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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K
管理番号 1384964
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-05 
確定日 2022-06-13 
事件の表示 特願2017− 54474「ICカード、およびICカードの制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月 4日出願公開、特開2018−156548、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成29年3月21日の出願であって、令和2年10月5日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月2日に意見書とともに手続補正書が提出され、令和3年3月30日付けで拒絶査定(謄本送達日同年4月6日)がなされ、これに対して同年7月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、同年8月30日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされ、令和4年2月9日付けで当審により拒絶の理由が通知され、同年4月13日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明

本願請求項1〜5に係る発明(以下、「本願発明1」〜「本願発明5」という。)は、令和4年4月13日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された、次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
端末装置と通信する通信部と、
予め生体認証用情報が記憶された記憶部と、
利用者の指紋情報を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記利用者の指紋情報と、前記記憶部に記憶された生体認証用情報とを照合する生体情報照合部と、前記端末装置から送信されたコマンドの処理を行うコマンド処理部とを有する処理部とを備え、
前記処理部の前記生体情報照合部は、前記端末装置からRESET信号が受信された起動時の初期化処理時に開始され、前記取得部が前記利用者の指紋情報を取得可能な状態であるか否かを判定し、前記取得部が前記利用者の指紋情報を取得可能な状態であると判定した場合、前記利用者の指紋情報と前記生体認証用情報とを照合し、照合の結果を前記コマンド処理部に送信する、
前記コマンド処理部は、照合の結果を前記記憶部に記憶させるとともに前記RESET信号に対する応答として、ATR信号を前記端末装置に送信する、
前記処理部のコマンド処理部は、各装置が起動した後に前記端末装置から照合コマンドが受信された場合、前記記憶部に前記照合の結果が記憶されているか否かを判定し、前記記憶部に前記照合の結果が記憶されているとき、照合処理を省略して照合結果に応じて照合コマンドに対応するコマンド処理を実行し、前記通信部を用いて前記照合コマンド処理に応じた応答を前記端末装置に送信する、
ICカード。
【請求項2】
前記コマンド処理部は、
前記記憶部に前記照合の結果が記憶されていない場合、前記照合コマンドに応じたコマンド処理の一部として、前記照合の処理を行い、
前記行った照合の処理の結果に基づくコマンド処理を行うと共に、前記照合の結果を前記記憶部に記憶させる、
請求項1に記載のICカード。
【請求項3】
前記コマンド処理部は、
前記記憶部に前記照合の結果が記憶されている場合、更に、前記照合の結果が所定条件を満たしているか否かを判定し、
前記照合の結果が所定条件を満たしていない場合に、前記照合コマンドに応じたコマンド処理の一部として、前記照合の処理を行い、
前記行った照合の処理の結果に基づくコマンド処理を行うと共に、前記照合の結果を前記記憶部に記憶させる、
請求項1または2に記載のICカード。
【請求項4】
前記コマンド処理部は、前記記憶部に前記照合の結果が記憶されていない場合、前記起動時以外に、前記照合コマンドよりも前に受信される所定のコマンドに応じたコマンド処理の一部として、前記照合の処理を行う、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載のICカード。
【請求項5】
端末装置と通信する通信部と、予め生体認証用情報が記憶された記憶部と、利用者の指紋情報を取得する取得部と、前記取得部によって取得された指紋情報と前記記憶部に記憶された生体認証用情報とを照合する生体情報照合部と、前記端末装置から送信されたコマンドの処理を行うコマンド処理部とを備えるICカードであって、
前記生体情報照合部は、前記端末装置からRESET信号が受信された起動時の初期化処理時に開始され、前記取得部が前記利用者の指紋情報を取得可能な状態であるか否かを判定し、前記取得部が前記利用者の指紋情報を取得可能な状態であると判定した場合、前記利用者の指紋情報と前記生体認証用情報とを照合し、照合の結果を前記コマンド処理部に送信する、
前記コマンド処理部は、照合の結果を前記記憶部に記憶させるとともに前記RESET信号に対する応答として、ATR信号を前記端末装置に送信し、
前記コマンド処理部は、各装置が起動した後に前記端末装置から照合コマンドが受信された場合、前記記憶部に前記照合の結果が記憶されているか否かを判定し、前記記憶部に前記照合の結果が記憶されているとき、照合処理を省略して照合結果に応じて照合コマンドに対応するコマンド処理を実行し、前記通信部を用いて前記照合コマンド処理に応じた応答を前記端末装置に送信する、
ICカードの制御方法。」


第3 引用例

1 引用例1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由において引用した、本願の出願前に既に公知である、特開2006−163492号公報(平成18年6月22日公開。以下、これを「引用例1」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)

A 「【0005】
そこで、本発明は、ICカードとICホルダにより構成される携帯型IC機器を用いて、安全に決済処理を行うことが可能な決済システムを提供することを課題とする。」

B 「【0008】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(システム構成)
図1は、本発明に係る決済システムの構成を示すブロック図である。図1において、10はICカード、11はホルダI/F、12はROM、13はRAM、14は不揮発性メモリ、15はCPU、16は認証判定部、17は書き換え処理部、18は送信処理部、20はICホルダ、21はPC・I/F、22は指示入力部、23は表示部、24は指紋センサ、25はCPU、26はHUB、27は支払端末I/F、28はIC・I/F、30はホストPC、31は決済可能者リスト、40は支払端末である。
【0009】
ICカード10は、ホルダI/F11、ROM12、RAM13、不揮発性メモリ14、CPU15を備えた構成となっている。ICカード10は、ICホルダ20等の接触式ICカードリーダライタと接触式での通信を行う。ICカード10として、本実施形態では、SIMを用いる場合を想定して説明する。SIM(Subscriber Identity Module)とは、クレジット決済用の個人識別情報等を記録した小型のICカードである。
【0010】
ホルダI/F11は、ICカード10が装着されているICホルダ20の接触端子と接触して電気的導通を行う接触端子などを備え、ICカード10がICホルダ20に挿入され、互いの接触端子が接続されることによって、電源、クロックの供給をICホルダ20から受ける。すなわち、ホルダI/F11は、ICホルダ20からの情報の入力およびICホルダ20への情報の出力を行う入出力手段であって、ICホルダ20との接触式での通信を媒介する。したがって、ICホルダ20からICカード10が外されると、ICカード内のRAM13の情報は消去されることになる。
【0011】
ROM12、RAM13、不揮発性メモリ14は、プログラム等のCPU15の処理に必要な情報を記憶するための記憶手段である。ROM12は、読み出し専用メモリであって、オペレーティングシステム(OS)、実行環境等のプログラム、プログラムの処理に必要なデータ等を記憶している。
【0012】
RAM13は、揮発性メモリであり、CPU15が処理を行うための作業領域として使用される。また、認証が正当に行われたか否かを示す認証正否ステータスを一時的に記憶するための一時記憶手段として用いられる。認証正否ステータスは、初期状態で「否」が設定された状態となっている。
【0013】
不揮発性メモリ14は、EEPROM、フラッシュメモリ、FRAM等の随時書き換え可能な不揮発性のメモリであり、通常、利用者のワークエリア、プログラムエリア等として使用される。不揮発性メモリ14は、利用者を正当利用者と認証するための認証情報である正当利用者の指紋データを記憶している。正当利用者の指紋データとは、正当利用者の指紋の特徴を示すデータである。また、不揮発性メモリ14には、このICカード10の正当利用者のユーザID、電子マネーの残高、利用可能な支払端末40の端末IDが記録されている。さらに、不揮発性メモリ14は、指紋認証のために必要な処理を行うためのプログラムも記憶している。
【0014】
CPU15は、ICホルダ20、ホストPC30から受信するコマンドに応じて記憶手段に格納されているOS、アプリケーション等のプログラムを実行し、種々の演算および制御を行い、ICカード10を統括制御し、認証判定部16、書き換え処理部17、送信処理部18を実現する。
【0015】
認証判定部16は、ICホルダ20を介してICカード10に入力された利用者の指紋データと、不揮発性メモリ14に記憶されている正当利用者の指紋データとを照合し、一致するか否かによって、そのときのICカード10の利用者が正当利用者であるか否かの認証判定処理を行うと共に、ICホルダ20を介して受信した端末IDが正当であるか否かの認証判定処理を行う。利用者の指紋データは、利用者が正当利用者であることを証明するための正当利用者証明情報であって、ICホルダ20の指紋センサ24からICカード10に入力される。書き換え処理部17は、認証判定部16が利用者を正当利用者であると判定した場合に、認証が正当に行われた旨をRAM13に書き込む。具体的には、認証正否のステータス情報を「正」の状態に書き換えることになる。また、書き換え処理部17は、ホストPC30からユーザIDを受け取った旨の情報を受信した場合には、認証正否のステータス情報を「否」の状態に書き換える。なお、RAM13内の認証正否のステータス情報は、初期状態では、「否」の状態になるよう設定されている。
【0016】
ICホルダ20は、PC・I/F21、指示入力部22、表示部23、指紋センサ24、CPU25、HUB26、支払端末I/F27、IC・I/F28を備えている。PC・I/F21は、ホストPC30との無線通信を行うためのインターフェースであり、本実施形態では、ZigBee規格に従ったものとなっている。指示入力部22は、外部からの指示を入力するためのものである。表示部23は、利用者に対して情報を出力するためのものである。
【0017】
指紋センサ24は、その上に置かれた指の指紋データを取得する。指紋データは、指紋データの特徴点のデータであっても良く、2つの指紋データを比較して一致又は不一致の照合を所望の精度で行うことができれば良い。ICカード10の不揮発性メモリ14に記憶されている指紋データについても同様である。また、指紋センサ24として用いるセンサの方式としては、光学式、静電式、感熱式、電界式、圧力式などいずれであっても良く、センサが設けられる装置の使用形態に合わせることが望ましい。」

C 「【0023】
ICカード10が指紋データを受信すると、認証判定部16は、受信した指紋データと、不揮発性メモリ14に記憶されている指紋データを照合し、認証判定処理を行う。指紋データが一致せず、認証しないと判定した場合には、ICカード10は、「否」のステータスのレスポンスをICホルダ20に送信し、処理を終了する。ICホルダ20は、「否」のステータスのレスポンスを受信した場合には、処理を終了する。なお、認証判定部16が「否」と判定した回数は不揮発性メモリ14に記憶され、「正」と判定するまで累積してカウントされる。この回数が所定の回数に達した場合には、指紋データの受付を拒否する状態となる。
【0024】
一方、認証判定部16が一致すると判定した場合には、書き換え処理部17は、認証「正」のフラグをRAM13に書き込む。すなわち、認証ステータスを「正」として書き込む処理を行う。また、送信処理部18は、不揮発性メモリ14に登録されているユーザIDを抽出して暗号化する。ICカード10は、送信処理部18が暗号化した暗号化データをICホルダ20に送信する。ICホルダ20は、ICカード10から暗号化データを受信すると、受信した暗号化データをPC・I/F21を介してホストPC30に無線により送信する。送信処理部18は、RAM13に書き込まれた認証ステータスを定期的に参照し、認証ステータスが「正」となっている場合には、暗号化データを送信する処理を行う。送信処理部18は、認証ステータスが「正」である限り、送信処理を行い続けることになる。」

D 「

図1」

以上、上記記載事項A〜Dより、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ICカードとICホルダにより構成される携帯型IC機器であって、(【0005】、図1)
ICカード10は、RAM13、不揮発性メモリ14、CPU15を備え、ICホルダ20と接触式での通信を行い、(【0009】)
RAM13は、認証が正当に行われたか否かを示す認証正否ステータスを一時的に記憶するための一時記憶手段として用いられ、(【0012】)
不揮発性メモリ14は、利用者を正当利用者と認証するための認証情報である正当利用者の指紋データを記憶し、(【0013】)
CPU15は、ホストPC30から受信するコマンドに応じてアプリケーション等のプログラムを実行し、ICカード10を認証判定部16、書き換え処理部17、送信処理部18として実現し、(【0014】)
認証判定部16は、ICホルダ20を介してICカード10に入力された利用者の指紋データと、不揮発性メモリ14に記憶されている正当利用者の指紋データとを照合し、一致するか否かによって、そのときのICカード10の利用者が正当利用者であるか否かの認証判定処理を行い、(【0015】)
ICホルダ20は、PC・I/F21、指紋センサ24、CPU25を備え、PC・I/F21は、ホストPC30との無線通信を行うためのインターフェースであり、(【0016】)
指紋センサ24は、その上に置かれた指の指紋データを取得し、(【0017】)
ICカード10が指紋データを受信すると、認証判定部16は、受信した指紋データと、不揮発性メモリ14に記憶されている指紋データを照合し、認証判定処理を行い、(【0023】)
認証判定部16が一致すると判定した場合には、書き換え処理部17は、認証「正」のフラグをRAM13に書き込む(【0024】)
携帯型IC機器。」

2 引用例2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した、本願の出願前に既に公知である、特開2003−242464号公報(平成15年8月29日公開。以下、これを「引用例2」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。

E 「【0011】
【発明の実施の形態】以下に、本発明のICカード及び管理装置の実施の形態について、添付の図面を参照して述べる。
第1の実施形態
本実施形態では、本発明の管理装置の一例として、重要施設の出入りを管理する入退室管理装置を用い、本発明のICカードの一例として非接触ICカードを用いる。図1(A)は、本発明の実施形態に係わるICカード1の外観図である。図1(A)に示すように、ICカード1に、例えば、入退室する際にカード所持者の指紋を抽出する指紋読取部2が取り付けられており、また、ICカード1の表面に、例えば、該カードの正規の所有者の写真、氏名、社員番号などが載せられている。図1(B)は、図1(A)に示すICカード1の側面図である。図1(B)に示すように、入退室する際に、カード所持者(不図示)は指3を指紋読取部2に押し付けるようにカード1を持ち、指紋読取部2は指3の指紋を抽出し、指紋認証を行なう。」

F 「

図1」

第4 対比・判断

1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「ICカードとICホルダにより構成される携帯型IC機器」は、本願発明1の「ICカード」と、“IC機器”である点で共通する。

イ 引用発明の「ホストPC30」は、本願発明1の「端末装置」に相当する。
引用発明の「PC・I/F21」は、「ホストPC30との無線通信を行うためのインターフェースであ」るから、本願発明1の「通信部」に相当し、したがって、引用発明と本願発明1とは、“端末装置と通信する通信部”を備える点で一致する。

ウ 引用発明の「利用者を正当利用者と認証するための認証情報である正当利用者の指紋データ」は、本願発明1の「生体認証用情報」に相当する。
そして、引用発明の「不揮発性メモリ14」は、「利用者を正当利用者と認証するための認証情報である正当利用者の指紋データを記憶」するものであるから、引用発明と本願発明1とは、“予め生体認証用情報が記憶された記憶部”を備える点で一致する。

エ 引用発明の「ICホルダ20」は、「指紋センサ24」を備え、当該「指紋センサ24」は、「その上に置かれた指の指紋データを取得」するものであるから、本願発明1の「取得部」に相当し、引用発明と本願発明1とは、“利用者の指紋情報を取得する取得部”を備える点で一致する。

オ 引用発明の「認証判定部16」は、「ICホルダ20を介してICカード10に入力された利用者の指紋データと、不揮発性メモリ14に記憶されている正当利用者の指紋データとを照合」するものであり、上記ウの認定を踏まえると、本願発明1の「前記取得部によって取得された前記利用者の指紋情報と、前記記憶部に記憶された生体認証用情報とを照合する生体情報照合部」に相当する。
また、引用発明の「CPU15」は、「ホストPC30から受信するコマンドに応じてアプリケーション等のプログラムを実行」するものであって、上記イの認定を踏まえると、本願発明1の「前記端末装置から送信されたコマンドの処理を行うコマンド処理部」に相当する機能を有することは明らかであり、本願発明1の「処理部」に対応するものといえ、以上を総合すると、引用発明と本願発明1とは、“前記取得部によって取得された前記利用者の指紋情報と、前記記憶部に記憶された生体認証用情報とを照合する生体情報照合部と、前記端末装置から送信されたコマンドの処理を行うコマンド処理部とを有する処理部”を備える点で一致する。

カ 引用発明は、「ICホルダ20」が備える「指紋センサ24」によって、「その上に置かれた指の指紋データを取得し、」「ICカード10が指紋データを受信すると、認証判定部16は、受信した指紋データと、不揮発性メモリ14に記憶されている指紋データを照合し、認証判定処理を行」っているから、上記オの認定を踏まえると、引用発明と本願発明1とは、下記相違点1で相違するものの、“前記処理部の前記生体情報照合部は、前記利用者の指紋情報と前記生体認証用情報とを照合する”点で一致する。

キ 引用発明は、「認証判定部16が一致すると判定した場合には、書き換え処理部17は、認証「正」のフラグをRAM13に書き込む」ものであるところ、当該「RAM13」は、引用発明の「携帯型IC機器」の“記憶部”であるから、本願発明1の「照合の結果」が記憶される「記憶部」と共通する。
また、上記オの認定を踏まえると、引用発明の「書き換え処理部17」は、本願発明1の「コマンド処理部」に相当するといえ、以上を総合すると、引用発明と本願発明1とは、下記相違点2で相違するものの、“前記コマンド処理部は、照合の結果を前記記憶部に記憶させる”点で一致する。

ク 以上、ア〜キの検討から、引用発明と本願発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
端末装置と通信する通信部と、
予め生体認証用情報が記憶された記憶部と、
利用者の指紋情報を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記利用者の指紋情報と、前記記憶部に記憶された生体認証用情報とを照合する生体情報照合部と、前記端末装置から送信されたコマンドの処理を行うコマンド処理部とを有する処理部とを備え、
前記処理部の前記生体情報照合部は、前記利用者の指紋情報と前記生体認証用情報とを照合する、
前記コマンド処理部は、照合の結果を前記記憶部に記憶させる、
IC機器。

〈相違点1〉
本願発明1の「生体情報照合部」が、「前記端末装置からRESET信号が受信された起動時の初期化処理時に開始され、前記取得部が前記利用者の指紋情報を取得可能な状態であるか否かを判定し、前記取得部が前記利用者の指紋情報を取得可能な状態であると判定した場合、前記利用者の指紋情報と前記生体認証用情報とを照合し、照合の結果を前記コマンド処理部に送信する」のに対し、引用発明は、取得部が利用者の指紋情報を取得可能な状態であるか否かを判定することや、「ホストPC30」からRESET信号を受信された起動時の初期化処理についての特定が無い点。

〈相違点2〉
本願発明1の「コマンド処理部」が、「前記RESET信号に対する応答として、ATR信号を前記端末装置に送信する」のに対し、引用発明は、「ホストPC30」との間でRESET信号やATR信号を送受信することについての特定が無い点。

〈相違点3〉
本願発明1が「前記処理部のコマンド処理部は、各装置が起動した後に前記端末装置から照合コマンドが受信された場合、前記記憶部に前記照合の結果が記憶されているか否かを判定し、前記記憶部に前記照合の結果が記憶されているとき、照合処理を省略して照合結果に応じて照合コマンドに対応するコマンド処理を実行し、前記通信部を用いて前記照合コマンド処理に応じた応答を前記端末装置に送信する」のに対し、引用発明は、「照合の結果」の「記憶」如何による、照合処理の省略や照合コマンドの応答の送信などが特定されていない点。

〈相違点4〉
本願発明1のIC機器は、「ICカード」であるのに対し、引用発明は、「ICカードとICホルダにより構成される携帯型IC機器」である点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、先に相違点3について検討する。
本願発明1は、ICカード、およびICカードの制御方法に関し(【0001】)、近年、個人情報をターゲットとしたセキュリティ攻撃が拡大しており、銀行ATM(Automatic Teller Machine)カード、クレジットカード、個人番号カードといったIDカードは、IC(Integrated Circuit)チップを搭載したICカードへの移行が進められていて、これに関連し、ICカードを利用する利用者の指紋などの生体情報を使って本人認証を実施する機能を有するICカードが普及し始めているが、従来の技術では、指紋データ等の生体情報を用いた照合処理には、膨大な処理時間を要していることを背景とし(【0002】)、認証に要する処理時間を短縮することができるICカード、およびICカードの制御方法を提供することを課題とするものであって(【0004】)、本願発明1はこのことにより、「生体情報の照合が要求される照合コマンドが受信されるよりも早いタイミングで、生体情報の照合処理を実施しておくため、本人認証に要する処理時間を短縮することができる」(【0048】)といった効果を奏するものである。
一方、引用発明は、記憶部に照合の結果が記憶されているとき、照合処理を省略して照合結果に応じて照合コマンドに対応するコマンド処理を実行してコマンド処理に応じた応答を端末装置に送信するものではなく、またそのことは上記引用例2にも記載されていないばかりか、周知技術ともいえないので、本願発明1は、引用発明に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、上記その余の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2〜4について
本願発明2〜4は、本願発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明5について
本願発明5は、概ね本願発明1とカテゴリー表現のみ異なるものであって、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第5 原査定の概要及び原査定についての判断

原査定は、請求項1〜9について、引用文献1及び2(上記第3の引用例1及び2)に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。

<特許法29条2項について>
また、上記第4(1)に示した相違点3は、原査定の引用文献1及び2には記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明1〜5は、当業者であっても、原査定における引用文献1及び2に基づいて容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定を維持することはできない。


第6 当審拒絶理由について

1 特許法36条6項1号(サポート要件)について
当審では、「本願特許請求の範囲の請求項1には,概ね,通信部,記憶部,取得部および処理部を備えたICカードの構成が特定されているものの,このいずれの構成によっても,上記課題の解決がなされるものと,当業者が理解できる構成が特定されているものとは認められ」ず、「本願特許請求の範囲の請求項2〜6に特定される事項においても,本願発明の課題解決手段を見いだすことはできず,したがって,本願請求項1〜6に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえ」ず、「本願請求項1に係る発明と,ほぼ同様な構成のみを特定する,他の独立項である請求項7および8に係る発明も同様であり,また,請求項8を引用する請求項9に特定される事項も同様であるから,本願請求項7〜9に係る発明も,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない」との拒絶の理由を通知しているが、令和4年4月13日付けの手続補正書による手続補正によって、特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりとなり、この拒絶の理由は解消した。

2 特許法36条6項2号明確性)について
当審では、「(1)請求項1に,「起動時」とあるが,どの時点を基準に,どの時点を「起動時」とするものか,不明確であ」り、「(2)請求項1に,「処理部」とあるが,構成が不明確である」との拒絶の理由を通知しているが、令和4年4月13日付けの手続補正書による手続補正によって、特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりとなり、この拒絶の理由は解消した。


第7 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-05-27 
出願番号 P2017-054474
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06K)
P 1 8・ 537- WY (G06K)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山崎 慎一
山澤 宏
発明の名称 ICカード、およびICカードの制御方法  
代理人 弁理士法人i.PARTNERS特許事務所  
代理人 弁理士法人i.PARTNERS特許事務所  
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