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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05G
管理番号 1384797
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-24 
確定日 2022-05-06 
事件の表示 特願2018−535829「ペダルカバー」拒絶査定不服審判事件〔平成29年8月10日国際公開、WO2017/134417、平成31年 3月28日国内公表、特表2019−508792〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)1月23日(優先権主張外国庁受理 2016年2月2日 英国(GB))を国際出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和2年 1月15日 :手続補正書の提出
令和2年 8月11日付け:拒絶理由通知
令和2年11月 9日 :意見書及び手続補正書の提出
令和2年11月30日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和3年 3月24日 :審判請求書及び手続補正書の提出(以下、この
手続補正書による手続補正を「本件補正」とい
う。)

第2 本件補正について
1 本件補正の内容
(1)令和2年11月9日提出の手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1〜20は、以下のとおりである。
「 【請求項1】
前面および後面を有するフットパッドを備えるペダルカバーであって、
前記ペダルカバーは、前記フットパッドから後方に向けて、前記フットパッドの前記前面から離れる方向に延在する少なくとも2つの側部をさらに備え、
前記側部のうち、少なくとも2つの対向する側部の各々は、複数のラッチ部材を備え、
ヘッド部および後面を有するペダルに前記ペダルカバーを適用する際には、前記ペダルの前記ヘッド部は前記側部を通り越して前記ペダルカバーの後面に向けて押され、それによって、前記ラッチ部材は収縮し、前記ペダルカバーの後面が前記ペダルの前記ヘッド部に当接すると、前記ラッチ部材が前記ペダルの前記後面の後方に係合する、ペダルカバー。
【請求項2】
前記側部の各々は、内向きに湾曲している、請求項1に記載のペダルカバー。
【請求項3】
前記ラッチ部材の各々は、弾性材料から形成される、請求項1または2に記載のペダルカバー。
【請求項4】
前記ラッチ部材または各ラッチ部材は、くさび形状である、請求項1から3のいずれか1項に記載のペダルカバー。
【請求項5】
前記ラッチ部材または各ラッチ部材は、角錐形状である、請求項1から4のいずれか1項に記載のペダルカバー。
【請求項6】
前記ラッチ部材または各ラッチ部材は、中空である、請求項1から5のいずれか1項に記載のペダルカバー。
【請求項7】
前記ラッチ部材または各ラッチ部材は、圧縮されたときに前記ラッチ部材を外向きに膨張させるテーパ状の側壁および/または支持壁を有して形成される、請求項1から6のいずれか1項に記載のペダルカバー。
【請求項8】
前記ペダルカバーの一方または両方の端部において、リップ部材を備える、請求項1から7のいずれか1項に記載のペダルカバー。
【請求項9】
少なくとも1つの前記リップ部材は、内向きに延在する突縁部を有する内巻きリップ部材である、請求項8に記載のペダルカバー。
【請求項10】
少なくとも1つの前記リップ部材は、内向きに延在する突縁部を有さずに形成された直立リップ部材である、請求項8に記載のペダルカバー。
【請求項11】
両方の前記端部は、リップ部材を備え、前記リップ部材は、いずれも内巻きリップ部材である、請求項8に記載のペダルカバー。
【請求項12】
一方の前記端部において内向きに延在する突縁部を有する内巻きリップ部と、他方の前記端部において内向きに延在する突縁部を有さない直立リップ部と、を備え、
前記2つの側部は、前記内巻きリップ部と前記直立リップ部の間に延在し、複数の弾性ラッチ部材をそれぞれ有する、請求項8から11のいずれか1項に記載のペダルカバー。
【請求項13】
前記ペダルカバーは、湾曲し、前記ペダルカバーの湾曲部は、凹状である、請求項1から12のいずれか1項に記載のペダルカバー。
【請求項14】
前記ペダルカバーの湾曲部は、円の一部分を実質的に構成する断面形状を有し、前記一部分は、円の四分の一の大きさより小さい、請求項13に記載のペダルカバー。
【請求項15】
前記直立リップ部と前記内巻きリップ部の内向きに延在する突縁部とは、互いに実質的に平行である、請求項12または請求項12に従属する請求項13または14に記載のペダルカバー。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項に記載のペダルカバーを支持するペダルカバー支持体であって、
前記ペダルカバーの前面の形状に一致する後面と、前記ペダルカバーの直立または内巻きのリップ部を支持するリップ部とを有し、
前記ペダルカバー支持体の前記リップ部は、直立リップ部および内巻きリップ部から選択される、ペダルカバー支持体。
【請求項17】
前面および後面を有するフットパッドを備えるペダルカバーと、
前記ペダルカバーを支持するペダルカバー支持体であって、前記ペダルカバーの前記前面の形状に一致する後面を有する、ペダルカバー支持体と、
を備える部品キットであって、
前記ペダルカバーは、前記フットパッドから後方に向けて、前記フットパッドの前記前面から離れる方向に延在する少なくとも2つの側部をさらに備え、
前記側部の各々は、複数のラッチ部材を備え、
ヘッド部および後面を有するペダルに前記ペダルカバーを適用する際には、前記ペダルの前記ヘッド部は前記側部を通り越して前記ペダルカバーの後面に向けて押され、それによって、前記ラッチ部材は後退し、前記ペダルカバーの後面が前記ペダルの前記ヘッド部に当接すると、前記ラッチ部材が前記ペダルの前記後面の後方に係合する、部品キット。
【請求項18】
ペダルカバーをペダルのヘッド部に挿嵌する方法であって、
前記ペダルカバーは、前面および後面を有するフットパッドを備え、
前記ペダルカバーは、前記フットパッドから後方に向けて、前記フットパッドの前記前面から離れる方向に延在する少なくとも2つの側部をさらに備え、
前記側部の各々は、複数のラッチ部材を備え、
ペダルカバー支持体は、前記ペダルカバーの前面の形状に一致する後面を有し、
前記方法は、
前記ペダルカバーを、前記ペダルカバー支持体内に支持するステップと、
前記ペダルの前記ヘッド部が前記ペダルカバーの側部の各ラッチ部を越えるように前記ヘッド部を押して、前記ペダルカバーを前記ペダルの前記ヘッド部に固定させるステップと、を備える、方法。
【請求項19】
請求項1から15のいずれか1項に記載のペダルカバーを備える、ペダル。
【請求項20】
請求項19に記載のペダルを備える、自動車。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1〜16は、以下のとおりである。(下線は、本件補正による補正箇所であり、当審で付した。)
「 【請求項1】
前面および後面を有するフットパッドを備えるペダルカバーであって、
前記ペダルカバーは、前記フットパッドから後方に向けて、前記フットパッドの前記前面から離れる方向に延在する少なくとも2つの側部をさらに備え、
前記側部のうち、少なくとも2つの対向する側部の各々は、複数のラッチ部材を備え、
ヘッド部および後面を有するペダルに前記ペダルカバーを適用する際には、前記ペダルの前記ヘッド部は前記側部を通り越して前記ペダルカバーの後面に向けて押され、それによって、前記ラッチ部材は収縮し、前記ペダルカバーの後面が前記ペダルの前記ヘッド部に当接すると、前記ラッチ部材が前記ペダルの前記後面の後方に係合する、ペダルカバー。
【請求項2】
前記側部の各々は、内向きに湾曲している、請求項1に記載のペダルカバー。
【請求項3】
前記ラッチ部材の各々は、弾性材料から形成される、請求項1または2に記載のペダルカバー。
【請求項4】
前記ラッチ部材または各ラッチ部材は、くさび形状である、請求項1から3のいずれか1項に記載のペダルカバー。
【請求項5】
前記ラッチ部材または各ラッチ部材は、角錐形状である、請求項1から4のいずれか1項に記載のペダルカバー。
【請求項6】
前記ラッチ部材または各ラッチ部材は、中空である、請求項1から5のいずれか1項に記載のペダルカバー。
【請求項7】
前記ラッチ部材または各ラッチ部材は、圧縮されたときに前記ラッチ部材を外向きに膨張させるテーパ状の側壁および/または支持壁を有して形成される、請求項1から6のいずれか1項に記載のペダルカバー。
【請求項8】
前記ペダルカバーの一方または両方の端部において、リップ部材を備える、請求項1から7のいずれか1項に記載のペダルカバー。
【請求項9】
少なくとも1つの前記リップ部材は、内向きに延在する突縁部を有する内巻きリップ部材である、請求項8に記載のペダルカバー。
【請求項10】
少なくとも1つの前記リップ部材は、内向きに延在する突縁部を有さずに形成された直立リップ部材である、請求項8に記載のペダルカバー。
【請求項11】
両方の前記端部は、リップ部材を備え、前記リップ部材は、いずれも内巻きリップ部材である、請求項8に記載のペダルカバー。
【請求項12】
一方の前記端部において内向きに延在する突縁部を有する内巻きリップ部と、他方の前記端部において内向きに延在する突縁部を有さない直立リップ部と、を備え、
前記2つの側部は、前記内巻きリップ部と前記直立リップ部の間に延在し、複数の弾性ラッチ部材をそれぞれ有する、請求項8から11のいずれか1項に記載のペダルカバー。
【請求項13】
前記ペダルカバーは、湾曲し、前記ペダルカバーの湾曲部は、凹状である、請求項1から12のいずれか1項に記載のペダルカバー。
【請求項14】
前記ペダルカバーの湾曲部は、円の一部分を実質的に構成する断面形状を有し、前記一部分は、円の四分の一の大きさより小さい、請求項13に記載のペダルカバー。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載のペダルカバーを備える、ペダル。
【請求項16】
請求項15に記載のペダルを備える、自動車。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1〜16は、実質的には、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1〜20から請求項15〜18を削除したものといえるから、本件補正は、特許法17条の2第5項1号に掲げる同法36条5項に規定する請求項の削除を目的とする補正である。
したがって、本件補正は適法になされたものである 。

3 本願発明1〜16について
本願の請求項1〜16に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明16」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜16に記載された事項によって特定される上記1(2)のとおりのものである。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1〜14、19及び20に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった次の引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開平11−152073号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付したものである。)。
(1)
「【請求項1】ペダルの踏み板に嵌着してその上面を覆う袋状の滑り止め体であって、この滑り止め体の踏み面を軟質樹脂により形成すると共に、踏み板の縁部が嵌合すべき滑り止め体の嵌合溝の少なくも一部と、踏み板の縁部に係止すべき係止爪とを硬質樹脂により形成し、係止爪には嵌着時に踏み板の縁部を嵌合溝に案内する傾斜面を形成してなる複合樹脂製ペダル滑り止め体。」
(2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はペダルの踏み面のペダル滑り止め体に関する改良である。本発明はバイクや乗用車等のアクセルやブレーキのペダルのほか、オルガンや工作機械などの操作ペダルに広く利用できる。」
(3)
「【0005】
【発明の実施の形態】本発明の詳細を添付図面を参照して説明する。図1は本発明の滑り止め体の平面図、図2は底面図である。本発明の滑り止め体1は、例えば、2つのノズルと2つのキャビテイを有する2色成形機により、内側を硬質樹脂2で成形し、外側を軟質樹脂3で覆い、両者を一体に形成する。硬質樹脂2としては、例えばAS樹脂、ACS樹脂、ABS樹脂、ABSアロイ(ABS/PVC、PA/ABS、PC/ABS、PC/AES、PBT/ABS等)、AES樹脂、硬質塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂,ポリアミド樹脂、液晶ポリマ、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、変性マレミド樹脂がよい。また軟質樹脂3としては、塩化ビニル樹脂(軟質)、熱可塑性ポリウレタンエラストマ、熱可塑性エラストマ(オレフィン系エラストマ、スチレン系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ニトリル系エラストマ)、SEBS(水添SBS系)エラストマ、エチレン酢ビコポリマがよい。滑り止め体1は、その形状を踏み板4に合わせて丸長方形に形成し、その上面の踏み面には滑り止めの溝5を形成する。底面には、図2に示すように、中央に外周より一回り小さい長方形の開口6を設ける。開口6の周縁は硬質樹脂2により形成し、開口6の内周に沿って踏み板4を嵌入する嵌合溝8を巡らし、開口6の1辺の両端隅角部には嵌合溝8の溝内壁に達する切欠き9を設ける。切欠き9は相隣る左右の辺に所定の巾で拡張する。切欠き9により挟まれた1辺には内側に向けて傾斜面7を形成する。傾斜面7の先端は図3に示すように、嵌合溝8の淵に達するように断面3角形とし、係止爪10を形成する。この硬質樹脂2による成形品の外周を軟質樹脂3で覆って一体に成形する。
【0006】図3は図1のA−A矢視断面図で、ペダルの踏み板4に装着した状態を示す。踏み板4の基部側から、滑り止め体1の傾斜面7に沿って踏み板4を開口6に差込んで嵌合溝8に挿入し、踏み板4の先端が対向する嵌合溝8に嵌入するまで移動し、踏み板4の基部側を滑り止め体1の傾斜面7を乗越えて嵌合溝8内に押し込む。滑り止め体1の傾斜面7は弾性変形の範囲で復元し、係止爪10が滑り止め体1を踏み板4に固定する。滑り止め体1の内側を硬質樹脂2により成形することにより、開口6の寸法のバラツキが少なく、傾斜面7も両端の切欠き9により分離され、傾斜面7の可撓性を保つことができる。また、傾斜面7は硬質樹脂2で形成されるため表面が滑らかで、踏み板4の嵌入を容易にすることができる。また硬質樹脂2を軟質樹脂3と異なる色に着色し、軟質樹脂3の踏み面に露出することにより、文字等を表示できる。図1の文字PUSHがその例で、この方法によれば塗装のように剥がれないため、長持ちする。
【0007】図4および図5は、本発明の第2の実施態様で、その底面図と断面図を示す。これは、滑り止め体1の開口6の対向する2辺または4辺に、傾斜面7とその4隅に切欠き9を形成した例で、開口6の対向する2辺のいずれか一方から踏み板4を傾斜面7に沿って挿入することにより、踏み板4の嵌入を容易にし、同時に確実に固定できる。」
(4)
「【0009】図8および図9は、本発明の第4の実施態様の底面図と断面図で、滑り止め体1の開口6の内側に、踏み板4の形状に合わせて嵌合溝8を巡らし、開口6の1辺には内側に向かって傾斜した傾斜面7の係止爪10を複数個設けることにより、係止爪10の傾斜面7に沿って、踏み板4の先端を滑り止め体1に嵌入して取付ける。」
(5)
「【図2】


(6)
「【図3】


(7)
「【図4】


(8)
「【図5】


(9)
「【図8】



2 引用文献1の記載から認定される事項
(1)段落【0006】及び段落【0007】の記載より、(ペダル)滑り止め体1の開口6の対向する4辺に傾斜面7を形成した例において、滑り止め体1を踏み板4に固定するには、まず、開口6の対向する2辺のいずれか一方から踏み板4を傾斜面7に沿って挿入し嵌合溝8に嵌入し、次に、踏み板4の基部側を滑り止め体1の反対側の辺の傾斜面7を乗越えて嵌合溝8内に押し込むと、滑り止め体1の傾斜面7が弾性変形の範囲で復元し、係止爪10が滑り止め体1を踏み板4に固定するものといえる。
(2)【請求項1】、段落【0006】、【図2】及び【図3】の記載より、(ペダル)滑り止め体1は、ペダルの踏み板4に嵌着してその上面を覆う袋状の形状とされていることから、踏み板4の上面を覆う部分である(ペダル)滑り止め体1の本体を有しているものといえる。

3 引用発明
引用文献1の各記載事項及び上記認定事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

[引用発明]
「ペダルの踏み板4に嵌着してその上面を覆う袋状のペダル滑り止め体1であって、
ペダル滑り止め体1は、丸長方形に形成され、上面を覆う部分であるペダル滑り止め体1の本体を有し、上面の踏み面には滑り止めの溝5を形成し、底面には、中央に外周より一回り小さい長方形の開口6が設けられ、
開口6の内周に沿って踏み板4を嵌入する嵌合溝8を巡らし、
開口6の対向する4辺に、内側に向けて傾斜面7を形成し、
傾斜面7の先端は、嵌合溝8の溝内壁から淵に達するように断面3角形として係止爪10を形成し、
まず、開口6の対向する2辺のいずれか一方から踏み板4を傾斜面7に沿って挿入し嵌合溝8に嵌入し、次に、踏み板4の基部側を滑り止め体1の反対側の辺の傾斜面7を乗越えて嵌合溝8内に押し込むと、滑り止め体1の傾斜面7が弾性変形の範囲で復元し、係止爪10が滑り止め体1を踏み板4に固定する、
ペダル滑り止め体1。」

第5 対比
本願発明1と引用発明を対比する。
引用発明の「ペダル滑り止め体1」は、「ペダルの踏み板4に嵌着してその上面を覆う」ものであるから、本願発明1の「ペダルカバー」に相当する。
引用発明の「ペダル滑り止め体1」は、「ペダルの踏み板4に嵌着してその上面を覆う袋状」で「上面を覆う部分であるペダル滑り止め体1の本体を有し」ているから、引用発明の「ペダル滑り止め体1の本体」は、本願発明1の「フットパッド」に相当する。
さらに、引用発明の「ペダル滑り止め体1」は、「上面の踏み面には滑り止めの溝5を形成し、底面には、中央に外周より一回り小さい長方形の開口6が設けられ」ているものであるから、引用発明の「ペダル滑り止め体1の本体」は、前面たる上面及び後面たる底面を有するといえる(引用文献1の【図3】も参照。)。
したがって、引用発明の「ペダルの踏み板4に嵌着してその上面を覆う袋状のペダル滑り止め体1であって、ペダル滑り止め体1は、丸長方形に形成され、上面を覆う部分であるペダル滑り止め体1の本体を有し、上面の踏み面には滑り止めの溝5を形成し、底面には、中央に外周より一回り小さい長方形の開口6が設けられ」ている「ペダル滑り止め体1」は、本願発明1の「前面および後面を有するフットパッドを備えるペダルカバー」に相当する。
引用発明の「嵌合溝8の溝内壁」は、「丸長方形に形成され」た「ペダル滑り止め体1」の「底面」に「設けられ」た「中央に外周より一回り小さい長方形の開口6」の「内周に沿って踏み板4を嵌入する嵌合溝8」の溝底であり(引用文献1の【図3】を参照。)ペダル滑り止め体1の本体から底面に向けて、ペダル滑り止め体1の前面から離れる方向に延在する部分といえるから、本願発明1の「側部」に相当する構成である。そして、嵌合溝8は、ペダル滑り止め体1の開口6の内周に沿って巡らされているものであるから、斯かる嵌合溝8の溝内壁は、丸長方形のペダル滑り止め体1の4つ辺に備えられているものといえる。
したがって、引用発明の、「ペダル滑り止め体1は、丸長方形に形成され、上面の踏み面には滑り止めの溝5を形成し、底面には、中央に外周より一回り小さい長方形の開口6が設けられ、開口6の内周に沿って踏み板4を嵌入する嵌合溝8を巡らし」ていることは、本願発明1の「前記ペダルカバーは、前記フットパッドから後方に向けて、前記フットパッドの前記前面から離れる方向に延在する少なくとも2つの側部をさらに備え」ることに相当する。
引用発明の「係止爪10」は、ペダル滑り止め体1の底面の「開口6の対向する4辺に、内側に向けて」「形成」されている「傾斜面7の先端」に「嵌合溝8の溝内壁から淵に達するように断面3角形として」「形成」されているものであり、機能的に見て、滑り止め体1を踏み板4に掛け止め固定する固定構造における「掛け止め部材」であるという限度で、本願発明1の「ラッチ部材」と一致する。
そして、引用発明の「係止爪10」は、嵌合溝8の少なくとも対向する2つの各々に、嵌合溝8の溝内壁から淵に達するように備えられている。
したがって、引用発明の「開口6の対向する4辺に、内側に向けて傾斜面7を形成」し、「傾斜面7の先端は、嵌合溝8の溝内壁から淵に達するように断面3角形として係止爪10を形成」することは、本願発明1の「前記側部のうち、少なくとも2つの対向する側部の各々は、複数のラッチ部材を備え」ることとの対比において、「前記側部のうち、少なくとも2つの対向する側部の各々は、掛け止め部材を備え」ることの限度で一致する。
引用発明の「ペダル」及び「踏み板4」は、本願発明1の「ペダル」及び「ヘッド部」に相当する。また、引用発明の「ペダル」が後面を有するものであることは、その形態からして明らかである。
引用発明は、「まず、開口6の対向する2辺のいずれか一方から踏み板4を傾斜面7に沿って挿入し嵌合溝8に嵌入し、次に、踏み板4の基部側を滑り止め体1の反対側の辺の傾斜面7を乗越えて嵌合溝8内に押し込むと、滑り止め体1の傾斜面7が弾性変形の範囲で復元し、係止爪10が滑り止め体1を踏み板4に固定する」ものであり、引用文献1の【図5】に記載されている、踏み板4と滑り板1の嵌合構造の図示内容をも踏まえると、滑り止め体1を踏み板4に固定する際には、まず、踏み板4の一端を滑り止め体1の嵌合溝8に嵌入した後、踏み板4を滑り止め体1の本体の後面に向けて押しつけると、踏み板4の基部側が傾斜面7を乗越えるよう傾斜面7が退避し傾斜面7を通り越して、滑り止め体1の本体の底面が踏み板4に当接すると、傾斜面7の係止爪10が滑り止め体1の本体の底面の後方に係合し、滑り止め体1が踏み板4に固定されるものであるといえる。
したがって、引用発明の「傾斜面7の先端は、嵌合溝8の淵に達するように断面3角形として係止爪10を形成し、まず、開口6の対向する2辺のいずれか一方から踏み板4を傾斜面7に沿って挿入し嵌合溝8に嵌入し、次に、踏み板4の基部側を滑り止め体1の反対側の辺の傾斜面7を乗越えて嵌合溝8内に押し込むと、滑り止め体1の傾斜面7が弾性変形の範囲で復元し、係止爪10が滑り止め体1を踏み板4に固定する」ことは、本願発明1の「ヘッド部および後面を有するペダルに前記ペダルカバーを適用する際には、前記ペダルの前記ヘッド部は前記側部を通り越して前記ペダルカバーの後面に向けて押され、それによって、前記ラッチ部材は収縮し、前記ペダルカバーの後面が前記ペダルの前記ヘッド部に当接すると、前記ラッチ部材が前記ペダルの前記後面の後方に係合する」こととの対比において、「ヘッド部および後面を有するペダルに前記ペダルカバーを適用する際には、前記ペダルの前記ヘッド部は前記側部を通り越して前記ペダルカバーの後面に向けて押され、それによって、前記掛け止め部材は退避し、前記ペダルカバーの後面が前記ペダルの前記ヘッド部に当接すると、前記掛け止め部材が前記ペダルの前記後面の後方に係合する」ことの限度で一致する。
以上から、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。

[一致点]
「前面および後面を有するフットパッドを備えるペダルカバーであって、
前記ペダルカバーは、前記フットパッドから後方に向けて、前記フットパッドの前記前面から離れる方向に延在する少なくとも2つの側部をさらに備え、
前記側部のうち、少なくとも2つの対向する側部の各々は、掛け止め部材を備え、
ヘッド部および後面を有するペダルに前記ペダルカバーを適用する際には、前記ペダルの前記ヘッド部は前記側部を通り越して前記ペダルカバーの後面に向けて押され、それによって、前記掛け止め部材は退避し、前記ペダルカバーの後面が前記ペダルの前記ヘッド部に当接すると、前記ラッチ部材が前記ペダルの前記後面の後方に係合する、
ペダルカバー。」

[相違点1]
掛け止め部材の形態に関し、本願発明1は、「ラッチ部材」が「複数」であるのに対し、引用発明は、「係止爪10」が複数とはされていない点。

[相違点2]
掛け止め部材の機能に関し、本願発明1は、「ラッチ部材」をペダルにペダルカバーを適用する際には、ラッチ部材が「収縮」するものとされているのに対し、引用発明は、踏み板4の基部側を滑り止め体1の傾斜面7を乗越えて嵌合溝8内に押し込むと、滑り止め体1の傾斜面7が弾性変形の範囲で復元し、傾斜面7の先端に形成された係止爪10が滑り止め体1を踏み板4に固定するものとされていることから、「傾斜面7」の「係止爪10」が、踏み板4の基部側が滑り止め体1の傾斜面7を乗越える際に、弾性変形の範囲で退避するものであるといえる点。

第6 判断
1 相違点1について
引用文献1の段落【0009】及び【図8】には、滑り止め体1の開口6の内側に、踏み板4の形状に合わせて嵌合溝8を巡らし、開口6の1辺に内側に向かって傾斜した傾斜面7の係合爪10を複数個設けるという技術的事項(以下、「引用文献1に記載の技術的事項」という。)が記載されている。
この引用文献1に記載の技術的事項は、引用文献1の段落【0005】及び【図2】に記載されたものとの対比において、傾斜面7(係合爪10)を複数個とした変形例ということができ、このような変形例としても傾斜面7(係合爪10)としての機能を十分発揮できることを示唆しているといえる。
したがって、引用発明において、傾斜面7(係合爪10)の個数を複数個とすることは、当業者が容易に想到し得た事項であるといえる。
よって、引用発明において、相違点1に係る本願発明1の構成となすことは、引用文献1に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到できたものといえる。

2 相違点2について
(1)本願発明1の「ラッチ部材」は、「収縮」することにより、ペダルのヘッド部がフットパッドの側部を通り越す際に、ヘッド部の通り越しを許容するために退避するものである。
一方、引用発明の「傾斜面7」の「係止爪10」が、踏み板4の基部側が滑り止め体1の傾斜面7を乗越える際に、弾性変形の範囲で「退避する」ことは、「傾斜面7」を形成した「係止爪10」が弾性変形することを意味し、その際の「傾斜面7」の変形には「収縮」する態様も含まれるといえる。
してみると、引用発明の、踏み板4の基部側が滑り止め体1の傾斜面7を乗越える際に、弾性変形の範囲で退避する「傾斜面7」は、本願発明1の「ラッチ部材」に相当し、引用発明の「傾斜面7の先端は、嵌合溝8の溝内壁から淵に達するように断面3角形として係止爪10を形成し、まず、開口6の対向する2辺のいずれか一方から踏み板4を傾斜面7に沿って挿入し嵌合溝8に嵌入し、次に、踏み板4の基部側を滑り止め体1の反対側の辺の傾斜面7を乗越えて嵌合溝8内に押し込むと、滑り止め体1の傾斜面7が弾性変形の範囲で復元し、係止爪10が滑り止め体1を踏み板4に固定する」ことは、本願発明1の「ヘッド部および後面を有するペダルに前記ペダルカバーを適用する際には、前記ペダルの前記ヘッド部は前記側部を通り越して前記ペダルカバーの後面に向けて押され、それによって、前記ラッチ部材は収縮し、前記ペダルカバーの後面が前記ペダルの前記ヘッド部に当接すると、前記ラッチ部材が前記ペダルの前記後面の後方に係合する」態様を含むものであるから、結局、本願発明1の当該構成に相当するといえ、相違点2は実質的な相違点であるとはいえない。
(2)引用発明の「ラッチ部材は退避し」が本願発明1の「ラッチ部材は収縮し」との態様を含むとはいえない、すなわち、相違点2が実質的な相違点であるとして、さらに検討する。
引用発明の断面3角形の係止爪10を収縮させることにより、退避したのと同様の状態とすれば、ペダルの踏み板4が傾斜部7を通り越すことが可能となることは、当業者には容易に認識し得た事項といえる。
また、一方の部材に設けられた他方の部材との係合部が一時的に退避し、他方の部材の通り越しを許容した後、係合部が他方の部材と係合する位置に復帰し、一方の部材を他方の部材に固定する掛け止め機構(いわゆる、スナップフィット機構)において、係合部を収縮させるものは、周知・慣用の事項であるといえる(例えば、実公平5−25487号公報の第2ページ右欄第31行〜第3ページ左欄第3行及び第6図、特許第3713552号公報の段落【0014】、【0015】及び【図4】〜【図6】を参照。)。
してみると、引用発明の断面3角形の係止爪10を収縮させることにより、ペダルの踏み板4が傾斜部7を通り越すことが可能とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことといえる。
したがって、引用発明の係止爪10を収縮させるように形成し、もって、相違点2に係る本願発明1の構成となすことは、当業者であれば周知・慣用の事項に基いて容易に想到し得たことである。

3 作用効果について
本願発明1と引用発明との相違点を総合的に勘案しても、本願発明1の奏する作用効果は、引用発明、引用文献1に記載の技術的事項及び周知・慣用の事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

4 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、引用文献1には、本願発明1の「ペダルカバーの少なくとも2つの側部のうち、少なくとも2つの対向する側部の各々は、複数のラッチ部材を備えている」という構成を開示も示唆もしておらず、斯かる構成を有することにより、本願発明1は、「ラッチ部材を後退させるために必要な力が小さくて済む」という作用効果を奏する旨主張している(審判請求書第4ページ第25行〜第6ページ第14行)。
しかしながら、上記「第6 1」で説示のとおり、引用文献1には、複数の係止爪を備える構成を示唆する技術的事項が記載されており、引用発明において係止爪10を複数とすることは当業者にとって容易想到であり、また、係止爪10を複数とすれば、踏み板4が複数の係止爪10を次々に退避させる構成となり、係止爪10を後退、すなわち、退避させるために必要な力が小さくて済むことは、当業者であれば予測し得た程度の作用効果であるといえる。
したがって、請求人の主張は採用できない。

5 小括
したがって、本願発明1は、引用発明、引用文献1に記載の技術的事項及び周知・慣用の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明、引用文献1に記載の技術的事項及び周知・慣用の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 田村 嘉章
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-11-24 
結審通知日 2021-11-30 
審決日 2021-12-13 
出願番号 P2018-535829
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G05G)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 中村 大輔
尾崎 和寛
発明の名称 ペダルカバー  
代理人 特許業務法人筒井国際特許事務所  

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