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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H05B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H05B 審判 全部申し立て 2項進歩性 H05B |
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管理番号 | 1385122 |
総通号数 | 6 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-06-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-09-04 |
確定日 | 2022-03-16 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6657702号発明「有機エレクトロニクス材料及び該材料を含むインク組成物、並びに有機エレクトロニクス素子及び有機エレクトロルミネセンス素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6657702号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−16〕について訂正することを認める。 特許第6657702号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 |
理由 |
理 由 第1 手続等の経緯 特許第6657702号の請求項1〜請求項16に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」〜「本件特許16」といい、総称して「本件特許」という。)についての出願は、平成27年9月17日を出願日とするものであって、令和2年2月10日に特許権の設定の登録がされたものである。 本件特許について、令和2年3月4日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和2年9月4日に特許異議申立人 森川 真帆(以下「特許異議申立人」という。)から、全請求項に対して、特許異議の申立てがされた(異議2020−700665号、以下「本件事件」という。)。 本件事件についての、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和2年11月 5日付け:取消理由通知書 令和3年 1月22日付け:訂正請求書 令和3年 1月22日付け:意見書(特許権者) 令和3年 4月 1日付け:意見書(特許異議申立人) 令和3年 6月16日付け:取消理由通知書(決定の予告) (以下、この取消理由通知書を、単に「取消理由通知」という。) 令和3年 9月27日付け:訂正請求書 令和3年 9月27日付け:意見書(特許権者) 令和3年11月16日付け:意見書(特許異議申立人) なお、令和3年1月22日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正請求について 1 請求の趣旨 令和3年9月27日付け訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は、特許第6657702号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜16のとおり訂正することを求める、というものである。なお、本件訂正後の一群の請求項は、請求項1〜16である。 2 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項を含むものである。なお、下線は訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記2価の構造単位及び前記3価以上の構造単位の少なくとも一方が、下式で表される構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含む、有機エレクトロニクス材料。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。]」と記載されているのを、 「前記2価の構造単位及び前記3価以上の構造単位の少なくとも一方が、下式で表される構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含み、前記電荷輸送性ポリマーが、下式で表される部分構造(I−2)を含む、有機エレクトロニクス材料。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。] [式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rの少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基であり、R’は、水素原子、又は炭素数1〜8の直鎖のアルキルである。]」に訂正する。 なお、上記訂正にともない、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜6及び8〜16も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に、「電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位とを含み、前記2価の構造単位と前記3価以上の構造単位とが結合してなる部分構造が」と記載されているのを、 「電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位と、1価の構造単位とを含み、前記2価の構造単位は2官能性のモノマーに由来し、前記3価以上の構造単位は3官能性以上のモノマーに由来し、前記1価の構造単位は1官能性のモノマーに由来する電荷輸送性ポリマーであって、前記3価以上の構造単位は、全構造単位を基準として10モル%以上であり、前記2官能性のモノマーと前記3官能性以上のモノマーとが結合してなる部分構造が」に訂正する。 なお、上記訂正にともない、請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜6及び8〜16も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項7のうち、請求項1を引用する部分を削除し、請求項2を引用する部分の引用を解消して独立請求項に訂正するとともに、特許請求の範囲の請求項7に「前記電荷輸送性ポリマーが、下式で表される部分構造(I−2)を含む、請求項1又は2に記載の有機エレクトロニクス材料。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。] [式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rの少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基であり、R’は、水素原子、又は炭素数1〜8の直鎖のアルキルである。]」と記載されているのを、 「電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位とを含み、前記2価の構造単位と前記3価以上の構造単位とが結合してなる部分構造が、下式で表される構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含み、前記電荷輸送性ポリマーが、下式で表される部分構造(I−2)を含む、有機エレクトロニクス材料。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。] [式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rの少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基であり、R’は、水素原子、又は炭素数1〜8の直鎖のアルキルである。]」と訂正して、新たに請求項7とする。 なお、上記訂正にともない、請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8〜16も同様に訂正する。 (4)一群の請求項について 訂正前の請求項3〜16は、いずれも請求項1又は請求項2を直接的または間接的に引用するものであって、訂正事項1による請求項1の訂正によって、請求項3〜16が連動して訂正されるとともに、訂正事項2による請求項2の訂正によっても、請求項3〜16が連動して訂正されるものである。そうしてみると、請求項1〜16は、特許法第120条の5第4項に規定される経済産業省令(特許法施行規則第45条の4)で定める関係を有する一群の請求項を形成するから、本件訂正請求は、当該一群の請求項である請求項1〜請求項16に対して請求されたものといえる。 そして、本件訂正請求においては、別の訂正単位とする求めはなされていない。 3 訂正の許否判断 (1)訂正事項1による訂正 訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における「電荷輸送性ポリマー」が、「部分構造(I−2)」(構造式の再摘記は省略)を具備することを新たに特定するものである。 そうしてみると、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号(特許請求の範囲の減縮)に掲げる事項を目的とする訂正に該当する。 また、訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項7のうち請求項1を引用する部分の記載に基づくものである。 そうしてみると、訂正事項1による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 さらに、訂正事項1による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲に含まれないこととされたものが訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。 (2)訂正事項2による訂正 訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2について、 [A]「電荷輸送ポリマー」が「1価の構造単位」を含み、かつ、当該「1価の構造単位」が「1官能性のモノマーに由来する」こと、[B]「2価の構造単位」及び「3価以上の構造単位」とが、それぞれ「2官能性のモノマー」及び「3官能性以上のモノマー」「に由来」するものであることを特定し、それに対応して、「構造(I)を有する」とされる「2価の構造単位と前記3価以上の構造単位とが結合してなる部分構造」が、「前記2官能性モノマーと前記3官能性以上のモノマーとが結合してなる部分構造」であること及び[C]「3価以上の構造単位」の含有量について、訂正前は特定されていたかったものを、「全構造単位を基準として10モル%以上」であることを、特定するものである。 そうしてみると、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号(特許請求の範囲の減縮)に掲げる事項を目的とする訂正に該当する。 また、訂正事項2による訂正のうち、上記[A]及び[B]のうち各構造単位が、モノマーに由来するとの構成は、本件明細書等の【0159】等の「電荷輸送ポリマー1は、構造単位L(モノマー1に由来)、構造単位B2(モノマー2に由来)、及び構造単位T(モノマー3に由来)を有し」との記載、「構造単位Lは、電荷輸送性を有する2価の構造単位である。」(【0043】)との記載、「以下、このような3価以上構造単位をB2と称す。」(【0069】)との記載及び「構造単位Tは、電荷輸送ポリマーの末端部を構成する1価の構造単位である。」(【0083】)との記載に基づくものである。また、上記[B]のうち「部分構造」に関する構成は、本件明細書等の【0120】等の「構造単位Lと構造単位Bとが結合してなる部分構造において、構造(I)が形成される。」との記載に基づくものである。さらに、上記[C]は、「構造単位Bの割合は、有機エレクトロニクス素子の耐久性の観点から、全構造単位を基準として・・・中略・・・10モル%以上がさらに好ましい。」(【0112】)との記載に基づくものである。 そうしてみると、訂正事項2による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 さらに、訂正事項2による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされたものが訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。 (3)訂正事項3による訂正 訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項7が請求項1及び請求項2を択一的に引用していたものを、請求項2のみを引用するものとするとともに、請求項2との引用関係を解消するものである。 そうしてみると、訂正事項3による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号(特許請求の範囲の減縮)及び4号(他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること)に掲げる事項を目的とするものに該当する。 また、訂正事項3による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないことは明らかであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 さらに、訂正事項3による訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しないことは明らかである。 (4)一群の請求項についての訂正 上記(1)〜(3)によれば、本件訂正請求による訂正のうち、訂正前の請求項1〜16からなる一群の請求項についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 4 まとめ 本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 よって、結論に記載のとおり、特許第6657702号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜16〕のとおり訂正することを認める。 第3 本件特許発明 本件訂正請求による訂正は上記のとおり認められることとなったから、本件特許の請求項1〜請求項16に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明16」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜請求項16に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位とを含み、前記2価の構造単位及び前記3価以上の構造単位の少なくとも一方が、下式で表される構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含み、前記電荷輸送性ポリマーが、下式で表される部分構造(I−2)を含む、有機エレクトロニクス材料。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。] [式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rの少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基であり、R’は、水素原子、又は炭素数1〜8の直鎖のアルキルである。] 【請求項2】 電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位と、1価の構造単位とを含み、前記2価の構造単位は2官能性のモノマーに由来し、前記3価以上の構造単位は3官能性以上のモノマーに由来し、前記1価の構造単位は1官能性のモノマーに由来する電荷輸送性ポリマーであって、前記3価以上の構造単位は、全構造単位を基準として10モル%以上であり、前記2官能性のモノマーと前記3官能性以上のモノマーとが結合してなる部分構造が、下式で表される構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含む、有機エレクトロニクス材料。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。] 【請求項3】 前記構造(I)が、下式で表される置換ビフェニレン構造(I−1)を含む、請求項1又は2に記載の有機エレクトロニクス材料。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。] 【請求項4】 前記2価の構造単位及び前記3価以上の構造単位の少なくとも一方が、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、及びベンゼン構造、及びこれらの1種又は2種以上を含む構造から選択される構造を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。 【請求項5】 前記2価の構造単位及び前記3価以上の構造単位が、それぞれ、置換又は非置換の芳香族アミン構造を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。 【請求項6】 少なくとも前記3価以上の構造単位が、前記構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含む、請求項1、3〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。 【請求項7】 電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位とを含み、前記2価の構造単位と前記3価以上の構造単位とが結合してなる部分構造が、下式で表される構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含み、前記電荷輸送性ポリマーが、下式で表される部分構造(I−2)を含む、有機エレクトロニクス材料。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。] [式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rの少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基であり、R’は、水素原子、又は炭素数1〜8の直鎖のアルキルである。] 【請求項8】 前記電荷輸送性ポリマーが、分子内に1以上の重合性官能基をさらに有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。 【請求項9】 請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料と、溶媒とを含む、インク組成物。 【請求項10】 さらに、重合開始剤を含む、請求項9に記載のインク組成物。 【請求項11】 基板と、請求項9又は10に記載のインク組成物を用いて形成された有機層とを含む有機エレクトロニクス素子。 【請求項12】 前記基板が、樹脂フィルムである、請求項11に記載の有機エレクトロニクス素子。 【請求項13】 請求項9又は10に記載のインク組成物を用いて形成された有機層を有する有機エレクトロルミネセンス素子。 【請求項14】 前記有機層が、正孔注入層である、請求項13に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。 【請求項15】 前記有機層が、正孔輸送層である、請求項13に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。 【請求項16】 陽極及び陰極からなる一対の電極をさらに有し、前記有機層が前記一対の電極間に配置される、請求項13〜15のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。」 第4 取消理由通知の概要及び証拠 1 取消しの理由 令和3年6月16日付け取消理由通知により、特許権者に対して、当合議体が通知した取消しの理由の概要は、下記のとおりである。 記 理由1:(新規性)本件特許の請求項1〜請求項6及び請求項8〜請求項16に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記刊行物に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。 理由2:(進歩性)本件特許の請求項1〜請求項6及び請求項8〜請求項16に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 理由3:(サポート要件)本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 甲1:特開2010−155985号公報 甲6:特表2013−531658号公報 (当合議体注:甲1及び甲6は、いずれも主引用例として使用している。) 2 その他の証拠について (1)特許異議申立人が提出した証拠 特許異議申立人は、上記の他、以下の証拠も提出している。 甲2:国際公開第2013/081052号 甲3:特開2015−35629号公報 甲4:特開2015−13832号公報 甲5:特開2014−131049号公報 参考資料1:特開平9−286857号公報 (2)特許権者が提出した証拠 乙1:「色と化学についてのQ&A」「Q−61 HOMO、LUMOとはなんですか?」,キリヤ化学,[平成27年1月1日保存],[online],インターネット<http://www.kiriya-chem.co.jp/q&a/q61.html> 乙2:雨夜 徹他,π共役系拡張スマネンの合成と構造特性,第18回基礎有機化学連合討論会,2006年 乙3:松浦 佳宏他,オキサジアゾールとカルバゾール部位を側鎖に有する液晶高分子の合成と発光挙動,2007年日本液晶学会討論会,2007年9月12日−9月14日 乙4:高木幸治,非ベンゼン系芳香族単位を含む共役系高分子の合成と特性,THE CHEMICAL TIMES,2008年,No.4,2頁−8頁 乙5:田中進,多分岐共役系高分子,高分子,2007年,56巻,5月号,330頁−333頁 第5 取消理由通知に記載した取消理由(新規性・進歩性)について 1 甲1を主引用例とした場合 (1)甲1の記載及び甲1に記載された発明 ア 甲1の記載 本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された、甲1(特開2010−155985号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、甲1発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 (ア)「【請求項1】 下記式(1)で表される繰り返し単位及び下記式(2)で表される繰り返し単位を有するアリールアミンポリマーであって、 Ar2及び/又はAr3に置換基として架橋性基を有する ことを特徴とするアリールアミンポリマー。 【化1】 (式(1)及び式(2)中、 Ar1〜Ar3は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、 R1〜R4は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、 R5Aは、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、 m及びnは、各々独立に、1以上の整数を表す。) 【請求項2】 重量平均分子量(Mw)が20,000以上であり、 分散度(Mw/Mn;Mnは数平均分子量を表す。)が2.5以下である ことを特徴とする請求項1に記載のアリールアミンポリマー。 【請求項3】 前記架橋性基が、下記架橋性基群Tの中から選ばれる基である ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアリールアミンポリマー。 【化2】 ・・・化学式一部省略・・・ (前記式中、 R5〜R9は、各々独立に、水素原子又はアルキル基を表し、 Ar4は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。) 【請求項4】 請求項1〜3のいずれか一項に記載のアリールアミンポリマーからなる ことを特徴とする有機電界発光素子材料。 【請求項5】 請求項1〜3のいずれか一項に記載のアリールアミンポリマーを含有する ことを特徴とする有機電界発光素子用組成物。 【請求項6】 基板と、陽極と、1層又は2層以上の有機層と、陰極とをこの順に備える有機電界発光素子において、 該有機層の少なくとも一層が、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアリールアミンポリマーを架橋した網目状ポリマーを含む ことを特徴とする有機電界発光素子。 【請求項7】 前記網目状ポリマーを有する層が、正孔注入層又は正孔輸送層である ことを特徴とする請求項6に記載の有機電界発光素子。 【請求項8】 前記の正孔注入層及び正孔輸送層並びに発光層を備え、 前記の正孔注入層、正孔輸送層及び発光層の全てが湿式成膜法により形成された ことを特徴とする請求項7に記載の有機電界発光素子。」 (イ)「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明はアリールアミンポリマーに関し、特に、有機電界発光素子の正孔注入層及び正孔輸送層として有用なアリールアミンポリマー、該アリールアミンポリマーを含有する有機電界発光素子材料、有機電界発光素子用組成物及び有機電界発光素子、並びに、この有機電界発光素子を備えた有機ELディスプレイ及び有機EL照明に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、有機薄膜を用いた電界発光素子(即ち、有機電界発光素子)の開発が行われている。有機電界発光素子における有機薄膜の形成方法としては、例えば、真空蒸着法と湿式成膜法が挙げられる。 ・・・中略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 フルオレン環は平面的な環であり、環全体にHOMO(highest occupied molecular orbital;最高被占軌道)やLUMO(lowest unoccupied molecular orbital;最低空軌道)が広がっている。このため、フルオレン環を有するアリールアミンポリマーは、通常、電荷輸送能に優れる。したがって特許文献1,2に記載のアリールアミンポリマー(Q−1)及び(Q−2)も電荷輸送能を有すると推察される。ただし、アリールアミンポリマー(Q−1)及び(Q−2)ではフルオレン環が主鎖のみに存在するため、電荷のほとんどは主鎖を伝って輸送されるものと考えられる。 【0010】 一方、アリールアミンポリマー(Q−1)及び(Q−2)が架橋により網目状ポリマーとなると、その主鎖構造がまがったりねじれたりして、主鎖におけるHOMOやLUMOの広がりが阻害される。このため、アリールアミンポリマー(Q−1)及び(Q−2)が電荷輸送能を有するとしても、架橋後の網目状ポリマーが十分な電荷輸送能を有するとは限らない。むしろ、上記のアリールアミンポリマー(Q−1)及び(Q−2)は電荷輸送のほとんどを主鎖が担うべき分子構造となっていることから、アリールアミンポリマー(Q−1)及び(Q−2)が架橋した網目状ポリマーの電荷輸送能は著しく小さくなる傾向がある。このため、特許文献1,2記載の技術により得られる有機電界発光素子の駆動電圧は高く、発光効率は低く、駆動寿命は短いという課題があった。 ・・・中略・・・ 【0012】 本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、正孔輸送能及び電気化学的安定性に優れ、積層化が可能であり、通電によって分解などが起こりにくく、均質な膜質を提供しうるアリールアミンポリマーと、該アリールアミンポリマーを含有する有機電界発光素子材料及び有機電界発光素子用組成物を提供することを目的とする。 本発明はまた、低い電圧で駆動可能で、発光効率が高く、駆動安定性が高い、有機電界発光素子並びにそれを備えた有機ELディスプレイ及び有機EL照明を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、側鎖にフルオレン環を有し、且つ架橋性基を有する特定の構造を有するアリールアミンポリマーが、架橋をさせて有機溶剤に不溶とした後も、高い正孔輸送能及び電気化学的安定性を有することを見出し、本発明を完成させた。 【0014】 即ち、本発明の要旨は、下記式(1)で表される繰り返し単位及び下記式(2)で表される繰り返し単位を有するアリールアミンポリマーであって、Ar2及び/又はAr3に置換基として架橋性基を有することを特徴とするアリールアミンポリマー。 【化1】 (式(1)及び式(2)中、Ar1〜Ar3は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、R1〜R4は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、R5Aは、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、m及びnは、各々独立に、1以上の整数を表す。) ・・・中略・・・ 【0026】 繰り返し単位(1)はフルオレン環を側鎖に有する。このようにフルオレン環を側鎖に有していることにより、アリールアミンポリマーを架橋した後でもフルオレン環のHOMO及びLUMOの広がりが阻害されず、膜の電荷輸送能を高く維持できる。具体的には、電荷移動度を高い値に保つことができる。このため、アリールアミンポリマーを架橋した網目状ポリマーにより層を形成した場合、この層が低い電圧でも電流を流通させうるものとなる。 【0027】 一方、繰り返し単位(2)は、その主鎖及び/又は側鎖に架橋性基を有する。これによりアリールアミンポリマーは架橋できるようになる。架橋した網目状ポリマーは溶剤に対して溶解し難くなるため、湿式成膜法による積層が容易となる。また、主鎖及び/又は側鎖にフルオレン環を有する繰り返し単位が架橋性基を有するとフルオレン環のHOMO及びLUMOの広がりが阻害される可能性があるが、本発明のように架橋性基を有する繰り返し単位(2)とは別に、側鎖にフルオレン環を有する繰り返し単位(1)を有することにより、側鎖に存在するフルオレン環のHOMO及びLUMOの広がりが架橋により阻害されることを防止できる。このため、アリールアミンポリマーを架橋した網目状ポリマーにより層を形成した場合、この層の上に任意の層を簡単に積層できると共に、この層に低電位でも安定して電流を流通させることができる。」 (ウ)「【0073】 ・繰り返し単位(1)の例 以下、繰り返し単位(1)の例を示す。ただし、本発明は以下の例示物に限定されるものではない。 【0074】 (当合議体注:【化15】として列挙された一部記載を省略した。) ・・・中略・・・ 【0078】 ・繰り返し単位(2)の例 以下、繰り返し単位(2)の例を示す。ただし、本発明は以下の例示物に限定されるものではない。 【0079】 (当合議体注:【化19】として列挙された一部記載を省略した。) ・・・中略・・・ 【0084】 ・本発明のアリールアミンポリマーの具体例 以下、本発明のアリールアミンポリマーの具体例を示す。ただし、本発明は以下の例示物に限定されるものではない。 【0085】 【化24】 (当合議体注:【化24】として列挙されたもののうち、上から2番目までを滴記し、3番目以降の摘記を省略した。) ・・・中略・・・ 【0108】 [3.有機電界発光素子用組成物] 本発明のアリールアミンポリマーは、上述したように、有機電界発光素子を構成する層の材料として用いることができる。この場合、通常は、少なくとも本発明のアリールアミンポリマーを含有する有機電界発光素子用組成物(以下、適宜「本発明の有機電界発光素子用組成物」と言う。)を用意し、この有機電界発光素子用組成物を用いて成膜を行う。 【0109】 本発明の有機電界発光素子用組成物は、陽極と陰極との間に配置された有機層を有する有機電界発光素子において、通常、有機層を湿式成膜法により形成する際の組成物として用いられる。中でも、本発明の有機電界発光素子用組成物は、有機層のうち正孔注入層又は正孔輸送層を形成するために用いられることが好ましく、正孔輸送層を形成するために用いられることがより好ましい。 なお、ここでは、有機電界発光素子における陽極−発光層間に存在する層が1層である場合には、この層を「正孔輸送層」と称し、2層以上存在する場合には、陽極に接している層を「正孔注入層」と称し、それ以外の層を総称して「正孔輸送層」と称す。また、陽極−発光層間に設けられた層を総称して「正孔注入・輸送層」と称する場合がある。 【0110】 ・アリールアミンポリマー 本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明のアリールアミンポリマーを少なくとも1種含有する。なお、本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明のアリールアミンポリマーを1種類含有するものであってもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で含有するものであってもよい。 【0111】 本発明の有機電界発光素子用組成物が含有する本発明のアリールアミンポリマーの量は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上であり、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。本発明のアリールアミンポリマーが少なすぎると有機電界発光素子の電荷輸送層として好ましい膜厚を得ることが困難となる可能性があり、多すぎると有機電界発光素子用組成物の粘度が著しく上昇し取り扱いが困難となる可能性がある。 【0112】 ・溶剤 本発明の有機電界発光素子用組成物は、通常、溶剤を含有する。この溶剤は、本発明のアリールアミンポリマーを溶解するものが好ましい。具体的には、本発明のアリールアミンポリマーを、通常0.05重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上溶解する溶剤が好適である。 ・・・中略・・・ 【0119】 ・その他の成分 本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明の効果を著しく損なわない限り、本発明のアリールアミンポリマー及び溶剤以外にその他の成分を含有していてもよい。 【0120】 その他の成分としては例えば添加剤が挙げられ、添加剤の例を挙げれば架橋を促進するための添加物(架橋促進剤)等が挙げられる。 架橋を促進する添加物の具体例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤又は重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤などが挙げられる。なお、これらは1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。 ・・・中略・・・ 【0135】 (基板1) 基板1は有機電界発光素子の支持体となるものである。 基板1の材料は制限されないが、例えば、石英、ガラス、金属、プラスチック等が挙げられる。これらの材料は何れか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。 【0136】 基板1の形状も制限されないが、例としては、板、シート、フィルム、箔等、或いはこれらの二種以上を組み合わせた形状等が挙げられる。 中でも、基板1としては、ガラス基板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂基板が好ましい。」 (エ)「【0333】 [II.有機電界発光素子の評価] [有機電界発光素子の作製] (実施例1) 以下に説明する要領で、図1に示す有機電界発光素子を作製した。 ガラス基板1上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を、通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成し、ITO基板を得た。 パターン形成したITO基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。 【0334】 下の構造式(P1)に示す繰り返し構造を有する正孔輸送性高分子材料(重量平均分子量:26500,数平均分子量:12000)、構造式(A1)に示す4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート及び安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用塗布液を調製した。この正孔注入層形成用塗布液を下記の成膜条件で陽極2上にスピンコートにより塗布して、膜厚30nmの正孔注入層3を得た。 ・・・中略・・・ 【0338】 引き続き、以下の構造式に示すアリールアミンポリマー(H1)(合成例32で合成された目的ポリマー1と同様の構造式であるポリマー:重量平均分子量43000、分散度1.6)を含有する有機電界発光素子用組成物として正孔輸送層用組成物を調製し、下記の成膜条件でスピンコートにより塗布して、加熱により架橋させることにより膜厚20nmの正孔輸送層4を形成した。 【0339】 【化87】 【0340】 <有機電界発光素子用組成物> 溶剤 トルエン 固形分濃度 0.4重量% 【0341】 <正孔輸送層の成膜条件> スピナ回転数 1500rpm スピナ回転時間 30秒 スピンコート雰囲気 窒素中 加熱条件 窒素中、230℃、1時間 【0342】 次に、発光層5を形成するにあたり、以下に示す有機化合物(C1)、(C2)および(D1)を用いて下記に示す発光層用組成物を調製し、以下に示す成膜条件で正孔輸送層4上にスピンコートして膜厚50nmで発光層5を得た。 【0343】 【化88】 【0344】 <発光層用組成物> 溶剤 キシレン 塗布液濃度 有機化合物(C1):1.0重量% 有機化合物(C2):1.0重量% 有機化合物(D1):0.1重量% 【0345】 <発光層の成膜条件> スピナ回転数 1500rpm スピナ回転時間 30秒 スピンコート雰囲気 窒素中 加熱条件 減圧下(0.1MPa)、130℃、1時間 【0346】 ここで、発光層5までを成膜した基板を、真空蒸着装置内に移し、装置内の真空度が1.3×10−4Pa以下になるまで排気した後、下記に示す構造を有する有機化合物(C3)を真空蒸着法によって発光層5の上に積層し、正孔阻止層6を得た。蒸着速度は1.4〜1.5Å/秒の範囲で制御し、膜厚は5nmとした。また、蒸着時の真空度は1.3×10−4Paであった。 【0347】 ・・・中略・・・ 【0352】 引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため、以下に記載の方法で封止処理を行った。 窒素グローブボックス中で、23mm×23mmサイズのガラス板の外周部に、約1mmの幅で光硬化性樹脂(株式会社スリーボンド製30Y−437)を塗布し、中央部に水分ゲッターシート(ダイニック株式会社製)を設置した。この上に、陰極形成を終了した基板を、蒸着された面が乾燥剤シートと対向するように貼り合わせた。その後、光硬化性樹脂が塗布された領域のみに紫外光を照射し、樹脂を硬化させた。 【0353】 以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性は以下の通りである。 100cd/m2での電圧:5.8V 100cd/m2での輝度:17.9cd/A 100cd/m2での電力効率:9.7lm/W 素子の発光スペクトルの極大波長は513nmであり、有機化合物(D1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.304,0.628)であった。」 イ 甲1に記載された発明 (ア)甲1発明 甲1の請求項1には、「式(1)で表される繰り返し単位及び」「式(2)で表される繰り返し単位を有し、架橋性基を有するアリールアミンポリマー」(式(1)及び式(2)は、上記「第5」「1(1)ア(ア)」に記載のとおりである。)が記載されている。 また、甲1の請求項4、請求項5及び請求項8には、それぞれ上記「アリールアミンポリマー」を含む、「有機電界発光素子材料」、「有機電界発光素子用組成物」及び「有機電界発光素子」が記載されている。 さらに、甲1の【0084】〜【0085】には、上記「アリールアミンポリマー」の具体例として、下記「アリールアミンポリマー」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 (イ)甲1材料発明、甲1組成物発明及び甲1素子発明 上記(ア)によれば、甲1には、甲1発明の「アリールアミンポリマー」を有する、次の「有機電界発光素子材料」、「有機電界発光素子用組成物」及び「有機電界発光素子」の発明が記載されていると認められる。(以下、それぞれ「甲1材料発明」、「甲1組成物発明」及び「甲1素子発明」という。) a 甲1材料発明 「甲1発明のアリールアミンポリマーからなる有機電界発光素子材料。」 b 甲1組成物発明 「甲1発明のアリールアミンポリマーを含有する有機電界発光素子用組成物。」 c 甲1素子発明 「基板と、陽極と、1層又は2層以上の有機層と、陰極とをこの順に備える有機電界発光素子において、該有機層の少なくとも一層が、甲1発明のアリールアミンポリマーを架橋した網目状ポリマーを含み、前記網目状ポリマーを有する層が、正孔注入層又は正孔輸送層であり、前記の正孔注入層及び正孔輸送層並びに発光層を備え、前記の正孔注入層、正孔輸送層及び発光層の全てが湿式成膜法により形成された、有機電界発光素子。」 (2)対比及び判断 ア 対比 本件特許発明2と甲1材料発明を対比する。 (ア)電荷輸送性を有する2価の構造単位、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位及び1価の構造単位 甲1材料発明の「アリールアミンポリマー」は、以下の構造を有する。ここで、構造式中の枠囲いは、説明の便宜のため当合議体で付加したものである。 上記枠囲い内の構造単位は、いずれも、技術的にみて、電荷を輸送する能力を有する単位である。また、左右の枠囲い内の構造単位は、それぞれ「3価」及び「2価」の構造単位といえる。 そうしてみると、甲1材料発明の左の枠囲い内の構造単位が、本件特許発明2の「電荷輸送性を有する3価以上の構造単位」に、右の枠囲い内の構造単位が、本件特許発明2の「電荷輸送性を有する2価の構造単位」に相当する。 また、甲1材料発明の左の枠囲い内の構造単位に連結された、(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ基を有する1,3−フェニレン基は、その化学構造からみて、本件特許発明2の「1価の構造単位」に相当する。 (イ)構造(I) 甲1材料発明の「アリールアミンポリマー」は、以下の構造を有する。 下記構造中の枠囲い内の構造は、上記(ア)の図において、左右の枠囲い内の構造単位が結合した部分を強調のため当合議体で付加したものである。 上記(ア)の対比結果を踏まえると、甲1材料発明の上記「枠囲い内の構造」は、本件特許発明2における、「電荷輸送性を有する2価の構造単位」と「電荷輸送性を有する3価以上の構造単位」とが、「結合してなる部分構造」に相当する。 また、甲1材料発明の上記「枠囲い内の構造」は、ビフェニル−4,4’−ジイル基の2’位と6位の水素がメチル基で置換された構造(以下「置換ビフェニレン構造」という。)である。そうしてみると、甲1材料発明の上記「置換ビフェニレン構造」は、本件特許発明2の「下式で表される構造(I)」において、[A]4’と4位の結合部位が単結合、[B] 3’、5’、6’、2、3及び5位が他の構造(水素原子)との結合部位及び[C]R1及びR4が、炭素数1のアルキル基(メチル基)であるものに該当する。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。] (ウ)電荷輸送性ポリマー 甲1材料発明の「アリールアミンポリマー」は、技術的にみて、本件特許発明2の「電荷輸送性ポリマー」に相当する。 以上の点と上記(ア)及び(イ)の対比結果を総合すると、甲1材料発明の「アリールアミンポリマー」は、本件特許発明2の「電荷輸送性ポリマー」における、「下式で表される構造(I)を有する」との要件を満たす。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。] (エ)有機エレクトロニクス材料 甲1材料発明は、「有機電界発光素子材料」の発明である。そして、「有機電界発光素子」は、有機受光素子(太陽電池等)や有機整流素子(有機トランジスタ等)とともに、いわゆる、有機エレクトロニクス素子の一態様である。 したがって、甲1材料発明の「有機電界発光素子材料」は、本件特許発明2の「有機エレクトロニクス材料」に相当する。 以上の点と上記(ウ)から、甲1材料発明の「有機電界発光素子材料」は、本件特許発明2の「有機エレクトロニクス材料」における、「電荷輸送性ポリマーを含む」との要件を満たす。 以上(ア)〜(エ)を総合すると、本件特許発明2と甲1材料発明とは、 「電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位と、1価の構造単位とを含み、下式で表される構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含む、有機エレクトロニクス材料。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。]」の点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 「電荷輸送性ポリマー」の「電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位と、1価の構造単位」が、本件特許発明2は、「2価の構造単位は2官能性のモノマーに由来し、前記3価以上の構造単位は3官能性以上のモノマーに由来し、前記1価の構造単位は1官能性のモノマーに由来する電荷輸送性ポリマーであ」るのに対して、甲1材料発明は、構造単位のそれぞれがモノマーに由来するものとは特定されていない点。 (相違点2) 「電荷輸送性ポリマー」が、本件特許発明2は、「3価以上の構造単位は、全構造単位を基準として10モル%以上であ」るのに対して、甲1材料発明は、3価以上の構造単位の含有割合が不明である点。 イ 判断 事案に鑑み、相違点2について検討する。 甲1の【0013】には、「課題を解決するための手段」として、「本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、側鎖にフルオレン環を有し、且つ架橋性基を有する特定の構造を有するアリールアミンポリマーが、架橋をさせて有機溶剤に不溶とした後も、高い正孔輸送能及び電気化学的安定性を有することを見出し、本発明を完成させた。」と記載されている。上記記載と甲1材料発明の「アリールアミンポリマー」の構造に照らせば、甲1には、甲1材料発明において、本件特許発明2の「3価以上の構造単位」に相当する構造(上記「アリールアミンポリマー」の左の枠囲いの構造(上記(2)ア(ア)))に着目し、その含有割合をある一定以上に調整するという動機になり得る記載はない。 さらにいえば、本件特許発明2の「電荷輸送性ポリマー」は、「電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位と、1価の構造単位とを含み、前記2価の構造単位は2官能性のモノマーに由来し、前記3価以上の構造単位は3官能性以上のモノマーに由来し、前記1価の構造単位は1官能性のモノマーに由来する電荷輸送性ポリマーであって、前記3価以上の構造単位は、全構造単位を基準として10モル%以上であ」ると特定されているところ、当該特定は、本件特許発明2の「電荷輸送性ポリマー」が、全体構造として、分岐形状を呈するポリマーであると当業者は理解する。他方、甲1材料発明の「アリールアミンポリマー」は、ポリマーの主鎖及び側鎖が観念できる、いわゆる、鎖状ポリマーを前提としていることから、本件特許発明2の「電荷輸送性ポリマー」とは、その基本的な骨格を異にするものであって、ポリマーの基本的な構造を変更する何らかの動機づけがない以上、甲1材料発明に基づいて、当業者が相違点2に係る本件特許発明2の構成に容易に想到し得たということはできない。 したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたということはできない。 (3)本件特許発明3〜6及び8〜16について 取消理由通知では、本件特許発明3〜6及び8〜16のうち、請求項2を引用する部分について、取消の理由を通知したものである。 そして、本件特許発明3〜6及び8〜16は、いずれも請求項2を引用していることから、これらの発明も、上記(2)と同様の理由により、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたということはできない。 (4)小括 本件特許発明2〜6及び8〜16は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 2 甲6を主引用例とした場合 (1)甲6の記載及び甲6に記載された発明 ア 甲6の記載 本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲6(特表2013−531658号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、甲1発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 式Iまたは式I’: 【化1】 (式中: Ar1およびAr2は、同じもしくは異なるものであり、アリール基であり; R1〜R5は独立して、それぞれの場合に同じもしくは異なるものであり、D、F、アルキル、アリール、アルコキシ、シリル、および架橋性基からなる群から選択され; R6は、それぞれの場合に同じもしくは異なるものであり、H、D、およびハロゲンからなる群から選択され; a〜eは独立して、0〜4の整数であり; fは、1または2であり; gは、0、1または2であり; hは、1または2であり; nは、0よりも大きい整数である) を有する化合物。 【請求項2】 化合物A〜化合物EE: ・・・中略・・・ ・・・中略・・・ ・・・中略・・・ からなる群から選択される化合物。 【請求項3】 第1電気接触層、第2電気接触層およびそれらの間に活性層を含んでなる有機電子デバイスであって、前記活性層が、式Iまたは式I’: 【化19】 (式中: Ar1およびAr2は、同じもしくは異なるものであり、アリール基であり; R1〜R5は独立して、それぞれの場合に同じもしくは異なるものであり、D、F、アルキル、アリール、アルコキシ、シリル、および架橋性基からなる群から選択され; R6は、それぞれの場合に同じもしくは異なるものであり、H、D、およびハロゲンからなる群から選択され; a〜eは独立して、0〜4の整数であり; fは、1または2であり; gは、0、1または2であり; hは、1または2であり; nは、0よりも大きい整数である) を有する化合物を含んでなる、デバイス。」 (イ)「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 ・・・中略・・・ 【0002】 本開示は、新規な電気活性化合物に関する。本開示はさらに、そのような電気活性化合物を含んでなる少なくとも1つの活性層を有する電子デバイスに関する。 【背景技術】 【0003】 有機発光ダイオード(「OLED」)などの、OLEDディスプレイを構成する、有機光活性電子デバイスにおいて、有機活性層は2つの電気接触層の間に挟まれている。OLEDにおいて有機光活性層は、電気接触層にわたっての電圧の印加時に光伝達電気接触層を通して発光する。 【0004】 有機エレクトロルミネセンス化合物を発光ダイオードにおける光活性成分として使用することは周知である。簡単な有機分子、共役ポリマー、および有機金属錯体が使用されてきた。エレクトロルミネセンス材料を使用するデバイスは、エレクトロルミネセンス層と接触層との間に置かれている、1つまたは複数の追加の電気活性層を含むことが多い。正孔輸送層は、エレクトロルミネセンス層と正孔注入接触層との間に置くことができる。正孔注入接触層はまたアノードと呼ばれてもよい。電子輸送層は、エレクトロルミネセンス層と電子注入接触層との間に置くことができる。電子注入接触層はまたカソードと呼ばれてもよい。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 電子デバイスに使用するための電気活性材料は継続的に必要とされている。 ・・・中略・・・ 【0042】 2.電気活性化合物 本発明の電気活性化合物は、式Iまたは式I’: 【0043】 【化3】 【0044】 (式中: Ar1およびAr2は、同じもしくは異なるものであり、アリール基であり; R1〜R5は独立して、それぞれの場合に同じもしくは異なるものであり、D、F、アルキル、アリール、アルコキシ、シリル、および架橋性基からなる群から選択され; R6は、それぞれの場合に同じもしくは異なるものであり、H、D、およびハロゲンからなる群から選択され; a〜eは独立して、0〜4の整数であり; fは、1または2であり; gは、0、1または2であり; hは、1または2であり; nは、0よりも大きい整数である) を有する。 ・・・中略・・・ 【0068】 ある実施形態においては、式Iまたは式I’を有する化合物は、高い三重項エネルギーを有する。用語「三重項エネルギー」は、eV単位で、材料の最低励起三重項状態を意味する。三重項エネルギーは、正の数として報告され、基底状態、通常は一重項状態に対する三重項状態のエネルギーを表す。発光性有機金属材料は、混合一重項および三重項特性を有する励起状態から発光し、本明細書においては「リン光性」と言われる。有機金属のリン光性材料が発光層に使用される場合、低い三重項エネルギーを有する材料の存在は、2.0eV超のエネルギーのリン光性放射の消光をもたらす。これは、効率の低下につながる。消光は、ホスト材料などの、材料が、エレクトロルミネセンス層中に、または正孔輸送層などの、エレクトロルミネセンス層に隣接した層中にある場合に起こり得る。ある実施形態においては、式Iまたは式I’を有する材料は、2.1eVよりも大きい三重項エネルギーレベルを有し;ある実施形態においては、2.2eVよりも大きい;ある実施形態においては、2.45eVよりも大きい;ある実施形態においては、2.6eVよりも大きい三重項エネルギーレベルを有する。 ・・・中略・・・ 【0069】 式Iまたは式I’を有する化合物の幾つかの非限定的な例としては、以下の化合物A〜EEが挙げられる。 ・・・中略・・・ 【0081】 【化18】 ・・・中略・・・ 化合物 X ・・・中略・・・ 【0083】 【化20】 化合物 AA ・・・中略・・・ 【0085】 【化22】 ・・・中略・・・ 化合物 DD」 (当合議体注:構造式の摘記は省略する。) ・・・中略・・・ 【0194】 合成実施例12 本実施例は、化合物Lの合成を例示する。 【0195】 【化54】 【0196】 トルエン(30mL)中のジアミン、23、(1.45g、1.84ミリモル)および4−ブロモ−4’−ヨードビフェニル(1.97g、5.51ミリモル)の溶液に、トルエン(10mL)中のpd2dba3(100mg、0.110ミリモル)およびDPPF(122mg、0.220ミリモル)の溶液を加え、これに窒素下でのNaOtBu(0.388g、4.04ミリモル)の添加が続いた。得られた混合物を95℃で18時間撹拌した。混合物を、短いシリカ床を通して濾過し、濾液を減圧下に濃縮した。カラムクロマトグラフィー(ヘキサン中の3〜11%DCM)によって1.52gの生成物、化合物Lが固体として得られた(65%収率)。 【0197】 化合物Lの非臭素化類似体は、4−ブロモ−4’−ヨードビフェニルの代わりに4−ヨードビフェニルを使用することによって同様に調製することができる。 ・・・中略・・・ 【0225】 合成実施例19 追加のジブロモ化合物は、類似の方法で調製することができる。追加のポリマーは、合成実施例18に記載されたものに類似の方法でジブロモ化合物から調製することができる。幾つかの追加のポリマーの分子量を以下に表1で示す。分子量は、GPC(THF移動相、ポリスチレン標準)によって測定した。 【0226】 【表1】 」 (ウ)「【0227】 デバイス実施例1〜10 これらの実施例は、デバイスにおける新規化合物の性能を例示する。 【0228】 (a)原材料: HIJ−1は、導電性ポリマーおよびポリマーフッ素化スルホン酸の水性分散液である。そのような原材料は、たとえば、米国特許出願公開第2004/0102577号明細書、同第2004/0127637号明細書、および同第2005/0205860号明細書、ならびに国際公開第2009/018009号パンフレットに記載されている。 【0229】 E−1は、青色エレクトロルミネセンスを有するビス(ジアリールアミノ)アントラセン化合物である。 【0230】 Host−1は、ジアリールアントラセン化合物である。 【0231】 ET−1は、金属キノレート誘導体である。 【0232】 (b)デバイス これらの実施例において、デバイスは、溶液処理技術と蒸着技術との組み合わせによって製造した。50nmインジウム・スズ酸化物(「ITO」)の基材をアノードとして使用した。HIJ−1は、水性分散液からスピンコーティングによって適用した。正孔輸送材料は、トルエンの0.38w/v%溶液からスピンコーティングによって適用した。その他の材料は、蒸着によって適用した。デバイス構造は: アノード:ITO(50nm) 正孔注入層:HIJ−1(50nm) 正孔輸送層:表2に示される材料および厚さ 電気活性層:1:13比率でのHost−1中のE−1(32nm) 電子輸送層:ET−1(10nm) 電子注入層:CsF(蒸着された1nm) カソード:Al(100nm) であった。 【0233】 OLEDサンプルを、それらの(1)電流−電圧(I−V)曲線、(2)エレクトロルミネセンス放射輝度対電圧、および(3)エレクトロルミネセンススペクトル対電圧を測定することによって特徴づけた。全3つの測定は同時に行い、コンピューターで管理した。ある特定の電圧でのデバイスの電流効率は、LEDのエレクトロルミネセンス放射輝度を、デバイスを運転するために必要とされる電流密度で割ることによって測定する。この単位はcd/Aである。外部量子効率(EQE)は次に、放射光のランバート(Lambertian)分布を仮定して、電流効率(cd/A)およびエレクトロルミネセンススペクトルから計算する。結果を表3に示す。 (当合議体注:表2及び表3の摘記は省略する。) ・・・中略・・・ 【0245】 デバイス実施例12〜13および比較例A これらの実施例は、発光材料がリン光有機金属錯体であるデバイスにおける本新規化合物の性能を例示する。 【0246】 (a)原材料 E−2は、青色−緑色発光を有するトリス−シクロメタル化イリジウム錯体である。 【0247】 H−2は、インドロカルバゾール化合物である。 【0248】 比較化合物Comp−2は、下の構造を有する正孔輸送ポリマーである。 【0249】 【化64】 【0250】 HIJ−1およびET−1は、上に記載されている。 【0251】 (b)デバイス デバイスは、デバイス実施例1〜10に記載されたように製造した。 【0252】 デバイス構造は: アノード:ITO(50nm) 正孔注入層:HIJ−1(50nm) 正孔輸送層(すべて20nm): 実施例12:化合物T 実施例13:化合物AA 比較例A:Comp2 電気活性層:16:84比率でのHost−2中のE−2(60nm) 電子輸送層:ET−1(10nm) 電子注入層:CsF(蒸着された1nm) カソード:Al(100nm) であった。 【0253】 デバイスを上記の通り特徴づけた。結果を表5に示す。 【0254】 【表5】 【0255】 Comp−2の三重項エネルギーは、Comp−1について計算されたものとほぼ同じものであると推定することができる。したがって、三重項エネルギーは次の通り増加する: Comp−2<化合物T<化合物AA 【0256】 リン光エミッタでのデバイス効率は三重項エネルギーが増加するにつれて増加すると理解することができる。 【0257】 比較例A<実施例12<実施例13」 イ 甲6に記載された発明 (ア)甲6発明 甲6の請求項2には、化合物L、Z、AA、BB及びCCに係る発明が記載されている。このうち、化合物AAの発明を、以下、「甲6発明」という。 (イ)甲6材料発明、甲6組成物発明、甲6デバイス発明 甲6の請求項3には、「第1電気接触層、第2電気接触層およびそれらの間に活性層を含んでなる有機電子デバイスであって、前記活性層が、式Iまたは式I’:【化19】を有する化合物を含んでなる、デバイス」が記載されている。そして、甲6の【0068】〜【0085】等には、上記「式Iまたは式I’」を有する化合物の具体例の1つとして、化合物AAが記載されている。そうすると、化合物AAは、有機電子デバイスの材料といえる。 さらに、甲6の【0245】〜【0257】には、実施例13として、化合物AAからなる正孔輸送層を有する、発光材料がリン光有機金属錯体であるデバイスが記載されている。ここで、甲6の【0232】及び【0251】の記載から、実施例13の上記正孔輸送層は、化合物AAを用いて、トルエンの0.38w/v%溶液からスピンコーティングによって適用したものであるから、化合物AAのトルエン溶液は(インク)組成物といえる。 以上総合すると、甲6には、甲6発明の「化合物AA」を有する、次の「有機電子デバイス材料」、「有機電子デバイス組成物」及び「有機電子デバイス」の発明が記載されていると認められる。(以下、それぞれ「甲6材料発明」、「甲6組成物発明」及び「甲6素子発明」という。) a 甲6材料発明 「甲6発明の化合物AAからなる有機電子デバイス材料。」 b 甲6組成物発明 「甲6発明の化合物AAを含有する有機電子デバイス組成物。」 c 甲6素子発明 「デバイス構造が、 アノード:ITO(50nm) 正孔注入層:HIJ−1(50nm) 正孔輸送層(すべて20nm):化合物AA 電気活性層:16:84比率でのHost−2中のE−2(60nm) 電子輸送層:ET−1(10nm) 電子注入層:CsF(蒸着された1nm) カソード:Al(100nm) であって、上記正孔輸送層は、上記正孔輸送層は、化合物AAを用いて、トルエンの0.38w/v%溶液からスピンコーティングによって適用したものである、発光材料がリン光有機金属錯体であるデバイス。」 (2)対比及び判断 ア 対比及び判断 本件特許発明2と甲6材料発明を対比する。 (ア)電荷輸送性を有する2価の構造単位、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位及び1価の構造単位 甲6材料発明の化合物AAは、以下の構造を有する。ここで、構造式中の枠囲いは、説明の便宜のため当合議体で付加したものである。 上記枠囲い内の構造単位は、いずれも、技術的にみて、電荷を輸送する能力を有する単位である。また、左右の枠囲い内の構造単位は、それぞれ「3価」及び「2価」の構造単位といえる。 そうしてみると、甲6材料発明の左の枠囲い内の構造単位が、本件特許発明の「電荷輸送性を有する3価以上の構造単位」に相当する。同様に、甲6材料発明の右の枠囲い内の構造単位が、本件特許発明の「電荷輸送性を有する2価の構造単位」に相当する。 (イ)結合してなる部分構造 甲6材料発明の「アリールアミンポリマー」は、以下の構造を有する。 下記構造中の枠囲い内の構造は、上記(ア)の図において、左右の枠囲い内の構造単位が結合した部分を強調のため当合議体で付加したものである。 上記(ア)の対比結果を踏まえると、甲6材料発明の上記「枠囲い内の構造」は、本件特許発明2における、「電荷輸送性を有する2価の構造単位」と「電荷輸送性を有する3価以上の構造単位」とが、「結合してなる部分構造」に相当する。そして、上記「枠囲い内の構造」は、ビフェニル−4,4’−ジイル基の2’位、5’位及び6位の水素がメチル基で置換された構造である。 そうしてみると、甲6材料発明の上記「枠囲い内の構造」は、本件特許発明2の「下式で表される構造(I)」において、[A]4’と4位の結合部位が単結合、[B] 3’、6’、2、3及び5位が他の構造(水素原子)との結合部位及び[C]5’位並びにR1及びR4が、炭素数1のアルキル基(メチル基)であるものに該当する。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。] (当合議体注:R1〜R4の再掲は省略する。) (ウ)電荷輸送性ポリマー 甲6材料発明の「アリールアミンポリマー」は、技術的にみて、本件特許発明2の「電荷輸送性ポリマー」に相当する。 以上の点と上記(ア)及び(イ)の対比結果を総合すると、甲6材料発明の「アリールアミンポリマー」は、本件特許発明2の「電荷輸送性ポリマー」における、「下式で表される構造(I)を有する」との要件を満たす。 (当合議体注:構造(I)の再掲は省略する。) (エ)有機エレクトロニクス材料 甲6材料発明は、「有機電子デバイス材料」の発明である。そして、「有機電子デバイス」は、有機エレクトロニクス素子に該当する。したがって、甲6材料発明の「有機電子デバイス材料」は、本件特許発明2の「有機エレクトロニクス材料」に相当する。 以上の点と上記(ウ)から、甲6材料発明の「有機電子デバイス材料」は、本件特許発明2の「有機エレクトロニクス材料」における、「電荷輸送性ポリマーを含む」との要件を満たす。 以上(ア)〜(エ)を総合すると、本件特許発明2と甲6材料発明とは、 「電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位と、を含み、下式で表される構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含む、有機エレクトロニクス材料。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。]」の点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 「電荷輸送性ポリマー」の「電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位と、1価の構造単位」が、本件特許発明2では、「2価の構造単位は2官能性のモノマーに由来し、前記3価以上の構造単位は3官能性以上のモノマーに由来し、前記1価の構造単位は1官能性のモノマーに由来する電荷輸送性ポリマーであ」るのに対して、甲6材料発明は、「1価の構造単位」を有しておらず、また、構造単位のそれぞれがモノマーに由来するものとは特定されていない点。 (相違点2) 「電荷輸送性ポリマー」が、本件特許発明2では、「3価以上の構造単位は、全構造単位を基準として10モル%以上であ」るのに対して、甲6材料発明では、3価以上の構造単位の含有割合が不明である点。 イ 判断 事案に鑑み、相違点2について検討する。 甲1材料発明を主引用発明とした場合と同様、甲6材料発明の「有機電子デバイス材料」としての「化合物AA」も、その基本骨格は、いわゆる、鎖状ポリマーに属するものであるから、本件特許発明2の「電荷輸送性ポリマー」とは、その基本的な骨格を異にするものであって、ポリマーの基本的な構造を変更する何らかの動機づけがない以上、甲6材料発明に基づいて、当業者が本件特許発明2の相違点2に係る構成に容易に想到し得たということはできない。 したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。 そして、甲6の【請求項2】に記載されたいずれの化合物に基づいて、主引用発明を認定したとしても結論は変わらない。 (3)本件特許発明3〜6及び8〜16について 取消理由通知では、本件特許発明3〜6及び8〜16のうち、請求項2を引用する部分について、取消の理由を通知したものである。 そして、本件特許発明3〜6及び8〜16は、いずれも請求項2を引用していることから、これらの発明も、上記(2)と同様の理由により、甲6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたということはできない。 (4)小括 本件特許発明2〜6及び8〜16は、甲6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 3 まとめ [A]本件特許発明2〜6、本件特許発明8〜9、11及び13〜16は、甲1に記載された発明であるということはできないし、また、本件特許発明2〜6、本件特許発明9、11及び13〜16は、甲6に記載された発明であるということもできない。 さらに、[B]本件特許発明2〜6及び本件特許発明8〜16は、甲1に記載された発明及び甲6に記載された発明いずれに基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 第6 取消理由通知に記載した取消理由(サポート要件)について 1 本件特許発明の課題 本件特許発明が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる(いわゆる、サポート要件を満たすといえる)ためには、発明の詳細な説明の記載又はそのような記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識から、本件特許発明が、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることが必要である。 2 当合議体の判断 そこで、本件特許発明がサポート要件を満たすかについて、以下検討する。 本件特許発明が解決しようとする課題は、本件特許の明細書の【0011】の記載からみて、「有機EL素子の発光効率を向上することができる有機エレクトロニクス材料を提供すること」にあると認められる。 そして、上記課題を解決するための手段及び当該手段によって上記課題の解決に到る作用機序(メカニズム)について、本件明細書には、例えば、次のような記載がある。 「上記構造(I)及び(I−1)に示したように、2つのベンゼン環が結合した構造において、その結合部位を起点としてオルトの位置(R1〜R4)に少なくとも1つの置換基が存在すると、立体障害によって、2つのベンゼン環は互いにねじれた構造をとり易くなる。このことから、電荷輸送性ポリマーが分子内に上記構造(I)を有する場合、共役分子は共役構造を取り難くなり、分子内の共役が切断されやすくなる。そして、分子内にねじれた構造を導入することによって、バンドギャップの広い電荷輸送性ポリマーを得ることが容易になる。したがって、上記構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含む本発明の有機エレクトロニクス材料を使用することによって、有機EL素子の発光効率を容易に向上させることができる。」(【0037】)(下線は合議体が付与した。) 他方、本件明細書(【0156】〜【0162】)には、有機EL素子の発光効率を向上できることが具体的に確認された、有機エレクトロニクス材料(電荷輸送性ポリマー1及び2)が開示されている。 上記電荷輸送ポリマー1及び2は、上記下線部に記載された、2つのベンゼン環が結合した構造において、結合部位を起点としてオルトの位置に少なくとも1つの置換基が存在することによる立体障壁によって当該2つのベンゼン環が互いにねじれた構造をとり易く、分子内の共役が切断されやすくなるという要件を満足するものである。 さらに、乙1〜乙5に示されるように、以下の[A]及び[B]の技術事項は、いずれも本件特許発明の出願時における技術常識であると認められる。 [A]π共役(鎖)に連結された置換基による「ねじれ」によって、当該π共役(鎖)長が短くなる(分断される)こと。 (例えば、乙4の5頁左欄下から11行〜8行及び乙5の332頁右欄下から12行〜5行等参照。) [B]分子内のπ共役(鎖)長が短くなると、当該分子のバンドギャップが広くなる(逆に、π共役長が長くなると、バンドギャップが狭くなる)こと。 (例えば、乙1の「ポリエンの吸収スペクトル」の項、乙2(1頁〜2頁)のスマネン2a,2g,2hのバンドギャップに係る記載及び乙3の「PM11-BPOXD-MCz」と「PM11-POXD-MCz」の共役鎖長とバンドギャップの関係等参照。) 以上の認定事実によれば、本件特許発明の課題解決に到る作用機序(メカニズム)に関する、本件明細書の記載(上記下線部の記載)は、本件特許発明の出願時の上記技術常識に裏付けられたものであり、当該作用機序が働く前提とされる、ポリマー分子内の「ねじれた構造」を具備する具体例である電荷輸送性ポリマー1及び2を有機EL素子に用いると、上記「ねじれた構造」を具備しないポリマー(比較例1)と比較して、有機EL素子の発光効率の向上が達成できることが確認されており(本件明細書の【0172】〜【0173】参照。)、本件明細書に記載された、「構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含む本発明の有機エレクトロニクス材料を使用することによって、有機EL素子の発光効率を容易に向上させることができる。」(【0037】)という効果が十分に実証されていることを当業者は直ちに理解する。 そうしてみると、そのような当業者は、本件明細書等にそれ以上の記載がなくとも、本件特許発明において特定された構造(I)又は部分構造(I−2)を有する電荷輸送性ポリマーを用いれば、当該ポリマーの分子内にねじれた構造がもたらされてバンドギャップが広がり、その結果として、ねじれた構造を何ら有さない材料を用いた場合と比較して、有機EL素子の発光効率が向上することを認識するといえる。 したがって、本件特許発明は、本件出願の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができる。 3 令和3年11月16日付け意見書(特許異議申立人)について 特許異議申立人は、令和3年11月16日付け意見書(特に、11頁の「<サポートされた電荷輸送性ポリマー>」の箇所)において、「本件特許明細書において、有機EL素子の発光効率を向上できるとの効果が確認できる電荷輸送性ポリマー」は、「次の(A)〜(C)のような構成を有するごく限られたものにすぎない。」とし、訂正発明はいずれも、この(A)〜(C)の技術的事項を含むことが規定されていないから、本件明細書等に記載されたものとはいえない旨主張する。 (A)<2価の構造単位>及び<3価以上の構造単位>がトリフェニルアミン構造を有する。 (B)<2価の構造単位>と<3価以上の構造単位>との結合により主鎖構造が形成され、この部分構造の少なくとも一部には、下記式(I)で表される構造が形成される。 [式中、R1〜R4のいずれかはメチル基でありそれ以外のR1〜R4は水素原子である。] (C)<2価の構造単位>を形成する<モノマー>と、<3価の構造単位>を形成する<モノマー>とが結合して、下記式(I−2)で表される構造が形成される。 [式中、R1〜R4のいずれかはメチル基でありそれ以外のR1〜R4は水素原子である。] 上記主張について検討する。 技術的事項(A)のトリフェニルアミン構造については、ねじれた構造によってバンドギャップの広がることは乙各号証からも理解されるように、トリフェニルアミン構造に限る事象ではないことは明らかであるから、発光効率の向上がトリフェニルアミン構造を備えていなければならないとはいえない。 また、技術的事項(B)についても、ねじれた構造の位置が、ポリマー主鎖にあるか側鎖にあるかにかかわらず、何らねじれた構造を具備しないポリマーよりもバンドギャップが広がることは、例えば、乙3及び乙4から明らかである。したがって、発光効率の向上を実現するためには構造(I)又は構造(I−2)が主鎖構造の部分構造でなければならない理由はない。 さらに、技術的事項(C)についても、上記と同様の理由により、発光効率の向上を実現するためには、部分構造(I−2)が、「R1〜R4のいずれかはメチル基でありそれ以外のR1〜R4は水素原子である。」との要件を満たすことが必須であるとまではいえない。 以上のとおり、特許異議申立人の主張はいずれも採用すべき理由がない。 第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、異議申立書の49頁〜51頁において、概略、本件発明7(本件訂正請求による訂正前の請求項7に係る発明であって、本件訂正請求後の本件特許発明1に対応)について、有機エレクトロニクス材料の電荷輸送性ポリマーとして、反応部位(ホウ酸基)を2箇所有するトリフェニルアミンと、反応部位(ホウ酸基)を3箇所有するトリフェニルアミンを反応させ、主鎖を形成するトリフェニルアミンにトリフェニルアミンを架橋させたものを用いることは、甲2〜甲5の記載から適宜なし得る事項であって、格段・格別の効果を奏するともいえない、と主張する。 しかし、甲2〜甲5に記載されたトリフェニルアミンは、いずれも本件明細書の比較例に相当する、ねじれた構造を有しない構造のものに過ぎないし、ねじれた構造を分子内に有する電荷輸送性ポリマーを用いることによって、有機EL素子の発光効率の向上が実現できることは上記「第6」で述べたとおりである。 したがって、特許異議申立人が主張する取消しの理由によっても、本件特許発明1〜16を取り消すことはできない。 第8 令和3年4月1日付け意見書(特許異議申立人)において、追加された取消理由について 特許異議申立人は、上記意見書の10頁及び14頁〜15頁等において、参考資料1に記載されたオリゴマーまたはポリマーに基づく取消理由を主張しているが、参考資料1は、特許異議の申立て当初から、特許異議申立書に記載ないし添付されていなかった文献であって、この文献に基づく取消理由は、特許異議申立書の要旨を変更することは明らかであるから、採用しない。 第9 令和3年11月16日付け意見書(特許異議申立人)において、追加主張された、甲6に基づく取消理由について 特許異議申立人は、上記意見書の19頁〜25頁において、甲6に記載された、下記化合物X及び化合物DD(化合物の構造中の枠囲いや円は上記意見書に記載のとおり掲載した。)に基づく取消理由を新たに追加して主張しているので、以下、念のため検討する。 (当合議体注:甲6は、参考資料1と異なり、特許異議の申立て当初から、特許異議申立書に記載ないし添付されていた文献であるため、検討対象とする。) 甲6材料発明において、「化合物AA」を、上記「化合物X」又は「化合物DD」に換えた有機電子デバイス材料の発明を、以下、それぞれ「甲6材料発明X」及び「甲6材料発明DD」という。 本件特許発明1と甲6材料発明Xとを対比すると、両者は、特許異議申立人が主張するとおり、次の<相違点1X>及び<相違点2X>において相違する。 <相違点1X> (部分構造(I−2)における)R’が、本件特許発明1は、「水素原子、又は炭素数1〜8の直鎖のアルキルである」のに対して、甲6材料発明Xは、フェニル基である点。 (化合物Xの構造を示す上図の「R’に相当」と表記された位置の「フェニル基」を参照。) <相違点2X> (部分構造(I−2)における)R’が結合しているベンゼン環のN(窒素原子)に結合する位置を基準としたときのメタ位に相当する位置に、本件特許発明1では、水素原子が結合しているのに対して、甲6材料発明Xでは、メチル基が結合している点。 さらに、化合物Xのうち、下図の枠で囲った部分は、1価の構造単位には該当しても、2価の構造単位又は3価以上の構造単位には該当しないから、当該部分が、特許異議申立人が上記意見書の22頁で主張するような、本件特許発明1の「構造(I)」を有する「2価の構造単位」に相当するとはいえない。 以上によれば、本件特許発明1と甲6材料発明Xとは、上記相違点1X及び2Xに加えて、次の点においても相違する。 <相違点3X> 「電荷輸送性ポリマー」が、本件特許発明1は、「2価の構造単位及び前記3価以上の構造単位の少なくとも一方が、下式で表される構造(I)を有する」との要件を満たすのに対して、甲6材料発明Xは、この要件を満たさない点。 (当合議体注:構造(I)の再摘記は省略する。) そして、上記相違点1X及び2Xについて、特許異議申立人は、甲6材料発明Xの化合物Xの置換基(フェニル基)は、化合物の電気活性等を考慮して、その種類や位置を適宜設定できるものであると主張するが、そのような設計変更を動機づけるような記載や示唆は甲6には存在しない。また、甲6には、化合物Xについて、具体的にどのような電気活性に着目し、どのような置換基を選択するのかについて何らの手がかりも記載されていない。加えて、甲6には、化合物Xについて、分子内にねじれた構造を導入することの示唆となり得るような記載もない。 以上によれば、仮に、当業者が甲6材料発明Xをさらに改良しようと試みたとしても、相違点1X〜相違点3Xに係る本件特許発明1の構成を採用する手がかりとなり得る記載が甲6に存在しない以上、設計変更によって、上記全ての相違点に係る本件特許発明1の構成に想到することが容易であるとはいい難い。 そして、特許異議申立人は、上記意見書において、R’を特定の置換基とすることの効果ないし技術的意義について主張するが、相違点1X〜相違点3Xに係る本件特許発明1の構成に到ることが当業者にとって容易とはいえない以上、効果について論ずるまでもなく、本件特許発明1は、甲6材料発明Xに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 そして、本件特許発明7についても、同様である。さらに、本件特許発明1又は7を直接的ないし間接的に引用する本件特許発明3〜6及び本件特許発明8〜16についても、同様である。 また、甲6材料発明DDを主たる引用発明としても、判断は同様である。 第10 まとめ 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜16に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位とを含み、前記2価の構造単位及び前記3価以上の構造単位の少なくとも一方が、下式で表される構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含み、前記電荷輸送性ポリマーが、下式で表される部分構造(I−2)を含む、有機エレクトロニクス材料。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。] [式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rの少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基であり、R’は、水素原子、又は炭素数1〜8の直鎖のアルキルである。] 【請求項2】 電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位と、1価の構造単位とを含み、前記2価の構造単位は2官能性のモノマーに由来し、前記3価以上の構造単位は3官能性以上のモノマーに由来し、前記1価の構造単位は1官能性のモノマーに由来する電荷輸送性ポリマーであって、前記3価以上の構造単位は、全構造単位を基準として10モル%以上であり、前記2官能性のモノマーと前記3官能性以上のモノマーとが結合してなる部分構造が、下式で表される構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含む、有機エレクトロニクス材料。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。] 【請求項3】 前記構造(I)が、下式で表される置換ビフェニレン構造(I−1)を含む、請求項1又は2に記載の有機エレクトロニクス材料。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。] 【請求項4】 前記2価の構造単位及び前記3価以上の構造単位の少なくとも一方が、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、及びベンゼン構造、及びこれらの1種又は2種以上を含む構造から選択される構造を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。 【請求項5】 前記2価の構造単位及び前記3価以上の構造単位が、それぞれ、置換又は非置換の芳香族アミン構造を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。 【請求項6】 少なくとも前記3価以上の構造単位が、前記構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含む、請求項1、3〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。 【請求項7】 電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位とを含み、前記2価の構造単位と前記3価以上の構造単位とが結合してなる部分構造が、下式で表される構造(I)を有する電荷輸送性ポリマーを含み、前記電荷輸送性ポリマーが、下式で表される部分構造(I−2)を含む、有機エレクトロニクス材料。 [式中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R4の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基である。] [式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rの少なくとも1つは炭素数1〜4のアルキル基であり、R’は、水素原子、又は炭素数1〜8の直鎖のアルキルである。] 【請求項8】 前記電荷輸送性ポリマーが、分子内に1以上の重合性官能基をさらに有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。 【請求項9】 請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料と、溶媒とを含む、インク組成物。 【請求項10】 さらに、重合開始剤を含む、請求項9に記載のインク組成物。 【請求項11】 基板と、請求項9又は10に記載のインク組成物を用いて形成された有機層とを含む有機エレクトロニクス素子。 【請求項12】 前記基板が、樹脂フィルムである、請求項11に記載の有機エレクトロニクス素子。 【請求項13】 請求項9又は10に記載のインク組成物を用いて形成された有機層を有する有機エレクトロルミネセンス素子。 【請求項14】 前記有機層が、正孔注入層である、請求項13に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。 【請求項15】 前記有機層が、正孔輸送層である、請求項13に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。 【請求項16】 陽極及び陰極からなる一対の電極をさらに有し、前記有機層が前記一対の電極間に配置される、請求項13〜15のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-02-28 |
出願番号 | P2015-184344 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(H05B)
P 1 651・ 121- YAA (H05B) P 1 651・ 537- YAA (H05B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
榎本 吉孝 |
特許庁審判官 |
里村 利光 下村 一石 |
登録日 | 2020-02-10 |
登録番号 | 6657702 |
権利者 | 昭和電工マテリアルズ株式会社 |
発明の名称 | 有機エレクトロニクス材料及び該材料を含むインク組成物、並びに有機エレクトロニクス素子及び有機エレクトロルミネセンス素子 |
代理人 | 伊藤 正和 |
代理人 | 高橋 俊一 |
代理人 | 高松 俊雄 |
代理人 | 伊藤 正和 |
代理人 | 高橋 俊一 |
代理人 | 高松 俊雄 |
代理人 | 三好 秀和 |
代理人 | 三好 秀和 |
代理人 | 岩▲崎▼ 幸邦 |
代理人 | 岩▲崎▼ 幸邦 |