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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H02P
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02P
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02P
管理番号 1384871
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-05-12 
確定日 2022-05-06 
事件の表示 特願2017−548962「ロボットシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月22日国際公開、WO2016/147007、平成30年 4月12日国内公表、特表2018−510604〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)3月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年3月17日 英国(GB))を国際出願日とする出願であって、令和元年9月24日付けで拒絶理由が通知され、令和元年12月26日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年5月13日付けで拒絶理由(最後)が通知され、令和2年8月7日に意見書が提出されたが、令和3年1月7日付けで拒絶査定がされ、これに対して、令和3年5月12日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 令和3年5月12日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年5月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正後の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「関節でつながれたジョイントによって相互に接続された一連の結合物からなるロボットアームと、
少なくとも1つの該関節でつながれたジョイントを駆動するモータ装置であって、回転子と、固定子と、該回転子と該固定子の一方に装着されて他方に作用する少なくとも3つの巻線と、該巻線に連結された複数のモータ入力と、を有するモータと、前記モータ入力を介して前記巻線に動的に通電することによって前記回転子を前記固定子に対して相対回転させる駆動モードまたは、該少なくとも3つの巻線をコモンレールに連続的に接続することによって閉電流路を形成し、該回転子の該固定子に対する相対制動を惹起し、外部トルクに抗して該回転子の動作を阻止しかつ該回転子の回転を防止する制動モードと、で作動する制御回路と、を含んで構成されており、前記制御回路は、前記制御回路の供給電圧が所定値を下回ったことに反応して前記制動モードに入ることを特徴とするロボットシステム。」

(2)本件補正前の請求項1の記載
本件補正前の、令和元年12月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「関節でつながれたジョイントによって相互に接続された一連の結合物からなるロボットアームと、
少なくとも1つの該関節でつながれたジョイントを駆動するモータ装置であって、回転子と、固定子と、該回転子と該固定子の一方に装着されて他方に作用する少なくとも3つの巻線と、該巻線に連結された複数のモータ入力と、を有するモータと、前記モータ入力を介して前記巻線に動的に通電することによって前記回転子を前記固定子に対して相対回転させる駆動モードと、さらに、該少なくとも3つの巻線をコモンレールに連続的に接続することによって閉電流路を形成し、該回転子の該固定子に対する相対制動を惹起し、前記ロボットアームの前記結合物の少なくとも1つを適切な位置に保持する制動モードと、で作動する制御回路と、を含んで構成されており、前記制御回路は、故障状態を示す前記モータの外部で発生したトリガーに反応して前記制動モードに入るモータ装置と、
前記制御回路の供給電圧が所定値を下回った時に前記制御回路を前記制動モードに入れるトリガー回路と、
を含んで構成されていることを特徴とするロボットシステム。」

(3)本件補正は、請求項1に係る次の補正事項を含むものである。
ア 補正事項1
本件補正前の請求項1に「駆動モードと、さらに、」とあるのを、「駆動モードまたは、」とする補正。
イ 補正事項2
本件補正前の請求項1に「該少なくとも3つの巻線をコモンレールに連続的に接続することによって閉電流路を形成し、該回転子の該固定子に対する相対制動を惹起し、前記ロボットアームの前記結合物の少なくとも1つを適切な位置に保持する制動モード」とあるのを、「該少なくとも3つの巻線をコモンレールに連続的に接続することによって閉電流路を形成し、該回転子の該固定子に対する相対制動を惹起し、外部トルクに抗して該回転子の動作を阻止しかつ該回転子の回転を防止する制動モード」とする補正。
ウ 補正事項3
本件補正前の請求項1に「前記制御回路は、故障状態を示す前記モータの外部で発生したトリガーに反応して前記制動モードに入るモータ装置と、前記制御回路の供給電圧が所定値を下回った時に前記制御回路を前記制動モードに入れるトリガー回路と、を含んで構成されている」とあるのを、「前記制御回路は、前記制御回路の供給電圧が所定値を下回ったことに反応して前記制動モードに入る」とする補正。

2 本件補正の適否
(1)補正の目的について
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。

ア 補正事項1について
「駆動モードと、さらに、」を「駆動モードまたは、」とする補正は、制御回路の駆動モードとしての作動と制動モードとしての作動に関する記載を明瞭にすることを目的とするものと解されるから、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明瞭でない記載の釈明に該当する。

イ 補正事項2について
補正事項2は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「制動モード」について、その制御内容を「前記ロボットアームの前記結合物の少なくとも1つを適切な位置に保持する」から「外部トルクに抗して該回転子の動作を阻止しかつ該回転子の回転を防止する」に変更するものであり、これにより、本件補正後の請求項1に係る発明には、制動モードが、モータの静止時における位置保持のための制動制御だけでなく、モータの回転時における制動制御も実施する構成が包含されることになるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。
また、補正事項2は、特許法第17条の2第5項第1号、第3号及び第4号に掲げる請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。

ウ 補正事項3について
補正事項3は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「トリガー回路」の削除を含むものであり、これにより、本件補正後の請求項1に係る発明には、トリガー回路を用いることなく制御回路を制動モードに入れる(切り替える)構成が包含されることになるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。
また、補正事項3は、特許法第17条の2第5項第1号、第3号及び第4号に掲げる請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。

してみると、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げる事項のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。

(2)独立特許要件について
上記(1)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げる事項のいずれを目的とするものでないことは明らかであるが、仮に、本件補正が特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとして、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。

ア 本願補正発明
本願補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

イ 引用文献、引用発明等
(ア)引用文献1について
原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2013/155034号(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(訳文として、特表2015−519857号公報(以下、「対応公報」という。)の対応する箇所の記載を援用する。下線は当審において付した。)。
a 「[0002] Robots have been deployed across numerous industrial and manufacturing environments to promote reliability and cost savings. Robotic arms that are used to move a work tool between locations are typically driven by rotating motors via low-friction gearboxes. The low-friction gearboxes convert rotational motion with a high output efficiency, but generally permit the motor to continue moving for a significant time following an emergency stop or when power is interrupted. Additionally, the low-friction gearboxes may lead to situations where a raised robotic arm in a static position falls under gravity during the emergency stop or power failure and potentially cause damage to equipment or harm to humans. As a result, motors for robotic arms may be equipped with an emergency-stop brake to avoid these hazards .」
(訳文:ロボットは、信頼性およびコスト節約を助長するために、多数の産業および製造環境にわたって展開されている。場所間で作業ツールを移動させるために使用されるロボットアームは、典型的には、低摩擦ギアボックスを介して、モータを回転させることによって駆動される。低摩擦ギアボックスは、回転運動を高出力効率で変換するが、概して、緊急停止後または電力が遮断されるとき、有意な時間の間、モータを動かし続ける。加えて、低摩擦ギアボックスは、静止位置に持ち上げられたロボットアームが、緊急停止または停電の間、重力下で落下する状況につながり得、潜在的に、機器を損傷させるか、または人間に危害を及ぼし得る。その結果、ロボットアームのためのモータは、これらの危険を回避するために、緊急停止制動機を具備し得る。(対応公報の【0003】))
b 「[0016] Refer first to FIG. 1A, which illustrates a robotic system 100 having a robotic arm with joint 102 driven by a motor 104 via a gearbox 106. Rotation of the motor 104 generates low- friction motion in the gearbox 106 and is converted into a desired movement of the robotic joint 102 for performing physical manipulations. The motor 104 may be, for example, a single-phase, two-phase, or three-phase AC permanent magnet (PM) motor or a DC PM motor (such as a three- phase brushless DC motor). In various embodiments, the motor 104 is actuated by power circuitry 108 that is supported by a power supply 1 10 (e.g., 1 10 or 220 AC volts) and regulated by a control unit 112. The control unit 112 governs the speed and direction of the motor rotation to control various degrees of robotic arm motional freedom while performing robotic actions. Referring to FIG. IB, in some embodiments, the power circuitry 108 includes an inverter 1 14 having a bridge circuit (e.g., an H-bridge) to convert an input DC voltage to an output AC voltage with an adjustable amplitude and frequency; the converted output voltage is then fed from the bridge circuit to the motor 104 to cause rotation. Although a single-phase motor is described herein for simplicity, other types of motors? e.g., two-phase and three-phase motors? are within the scope of the current invention.」
(訳文:最初に、ギアボックス106を介して、モータ104によって駆動される関節部102を有するロボットアームを有するロボットシステム100を図示する図1Aを参照する。モータ104の回転は、ギアボックス106内に低摩擦運動を発生させ、物理的操作を行うためのロボット関節部102の所望の移動に変換される。モータ104は、例えば、単相、2相、または3相AC永久磁石(PM)モータあるいはDC PMモータ(3相ブラシレスDCモータ等)であってもよい。種々の実施形態では、モータ104は、電力回路108によって作動させられ、電力回路108は、電力供給源110(例えば、110ACボルトまたは220ACボルト)によって支持され、制御ユニット112によって調整される。制御ユニット112は、モータ回転の速度および方向を統制し、ロボット作用を行いながら、ロボットアームの種々の運動自由度を制御する。図1Bを参照すると、いくつかの実施形態では、電力回路108は、ブリッジ回路(例えば、H−ブリッジ)を有するインバータ114を含み、入力DC電圧を調節可能な振幅および周波数を伴う出力AC電圧に変換する。変換された出力電圧は、次いで、ブリッジ回路からモータ104に送られ、回転を生じさせる。簡単のため、単相モータが本明細書に説明されるが、他のタイプのモータ(例えば、2相モータおよび3相モータ)が、本発明の範囲内である。(対応公報の【0014】))
c 「[0017] The illustrated bridge circuit has a first half-bridge 1 16 and a second half-bridge 1 18, each having two semiconductor switches 120, 122 and 124, 126, respectively. If PNP transistors are utilized in the semiconductor switches, associated suppressor diodes (not shown) may be necessary to protect the circuit. In a preferred embodiment, the semiconductor switches are implemented with N-channel power MOSFETs 128, as shown in FIG. 1C; the suppressor diodes are replaced by a "body diode" that is internal to the MOSFETs and a byproduct of the device structure. When switches 122 and 124 are activated and switches 120 and 126 are deactivated, a positive voltage is applied across the motor 104; when switches 120 and 126 are activated and switches 122 and 124 are deactivated, the voltage is reversed, allowing reverse operation of the motor. The voltage polarity of the motor 104 thus alternates during an applied power cycle. In some embodiments, the power circuitry 108 includes charge-storage circuitry 130 to store charge when the power is on (i.e., motor 104 is provided with power); this stored charge may be used to support braking during an emergency stop or power failure. The charge-storage circuitry 130 may have, for example, one or more capacitors or other devices that can store electric charge or energy.」
(訳文:図示されるブリッジ回路は、第1のハーフブリッジ116および第2のハーフブリッジ118を有し、第1のハーフブリッジ116は、2つの半導体スイッチ120、122を有し、第2のハーフブリッジ118は、2つの半導体スイッチ124、126を有する。PNPトランジスタが、半導体スイッチ内で利用される場合、関連付けられたサプレッサダイオード(図示せず)が、回路を保護するために必要であり得る。好ましい実施形態では、半導体スイッチは、図1Cに示されるように、N−チャネルパワーMOSFET128を用いて実装される。サプレッサダイオードは、MOSFETの内部にありかつデバイス構造の副産物である「ボディダイオード」によって置換される。スイッチ122および124が、アクティブ化され、スイッチ120および126が、非アクティブ化されると、正電圧が、モータ104にわたって印加される。スイッチ120および126が、アクティブ化され、スイッチ122および124が、非アクティブ化されると、電圧は、反転され、モータの逆動作を可能にする。したがって、モータ104の電圧極性は、印加される電力サイクルの間、交互する。いくつかの実施形態では、電力回路108は、電荷貯蔵回路130を含み、電力がオンである(すなわち、モータ104に、電力が提供される)とき、電荷を貯蔵する。この貯蔵された電荷は、緊急停止または停電の間、制動を支持するために使用されてもよい。電荷貯蔵回路130は、例えば、電気電荷またはエネルギーを貯蔵することができる1つ以上のキャパシタまたは他のデバイスを有してもよい。(対応公報の【0015】))
d 「[0018] During an emergency stop ("estop") or upon a power loss, the semiconductor switches in the first and second half-bridges are deactivated (or off) due to the power loss and the power circuit of the motor system is disabled. Referring to FIG. 2A, the motor system 200 may include emergency braking circuitry 202 as further described below. In various embodiments, a receiver circuit 208 is employed in the motor system 200 to receive an emergent signal indicating estop or power failure from a heartbeat-oscillator circuit or an operator actuated estop (not shown). The receiver circuit 208 subsequently transmits the signal to a pair of Schmitt-trigger gates 210, 212. The Schmitt-trigger gates 210, 212 typically output a constant voltage unless the input voltage signal changes sufficiently (i.e., falls below a predetermined threshold value) to trigger a change; the Schmitt-trigger gates 210, 212 are substantially immune to noise. Therefore, when they receive a below-threshold voltage signal from the receiver circuit 208, the Schmitt-trigger gates 210, 212 output a logic-low signal, which turns off a semiconductor switch 214. A local controller 216 may locally generate and transmit an ESTOP_ASSET signal 218 to the Schmitt-trigger gate 212 for activating the braking circuit 202 based on fault detection functions thereof. Additionally, the local controller 216 may sense a remote estop condition signal through the gate 220 upon cessation of the heartbeat signal. In one embodiment, a gate 220 is used to simulate the enable and disable timing for the switch 214.」
(訳文:緊急停止(「estop」)の間または電力損失に応じて、第1のハーフブリッジおよび第2のハーフブリッジ内の半導体スイッチは、電力損失により、非アクティブ化(または、オフ)にされ、モータシステムの電力回路は、無効にされる。図2Aを参照すると、モータシステム200は、以下にさらに説明されるように、緊急制動回路202を含んでもよい。種々の実施形態では、受信機回路208が、モータシステム200内に採用され、estopまたは停電を示す緊急信号をハートビート発振器回路またはestopを作動させた操作者(図示せず)から受信する。受信機回路208は、続いて、信号を一対のシュミットトリガゲート210、212に伝送する。シュミットトリガゲート210、212は、典型的には、入力電圧信号が十分に変化する(すなわち、所定の閾値を下回る)ことにより、変更をもたらさない限り、一定電圧を出力する。シュミットトリガゲート210、212は、実質的に、ノイズに耐性がある。したがって、閾値を下回る電圧信号を受信機回路208から受信すると、シュミットトリガゲート210、212は、論理低信号を出力し、半導体スイッチ214をオフにする。ローカルコントローラ216は、その故障検出機能に基づいて、制動回路202をアクティブ化させるために、ESTOP_ASSET信号218をローカルに発生させてシュミットトリガゲート212に伝送してもよい。加えて、ローカルコントローラ216は、ハートビート信号の中止に応じて、ゲート220を通して、遠隔estop条件信号を感知してもよい。一実施形態では、ゲート220は、スイッチ214のためのイネーブルおよびディスエーブルタイミングをシミュレートするために使用される。(対応公報の【0016】))
e 「[0019] The semiconductor switch 214 controls the activation and deactivation of the emergency braking circuitry 202. If the semiconductor switch 214 is activated (i.e., the motor 204 is driven by the power circuitry, as described above), the voltage provided to the emergency braking circuitry 202 will be insufficient to activate it; but if the semiconductor switch 214 is deactivated, charge stored in charge-storage circuitry 222 is converted to an output voltage sufficient to activate the emergency braking circuitry 202. In one embodiment, the emergency braking circuitry 202 includes a FET and the voltage is provided from the charge-storage circuitry 222 to the gate terminal of the FET, thereby activating the FET switch. In the illustrated embodiment, the emergency braking circuitry 202 connects to a suppressor or body diode 224 in the bridge circuit 226 to create a short-circuit path of the motor winding. Upon an emergency stop or power loss, the motor 204 continues to rotate due to inertia; a current induced by the motor rotation flows throw the suppressor or body diode 224 and the emergency braking circuitry 202 to dissipate the energy and thus generate motor braking. Because the braking circuitry 202 connects to only one suppressor or body diode in the bridge circuit, the induced current is conducted away (and applies braking) every half-cycle of the motor rotation. This approach to braking has a smaller duty cycle than that of entire-cycle braking (full duty cycle), thereby allowing the motor to gradually slow down and/or respond to a back drive. In some embodiments, the braking circuitry 202 includes a pair of transistors, each connecting to a suppressor or body diode in the bridge circuit 226 to apply full- duty cycle breaking. Accordingly, a motor-driven robotic arm can gradually return to a safe gravity-neutral position and may be moved by an external force to avoid trapping a human operator. Braking is applied until no further current is induced by the motor rotations (i.e., the motor fully stops) to ensure the safety of the motor system 200. Additionally, because the braking torque is generated by current circulation that is itself induced by the motor rotations, the braking torque is proportional to the rotational velocity of the motor. A large torque is generated when braking a high-speed rotating motor and a small torque is generated when braking a motor operating at a low speed. This further ensures safety of the motor system 200.」
(訳文:半導体スイッチ214は、緊急制動回路202のアクティブ化および非アクティブ化を制御する。半導体スイッチ214がアクティブ化される(すなわち、モータ204が、前述のように、電力回路によって駆動される)場合、緊急制動回路202に提供される電圧は、それをアクティブ化するために不十分である。しかし、半導体スイッチ214が非アクティブ化される場合、電荷貯蔵回路222内に貯蔵された電荷が、緊急制動回路202をアクティブ化するために十分な出力電圧に変換される。一実施形態では、緊急制動回路202は、FETを含み、電圧は、電荷貯蔵回路222からFETのゲート端子に提供され、それによって、FETスイッチをアクティブ化する。図示される実施形態では、緊急制動回路202は、ブリッジ回路226内のサプレッサまたはボティダイオード224に接続し、モータ巻線の短絡経路を生成する。緊急停止または電力損失に応じて、モータ204は、慣性によって回転し続ける。モータ回転によって誘導される電流は、サプレッサまたはボディダイオード224および緊急制動回路202を通って流動し、エネルギーを消散させ、したがって、モータ制動を発生させる。制動回路202が、ブリッジ回路内の1つのサプレッサまたはボディダイオードのみに接続するため、誘導される電流は、モータ回転の半サイクル毎に、奪われる(および、制動を適用する)。制動に対する本アプローチは、全サイクル制動(フルデューティサイクル)より小さいデューティサイクルを有し、それによって、モータが、徐々に減速し、かつ/または、逆駆動に応答することを可能にする。いくつかの実施形態では、制動回路202は、一対のトランジスタを含み、それぞれ、ブリッジ回路226内のサプレッサまたはボディダイオードに接続し、フルデューティサイクル制動を適用する。故に、モータ駆動ロボットアームは、安全な重力中立位置に徐々に戻ることができ、外部力によって移動されることにより、人間の操作者の巻き込みを回避し得る。制動は、モータシステム200の安全を保証するために、さらなる電流がモータ回転によって誘導されなくなる(すなわち、モータが完全に停止する)まで、適用される。加えて、制動トルクは、電流循環(それ自体がモータ回転によって誘導される)によって発生させられるため、制動トルクは、モータの回転速度に比例する。大きなトルクは、高速回転するモータを制動するときに発生させられ、小さなトルクは、低速で動作するモータを制動するときに発生させられる。これは、モータシステム200の安全をさらに保証する。(対応公報の【0017】))
f 「[0020] In various embodiments, the FET in the emergency braking circuitry 202 is separate from the semiconductor transistor switches (e.g., 120, 122, 124, and 126 in FIG. IB) that switch driving currents through the motor 204; this results in the need for significantly less energy to operate the braking circuitry 202 (as compared with incorporating the emergency braking circuitry in the semiconductor switches), and operation of the braking circuitry 202 will be easier to sustain upon power loss. In one embodiment, the charge-storage circuitry 222 includes a capacitor and a diode that steadily provide a gate voltage (for example, of approximately 8.2V) to the FET in the emergency braking circuitry 202 to maintain the FET gate voltage during the emergency stop or power failure. Other electronic circuitry that stores charge or energy during regular robotic operations (i.e., power on) and provides the stored charge or energy to activate the emergency braking circuitry 202 for generating motor braking without activating the semiconductor switches in the bridge circuit is within the scope of the invention. In various embodiments, emergency braking is applied to rapidly rotating joints only. Referring to FIG. 2B, the charge-storage circuitry 228 may include a zener diode 230 that has a breakdown voltage of, for example, 8.2 V, and two transistors 232, 234. For a slowly rotating joint, the output of the motor power bus 236 is usually below the zener breakdown threshold voltage; the transistor 232 thus is off. If, however, the joint is back-driven rapidly enough to regenerate a sufficient voltage above the zener breakdown threshold voltage, a current may start to flow through the BE junction of the switch transistor 234, thereby turning on the transistor 232 and charging the capacitor 238. The charged capacitor 238 may then steadily provide a gate voltage to the FET in the braking circuitry 202, as described above.」
(訳文:種々の実施形態では、緊急制動回路202内のFETは、モータ204を通る駆動電流を切り替える半導体トランジスタスイッチ(例えば、図1B内の120、122、124、および126)と別である。これは、制動回路202を動作させるために、有意に少ないエネルギーの必要性をもたらし(半導体スイッチ内に緊急制動回路を組み込むものと比較して)、制動回路202の動作は、電力損失のとき、接続がより容易である。一実施形態では、電荷貯蔵回路222は、ゲート電圧(例えば、約8.2V)を緊急制動回路202内のFETに定常的に提供することにより、緊急停止または停電の間、FETゲート電圧を維持するキャパシタおよびダイオードを含む。ブリッジ回路内の半導体スイッチをアクティブ化せずに、モータ制動を発生させるために、通常ロボット動作(すなわち、電力オン)の間、電荷またはエネルギーを貯蔵し、貯蔵された電荷またはエネルギーを提供することにより、緊急制動回路202をアクティブ化する他の電子回路も、本発明の範囲内である。種々の実施形態では、緊急制動は、高速回転する関節部のみに適用される。図2Bを参照すると、電荷貯蔵回路228は、降伏電圧(例えば、8.2V)を有するツェナーダイオード230と、2つのトランジスタ232、234とを含んでもよい。低速回転する関節部の場合、モータ電力バス236の出力は、通常、ツェナー降伏閾値電圧を下回る。トランジスタ232は、したがって、オフである。しかしながら、関節部が、ツェナー降伏閾値電圧を上回る十分な電圧を再生成するために十分に高速で逆駆動させられる場合、電流は、スイッチトランジスタ234のBE接合点を通して流動を開始し得、それによって、トランジスタ232をオンにし、キャパシタ238を充電してもよい。充電されたキャパシタ238は、次いで、前述のように、ゲート電圧を制動回路202内のFETに定常的に提供し得る。(対応公報の【0018】))

g 上記d、eの記載事項、及び図2Aの図示内容から、モータシステム200は、モータ204と、電力回路と、緊急制動回路202と、シュミットトリガゲート212と、半導体スイッチ214とを備えることが理解できる。
h 上記d−fの記載事項、及び図2Aの図示内容から、半導体スイッチ214は、電力回路をアクティブ化して前記モータ204を駆動する通常ロボット動作と、緊急制動回路202をアクティブ化して前記モータ204のモータ巻線の短絡経路を生成してモータ制動を発生させる制動動作とを切り替えるものであること、シュミットトリガゲート212は、半導体スイッチ214のオンとオフを切り替えるものであり、停電を示す緊急信号に対応した信号を受信すると半導体スイッチ214をオフにすることで、緊急制動回路202をアクティブ化して前記制動動作に切り替えるとともに、ローカルコントローラ216がその故障検出機能に基づいてローカルに発生させたSTOP_ASSET信号218を受信すると半導体スイッチ214をオフにすることで、緊急制動回路202をアクティブ化して前記制動動作に切り替えるものであることが理解できる。

上記a−hに示した事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「関節部102を有するロボットアームと、
前記関節部102を駆動するモータシステム200であって、
単相モータであるモータ204と、
前記モータ204を駆動する電力回路と、
前記モータ204のモータ巻線の短絡経路を生成してモータ制動を発生させる緊急制動回路202と、
前記電力回路をアクティブ化して前記モータ204を駆動する通常ロボット動作と、前記緊急制動回路202をアクティブ化して前記モータ204のモータ巻線の短絡経路を生成してモータ制動を発生させる制動動作とを切り替える半導体スイッチ214と、
前記半導体スイッチ214のオンとオフを切り替えるシュミットトリガゲート212と、
を備えるモータシステム200と、を含んで構成されており、
前記シュミットトリガゲート212は、停電を示す緊急信号に対応した信号を受信すると前記半導体スイッチ214をオフにすることで、前記緊急制動回路202をアクティブ化して前記制動動作に切り替えるとともに、
前記シュミットトリガゲート212は、ローカルコントローラ216がその故障検出機能に基づいてローカルに発生させたSTOP_ASSET信号218を受信すると前記半導体スイッチ214をオフにすることで、前記緊急制動回路202をアクティブ化して前記制動動作に切り替えるロボットシステム100。」

(イ)引用文献2について
原査定の拒絶の理由で引用された特開2000−253687号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
a 「【0002】
【従来の技術】図15は、従来のサーボ装置のブロック図である。図において、1は駆動手段、例えば、サーボアンプである。2はモータ、例えば、サーボモータである。3は電流制限手段、例えば、ダイナミックブレーキ抵抗である。このダイナミックブレーキ抵抗は3つの抵抗器から構成されている。5はサーボアンプ1とサーボモータ2とを接続する主回路電線、6はサーボモータ2のシャフトに直結されたエンコーダである。7は直流電力をサーボモータを駆動する3相の交流電源に変換するためのトランジスタブリッジ、例えば、主回路トランジスタである。この主回路トランジスタ7は、各相の、上下アームに1つずつ設けられている合計6個のトランジスタと、それぞれのトランジスタに逆接続されたダイオード(図示せず)から構成されている。ダイナミックブレーキ回路は、ダイナミックブレーキ抵抗3およびリレー8からが構成される。このダイナミックブレーキ回路は、B接点(バック接点)を持つリレー8により、サーボアンプ1の各相の出力線間が、ダイナミックブレーキ抵抗3を介してスター形に短絡されるように構成されている。ダイナミックブレーキ回路は、ダイナミックブレーキ抵抗3を用いずに、直接B接点を持つリレー8により、サーボアンプ1の各相の出力線間を短絡するように構成してもよい。
【00003(当審注:原文のまま)】次に、ダイナミックブレーキ回路の動作について説明する。回転子に永久磁石が設けられ、固定子に巻線が施されているサーボモータ2においては、外部から固定子巻線に電力を供給しなくても、回転子が回転していれば、回転子の永久磁石の磁束が固定子巻線と鎖交し回生電力が発生するので、サーボモータの端子に電圧が発生する。サーボモータ2の各相線を短絡した状態で、サーボモータ2を回転させようとすると、この回生電力にもとづく電流が流れ、サーボモータ2を停止させる方向にトルクが発生する。このトルクによりサーボモータ2の回転を急停止させるのがダイナミックブレーキの原理である。主回路トランジスタ7が正常に動作している場合は、サーボ制御によりモータに停止トルクを与えることができるが、故障や停電などにより、主回路トランジスタ7が正常に動作しない場合には、停止せずに惰走し危険である。サーボモータ2の各相線を短絡するリレーの接点としてリレーのB接点が使用されている理由は、サーボモータ2が回転中に電源が切れ、リレーの制御ができなくなった場合もダイナミックブレーキがかかるようにするためである。このサーボ装置においては、主回路トランジスタ7が動作し、サーボモータ2を駆動制御している間は、ダイナミックブレーキ回路のリレー8を励磁してB接点を開の状態にしておき、主回路トランジスタ7の全てのトランジスタがオフになると、リレー8の励磁が解除され、リレー8のB接点が閉じ、ダイナミックブレーキがかかるように構成されている。」
b 【図15】として以下の図が記載されている。


上記aの記載事項、及び上記bの図15の図示内容から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。
「故障や停電などにより、サーボアンプ1の主回路トランジスタ7が正常に動作しない場合に、サーボモータ2の3相の各固定子巻線と接続されるサーボアンプ1の各相の出力線間をスター形に短絡して閉電流路を形成し、これによりサーボモータ2を停止させる方向にトルクを発生させる技術」

ウ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「関節部102」は本願補正発明の「関節でつながれたジョイント」あるいは「少なくとも1つの該関節でつながれたジョイント」に相当し、以下同様に、「関節部102を有するロボットアーム」は「関節でつながれたジョイントによって相互に接続された一連の結合物からなるロボットアーム」に、「モータシステム200」は「モータ装置」に、「モータ204」は「モータ」に、「ロボットシステム100」は「ロボットシステム」に、それぞれ相当する。
(イ)引用発明のモータ204が、回転子と、固定子と、該回転子と該固定子の一方に装着されて他方に作用する巻線と、該巻線に連結されたモータ入力を備えることは自明であるから、引用発明の「単相モータであるモータ204」と、本願補正発明の「回転子と、固定子と、該回転子と該固定子の一方に装着されて他方に作用する少なくとも3つの巻線と、該巻線に連結された複数のモータ入力と、を有するモータ」とは、「回転子と、固定子と、該回転子と該固定子の一方に装着されて他方に作用する巻線と、該巻線に連結されたモータ入力と、を有するモータ」である限りにおいて一致する。
また、引用発明のモータ204が、モータ入力を介して巻線に動的に通電することによって回転子を固定子に対して相対回転させることも自明であるから、引用発明の「モータ204を駆動する通常ロボット動作」は、本願補正発明の「前記モータ入力を介して前記巻線に動的に通電することによって前記回転子を前記固定子に対して相対回転させる駆動モード」に相当する。
さらに、引用発明のモータ204が、モータ巻線の短絡経路を生成することによって、回転子の固定子に対する相対制動が惹起されてモータ制動を発生することは技術的に明らかであるから、引用発明の「モータ204のモータ巻線の短絡経路を生成してモータ制動を発生させる制動動作」と、本願補正発明の「該少なくとも3つの巻線をコモンレールに連続的に接続することによって閉電流路を形成し、該回転子の該固定子に対する相対制動を惹起し、外部トルクに抗して該回転子の動作を阻止しかつ該回転子の回転を防止する制動モード」とは、「該巻線を接続することによって閉電流路を形成し、該回転子の該固定子に対する相対制動を惹起する制動モード」である限りにおいて一致する。
(ウ)引用発明では、半導体スイッチ214により、「モータ204を駆動する」「電力回路」のアクティブ化と「モータ204のモータ巻線の短絡経路を生成してモータ制動を発生させる」「緊急制動回路202」のアクティブ化とが切り替えられるから、引用発明の「電力回路」と「緊急制動回路202」をあわせたものは、本願補正発明の「駆動モードまたは」「制動モードと、で作動する制御回路」に相当するといえる。
(エ)引用発明の「シュミットトリガゲート212は、停電を示す緊急信号に対応した信号を受信すると前記半導体スイッチ214をオフにすることで、前記緊急制動回路202をアクティブ化して前記制動動作に切り替える」との事項と、本願補正発明の「制御回路は、前記制御回路の供給電圧が所定値を下回ったことに反応して前記制動モードに入る」との事項とは、「制御回路は、供給電力が十分でない場合に制動モードに入る」との事項である限りにおいて一致する。

(オ)以上の対比を総合すると、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点1>
「関節でつながれたジョイントによって相互に接続された一連の結合物からなるロボットアームと、
少なくとも1つの該関節でつながれたジョイントを駆動するモータ装置であって、回転子と、固定子と、該回転子と該固定子の一方に装着されて他方に作用する巻線と、該巻線に連結されたモータ入力と、を有するモータと、前記モータ入力を介して前記巻線に動的に通電することによって前記回転子を前記固定子に対して相対回転させる駆動モードまたは、該巻線を接続することによって閉電流路を形成し、該回転子の該固定子に対する相対制動を惹起する制動モードと、で作動する制御回路と、を含んで構成されており、前記制御回路は、供給電力が十分でない場合に前記制動モードに入るロボットシステム。」

<相違点1>
モータ、及び制動モードにおける閉電流路の形成に関して、本願補正発明では、モータが「少なくとも3つの巻線」と該巻線に連結された「複数の」モータ入力とを有し、「該少なくとも3つの巻線をコモンレールに連続的に接続することによって」閉電流路を形成すると特定されているのに対して、引用発明では、モータが単相モータであり、モータ巻線の短絡経路を生成してモータ制動を発生させるとの特定に留まる点。

<相違点2>
制動モードにおける制動作用に関して、本願補正発明では、「外部トルクに抗して該回転子の動作を阻止しかつ該回転子の回転を防止する」と特定されているのに対して、引用発明では、そのような制動作用が発揮されるのか否か明確でない点。

<相違点3>
制御回路が供給電力が十分でない場合に制動モードに入ることが、本願補正発明では、「制御回路の供給電圧が所定値を下回ったことに反応して」行われるのに対して、引用発明では、シュミットトリガゲート212が停電を示す緊急信号に対応した信号を受信することにより行われる点。

エ 判断
以下、相違点について検討する。
(ア)相違点1について
引用文献1には、モータとして3相モータを使用し得ることが示唆されており(上記イ(ア)bの記載事項)、3相モータが、回転子と固定子の一方に装着されて他方に作用する少なくとも3つの巻線と、該巻線に連結された複数のモータ入力とを有することは明らかであるから、引用発明において、引用文献1における示唆に基づき、モータ204を単相モータに代えて3相モータとすることにより、モータ巻線は少なくとも3つとなり、モータ入力はモータ巻線に連結された複数になるといえる。
また、引用発明は、停電を示す緊急信号に対応した信号やローカルコントローラ216がその故障検出機能に基づいてローカルに発生させたSTOP_ASSET信号218を受信すると、シュミットトリガゲート212が半導体スイッチ214をオフにすることで、モータ204のモータ巻線の短絡経路を生成してモータ制動を発生させるものであるが、引用文献1には、図2Aに、モータ204が単相モータである場合に形成される短絡経路が示されているのみであり、モータとして3相モータを使用し得るとの示唆(上記イ(ア)bの記載事項)に基づき、モータ204を3相モータとした場合にどのように短絡経路が形成されるのかは明らかでない。
これに対して、引用文献2には、上記イ(イ)のとおり、「故障や停電などにより、サーボアンプ1の主回路トランジスタ7が正常に動作しない場合に、サーボモータ2の3相の各固定子巻線と接続されるサーボアンプ1の各相の出力線間をスター形に短絡して閉電流路を形成し、これによりサーボモータ2を停止させる方向にトルクを発生させる技術」(引用文献2に記載された技術)、すなわち故障や停電時に、サーボモータ2の3相の固定子巻線間をスター状に短絡(3相の固定子巻線を1箇所に連続的に接続)することによって閉電流路を形成し、サーボモータ2を停止させる方向にトルクを発生させる(回転子の固定子に対する相対制動を惹起する)技術が記載されている。
そして、引用発明と引用文献2に記載された技術とは、故障や停電時にモータの意図しない動作を防止する点で解決しようとする課題が共通し、モータ巻線の短絡経路を生成してモータ制動を発生させる点で機能・作用が共通するから、引用発明において、引用文献1における示唆に基づき、モータ204を3相モータとし、3相モータの巻線の短絡経路を具体化する際に、引用文献2に記載された技術を適用して、3相のモータ巻線を1箇所に連続的に接続することによって閉電流路を形成し、相違点1に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
a 本願補正発明の特定事項「外部トルクに抗して該回転子の動作を阻止しかつ該回転子の回転を防止する」は、モータの回転時と静止時のいずれにおける制動動作を指すのかが必ずしも明らかでないので、まずは、モータの回転時と静止時(静止位置保持)の双方を含むと解して検討する。
引用文献1の段落[0019]の「・・・緊急停止または電力損失に応じて、モータ204は、慣性によって回転し続ける。・・・モータ制動を発生させる。・・・モータが、徐々に減速し、かつ/または、逆駆動に応答することを可能にする。故に、モータ駆動ロボットアームは、安全な重力中立位置に徐々に戻ることができ、外部力によって移動されることにより、人間の操作者の巻き込みを回避し得る。・・・制動は、モータシステム200の安全を保証するために、さらなる電流がモータ回転によって誘導されなくなる(すなわち、モータが完全に停止する)まで、適用される。・・・」との記載(上記イ(ア)eの記載事項)を参酌すると、引用発明は、モータ204が動作中に、緊急停止や停電が生じると、モータ204が停止するまでモータ制動を発生させるものであるから、少なくともモータ制動の開始からモータ204が停止するまでの間は、モータ制動という「外部トルクに抗して回転子の動作を阻止しかつ回転子の回転を防止する」制動作用が生じているといえる。
よって、引用発明は、モータの回転時に「外部トルクに抗して回転子の動作を阻止しかつ回転子の回転を防止する」との構成を備えているから、上記相違点2は実質的な相違点ではない。
b 次に、本願補正発明の上記特定事項が、モータの静止時における制動動作のみを指すと解した場合について検討する。
引用文献1には、上記のとおり、モータ204が動作中に、緊急停止や停電が生じると、モータ204が停止するまでモータ制動を発生させることが記載されているが、その一方で、段落[0002]には「静止位置に持ち上げられたロボットアームが、緊急停止または停電の間、重力下で落下する状況につながり得」るとの記載(上記イ(ア)aの記載事項)や、段落[0017]には「いくつかの実施形態では、電力回路108は、電荷貯蔵回路130を含み、電力がオンである(すなわち、モータ104に、電力が提供される)とき、電荷を貯蔵する。この貯蔵された電荷は、緊急停止または停電の間、制動を支持するために使用されてもよい。」との記載(上記イ(ア)cの記載事項)もあり、これらの記載を踏まえると、引用文献1には、モータ204の静止時(静止位置に制御されている時)に、停電が生じると、停電の間にわたってモータ制動を発生させることも示唆されているといえる。
また、モータの静止時に停電が生じた際、安全性やその他の観点からみて、モータの動きを拘束又は非拘束とすることのいずれがより望ましいかは、ロボットシステムを適用する分野(用途)や想定される作業内容等によっても変わるものである。
そうすると、引用発明において、その適用先の分野や想定される作業内容等に応じて、上記引用文献1における示唆に基づき、モータ204の静止時に停電が生じた際にも、停電の間にわたってモータ制動を発生させて「外部トルクに抗して回転子の動作を阻止しかつ回転子の回転を防止する」構成とすることは、当業者にとって何ら格別の困難性がないものである。

(ウ)相違点3について
引用発明では、停電を示す緊急信号がどのようにして発せられるのかが不明であるが、停電時に電力回路への供給電圧が徐々に低くなることは当然発生する事象であり、引用文献1の段落[0002]には「静止位置に持ち上げられたロボットアームが、緊急停止または停電の間、重力下で落下する状況につながり得」るという危険性の指摘(上記イ(ア)aの記載事項)もなされているところ、ロボットアームを駆動する電力回路(制御回路の一部)への供給電圧が所定値を下回った時に停電を示す緊急信号を発するようにすることは、当業者が適宜なし得た設計上の事項にすぎない。

(エ)請求人の主張について
請求人は審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」「(請求項1について)」において、以下の主張を行っている。
a 「引用文献1では、電力損失時に、少なくとも1つのモータ巻線の短絡経路を形成することで制動を適用しているが、緩やかな制動のため、モータは回転し続けている。巻線が接続するとモータが回転不可能になる。すなわち、制動モードではモータが一切回転しない本願発明とは対照的に、引用文献1に記載されている装置では、意図的に制動モードでもモータを回転させることができ、制動が緩やかであり、ロボットアームが外力に応じて動くことができ、操作者の巻き込みを回避し得る。このように、引用文献1に記載されている制動モードでは、固定子に対する回転子の制動は、外力に抗して回転子の動きを阻止したり回転子の回転を防止したりするものではない。」
b 「引用文献1の装置が本願発明のような制動モードを行おうとすると、モータが回転できなくなる突然の高い力の制動をすることになり(外部トルクに抗して回転子の動作を阻止しかつ回転子の回転を防止することとなり)、緩やかな制動のみを適用するという引用文献1の教示に反する。本願発明のような制動モードは、モータ駆動ロボットアームを安全な重力中立位置に徐々に戻し、外部力によって移動されることにより操作者の巻き込みを回避するという引用文献1の教示と正反対であるため、当業者が引用文献1に本願発明の該構成を適応する動機付けはない。したがって、当業者が、引用文献1に記載の発明を引用文献2等に記載の制動モードを含めるように改変することを積極的に思いとどまることは明らかである。当業者は補正後の請求項1の上記構成(B)を含むように引用文献1を改変する動機がないため、本願の請求項1の発明には到達し得なかったであろう。」

しかしながら、次のとおりであるから、請求人の主張は上記判断を左右するものではない。
上記aについて、上記(イ)のとおり、本願補正発明の特定事項「外部トルクに抗して該回転子の動作を阻止しかつ該回転子の回転を防止する」は、モータの回転時と静止時のいずれにおける制動動作を指すのかが必ずしも明らかでないが、当該特定事項をモータの回転時と静止時(位置保持制御時)の双方を含むと解した場合には、引用発明も、モータの回転時には当該特定事項を充足するものであり、当該特定事項をモータの静止時における制動動作のみを指すと解した場合であっても、引用文献1には、モータ204の静止時(静止位置に制御されている時)に、停電が生じると、停電の間にわたってモータ制動を発生させることも示唆されているから、引用発明において、その適用先の分野や想定される作業内容等に応じて、上記引用文献1における示唆に基づき、モータ204の静止時に停電が生じた際にも、停電の間にわたってモータ制動を発生させること、すなわち当該特定事項を充足する構成とすることは、当業者にとって何ら格別の困難性がないものである。
上記bについて、上記ウのとおり、本願補正発明と引用発明とは、ともに「モータの巻線を接続することによって閉電流路を形成し、モータの回転子の固定子に対する相対制動を惹起する」との事項を備えており、制動力の発生原理が共通するものであるところ、引用文献1には、モータ204が3相モータである場合にどのように短絡経路が形成されるのかが記載されていないため、上記ウに挙げた相違点1で相違するものである。
そして、上記(ア)のとおり、引用文献2には、故障や停電時に、サーボモータ2の3相の固定子巻線間をスター状に短絡(3相の固定子巻線を1箇所に連続的に接続)することによって閉電流路を形成し、サーボモータ2を停止させる方向にトルクを発生させる(回転子の固定子に対する相対制動を惹起する)技術が記載されており、引用発明と引用文献2に記載された技術とは、故障や停電時にモータの意図しない動作を防止する点で解決しようとする課題が共通するとともに、モータ巻線の短絡経路を生成してモータ制動を発生させる点で機能・作用が共通するから、引用発明において、引用文献1における示唆に基づき、モータ204を3相モータとし、3相モータの巻線の短絡経路を具体化するにあたり、引用文献2に記載された技術を適用することに十分な動機付けがある。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

(オ)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明が奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(カ)したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし15に係る発明は、令和元年12月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2[理由]1(2)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その出願(優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2013/155034号
引用文献2:特開2000−253687号公報

3 引用文献、引用発明等
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明、並びに引用文献2の記載事項は、上記「第2[理由]2(2)イ」に記載したとおりである。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「関節部102」は本願発明の「関節でつながれたジョイント」あるいは「少なくとも1つの該関節でつながれたジョイント」に相当し、以下同様に、「関節部102を有するロボットアーム」は「関節でつながれたジョイントによって相互に接続された一連の結合物からなるロボットアーム」に、「モータシステム200」は「モータ装置」に、「モータ204」は「モータ」に、「ロボットシステム100」は「ロボットシステム」に、それぞれ相当する。
(2)引用発明のモータ204が、回転子と、固定子と、該回転子と該固定子の一方に装着されて他方に作用する巻線と、該巻線に連結されたモータ入力を備えることは自明であるから、引用発明の「単相モータであるモータ204」と、本願発明の「回転子と、固定子と、該回転子と該固定子の一方に装着されて他方に作用する少なくとも3つの巻線と、該巻線に連結された複数のモータ入力と、を有するモータ」とは、「回転子と、固定子と、該回転子と該固定子の一方に装着されて他方に作用する巻線と、該巻線に連結されたモータ入力と、を有するモータ」である限りにおいて一致する。
また、引用発明のモータ204が、モータ入力を介して巻線に動的に通電することによって回転子を固定子に対して相対回転させることも自明であるから、引用発明の「モータ204を駆動する通常ロボット動作」は、本願発明の「前記モータ入力を介して前記巻線に動的に通電することによって前記回転子を前記固定子に対して相対回転させる駆動モード」に相当する。
さらに、引用発明のモータ204が、モータ巻線の短絡経路を生成することによって、回転子の固定子に対する相対制動が惹起されてモータ制動を発生することは技術的に明らかであるから、引用発明の「モータ204のモータ巻線の短絡経路を生成してモータ制動を発生させる制動動作」と、本願発明の「該少なくとも3つの巻線をコモンレールに連続的に接続することによって閉電流路を形成し、該回転子の該固定子に対する相対制動を惹起し、前記ロボットアームの前記結合物の少なくとも1つを適切な位置に保持する制動モード」とは、「該巻線を接続することによって閉電流路を形成し、該回転子の該固定子に対する相対制動を惹起する制動モード」である限りにおいて一致する。
(3)引用発明では、半導体スイッチ214により、「モータ204を駆動する」「電力回路」のアクティブ化と「モータ204のモータ巻線の短絡経路を生成してモータ制動を発生させる」「緊急制動回路202」のアクティブ化とが切り替えられるから、引用発明の「電力回路」と「緊急制動回路202」をあわせたものは、本願発明の「駆動モードと、さらに」「制動モードと、で作動する制御回路」に相当するといえる。
また、引用発明の「備える」との事項は本願発明の「含んで構成されており」との事項に相当する。
(4)引用発明の「停電を示す緊急信号に対応した信号」及び「ローカルコントローラ216がその故障検出機能に基づいてローカルに発生させたSTOP_ASSET信号218」は、ともに本願発明の「故障状態を示す前記モータの外部で発生したトリガー」に相当し、引用発明の「前記シュミットトリガゲート212は、停電を示す緊急信号に対応した信号を受信すると前記半導体スイッチ214をオフにすることで、前記緊急制動回路202をアクティブ化して前記制動動作に切り替えるとともに、前記シュミットトリガゲート212は、ローカルコントローラ216がその故障検出機能に基づいてローカルに発生させたSTOP_ASSET信号218を受信すると前記半導体スイッチ214をオフにすることで、前記緊急制動回路202をアクティブ化して前記制動動作に切り替える」との事項は、本願発明の「制御回路は、故障状態を示す前記モータの外部で発生したトリガーに反応して前記制動モードに入る」との事項に相当する。
(5)引用発明の「シュミットトリガゲート212」は本願発明の「トリガー回路」に相当し、引用発明の「シュミットトリガゲート212は、停電を示す緊急信号に対応した信号を受信すると前記半導体スイッチ214をオフにすることで、前記緊急制動回路202をアクティブ化して前記制動動作に切り替える」との事項と、本願発明の「制御回路の供給電圧が所定値を下回った時に前記制御回路を前記制動モードに入れる」との事項とは、「供給電力が十分でない場合に制御回路を制動モードに入れる」との事項である限りにおいて一致する。
また、引用発明の「シュミットトリガゲート212」はモータシステム200が備えるものであるが、ロボットシステム100はモータシステム200を含んで構成されているから、引用発明のロボットシステム100は「シュミットトリガゲート212」を含んで構成されているといえる。
よって、引用発明と本願発明とは、「ロボットシステム」が「トリガー回路と、を含んで構成されている」という事項を備える点で共通する。

(6)以上の対比を総合すると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点2>
「関節でつながれたジョイントによって相互に接続された一連の結合物からなるロボットアームと、
少なくとも1つの該関節でつながれたジョイントを駆動するモータ装置であって、回転子と、固定子と、該回転子と該固定子の一方に装着されて他方に作用する巻線と、該巻線に連結されたモータ入力と、を有するモータと、前記モータ入力を介して前記巻線に動的に通電することによって前記回転子を前記固定子に対して相対回転させる駆動モードと、さらに、該巻線を接続することによって閉電流路を形成し、該回転子の該固定子に対する相対制動を惹起する制動モードと、で作動する制御回路と、を含んで構成されており、前記制御回路は、故障状態を示す前記モータの外部で発生したトリガーに反応して前記制動モードに入るモータ装置と、
供給電力が十分でない場合に前記制御回路を前記制動モードに入れるトリガー回路と、を含んで構成されているロボットシステム。」

<相違点4>
モータ、及び制動モードにおける閉電流路の形成に関して、本願発明では、モータが「少なくとも3つの巻線」と該巻線に連結された「複数の」モータ入力とを有し、「該少なくとも3つの巻線をコモンレールに連続的に接続することによって」閉電流路を形成すると特定されているのに対して、引用発明では、モータが単相モータであり、モータ巻線の短絡経路を生成してモータ制動を発生させるとの特定に留まる点。

<相違点5>
制御モードにおける制動作用に関して、本願発明では、「前記ロボットアームの前記結合物の少なくとも1つを適切な位置に保持する」と特定されているのに対して、引用発明では、そのような制動作用が発揮されるのか否か明確でない点。

<相違点6>
供給電力が十分でない場合に制御回路を制動モードに入れることが、本願発明では、「制御回路の供給電圧が所定値を下回った時に」行われるのに対して、引用発明では、シュミットトリガゲート212が停電を示す緊急信号に対応した信号を受信することにより行われる点。

5 判断
以下、相違点について検討する。
(1)相違点4及び6について
上記相違点4及び6は、上記「第2[理由]2(2)ウ」に示した相違点1及び3と実質的に同じ相違点であり、その判断は、上記「第2[理由]2(2)エ」の(ア)(ウ)に示した相違点1及び3についての判断と同じである。

(2)相違点5について
引用文献1には、上記「第2[理由]2(2)エ(イ)b」に示したように、モータ204が動作中に、緊急停止や停電が生じると、モータ204が停止するまでモータ制動を発生させることが記載されているだけでなく、モータ204の静止時(静止位置に制御されている時)に、停電が生じると、停電の間にわたってモータ制動を発生させることも示唆されているといえる。
また、モータの静止時に停電が生じた際、安全性やその他の観点からみて、モータの動きを拘束又は非拘束とすることのいずれがより望ましいかは、ロボットシステムを適用する分野(用途)や想定される作業内容等によっても変わるものである。
そうすると、引用発明において、その適用先の分野や想定される作業内容等に応じて、上記引用文献1における示唆に基づき、モータ204の静止時に停電が生じた際にも、ロボットアームの関節部102を駆動するモータ204に、停電の間にわたってモータ制動を発生させる(ロボットアームの結合物の少なくとも1つを適切な位置に保持する)構成とすることは、当業者にとって何ら格別の困難性がないものである。

(3)請求人の主張について
請求人は、令和2年8月7日提出の意見書の「1.(2)本願発明と引用文献との対比」「(請求項1について)」において、以下の主張を行っている。
ア 「以下の2つの理由から、当業者は、本願の請求項1の上記構成(B)のように、引用文献1のモータの少なくとも3つの巻線を共通のレールに接続して、ステータに対するロータの制動を誘導するための閉電流経路を形成することはしないと考えられます。第一に、該構成の採用は、突然の高い力の制動を誘発することになり、これは、緩やかな制動のみを適用するという引用文献1の教示に反しています。第二に、該構成の採用は、モータが回転できなくなることを意味し、人間の巻き込みが発生した場合に外力でロボットアームを動かすためにモータが回転できなくなり、同じく引用文献1の教示に反しています。」
イ 「さらに、ほぼ静止したロボットアームを所定の位置に保持することを記載した本願発明とは対照的に、引用文献1では、移動中の産業用ロボットアームを徐々に減速させることを教示するものです。したがって、当業者は、モータの制動がロボットアームの少なくとも1つのリンクの所定位置への保持を生じさせるように引用文献1を改変することはありません。引用文献1に記載のように動くロボットアームであれば、このような改変はロボットアームの突然の停止をもたらすことになり、徐々に減速することにはならないためです。」

しかしながら、次のとおりであるから、請求人の主張は上記判断を左右するものではない。
上記アについて、上記4のとおり、本願発明と引用発明とは、ともに「モータの巻線を接続することによって閉電流路を形成し、モータの回転子の固定子に対する相対制動を惹起する」との事項を備えており、制動力の発生原理が共通するものであるところ、引用文献1には、モータ204が3相モータである場合にどのように短絡経路が形成されるのかが記載されていないため、上記4に挙げた相違点4で相違するものである。
そして、上記「第2[理由]2(2)エ(ア)」のとおり、引用文献2には、故障や停電時に、サーボモータ2の3相の固定子巻線間をスター状に短絡(3相の固定子巻線を1箇所に連続的に接続)することによって閉電流路を形成し、サーボモータ2を停止させる方向にトルクを発生させる(回転子の固定子に対する相対制動を惹起する)技術が記載されており、引用発明と引用文献2に記載された技術とは、故障や停電時にモータの意図しない動作を防止する点で解決しようとする課題が共通するとともに、モータ巻線の短絡経路を生成してモータ制動を発生させる点で機能・作用が共通するから、引用発明において、引用文献1における示唆に基づき、モータ204を3相モータとし、3相モータの巻線の短絡経路を具体化するにあたり、引用文献2に記載された技術を適用することに十分な動機付けがある。
上記イについて、上記(2)のとおり、引用文献1には、モータ204の静止時(静止位置に制御されている時)に、停電が生じると、停電の間にわたってモータ制動を発生させることも示唆されているから、引用発明において、その適用先の分野や想定される作業内容等に応じて、上記引用文献1における示唆に基づき、モータ204の静止時に停電が生じた際にも、停電の間にわたってモータ制動を発生させ、ロボットアーム100の関節部102を適切な位置に保持するようにすることは、当業者にとって何ら格別の困難性がないものである。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

(4)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明が奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(5)したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 柿崎 拓
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-12-01 
結審通知日 2021-12-02 
審決日 2021-12-16 
出願番号 P2017-548962
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02P)
P 1 8・ 57- Z (H02P)
P 1 8・ 121- Z (H02P)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 田合 弘幸
木戸 優華
発明の名称 ロボットシステム  
代理人 中根 美枝  
代理人 笠井 美孝  
代理人 特許業務法人笠井中根国際特許事務所  

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