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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03B
管理番号 1384740
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-01 
確定日 2022-05-12 
事件の表示 特願2016− 37859「反射スクリーン、映像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月 7日出願公開、特開2017−156452〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年2月29日の出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
平成31年 2月 1日 :手続補正書の提出
令和 元年10月 9日付け:拒絶理由通知書
令和 元年12月16日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 5月11日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和 2年11月16日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年11月24日 :原査定の謄本の送達)
令和 3年 2月 1日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年10月28日付け:拒絶理由通知書
令和 3年12月15日 :意見書の提出


第2 本願発明について
本願の請求項1〜13に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本願発明1」などという。)は、令和3年2月1日に提出された手続補正書により補正された請求項1〜13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】
映像源から投射された映像光を反射して映像を表示する反射スクリーンであって、
光透過性を有し、映像光が入射する第1の面とこれに対向する第2の面とを有する単位光学形状が、背面側の面に複数配列された光学形状層と、
前記単位光学形状の少なくとも前記第1の面の一部に形成された反射層と、
を備え、
前記単位光学形状は、その表面に微細かつ不規則な凹凸形状を有し、
前記反射層の前記単位光学形状側の面には、前記凹凸形状に対応した凹凸形状を有し、
前記反射層は、入射した光の一部を反射し、その他を透過する機能を有し、誘電体多層膜により形成されており、
該反射スクリーンの反射光のピーク輝度となる出射角度から輝度が1/2となる出射角度までの角度変化量を+α1,−α2とし、その絶対値の平均値をαとし、前記光学形状層の屈折率をnとし、前記第1の面が該反射スクリーンのスクリーン面方向となす角度をθ1とするとき、
該反射スクリーンの少なくとも中央において、
α<arcsin(n×sin(2×(θ1)))
という式を満たすこと、
を特徴とする反射スクリーン。」


第3 当審において通知した拒絶の理由
当審において令和3年10月28日付けで通知した拒絶の理由のうち、本願発明1についての拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

理由1(進歩性
本願発明1は、下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:中国特許出願公開第104298063号明細書
引用文献2:特表2015−524079号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:国際公開第2015/186668号(周知技術を示す文献)
引用文献6:特開2016−18195号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7:特開2005−165271号公報(周知技術を示す文献)
引用文献8:特開2009−169006号公報(技術常識を示す文献)


第4 当審の判断
1 引用発明などについて
(1) 引用発明
ア 引用文献1の記載事項
引用文献1(中国特許出願公開第104298063号明細書)には、以下の記載がある。翻訳文は当審において作成した。下線は当合議体が付与したもので、以下同様である。





(翻訳文:[0006] 本発明の前記フォーカシング構造は、V字形溝構造、周波数変換回折格子構造、マイクロプリズムアレイ構造のうちの1つである。それぞれ具体的な構造は、前記V字形溝構造の分布、方向、溝深さおよび溝幅は連続して変化し、その構造パラメータは入射する投影光線を観察者の所在位置に焦点を合わせるということを満たし、前記周波数変換回折格子構造の分布、方向、周波数変換パラメータは入射する投影光線を観察者の所在位置に焦点を合わせるということを満たし、前記マイクロプリズムアレイ構造はプリズムユニットを含み、プリズムユニットの断面は直角三角形であり、そのうち1つの直角の辺はアレイが所在する平面と直角であり、別の1つの辺はアレイ平面内にあり、プリズムユニットの頂角は鋭角であり、頂角の角度とプリズムの方向は入射する投影光線を観察者の所在位置に焦点を合わせるということを満たしている。)










(翻訳文:[0020] 実施例1
付属図1を参照すると、これは本実施例中のランダム拡散透明投影スクリーンおよびその投影表示構造の概略図である。
[0021] 透明投影スクリーン1は、第1基板層2、フォーカシング構造3、拡散構造4、部分反射膜構造5、屈折率整合層6、第2基板層7で構成されている。フォーカシング構造3は、プリズム構造として第1基板層2の下面に位置し、拡散構造4は、ランダム位相構造としてフォーカシング構造3表面に位置し、部分反射膜構造5は、誘電体膜構造としてランダム位相構造4表面にメッキされており、屈折率整合層6は、第2基板層7と部分反射膜構造5との間に充填され、その材料の屈折率は前記フォーカシング構造および拡散構造の材料の屈折率と一致している。
[0022] プロジェクタ8は、出力光9を出力し、画像を透明投影スクリーン1上に投射し、スクリーン中の部分反射膜構造5の反射により散乱光10を形成し、散乱光10は、観察者12の所在方向(スクリーン中心法線13に対して)において明瞭で均一な観察エリアを形成する。観察者12は、観察エリア内で投影画像とスクリーン後方の物体11を同時に見ることができる。
[0023] 本実施例中のフォーカシング構造3は、マイクロプリズムアレイ構造として、プリズムユニットを含み、プリズムユニットの断面は、直角三角形であり、そのうち1つの直角の辺は、アレイが所在する平面と垂直であり、別の直角の辺は、アレイ平面内に位置し、プリズムユニットの頂角は、鋭角であり、頂角の角度とプリズムの方向は、入射する投影光線を観察者の所在位置に焦点を合わせるということを満たしている。プリズムユニットの頂角の大きさとプリズムの方向と分布は投影光線の方向、観察者の方向、スクリーン中心法光線の方向の通過光線を追跡することで確定する。
[0024] 本実施例中の拡散構造4中のランダム位相構造の構造と分布は、観察エリアの大きさ、形状、観察者とスクリーンとの間の距離により確定する。ランダム位相構造は、起伏のある表面を持つレリーフ構造であり、レリーフ構造の形状、寸法と高さはランダムに分布し、レリーフ構造の拡散性能は、拡散角度分布とエネルギー分布を含み、レリーフ構造の形状および平均寸法は確定しているので、観察者の所在位置において1つの均一な観察エリアを形成することを満たしている。
本実施例中の投影システムが出力する赤、緑、青の3色の光の中心波長は、それぞれ630nm、532nm、450nmである。付属図3を参照すると、これは本実施例中で設計されている部分反射膜構造の可視光スペクトルの投射率曲線であり、部分反射膜構造は、前記赤、緑、青の3色の中心波長付近に90%より大きい反射率を備え、可視光のその他スペクトル範囲内の投射率は100%に近い。
[0025] 本実施例中の第1基板層と第2基板層の材料は、屈折率が1.58のポリカーボネート(PC)であり、フォーカシング構造3と拡散構造4の材料は、屈折率が1.56の紫外線硬化ゴムであり、屈折率整合層6の材料も屈折率が1.56の紫外線硬化ゴムである。)

図1




イ 図面から読み取れる事項の認定
引用文献1に記載の拡散構造4の「ランダム位相構造」は、「起伏のある表面を持つレリーフ構造であり、レリーフ構造の形状、寸法と高さはランダムに分布」するものであるところ([0024])、当該拡散構造4に接する部分反射膜構造5と、部分反射膜構造5に接する屈折率整合層6について、図1から、次の(ア)の構成を読み取ることができる。

(ア) 「 拡散構造4に当接する部分反射膜構造5及び部分反射膜構造5に当接する屈折率整合層6には、拡散構造4の起伏に沿った起伏が備えられ、また、屈折率整合層6には、フォーカシング構造3のマイクロプリズムアレイ構造に沿った表面形状が形成されること。」

そして、引用文献1においては、プロジェクタ8は、出力光9を出力し、画像を透明投影スクリーン1上に投射し、スクリーン中の部分反射膜構造5の反射により散乱光10を形成し、散乱光10は、観察者12の所在方向(スクリーン中心法線13に対して)において明瞭で均一な観察エリアを形成し、観察者12は、観察エリア内で投影画像とスクリーン後方の物体11を同時に見ることができるものであるところ(段落[0022])、図1から、次の(イ)の構成を読み取ることができる。

(イ) 「プロジェクタ8により出力光9が透明投影スクリーン1に投影され、散乱光10がスクリーン1内の部分反射膜構造5の反射によって形成され、この散乱光10は、スクリーン1に対してプロジェクタ8と同じ側にある観察者12の位置に向かい、スクリーンの背後にある物体11と投影画像を同時に見ることができること。」

引用発明の認定
前記ア及びイにおいて摘記した記載事項及び図示内容をまとめると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「 第1基板層2、フォーカシング構造3、拡散構造4、部分反射膜構造5、屈折率整合層6、第2基板層7で構成され([0021])、
フォーカシング構造3は、第1基板層2の下面に配置され([0021])、プリズムユニットを含むマイクロプリズムアレイ構造であり([0023])、
拡散構造4は、フォーカシング構造3の表面に配置されたランダム位相構造であり、部分反射膜構造5は、拡散構造4の表面にメッキされて得られる誘電体膜構造であり([0021])、
拡散構造4のランダム位相構造は、起伏のある表面を持つレリーフ構造であり([0024])、
この拡散構造4に当接する部分反射膜構造5及び部分反射膜構造5に当接する屈折率整合層6には、拡散構造4の起伏に沿った起伏が備えられ、また、屈折率整合層6には、フォーカシング構造3のマイクロプリズムアレイ構造に沿った表面形状が形成され(図1、前記イ(ア))、
プロジェクタ8により出力光9が透明投影スクリーン1に投影され、散乱光10がスクリーン1内の部分反射膜構造5の反射によって形成され、この散乱光10は、スクリーン1に対してプロジェクタ8と同じ側にある観察者12の位置に向かい、スクリーンの背後にある物体11と投影画像を同時に見ることができる([0022]、図1、前記イ(イ))、
透明投影スクリーン1([0021])。」

(2) 周知技術1
ア 引用文献2の記載事項
引用文献2(特表2015−524079号公報)には、以下の記載がある。
「【0182】
図1には反射で動作させることが意図された投影システムが描かれ、この投影システムはプロジェクタPと、層状素子1を備えるグレージング5とを備える。グレージングは、逆投影スクリーン(すなわちプロジェクタがグレージングの背後に位置し、見物人とプロジェクタとがグレージングによって隔てられる)としてではなく、投影スクリーン(すなわちプロジェクタP側に見物人が位置する)として使用される。
【0183】
グレージングは2つの主要外面10、20を備える。主要外面10は、見物人に見える画像がプロジェクタによって投影されるグレージング面である。主要外面20は、プロジェクタとは反対側のグレージング面である。グレージングを反射で動作する投影スクリーンとして使用していることから、見物人及びプロジェクタはグレージングの同じ側に位置する。
【0184】
層状素子1は2つの外層2、4を備え、これらは実質的に同じ屈折率n2、n4を有する透明材料から構成される。各外層2又は4はそれぞれ、層状素子の外側を向いた滑らかな主要面2A又は4A及び層状素子の内側を向いたテクスチャ加工主要面2B又は4Bを呈する。
【0185】
層状素子1の滑らかな外面2A、4Aは各面2A、4Aでの放射線の正透過、すなわち放射線の方向が変わることのない、外層への放射線の入射又は外層からの放射線の出射を可能にする。
【0186】
内面2B、4Bのテクスチャは互いに相補的である。図1からはっきりとわかるように、テクスチャ加工面2B、4Bは対向して位置決めされ、そのテクスチャは厳密に互いに平行な構成にある。層状素子1は、テクスチャ加工面2B、4Bの間に接触的に挿入された中心層3も備える。
【0187】
図2に示す代替の形態において、中心層3は単層であり、金属であるか又は外層2、4の屈折率とは異なる屈折率n3を有し透明である透明材料から構成される。図3の代替の形態において、中心層3は幾つかの層31、32、・・・3kの透明な積層体から形成され、層31〜3kの少なくとも1つは金属層又は外層2、4の屈折率とは異なる屈折率を有する透明層、好ましくは誘電体層である。好ましくは、少なくとも、積層体の両端に位置する2つの層31、3kのそれぞれは金属層又は外層2、4の屈折率とは異なる屈折率n31又はn3kを有する透明層である。」

「【0207】
単層であろうと幾つかの層の積層体によって形成されるものであろうと、テクスチャ加工面2B上へのその面と合致するような中心層3の堆積は特には、好ましくは、真空下、磁場支援型陰極スパッタリング(「マグネトロン陰極」スパッタリング)によって行われる。この技法は、基板2のテクスチャ加工面2B上に、単層をテクスチャ加工面2Bと合致するように堆積する又は積層体の異なる複数の層をテクスチャ加工面2Bと合致するように連続的に堆積することを可能にする。積層体の異なる複数の層は特には透明薄層、好ましくは誘電体層、特にはSi3N4、SnO2、ZnO、ZrO2、SnZnOx、AlN、NbO、NbN、TiO2、SiO2、Al2O3、MgF2若しくはAlF3の層又は金属薄層、特には銀、金、チタン、ニオブ、ケイ素、アルミニウム、ニッケルークロム合金(NiCr)若しくはこれらの金属の合金の層になり得る。」

【図1】




【図3】






イ 引用文献3の記載事項
引用文献3(国際公開第2015/186668号)には、以下の記載がある。
「[0024] 本実施の形態における映像投影構造体である映像投影窓について、図1に基づき説明する。本実施の形態における映像投影窓100は、透明基材10と、前記透明基材10の上に形成された表面に凹凸が形成されている第1の透明層21と、前記第1の透明層における凹凸が形成されている面に形成された反射膜30と、前記反射膜30の上に形成された第2の透明層22と、を有する。反射膜30の上には、凹凸を埋め込むように、第2の透明層22が形成されている。
[0025] 透明基材10は、ガラスまたは透明樹脂であってよい。透明基材10を構成するガラスとしては、ソーダライムガラス、無アルカリガラスが好ましい。耐久性を向上させるため、化学強化、ハードコーティング等が行われたものであってよい。透明基材10を構成する透明樹脂としては、ポリカーボネート、PETフィルム、PENフィルム、シクロオレフィンポリマーのフィルム、ポリエステルフィルム等が好ましい。透明基材10は、複屈折がないものであることが好ましい。
[0026] 透明基材10の厚さは、基材としての耐久性が保たれる厚さのものを選択できる。透明基材10の厚さは、0.01mm以上であってよく、0.05mm以上であってよく、0.1mm以上であってよい。また、10mm以下であってよく、5mm以下であってよく、0.5mm以下であってよく、0.3mm以下であってよく、0.15mm以下であってよい。
[0027] 第1の透明層21は、透明樹脂層であることが好ましい。透明樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の光硬化樹脂、熱硬化樹脂、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が好ましい。窓としての機能が損なわれないよう、透明感を維持するため、透明樹脂のイエローインデックスが10以下であると好ましく、5以下がより好ましい。第1の透明層21の透過率は50%以上であると好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
[0028] 第2の透明層22は、透明樹脂層であることが好ましい。透明樹脂としては、第1の透明層21におけるのと同様のものであってよい。第1の透明層21と同一の材料により構成されていても異なる材料により構成されていてもよいが、同一の材料により構成されていることが好ましい。第2の透明層22は、透明樹脂層であることが好ましい。第2の透明層22の透過率は50%以上であると好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
[0029] 第1の透明層21と第2の透明層22において、凹凸部分以外の厚みは、0.5μm以上50μm以下であってよい。
[0030] 反射膜30は、金属膜、誘電体の単層、多層膜、または、それらの組み合わせにより形成されており、反射膜30に入射した光の一部は透過し、他の一部は反射する。よって、反射膜30は、金属、金属酸化物、金属窒化物のうちのいずれかにより形成されていてもよい。反射膜30は、アルミニウム(Al)や銀(Ag)を含む金属材料により形成されていることが好ましい。反射膜30は、金属薄膜からなる、または、酸化物膜、金属薄膜膜、酸化物膜の順に積層された膜構成からなることが好ましい。金属薄膜の厚みは1nm〜100nm以下が好ましく、4nm〜25nm以下がより好ましい。」

[図1]




ウ 周知技術1の認定
上記ア及びイにおいて摘記した記載事項に例示されるように、次の技術事項は、本願出願前に当業者にとって周知であったと認められる(以下「周知技術1」という。)。
[周知技術1]
「 反射型スクリーンにおいて、誘電体多層膜よりなる反射膜を設けること。」

(3) 周知技術2
ア 引用文献6の記載事項
引用文献6(特開2016−18195号公報)には、以下の記載がある。
「【0019】
投影機200は、映像表示透明部材1に表示された映像の投影機200に最も近い部分における、映像表示透明部材1の第1の面Aへの映像光の入射角αが15〜60度となるように、映像表示透明部材1の第1の面A側に設置されるのが好ましい。入射角αが15度以上であれば、第1の面Aにおいて正反射した反射光Rの出射角、および結像せずに反射膜33を透過した透過光Tの出射角が大きくなるため、反射光Rや透過光Tが観察者Xや観察者Yの目に入りにくい。入射角αが60度以下であれば、映像表示透明部材1における輝度の低下が抑えられる。すなわち、映像光Lの入射角が小さければ、反射膜33で散乱し、観察者Xへ向かう散乱光が多くなり輝度は高くなるが、映像光Lの入射角が大きければ、反射膜33で散乱し、観察者Xへ向かう散乱光が少なくなり輝度は低くなる。入射角αは、15〜50度が好ましく、20〜45度がより好ましい。
投影機200から投射される映像光Lは、投影機200から離れるほど入射角が大きくなり、より正反射から離れる角度方向に散乱されなければ、観察者Xによって視認されない。そのため、オリジナルの映像に対して、投影機200に近い方の光量が小さく、投影機200に遠い方の光量が大きくなるようにして、観察者Xへ到達する光量がオリジナルの映像と同等の光量分布となるように、補正してもよい。
また、映像表示透明部材1に表示された映像の中心部分における、映像表示透明部材1の第1の面Aへの映像光Lの入射角は、30度以上であってもよい。該入射角が30度以上であれば、映像表示透明部材1に表示された映像の中心付近における、映像を形成しない強度の高い光を観察者が広い範囲で視認しづらくなる。該入射角は、45度以上がより好ましい。」

「【0050】
本発明においては、短焦点プロジェクタを用いることによって、映像表示透明部材1の第1の面Aへの映像光Lの入射角が大きくなり、映像光Lの光量の強い領域が映像表示透明部材1を大きな出射角で透過、または映像表示透明部材1の第1の面Aにて大きな出射角で正反射することによって観察者に到達しにくくなる。しかし、映像光Lの入射角が大きくなるため、透過光Tが映像表示透明部材1付近の床や天井に到達してしまう。そして、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱された光が、映像表示透明部材1に映りこんで、映像のコントラストの低下を引き起こす。
本発明においては、映像表示透明部材1の反射率を上記程度に高くすることによって、床や天井に到達する透過光Tの光量を減少させ、また、透過光Tが床や天井に到達することによって床や天井で散乱した光が、映像表示透明部材1を透過して写りこむ光量を低下させることができ、映像表示透明部材1に表示される映像のコントラストの低下を防ぐことができる。特に、映像表示透明部材1に表示された映像の投影機200に最も遠い部分における映像光Lの入射角が50度以上である場合は、透過光Tが映像表示透明部材1付近の床や天井に到達するのみでなく、床や天井で散乱された光のうち、比較的光量の多い領域である、正規反射角度からの角度差が90度未満の光が映像表示透明部材1へ到達するため、上記の効果が高くなる。」

【図1】





イ 引用文献7の記載事項
引用文献7(特開2005−165271号公報)には、以下の記載がある。

「【0094】
次に、偏光選択反射層11を備えた投影スクリーン10aと、偏光選択反射層11の観察者側の表面に、機能性保持層19として防眩層(AG層)を設けた投影スクリーン10bとを、それぞれ投影システムに適用した場合について説明する。
図9は、投影スクリーン10a,bを用いた投影システムの概念図である。
この投影システムは、投影スクリーン10a又は10bと、投影スクリーン10a又は10b上に映像光を投射する投影機21とを備えている。投影機21は、例えば、投影スクリーン10a又は10bの観察側(観察者50の側)に配置されており、選択反射波長域内の右円偏光31Rを投影スクリーン10a又は10bに投射する。
投影スクリーン10a又は10bは、上述したように、偏光選択反射層11により偏光分離性、波長選択性、散乱性を有しており、環境光(外光、照明光等)の影響を抑えて映像のコントラストを高めることができる。
【0095】
この投影システムでは、図中(a)に示すように、投影スクリーン10aに、偏光選択反射層11で反射されるべき映像光である右円偏光31Rが投射される。このため、右円偏光31Rは、偏光選択反射層11の偏光分離性、散乱性により、偏光選択反射層11の内部で拡散反射され、拡散反射光33−2として、略一定の拡散範囲で拡散する。
一方、この右円偏光31Rの一部は、偏光選択反射層11の観察者側の最表面により、界面反射され、界面反射光31Bとなる。
【0096】
ここで、観察者50に向かって拡散している拡散反射光33−2は、観察者50によって観察可能であるが、図示のように、偏光選択反射層11による界面反射光31Bの出射方向(以下、界面反射方向という)と、偏光選択反射層11による反射光(ここでは、拡散反射光33−2)が投影スクリーン(ここでは、投影スクリーン10a)から出射するときの出射主方向とが略同一方向である。なお、出射主方向とは、偏光選択反射層11で拡散反射される特定の偏光成分の拡散反射光における拡散範囲の略中心方向であって、例えば、反射強度のピークトップを示す方向をいう。
このため、観察者50は、拡散反射光33−2だけでなく界面反射光31Bも観察してしまい、その結果、投影機21の光源光が映り込み、投影スクリーン10aにおける映像の視認性が低下してしまう場合が想定される。
【0097】
この投影システムでは、図中(b)に示すように、投影スクリーン10bの全体に、偏光選択反射層11で反射されるべき映像光である右円偏光31Rが投射される。このため、右円偏光31Rは、偏光選択反射層11の偏光分離性、散乱性により、偏光選択反射層11の内部で拡散反射され、拡散反射光33−1,33−2として、略一定の拡散範囲で拡散する。
一方、この右円偏光31Rの一部は、偏光選択反射層11の観察者側の表面に設けられたAG層19により、界面反射され、界面反射光31A,31Bとなる。
【0098】
ここで、観察者50に向かって拡散している拡散反射光33−1,33−2は、観察者50によって観察可能であるが、図示のように、界面反射光31BのAG層19による界面反射方向と、拡散反射光33−1,33−2の偏光選択反射層11による出射主方向とが略同一方向である。このため、観察者50は、拡散反射光33−1,33−2だけでなく界面反射光31Bも観察してしまい、その結果、投影機21の光源光の一部が映り込み、投影スクリーン10における映像の視認性が低下してしまう場合が想定される。
【0099】
すなわち、AG層は、一般的に、通過する光に対して単にヘイズを与えるだけであり、スクリーン表面にAG層を配置した場合では、AG層は、界面反射光を散乱して、観察者側に戻す作用を有する。光源光が映り込む状況では、このAG層の作用によって、界面反射する光源光を散乱させ、観察者によって光源光を視認され難くすることができる。
しかしながら、このAG層によれば、光源光は散乱しながら観察者側に反射するために、黒表示をした場合であっても、黒を黒く観察することが困難となり、さらに、界面反射光には偏光分離による効果がないために、投影スクリーン10には、通常のマットスクリーンと同様な効果しか期待できない(すなわち、コントラストが低下してしまう)。
【0100】
したがって、投影機21の光源光の映り込みによる映像の視認性の低下を防止するためには、上述した界面反射方向と出射主方向との相対関係(具体的には、この2方向が異なるようにすること)を考慮する必要があり、本実施例に係る投影スクリーン(後述)は、この出射主方向を制御するための凹凸部を有する偏光選択反射層と、投影スクリーンの観察側の表面を平面状にすると共に、この界面反射方向を制御するための平面層とを備えている。
【0101】
ここで、偏光選択反射層の観察側に、出射主方向を制御するための凹凸部(例えば、のこぎり歯形状)を形成した投影スクリーン10−1〜4,10A〜Cについて、投影スクリーン10と比較しながら説明する。以下に示す投影スクリーン10−1〜4,10A〜Cでは、投影スクリーン10と同一部材には同一符号を付し、機能等の重複部分についての説明を適宜省略する。
図10は、本実施例に係る投影スクリーン10−1を用いた投影システムの概念図である。
投影スクリーン10−1は、上述した投影スクリーン10と比べると、偏光選択反射層11−1の観察者50側の最表面に、凹凸部40を一体に形成した点と、偏光選択反射層11−1の観察者50側に、凹凸部40を覆うと共に、投影スクリーン10−1の観察者50側の表面を平面状にする平面層20を設けた点とが異なる。
投影機21から投影スクリーン10−1に投射された右円偏光31Rは、上述したように、偏光選択反射層11−1の内部で拡散反射され、拡散反射光33−1,33−2として、略一定の拡散範囲で拡散する。
ここで、凹凸部40は、例えば、のこぎり歯形状であって、規則的な形状が繰り返されている。この規則的な形状は、傾斜面40a,40bと、この傾斜面40a,40bの傾斜角を規定する側面40a1,40b1とからなり、傾斜面40a,40bと側面40a1,40b1とは長さが異なる。なお、傾斜面40aと傾斜面40b、同じく、側面40a1と側面40b1は、それぞれ異なる符号を付したが、それぞれの長さ、傾斜角は略同一であってもよい。
【0102】
また、傾斜面40a,40bは、その法線方向40A,40Bと、複数の螺旋構造領域30の螺旋軸Lの方向(図2(a)参照)とが略同一である場合には、傾斜面40a,40bの傾斜角を調整することにより、拡散反射光33−1,33−2の出射主方向を調整することができる(理由:この場合には、拡散反射光33−1,33−2の出射主方向は、傾斜面40a,40bの法線方向40A,40B(ここでは、同一方向)を基準にして線対称に鏡面反射される方向となる:図11参照)。
【0103】
一方、この右円偏光31Rの一部は、偏光選択反射層11−1に形成された凹凸部40を覆い、投影スクリーン10−1の観察者50側の表面を平面状にする平面層20により、界面反射(ここでは、鏡面反射)され、界面反射光31A,31Bとなる。
具体的には、右円偏光31Rの一部は、平面層20の法線方向20A,20B(ここでは、同一方向)を基準にして線対称に鏡面反射されることにより、界面反射光31A,31Bとなる。
したがって、平面層20の法線方向20A,20Bと、傾斜面40a,40bの法線方向40A,40B(螺旋構造領域30の螺旋軸Lの方向と略同一とする)とを異なる方向に調整することにより、界面反射光31A,31Bの界面反射方向と、拡散反射光33−1,33−2の出射主方向とを異なる方向とすることができる。
また、平面層20は、偏光選択反射層11−1に形成された凹凸部40を覆い、投影スクリーン10−1の観察者50側の表面を平面状にしているので、投影スクリーン10−1の表面を保護して傷付きや汚れの付着などを防止する、いわゆるハードコート層(HC層)の機能を有する。したがって、平面層20によれば、投影スクリーン10−1の観察側の表面を平面状にすることにより、投影スクリーン10−1を保護して、耐久性(例えば、傷や摩耗に強い等)を向上させることができる。」

【図9】




【図10】




【図11】





ウ 周知技術2の認定
上記ア及びイにおいて摘記した記載事項に例示されるように、次の技術事項は、本願出願前に当業者にとって周知であったと認められる(以下「周知技術2」という。)。
[周知技術2]
「 反射型スクリーンにおける課題として、投影光のスクリーン表面での正反射光が観察者の目に入り難くなるように、観察領域の範囲外へ正反射させる必要があること。」

(4) 技術常識
ア 引用文献8の記載事項
引用文献8(特開2009−169006号公報)には、以下の記載がある。
「【0025】
次に、サーキュラーフレネルレンズ部12の各単位プリズム120の角度について説明する。
第1斜面(フレネル面)121の角度(フレネル角)αは、斜め下方の前面投射型表示装置2から投写された映像光線L0を、スクリーン正面方向へ反射するような角度に設定される。第2斜面(ライズ面)122の角度(ライズ角)βは、斜め下方の前面投射型表示装置2から投写された映像光線L0が第2斜面(ライズ面)122に入射しないような角度に設定される。
【0026】
図9を参照して、前面投射型表示装置2からの映像光L0をスクリーン1の正面に向けて反射させるためには、第1斜面(フレネル面)121の角度αは次のようになる。なお、フレネルの円弧をR、プロジェクタ2の投写距離をdとする(図10参照)。
【0027】


【0028】
上記(1)式を満たすθについて第1斜面121の角度(フレネル角)αが次のように求められる。
【0029】

【0030】
第2斜面122の角度(ライズ角)βに関しては、映像光L0の反射ロスを防ぐために、投射映像光L0が第2斜面(ライズ面)122に入射しない角度に設定する必要がある。
すなわち、次の関係式を満たす必要がある。
【0031】

【0032】
第2斜面122の角度(ライズ角)βについては光学性能上、特にその上限はない。
しかし90度を超えると成形型の製造や成形が困難になるため、90度以下とすることが好ましい。
【0033】
図11を参照して、表層に屈折率nの透明保護層124で最表面が平面になるようオーバーコートした場合について説明する。
このようなオーバーコートをした場合、オーバーコートする透明媒質の屈折率をn、透明媒質による屈折角をθ'とすると、映像光L0の入射角θに対して次の関係になる。
【0034】

【0035】

【0036】
すなわち、第1斜面121の角度(フレネル面)の角度αは次のようになる。
【0037】

【0038】
また、第2斜面122の角度(ライズ角)βに関しては次の式となる。
【0039】

【0040】
以上の説明では第1斜面(フレネル面)121の角度αについて、スクリーン全面で映像光線をスクリーン正面方向へ反射する角度設計について述べたが、本発明はこれに限るものではない。
例えば上下左右いずれかの方向へ偏向して反射させる設計や、スクリーン正面へやや収束するように内向きに反射させる設計としても良い。」

【図9】





【図11】





イ 技術常識の認定
上記アで引用した引用文献8の記載に沿って検討すると、映像光をスクリーンの正面に反射させる反射型スクリーンにおいて、フレネルレンズの円弧をR、プロジェクタ2の投写距離をdとし、単位プリズムの傾斜角度α(本願発明1のθ)、映像光の入射角θ(本願明細書のφ)、透明媒質の屈折率をn、透明媒質による屈折角をθ'とすると、映像光L0の入射角θと、上記α、θ'、R、dの間に、次の(1)式及び(6)式の関係があることは、幾何光学的に導出されることであり、技術常識であるといえる。





2 対比・判断について
(1) 対比
本願発明1と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「プロジェクタ8」及び「プロジェクタ8」による「出力光9」は、本願発明1の「映像源」及び「映像源から投射された映像光」に相当する。
また、引用発明の透明投影スクリーン1は、プロジェクタ8により出力光9が透明投影スクリーン1に投影され、散乱光10がスクリーン1内の部分反射膜構造5の反射によって形成され、この散乱光10は、スクリーン1に対してプロジェクタ8と同じ側にある観察者12の位置に向かうものであるところ、この「出力光9」が「反射」されて「観察者12の位置に向かう」ことは、本願発明1において、「映像光を反射して映像を表示すること」に相当し、引用発明の「透明投影スクリーン1」は、反射スクリーンであるといえるから、本願発明1の「反射スクリーン」に相当する。
よって、本願発明1と引用発明は、「映像源から投射された映像光を反射して映像を表示する反射スクリーン」の発明である点で一致する。

イ 引用発明の「透明投影スクリーン1」は、スクリーンの背後にある物体11を見ることができるのであるから、スクリーン全体が透明であり、「透明投影スクリーン1」の構成要素である「屈折率整合層6」も透明であり、光透過性を備えていると認められる。
また、引用発明においては「屈折率整合層6」には、「フォーカシング構造3のマイクロプリズムアレイ構造に沿った表面形状が形成され」ているところ、「屈折率整合層6」のマイクロプリズムアレイ構造に沿った表面形状が形成される面は、本願発明1の「背面側の面」に相当する。そして、「マイクロプリズムアレイ構造」は、複数のプリズムユニットを含むから、前記「屈折率整合層6」の「表面形状」には、各プリズムユニットのそれぞれに対応する光学形状が形成されていると認められ、この「屈折率整合層6」の「表面形状」におけるプリズムユニットに対応する光学形状は、本願発明1の「単位光学形状」に相当する。
また、引用発明の「プリズムユニット」は、引用文献1の段落[0023]に記載されているとおり、プリズムユニットのアレイが所在する平面と垂直である辺と、アレイ平面内に位置する辺を含む直角三角形の断面形状のものであるところ、「プリズムユニット」断面における直角三角形の斜辺を含む面に対向する「屈折率整合層6」の面と、「プリズムユニット」断面におけるアレイ平面と垂直の辺を含む面に対向する「屈折率整合層6」の面は、本願発明1の「映像光が入射する第1の面」と、「これに対向する第2の面」に相当する。
よって、本願発明1と引用発明は、「反射スクリーン」が「光透過性を有し、映像光が入射する第1の面とこれに対向する第2の面とを有する単位光学形状が、背面側の面に複数配列された光学形状層」を備える点で一致する。

ウ 引用発明の「屈折率整合層6」は、「部分反射膜構造5」と「屈折率整合層6」の「フォーカシング構造3」側の面で当接するところ、「屈折率整合層6」と「部分反射構造5」の当接面に前記イで説示した、「プリズムユニット」断面における直角三角形の斜辺を含む面に対向する「屈折率整合層6」の面が含まれることは明らかである。そして、引用発明の「部分反射膜構造5」が「屈折率整合層6」と、「プリズムユニット」断面における直角三角形の斜辺を含む面に対向する「屈折率整合層6」の面で当接することは、本願発明1の「反射層」が「前記単位光学形状の少なくとも前記第1の面の一部に形成され」ることに相当する。
よって、本願発明1と引用発明は、「反射スクリーン」が「前記単位光学形状の少なくとも前記第1の面の一部に形成された反射層」を備える点で一致する。

エ 引用発明の「屈折率整合層6」には、「拡散構造4の起伏に沿った起伏が備えられ」ているところ、この「拡散構造4」の「起伏」は、ランダム位相構造、すなわち、「起伏のある表面を持つレリーフ構造」が含む起伏であって、本願明細書の段落【0024】の記載からみて、「形状、寸法と高さがランダムに分布する起伏」であるから、「屈折率整合層6」の備える「起伏」は、不規則な形状なものであると認められる。また、「拡散構造4」の「起伏」が「フォーカシング構造3」の含む「マイクロプリズムアレイ構造」に形成されるものであるから、「屈折率整合層6」の備える起伏も微細なものである。そして、前記イにおける検討結果を踏まえると、「屈折率整合層6」の「拡散構造4」側には、各プリズムユニットのそれぞれに対応する光学形状が形成されているのであるから、当該光学形状が前記起伏を備えていることが認められる。
そうすると、引用発明の「屈折率整合層6」の各プリズムユニットのそれぞれに対応する光学形状が有する、「起伏」は、本願発明1の「単位光学形状」が有する「微細かつ不規則な凹凸形状」に相当する。
よって、本願発明1と引用発明は、「光学形状層」の「単位光学形状」が「微細かつ不規則な凹凸形状」を有する点で一致する。

オ 引用発明の「部分反射膜構造5」は、「拡散構造4」に当接し、「拡散構造4の起伏に沿った起伏」を備えているところ、前記エで検討したことを踏まえると、「屈折率整合層6」の各プリズムユニットのそれぞれに対応する光学形状が有する「起伏」が「拡散構造4の起伏に沿った起伏」であることから、「部分反射膜構造5」の「起伏」は、「屈折率整合層6」の起伏に対応した起伏である。そのため、引用発明の「部分反射膜構造5」が有する、起伏は、本願発明の「反射層」の「前記凹凸形状に対応した凹凸形状」に相当する。
よって、本願発明1と引用発明は、「前記反射層の前記単位光学形状側の面には、前記凹凸形状に対応した凹凸形状を有」する点で一致する。

カ 引用発明の「部分反射膜構造5」は、プロジェクタ8による出力光9を反射し、当該「部分反射膜構造5」は、スクリーンの背後にある物体がスクリーンを介して視認可能であることから、「部分反射膜構造5」は、入射した光の一部を反射し、かつ、透過性を備え該出力光9の一部を透過する機能を備えることは明らかである。さらに、引用発明の「部分反射膜構造5」は、誘電体膜構造である。
よって、本願発明1と引用発明は、「反射層」を備え、「前記反射層は、入射した光の一部を反射し、その他を透過する機能を有し、誘電体膜により形成」されている点で共通する。

上記ア〜カの対比結果をまとめると、本願発明1と引用発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点1、2で相違する。

[一致点]
「 映像源から投射された映像光を反射して映像を表示する反射スクリーンであって、
光透過性を有し、映像光が入射する第1の面とこれに対向する第2の面とを有する単位光学形状が、背面側の面に複数配列された光学形状層と、
前記単位光学形状の少なくとも前記第1の面の一部に形成された反射層と、
を備え、
前記単位光学形状は、その表面に微細かつ不規則な凹凸形状を有し、
前記反射層の前記単位光学形状側の面には、前記凹凸形状に対応した凹凸形状を有し、
前記反射層は、入射した光の一部を反射し、その他を透過する機能を有し、誘電体膜により形成される、
反射スクリーン。」

[相違点1]
本願発明1の反射膜が誘電体多層膜であるのに対して、引用発明の誘電体膜により形成される部分反射膜構造5は、多層構造であるか否かが不明である点。

[相違点2]
本願発明1においては、「反射スクリーンの反射光のピーク輝度となる出射角度から輝度が1/2となる出射角度までの角度変化量を+α1,−α2とし、その絶対値の平均値をαとし、前記光学形状層の屈折率をnとし、前記第1の面が該反射スクリーンのスクリーン面方向となす角度をθ1とするとき」、
「α<arcsin(n×sin(2×(θ1)))という式を満たす」のに対して、
引用発明においては、そのような式を満たす旨の特定はなく、前記特定をみたすか否か不明である点。

(2) 判断
上記相違点1及び2について以下検討する。
ア 相違点1について
反射型スクリーンにおいて、誘電体多層膜よりなる反射膜を設けることは、周知の技術である(前記1(2)ウの[周知技術1]参照)。
このような周知の技術を引用発明に適用して、上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用発明においては、プロジェクタ8により出力光9が透明投影スクリーン1に投影され、散乱光10がスクリーン1内の部分反射膜構造5の反射によって形成され、この散乱光10は、スクリーン1に対してプロジェクタ8と同じ側にある観察者12の位置に向かい、スクリーン中心法線13において明瞭で均一な観察エリアを形成しているところ、前記1(3)ウに周知技術2として示したように、スクリーン表面での投影光の正反射光を、観察者の目に入り難くなるように、視野の範囲、すなわち、観察エリアの外へ正反射させるようにする必要があることは、当業者にとって周知の課題である。

そして、透明媒質の屈折率がn、投影光の正反射光の反射角度と一致する投影光の入射角度θであり、プリズムユニットの傾斜角度がαであるときには、前記1(4)イにおいて示した技術常識から、当該1(4)イにおける(1)及び(6)式の関係が満たされるところ、この式(6)に式(1)を代入して変形すると、反射型スクリーンにおいて成り立つ次の関係式が導かれる。
θ=arcsin((nsin(2α)))
そして、投影光の正反射光の反射角度をスクリーンの観察エリア外とすること、すなわち、arcsin((nsin(2α)))の角度を、前記観察エリアを画定する視野角よりも大きくすることは、上記技術常識から自明である、上記周知の課題に対応するために必須の構成条件を単位プリズム構造の傾斜角度αを含む数式で表したにすぎない。
そして、引用発明の観察エリアを画定する視野角の基準として、ピーク輝度となる輝度から1/2となる輝度の出射角度までを視野範囲として設定すること、すなわち、「該反射スクリーンの反射光のピーク輝度となる出射角度から輝度が1/2となる出射角度までの角度変化量を+α1,−α2とし、その絶対値の平均値」を視野角として定義することは、当業者が適宜設定し得る設計事項にすぎない。
よって、引用発明において、周知技術2や技術常識を適用して、相違点2に係る本願発明1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 検討のまとめ
上記ア及びイの検討内容をまとめると、引用発明、周知技術1、周知技術2及び技術常識に基づいて、上記相違点1及び2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者にとって格別の困難性はない。
そして、本願発明1の奏する効果についても、引用発明、周知技術1、周知技術2及び技術常識から当業者が予測可能な範囲内のものにすぎず、格別顕著なものであるということはできない。
したがって、本願発明1は、引用発明、周知技術1、周知技術2及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 請求人の主張について
(1) 主張の概要
令和3年12月15日に提出した意見書において、請求人は概ね次のア及びイの主張をしている。
ア 主張1
引用文献1の[0006]の記載等から、引用発明の収束構造3は、回折現象を利用したものであると推察され、光学設計が異なるから、引用発明における「第1の面」に相当する面の傾斜方向等は、本願発明1のものと大きく異なる。

イ 主張2
引用文献1〜3、6〜8に記載の発明は、いずれも本願発明1の構成Hを備えていない。
<構成H>
「 該反射スクリーンの反射光のピーク輝度となる出射角度から輝度が1/2となる出射角度までの角度変化量を+α1,−α2とし、その絶対値の平均値をαとし、前記光学形状層の屈折率をnとし、前記第1の面が該反射スクリーンのスクリーン面方向となす角度をθ1とするとき、
該反射スクリーンの少なくとも中央において、
α<arcsin(n×sin(2×(θ1)))
という式を満たすこと」

(2) 検討
上記(1)の主張について検討する。
ア 主張1について
前記1(1)ウに示したとおり、引用発明の「フォーカシング構造」は、「プリズム構造」としてのものであって、「周波数変換回折格子構造」を有するものではないから、引用発明の「収束構造」は、回折現象を利用するものではない。よって、請求人の主張1を採用することはできない。

イ 主張2について
この構成Hは、前記2(1)における相違点2に相当するところ、当該相違点2については、前記2(2)に示したとおりである。よって、請求人の主張2を採用することはできない。

ウ 検討のむすび
上記ア及びイで検討したとおり、請求人の主張1及び主張2は、いずれも採用することができない。

第5 むすび
以上検討のとおりであるから、本願発明1は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-03-10 
結審通知日 2022-03-15 
審決日 2022-03-28 
出願番号 P2016-037859
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 濱本 禎広
清水 靖記
発明の名称 反射スクリーン、映像表示装置  
代理人 正林 真之  
代理人 芝 哲央  
代理人 林 一好  

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