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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B29C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B29C
管理番号 1384753
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-10 
確定日 2022-06-14 
事件の表示 特願2020− 27541「発泡限界加硫度特定用の加硫金型及びこれを備える試験装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月 9日出願公開、特開2021−130279、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2020−27541号(以下「本件出願」という。)は、令和2年2月20日の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和2年 6月 9日付け:拒絶理由通知書
令和2年10月15日付け:手続補正書
令和2年10月15日付け:意見書
令和2年11月 4日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和3年 2月10日付け:手続補正書
令和3年 2月10日付け:審判請求書


第2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、以下のとおりである。
理由1(新規性)及び理由2(進歩性
本件出願の(令和2年10月15日にした補正後の)請求項1〜5に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記引用文献1に記載された発明であるか、もしくは、当該発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条1項3号に該当するか、もしくは、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないというものである。
引用文献1:特開2017−71057号公報


第3 本件発明
本件出願の請求項1〜5に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、令和3年2月10日にした補正後の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1〜5の記載は以下のものである。
「【請求項1】
上下対をなす、上部金型と下部金型とを備え、前記下部金型には、未加硫の試料ゴムを充填して、加熱し加圧加硫して、長手方向に加硫度が連続的に変化する、発泡限界観察用のゴム試験体を作製するキャビティが設けられている加硫金型であって、
前記キャビティは、長手方向の一端側から他端側に向けて漸次深さが増加する楔形の第1キャビティと、前記第1キャビティの他端に連接延在する態様で、加硫中の試料ゴムの昇温曲線を計測する場として温度センサが配置される第2キャビティとを備え、
前記第1キャビティの長手方向に沿った断面は、前記第1キャビティの厚さ中心線を対称軸として線対称となるような形状を有し、
前記第2キャビティの所定の壁部には、外部から前記温度センサを前記第2キャビティ内の所定の測温部位に挿抜自在に配置するための温度センサ挿入口が設けられ、
前記温度センサの先端部は、前記第1キャビティの厚さ中心線の中点に向けて前記上部金型からの熱と前記下部金型からの熱とが均等に加わる位置に配置されていることを特徴とする発泡限界加硫度特定用の加硫金型。
【請求項2】
前記温度センサは、棒状の熱電対温度センサからなり、金属細管と、前記金属細管に連接された樹脂細管と、前記金属細管及び前記樹脂細管に収容され、熱接点となる先端部が前記樹脂細管の一端から露出する熱電対とを備えることを特徴とする請求項1に記載の発泡限界加硫度特定用の加硫金型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発泡限界加硫度特定用の加硫金型を備え、前記加硫金型の前記第1キャビティから、長手方向に加硫度に対応付けられる発泡の程度が連続的に変化する、前記発泡限界観察用のゴム試験体を得ると共に、前記第2キャビティから、加硫中の前記試料ゴムの昇温曲線データを取得するための試験装置であって、
前記上部金型を下降させて前記下部金型と圧着させて、前記第1キャビティと前記第2キャビティとに流動充填された未加硫の試料ゴムを加熱して加圧加硫する加圧機構と、前記温度センサ挿入口を介して、前記第2キャビティ内の所定の測温部位に挿抜自在に配置され、加硫中の試料ゴムの昇温曲線を計測する前記温度センサとを備えてなることを特徴とする発泡限界加硫度特定用の試験装置。
【請求項4】
前記試料ゴムを所定時間加圧加硫した後、前記加圧機構の圧力を大気圧に開放することによって、加圧によってバネに蓄えられた反力によって前記上部金型が僅かに押し上げられる除圧状態を保持する除圧保持機構をさらに備えることを特徴とする請求項3記載の発泡限界加硫度特定用の試験装置。
【請求項5】
前記下部金型は、所定の駆動機構により、前記温度センサに対して水平方向に移動可能に構成され、
前記下部金型が、前記温度センサに向けて前進移動すると、前記温度センサ挿入口を介して前記温度センサが前記第2キャビティに配置され、前記下部金型が、前記温度センサに対して後進移動すると、前記温度センサ挿入口を介して前記温度センサが前記第2キャビティから抜脱される構成となっていることを特徴とする請求項4記載の発泡限界加硫度特定用の試験装置。」


第4 当合議体の判断
1 引用文献1の記載及び引用文献1に記載された発明
(1)引用文献1の記載
引用文献1は、本件出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体において付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲の記載】
【請求項1】
上下対をなす、上部金型と下部金型とを備え、少なくとも、前記下部金型には、未加硫の試料ゴムを充填して、加熱し加圧加硫して、長手方向に加硫度が連続的に変化する、発泡限界観察用のゴム試験体を作製するキャビティが設けられている加硫金型であって、
前記キャビティには、長手方向の一端側から他端側に向けて深さが変化する、前記ゴム試験体を作製するための第1キャビティに加えて、該第1キャビティに連接延在する態様で、加硫中の試料ゴムの昇温曲線を計測する場として温度センサが配置される第2キャビティが増設されていて、
前記第2キャビティの所定の壁部には、外部から、前記温度センサを第2キャビティ内の所定の測温部位に挿抜自在に配置するための温度センサ挿入口が設けられていることを特徴とする発泡限界加硫度特定用の加硫金型。
【請求項2】
前記第1キャビティは、長手方向の一端側から他端側に向けて漸次深さが増加する態様に設定されている一方、前記第2キャビティは、前記第1キャビティの他端に連接されて、前記第1キャビティの最深部よりも浅く、最浅部よりも深い、均一な所定の深さに設定されていることを特徴とする請求項1記載の発泡限界加硫度特定用の加硫金型。
【請求項3】
前記第2キャビティ内の前記所定の測温部位は、当該第2キャビティの深さ方向中心部又はその近傍に設定されていて、前記温度センサ挿入口を介して前記温度センサが前記第2キャビティに配置される際には、当該測温部位に前記温度センサの熱接点が位置決めされる構成となっていることを特徴とする請求項1又は2記載の発泡限界加硫度特定用の加硫金型。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発泡限界加硫度特定用の加硫金型およびこれを備える試験装置に係り、とくには、開発段階で、新素材ゴムの加硫条件を検討する際や新素材ゴム製品のシミュレーションを行う際などに用いて好適な発泡限界加硫度特定用の加硫金型およびこれを備える試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムは熱の不良導体であるので、肉厚のゴム片を両面から加熱すると、厚さ中心部は表層部に比べて昇温が遅れる。ゴム製品の生産工程において、必要な充填材や配合薬品を混合済みの未加硫ゴムに熱と圧力を加える加圧加硫工程では、もしも、昇温の遅い厚さ中心部が十分に加硫されていない“生焼け”の状態で加圧加硫処理が終了し、除圧された加硫装置から加硫済みのゴム製品を取り出すと、その“生焼け”部分に微小な気泡(ブローン)が発生する。
この種の気泡の存在は、そのゴム製品の使用時に、種々の不具合を生じさせる原因となる。とくに、気泡が残存する“生焼け”部分を含む自動車タイヤが出荷されると、高速走行時の自動車タイヤのバースト破壊を誘発するおそれがあるので、対策が必要である。
【0003】
一方、“生焼け”防止のために、加圧加硫の処理時間をいたずらに長くすることは、熱エネルギの浪費や生産速度の低下などの原因となるだけでなく、余分な加熱処理自体がゴムの材質を劣化させて、種々の材料特性を損なう原因となるので、加圧加硫時間を必要最小限度に抑えることも必要である。
そこで、伝熱遅れに基づく加硫不足が生じがちな厚さ中心部においても、品質に影響を与える気泡は一切存在しない加硫ゴムを得るために最小限必要な加硫度、すなわち、発泡限界加硫度(以下、これをブローポイントともいう)を測定し特定しておくことは、新素材ゴム製品の製造工程における加硫条件を検討する際や開発した新素材ゴム製品のシミュレーションを行う際などに大変有用である。
【0004】
新素材ゴム製品の開発にあたって、加硫条件の検討などのために実施される、ブローポイントを特定するための試験は、概ね、次の手順に従って行われる。
まず、加硫金型に設けられた、緩やかな勾配をもつ楔形のキャビティ内に試料ゴムを充填して、加硫過程で、試料ゴムの所定の厚さ中心部(厚さ既知)に温度センサをあてがって、試料ゴムの内部昇温を計測するとともに、加硫金型によって、長手方向に厚さが漸次緩やかに変化する態様に成型された加硫済みのゴム試験体を得る。
次に、裁断機を用いて、加硫済みのゴム試験体の厚さ中心面を露出させ、露出した厚さ中心面の発泡状態を断面観察する。このとき、ゴム試験体の厚さが増加するにつれて、大きな気泡が観察され、反対に、ゴム試験体の厚さが減少するにつれて、気泡は微小化し、やがて、“生焼け”は消滅して気泡を確認できなくなる、ことが判っている。したがって、確認できる微小気泡の発生限界点、すなわち、発泡限界部位を特定し、こののち、基準位置から発泡限界部位までの長さと、基準位置の厚さとゴム試験体の勾配とに基づいて、発泡限界部位でのゴム試験体の厚さを算出する。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
・・・中略・・・
【0026】
この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、温度センサを変形や損傷からまもることができる発泡限界加硫度特定用の加硫金型およびこれを備える試験装置を提供することを第1の目的としている。
また、この発明は、試料ゴム(ゴム試験体)の発泡限界観察領域と温度センサの投入配置領域との干渉を確実に回避できる発泡限界加硫度特定用の加硫金型およびこれを備える試験装置を提供することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するために、この発明の第1の構成は、上下対をなす、上部金型と下部金型とを備え、少なくとも、前記下部金型には、未加硫の試料ゴムを充填して、加熱し加圧加硫して、長手方向に加硫度が連続的に変化する、発泡限界観察用のゴム試験体を作製するキャビティが設けられている加硫金型に係り、前記キャビティには、長手方向の一端側から他端側に向けて深さが変化する、前記ゴム試験体を作製するための第1キャビティに加えて、該第1キャビティに連接延在する態様で、加硫中の試料ゴムの昇温曲線を計測する場として温度センサが配置される第2キャビティが増設されていて、前記第2キャビティの所定の壁部には、外部から、前記温度センサを第2キャビティ内の所定の測温部位に挿抜自在に配置するための温度センサ挿入口が設けられていることを特徴としている。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
・・・中略・・・
【実施形態1】
【0034】
以下、図面を参照して、この発明の一実施形態について説明する。
図1は、この発明の一実施形態であるブローポイント特定用の試験装置であって、下部金型が前進し、温度センサが挿着された状態の同試験装置の構成を概略示す図、また、図2は、同ブローポイント特定用の試験装置であって、下部金型が後進し、温度センサが抜脱された状態の同試験装置の構成を概略示す図である。図3は、下部金型の構成を概略示す図で、同図(a)は平面図、(同図b)は正面図、また、図4は、下部金型の構成を示す側面図で、同図(a)は、温度センサが下部金型に挿着された状態の内部構成を破線で示す図、同図(b)は、温度センサが下部金型から抜脱された状態の内部構成を破線で示す図である。
【0035】
まず、この実施形態の装置主要部の全体構成から説明する。
この実施形態の試験装置は、発泡限界観察用の加硫済みのゴム試験体を得るとともに、加熱、加圧加硫中の試料ゴムの昇温曲線データを取得するための装置に係り、装置主要部は、加硫金型と、加圧機構と、装置本体に不動状態に固定される温度センサと、除圧保持機構と、これらを支え固定し収容するフレーム構造体とを備えて概略構成されている。
【0036】
次に、図1−図4を参照して、この実施形態の装置各部について説明する。
上記加硫金型は、上下対をなす、上部金型1と下部金型2とから主要部が構成されている。上記上部金型1は、下部金型2と相対向する圧着面が、平面状に形成されている。下部金型2には、上部金型1と相対向する圧着面に、平面視長方形で、長手方向の一端側(図中右)から他端側(図中左)に向けて漸次深さが増加する楔形の第1キャビティ3と、該第1キャビティ3の他端に隔壁なしで連接延在する深さ均一の第2キャビティ4とが設けられている。上記上部金型1は、後述する加圧機構の作動の下で、昇降可能に構成されている。また、上記下部金型2は、自身が動くことで、装置本体に不動状態に固定されている温度センサ5を挿抜できるように、後述する下部金型駆動機構によって、温度センサ5に向けて、あるいは、温度センサ5から離れる方向に、水平移動自在に駆動制御される構成となっている。
【0037】
ここで、上記第1キャビティ3は、上記加圧機構の作動の下で、上部金型1と下部金型2とが型締めされると、投入充填された未加硫の試料ゴムに楔形の形状を与える試験体形成空間部となり、該空間部内では、流動充填された試料ゴムが加熱され加圧加硫されて、長手方向に加硫度が連続的に変化する、発泡限界観察用のゴム試験体が形成される。
次に、図4に詳細に示すように、上記第2キャビティ4は、第1キャビティ3の長手方向に、第1キャビティ3と空間的には段差を有して延在連結されているものの、型締め後は、第1キャビティ3(試験体形成空間部)とは別個独立の測温専用空間部となって、該空間部内で加硫される試料ゴムが、温度センサ5による昇温曲線計測の対象となる。第2キャビティ4の深さは、同図に示すように、第1キャビティ3の最深部よりも浅く、最浅部よりも深く設定されている。これは、発泡限界部位は、第1キャビティ3の最深部と最浅部の中間にあるので、第2キャビティ4の深さも、上記中間に相当する深さに設定することが、試験結果の信頼性を高める上で好ましいためである。この実施形態では、第1キャビティ3の最浅部が5mmに、最深部が22mmに、第2キャビティ4の深さが14mmに、段差が8mmに、第1キャビティ3と第2キャビティ4とを合わせた全長が160mmに、それぞれ設定されている。なお、これらの寸法は、一例を示したに過ぎず、装置規模、測定規模などに応じて、適宜変更し得る。
【0038】
ここで、図3および図4に示すように、第2キャビティ4の壁部のうち、下部金型2の一端面に相当する壁部(図中左方)には、外部から、温度センサ5の先端部を、第2キャビティ4内の、その深さ中心面上で幅中心の所望の奥行き(あらかじめ決められた適正測温部位、簡単にいえば、適正測温点)に挿抜自在に配置できる機能を備えた温度センサ挿入口6が設けられている。この機能実現のために、この温度センサ挿入口6は、その全部あるいは一部が、テーパ状に形成されていて、外部側の開口が広口で、第2キャビティ4側の開口が狭口となっている。」

エ 「【図3】


【図4】


【図5】



(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の特許請求の範囲には、請求項1及び請求項2を引用する請求項3に係る「発泡限界加硫度特定用の加硫金型」の発明(以下「引用発明1」という。)として、以下のものが記載されている。
「上下対をなす、上部金型と下部金型とを備え、少なくとも、前記下部金型には、未加硫の試料ゴムを充填して、加熱し加圧加硫して、長手方向に加硫度が連続的に変化する、発泡限界観察用のゴム試験体を作製するキャビティが設けられている加硫金型であって、
前記キャビティには、長手方向の一端側から他端側に向けて深さが変化する、前記ゴム試験体を作製するための第1キャビティに加えて、該第1キャビティに連接延在する態様で、加硫中の試料ゴムの昇温曲線を計測する場として温度センサが配置される第2キャビティが増設されていて、
前記第2キャビティの所定の壁部には、外部から、前記温度センサを第2キャビティ内の所定の測温部位に挿抜自在に配置するための温度センサ挿入口が設けられ、
前記第1キャビティは、長手方向の一端側から他端側に向けて漸次深さが増加する態様に設定されている一方、前記第2キャビティは、前記第1キャビティの他端に連接されて、前記第1キャビティの最深部よりも浅く、最浅部よりも深い、均一な所定の深さに設定され、
前記第2キャビティ内の前記所定の測温部位は、当該第2キャビティの深さ方向中心部又はその近傍に設定されていて、前記温度センサ挿入口を介して前記温度センサが前記第2キャビティに配置される際には、当該測温部位に前記温度センサの熱接点が位置決めされる構成となっている発泡限界加硫度特定用の加硫金型。」

2 対比及び判断
(1)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
ア 上部金型、下部金型、キャビティ及び加硫金型
引用発明1の「加硫金型」は、「上下対をなす、上部金型と下部金型とを備え、少なくとも、前記下部金型には、未加硫の試料ゴムを充填して、加熱し加圧加硫して、長手方向に加硫度が連続的に変化する、発泡限界観察用のゴム試験体を作製するキャビティが設けられている」、「発砲限界加硫度特定用の」ものである。
上記構成からみて、引用発明1の「上部金型」、「下部金型」、「キャビティ」及び「加硫金型」は、その文言が示すとおり、本件発明1の「上部金型」、「下部金型」、「キャビティ」及び「加硫金型」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1の「加硫金型」は、本件発明1の「加硫金型」の「上下対をなす、上部金型と下部金型とを備え、前記下部金型には、未加硫の試料ゴムを充填して、加熱し加圧加硫して、長手方向に加硫度が連続的に変化する、発泡限界観察用のゴム試験体を作製するキャビティが設けられている」との要件を満たす。また、引用発明1の「加硫金型」は、本件発明1の「加硫金型」の「発砲限界加硫度特定用の」との要件を満たす。

イ 第1キャビティ及び第2キャビティ
引用発明1の「キャビティ」は、「長手方向の一端側から他端側に向けて深さが変化する、前記ゴム試験体を作製するための第1キャビティに加えて、該第1キャビティに連接延在する態様で、加硫中の試料ゴムの昇温曲線を計測する場として温度センサが配置される第2キャビティが増設されていて」、「前記第1キャビティは、長手方向の一端側から他端側に向けて漸次深さが増加する態様に設定されている」。
上記構成からみて、引用発明1の「第1キャビティ」及び「第2キャビティ」は、その文言が示すとおり、本件発明1の「第1キャビティ」及び「第2キャビティ」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1の「第1キャビティ」は、本件発明1の「第1キャビティ」の「長手方向の一端側から他端側に向けて漸次深さが増加する楔形の」との要件を満たす。また、引用発明1の「第2キャビティ」は、本件発明1の「第2キャビティ」の「前記第1キャビティの他端に連接延在する態様で、加硫中の試料ゴムの昇温曲線を計測する場として温度センサが配置される」との要件を満たす。さらに、本件発明1の「キャビティ」は、本件発明1の「キャビティ」の「第1キャビティと」、「第2キャビティとを備え」との要件を満たす。

ウ 所定の壁部、所定の測温部位及び温度センサ挿入口
引用発明1の「第2キャビティ」は、「所定の壁部には、外部から、温度センサを第2キャビティ内の所定の測温部位に挿抜自在に配置するための温度センサ挿入口が設けられ」ている。
上記構成からみて、引用発明1の「所定の壁部」、「所定の測温部位」及び「温度センサ挿入口」は、その文言が示すとおり、本件発明1の「所定の壁部」、「所定の測温部位」及び「温度センサ挿入口」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1の「第2キャビティ」は、本件発明1の「第2キャビティ」の「所定の壁部には、外部から前記温度センサを前記第2キャビティ内の所定の測温部位に挿抜自在に配置するための温度センサ挿入口が設けられ」との要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本件発明1と引用発明1とは、以下の点で一致する。
「上下対をなす、上部金型と下部金型とを備え、前記下部金型には、未加硫の試料ゴムを充填して、加熱し加圧加硫して、長手方向に加硫度が連続的に変化する、発泡限界観察用のゴム試験体を作製するキャビティが設けられている加硫金型であって、
前記キャビティは、長手方向の一端側から他端側に向けて漸次深さが増加する楔形の第1キャビティと、前記第1キャビティの他端に連接延在する態様で、加硫中の試料ゴムの昇温曲線を計測する場として温度センサが配置される第2キャビティとを備え、
前記第2キャビティの所定の壁部には、外部から前記温度センサを前記第2キャビティ内の所定の測温部位に挿抜自在に配置するための温度センサ挿入口が設けられている発泡限界加硫度特定用の加硫金型。」

イ 相違点
本件発明1と引用発明1とは、以下の点で相違もしくは一応相違する。
(相違点1)
本件発明1が、「第1キャビティの長手方向に沿った断面は、前記第1キャビティの厚さ中心線を対称軸として線対称となるような形状を有し」ているのに対し、引用発明1の「第1キャビティ」は、そのように形状が特定されていない点。

(相違点2)
本件発明1が、「温度センサの先端部は、前記第1キャビティの厚さ中心線の中点に向けて、前記上部金型からの熱と前記下部金型からの熱とが均等に加わる位置に配置されている」のに対し、引用発明1の「キャビティ」は、温度センサの先端部がそのように配置されるようには特定されていない点。

(3)判断
技術的関連性に鑑みて、上記相違点1及び相違点2をまとめて検討する。
本件発明1は、【0020】に示されるとおり、引用文献1に記載の金型を、従来技術として認識したうえで、当該従来技術においては、「発泡限界観察用のゴム試験体を作製する第1キャビティの形状に配慮がなされていないため、上部金型と下部金型のそれぞれから第1キャビティ(試料充填空間)の厚さ中心に均等に熱が伝達されにくく」、また「キャビティ内に配置される温度センサ1のレイアウトについても配慮がなされていない結果」、「試料ゴムの正確な昇温速度・昇温曲線が得られがたく、ひいては、試料ゴムの発泡限界加硫度の特定精度及び試験結果の再現性が不十分である」という課題を解決すべく、上記相違点1に係る「第1キャビティの長手方向に沿った断面は、前記第1キャビティの厚さ中心線を対称軸として線対称となるような形状」を採用し、かつ、上記相違点2に係る「温度センサの先端部は、前記第1キャビティの厚さ中心線の中点に向けて、前記上部金型からの熱と前記下部金型からの熱とが均等に加わる位置に配置されている」構成とした点に、技術的意義を有するものである。

一方、引用文献1には、「第1キャビティ」の形状について、「下部金型2には、上部金型1と相対向する圧着面に、平面視長方形で、長手方向の一端側(図中右)から他端側(図中左)に向けて漸次深さが増加する楔形の第1キャビティ3」(【0036】)と記載され、「第1キャビティ3の最浅部が5mmに、最深部が22mmに、第2キャビティ4の深さが14mmに、段差が8mmに、第1キャビティ3と第2キャビティ4とを合わせた全長が160mmに、それぞれ設定されている。なお、これらの寸法は、一例を示したに過ぎず、装置規模、測定規模などに応じて、適宜変更し得る。」(【0037】)と記載されるにとどまり、その図4及び図5を参照しても、「第1キャビティ」の長手方向の一端側(図中右)と他端側(図中左)の側壁は、上部金型の底面あるいは下部金型の上面に対して垂直であることが見て取れる。そうすると、引用文献1のこれらの記載からは、試料ゴムの昇温速度・昇温曲線の正確性を向上させるために、第1キャビティの長手方向に沿った断面を、前記第1キャビティの厚さ中心線を対称軸として線対称となるような形状とし、上部金型と下部金型のそれぞれから第1キャビティ(試料充填空間)の厚さ中心に均等に熱が伝達されるようにする技術思想を読み取ることはできない。まして、引用発明1においては、「上部金型からの熱と前記下部金型からの熱とが均等に加わる位置」を想定していないのであるから、温度センサの先端部を、前記第1キャビティの厚さ中心線の中点に向けて、配置するはずもない。
したがって、本件発明1は引用発明1であるということはできない。
また、引用発明1において、上記相違点1及び相違点2に係る構成を採用することは、引用文献1の記載に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるということもできない。

(4)本件発明1の効果について
本件発明1は、上記相違点1及び相違点2に係る構成とすることで、上部金型と下部金型のそれぞれから第1キャビティ(試料充填空間)の厚さ中心により均等に熱が伝達されることになり、試料ゴムのより正確な昇温速度・昇温曲線が得られ、ひいては、試料ゴムの発泡限界加硫度の特定精度及び試験結果の再現性が向上するという、引用文献1の記載から予測しがたい格別な効果を奏するものである。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件出願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるということはできない。また、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

3 本件出願の請求項2〜5について
本件出願の請求項2〜5は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明であるということはできない。また、同様に、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。


第5 原査定の拒絶の理由について
理由1(新規性)について、上記「第4」「2(2)イ」及び「2(3)」で述べたとおり、本件発明1と引用発明1には、実質的な相違点が存在するので、本件発明1が引用発明1であるということはできない。
また、理由2(進歩性)について、上記「第4」「2(3)」で述べたとおり、上記相違点は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
したがって、原査定の理由1及び理由2を維持することはできない。


第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-05-31 
出願番号 P2020-027541
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B29C)
P 1 8・ 113- WY (B29C)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 松波 由美子
特許庁審判官 小濱 健太
井口 猶二
発明の名称 発泡限界加硫度特定用の加硫金型及びこれを備える試験装置  
代理人 友野 英三  

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