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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D21H
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D21H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D21H
管理番号 1384305
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-01-18 
確定日 2022-04-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6908205号発明「紙力増強剤、紙および紙の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6908205号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6908205号の請求項1〜7に係る特許についての出願は、令和2年9月15日(優先権主張 令和1年9月26日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和3年7月5日にその特許権の設定登録がされ、令和3年7月21日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年1月18日に特許異議申立人星光PMC株式会社(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6908205号の請求項1〜7の特許に係る発明(以下、「本件発明」、各発明を「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)と、両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)とを含み、
前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)および前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)の構成モノマーは、いずれも(メタ)アクリルアミド(a1)、カチオン性不飽和モノマー(a2)、アニオン性不飽和モノマー(a3)および架橋性不飽和モノマー(a4)を含み、
前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)および前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)の重量平均分子量は、いずれも150万〜1000万であり、
紙力増強剤の15重量%水溶液(pH:4)の粘度(25℃)をXAmPa・s、前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)の濃度15重量%水溶液(pH:4)の粘度(25℃)をXA1mPa・s、前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)の濃度15重量%水溶液(pH:4)の粘度(25℃)をXA2mPa・sとした場合に、以下の式1を満たす、紙力増強剤。
(式1)1.1≦XA/(mA1×XA1+mA2×XA2)≦6
(式1中、mA1は両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)および両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)の合計重量に対する両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)の固形分重量比であり、mA2は、両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)および前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)の合計重量に対する両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)の固形分重量比であり、mA1+mA2=1である。)
【請求項2】
前記粘度XAは、1,100〜40,000mPa・sである、請求項1記載の紙力増強剤。
【請求項3】
前記粘度XA1は、1,000〜12,000mPa・sである、請求項1または2記載の紙力増強剤。
【請求項4】
前記粘度XA2は、1,000〜12,000mPa・sである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の紙力増強剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の紙力増強剤を用いて得られる、紙。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の紙力増強剤を、パルプスラリーに添加する、紙の製造方法。
【請求項7】
前記パルプスラリーは、電気伝導度が3mS/cm以上である、請求項6記載の紙の製造方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、以下の理由を申立てている。
1.進歩性について
本件発明1〜7は、甲第1号証(以下、「甲1」という。)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1〜7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲1:特開2007−126770号公報

2.実施可能要件について
実施例と比較例における評価結果が適切でないため、請求項1についての条件を満たすことと、課題を解決することとの関係が理解できず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3.サポート要件について
実施例と比較例における評価結果が適切でないため、請求項1についての条件を満たすことと、課題を解決することとの関係が理解できず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4.明確性要件について
請求項1に係る発明の(式1)の「1.1」という記載は、比較例2にある「1.09」も含みかねず不明確であるため、本件発明1〜7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第4 当審の判断
1.進歩性について
(1)甲1記載事項、甲1発明
ア 甲1には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)と、紙力増強剤の添加前後におけるJIS P 8121により測定される濾水度の差がカチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)よりも大きいアニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(B)とを用い抄紙することを特徴とする紙の製造方法。」
「【請求項3】
前記カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)の重量平均分子量が100万以上である請求項1または2に記載の紙の製造方法。」
「【請求項4】
前記カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)を紙料濃度が1.5重量%以上の場所で添加し、前記アニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(B)を紙料濃度が2.0重量%未満の場所で添加することを特徴とする請求項1〜3に記載の紙の製造方法。」
「【請求項6】
前記カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)および前記アニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(B)が、5重量%以上の不揮発物を含有し、かつ5重量%水溶液としたときの粘度が20,000mPa・s以下である請求項1〜5のいずれかに記載の紙の製造方法。
【請求項7】
前記カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)および前記アニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(B)が、(a)(メタ)アクリルアミド、(b)カチオン性ビニルモノマー、(c)アニオン性ビニルモノマー、(d)N−置換(メタ)アクリルアミド、(e)(メタ)アリルスルホン酸ナトリウムを必須成分とし、必要に応じて(f)ビニルモノマーであって(a)〜(e)成分以外のものを共重合させて得られるポリマーを含有するものである請求項1〜6のいずれかに記載の紙の製造方法。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、紙の製造方法に関する。更に詳しくは、ポリアクリルアミド系紙力増強剤を用いた紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙を製造する際には、紙に強度を付与すべく紙力増強剤が用いられており、性能等の点からポリアクリルアミド系紙力増強剤が広く用いられている。通常、紙力増強剤を用いる場合には、一種の紙力増強剤を一度にまたは分割して紙料に添加される。しかしながら、紙力増強剤を一種類しか用いない場合には、地合いと濾水性のバランスを取ることが困難であり、紙力増強剤を多く使用しなければならなかった。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、地合いと濾水性のバランスを容易にとることができ、このため紙力を向上させ、結果として紙の製造に用いる紙力増強剤の使用量を減少させることができ、さらには抄紙時の水切れ性を向上させることにより、操業性を向上させることができる紙の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、当該問題を解決すべく、検討を重ねたところ、異種の特定のポリアクリルアミド系紙力増強剤を併用することにより、前記課題を解決し得ることを見出し、さらにはこれら異種のポリアクリルアミド系紙力増強剤をそれぞれ特定の場所で添加することにより、著しい紙力増強効果が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)と紙力増強剤の添加前後におけるJIS P 8121により測定される濾水度の差がカチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)よりも大きいアニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(B)を用い抄紙することを特徴とする紙の製造方法に関する。」
「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の紙の製造方法には、カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)(以後、(A)成分という)および紙力増強剤の添加前後におけるJIS P 8121により測定される濾水度の差が(A)成分よりも大きいアニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(B)(以後、(B)成分という)を用いる。なお、本願明細書でいう濾水度の差とは、段ボールあるいはN−UKP等を濾水度400mlまで叩解した紙料に硫酸アルミニウムを1.0%添加してから30秒後に紙力増強剤を0.5重量%添加し、30秒攪拌したときの、JIS P 8121に記載されるカナディアンフリーネステスターを使用した濾水量と、紙力増強剤を添加する前の紙料の、カナディアンフリーネステスターを使用した濾水量との差である。紙力増強剤の添加は、紙料固形分の濃度が約1.0%である紙料300gをステンレス製1リットルビーカーに取り、紙料の温度を25℃として、4枚平羽根の攪拌羽根(2cm×3cmの平羽根4枚の付いた攪拌羽根)を用いて300rpmで攪拌することにより行う。
【0010】
本発明に用いられる(A)成分としては、ポリアクリルアミド系紙力増強剤でありカチオン性を示すものであれば特に限定されず公知のものを使用することができるが、特に紙力増強効果の点から、分岐構造を有するものが好ましい。
【0011】
(A)成分は、(a)(メタ)アクリルアミド(以下、(a)成分という)、(b)カチオン性ビニルモノマー(以下、(b)成分という)および(c)アニオン性ビニルモノマー(以下、(c)成分という)を必須成分とし、必要に応じて、(d)N−置換(メタ)アクリルアミド(以下、(d)成分という)、(e)(メタ)アリルスルホン酸ナトリウム(以下、(e)成分という)および(f)ビニルモノマーであって(c)〜(e)成分以外のもの(以下、(f)成分という)を共重合して得られるポリアクリルアミド系共重合体を含有するものであるが、(a)〜(e)成分を必須成分として用いて得られたポリアクリルアミド系樹脂を用いる場合には、ポリアクリルアミド系樹脂中に分岐構造を導入することが容易であるため好ましい。なお、本発明で言うカチオン性とは、アニオン((c)成分のモル%)/カチオン((b)成分のモル%))比を0.85未満となるように配合(ただし、(c)成分が2価の酸の場合、(c)成分のモル%を2倍した値を用いる。)することを言う。また、濾水度の差が50ml以下となる(A)成分を用いることにより、紙力強度をさらに向上させることができるため好ましい。
【0012】
(b)成分としては、少なくとも1つのカチオン性官能基及び1つのビニル基を有するものであれば特に制限されず公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、アリルアミンの他、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの第三級アミノ基を有するビニルモノマーまたはそれらの塩酸、硫酸、酢酸などの無機酸もしくは有機酸の塩類、または該第三級アミノ基含有ビニルモノマーとメチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸、エピクロルヒドリンなどの四級化剤との反応によって得られる第四級アンモニウム塩を含有するビニルモノマー等が挙げられる。
【0013】
(c)成分としては、(e)成分以外の少なくとも1つのアニオン性官能基及び1つのビニル基を有するものであれば特に限定されず公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ムコン酸、シトラコン酸等のジカルボン酸;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などの有機スルホン酸;またはこれら各種有機酸のナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。」
「【0016】
これら(a)〜(e)成分のうち、(e)成分を用いることにより、ラジカルの移動(連鎖移動)が生じやすくなり、分子量の調整が容易となるため好ましく、また、(d)成分や、(f)成分としてビスアクリルアミド系モノマー、ジアクリレート系モノマー、ジビニルベンゼン、多官能ビニルモノマーを用いることにより、得られるポリマーを架橋により高分子量化させることができるため好ましい。」
「【0018】
(A)成分を得るために用いられる(a)〜(e)成分の使用量は、(a)成分を59.5〜99.68モル%程度、より好ましくは65.5〜96.8モル%、(b)成分を0.2〜15モル%程度、より好ましくは2〜15モル%、(c)成分を0.1〜12.5モル%程度、より好ましくは1〜12.5モル%用い、(d)成分を用いる場合には、(d)成分を0.01〜2モル%程度、より好ましくは0.1〜1モル%、(e)成分を用いる場合には、(e)成分を0.01〜10モル%程度、より好ましくは0.1〜5モル%用いることが好ましい。なお、(b)成分を0.2モル%未満しか用いない場合には定着効果が低く、紙力効果が低くなる傾向があり、15モル%を越えるとポリマー中のアクリルアミド分が減少することにより紙力効果が低くなる傾向があり、さらには、高価となるため好ましくない。なお、(c)成分を0.1モル%未満しか使用しない場合には定着効果が低く、紙力効果が低くなる傾向があり、12.5モル%を越えるとポリマー中のアクリルアミド分が減少することにより紙力効果が低くなる傾向があり、さらには、高価となるため好ましくない。なお、(d)成分を0.01モル%未満しか用いない場合には高分子量化効果は小さくなり、2.0モル%を超えて用いるとゲル化するおそれがある。なお、(e)成分を0.05モル%未満しか使用しない場合には連鎖移動効果が弱く、また分岐点の生成も少ないために、分岐構造が不十分となる傾向がある。10モル%を超える場合は連鎖移動効果が強すぎるため、ポリマー鎖が短くなり、高分子量ポリマーが生成しにくくなる。なお、(f)成分を用いる場合には、1モル%以下とすることが好ましい。
【0019】
このようにして得られた(A)成分の重量平均分子量は100万以上が好ましい。ここでいう重量平均分子量は、GPC−LALLS法あるいはGPC−RALLS法によるポリエチレンオキシド換算した重量平均分子量をいい、0.5mol/l酢酸緩衝液(0.5mol/l酢酸+0.5mol/l酢酸ナトリウム水溶液、pH約4.2)を溶媒(溶離液)として、ポリマー濃度0.025%で、光散乱角5°あるいは90°で測定した値(温度40℃)をいう。(A)成分の重量平均分子量が100万未満では充分な紙力効果が得られない場合がある。(A)成分は、通常5重量%以上の不揮発物を含有するように調整する。なお、(A)成分の不揮発物を5重量%水溶液に調整した場合の粘度は、20,000mPa・s程度以下とすることが好ましい。粘度が20,000mPa・sを超える場合は地合を乱しやすくなり、紙力向上効果が著しく低下する場合がある。
【0020】
本発明に用いられる(B)成分としては、紙力増強剤の添加前後におけるJIS P 8121により測定される濾水度の差が(A)成分よりも大きいポリアクリルアミド系紙力増強剤であり、アニオン性を示すものであれば特に限定されず公知のものを使用することができるが、特に紙力増強効果の点から、分岐構造を有するものが好ましい。なお、濾水度の差が50mlを超えるポリアクリルアミド系紙力増強剤を用いることにより、操業性をさらに改善させることができるためより好ましい。(B)成分を調製する際に用いられるモノマーとしては、具体的には、前記(A)成分の調製に用いたモノマーと同種のモノマーを使用することができる。
【0021】
(B)成分は、(a)成分、(b)成分および(c)成分を必須成分とし、必要に応じて(d)成分、(e)成分および(f)成分を共重合して得られるポリアクリルアミド系共重合体が挙げられるが、(a)〜(e)成分を必須成分として用いて得られたポリアクリルアミド系樹脂を用いる場合には、ポリアクリルアミド系樹脂中に分岐構造を導入することが容易であるため好ましい。なお、ここで言うアニオン性とは、アニオン((c)成分のモル%)/カチオン((b)成分のモル%)比が、1.1を越えるように配合(ただし、(c)成分がジカルボン酸の場合、(c)成分のモル%を2倍した値を用いる。)することを言う。
【0022】
(B)成分を得るために用いられる(a)〜(e)成分の使用量は、(a)成分を50〜99.68モル%程度、より好ましくは65〜96.8モル%、(b)成分を0.1〜17.5モル%程度、より好ましくは1〜13.5モル%、(c)成分を0.2〜20モル%程度、より好ましくは2〜15モル%用い、(d)成分を用いる場合には、(d)成分を0.01〜2モル%程度、より好ましくは0.1〜1モル%、(e)成分を用いる場合には、(e)成分を0.01〜10モル%程度、より好ましくは0.1〜5モル%用いることが好ましい。なお、(b)成分を0.1モル%未満しか用いない場合には定着効果が低く、紙力効果が低くなる傾向があり、17.5モル%を越えるとポリマー中のアクリルアミド分が減少することにより紙力効果が低くなる傾向があり、さらには、高価となるため好ましくない。なお、(c)成分を0.2モル%未満しか用いない場合には定着効果が低く、紙力効果が低くなる傾向があり、20モル%を越えるとポリマー中のアクリルアミド分が減少することにより紙力効果が低くなる傾向があり、さらには、高価となるため好ましくない。(B)成分は、(A)成分と同様の重合法により重合を行えば良く、通常5重量%以上の不揮発物を含有するように調整する。なお、(f)成分を用いる場合には、0.5モル%以下とすることが好ましい。
【0023】
これら(B)成分の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常、100万程度である。また、不揮発物を5重量%に調整した場合の粘度は、20,000mPa・s程度以下とすることが好ましい。粘度が20,000mPa・sを超える場合は地合を乱しやすくなり、紙力向上効果が著しく低下する場合がある。」
「【0026】
(A)成分および(B)成分の添加場所としては特に制限されないが、(A)成分を紙料濃度が1.5重量%以上の場所で、(B)成分を紙料濃度が2.0重量%未満の場所で添加することにより紙力強度を著しく向上させることができるため好ましい。なお、紙料濃度が1.5重量%以上の場所としては、例えば、ミキシングチェスト、マシンチェスト、種箱などが挙げられ、紙料濃度が2.0重量%未満の場所としては、例えば、ファンポンプ、白水ピット、スクリーンなどが挙げられる。これらのうち、(A)成分の添加場所をマシンチェストで、(B)成分の添加場所をファンポンプとすることにより、特に著しい紙力効果が得られるため好ましい。」
「【0032】
製造例1(PAM1の製造法)
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管および2つの滴下ロートを備えた反応装置に、イオン交換水338部を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、90℃まで加熱した。一方の滴下ロートにアクリルアミド169部、62.5%硫酸10部、80%アクリル酸水溶液7.1部、メタアリルスルホン酸ナトリウム2.1部、ジメチルアミノエチルメタクリレート20.6部、ジメチルアクリルアミド2.6部、メチレンビスアクリルアミド0.04部およびイオン交換水180部を仕込み、硫酸によりpHを3に調整した。また、他方の滴下ロートに過硫酸アンモニウム0.3部とイオン交換水180部を入れた。次に、両方の滴下ロートより系内にモノマーおよび触媒を約3時間かけて滴下した。滴下終了後、過硫酸アンモニウム0.4部とイオン交換水10部を入れ1時間保温し、イオン交換水80部を投入し、固形分20.2%、粘度(25℃)が8,000mPa・sの共重合体水溶液を得た。各製造例で用いたモノマー成分と比率を表1に、また得られた共重合体水溶液の性状値を表2に示す。」
「【0040】
製造例9(PAM9製造法)
製造例1と同様の反応装置に、アクリルアミド77.4部、62.5%硫酸6.8部、ジメチルアミノエチルメタクリレート13.7部、イタコン酸8.1部、メタアリルスルホン酸ナトリウム0.2部、ジメチルアクリルアミド0.6部、メチレンビスアクリルアミド0.02部およびイオン交換水540部を仕込み、窒素ガスを通じて反応系の酸素を除去した。系内を55℃にし攪拌下に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.14部とイオン交換水10部および亜硫酸水素ナトリウム0.06部とイオン交換水10部を投入した。90℃まで昇温した後30分保温し、過硫酸アンモニウム0.2部とイオン交換水10部を投入して1時間保温した。重合終了後、イオン交換水330部を投入し、固形分10.2%、粘度(25℃)が10,000mPa・sの共重合体水溶液を得た。各製造例で用いたモノマー成分と比率を表1に、また得られた共重合体水溶液の性状値を表2に示す。」
「【0044】
【表1】

表中の数字はいずれもモル%
【0045】
【表2】

粘度は、25℃での測定値。」
「【0048】
【表3】

添加場所1での紙料濃度は3.0%、添加場所2での紙料濃度は1.5%である。
【0049】
実施例9
N−UKPをナイアガラ式ビーターにて叩解し、カナディアン・スタンダード・フリーネス(C.S.F)450mlに調整した紙料に硫酸バンドを1.0%添加してpH6.5とした。当該紙料スラリーを抄紙するにおいて、紙料濃度2.0%として製造例1で得られた重合体水溶液を紙力増強剤として対紙料1.0%添加し、その後、紙料濃度1.0%として製造例9で得られた重合体水溶液を紙力増強剤として対紙料0.2%添加し、タッピ・シートマシンにて脱水し、5kg/cm2で2分間プレスして、坪量150g/m2となるよう抄紙した。次いで回転型乾燥機で105℃において4分間乾燥し、23℃、50%R.H.の条件下に24時間調湿したのち、比破裂強度を測定した。」
「【0051】
【表4】

添加場所1での紙料濃度は2.0%、添加場所2での紙料濃度は1.0%である。
【0052】
表3、4から明らかなように、本発明によれば、ノニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤と紙力増強剤の添加前後におけるJIS P 8121により測定される濾水度の差がノニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤よりも大きいノニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤を添加する処方や、カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤と紙力増強剤の添加前後におけるJIS P 8121により測定される濾水度の差がカチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤よりも大きいノニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤を添加する処方対比強度が高い紙を容易に製造することが出来る(実施例1〜16、比較例1、2、5、6)。ここで言うノニオン性とは、アニオン((c)成分のモル%)/カチオン((b)成分のモル%)比が、0.85以上1.1以下となるように配合(ただし、(c)成分がジカルボン酸の場合、(c)成分のモル%を2倍した値を用いる。)することを言う。なお、(A)成分/(B)成分が0.2未満の場合は、若干紙力効果が低下する傾向にあるため、0.2以上とすることが好ましい(実施例1と6、9と14)。さらに、(A)成分を紙料濃度2.0%未満として添加し、(B)成分を紙料濃度2.0%以上として添加すると若干紙力効果が低下する傾向にあるため、(A)成分は紙料濃度2.0%以上として、(B)成分は紙料濃度2.0%未満として添加することが好ましい(実施例1と8、9と16)。(A)成分の重量平均分子量が100万未満の場合、若干紙力効果が低下する傾向にあるため、(A)成分の重量平均分子量は100万以上とすることが好ましい(実施例1と5、9と13)。(B)成分の5重量%水溶液での粘度が20000mPa・sを越える場合、地合乱れが起こることで若干紙力効果が低下する傾向にあるため、(B)成分の5重量%水溶液での粘度は20000mPa・s以下とすることが好ましい(実施例1と7、9と15)。異なる(A)成分を紙料濃度2.0%以上として、紙料濃度2.0%未満として添加しても充分な紙力効果が得られない(実施例1〜16、比較例3、7)。また、異なる(B)成分を紙料濃度2.0%以上として、紙料濃度2.0%未満として添加しても充分な紙力効果が得られない(実施例1〜16、比較例4、8)。」

イ 上記記載からみて、特に、請求項1、請求項3、請求項7、製造例1、製造例9、実施例9に着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「(a)(メタ)アクリルアミド、(b)カチオン性ビニルモノマー、(c)アニオン性ビニルモノマー、(d)N−置換(メタ)アクリルアミド、(e)(メタ)アリルスルホン酸ナトリウムを必須成分とし、必要に応じて(f)ビニルモノマーであって(a)〜(e)成分以外のものを共重合させて得られるポリマーを含有する、重量平均分子量が100万以上である、カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)と、(a)(メタ)アクリルアミド、(b)カチオン性ビニルモノマー、(c)アニオン性ビニルモノマー、(d)N−置換(メタ)アクリルアミド、(e)(メタ)アリルスルホン酸ナトリウムを必須成分とし、必要に応じて(f)ビニルモノマーであって(a)〜(e)成分以外のものを共重合させて得られるポリマーを含有するアニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(B)。」

(2)本件発明1について
ア 対比
甲1発明の「(a)(メタ)アクリルアミド」、「(b)カチオン性ビニルモノマー」、「(c)アニオン性ビニルモノマー」は、本件発明1の「(メタ)アクリルアミド(a1)」、「カチオン性不飽和モノマー(a2)」、「アニオン性不飽和モノマー(a3)」にそれぞれ相当する。
甲1発明の「カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)」は、「(b)カチオン性ビニルモノマー、(c)アニオン性ビニルモノマー」「を必須成分と」し、「共重合させて得られるポリマーを含有する」ものであり、カチオン性官能基及びアニオン性官能基を備えるから、本願発明1の「両性(メタ)アクリルアミド重合体(A1)」に相当する。
甲1発明の「アニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(B)」は、「(b)カチオン性ビニルモノマー、(c)アニオン性ビニルモノマー」「を必須成分と」し、「共重合させて得られるポリマーを含有する」ものであり、カチオン性官能基及びアニオン性官能基を備えるから、本願発明1の「両性(メタ)アクリルアミド重合体(A2)」に相当する。
甲1発明の「重量平均分子量が100万以上である、カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)」と、本件発明1の「前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)および前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)の重量平均分子量は、いずれも150万〜1000万であ」ることとは、「両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)の重量平均分子量」がある範囲で特定されている限りで一致する。
以上から、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)と、両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)であって、
前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)および前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)の構成モノマーは、いずれも(メタ)アクリルアミド(a1)、カチオン性不飽和モノマー(a2)を含み、前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)の重量平均分子量がある範囲に特定されている両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)と、両性メタアクリルアミド系重合体(A2)。」
<相違点1>
本件発明1は、「両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)と、両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)とを含」む「紙力増強剤」であって、式(1)を満たすのに対し、甲1発明は、「カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)」と、「アニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(B)」の2種の別々の紙力増強剤であって、式(1)を満たすのか否かが不明な点。
<相違点2>
「構成モノマー」に関し、本件発明1の、「前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)および前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)の構成モノマーは、」「架橋性不飽和モノマー(a4)を含」むのに対し、甲1発明の、カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)及びアニオン性ポリアクリアミド系紙力増強剤(B)の構成モノマーが、架橋性不飽和モノマーを含むのか否かが不明な点。
<相違点3>
「重量平均分子量」に関し、本件発明1は、「前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)および前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)の重量平均分子量は、いずれも150万〜1000万であ」るのに対して、甲1発明では、カチオン性ポリアクリアミド系紙力増強剤の重量平均分子量が100以上であり、アニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤の重量平均分子量が不明な点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
甲1発明は、カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)と、アニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(B)の2種の別々の紙力増強剤を、紙料濃度の異なる場所で添加して使用することを前提とするものであるから、カチオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(A)と、アニオン性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(B)とを混合した紙力増強剤は想定していない。
また、両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)と両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)を含む紙力増強剤の粘度は、それぞれの紙力増強剤のアニオン性官能基やカチオン性官能基の種類や、紙力増強剤の濃度、温度、pH等により異なることが明らかであるから、引用文献1に記載されたカチオン性のポリアクリルアミド系紙力増強剤とアニオン性のポリアクリルアミド系紙力増強剤とを含む紙力増強剤を作製したとしても、本件発明1の式1を満たすとは必ずしもいえない。
よって、相違点2〜3について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2〜7について
本件発明2〜7は、本件発明1に対して、さらに技術的事項を追加したものである。
よって、上記(2)に示した理由と同様の理由により、本件発明2〜7は、甲1発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

2.実施可能要件について
明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること要するものである(特許法第36条第4項第1号)。本件発明は、「紙力増強剤」という物の発明であるところ、物の発明における発明の「実施」とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施をすることができるとは、その物を生産でき、かつ、その物を使用することができることであると解される。
したがって、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、本件発明に係る「紙力増強剤」を生産し、使用することができるのであれば、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものといえる。
そして、本件明細書の【0082】〜【0123】には、各実施例が記載されており、本件発明に係る「紙力増強剤」を生産し、使用することができるものといえるから、本件発明の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。

3.サポート要件について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定される要件に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
そこで、本件特許の【0008】を参照すると、本件特許の解決しようとする課題は、「電気伝導度の高い抄紙環境(パルプスラリー)で抄紙した際にも高い紙力効果を発揮する視力増強剤を提供すること」であり、この課題を解決するための手段として、本件特許の【0099】〜【0123】には、温度25℃における紙力増強剤の粘度XAと相加平均値との比「実測値XA/相加平均値」が1.1以上6以下を満たすことが記載されている。
そして、本件発明1には、「紙力増強剤の15重量%水溶液(pH:4)の粘度(25℃)をXAmPa・s、前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)の濃度15重量%水溶液(pH:4)の粘度(25℃)をXA1mPa・s、前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)の濃度15重量%水溶液(pH:4)の粘度(25℃)をXA2mPa・sとした場合に、以下の式1を満たす、紙力増強剤。
(式1)1.1≦XA/(mA1×XA1+mA2×XA2)≦6
(式1中、mA1は両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)および両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)の合計重量に対する両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)の固形分重量比であり、mA2は、両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A1)および前記両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)の合計重量に対する両性(メタ)アクリルアミド系重合体(A2)の固形分重量比であり、mA1+mA2=1である。)」と記載されており、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。

4.明確性要件について
本件発明1には、「(式1)1.1≦XA/(mA1×XA1+mA2×XA2)≦6」と記載されている。また、本件特許の【0109】【表4】には、比較例2として「実測値XA/相加平均値」が「1.09」の例が記載されている。
ここで、1.1が1.09より大きな値であることは明らかであるから、比較例2は、本件発明1の(式1)を満たしておらず、比較例2は、本件発明1に含まれない。
よって、本件発明1には比較例2が含まれないことは明らかであり、本件発明1の記載は明確である。

第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-03-29 
出願番号 P2020-566009
審決分類 P 1 651・ 536- Y (D21H)
P 1 651・ 121- Y (D21H)
P 1 651・ 537- Y (D21H)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 塩治 雅也
西村 泰英
登録日 2021-07-05 
登録番号 6908205
権利者 荒川化学工業株式会社
発明の名称 紙力増強剤、紙および紙の製造方法  
代理人 特許業務法人朝日奈特許事務所  
代理人 蔦 康宏  

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