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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G |
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管理番号 | 1384762 |
総通号数 | 6 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-02-22 |
確定日 | 2022-05-25 |
事件の表示 | 特願2016−140235「積層セラミック電子部品及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月29日出願公開、特開2017−118093〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年7月15日(パリ条約による優先権主張 2015年12月22日 韓国(KR))に出願したものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和 2年 2月25日付け:拒絶理由通知 令和 2年 6月 3日 :意見書、手続補正書の提出 令和 2年10月16日付け:拒絶査定 令和 3年 2月22日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和 3年 6月 4日 :上申書の提出 令和 3年 9月30日 :面接 令和 3年10月29日 :上申書の提出 第2 令和3年2月22日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和3年2月22日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載を次のとおり補正することを含むものである(下線部は、補正箇所である。)。 「【請求項1】 内部電極及び誘電体層を含むボディと、 前記ボディの少なくとも一面に配置され、前記内部電極と電気的に接続する第1の電極層と、 前記第1の電極層上に配置され、第1の導電性金属粒子、第2の導電性金属、及びベース樹脂を含む伝導性樹脂層と、 を含み、 前記第2の導電性金属は前記ベース樹脂の硬化温度より低い融点を有し、 前記第2の導電性金属が溶融状態で前記第1の導電性金属粒子を囲む構造であり、前記伝導性樹脂層内の金属粒子間連結性(Particle Connectivity)が20〜90%であり、 前記第1の電極層が伝導性金属およびガラスを含む、積層セラミック電子部品。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、令和2年6月3日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 内部電極及び誘電体層を含むボディと、 前記ボディの少なくとも一面に配置され、前記内部電極と電気的に接続する第1の電極層と、 前記第1の電極層上に配置され、第1の導電性金属粒子、第2の導電性金属、及びベース樹脂を含む伝導性樹脂層と、 を含み、 前記第2の導電性金属は前記ベース樹脂の硬化温度より低い融点を有し、 前記第2の導電性金属が溶融状態で前記第1の導電性金属粒子を囲む構造であり、前記伝導性樹脂層内の金属粒子間連結性(Particle Connectivity)が20〜90%である、積層セラミック電子部品。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1の電極層」について「伝導性金属およびガラスを含む」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項、引用発明 ア 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献(国際公開第2004/053901号)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付加した。)。 (ア)「技術分野 本発明は、積層セラミック電子部品に関する。特に、基板への実装やメッキ処理に適し、高い信頼性を有する積層セラミックコンデンサ等の積層セラミック電子部品に関する。」(1頁4ないし7行) (イ)「発明の開示 本発明は、高融点の導電粒子、融点が300℃以下の金属粉末及び樹脂を含む熱硬化性導電ペーストで形成された外部電極を有する積層セラミック電子部品に関する。 本発明は、外部電極を形成する熱硬化性導電ペーストに、従来用いられている高融点の導電粒子に加えて、融点が300℃以下の金属粉末を併用することにより、内部電極と外部電極の接合性に優れ、かつ基板への実装やメッキ処理に適した積層セラミック電子部品が得られることを見出したものである。 (省略) 熱硬化性導電ペーストが、従来用いられている高融点の導電粒子に加えて、融点が300℃以下の金属粉末を含むことにより、80℃〜400℃程度の低い硬化温度であっても、導電ペースト中の導電粒子と内部電極の金属との固相拡散が進行し、優れた内部電極と外部電極の接合性を得ることが可能となる。」(2頁24行ないし3頁12行) (ウ)「発明を実施するための最良の形態 本発明の積層セラミック電子部品は、高融点の導電粒子、融点が300℃以下の金属粉末及び樹脂を含む熱硬化性導電ペーストで形成された外部電極を有することを特徴とする。 (省略) 高融点の導電粒子として、Ag、Cu、Ni、Zn、Al、Pd、Au、Pt又はこれらの合金からなる高融点の金属粉末が挙げられる。これらを単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なお、ここで高融点の金属粉末とは、融点400℃以上のものであり、特に600℃以上のものが好ましい。 (省略) 融点が300℃以下の金属粉末として、Sn、SnZn、SnAg、SnCu、SnAl、SnPb、In、InAg、InZn、InSn、Bi、BiAg、BiNi、BiSn、BiZn又はBiPbが挙げられる。 (省略) 熱硬化性導電ペーストに用いられる樹脂は、バインダとして機能するものであり、熱硬化性樹脂を含む。」 (3頁17行ないし4頁22行) (エ)「このようにして得られた高融点の導電粒子、融点が300℃以下の金属粉末及ぴ樹脂を含む熱硬化性導電ペーストを用いて、本発明の外部電極を有する積層セラミック電子部品は、公知の方法に従って形成される。例えば熱硬化性導電べ一ストを、直接、積層セラミックコンデンサのセラミック複合体の内部電極取り出し面に、スクリーン印刷、転写、浸漬塗布等、任意の方法で印刷又は塗布することができる。また必要に応じて、内部電極取り出し面にまず焼成銅電極を形成し、その上に当該ペーストを印刷又は塗布してもよい。 (省略) 次いで特に不活性ガス雰囲気下に置くことなく硬化を行い、外部電極を形成する。 (省略) すなわち本発明の積層セラミック電子部品は、(1)高融点の導電粒子、融点が300℃以下の金属粉末及び樹脂を含む熱硬化性導電ペーストと、外部電極を設けようとするセラミック複合体を供給し;(2)該セラミック複合体の内部電極取り出し面に、熱硬化性導電ペーストを印刷又は塗布し;そして(3)(2)で得られた該セラミック複合体を、80℃〜400℃、1分〜60分で保持し、外部電極を形成することにより得られる。 (省略) 本発明で用いられる積層セラミック電子部品のセラミック複合体は、いずれか公知の方法で作製されるものであってよい。なお本発明においてセラミック複合体とは、セラミック層と内部電極層を交互に積層した積層体を焼成したものや、樹脂・セラミックハイプリッド材料と内部電極を交互に積層した積層体をいう。セラミック層又は樹脂・セラミックハイブリッド材料は、その所望の電子部品に適した性質、例えばコンデンサであれば誘電性、を有するもので、いずれか公知の方法で得られるものであってよい。」(7頁7行ないし8頁12行) (オ)「実施例 以下、実施例及び比較例によって、 本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、これらの例において、部は重量部を示す。 〔導電ペーストの調製〕 実施例及び比較例で使用した導電ペーストの組成は、以下の表1のとおりである。 (省略) 〔積層セラミックコンデンサ試料の作成〕 比較例1(比較コンデンサ:焼成型電極の作成) 表1に示した組成を有する導電ペーストA(焼成型)を、チップ積層コンデンサのセラミック複合体(2125タイプ、B特性、Ni内部電極、理論容量100nF)の内部電極取り出し面に、焼成後の厚さが50μm程度になるように均一に浸漬塗布し、150℃で10分間乾燥した後、大気中で650℃、10分間、その前後に所定温度までの昇温と徐冷に要する時間を含めて約60分間加熱することにより焼成し、外部電極を形成した。続いてワット浴でNiメッキを行い、次いで電気メッキよりSnメッキを行い、チップ積層コンデンサを得た。 比較例2(比較コンデンサ:熱硬化性電極の作成) 表1に示した導電ペーストB(熱硬化性)を、前出のチップ積層コンデンサのセラミック複合体の内部電極取り出し面に、硬化後の厚さが40〜80になるように浸漬塗布し、150℃で10分間乾燥した後、大気中のベルト炉で300℃、10分の硬化を行い外部電極を形成した。続いてワット浴でNiメッキを行い、次いで電気メッキによりSnメッキを行い、チップ積層コンデンサを得た。 実施例1(熱硬化性電極の作成) 表1に示した導電べ一ストC(熱硬化性)を、比較例2の条件で塗布、乾燥、硬化、メッキを行い、チップ積層コンデンサを得た。」 (8頁27行ないし10頁18行) (カ)「〔測定〕 上記で得られたチップ積層コンデンサ素子を、ガラスエポキシ基板の銅張り電極上に印刷されたPbフリーハンダペースト上に置き、ハンダペーストが十分溶融するような温度、例えば250〜260℃の温度ではんだ接合を行い、電気特性、接合強度の試験試料とした。試料の初期電気特性(静電容量、tanδ)をAgilent製4278Aで測定し、基板電極との接合強度(せん断強度)をアイコ一エンジニアリング製卓上強度試験機で測定した後、耐ヒートサイクル性試験(−55℃/125℃(30分/30分);141、265及び545サイクル)後の電気特性及び接合強度を同様に測定した。結果を表2に示す。 本発明の実施例で得られたコンデンサの電気特性は、初期及びヒートサイクル後においても静電容量の減少が少なく、コンデンサとして優れていることが示された。一方比較例1で得られたコンデンサ(焼成型メッキ下地銀電極)は、接合不良でNi内部電極とのコンタク卜が得られない為、全く電気特性が得られなかった。さらに比較例2で得られた従来の熱硬化性導電ペーストから得られたコンデンサは、耐ヒートサイクル性試験(545サイクル)後、静電容量は初期値の約60%にまで減少し、tanδは初期値の約30倍まで増加しており、コンデンサとしての信頼性に乏しかった。 また、比較例2と実施例1で得られたコンデンサの内部電極と外部電極の接合面を、EPMA(X線マイクロアナリシス)により観察した結果、実施例1で得られたコンデンサの内部電極と外部電極の接合面には金属間(導電粒子と内部電極)の拡散接合が確認されたが、比較例2のコンデンサには、ほとんど観察されなかった。」(10頁19行ないし11頁13行) (キ)「実施例1a〜1d 熱硬化性導電ペースト中の高融点の導電粒子及び融点300℃以下の金属粉末の配合量を変更した場合について検討するため、以下表3に示す組成で上記と同様の方法により、熱硬化性導電ペーストを調製した。熱硬化性導電ペースト中の高融点の導電粒子及び融点300℃以下の金属粉末の配合量は、高融点の導電粒子、融点が300℃以下の金属粉末及び樹脂の合計重量に対して、60〜98重量%であった。さらに調製したペーストを用い、実施例1と同様の方法でコンデンサ試料を作成し、その電気特性及び接合強度を測定した。 実施例1a〜1dで得られたコンデンサは実施例1と同様、良好な電気特性及び接合強度を示したが、特に、高融点の導電粒子及び融点300℃以下の金属粉末の配合量(表中の金属粉末比)70〜95重量%において、より好ましい電気特性及び接合強度を示した。 」(11頁16行〜12頁9行) (ク)「実施例1e〜1g 熱硬化性導電ペースト中の融点300℃以下の金属粉末の配合量を変更した場合について検討するため、以下表4に示す組成で上記と同様の方法により、熱硬化性導電ペーストを調製した。融点が300℃以下の金属粉末の配合量は、高融点の導電粒子と融点が300℃以下の金属粉末の合計重量に対し、1〜25重量%であった。さらに調製したペーストを用い、実施例1と同様の方法でコンデンサ試料を作成し、その電気特性及び接合強度を測定した。 実施例1e〜1gで得られたコンデンサは実施例1と同様、良好な電気特性及び接合強度を示したが、特に融点300℃以下の金属粉末の配合量(表中の錫粉末比)5〜約20重量%において、より好ましい電気特性及び接合強度を示した。 」(12頁12行ないし13頁4行) イ 上記記載から、引用文献には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。 (ア)上記「ア(ア)」によれば、引用文献には、積層セラミックコンデンサが記載されている。 (イ)上記「ア(エ)」によれば、セラミック複合体は、誘電性を有するセラミック層と内部電極層を交互に積層した積層体を焼成したものであり、積層セラミックコンデンサでは、セラミック複合体の内部電極取り出し面に焼成銅電極を形成し、その上に高融点の導電粒子、融点が300℃以下の金属粉末及び樹脂を含む熱硬化性導電ペーストを印刷又は塗布し、硬化させ外部電極を形成されることが記載されている。 また、上記「ア(ウ)」によれば、熱硬化性導電ペーストに用いられる樹脂は、バインダとして機能する。 (ウ)上記「ア(オ)」によれば、実施例1として、球状銀粉末55重量部、リンペン状銀粉末15重量部、錫粉末15重量部、レゾール型フェノール樹脂9.5重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む導電ペースト(熱硬化性)をセラミック複合体の内部電極取り出し面に塗布し、乾燥した後、300℃、10分の硬化を行い外部電極を形成することが記載されている。 ウ 上記イから、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「誘電性を有するセラミック層と内部電極層を交互に積層した積層体を焼成したセラミック複合体の内部電極取り出し面に焼成銅電極を形成し、その上に高融点の導電粒子、融点が300℃以下の金属粉末及びバインダとして機能する樹脂を含む熱硬化性導電ペーストを印刷又は塗布し、硬化させ外部電極が形成された積層セラミック電子部品において、 球状銀粉末55重量部、リンペン状銀粉末15重量部、錫粉末15重量部、レゾール型フェノール樹脂9.5重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む導電ペーストをセラミック複合体の内部電極取り出し面に塗布し、乾燥した後、300℃、10分の硬化を行い外部電極を形成した、積層セラミックコンデンサ。」 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の焼成された「誘電性を有するセラミック層と内部電極層」は、本件補正発明の「誘電体層」及び「内部電極」に相当する。そして、「誘電性を有するセラミック層と内部電極層」を交互に積層した積層体を焼成した「セラミック複合体」は、「内部電極及び誘電体層」を含む「ボディ」に相当する。 よって、引用発明の「誘電性を有するセラミック層と内部電極層を交互に積層した積層体を焼成したセラミック複合体」は、本件補正発明の「内部電極及び誘電体層を含むボディ」に相当する。 (イ)引用発明の「焼成銅電極」は「セラミック複合体の内部電極取り出し面」に形成されるから、「焼成電極」と「内部電極」とは電気的に接続されていることは明らかである。 よって、引用発明の「セラミック複合体の内部電極取り出し面」に形成された「焼成銅電極」は、本件補正発明の「ボディの少なくとも一面に配置され、前記内部電極と電気的に接続する第1の電極層」に相当する。 (ウ)引用発明の「高融点の導電粒子」及び「融点が300℃以下の金属粉末」は、本件補正発明の「第1の導電性金属粒子」及び「第2の導電性金属」に相当する。また、引用発明の「樹脂」は「バインダとして機能」するから、本件補正発明の「ベース樹脂」に相当する。 そして、引用発明において、「焼成銅電極」の「上に高融点の導電粒子、融点が300℃以下の金属粉末及びバインダとして機能する樹脂を含む熱硬化性導電ペーストを印刷又は塗布し、硬化させ」て「外部電極」が形成されるから、「外部電極」は「焼成銅電極」上に配置され、「融点の導電粒子、融点が300℃以下の金属粉末及びバインダとして機能する樹脂を含む」といえ、本件補正発明の「伝導性樹脂層」に相当する。 よって、引用発明において、「焼成銅電極」上に配置され、「融点の導電粒子、融点が300℃以下の金属粉末及びバインダとして機能する樹脂を含」む「外部電極」は、本件補正発明の「第1の電極層上に配置され、第1の導電性金属粒子、第2の導電性金属、及びベース樹脂を含む伝導性樹脂層」に相当する。 (エ)引用発明では、「導電ペーストをセラミック複合体の内部電極取り出し面に塗布し、乾燥した後、300℃、10分の硬化を行」うから、「導電ペースト」に含まれる「樹脂」の硬化温度は300℃であるといえる。また、引用発明の「錫粉末」は「融点が300℃以下の金属粉末」であることは明らかであり、「錫」の融点が「232℃」であることも技術常識である。 してみると、引用発明において「融点が300℃以下の金属粉末」である「錫粉末」は「樹脂」の硬化温度より低い融点を有するといえ、本件補正発明の「前記第2の導電性金属は前記ベース樹脂の硬化温度より低い融点を有し」に相当する。 (オ)本件補正発明は、「第2の導電性金属が溶融状態で前記第1の導電性金属粒子を囲む構造であ」るのに対し、引用発明は、その旨特定されていない点で相違する。 (カ)本件補正発明は、「伝導性樹脂層内の金属粒子間連結性(Particle Connectivity)が20〜90%であ」るのに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。 (キ)引用発明の「焼成銅電極」は「銅」を含むことは明らかであり、「銅」は伝導性金属といえるから、引用発明の「焼成銅電極」が「銅」を含むことは、本件補正発明の「第1の電極層が伝導性金属を含む」ことに相当する。 ただし、第1の電極層に関し、本件補正発明は「ガラス」を含むのに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。 (ク)引用発明の「積層セラミックコンデンサ」は、本件補正発明の「積層セラミック電子部品」に相当する。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「内部電極及び誘電体層を含むボディと、 前記ボディの少なくとも一面に配置され、前記内部電極と電気的に接続する第1の電極層と、 前記第1の電極層上に配置され、第1の導電性金属粒子、第2の導電性金属、及びベース樹脂を含む伝導性樹脂層と、 を含み、 前記第2の導電性金属は前記ベース樹脂の硬化温度より低い融点を有する、積層セラミック電子部品。」 【相違点1】 本件補正発明では「第2の導電性金属が溶融状態で前記第1の導電性金属粒子を囲む構造であ」るのに対し、引用発明は、その旨特定されていない点。 【相違点2】 本件補正発明は、「伝導性樹脂層内の金属粒子間連結性(Particle Connectivity)が20〜90%であ」るのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。 【相違点3】 第1の電極層に関し、本件補正発明は、「ガラスを含む」のに対し、引用発明はその旨特定されていない点。 (4)相違点に対する判断 以下、各相違点について検討する。 ア 【相違点1】について 引用発明は、「錫粉末15重量部」を含む「導電ペースト」対して「300℃、10分の硬化」が行われるのであるから、「導電ペースト」が「硬化」される処理において「錫粉末」は溶融状態となることは明らかである。 そして、引用発明は、高融点の導電粒子と融点が300℃以下の金属粉末の合計重量に対し、融点が300℃以下の金属粉末の配合量は、17.6重量%(=錫粉末15重量部/(球状銀粉末55重量部+リンペン状銀粉末15重量部+錫粉末15重量部))であり、引用文献(11頁1ないし13行を参照)には、錫粉末を含まない比較例2に比べ、実施例1の電気特性(静電容量、tanδ)が優れ、実施例1で得られたコンデンサの内部電極と外部電極の接合面には金属間(導電粒子と内部電極)の拡散接合が確認されたことが記載されていることからすれば、「導電ペースト」に対して「300℃、10分の硬化」が行われることにより、「錫粉末」は溶融し、溶融した「錫」が「球状銀粉末」又は「リンペン状銀粉末」の少なくとも一部を囲むと考えるのが自然である。 ここで、令和3年9月30日に行われた面接における審判合議体からの本件補正発明の「囲む」の意義に関する質問に対し、審判請求人は令和3年10月29日に提出された上申書において、「完全に囲む場合だけでなく、一部のみを囲む場合を含むことを意味する。・・・第1の導電性金属粒子が第2の導電性金属に完全に囲まれている場合(CASE2)だけでなく、第1の導電性金属粒子が第2の導電性金属に部分的に囲まれている場合(CASE1)が存在する。」と説明している。 してみると、相違点1に係る構成は、実質的な相違点ではない。 イ 【相違点2】について (ア)本件補正発明の「金属粒子間連結性(Particle Connectivity)が20〜90%」に関し、本願明細書には、以下の記載がある。 「【0080】 下記表1は、積層セラミックキャパシタの伝導性樹脂層内の金属粒子間連結性によるESR、外部電極の外観評価及び固着強度を比較したものである。 【0081】 金属粒子間連結性を評価する方法は、伝導性樹脂層の断面SEM写真を基に任意の100個の金属粒子を選定し、各金属粒子の隣接粒子との接触の有無を確認した後、その連結水準を%で表示する方法で行われた。 【0082】 【0083】 上記表1を参照すると、金属粒子間連結性が20%以上90%以下の場合に、ESR特性に優れ、信頼性にも優れることが分かる。 【0084】 即ち、本発明の一実施形態による積層セラミック電子部品において、第1の導電性金属粒子間の直接接触だけでなく、第2の導電性金属によって第1の導電性金属粒子が電気的に連結されるため、等価直列抵抗(Equivalent series resistance、ESR)が低減されることができ、固着強度にも優れた積層セラミック電子部品を実現することができる。」 (イ)上記(ア)によれば、ESR特性は、金属粒子間連結性が「0%」の場合「×」、「10%」の場合「△」と評価され、「外観評価」及び「固着強度」は、金属粒子間連結性が「100%」の場合「×」と評価されている。 そして、令和3年9月30日に行われた面接における審判合議体からの「金属粒子間連結性」の意義に関する質問に対し、審判請求人は令和3年10月29日に提出された上申書において、「2つの第1の導電性金属粒子同士が物理的に直接接している場合(例えば、上記CASE1)の他、2つの第1の導電性金属粒子が第2の導電性金属を介して互いに連結される場合(例えば、上記CASE2)に、第1の導電性金属粒子が隣接粒子と接触したものと判断して金属粒子間の連結性の判断ができる。」(3頁3ないし7行を参照)と主張し、同審判合議体からの「『金属粒子間連結性』が何に基づくのか、どの様にかえるのか」との質問に対し、審判請求人は同上申書において、「第1の導電性金属粒子と第2の導電性金属粒子の比率及び樹脂含有量を異ならせることにより、粒子間連結性が0〜100%まで10%ごとに異なる伝導性樹脂層が用意できた。第2の導電性金属粒子が多いほど、そして樹脂含有量が少ないほど、金属粒子間の連結性は増加する。」(3頁9ないし12行を参照)と主張し、同審判合議体からの「外観評価」に関する質問に対し、審判請求人は同上申書において、「伝導性樹脂層を形成するためのペースト乾燥及び硬化した後、伝導性樹脂層が第1の電極層から完全に離れるか、又は、伝導性樹脂層自体が割れた場合は×、そのような現象が一部に生じた場合は△と判断した。」(3頁14ないし16行)と説明している。 (ウ)ここで、上記「(2)ア(イ)」によれば、引用発明は、内部電極と外部電極との接合性が優れた積層セラミック電子部品を得るために、高融点の導電粒子に加え、融点が300℃以下の金属粉末を含ませるものであり、引用文献には、内部電極と外部電極との接合性を判断するための電気特性としてtanδが開示されているところ、積層セラミックコンデンサにおけるESRはtanδを悪化させる要因であり、内部電極と外部電極都の接合性を判断するための指標の1つとしてESRを採用することは技術常識であるから(必要とあれば、実願昭58−142606号(実開昭60−49621号)のマイクロフィルム2頁14行ないし3頁1行、3頁13ないし18行、7頁表、特開平6−140277号公報の段落【0002】、【0006】、【0007】表1、特開2003−264118号公報の段落【0006】、【0016】、【0022】、【0023】表1、を参照。)、引用文献に記載された電気特性の指標としてESRを採用することは当業者が適宜選択し得る事項に過ぎない。 そして、引用文献(11頁14行ないし13頁4行を参照)には、「熱硬化性導電ペースト」中の「高融点の導電粒子」及び「融点300℃以下の金属粉末」の配合量、又は、「熱硬化性導電ペースト」中の「融点300℃以下の金属粉末」の配合量を調節し、tanδ及び接合強度が良好な各配合量が示されているところ、表3の実施例1b、実施例、実施例1c、実施例1dによれば、「高融点の導電粒子」及び「融点300℃以下の金属粉末」の配合量を減少させるとtanδが増加することが見て取れ、表4の実施例1e、実施例1f、実施例1によれば、「融点300℃以下の金属粉末」の配合量を減少させるとtanδが増加することが見て取れ、表3の実施例1a、実施例1b、実施例1、実施例1c、実施例1dによれば、「高融点の導電粒子」及び「融点300℃以下の金属粉末」の配合量を増加させると接合強度が減少することが見て取れる。そして、「熱硬化性導電ペースト」中の「高融点の導電粒子」及び「融点300℃以下の金属粉末」の配合量、又は、「熱硬化性導電ペースト」中の「融点300℃以下の金属粉末」の配合量を増加させることで、導電粒子全体数における接触する導電粒子の数が増加し、該配合量を減少させることで、該接触する導電粒子の数が減少することは当然のことである。 してみると、引用発明において、導電粒子全体数における接触する導電粒子の数の割合、即ち、導電粒子間の連結性を調節し、良好なESR及び接合強度を有する積層セラミック電子部品を得ることは当業者が容易になし得たことである。 (エ)したがって、引用発明において、「熱硬化性導電ペーストを印刷又は塗布し、硬化させ」て形成される「外部電極」内の「金属粒子連結性」を「20〜90%」とすることは、当業者が容易になし得たことである。 ウ 【相違点3】について 引用発明は「セラミック複合体の内部電極取り出し面に焼成銅電極を形成す」るものであって、通常、焼成銅電極は、銅とガラスを含む導電性ペーストをセラミック本体に塗布した後焼成することにより焼成銅電極を形成するものである。また、銅とガラスを含む導電性ペーストをセラミック本体に塗布した後焼成して下地電極を形成し、その上に導電性樹脂層を形成することも周知技術である(これらにつき、必要であれば、特開2015−142128号公報の段落【0043】ないし【0050】、図2、特開2009−283744号公報の段落【0016】ないし【0019】、図1を参照。) してみると、引用発明に周知技術を適用し、引用発明の焼成銅電極にガラスを含ませることは当業者が容易になし得たことである。 エ そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 (なお、令和3年10月29日付け上申書において、審判請求人は、特許請求の範囲の請求項1において「前記伝導性樹脂層が前記内部電極と離隔して配置され、前記内部電極の厚さは、0.2から1.0μmであり、前記誘電体層の一層の厚さは、0.1〜10μmである」との構成を付加する補正案1、同請求項1において「前記第1の電極層が伝導性金属がニッケル、パラジウム、金またはこれらの合金である」との構成を付加する補正案2を提示している。 しかし、引用発明は、「内部電極取り出し面に焼成銅電極を形成し、その上に高融点の導電粒子、融点が300℃以下の金属粉末及びバインダとして機能する樹脂を含む熱硬化性導電ペーストを印刷又は塗布し、硬化させ外部電極」を形成させるから、引用発明においても、内部電極と高融点の導電粒子、融点が300℃以下の金属粉末及びバインダとして機能する樹脂を含む熱硬化性導電ペーストから形成される外部電極とは離隔して配置されているといえ、さらに、内部電極の厚さ、誘電体層の一層の厚さを所定の厚さとすることも当業者が適宜なし得ることである。 また、導電性樹脂層が形成される焼成電極に含まれる金属として、ニッケル、パラジウム、金またはこれらの合金を使用することも周知技術である。 よって、該補正案1及び補正案2の請求項1に係る発明については依然として進歩性を認めることはできないから、該補正案1及び補正案2は採用できない。) (5)まとめ したがって、本件補正発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび 以上から、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 審判請求人の主張について 1 審判請求人は、審判請求書の中で、「引用文献1は、内部電極と外部電極との接合性(引用文献1の第2頁19行目ないし23行目)を課題とするものであり、等価直列的抵抗(ESR)の低減(本願明細書段落0010、0018)を課題とする本願発明とは異なるため、引用文献1に記載の発明から等価直列的抵抗と関連性がある(ア)伝導性樹脂層内の金属粒子間連結性(Particle Connectivity)が20〜90%であることの特徴を想起することは困難である。」、「引用文献1の第1頁10行目〜18行目および第2頁3行目〜8行目には、・・・、ビヒクルにAg、Cu等の導電粒子とガラスフリットとを混合した焼成型導電ペーストを、積層セラミック複合体の内部電極の取り出し面に塗布し、乾燥させた後、・・・焼成する方法・・・では、ガラス浮きによるメッキ付き不良、基板へのはんだ付け実装時のクラック発生等の不具合が生じること、静電容量、絶縁抵抗等の観点でコンデンサ性能の信頼性に問題があること、が記載され・・・、引用文献1において、・・・ガラスを含ませた焼成電極を導入するとコンデンサの性能が低下することを意味する。引用文献1の比較例1には、外部電極として焼成型の電極を導入した積層コンデンサが記載されているが、・・・接合不良により内部電極とのコンタクトが得られないことが記載されている(引用文献1の第8頁の表2、5行目〜8行目)。また、上記の「ガラス浮きによるメッキ付き不良」は、焼成電極に限らずガラスを含ませた電極であれば生じ得る問題である・・・ため、引用文献1の発明にガラスを含ませた電極(例えば、焼成電極)を外部電極とする公知技術を導入することには阻害要因がある。」と主張する。 2 ここで、上記「第2 2(4)イ(ウ)」で述べたように、引用文献に記載された電気特性の指標としてESRを採用することは当業者が適宜選択し得ることであって、「熱硬化性導電ペースト」中の「高融点の導電粒子」及び「融点300℃以下の金属粉末」の配合量、又は、「熱硬化性導電ペースト」中の「融点300℃以下の金属粉末」の配合量を調節することで、導電粒子全体数における接触する導電粒子の数が変化することは当然のことであるから、引用発明において、導電粒子全体数における接触する導電粒子の数の割合、即ち、導電粒子間の連結性を調節し、良好なESR及び接合強度を有する積層セラミック電子部品を得ることは当業者が容易になし得たことである。 してみると、伝導性樹脂層内の金属粒子間連結性を20〜90%とすることは当業者が容易に想起し得ることである。 3 また、引用文献の2頁3ないし8行に記載された「第一の方法で得られた外部電極を有するコンデンサ」における「ガラス浮きによるメツキ付き不良」、「基板へのはんだ付け実装時のクラック発生等の不具合」、「メッキ処理時に焼結体にメッキ液が浸透すること」による「静電容量が設計値を下回ったり、絶縁抵抗の劣化が起こる」こと等の問題は、「ビヒクルにAg、Cu等の導電粒子とガラスフリットとを混合した焼成型導電ペースト」のみで外部電極を形成した場合における問題であって、Cuとガラスフリットとを混合した焼成型導電ペーストにより焼成銅電極を形成し、その上に高融点の導電粒子、融点が300℃以下の金属粉末及び樹脂を含む熱硬化性導電ペーストを印刷又は塗布した後硬化させ外部電極を形成することによって生じる問題とはいえないから、引用発明の焼成銅電極にガラスを含ませることに阻害要因があるとはいえない。 4 以上から、審判請求人の主張は採用できない。 第4 本願発明について 1 本願発明 令和3年2月22日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし36に係る発明は、令和2年6月3日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし36に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2[理由]1(2)」に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由の概要 請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は、次のとおりのものである。 「この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった次の引用文献1ないし3に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。 <引用文献等一覧> 1.国際公開第2004/053901号 2.特開2003−305588号公報 3.特開平5−28829号公報 3 引用文献、引用発明 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明は、前記「第2の[理由]2(2)」に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記「第2の[理由]2」で検討した本件補正発明から、「第1の電極層が伝導性金属およびガラスを含む」との限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2の[理由]2(3)ないし(5)」に記載したとおり、引用文献2及び引用文献3を参酌するまでもなく、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び周知技術に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 審判長 清水 稔 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2021-11-30 |
結審通知日 | 2021-12-07 |
審決日 | 2022-01-04 |
出願番号 | P2016-140235 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01G)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
清水 稔 |
特許庁審判官 |
山本 章裕 畑中 博幸 |
発明の名称 | 積層セラミック電子部品及びその製造方法 |
代理人 | 龍華国際特許業務法人 |