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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1384872
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-05-12 
確定日 2022-05-12 
事件の表示 特願2017−126182「認証装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月17日出願公開,特開2019− 8702〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成29年6月28日の出願であって,
令和1年9月18日付けで審査請求がなされ,令和2年7月21日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して令和2年9月15日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,令和3年2月17日付けで審査官により拒絶査定がなされ,これに対して令和3年5月12日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,令和3年6月22日付けで前置審査における最後の拒絶理由が通知され,これに対して令和3年8月2日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされ,令和3年9月8日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされ,令和3年9月29日付けで上申書の提出があったものである。

第2.令和3年8月2日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]

令和3年8月2日付け手続補正を却下する。

[理由]

1.補正の内容
令和3年8月2日付けの手続補正(以下,「本件手続補正」という)により,令和3年5月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,
「【請求項1】
生体認証を利用した認証装置であって,
ユーザーの生体情報を取得する取得部と,
予め登録された生体情報を格納する格納部と,
前記取得部で取得された生体情報と前記格納部に格納されている生体情報との類似度に基づいた認証判定値を求める処理部と,
異なるサービスがそれぞれ割り当てられた複数の閾値と前記認証判定値とに基づいて,前記ユーザーに提供可能なサービスを決定する決定部と,を備え,
前記決定部は,前記ユーザーに提供可能なサービスに関する情報又は前記認証判定値に関する情報を所定の画面に表示させる,
認証装置。
【請求項2】
前記決定部は,前記複数の閾値のうち前記認証判定値が満足する全ての閾値に割り当てられたサービスを,前記ユーザーに提供可能なサービスとして決定する,
請求項1に記載の認証装置。
【請求項3】
前記決定部は,
第1閾値に第1レベルのサービスを,第2閾値に第2レベルのサービスを,第3閾値に第3レベルのサービスを,それぞれ割り当てており,
前記認証判定値が前記第3閾値以上かつ前記第2閾値未満である場合には,前記第3レベルを前記ユーザーに提供可能なサービスとして決定し,前記認証判定値が前記第2閾値以上かつ前記第1閾値未満である場合には,前記第2レベル及び前記第3レベルを前記ユーザーに提供可能なサービスとして決定し,前記認証判定値が前記第1閾値以上である場合には,前記第1レベル,前記第2レベル,及び前記第3レベルを前記ユーザーに提供可能なサービスとして決定する,
請求項2に記載の認証装置。
【請求項4】
前記生体情報は,顔,指紋,虹彩,網膜,声紋,静脈,及びDNAの情報の少なくとも1つを含む,
請求項1に記載の認証装置。
【請求項5】
前記認証装置は車両に搭載され,
前記取得部は,車室内に設置された読み取りデバイスで読み取られたユーザーの生体情報を取得する,
請求項1に記載の認証装置。
【請求項6】
前記決定部は,
前記第1閾値に,前記第1レベルのサービスとして車両のエンジン始動や車載ナビゲーション装置を介した課金処理を割り当て,
前記第2閾値に,前記第2レベルのサービスとしてユーザーのスマートフォンを介した車両に蓄積されたメールの確認やスケジュールの読み出しを割り当て,
前記第3閾値に,前記第3レベルのサービスとして車両のシートポジション設定を割り当てている,
請求項3に記載の認証装置。
【請求項7】
前記決定部は,前記ユーザーに提供可能なサービスを決定した場合,前記決定を所定の時間のあいだ維持し,前記所定の時間が経過した後は前記決定を維持しない,
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の認証装置。
【請求項8】
生体認証を利用した認証装置のプロセッサが実行する認証方法であって,
前記プロセッサは,
ユーザーの生体情報を取得し,
取得された生体情報と予め登録された生体情報との類似度に基づいた認証判定値を求め,
異なるサービスがそれぞれ割り当てられた複数の閾値と前記認証判定値とに基づいて,前記ユーザーに提供可能なサービスを決定し,
前記ユーザーに提供可能なサービスに関する情報又は前記認証判定値に関する情報を,
所定の画面に表示させる,
認証方法。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正前の請求項」という)は,
「 【請求項1】
生体認証を利用した認証装置であって,
ユーザーに提供可能なサービスに対応した専用の読み取りデバイスである指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報を取得する取得部と,
予め登録された生体情報を格納する格納部と,
前記取得部で取得された生体情報と前記格納部に格納されている生体情報との類似度に基づいた認証判定値を求める処理部と,
異なるサービスがそれぞれ割り当てられた複数の前記指紋センサーそれぞれに設定されかつ前記指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報を認証成功と判断するために予め固定的に設定された複数の閾値と前記認証判定値とに基づいて,前記ユーザーに提供可能なサービスを決定する決定部と,を備え,
前記決定部は,前記ユーザーに提供可能なサービスに関する情報又は前記認証判定値に関する情報を所定の画面に表示させる,
認証装置。
【請求項2】
前記認証装置は車両に搭載され,
前記取得部は,車室内に設置された前記読み取りデバイスで読み取られた前記ユーザーの生体情報を取得する,
請求項1に記載の認証装置。
【請求項3】
前記決定部は,前記ユーザーに提供可能なサービスを決定した場合,前記決定を所定の時間のあいだ維持し,前記所定の時間が経過した後は前記決定を維持しない,
請求項1又は2に記載の認証装置。
【請求項4】
生体認証を利用した認証装置のプロセッサが実行する認証方法であって,
前記プロセッサは,
ユーザーに提供可能なサービスに対応した専用の読み取りデバイスである指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報を取得し,
取得された生体情報と予め登録された生体情報との類似度に基づいた認証判定値を求め,
異なるサービスがそれぞれ割り当てられた複数の前記指紋センサーそれぞれに設定されかつ前記指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報を認証成功と判断するために予め固定的に設定された複数の閾値と前記認証判定値とに基づいて,前記ユーザーに提供可能なサービスを決定し,
前記ユーザーに提供可能なサービスに関する情報又は前記認証判定値に関する情報を,所定の画面に表示させる,
認証方法。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正後の請求項」という)に補正された。

2.補正の適否
(1)独立特許要件
本件手続補正は,補正前の請求項1,及び,補正前の請求項8に記載の,
「ユーザの生体情報」を,
「ユーザーに提供可能なサービスに対応した専用の読み取りデバイスである指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報」とし(以下,これを「補正事項1」という),
同じく,補正前の請求項1に記載の,
「複数の閾値」を,
「複数の前記指紋センサーそれぞれに設定されかつ前記指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報を認証成功と判断するために予め固定的に設定された複数の閾値」とし(以下,これを「補正事項2」という),
補正前の請求項2〜補正前の請求項4,及び,補正前の請求項6削除し(以下,これを「補正事項3」という),
それに伴って,請求項の番号を整理して,補正前の請求項5,補正前の請求項7,及び,補正前の請求項8を,それぞれ,補正後の請求項2,補正後の請求項3,及び,補正後の請求項4とするものであって,
補正事項1,及び,補正事項2は,本願の願書に最初に添付した,明細書,特許請求の範囲,または,図面に記載した範囲内でなされたものであり,
補正事項1は,「ユーザの生体情報」を,補正事項2は,「複数の閾値」を限定的に減縮することを目的とするものであり,
補正事項3は,請求項の削除を目的とするものである。
そこで,本件手続補正が,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定を満たすものであるか否か,即ち,補正後の請求項に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,以下に検討する。

(2)本件補正発明
補正後の請求項1に係る発明(以下,これを「本件補正発明」という)は,上記「1.補正の内容」において,補正後の請求項1として引用した,次のとおりのものである。

「生体認証を利用した認証装置であって,
ユーザーに提供可能なサービスに対応した専用の読み取りデバイスである指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報を取得する取得部と,
予め登録された生体情報を格納する格納部と,
前記取得部で取得された生体情報と前記格納部に格納されている生体情報との類似度に基づいた認証判定値を求める処理部と,
異なるサービスがそれぞれ割り当てられた複数の前記指紋センサーそれぞれに設定されかつ前記指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報を認証成功と判断するために予め固定的に設定された複数の閾値と前記認証判定値とに基づいて,前記ユーザーに提供可能なサービスを決定する決定部と,を備え,
前記決定部は,前記ユーザーに提供可能なサービスに関する情報又は前記認証判定値に関する情報を所定の画面に表示させる,
認証装置。」

(3)引用文献に記載の事項
ア.令和3年6月22日付けの拒絶理由(以下,これを「前置拒絶理由」という)に引用された,本願の出願前に既に公知である,特開2010−198384号公報(平成22年9月9日公開,以下,これを「引用文献1」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

A.「【0030】
図4は,本実施の形態に係る携帯電子機器1の構成を一例として示すブロック図である。図4に示すように,携帯電子機器1は,アンテナ7に接続された無線通信部11と,制御部12と,記憶部13と,マイク5(MIC)およびスピーカ6(SP)に接続された音声処理部14と,カメラ10aや指紋センサ10bに接続された生体情報入力部10と,表示部2と,キー操作部18とを有する。
【0031】
無線通信部11は,アンテナ7を備えており,基地局のいずれかによって割り当てられるチャネルを介して,基地局との間で無線通信を行う。ここで,無線通信部11は,CDMA(Code Division Multiple Access)2000_1x方式等の通信方式を用いて信号の送受信を行ってもよい。
【0032】
制御部12は,携帯電子機器1の全体的な動作を統括的に制御する。すなわち,制御部12は,携帯電子機器1の各種の処理が,キー操作部18の操作や携帯電子機器1の記憶部13に保存されるプログラムに応じて適切な手順で実行されるように,無線通信部11や表示部2等の動作を制御して,各種の機能を実現する。携帯電子機器1の各種の処理としては,例えば,回線交換網を介して行われる音声通話,電子メールの作成及び送受信,インターネットのWeb(World Wide Web)サイトの閲覧,記憶部10の読み書き制御等の処理があり,これら各種の処理等により,音声通話機能や,外部機器通信機能,データ通信機能,ブラウザ通信機能,データダウンロード機能,ファイル共有機能,アドレス帳読み書き機能,データベースの読み書き機能等の各種の機能が実現される。ここで,無線通信部11や表示部2等の動作としては,例えば,無線通信部11における信号の送受信,表示部2における画像の表示等があり,音声処理部14の動作としては,音声の入出力等がある。」

B.「【0034】
ここで,図4に戻り,制御部12は,生体情報登録部12aと,生体情報照合部12bと,セキュリティレベル判定部12cと,アプリケーション実行制限部12d,アプリケーション実行部12eとを含んで構成される。
【0035】
このうち生体情報登録部12aは,生体情報の登録(ユーザ登録)時に,生体情報入力部10の指紋センサ10bを介して利用者に生体情報(第1の生体情報)を入力させるよう制御し,読取った生体情報を生体情報登録ファイル13aに保存する。
【0036】
また,生体情報照合部12bは,生体情報の照合(ユーザ認証)時に,生体情報入力部10の指紋センサ10bを介して利用者により入力された生体情報(第2の生体情報)と,生体情報登録ファイル13aに登録された生体情報(第2の生体情報<当審注;「第1の生体情報」の誤記>)と,を照合して一致度を算出する。一致度は,一例として,第1の生体情報と第2の生体情報の一致の程度を百分率で表した認証率などの認証レベルで表される。ここで,生体情報照合部12bは,生体情報入力部10を介して入力された生体情報に基づいて算出した認証率を認証率保存ファイル13dに保存してもよい。また,生体情報照合部12bは,電源起動時(電源投入時)やスリープモードからの解除時等に,利用者に生体情報を入力させるよう生体情報入力部10を制御してもよい。
【0037】
ここで,「スリープモード」とは,操作部18に対する操作が一定時間生じない状態や,筐体1Cが閉状態となるなど無操作状態となった場合等に,制御部12の制御により省電力を目的として遷移するモードのことである。スリープモードにおいては,制御部12は,一般的に,割り込み信号の監視など,最低限の機能ブロックのみを残し,他の機能ブロックを停止させる。例えば,スリープモード中においては,制御部12は,キー操作部18によるキー操作の割り込み監視,タイマーからの割り込み監視などを行う。具体的には,キー操作部18を介したキー操作が生じると,キー信号の変化が生じるが,制御部12は,これを割り込み有りとして判別し,スリープモードを解除する。また,一例として,スリープモード中においても,クロック信号を計数するカウンタ部が所定回数のクロックをカウントする,すなわち所定時間経過するとタイマー割り込み信号を生じ,制御部12の制御は,これを割り込みとして検出するとスリープモードを解除する。このようなタイマー割り込みは,例えば待受け時における無線通信部11による基地局からの信号の間欠受信,目覚まし時計などのアラーム機能に対して使用される。本実施の形態においては,制御部12の生体情報照合部12bは,一例として,キー操作部18を介したキー操作等による割り込みがあった場合に,利用者に生体情報を入力させるよう生体情報入力部10を制御し,入力された生体情報がセキュリティレベル判定部12cによりセキュリティレベルを満たすと判定された場合にスリープモードを解除してもよい。
【0038】
また,セキュリティレベル判定部12cは,アプリケーションプログラムが実行時に利用する機能に対応付けて設定されたセキュリティレベル(例えば,認証率の閾値)に基づいて,生体情報照合部12bにより算出された認証率の判定を行う。アプリケーションプログラムが実行時に利用する機能は,一例として,アクセス権の有無により判定される。このアクセス権の有無は,機能権限フラグ等によって,ある資源に対するアクセス種別で規定されている。一例として,アクセス種別には,データの書き込み/読み出し処理,無線通信部11を介したデータ取得/送信処理,アドレス帳の参照/更新処理,外部接続によるデータ入力/出力処理等がある。
【0039】
より具体的には,セキュリティレベル判定部12cは,アプリケーションプログラム毎に規定されている機能権限フラグをアプリケーションプログラム13cから読み出す。そして,セキュリティレベル判定部12cは,機能権限フラグがオン(権限有り)となっている機能について,対応するセキュリティレベルを機能権限セキュリティテーブル13bから読み出し,生体情報照合部12bにより算出された認証率が当該セキュリティレベルを満たすか否か判定を行う。ここで,セキュリティレベル判定部12cは,アプリケーションプログラムに規定された複数の機能権限フラグがオン状態になっている場合,対応する複数のセキュリティレベルのうち最も認証率の高さを要求するセキュリティレベルに基づいて,認証率の判定を行ってもよい。また,ここで,セキュリティレベル判定部12cは,利用者によりキー操作部18等を介してアプリケーションプログラムの起動が要求された場合に,一致度の判定を行ってもよい。この場合,セキュリティレベル判定部12cは,認証率保存ファイル13dに保存された認証率を読み出し,起動要求されたアプリケーションプログラムの機能権限に対応するセキュリティレベルを満たすか判定を行ってもよい。また,セキュリティレベル判定部12cは,認証率がセキュリティレベルを満たさない場合には,再度,利用者に生体情報を入力させるよう生体情報照合部12bに指示してもよい。
【0040】
また,アプリケーション実行制限部12dは,セキュリティレベル判定部12cによる判定結果に応じて,アプリケーションプログラムの実行を制限する。より具体的には,アプリケーション実行制限部12dは,あるアプリケーションプログラムについて,セキュリティレベル判定部12cにより認証率がセキュリティレベルを満たさないと判断された場合に,当該アプリケーションの起動を禁止したり,当該アプリケーションプログラムが実行時に利用する一部機能(例えば,一致度が満たなかったセキュリティレベルに対応する機能)を制限したりする等により,アプリケーションプログラムの実行を制限する。なお,機能の制限は,例えば,当該機能に対応する機能権限フラグを一時的にオフに書き換えることにより実現してもよい。」

C.「【0057】
そして,セキュリティレベル判定部12cは,取得したセキュリティレベルに基づいて,認証のための閾値を設定する(S106)。例えば,セキュリティレベルが「高」の場合は90%,「中」の場合は80%,「低」の場合は70%と予め規定しておき,セキュリティレベル判定部12cは,この規定値に基づいて閾値を設定してもよい。また,認証率の履歴を認証率保存ファイル13dに保存しておき,セキュリティレベル判定部12cは,認証率保存ファイル13dに保存された認証率の分布に基づいて,閾値を設定してもよい。例えば,セキュリティレベルが「高」の場合は認証率の分布の上位25%値を閾値とし,「中」の場合は上位50%値を閾値とし,「低」の場合は下位25%値を閾値として設定してもよい。」

D.「



E.「



F.「



イ.前置拒絶理由に引用された,本願の出願前に既に公知である,特開2008−084044号公報(平成20年4月10日公開,以下,これを「引用文献2」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

G.「【0011】
請求項7記載の発明(第3の発明)は,入力された生体情報と予め登録されている生体情報とを照合した結果,それらの類似度が認証基準としての認証レベルに達しているか否かに応じてユーザ認証を行う携帯端末装置であって,前記入力生体情報と前記登録生体情報とを照合した結果,それらの類似度に応じて複数の認証レベルの中から現在の認証レベルを判定するレベル判定手段と,セキュリティ対象の機能と認証レベルとを対応付けて記憶管理する認証レベル記憶手段と,前記レベル判定手段によって判定された現在の認証レベルと各セキュリティ対象機能対応の認証レベルとの比較結果に応じて現在の認証レベルで利用可能な機能を決定して案内出力する案内手段とを具備したことを特徴とする。
更に,コンピュータに対して,上述した請求項7記載の発明に示した主要機能を実現させるためのプログラムを提供する(請求項13記載の発明)。」

H.「【0033】
図9は,図6の機能一覧表示処理(ステップA5)を詳述するためのフローチャートである。
先ず,制御部1は,電源オン時の判定レベルを読み出すと共に(ステップD1),この判定レベルに基づいて機能/レベル対応テーブルFLCを検索し(ステップD2),判定レベル以下の認証レベルの有無をチェックし(ステップD3),判定レベル以下の認証レベルがあれば,それに該当する機能名を読み出す(ステップD4)。以下,機能/レベル対応テーブルFLCの内容を全て検索し終わるまで(ステップD5),上述のステップD2に戻る。これによって検索が終了すると,読み出した各機能名を現在の判定レベルで利用可能な機能名として一覧表示すると共に,現在の判定レベルを表示する(ステップD6)。図15は,利用可能な機能一覧画面を示した図で,現在の判定レベルが“B”であれば,そのレベルで利用可能な機能は,「メール新規作成」,「電卓」,「カメラ」,‥‥,となる。」

I.「



ウ.本願の出願前に既に公知である,特開2004−190381号公報(平成16年7月8日公開,以下,これを「周知文献」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

J.「【0023】
本実施形態に適用される車両用解錠装置は,図1に示すように,ユーザ(管理者や許可者)の固有の特徴情報(指紋など)をユーザの指3を接触させることにより読み取って予め車両側に登録された特徴情報と一致するか否かを照合する特徴情報照合手段としてのドア解錠用指紋認証装置5と,ユーザの固有の特徴情報が予め車両側に登録された情報と一致したときに当該車両側の施錠部としてのドアロック機構4の解錠(アンロック)を行なう解錠制御手段としての認証制御部6とを備える。
【0024】
また,車室内には他の特徴情報照合手段としてのエンジン始動用指紋認証装置12が設けられ,上記認証制御部6は上記ドアの解錠後に当該ユーザの固有の特徴情報が予め車両側に登録された情報と一致したときに当該車両側の施錠部としてのエンジン9の始動を許可する。
【0025】
更に,車室内には他の特徴情報照合手段としての一時使用許可用指紋認証装置14とが設けられ,上記認証制御部6は上記ドアの解錠後に当該ユーザの固有の特徴情報が予め車両側に登録された情報と一致したときに当該車両側の保持手段としての一時使用鍵管理装置15の解錠を許可し,一時使用鍵16の取り外しを可能な状態とする。
【0026】
上記ドア解錠用指紋認証装置5は車外にいるユーザが指3を接触し,その接触された指の指紋を読み取る指紋センサがドアノブ近傍などに設けられ,また,上記エンジン始動用指紋認証装置12及び一時使用許可用指紋認証装置14はユーザが指3を接触し,その接触された指の指紋を読み取る指紋センサが車室内のドライバ席近傍などに設けられ,完全キーレスシステムを構成している。
【0027】
ドアロック機構4によるドアの施錠(ロック)/解錠(アンロック)制御はドアロック制御装置7が行なう。
【0028】
エンジン9の制御はエンジン制御装置8が行ない,ICカード1や指紋認証を用いたエンジン9の始動/停止のほか,エンジン稼動状態において予めプログラムされた制御パターンにより成層燃焼や均一燃焼などの空燃比制御を実行する。
【0029】
一時使用鍵管理装置15はドア解錠用指紋認証装置5やエンジン始動用指紋認証装置12の認証結果にかかわらずドア解錠機能及びエンジン始動機能を有する一時使用鍵16を保管しており,その施錠(ロック)/解錠(アンロック)制御は認証制御部6が行なう。この一時使用鍵16は車室内に保管されて指紋の非登録者に一時的に車両を貸与したい場合などに用いられる。
【0030】
エンジン9の制御はエンジン制御装置8が行ない,指紋認証を用いたエンジン9の始動/停止のほか,エンジン稼動状態において予めプログラムされた制御パターンにより成層燃焼や均一燃焼などの空燃比制御を実行する。
【0031】
尚,車両には所定の情報センター32と無線通信可能な不図示の通信装置31が搭載され,後述するフローチャートにおける一時使用許可モードで一時使用鍵16の取り外しを許可した時点で,車両の現在位置や停止位置,走行場所,一時使用管理装置の施錠/解錠状態などが上記通信装置31を介して情報センター32に自動送信され,情報センター32では車両から自動送信された各種情報を管理者の携帯電話やコンピュータなどの端末33に送信する。
【0032】
尚,上記一時使用許可用指紋認証装置14で照合すべき特徴情報の数(指紋の特徴点の数など)は,ドア解錠用指紋認証装置5により照合する特徴情報の数より少なく設定してもよい。
【0033】
尚,ドアロック制御装置7は指紋認証によるドア解錠(アンロック)状態でユーザがドアを閉じて所定時間経過すると自動的にドアを施錠(ロック)する自動ロックシステムを構成する。」

K.「【0052】
また,上記ステップS4での指紋認証成立時に,設定手段として管理者(指紋の登録者)は,管理者以外に指紋が登録された許可者(家族など)が行なえる操作項目などを個別に設定したり,車両での移動許可範囲,有効期限などを登録できる。
【0053】
例えば,一時使用鍵を取り外す際には,図6のマップに示すように,操作項目として一時使用鍵の取り外しを最重要のレベル3,エンジン始動を中程度のレベル2,ドア解錠を最も低いレベル3として操作項目に応じて区分し,非登録者はレベル1〜3のいずれの操作も許可されないのはもちろんのこと,運転免許を持っている許可者Aはレベル1〜3の全てを指紋認証により許可される一方,運転免許を持っている許可者Bはレベル1とレベル2のみが許可されている。
【0054】
また,運転免許を持っていない子供などの許可者C及びDはレベル1のみを指紋認証により許可される一方,レベル2やレベル3が許可されないように登録される。
【0055】
また,一時使用鍵を元に戻す際には,図7のマップに示すように,操作項目として一時使用鍵の保管を最重要のレベル3,エンジン始動を中程度のレベル2,ドア解錠を最も低いレベル3として操作項目に応じて区分し,非登録者はレベル1〜3のいずれの操作も許可されないのはもちろんのこと,運転免許を持っている許可者A及びBにはレベル1〜3のいずれの操作も許可しない一方,運転免許を持っている一時使用者にはレベル1とレベル2のみを許可するように登録される。
【0056】
尚,上記図6及び図7のマップの登録においては,最重要のレベル3の操作項目を許可すると必然的にレベル1及びレベル2が許可され,中程度のレベル2の操作項目を許可すると必然的にレベル1が許可されると共にレベル2は不許可とされ,最も低いレベル1の操作項目を許可すると,レベル1のみが許可されてレベル2及びレベル3は不許可となるというように登録レベルに応じて許可される操作項目が異なっている。」

(4)引用文献1に記載の発明
ア.上記Aの「携帯電子機器1は,アンテナ7に接続された無線通信部11と,制御部12と,記憶部13と,マイク5(MIC)およびスピーカ6(SP)に接続された音声処理部14と,カメラ10aや指紋センサ10bに接続された生体情報入力部10と,表示部2と,キー操作部18とを有する」という記載,上記Bの「制御部12は,生体情報登録部12aと,生体情報照合部12bと,セキュリティレベル判定部12cと,アプリケーション実行制限部12d,アプリケーション実行部12eとを含んで構成される」という記載,同じく,上記Bの「生体情報照合部12bは,生体情報の照合(ユーザ認証)時に,生体情報入力部10の指紋センサ10bを介して利用者により入力された生体情報(第2の生体情報)と,生体情報登録ファイル13aに登録された生体情報(第2の生体情報<当審注;「第1の生体情報」の誤記>)と,を照合して一致度を算出する」という記載から,引用文献1に記載の「携帯電子機器1」は,
“生体情報を利用する携帯電子機器1”
であることが読み取れる。

イ.上記Bの「生体情報の登録(ユーザ登録)時に,生体情報入力部10の指紋センサ10bを介して利用者に生体情報(第1の生体情報)を入力させる」という記載と,上記ア.において引用した,上記Bの記載内容から,引用文献1に記載の「携帯電子機器1」は,
“指紋センサ10bを介して生体情報が入力される生体情報入力部10”
を有していることが読み取れる。

ウ.上記Bの「生体情報登録部12aは,生体情報の登録(ユーザ登録)時に,生体情報入力部10の指紋センサ10bを介して利用者に生体情報(第1の生体情報)を入力させるよう制御し,読取った生体情報を生体情報登録ファイル13aに保存する」という記載と,上記ア.において引用した,上記Bの記載内容から,引用文献1に記載の「携帯電子機器1」は,
“ユーザ登録時に読取った生体情報を保存する生体情報登録ファイル13a”
を有することが読み取れる。

エ.上記ア.において引用した,上記Bの記載内容と,上記Bの「一致度は,一例として,第1の生体情報と第2の生体情報の一致の程度を百分率で表した認証率などの認証レベルで表される。ここで,生体情報照合部12bは,生体情報入力部10を介して入力された生体情報に基づいて算出した認証率」という記載,同じく,上記Bの「生体情報照合部12bにより算出された認証率」という記載,及び,上記ウ.において検討した事項から,引用文献1に記載の「携帯電子機器1」は,
“ユーザ認証時に入力された生体情報と,生体情報登録ファイル13aに登録された生体情報の認証率を算出する生体情報照合部12b”
を有することが読み取れる。

オ.上記Bの「セキュリティレベル判定部12cは,アプリケーションプログラムが実行時に利用する機能に対応付けて設定されたセキュリティレベル(例えば,認証率の閾値)に基づいて,生体情報照合部12bにより算出された認証率の判定を行う。アプリケーションプログラムが実行時に利用する機能は,一例として,アクセス権の有無により判定される。このアクセス権の有無は,機能権限フラグ等によって,ある資源に対するアクセス種別で規定されている。一例として,アクセス種別には,データの書き込み/読み出し処理,無線通信部11を介したデータ取得/送信処理,アドレス帳の参照/更新処理,外部接続によるデータ入力/出力処理等がある」という記載,同じく,上記Bの「セキュリティレベル判定部12cは,アプリケーションプログラム毎に規定されている機能権限フラグをアプリケーションプログラム13cから読み出す。そして,セキュリティレベル判定部12cは,機能権限フラグがオン(権限有り)となっている機能について,対応するセキュリティレベルを機能権限セキュリティテーブル13bから読み出し,生体情報照合部12bにより算出された認証率が当該セキュリティレベルを満たすか否か判定を行う」という記載、及び,同じく,上記Bの「アプリケーション実行制限部12dは,セキュリティレベル判定部12cによる判定結果に応じて,アプリケーションプログラムの実行を制限する。より具体的には,アプリケーション実行制限部12dは,あるアプリケーションプログラムについて,セキュリティレベル判定部12cにより認証率がセキュリティレベルを満たさないと判断された場合に,当該アプリケーションの起動を禁止したり,当該アプリケーションプログラムが実行時に利用する一部機能(例えば,一致度が満たなかったセキュリティレベルに対応する機能)を制限したりする等により,アプリケーションプログラムの実行を制限する」という記載と,上記ア.に引用した,上記Bの記載内容から,引用文献1に記載の「携帯電子機器1」は,
“アプリケーションプログラムが実行時に利用する機能に対応付けて設定された認証率の閾値を,機能権限フラグがオンとなっている前記機能について,機能権限セキュリティテーブル13bから読み出し,生体情報照合部12bにより算出された認証率が前記認証率の閾値を満たすか否か判定を行い,前記算出された認証率が,前記認証率の閾値を満たさないと判断した場合に,前記機能の実行を制限するアプリケーション実行制御部12d”を有するものであることが読み取れる。

カ.以上,上記ア.〜オ.において検討した事項から,引用文献1には,次の発明(以下,これを「引用発明」という)が記載されているものと認める。

「生体情報を利用する携帯電子機器1であって,
指紋センサ10bを介して生体情報が入力される生体情報入力部10と,
ユーザ登録時に読取った生体情報を保存する生体情報登録ファイル13aと,
ユーザ認証時に入力された生体情報と,前記生体情報登録ファイル13aに登録された生体情報の認証率を算出する生体情報照合部12bと,
アプリケーションプログラムが実行時に利用する機能に対応付けて設定された認証率の閾値を,機能権限フラグがオンとなっている前記機能について,機能権限セキュリティテーブル13bから読み出し,前記生体情報照合部12bにより算出された認証率が前記認証率の閾値を満たすか否か判定を行い,前記算出された認証率が,前記認証率の閾値を満たさないと判断した場合に,前記機能の実行を制限するアプリケーション実行制御部12dと,を備える,
携帯電子機器1。」

(5)本件補正発明と引用発明との対比
ア.引用発明において,「生体情報」は,「認証率」の算出に用いられ,当該「認証率」は,「アプリケーションプログラム」が「実行時に利用する機能」の実行の制限を行うか否かの判断に用いられているから,これら一連の処理は,生体情報を利用した認証処理と言い得るものである。
したがって,引用発明において当該処理を行う「携帯電子機器1」が,
本件補正発明における「認証装置」に相当するものである。
よって,引用発明における「生体情報を利用する携帯電子機器1」が,
本件補正発明における「生体認証を利用した認証装置」に相当する。

イ.引用発明において,「生体情報入力部10」は,「指紋センサ10b」を介して,ユーザの「生体情報」の入力を受け付ける,即ち,「生体情報」を「取得」するものであるから,
引用発明における「指紋センサ10bを介して生体情報が入力される生体情報入力部10」と,
本件補正発明における「ユーザーに提供可能なサービスに対応した専用の読み取りデバイスである指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報を取得する取得部」とは,
“読み取りデバイスである指紋センサーから入力されるユーザの生体情報を取得する取得部”である点で共通する。

ウ.引用発明において,「生体情報登録ファイル13a」は,「ユーザ登録時に読取った生体情報」,即ち,“予め取得された生体情報”であり,当該「生体情報」は,「生体情報登録ファイル13a」に保存,即ち,「生体情報登録ファイル13」に「登録」されるものであるから,
引用発明における「ユーザ登録時に読取った生体情報」が,
本件補正発明における「予め登録された生体情報」に相当し,
引用発明における「生体情報登録ファイル13a」が,
本件補正発明における「格納部」に相当する。
よって,引用発明における「ユーザ登録時に読取った生体情報を保存する生体情報登録ファイル13a」が,
本件補正発明における「予め登録された生体情報を格納する格納部」に相当する。

エ.引用発明における「ユーザ認証時に入力された生体情報」が,
本件補正発明における「取得部で取得された生体情報」に相当し,
引用発明における「生体情報登録ファイル13aに登録された生体情報」が,
本件補正発明における「格納部に格納されている生体情報」に相当し,
引用発明における「認証率」は,上記Bに引用した引用文献1の段落【0036】の「一致度は,一例として,第1の生体情報と第2の生体情報の一致の程度を百分率で表した認証率などの認証レベルで表される」という記載内容から,
本件補正発明における「類似度に基づいた認証判定値」に相当するものであるから,
引用発明における「認証率を算出する生体情報照合部12b」が,
本件補正発明における「類似度に基づいた認証判定値を求める処理部」に相当する。
よって,引用発明における「ユーザ認証時に入力された生体情報と,前記生体情報登録ファイル13aに登録された生体情報の認証率を算出する生体情報照合部12b」が,
本件補正発明における「取得部で取得された生体情報と前記格納部に格納されている生体情報との類似度に基づいた認証判定値を求める処理部」に相当する。

オ.引用発明において,「アプリケーションプログラムが実行時に利用する機能に対応付けて設定された認証率の閾値」における「機能」は,上記「(4)引用文献1に記載の発明」のオ.において引用した,上記Bの段落【0038】の記載内容にもあるとおり,複数存在しており,上記Bの「セキュリティレベル判定部12cは,アプリケーションプログラムに規定された複数の機能権限フラグがオン状態になっている場合,対応する複数のセキュリティレベルのうち最も認証率の高さを要求するセキュリティレベルに基づいて,認証率の判定を行ってもよい」という記載と,上記Eに引用した【図6】に開示の内容,及び,上記Fに引用した【図7】に開示の内容から,引用発明における「機能に対応付けて設定された認証率の閾値」は,複数ある「機能」毎に,それぞれ設定されるものであり,当該設定された「閾値」は,“機能に対応づけて,予め,設定される”ものであるから,当該「閾値」を認証に用いる際に,変動しないことは明らかである。
そして,引用発明における「機能」は,
本件補正発明における「サービス」に相当するので,
引用発明における「認証率の閾値」が,
本件補正発明における「指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報を認証成功と判断するために予め固定的に設定された複数の閾値」に相当し,
引用発明において,「アプリケーション実行制御部12d」が,「算出された認証率が,前記認証率の閾値を満たさないと判断した場合に,前記機能の実行を制限する」ということは,
“満たす場合には,機能の制限を実行しない”ものであり,
結果,“認識率の閾値に基づいて,提供する機能を決定している”
ことに外ならないので,
引用発明において,「機能に対応付けて設定された認証率の閾値」を「機能権限セキュリティテーブル13bから読み出し,前記生体情報照合部12bにより算出された認証率が前記認証率の閾値を満たすか否か判定」し,“満たすという結果となる”ことが,
本件補正発明における「予め固定的に設定された複数の閾値と前記認証判定値とに基づいて」,「指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報を認証成功と判断する」ことに相当する。
そうすると,引用発明において,「アプリケーション実行制御部12d」は,“提供する機能を決定する決定部”といい得るものであるから,
本件補正発明における「決定部」に相当する。
以上検討したことから,
引用発明における「アプリケーションプログラムが実行時に利用する機能に対応付けて設定された認証率の閾値を,機能権限フラグがオンとなっている前記機能について,機能権限セキュリティテーブル13bから読み出し,前記生体情報照合部12bにより算出された認証率が前記認証率の閾値を満たすか否か判定を行い,前記算出された認証率が,前記認証率の閾値を満たさないと判断した場合に,前記機能の実行を制限するアプリケーション実行制御部12d」と,
本件補正発明における「異なるサービスがそれぞれ割り当てられた複数の前記指紋センサーそれぞれに設定されかつ前記指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報を認証成功と判断するために予め固定的に設定された複数の閾値と前記認証判定値とに基づいて,前記ユーザーに提供可能なサービスを決定する決定部」とは,
“指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報を認証成功と判断するために予め固定的に設定された複数の閾値と前記認証判定値とに基づいて,前記ユーザーに提供可能なサービスを決定する決定部”
である点で共通する。

カ.以上,上記ア.〜オ.において検討した事項から,本件補正発明と,引用発明との,一致点,及び,相違点は,次のとおりである。

[一致点]
生体認証を利用した認証装置であって,
読み取りデバイスである指紋センサーから入力されるユーザの生体情報を取得する取得部と,
予め登録された生体情報を格納する格納部と,
前記取得部で取得された生体情報と前記格納部に格納されている生体情報との類似度に基づいた認証判定値を求める処理部と,
前記指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報を認証成功と判断するために予め固定的に設定された複数の閾値と前記認証判定値とに基づいて,前記ユーザーに提供可能なサービスを決定する決定部と,を備える,
認証装置。

[相違点1]
“指紋センサー”に関して,
本件補正発明においては,「ユーザーに提供可能なサービスに対応した専用の読み取りデバイスである指紋センサー」であるのに対して,
引用発明においては,「指紋センサ10b」が,「機能」に対応した「専用の読取デバイス」であるかについて,特に,言及されていない点。

[相違点2]
“閾値”に関して,
本件補正発明においては,「異なるサービスがそれぞれ割り当てられた複数の前記指紋センサーそれぞれに設定され」るものであるのに対して,
引用発明においては,“指紋センサーそれぞれに設定される”構成について,特に,言及されていない点。

[相違点3]
本件補正発明においては,「決定部は,前記ユーザーに提供可能なサービスに関する情報又は前記認証判定値に関する情報を所定の画面に表示させる」ものであるのに対して,
引用発明においては,「アプリケーション実行制御部12d」に,ユーザーに提供可能なサービスに関する情報又は前記認証判定値に関する情報を所定の画面に表示させる」点について,特に,言及されていない点。

(6)相違点についての当審の判断
ア.[相違点1],及び,[相違点2]について
上記Jに引用した,周知文献の「ユーザ(管理者や許可者)の固有の特徴情報(指紋など)をユーザの指3を接触させることにより読み取って予め車両側に登録された特徴情報と一致するか否かを照合する特徴情報照合手段としてのドア解錠用指紋認証装置5と,ユーザの固有の特徴情報が予め車両側に登録された情報と一致したときに当該車両側の施錠部としてのドアロック機構4の解錠(アンロック)を行なう解錠制御手段としての認証制御部6とを備える」という記載,同じく,上記Jに引用した,周知文献の「車室内には他の特徴情報照合手段としてのエンジン始動用指紋認証装置12が設けられ,上記認証制御部6は上記ドアの解錠後に当該ユーザの固有の特徴情報が予め車両側に登録された情報と一致したときに当該車両側の施錠部としてのエンジン9の始動を許可する」という記載,同じく,上記Jに引用した,周知文献の「車室内には他の特徴情報照合手段としての一時使用許可用指紋認証装置14とが設けられ」という記載,及び,同じく,上記Jに引用した,周知文献の「ドア解錠用指紋認証装置5は車外にいるユーザが指3を接触し,その接触された指の指紋を読み取る指紋センサがドアノブ近傍などに設けられ,また,上記エンジン始動用指紋認証装置12及び一時使用許可用指紋認証装置14はユーザが指3を接触し,その接触された指の指紋を読み取る指紋センサが車室内のドライバ席近傍などに設けられ」という記載にもあるとおり,「ドアロック機構4の解錠」,「エンジン始動」,及び,「一時使用許可」(以上,「ドアロック機構4の解錠」,「エンジン始動」,及び,「一時使用許可」は,本件補正発明における「サービス」に相当する)毎に,「指紋認証装置」を設けることは,本願の出願前に,当業者には広く知られた技術事項であり,上記Jに引用した,周知文献の段落【0032】の「尚,上記一時使用許可用指紋認証装置14で照合すべき特徴情報の数(指紋の特徴点の数など)は,ドア解錠用指紋認証装置5により照合する特徴情報の数より少なく設定してもよい。」という記載にもあるとおり,「サービス」毎に,「特徴情報」を異なるよう設定する構成についても,本願の出願前に、当業者に広く知られた技術事項であって,
引用発明と,周知文献に開示の技術とは,“異なるサービス毎に,指紋認証のための「特徴情報」を異ならせて,当該サービスの提供の可否を判断する”技術である点で共通するので,引用発明において,周知文献に開示の技術に基づいて,「機能」毎に,異なる「指紋センサー」を設け,それぞれに個別の「閾値」を設定するよう構成することは,当業者が適宜なし得る事項である。
よって,[相違点1],及び,[相違点2]は,格別のものではない。

イ.[相違点3]について
上記Gに引用した,引用文献2の「それらの類似度に応じて複数の認証レベルの中から現在の認証レベルを判定するレベル判定手段と,セキュリティ対象の機能と認証レベルとを対応付けて記憶管理する認証レベル記憶手段と,前記レベル判定手段によって判定された現在の認証レベルと各セキュリティ対象機能対応の認証レベルとの比較結果に応じて現在の認証レベルで利用可能な機能を決定して案内出力する案内手段とを具備した」という記載,上記Hに引用した,引用文献2の「読み出した各機能名を現在の判定レベルで利用可能な機能名として一覧表示すると共に,現在の判定レベルを表示する(ステップD6)。図15は,利用可能な機能一覧画面を示した図で,現在の判定レベルが“B”であれば,そのレベルで利用可能な機能は,「メール新規作成」,「電卓」,「カメラ」,‥‥,となる」という記載,及び,上記Iに引用した,引用文献2の【図15】に開示された事項にもあるとおり,“認証された判定レベルに応じて,利用可能な機能を表示する”ことは,本願の出願前に当業者には,広く知られた技術事項であり,引用文献2に記載の技術における「機能」が,本件補正発明における「ユーザに提供可能なサービス」に相当するものであって,引用発明と,引用文献2に記載の技術とは,“生体情報を用いた認証”に関する技術である点で共通しているので,引用発明においても,「判定」の結果,“実行できる機能”を表示するよう構成することは,当業者が適宜なし得る事項である。
よって,[相違点3]は,格別のものではない。

ウ.以上,ア.及びイ.において検討したとおりであるから,[相違点1]〜[相違点3]は格別なものではなく,本件補正発明の構成によってもたらされる効果も,当業者であれば当然に予測可能なものに過ぎず格別なものとは認められない。
よって,本件補正発明は,引用発明と,引用文献2,及び,周知文献に開示の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法29条2項の規定により,特許出願の際,独立して特許を受けることができない。

3.補正却下むすび
したがって,本件手続補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

よって,補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
令和3年8月2日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,これを「本願発明」という)は,令和3年5月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,上記「第2.令和3年8月2日付けの手続補正の却下の決定」の「1.補正の内容」において,補正前の請求項1として引用した,次のとおりのものである。

「生体認証を利用した認証装置であって,
ユーザーの生体情報を取得する取得部と,
予め登録された生体情報を格納する格納部と,
前記取得部で取得された生体情報と前記格納部に格納されている生体情報との類似度に基づいた認証判定値を求める処理部と,
異なるサービスがそれぞれ割り当てられた複数の閾値と前記認証判定値とに基づいて,前記ユーザーに提供可能なサービスを決定する決定部と,を備え,
前記決定部は,前記ユーザーに提供可能なサービスに関する情報又は前記認証判定値に関する情報を所定の画面に表示させる,
認証装置。」

第4.前置の拒絶理由について
令和3年6月22日付けの拒絶理由(以下,これを「前置拒絶理由」という)は,本願発明は,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2010−198384号公報
引用文献2:特開2008−084044号公報


第5.引用文献に記載の発明
前置拒絶理由に引用された引用文献1,及び,引用文献2は,上記「第2.令和3年8月2日付けの手続補正の却下の決定」の「2.補正の適否」,「(1)独立特許要件」における,「(3)引用文献に記載の事項」において検討した,引用文献1,及び,引用文献2と同じものであるから,上記「第2.令和3年8月2日付けの手続補正の却下の決定」の「2.補正の適否」,「(1)独立特許要件」における,「(4)引用文献1に記載の発明」において検討したとおりの,次の引用発明が記載されているものと認める。

「生体情報を利用する携帯電子機器1であって,
指紋センサ10bを介して生体情報が入力される生体情報入力部10と,
ユーザ登録時に読取った生体情報を保存する生体情報登録ファイル13aと,
ユーザ認証時に入力された生体情報と,前記生体情報登録ファイル13aに登録された生体情報の認証率を算出する生体情報照合部12bと,
アプリケーションプログラムが実行時に利用する機能に対応付けて設定された認証率の閾値を,機能権限フラグがオンとなっている前記機能について,機能権限セキュリティテーブル13bから読み出し,前記生体情報照合部12bにより算出された認証率が前記認証率の閾値を満たすか否か判定を行い,前記算出された認証率が,前記認証率の閾値を満たさないと判断した場合に,前記機能の実行を制限するアプリケーション実行制御部12dと,を備える,
携帯電子機器1。」

第6.本願発明と引用発明との対比
本願発明は,本件補正発明より,「取得部」の「取得する」「ユーザの生体情報」についての「ユーザーに提供可能なサービスに対応した専用の読み取りデバイスである指紋センサーから入力される」という限定事項と,「複数の閾値」についての「複数の前記指紋センサーそれぞれに設定されかつ前記指紋センサーから入力される前記ユーザーの生体情報を認証成功と判断するために予め固定的に設定された」という限定事項を取り除いたものであるから,本願発明と,引用発明との,一致点,及び,相違点は,次のとおりである。

[一致点]
生体認証を利用した認証装置であって,
ユーザの生体情報を取得する取得部と,
予め登録された生体情報を格納する格納部と,
取得部で取得された生体情報と前記格納部に格納されている生体情報との類似度に基づいた認証判定値を求める処理部と,
異なるサービスがそれぞれ割り当てられた複数の閾値と前記認証判定値とに基づいて,前記ユーザーに提供可能なサービスを決定する決定部と,を備える,
認証装置。

[相違点]
本願発明においては,「決定部は,前記ユーザーに提供可能なサービスに関する情報又は前記認証判定値に関する情報を所定の画面に表示させる」ものであるのに対して,
引用発明においては,「アプリケーション実行制御部12d」に,ユーザーに提供可能なサービスに関する情報又は前記認証判定値に関する情報を所定の画面に表示させる」点について,特に,言及されていない点。

第7.相違点についての当審の判断
本願発明と,引用発明との[相違点]は,本件補正発明と,引用発明との[相違点3]と同じものであるから,上記「第2.令和3年8月2日付けの手続補正の却下の決定」の「2.補正の適否」,「(1)独立特許要件」における,「(6)相違点についての当審の判断」において検討したとおり,[相違点]は,格別なものではない。そして,本願発明の構成によってもたらされる効果も,当業者であれば容易に予測できる程度のものであって,格別なものとは認められない。

第8.むすび
したがって,本願発明は,引用発明,及び,引用文献2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,特許庁長官を被告として,提起することができます。
 
審理終結日 2022-02-28 
結審通知日 2022-03-01 
審決日 2022-03-25 
出願番号 P2017-126182
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (G06F)
P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山崎 慎一
石井 茂和
発明の名称 認証装置  
代理人 特許業務法人 小笠原特許事務所  

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