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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1385031
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-08-25 
確定日 2022-05-24 
事件の表示 特願2016−256465「光学体、拡散板、表示装置、投影装置及び照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月12日出願公開、特開2018−109670、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2016−256465号(以下「本件出願」という。)は、平成28年12月28日の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 2年10月27日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 3月 3日提出:意見書
令和 3年 3月 3日提出:手続補正書
令和 3年 4月23日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 8月25日提出:審判請求書
令和 3年 8月25日提出:手続補正書


第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1〜12に係る発明(令和3年8月25日に提出された手続補正書による補正前のもの)は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2013−76881号公報
引用文献2:国際公開第2016/143350号
(当合議体注:引用文献1は主引用例であり、引用文献2は請求項7〜12についての副引用例である。)


第3 本件発明
本件出願の請求項1〜12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明12」という。)は、令和3年8月25日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本件発明1は、以下のとおりのものである。

「 複数の単レンズからなる単レンズ群で構成された矩形状の非周期構造領域が縦横に複数配列された光学体であって、
前記非周期構造領域では、前記単レンズ群の配置状態が全体として非周期的であり、
前記単レンズの外形は互いに異なる複数の曲線で構成され、
前記単レンズの平均開口径DAVEが30〜250μmであり、かつ、前記単レンズの基準曲率半径Rが20〜200μmであるという条件下において、
前記非周期構造領域の配置方向に沿った一辺の長さLが0.8mm以上、4mm以下であり、かつ、
前記非周期構造領域の一辺の長さLと、当該非周期構造領域における前記単レンズの平均開口径DAVEと、の比が25倍以上である、光学体。」

また、本件発明2〜8は、本件発明1に対してさらに他の発明特定事項を付加した「光学体」の発明であり、本件発明9は、本件発明1〜8の「光学体」の何れかを「表面に備える」「拡散板」の発明であり、本件発明10は、本件発明1〜8の「光学体」の何れかを「有する拡散板を備える」「表示装置」の発明であり、本件発明11は、本件発明1〜8の「光学体」の何れかを「有する拡散板を備える」「投影装置」の発明であり、本件発明12は、本件発明1〜8の「光学体」の何れかを「有する拡散板を備える」「照明装置」の発明である。


第3 引用文献1の記載事項及び引用発明
1 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2013−76881号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の配列パターンで配列された複数の単位レンズを含む光学シートに係り、とりわけ、複数の単位レンズの配列パターンに起因したモアレの発生および濃淡ムラの発生を効果的に抑制することができる光学シートに関する。また、本発明は、この光学シートを有した画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単位レンズを有する光学シートが、種々の分野において、使用されてきた。一例として、特許文献1には、画像を形成する画像形成装置の画像形成面上に配置されるマイクロレンズアレイシートが示されている。画像形成装置に重ねられて用いられる光学シートは、主として、輝度特性、とりわけ視野角特性の調節を目的として設けられる。単位レンズを二次元配列してなるマイクロレンズを有する光学シートでは、単位レンズの断面形状や単位レンズの平面配列によって、各方向における光学特性、とりわけ視野角特性を調節することができる。
・・・省略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、プラズマディスプレイパネル(以下において、単に「PDP」とも呼ぶ)や液晶表示パネル(以下において、単に「LCDパネル」とも呼ぶ)等に代表される画像形成装置は、繰返し周期を持った画素配列を有し、画素毎の光を制御することによって所望の画像を形成している。このため、特許文献1の段落0081にも記載されているように、画素配列の周期性と単位レンズの周期性との干渉に起因した縞状の模様、すなわちモアレ(干渉縞)が視認され、表示される画像の質を劣化させることがあった。
【0005】
なお、モアレの発生を抑制する観点からは、単位レンズの配列を不規則的にすることも検討されている。ただし、単位レンズを不規則的に配列した場合、単位レンズの粗密に応じた濃淡ムラが視認されるようになるといった、別の不具合が生じることもある。
【0006】
本発明は、このような点からなされたものであり、濃淡ムラおよびモアレの両方を目立たなくさせることができる光学シート、並びに、この光学シートを含んだ画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による第1の光学シートは、
画像形成装置と重ね合わせて使用される光学シートであって、
シート状の本体部と、
前記本体部の一方の面上に配列された複数の単位レンズと、を備え、
前記本体部の一方の面上に、隣り合う二つの単位レンズの間を延びる境界線分からなるライン部が画成され、
前記ライン部の各境界線分の両端は、二以上の他の境界線分と接続する分岐点をなし、
前記ライン部は、前記境界線分によって囲まれる閉領域を画成し、一つの閉領域内に一つの単位レンズが配置されるようにして、前記単位レンズが前記本体部上に配列されており、
前記ライン部は、5本の境界線分によって周囲を取り囲まれた閉領域、6本の境界線分によって周囲を取り囲まれた閉領域および7本の境界線分によって周囲を取り囲まれた閉領域の中から選ばれた少なくとも二種類が含まれている領域を含み、
前記領域に含まれた5本、6本または7本のうちの同一本数の境界線分によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域の形状又は面積は一定ではない。
・・・省略・・・
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、濃淡ムラの発生を抑制しながら、モアレを極めて効果的に目立たなくさせることができる。」

(2)「【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
・・・省略・・・
【0023】
図1に示すように、画像表示装置10は、画像を形成し得る画像形成装置15と、画像形成装置15の出光側(画像観察者側、以下、画像観察者(側)を単に観察者(側)とも略称する)に配置された光学シート30と、を有している。図示された例では、光学シート30の出光面が、画像表示装置10の表示面(出光面)10aをなし、観察者は、画像形成装置15で形成された画像を、光学シート30を介して観察することになる。
【0024】
画像形成装置15は、画像を形成するための種々の装置、例えば、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶表示パネル(LCD)、陰極線管(CRT)、有機EL表示パネル等を含む装置として、構成され得る。画像形成装置15は、規則的に配列された多数の画素を有し、画素毎に映像光を制御することによって映像を形成するように構成されている。
・・・省略・・・
【0033】
次に、光学シート30について詳述する。図2に示すように、光学シート30は、シート状の本体部32と、本体部32上に配列された多数の単位レンズ35と、を有している。光学シート30は、単位レンズ35での屈折または反射によって、画像形成装置15からの映像光の進行方向を変化させる。図示された例において、単位レンズ35は、本体部32の出光側面32a上に設けられており、光学シート30の出光面30a並びに画像表示装置10の表示面10aを形成している。本体部32は、単位レンズ35を支持する部位であり、適度な強度および適度な透明性を有するように、適宜構成される。一例として、本体部32の厚さを20μm〜200μmとすることができる。
【0034】
図2に示すように、単位レンズ35は、本体部32の出光側面32a上に二次元配列され、マイクロレンズ乃至は蠅の目レンズ(フライアイレンズ)を構成するようになっている。すなわち、単位レンズ35は、本体部32の出光側面32a上において、単一の方向のみに並べられているのではない、平面上に広がりを持って配列されている。本実施の形態では、図2および図3に示すように、多数の単位レンズ35は、本体部32の出光側面32a上に、隙間無く隣接して配置されている。したがって、画像表示装置10の表示面10aをなす光学シート30の出光面30aは、単位レンズ35のレンズ面のみによって形成されている。
【0035】
図5および図6に示すように、光学シート30のシート面への法線方向(図1及び図2に於いては、上下方向)から光学シート30を観察した場合、光学シート30のシート面に沿った単位レンズ35の外輪郭(外縁)によって、配列パターン40が特定される。配列パターン40は、二つの分岐点46の間を延びて閉領域42を画成する多数の境界線分48から形成されており、配列パターン40の一つの閉領域42内に一つの単位レンズ35が配置されるようになる。図5および図6に示すように、配列パターン40に含まれた多数の閉領域42の形状又は面積は一定ではない。この結果、光学シート30に含まれる多数の単位レンズ35の間で、本体部32の出光側面32a上における底面の形状は一定ではない。なお、単位レンズ35の配列パターン40については、後に詳述する。
【0036】
図3には、図2に示された光学シート30のシート面への法線方向に沿った断面図が示されている。単位レンズ35の断面形状は、光学シート30に期待される光学機能に応じて適宜設計される。図3に示された例では単位レンズ35は凸レンズとされ、単位レンズ30が、透過光を拡散させる光拡散機能を発現し得るように構成されている。例えば、画像形成装置10が、液晶表示パネルである場合、一般的に、液晶表示パネルから出射する映像光は正面方向に或る程度集光されている。このような液晶表示パネルと光拡散機能を有した光学シート30との組み合わせによれば、画像表示装置10に広視野角を付与することが可能となる。具体的な構成として、単位レンズ35の出光面30aの曲率半径を小さめに設定することによって、具体的には、単位レンズ35の出光面が光学シート30のシート面に対してなす角度θaを小さく設定しておくことにより、或いは、単位レンズ35の幅Waに対する高さHaの比(Ha/Wa)を小さく設定しておくことにより、単位レンズ35が、比較的に正面方向に集光された光に対して、光拡散機能を発揮する傾向が現れる。
【0037】 なお、図2および図3に示された例では、単位レンズ35の出光面(レンズ面)は曲面として形成されている。したがって、図2に示すように、光学シート30のシート面への法線方向に沿った断面において、単位レンズ35の出光面(レンズ面)は、円弧、楕円弧、或いは、弧の繋ぎ合わせによって近似される曲線となる。曲面によって構成された単位レンズ35において、単位レンズ35の出光面が光学シート30のシート面に対してなす角度θaは、光学シート30の法線方向に沿った断面において、単位レンズ35への接線TLが光学シート30のシート面に対してなす角度として特定される。
・・・省略・・・
【0040】
なお、単位レンズ35の寸法は、上述したように、当該単位レンズ35に期待される光学機能を考慮して適宜決定され得る。ただし、単位レンズ35の最小幅は、可視光線に対して有効に光学作用を及ぼすことができるよう、可視光の最大波長(800nm)以上である必要があり、さらに、製造上の制約を考慮すると、10μm以上であることが好ましい。一方、単位レンズ35の幅Waが大きくなり過ぎると、個々の単位レンズ35が視認され、表示画像の画質を劣化させることになる。この点から、単位レンズ35の最大幅は、300μm以下とすることが好ましい。
【0041】
次に、図5〜図7を主に参照しながら、光学シート30の単位レンズ35の配列パターン40について説明する。
【0042】
図5および図6に示すように、光学シート30のシート面内に於ける単位レンズ35の配列パターン40に対応して、ライン部44が本体部32の一方の面32a上に特定される。より具体的には、ライン部44は、隣り合う二つの単位レンズ35の間を延びるようにして、本体部32の一方の面32a上に定義される。逆に言えば、図5および図6に示すように、このライン部44によって、透光性を有した単位レンズ35の外輪郭が、本体部32の一方の面32a上に特定され得る。以下、このライン部44によって、単位レンズ35の配列パターン40を説明していく。
【0043】
図5および図6に示すように、ライン部44は、多数の閉領域42を画成する網状となっている。そして、一つの閉領域42内に、一つの単位レンズ35が配置されている。上述したように、本実施の形態における光学シート30では、本体部32の一方の面32a上に、単位レンズ35が隙間無く接触して配置されている。したがって、図5および図6に示すように、単位レンズ35の配列パターン40を特定するライン部44は、隣り合う単位レンズ35の間の境界(谷部)に沿って、言い換えると、光学シート30のシート面に沿った単位レンズ35の外縁(外輪郭)に沿って、延びている。この結果、光学シート30をその法線方向から観察した場合、単位レンズ35の外輪郭、乃至は、単位レンズ35の配列パターン40を表すものとして、ライン部44が視認化され得るようになる。
【0044】
図5および図6に示すように、単位レンズ35の配列パターン40を特定するライン部44は、網状に形成され、多数の分岐点46を含んでいる。そして、配列パターン40を特定するライン部44は、両端において分岐点46を形成する多数の境界線分48から構成されている。すなわち、配列パターン40を特定するライン部44は、二つの分岐点46の間を延びる多数の境界線分48から構成されている。そして、分岐点46において、境界線分48が接続されていくことにより、閉領域42が画成されている。言葉を換えて言うと、境界線分48で囲繞、区劃されて1つの閉領域42が画成されている。
【0045】
なお、図5および図6に示すように、ライン部44が境界線分48のみから構成されているため、閉領域42の内部に延び入って行き止まりとなるライン部44は存在しない。この態様によれば、単位レンズ35の外輪郭が周状となり、輝点や欠点の原因となる切れ目や凹みが単位レンズ35の外表面(レンズ面)に形成されなくなる。
【0046】
また、単位レンズ35の寸法は、上述したように、当該単位レンズ35に期待される光学機能を考慮して適宜決定され得る。ただし、単位レンズ35の最小幅は、可視光線に対して有効に光学作用を及ぼすことができるよう、可視光の最大波長(800nm)以上である必要があり、さらに、製造上の制約を考慮すると、10μm以上であることが好ましい。一方、単位レンズ35の幅Waが大きくなり過ぎると、個々の単位レンズ35が視認され、表示画像の画質を劣化させることになる。この点から、単位レンズ35の最大幅は、300μm以下とすることが好ましい。
・・・省略・・・
【0050】
一方、モアレの発生を防止するため、本実施の形態による単位レンズ35の配列パターン40に対応するライン部44には、5本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42、6本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42および7本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42の中から選ばれた少なくとも二種類がそれぞれ複数含まれている。加えて、本実施の形態による単位レンズ35の配列パターン40に対応するライン部44では、配列パターン40に含まれた5本、6本または7本のうちの同一本数の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42の形状又は面積(境界線分によって取り囲まれた部分の面積)は一定ではないようになっている。すなわち、5本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42(該閉領域が多角形の場合は5角形に相当)がライン部44に含まれている場合、当該5本の境界線分48によって画成されている複数の閉領域42の少なくとも二つが異なる形状又は面積を有し、6本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42がライン部44に含まれている場合、当該6本の境界線分48によって画成されている複数の閉領域42の少なくとも二つが異なる形状又は面積を有し、さらに、7本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42がライン部44に含まれている場合、当該7本の境界線分48によって画成されている複数の閉領域42の少なくとも二つが異なる形状又は面積を有している。このような態様によれば、ライン部44によって画成される単位レンズ35の配列パターン40を効果的に不規則化することができる。
【0051】
此処で、閉領域42の少なくとも二つが異なる形状又は面積を有するとは、(a)全閉領域のうちの少なくとも二つが異なる形状を有し、且つ全閉領域は同一の面積を有する場合、(b)全閉領域のうちの少なくとも二つが異なる面積を有し、且つ全閉領域は同一の形状を有する場合、(c)全閉領域が同一形状を有し、且つ全閉領域が同一の面積を有する場合、のいずれかの場合に該当するという意味である。より好ましくは、同一本数の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42のうちの50%以上が互いに其の形状又は面積が異なるように構成する。更に好ましくは、同一本数の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の開口領域42の全てが互いに其の形状又は面積が異なるように構成する。尚、2つ(以上)の合同な閉領域42であって、且つ其の向きが互いに異なる場合は、これら閉領域42の形状は互いに異なる(但し、面積は互いに同一)として扱う。
【0052】
本件発明者らは、鋭意研究を重ねた結果として、単に、ライン部44によって画成される単位レンズ35の配列パターン40を不規則化するのではなく、5本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42、6本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42および7本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42の少なくとも二種類が、それぞれ複数、ライン部44に含まれ、且つ、ライン部44に含まれた5本、6本または7本のうちの同一本数の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42の形状又は面積が一定ではないよう、ライン部44のパターンを画成することにより、多数の単位レンズ35を有した光学シート30を、画素配列を有した画像形成装置15に重ねた場合に生じ得るモアレを極めて効果的に目立たなくさせることが可能となることを知見した。
・・・省略・・・
【0058】
その一方で、ここで説明する本実施の形態に係る光学シート30のように、単位レンズ35の配列パターン40から特定されるライン部44が、次の条件(A)および(B)の両方を満たす場合、モアレの発生を効果的に防止することが可能になるとともに、濃淡ムラの発生を効果的に防止することも可能となった。
・条件(A):5本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42、6本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42および7本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42の中から選んだ少なくとも二種類が、それぞれ複数、ライン部44に含まれている。
・条件(B):5本、6本または7本のうちの同一本数の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42の形状又は面積が一定ではない。すなわち、5本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42がライン部44に含まれている場合に、当該5本の境界線分48によって画成されている複数の閉領域42の少なくとも二つが異なる形状又は面積を有し、且つ、6本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42がライン部44に含まれている場合に、当該6本の境界線分48によって画成されている複数の閉領域42の少なくとも二つが異なる形状又は面積を有し、且つ、7本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42がライン部44に含まれている場合に、当該7本の境界線分48によって画成されている複数の閉領域42の少なくとも二つが異なる形状又は面積を有している。
【0059】
条件(A)および(B)を満たすライン部44に対応して画成された単位レンズ35の配列パターン40によって奏される作用効果は、モアレの不可視化として単にパターンの不規則化を実施してきた従来の技術水準に照らして、予測され得る範囲を超えた顕著な効果であると言える。そして、条件(A)および(B)を満たすライン部44によって特定される単位レンズ35の配列パターン40によってこのような作用効果が得られるようになる理由の詳細は不明であるが、次のことがその理由になっているものと推定される。ただし、本願発明は、以下の推定に限定されるものではない。
【0060】
まず、条件(A)によれば、閉領域42の配列が、同一形状の正六角形を規則的に配置してなるハニカム配列から、各閉領域42の形状および配置の規則性を崩した配列、言い換えると、ハニカム配列を基準として各閉領域42の形状および配置をランダム化した配列とすることができる。これにより、閉領域42の配列に明らかな粗密が生じてしまうことを抑制することができ、多数の閉領域42を概ね均一な密度で、すなわち概ね一様に分布させることができるものと推測される。加えて、条件(B)により、多数の閉領域42の配列を十分にランダム化することが可能となる。これらのことから、濃淡ムラおよびモアレの両方を効果的に目立たなくさせることができるものと推測される。
【0061】
実際に本件発明者らが鋭意調査を重ねたところ、条件(A)および(B)が満たされる場合に、閉領域42の配列が十分にランダム化されていた。さらには、条件(A)および(B)が満たされる場合に、閉領域42の配列を完全に不規則化し得ること、すなわち、閉領域42が規則的に配列された方向が存在しないようにし得ることが、安定して可能となり、結果として、濃淡ムラおよびモアレの両方を極めて効果的に目立たなくさせることが可能となることが確認された。
・・・省略・・・
【0084】
図14のように作成されたボロノイ図において、各ボロノイ点XPが、ライン部44の分岐点46をなすようにする。そして、一つのボロノイ境界XBの端部をなす二つのボロノイ点XPの間に、一つの境界線分48を設ける。この際、境界線分48は、図5および図6に示された例のように二つのボロノイ点XPの間を直線状に延びるように決定してもよいし、あるいは、他の境界線分48と接触しない範囲で二つのボロノイ点XPの間を種々の経路(例えば、円(弧)、楕円(弧)、抛物線、双曲線、正弦曲線、双曲線正弦曲線、楕円函数曲線、ベッセル関数曲線等の曲線状、折れ線状等、曲線と直線とを組み合わせてなる線状の経路)で延びるようにしてもよい。なお、図5および図6に示された例のように、境界線分48がボロノイ点XPの間を直線状に結ぶように決定された場合、各ボロノイ境界XBが、境界線分48を画成することになる。
・・・省略・・・
【0086】
以上のような本実施の形態によれば、単位レンズ35の間を延びる境界線分48からなるライン部44が、単位レンズ35の配列パターン40に応じて、本体部の一方の面上に特定される。境界線分48は二つの分岐点46の間を延びて閉領域42を画成し、ライン部44の一つの閉領域42内に一つの単位レンズ35が配置されるようにして、単位レンズ35が本体部32の一方の面32a上に配列されている。光学シート30の配列パターン40が、二つの分岐点46の間を延びて閉領域42を画成する多数の境界線分48から形成されており、5本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42、6本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42および7本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42の中から選ばれた少なくとも二種類がライン部44によって形成されており、且つ、ライン部44によって形成された5本、6本または7本のうちの同一本数の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42の形状又は面積が一定とならないようになっている。この結果、規則的(周期的)に画素Pが配列された画像形成装置15に、この光学シート30を重ねたとしても、縞状の模様(モアレ、干渉縞)が視認され得る程度に発生することを効果的に防止することができる。
【0087】
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。
【0088】
例えば、上述した実施の形態において、ライン部44の境界線分48が直線状に形成されている例を示したが、これに限られない。境界線分48が、既に説明したように、二つの分岐点46の間を曲線状等の種々の経路に沿って延びていてもよい。
・・・省略・・・
【0093】
・・・省略・・・
しかしながら、単位レンズ35が設けられるべき領域内の一部の領域内において、条件(A)および(B)が満たされるようにしてもよい。
【0094】
典型的な変形例として、図16の如く、上述した条件(A)および(B)を満たす領域、好ましくは上述した条件(A)〜(E)を満たす領域、さらには、上述した条件(A)〜(E)を満たし且つ閉領域42が規則的に配列された方向が存在しない領域(単位パターン領域)Sを用意し、或いは、一つの分岐点46から延び出す境界線分48の数の平均が3.0以上4.0未満となる領域、さらには、条件(F)を満たし、且つ閉領域42が規則的に配列された方向が存在しない領域(単位パターン領域)Sを用意し、該領域Sが複数集合して、単位レンズ35が設けられるべき全領域が構成されているようにしてもよい。即ち、此の形態に於いては、単位レンズ35が設けられるべき全領域中に、同一パターンで閉領域群42が配列されてなる単位パターン領域Sを2箇所以上含むようになる。
【0095】
この例において、一つの領域S内におけるライン部44のパターンは、例えば、図10〜図14を参照しながら説明したパターン作成方法と同様にして作成することができ、或いは、上述した変形例によるパターン作成方法と同様にして作成することができる。特に最近では、プラズマディスプレイ装置や液晶表示装置に代表されるよう、画像表示装置10の表示面10aの大型化が進んでいる。とりわけこのような大型画像表示装置に対しては、単位レンズ35の配列パターン40に対応するライン部44が、複数の単位パターン領域Sを含んで構成されていて、且つ、各々の単位パターン領域S内に於いては互いに同一のパターンで閉領域42が配列されている構成とした場合、ライン部44のパターン作成を格段に容易化することが可能となる点において好ましい。
【0096】
なお、図16に示された例では、光学シート30の単位レンズ35を配置されるべき領域が、同一の形状を有した六つの単位パターン領域Sに分割され、各領域S内でライン部44が同一のパターンに構成されている。そして、六つの領域Sは、図16の縦方向に三つの領域が並ぶとともに、図16の横方向に二つの領域が並ぶように配列されている。
【0097】
このような変形例では、例えば図16に示すように、単位レンズ35を配置されるべき領域内において、ライン部44の閉領域42が一定の配列で並べられている範囲が、単位パターン領域Sの数だけ、当該領域の配列方向と平行な方向に繰り返し存在するようになる。すなわち、単位レンズ35を配置されるべき領域内において、ライン部44の複数の閉領域42が所定の規則性を持って繰り返し並べられている直線方向が存在するようになる。この場合、領域Sの規則的な配列に起因して、縞状模様(モアレ、干渉縞)或いは濃淡ムラが発生する心配もある。このため、単位パターン領域S内に含まれる閉領域42の数は、単位パターン領域Sの繰返しが実質上視認し難くする上で、出来るだけ多い方が好ましい。
【0098】
但し、特定方向への同一単位パターン領域Sの繰返し数が或る程度までに抑えられていれば、斯かる縞状模様や濃淡ムラは無視し得る。これは、単に繰返し数が少ないことに加えて、領域Sの寸法が画素寸法と大幅に異なる結果、実質上モアレを生じる関係から外れる為でも在る。具体的には、図16に示すように、複数の単位パターン領域Sがある方向に所定のピッチSP1,SP2で配列されている場合には、当該所定のピッチSP1,SP2は、ある方向に沿った画像形成装置の寸法L1,L2の1/4以上となっていることが好ましく、あるいは、家庭用テレビ受像器への適用においては50mm以上となっていることが好ましい。また、単位パターン領域S内に含まれる閉領域42の数は500個以上となっていることが好ましい。
【0099】
但し、隣接する単位パターン領域同士の境界の継目の修整処理(継目を目立たなくさせるためのパターンの変形、修整処理)、単位パターン領域の形状(図16では長方形としたが、其の他、3角形、6角形、其の他形状も可能)、配列様式(図16では長方形の単位パターン領域Sを縦横に碁盤の目上に配列したが、単位パターン領域Sが長方形であっても、これを煉瓦積みの如き配列とすることも可能)等の工夫如何によっては、単位パターン領域Sの縦横の配列ピッチSP1、SP2が、画像形成装置の寸法L1,L2の1/10以上となっていれば、あるいは、家庭用テレビ受像器や携帯端末用表示装置への適用において20mm以上となっていれば、縞状模様や濃淡ムラを十分に目立たなくし得ることが知見された。
・・・省略・・・
【0101】
(用途)
以上に説明してきた光学シート30および画像形成装置10は、各種用途に使用可能である。特に、テレビジョン受像装置、各種測定機器や計器類、各種事務用機器、各種医療機器、電算機器、電話機、電飾看板、各種遊戯機器等の表示部に用いられるプラズマディスプレイ(PDP)装置、ブラウン管ディスプレイ(CRT)装置、液晶ディスプレイ装置(LCD)、電場発光ディスプレイ(EL)装置などの画像表示装置への適用に好適であり、特にプラズマディスプレイ装置への適用に好適である。また、以上に説明してきた光学シート30は、住宅、学校、病院、事務所、店舗等の建築物の窓、車両、航空機、船舶等の乗物の窓等に重ねて覗き見防止や直射日光の拡散緩和等の用途にも使用可能である。」

(3)図1


(4)図2



(5)図3



(6)図5



(7)図6



(8)図14



(9)図16



2 引用発明
(1)引用文献1の【0094】には、「典型的な変形例として、図16の如く、上述した条件(A)および(B)を満たす領域、好ましくは上述した条件(A)〜(E)を満たす領域、さらには、上述した条件(A)〜(E)を満たし且つ閉領域42が規則的に配列された方向が存在しない領域(単位パターン領域)Sを用意し、或いは、一つの分岐点46から延び出す境界線分48の数の平均が3.0以上4.0未満となる領域、さらには、条件(F)を満たし、且つ閉領域42が規則的に配列された方向が存在しない領域(単位パターン領域)Sを用意し、該領域Sが複数集合して、単位レンズ35が設けられるべき全領域が構成されているようにしてもよい。即ち、此の形態に於いては、単位レンズ35が設けられるべき全領域中に、同一パターンで閉領域群42が配列されてなる単位パターン領域Sを2箇所以上含むようになる。」と記載されている。
上記記載から、引用文献1には、単位レンズ35が設けられるべき全領域中に、閉領域群42が配列されてなり、条件(A)および(B)を満たす単位パターン領域Sを2カ所以上含むものが記載されている。
ここで、上記「条件(A)および(B)」は、下記(4)に示すものである。

(2)引用文献1の【0096】には、「なお、図16に示された例では、光学シート30の単位レンズ35を配置されるべき領域が、同一の形状を有した六つの単位パターン領域Sに分割され、各領域S内でライン部44が同一のパターンに構成されている。そして、六つの領域Sは、図16の縦方向に三つの領域が並ぶとともに、図16の横方向に二つの領域が並ぶように配列されている。」と記載されている。
上記記載から、引用文献1には、光学シート30の単位レンズ35を配置されるべき領域が、縦方向に三つ並ぶとともに横方向に二つ並ぶように単位パターン領域Sが配列されているものが記載されている。

(3)引用文献1の図16から、「単位パターン領域S」が長方形であることが看取できる(当合議体注:このことは、引用文献1の【0099】には、「単位パターン領域Sが長方形」であるとの記載からも確認できる。)。

(4)引用文献1の【0058】には、単位レンズ35の配列パターン40から特定されるライン部44が、満たす条件(A)および(B)について、「条件(A):5本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42、6本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42および7本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた閉領域42の中から選んだ少なくとも二種類が、それぞれ複数、ライン部44に含まれている。」及び「条件(B):5本、6本または7本のうちの同一本数の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42の形状又は面積が一定ではない。すなわち、5本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42がライン部44に含まれている場合に、当該5本の境界線分48によって画成されている複数の閉領域42の少なくとも二つが異なる形状又は面積を有し、且つ、6本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42がライン部44に含まれている場合に、当該6本の境界線分48によって画成されている複数の閉領域42の少なくとも二つが異なる形状又は面積を有し、且つ、7本の境界線分48によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域42がライン部44に含まれている場合に、当該7本の境界線分48によって画成されている複数の閉領域42の少なくとも二つが異なる形状又は面積を有している。」と記載されている。

(5)引用文献1の【0061】には、「実際に本件発明者らが鋭意調査を重ねたところ、条件(A)および(B)が満たされる場合に、閉領域42の配列が十分にランダム化されていた。さらには、条件(A)および(B)が満たされる場合に、閉領域42の配列を完全に不規則化し得ること、すなわち、閉領域42が規則的に配列された方向が存在しないようにし得ることが、安定して可能となり、結果として、濃淡ムラおよびモアレの両方を極めて効果的に目立たなくさせることが可能となることが確認された。」と記載されている。
上記記載から、引用文献1には、条件(A)および(B)を満たすことで、閉領域42の配列が十分にランダム化されることが記載されている。

(6)上記(1)〜(5)より、引用文献1には、図16に係る変形例として、単位レンズ35が設けられるべき全領域中に、閉領域群42が配列されてなり、条件(A)および(B)を満たすことで閉領域42の配列が十分にランダム化される長方形の単位パターン領域Sが、縦方向に三つ並ぶとともに横方向に二つ並ぶように配列されている、光学シート30の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 単位レンズ35が設けられるべき全領域中に、閉領域群42が配列されてなり、下記の条件(A)および(B)を満たすことで閉領域42の配列が十分にランダム化される長方形の単位パターン領域Sが、縦方向に三つ並ぶとともに横方向に二つ並ぶように配列されている、光学シート30。
条件(A):5本の境界線分によって周囲を取り囲まれた閉領域、6本の境界線分によって周囲を取り囲まれた閉領域および7本の境界線分によって周囲を取り囲まれた閉領域の中から選んだ少なくとも二種類が、それぞれ複数、ライン部に含まれている。
条件(B):5本、6本または7本のうちの同一本数の境界線分によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域の形状又は面積が一定ではない。すなわち、5本の境界線分によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域がライン部に含まれている場合に、当該5本の境界線分によって画成されている複数の閉領域の少なくとも二つが異なる形状又は面積を有し、且つ、6本の境界線分によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域がライン部に含まれている場合に、当該6本の境界線分によって画成されている複数の閉領域の少なくとも二つが異なる形状又は面積を有し、且つ、7本の境界線分によって周囲を取り囲まれた複数の閉領域がライン部に含まれている場合に、当該7本の境界線分によって画成されている複数の閉領域の少なくとも二つが異なる形状又は面積を有している。」


第5 対比・判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

ア 単レンズについて
引用発明の「光学シート30」は、「単位レンズ35が設けられるべき全領域中に、閉領域群42が配列されてなり、下記の条件(A)および(B)を満たすことで閉領域の配列を完全に不規則化し得る長方形の単位パターン領域Sが、縦方向に三つ並ぶとともに横方向に二つ並ぶように配列されている」。
上記構成及び技術的にみて、引用発明の「単位レンズ35」は、本件発明1の「単レンズ」に相当する。
(当合議体注:条件(A)および(B)は、上記「第4」「2(6)」で示したとおりであって、記載を省略した。以下同様である。)

イ 非周期構造領域について
上記アの構成の「閉領域の配列」は「十分にランダム化し」たものであることと、引用発明の「条件(A)および(B)」も参酌すると、引用発明の「単位パターン領域S」は、非周期構造であるといえる。
また、上記アの構成より、引用発明の「単位レンズ35」は、複数であることは、明らかである。また、引用発明の「単位パターン領域S」は、複数の単位レンズからなる単位レンズ群で構成され、矩形状であるといえる。さらに、引用発明の「単位パターン領域S」では、単位レンズ群の配置状態は全体として非周期的であるといえる。
そうしてみると、引用発明の「単位パターン領域S」は、本件発明1の「非周期構造領域」に相当する。また、引用発明の「単位パターン領域S」は、本件発明1の「非周期構造領域」の「複数の単レンズからなる単レンズ群で構成された矩形状の」及び「前記単レンズ群の配置状態が全体として非周期的であり」との要件を満たす。

ウ 光学体について
上記ア及びイを総合すると、引用発明の「光学シート30」は、本件発明1の「光学体」に相当する。
また、上記アの構成からみて、引用発明の「光学シート30」は、「単位パターン領域S」が縦横に複数配列されたといえる。そうしてみると、引用発明の「光学シート30」は、本件発明1の「光学体」の「非周期構造が縦横に複数配列された」との要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
以上の対比結果を踏まえると、本件発明1と引用発明は、以下の点で一致する。

「 複数の単レンズからなる単レンズ群で構成された矩形状の非周期構造領域が縦横に複数配列された光学体であって、
前記非周期構造領域では、前記単レンズ群の配置状態が全体として非周期的である、光学体。」

イ 相違点
本件発明1と引用発明は、以下の点で相違する。

(相違点1)
「前記単レンズ」が、本件発明1は、「外形は互いに異なる複数の曲線で構成され」ているのに対して、引用発明の「単位レンズ35」は、このように特定されていない点。

(相違点2)
本件発明1は、「前記単レンズの平均開口径DAVEが30〜250μmであり、かつ、前記単レンズの基準曲率半径Rが20〜200μmであるという条件下において、前記非周期構造領域の配置方向に沿った一辺の長さLが0.8mm以上、4mm以下であり、かつ、前記非周期構造領域の一辺の長さLと、当該非周期構造領域における前記単レンズの平均開口径DAVEと、の比が25倍以上である」のに対して、引用発明は、「単位レンズ35」の平均開口径及び基準曲率半径、並びに「単位パターン領域S」の長さは明らかでなく、「単位パターン領域S」の長さと「単位レンズ35」の平均開口径との比も特定されていない点。

(3)判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
引用文献1には、「単位レンズ35が設けられるべき領域内の一部の領域内において、条件(A)および(B)が満たされるようにしてもよい。」(【0093】)との記載に続いて、「典型的な変形例として、図16の如く・・・即ち、此の例に於いては、単位レンズ35が設けられるべき全領域中に・・・単位パターン領域Sを2箇所以上含むようになる。」(【0094】)、「この例において、一つの領域S内におけるライン部44のパターンは・・・中略・・・上述した変形例によるパターン作成方法と同様にして作成することができる。特に最近では、プラズマディスプレイ装置や液晶表示装置に代表されるよう、画像表示装置10の表示面10aの大型化が進んでいる。とりわけこのような大型画像表示装置に対しては、単位レンズ35の配列パターン40に対応するライン部44が、複数の単位パターン領域Sを含んで構成されていて、且つ、各々の単位パターン領域S内に於いては互いに同一のパターンで閉領域42が配列されている構成とした場合、ライン部44のパターン作成を格段に容易化することが可能となる点において好ましい。」(【0095】)と記載されている。
上記記載から、当業者は、引用発明の「光学シート30」は、とりわけ大型画像表示装置へ適応した場合において有利な効果(パターン作成を格段に容易化することが可能となること)が奏されるものと直ちに認識する。したがって、引用文献1の上記記載に接した当業者が、引用発明の「光学シート30」の改良にあたり、引用発明1の上記記載に反して、敢えて小型のディスプレイへの適用を想定して、相違点2に係る本願発明の構成、すなわち、「非周期構造領域の配置方向に沿った一辺の長さL」(単位パターン領域Sの寸法)を「0.8mm以上、4mm以下であ」るとの構成を採用することを試みる動機は見出し難いといえる。
さらに、引用発明の「単位パターン領域」の寸法について、引用文献1には、次の記載がある。
「このような変形例では、例えば図16に示すように・・・中略・・・単位レンズ35を配置されるべき領域内において、ライン部44の複数の閉領域42が所定の規則性を持って繰り返し並べられている直線方向が存在するようになる。この場合、領域Sの規則的な配列に起因して、縞状模様(モアレ、干渉縞)或いは濃淡ムラが発生する心配もある。」(【0097】)、「但し、特定方向への同一単位パターン領域Sの繰返し数が或る程度までに抑えられていれば、斯かる縞状模様や濃淡ムラは無視し得る。・・・中略・・・具体的には、図16に示すように、複数の単位パターン領域Sがある方向に所定のピッチSP1,SP2で配列されている場合には、当該所定のピッチSP1,SP2は、ある方向に沿った画像形成装置の寸法L1,L2の1/4以上となっていることが好ましく、あるいは、家庭用テレビ受像器への適用においては50mm以上となっていることが好ましい。」(【0098】)
上記記載は、本件発明1の「非周期構造領域の一辺の長さL」に相当する、上記SP1及びSP2の寸法を示唆するものの、具体的な寸法については「50mm以上」と記載されているにとどまる。また、寸法L1及びL2の具体的な値が示唆されていないことから、その下限値である「1/4以上」との記載が、相違点2に係る本件発明1の「0.8mm以上、4mm以下」を示唆していると解することはできない。
さらにまた、引用文献1には、次の記載がある。
「隣接する単位パターン領域同士の境界の継目の修整処理・・・単位パターン領域の形状・・・、配列様式・・・等の工夫如何によっては、単位パターン領域Sの縦横の配列ピッチSP1、SP2が、画像形成装置の寸法L1,L2の1/10以上となっていれば、あるいは、家庭用テレビ受像器や携帯端末用表示装置への適用において20mm以上となっていれば、縞状模様や濃淡ムラを十分に目立たなくし得ることが知見された。」(【0099】)
上記記載は、引用発明の「単位パターン領域S」の寸法(SP1及びSP2)が、工夫次第では、その下限値がさらに小さくし得ること及び引用発明の「光学シート30」が携帯端末用表示装置のような必ずしも大型とはいえない装置への適用が排除されていないことを示唆しているといえる。しかしながら、【0099】の「携帯端末要表示装置への適用において20mm以上となっていれば」との記載は、SP1及びSP2の寸法は小さくてもせいぜい「20mm」程度であって、それ以上に小さい「0.8mm以上、4mm以下」とすることを示唆しているとまではいい難い。
以上によれば、引用文献1の【0098】及び【0099】の記載は、引用発明の「光学シート30」を、引用文献1の【0095】の上記記載の趣旨に沿わないような、小型(L1又はL2が40mm以下のもの)の画像形成装置へ適用することを示唆する記載とはいえない。

また、次のように考えることもできる。
引用文献1の【0004】、【0006】及び【0101】には、それぞれ、「プラズマディスプレイパネル(以下において、単に「PDP」とも呼ぶ)や液晶表示パネル(以下において、単に「LCDパネル」とも呼ぶ)等に代表される画像形成装置は、繰返し周期を持った画素配列を有し、画素毎の光を制御することによって所望の画像を形成している。このため・・・画素配列の周期性と単位レンズの周期性との干渉に起因した縞状の模様、すなわちモアレ(干渉縞)が視認され、表示される画像の質を劣化させることがあった。」、「本発明は、このような点からなされたものであり、濃淡ムラおよびモアレの両方を目立たなくさせることができる光学シート、並びに、この光学シートを含んだ画像表示装置を提供することを目的とする。」及び「(用途)以上に説明してきた光学シート30および画像形成装置10は、各種用途に使用可能である。特に、テレビジョン受像装置、各種測定機器や計器類、各種事務用機器、各種医療機器、電算機器、電話機、電飾看板、各種遊戯機器等の表示部に用いられるプラズマディスプレイ(PDP)装置、ブラウン管ディスプレイ(CRT)装置、液晶ディスプレイ装置(LCD)、電場発光ディスプレイ(EL)装置などの画像表示装置への適用に好適であり、特にプラズマディスプレイ装置への適用に好適である。」と記載されている。
上記記載から、引用文献1は、画像形成装置における画素配列の周期性と単位レンズの周期性との干渉に起因した濃淡ムラおよびモアレの両方を目立たなくさせることを目的として、特にプラズマディスプレイパネル等の比較的大型の画像形成装置への適用に好適な光学シートが記載されている。たしかに、引用文献1の【0099】に携帯端末用表示装置が記載されているものの、引用文献1には、寸法が40mm以下である携帯端末用表示装置が示唆されているとまではいえないことは既に述べたとおりである。

そして、原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2016/143350号(以下、同じく「引用文献2」という。)にも、上記相違点2に係る本件発明1の構成を窺わせる記載はない。
そうしてみると、たとえ当業者といえども、引用発明の「光学シート」を寸法が40mm以下である画像形成装置に適用することは、容易になし得たということができない。

以上総合すると、相違点2に係る本件発明のその他の構成及び相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)本件発明の効果について
本件発明1の効果について、本件明細書の【0020】には、「以上説明したように本発明によれば、非周期性構造としてマイクロレンズアレイが広域に配列展開された光学体において、非周期構造よりも大きな構造単位での周期的な光学特性の発現を抑制することが可能となる。」と記載されている。また、同【0068】〜【0073】、図12〜21には、光学体の拡散光をシミュレートしていて、同【0074】には、「かかる結果から、本発明者らは、非周期構造領域である単位セル3の大きさと、単位セル3における単レンズ21の平均開口径DAVE、01と、の寸法比が25倍以上である光学体を製造すれば、マクロパターンの発生を抑制可能であるとの知見を確信するに至った。」と記載されている。
上記効果は、本件発明1の構成に基づいて奏されるものであって、当業者にとって予想可能な範囲内のものとはいえない。
そうしてみると、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、容易に想到し得たということができない。

(5)小括
したがって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用文献1〜2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたということができない。

2 本件発明2〜12について
本件発明2〜12は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2〜12も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1〜2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたということができない。


第6 原査定について
上記第5で述べたように、本件の請求項1〜12に係る発明は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1〜2に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたということができない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-05-09 
出願番号 P2016-256465
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 関根 洋之
井口 猶二
発明の名称 光学体、拡散板、表示装置、投影装置及び照明装置  
代理人 特許業務法人青海特許事務所  

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