• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06K
管理番号 1385005
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-08-04 
確定日 2022-06-07 
事件の表示 特願2017− 46595「応答器、質問機、応答器の制御方法、質問機の制御方法、情報処理プログラム、および記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月27日出願公開、特開2018−151785、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年3月10日の出願であって、令和2年11月19日付けで拒絶理由通知がされ、令和3年1月12日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出され、令和3年4月26日付けで拒絶査定(原査定)がされた。これに対し、令和3年8月4日に拒絶査定不服審判の請求がされ、令和4年2月18日付けで当審より拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、令和4年3月28日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、令和4年3月28日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
タイムスロット方式のアンチコリジョン機能を有する応答器であって、
センサが位置、速度、圧力、温度、光量、振動、電流値、および、電圧値の少なくとも1つの異常を検出したかを判定する判定部と、
前記判定部によって前記センサが前記異常を検出したと判定される場合に選択するタイムスロットを、前記判定部によって前記センサが前記異常を検出していないと判定される場合に選択するタイムスロットよりも早いタイムスロットに決定する決定部と、を備えることを特徴とする応答器。
【請求項2】
前記決定部は、
(1)前記判定部によって前記センサが前記異常を検出したと判定される場合に選択するタイムスロットを、所定の閾値よりも小さな値の乱数に一致したタイムスロットに決定し、
(2)前記判定部によって前記センサが前記異常を検出していないと判定される場合に選択するタイムスロットを、前記所定の閾値以上の値の乱数に一致したタイムスロットに決定することを特徴とする請求項1に記載の応答器。
【請求項3】
前記センサを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の応答器。
【請求項4】
タイムスロット方式のアンチコリジョン機能を有する複数の応答器の各々と通信する質問機であって、
複数の前記応答器の各々からの応答のうち、所定値以下の順番のタイムスロットで受信した応答があるかを判定する受信判定部と、
前記受信判定部によって、前記所定値以下の順番のタイムスロットで受信した応答があると判定されると、複数の前記応答器の各々が選択可能なタイムスロットを、前記所定値以下の順番のタイムスロットに指定する指定部と、を備えることを特徴とする質問機。
【請求項5】
タイムスロット方式のアンチコリジョン機能を有する応答器の制御方法であって、
センサが位置、速度、圧力、温度、光量、振動、電流値、および、電圧値の少なくとも1つの異常を検出したかを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにて前記センサが前記異常を検出したと判定される場合に選択するタイムスロットを、前記判定ステップにて前記センサが前記異常を検出していないと判定される場合に選択するタイムスロットよりも早いタイムスロットに決定する決定ステップと、を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項6】
タイムスロット方式のアンチコリジョン機能を有する複数の応答器の各々と通信する質問機の制御方法であって、
複数の前記応答器の各々からの応答のうち、所定値以下の順番のタイムスロットで受信した応答があるかを判定する受信判定ステップと、
前記受信判定ステップにて、前記所定値以下の順番のタイムスロットで受信した応答があると判定されると、複数の前記応答器の各々が選択可能なタイムスロットを、前記所定値以下の順番のタイムスロットに指定する指定ステップと、を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項7】
請求項4に記載の質問機としてコンピュータを機能させるための情報処理プログラムであって、前記各部としてコンピュータを機能させるための情報処理プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載の情報処理プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。」


第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献について
ア 原査定に引用された特開2008−177775号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同じ。)

A 「【0073】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の第1の形態に係る無線認証システムの電気的構成を示すブロック図である。この無線認証システムは、前記起動装置および認証装置を構成する質問器31に、ICタグから成る1または複数の応答器32を備えて構成され、前記起動装置と認証装置とは、相互に別体とされてもよい。この無線認証システムは、LF帯、UHF帯併用の無線認証システムであり、たとえば前述の図16で示すような部屋3の入退室管理などに使用される。
【0074】
質問器31は、制御回路41で生成した起動信号を、LF帯送信回路42において、誘導磁界の信号成分に重畳し、増幅してLFアンテナ43から第1の無線通信方式(LF)にて応答器32に向けて、周期的に繰返して同報送信する。これによって、応答器32の周囲には、前述の図16で示すような認証エリア5が形成され、その認証エリア5内に入ったユーザ6などが所持する応答器32では、質問器31からの前記起動信号をLFアンテナ51で受信した後に、LF帯受信回路52が制御回路53を起動し、該制御回路53は内蔵電池56を電源として、自身に予め設定されている固有の識別情報(ID)を含む応答信号を生成し、RF送信回路54からRFアンテナ55を介して、第2の無線通信方式(UHF)にて、質問器31に対して返信する。
【0075】
前記応答信号は、質問器31のRFアンテナ44からRF受信回路45で受信され、前記制御回路41に入力されて、応答した応答器を識別する。識別した応答器がユーザIDやグループIDなどで予め登録された識別情報を有するものであれば、制御回路41は、表示部46とブザー48とで認証完了を示すと同時に、ドア4の解錠を行う。

・・・中略・・・

【0077】
注目すべきは、本実施の形態では、前記UHF帯に対して、応答器32側ではRF送信回路54であり、質問器31側ではRF受信回路45であり、逆方向の通信が行われない単方向通信であることである。代りに、質問器31の制御回路41は、ACK信号となる認証を完了した応答器32の識別情報(ID)を、前記起動信号の次回送信フレームに含め、前記LF帯送信回路42において誘導磁界の信号成分に重畳させ、第1の無線通信方式(LF)にて応答器32に向けて送信させることである。前記ACK信号をLFアンテナ51からLF帯受信回路52で受信すると、制御回路53は、表示部57に表示を行うとともに、応答信号の送信を終了する。

・・・中略・・・

【0081】
このように構成することで、先ずランダムに選択した通信スロットにて応答器32が応答信号を返信することで、入退室管理や商品の在庫管理などに使用される場合のように、1台の質問器31の認証エリア5に多数の応答器32が存在する場合にも、各応答器32からの応答信号の衝突の可能性を低くし(トラヒックを抑え)、質問器31が的確に認証できるようにすることができる。」

B 「【0090】
[実施の形態4]
図5は、本発明の実施の第4の形態に係る無線認証システムにおける質問器と応答器との通信動作を説明するための図である。本実施の形態にも、前述の図1で示す無線認証システムと同様の構成を用いることができ、注目すべきは、この無線認証システムでは、前記複数の通信スロットの一部(図5の例では1〜3)が優先スロットとして設定され、前記各応答器32の制御回路53は、前記応答信号を予め定める回数以上返信しても、前記起動信号に、前記自身の識別情報が重畳されて送信されて来ない場合は(図5の例では複数回失敗しているID1の応答器がスロット6でID2の応答器と衝突)、前記優先スロット(図5の例ではスロット前記1〜3の内、1)で応答信号を再度送信し、前記予め定める回数未満の返信回数(図5の例ではID2,ID3の応答器)では、前記優先スロット(1〜3)を除く通常の通信スロット(図5の例では4〜7の内、それぞれ6,4)で応答信号を再度送信することである。応答器32による前記応答信号の再送回数の閾値は、通信スロット数やサイクル周期などに応じて、応答遅れが問題にならない範囲に設定されればよく、たとえば3回である。
【0091】
このように構成することで、応答信号を或る所定の回数以上返信しても質問器31側で自身が認証されない(返信した応答信号に対して、認証完了を通知する確認ビット(ACK)が受信されない)場合、その応答器は、優先スロットにて応答信号を返信することで、新たに前記認証エリア5に入ってくる応答器よりも優先的に認証を完了するので、認証漏れの発生を抑えることができる。」

C 「【図1】



D 「【図5】



E 上記Bの段落【0090】には、“第4の形態に係る無線認証システムが、図1で示す無線認証システムと同様の構成を用いることができる”こと、及び、“第4の形態に係る無線認証システムでは、複数の通信スロットの一部が優先スロットとして設定される”ことが記載され、上記Aの段落【0073】には図1の第1の形態に係る無線認証システムとして、“起動装置および認証装置を構成する質問器31と、ICタグから成る1または複数の応答器32を備えて構成される無線認証システム”が記載されている。
してみると、引用文献には、“起動装置および認証装置を構成する質問器31と、ICタグから成る1または複数の応答器32を備えて構成される、複数の通信スロットの一部が優先スロットとして設定される無線認証システムにおける応答器32”が記載されているといえる。
また、引用文献には、“起動装置および認証装置を構成する質問器31と、ICタグから成る1または複数の応答器32を備えて構成される、複数の通信スロットの一部が優先スロットとして設定される無線認証システムにおける質問器31”が記載されているといえる。

F 上記Aの段落【0074】には、“質問器31が、制御回路41で生成した起動信号を、応答器32に向けて、周期的に繰返して同報送信し、認証エリア5内に入ったユーザ6などが所持する応答器32が、質問器31からの起動信号を受信した後に、自身に予め設定されている固有の識別情報(ID)を含む応答信号を生成し、質問器31に対して返信する”ことが記載されている。

G 上記Aの段落【0081】には、“応答器32は、ランダムに選択した通信スロットにて応答信号を返信することで、入退室管理や商品の在庫管理などに使用される場合のように、1台の質問器31の認証エリア5に多数の応答器32が存在する場合にも、各応答器32からの応答信号の衝突の可能性を低くし(トラヒックを抑え)、質問器31が的確に認証できるようにすることができる”ことが記載されている。

H 上記Bの段落【0090】には、“応答器32の制御回路53は、応答信号を予め定める回数以上返信しても、起動信号に、自身の識別情報が重畳されて送信されて来ない場合は(他の応答器と応答信号の衝突)、優先スロットで応答信号を再度送信し、予め定める回数未満の返信回数では、優先スロットを除く通常の通信スロットで応答信号を再度送信する”ことが記載されている。

I 上記Aの段落【0075】には、“質問器31は、前記応答信号を受信し、応答した応答器32を識別し、識別した応答器32が予め登録された識別情報を有するものであれば、制御回路41は、ドア4の解錠を行う”ことが記載されている。

J 上記Aの段落【0077】には、“質問器31の制御回路41は、ACK信号となる認証を完了した応答器32の識別情報(ID)を、起動信号の次回送信フレームに含め、応答器32に向けて送信し、そして、応答器32の制御回路53では、ACK信号を受信すると、応答信号の送信を終了する”ことが記載されている。

イ 上記AないしHの記載内容(特に、下線部を参照)からすると、上記引用文献には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「起動装置および認証装置を構成する質問器31と、ICタグから成る1または複数の応答器32を備えて構成される、複数の通信スロットの一部が優先スロットとして設定される無線認証システムにおける応答器32において、
質問器31が、制御回路41で生成した起動信号を、応答器32に向けて、周期的に繰返して同報送信し、認証エリア5内に入ったユーザ6などが所持する応答器32で、質問器31からの起動信号を受信した後に、自身に予め設定されている固有の識別情報(ID)を含む応答信号を生成し、質問器31に対して返信するものであって、
応答器32は、ランダムに選択した通信スロットにて応答信号を返信することで、入退室管理や商品の在庫管理などに使用される場合のように、1台の質問器31の認証エリア5に多数の応答器32が存在する場合にも、各応答器32からの応答信号の衝突の可能性を低くし(トラヒックを抑え)、質問器31が的確に認証できるようにすることができるものであって、
応答器32の制御回路53は、応答信号を予め定める回数以上返信しても、起動信号に、自身の識別情報が重畳されて送信されて来ない場合は(他の応答器と応答信号の衝突)、優先スロットで応答信号を再度送信し、予め定める回数未満の返信回数では、優先スロットを除く通常の通信スロットで応答信号を再度送信する、
応答器32。」

また、上記AないしF、I、Jの記載内容(特に、下線部を参照)からすると、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「起動装置および認証装置を構成する質問器31と、ICタグから成る1または複数の応答器32を備えて構成される、複数の通信スロットの一部が優先スロットとして設定される無線認証システムにおける質問器31において、
応答器32は、ランダムに選択した通信スロットにて応答信号を返信することで、入退室管理や商品の在庫管理などに使用される場合のように、1台の質問器31の認証エリア5に多数の応答器32が存在する場合にも、各応答器32からの応答信号の衝突の可能性を低くし(トラヒックを抑え)、質問器31が的確に認証できるようにすることができるものであって、
質問器31が、制御回路41で生成した起動信号を、応答器32に向けて、周期的に繰返して同報送信し、認証エリア5内に入ったユーザ6などが所持する応答器32で、質問器31からの起動信号を受信した後に、自身に予め設定されている固有の識別情報(ID)を含む応答信号を生成し、質問器31に対して返信し、
質問器31は、前記応答信号を受信し、応答した応答器32を識別し、識別した応答器32が予め登録された識別情報を有するものであれば、制御回路41は、ドア4の解錠を行い、
質問器31の制御回路41は、ACK信号となる認証を完了した応答器32の識別情報(ID)を、起動信号の次回送信フレームに含め、応答器32に向けて送信し、そして、応答器32の制御回路53では、ACK信号を受信すると、応答信号の送信を終了する、
質問器31。」


第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「通信スロット」は、本願発明1の「タイムスロット」に相当する。
引用発明1の「応答器32」は、「ランダムに選択した通信スロットにて応答信号を返信することで」、「1台の質問器31の認証エリア5に多数の応答器32が存在する場合にも、各応答器32からの応答信号の衝突の可能性を低くし」たものであり、いわゆるタイムスロット方式のアンチコリジョン機能を有するものと認められる。
したがって、引用発明1の「応答器32」は、本願発明1の「タイムスロット方式のアンチコリジョン機能を有する応答器」に相当する。

イ 引用発明1の「応答器32」の「制御回路53」は、「応答信号を予め定める回数以上返信しても、起動信号に、自身の識別情報が重畳されて送信されて来ない場合は(他の応答器と応答信号の衝突)、優先スロットで応答信号を再度送信し、予め定める回数未満の返信回数では、優先スロットを除く通常の通信スロットで応答信号を再度送信する」ものであり、「制御回路53」は「応答信号を予め定める回数以上返信しても、起動信号に、自身の識別情報が重畳されて送信されて来ない」ことを何らかのセンサによって検出して判定しているものと認められる。さらに、「自身の識別情報が重畳されて送信されて来ない」ことは「他の応答器と応答信号が衝突」している場合であり異常が生じているといえる。
してみると、引用発明1の「応答器32」の「制御回路53」と、本願発明1の「センサが位置、速度、圧力、温度、光量、振動、電流値、および、電圧値の少なくとも1つの異常を検出したかを判定する判定部」とは、後記の点で相違するものの、“センサが異常を検出したかを判定する判定部”の点では共通する。

ウ また、引用発明1の「応答器32」の「制御回路53」は、「応答信号を予め定める回数以上返信しても、起動信号に、自身の識別情報が重畳されて送信されて来ない場合は(他の応答器と応答信号が衝突)、優先スロットで応答信号を再度送信し、予め定める回数未満の返信回数では、優先スロットを除く通常の通信スロットで応答信号を再度送信する」ものであり、上記イの点も考慮すると、「制御回路53」は、「応答信号を予め定める回数以上返信しても、起動信号に、自身の識別情報が重畳されて送信されて来ない」ことを検出したと判定される場合に選択する通信スロットを、「自身の識別情報が重畳されて送信されて来ない」ことを検出していないと判定される場合に選択する通常の通信スロットとは別の優先スロットに決定しているといえる。
してみると、引用発明1の「応答器32」の「制御回路53」と、本願発明1の「前記判定部によって前記センサが前記異常を検出したと判定される場合に選択するタイムスロットを、前記判定部によって前記センサが前記異常を検出していないと判定される場合に選択するタイムスロットよりも早いタイムスロットに決定する決定部」とは、後記の点で相違するものの、“前記判定部によって前記センサが前記異常を検出したと判定される場合に選択するタイムスロットを、前記判定部によって前記センサが前記異常を検出していないと判定される場合に選択するタイムスロットとは別のタイムスロットに決定する決定部”の点では共通する。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、以下の一致点と相違点とがある。

〈一致点〉
「タイムスロット方式のアンチコリジョン機能を有する応答器であって、
センサが異常を検出したかを判定する判定部と、
前記判定部によって前記センサが前記異常を検出したと判定される場合に選択するタイムスロットを、前記判定部によって前記センサが前記異常を検出していないと判定される場合に選択するタイムスロットとは別のタイムスロットに決定する決定部と、を備える応答器。」

〈相違点1〉
「異常」が、本願発明1では「位置、速度、圧力、温度、光量、振動、電流値、および、電圧値の少なくとも1つの異常」であるのに対して、引用発明1では、衝突を異常として検出するものである点。

〈相違点2〉
「別のタイムスロット」が、本願発明1では「前記判定部によって前記センサが前記異常を検出していないと判定される場合に選択するタイムスロットよりも早いタイムスロット」であるのに対して、引用発明1では、「優先スロット」が「通常の通信スロット」より早い通信スロットとは特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、先に相違点1について判断する。
引用発明1は、応答器32からの応答信号の衝突を異常として検出し、衝突が生じている際には「優先スロット」で使用し、応答器32を質問器31で的確に認証できるようにするものであって、この異常を「位置、速度、圧力、温度、光量、振動、電流値、および、電圧値の少なくとも1つ」に代える理由が存在しない。
また、本願発明1の上記相違点1の構成が周知の技術であるとも認められない。
したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明1に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2、3について
本願発明2、3は、本願発明1を更に限定したものであるので、同様に、当業者であっても引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明4について
(1)対比
本願発明4と引用発明2とを対比する。
ア 引用発明2の「通信スロット」、「応答器32」は、各々、本願発明4の「タイムスロット」、「応答器」に相当する。
引用発明2の「無線認証システム」は、「応答器32が、ランダムに選択した通信スロットにて応答信号を返信することで、入退室管理や商品の在庫管理などに使用される場合のように、1台の質問器31の認証エリア5に多数の応答器32が存在する場合にも、各応答器32からの応答信号の衝突の可能性を低くし(トラヒックを抑え)、質問器31が的確に認証できるようにすることができるもの」であり、いわゆるタイムスロット方式のアンチコリジョン機能を有するもであり、「無線認証システム」の「質問器31」においてもアンチコリジョン機能を有するものと認められる。
したがって、引用発明2の「質問器31」と、本願発明4の「質問機」とは、後記の点で相違するものの、“タイムスロット方式のアンチコリジョン機能を有する複数の応答器の各々と通信する質問器”の点では共通する。

したがって、本願発明4と引用発明2との間には、以下の一致点と相違点とがある。

〈一致点〉
「タイムスロット方式のアンチコリジョン機能を有する複数の応答器の各々と通信する質問機。」

〈相違点3〉
本願発明4では、「複数の前記応答器の各々からの応答のうち、所定値以下の順番のタイムスロットで受信した応答があるかを判定する受信判定部」を備えているのに対して、引用発明2では、そのような受信判定部を備えていない点。

〈相違点4〉
本願発明4では、「前記受信判定部によって、前記所定値以下の順番のタイムスロットで受信した応答があると判定されると、複数の前記応答器の各々が選択可能なタイムスロットを、前記所定値以下の順番のタイムスロットに指定する指定部」を備えているのに対して、引用発明2では、そのような指定部を備えていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、先に相違点3について判断する。
引用発明2では、「複数の通信スロットの一部が優先スロットとして設定される」ものであるが、「優先スロット」とそれ以外の「通信スロット」で受信した「応答信号」によらず、識別した応答器32が予め登録された識別情報を有するものであれば、ドア4を解錠し、応答器32の送信を終了するものであるから、「優先スロット」が「複数の通信スロット」のうちの所定値以下の順番であるかを判定する必要がない。
また、本願発明4の上記相違点3の構成が周知の技術であるとも認められない。
したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本願発明4は、当業者であっても引用発明2に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

4 本願発明5について
本願発明5は、本願発明1の「応答器」を「応答器の制御方法」の観点から記載したものに過ぎず、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 本願発明6について
本願発明6は、本願発明4の「質問器」を「質問器の制御方法」の観点から記載したものに過ぎず、本願発明4と同様の理由により、当業者であっても、引用発明2に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。

6 本願発明7、8について
本願発明7、8は、本願発明4を更に限定したものであるので、同様に、当業者であっても引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第5 原査定の概要及び原査定についての判断

原査定は、請求項1−8について、引用文献1(上記第3の引用文献)に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

<特許法29条2項について>
上記第4(1)に示した相違点1、3は、原査定の引用文献には記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明1−8は、当業者であっても、原査定における引用文献1に基づいて容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定を維持することはできない。


第6 当審拒絶理由について

1.特許法36条6項1号(サポート要件)について

当審では、「請求項4には「前記受信判定部によって、前記所定値以下の順番のタイムスロットで受信した応答があると判定されると、複数の前記応答器の各々が選択可能なタイムスロットの個数を、所定の基準値以下の個数に指定する指定部」(下線は当審で付与。)と記載されているが,「所定の基準値」では「タイムスロットの個数」としていかなる値も取りうるものであって,質問機に応答可能な応答器を限定することができず,請求項4の記載は,発明の詳細な説明の範囲を超えて特許請求するものである。」との拒絶の理由を通知しているが、令和4年3月28日付けの補正において、「前記受信判定部によって、前記所定値以下の順番のタイムスロットで受信した応答があると判定されると、複数の前記応答器の各々が選択可能なタイムスロットを、前記所定値以下の順番のタイムスロットに指定する指定部」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

2.特許法36条6項2号明確性件)について

当審では、「「所定の基準値」では「タイムスロットの個数」としていかなる値も取りうるものであり,「指定部」が,「前記受信判定部によって、前記所定値以下の順番のタイムスロットで受信した応答があると判定され」た際に,「複数の前記応答器の各々が選択可能なタイムスロットの個数」の指定を行う技術的意味が理解できないことから,請求項4の記載は不明りょうである。」との拒絶の理由を通知しているが、令和4年3月28日付けの補正において、「前記受信判定部によって、前記所定値以下の順番のタイムスロットで受信した応答があると判定されると、複数の前記応答器の各々が選択可能なタイムスロットを、前記所定値以下の順番のタイムスロットに指定する指定部」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2022-05-24 
出願番号 P2017-046595
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06K)
P 1 8・ 537- WY (G06K)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山澤 宏
須田 勝巳
発明の名称 応答器、質問機、応答器の制御方法、質問機の制御方法、情報処理プログラム、および記録媒体  
代理人 村上 尚  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ