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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1384310
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-08 
確定日 2022-05-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6918187号発明「劣化推定システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6918187号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6918187号(以下「本件特許」という。)に係る出願(以下「本願」という。)は、令和2年(2020年)7月1日の特許出願であって、令和3年7月26日にその請求項1ないし6に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年8月11日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1ないし6に係る特許に対して、令和4年2月8日に特許異議申立人 網田朱莉(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
金属容器に内容物を封入した製品の劣化推定システムにおいて、
前記製品を貯蔵試験することにより得られたデータを教師データとして機械学習された予測モデルと、
劣化の推定のためのデータを入力する入力部と、
前記入力部に入力された前記データから前記予測モデルによって求められた前記製品の劣化の程度を出力する出力部とを有し、
前記教師データは、実際の前記金属容器についての容器データと前記実際の金属容器に封入された前記内容物についての内容物データと前記実際の製品が貯蔵されていた環境についての環境データと前記実際の製品に生じていた前記劣化の程度を示す劣化データとを含み、
前記入力部に入力する前記データは、劣化を推定する対象製品の前記容器についての容器データと、前記対象製品の前記内容物についての内容物データと、前記対象製品の貯蔵が予定される環境についての環境データとを含む
ことを特徴とする劣化推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の劣化推定システムにおいて、
前記容器は、内面被膜を備えた金属板によって形成され、
前記出力部から出力される前記劣化の程度および前記教師データに含まれる前記劣化の程度を示す劣化データは、前記金属板の内面の腐食の深さと、前記腐食が生じている箇所の輪郭形状と、前記腐食の分散状態と、前記金属の前記内容物への溶出量との少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする劣化推定システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の劣化推定システムにおいて、
前記出力部から出力される前記劣化の程度を評価して複数に階層分けする評価部を更に備えていることを特徴とする劣化推定システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の劣化推定システムにおいて、
前記容器データは、前記容器の各部の寸法を表すデータと、前記容器の素材を示すデータと、前記容器の内面に設けられているコーティングについてのデータのいずれかを含み、
前記内容物データは、前記内容物の種類と、前記内容物の量と、pHとのいずれか一つを含み、
前記環境データは、前記製品が貯蔵される環境の温度を含むことを特徴とする劣化推定システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の劣化推定システムにおいて、
前記出力部は、前記劣化の程度を複数に区分してラベル付けしたデータとして出力するように構成されていることを特徴とする劣化推定システム。
【請求項6】
請求項3を引用する請求項5に記載の劣化推定システムにおいて、
前記評価部は、前記複数に区分されてラベル付けされた前記データに基づいて前記劣化の程度を評価することを特徴とする劣化推定システム。」

第3 異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証ないし甲第12号証を提出し、以下の異議申立理由(以下「異議申立理由」という。)によって、本件発明1ないし6に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
<異議申立理由>
1.特許法第29条第2項進歩性)について
甲第1号証:特表2007−521996号公報
甲第2号証:特開2002−108951号公報
甲第3号証:「Application News No.M276 ガスクロマトグラフ質量分析計 機械学習的解析手法を利用した食品の品質判別」,株式会社島津製作所,2019年1月初版発行,No.M276,https://www.an.shimadzu.co.jp/aplnotes/gcms/an_m276.pdf
甲第4号証:特開2018−18354号公報
甲第5号証:特開2002−34800号公報
甲第6号証:特開平7−46974号公報
甲第7号証:特開平8−95605号公報
甲第8号証:特開2019−155462号公報
甲第9号証:特開昭62−52048号公報
甲第10号証:特開昭60−155690号公報
甲第11号証:特開2002−361784号公報
甲第12号証:土屋秀紀,「アルミ缶の特性並びに腐食問題」,材料と環境,2002年,No.51,293−298頁

本件発明1ないし6は、甲第1号証記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明1ないし6は、甲第2号証記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
よって、その特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

第4 異議申立理由についての判断
1.甲第1ないし12号証の記載事項及び甲第1ないし12号証から認定される発明及び技術
(1)甲第1号証
本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特表2007−521996号公報(甲第1号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。以下同様。)
ア 「【0115】
腐食評価:
腐食試験法No.1
腐食試験法No.1は、コーティング組成物が内部に塗布され硬化された金属製の食品および飲料包装容器の缶を試験するパックを必要とする。腐食試験法No.1は、製品の使用の実際の商業的な条件を可能な限り最も近い程度に再現するよう試みられている。腐食試験法No.1に従って、コーティングされた金属製の食品および飲料包装容器缶を、パイロット規模のスプレー塗布器具、および、炉で硬化するための器具を用いて製造する。パイロット規模のスプレー塗布器具は、商業的な原寸のスプレー塗布器具の装置に見合うスプレーノズル、および、スプレーガン装置を含む。
【0116】
腐食試験法No.1に従って、コーティングされた(さらに硬化された)金属製の食品または飲料包装容器のサンプルを、サンプルコーティング組成物(すなわち「試験用」コーティング組成物)、例えば本発明のコーティング組成物を用いて製造する。次に、コーティングされた(さらに硬化された)金属製の食品および飲料包装容器に、各種ドリンク(ビール、コーラ、アイソトニック飲料)、または、各種食品のいずれか(トマトスープ、野菜など)を、パイロット規模の充填プラントを用いて充填する。次に、容器に入れられた特定の飲料または食品の通常の商業的な慣例に応じて、充填された容器を低温殺菌してもよい(または、低温殺菌しなくてもよい)。充填された容器を、2つの異なる群にに分け、次に、これらを、室温(約20℃)、および、37℃で、あらゆる望ましい期間(例えば12ヶ月)保存する。
【0117】
選択された試験期間の後、異なる温度および貯蔵時間の変数で試験された充填された容器をそれぞれ開け、充填された容器の内容物を除去する。容器内部のあらゆる腐食存在または非存在を目視で観察し、評価し、記録する。評価基準は、評価ゼロ(目視でわかる重度の腐食)〜評価5(目視でわかる腐食なし)の範囲である。」

イ 「【0259】
図2に、このコーティング組成物13およびコーティング組成物14の両方に関する実施例の、コーティングされたブリキ缶の硬化されたコーティング重量に対するエナメル評価の測定結果(表2および3を参照)を図示する。図2に示される2つのプロットによれば、コーティング組成物13およびコーティング組成物14はいずれも、33cl.のブリキ製飲料缶に1回160mgのコーティングを塗布した後、<1mAのエナメル評価を必要とする典型的な工業系の顧客向けの仕様を満たすことが証明されているが、図2で示される2つのプロットによれば、さらに、コーティング組成物13は、<1mAのエナメル評価を必要とする(1回160mgのコーティングを塗布した後)典型的な工業系の顧客向けの仕様を可能にするより広いスプレー幅が可能であることが示され、コーティング組成物14よりも少ないコーティング重量で条件を満たすことが可能である。
【0260】
加えて、コーティング組成物13で形成された、硬化された内部コーティング(ライナー)を含む金属製飲料缶を、腐食試験法No.1(本明細書の特性解析と特徴付け手順の章で示される)に従って試験した。この試験には、アルミニウム缶とブリキ缶両方を用いた。内部にライナーされたアルミニウム缶と、内部にライナーされたブリキ缶それぞれに、ダイエットコーラ(diet cola)、ダイエットスプライト(Diet Sprite)(R)清涼飲料、アイソトニック飲料またはビールを充填し、従来の飲料容器において商業的な様式で密封した。これらの充填した缶を、2種の異なる温度(20℃または37℃)の一方で、さらに、2種の異なる貯蔵時間(6週間または3ヶ月)の一方で保存した充填した缶の群に分けた。表4に、異なる温度での異なる貯蔵時間が完了した際に異なる缶に付与された数値評価を示す:
【0261】
【表4】



ウ 上記「イ」より、「硬化された内部コーティング(ライナー)を含む金属製飲料缶を腐食試験法No.1を用いて試験する際に、缶の金属をアルミニウムかブリキか、貯蔵温度を20度か37度か、貯蔵時間を6週間か3ヶ月か、飲料をダイエットコーラかダイエットスプライトかアイソトニック飲料かビールか、と条件を変えて試験し、試験結果を1から5の5段階で表示する」ことが読み取れる。

エ 上記「ア ないし ウ」より、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「コーティング組成物が内部に塗布され硬化された金属製の食品および飲料包装容器の缶を試験する腐食試験法No.1を用いて試験する方法及びシステムにおいて、
缶の金属をアルミニウムかブリキか、貯蔵温度を20度か37度か、貯蔵時間を6週間か3ヶ月か、飲料をダイエットコーラかダイエットスプライトかアイソトニック飲料かビールか、と条件を変えて試験し、
容器内部のあらゆる腐食存在または非存在を目視で観察し、評価ゼロ(目視でわかる重度の腐食)〜評価5(目視でわかる腐食なし)の範囲で評価し、記録する、
方法及びシステム。」

(2)甲第2号証
本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2002−108951号公報(甲第2号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は断熱容器の設計システムに関し、特に、ユーザニーズに応じた断熱容器の温度保持性能に関するデータを提供し、容器製造に係る開発期間を大幅に短縮することができる断熱容器の設計システム、断熱容器の設計プログラムを記録した記録媒体に関する。」

イ 「【0014】クライアント端末1は、断熱容器の設計支援を求めるユーザによって操作される。本実施の形態では、食品会社の物流、包装分野の技術開発者等により操作され、断熱容器の性能(種類、寸法及び温度)、該断熱容器の周囲の外気温度、該断熱容器に収納する内容物の熱容量に関するデータ(種類及び重量)及び初期温度、並びに該内容物の温度保持のための熱媒体(保冷材又は保温材)の性能(種類、重量及び温度)が入力される。
【0015】サーバ5は、インターネット3を介してホームページ等を窓口としてクライアント端末1に断熱容器の温度保持性能に関するデータを提供する。ここで、温度保持性能データを定義する。クライアント端末1に提供される温度保持性能データとは、主に温度シミュレーション、鮮度シミュレーションにより得られるデータである。
【0016】具体的には、解析条件入力画面(図15参照)のボタン“解析実行”をクリックして表示される温度分布(図19参照)、及び食材鮮度パラメータ計算条件画面(図12参照)のボタン“計算”をクリックして表示される鮮度Fである。一方、サーバ5には、上記温度保持性能データと、シミュレーション画面(図6〜図11、図13及び図15参照)でユーザが条件入力したデータ及び各種ボタンをクリックして表示されるデータとが、解析モデル(図15参照)毎に格納される。ここで、サーバ5の詳細構成を説明する。
【0017】サーバ5は、制御部7、送信/受信部9、RAM11、ROM13、温度保持性能データベース(性能DB)15、パラメータデータベース(パラメータDB)16、入力操作部17、表示部19、CD−ROMドライブ21から構成される。制御部7はCPUであり、サーバ5全体の動作を制御する。特に、送信/受信部9の通信制御、RAM11、ROM13、性能DB15及びパラメータDB16等からのデータ読出し/書き込み処理、後述する温度及び鮮度シミュレーションにおける温度保持性能データの演算処理等である。
【0018】送信/受信部9は、制御部7の指示に基づいて、クライアント端末1との間でデータの送信及び受信処理を行う。特に、送信/受信部9は、外気温度及び時間、断熱容器の種類、寸法及び温度、内容物の種類、重量及び温度、並びに熱媒体(保冷材又は保温材)の種類、重量及び温度をクライアント端末1から受信し、また、制御部7で演算された温度保持性能データをクライアント端末1に送信する。
【0019】RAM11は、サーバ5の処理に必要なデータを一時的に格納する。特に、RAM11は、クライアント端末1にて表示されるユーザインタフェースとなる画面データ等を格納する。ROM13は、本発明の処理プログラム等を固定的に格納する。性能DB15は、光磁気ディスクライブラリ等の大容量の記憶装置であり、断熱容器の過去のシミュレーション事例の温度保持性能データを解析モデル毎に格納する。
【0020】パラメータDB16は、光磁気ディスクライブラリ等の大容量の記憶装置であり、後述する温度伝導率等、シミュレーションに必要なパラメータを記憶する。入力操作部17は、後述する性能DB15、パラメータDB16の記憶内容の更新に応じてその都度操作される。
【0021】表示部19はLCD等であり、制御部7で演算された温度保持性能データ(計算結果、グラフ)等のコードデータをその都度表示データに変換して表示処理を行う。CD−ROMドライブ21は、制御部7の指示に基づいてCD−ROM23に格納されているプログラム等をRAM11等に書き込む。
【0022】図2は、本実施の形態による断熱容器の設計システムの動作を説明するフローチャートである。ここでは、(1)クライアント端末1における表示画面及び該画面への入力操作(図3〜図18)、(2)サーバ5の制御部7での温度保持性能の演算(温度・鮮度シミュレーション)を中心に説明する。
【0023】はじめに、ステップS101では、クライアント端末1は、インターネット3を介してホームページ等の情報提供の窓口と通信回線を確立し、次いでステップS102で、初期画面(図3参照)が表示される。ステップS103では、この初期画面のボタン“開始”をクリックすることで、容器数入力画面(図4参照)が表示される。本実施の形態における輸送例として、被保冷食品としてケーキ(約300g)をダンボール(小箱)に包装し、パン(約300g)をダンボール(小箱)に包装し、これら2つの容器を1つのダンボール(物流容器)に収容して輸送する場合を説明する。そこで、容器数“3”を入力する。
【0024】ステップS103での容器数“3”の入力後、ボタン“OK”をクリックすると、次いでステップS104で、容器構成指定画面(図5参照)が表示される。この画面は、先に入力した容器数“3”の構成を指定する画面であり、図5では、容器を3段重ね(3重容器)に構成するか、2段重ね(2重容器)に構成するかを指定する。ここで、“容器1⊃容器2”は、容器2が容器1に収容されることを意味している。上述したことから、容器2、容器3が、ケーキとパンとを各々包装して容器1に収容される構成とするため、ここでは容器2と容器3とが同格であることを意味する記号“=”を入力する。
【0025】ステップS104での記号“=”の入力後、ボタン“OK”をクリックすると、次いでステップS105で、シミュレーション画面(外気条件入力画面、図6参照)に移る。シミュレーション画面は、外気条件、容器条件、食材条件、冷媒条件、解析条件の5種類の条件入力画面からなる。図6は、外気条件を設定する画面であり、食品の輸送過程で想定される外気温度と該温度の元での輸送時間とが設定される。本実施の形態では、全体として9時間の輸送時間での温度設定に関して、外気温度25℃での輸送が3時間、外気温度30℃での輸送が3時間、外気温度35℃での輸送が3時間に設定される。」

ウ 「【0028】ステップS105での外気条件入力後、ボタン“OK”をクリックすると、次いでステップS106で、容器1の条件入力画面(図7参照)が表示される。この容器条件入力画面は、図5での容器構成指定にリンクしており、容器No.“容器1”が表示されている。」

エ 「【0035】以上により、容器1〜容器3の条件入力が完了し、図9に示す容器3の条件入力後、ボタン“OK”をクリックすると、次いでステップS107で、食材1の条件入力画面(図10参照)が表示される。この容器条件入力画面は、図5での容器構成指定及び図8での容器2の条件入力内容にリンクしており、容器名“小箱1”が表示されている。」

オ 「【0042】また、ここで表示される「鮮度に特有な定数A」及び「活性化エネルギーE」は、後述する鮮度シミュレーションの“鮮度予測式”で用いられる。以上により、食材1〜食材2の条件入力が完了し、図11に示す食材2の条件入力後、ボタン“OK”をクリックすると、次いでステップS108で、冷媒条件入力画面(図13参照)が表示される。本実施の形態では、熱媒体として保冷材(氷、ドライアイス等の蓄冷材)を用いる場合を説明する。この冷媒条件入力画面は、図5での容器構成指定及び図7での容器1の条件入力内容(冷媒数“1”)にリンクしており、容器名“物流容器”が表示されている。」

カ 「【0054】ステップS109での解析条件入力後、図17又は図18におけるボタン“解析実行”をクリックすると、次いでステップS110で、ステップS101〜109での条件に基づいて、温度・鮮度シミュレーション(温度保持性能の解析)が実行される。このシミュレーションによりクライアント端末1には温度分布図(図19参照)が表示される。ここでは、解析モデル配置図での温度変化がカラーマップ表示される。ステップS110でのシミュレーションは、(1)温度シミュレーションと、(2)鮮度シミュレーションとに分けられる。これらについて以下に説明する。」

キ 「【0109】つぎに、鮮度シミュレーションについて説明する。鮮度シミュレーション式は、温度シミュレーション式により予測した、食材の温度変化に基いて食品の鮮度劣化を予測する計算式であり、(鮮度予測式)=(温度予測式)+(化学反応式)で表される。
【0110】鮮度を予測するにあたり、食品の保存期間と温度いわゆるTTT(Time Temperature Tolerance)に基づいて、温度シミュレーションから予測した食品の温度における鮮度予測式F(t)は、化学反応の速度を示すアレニウス則より(1)鮮度劣化速度係数K=A・EXP(−E/R/T)(2)時間tにおける定量的鮮度をF(t)で表すとF(t)=F(0)EXP(-∫Kdt)で表現できる。
【0111】ここで、微生物汚染は無視できることを仮定しており、Aは鮮度劣化に特有な係数、Eは活性化エネルギー(図12参照)、Rは気体定数、Tは絶対温度を示す。F(0)=100を生産時の値として、F(t)>80を優鮮度、60
ク 「【図1】



ケ 「(図2】



コ 「【図6】



サ 「【図7】



シ 「【図8】



ス 「【図9】



セ 「【図10】



ソ 「【図11】



タ 「【図13】



チ 上記「ケ ないし タ」より、外気条件入力画面、容器条件入力画面及び食材条件入力画面において入力する、各部の寸法や素材を含む容器条件と、食材の種類や量を含む食材条件と、外気温度や冷媒温度を含む外気条件及び冷媒条件等を看取できる。

ツ 上記「ア ないし チ」より、甲第2号証には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「断熱容器に食材を封入した製品の温度・鮮度シミュレーションを行う設計システムにおいて、
断熱容器の設計支援を求めるユーザによって操作されるクライアント端末1であって、解析条件入力操作と、その入力のための入力画面の表示と、シミュレーションによる温度分布図と鮮度グラフの表示と、を行う、クライアント端末1と、
温度保持性能の演算(温度・鮮度シミュレーション)を制御部7で行うサーバ5であって、
前記食材の温度変化に基づいて食品の鮮度劣化を予測する鮮度予測式と、
温度・鮮度シミュレーションのためのデータを受信し、受信された前記データから前記鮮度予測式によって求められた前記製品の鮮度劣化を送信する送信/受信部9とを有し、
前記送信/受信部9で受信された前記データは、各部の寸法や素材を含む容器条件と、食材の種類や量を含む食材条件と、外気温度や冷媒温度を含む外気条件及び冷媒条件とを含む、
サーバ5と、
を備えた設計システム。」

(3)甲第3号証
本願の出願前に日本国内で電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、「Application News No.M276 ガスクロマトグラフ質量分析計 機械学習的解析手法を利用した食品の品質判別」,株式会社島津製作所,2019年1月初版発行,No.M276,https://www.an.shimadzu.co.jp/aplnotes/gcms/an_m276.pdf(甲第3号証)には、次の技術事項が記載されている。
ア 「食品の多くはきわめて多くの成分で構成されており、同じ食品でもその品質は完全に同一ではないことがあります。品質の違いは食品を構成する成分の微妙な違いに由来すると考えられるため、昨今では包括的な品質評価を目的とした、構成成分の網羅分析が注目されています。一方で、味、におい、劣化の度合いなど、人による主観的な食品の性質を構成成分から予測・判別するためには、構成成分と主観的性質の関係について、予めその対応が明らかな既知のサンプル群から学習を行い、その学習結果を元に未知サンプルの予測・判別を行うという手法が有効と考えられます。
本アプリケーションニュースでは、牛肉の品質に関して、適切に冷蔵保存されているものと、40 ℃環境に 3 時間暴露され劣化が進んだと考えられるものを準備し、それらを200 ℃に加熱したときの揮発成分の分析結果から判別が可能かどうか検証しました。事前にそれぞれのサンプルの既知データを識別器に学習させて、これを品質の定義とし、その後その結果を元に未知データを判別させ、その正答率を算出しました。クロマトグラムの比較や、ピーク面積値の主成分分析だけでは判別が難しいサンプルでも、識別器としてサポートベクターマシン(SVM)を使用した場合、95.8 %の確率で正答することができました。」(第1頁左欄第1−21行)

イ 上記「ア」より、甲第3号証には次の技術(以下「甲3開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「構成成分と主観的性質の関係について、予めその対応が明らかな既知のサンプル群から学習を行い、その学習結果を元に未知サンプルの予測・判別を行うという手法であって、
牛肉の品質に関して、適切に冷蔵保存されているものと、40 ℃環境に 3 時間暴露され劣化が進んだと考えられるものを準備し、それらを200 ℃に加熱したときの揮発成分の分析結果を、それぞれのサンプルの既知データとし、
その既知データをサポートベクターマシン(SVM)を使用した識別器に学習させて、これを品質の定義とし、その後その結果を元に未知データを判別させる、
手法。」

(4)甲第4号証
本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2018−18354号公報(甲第4号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア 「【0027】
<ディープラーニングにより学習し、品質予測モデルを得る工程>
本発明においてディープラーニングにより学習する工程は、得られた数値または画像データを使用して行われる。本発明においてディープラーニングとは、少なくとも4層以上の階層構造からなるネットワークの構成を有する学習器を使用した機械学習を意味し、従来の機械学習と比べるとチューニング可能なパラメータ数が多く柔軟な組み合わせも可能であるため、多様なデータ構成に対して高い性能を発揮することができる。利用可能なディープラーニングのネットワークの構成としては、特に制限はなく任意の方法を選択することができるが、畳み込みニューラルネットワーク、ディープニューラルネットワーク、ディープビリーフネットワーク、再帰型ニューラルネットワークを例示することができる。ディープラーニングのチューニングパラメータの種類や数値範囲としても特に制限はなく、使用するデータや目的とする予測精度、計算コスト等の観点から適切なチューニングを実施すればよいが、チューニングパラメータの種類としては、畳み込むカーネルのサイズと数、活性化関数の種類、プーリングの方法とサイズ、畳み込み層の数、Maxoutの数、全結合層のユニット数、全結合層の数、ドロップアウトの割合、ミニバッチのサイズ、更新回数、学習率、オートエンコーダーの有無等を例示することができる。また、入力変数、応答変数は離散値または連続値、またはこれらの組み合わせから任意に選択可能である。」

イ 「【0030】
本発明では、品質既知の複数の飲食品を前処理してそれぞれ個別の分析サンプルを得、該個別の分析サンプルを機器分析または官能評価に供して個別の機器分析データまたは官能評価データを得る。さらに該個別の機器分析または官能評価データと、複数の飲食品のそれぞれの既知品質を用いてディープラーニングにより学習して該機器分析または官能評価データと、該機器分析データまたは官能評価データから予測される品質との関係を表す、飲食品の品質予測モデルを作成する。」

ウ 「【0034】
<品質予測モデルのチューニングを行い、チューニング実施済み品質予測モデルを得る工程>
上記変更可能なパラメータを適切に変更し、チューニングすることにより、チューニング済み品質予測モデルを得ることができる。
品質予測モデルの予測精度は、高い方が好ましいとも言えるが、目的とする品質の種類、品質予測モデル作成のためのトレーニングデータ収集にかかるコストや、時間の制約に応じて変わるものであって、その予測精度の範囲は目的に応じて任意に設定することができるが、オーバーフィッティングを回避して汎化性能を向上するためには、少なくとも1回のチューニングを行わなければ、実質的に品質予測が可能なモデルを作成することは困難である。
【0035】
そして、品質未知の飲食品について、同様にして、前処理して分析サンプルを得、該分析サンプルを機器分析または官能評価に供して分析データを得、該分析データを、上記で作成した飲食品の品質予測モデルに供して、該品質未知の飲食品の品質を予測することができる。」

エ 上記「ア ないし ウ」より、甲第4号証には次の技術(以下「甲4開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「品質既知の複数の飲食品を前処理してそれぞれ個別の分析サンプルを得、
該個別の分析サンプルを機器分析または官能評価に供して個別の機器分析データまたは官能評価データを得、
さらに該個別の機器分析または官能評価データと、複数の飲食品のそれぞれの既知品質を用いて少なくとも4層以上の階層構造からなるネットワークの構成を有する学習器を使用した機械学習を意味するディープラーニングにより学習して該機器分析または官能評価データと、該機器分析データまたは官能評価データから予測される品質との関係を表す、飲食品の品質予測モデルを作成し、
品質未知の飲食品について、前処理して分析サンプルを得、該分析サンプルを機器分析または官能評価に供して分析データを得、該分析データを、上記で作成した飲食品の品質予測モデルに供して、該品質未知の飲食品の品質を予測する
技術。」

(5)甲第5号証
本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2002−34800号公報(甲第5号証)には、次の技術事項が記載されている。
ア 「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一形態例を図1乃至図3に基づいてさらに詳しく説明する。この形態例に示される手持ち可搬式金属製断熱容器1は、金属製断熱容器本体2と、該容器本体2に被冠される蓋3とで構成されている。前記容器本体2は、内容器4と外容器5との間に気密空隙部6を存して内外両容器4,5の開口端部を溶接等の手段により一体に接合して形成されている。内外両容器4,5は、金属製であればよく、通常はステンレス鋼やアルミニウム合金等が適している。」

イ 上記「ア」より、甲第5号証には次の技術(以下「甲5開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「金属製断熱容器本体2と、該容器本体2に被冠される蓋3とで構成され、
前記容器本体2は、内容器4と外容器5との間に気密空隙部6を存して内外両容器4,5の開口端部を溶接等の手段により一体に接合して形成され、
内外両容器4,5は、金属製であればよく、通常はステンレス鋼やアルミニウム合金等が適している、
手持ち可搬式金属製断熱容器1。」

(6)甲第6号証
本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開平7−46974号公報(甲第6号証)には、次の技術事項が記載されている。
ア 「【0014】即ち、断熱箱4は、例えば薄い金属板の間に断熱材を介装してなる側壁と底板により、上面を開口して形成され、本体1内の上部に水平に取付けられる。その断熱箱4内には、冷凍機3の蒸発冷却器5が、その上下に袋入りの蓄冷材6を介在させた状態で挿入される。
【0015】蓄冷材6は、例えば、水、グリコーゲン類、親水性ポリマー等を混合してゲル状にした保冷剤をポリエチレン袋等に封入したものであり、断熱箱4内の底部に密に挿入される。蓄冷材6は2個使用され、2個の蓄冷材6に挟まれるように、金属板内に冷媒の通路を形成した板状の蒸発冷却器5が、断熱箱4内に挿入される。
【0016】さらに、断熱箱4内には、その蓄冷材6の上から金属製の中箱7が、密に差し込まれ、その状態で中箱7が断熱箱4に固定されることにより、断熱箱4内の中箱7の下側に蒸発冷却器5及び蓄冷材6が確実に且つ簡単に取付けられる。そして、ホテルパン等の食品容器8が中箱7内に落し込むように、脱着自在に挿入され、食品容器8には蓋9が被せられる。」

イ 上記「ア」より、甲第6号証には次の技術(以下「甲6開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「断熱箱4は、
薄い金属板の間に断熱材を介装してなる側壁と底板により、上面を開口して形成され、
蓄冷材6は断熱箱4内の底部に密に挿入され、
断熱箱4内には、その蓄冷材6の上から金属製の中箱7が、密に差し込まれ、その状態で中箱7が断熱箱4に固定され、
ホテルパン等の食品容器8が中箱7内に落し込むように、脱着自在に挿入され、食品容器8には蓋9が被せられる、
断熱箱4。」

(7)甲第7号証
本願の出願日前に日本国内で頒布された刊行物である特開平8−95605号公報(甲第7号証)には、次の技術事項が記載されている。
ア 「【0010】次に本発明の調整方法の概略の動作を述べる。高周波シミュレータ1で上記増幅回路のシミュレーションを行うが、この時、FET29等の素子値を設計値から、一定の範囲内でランダムにばらつかせて、その度毎に回路の出力値を計算する。この時の調整用素子の修正値と、回路の出力値を対として教師データとし、一定量のデータが集まったところで、ニューラルネット3に学習させる。学習済みのニューラルネット3に対して今度は、実物の高周波回路8の出力値を入力し、調整用素子の修正値を出力させて、この値に基づき、高周波回路8の調整用素子の調整を行う。」

イ 上記「ア」より、甲第7号証には次の技術(以下「甲7開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「高周波シミュレータ1で、FET29等の素子値を設計値から、一定の範囲内でランダムにばらつかせて、その度毎に回路の出力値を計算することにより上記増幅回路のシミュレーションを行い、この時の調整用素子の修正値と、回路の出力値を対として教師データとし、一定量のデータが集まったところで、ニューラルネット3に学習させる技術。」

(8)甲第8号証
本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2019−155462号公報(甲第8号証)には、次の技術事項が記載されている。
ア 「【0050】
[評価試験1]
評価試験1として、実施例1及び実施例2、並びに、比較例1乃至比較例3、比較例7の缶胴11を成形するために用いる金属板100の被覆層140を除去した表面のSnメッキ層120のSnの分布、及び、当該缶胴11を成形した後の缶胴11の内面の被覆層140を除去した表面のSnメッキ層120のSnを、電子顕微鏡を用いて確認した。
【0051】
なお、缶胴11を成形した後の缶胴11の被覆層140を除去した表面のSnメッキ層120のSnが均一に分布しているか、又は、ストライプ状に分布しているかを判断した。
【0052】
[評価試験2]
評価試験2として、成形後に被覆層140の非晶質化として、228℃で加熱処理及び急冷処理を行った実施例1、実施例2及び比較例1乃至比較例6の缶胴11、並びに、250℃で加熱処理及び急冷処理を行った実施例1、実施例2及び比較例1乃至比較例3の缶胴11の促進試験を行った。促進試験の条件としては、温度55℃に缶胴11を配置し、240時間経過後、缶胴11を取り出して缶胴11の内面の状態を確認した。
【0053】
評価基準として、缶胴11の内面に腐食がないものを○、缶胴11の内面に軽度の腐食があるものを□、缶胴11の内面に腐食があるものを△、缶胴11の内面に全面腐食があるものを×、缶胴11の内面に重度の腐食があるものを××、缶胴11の内面に重度の腐食が全面にわたって多数生じているものを×××とした。
【0054】
[評価試験3]
評価試験3として、成形後に被覆層140の非晶質化として、228℃で加熱処理及び急冷処理を行った実施例1、実施例2及び比較例1乃至比較例6の缶胴11、250℃で加熱処理及び急冷処理を行った実施例1、実施例2及び比較例1乃至比較例3、並びに、被覆層140の硬化として、205℃で熱処理を行った比較例7の缶胴11にそれぞれ飲料90を入れ、上蓋12を捲き締めしたあと、殺菌処理を行い、その後缶胴11の内面の状態を確認した。
【0055】
評価基準として、缶胴11の内面に腐食が全くないものを◎、缶胴11の内面の表面に腐食があるものを○、缶胴11の内面の表面から板厚の10%程度の深さまで腐食があるものを□、缶胴11の内面の表面から板厚の25%程度の深さまで腐食があるものを◇、缶胴11の内面の表面から板厚の50%程度の深さまで腐食があるものを△、缶胴11の内面の表面から板厚の75%程度の深さまで腐食があるものを▲、缶胴11の内面に腐食多数及び穿孔腐食が生じているものを×とした。
【0056】
また、飲料90には、麦芽系炭酸アルコール飲料と、酸性炭酸飲料用いた。また、麦芽系炭酸アルコール飲料は、コールドパックした後にツーピース缶1をウォーマー処理し、酸性炭酸飲料は、コールドパックした後にツーピース缶1をウォーマー処理した。
【0057】
[評価試験の結果]
評価試験1乃至評価試験3の結果として、図6乃至図11に評価試験の結果を示す。なお、図8乃至図10には、評価試験2の評価基準に基づく判定結果に加えて、缶胴11の内面の状態の概要を示す。
図6及び図7に示すように、評価試験1においては、実施例1及び実施例2は、缶胴11の成形の前後に渡ってSnが均一に缶胴11の内面に分布していた。これに対し、比較例1乃至比較例3は、成形前においてはSnが缶胴11の内面に海島状に分布しており、成形後においてはSnが缶胴11の内面にストライプ状に分布していた。また、比較例7は、成形前はSnが均一に缶胴11の内面に分布していたが、成形後においてはSnが缶
胴11の内面にストライプ状に分布していた。このことから、本実施形態に係る実施例1及び実施例2の缶胴11によれば、成形後であっても、Snが均一に缶胴11の内面に分布することから、缶胴11の内面の全面に渡って耐食性を有する状態であることが明らかとなった。
【0058】
図8乃至図10に示すように、評価試験2においては、成形後に非晶質化をするために被覆層140の融点よりも低い228℃で加熱処理を行った缶胴11は、内面の表面に腐食が多数生じていた。これに対し、成形後に、非晶質化をするために被覆層140の融点よりも高い250℃で加熱処理を行った缶胴11は、内面の表面に軽度の腐食があった程度であり、このことから、被覆層140の融点温度以上で加熱処理を行い、被覆層140の非晶質化を行うことで、耐食性が向上することが明らかとなった。
【0059】
また、図11に示すように、評価試験3の結果として、実施例1、実施例2、比較例1乃至比較例3及び比較例7の缶胴11は、麦芽系炭酸アルコール飲料及び酸性炭酸飲料を充填した場合の双方で、最大でも缶胴11の内面の表面から板厚の10%程度の深さまでの腐食であり、全体として良好な結果が得られた。比較例4乃至比較例6の缶胴11は、麦芽系炭酸アルコール飲料を充填した場合に缶胴11の内面に腐食多数及び穿孔腐食が見られた。」

イ 上記「ア」より、甲第8号証には次の技術(以下「甲8開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「缶胴11の内面の状態の評価試験において、腐食の程度(軽度、重度)、広がり具合(全面)、腐食の深さを評価項目とする技術。」

(9)甲第9号証
本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開昭62−52048号公報(甲第9号証)には、次の技術事項が記載されている。
ア 「表1

」(第8頁)

イ 上記「ア」より、甲第9号証には次の技術(以下「甲9開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「実缶保存試験において、缶詰容器の評価項目として、腐食状態と金属溶出量を用いる技術。」

(10)甲第10号証
本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開昭60−155690号公報(甲第10号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア 「実施例1.
肉厚が0.13mmとされたJIS3004による缶胴体とJIS5182による缶蓋を用い、これらのものに熱硬化性塩化ビニル塗膜を施し、缶胴については2コート、2ベークによって膜厚4.5μmの塗装とすると共に缶蓋についてはスコア線加工後リペアコートしたものを用い、これらの缶体に塩素イオン濃度が25〜1000ppmに亘る各社のスポーツドリンク剤をコールドパック法で充填してから液体窒素を添加し、缶内圧を1.8〜2.0kg/cm2とすると共に溶存酸素量については1ppmと2ppmとなるようにその添加量を管理したものを巻締めによって缶蓋により密封し、このものを25±5℃の温度で保管し、1〜12力月に亘る期間経過後におけるそれぞれの缶詰体について孔食の発生及びAl溶出量を測定した結果を要約して示すと次の第1表に示す通りである。

第1表

」(第3頁右上欄第3行−第4頁)

イ 「実施例4.
実施例1におけると同じに缶胴および缶蓋について内面塗装のあるものとないものとを夫々準備したものに対して25%NaCl溶液および2%NaCl溶液を充填し、該溶液中における溶存酸素量を1ppmと8ppmとしたものについて1力月から3年に亘る20±5℃の温度条件下での保存テストを行った結果を要約して示すと次の第2表に示す通りである。
第2表

」(第4頁左下欄第19行−第5頁)

ウ 上記「ア 及び イ」より、甲第10号証には次の技術(以下「甲10開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「缶詰体の保存テストにおいて、期間経過後に評価項目として孔食の発生及びAl溶出量を測定する技術。」

(11)甲第11号証
本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2002−361784号公報(甲第11号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア 「【0019】
【実施例】(実施例1〜12)表1及び表2中の実施例1〜12に示した組成を有する樹脂組成物を調製し、それぞれの樹脂組成物をジルコニウム系の表面処理を施した3004アルミ材に60mg/dm2の膜圧になるようにバーコーターで塗装を施し、200℃×60秒の焼き付けを行い、評価用の塗装板(実施例1〜12)を得た。
【0020】(市販塗料A,B)比較のために、A社、B社製のエポキシアクリル共重合体を主成分とした市販のツーピース缶缶胴スプレーコーティング用の2種類の塗料を、実施例1〜12と同じくアルミ材に塗装し、焼き付けを行って塗装板(市販塗料A,B)を得た。
【0021】(比較例1〜8)比較のために、表3に示した通り、本発明の樹脂組成物と同様の樹脂成分を含むが、いずれかの樹脂成分の配合量が本発明の範囲外である比較例1〜8の樹脂組成物を調製し、実施例1〜12と同じくアルミ材に塗装し、焼き付けを行って塗装板(比較例1〜8)を得た。
【0022】前述した実施例1〜12,市販塗料A,B及び比較例1〜8のそれぞれの塗装板を用い、次に記す評価−1〜評価−7の評価試験を行った。
【0023】評価−1:耐腐食性
図1に示したように、広口瓶1に、次の組成:
メタ重亜硫酸カリウム 1重量%
クエン酸 1重量%
塩化ナトリウム 3重量%
エタノール 10重量%
精製水 85重量%
を有する評価溶液2を入れ、それぞれの塗装板3を浸漬し、40℃で5日間保存した後の腐食の状態を目視にて評価した。結果は表1〜3に示す。この評価でpHの低いリキュール類(カクテル)、SO2を含有するワイン等の広範囲のアルコール飲料に対する耐腐食性を評価することができる。評価基準は次の通り:
○:腐食が殆ど見られない。
△:気相部分に腐食が発生、液相部分にも若干の腐食が発生。
×:液相、気相部分共に著しく腐食した。
この評価結果が△〜○であれば、耐腐食性に関して問題の無いレベルに達している。
【0024】評価−2:加工性
上記塗装板を所定幅に切り出し、この評価対象面を外側にし、0.9mmの厚さのアルミ板をはさんだ状態で、3kgの重りを40cmの高さから落下させることにより曲げ加工を施した。その後、この曲げ加工を施した部分のERVを測定した。ERVとは1重量%のNaCl水溶液を介して、6.2Vの電圧を印加した場合に流れる電流量である。ERVが高いと、缶蓋との巻き締めを行う場合や、塗膜に衝撃等が加わった場合に亀裂が生じやすくなる。結果を表1〜3中に示す。この評価法で1mA以下であれば実用上問題無いと判断できる。
【0025】評価−3:塗膜からの溶出物量
各塗装板を10×10cmの大きさに切り出し、これを蒸留水100mlに浸し密閉した後、125℃×30分のレトルト処理を施した。このようにして得られた溶液を「厚生省告示20号、器具又は容器包装一般の試験法」に記載の過マンガン酸消費量試験法により評価した。結果を表1〜3中に示す。過マンガン酸消費量が5ppm以下であれば、溶出物による味覚不良は発生しないと判断される。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】


イ 上記「ア」より、甲第11号証には次の技術(以下「甲11開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「評価用の塗装板(実施例1〜12)と塗装板(比較例1〜8)の評価試験において、腐食の状態を目視にて評価し、過マンガン酸消費量試験法により塗膜からの溶出物量を評価する技術。」

(12)甲第12号証
本願の出願前に日本国内で頒布された、土屋秀紀,「アルミ缶の特性並びに腐食問題」,材料と環境,2002年,No.51,293−298頁(甲第12号証)には、次の技術事項が記載されている。
ア 「アルミニウムは比較的活性な金属で,酸素との反応が強いにもかかわらず一般に耐食性が優れている.これは空気中でアルミニウム表面に化学的に安定な酸化膜が自然に形成されるためである.そして,この酸化膜は傷が付いても直ちに再生されることが知られており,pH 5〜8の間の溶液に対してはアルミニウムは安定した耐食性を有する.アルミニウムを缶材として使用した場合,ほとんどの缶詰の内容物はpH 3.2〜7.4程度であるため,原則として何らかの表円処理を施す必要がある.これは塗装の下地処理として塗膜の密着性を保ち,材料の耐食性を向上させる効果がある.」(第294頁左欄第6−16行)

イ 「(1) 缶内面腐食の概要
缶詰製品は密封性に優れ,外部から酸素や光の透過がないこと,また殺雨・無菌の工程を経てきているため,衛生面及び安全性の面でも他の容器製品と比較して優れているが,缶内に一定量以上の酸素が残存している場合には,腐食の問題は避けて通れない.また,缶詰にされる食品・飲料は種類が多く,クエン酸,リンゴ酸,リン酸などの強腐食性の酸を含む内容物,pHの低い内容物,硫化物,油脂分,アントシアン色素などの含有量の多い内容物などで材料の腐食を生じさせやすい.さらにアルミ缶は,塩素イオンに対して耐食性が悪く,内容物中に食塩を含むものは孔食(pitting corrosion)を発生する危険性がある.
従って,通常缶詰容器は耐食性向上を目的として先述のように内面塗装を行っている.アルミ缶の場合は,ほとんどがシングルコートで,塗膜厚さは充?内容物及び缶材の種類,塗装区分によって変わるが,一般的には3〜10μm程度である.内面腐食に影響を及ぼす他の要因としては,貯蔵温度が考えられる.例えば炭酸飲料缶詰などでガスフローによる空気の置換が十分行われず,残存空気量が多く,夏場に倉庫の天井近くの比較的温度の高い場所に貯蔵された場合には,穿孔率は極端に増加することが知られている.

(2) 缶内面腐食の諸要因
缶内面腐食に影響を及ぼすと考えられる諸要因について以下に述べる.
・内容物の影響
アルミは一般に強い酸性,アルカリ性,及び多量の食塩を含むものについては耐食性が良くない.また,酸性内容物といっても酸の種類は多数あり,クエン酸系内容物,リンゴ酸系内容物,リン酸系内容物などによりアルミに対する腐食性は異なっている.」(第294頁第18−49行)

ウ 「・貯蔵中の温度の影響
貯蔵中の温度の影響は,電気化学的にも,化学反応の上からも内容物及び缶体の劣化を促進させることは明らかで,アルミニウムに対する腐食電流は,殺菌時には20℃の場合の10〜15倍も多く流れることが知られている.
図4は,27℃と50℃における腐食電流値を測定したもので,温度が上昇すると,流れる電流値が増していることが分かる.」(第295頁左欄第10行−右欄第5行)

エ 「(1) 実缶保存試験
実際に使用する内容物を,製品製造時と同1条件でアルミ缶に充填し,所定の期間保存した後,缶を切り開き,缶内面の腐食状態を観察し,その結果より耐食性を評価する.通常は常温で保存して行うが,場合によっては保存温度を高温(38℃又は50℃)にしたり,缶体にデント(外部からの変形)を与え,促進状態で試験を行うこともある.一番確実な方法であるが,時間がかかりすぎるのが欠点である.」(第295頁右欄第15−23行)

オ 「(5) アルミ溶出量試験
内容物を充填したアルミ実缶を一定期間保存し,缶体から溶けだしたアルミ量を分析し,その値より缶体の耐食性を評価する方法である.通常は前述した実缶保存試験と組み合わせて行われている.」(第296頁左欄第10−14行)

カ 上記「ア ないし オ」より、甲第12号証には次の技術(以下「甲12開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「アルミ缶の缶内面腐食に影響を及ぼすと考えられる諸要因として、内容物、貯蔵中の温度、が挙げられ、実際に使用する内容物を製品製造時と同1条件でアルミ缶に充填し、所定の期間保存した後缶を切り開き、缶内面の腐食状態を観察しその結果より耐食性を評価する、実缶保存試験において、缶体から溶けだしたアルミ量を分析し、その値より缶体の耐食性を評価する技術。」

2.特許法第29条第2項進歩性)について
(1)本件発明1と甲1発明との対比・判断について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを比較する。
(ア)甲1発明の「コーティング組成物が内部に塗布され硬化された金属製の食品および飲料包装容器の缶」は、本件発明1の「金属容器に内容物を封入した製品」に相当する。
(イ)甲1発明の「容器内部のあらゆる腐食存在または非存在を目視で観察し、評価ゼロ(目視でわかる重度の腐食)〜評価5(目視でわかる腐食なし)の範囲で評価し、記録する」ことは、本件発明1の「製品の劣化の程度を出力する」ことに相当する。
(ウ)甲1発明の「缶の金属」が「アルミニウムかブリキか」という条件のデータは、本件発明1の「金属容器についての容器データ」に相当する。
(エ)甲1発明の「飲料」が「ダイエットコーラかダイエットスプライトかアイソトニック飲料かビールか」という条件のデータは、本件発明1の「実際の金属容器に封入された」「内容物についての内容物データ」に相当する。
(オ)甲1発明の「貯蔵温度」が「20度か37度か」という条件のデータは、本件発明1の「実際の製品が貯蔵されていた環境についての環境データ」に相当する。
(カ)甲1発明の「容器内部のあらゆる腐食存在または非存在を目視で観察し、評価ゼロ(目視でわかる重度の腐食)〜評価5(目視でわかる腐食なし)の範囲で評価し、記録」したデータは、本件発明1における「実際の製品に生じていた」「劣化の程度を示す劣化データ」に相当する。

すると両者は、以下の点で一致する。
「金属容器に内容物を封入した製品の劣化の程度を出力するシステム。」

一方で、両者は、次の点で相違する。
<相違点1>
金属容器に内容物を封入した製品について、本件発明1は「劣化推定システム」であり、「前記製品を貯蔵試験することにより得られたデータを教師データとして機械学習された予測モデルと、劣化の推定のためのデータを入力する入力部と、前記入力部に入力された前記データから前記予測モデルによって求められた前記製品の劣化の程度を出力する出力部とを有し、前記教師データは、実際の前記金属容器についての容器データと前記実際の金属容器に封入された前記内容物についての内容物データと前記実際の製品が貯蔵されていた環境についての環境データと前記実際の製品に生じていた前記劣化の程度を示す劣化データとを含み、前記入力部に入力する前記データは、劣化を推定する対象製品の前記容器についての容器データと、前記対象製品の前記内容物についての内容物データと、前記対象製品の貯蔵が予定される環境についての環境データとを含む」のに対し、甲1発明は、試験するシステムであり、缶の金属、貯蔵時間、缶に貯蔵する飲料を変更した複数の缶(製品)の劣化を試験して測定するものの推定はしていない点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア)甲1発明に缶製品の劣化を推定する技術を組み合わせる動機付けについて
甲1発明は、缶の試験システムであり、缶の金属、貯蔵温度、缶の内容物をそれぞれ異ならせた缶製品を試験して缶製品の容器内部の腐食を観察するものである。これは、缶製品に対しどのような条件で容器内部の腐食が起こるのかを調べることができる。よって、ある条件下では腐食が起こりやすいということを知ることはできるが、缶製品の劣化を推定するものではない。
よって、甲1発明に缶製品の劣化を推定する技術を組み合わせる動機付けはない。

(イ)甲1発明に缶製品の劣化を推定する技術を組み合わせる動機付けがある場合について
仮に、甲1発明に缶製品の劣化を推定する技術を組み合わせる動機付けがあるとして、以下に一応検討する。
a 甲2発明には、「断熱容器に食材を封入した製品の温度・鮮度シミュレーションを行う設計システム」において、容器条件、食材条件、外気条件、冷媒条件を入力し、鮮度予測式を用いて温度保持性能の演算(温度・鮮度シミュレーション)を行う技術(以下「甲2発明開示技術」という。)が開示されている。しかしながら、上記甲2発明開示技術における温度保持性能の演算(温度・鮮度シミュレーション)は、入力されたデータを鮮度予測式に代入して演算を行うものであって、その鮮度予測式は、「製品を貯蔵試験することにより得られたデータを教師データとして機械学習された予測モデル」でもなく、かつ缶製品の劣化を推定するものではない。
b また、甲3開示技術、甲4開示技術及び甲7開示技術は、既知の条件データとそれに対する結果データを複数集め、それらを機械学習させて生成した予測モデルを作成し、その予測モデルに条件データを入力して結果データを予測する技術である。しかしながら、甲3開示技術は牛肉の品質を予測するものであり、甲4開示技術は飲食品の品質を予測するものであり、甲7開示技術は増幅回路の出力を予測するものであり、どれも缶製品の劣化を推定するものではない。
c さらに、甲5開示技術及び甲6開示技術は、金属容器に関する技術を開示するものであり、甲8ないし12開示技術は、缶の腐食の評価の際の評価項目に関する技術を開示するものであるから、どれも缶製品の劣化を推定するものではない。
d 以上のことから、上記相違点1に係る構成は上記甲第2ないし12号証には開示されておらず、本願出願前において周知の技術であるとも認められない。
e そうすると、他の甲号証を参照しても、上記相違点1の構成が記載されていないのであるから、甲1発明に、甲第2ないし12号証に開示された事項を組み合わせても、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはならない。

ウ 令和4年2月8日付け特許異議申立書における申立人の主張について
申立人は、令和4年2月8日付け特許異議申立書(以下「異議申立書」という。)において、甲1発明に甲第3及び4号証に開示された周知技術1を適用して本件発明1とすることは、当業者が容易になしえたことである旨主張している。
しかしながら、上記「イ(イ)b」で検討したとおり、甲3及び4開示技術は缶の劣化を推定するものではない。また甲3及び4開示技術が、既知の条件データとそれに対する結果データを複数集め、それらを機械学習させて生成した予測モデルを作成し、その予測モデルに条件データを入力して結果データを予測する技術が周知の技術であることを開示していたとしても、甲1発明では、缶製品の劣化を推定することを行っていないのであるから、上記周知技術を適用する動機付けはなく、動機付けがあったとしても甲1発明において、どの条件がどのように缶の腐食に関連するのかを推定していないことから、その周知技術をどのように適用するのか当業者に過度の試行錯誤を強いることになる。
よって、甲1発明に甲第3及び4号証に開示された周知技術1を適用して本件発明1とすることは、当業者が容易になしえたことであるとは認められず、ゆえに上記申立人の主張は採用することができない。

エ 小括
以上のことから、甲1発明において、甲第2ないし12号証に開示された事項を採用したとしても、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得るものではない。

(2)本件発明1と甲2発明との対比・判断について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを比較する。
(ア)甲2発明の「断熱容器」は、本件発明1の「容器」に相当する。
(イ)甲2発明の「食材」は、本件発明1の「内容物」に相当する。
(ウ)甲2発明の「断熱容器に食材を封入した製品」は、本件発明1の「容器に内容物を封入した製品」に相当する。
(エ)甲2発明の「断熱容器に食材を封入した製品の温度・鮮度シミュレーションを行う設計システム」は、本件発明1の「容器に内容物を封入した製品の劣化推定システム」に相当する
(オ)甲2発明の「各部の寸法や素材を含む容器条件」は、本件発明1の「容器についての容器データ」に相当する。
(カ)甲2発明の「食材の種類や量を含む食材条件」は、本件発明1の「実際の」「容器に封入された」「内容物についての内容物データ」に相当する。
(キ)甲2発明の「外気温度や冷媒温度を含む外気条件及び冷媒条件」は、本件発明1の「実際の製品が貯蔵されていた環境についての環境データ」に相当する。
(ク)甲2発明の「断熱容器の設計支援を求めるユーザによって操作されるクライアント端末1であって、解析条件入力操作と、その入力のための入力画面の表示と、シミュレーションによる温度分布図と鮮度グラフの表示と、を行う、クライアント端末1」は、本件発明1の「劣化の推定のためのデータを入力する入力部」及び「前記入力部に入力された前記データから」「求められた前記製品の劣化の程度を出力する出力部」に相当する。
(ケ)甲2発明の「食品の鮮度劣化」は、本件発明1の「製品の劣化の程度」に相当する。

すると両者は、以下の点で一致する。
「容器に内容物を封入した製品の劣化推定システムにおいて、
劣化の推定のためのデータを入力する入力部と、
前記入力部に入力された前記データから求められた前記製品の劣化の程度を出力する出力部と、を有し、
前記入力部に入力する前記データは、劣化を推定する対象製品の前記容器についての容器データと、前記対象製品の前記内容物についての内容物データと、前記対象製品の貯蔵が予定される環境についての環境データとを含む、
劣化推定システム。」

一方で、両者は、次の点で相違する。
<相違点2>
本件発明1は、製品の容器が「金属」容器であり、「前記製品を貯蔵試験することにより得られたデータを教師データとして機械学習された予測モデル」を備え、「前記教師データは、実際の前記金属容器についての容器データと前記実際の金属容器に封入された前記内容物についての内容物データと前記実際の製品が貯蔵されていた環境についての環境データと前記実際の製品に生じていた前記劣化の程度を示す劣化データとを含」み、その予測モデルを用いて求められた金属容器の腐食による製品の劣化の程度を出力するのに対し、甲2発明は、製品の容器が「断熱」容器であり、「食材の温度変化に基づいて食品の鮮度劣化を予測する鮮度予測式」を用いて求められた断熱容器に封入された食材の温度変化による鮮度グラフを表示する点。

イ 判断
上記相違点2について検討する。
(ア)甲2発明は、断熱容器内の食材に対する温度の影響を、入力データと鮮度予測式を用いたシミュレーションにより求め、その温度変化による食材の鮮度劣化を予測するものである。
よって、鮮度予測式の作成に、甲3、4及び7開示技術が示す周知技術である、既知の条件データとそれに対する結果データを複数集め、それらを機械学習させて予測モデルを生成する技術を採用することは、当業者が容易になしえたことであると認められるが、それにより導き出された発明は、断熱容器の断熱度合いを決定する寸法や素材を含む容器条件を条件データとし、その予測モデルは断熱容器に封入された食材に対する温度の影響を予測する予測モデルである。
したがって、容器が金属容器であるという教師データを用い、容器が金属であることにより生じる金属容器の腐食の影響を考慮した予測モデルではない。
そして、甲5及び6開示技術が金属を用いた断熱容器が周知であることを示す周知技術であり、その周知技術を上記甲2発明、甲3及び4開示技術から導き出された発明に採用したとしても、容器条件のデータとしては金属を用いた断熱容器の断熱度合いでしかなく、容器が金属であることにより生じる金属容器の腐食の影響を考慮した予測モデルとはならない。
ゆえに、甲2発明に、甲3及び4開示技術が示す周知技術や甲5及び6開示技術が示す周知技術を採用したとしても、上記相違点2に係る構成を備えることとはならず、「金属容器の内部腐食による、金属容器に内容物を封入した製品の劣化を推定する」という効果を奏することはできない。
(イ)さらに、甲1発明はコーティング組成物が内部に塗布され硬化された金属製の食品および飲料包装容器の缶を試験するシステムであり、甲8ないし12開示技術は、金属缶の腐食の評価の際の評価項目に関する技術を開示するものであるから、上記相違点2に係る構成は上記甲第1,3ないし12号証には開示されておらず、本願出願前において周知の技術であるとも認められない。
(ウ)以上のことから、上記相違点2に係る構成は上記甲第1,3ないし12号証には開示されておらず、本願出願前において周知の技術であるとも認められない。
(エ)そうすると、他の甲号証を参照しても、上記相違点2の構成が記載されていないのであるから、甲2発明に、甲第1,3ないし12号証に開示された事項を組み合わせても、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはならない。

ウ 異議申立書における申立人の主張について
申立人は、異議申立書において、甲2発明に甲第5及び6号証に開示された周知技術2及び甲第3及び4号証に開示された周知技術1、又は甲第7号証に開示された周知技術3を適用して本件発明1とすることは、当業者が容易になしえたことである旨主張している。
しかしながら、上記「イ(ア)」で検討したとおり、甲3ないし7開示技術は、上記相違点2に係る構成は開示されておらず、甲3ないし7開示技術が示す周知技術を採用したとしても、上記相違点2に係る構成を備えることとはならず、「金属容器の内部腐食による、金属容器に内容物を封入した製品の劣化を推定する」という効果を奏することはできない。
よって、甲2発明に甲第5及び6号証に開示された周知技術2及び甲第3及び4号証に開示された周知技術1、又は甲第7号証に開示された周知技術3を適用して本件発明1とすることは、当業者が容易になしえたことであるとは認められず、ゆえに上記申立人の主張は採用することができない。

エ 小括
以上のことから、甲2発明において、甲第1,3ないし12号証に開示された事項を採用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得るものではない。

(3)本件発明2ないし6と甲1発明との対比・判断について
本件発明2ないし6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であり、本件発明1の発明特定事項を全て備えた発明である。
したがって、上記「(1)イ」で検討したとおり、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2ないし12号証に開示された事項を採用したとしても当業者が容易になし得るものではないから、本件発明2ないし6においても、甲1発明において、甲第2ないし12号証に開示された事項を採用したとしても、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得るものではない。
ゆえに、本件発明2ないし6を、甲第1号証に記載された発明と甲第2ないし12号証に記載された周知技術から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)本件発明2ないし6と甲2発明との対比・判断について
本件発明2ないし6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であり、本件発明1の発明特定事項を全て備えた発明である。
したがって、上記「(2)イ」で検討したとおり、甲2発明において、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第1,3ないし12号証に開示された事項を採用したとしても当業者が容易になし得るものではないから、本件発明2ないし6においても、甲2発明において、甲第1,3ないし12号証に開示された事項を採用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得るものではない。
ゆえに、本件発明2ないし6を、甲第2号証に記載された発明と甲第1,3ないし12号証に記載された周知技術から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(5)まとめ
以上のことから、本件発明1ないし6を、甲1発明及び周知技術から、または甲2発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、申立人の特許法第29条第2項についての異議申立理由は、理由がない。

3.小括
以上のとおりであるので、上記「第3」の異議申立理由はいずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、申立人が特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-04-18 
出願番号 P2020-113862
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 石井 哲
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
伊藤 幸仙
登録日 2021-07-26 
登録番号 6918187
権利者 大和製罐株式会社
発明の名称 劣化推定システム  
代理人 中本 菊彦  

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