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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1385111
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-23 
確定日 2022-03-17 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6538225号発明「電子レンジ加熱食品用容器の製法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6538225号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。 特許第6538225号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許6538225号の請求項1に係る特許についての出願は、平成29年2月16日(優先権主張平成28年3月14日 日本国)を出願日とする特願2017−27018号の一部を、平成30年3月20日に新たな特許出願(特願2018−52726号)としたものであって、令和元年6月14日にその特許権の設定登録がされ、令和元年7月3日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。
令和元年12月23日 :特許異議申立人豊田敦子(以下「申立人」という。)により請求項1に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年3月27日付け :取消理由通知
令和2年5月20日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年6月26日 :申立人による意見書の提出
令和2年9月18日付け :取消理由通知(決定の予告)
令和2年11月18日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年12月15日 :申立人による上申書の提出

なお、特許法第120条の5第7項の規定により、令和2年5月20日に提出された訂正請求書に係る訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。
また、令和2年5月20日の訂正の請求に対して、申立人に訂正の請求があった旨の通知を送付して意見書を提出する機会を既に与えており、令和2年11月18日に提出された訂正請求書による訂正の請求については、特許法第120条の5第5項に規定する特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないとされる特別な事情にあたると認められるため、申立人に、再度、意見書を提出する機会は与えなかった。

第2 訂正の適否について
1. 訂正の内容
上記令和2年11月18日提出の訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
本件訂正前の請求項1の「前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する排気部を」という記載を、「前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する排気部を」と訂正する。

(2) 訂正事項2
本件訂正前の請求項1の「当該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成した蓋体部を得るに際して」という記載を、「異物混入防止のための、当該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成した蓋体部を得るに際して」と訂正する。

(3) 訂正事項3
本件訂正前の請求項1の「前記蓋面部にレーザー光線の照射をオンして準備時間(t3)の経過により貫通孔を形成し」という記載を、「前記蓋体部の蓋面部にレーザー光線の照射をオンして準備時間(t3)の経過により貫通孔を形成し」と訂正する。

(4) 訂正事項4
本件訂正前の請求項1の「幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群を形成する」という記載を、「幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる排気部を形成する」と訂正する。

(5) 訂正事項5
本件訂正前の明細書の段落【0010】の「すなわち、請求項1の発明は、電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と、前記容器本体部の開口部と嵌合する合成樹脂シートからなる蓋体部とを備えた蓋嵌合容器において、前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する排気部を、当該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成した蓋体部を得るに際して、前記蓋面部にレーザー光線の照射をオンして準備時間(t3)の経過により貫通孔を形成しその後の作業時間(t4)の経過により所定の長穴形状にまで拡張した後にレーザー光線の照射をオフにすることによって幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群を形成することを特徴とする電子レンジ加熱食品用容器の製法に係る」
という記載を、「すなわち、請求項1の発明は、電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と、前記容器本体部の開口部と嵌合する合成樹脂シートからなる蓋体部とを備えた蓋嵌合容器において、前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する排気部を、異物混入防止のための、当該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成した蓋体部を得るに際して、前記蓋体部の蓋面部にレーザー光線の照射をオンして準備時間(t3)の経過により貫通孔を形成しその後の作業時間(t4)の経過により所定の長穴形状にまで拡張した後にレーザー光線の照射をオフにすることによって幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる排気部を形成することを特徴とする電子レンジ加熱食品用容器の製法に係る」と訂正する。

(6) 訂正事項6
本件訂正前の明細書の段落【0011】の「前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する排気部を、当該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成した蓋体部を得るに際して、前記蓋面部にレーザー光線の照射をオンして準備時間(t3)の経過により貫通孔を形成しその後の作業時間(t4)の経過により所定の長穴形状にまで拡張した後にレーザー光線の照射をオフにすることによって幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群を形成する」という記載を、「前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する排気部を、異物混入防止のための、当該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成した蓋体部を得るに際して、前記蓋体部の蓋面部にレーザー光線の照射をオンして準備時間(t3)の経過により貫通孔を形成しその後の作業時間(t4)の経過により所定の長穴形状にまで拡張した後にレーザー光線の照射をオフにすることによって幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる排気部を形成する」と訂正する。

2. 訂正の適否についての判断
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の「水蒸気を外部に排気する排気部」を、「異物混入を抑制する」という技術的意義を奏するものに限定するための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
本件特許明細書の「容器の蓋体部に微細な長孔の排気部を設けた構造が有効であることを見出した。しかも、微細な長孔であることから、破損や異物混入への耐性も良好であることが判明した。」(【0008】)という記載から、新規事項を追加するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の「当該排気長孔群を被覆又は包皮する部材」が、「異物混入防止のための」ものである点を付加し、限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
本件特許明細書の「U字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部の排気効率は良好である。ところが、水蒸気の排気が良好ということは、それだけ、舌片状の開口部からの異物侵入のおそれも増す。そのために、・・・舌片状の開口部を被覆するためのフィルム部材も別途必要により被せられる。」(【0005】)、及び、「本発明の食品用容器(電子レンジ加熱食品用容器)における排気長孔の大きさを勘案すると、極めて微細であることから昆虫等の異物侵入を有効に抑制できる。そのため、本発明の食品用容器では、従前の容器に見られた蓋体部の排気を担う穴を被覆したり包皮したりするフィルム等の部材は、省略可能となる。」(【0040】)という記載から、新規事項を追加するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の「前記蓋面部」という記載箇所の前に「蓋面部」の記載がなく、この点本件請求項1に係る発明を明確にするための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
本件特許明細書の「蓋体部10の蓋面部11に排気長孔群20を構成する個々の排気長孔21に際し、蓋面部11にレーザー光線が照射され、同蓋面部11に排気長孔21が穿設される。」(【0023】)という記載から、新規事項を追加するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。

(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、本件訂正前の「排気部」と「排気長孔群」との関係を明確にするための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
本件特許明細書の「蓋体部10の蓋面部11には、排気長孔21が形成されている。図示のように、排気長孔21は複数個備えられており、これらの排気長孔21が複数個集まって排気長孔群20からなる排気部が形成されている。」(【0014】)という記載から、新規事項を追加するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。

(5) 訂正事項5について
訂正事項5は、本件特許明細書の段落【0010】の記載を、上記訂正事項1〜4に係る訂正内容と整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
上記(1)〜(4)に示したのと同様に、訂正事項5は、新規事項を追加するものではない。また、特許請求の範囲を拡張ないし変更するものではないことは明らかである。

(6) 訂正事項6について
訂正事項6は、本件特許明細書の段落【0011】の記載を、上記訂正事項1〜4に係る訂正内容と整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
上記(1)〜(4)に示したのと同様に、訂正事項6は、新規事項を追加するものではない。また、特許請求の範囲を拡張ないし変更するものではないことは明らかである。

3. 訂正の適否についての小括
上記2.に示したとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定する事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正後の請求項1及び明細書について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1. 本件発明
上記の通り本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と、前記容器本体部の開口部と嵌合する合成樹脂シートからなる蓋体部とを備えた蓋嵌合容器において、
前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する排気部を、異物混入防止のための、当該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成した蓋体部を得るに際して、 前記蓋体部の蓋面部にレーザー光線の照射をオンして準備時間(t3)の経過により貫通孔を形成しその後の作業時間(t4)の経過により所定の長穴形状にまで拡張した後にレーザー光線の照射をオフにすることによって
幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる排気部を形成する
ことを特徴とする電子レンジ加熱食品用容器の製法。」

2. 令和2年9月18日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
当審が令和2年9月18日付けで、特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。

【理由1】(進歩性) 本件特許の本件発明1は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引 用 文 献 一 覧>
1.特開平3−114418号公報
2.実願平2−106124号(実開平4−62684号)のマイクロフィルム
3.特開2004−10156号公報
4.特開2014−91542号公報
5.特開2004−283871号公報

(1) 本件発明1について
本件発明1は、引用発明1、引用文献5に記載された事項及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 当審の判断
1. 引用文献1について
引用文献1には、次の記載がある。
(1) 「(1) マイクロ波透過部材からなり上方に開放部を有する容器本体、該容器本体の開放部を覆い容器本体内部を略密閉状態となし得る小孔付の蓋であって、該小孔が該開放部を覆う位置に存在し、該小孔の面積の総計が該開放部面積の0.005〜1%に相当し、かつマイクロ波透過部材からなる蓋とから構成された容器の内部に、吸水することによって復元し、喫食状態となる固形即席食品を収容し、該固形食品の吸水量の100〜155重量%の水の存在下に、電子レンジで加熱調理するための即席食品入り容器。」(1ページ左欄4〜14行)
(2) 「〔問題点を解決するための手段〕
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究した結果、以下のような知見を得た。
1) 容器内部を略密閉状態となし得る容器に、固形即席食品と水とを収容し、これを電子レンジで加熱することによって、容器内部が強い沸騰状態となって沸騰水面が即席食品の上部にまでおよび、即席食品を極めて短時間に、完全かつ均一に復元することができること。
2) また、上記の作用は、容器に収容する水の量が比較的少量であっても達成されること。従って、容器に収容する水の量を、即席食品を喫食状態に復元するに充分な量とすることによって、水は加熱中に即席食品にほぼ完全に吸収され、加熱後に水を捨てる必要がないこと。
3) また、蓋の構造は、加熱時に容器内圧が極端に高くなって容器が破裂することを防止し、かつ、容器内圧を調圧するための小孔を容器の蓋に設けることが効果的であって、この際、小孔の総面積を、容器本体の上方開放部面積の特定の割合とすること。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明は、マイクロ波透過部材からなり上方に開放部を有する容器本体、該容器本体の開放部を覆い容器本体内部を略密閉状態となし得る小孔付の蓋であって、該小孔が該開放部を覆う位置に存在し、該小孔の面積の総計が該開放部面積の0.005〜1%に相当し、かつマイクロ波透過部材からなる蓋とから構成された容器の内部に、吸水することによって復元し、喫食状態となる固形即席食品を収容し、該固形食品の吸水量の100〜155重量%の水の存在下に、電子レンジで加熱調理するための即席食品入り容器を提供する。
本発明で使用する容器は、内容物を出し入れするために上方に開放部を有した容器本体と、上記開放部を覆い容器内部を略密閉状態となし得る小孔付の蓋とから構成される。容器本体及び蓋は、マイクロ波を透過し、かつ電子レンジの加熱に耐えうる耐熱性材料でつくる。マイクロ波を透過する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリエステル、ナイロン、紙及びこれらのラミネート物等が好適に使用される。」(2ページ右上欄13行〜右下欄17行)
(3) 「・・・そして、容器本体と蓋との接合部の構造は、電子レンジによる加熱の際に、内容物の噴きこぼれを防止し、容器内部に蒸気が充満されるように、容器内部を略密閉状態となし得る構造とする必要がある。上記の構造としては、例えば、ネジ込み式の螺合構造、着脱自存な嵌着構造或いは上記接合部を取り囲む位置に熱収縮フィルムを設け、これが電子レンジでの加熱の際に熱収縮して蓋を容器本体に固定する構造等を採用することができる。
さらに、蓋には、容器開放部を覆う位置に、小孔を設ける。この際、小孔の大きさを容器本体の上方開放部面積の0.005〜1%、好ましくは、0.2〜0.8%とすることが望ましい。
このように蓋に小孔を設けるのは、本発明の容器が調理時に、電子レンジにより強く加熱された場合、発生する水蒸気により容器内部の圧力が異常に上昇するのを回避するためであるが、一方、この小孔が一定の値を越えて大きい場合、発生した蒸気が容器外に揮散して容器内に蒸気が充満した雰囲気を達成できず、食品の加熱に蒸気が十分に作用しないため、特に食品の上部が乾燥状態となって良好に復元されず、加熱復元は不均一で不十分となる。
そこで、蓋に前記のような適切な大きさの小孔を開けることにより、容器内の異常な圧力の上昇を防ぐとともに、容器内の蒸気密度及び雰囲気温度を高く保ち、これにより即席食品を良好かつ短時間で復元調理できるようにしたのである。」(3ページ左上欄5行〜右上欄13行)
(4) 「前記の固形即席食品を内部に収容した本発明の即席食品入り容器は、該食品の吸水量の100〜155重量%(以下%と略称する。)の水の存在下で電子レンジを用いて加熱調理するために用いるものである。ここで、水の代わりに湯を用いることも、又調味液を用いることもできる。そして、水の量は、即席食品の吸水量の100〜155%、好ましくは100〜132%とされる。ここでいう水の量には、調味液の量も含まれる。」(3ページ右下欄11〜19行)
(5) 「本発明の食品入り容器をこのような状態で、電子レンジを用いて加熱すると、蓋の小孔により異常な圧力の上昇は防止され、一方、容器は略密閉状態となっているので、容器内部で水の沸騰水面が即席食品の上部にまでおよぶような強い沸騰状態となり、また容器内に蒸気が充分に充満して、即席食品を短時間で、完全かつ均一に復元することができる。つまり、容器内部に蒸気が充満するので、加熱効率が高く、加熱の後半で、即席食品の吸水が進行し、沸騰水面が下がってきても即席食品の上部を乾燥させずに、即席食品を均一に復元することができるのである。」(4ページ左上欄15行〜右上欄6行)
(6) 「実施例1
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。第1図は本発明の即席食品入り容器1の断面図を示すものであり、容器本体2とその上方開方部を覆う蓋3とから構成される容器内に乾燥即席食品4が収容されている。
容器本体2及び蓋3は、容器の内部側がポリプロピレンで外側が紙である構造の0.5mmのラミネート材で形成されている。容器本体2の上方開放部の径が120mm、内部底面の径が105mm、高さが64mmの略逆円錐台形のものである。また、容器本体2の底部には、電子レンジテーブル5に対して内容物を上方に保持する(h1=9mm)ために部材6が容器本体2に一体的に形成されている。蓋3は、外径122mm、内径が121mmの円形板7と、その上部周縁から容器本体2の側部に張り出した部分8(この部分の上下方向の距離h2は12mmである)から構成されている。また、蓋3には直径3.2mmの円形の開孔9が、蓋3の中央を中心として放射状に8個設けられている(この場合の開孔率は、容器本体2の上方開放部の面積の0.57%である)。
容器本体2の上部周縁の径と蓋3の円形板7の内径がほぼ等しいことによって、図示の状態に緊合され、容器内部が密閉される。」(5ページ右上欄12行〜左下欄16行)
(7) 「実施例2
上方開放部が11cm×14cm、容器内部の深さが4cmの直方体の合成樹脂容器(内容積約616cm3)に、即席食品として10cm×13cm×2.5cmの焼きそば用即席麺の麺塊80g及び焼きそば用ソース170g(即席麺の吸水量の約120重量%)を収容し、容器の上方開放部に、約0.8cm2(開孔率0.52%)の小孔を有する合成樹脂性の蓋で覆い、電子レンジに入れて出力500Wで5分間加熱した。尚、蓋はすべて周辺部に凹を有し、上部凹部が容器上縁に形成された凸部に嵌合されて容器に取り付けられ、上記取り付け部分において容器が密閉される構造である。なお、開孔率とは、蓋に開けられた小孔の面積が容器本体の開放部の面積に対して占める割合をいう。
上記即席食品入り容器を電子レンジで加熱調理した場合、加熱中沸騰水面が継続して麺の上部にまで至り、容器内に蒸気が充満して激しい沸騰状態となるが、蓋は外れない。」(6ページ左上欄7行〜右上欄5行)
(8) 第1図「



以上の摘記事項(1)〜(7)及び(8)の図示を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体(2)と、前記容器本体(2)の開口部と嵌合する合成樹脂シートからなる蓋(3)とを備えた容器(1)において、
前記蓋(3)の蓋面部に、調理時に電子レンジにより強く加熱された場合、発生する水蒸気により容器内部の圧力が異常に上昇するのを回避するための小孔を形成する、
電子レンジ加熱食品用容器の製法。」


2. 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「電子レンジ加熱のための食品」、「容器本体(2)」、「蓋(3)」、「容器(1)」は、本件発明1の「電子レンジ加熱のための食品」、「容器本体部」、「蓋体部」、「蓋嵌合容器」にそれぞれ相当する。
引用発明の「蓋(3)の蓋面部に、調理時に電子レンジにより強く加熱された場合、発生する水蒸気により容器内部の圧力が異常に上昇するのを回避するための小孔を形成する」ことは、本件発明1の「容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する排気部を、異物混入防止のための、当該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成した蓋体部を得るに際して、
前記蓋体部の蓋面部にレーザー光線の照射をオンして準備時間(t3)の経過により貫通孔を形成しその後の作業時間(t4)の経過により所定の長穴形状にまで拡張した後にレーザー光線の照射をオフにすることによって幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる排気部を形成する」ことと、「蓋体部の蓋面部には、容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する孔を形成する」製法である限りで一致する。

そうすると、本件発明1と引用発明は、以下の<一致点>で一致し、<相違点1>及び<相違点2>で相違する。

<一致点>
「電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と、前記容器本体部の開口部と嵌合する合成樹脂シートからなる蓋体部とを備えた蓋嵌合容器において、
前記蓋体部の蓋面部には、前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する孔を形成する、電子レンジ加熱食品用容器の製法。」

<相違点1>
本件発明1は、「蓋体部」を得るに際して、「前記蓋体部の蓋面部にレーザー光線の照射をオンして準備時間(t3)の経過により貫通孔を形成しその後の作業時間(t4)の経過により所定の長穴形状にまで拡張した後にレーザー光線の照射をオフにすることによって
幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる排気部を形成する」のに対し、
引用発明は、「蓋」の「蓋面部」の「小孔」が、複数穿設することで「群」からなる「排気部」を形成する「長孔」であるとは特定されていないし、どのように形成するかも特定されていない点。

<相違点2>
本件発明1の蓋体部は、「容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する排気部を、異物混入防止のための、当該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成した」のに対し、
引用発明の蓋は、「調理時に電子レンジにより強く加熱された場合、発生する水蒸気により容器内部の圧力が異常に上昇することを回避するための小孔を形成する」ものではあるものの、この小孔が異物混入を抑制するものであるか否かや、この小孔を被覆又は包皮する部材を備えるか否かは特定されていない点。

3. 相違点についての判断
(1) <相違点1>について
ア. 引用文献1の「・・・蓋には、容器開放部を覆う位置に、小孔を設ける。この際、小孔の大きさを容器本体の上方開放部面積の0.005〜1%、好ましくは、0.2〜0.8%とすることが望ましい。
このように蓋に小孔を設けるのは、本発明の容器が調理時に、電子レンジにより強く加熱された場合、発生する水蒸気により容器内部の圧力が異常に上昇するのを回避するためであるが、一方、この小孔が一定の値を超えて大きい場合、発生した蒸気が容器外に揮散して容器内に蒸気が充満した雰囲気を達成できず、食品の加熱に蒸気が十分に作用しないため、特に食品の上部が乾燥状態となって、良好に復元されず、加熱復元は不均一で不十分となる。」(3ページ左上欄15行〜右上欄8行)という記載からみて、引用発明の「小孔」は、「水蒸気により容器内部の圧力が異常に上昇するのを回避するため」に、「小孔の大きさを容器本体の上方開放部面積の0.005%」以上、「好ましくは、0.2%」以上とする一方、「小孔が一定の値を超えて大きい場合、発生した蒸気が容器外に揮散して容器内に蒸気が充満した雰囲気を達成できず、食品の加熱に蒸気が十分に作用しないため、特に食品の上部が乾燥状態となって、良好に復元されず、加熱復元は不均一で不十分となる」から、小孔の大きさを容器本体の上方開放部面積の0.8%以下と、するものである。
イ. ここで、引用発明の「小孔」の形状について、引用文献1には「円形」とする実施例が記載されているものの、引用文献1には、「小孔」の形状が「円形」であることが必須である旨の記載や示唆もない。
また、例えば引用文献3には、
「【0005】
・・・本発明においては、2重包装の中の電子レンジ及び/又は蒸気加熱及び/又は熱湯による加熱に対応する食品の包装材料に、直径1μ〜5cmの円形、多角形又は星形の孔及び/又は「短径1μ〜5cmの楕円形の孔及び/又は一辺の長さが1μ〜5cmの正方形、矩形、三角形又は各種変形型の孔」を全面もしくは適宜の箇所に設けることによって、これら孔から蒸気を逃がし、暴発を防ぐことができるものである。
【0006】
一般に、電子レンジ及び/又は蒸気加熱及び/又は熱湯による加熱に対応する食品の包装材料は、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの単層、二層、三層のフィルムからなるもので、・・・底部と蓋部とに成形し、底部に食品ををつめ、蓋部を合わせて周囲を同一樹脂部で熔着して電子レンジ及び/又は蒸気加熱及び/又は熱湯による加熱に対応する食品が包装されている。
【0007】
本発明における各種の孔は、底部にも蓋部にも設けることができる。各種の直径1μ〜5cmの孔は、基本的にはレーザー光線によって、あけることができ、・・・
【0008】
本発明においては、直径1μ〜5cmの円形、多角形又は星形の孔及び/又は短径1μ〜5cmの楕円形の孔及び/又は一辺の長さ1μ〜5cmの正方形、矩形、三角形又は各種変形型の孔が均一又はごちゃまぜに設けられたり、また直径1cm〜5cmの孔であれば蓋に1〜5個位設けたり、蓋に1mm〜1cmの孔をごちゃまぜに設けることができる。・・・」という記載があり、電子レンジで加熱する包装材料に蒸気を逃がすために形成する「孔」の形状を、「楕円形」や「矩形」とすることは、周知の事項である。
また、上記引用文献3に記載された「短径1μ〜5cmの楕円形の孔及び/又は一辺の長さが1μ〜5cmの正方形、矩形、三角形又は各種変形型の孔」を「1〜5個位設けたり」(段落【0008】)という記載、及び、引用文献4の【図13】に図示された「平坦面の上面部位に長孔状の蒸気抜き部を複数並べた配置」から、蒸気を抜くための「孔」を、長孔とし、「群」として配置することも、周知の事項である。

引用文献4、【図13】




そうすると、引用発明における「小孔」の形状や配置の決定は、孔から蒸気を逃がし暴発を防ぐ上で、当業者が適宜行う設計的事項であり、その形状を「長孔」とし、「長孔」の「群」、すなわち「長孔群」からなる「排気部」とすることは、蒸気を抜くための「孔」として、周知の形状を採用したに過ぎない。
ウ. さらに「長孔」の幅を0.15〜1mmとすることも、上記引用文献3の、「短径1μm〜5cmの楕円形の孔」、「一辺の長さが1μ〜5cm」の矩形の孔との記載からみて、蒸気を逃し、暴発を防ぐために、当業者が適宜採用する数値範囲にすぎない。
その際、引用発明は「即席焼きそばや即席マカロニ等の固形即席食品を、電子レンジで調理する」(引用文献1の2ページ左上欄3〜4行)ための容器、すなわち食品を収納する容器であるから、当該「小孔」が大きすぎると、当該「小孔」をとおして、虫が侵入するといった不具合が生じることは当業者にとって自明である。そして食品を収納する容器に形成する孔の大きさを1mm以下の大きさとすると、容器内への異物の混入が抑制できることは、例えば、引用文献2(5ページ3〜6行)に示されたように、従来周知の事項である。
エ. また、引用文献5には、プラスチック構造体に、微細孔の形成によって、フィルター機能を発揮せしめる(段落【0055】)ために、当該プラスチック構造体に対して、「長径と短径とを有するような形状を有している場合、その径としては、短径が200μm以下」(段落【0020】)の微小孔部を、パルス状のレーザーにて形成することが記載されている。 ここで、レーザー照射によりプラスチックを溶融させて貫通させた後、次のライン8の形成に移るために、レーザー照射をオフにすることは明らかであり、また、引用文献5のレーザー加工は、レーザー照射によりプラスチックを溶融させて加工する以上、貫通するまでに、所定の時間、レーザー照射しさらに、目標とする形状に加工が完了するまでにも、所定の時間、レーザー照射を行う加工であることも明らかである。
引用発明の容器の蓋も、引用文献5のプラスチック構造体も、ともに合成樹脂のシートを加工することで共通するから、引用発明に引用文献5記載の上記レーザー加工についての事項を採用して、上記<相違点1>で特定される長孔群を形成することに格別の困難性は認められない。
オ. 以上のとおりであるから、引用発明において、上記<相違点1>に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

(2) <相違点2>について
引用文献1には、引用発明の蓋が、小孔を被覆又は包皮する部材を備えることの記載はないし、示唆する記載もない。そして、上記(1)ウ.に示したように、食品を収納する容器に形成する孔の大きさを1mm以下の大きさとすると、容器内への異物の混入が抑制できることは、従来周知の事項であることを踏まえると、「小孔」を備えた引用発明は、「異物混入防止のため」の「排気部を被覆又は包皮する部材」を備えずとも、容器内への異物の混入が抑制できる作用を奏するもの、すなわち「小孔」は「水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制するもの」であるといえる。
よって、上記<相違点2>は、実質的なものではない。

4. 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、引用発明、引用文献5に記載された事項及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。

第5 令和2年11月18日に特許権者が提出した意見書について
1. 特許権者の主張
令和2年11月18日に特許権者は意見書を提出して、大要、以下の点主張している。
(1) 特許権者は・・・「電子レンジ蒸気孔」の構成によって、当該蒸気孔の「蒸気排気機能」を妨げることなく「異物混入抑制機能」を両立して実現するという「課題」については、解決すべき技術的課題の斬新性が認められるものであることを主張する。(4ページ7〜13行)

(2) 「このように、本件発明1にあっては、
(α)<<製品>>である「電子レンジ加熱食品用容器」についての、「良好な水蒸気排気」(を確保する)と同時に「封止性能改善、異物混入抑制」を実現し、併せて
(β)<<方法>>である「レーザー加工による製法」についての「穿孔作業時間が短縮でき作業効率が向上」するという効果、さらに
(γ)<<製品の製法>>である「電子レンジ加熱食品用容器」のレーザー加工による製法」として、「排気長孔からなる排気部を形成した蓋体部」を有する「電子レンジ加熱食品用容器の製法」に特化した、予測できない顕著な効果を有するものである。」と主張している。(58ページ10〜19行)

2. 検討
(1) まず、電子レンジで加熱する容器においても、水蒸気を排出する孔から塵埃や虫などの異物が混入するおそれがあることは、実願平2−71089号(実開平4−29977号)のマイクロフィルムの「近年、オーブン、ガスレンジおよび電子レンジ等の加熱調理機器が家庭内に普及するに至り、これに対応したインスタント食品が数々販売されるようになった。・・・容器の蓋に孔があいていると容器内部に常に、ホコリ、虫等の異物が混入するおそれがあり、又、外気の出入を許すため食品衛生・保存の見地からも好ましくない。」(明細書3ページ13行〜5ページ5行)という記載、及び、特開平2014−227185号公報の「【0002】・・・・このような食品包装用容器には、蓋をしたまま電子レンジなどで加熱できるように、蓋の天板部に孔や切込みなどからなる通気部を設け、蒸気等が抜けるようにしたものがある。」、「【0006】食品包装用容器を複数段に棚積みして陳列した場合、蓋の天板部は荷重を受けるため変形しやすくなる。従来の如く、天板部に孔や切込みなどの通気部を設けた蓋は、天板部の変形により通気部が変形して隙間が大きくなり、塵埃などが容器内に侵入するおそれがあった。」という記載に示されるように、本件特許に係る優先日前に周知の課題であり、特許権者が上記1.(1)で主張する「解決すべき技術的課題」が「斬新性」を有するとまではいえない。
(2) そして、本件発明1の電子レンジ加熱食品用容器の排気細孔が、昆虫等の異物混入を抑制する効果を奏するのは、主に工場等で容器内に食品を収容して店舗で販売されるまでの段階であって、この段階で虫等の混入を防止する効果を奏することは、上記引用文献2の周知技術においても同様であり、引用文献2の「孔の大きさは・・・殊に、1mm以下の大きさとすると、虫の侵入が防止できるので好ましい。」との示唆も踏まえれば、引用発明の小孔が、電子レンジ加熱時に水蒸気を排出できるともに、虫等の異物混入の抑制に効果があることは、当業者であれば予測できるものである。
(3) また、引用文献5の「【発明の効果】本発明の微小孔部を有するプラスチック構造体の製造方法によれば、プラスチックに、微小径の孔部を容易に形成することができる。さらに、マスクが不要であり、しかも、優れた生産性で微小な貫通孔及び/又は陥没孔を形成することができる」(【0066】)という記載から、上記1.に示した「(β)<<方法>>である「レーザー加工による製法」についての「穿孔作業時間が短縮でき作業効率が向上」するという作用・効果は当業者が予測し得た以上のものであるとはいえない。
(4) 以上のとおりであるから、特許権者の主張する上記1.に示した作用効果は格別なものであるとはいえない。
(5) よって、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、上述のように引用発明、引用文献5に記載された事項、及び、周知の事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものであり、特許権者の上記主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1は、引用発明、引用文献5に記載された事項及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第2項に該当することを理由として、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】電子レンジ加熱食品用容器の製法
【技術分野】
【0001】
本発明は電子レンジ加熱食品用容器に関し、特に蓋体部からの水蒸気の効率よい排気を可能とする容器の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
調理済み食品をコンビニエンスストア等の小売店にて販売する際の加熱調理または持ち帰った後の加熱調理に際し、これらの食品を包装する容器は容器本体部とその開口部と嵌合する蓋体部の組み合わせからなる。特に、食品の収容、陳列、販売等の1回のみの使用に用いられる使い切り容器であることから、極力簡素化した蓋嵌合構造である。そのため、現状、合成樹脂シートの成形品が容器の主流である。
【0003】
食品の加熱調理や温め直しには、通常電子レンジ(マイクロ波照射)が使用される。そこで、食品容器ごと電子レンジ内に入れられそのまま加熱された後に提供される。実際に販売される食品に着目すると、スープ類のように水分量の多い食品から、炒め物等のように重量当たりの水分量の少ない食品まで存在し、食品の種類は実に多用である。ここで問題となることは、電子レンジによる食品の加熱調理の際、容器内の食品から水蒸気が発生することである。
【0004】
蓋嵌合容器においては、容器本体と蓋体の嵌合を緩くすれば内部発生の水蒸気の排気は容易である。しかし、蓋体側の嵌合が緩い場合、製造、出荷、陳列の中間段階で蓋体が外れやすい等の問題から異物混入が懸念される。このため、食品の購入者からの評判は思わしくない。そこで、内部発生の水蒸気を容器外部に排気するための穴部を形成した蓋体が提案されている(特許文献1、2等参照)。特許文献1、2に代表される容器の蓋体によると、U字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部が蓋体に形成されている。水蒸気はこの舌片状の開口部を通過して容器外部に放出される。
【0005】
U字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部の排気効率は良好である。ところが、水蒸気の排気が良好ということは、それだけ、舌片状の開口部からの異物侵入のおそれも増す。そのために、この場合、舌片状の開口部を塞ぐ封止テープが貼付されることがある。さらには、舌片状の開口部を被覆するためのフィルム部材も別途必要により被せられる。例えば、フィルム部材を被せる場合、舌片状の開口部の周りを取り囲む壁部が蓋体側に設けられ、舌片状の開口部の周りに隙間が形成される。そして、この壁部にも水蒸気の通り道が形成される等、構造が複雑となっていた。また、切れ込みによる舌片が折れて容器内部に落下すると、それ自体が異物混入となる問題も内包している。
【0006】
上述のように、既存の水蒸気を排気する構造を採用した容器では本来の食品包装にのみ必要な資材以外も必要となり、コスト上昇が否めない。加えて、切れ込みによる舌片状の開口部の形状は一律であり、周辺構造の制約も多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−50672号公報
【特許文献2】実用新案登録第3056026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一連の経緯から、発明者は、U字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わる新たな排気構造を模索してきた。その中で容器の蓋体部に微細な長孔の排気部を設けた構造が有効であることを見出した。しかも、微細な長孔であることから、破損や異物混入への耐性も良好であることが判明した。
【0009】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、従前のU字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わる新たな排気構造を提案し、良好な水蒸気排気を可能とし、同時に封止性能改善、異物混入抑制を実現し、併せて蓋体部の形状上の制約も少なく、資材コストの軽減にも有利で、さらに円孔形状に比して穿孔作業時間が短縮でき作業効率が向上する排気長孔からなる排気部を形成した蓋体部を有する電子レンジ加熱食品用容器の製法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、請求項1の発明は、電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と、前記容器本体部の開口部と嵌合する合成樹脂シートからなる蓋体部とを備えた蓋嵌合容器において、前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する排気部を、異物混入防止のための、当該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成した蓋体部を得るに際して、前記蓋体部の蓋面部にレーザー光線の照射をオンして準備時間(t3)の経過により貫通孔を形成しその後の作業時間(t4)の経過により所定の長穴形状にまで拡張した後にレーザー光線の照射をオフにすることによって幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる排気部を形成することを特徴とする電子レンジ加熱食品用容器の製法に係る。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明に係る電子レンジ加熱食品用容器の製法によると、電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と、前記容器本体部の開口部と嵌合する合成樹脂シートからなる蓋体部とを備えた蓋嵌合容器において、前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する排気部を、異物混入防止のための、当該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成した蓋体部を得るに際して、前記蓋体部の蓋面部にレーザー光線の照射をオンして準備時間(t3)の経過により貫通孔を形成しその後の作業時間(t4)の経過により所定の長穴形状にまで拡張した後にレーザー光線の照射をオフにすることによって幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる排気部を形成するため、従前のU字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わり、良好な水蒸気排気及び封止性能改善、異物混入抑制を実現し、より効率よく水蒸気を排気することができ、併せて蓋体部の形状上の制約も少なく、資材コストの軽減も可能となる。しかも、簡便かつ迅速に蓋面部に排気長孔を穿設することができ、円孔形状に比して穿孔作業時間が短縮でき作業効率が向上し生産量がアップし、特に量産性に優れる。とりわけ、従来の針刺しやドリル等の物理的な加工方法の場合、時間を多く要することに加え十分な加工精度が得られない等の点が挙げられ、また、孔形成に際し微粉末の発生の問題も払拭できず事後の洗浄の手間も必要となるのであるが、レーザー光線の照射によればこのような問題は一挙に解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子レンジ加熱食品用容器の分離状態の全体斜視図である。
【図2】電子レンジ加熱食品用容器の第1部分断面図である。
【図3】電子レンジ加熱食品用容器の第2部分断面図である。
【図4】レーザー光線照射と貫通との関係を示すタイムチャートである。
【図5】他の実施形態の排気長孔群付近の斜視図である。
【図6】排気長孔群の平面図形の平面図である。
【図7】蓋体部の排気長孔群を撮影した拡大写真である。
【図8】排気長孔群の拡大写真である。
【図9】電子レンジ加熱した後の蓋体部の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態の食品用容器1は、図1の分離状態の全体斜視図のとおり、容器本体部100と、この容器本体部100の開口部101と嵌合する蓋体部10の組み合わせから構成される。特に、容器本体部100の容器内部103に食品が収容され、蓋体部10が被せられた状態のまま電子レンジのマイクロ波照射により加熱または加温される(加熱調理)。それゆえ、食品用容器1は「電子レンジ加熱食品用容器」である。
【0014】
蓋体部10の蓋面部11には、排気長孔21が形成されている。図示のように、排気長孔21は複数個備えられており、これらの排気長孔21が複数個集まって排気長孔群20からなる排気部が形成されている。電子レンジによる加熱または加温に際し、容器本体部100内に収容されている食品C(図3参照)から発生する水蒸気は、排気長孔21を通じて食品用容器1の外部に排気される。排気長孔21を複数個形成して排気長孔群20としているため、より効率よく水蒸気を排気することができる。本実施形態の蓋体部10において、蓋面部11の全体または一部に蓋面部11より適度に掘り下げた凹面部30が形成される。この凹面部30の中に排気長孔群20が形成される。また、図示では、凹面部30を取り囲むようにして蓋面上周壁部35が形成されている。
【0015】
凹面部30が備えられることにより、排気長孔21から噴出した水蒸気が液化して水滴となった際、水滴は凹面部30に溜まり蓋面部11に広がらなくなる。そうすると、蓋面部11の濡れる部位を少なくすることができる。蓋面上周壁部35は囲いとなりさらに水滴の漏出を防ぐ目的で設けられる。
【0016】
図示の容器本体部100と蓋体部10の嵌合は、内嵌合と称される形態であり、蓋体部10の周囲が容器本体部100の開口部101に嵌り込む形態である。蓋体部10の周囲には、容器本体部100の開口部101と内嵌合する断面視U字の周壁部15が設けられている。内嵌合の嵌合形態は容器本体部100と蓋体部10の相互の密着が強固となる。よって、安易に蓋体部10は脱離し難くなる。
【0017】
容器本体部100では、その開口部101に開口段部107が設けられ、蓋体部10の周壁部15を内側に受け入れ嵌合可能とする。容器本体部100は、上方から開口部101、胴部104、底部105により構成され、食品の量に十分対応した内容量の鉢状または椀状の容器となる。容器本体部100と蓋体部10の横断面形状は適宜であり図示では円形としている。多角形や楕円形等の断面形状とすることも可能である。
【0018】
食品用容器1(容器本体部100と蓋体部10の組み合わせ)は、主に、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、デパート、飲食店、惣菜専門店(デリカテッセン)、喫茶店、サービスエリア等の店舗にて販売される弁当、惣菜、麺料理類、スープ料理、さらにはコーヒー、ココア、紅茶、緑茶、薬草茶等の各種飲料類を包含する食品の包装に用いられる容器である。主に想定される用途は、ワンウェイ(one−way)やディスポーザブル(disposable)等と称される1回のみの使用に用いられる使い切り容器(使い捨て容器)である。使い切り容器とすることにより、食品の衛生管理に都合よい。
【0019】
食品用容器1の用途は、主に使い切り容器としての利用である。そこで、蓋体部10は安価かつ簡便に量産して製造できる合成樹脂のシート(プラスチック樹脂シート)から形成される。具体的には、蓋体部10は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)等の熱可塑性樹脂のシート(合成樹脂シート)、さらにはポリ乳酸等の生分解性の熱可塑性樹脂のシートである。合成樹脂シートの厚さは適宜ではあるものの、概ね1mm以下の厚さであり、通常、200ないし700μmの厚さである。そして、合成樹脂シートは真空成形により成形される。合成樹脂シートを原料とした際、その成形時の量産性、加工精度等を考慮すると真空成形が簡便かつ最適である。また、後述するように、レーザー光線照射による加工も考慮されるためである。
【0020】
容器本体部100と蓋体部10の組み合わせにおいて、合成樹脂シートの原料樹脂を同一種類としても異なる種類としてもよい。特に、食品用容器1は電子レンジによる加熱に対応するため、熱伝導を考慮して容器本体部側を発泡ポリスチレン製や紙製とすることもできる。使用する樹脂の種類は用途、内容物、包装対象により適宜選択される。続く図2等に開示の実施形態では、蓋体部10はポリスチレン製とし、容器本体部100は発泡ポリスチレン製とする。
【0021】
図2及び図3の部分断面図を用い、図示実施形態における容器本体部100と蓋体部10の嵌合部位、排気長孔群20(排気長孔21)について説明する。図2は蓋体部の分離状態であり、図3は蓋体部の嵌合(嵌着または合着)状態である。蓋体部10の断面視U字の周壁部15は、蓋密着壁部16、周溝底部17、及び内側壁部18から形成される。蓋密着壁部16の外縁にはフランジ部19が備えられる。これに対応する容器本体部100の開口部101では、外縁フランジ部109、開口周壁部106、その下端に開口段部107が形成される。
【0022】
さらに図3の状態から理解されるように、蓋体部10の周壁部15が容器本体部100の開口部101に嵌合されると、蓋密着壁部16は開口周壁部106と密着(合着)する。こうして、食品用容器1の内部の気密性は高まる。しかし、その分、食品用容器1の内部に収容された食品Cから発生する水蒸気の抜け道はなくなる。そこで、内部発生の水蒸気Vpは蓋体部10の蓋面部11に形成された排気長孔21から食品用容器1の外部に放出される。こうして、食品用容器1が異常に膨張し、蓋体部が変形したり不自然に開いたりする問題は回避される。
【0023】
蓋体部10の蓋面部11に排気長孔群20を構成する個々の排気長孔21に際し、蓋面部11にレーザー光線が照射され、同蓋面部11に排気長孔21が穿設される。排気長孔21の形成に際し、例えば、針刺しやドリル等の物理的な加工方法の場合、時間を多く要することに加え、十分な加工精度が得られない等の点が挙げられる。また、孔形成に際し、微粉末の発生の問題も払拭できず、事後の洗浄の手間も必要となる。そこで、簡便かつ迅速に蓋面部に排気長孔を穿設可能な点から、レーザー光線の照射が用いられる。
【0024】
レーザー光線は加工出力、加工精度等を得ることができる種類であれば、特段限定されず、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー等の各種レーザーとそれらの照射装置が使用される。前述のように、蓋体部の材質が合成樹脂のシートから形成されている場合、排気長孔はレーザー光線照射により簡単かつ短時間で穿設される。特に量産性に優れる。
【0025】
個々の排気長孔21の形状は、正確には両端部分を半円状とする長方形状である(図8参照)。ただし、両端部分の形状は誤差範囲として無視され、単純に長方形として開孔面積は計算される。以降においても、排気長孔は長方形として説明する。ここで、排気長孔群20を構成する排気長孔21についてさらに詳述する。まず、個々の排気長孔21の幅(長方形の短辺側)は0.15ないし1.0mmが例示される。より好ましい排気長孔21の幅は0.3ないし0.5mmである。
【0026】
排気長孔21の幅の下限は、電子レンジ加熱時に発生した水蒸気の排気に十分な開口量を得るためである。幅の下限の0.15mmはおおよそ現状の加工技術を考慮した値である。排気長孔21の幅が0.15mmを下回る場合、排気長孔は狭くなりすぎであり排気長孔21からの水蒸気の排気効率は低下すると考えられる。結果、容器本体部100に嵌合した蓋体部10が内圧により外れやすくなる。また、レーザー光線の照射装置の精度上の下限とも考えられる。
【0027】
加えて、合成樹脂シートから形成された蓋体部10にレーザー光線を照射すると、当該照射部位において樹脂シートが溶解して孔が開く。しかし、設定の幅が狭すぎる場合、レーザー光線照射の熱により溶解した樹脂が冷却して固化する時点で互いに接合するおそれがある。そうすると、照射部位に所望の適切な排気長孔が形成されず、十分な水蒸気排気が損なわれてしまう。そのため、不用意な再接合を生じにくくさせる便宜から、幅の下限は0.15mm、好ましくは0.3mmとしている。
【0028】
排気長孔21の幅の上限は、食品用容器1の内部への異物混入を有効に抑制するための大きさとするためである。例えば、一般に異物として認識される微小な昆虫等の場合、幅が1.0mmよりも小さいと、容器内部への侵入はほぼ阻まれる。そこで、幅の上限は1.0mm、より好ましくは0.5mmとしている。
【0029】
次に、排気長孔21の長さは1ないし12mmの範囲が例示され、好ましくは4ないし7mmの範囲である。排気長孔21の幅は前述のとおり微細である。それゆえ、内部発生の水蒸気の排気に有効であるため、適量な長さが必要とされる。長さの下限はおおよそ長孔として成立し得るとともに水蒸気の排気を考慮した量である。長さの上限は、蓋体部10自体の強度維持の必要性のためである。蓋体部10は合成樹脂シートから形成されている場合、排気長孔21の長さが長くなるほど、その排気長孔付近では撓み変形等が生じやすい。そうすると、前述のとおり排気長孔21の幅は狭められているにも係わらず、排気長孔21は紡錘形に開口しやすくなる。そこで、このような不用意な排気長孔の変形に伴う開口を抑制するため、排気長孔の長さの上限は12mmが例示され、好ましくは7mmが望ましい。
【0030】
また、排気長孔21が複数個集まって形成される排気長孔群20(排気部)の開孔面積の合計、すなわち、蓋面部11上の全ての排気長孔21の開孔面積(すなわち、排気長孔の幅と長さの積である。)の合計は、0.3ないし100mm2の範囲が例示される。開孔面積の合計の最小量は、最小の排気長孔(幅:0.15mm,長さ:1mm)を2箇所形成したときの面積に相当する。むろん、当該面積量は極めて水蒸気発生量の少ない食品を対象とした値である。そこで、対応可能な食品の種類を考慮して、現実的な開孔面積の合計の下限は、0.5mm2、さらには1mm2と考えられる。
【0031】
例えば、麺料理の場合、麺に加えて汁(つゆ)の量も多いことから食品用容器の容量も多くなる。そうすると、電子レンジによる加熱時間は長くなり、容器内全体で発生する水蒸気量も相対的に多くなる。この場合、排気長孔からの良好な水蒸気の排気を促すため、開孔面積の合計を大きくする必要がある。ただし、必要能力以上に排気長孔を増やしたとしても、穿設の手間が増したり蓋体部の強度が低下したりするおそれも懸念される。そこで、開孔面積の合計の上限として100mm2、より好ましい上限として80mm2が導き出される。排気長孔群の開孔面積の合計は前述の範囲であるため、電子レンジ加熱食品用容器(蓋体部)は市場にて流通する多くの食品に対応できる。
【0032】
これまでに説明した排気長孔21の形状を採用する大きな利点は、作業時間の短縮になるためである。特に複数の排気長孔21から構成される排気長孔群20を形成する際に有効である。実施形態においては、蓋体部10の蓋面部11に対して炭酸ガスレーザー等のレーザー光線が照射され、排気長孔21は穿設される。この状況について、図4の作業タイムチャート(模式図)が想定される。図中の横軸は時間(t)である。
【0033】
図4の上段は、例えば、円孔形状の排気孔を形成する場合に相当する。図中、「_Π」の凹凸上の繰り返しは、レーザー光線の照射(ON:上側)とその停止(OFF:下側)を示す。その直下のS字と直線の組み合わせからなる図形は、照射を受けて蓋体部に形成される孔の様子である。特には、穿設量(深さ)と読み替えても良い。引き伸ばされたS字状部分は、レーザー光線の照射により蓋体部の樹脂シートを溶解している状態である。いわゆる照射直後からまだ貫通に至っていない準備状態であり、その間の時間は「t1」として表される。平坦部分は、貫通して所定の大きさまで孔が発達している状態である。いわゆる実際の作業状態であり、その間の時間は「t2」として表される。そして、いずれでもない時間は、例えば、別の孔へ移動する等の待機時間(ti)として表される。
【0034】
レーザー光線照射のON−OFF状態と穿設量のグラフからわかるように、レーザー光線の照射時間の全てが実際に孔を広げている時間にはならず、孔を掘り進めるための準備時間(t1)も発生する。円孔形状の排気孔の場合、細かい孔を複数個形成するため、準備時間(t1)と作業時間(t2)が頻繁に繰り返される。そのため、不可避的に準備時間(t1)が累積される。さらに、細かい孔を複数個形成するため、次々と別の場所へ照射位置は変更される。そうすると、その間の位置調節等は待機時間(ti)となり、否応なく当該時間も累積される。
【0035】
これに対し、図4の下段は、本発明にて開示する排気長孔を形成する場合に相当する。図中、「_Π」の凹凸上の繰り返しは、レーザー光線の照射(ON:上側)とその停止(OFF:下側)を示す。ただし、排気長孔は長尺であるため、照射時間は長めに設定されている。その直下のS字と直線の組み合わせからなる図形は、照射を受けて蓋体部に形成される孔の様子であり、穿設量(深さ)と読み替えられる。上段と同様に、引き伸ばされたS字状部分は、レーザー光線の照射により蓋体部の樹脂シートを溶解している準備状態であり、その間の時間は「t3」として表される。平坦部分は、貫通して所定の大きさ(長さ)まで孔が発達している実際の作業状態であり、その時間は「t4」として表される。本例においても、照射位置を変更する位置調節等の待機時間(tj)は生じる。
【0036】
長孔形成の場合であっても、準備時間(t3)及び待機時間(tj)を無くすことはできない。さらには、長孔の長さの分だけ余計に時間を要する場合もある。しかしながら、いったん準備時間(t3)により長孔が貫通してしまうと、あとは所定の長方形状にまで拡張するための作業時間(t4)で済むと考えられる。そこで、図4の上下段の比較からわかるように、下段側の長孔の形成において、準備時間(t3)の累積量は相対的に上段よりも削減される。この結果から、同様の開孔面積量を得る場合、準備時間(t3)の総量が少なくなり、時間短縮につながる。加えて、上段側では頻繁に照射位置が変化するため、その間の待機時間(ti)も多く累積される。これに対し、下段側では長孔形成であるため、上段側よりも照射位置の変更回数は少なくなり、総じて待機時間(tj)の累積量は少なくなる。これらの対比から、時間当たりの処理数(生産個数)は増加するといえる。なお、発明者の試行によると、時間当たりの生産数は約1.5倍に増加した。このように、本願の長孔に係る製法は、円孔形状に比して穿孔作業時間が短縮でき作業効率が向上し生産量のアップという大きな利点を有する。
【0037】
図5は他の実施形態の蓋体部10xの全体斜視図である。図示の蓋体部10xでは、蓋面部11xに凹面部30が形成され、この凹面部30に複数の排気長孔21からなる排気長孔群20が穿設される。図1及び図2とは異なり蓋面上周壁部35は省略されている。図4の蓋面部11xからわかるように、蓋面部11xの形状を簡素化できる。つまり、食品用容器の構造上の制約は少なくなり、資材コストの軽減にも有効です。
【0038】
図6の各平面図は蓋体部10(蓋面部11)に形成される排気長孔群の他の形態例を示す。図6(a)の排気長孔群20aは、個々の排気長孔21の向きを逐次斜めにした配置である。図示の凹面部30aは長方形状である。同(b)の排気長孔群20bは、排気長孔21の穿設によりほぼ円形を形成するように形成される。図示の凹面部30bは円形状である。同(c)の排気長孔群20cは、排気長孔21の穿設により、アルファベットの「A」の文字を模した形状に形成される。図示の凹面部30cは長方形状である。すなわち、排気長孔群は平面図形として構成されている。平面図形は図形のみならず、文字や記号も含まれる。
【0039】
排気長孔群の平面図形の形状や向きは、レーザー光線照射時の設定により自在に制御される。このため、従前の切れ込みによる舌片状の開口部のようなU字状またはV字状等の形状が制約は無くなる。排気長孔の穿設により形成される排気長孔群の平面図形により、製造者、販売者等の商標、標章、ロゴ、さらには製造日等の各種情報も、排気長孔群を通じて表示可能となる。排気長孔群の配置は蓋体部の蓋面部に1箇所としても2箇所以上としても良い。これは食品用容器の意匠により適切に規定される。
【0040】
これまでの説明にあるように、本発明の食品用容器(電子レンジ加熱食品用容器)における排気長孔の大きさを勘案すると、極めて微細であることから昆虫等の異物侵入を有効に抑制できる。そのため、本発明の食品用容器では、従前の容器に見られた蓋体部の排気を担う穴を被覆したり包皮したりするフィルム等の部材は、省略可能となる。従って、本発明の食品用容器は、電子レンジ加熱または加温時の開封等の手間も必要なく、包装資材費の軽減にも貢献し得る。排気長孔の開孔面積の合計を考慮することにより、本発明の食品用容器は多種類の食品から発生する水蒸気量にも対応可能な極めて好適な包装資材となる。さらに、排気長孔の配置いかんにより多様な排気長孔群を形成できることから、蓋体部の形状設計の制約は少なくなることに加え、排気長孔群自体の形状の自由度も高まる。
【実施例】
【0041】
[電子レンジ加熱食品用容器の作製]
電子レンジ加熱食品用容器は、容器本体部と蓋体部の組み合わせからなる物品とした。当該「電子レンジ加熱食品用容器の作製」は量の多い食品の包装を想定した。蓋体部には、耐熱二軸延伸ポリスチレン(耐熱OPS)樹脂のシート材を使用した。これを真空成形により円盤状の蓋体部に加工した。蓋体部の最大直径は約175mm、蓋面部の最大直径は約135mmであった。蓋体部の材料厚みは0.3mmであった。容器本体部には、耐熱発泡ポリスチレン製のシート材(ポリプロピレンフィルム被着品)を使用した。これを真空成形により横断面円形の鉢状(椀状またはボウル状)の容器本体部に加工した。容器本体部の開口部直径(内径)は約160mm、深さは70mmとし、容器本体部の内容量(食品収容可能な容量)は約800mLとした。
【0042】
[排気長孔群の形成]
排気長孔群の形成に際し、樹脂加工分野において一般に使用される公知の炭酸ガスレーザーの照射装置を用い、前記の成形により得た蓋体部中央部分に対し大きさ、個数の異なる9種類の排気長孔群を形成し、実施例1ないし実施例9を作製した(表1及び表2参照)。表1及び表2において、上から順に排気長孔の大きさ(実測値)〔幅(mm),長さ(mm)}、排気長孔群の形態{排気長孔の配列(横×縦),排気長孔の個数(個)}、開孔面積{排気長孔1個当たり(mm2),開孔面積合計(mm2)}の項目である。
【0043】
参考までに、図7は実施例6の蓋体部の排気長孔群を撮影した写真である。図8は当該排気長孔群を構成する個々の排気長孔の拡大写真(倍率50倍)である。図8の上段は実施例1の排気長孔であり、同図下段は実施例6の排気長孔である。図示からわかるように、排気長孔は両端部分が丸まった長尺の長方形状であった。なお、排気長孔の幅と長さの数値は、実施例ごとの排気長孔を測定した数値の単純平均とした。また、開孔面積の算出に際し、両端部分の丸くなった部位形状は無視可能であり、長方形形状とみなして「最大幅」と「最大長さ」の積とした。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
[食品の電子レンジ加熱試験]
実際に販売される食品の種類は極めて多岐にわたる。そこで、発明者らは、水分量が多くしかも電子レンジ加熱に要する時間の長い食品として「カレーうどん」を選択した。いずれの容器本体部内にも当該カレーうどんを同量(全体で約620g)ずつ収容し、前記作製の各蓋体部(実施例1ないし9)を適切に嵌合した。そして、コンビニエンスストア等に導入されている高出力型の電子レンジを用いて加熱試験に供した。電子レンジにおける加熱条件は、通常使用の1500Wよりも出力を高めた高加熱の負荷条件を得るため1600Wの出力とした。当該出力条件において電子レンジ加熱時間は2分以上とし、2分30秒を上限に打ち切った。そして、2分経過時点で容器本体部と嵌合した蓋体部が内部発生の水蒸気圧力により外れたか否かを観察した。
【0047】
[電子レンジ加熱試験の結果と考察]
実施例1ないし9の蓋体部について、電子レンジ加熱が2分経過した時点において、いずれも容器本体部から蓋体部は外れなかった。図9は実施例6の蓋体部を使用して2分間経過した状態を撮影した写真である。
【0048】
前述のとおり開示の電子レンジ加熱試験は、通常実施される条件よりも加熱負荷を高めた試験である。当該条件下であっても、各実施例の排気長孔群は十分に内部発生水蒸気の排気性能を発揮した。また、実験に供した食品も容量、水分量ともに多く、加熱時間を多く必要とする。従って、これらの過酷条件においても水蒸気排気が良好であったことは、本発明の排気長孔の有効性を大きく肯定する。
【0049】
[排気長孔の大きさの範囲について]
実施例1ないし9の蓋体部を用いた試験結果から、好例な排気長孔に関する範囲は次のとおり導き出すことができる。前掲の表1及び表2より、排気長孔の最小幅は実施例7である。そこで、照射装置の加工精度と個数を加味して、幅の下限値を0.15mm、好ましくは0.3mmとした。最大幅は実施例9であることから、1.0mmを上限とした。幅の上限を引き上げることは可能ではあるものの、異物混入防止の観点から1.0mmを上限とした。それゆえ、排気長孔の幅の範囲は0.15ないし1.0mm、好ましくは0.3ないし0.5mmとなる。
【0050】
表1及び表2より、排気長孔の最小長さは実施例7である。そこで、照射装置の加工精度と個数を加味して、長さの下限値を1mm、好ましくはその他の実施例を勘案して4mmとした。最大長さは実施例4より12mmとした。むろん、これ以上長くすることも可能ではある。しかし、排気長孔部分の強度確保や異物混入等を勘案すると、12mmが事実上の上限となる。それゆえ、排気長孔の長さの範囲は1ないし12mm、好ましくは他の実施例の長さを加味して4ないし7mmの範囲である。
【0051】
続いて、排気長孔の開孔面積の合計(蓋面部上の全ての排気長孔の開孔面積の合計)について、当該実施例における試験結果からは概ね35ないし65mm2の範囲を導くことができる。この結果とともに、内容物である食品の性状、容量等の多様性も考慮して、0.3ないし100mm2、好ましくは1ないし80mm2の範囲を規定した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のとおり、本発明の電子レンジ加熱食品用容器の製法は、従前のU字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わり、良好な水蒸気排気及び封止性能改善を実現し、より効率よく水蒸気を排気することができ、併せて蓋体部の形状上の制約も少なく、資材コストの軽減も可能となり、しかも、簡便かつ迅速に蓋面部に排気長孔を穿設することができ、特に量産性に優れる製法を提供できた。蓋体部に適切な条件により形成された排気長孔を備えたことから、良好な水蒸気の排気が実現でき、既存の切れ込み構造を備えた電子レンジ用の包装容器の代替として極めて有効となる。
【符号の説明】
【0053】
1 食品用容器(電子レンジ加熱食品用容器)
10,10x 蓋体部
11,11x 蓋面部
15 周壁部
16 蓋密着壁部
20,20a,20b,20c 排気長孔群
21 排気長孔
30 凹面部
35 蓋面上周壁部
100 容器本体部
103 容器内部
104 胴部
105 底部
106 開口周壁部
107 開口段部
C 食品
Vp 水蒸気
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と、前記容器本体部の開口部と嵌合する合成樹脂シートからなる蓋体部とを備えた蓋嵌合容器において、
前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する排気部を、異物混入防止のための、当該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成した蓋体部を得るに際して、
前記蓋体部の蓋面部にレーザー光線の照射をオンして準備時間(t3)の経過により貫通孔を形成しその後の作業時間(t4)の経過により所定の長穴形状にまで拡張した後にレーザー光線の照射をオフにすることによって
幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる排気部を形成する
ことを特徴とする電子レンジ加熱食品用容器の製法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-18 
出願番号 P2018-052726
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (B65D)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 久保 克彦
藤井 眞吾
登録日 2019-06-14 
登録番号 6538225
権利者 アテナ工業株式会社
発明の名称 電子レンジ加熱食品用容器の製法  
代理人 加藤 大輝  
代理人 後藤 憲秋  
代理人 加藤 大輝  
代理人 後藤 憲秋  

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