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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1384890
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-05-19 
確定日 2022-05-09 
事件の表示 特願2019−518290「バッテリ管理回路と方法、バランス回路と方法及び被充電機器」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月19日国際公開、WO2018/068523、令和 1年12月19日国内公表、特表2019−537409〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年6月9日(パリ条約による優先権主張 2016年10月12日 中国、2017年2月15日 中国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年4月 5日 :手続補正書の提出
令和 2年6月12日付け:拒絶理由通知
令和 2年8月11日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年1月15日付け:拒絶査定
令和 3年5月19日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 本件補正について
1 本件補正の内容
(1)令和2年8月11日提出の手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1及び7は、以下のとおりである。
「【請求項1】
第一充電チャネル、バランス回路を備えるバッテリ管理回路であって、
前記第一充電チャネルは、前記バッテリを充電するために、パワー供給装置によって供給される充電電圧及び/又は充電電流を受信するために用いられ、前記バッテリは、直列に接続された第一セル及び第二セルを備え、
前記バランス回路は前記第一セル及び前記第二セルに接続されて、前記第一セルの電圧と前記第二セルの電圧を均衡するために用いられ、
前記バランス回路は、RLC直列回路、スイッチ回路及び制御回路を備え、前記スイッチ回路の一端は前記第一セル及び前記第二セルに接続され、前記スイッチ回路の他端は前記RLC直列回路に接続され、前記スイッチ回路の制御端は前記制御回路に接続され、前記RLC直列回路は、レジスタ、インダクタ、キャパシタを含み、
前記第一セルの電圧と前記第二セルの電圧が不均衡である場合、前記制御回路は前記スイッチ回路を制御して、前記第一セル及び前記第二セルが前記RLC直列回路と交互に閉ループを形成することにして、前記RLC直列回路に入力電圧を供給し、
前記制御回路は、前記RLC直列回路の入力電圧の周波数を前記RLC直列回路の共振周波数と等しくするように、前記スイッチ回路を制御する、
ことを特徴とするバッテリ管理回路。」

「【請求項7】
前記バッテリ管理回路は、通信回路をさらに備え、
前記パワー供給装置が前記第一充電チャネルを介して前記バッテリを充電する時、前記パワー供給装置から供給される充電電圧及び/又は充電電流の大きさが前記バッテリの現在の充電段階とマッチングするように、前記通信回路は前記パワー供給装置と通信するために用いられる、ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のバッテリ管理回路。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。(下線は、当審で付した。)
「【請求項1】
第一充電チャネル、バランス回路を備えるバッテリ管理回路であって、
前記第一充電チャネルは、前記バッテリを充電するために、パワー供給装置によって供給される充電電圧及び/又は充電電流を受信するために用いられ、前記バッテリは、直列に接続された第一セル及び第二セルを備え、
前記バランス回路は前記第一セル及び前記第二セルに接続されて、前記第一セルの電圧と前記第二セルの電圧を均衡するために用いられ、
前記バランス回路は、RLC直列回路、スイッチ回路及び制御回路を備え、前記スイッチ回路の一端は前記第一セル及び前記第二セルに接続され、前記スイッチ回路の他端は前記RLC直列回路に接続され、前記スイッチ回路の制御端は前記制御回路に接続され、前記RLC直列回路は、レジスタ、インダクタ、キャパシタを含み、
前記第一セルの電圧と前記第二セルの電圧が不均衡である場合、前記制御回路は前記スイッチ回路を制御して、前記第一セル及び前記第二セルが前記RLC直列回路と交互に閉ループを形成することにして、前記RLC直列回路に入力電圧を供給し、
前記制御回路は、前記RLC直列回路の入力電圧の周波数を前記RLC直列回路の共振周波数と等しくするように、前記スイッチ回路を制御し、
前記バッテリ管理回路は、通信回路をさらに備え、
前記パワー供給装置が前記第一充電チャネルを介して前記バッテリを充電する時、前記パワー供給装置から供給される充電電圧及び/又は充電電流の大きさが前記バッテリの現在の充電段階とマッチングするように、前記通信回路は前記パワー供給装置と通信するために用いられる、ことを特徴とするバッテリ管理回路。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ、本件補正前の請求項7は、請求項1ないし6の記載を引用して記載されたものである。したがって、本件補正前の請求項1を引用する請求項7に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明は、発明として相違するところがないから、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項7を、独立形式に書き改めて記載したものである。そうしてみると、本件補正は、本件補正前の請求項1を削除して、本件補正前の請求項7を本件補正後の請求項1にしたものであるから、本件補正は、特許法17条の2第5項1号に掲げる、同法36条5項に規定する請求項の削除を目的とする補正である。
したがって、請求項1に係る本件補正は適法になされたものである 。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、請求項7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明、及び引用文献2、3に記載された技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2015−65795号公報
引用文献2.特開2011−139622号公報
引用文献3.特開2008−182809号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付した。以下同様。)
「【0010】
<1.第1の実施形態>
[装置の構成例]
図1は、本実施形態の蓄電装置100の構成例を模式的に示す全体図である。図1に示すように、蓄電装置100は、複数のセル110a、110bと、直列共振回路120と、蓄電制御装置130とを備える。
【0011】
[セル110a、110b]
図1に示すように、各セル110a、110bは、直列接続されている。各セル110a、110bは、いずれも充放電可能とされている。すなわち、各セル110a、110bは、充電の際には、不図示の充電装置から供給された充電電流を電荷として蓄積し、放電の際には、蓄積された電荷を放電電流として不図示の負荷に供給することができる。」

「【0033】
第1のセルと第2のセルとを直列共振回路120に順次選択的に接続させるための具体的な構成の一例として、図4に示すように、蓄電装置100は、スイッチ140a、140b、140c、140dおよびセル電圧検出部150a、150bを備える。蓄電制御装置130は、スイッチ140a〜140dの動作を制御することで、セル110a、110bと直列共振回路120との接続状態を制御する構成である。」

「【0036】
さらに詳述すると、1つのスイッチ140aは、セル110aの正極と直列共振回路120の第1の端部120aとを接続する接続ライン161上に配置されている。スイッチ140aは、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがってオン状態またはオフ状態になることで、接続ライン161を閉路または開路する。
【0037】
他の1つのスイッチ140bは、セル110aの負極と直列共振回路120の第2の端部120bとを接続する接続ライン162上に配置されている。スイッチ140bは、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン162を開閉する。
【0038】
他の1つのスイッチ140cは、セル110bの正極と直列共振回路120の第1の端部120aとを接続する接続ライン163上に配置されている。接続ライン163は、第1の端部120aに向かう他の接続ライン161とノードN1において接続されている。スイッチ140cは、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン163を開閉する。
【0039】
残りの1つのスイッチ140dは、セル110bの負極と直列共振回路120の第2の端部120bとを接続する接続ライン164上に配置されている。接続ライン164は、第2の端部120bに向かう他の接続ライン162とノードN2において接続されている。スイッチ140dは、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン164を開閉する。
【0040】
以下、各スイッチ140a〜140dのうち、第1のセルの正極に接続されるスイッチを、第1の正極側のスイッチと称し、第1のセルの負極に接続されるスイッチを、第1の負極側のスイッチと称する。また、第2のセルの正極に接続されるスイッチを、第2の正極側のスイッチと称し、第2のセルの負極に接続されるスイッチを、第2の負極側のスイッチと称する。」

「【0047】
そして、初期状態から、先ず、図6のステップ61(S61)において、蓄電制御装置130により、セル電圧情報に基づいて、第1のセルおよび第2のセルを決定する。例えば、蓄電制御装置130は、セル110aに対応するセル電圧検出部150aからのセル電圧情報が、セル110bに対応するセル電圧検出部150aからのセル電圧情報よりも大きい電圧を示す場合には、セル110aを第1のセルに決定する。同時に、蓄電制御装置130は、セル110bを第2のセルに決定する。
【0048】
次いで、ステップ62(S62)において、蓄電制御装置130により、ステップ61(S61)において決定された第1のセルに対応する第1の正極側のスイッチおよび第1の負極側のスイッチをオン状態に切り替える。一方、蓄電制御装置130は、ステップ61(S61)において決定された第2のセルに対応する第2の正極側のスイッチおよび第2の負極側のスイッチについては、オフ状態に維持する。
【0049】
これにより、第1のセルのみが、第1の正極側のスイッチによって閉路された接続ラインおよび第1の負極側のスイッチによって閉路された接続ラインを介して直列共振回路120に接続される。そして、第1のセルから直列共振回路120に電流が流れて、第1のセルから直列共振回路120にエネルギーが移動される。」

「【0051】
次いで、ステップ64(S64)において、蓄電制御装置130により、ステップ61(S61)において決定された第2のセルに対応する第2の正極側のスイッチおよび第2の負極側のスイッチをオン状態に切り替える。このとき、蓄電制御装置130は、第1の正極側のスイッチおよび第1の負極側のスイッチについては、オフ状態に維持する。
【0052】
これにより、第2のセルのみが、第2の正極側のスイッチによって閉路された接続ラインおよび第2の負極側のスイッチによって閉路された接続ラインを介して直列共振回路120に接続される。そして、直列共振回路120から第2のセルに電流が流れて、ステップ62(S62)において直列共振回路120に移動されたエネルギーが、直列共振回路120から第2のセルに移動される。」

「【0054】
以上のように、本実施形態の蓄電装置100によれば、第1のセルが直列共振回路120にエネルギーを引き渡した後に、第2のセルが直列共振回路120からエネルギーを受け取ることができるので、簡便かつ適切な電圧均等化処理が可能となる。また、スイッチ140a〜140dを含む簡易な構成によってセル110a、110bと直列共振回路120との接続状態を制御することができる。」

「【0125】
<10.第5の実施形態>
[装置の構成例]
図19は、本実施形態の蓄電装置100における直列共振回路120の構成例を示す図である。本実施形態における直列共振回路120は、第1〜第4の実施形態の直列共振回路120に対して、リアクトル121およびコンデンサ122に加えて、抵抗123を有する点が相違する。すなわち、本実施形態における直列共振回路120は、RLC直列共振回路である。」

「【0135】
<13.第6の実施形態>
[装置の構成例]
本実施形態の蓄電装置100は、第1〜第5の実施形態の蓄電装置100に対して、セルと直列共振回路120との接続を切り替えるための構成が相違する。以下、詳細に説明する。
【0136】
本変形例の蓄電制御装置130は、直列共振回路120とセルとの接続を直列共振回路120の共振周波数で切り替える構成である。
【0137】
ここで、図11における時刻t1と時刻t2との間の期間のように、1つのセルが直列共振回路120に接続されてから、その1つのセルに替わって他のセルが直列共振回路120に接続されるまでの期間を接続切り替え周期と定義する。接続切り替え周期は、直列共振回路120の共振周期の半周期であるので、π(L×C)1/2[s]となる。本変形例の蓄電制御装置130は、このような接続切り替え周期毎に直列共振回路120とセルとの接続を切り替える構成ということもできる。」



(2)段落【0135】に、第6の実施形態は第5の実施形態の蓄電装置100に対して、セルと直列共振回路120との接続を切り替えるための構成が相違することが記載されているので、第6の実施形態である、直列共振回路120とセルとの接続を直列共振回路120の共振周波数で切り替える構成(段落【0135】、【0136】)、及び、第5の実施形態のRLC直列共振回路(段落【0125】)に着目すると、引用文献1には「蓄電装置100」について、次の事項が記載されている。
・充放電可能な直列接続されたセル110a、110bと、スイッチ140a、140b、140c、140dと、直列共振回路120と、蓄電制御装置130とを備える蓄電装置100(段落【0010】、【0011】、【0033】)。
・セル110a、110bは、充電の際には充電装置から供給された充電電流を電荷として蓄積する(段落【0011】)。
・直列共振回路120はRLC直列共振回路で、リアクトル121およびコンデンサ122に加えて、抵抗123を有する(段落【0125】)。
・スイッチ140aは、セル110aの正極と直列共振回路120の第1の端部120aとを接続する接続ライン161上に配置されて、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン161を閉路または開路し(段落【0036】)、スイッチ140bは、セル110aの負極と直列共振回路120の第2の端部120bとを接続する接続ライン162上に配置されて、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン162を開閉し(段落【0037】)、スイッチ140cは、セル110bの正極と直列共振回路120の第1の端部120aとを接続する接続ライン163上に配置されて、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン163を開閉し(段落【0038】)、スイッチ140dは、セル110bの負極と直列共振回路120の第2の端部120bとを接続する接続ライン164上に配置されて、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン164を開閉する(段落【0039】)。
・蓄電制御装置130は、セル110aの電圧がセル110bの電圧よりも大きい電圧を示す場合には、セル110aを第1のセルに、セル110bを第2のセルに決定する(段落【0047】)。
・「各スイッチ140a〜140dのうち、第1のセルの正極に接続されるスイッチを、第1の正極側のスイッチと称し、第1のセルの負極に接続されるスイッチを、第1の負極側のスイッチと称する。また、第2のセルの正極に接続されるスイッチを、第2の正極側のスイッチと称し、第2のセルの負極に接続されるスイッチを、第2の負極側のスイッチと称する。」(段落【0040】)と記載されているので、セル110aを第1のセルに、セル110bを第2のセルに決定すると(段落【0047】)、段落【0036】ないし【0040】の記載から、第1の正極側のスイッチはスイッチ140aであり、第1の負極側のスイッチはスイッチ140bであり、第2の正極側のスイッチはスイッチ140cであり、第2の負極側のスイッチはスイッチ140dであることが読み取れる。
そうすると、段落【0048】及び【0049】の記載から、蓄電制御装置130により、スイッチ140aおよびスイッチ140bをオン状態、スイッチ140cおよびスイッチ140dをオフ状態として、セル110aのみを直列共振回路120に接続することが読み取れる。
同様に、段落【0051】及び【0052】の記載から、蓄電制御装置130により、スイッチ140cおよびスイッチ140dをオン状態、スイッチ140aおよびスイッチ140bをオフ状態として、セル110bのみを直列共振回路120に接続することが読み取れる。
・蓄電装置100が備えるセルは、セル110a、110bであるから(段落【0010】)、蓄電制御装置130は、直列共振回路120の共振周期の半周期毎に、直列共振回路120とセル110a、110bとの接続を切り替えている(段落【0137】)。
・第1のセルが直列共振回路120にエネルギーを引き渡した後に、第2のセルが直列共振回路120からエネルギーを受け取ることで、電圧均等化処理を行う(段落【0054】)。

(3)以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「充放電可能な直列接続されたセル110a、110bと、スイッチ140a、140b、140c、140dと、直列共振回路120と、蓄電制御装置130とを備える蓄電装置100であって、
セル110a、110bは、充電の際には充電装置から供給された充電電流を電荷として蓄積し、
直列共振回路120はRLC直列共振回路で、リアクトル121およびコンデンサ122に加えて、抵抗123を有し、
スイッチ140aは、セル110aの正極と直列共振回路120の第1の端部120aとを接続する接続ライン161上に配置されて、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン161を閉路または開路し、
スイッチ140bは、セル110aの負極と直列共振回路120の第2の端部120bとを接続する接続ライン162上に配置されて、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン162を開閉し、
スイッチ140cは、セル110bの正極と直列共振回路120の第1の端部120aとを接続する接続ライン163上に配置されて、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン163を開閉し、
スイッチ140dは、セル110bの負極と直列共振回路120の第2の端部120bとを接続する接続ライン164上に配置されて、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン164を開閉し、
蓄電制御装置130は、
セル110aの電圧がセル110bの電圧よりも大きい電圧を示す場合には、セル110aを第1のセルに、セル110bを第2のセルに決定し、
スイッチ140aおよびスイッチ140bをオン状態、スイッチ140cおよびスイッチ140dをオフ状態として、セル110aのみを直列共振回路120に接続し、
スイッチ140cおよびスイッチ140dをオン状態、スイッチ140aおよびスイッチ140bをオフ状態として、セル110bのみを直列共振回路120に接続し、
直列共振回路120の共振周期の半周期毎に直列共振回路120とセル110a、110bとの接続を切り替えて、
第1のセルが直列共振回路120にエネルギーを引き渡した後に、第2のセルが直列共振回路120からエネルギーを受け取ることで、電圧均等化処理を行う、
蓄電装置100。」

2 引用文献3の記載
引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0024】
電池パック2は、スイッチング素子12と、電池回路5と、電流検出抵抗16と、温度センサ17と、制御IC(Integrated Circuit)18と、電圧検出回路20と、端子T11,T12,T13とを備えている。スイッチング素子12としては、FET(Field Effect Transistor)等の半導体スイッチング素子や、リレースイッチ等のスイッチング素子が用いられる。また、制御IC18は、アナログ/デジタル変換器19、制御部21、及び通信部22を備えている。
【0025】
そして、電池パック2内で、端子T11から延びる直流ハイ側の充電経路11(導電部)には、スイッチング素子12が介在されており、その充電経路11が、二次電池141,142,143からなる組電池14のハイ側端子に接続される。組電池14のロー側端子は、直流ロー側の充電経路15(導電部)を介してGND端子T13に接続され、この充電経路15には、充電電流および放電電流を電圧値に変換する電流検出抵抗16が介在されている。」

「【0030】
二次電池141,142,143の温度は温度センサ17によって検出され、制御IC18内のアナログ/デジタル変換器19に入力される。また、二次電池141,142,143の各端子電圧Vb1,Vb2,Vb3は電圧検出回路20によってそれぞれ読取られ、制御IC18内のアナログ/デジタル変換器19に入力される。さらにまた、電流検出抵抗16によって検出された電流値も、制御IC18内のアナログ/デジタル変換器19に入力される。アナログ/デジタル変換器19は、各入力値をデジタル値に変換して、制御部21へ出力する。」

「【0032】
そして、制御部21は、ROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、アナログ/デジタル変換器19からの各入力値に応答して、充電装置3に対して、出力を指示する充電電流の電圧値、電流値を演算し、その演算結果を通信部22から端子T12,T22;T13,T23を介して充電装置3へ送信することで、充電装置3によって、組電池14を充電させる。」

「【0034】
充電装置3では、前記の指示を、制御IC30において、通信手段である通信部32で受信し、充電制御部31が充電電流供給回路33(充電部)を制御して、前記の電圧値、電流値、およびパルス幅で、充電電流を供給させる。充電電流供給回路33は、AC−DCコンバータやDC−DCコンバータなどから成り、入力電圧を、充電制御部31から指示された電圧値、電流値、およびパルス幅に変換して、端子T21,T11;T23,T13を介して、充電経路11,15へ供給する。」

「【0037】
そうすると、充電制御部31からの制御信号に応じて、制御部21からの指示に応じた電流、電圧で、充電電流供給回路33から端子T21,T11、充電経路11、及びスイッチング素子12を介して組電池14へ充電電流が供給される。そして、二次電池141,142,143が充電されるにつれて、端子電圧Vb1,Vb2,Vb3が上昇する。」



段落【0030】の記載より、アナログ/デジタル変換器19の出力は、二次電池141,142,143の各端子電圧Vb1,Vb2,Vb3であることが読み取れるので、段落【0024】、【0030】及び【0032】の記載より、引用文献3には次の技術的事項が記載されている。
「電池パック2は制御部21及び通信部22を備え、制御部21は二次電池141,142,143の各端子電圧Vb1,Vb2,Vb3に応答して、充電装置3に対して出力を指示する充電電流の電圧値、電流値を演算し、その演算結果を通信部22から充電装置3へ送信することで、充電装置3によって、組電池14を充電させる技術。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「充放電可能な直列接続されたセル110a、110b」は、本願発明の「直列に接続された第一セル及び第二セルを備え」た「バッテリ」に相当する。
また、引用発明の「充電装置」は、本願発明の「パワー供給装置」に相当する。
そうすると、引用発明の「セル110a、110bは、充電の際には充電装置から供給された充電電流を電荷として蓄積」することと本願発明とは、「前記バッテリを充電するために、パワー供給装置によって供給される充電電圧及び/又は充電電流を受信」することで共通する。
但し、本願発明は「第一充電チャネル」を備え、「第一充電チャネル」が、パワー供給装置によって供給される充電電圧及び/又は充電電流を受信するために用いられるのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。

(2)引用発明は「蓄電制御装置130」が、「スイッチ140aおよびスイッチ140bをオン状態、スイッチ140cおよびスイッチ140dをオフ状態として、セル110aのみを直列共振回路120に接続し、スイッチ140cおよびスイッチ140dをオン状態、スイッチ140aおよびスイッチ140bをオフ状態として、セル110bのみを直列共振回路120に接続し、」「第1のセルが直列共振回路120にエネルギーを引き渡した後に、第2のセルが直列共振回路120からエネルギーを受け取ることで、電圧均等化処理を行う」ものである。
よって、引用発明の「スイッチ140a、140b、140c、140dと、直列共振回路120と、蓄電制御装置130」は、本願発明の「前記第一セル及び前記第二セルに接続されて、前記第一セルの電圧と前記第二セルの電圧を均衡するために用いられ」る「バランス回路」に相当する。

(3)引用発明の「蓄電制御装置130」は「セル110aの電圧がセル110bの電圧よりも大きい電圧を示す場合には、セル110aを第1のセルに、セル110bを第2のセルに決定し」「第1のセルが直列共振回路120にエネルギーを引き渡した後に、第2のセルが直列共振回路120からエネルギーを受け取ることで、電圧均等化処理を行う」ので、「セル110a、110b」を管理しているといえる。
そして、上記(2)を踏まえると、引用発明の「スイッチ140a、140b、140c、140dと、直列共振回路120と、蓄電制御装置130」と本願発明とは、「バランス回路を備えるバッテリ管理回路」で共通するといえる。
但し、本願発明は「第一充電チャネル」を備えるのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。

(4)引用発明の「直列共振回路120はRLC直列共振回路で、リアクトル121およびコンデンサ122に加えて、抵抗123を有し」ているので、引用発明の「スイッチ140a、140b、140c、140dと、直列共振回路120と、蓄電制御装置130」は、本願発明の「RLC直列回路、スイッチ回路及び制御回路を備え、」「前記RLC直列回路は、レジスタ、インダクタ、キャパシタを含」む「前記バランス回路」に相当する。
そして、引用発明の「スイッチ140aは、セル110aの正極と直列共振回路120の第1の端部120aとを接続する接続ライン161上に配置されて、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン161を閉路または開路し、スイッチ140bは、セル110aの負極と直列共振回路120の第2の端部120bとを接続する接続ライン162上に配置されて、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン162を開閉し、スイッチ140cは、セル110bの正極と直列共振回路120の第1の端部120aとを接続する接続ライン163上に配置されて、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン163を開閉し、スイッチ140dは、セル110bの負極と直列共振回路120の第2の端部120bとを接続する接続ライン164上に配置されて、蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって接続ライン164を開閉」することは、本願発明の「前記スイッチ回路の一端は前記第一セル及び前記第二セルに接続され、前記スイッチ回路の他端は前記RLC直列回路に接続され、前記スイッチ回路の制御端は前記制御回路に接続され」ていることに相当する。

(5)引用発明の「スイッチ140a、140b、140c、140d」は、「蓄電制御装置130から入力されるスイッチ制御信号にしたがって」「開閉」しているので、「蓄電制御装置130」は、「スイッチ140a、140b、140c、140d」を制御している。
そして、引用発明において「スイッチ140aおよびスイッチ140bをオン状態、スイッチ140cおよびスイッチ140dをオフ状態として、セル110aのみを直列共振回路120に接続」することは、「セル110a」が「直列共振回路120」と閉ループを形成して、「直列共振回路120」に入力電圧を供給することである。また、「セル110bのみを直列共振回路120に接続すること」も同様に、「直列共振回路120」に入力電圧を供給することである。
そうすると、引用発明において「蓄電制御装置130は、セル110aの電圧がセル110bの電圧よりも大きい電圧を示す場合には、セル110aを第1のセルに、セル110bを第2のセルに決定し、」「セル110aのみを直列共振回路120に接続し、」「セル110bのみを直列共振回路120に接続し、直列共振回路120の共振周期の半周期毎に直列共振回路120とセル110a、110bとの接続を切り替え」ることは、本願発明の「前記第一セルの電圧と前記第二セルの電圧が不均衡である場合、前記制御回路は前記スイッチ回路を制御して、前記第一セル及び前記第二セルが前記RLC直列回路と交互に閉ループを形成することにして、前記RLC直列回路に入力電圧を供給」することに相当する。

(6)上記(5)を踏まえると、引用発明は「直列共振回路120の共振周期の半周期毎に直列共振回路120とセル110a、110bとの接続を切り替え」ているので、「セル110a、110b」から「直列共振回路120」に供給される入力電圧は、「共振周期の半周期毎」に切り替わるものである。このことは、本願発明において「前記RLC直列回路の入力電圧の周波数」が「前記RLC直列回路の共振周波数と等」しいことに相当する。
また、引用発明の「蓄電制御装置130」は、「スイッチ140a、140b、140c、140d」を制御している。
そうすると、引用発明において「蓄電制御装置130」が、「直列共振回路120の共振周期の半周期毎に直列共振回路120とセル110a、110bとの接続を切り替え」るように「スイッチ140a、140b、140c、140d」を制御することは、本願発明の「前記制御回路は、前記RLC直列回路の入力電圧の周波数を前記RLC直列回路の共振周波数と等しくするように、前記スイッチ回路を制御」することに相当する。

(7)上記(3)で検討したように、引用発明の「スイッチ140a、140b、140c、140dと、直列共振回路120と、蓄電制御装置130」と本願発明とは、「バランス回路を備えるバッテリ管理回路」で共通するといえる。
但し、バッテリ管理回路が、本願発明は「通信回路をさらに備え、前記パワー供給装置が前記第一充電チャネルを介して前記バッテリを充電する時、前記パワー供給装置から供給される充電電圧及び/又は充電電流の大きさが前記バッテリの現在の充電段階とマッチングするように、前記通信回路は前記パワー供給装置と通信するために用いられる」のに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。

2 すると、本願発明と引用発明とは、次の(一致点)及び(相違点)を有する。
(一致点)
「バランス回路を備えるバッテリ管理回路であって、
前記バッテリを充電するために、パワー供給装置によって供給される充電電圧及び/又は充電電流を受信し、前記バッテリは、直列に接続された第一セル及び第二セルを備え、
前記バランス回路は前記第一セル及び前記第二セルに接続されて、前記第一セルの電圧と前記第二セルの電圧を均衡するために用いられ、
前記バランス回路は、RLC直列回路、スイッチ回路及び制御回路を備え、前記スイッチ回路の一端は前記第一セル及び前記第二セルに接続され、前記スイッチ回路の他端は前記RLC直列回路に接続され、前記スイッチ回路の制御端は前記制御回路に接続され、前記RLC直列回路は、レジスタ、インダクタ、キャパシタを含み、
前記第一セルの電圧と前記第二セルの電圧が不均衡である場合、前記制御回路は前記スイッチ回路を制御して、前記第一セル及び前記第二セルが前記RLC直列回路と交互に閉ループを形成することにして、前記RLC直列回路に入力電圧を供給し、
前記制御回路は、前記RLC直列回路の入力電圧の周波数を前記RLC直列回路の共振周波数と等しくするように、前記スイッチ回路を制御する、バッテリ管理回路。」

(相違点1)
本願発明は「第一充電チャネル」を備え、「第一充電チャネル」が、パワー供給装置によって供給される充電電圧及び/又は充電電流を受信するために用いられるのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点2)
本願発明は「通信回路をさらに備え、前記パワー供給装置が前記第一充電チャネルを介して前記バッテリを充電する時、前記パワー供給装置から供給される充電電圧及び/又は充電電流の大きさが前記バッテリの現在の充電段階とマッチングするように、前記通信回路は前記パワー供給装置と通信するために用いられる」のに対して、引用発明はそのような特定がない点。

第6 判断
上記相違点について検討する。
相違点1について
電池パック内に組電池に接続された充電経路を設け、充電装置が入力電圧を充電経路へ供給し、充電経路を介して組電池へ充電電流を供給する技術は周知である(例えば、引用文献3(【0025】、【0034】、【0037】、図1)等参照)。
引用発明は充放電可能なセル110a、110bとを備える蓄電装置100に関するものであるから、引用発明に上記周知技術を適用し、「セル110a、110b」に接続された充電経路を設け、充電装置が充電経路を介して充電電流を供給することとして、上記相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

相違点2について
引用文献3には、電池パック2は制御部21及び通信部22を備え、制御部21は二次電池141,142,143の各端子電圧Vb1,Vb2,Vb3に応答して、充電装置3に対して出力を指示する充電電流の電圧値、電流値を演算し、その演算結果を通信部22から充電装置3へ送信することで、充電装置3によって、組電池14を充電させる技術が記載されている。
ここで、上記技術における二次電池141,142,143の各端子電圧Vb1,Vb2,Vb3に応答して、充電装置3に対して出力を指示する充電電流の電圧値、電流値を演算し、組電池14を充電させることは、現在の二次電池の電圧に合わせ充電電流の電圧値、電流値を決めているので、本願発明でいうところの充電電圧及び/又は充電電流の大きさがバッテリの現在の充電段階とマッチングするようにする技術といえる。
そして、引用文献3に記載された技術は二次電池を充電するためのものであるから、引用発明及び上記技術に接した当業者であれば、引用発明において「セル110a、110b」の充電をより確実にするためにその技術を適用をすることは、容易に想到し得るところである。
したがって、引用発明の「蓄電装置100」に上記技術を適用し、上記相違点2に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献3に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

よって、本願発明は、引用発明、引用文献3に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献3に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 清水 稔
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-12-07 
結審通知日 2021-12-10 
審決日 2021-12-22 
出願番号 P2019-518290
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02J)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 須原 宏光
畑中 博幸
発明の名称 バッテリ管理回路と方法、バランス回路と方法及び被充電機器  
代理人 吉元 弘  
代理人 宮嶋 学  
代理人 吉田 昌司  
代理人 関根 毅  
代理人 出口 智也  
代理人 中村 行孝  

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