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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1384979
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-16 
確定日 2022-06-07 
事件の表示 特願2016−199584「演算装置および制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月12日出願公開、特開2018− 60484、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成28年10月7日の出願であって、令和2年9月29日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月6日に意見書とともに手続補正書が提出され、令和3年4月16日付けで拒絶査定(謄本送達日同年4月21日。以下、「原査定」という。)がなされ、これに対して同年7月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、同年8月30日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされ、令和4年2月17日付けで当審により拒絶の理由が通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)され、同年4月6日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明

本願請求項1〜7に係る発明(以下、「本願発明1」〜「本願発明7」という。)は、令和4年4月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された、次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
制御装置を構成する演算装置であって、
通信線を介して1または複数の機能ユニットとデータを遣り取りするための通信回路と、
前記通信線を介してデータを送信または受信するための第1要求を予め定められた周期毎に発行するための第1処理と、予め定められた条件が満たされたときに前記通信線を介してデータを送信するための第2要求を発行する第2処理とを実行するプロセッサと、
前記プロセッサにより発行される前記第1要求および前記第2要求に応答して、前記通信回路を起動する制御回路とを備え、
前記制御回路は、前記第1処理の実行周期に対応付けて、前記第2要求に応じたデータの送信を禁止する禁止期間を設定する手段を備え、
前記制御回路は、前記第1処理の実行タイミングより前から前記禁止期間を開始し、
前記禁止期間は、前記制御回路が前記第1要求に応答して前記通信回路を起動するタイミングと、前記制御回路が前記第2要求に応答して前記通信回路を起動してから前記通信回路が前記第2要求に応じたデータの送信を完了するまでの処理時間とに応じて決定される、演算装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記禁止期間内に前記第2要求を受信すると、当該受信した第2要求に応じた前記通信回路の起動を、当該禁止期間の終了後まで延期する、請求項1に記載の演算装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記プロセッサでの前記第1処理および前記第2処理の実行を管理するスケジューラから、前記第1処理の実行タイミングを取得して、前記禁止期間を設定する、請求項1または2に記載の演算装置。
【請求項4】
前記第1要求は、前記1または複数の機能ユニットへデータを送信するための要求、および、前記1または複数の機能ユニットが保持しているデータを取得するための要求、のうち少なくとも一方を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の演算装置。
【請求項5】
前記第2要求は、前記1または複数の機能ユニットのうち、特定の機能ユニットへメッセージを送信するための要求を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の演算装置。
【請求項6】
前記制御回路は、FPGAまたはASICを用いて実装される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の演算装置。
【請求項7】
制御装置であって、
演算装置と、
1または複数の機能ユニットとを備え、
前記演算装置は、
通信線を介して前記1または複数の機能ユニットとデータを遣り取りするための通信回路と、
前記通信線を介してデータを送信または受信するための第1要求を予め定められた周期毎に発行するための第1処理と、予め定められた条件が満たされたときに前記通信線を介してデータを送信するための第2要求を発行する第2処理とを実行するプロセッサと、
前記プロセッサにより発行される前記第1要求および前記第2要求に応答して、前記通信回路を起動する制御回路とを備え、
前記制御回路は、前記第1処理の実行周期に対応付けて、前記第2要求に応じたデータの送信を禁止する禁止期間を設定する手段を備え、 前記制御回路は、前記第1処理の実行タイミングより前から前記禁止期間を開始し、
前記禁止期間は、前記制御回路が前記第1要求に応答して前記通信回路を起動するタイミングと、前記制御回路が前記第2要求に応答して前記通信回路を起動してから前記通信回路が前記第2要求に応じたデータの送信を完了するまでの処理時間とに応じて決定される、制御装置。」


第3 引用例の記載事項及び引用発明

原査定の拒絶の理由において引用した、本願の出願前に既に公知である、国際公開第2009/075068号(2009年6月18日国際公開。以下、これを「引用例」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)

A 「[0013] 以下、この発明をより詳細に説明するために、この発明を実施するための最良の形態について、添付の図面に従って説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による列車用通信システムの構成を示すブロック図である。図1では、各車両4a〜4fが2両単位で編成されて編成6a〜6cを構成する鉄道車両を例に挙げて説明する。実施の形態1による列車用通信システムは、中継装置1a〜1c及び車両監視制御装置(通信装置)2a〜2fを備える。中継装置1a〜1cは、編成6a〜6cに設けられ、車上ネットワークを介した各車両監視制御装置2a〜2fの通信を中継する。車両監視制御装置2a〜2fは、各車両4a〜4fに搭載され、機器3a〜3fを監視制御する。機器3a〜3fは、各車両4a〜4fに搭載された車両機器である。」

B 「[0017] 実施の形態1では、監視制御データ等の周期的なデータ通信のリアルタイム性が、非周期的に発生するリアルタイム性が要求されないその他のデータ通信によって損なわれることがないように、データの周期性に応じて通信サイクルを規定する。図2に示す例では、通信サイクルにおいて、非周期通信禁止期間、非周期通信許可期間、アイドル期間を規定している。これにより、中継装置や車両監視制御装置により実行される車上ネットワークを介した通信は、時間の経過に伴って、非周期通信禁止状態、非周期通信許可状態、アイドル状態、非周期通信禁止状態、・・・というように状態遷移する。

…中略…

[0021] 伝送制御局となる車両監視制御装置2aは、通信サイクル、非周期通信禁止期間、非周期通信許可期間の長さを規定する情報を管理している。また、車両監視制御装置2aは、タイマを用いて通信サイクルの開始タイミングを管理する。これら通信サイクルに関する管理情報は、車両監視制御装置2aによりサイクル開始メッセージとしてまとめられる。
[0022] 車両監視制御装置2aは、伝送従属局となる車両監視制御装置2b?2f及び中継装置1a?1cに対して、上記サイクル開始メッセージをブロードキャストする。中継装置1a?1c及び車両監視制御装置2b?2fでは、サイクル開始メッセージの受信を通信サイクルの開始とみなし、該サイクル開始メッセージで規定される通信を行う。」

C 「[0035] 図6は、図1中の車両監視制御装置の構成を示すブロック図であり、車両監視制御装置2a?2fを車両監視制御装置2と総称する。図6において、車両監視制御装置2は、伝送制御部21、監視記録管理部22、機器監視制御部23、周期メッセージ処理部26、非周期メッセージ処理部27及び編成内伝送路インタフェース28を備える。
[0036] 伝送制御部21は、編成内伝送路インタフェース28を介して受信されたメッセージを入力し、このメッセージの種別(周期的に送信すべきメッセージ又は非周期的に送信されるメッセージ)を判定する。この判定結果のメッセージ種別に応じて、伝送制御部21は、入力した上記メッセージを周期メッセージ処理部26又は非周期メッセージ処理部27に送信する。反対に、伝送制御部21は、周期メッセージ処理部26又は非周期メッセージ処理部27を介して受信したメッセージを、編成内伝送路インタフェース28を経由して中継装置1へ送信する。」

D 「[0038] 周期メッセージ処理部26は、機器監視制御部23により得られた自車両の車両機器に関する監視制御データをメッセージとして伝送制御部21及び編成内伝送路インタフェース28を経由して中継装置1へ送信する。また、周期メッセージ処理部26は、伝送制御部21を経由して受信したメッセージから、他車両の車両機器に関する監視制御データを取り出して機器監視制御部23に設定する。なお、監視制御データを含む監視制御関連情報を伝えるためのメッセージは、制御周期に応じた所定の通信周期ごとに作成される。
[0039] 非周期メッセージ処理部27は、監視記録管理部22から読み出した車両監視記録情報をメッセージとして伝送制御部21及び編成内伝送路インタフェース28を経由して中継装置1へ送信する。また、非周期メッセージ処理部27は、伝送制御部21を経由して受信したメッセージから、他車両の車両機器に関する車両監視記録情報を取り出して監視記録管理部22に設定する。なお、車両監視記録情報を伝えるためのメッセージは、運転台(不図示)等からの指示に応じて非周期的に作成される。
[0040] 図7は、図6中の伝送制御部21の構成を示すブロック図であり、接続先の構成である周期メッセージ処理部26、非周期メッセージ処理部27及び編成内伝送路インタフェース28も記載している。図7において、伝送制御部21は、通信サイクル管理部211、サイクル開始メッセージ判定部212、メッセージ種別判定部214、送信メッセージ選択部215、周期メッセージバッファ216、及び非周期メッセージキュー217を備える。また、通信サイクル管理部211は、サイクル情報記憶部218を備える。
[0041] 通信サイクル管理部211は、不図示のタイマを用いて通信サイクルの状態(非周期通信禁止状態、非周期通信許可状態、アイドル状態)を管理する。通信サイクル管理部211による処理は、車両監視制御装置2が伝送制御局であるか伝送従属局であるかによって異なる。
[0042] 先ず、伝送制御局として動作する車両監視制御装置2内に搭載された通信サイクル管理部211について説明する。
この通信サイクル管理部211は、不図示のタイマを用いて通信サイクルの開始タイミングを管理する。例えば、図2に示す通信サイクルで通信を行う場合、通信サイクル管理部211は、通信サイクルの開始時点でタイマをスタートして非周期通信禁止状態に移行する。このとき、通信サイクル管理部211は、伝送従属局として動作する車両監視制御装置2b?2f及び中継装置1a?1cに対して、送信メッセージ選択部215及び編成内伝送路インタフェース28を介してサイクル開始メッセージをブロードキャストする。
[0043] なお、サイクル情報記憶部218には、サイクル情報が予め格納されている。通信サイクル管理部211は、サイクル情報記憶部218からサイクル情報を読み出し、このサイクル情報を含むサイクル開始メッセージを作成する。通信サイクルが開始されると、上記サイクル情報の内容に基づいて、時間経過に伴って非周期通信禁止状態から非周期通信許可状態、アイドル状態、といった通信サイクルの状態が遷移する。
[0044] 次に、伝送従属局として動作する車両監視制御装置2内に搭載された通信サイクル管理部211について説明する。
この通信サイクル管理部211は、サイクル開始メッセージを受信した時点でタイマをスタートして非周期通信禁止状態に移行する。サイクル情報記憶部218には、サイクル開始メッセージ判定部212によってサイクル開始メッセージから読み出されたサイクル情報が格納される。通信サイクル管理部211では、サイクル情報記憶部218から読み出したサイクル情報の内容に基づいて、非周期通信禁止期間、非周期通信許可期間の長さを把握し、この期間の時間経過に伴って非周期通信禁止状態から非周期通信許可状態、アイドル状態、といった通信サイクルの状態を遷移させる。」

E 「

図1」

F 「

図2」

G 「

図6」

H 「

図7」

以上、上記記載事項A〜Hより、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「車両監視制御装置(通信装置)2a〜2fを備える列車用通信システムであって、
車両監視制御装置2a〜2fは、機器を監視制御し、([0013]、図1)
監視制御データ等の周期的なデータ通信のリアルタイム性が、非周期的に発生するリアルタイム性が要求されないその他のデータ通信によって損なわれることがないように、データの周期性に応じて通信サイクルを規定し、通信サイクルにおいて、アイドル期間を規定し、([0017])
車両監視制御装置2aは、通信サイクル、非周期通信禁止期間、非周期通信許可期間の長さを規定する情報を管理し、車両監視制御装置2aは、タイマを用いて通信サイクルの開始タイミングを管理し、これら通信サイクルに関する管理情報は、車両監視制御装置2aによりサイクル開始メッセージとしてまとめられ、([0021])
車両監視制御装置2aは、伝送従属局となる車両監視制御装置2b〜2fに対して、上記サイクル開始メッセージをブロードキャストし、車両監視制御装置2b〜2fでは、サイクル開始メッセージの受信を通信サイクルの開始とみなし、該サイクル開始メッセージで規定される通信を行い、([0022])
車両監視制御装置は、伝送制御部、周期メッセージ処理部、非周期メッセージ処理部及び編成内伝送路インタフェースを備え、([0035]、図6)
伝送制御部は、編成内伝送路インタフェースを介して受信されたメッセージを入力し、このメッセージの種別(周期的に送信すべきメッセージ又は非周期的に送信されるメッセージ)を判定し、この判定結果のメッセージ種別に応じて、入力した上記メッセージを周期メッセージ処理部又は非周期メッセージ処理部に送信し、反対に、周期メッセージ処理部又は非周期メッセージ処理部を介して受信したメッセージを、編成内伝送路インタフェースを経由して送信し、([0036]、図7)
周期メッセージ処理部は、機器監視制御部により得られた自車両の車両機器に関する監視制御データをメッセージとして伝送制御部及び編成内伝送路インタフェースを経由して送信し、監視制御データを含む監視制御関連情報を伝えるためのメッセージは、制御周期に応じた所定の通信周期ごとに作成され、([0038])
非周期メッセージ処理部は、車両監視記録情報をメッセージとして伝送制御部及び編成内伝送路インタフェースを経由して送信し、車両監視記録情報を伝えるためのメッセージは、運転台等からの指示に応じて非周期的に作成され、([0039])
伝送制御部は、通信サイクル管理部を備え、通信サイクル管理部は、サイクル情報記憶部を備え、([0040])
通信サイクル管理部は、タイマを用いて通信サイクルの状態(非周期通信禁止状態、非周期通信許可状態、アイドル状態)を管理し([0041])、通信サイクルの開始タイミングを管理し([0042])、サイクル情報記憶部には、サイクル情報が予め格納されていて([0043])、サイクル情報記憶部から読み出したサイクル情報の内容に基づいて、非周期通信禁止期間、非周期通信許可期間の長さを把握し、この期間の時間経過に伴って非周期通信禁止状態から非周期通信許可状態、アイドル状態、といった通信サイクルの状態を遷移させる([0044])、
列車用通信システム。」


第4 対比・判断

1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「列車用通信システム」及び、当該「列車用通信システム」に備えられる「車両監視制御装置2a」は、それぞれ、本願発明1の「制御装置」及び、「演算装置」に相当するといえ、引用発明と本願発明1とは、“制御装置を構成する演算装置”の点で一致する。

イ 引用発明の「編成内伝送路8a」は、本願発明1の「通信線」に相当し、引用発明の「車両監視制御装置2b〜2f」は、本願発明1の「複数の機能ユニット」に相当する。
また、引用発明の「車両監視制御装置2a」は、「伝送従属局となる車両監視制御装置2b〜2fに対して、上記サイクル開始メッセージをブロードキャストし、車両監視制御装置2b〜2fでは、サイクル開始メッセージの受信を通信サイクルの開始とみなし、該サイクル開始メッセージで規定される通信を行」うものであるところ、当該「サイクル開始メッセージ」は、本願発明1の「通信線を介して1または複数の機能ユニット」と「遣り取り」されるところの「データ」に相当し、引用発明の「編成内伝送路インタフェース」は、本願発明1の「通信回路」に相当するといえ、以上を総合して、引用発明と本願発明1とは、“通信線を介して1または複数の機能ユニットとデータを遣り取りするための通信回路”を備える点で一致する。

ウ 引用発明の「車両監視制御装置」が備える「機器監視制御部により得られた自車両の車両機器に関する監視制御データをメッセージとして伝送制御部及び編成内伝送路インタフェースを経由して送信」する「周期メッセージ処理部」、及び、「車両監視記録情報をメッセージとして伝送制御部及び編成内伝送路インタフェースを経由して送信」する「非周期メッセージ処理部」は、所定の“処理”を行っていることから、本願発明1の「プロセッサ」に対応するものといえ、引用発明と本願発明1とは、下記相違点1で相違するものの、“処理を実行するプロセッサ”を備える点で一致する。

エ 引用発明の「伝送制御部」に備えられる「通信サイクル管理部」は、「タイマを用いて通信サイクルの状態(非周期通信禁止状態、非周期通信許可状態、アイドル状態)を管理し、通信サイクルの開始タイミングを管理し、サイクル情報記憶部には、サイクル情報が予め格納されていて、サイクル情報記憶部から読み出したサイクル情報の内容に基づいて、非周期通信禁止期間、非周期通信許可期間の長さを把握し、この期間の時間経過に伴って非周期通信禁止状態から非周期通信許可状態、アイドル状態、といった通信サイクルの状態を遷移させ」るところ、当該「非周期通信禁止期間」は、本願発明1の「データの送信を禁止する禁止期間」に対応する。
また、引用発明の「サイクル情報記憶部から読み出したサイクル情報の内容に基づいて、非周期通信禁止期間、非周期通信許可期間の長さを把握し、この期間の時間経過に伴って非周期通信禁止状態から非周期通信許可状態、アイドル状態、といった通信サイクルの状態を遷移させ」ることは、当該“禁止期間”を“設定”しているともいえることから、引用発明の「通信サイクル管理部を備え」る「伝送制御部」は、本願発明1の「禁止期間を設定する手段を備え」る「制御回路」に対応するものといえる。
以上を総合すると、引用発明と本願発明1とは、下記相違点2及び3で相違するものの、“制御回路”を備え、当該“制御回路は、データの送信を禁止する禁止期間を設定する手段”を備える点で一致する。

オ 以上、ア〜エの検討から、引用発明と本願発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
制御装置を構成する演算装置であって、
通信線を介して1または複数の機能ユニットとデータを遣り取りするための通信回路と、
処理を実行するプロセッサと、
制御回路とを備え、
前記制御回路は、データの送信を禁止する禁止期間を設定する手段を備える、演算装置。

〈相違点1〉
本願発明1の「プロセッサ」は、「前記通信線を介してデータを送信または受信するための第1要求を予め定められた周期毎に発行するための第1処理と、予め定められた条件が満たされたときに前記通信線を介してデータを送信するための第2要求を発行する第2処理」を実行するものであるのに対し、引用発明は、そのような「第1要求」や「第2要求求」などを発行する処理が特定されていない点。

〈相違点2〉
本願発明1の「制御回路」は、「前記プロセッサにより発行される前記第1要求および前記第2要求に応答して、前記通信回路を起動する」のに対し、引用発明の「伝送制御部」が「第1要求」や「第2要求」に応答して、「編成内伝送路インタフェース」を起動することの特定が無い点。

〈相違点3〉
本願発明1の「禁止期間」は、「前記第1処理の実行周期に対応付けて、前記第2要求に応じたデータの送信を禁止する」とともに、「前記第1処理の実行タイミングより前から」「開始」されるものであるのに対し、引用発明は、「監視制御データ等の周期的なデータ通信のリアルタイム性が、非周期的に発生するリアルタイム性が要求されないその他のデータ通信によって損なわれることがないように、データの周期性に応じて通信サイクルを規定」するものであるが、「前記第1処理の実行周期に対応付けて、前記第2要求に応じたデータの送信を禁止する」ものではない点。

〈相違点4〉
本願発明1の「禁止期間」は、「制御回路」が、「前記第1処理の実行タイミングより前から…(中略)…開始」すると共に、「前記制御回路が前記第1要求に応答して前記通信回路を起動するタイミングと、前記制御回路が前記第2要求に応答して前記通信回路を起動してから前記通信回路が前記第2要求に応じたデータの送信を完了するまでの処理時間とに応じて決定される」のに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点。

(2)判断
事案に鑑み、先に相違点4について検討する。
引用発明は、「監視制御データ等の周期的なデータ通信のリアルタイム性が、非周期的に発生するリアルタイム性が要求されないその他のデータ通信によって損なわれることがないように、データの周期性に応じて通信サイクルを規定し、通信サイクルにおいて、アイドル期間を規定」するものであるものの、「前記制御回路が前記第1要求に応答して前記通信回路を起動するタイミングと、前記制御回路が前記第2要求に応答して前記通信回路を起動してから前記通信回路が前記第2要求に応じたデータの送信を完了するまでの処理時間とに応じて決定される」ような「禁止期間」を設定することは、引用例1に記載も示唆もされておらず、また当該技術分野における周知技術ともいえない。
したがって、引用発明からは、当業者といえども上記相違点4に係る構成を導き出すことは容易とまではいえず、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用例1に記載された引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は、請求項1を引用するものであり、上記相違点1〜4の点において引用例1に記載された発明とは異なるから同一とはいえず、また、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用例1に記載された引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明3〜6について
本願発明3〜6は、請求項1を直接または間接的に引用するものであり、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用例1に記載された引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明7について
本願発明7は、本願発明1と同様、「禁止期間」が、「前記制御回路が前記第1要求に応答して前記通信回路を起動するタイミングと、前記制御回路が前記第2要求に応答して前記通信回路を起動してから前記通信回路が前記第2要求に応じたデータの送信を完了するまでの処理時間とに応じて決定される」点において引用例1に記載された発明とは異なるから同一とはいえず、また、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用例1に記載された引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第5 原査定の概要及び原査定についての判断

原査定は、請求項1、2、7について,引用文献1(上記第3の引用例)と同一の発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないというものである。また、請求項3〜6について、引用文献1(上記第3の引用例)に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。

<特許法29条1項3号について>
令和4年4月6日付けの手続補正書による手続補正により、補正後の請求項1〜7は、上記第2に示すとおりとなり、原査定における引用文献1(上記第3の引用例)とは、上記第4(1)に示した相違点1〜4の点において異なるから、引用文献1に記載された発明とはいえない。

<特許法29条2項について>
また、上記第4(1)に示した相違点4は、原査定の引用文献1には記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明1〜7は、当業者であっても、原査定における引用文献1に基づいて容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定を維持することはできない。


第6 当審拒絶理由について

1 特許法36条6項2号明確性)について
当審では、「特許請求の範囲の請求項1および7に、「前記予め定められた時間は、前記第2要求が発行されてから前記第2要求に応じたデータの送信に要する前記通信回路での処理時間に応じて決定される」(以下、「引用記載」という。)とあるが、構成が不明確であり、本願請求項1〜7に係る発明は不明確である。」との拒絶の理由を通知しているが、令和4年4月6日付けの手続補正書による手続補正によって、特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりとなり、この拒絶の理由は解消した。

2 特許法36条6項1号(サポート要件)について
当審では、「上記引用記載を含む本願請求項1〜7に係る発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。」との拒絶の理由を通知しているが、令和4年4月6日付けの手続補正書による手続補正によって、特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりとなり、この拒絶の理由は解消した。

3 特許法36条4項1号実施可能要件)について
当審では、「上記引用記載のうち、「予め定められた時間」を具体的にどのように求めるかについての記載は、明細書の発明の詳細な説明には存在せず、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1〜7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」との拒絶の理由を通知しているが、令和4年4月6日付けの手続補正書による手続補正によって、特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりとなり、この拒絶の理由は解消した。


第7 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-05-24 
出願番号 P2016-199584
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G06F)
P 1 8・ 536- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山澤 宏
山崎 慎一
発明の名称 演算装置および制御装置  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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