表面を部分的に覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有」する。

カ 段落[0040]、[0054]によれば、「コア部の重合体の調製に用いられる単量体としては、」「(メタ)アクリル酸エステル単量体を用い」、「シェル部の重合体を調製するために用いる単量体としては、」「コア部の重合体を製造するために用いうる単量体として例示した単量体と同様の単量体」が用いられる。

キ 段落[0065]によれば、「コアシェル構造を有する粒子状重合体は、」「コア部の重合体の単量体と、シェル部の重合体の単量体とを用い、経時的にそれらの単量体の比率を変えて段階的に重合する」、「連続した多段階乳化重合法および多段階懸濁重合法によって調製する」。

ク 段落[0135]の表1には、実施例2、3、6として、コア部のガラス転移温度が40ないし58℃、シェル部のガラス転移温度が103℃の有機粒子が記載されている。

ケ 段落[0072]、[0073]によれば、「機能層用結着材」は「アクリル系重合体」であり、「電解液に膨潤しておらず、且つ、加熱されていない状態においても、粒子状重合体等の成分が機能層から脱落するのを抑制する」。

(3)甲2発明
上記アないしケの技術事項を総合勘案すると、甲第2号証には、「非水系二次電池用機能層付き基材」として次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

「非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層付きセパレータ基材であり、
機能層とセパレータ基材によりセパレータが構成され、
セパレータ基材は、ポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜であり、
非水系二次電池機能層用組成物は粒子状重合体、機能層用結着材を含有し、
粒子状重合体は、機能層に優れた接着性を発揮させる機能を担い、コア部と、前記コア部の外表面を部分的に覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有し、
コア部の重合体の調製に用いられる単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体を用い、シェル部の重合体を調製するために用いる単量体としては、コア部の重合体を製造するために用いうる単量体として例示した単量体と同様の単量体が用いられ、
コアシェル構造を有する粒子状重合体は、コア部の重合体の単量体と、シェル部の重合体の単量体とを用い、経時的にそれらの単量体の比率を変えて段階的に重合する、連続した多段階乳化重合法および多段階懸濁重合法によって調製され、
コア部のガラス転移温度が40ないし58℃、シェル部のガラス転移温度が103℃であり、
機能層用結着材はアクリル系重合体であり、電解液に膨潤しておらず、且つ、加熱されていない状態においても、粒子状重合体等の成分が機能層から脱落するのを抑制する
電池部材に高い耐ブロッキング性をもたらすことができる上、電解液への浸漬前および浸漬後のいずれにおいても優れた接着性を発揮させることができる、非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層付きセパレータ基材。」

第5 当審の判断
1 申立理由1(新規性)について
(1)請求項1に係る発明について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「セパレータ基材」は非水系二次電池のセパレータを構成するものであるから、本件発明1の「蓄電デバイス用セパレータ」が備える「基材」に相当する。

(イ)甲1発明の「セパレータ基材の少なくとも一方の表面(機能層形成面)上に形成された機能層」は、コア部とシェル部とを備えるコアシェル構造を有する有機粒子、機能層用結着材を含有し、コア部の重合体の調製に用いられる単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体を用い、シェル部の重合体を調製するために用いる単量体としては、コア部の重合体を製造するために用いうる単量体として例示した単量体と同様の単量体が用いられ、機能層用結着材はアクリル系重合体である。
(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いた重合体、アクリル系重合体は熱可塑性ポリマーであるから、甲1発明の「コアシェル構造を有する有機粒子、機能層用結着材」は熱可塑性ポリマーである。
してみると、甲1発明のコアシェル構造を有する有機粒子、機能層用結着材を含有する「セパレータ基材の少なくとも一方の表面(機能層形成面)上に形成された機能層」は、本件発明1の「前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層」に相当する。

(ウ)上記(ア)、(イ)より、甲1発明の「セパレータ基材と、セパレータ基材の少なくとも一方の表面(機能層形成面)上に形成された機能層とを備え」る「非水系二次電池のセパレータ」は、本件発明1の「基材と、前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層と、を備える蓄電デバイス用セパレータ」に相当する。

(エ)甲1発明の「セパレータ基材は、ポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜」であることは、本件発明1の「前記基材が、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜」であることに相当する。

(オ)本件発明1は「前記熱可塑性ポリマーが、下記式:
T1.00−T0.25≦13℃
{式中、T1.00は、DSC(示差走査熱量測定)によって測定された単位時間当たりの熱流差を、温度で微分した値をDDSCとしたとき、0℃から150℃までにおけるDDSCの最小値を示す温度であり、T0.25は、0℃から150℃までにおけるDDSCの最大値と前記最小値の差をXとした際に、DDSCが前記T1.00よりも低温側において、前記最大値からの差が0.25Xとなる温度である。}
で表される関係式を満た」すのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

(カ)本件発明1は「前記T1.00が35℃以上、130℃以下の範囲にあ」るのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

(キ)本件発明1は「下記式:
P1/P2≧1.1
{式中、P1は、前記蓄電デバイス用セパレータの一つの面(A)と、前記面(A)とは反対側の面(B)とを重ねて積層体を作成し、この積層体を、温度90℃、及び圧力1MPaの条件下で5秒間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度であり、かつP2は、前記積層体を温度25℃、及び圧力5MPaの条件下で12時間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度である。}
で表される関係を満た」すのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

(ク)甲1発明の「コアシェル構造を有する有機粒子」は、コア部の重合体及びシェル部の重合体を備え、コア部のガラス転移温度が87ないし90℃、シェル部のガラス転移温度が103ないし107℃であるから、ガラス転移温度が40℃以上である粒子状重合体に含まれる。
してみると、甲1発明の機能層が「コアシェル構造を有する有機粒子」を含有することは、本件発明1の「前記熱可塑性ポリマーは、ガラス転移温度が40℃以上である粒子状重合体を含」むことに相当する。

(ケ)本件発明1は「前記熱可塑性ポリマー含有層の前記基材に対する被覆面積割合が95%以下である」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

なお、甲1発明は「セパレータ基材の機能層形成面に形成された機能層には、単独の有機粒子または集合した複数の有機粒子よりなる有機粒子の相と、有機粒子が存在しない部分とが混在し、有機粒子の相が存在する部分の面積の割合は、機能層形成面の面積に対して20%以上80%以下」であるから、甲1発明の「機能層」は「有機粒子の相」と「有機粒子が存在しない部分」とからなり、「有機粒子の相」が存在する部分の面積の割合がセパレータ基材の機能層形成面の面積に対して20%以上80%以下であるとしても、機能層の面積の割合がセパレータ基材の機能層形成面の面積に対して95%以下であるとはいえない。

(コ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「基材と、前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記基材が、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜であり、
前記熱可塑性ポリマーは、ガラス転移温度が40℃以上である粒子状重合体を含む、蓄電デバイス用セパレータ。」

〈相違点1〉
本件発明1は「前記熱可塑性ポリマーが、下記式:
T1.00−T0.25≦13℃
{式中、T1.00は、DSC(示差走査熱量測定)によって測定された単位時間当たりの熱流差を、温度で微分した値をDDSCとしたとき、0℃から150℃までにおけるDDSCの最小値を示す温度であり、T0.25は、0℃から150℃までにおけるDDSCの最大値と前記最小値の差をXとした際に、DDSCが前記T1.00よりも低温側において、前記最大値からの差が0.25Xとなる温度である。}
で表される関係式を満た」すのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点

〈相違点2〉
本件発明1は「前記T1.00が35℃以上、130℃以下の範囲にあ」るのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点

〈相違点3〉
本件発明1は「下記式:
P1/P2≧1.1
{式中、P1は、前記蓄電デバイス用セパレータの一つの面(A)と、前記面(A)とは反対側の面(B)とを重ねて積層体を作成し、この積層体を、温度90℃、及び圧力1MPaの条件下で5秒間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度であり、かつP2は、前記積層体を温度25℃、及び圧力5MPaの条件下で12時間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度である。}
で表される関係を満た」すのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点

〈相違点4〉
本件発明1は「前記熱可塑性ポリマー含有層の前記基材に対する被覆面積割合が95%以下である」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点

イ 判断
相違点1について検討する。
本件明細書の表5に記載される実施例1,実施例8、比較例1のT1.00−T0.25の値および表3、表4に記載される上記実施例及び比較例に用いられる原料ポリマーの原材料の有効成分割合と重合条件から明らかなように、T1.00−T0.25の値は重合条件(反応容器内部温度、反応容器攪拌の有無)により変化する。
そして、本件明細書の段落【0183】、【0184】に「得られた乳化液を滴下槽から上記反応容器に滴下した。滴下は反応容器に過硫酸アンモニウム水溶液を添加した5分後に開始し、150分かけて乳化液の全量を滴下した。乳化液の滴下中は、容器内部温度を95℃に維持した。・・・乳化液の滴下終了後、反応容器内部温度を95℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却し、エマルジョンを得た。」と記載されるのに対し、甲第1号証の段落[0100]には「<コアシェル構造を有する有機粒子の調製>攪拌機付き5MPa耐圧容器に、コア部形成用として、(メタ)アクリル酸エステル単量体・・・、酸基含有単量体・・・、架橋性単量体・・・;乳化剤・・・;イオン交換水・・・、並びに、重合開始剤・・・を入れ、十分に攪拌した。その後、60℃に加温して重合を開始した。・・・コア部を構成する粒子状の重合体を含む水分散液を得た。この水分散液に、シェル部形成用として、芳香族ビニル単量体・・・酸基含有単量体・・・の混合物を連続添加し、70℃に加温して重合を継続した。・・・<機能層用結着材の調製>攪拌機を備えた反応器に、イオン交換水・・・ラウリル硫酸ナトリウム・・・過硫酸アンモニウム・・・供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。一方、別の容器で、・・・単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間攪拌して反応を終了」と記載されるように、本件明細書段落【0183】ないし【0191】に記載された粒子状重合体の重合条件と甲第1号証の段落[0100]ないし[0106]に記載された有機粒子、機能層用結着材の調製方法とは、重合条件(反応容器内部温度)に加えて重合手順も一致するものではない。
してみると、甲1発明の有機粒子、機能層用結着材のT1.00−T0.25(ただし、T1.00は、DSC(示差走査熱量測定)によって測定された単位時間当たりの熱流差を、温度で微分した値をDDSCとしたとき、0℃から150℃までにおけるDDSCの最小値を示す温度であり、T0.25は、0℃から150℃までにおけるDDSCの最大値と前記最小値の差をXとした際に、DDSCが前記T1.00よりも低温側において、前記最大値からの差が0.25Xとなる温度である。)の値(以下、単に「T1.00−T0.25の値」という。)が本件発明1の相違点1に係る構成を満足する蓋然性が高いとはいえず、相違点1は実質的な相違である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではない。

(2)請求項3ないし7および11に係る発明について
本件発明3ないし7および11は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものであるから、上記(1)で検討したことと同じ理由により、甲1発明ではない。

2 申立理由2(進歩性)について
(1)甲第1号証を主引用例とした場合
ア 請求項1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明との一致点および相違点は、上記「1(1)ア(コ)」のとおりである。

(イ)判断
相違点1について検討する。
甲第2号証の段落[0007]、[0009]および[0010]、甲第3号証の段落[0009]および[0011]、甲第4号証の段落[0016]および[0017]、甲第5号証の段落[0006]、[0007]および[0009]、甲第6号証の段落[0007]および[0009]、甲第7号証の段落【0007】および【0056】には、セパレータの耐ブロッキング性と電極への接着性の両立の課題が記載され、甲第8号証の段落【0034】には、セパレータを電極と共に捲回した後に捲回体のプレスバックを抑制することが記載され、甲第9号証の段落[0020]、甲第10号証段落[0020]、甲第11号証の段落【0026】には、シャープメルト性を有するバインダが記載され、甲第12号証の段落【0020】には、シャープメルト性を有することにより溶融開始温度において急激な粘度低下が生じることが記載され、甲第13号証の段落【0030】、甲第14号証の段落【0028】、甲第15号証の段落【0087】には、分子量分布が狭い重合体を得るために重合反応時に攪拌を行い均一な反応を生じさせることが記載され、甲第16号証の段落【0011】および【0016】には、攪拌動力を大きくすることによりポリエーテルグリコールの分子量分布を狭くできることが記載されている。
しかしながら、甲第2号証ないし甲第16号証のいずれにも、「T1.00−T0.25の値」に関する記載はない。
また、甲1発明は、電解液中において機能層に優れた接着性を発揮させる機能を担い電解液への浸漬前には大きな接着力を発揮しない有機粒子を機能層に含ませることでブロッキングを生じ難くしつつ、一定温度以上に加熱されることにより接着性を発現したものであるから、甲1発明には、機能層に含まれる有機粒子、機能層用結着材の「T1.00−T0.25の値」を一定値以下とすることにより耐ブロッキング性と接着性との両立を図る動機はない。
そうすると、甲第2号証ないし甲第16号証の記載された技術事項に基づいて、甲1発明の機能層に含まれる有機粒子、機能層用結着材の「T1.00−T0.25の値」を一定値以下とし、相違点1に係る構成とすることが当業者が容易になし得たとすることはできない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第16号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書(第37頁第19行ないし第40頁第31行)において、相違点[B−1](上記「相違点1」に相当)に関して、概略以下のように主張している。
・甲第2号証ないし甲第7号証に記載されるように、耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図る課題は周知の課題であり、甲第8号証に記載されるように「プレスバック」に係る課題も公知である。
・要件[B−1](上記「相違点1」に係る構成)は、ガラス転移点周辺における吸熱ピークの幅が狭い(シャープな)バインダを用いることをDDSC曲線におけるピークの幅に関する関係式として表したに過ぎない。
・ポリマーはガラス転移温度より低い温度域では固く、ガラス転移温度より高い温度域では柔らかいことは技術常識であり、また、DSCを微分して得られるDDSC曲線におけるピークからガラス転移温度を決定することが行われている。
・甲第9号証ないし甲第11号証にシャープメルト性を有するバインダを用いることが記載され、甲第12号証にシャープメルト性有することにより溶融開始温度において急激な粘度低下が生じることが記載されている。以上より、溶融開始温度直前までは変形しにくく、溶融開始温度では急激な粘度低下を生じることを期待してDSCチャートにおける吸熱ピークの幅が狭いバインダを用いることは周知である。
・セパレータ上に形成される熱可塑性ポリマーには、イオン透過性を維持するためにセパレータの孔を閉塞させないことが求められ、接着時に溶融しない粒子状重合体が用いられる。
・当業者であれば、セパレータ上に形成される熱可塑性ポリマーとして、甲第9号証から甲第12号証に記載されているような溶融時の吸熱ピークがシャープなバインダではなく、粒子の形状を維持した状態で変形しやすくなるバインダが求められることを認識し、課題解決のために、ポリマーの変形性が変化するガラス転移温度付近において、変形が急激に生じるバインダを用いる動機が生じる。そして、ガラス転移点周辺での吸熱ピークの幅の広狭は、DDSC曲線におけるピークの幅の広狭に対応しているから、耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を確実に実現するために、DDSC曲線におけるピーク変換する動機が生じる。
・以上より、耐ブロッキング性と電極への接着性との両立の観点から、ガラス転移温度近傍よりも低い温度では接着性が小さく、ガラス転移温度近傍以上の温度において急激に柔らかくなるバインダを用いることは、当業者であれば容易になし得る。
・吸熱ピークの幅は、重合体の分子量分布の幅を示している。甲第13号証ないし甲第15号証に記載されるように、一般的に、分子量分布が狭い重合体を得るためには、重合反応時に攪拌を行い均一な反応を生じさせることが重要であると認識されている。また、甲第16号証には、攪拌動力を大きくすることにより、ポリエーテルグリコールの分子量を分布を狭くできることが記載されている。したがって、ガラス転移温度周辺における吸熱ピークがシャープなバインダを得るために、すなわち、分子量分布の幅を狭くするために、攪拌動力を高めることは当業者であれば容易になし得る。
・以上より、甲第1号証において、当業者に自明な課題である、耐ブロッキング性と電極への接着性を両立するために、甲第2号証から甲第16号証に記載された発明及び技術常識に基づき、DSCチャートにおける吸熱ピークがシャープなバインダを熱可塑性ポリマーとして用いること、あるいは、重合反応時の攪拌動力を高めて重合体の分子量分布の幅を狭くすることにより吸熱ピークがシャープなバインダを得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。なお、T1.00−T0.25の値の範囲については、耐ブロッキング性と電極への接着性とを両立するという観点から、当業者であれば適宜設定できる。

上記主張について検討する。
甲第2号証ないし甲第8号証に記載されるように、耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図る課題、「プレスバック」に係る課題が周知、公知の課題であり、甲第9号証ないし甲第12号証に記載されるように、常温でのべたつきの低減等のために、溶融開始温度で急激な粘度低下を生じるDSCチャートにおける吸熱ピークの幅が狭い、すなわち、溶融温度での吸熱ピークの幅が狭いシャープメルト性のバインダを用いることは周知技術であると認められる。
また、甲第13号証ないし甲第16号証に記載されるように、重合体の分子量分布の幅を狭くするために、重合反応時に攪拌を行うことは周知技術であると認められる。
しかしながら、これらの周知、公知の課題や各周知技術は、耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図るためにガラス転移温度付近での吸熱ピークの幅が狭いポリマーを用いること示唆するものではない。
したがって、甲1発明においても、耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図り、有機粒子には接着時に溶融しない粒子状重合体を用いることが当業者が容易になし得たことであるとしても、上記周知技術に基づき、甲1発明の有機粒子、機能層用結着材をガラス転移温度付近での吸熱ピークの幅が狭いポリマーとすることは、当業者が容易になし得たことといえない。
そして、相違点1に係る発明の構成は、申立人が認めるように、ガラス転移温度付近の吸熱ピークの幅が狭い熱可塑性ポリマーを用いることを表したものであるから、甲1発明及び周知技術に基づいて相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、申立人の主張は、採用できない。

イ 請求項2について
(ア)対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「セパレータ基材」は非水系二次電池のセパレータを構成するものであるから、本件発明2の「蓄電デバイス用セパレータ」が備える「基材」に相当する。

b 甲1発明の「セパレータ基材の少なくとも一方の表面(機能層形成面)上に形成された機能層」は、コア部とシェル部とを備えるコアシェル構造を有する有機粒子、機能層用結着材を含有し、コア部の重合体の調製に用いられる単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体を用い、シェル部の重合体を調製するために用いる単量体としては、コア部の重合体を製造するために用いうる単量体として例示した単量体と同様の単量体が用いられ、機能層用結着材はアクリル系重合体である。
(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いた重合体、アクリル系重合体は熱可塑性ポリマーであるから、甲1発明の「コアシェル構造を有する有機粒子、機能層用結着材」は熱可塑性ポリマーである。
してみると、甲1発明のコアシェル構造を有する有機粒子、機能層用結着材を含有する「セパレータ基材の少なくとも一方の表面(機能層形成面)上に形成された機能層」は、本件発明2の「前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層」に相当する。

c 上記a、bより、甲1発明の「セパレータ基材と、セパレータ基材の少なくとも一方の表面(機能層形成面)上に形成された機能層とを備え」る「非水系二次電池のセパレータ」は、本件発明2の「基材と、前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層と、を備える蓄電デバイス用セパレータ」に相当する。

d 甲1発明の「セパレータ基材は、ポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜」であることは、本件発明2の「前記基材が、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜」であることに相当する。

e 本件発明2は「前記熱可塑性ポリマーが、下記式:
T1.00−T0.25≦15℃
{式中、T1.00は、DSC(示差走査熱量測定)によって測定された単位時間当たりの熱流差を、温度で微分した値をDDSCとしたとき、0℃から150℃までにおけるDDSCの最小値を示す温度であり、T0.25は、0℃から150℃までにおけるDDSCの最大値と前記最小値の差をXとした際に、DDSCが前記T1.00よりも低温側において、前記最大値からの差が0.25Xとなる温度である。}
で表される関係式を満た」すのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

f 本件発明2は「前記T1.00が35℃以上、130℃以下の範囲にあ」るのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

g 本件発明2は「下記式:
P1/P2≧1.1
{式中、P1は、前記蓄電デバイス用セパレータの一つの面(A)と、前記面(A)とは反対側の面(B)とを重ねて積層体を作成し、この積層体を、温度90℃、及び圧力1MPaの条件下で5秒間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度であり、かつP2は、前記積層体を温度25℃、及び圧力5MPaの条件下で12時間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度である。}
で表される関係を満た」すのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

h 本件発明2は「前記熱可塑性ポリマーは、ガラス転移温度が40℃以上である粒子状重合体を含み(ただし、ガラス転移温度が80℃以上である粒子状重合体を除く)」のに対し、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

i 本件発明2は「前記熱可塑性ポリマー含有層の前記基材に対する被覆面積割合が35%以下である」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

j そうすると、本件発明2と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「基材と、前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記基材が、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜である、蓄電デバイス用セパレータ。」

〈相違点5〉
本件発明2は「前記熱可塑性ポリマーが、下記式:
T1.00−T0.25≦15℃
{式中、T1.00は、DSC(示差走査熱量測定)によって測定された単位時間当たりの熱流差を、温度で微分した値をDDSCとしたとき、0℃から150℃までにおけるDDSCの最小値を示す温度であり、T0.25は、0℃から150℃までにおけるDDSCの最大値と前記最小値の差をXとした際に、DDSCが前記T1.00よりも低温側において、前記最大値からの差が0.25Xとなる温度である。}
で表される関係式を満た」すのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点

〈相違点6〉
本件発明2は「前記T1.00が35℃以上、130℃以下の範囲にあ」るのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点

〈相違点7〉
本件発明2は「下記式:
P1/P2≧1.1
{式中、P1は、前記蓄電デバイス用セパレータの一つの面(A)と、前記面(A)とは反対側の面(B)とを重ねて積層体を作成し、この積層体を、温度90℃、及び圧力1MPaの条件下で5秒間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度であり、かつP2は、前記積層体を温度25℃、及び圧力5MPaの条件下で12時間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度である。}
で表される関係を満た」すのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点

〈相違点8〉
本件発明2は「前記熱可塑性ポリマーは、ガラス転移温度が40℃以上である粒子状重合体を含み(ただし、ガラス転移温度が80℃以上である粒子状重合体を除く)」のに対し、甲1発明はその旨特定されていない点

〈相違点9〉
本件発明2は「前記熱可塑性ポリマー含有層の前記基材に対する被覆面積割合が35%以下である」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点

(イ)判断
相違点5について検討する。
本件発明2の相違点5に係る構成は、本件発明1の相違点1に係る構成と「T1.00−T0.25の値」上限値が異なる点を除き同一の構成である。
してみると、上記「ア(イ)」で検討したのと同様の理由により、甲第2号証ないし甲第16号証の記載された技術事項に基づいて、甲1発明の機能層に含まれる有機粒子、機能層用結着材の「T1.00−T0.25の値」を一定値以下とし、相違点5に係る構成とすることが当業者が容易になし得たとすることはできない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第16号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明2は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

ウ 請求項3ないし11に係る発明について
本件発明3ないし11は、本件発明1または本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1または本件発明2を限定するものであるから、上記「ア」または「イ」で検討したのと同様の理由により、本件発明3ないし11は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第16号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明3ないし11は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

(2)甲第2号証を主引用例とした場合
ア 請求項1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
a 甲2発明の「セパレータ基材」は非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層が設けられ、機能層とセパレータ基材によりセパレータが構成されるから、本件発明1の「蓄電デバイス用セパレータ」が備える「基材」に相当する。

b 甲2発明のセパレータ基材に設けられる「非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層」は、粒子状重合体、機能層用結着材を含有し、粒子状重合体は、コア部と、前記コア部の外表面を部分的に覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有する。
そして、コア部の重合体の調製に用いられる単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体を用い、シェル部の重合体を調製するために用いる単量体としては、コア部の重合体を製造するために用いうる単量体として例示した単量体と同様の単量体が用いられ、機能層用結着材はアクリル系重合体である。
(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いた重合体、アクリル系重合体は熱可塑性ポリマーであるから、甲2発明の「粒子状重合体、機能層用結着材」は熱可塑性ポリマーである。
してみると、甲2発明の粒子状重合体、機能層用結着材を含有しセパレータ基材に設けられる「非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層」は、本件発明1の「前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層」に相当する。

c 甲2発明では機能層とセパレータ基材によりセパレータが構成されるから、上記a、bを考慮すると、甲2発明の「非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層付きセパレータ基材」は、本件発明1の「基材と、前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層と、を備える蓄電デバイス用セパレータ」に相当する。

d 甲2発明の「セパレータ基材は、ポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜」であることは、本件発明1の「前記基材が、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜」であることに相当する。

e 本件発明1は「前記熱可塑性ポリマーが、下記式:
T1.00−T0.25≦13℃
{式中、T1.00は、DSC(示差走査熱量測定)によって測定された単位時間当たりの熱流差を、温度で微分した値をDDSCとしたとき、0℃から150℃までにおけるDDSCの最小値を示す温度であり、T0.25は、0℃から150℃までにおけるDDSCの最大値と前記最小値の差をXとした際に、DDSCが前記T1.00よりも低温側において、前記最大値からの差が0.25Xとなる温度である。}
で表される関係式を満た」すのに対して、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。

f 本件発明1は「前記T1.00が35℃以上、130℃以下の範囲」にあるのに対して、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。

g 本件発明1は「下記式:
P1/P2≧1.1
{式中、P1は、前記蓄電デバイス用セパレータの一つの面(A)と、前記面(A)とは反対側の面(B)とを重ねて積層体を作成し、この積層体を、温度90℃、及び圧力1MPaの条件下で5秒間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度であり、かつP2は、前記積層体を温度25℃、及び圧力5MPaの条件下で12時間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度である。}
で表される関係を満た」すのに対して、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。

h 甲2発明の「粒子状重合体」は、コア部のガラス転移温度が40ないし58℃、シェル部のガラス転移温度が103℃であるから、ガラス転移温度が40℃以上である粒子状重合体に含まれる。
してみると、甲2発明の機能層が「粒子状重合体」を含有することは、本件発明1の「前記熱可塑性ポリマーは、ガラス転移温度が40℃以上である粒子状重合体を含」むことに相当する。

i 本件発明2は「前記熱可塑性ポリマー含有層の前記基材に対する被覆面積割合が95%以下である」のに対して、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。

j そうすると、本件発明1と甲2発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「基材と、前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記基材が、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜であり、
前記熱可塑性ポリマーは、ガラス転移温度が40℃以上である粒子状重合体を含む、蓄電デバイス用セパレータ。」

〈相違点10〉
本件発明1は「前記熱可塑性ポリマーが、下記式:
T1.00−T0.25≦13℃
{式中、T1.00は、DSC(示差走査熱量測定)によって測定された単位時間当たりの熱流差を、温度で微分した値をDDSCとしたとき、0℃から150℃までにおけるDDSCの最小値を示す温度であり、T0.25は、0℃から150℃までにおけるDDSCの最大値と前記最小値の差をXとした際に、DDSCが前記T1.00よりも低温側において、前記最大値からの差が0.25Xとなる温度である。}
で表される関係式を満た」すのに対して、甲2発明はその旨特定されていない点

〈相違点11〉
本件発明1は「前記T1.00が35℃以上、130℃以下の範囲にあ」るのに対して、甲2発明はその旨特定されていない点

〈相違点12〉
本件発明1は「下記式:
P1/P2≧1.1
{式中、P1は、前記蓄電デバイス用セパレータの一つの面(A)と、前記面(A)とは反対側の面(B)とを重ねて積層体を作成し、この積層体を、温度90℃、及び圧力1MPaの条件下で5秒間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度であり、かつP2は、前記積層体を温度25℃、及び圧力5MPaの条件下で12時間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度である。}
で表される関係を満た」すのに対して、甲2発明はその旨特定されていない点

〈相違点13〉
本件発明1は「前記熱可塑性ポリマー含有層の前記基材に対する被覆面積割合が95%以下である」のに対して、甲2発明はその旨特定されていない点

(イ)判断
相違点10について検討する。
上記「(1)ア(イ)」で検討したように、甲第3号証ないし甲第16号証のいずれにも、「T1.00−T0.25の値」に関する記載はない。
また、甲第1号証にも、「T1.00−T0.25の値」に関する記載はない。
そして、甲第2号証の段落[0012]によれば「粒子状重合体は、コア部と、前記コア部の外表面を部分的に覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有しており、前記コア部は、ガラス転移温度が−50℃以上60℃以下で且つ電解液膨潤度が5倍以上30倍以下の重合体からなり、前記シェル部は、ガラス転移温度が50℃以上200℃以下で且つ電解液膨潤度が1倍超4倍以下の重合体からなる」ことにより「電池部材に高い耐ブロッキング性をもたらすことができる上、電解液への浸漬前および浸漬後のいずれにおいても優れた接着性を発揮することが可能な機能層を提供する」ものであるから、甲2発明には、機能層に含まれる有機粒子、機能層用結着材の「T1.00−T0.25の値」を一定値以下とすることにより耐ブロッキング性と接着性との両立を図る動機はない。
そうすると、甲第1号証、甲第3号証ないし甲第16号証の記載された技術事項に基づいて、甲2発明の機能層に含まれる有機粒子、機能層用結着材の「T1.00−T0.25の値」を一定値以下とし、相違点10に係る構成とすることが当業者が容易になし得たとすることはできない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲第1号証、甲第3号証ないし甲第16号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書(第50頁第17行ないし第54頁第5行)において、相違点[B−1](上記「相違点10」に相当)の容易性について主張している。
申立人の当該主張の概要は、本件発明の課題と甲第2号証に記載の発明の課題とは同じである旨の主張を除き、上記「(1)ア(ウ)」で検討した主張と概略同一である。
したがって、上記「(1)ア(ウ)」で検討したように、申立人の主張は、採用できない。

イ 請求項2について
(ア)対比
本件発明2と甲2発明とを対比する。
a 甲2発明の「セパレータ基材」は非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層が設けられ、機能層とセパレータ基材によりセパレータが構成されるから、本件発明2の「蓄電デバイス用セパレータ」が備える「基材」に相当する。

b 甲2発明のセパレータ基材に設けられる「非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層」は、粒子状重合体、機能層用結着材を含有し、粒子状重合体は、コア部と、前記コア部の外表面を部分的に覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有する。
そして、コア部の重合体の調製に用いられる単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体を用い、シェル部の重合体を調製するために用いる単量体としては、コア部の重合体を製造するために用いうる単量体として例示した単量体と同様の単量体が用いられ、機能層用結着材はアクリル系重合体である。
(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いた重合体、アクリル系重合体は熱可塑性ポリマーであるから、甲2発明の「粒子状重合体、機能層用結着材」は熱可塑性ポリマーである。
してみると、甲2発明の粒子状重合体、機能層用結着材を含有しセパレータ基材に設けられる「非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層」は、本件発明2の「前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層」に相当する。

c 甲2発明では機能層とセパレータ基材によりセパレータが構成されるから、上記a、bを考慮すると、甲2発明の「非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層付きセパレータ基材」は、本件発明2の「基材と、前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層と、を備える蓄電デバイス用セパレータ」に相当する。

d 甲2発明の「セパレータ基材は、ポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜」であることは、本件発明2の「前記基材が、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜」であることに相当する。

e 本件発明2は「前記熱可塑性ポリマーが、下記式:
T1.00−T0.25≦15℃
{式中、T1.00は、DSC(示差走査熱量測定)によって測定された単位時間当たりの熱流差を、温度で微分した値をDDSCとしたとき、0℃から150℃までにおけるDDSCの最小値を示す温度であり、T0.25は、0℃から150℃までにおけるDDSCの最大値と前記最小値の差をXとした際に、DDSCが前記T1.00よりも低温側において、前記最大値からの差が0.25Xとなる温度である。}
で表される関係式を満た」すのに対して、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。

f 本件発明2は「前記T1.00が35℃以上、130℃以下の範囲」にあるのに対して、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。

g 本件発明2は「下記式:
P1/P2≧1.1
{式中、P1は、前記蓄電デバイス用セパレータの一つの面(A)と、前記面(A)とは反対側の面(B)とを重ねて積層体を作成し、この積層体を、温度90℃、及び圧力1MPaの条件下で5秒間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度であり、かつP2は、前記積層体を温度25℃、及び圧力5MPaの条件下で12時間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度である。}
で表される関係を満た」すのに対して、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。

h 本件発明2は「前記熱可塑性ポリマーは、ガラス転移温度が40℃以上である粒子状重合体を含み(ただし、ガラス転移温度が80℃以上である粒子状重合体を除く)」のに対し、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。

i 本件発明2は「前記熱可塑性ポリマー含有層の前記基材に対する被覆面積割合が35%以下である」のに対して、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。

j そうすると、本件発明2と甲2発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「基材と、前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記基材が、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜である、蓄電デバイス用セパレータ。」

〈相違点14〉
本件発明2は「前記熱可塑性ポリマーが、下記式:
T1.00−T0.25≦15℃
{式中、T1.00は、DSC(示差走査熱量測定)によって測定された単位時間当たりの熱流差を、温度で微分した値をDDSCとしたとき、0℃から150℃までにおけるDDSCの最小値を示す温度であり、T0.25は、0℃から150℃までにおけるDDSCの最大値と前記最小値の差をXとした際に、DDSCが前記T1.00よりも低温側において、前記最大値からの差が0.25Xとなる温度である。}
で表される関係式を満た」すのに対して、甲2発明はその旨特定されていない点

〈相違点15〉
本件発明2は「前記T1.00が35℃以上、130℃以下の範囲」にあるのに対して、甲2発明はその旨特定されていない点

〈相違点16〉
本件発明2は「下記式:
P1/P2≧1.1
{式中、P1は、前記蓄電デバイス用セパレータの一つの面(A)と、前記面(A)とは反対側の面(B)とを重ねて積層体を作成し、この積層体を、温度90℃、及び圧力1MPaの条件下で5秒間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度であり、かつP2は、前記積層体を温度25℃、及び圧力5MPaの条件下で12時間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度である。}
で表される関係を満た」すのに対して、甲2発明はその旨特定されていない点

〈相違点17〉
本件発明2は「前記熱可塑性ポリマーは、ガラス転移温度が40℃以上である粒子状重合体を含み(ただし、ガラス転移温度が80℃以上である粒子状重合体を除く)」のに対し、甲2発明はその旨特定されていない点

〈相違点18〉
本件発明2は「前記熱可塑性ポリマー含有層の前記基材に対する被覆面積割合が35%以下である」のに対して、甲2発明はその旨特定されていない点

(イ)判断
相違点14について検討する。
本件発明2の相違点14に係る構成は、本件発明1の相違点10に係る構成と「T1.00−T0.25の値」上限値が異なる点を除き同一の構成である。
してみると、上記「ア(イ)」で検討したのと同様の理由により、甲第2号証ないし甲第16号証の記載された技術事項に基づいて、甲1発明の機能層に含まれる有機粒子、機能層用結着材の「T1.00−T0.25の値」を一定値以下とし、相違点14に係る構成とすることが当業者が容易になし得たとすることはできない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2発明及び甲第1号証、甲第3号証ないし甲第16号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明2は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

ウ 請求項3ないし11に係る発明について
本件発明3ないし11は、本件発明1または本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1または本件発明2を限定するものであるから、上記「ア」または「イ」で検討したのと同様の理由により、本件発明3ないし11は、甲2発明及び甲第1号証、甲第3号証ないし甲第16号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明3ないし11は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-04-15 
出願番号 P2019-069870
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 須原 宏光
山田 正文
登録日 2021-06-24 
登録番号 6903090
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 蓄電デバイス用セパレータ、及びそれを用いた捲回体、リチウムイオン二次電池、並びに蓄電デバイス  
代理人 青木 篤  
代理人 中村 和広  
代理人 齋藤 都子  
代理人 三間 俊介  
代理人 三橋 真二  

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