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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01G
管理番号 1384801
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-04-01 
確定日 2022-04-28 
事件の表示 特願2017− 52299「コンデンサ用金属化フィルム,およびそれを用いたコンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月 4日出願公開,特開2018−157055〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成29年3月17日に出願されたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年10月 2日付け:拒絶理由通知
令和2年12月 4日 :手続補正書,意見書
令和3年 1月15日付け:拒絶査定
令和3年 4月 1日 :審判請求書
令和3年11月 5日付け:当審による拒絶理由通知
令和4年 1月 7日 :意見書,手続補正書

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は,令和4年1月7日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
フィルムコンデンサの誘電体として用いられるポリプロピレンフィルムの片面に,金属層を形成してなる金属化フィルムであって,該金属層の表面に0.02〜0.2μg/cm2のシリコーンオイル層もしくはフッ素オイル層が形成されており,かつぬれ指数が33〜50mN/mであり,ポリプロピレンフィルムの金属層と反対側の面はその最表層はポリプロピレンであり,そのぬれ指数が33〜45mN/mであり,帯電量が−15〜+15Vの範囲であるコンデンサ用金属化フィルム。」

第3 令和3年11月5日付け拒絶理由の概要
本願の請求項1に対して,令和3年11月5日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は,次のとおりのものである。
本願の請求項1に係る発明は,その出願前に日本国内または外国において,頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に記載された周知の技術事項に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2008−263172号公報
引用文献2.特開平10−128908号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.特開2000−21673号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.特開2008−115417号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献,引用発明
1 引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。なお,下線は当審で付与した。
「【0033】
本発明において保護層はオイルであることが好ましく,耐湿性を有し,他の特性を阻害しないのであれば特に限定されない。例示するならばフッ素系オイル,パーフロロアルキルポリエーテル,鉱物油,ジメチルポリシロキサン,メチルフェニルシリコーンなどである。耐湿性および電気特性の観点から,シリコーンオイル,フッ素オイルが好ましい。
【0034】
シリコーンオイルとしては,ジメチルポリシロキサンかメチルフェニルシリコーンオイルが好ましく,メチルフェニルジメチルポリシロキサンが,耐湿性の点から特に好ましい。また有機変性シリコーンオイルとして,アルキル変性シリコーンオイル,フッ素変性シリコーンオイル,アルコール変性シリコーンオイル,エポキシ変性オイル,カルボキシル変性オイルが好ましく,より好ましくはカルボキシル変性オイルである。」

「【0056】
(実施例1)
高分子フィルムとして,厚み3.0μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム 東レ(株)製トレファン(タイプ名V273)を使用した。真空蒸着機内下室を2×10−4torrに減圧し,長手方向マージンが2.0mmとなるように長手方向マージンを形成後,まずアルミニウム蒸着し,次いで直後に同一蒸着機内で細断後ヘビーエッジ部となる位置のみにスリット穴を通して亜鉛蒸着を行い,ヘビーエッジ部にアルミと亜鉛の合金を形成した。 【0057】
この時,かかる金属蒸着で形成された金属膜層の深さ方向でのアルミニウムの比率は,a1=89,a2=10,a3=37(%)であった。
【0058】
また,スリット穴は長方形形状とし,蒸着後のヘビーエッジ幅が1.0mmとなるように穴の大きさを調整した。また,膜抵抗はヘビーエッジ部3.5Ω/□,アクティブ部20Ω/□となるようにした。
【0059】
次いで,保護層として金属蒸着面にフェニルメチルジメチルポリシロキサン(東レダウコーニングシリコーン社製SH702)を加熱蒸着した。また,オイル付着量は,0.05μg/cm2となるように制御した。続いてオイル付着面にO2ガスを微量供給しながら250Hz,5KWのパルスDC電源を用いて,グロー放電を発生させて,処理電力密度がE=25W・min/m2となるようにグロー処理を行い,金属化フィルムを得た。」

「【0074】
【図1】この図は,本発明のコンデンサ用金属化フィルムのヘビーエッジ構造による金属膜構造の一例を示す模式的な断面図である。
【図2】この図は,本発明の金属化フィルムコンデンサの好適なヒューズ位置を説明する模式図である。
【図3】この図は,本発明の金属化フィルムコンデンサを作成する際に好適な設定を示す模式的な断面図である。
【図4】この図は,本発明のコンデンサ用金属化フィルムのヘビーエッジ幅をデンシトメータにより光学的に測定する際の模式図である。
【符号の説明】
【0075】
1:高分子フィルム
2:金属膜
3:ヘビーエッジ幅(A;mm)
4:メタリコン側に最も近接したヒューズのフィルム端面から見た距離(B;mm)
5:MDフリーマージン(C;mm)
6:ずらし量(D;mm)
7:ヒューズ」



2 前記記載事項から次のことがいえる。
(1)段落【0056】ないし【0057】によれば,高分子フィルムとしてポリプロピレンフィルムを使用し,アルミニウム蒸着して「金属膜層」が形成されたものである。
ここで,段落【0074】によれば,図1は「本発明のコンデンサ用金属化フィルム」の一例を示すものであり,段落【0075】によれば「1:高分子フィルム」及び「2:金属膜」であるところ,図1を参照すると,「1:高分子フィルム」の片面に「2:金属膜」が形成されていることが見て取れる。
以上の点より,引用文献1には,ポリプロピレンフィルムの片面に蒸着して金属膜層が形成されたコンデンサ用金属化フィルムが記載されている。

(2)段落【0059】によれば,保護層として金属蒸着面にフェニルメチルジメチルポリシロキサンを加熱蒸着したものである。
ここで段落【0034】によれば,フェニルメチルジメチルポリシロキサンはシリコーンオイルである。
また,段落【0056】ないし【0057】によれば,「金属蒸着面」は,蒸着して形成された「金属膜層」の表面と認められる。
以上の点より,引用文献1には,金属膜層の表面にシリコーンオイルの保護層が蒸着されたものが記載されている。

(3)段落【0059】によれば,オイル付着量は0.05μg/cm2である。

(4)段落【0059】によれば,オイル付着面にグロー放電を発生させて,処理電力密度がE=25W・min/m2となるようにグロー処理を行ったものである。

3 したがって,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。
「ポリプロピレンフィルムの片面に蒸着して金属膜層が形成されたコンデンサ用金属化フィルムであって,
金属膜層の表面にシリコーンオイルの保護層が蒸着され,
オイル付着量は0.05μg/cm2であり,
オイル付着面にグロー放電を発生させて,処理電力密度がE=25W・min/m2となるようにグロー処理を行った,
コンデンサ用金属化フィルム。」

第5 対比・判断
1 本願発明と引用発明との対比
(1)引用発明の「コンデンサ用金属化フィルム」は「ポリプロピレンフィルム」と「金属膜層」とで構成されているから,引用発明の「ポリプロピレンフィルム」は,フィルムコンデンサの誘電体である。
よって,引用発明の「ポリプロピレンフィルム」は,本願発明の「フィルムコンデンサの誘電体として用いられるポリプロピレンフィルム」に相当する。

(2)また,引用発明の「金属膜層」は,ポリプロピレンフィルムの片面に形成されている金属の層であるから,本願発明の「ポリプロピレンフィルムの片面」に形成してなる「金属層」に相当する。

(3)引用発明の「シリコーンオイルの保護層」は,「金属膜層」の表面に蒸着されるものであるから,本願発明の「金属層の表面」に形成される「シリコーンオイル層もしくはフッ素オイル層」に含まれる。
また,引用発明の「0.05μg/cm2」は,本願発明の「0.02〜0.2μg/cm2」に含まれる。
してみると,引用発明の「金属膜層の表面にシリコーンオイルの保護層が蒸着され,オイル付着量は0.05μg/cm2」であることは,本願発明の「該金属層の表面に0.02〜0.2μg/cm2のシリコーンオイル層もしくはフッ素オイル層が形成されて」いることに含まれる。

(4)本願発明は「シリコーンオイル層もしくはフッ素オイル層」の「ぬれ指数が33〜50mN/m」であるのに対して,引用発明はそのような構成であることは特定されていない点で相違する。

(5)引用発明の「ポリプロピレンフィルムの片面に蒸着して金属膜層が形成され」,「金属膜層の表面に」「シリコーンオイルの保護層が蒸着され」たことは,ポリプロピレンフィルムの「片面」とは反対側の面には「金属膜層」及び「シリコーンオイルの保護層」が蒸着されていないといえるから,本願発明の「ポリプロピレンフィルムの金属層と反対側の面はその最表層はポリプロピレン」であることに相当する。

(6)本願発明は「ポリプロピレンフィルムの金属層と反対側の面」の「ぬれ指数が33〜45mN/m」であるのに対して,引用発明はそのような構成であることは特定されていない点で相違する。

(7)本願発明は「帯電量が−15V〜+15Vの範囲である」のに対して,引用発明はそのような構成であることは特定されていない点で相違する。

2 一致点・相違点
よって,本願発明と引用発明とは,
「フィルムコンデンサの誘電体として用いられるポリプロピレンフィルムの片面に,金属層を形成してなる金属化フィルムであって,該金属層の表面に0.02〜0.2μg/cm2のシリコーンオイル層もしくはフッ素オイル層が形成されており,ポリプロピレンフィルムの金属層と反対側の面はその最表層はポリプロピレンである,コンデンサ用金属化フィルム。」である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)本願発明は「シリコーンオイル層もしくはフッ素オイル層」の「ぬれ指数が33〜50mN/m」であるのに対して,引用発明はそのような構成であることは特定されていない点。

(相違点2)本願発明は「ポリプロピレンフィルムの金属層と反対側の面」の「ぬれ指数が33〜45mN/m」であるのに対して,引用発明はそのような構成であることは特定されていない点。

(相違点3)本願発明は「帯電量が−15V〜+15Vの範囲である」のに対して,引用発明はそのような構成であることは特定されていない点。

3 相違点の検討
(1)相違点1について
本願発明の「シリコーンオイル層もしくはフッ素オイル層」の「ぬれ指数が33〜50mN/m」であることは,本願明細書の段落【0023】ないし【0026】によれば,シリコーンオイル層もしくはフッ素オイル層にプラズマ放電処理を行うことにより達成されるものである。また,本願明細書の段落【0032】によれば,「処理電力密度を5W・min/(m2・片面)以上にすることが,フィルムの特性を本願の範囲に制御するために好ましく」,「より好ましくは,10〜30W・min/(m2・片面)である」ことが記載されている。
これに対して,引用発明の「シリコーンオイルの保護層」の「オイル付着面にグロー放電を発生させ」る「グロー処理」は,技術常識によれば,プラズマ放電処理に含まれるものである。そして,引用発明の「グロー処理」の「処理電力密度がE=25W・min/m2」である。
以上の点より,引用発明の「シリコーンオイルの保護層」の「オイル付着面にグロー放電を発生させ,処理電力密度がE=25W・min/m2となるようにグロー処理を行った」ことは,本願明細書に記載された「処理電力密度」が「より好ましくは,10〜30W・min/(m2・片面)である」ことに含まれるから,本願発明の「シリコーンオイル層もしくはフッ素オイル層」の「ぬれ指数が33〜50mN/m」となる構成を備えている。
よって,前記相違点1は実質的な相違ではない。

(2)相違点2について
コンデンサ用金属化フィルムにおいて,ポリプロピレンフィルムの金属層と反対側の面に放電処理を施し,「ぬれ指数が33〜45mN/m」とすることは,引用文献2(段落【0001】,【0035】,【0063】ないし【0070】を参照。「ポリプロピレンフィルム」を「グロー放電によって表面処理」し,「反対のフィルム表面張力は42dyne/cm」とした点。なお,42dyne/cm=42mN/mである。),引用文献3(段落【0001】,【0014】,【0015】,【0030】を参照。「ポリプロピレンフィルム」を,「公知のコロナ放電処理により」,「非蒸着面は実施例4では33dyne/cm,実施例5では36dyne/cm」とした点。)に記載されているように,周知の技術事項である。
そして,引用発明と前記周知の技術事項とは,コンデンサ用金属化フィルムである点で共通の技術分野に属する。また,前記周知の技術事項は,金属蒸着膜の上に蒸着したオイルをグロー放電処理することと併用することができるものであるから(引用文献2の段落【0063】ないし【0065】を参照),引用発明においても阻害される事項ではない。
よって,引用発明の「ポリプロピレンフィルムの金属層と反対側の面」の最表層のポリプロピレンに前記周知の技術事項を適用し,前記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことである。

(3)相違点3について
コンデンサ用金属化フィルムにおいて,静電気帯電を抑制するため,ポリプロピレンフィルムの金属層と反対側の面に放電処理を行って,帯電量の絶対値を小さくすることは,引用文献4に記載されているように(段落【0001】 ,【0023】を参照。「非蒸着面にプラズマ処理を施して除電をすること」によって,「表面電位として−20V〜+20Vの範囲に制御する」点。),周知の技術事項である。ここで,帯電量(表面電位)の絶対値を小さくしたほうがより好ましいことは,引用発明においても阻害される事項ではない。そして,引用発明と,前記周知の技術事項とは,コンデンサ用金属化フィルムである点で共通の技術分野に属する。
よって,引用発明の「ポリプロピレンフィルムの金属層と反対側の面」の最表層のポリプロピレンに前記周知の技術事項を適用し,前記相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことである。

4 本願発明についてのまとめ
以上のとおり,本願発明は,引用文献1に記載された発明,及び,引用文献2ないし4に記載された周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 令和4年1月7日の意見書における審判請求人の主張について
1 審判請求人は,令和4年1月7日の意見書において以下の主張をしている。
「本願発明において,フィルムコンデンサを無外装のまま,高温高湿雰囲気下で,100V/μmの直流電圧を印加し,高温高湿ライフ試験を実施し,1000時間後の静電容量保持率が90%以上を良好としています。本発明により,フィルムコンデンサのさらなる過酷な環境への対応が可能となることは,いずれの引用文献にも一切開示も示唆もありません。
つまり,この『従来では得られなかった極めて高い耐湿性を得ることのできるコンデンサ用金属化フィルムを提供』の,『従来では得られなかった極めて高い耐湿性』,具体的には本願明細書の表1に示す『静電容量保持率』に関しては,引用文献2ないし4に開示も示唆もありませんから(もちろん引用文献1にも開示も示唆もありません),引用文献1に記載された発明において,たとえ引用文献2ないし4に開示の周知の技術事項を適用したとしても,前記相違点に係る構成とすることは,当業者といえども容易に為し得たことではないと思料します。
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用文献1に記載された発明,及び,引用文献2ないし4に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではありません。」

2 そこで,前記主張について検討する。
引用文献1に記載された発明において前記相違点1ないし3に係る構成とすることが容易であるか否かは,本願明細書に記載がある目的を考慮して判断するのではなく,引用文献1に記載された発明における技術の適用性を考慮して判断を行うものである。
また,前記相違点1ないし3に係る構成は,審判請求人が主張する「フィルムコンデンサのさらなる過酷な環境への対応」,「従来では得られなかった極めて高い耐湿性」ないし「静電容量保持率」のために特化された構成でもない。
そして,引用文献1に記載された発明において前記相違点1ないし3に係る構成とすることが,当業者にとって容易であることは,前記「第5」の「3」で判断したとおりである。
よって,審判請求人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,特許庁長官を被告として,提起することができます。
 
審理終結日 2022-02-15 
結審通知日 2022-02-22 
審決日 2022-03-08 
出願番号 P2017-052299
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01G)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 木下 直哉
清水 稔
発明の名称 コンデンサ用金属化フィルム、およびそれを用いたコンデンサ  
代理人 福岡 満  

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