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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1384760
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-22 
確定日 2022-06-06 
事件の表示 特願2019−500297「ダイヤモンド材料から作製された減衰全反射結晶」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月11日国際公開、WO2018/007329、令和 元年 7月18日国内公表、特表2019−520581、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)7月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年7月4日 英国)を国際出願日とする出願であって、令和元年11月27日付けで拒絶理由が通知され、令和2年5月29日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月30日付けで拒絶査定(原査定)がされたところ、これに対し、令和3年2月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされ、令和3年3月23日に手続補正書(方式)が提出され、その後、当審から令和3年8月30日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和4年3月1日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年9月30日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1ないし6に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献A及びBに記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、原査定の備考欄に記載された内容から見て、引用文献Bを主引用例としたものと認められる。

引用文献等一覧
A 特開平5−322745号公報
B 特開平6−129979号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1 (明確性)本件出願は、特許請求の範囲の請求項5及び6に記載された発明が明確でないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 (進歩性)本件出願の請求項1ないし6に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項、及び引用文献3ないし5に記載された周知な技術事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1 特開平5−322745号公報(拒絶査定時の引用文献A)
2 特開2003−42952号公報(当審において新たに引用した文献)
3 特開2012−52957号公報(当審において新たに引用した文献)
4 特開2008−298460号公報(当審において新たに引用した文献)
5 特開2004−85433号公報(当審において新たに引用した文献)

第4 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、令和4年3月1日にされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1及び5は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
分析される試料の減衰全反射(ATR)分光用のATR結晶であって、
ATR結晶がダイヤモンド材料から形成され、かつ
赤外線分析ビーム用の入射面、赤外線分析ビーム用の出射面、および分析される試料と接触するための作用面を有するように構成されており、ここでATR結晶が、入射面および出射面を形成する2つだけの平坦な面取り側壁、および作用面を形成する面取り円柱の端面を含む面取り円柱の形態をしており;
入射面、出射面および作用面が、使用に際して、分析ビームが、入射面を通って、分析される試料と接触している作用面の内側に向かい、次いで分析される試料と接触している作用面の内側で内面反射することにより、分析ビームが出射面を通ってATR結晶の外へ出ることができるように構成されており、
前記作用面が凸曲面であり、2から100μmの範囲の深さを有するセグメントを画定することを特徴とする、ATR結晶。」

「【請求項5】
赤外線ビーム源、請求項1から4のいずれか1項に記載のATR結晶、および検出器を含むATR分光計。」

なお、本願発明2ないし4は、本願発明1を減縮した発明である。

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)当審拒絶理由に引用された引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審において付加した。引用文献の記載において以下同様。)。
(引1−ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 サンプルの内反射分光分析を向上するために電磁結合を改善するよう固体サンプルの接触に適合された少なくとも1つの湾曲面を含む基体を具える内反射体。
【請求項2】 湾曲サンプル接触面が凸形を有する切頭半球である請求項1に記載の内反射体。」

(引1−イ)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】本発明は、一般に、内反射体(IRE:internal reflection element)に関連し、かつ特に、分析されている固体あるいは液体の小さい部分との接触を保証するよう湾曲面を有することが好ましい内反射体に関連している。
【0002】
【背景技術】内反射分光学(IRS:internal reflection spectroscopy)は固体および液体を分析する分析技術として受け入れられている。生産品質制御あるいは品質保証法として、液体、ペースト、マル(mull)等のIRS 分析は全く広く採用されている。液体サンプルにIRS を使用する流行はスペクトラ・テクニック・サークル(Spectra-Tech Circle) セルおよび水平減衰全反射(horizontal ATR)(接触子TM[ContactorTM])アクセサリの受け入れと共に増大している。」

(引1−ウ)「【0004】固体に対して、高い信頼性、再現性がありかつ光度分析的に正確な結果は、高度に規則正しく、特殊な特性表面を持つ固体を除いて、現在存在する装置では容易に達成されない。IRS技術は内反射体サンプル接触面のすぐ近傍(10ミクロン以下)のサンプルとのIRE内エネルギーの電磁結合に依存しているから、サンプルの面形態(surface morphology)は結合の程度と得られた測定に大きく影響する。
【0005】赤外線サンプリング装置の製造業者ならびにIRS技術の使用者は固体サンプルとの適当な電磁結合をよく保証するため過去20から30年にわたっていくつかの構造あるいは手順を提案してきた。一方ではこれらの技術は限定された改善を電磁結合に与えてはいるが、どんな一般構造あるいはプロセスも工業で広く受け入れられておらず、特に固体サンプルの定量的データが必要な場合にそうである。」

(引1−エ)「【0007】「内反射分光学(Internal Reflectance Spectroscopy)」(John Wiley &Son, Inc.)なる本、およびハリック(Harrick)により書かれた「IRS 概観および補遺(IRS Review and Supplement)(1985, Marcel Dekker, Inc.)は減衰全反射(ATR: attenuated total reflectance)現象の使用により材料を分析するIREを開示した。これらのIREは単一内反射体(SIRE:single internal reflection element)あるいは多重内反射体(MIRE:multiple internal reflection element)として一般に分類されている。ここで使用されたような頭字語(acronym)IREはSIREとMIREの双方を意味している。)

(引1−オ)「【0011】
【発明の開示】相対的に大きい、平坦な底部サンプル面を持つ商業的に利用可能なIREは、固体サンプルの表面と接触する場合に、サンプルの「定量的」評価の一貫して再現できるFTIR測定を保証する十分に信頼性のある接触を保証していない。出願人が変化したIRE幾何学的形状が湾曲凸サンプル接触面を有する場合、測定の再現性と精度は著しく改善される。
【0012】主要湾曲サンプル接触面は固体を分析するために使用されたSIREに最も重要である。しかし、湾曲結晶サンプリング面は多重内反射体に拡張でき、かつ液体の分析に使用されたSIREにもまた拡張できる。
【0013】出願人はサンプル接触面を直径として500ミクロン以下に、好ましくは直径として100ミクロン以下に保持することにより、測定の再現性と精度が湾曲接触面に、および小さい平坦接触面に対しても改善されることを見いだした。相対的に小さいサンプル接触面により、分析すべきサンプル量は分析を行う能力を危険にさらすことなく相対的に小さくでき、同時に検出確度を改善する。例えば、液体サンプルの液滴(droplet)は信頼性のある電磁結合を保証するためにその間の良好な嵌合インターフェースを得るようIREの100ミクロンの平坦サンプル接触面により接触できる。非常に小さいサンプル接触面の使用により、良好な結合インターフェースを保証するのに必要とされた力は最小にされ、同時にIREシステムの信号対雑音特性は最大にされる。」

(引1−カ)「【0022】その目的で、赤外線のような放射エネルギー9はサンプル6に対する選択入射角おもってIRS光学系によりIREに向けられている。放射エネルギーはIREの湾曲面4と、そこに電磁的に結合されたサンプル6の面とに接触している。若干の放射エネルギーはサンプル6に吸収され、かつ残りの放射エネルギーは10に示されたように反射されている。反射された放射エネルギーは変更された形でIRS光学系により検出器に戻されている。検出器はどんな放射エネルギーがサンプルにより吸収されたかを決定することにより分析すべきサンプルを特徴付けることができる。」

(引1−キ)「【0026】さて図4を見ると、単一内反射結晶体18は湾曲サンプル接触面21を規定する切頭半球20と一体に形成された基体あるいはプリズム19を有している。例示されたように、湾曲サンプル接触面21は、たとえそのたいていの頻繁な使用が反対の下向き対面方向であっても、それは上向きに対面する。」

(引1−ク)「【図面の簡単な説明】
・・・
【図4】図4は湾曲サンプル接触面を有する固定角SIREである。」

(引1−ケ)【図1】




(引1−コ)【図4】




(2)ア 引用文献1の上記記載から、以下のことがいえる。
(ア)上記(引1−イ)の「【背景技術】・・・液体サンプルにIRSを使用する流行はスペクトラ・テクニック・サークル(Spectra-Tech Circle) セルおよび水平減衰全反射(horizontal ATR)(接触子TM[ContactorTM])アクセサリの受け入れと共に増大している。」及び上記(引1−エ)の「【0007】・・・減衰全反射(ATR: attenuated total reflectance)現象の使用により材料を分析するIREを開示した。」との記載から、上記(引1−コ)の【図4】に記載された単一内反射結晶体18を含め、引用文献1に記載された内反射体は、減衰全反射(ATR)現象の使用により材料を分析するためのものであることが読み取れる。

(イ)上記(引1−ウ)の「【0005】赤外線サンプリング装置の製造業者ならびにIRS技術の使用者は・・・」及び上記(引1−カ)の「【0022】その目的で、赤外線のような放射エネルギー9はサンプル6に対する選択入射角おもってIRS光学系によりIREに向けられている。」との記載から、【図4】に記載された単一内反射結晶体18を使用する際にサンプルに照射する放射エネルギーは、赤外線の光束を含むものと解される。

(ウ)上記(引1−ク)の「【図4】図4は湾曲サンプル接触面を有する固定角SIREである。」との記載、上記(引1−コ)の【図4】に記載された単一内反射結晶体18の基体あるいはプリズム19の形状、及び、プリズムを用いた減衰全反射(ATR)では放射エネルギーの入射面と出射面は異なるという本願の優先日当時の技術常識から、単一内反射結晶体18の使用に際し、放射エネルギーは、基体あるいはプリズム19の側面から入射し、湾曲サンプル接触面21で内面反射し、基体あるいはプリズム19の反対側の側面から出射するものといえる。

(エ)上記(引1−オ)の「【0013】出願人はサンプル接触面を直径として500ミクロン以下に、好ましくは直径として100ミクロン以下に保持することにより、測定の再現性と精度が湾曲接触面に、および小さい平坦接触面に対しても改善されることを見いだした。」との記載から、上記(引1−コ)の【図4】に記載された単一内反射結晶体18は、湾曲サンプル接触面21を直径として100ミクロン以下とする態様を含んでいるといえる。

イ 上記アを踏まえると、上記(引1−ア)ないし(引1−コ)の記載から、引用文献1には、
「 内反射分光学において減衰全反射(ATR)現象の使用により材料を分析するための固定角SIREである単一内反射結晶体18であって、
湾曲サンプル接触面21を規定する切頭半球20と一体に形成された基体あるいはプリズム19を有し、
湾曲サンプル接触面21は、直径として100ミクロン以下であり、
サンプルに照射する放射エネルギーとして赤外線の光束が使用され、放射エネルギーは、基体あるいはプリズム19の側面から入射し、湾曲サンプル接触面21で内面反射し、基体あるいはプリズム19の反対側の側面から出射するものである、
単一内反射結晶体18。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

2 引用文献2について
(1)当審拒絶理由に引用された引用文献2には、以下の記載がある。
(引2−ア)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、赤外吸収スペクトルを測定して解析する赤外分子振動解析装置と、生体から測定された臨床検査に関わる生体データを測定する生体データ測定システムおよび方法とに関するものであり、特に、生体から赤外吸収スペクトルを非侵襲的に検出することで、上記生体データを容易かつ確実に測定することを可能とする赤外分子振動解析装置と、生体データ測定システムおよび方法とに関するものである。」

(引2−イ)「【0026】上記赤外分子振動解析装置においては、上記プローブを形成する材質がセレン化亜鉛であるとともに、被接触部に形成される上記接触薄膜がダイヤモンド薄膜であることが好ましい。
【0027】上記構成によれば、セレン化亜鉛は、特に赤外光に高い透過性を示す特性を有する絶縁体であり、赤外光を用いる光学機器で好適に用いられるものである。それゆえ本発明でもプローブを形成する材質としてはセレン化亜鉛が好ましく用いられる。また、ダイヤモンドは高い硬度と優れた光学的性質とを有しているとともに、赤外線の屈折率はセレン化亜鉛のそれと同等となっている。具体的には、赤外線の屈折率をnとした場合、セレン化亜鉛もダイヤモンドも、何れもn=2.4とほぼ同じである。その結果、セレン化亜鉛製のプローブにおける被接触部に、ダイヤモンド製の強固な接触薄膜を貼り付けることで、プローブ内に入射した赤外光をほぼ全反射させることが可能になる。」

(引2−ウ)「【0051】本発明にかかる赤外分子振動解析装置は、測定対象物にプローブを接触させることで該測定対象物から赤外吸収スペクトルのパターンを検出して解析し、的確な測定結果を得るものであり、特に、プローブを容易に交換可能とする構造を有しており、また、検出した赤外吸収スペクトルをニューラルネットワークを用いて解析するようになっている。」

(引2−エ)「【0056】上記プローブ21は、少なくとも、赤外光を透過する材質からなり測定対象物に接触する被接触部を有している。プローブ21の被接触部には、赤外光を透過するとともにプローブ21を形成する材質とは赤外光の屈折率がほぼ同等な材質からなる上記接触薄膜22が形成されている。また、上記被接触部とは反対側となる位置に、プローブ21内外に赤外光を導くための赤外光入出部26が形成されている。」

(引2−オ)「【0058】上記プローブ21が有する赤外光入出部26は、具体的には、図2(a)・(b)に示すように、赤外光をプローブ21内部に導入する赤外光入射面26aと、赤外光をプローブ21外部に出射する赤外光出射面26bとを有する構成となっている。本実施の形態では、上記赤外光入射面26aおよび赤外光出射面26bは一定の角度を形成するように配置されている。
【0059】上記プローブ21の形状は、一方に被接触部が形成されており、他方に上記赤外光入出部26が形成されている略柱状の構成であれば特に限定されるものではない。それゆえ、プローブ21の本体については、図2(a)に示すような正方形の断面を有する四角柱状であってもよいし、図2(b)に示すような円柱状であってもよい。」

(引2−カ)「【0094】次に、上記構成を有する、本実施の形態における分子振動アナライザー10による赤外吸収スペクトルの測定について説明する。
【0095】まず、測定対象物を、プローブ21の被接触部(接触薄膜22)に接触させる。その後、IR制御部31の制御によって、赤外光源32から赤外光が発せられ、入射光伝達ファイバー24aおよび入射光学系24bを介してプローブ21の赤外光入射面26a(赤外光入出部26)に導入される。
【0096】そして、赤外光は、図4に示すように、赤外光入射面26aからプローブ21内に入射した後(図中L1の光路)、プローブ21内面で一度反射した上で被接触部に達する(図中L2の光路)。被接触部には、図示しないが測定対象物が接触しているので、測定対象物に赤外光が照射されることによって、該測定対象物に含まれる物質の特性に応じて特定の波長の赤外光が吸収される。ここで被接触部には上記接触薄膜22が形成されているので、この接触薄膜22にて、赤外光はプローブ21内部側にほぼ全反射される(図中L3の光路)。
【0097】さらに、上記赤外光は、入射時と同様にプローブ21内面で一度反射した上で赤外光出射面26bに到達する(図中L4の光路)。その後、赤外光は、赤外光出射面26bから出射光学系25bおよび出射光伝達ファイバー25aを介して赤外光検出部33に達し、ここで赤外吸収スペクトルとして検出される。検出された赤外吸収スペクトルは粗データとして、ピーク情報処理部34に出力され、ここでA/D変換およびピーク情報の分類がなされた後、解析用データとしてNNs解析部35に出力される。
【0098】NNs解析部35では、所定のアルゴリズムにしたがって、解析用データ(分類されたピーク情報)を解析して測定結果とする。ニューラルネットワークスでは、自律学習により人工的かつランダムに変化率を設定することで、上記ピーク情報の強度等を変化させた上で、分類の基準となった変化因子の変動を判断し、測定結果として生成する。この測定結果は、即座に生成できるだけでなく、ニューラルネットワークスによる自律学習のさせ方により、どの変化因子がどの程度強い変化を示しているかなどの多様な判断を含む測定結果を生成することが可能になっている。」

(引2−キ)【図2】(b)




(2)ア 上記(引2−カ)の【図2】(b)の記載から、赤外光入射面及び赤外光出射面は、円柱状の本体の底面を斜めに半分切り落としたときに形成される平面の形状であることが見て取れる。

イ 上記アを踏まえると、上記(引2−ア)ないし(引2−キ)の記載から、引用文献2には、
「赤外吸収スペクトルを測定して解析する赤外分子振動解析装置に用いる、測定対象物に接触させるプローブ21について、円柱状の本体の一方に被接触部が形成され、他方に赤外光入出部26が形成されており、被接触部には接触薄膜22が形成され、赤外光入出部26は、赤外光をプローブ21内部に導入する赤外光入射面26aと、赤外光をプローブ21外部に出射する赤外光出射面26bとを有し、赤外光入射面26a及び赤外光出射面26bは、円柱状の本体の底面を斜めに半分切り落としたときに形成される平面の形状とし、プローブ21を形成する材質がセレン化亜鉛であり、被接触部に形成される接触薄膜22がダイヤモンド薄膜であり、赤外光は、赤外光入射面26aからプローブ21内に入射した後、プローブ21内面で一度反射した上で被接触部に達し、被接触部には接触薄膜22が形成されているので、この接触薄膜22にて、赤外光はプローブ21内部側にほぼ全反射され、入射時と同様にプローブ21内面で一度反射した上で赤外光出射面26bに到達するようにすること」
という技術事項(以下「引用文献2技術事項」という。)が記載されているものと認められる。

3 引用文献3ないし5について
(1)当審拒絶理由に引用された引用文献3には、以下の記載がある。
(引3−ア)「【0016】
赤外吸収スペクトルの測定は、板型プリズム、光ファイバープローブ、ダイヤモンドプリズム等の試料接触部3を用いた減衰全反射法(Attenuated Total Reflection spectroscopy:ATR法)によって行うことができる。試料接触部3の材質としては特に制限はないが、屈折率が2.4以上のものが好ましく、ゲルマニウム、ダイヤモンドなどを用いることができる。」

(2)当審拒絶理由に引用された引用文献4には、以下の記載がある。
(引4−ア)「【0017】
図2Bにおいて、前記装置本体3の内部には、前記検査光照射部7aに対応して、ダイヤモンドATR(全反射減衰分光法:Attenuated Total Reflection)エレメント11、すなわち、ダイヤモンド製のATR結晶が配置されている。」

(3)当審拒絶理由に引用された引用文献5には、以下の記載がある。
(引5−ア)「【0020】
高温高圧試料用ATRプローブ4の先端部には、耐熱性、耐圧性、耐食性に優れた素材であるダイヤモンドで作られたATR結晶5が設置されており、このATR結晶5は、耐圧容器6の内側の試料溜7に満たされた高温高圧(例えば、500℃、40MPa)の試料、すなわち、超臨界流体などを含んだ高温高圧高腐食性の試料中に挿入されている。」

4 引用文献Bについて
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Bには、以下の記載がある。
(引B−ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は単一はね返り(シングルバウンズ)の内面反射素子(IRE)としてダイヤモンドを利用する放射エネルギー分光装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】特殊な形状にカットしたダイヤモンドは多数はね返り(マルチプルバウンス)の内面反射素子として用いられている。このマルチプルバウンスのダイヤモンドIREは一般に台形状の側壁と、角度を付けた端壁と、平坦な頂部及び底部壁とを有している。このようなマルチプルバウンスのダイヤモンドIREは極めて高価である。このために、本出願人の知る限りではこの特殊なマルチプルバウンスのダイヤモンドIREはコストの面からして、これまでは分光装置用としては市販されたことがないと思料する。又、いずれかのダイヤモンドをシングルバウンスのIREとして用いたり、或いはいずれかの標準アンビルカットのダイヤモンドをシングルバウンスのIREとして用いることも気付かれていなかった。
【0003】大抵の標準カットの形状をしているダイヤモンドは複数のファセットを有している。そのために、ダイヤモンドファセットの光学的結像特性は、エネルギービームを或る個所から、その個所へと集束させる目的には極めて劣るものであると予期されている。実際上、ファセットは可視ビームを「ばらばら」にして、可視光が「きらめき」を出すべくスクランブルさせるようにするために用いられる。これは単一の内面反射を望む分光装置に使用する目的とは明らかに相反することである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は分光装置におけるシングルバウンスの内面反射素子として標準のアンビルカットのダイヤモンドを用いることにある。シングルバウンスのIREとしてのダイヤモンドは硬く、耐薬品性で、丈夫であり、試料への圧力を高くでき、しかも光学的透明度も高いと言う利点がある。
【0005】本発明の他の目的は放射エネルギー分光装置のシングルバウンスIREとして特殊カットのダイヤモンドを提供することにある。シングルバウンスのIREとしてのダイヤモンドの各面の角度及び形状を所定なものとすることによって、そのダイヤモンドの光学的特性を改善することができる。ファセットの数を増やし、これらファセットを小さくし、且つ(1990年12月6日出願の米国特許願第07/622,852号に記載されているような) 開口数の高い光学系によって作られる多少球状をしている波面にほぼ垂直となるようにすることによりダイヤモンドをシングルバウンスのATR結晶として非常に有効なものとすることができる。」

(引B−イ)「【0009】
【実施例】先ず図1を参照するに、ここには本発明による放射エネルギー分光装置を1にて総称して示してある。この装置は放射エネルギー源3と、可視光源4と、マスク5と、二次ミラー6及び一次ミラー7を含む対物レンズ系と、9にて総称する単一はね返り(シングルバウンス)のダイヤモンドIREと、放射エネルギー検出器10とを含むことができる。
【0010】放射エネルギー源3は非可視エネルギー、好ましくは赤外エネルギーを分光装置の12にて総称する光路に沿って放射する。この放射エネルギー源3によって供給される放射エネルギーは試料を分析するのに用いられ、この場合の試料は反応室内に入れてある流体13とする。
【0011】放射エネルギー源3は可視光源4と交互に用いることができる。慣例の切換ミラー14を2つの位置間にて枢動させて、放射エネルギーか、可視光のいずれかを光路12に沿う方向に向けることができる。図1に示す実線位置ではミラー14が放射エネルギーを分光装置に通す。切換ミラー14を図1に示す破線位置へ枢動させると、このミラーは可視光を分光装置の光路に沿う方向に向ける。この可視光を慣例の接眼レンズに通して見て、試料13の特定な分析試験のための光学系を設定するのに役立てることができる。
【0012】なお、分析試験は種々のマスク5又は他の光学素子を用いて様々な試験をすることができる。図1に示すように、入口開口15と出口開口16を有しているマスク5を光路12内に位置させる。図示のように、入口開口15及び出口開口16はATRの研究をすることのできる光学系を通る中心線から等距離の所に位置させる。マスク5における開口の大きさを制限すれば、ほぼ半球状をした波面の選択された部分だけが分光装置の対物レンズ系及びIRE部分に入ったり、出たりする。」

(引B−ウ)「【0016】図1及び図2に明示するように、ダイヤモンドIRE9はテーブル23、クラウン部分24、ガードル25、パビリオン部分26及びキューレット27を具えている。図2に示すダイヤモンド9は標準のブリリアンカット又は変更ブリリアンカットのダイヤモンドとする。テーブル及びキューレットには多数の辺があり、これらの形状はほぼ丸くなっていると見なすことができる。このダイヤモンド9はテーブルファセット29及びパビリオンファセット30を具えている。クラウン角度31は30°〜40°の範囲内の角度、好ましくは34−1/2°とし、パビリオン角度32は25°〜45°の範囲内の角度、好ましくは約45°のパビリオン角度とする。
【0017】図1に示すように、テーブル面23を二次ミラー6用の本体の頂部表面に当接させて位置させ、パビリオン部分26を反応室の底壁における開口によって規定される円錐面に対して封止させ、キューレット27を試料13に接触させて位置させる。本例では放射エネルギーがダイヤモンド9のクラウン部分24から入って、クラウン部分から出る。」

(引B−エ)「【0019】なお、シングルバウンスのダイヤモンドIREとしては図3〜図6に示すような他の標準アンビル(anvil)カットのダイヤモンド又は特殊カットのダイヤモンドを使用することができる。」

(引B−オ)「【0028】例えば図2〜図6に示すダイヤモンドの1つを利用する図1の分光装置を放射エネルギー分析モードで作動させる場合、放射エネルギーはマスク5の入口開口15を通過してから、二次ミラー6及び一次ミラー7にて反射して、ダイヤモンド9のクラウン部分24の片側を通過して、キューレット27にて1度だけ反射されて、クラウン部分24に逆戻りしてから、一次ミラー7及び二次ミラー6にて反射されてマスク5の出口開口16を通過して検出器10へと至る。放射エネルギーは試料13(例えば、液相又は固相)により多少吸収される。検出器10は反応室に入れた試料をその試料により吸収される放射エネルギーに基づいて特徴づけることができる。」

(引B−カ)【図1】




(引B−キ)【図2】




(2)上記(引B−ア)ないし(引B−キ)の記載から、引用文献Bには、
「 シングルバウンスのATR結晶として、標準のブリリアンカットのダイヤモンド、他の標準アンビルカットのダイヤモンド又は特殊カットのダイヤモンドを使用したダイヤモンドIRE9であって、
テーブル及びキューレットには多数の辺があり、これらの形状はほぼ丸くなっていると見なすことができ、
分光装置を放射エネルギー分析モードで作動させる場合、キューレット27を試料13に接触させて位置させ、放射エネルギー源3が放射した赤外エネルギーは、マスク5の入口開口15を通過してほぼ半球状をした波面の選択された部分だけが、ダイヤモンドIRE9のクラウン部分24の片側を通過して、キューレット27にて1度だけ反射されて、クラウン部分24に逆戻りし、マスク5の出口開口16を通過して検出器10へと至るように利用される、ダイヤモンドIRE9。」
の発明(以下「引用発明B」という。)が記載されているものと認められる。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「材料」は「サンプル」として分析されるものであるから、引用発明の「材料」及び「サンプル」は、いずれも本願発明1の「分析される試料」に相当する。

イ 引用発明の「単一内反射結晶体18」は、「内反射分光学において減衰全反射(ATR)現象の使用により材料を分析するため」のものであるから、本願発明1の「ATR結晶」に相当する。

ウ 上記ア及びイの対比から、引用発明の「内反射分光学において減衰全反射(ATR)現象の使用により材料を分析するための」「単一内反射結晶体18」は、本願発明1の「分析される試料の減衰全反射(ATR)分光用のATR結晶」に相当する。

エ 引用発明の「放射エネルギーとして」「使用され」る「赤外線の光束」は、本願発明1の「赤外線分析ビーム」に相当する。

オ 上記エを踏まえると、引用発明の「放射エネルギー」が「入射」する「基体あるいはプリズム19の側面」及び「放射エネルギー」が「出射する」「基体あるいはプリズム19の反対側の側面」は、それぞれ本願発明1の「赤外線分析ビーム用の入射面」及び「赤外線分析ビーム用の出射面」に相当する。

カ 引用発明の「湾曲サンプル接触面21」は、本願発明1の「分析される試料と接触するための作用面」に相当する。

キ 引用発明の「放射エネルギーは、基体あるいはプリズム19の側面から入射し、湾曲サンプル接触面21で内面反射し、基体あるいはプリズム19の反対側の側面から出射するものである」は、本願発明1の「入射面、出射面および作用面が、使用に際して、分析ビームが、入射面を通って、分析される試料と接触している作用面の内側に向かい、次いで分析される試料と接触している作用面の内側で内面反射することにより、分析ビームが出射面を通ってATR結晶の外へ出ることができるように構成されており」に相当する。

ク 引用発明の「湾曲サンプル接触面21」は「切頭半球20」により「規定」されることと、本願発明1の「前記作用面が凸曲面であり、2から100μmの範囲の深さを有するセグメントを画定すること」とは、「前記作用面が凸曲面であり、ある範囲の深さを有するセグメントを画定すること」で共通する。

(2)そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「 分析される試料の減衰全反射(ATR)分光用のATR結晶であって、
赤外線分析ビーム用の入射面、赤外線分析ビーム用の出射面、および分析される試料と接触するための作用面を有するように構成されており、
入射面、出射面および作用面が、使用に際して、分析ビームが、入射面を通って、分析される試料と接触している作用面の内側に向かい、次いで分析される試料と接触している作用面の内側で内面反射することにより、分析ビームが出射面を通ってATR結晶の外へ出ることができるように構成されており、
前記作用面が凸曲面であり、ある範囲の深さを有するセグメントを画定する、ATR結晶。」
の発明の点で一致し、以下の相違点1ないし3において相違する。

(相違点1)
「ATR結晶」の材料について、本願発明1においては、ATR結晶が「ダイヤモンド材料」から形成されているのに対し、引用発明においては、単一内反射結晶体18を形成する材料の種類は特定されていない点。

(相違点2)
「ATR結晶」の形態について、本願発明1においては、「入射面および出射面を形成する2つだけの平坦な面取り側壁、および作用面を形成する面取り円柱の端面を含む面取り円柱の形態をして」いるのに対し、引用発明においては、「湾曲サンプル接触面21を規定する切頭半球20と一体に形成された基体あるいはプリズム19」であるが、「基体あるいはプリズム19」の形状は特定されておらず、「入射面」及び「出射面」に相当する「基体あるいはプリズム19」の「側面」が「平面」であるか否かも不明である点。

(相違点3)
「作用面」が「確定する」「セグメント」の「深さ」の「範囲」が、本願発明1においては、「2から100μm」と特定されているのに対し、引用発明においては、「湾曲サンプル接触面21は、直径として100ミクロン以下であ」るものの、「湾曲サンプル接触面21を規定する切頭半球20」の深さについては特定されていない点。

(3)判断
ア 事案に鑑み、最初に相違点2について検討する。
(ア)引用文献2技術事項と本願発明1とを対比すると、引用文献2技術事項の「円柱状の本体の一方に被接触部が形成され、他方に赤外光入出部26が形成されており」、「赤外光入出部26は、赤外光をプローブ21内部に導入する赤外光入射面26aと、赤外光をプローブ21外部に出射する赤外光出射面26bとを有し、赤外光入射面26a及び赤外光出射面26bは、円柱状の本体の底面を斜めに半分切り落としたときに形成される平面の形状と」することは、本願発明1の「入射面および出射面を形成する2つだけの平坦な面取り側壁、および作用面を形成する面取り円柱の端面を含む面取り円柱の形態」(以下「本願結晶形態構成」という。)に相当する。

(イ)そこで、引用発明の「基体あるいはプリズム19」を、引用文献2技術事項の「プローブ21」のような形状とすることが、当業者が容易に想到し得ることであるか検討する。
a 引用文献2技術事項の「プローブ21」は、「赤外光は、赤外光入射面26aからプローブ21内に入射した後、プローブ21内面で一度反射した上で被接触部に達し」、「接触薄膜22にて、赤外光はプローブ21内部側にほぼ全反射され、入射時と同様にプローブ21内面で一度反射した上で赤外光出射面26bに到達する」ものであるから、赤外光入射面26aからプローブ21内に入射した赤外光は、接触薄膜22の方向ではなく、プローブ21の側面の方向に向かうものである。
一方、引用発明は「放射エネルギーは、基体あるいはプリズム19の側面から入射し、湾曲サンプル接触面21で内面反射し、基体あるいはプリズム19の反対側の側面から出射するもの」であり、上記(引1−ケ)の図1の記載を参照しても、基体あるいはプリズム19の側面から入射した放射エネルギーが、湾曲サンプル接触面21には向かわずに、基体あるいはプリズム19の側面に向かうということは想定されないものである。
そうすると、引用発明の「基体あるいはプリズム19」に代えて、引用文献2技術事項の「プローブ21」を採用する動機はない。

b してみると、引用発明の「基体あるいはプリズム19」を、引用文献2技術事項の「プローブ21」のような形状とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

(ウ)また、引用文献3ないし5は、上記相違点2に係る本願発明1の本願結晶形態構成を開示又は示唆するものではなく、上記相違点2に係る本願発明1の本願結晶形態構成が、本願の優先日前において周知な事項であったとも認められない。

(エ)したがって、引用文献1ないし5に接した当業者といえども、上記相違点2に係る本願発明1の本願結晶形態構成を容易に想到し得たとはいえない。

イ 以上のとおりであるから、上記相違点1及び3について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献2技術事項、及び引用文献3ないし5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5も、本願発明1の本願結晶形態構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明、引用文献2技術事項、及び引用文献3ないし5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 原査定について
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明Bとを対比する。
ア 引用発明Bの「試料13」は、本願発明1の「分析される試料」に相当する。

イ 引用発明Bの「分光装置を放射エネルギー分析モードで作動させる場合」に使用される「シングルバウンスのATR結晶」は、本願発明1の「減衰全反射(ATR)分光用のATR結晶」に相当する。

ウ 引用発明Bの「ATR結晶」が「ダイヤモンドIRE9である」ことは、本願発明1の「ATR結晶がダイヤモンド材料から形成され」ていることに相当する。

エ 引用発明Bの「ATR結晶」は、「放射エネルギー源3が放射した赤外エネルギー」が「ダイヤモンドIRE9のクラウン部分24の片側を通過して、キューレット27にて1度だけ反射されて、クラウン部分24に逆戻りし、マスク5の出口開口16を通過して検出器10へと至るように利用される」ものであるから、引用発明Bの「クラウン部分24の片側」、「クラウン部分24」の反対側、及び「キューレット27」は、それぞれ本願発明1の「赤外線分析ビーム用の入射面」、「赤外線分析ビーム用の出射面」、及び「分析される試料と接触するための作用面」に相当するといえる。
また、引用発明Bの「クラウン部分24の片側」、「クラウン部分24」の反対側、及び「キューレット27」は、本願発明1の「入射面、出射面および作用面が、使用に際して、分析ビームが、入射面を通って、分析される試料と接触している作用面の内側に向かい、次いで分析される試料と接触している作用面の内側で内面反射することにより、分析ビームが出射面を通ってATR結晶の外へ出ることができるように構成されており」という構成を満たすといえる。

オ 引用発明Bの「キューレットには多数の辺があり」、「形状はほぼ丸くなっていると見なすことができ」ることから、引用発明Bの「キューレット27」は、凸曲面であるといえる。
すると、引用発明Bの「キューレット27」の「形状はほぼ丸くなっていると見なすことができ」ることと、本願発明1の「前記作用面が凸曲面であり、2から100μmの範囲の深さを有するセグメントを画定すること」とは、「前記作用面が凸曲面であり、ある深さを有するセグメントを画定すること」で共通する。

(2)そうすると、本願発明1と引用発明Bとは、
「 分析される試料の減衰全反射(ATR)分光用のATR結晶であって、
ATR結晶がダイヤモンド材料から形成され、かつ
赤外線分析ビーム用の入射面、赤外線分析ビーム用の出射面、および分析される試料と接触するための作用面を有するように構成されており;
入射面、出射面および作用面が、使用に際して、分析ビームが、入射面を通って、分析される試料と接触している作用面の内側に向かい、次いで分析される試料と接触している作用面の内側で内面反射することにより、分析ビームが出射面を通ってATR結晶の外へ出ることができるように構成されており、
前記作用面が凸曲面であり、ある範囲の深さを有するセグメントを画定する、ATR結晶。」
の発明の点で一致し、以下の相違点4及び5において相違する。

(相違点4)
「ATR結晶」の形態について、本願発明1においては、「入射面および出射面を形成する2つだけの平坦な面取り側壁、および作用面を形成する面取り円柱の端面を含む面取り円柱の形態をして」いるのに対し、引用発明Bにおいては、「標準のブリリアンカットのダイヤモンド、他の標準アンビルカットのダイヤモンド又は特殊カットのダイヤモンド」であって、「入射面」及び「出射面」に相当する「クラウン部分24」には、多数のファセットが形成されていると認められる点。

(相違点5)
「作用面」が「確定する」「セグメント」の「深さ」の「範囲」が、本願発明1においては、「2から100μm」と特定されているのに対し、引用発明Bにおいては、「キューレット27」の深さについては特定されていない点。

(3)判断
ア 上記相違点4について検討する。
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Aは、引用文献1と同じであり、引用文献Aには引用発明が記載されていると認められる。
上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項は、上記相違点2に係る本願結晶形態構成であり、引用発明は本願結晶形態構成を備えていない。

(イ)また、上記相違点4に係る本願発明1の本願結晶形態構成が、本願の優先日前において周知な事項であったとも認められない。

(ウ)そして、「赤外エネルギー」の「ほぼ半球状をした波面の選択された部分」をATR結晶に入射させる引用発明Bにおいて、入射面及び出射面をそれぞれ平坦な1つの面のみで構成する動機があるとは認められない。

(エ)したがって、引用文献A及びBに接した当業者といえども、上記相違点4に係る本願発明1の本願結晶形態構成を容易に想到し得たとはいえない。

イ 以上のとおりであるから、上記相違点5について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明B及び引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5も、本願発明1の本願結晶形態構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明B及び引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 引用文献Aを主引用例とした場合
主引用例が引用文献Aである場合、本願発明1と引用発明とは、上記相違点1ないし3で相違する(上記第6の1(2)参照)ところ、引用発明Bは上記相違点2に係る本願結晶形態構成を開示又は示唆するものではないから、本願発明1は、引用発明及び引用発明Bに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本願発明2ないし5も、本願発明1の本願結晶形態構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び引用発明Bに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 よって、原査定の拒絶の理由を維持することはできない。

第8 特許法第36条第6項第2号に係る当審拒絶理由について
1 当審では、請求項5の「前記入射面、前記出射面、および/または前記作用面が、632.8nmにおいて≦1の縞の表面不規則性を有する」との記載が意味する内容が不明確であるため、請求項5に係る発明及び請求項5の記載を直接引用して特定される請求項6に係る発明は明確でないとの拒絶理由を通知した。

2 これに対し、令和4年3月1日にされた手続補正により、当該補正前の請求項5は削除された結果、この拒絶理由は解消した。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-05-24 
出願番号 P2019-500297
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
P 1 8・ 537- WY (G01N)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 渡戸 正義
石井 哲
発明の名称 ダイヤモンド材料から作製された減衰全反射結晶  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 市川 さつき  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 山崎 一夫  
代理人 服部 博信  
代理人 須田 洋之  
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