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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12N
管理番号 1385125
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-08 
確定日 2022-03-14 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6678627号発明「治療的低密度リポタンパク質関連タンパク質6(LRP6)多価抗体の組成物および使用方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6678627号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜40〕について訂正することを認める。 特許第6678627号の請求項1〜40に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯及び証拠方法
1.手続の経緯
特許第6678627号の請求項1〜40に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成23年5月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成22年5月6日 米国)を国際出願日とする特願2013−508500号の一部を平成29年8月17日に新たな特許出願としたものであって、令和2年3月19日に特許権の設定登録がされ、令和2年4月8日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1〜40に係る特許に対し、令和2年10月8日に特許異議申立人猪狩充(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされた。
その後の手続の経緯は以下の通りである。

令和3年 2月 4日付け 取消理由通知書
令和3年 5月11日 意見書(特許権者)
令和3年 5月31日 上申書(申立人)
令和3年 6月15日付け 取消理由通知書<決定の予告>
令和3年10月15日 意見書、訂正請求書(特許権者)
令和3年12月17日 上申書(申立人)

2.証拠方法
申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:Cell Biology, 2010, 107(35), p.15473-15478(2010年8月31日発行)
甲第2号証:国際公開第2009/056634号(2009年5月7日公開)
甲第3号証:The Journal of Biological Chemistry, 2010, 285(12), p.9172-9179(2010年3月19日発行)
甲第4号証:PLos ONE, 2010, 5(9), e12682(2010年9月13日発行)
甲第5号証:米国特許出願第61/331993号明細書(2010年5月6日出願)
甲第6号証:Cong博士による宣誓書(2019年12月12日)
甲第7号証:米国特許第5482858号明細書
甲第8号証:International Journal of Cancer, 1999, 81, p.285-291(1999年11月8日発行)
甲第9号証:国際公開第2009/064944号(2009年3月22日公開)
甲第10号証:Future Oncology, 2005, 1(5), 673-681(2005年9月22日発行)
甲第11号証:BoneKEy-Osteovision, 2007, 4(12):337-341(2007年12月発行)
甲第12号証:国際公開第2009/032782号(2009年5月22日公開)
甲第13号証:平成20年(行ケ)第10272号判決文(2009年9月2日)
甲第14号証:Development, 2004, 131, 1663-1677(2004年3月30日発行)
甲第15号証:「【いまさら聞けないがんの基礎5】Wnt/β−カテニンシグナル伝達経路とは?」<URL:https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/cancer5/>(2018年12月31日)(2020年10月5日出力)
甲第16号証:特願2017−157638号に係る平成30年7月31日付け拒絶理由通知書
甲第17号証:特願2017−157638号に係る平成30年7月31日付け拒絶理由通知書に対する平成31年2月7日付け意見書
甲第18号証:特願2017−157638号に係る拒絶査定に対する審判請求書
(以下、上記甲第1号証〜甲第18号証を、「甲1」〜「甲18」という。)


第2 訂正の適否についての判断1.訂正の内容
令和3年10月15日付け訂正請求書において特許権者が請求する訂正(以下「本件訂正」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである。下線は、訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、
「LRP6標的受容体の2つの異なる結合部位に対する少なくとも2つの受容体結合ドメインを含む二パラトープ抗体であって、第1の受容体結合ドメインはβ−プロペラ1ドメインに結合し、第2の受容体結合ドメインは同じLRP6標的受容体上のβ−プロペラ3ドメインに結合し、前記LRP6標的受容体のβ−プロペラ1ドメインおよびβ−プロペラ3ドメインへの前記第1および第2の受容体結合ドメインの結合がWnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、前記二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さない、二パラトープ抗体。」と記載されているのを、
「4つの受容体結合ドメインを含む四価の二パラトープ抗体であって、2つの第1の受容体結合ドメインは2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ1ドメインにそれぞれ結合し、2つの第2の受容体結合ドメインは同じ2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ3ドメインにそれぞれ結合し、前記同じLRP6標的受容体のβ−プロペラ1ドメインおよびβ−プロペラ3ドメインへの前記第1および第2の受容体結合ドメインの結合がWnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、前記四価の二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さない、四価の二パラトープ抗体。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2において、
「前記第1および/または第2の受容体結合ドメインが、IgG抗体、scFv断片、および抗体可変ドメインからなる群から選択される、請求項1に記載の二パラトープ抗体。」と記載されているのを、
「前記第1および/または第2の受容体結合ドメインの一方または両方が、IgG抗体、scFv断片、および抗体可変ドメインからなる群から選択される、請求項1に記載の四価の二パラトープ抗体。」に訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3において、
「前記第1の受容体結合ドメインが第1の抗体可変ドメインであり、かつ、前記第2の受容体結合ドメインが第2の抗体可変ドメインである、請求項1または2に記載の二パラトープ抗体。」と記載されているのを、
「前記第1の受容体結合ドメインの一方または両方が第1の抗体可変ドメインであり、かつ、前記第2の受容体結合ドメインの一方または両方が第2の抗体可変ドメインである、請求項1または2に記載の四価の二パラトープ抗体。」に訂正する。


(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項4において、
「前記第1および第2の受容体結合ドメインがラクダ抗体を含む、請求項1または2に記載の二パラトープ抗体。」と記載されているのを、
「前記第1および第2の受容体結合ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てがラクダ抗体を含む、請求項1または2に記載の四価の二パラトープ抗体。」に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項5において、
「前記第1および第2の受容体結合ドメインがシングルドメイン抗体を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の二パラトープ抗体。」と記載されているのを、
「前記第1および第2の受容体結合ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てがシングルドメイン抗体を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の四価の二パラトープ抗体。」に訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項6において、「前記第1および第2の受容体結合ドメインが単一の可変ドメインまたはVHHを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の二パラトープ抗体。」と記載されているのを、
「前記第1および第2の受容体結合ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てが単一の可変ドメインまたはVHHを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の四価の二パラトープ抗体。」に訂正する。

(7)訂正事項7
訂正前の特許請求の範囲の請求項7において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(8)訂正事項8
訂正前の特許請求の範囲の請求項8において、
「前記第1および第2の抗体可変ドメインが単一の可変ドメインまたはVHHを含む、請求項7に記載の二パラトープ抗体。」と記載されているのを、
「前記第1および第2の抗体可変ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てが単一の可変ドメインまたはVHHを含む、請求項7に記載の四価の二パラトープ抗体。」に訂正する。

(9)訂正事項9
訂正前の特許請求の範囲の請求項9において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(10)訂正事項10
訂正前の特許請求の範囲の請求項10において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(11)訂正事項11
訂正前の特許請求の範囲の請求項11において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(12)訂正事項12
訂正前の特許請求の範囲の請求項12において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(13)訂正事項13
訂正前の特許請求の範囲の請求項13において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(14)訂正事項14
訂正前の特許請求の範囲の請求項14において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(15)訂正事項15
訂正前の特許請求の範囲の請求項15において、
「同じLRP6標的受容体の2つの異なる結合部位に対する少なくとも2つの抗体可変ドメインを含む二パラトープ分子を含む組成物であって、第1の抗体可変ドメインはβ−プロペラ1ドメインに結合してWnt−1シグナル伝達経路を阻害し、第2の抗体可変ドメインはβ−プロペラ3ドメインに結合してWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、前記分子がWntシグナルの有意な増強を示さない、組成物。」と記載されているのを、
「4つの抗体可変ドメインを含む四価の二パラトープ分子を含む組成物であって、2つの第1の抗体可変ドメインは2つのLRP6標的受容体のβ−プロペラ1ドメインに結合してWnt−1シグナル伝達経路を阻害し、2つの第2の抗体可変ドメインは同じ2つのLRP6標的受容体のβ−プロペラ3ドメインに結合してWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、前記四価の二パラトープ分子がWntシグナルの有意な増強を示さない、組成物。」に訂正する。

(16)訂正事項16
訂正前の特許請求の範囲の請求項16において、
「第1および第2の抗体可変ドメインがラクダ抗体を含む」と記載されているのを、
「第1および第2の抗体可変ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てがラクダ抗体を含む」に訂正する。

(17)訂正事項17
訂正前の特許請求の範囲の請求項17において、
「第1および第2の抗体可変ドメインがシングルドメイン抗体を含む」と記載されているのを、
「第1および第2の抗体可変ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てがシングルドメイン抗体を含む」に訂正する。

(18)訂正事項18
訂正前の特許請求の範囲の請求項18において、
「第1および第2の抗体可変ドメインが単一の可変ドメインまたはVHHを含む」と記載されているのを、
「第1および第2の抗体可変ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てが単一の可変ドメインまたはVHHを含む」に訂正する。

(19)訂正事項19
訂正前の特許請求の範囲の請求項24において、
「LRP6標的受容体の2つの異なる結合部位に対する少なくとも2つのVHHを含む二パラトープ抗体であって、第1のVHHはβ−プロペラ1ドメインに結合してWnt−1シグナル伝達経路を阻害し、第2のVHHはβ−プロペラ3ドメインに結合してWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、前記二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さず、かつ、半減期を延長する部分をさらに含む、二パラトープ抗体。」と記載されているのを、
「4つのVHHを含む四価の二パラトープ抗体であって、2つの第1のVHHは2つのLRP6標的受容体のβ−プロペラ1ドメインにそれぞれ結合してWnt−1シグナル伝達経路を阻害し、2つの第2のVHHは同じ2つのLRP6標的受容体のβ−プロペラ3ドメインにそれぞれ結合してWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、前記四価の二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さず、かつ、半減期を延長する部分をさらに含む、四価の二パラトープ抗体。」に訂正する。

(20)訂正事項20
訂正前の特許請求の範囲の請求項25において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(21)訂正事項21
訂正前の特許請求の範囲の請求項26において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(22)訂正事項22
訂正前の特許請求の範囲の請求項27において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(23)訂正事項23
訂正前の特許請求の範囲の請求項30において、
「(a)LRP6のβ−プロペラ1に結合する第1の受容体結合ドメインを提供すること;
(b)LRP6のβ−プロペラ3に結合する第2の受容体結合ドメインを提供すること;および
(c)第1の受容体結合ドメインを第2の受容体結合ドメインに連結すること、
を含む請求項1に記載の二パラトープ抗体を得る方法。」と記載されているのを、
「(a)LRP6のβ−プロペラ1に結合する2つの第1の受容体結合ドメインを提供すること;
(b)LRP6のβ−プロペラ3に結合する2つの第2の受容体結合ドメインを提供すること;および
(c)第1の受容体結合ドメインの少なくとも1つを第2の受容体結合ドメインの少なくとも1つに連結すること、
を含む請求項1に記載の四価の二パラトープ抗体を得る方法。」に訂正する。

(24)訂正事項24
訂正前の特許請求の範囲の請求項33において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(25)訂正事項25
訂正前の特許請求の範囲の請求項34において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(26)訂正事項26
訂正前の特許請求の範囲の請求項35において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(27)訂正事項27
訂正前の特許請求の範囲の請求項36において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(28)訂正事項28
訂正前の特許請求の範囲の請求項37において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(29)訂正事項29
訂正前の特許請求の範囲の請求項38において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(30)訂正事項30
訂正前の特許請求の範囲の請求項39において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを、
「四価の二パラトープ抗体」に訂正する。

(31)訂正事項31
訂正前の特許請求の範囲の請求項40において、
「二パラトープ抗体」と記載されているのを「四価の二パラトープ抗体」に訂正し、「第1の受容体結合ドメイン」と記載されているのを「第1の受容体結合ドメインの一方または両方」に訂正し、「第2の受容体結合ドメイン」と記載されているのを「第2の受容体結合ドメインの一方または両方」に訂正する。

2.一群の請求項について
訂正前の請求項2〜14、26〜40は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、「一群の請求項」である。
同様に、訂正前の請求項16〜23、26〜30、33〜40は、訂正前の請求項15を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項15によって訂正される請求項15に連動して訂正されるものであるから、「一群の請求項」である。
同様に、訂正前の請求項25〜29、33〜40は、訂正前の請求項24を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項19によって訂正される請求項24に連動して訂正されるものであるから、「一群の請求項」である。
そして、これらの「一群の請求項」は、請求項26〜29、33〜40で共通するため、訂正前の請求項1〜40は、特許法第120条の5第4項に規定する1つの「一群の請求項」といえる。

以上より、訂正事項1〜31に係る本件訂正は、「一群の請求項」である請求項〔1〜40〕についてなされたものである。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、15、19について
訂正事項1、15、19は、本件特許の設定登録時の明細書(以下、「本件明細書」という。)における「本明細書において用いる“二パラトープ抗体”の用語は、同じ標的受容体上の2つの異なるエピトープに結合する抗体、例えば、単一の LRP6 受容体上のβ-プロペラ1ドメインおよびβ-プロペラ 3 ドメインに結合する抗体をいう。該用語は、少なくとも2つの LRP6 受容体のβ-プロペラ3およびβ-プロペラ3ドメインの両方に結合する抗体、例えば四価の二パラトープ抗体をも含む。」(【0072】)との記載に基づき、訂正前の請求項1、15、24に記載された「二パラトープ抗体」を「四価の二パラトープ抗体」に限定するとともに、前記抗体に含まれる「2つの第1の受容体結合ドメイン」が「2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ1ドメインにそれぞれ結合」し、「2つの第2の受容体結合ドメイン」が「2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ3ドメインにそれぞれ結合」することで、前記抗体が、「4つの受容体結合ドメイン」を含むことを限定するものである。
したがって、当該訂正事項1、15、19は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲が拡張し、又は変更するものともいえない。

(2)訂正事項2〜3、31について
訂正事項2〜3、31は、上記の本件明細書の【0072】の記載に基づき、訂正前の請求項2〜3、40に記載されていた「二パラトープ抗体」を「四価の二パラトープ抗体」に限定し、それに伴い、訂正前の請求項2〜3、40に記載されていた「第1の受容体結合ドメイン」および/または「第2の受容体結合ドメイン」の「一方または両方」について、それぞれ、「IgG抗体、scFv断片、および抗体可変ドメインからなる群から選択される」こと、「抗体可変ドメイン」であること、または、参照抗体と競合することを限定するものである。
したがって、当該訂正事項2〜3、31は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲が拡張し、又は変更するともいえない。

(3)訂正事項4〜6、8、16〜18について
訂正事項4〜6、8、16〜18は、上記の本件明細書の【0072】の記載に基づき、訂正前の請求項4〜6、8、16〜18に記載された「二パラトープ抗体」を「四価の二パラトープ抗体」に限定し、それに伴い、訂正前の請求項4〜6、8、16〜18に記載の「第1および第2の受容体結合ドメイン」の「1つ、2つ、3つまたは全て」が、「ラクダ抗体」、「シングルドメイン抗体」、または、「単一の可変ドメインまたはVHH」であることを限定するものである。
したがって、当該訂正事項4〜6、8、16〜18は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲が拡張し、又は変更するともいえない。

(4)訂正事項7、9〜14、20〜22、24〜30について
訂正事項7、9〜14、20〜22、24〜30は、上記の本件明細書の【0072】の記載に基づき、訂正前の請求項7、9〜14、25〜27、33〜39に記載された「二パラトープ抗体」を「四価の二パラトープ抗体」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲が拡張し、又は変更するともいえない。

(5)訂正事項23について
訂正事項23は、上記の本件明細書の【0072】の記載に基づき、訂正前の請求項30に記載された「二パラトープ抗体」を「四価の二パラトープ抗体」に限定し、それに伴い、「第1の受容体結合ドメイン」および「第2の受容体結合ドメイン」を「2つ」とすること、並びに、それらのうちの少なくとも1つずつを連結することを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲が拡張し、又は変更するともいえない。

4.独立特許要件
訂正前の請求項1〜40(全請求項)について、本件特許異議の申立てがなされているので、独立特許要件の検討は要しない。

5.小括
以上のとおりであるから、訂正事項1〜31は、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合しているものである。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める。


第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1〜40に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜40に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
4つの受容体結合ドメインを含む四価の二パラトープ抗体であって、2つの第1の受容体結合ドメインは2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ1ドメインにそれぞれ結合し、2つの第2の受容体結合ドメインは同じ2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ3ドメインにそれぞれ結合し、前記同じLRP6標的受容体のβ−プロペラ1ドメインおよびβ−プロペラ3ドメインへの前記第1および第2の受容体結合ドメインの結合がWnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、前記四価の二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さない、四価の二パラトープ抗体。
【請求項2】
前記第1および/または第2の受容体結合ドメインの一方または両方が、IgG抗体、scFv断片、および抗体可変ドメインからなる群から選択される、請求項1に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項3】
前記第1の受容体結合ドメインの一方または両方が第1の抗体可変ドメインであり、かつ、前記第2の受容体結合ドメインの一方または両方が第2の抗体可変ドメインである、請求項1または2に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項4】
前記第1および第2の受容体結合ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てがラクダ抗体を含む、請求項1または2に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項5】
前記第1および第2の受容体結合ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てがシングルドメイン抗体を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項6】
前記第1および第2の受容体結合ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てが単一の可変ドメインまたはVHHを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項7】
前記第1の抗体可変ドメインと前記第2の抗体可変ドメインが、前記第1の抗体可変ドメインと前記第2の抗体可変ドメインとがそれぞれLRP6のβ−プロペラ1ドメインとβ−プロペラ3ドメインに結合することを許容する空間分布を有するリンカーによって連結している、請求項3に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項8】
前記第1および第2の抗体可変ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てが単一の可変ドメインまたはVHHを含む、請求項7に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項9】
前記第1の受容体結合ドメインと前記第2の受容体結合ドメインがリンカーによって連結している、請求項1〜8のいずれかに記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項10】
前記リンカーがGly-Serリンカーである、請求項9に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項11】
前記リンカーが(Gly4Ser)4および(Gly4Ser)3からなる群より選択される、請求項9または10に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項12】
半減期を延長する部分をさらに含む、請求項1〜11のいずれかに記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項13】
前記半減期を延長する部分が血清タンパク質に結合する部分である、請求項12に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項14】
前記血清タンパク質が、アルブミン、IgG、FcRnまたはトランスフェリンである、請求項13に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項15】
4つの抗体可変ドメインを含む四価の二パラトープ分子を含む組成物であって、2つの第1の抗体可変ドメインは2つのLRP6標的受容体のβ−プロペラ1ドメインに結合してWnt−1シグナル伝達経路を阻害し、2つの第2の抗体可変ドメインは同じ2つのLRP6標的受容体のβ−プロペラ3ドメインに結合してWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、前記四価の二パラトープ分子がWntシグナルの有意な増強を示さない、組成物。
【請求項16】
前記第1および第2の抗体可変ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てがラクダ抗体を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記第1および第2の抗体可変ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てがシングルドメイン抗体を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
前記第1および第2の抗体可変ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てが単一の可変ドメインまたはVHHを含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
前記第1の抗体可変ドメインと前記第2の抗体可変ドメインがリンカーによって連結している、請求項15に記載の組成物。
【請求項20】
前記リンカーがGly-Serリンカーである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記リンカーが(Gly4Ser)4および(Gly4Ser)3からなる群より選択される、請求項19または20に記載の組成物。
【請求項22】
半減期を延長する部分をさらに含む、請求項15〜21のいずれかに記載の組成物。
【請求項23】
前記半減期を延長する部分がアルブミンに結合する部分である、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
4つのVHHを含む四価の二パラトープ抗体であって、2つの第1のVHHは2つのLRP6標的受容体のβ−プロペラ1ドメインにそれぞれ結合してWnt−1シグナル伝達経路を阻害し、2つの第2のVHHは同じ2つのLRP6標的受容体のβ−プロペラ3ドメインにそれぞれ結合してWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、前記四価の二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さず、かつ、半減期を延長する部分をさらに含む、四価の二パラトープ抗体。
【請求項25】
前記半減期を延長する部分がアルブミンに結合する部分である、請求項24に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項26】
請求項1〜14、24または25のいずれか一項に記載の四価の二パラトープ抗体または請求項15〜23のいずれか一項に記載の組成物と、医薬上許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項27】
請求項1〜15、24または25のいずれか一項に記載の四価の二パラトープ抗体をコードする核酸。
【請求項28】
請求項27の核酸を含むベクター。
【請求項29】
請求項27の核酸を含む宿主細胞。
【請求項30】
(a)LRP6のβ−プロペラ1に結合する2つの第1の受容体結合ドメインを提供すること;
(b)LRP6のβ−プロペラ3に結合する2つの第2の受容体結合ドメインを提供すること;および
(c)第1の受容体結合ドメインの少なくとも1つを第2の受容体結合ドメインの少なくとも1つに連結すること、
を含む請求項1に記載の四価の二パラトープ抗体を得る方法。
【請求項31】
前記第1および第2の受容体結合ドメインが、IgG抗体、scFv断片、および抗体可変ドメインからなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記第1および第2の受容体結合ドメインが、前記第1および第2の受容体結合ドメインがそれぞれLRP6のβ−プロペラ1とβ−プロペラ3に結合することを許容する空間分布を有するリンカーによって連結されている、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
医薬としての使用のための、請求項1〜14、24または25のいずれか一項に記載の四価の二パラトープ抗体または請求項15〜23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
LRP6を発現する癌を有する対象の処置のための医薬としての使用のための、請求項1〜14、24または25のいずれか一項に記載の四価の二パラトープ抗体または請求項15〜23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
対象がヒトである、請求項33または34に記載の四価の二パラトープ抗体または組成物。
【請求項36】
前記癌が乳癌、肺癌、多発性骨髄腫、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、胃癌、前立腺癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、骨肉腫、扁平上皮癌および黒色腫からなる群から選択される癌である、請求項34または35に記載の四価の二パラトープ抗体または組成物。
【請求項37】
前記癌が乳癌である、請求項34または35に記載の四価の二パラトープ抗体または組成物。
【請求項38】
Wnt−1、Wnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路が介在する疾患を処置するための、請求項1〜14、24または25のいずれか一項に記載の四価の二パラトープ抗体または請求項15〜23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項39】
乳癌、肺癌、多発性骨髄腫、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、胃癌、前立腺癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、骨肉腫、扁平上皮癌および黒色腫からなる群から選択される癌の処置のための医薬の製造における、請求項1〜14、24または25のいずれか一項に記載の四価の二パラトープ抗体または請求項15〜23のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項40】
請求項1〜14、24または25のいずれか一項に記載の四価の二パラトープ抗体または請求項15〜23のいずれか一項に記載の組成物であって、
(i)第1の受容体結合ドメインの一方または両方が、LRP6のβ−プロペラ1ドメインに結合する参照抗体と、β−プロペラ1ドメインへの結合について競合し、前記参照抗体がMOR08168、MOR08545またはMOR06706から選択されたものであるか、または
(ii)第2の受容体結合ドメインの一方または両方が、LRP6のβ−プロペラ3ドメインに結合する参照抗体と、β−プロペラ3ドメインへの結合について競合し、前記参照抗体がMOR06475、MOR08193またはMOR08473から選択されたものである
の一方または両方である、四価の二パラトープ抗体または組成物。」
(以下、本件訂正により訂正された請求項1〜40に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」〜「本件発明40」という。これらをまとめて「本件発明」ということもある。)


第4 取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した取消理由の概要
1.令和3年6月15日付け取消理由通知書<決定の予告>で示した取消理由の概要
訂正前の請求項1〜40に係る発明に対して、当審が令和3年6月15日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

(1)取消理由1(実施可能要件
訂正前の本件発明1の二パラトープ抗体は、少なくとも2つの受容体結合ドメインを含む、すなわち二価以上であること以外には、その価数や各結合ドメインの数が特定されていないから、二価以上の様々な価数・各結合ドメイン数を有する抗体が包含されると認められる。
本件特許明細書の記載や本件出願時の技術常識を参照しても、当業者は、「Wntシグナルの有意な増強を示さない」、2つのLRP6受容体におけるβ―プロペラ1ドメイン及びβ―プロペラ3ドメインの両方に結合する四価の二パラトープ抗体を作製することはできても、訂正前の本件発明1に包含される、これ以外の様々な価数・各結合ドメイン数を有する二パラトープ抗体を作製することができるとは理解できない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の本件発明1〜40を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、訂正前の本件発明1〜40に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(2)取消理由2(サポート要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、2つのLRP6受容体におけるβ―プロペラ1ドメイン及びβ―プロペラ3ドメインの両方に結合する四価の二パラトープ抗体を用いた場合に、Wnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、前記二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さないことが記載されているのみである。
しかし、上記のような四価の二パラトープ抗体ではない場合、すなわち、一方、例えば二価や三価の二パラトープ抗体では、標的となるLRP6受容体が二量体化するとともに、Wntタンパク質により開始するWntシグナル経路がブロックされずに残存することが起こり得るのであるから、そのような抗体であって実際にWntシグナルの有意な増強を示さないものが存在すると理解することはできない。
そうすると、本件出願時の技術常識に照らしても、2つのLRP6受容体におけるβ―プロペラ1ドメイン及びβ―プロペラ3ドメインの両方に結合する四価の二パラトープ抗体以外の二パラトープ抗体をも包含する本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。
以上より、訂正前の本件発明1〜40は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、訂正前の本件発明1〜40に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(3)取消理由3(甲2を主引例とする進歩性
訂正前の本件発明1〜40は、甲2(国際公開第2009/056634号)に記載された発明及び甲2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件発明1〜40に係る特許は、特許法第29条2項の規定に違反してされたものである。

2.令和3年2月4日付け取消理由通知書で示した取消理由の概要
令和3年2月4日付け取消理由通知書で示した取消理由は、令和3年6月15日付け取消理由通知書<決定の予告>で示した取消理由と同じものである。

3.特許異議申立書に記載した取消理由の概要
特許異議申立人が特許異議申立書で示した取消理由(以下、「申立理由」という。)は、以下のとおりである。

(1)申立理由1(明確性要件)
訂正前の請求項1の「Wnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害する」との記載、「二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さない」との記載、訂正前の請求項7の「前記第1の抗体可変ドメインと前記第2の抗体可変ドメインとがそれぞれLRP6のβ−プロペラ1ドメインとβ−プロペラ3ドメインに結合することを許容する空間分布を有するリンカーによって連結している」との記載、訂正前の請求項12の「半減期を延長する」との記載、訂正前の請求項40の「参照抗体」が「MOR08168、MOR08545またはMOR06706から選択されたもの」又は「MOR06475、MOR08193またはMOR08473から選択されたもの」との記載は不明瞭である。
したがって、訂正前の本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(実施可能要件及びサポート要件)
訂正前の請求項1において、「β−プロペラ1ドメイン」はLRP6の細胞外ドメインのアミノ酸残基43−324であり、「β−プロペラ3ドメイン」は同アミノ酸残基654−929であるから、エピトープの範囲としては巨大過ぎ、この全ての範囲に結合するということは想定ができないし、結合する具体的な範囲についても不明であるから、当業者が200以上あるアミノ酸配列からエピトープを特定することは過度の試行錯誤が要求されるし、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。
また、本件明細書の記載によれば、“Wntシグナル伝達経路”はWnt1のみではなく、Wnt2、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b等に依存する古典的Wnt経路を含むが、実施例において具体的に確認をしているのは、Wnt1依存性シグナル伝達の阻害のみであり、他のWnt1クラスのリガンドについて阻害されるか否か確認したものではない。
更に、甲4によると、LRP6のβ−プロペラ1ドメインに結合する結合部位(第1の受容体結合ドメインに相当)を有する抗体であっても、Wnt1クラスに含まれるWnt7a及びWnt7b依存性シグナル伝達を阻害せず、むしろ増強するものが存在する。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が訂正前の請求項1及び同項を直接又は間接的に引用する請求項2〜40が対象とする「二パラトープ抗体」を作製できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、訂正前の請求項1〜40は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。
したがって、訂正前の本件特許は、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(甲1を主引例とする新規性進歩性
請求項1にある「第1の受容体結合ドメインはβ−プロペラ1ドメインに結合し、第2の受容体結合ドメインは同じLRP6標的受容体上のβ−プロペラ3ドメインに結合し」、「前記LRP6標的受容体のβ−プロペラ1ドメインおよびβ−プロペラ3ドメインへの前記第1および第2の受容体結合ドメインの結合がWnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し」、及び、「Wntシグナルの有意な増強を示さない」という特性を有する二パラトープ抗体は、国際出願日に初めて見いだされたものであるから、本件特許の出願は、パリ条約による優先権が認められるべきではなく、訂正前の本件発明1〜40について新規性進歩性の判断の基準となる日は、国際出願日である2011年5月5日である。
そうすると、訂正前の本件発明1〜40は、2010年8月31日に発行された甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するか、又は、甲1に記載された発明と甲1及び甲2の記載に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法同条第2項の規定により特許を受けることができず、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(甲2を主引例とする新規性進歩性
訂正前の本件発明1〜40は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するか、又は、甲2及び甲1、7の記載、若しくは、甲2及び甲1、3〜12の記載に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法同条第2項の規定により特許を受けることができず、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)申立理由5(甲3を主引例とする進歩性
訂正前の本件発明1〜40は、甲3の記載、又は、甲3及び甲2の記載、若しくは、甲3及び甲1の記載に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


第5 当審の判断
訂正前の本件発明は、上記の第3のとおりに適法に訂正されたところ、当審は、本件発明1〜40に係る特許は、第4の1で示した取消理由1〜3、第4の3で示した申立理由1〜5により取り消すことはできないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1.取消理由1(実施可能要件)、取消理由2(サポート要件)について
(1)本件明細書の記載
本願明細書には、以下の事項が記載されている。下線は当審による。

(本ア)
「本明細書において用いる“二パラトープ抗体”の用語は、同じ標的受容体上の2つの異なるエピトープに結合する抗体、例えば、単一のLRP6受容体上のβ−プロペラ1ドメインおよびβ−プロペラ3ドメインに結合する抗体をいう。該用語は、少なくとも2つのLRP6受容体のβ−プロペラ1およびβ−プロペラ3ドメインの両方に結合する抗体、例えば四価の二パラトープ抗体をも含む。」([0072])

(本イ)
「二量体LRP6抗体(例えばIgG)は、例えば内在性LRP6の二量体化を通じて、細胞をWntシグナル伝達に対して強く感作させる。」([0127])

(本ウ)
「Wnt1 Fabが全長 Wnt1 IgGに変換されると、該Wnt1 IgGは2つのLRP6受容体のβ−プロペラ1ドメインに結合し、Wntリガンド、例えば Wnt3の存在下においてWnt1経路を遮断するが;シグナル活性化がWnt3経路を介して生じ、それが増強される。作用の理論を提供する必要はないが、1つの可能なメカニズムは、IgGクラスターが各LRP6受容体のβ−プロペラ1ドメインに結合することによって2以上のLRP6受容体を一緒にし、それがWnt3リガンドの存在下においてWnt3経路を介するより強いシグナルをもたらすというものである。LRP6受容体の二量体化は、おそらくはLRP6を含む様々な相互作用のアビディティーの増大を通じて、Wntシグナル伝達を促進する。」([0128])

(本エ)
「Fab断片からのLRP6抗体の、IgGへの変換は、Wntシグナルを促進する。293T/17 STFレポーター分析において、プロペラ1抗−LRP6 IgGは、Wnt1−依存性を阻害し、そして、Wnt3A−依存性シグナリングを促進する。同様に、図5に示されるように、プロペラ3抗−LRP6 IgGは、Wnt3A−依存性を阻害し、そして、Wnt1−依存性シグナリングを促進する。」([0477]、実施例5)

(本オ)「別の予想外の発見は、Wntリガンドの存在下での、二価IgGフォーマットにおける抗体のWnt−増強活性であった。IgGフォーマットにおいて試験された全ての抗体は、STF Lucレポーター遺伝子分析において、Wnt1またはWnt3Aシグナリングを増進した。興味深いことに、Wnt1を阻害し、そして、Wnt3A分析において不活性であった大半のFabは、いまだIgGとしてWnt1を阻害したが、Wnt3Aシグナリングを増強し、そして、逆の場合も同じであった。…これらのデータは、異なるWntタンパク質が、シグナリングのために、異なるLRP6のプロペラに結合することを示す。二価LRP6抗体を用いたLRP6の二量化は、それだけでWntシグナルを刺激するに十分ではないが、他のクラスのWntタンパク質によって開始するWntシグナルを増強することができる。これらの発見は、異なる正準Wntリガンドが、LRP6上の異なる結合部位を用いること、および全ての二価抗体が、非−ブロックWntFab(一本鎖抗体、ユニボディ)の存在下で、IgGフォーマットにおけるWnt活性を増進することを実証する。」([0495]、実施例11)

(本カ)
「MOR06475、MOR08168、およびMOR08545 scFvおよびFabコンストラクト、ならびにいくつかの二パラトープフォーマットの活性を、HEK293STF分析において評価した(図17および18)。まとめると、データは、プロペラ1IgG(MOR08168)が、STF分析において、Wnt3などのプロペラ3リガンドを増強しながら、Wnt1などのプロペラ1リガンドを阻害することを示す。プロペラ3scFv6475は、Wnt1などのプロペラ1リガンドに対する活性がないながら、Wnt3などのプロペラ3リガンドを阻害する。さらに、MOR08168/6475二パラトープ抗体は、プロペラ1およびプロペラ3リガンドの両方に対する活性を有し、そして、HEK293 Wnt STF分析において、適用されるいかなる濃度においても、増強する活性を有さない。」([0542]、実施例12)



」(図17)

(本キ)
「この研究において産生される二パラトープ抗−LRP6 Ig−scFvフォーマットの略図は、図15に提示される。図15Aは、IgGのC−末端に付着するscFv scFvを表し;15Bは、FcのN−末端に付着したscFv scFvを;15Cは、FcのC−末端に付着するscFv scFvを表し;そして、15Dは、FcのN−およびC−末端に付着するscFv scFvを表す。」([0544]、実施例12)
ここで、図15は以下のとおりである。



(2)実施可能要件及びサポート要件の判断
本件訂正の訂正事項1〜31により、本件発明1〜40が対象とする二パラトープ抗体は、「2つの第1の受容体結合ドメインは2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ1ドメインにそれぞれ結合し、2つの第2の受容体結合ドメインは同じ2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ3ドメインにそれぞれ結合」する「四価の二パラトープ抗体」に限定された。
本件明細書の(本カ)、(本キ)によると、本件明細書では具体的に、「MOR08168/MOR06475BpAb」のような、2つのLRP6受容体におけるβ―プロペラ1ドメイン及びβ―プロペラ3ドメインの両方に結合する四価の二パラトープ抗体が作製されており、かかる抗体が、Wnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、Wntシグナルの有意な増強を示さないことが、実験結果により、確認されている。
そして、「MOR08168/MOR06475BpAb」を作製した方法を採用すれば、「MOR08168/MOR06475BpAb」に限らず、上記の結合特性を有する、他の四価の二パラトープ抗体を作製することも可能であるといえる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜40を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものと認められる。
また、本件発明1〜40は、本件明細書の[0040]に記載された課題を解決し得ることが当業者に認識し得るものであり、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないものとも認められない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1〜40に係る特許は、取消理由1(実施可能要件)、取消理由2(サポート要件)によって取り消すべきものではない。

2.取消理由3(甲2を主引例とする進歩性)について
(1)甲2に記載された事項
甲2(国際公開第2009/056634号)には、次の事項が記載されている(甲2は英文で記載されているため、当審が和訳した。また、下線は当審が付した。)。

(甲2ア)
「種々の態様において、LRP6結合分子(例えば、抗LRP6アンタゴナイズ抗体)は1つ以上のLRP6のプロペラ(例えば、同時にプロペラ1、プロペラ3、またはそれらの構成ドメインまたはモチーフ)に結合することができる。場合によっては、該同時に結合するLRP6結合分子は特定のWntリガンドが同様にLRP6と結合することを阻止することができる。非限定的な例として、該同時に結合するLRP6結合分子はWnt1またはWnt3aリガンドがLRP6と結合することを阻止することができる。非限定的な例として、該同時に結合するLRP6結合分子はWnt3およびWnt3a−特異的シグナル伝達活性を阻害することができる。さらなる非限定的な例として、該同時に結合するLRP6結合分子はWnt1、Wnt2、Wnt6、Wnt7a、Wnt7bおよびWnt10−特異的シグナル伝達活性を阻害することができる。」([0016])

(甲2イ)
「LRP6結合分子は、例えば、抗体のFabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2またはFvフラグメントを含む。」([0027])

(甲2ウ)
「他の態様において、LRP6結合分子を、該結合分子を増加するための薬物と接合または結合させる。場合によっては、LRP6結合分子はヒト血清アルブミン(HSA)結合タンパク質と結合する。」([0028])

(甲2エ)
「ヒトLRP6のタンパク質配列(配列番号:1)内のドメインの位置は下記のとおりである:シグナルペプチドは配列番号:1のアミノ酸残基1−19に見ることができ;六枚β−プロペラ構造を形成する、4つのYWTD(チロシン、トリプトファン、スレオニンおよびアスパラギン酸)−型β−プロペラドメイン…は配列番号:1…に見ることができる。」([0071])

(甲2オ)
「Fvフラグメントの2つのドメインVLおよびVHは別々の遺伝子によりコードされているが、それらは、組換え方法を使用して、VLおよびVH領域が対になって一価分子を形成する一本のタンパク質鎖として作製可能とする人工ペプチドリンカーにより連結することができる…。」([0085])

(甲2カ)
「VHHとして同定された小さい1本の可変ドメインであるラクダ抗体の領域は、標的に対して高い親和性を有する小タンパク質を得るために遺伝子工学により得ることができ、“ラクダナノボディ”として既知の低分子量抗体由来タンパク質をもたらす。…非ヒト起源の他の抗体に関して、ラクダ抗体のアミノ酸配列はヒト配列をより密接に似ている配列を得るために組換え的に改変させることができる、すなわち、ナノボディはヒト化することができる。」([0112])

(甲2キ)
「ダイアボディは、VHおよびVLドメインが単一ポリペプチド鎖で発現され、あまりに短すぎるため同じ鎖の2つのドメイン間で対になることができないリンカーにより結合している、二価、二重特異性分子である。VHおよびVLドメインは別の鎖の相補的ドメインと対を作り、それによって2つの抗原結合部位を創造する。」([0116])

(甲2ク)
「抗体は、例えば、抗体の生体(例えば、血清)半減期を延長するためにペグ化することができる。」([00137])

(甲2ケ)
「本発明の他の局面は本発明のLRP6結合分子をコードする核酸分子に関する。…核酸はベクター、例えば、ファージディスプレイベクターまたは組換えプラスミドベクター中に存在していてもよい。」([00147])

(甲2コ)
「scFv遺伝子を創造するため、VHおよびVLをコードするDNAフラグメントは、フレキシブルリンカーにより連結されたVLおよびVH領域を有するVHおよびVL配列が連続する一本鎖タンパク質として発現することができるように、例えば、アミノ酸配列(Gly4−Ser)3をコードするフレキシブルリンカーをコードするさらなるフラグメントに作動可能に連結される…。」([00152])

(甲2サ)
「本発明の抗体は、また、例えば、当分野で既知である組換えDNA技術および遺伝子トランスフェクション法の組合せを使用して、宿主細胞トランスフェクトーマ中で製造することができる」([00171])

(甲2シ)
「他の局面において、本発明は本発明のLRP6結合分子(例えば、抗LRP6抗体またはそのフラグメント)を含む二重特異性分子を特徴とする。本発明のLRP6結合分子は誘導体化されるか、または他の機能分子、例えば、他のペプチドまたはタンパク質(例えば、受容体に対する他の抗体またはリガンド)と結合し、少なくとも2つの異なる結合部位または標的分子に結合する二重特異性分子を製造することができる。…本発明の二重特異性分子を創造するため、本発明の抗体を(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合性会合またはその他のものにより)二重特異性分子となるように1つ以上の他の 結合分子、例えば、他の抗体、抗体フラグメント、ペプチドまたは結合模倣物に機能的に結合することができる。」([00177])

(甲2ス)
「したがって、本発明はLRP6または別のタンパク質標的における、1つのLRP6エピトープに対する少なくとも1つの第1の結合特異性および第2の標的エピトープに対する第2の結合特異性を含む二重特異性分子を含む。非限定的な例として、本発明の二重特異性分子はLRP6のプロペラ1およびプロペラ3の両方に結合することができる。」([00178])

(甲2セ)
「他の局面において、本発明は、本発明のLRP6結合分子(例えば、モノクローナル抗体またはその抗原−結合部分)の1つまたは組合せを含む、薬学的に許容される担体とともに製剤化された組成物、例えば、医薬組成物を提供する。」([00193])

(甲2ソ)
「本明細書に記載されているLRP6結合分子はインビトロおよびインビボで診断的および治療的有用性を有する。…Wntシグナル伝達の異常上方調節は、特にアンタゴナイズLRP結合分子の投与による処置で修正可能である、癌、骨関節症および多発性嚢胞腎と関連する。」([00214])

(甲2タ)
「1つの態様において、LRP6アンタゴナイズ結合分子は、Wnt1特異的様式においてLRP6の第1のプロペラに結合することにより、Wnt経路の異常に高いレベルと関連するWntシグナル伝達障害を診断、その症状を改善、その障害から保護、およびその障害を処置するために使用することができる。他の態様において、LRP6アンタゴナイズ結合分子は、Wnt3a特異的様式においてLRP6の第3のプロペラに結合することにより、Wnt経路の異常に高いレベルと関連するWntシグナル伝達障害を診断、その症状を改善、その障害から保護、およびその障害を処置するために使用することができる。」([00215])

(甲2チ)
「本発明のLRP6結合分子の投与により治療可能である、“Wntシグナル伝達関連癌”は、大腸癌(例えば、結腸直腸癌腫(CRC))、黒色腫、乳癌、肝臓癌、肺癌、胃癌、悪性髄芽腫および他の原発性CNS悪性神経外胚葉腫瘍、横紋筋肉腫、消化管由来腫瘍(食道、胃、膵臓および胆管系の癌を含むが、これらに限定されない)ならびに前立腺および膀胱癌を含むが、これらに限定されない。」([00216])

(甲2ツ)
「抗LRP6アンタゴニストFabsが優先的にWnt1またはWnt3a−誘導Wntシグナル伝達を阻害することを見出した。293T細胞に、SuperTopflashおよびSV40−Renillaレポーターと 共にWnt1またはWnt3a発現プラスミドを一時的にトランスフェクトした。LRP6Fabで処理された細胞および抗−リソソーム対照Fab(Fab対照)で処理された細胞間のルシフェラーゼシグナルの比を少なくとも図1および2にプロットおよび記載した。」([00231]、実施例1)

(甲2テ)
「標準Wntシグナル伝達できるWntシグナル伝達経路タンパク質は本発明のLRP6結合分子を2つのクラスに分けることができる。Wnt3およびWnt3aはWnt3a−特異的LRP6アンタゴニストAbsによりブロックされた。他のWntタンパク質(Wnt1、2、6、7A、7B、9、10A、10B)はWnt1−特異的LRP6アンタゴニストAbsによりブロックされた。」([00232]、実施例1)

(甲2ト)
「少なくとも図4において示されるとおり、FACSアッセイを使用するLRP6欠失変異体のドメインマッピングは、Wnt1−特異的LRP6アンタゴニスト抗体がプロペラ1に結合し、そしてWn3a−特異的LRP6アンタゴニスト抗体およびアゴニストLRP6抗体がプロペラ3に結合することを示す。293T細胞にMESDと共にN−末端Flag−標識野生型または変異体LRP6発現構築物を一時的にトランスフェクトした。細胞を抗−Flag抗体(図4B)および指示されたFab(図4C)で染色し、FACSにより分析した。赤色の曲線は2つのアゴニストLRP6抗体(Fab025およびFab026)を示す。紫色の曲線は2つのWnt1特異的LRP6アンタゴニスト抗体(Fab010およびFab021)を示す。暗青色の曲線は2つのWnt3a特異的LRP6アンタゴニスト抗体(Fab002およびFab004)を示す。明青色の曲線はWnt3aおよびWnt1両方の誘導シグナル伝達を阻害するLRP6アンタゴニスト抗体(Fab005)を示す。表IIIは抗LRP6FabsおよびLRP6切断変異体間の相対的結合能を示す(この表形式データは図4A−4Cで示されるFACS分析図に対応する)。“−−”は非活性を示し、そして“+”は活性を示す(大きな活性に対してより多くの記号)。 表
III

」([00235]、実施例3)

(甲2ナ)
「本出願中に記載および少なくとも図4A−4Cに記載されているとおり、FabにはWnt1特異性を有するLRP6機能のプロペラ1に結合 することができるものがあり(それらには、Wnt1−特異的FabFab010およびFab021)、またFabにはWnt3A特異性を有するLRP6機能のプロペラ3に結合することができるものもある(それらには、Wnt3A−特異的FabsFab002およびFab004)。本明細書において示されているとおり、Wnt3およびWnt3a−特異的シグナル伝達活性はWnt3a特異的LRP6アンタゴナイズ結合分子により非常に効果的に阻害することができ;そして、Wnt1、Wnt2、Wnt6、Wnt7a、Wnt7bおよびWnt10−特異的シグナル伝達活性はWnt1特異的LRP6アンタゴナイズ結合分子により非常に効果的に阻害することができる。アゴナイズLRP6結合分子(例えば、Fab025およびFab026)はWnt特異的と考えられず、LRP6第3のプロペラに結合する(すなわち、プロペラ3が欠失している(LRP6delIIIにより示される)ときのみ、それらはLRP6結合能を失う)。」([00236]、実施例3)

(甲2ニ)
「図5に記載のとおり、LRP6アンタゴニスト抗体はIgGに変換されたときアゴニスト活性を示す。293T細胞にSuperTopflashレポーターと共にWnt1またはWnt3aをトランスフェクトし、LRP6抗体で処理した。ルシフェラーゼ活性を抗−リソソーム対照(Fab対照)に対して標準化した。IgGに変換されると、Wnt1−特異的アンタゴニスト抗体はWnt3aアッセイにおいてアゴニスト活性を示すが、Wnt3a−特異的アンタゴニスト抗体はWnt1アッセイにおいてアゴニスト活性を示す。これらの観察は、Wnt1およびWnt3aがシグナル伝達に関してLRP6の異なる領域に結合し、LRP6のオリゴマー形成がWntシグナル伝達を強化する観察と一致する。例えば、Wnt1特異的アンタゴニストIgGsはWnt1およびLRP6の物理的相互作用をブロックすることによりWnt1シグナル伝達を阻害する。しかしながら、Wnt1特異的抗体はWnt3a−LRP6相互作用をブロックせず、代わりにLRP6のオリゴマー形成を誘導する。これはWnt3aリガンド応答の強化を引き起こす。これらのデータは内因性LRP6のオリゴマー形成がWntシグナル伝達を強化していることを示す。」([00237]、実施例4)

(2)甲2発明の認定
(甲2ト)における「Wnt3aおよびWnt1両方の誘導シグナル伝達を阻害するLRP6アンタゴニスト抗体」は、表III、及び、(甲2ナ)の「プロペラ3が欠失している(LRP6delIIIにより示される)」との記載からみて、当該抗体は、プロペラ1及び3が共に欠失している場合(「LRP6delI−III」)にのみ結合能を失う、すなわち、プロペラ1及びプロペラ3の両方に対して結合特異性を示すアンタゴナイズ抗体であると認められる。
このLRP6のプロペラ1およびプロペラ3の両方に結合する抗LRP6抗体は、(甲2ア)、(甲2シ)及び(甲2ス)の記載からも同様に認定することができる。
また、ここでいう「プロペラ」は、(甲2エ)からみて、ヒトLRP6のβ―プロペラのことであると認められる。
次に、(甲2ツ)及び(甲2テ)の記載からみて、上記「Wnt3aおよびWnt1両方の誘導シグナル伝達を阻害するLRP6アンタゴニスト抗体」は、Wnt3aの誘導シグナル伝達経路を阻害するアンタゴニスト作用によりWnt3およびWnt3a−特異的シグナル伝達を阻害し、また、Wnt1の誘導シグナル伝達経路を阻害するアンタゴニスト作用によりWnt1、Wnt2、Wnt6、Wnt7a、Wnt7bおよびWnt10−特異的シグナル伝達経路を阻害することができると認められる。このようなLRP6結合分子がWnt1またはWnt3aリガンドのLRP6への結合を阻止し、Wnt3およびWnt3a−特異的シグナル伝達活性やWnt1、Wnt2、Wnt6、Wnt7a、Wnt7bおよびWnt10−特異的シグナル伝達活性を阻害し得る点については、(甲2ア)の記載からも同様に認定することができる。

これらの記載をまとめると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「ヒトLRP6のβ―プロペラ1エピトープに対する少なくとも1つの第1の結合特異性およびヒトLRP6のβ―プロペラ3エピトープに対する第2の結合特異性を含む二重特異性分子である抗LRP6アンタゴナイズ抗体であって、上記β―プロペラ1エピトープに対する結合はWnt1、Wnt2、Wnt6、Wnt7A、Wnt7B、Wnt9、Wnt10AおよびWnt10B−特異的シグナル伝達活性を阻害することができ、上記β―プロペラ3エピトープに対する結合はWnt3およびWnt3a−特異的シグナル伝達活性を阻害することができる、抗LRP6アンタゴナイズ抗体。」(以下、これを「甲2発明」という。)

(3)本件発明1と甲2発明の対比・判断
ア.対比
甲2発明の「ヒトLRP6のβ―プロペラ1エピトープに対する少なくとも1つの第1の結合特異性」は、本件発明1の「LRP6標的受容体上」の「β−プロペラ1ドメイン」に「結合」することに相当し、甲2発明の「ヒトLRP6のβ―プロペラ3エピトープに対する第2の結合特異性」は、本件発明1の「LRP6標的受容体上」の「β−プロペラ3ドメイン」に「結合」することに相当する。また、甲2発明の「上記β―プロペラ1エピトープに対する結合はWnt1、Wnt2、Wnt6、Wnt7 A、Wnt7B、Wnt9、Wnt10AおよびWnt10B−特異的シグナル伝達活性を阻害することができ、上記β―プロペラ3エピトープに対する結合はWnt3およびWnt3a−特異的シグナル伝達活性を阻害することができる」は本件発明1の「前記LRP6標的受容体のβ−プロペラ1ドメインおよびβ−プロペラ3ドメインへの前記第1および第2の受容体結合ドメインの結合がWnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害」に相当する。
ここで、甲2発明の抗LRP6アンタゴナイズ抗体は、LRP6のβ―プロペラ1エピトープとβ―プロペラ3エピトープにそれぞれ結合特異性を示すことから、その結合ドメインが少なくとも2つであることは明らかであり、抗原と結合する抗体部分、すなわちパラトープを2つ以上有するものといえる。
よって、本件発明1と甲2発明を対比すると、両者は
「少なくとも2つの受容体結合ドメインを含む二パラトープ抗体であって、第1の受容体結合ドメインはLRP6標的受容体上のβ−プロペラ1ドメインに結合し、第2の受容体結合ドメインはLRP6標的受容体上のβ−プロペラ3ドメインに結合し、前記LRP6標的受容体のβ−プロペラ1ドメインおよびβ−プロペラ3ドメインへの前記第1および第2の受容体結合ドメインの結合がWnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害する二パラトープ抗体」で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1では、二パラトープ抗体が、「4つ」の受容体結合ドメインを含む「四価」の二パラトープ抗体であって、「2つの第1の受容体結合ドメインは2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ1ドメインにそれぞれ結合し、2つの第2の受容体結合ドメインは2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ3ドメインにそれぞれ結合」するのに対して、
甲2発明では、この点の記載がない点

(相違点2)
本件発明1では、第1の受容体結合ドメイン及び第2の受容体結合ドメインが結合するβ―プロペラ1ドメイン及びβ―プロペラ3ドメインが「同じLRP6標的受容体上」のドメインであるのに対して、
甲2発明では、「同じLRP6標的受容体上」であるか否かについて特定がない点

(相違点3)
本件発明1では、「二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さない」のに対して、
甲2発明では、この点の記載がない点

イ.判断
本件訂正により生じた相違点1について検討する。
(甲2ト)の表III、(甲2ナ)等の記載からみて、甲2発明の抗LRP6アンタゴナイズ抗体は、プロペラ1及びプロペラ3の両方に対して結合特異性を示す二パラトープ抗体であるといえる。
しかしながら、甲2には、甲2発明の抗LRP6アンタゴナイズ抗体について、「4つ」の受容体結合ドメインを含む「四価」の二パラトープ抗体とすることは記載も示唆もされておらず、甲2の記載や申立人が証拠として挙げている、甲3〜12を参照しても、甲2発明の抗LRP6アンタゴナイズ抗体を、「四価」の二パラトープ抗体とすることを動機づける記載は見当たらない。
また、本件明細書の(本カ)、(本キ)によると、本件発明1は、相違点1で挙げた本件発明1の発明特定事項を備えることで、Wnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、前記二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さないという、甲2〜12に記載のない格別顕著な効果を奏するものと認められる。
そうすると、相違点1で挙げた本件発明1の発明特定事項は、甲2発明及び甲2〜12に記載された事項から、当業者であったとしても容易に想到し得ないものである。
したがって、相違点2〜3を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、相違点1の発明特定事項を備えていることが明らかな本件発明2〜40についても、本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1〜40に係る特許は、取消理由3(甲2を主引例とする進歩性)によって取り消すべきものではない。

3.取消理由通知書において採用しなかった申立理由
申立理由4(甲2を主引例とする新規性進歩性)と取消理由3(甲2を主引例とする進歩性)は同趣旨のものであるから、申立理由4は検討を要しない。
よって、以下では、申立理由4以外の申立理由1〜3、5について、検討する。

(1)申立理由1(明確性要件)
ア.訂正前の請求項1の「Wnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害する」及び「二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さない」との記載について
本件明細書には、Wnt−1およびWnt−3について、「“Wnt 1 シグナル伝達経路”の語句は、Wnt1 リガンドおよび Wnt1 結合リガンドのクラス、例えば Wnt2、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt9a、Wnt10a または Wnt10b と相互作用する LRP6 によって活性化される古典的 Wnt 経路をいう。」(【0056】)、「“Wnt 3 シグナル伝達経路”の語句は、Wnt3 または Wnt3a リガンドと相互作用する LRP6 によって活性化される古典的 Wnt 経路をいう。」(【0057】)と記載されており、これらの記載を踏まえると、請求項1の「Wnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路」は、古典的Wnt経路を意味することは当業者に明らかである。
また、本件明細書の(本カ)には、本件発明の二パラトープ抗体である「MOR08168/MOR06475BpAb」が、Wnt1リガンドを介するシグナル伝達経路とWnt3リガンドを介するシグナル伝達経路との両方を阻害することができることが具体的に記載されている。
一方、当該二パラトープ抗体の元となるIgG抗体またはscFvである、「MOR08168」、「MOR06475scFv」では、上記シグナル伝達経路の片方しか阻害できないばかりか、「MOR08168」ではWnt3リガンドを介するシグナル伝達経路をかえって増強させることが把握でき、こうした比較実験から「二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さない」ことも、両シグナル伝達経路の増強が確認できない程度に両シグナル伝達経路が阻害されている状態を意味するものと当業者であれば理解することができる。
そうすると、訂正前の請求項1の「Wnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害する」及び「二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さない」との記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認められない。

イ.訂正前の請求項7の「前記第1の抗体可変ドメインと前記第2の抗体可変ドメインとがそれぞれLRP6のβ−プロペラ1ドメインとβ−プロペラ3ドメインに結合することを許容する空間分布を有するリンカーによって連結している」との記載について
訂正前の請求項7は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項7が意図している「空間分布を有する」ことは、「本件発明の四価の二パラトープ抗体の2つの抗体可変ドメインがLRP6のβ−プロペラ1ドメインと同3ドメインとの両方に結合できる位置関係」であるとともに「Wnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、前記四価の二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さない」位置関係であることが当業者であれば理解できる。
そして、本件明細書には、上記のような位置関係であることを満たす具体的な抗体として、「MOR08168/MOR06475BpAb」が記載されているので、訂正前の請求項7の「…空間分布を有するリンカー」という記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認められない。

ウ.訂正前の請求項12の「半減期を延長する部分」との記載について
本件明細書の[0258]、[0261]、[0263]には、抗体の半減期を延長する手段としてポリエチレングリコールなどを化学結合する等の従来公知の方法が記載されているから、当業者であれば、本願明細書を参照することで「半減期を延長する部分」の内容を理解することができる。
よって、訂正前の請求項12の「半減期を延長する部分」との記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認められない。

エ.訂正前の請求項40の「参照抗体」が「MOR08168、MOR08545またはMOR06706から選択されたもの」又は「MOR06475、MOR08193またはMOR08473から選択されたもの」との記載について
本件明細書の【表1】には、「MOR08168、MOR08545またはMOR06706」、「MOR06475、MOR08193またはMOR08473」のCDRやVH、VLのアミノ酸配列や核酸配列が開示されているので、これら抗体がどのようなものであるかについて当業者が一義的に把握することができる。
したがって、請求項40の「MOR08168、MOR08545またはMOR06706」、「MOR06475、MOR08193またはMOR08473」から選択された「参照抗体」の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認められない。

以上のとおりであるから、請求項1、7、12、40の記載は、明確性要件を満たすものであるから、申立理由1(明確性要件)は理由がない。

(2)申立理由2(実施可能要件及びサポート要件)
本件訂正により、本件発明1〜40が対象とする「二パラトープ抗体」は、「2つの第1の受容体結合ドメインは2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ1ドメインにそれぞれ結合し、2つの第2の受容体結合ドメインは同じ2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ3ドメインにそれぞれ結合」する「四価の二パラトープ抗体」に限定された。
そして、上記の第5の1(2)で示したように、本件明細書では具体的に、「MOR08168/MOR06475BpAb」のような、2つのLRP6受容体におけるβ―プロペラ1ドメイン及びβ―プロペラ3ドメインの両方に結合する四価の二パラトープ抗体が作製されており、かかる抗体が、Wnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、Wntシグナルの有意な増強を示さないことが、実験結果により、確認され、「MOR08168/MOR06475BpAb」を作製した方法を採用すれば、「MOR08168/MOR06475BpAb」に限らず、上記の結合特性を有する、他の四価の二パラトープ抗体を作製することが可能であるといえる。
申立人は、訂正前の請求項1において、「β−プロペラ1ドメイン」、「β−プロペラ3ドメイン」では、エピトープの範囲としては巨大過ぎ、結合する具体的な範囲についても不明であること、実施例において具体的に確認をしているのは、Wnt1依存性シグナル伝達の阻害のみであること、LRP6のβ−プロペラ1ドメインに結合する結合部位(第1の受容体結合ドメインに相当)を有する抗体であっても、Wnt7a及びWnt7b依存性シグナル伝達を阻害せず、むしろ増強するものが存在すること等を指摘する。
しかし、当業者が、本件発明1〜40を実施する際に、エピトープの情報が必ずしも必要であるとはいえないし、実施例で説明されている抗体以外の「四価の二パラトープ抗体」の調製において、当業者に過度の試行錯誤を要するものとは認められない。
また、本件発明1〜40が対象とする「四価の二パラトープ抗体」は、本件明細書の[0040]に記載された課題を解決し得るものであるところ、「四価の二パラトープ抗体」であっても、シグナル伝達を阻害せず、むしろ増強するものが含まれることをうかがわせる客観的証拠(本件特許の出願時の技術常識等)は申立人より提示されていない。
そうすると、本件発明1〜40は、実施可能要件及びサポート要件を満たすものであり、申立理由2(実施可能要件及びサポート要件)は理由がない。

(3)申立理由3(甲1を主引例とする新規性進歩性
本件の優先権主張の基礎となる米国特許出願第61/331993号明細書(甲5、以下「優先明細書」という。)には、次の事項が記載されている。(英文で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)

「データは、プロペラ1IgG(MOR08168)が、STF分析において、Wnt3などのプロペラ3リガンドを増強しながら、Wnt1などのプロペラ1リガンドを阻害することを示す。プロペラ3scFv6475は、Wnt1などのプロペラ1リガンドに対する活性がないながら、Wnt3などのプロペラ3リガンドを阻害する。さらに、MOR08168/6475二パラトープ抗体は、プロペラ1およびプロペラ3リガンドの両方に対する活性を有し、そして、HEK293 Wnt STF分析において、適用されるいかなる濃度においても、増強する活性を有さない(図14)。
(ii)二パラトープ抗−LRP6 IgG−scFvの発現、精製、および特性化
この研究において産生される二パラトープ抗−LRP6 Ig−scFvフォーマットの略図は、図12に提示される。図12Aは、IgGのC−末端に付着するscFv scFvを表し;15Bは、FcのN−末端に付着したscFv scFvを;15Cは、FcのC−末端に付着するscFv scFvを表し;そして、15Dは、FcのN−およびC−末端に付着するscFv scFvを表す。
現実験における二パラトープ抗体は、hIgG1 LALA CH3のC−末端に融合したscFvを有する二パラトープ完全−IgGである。この特定の研究において、scFvは、完全−IgGからの(GlyGlySer)2−リンカーによって分離された。scFvは、(Gly4Ser)4リンカーを有するVL−VH配向性からなる。」(164頁2段落〜4段落)


」(図12)

上記の優先明細書の記載によると、プロペラ1IgG(MOR08168)のC−末端に2つのプロペラ3scFv6475を融合した、2つのLRP6受容体におけるβ―プロペラ1ドメイン及びβ―プロペラ3ドメインの両方に結合する四価の二パラトープ抗体である「MOR08168/MOR06475BpAb」が作製されており、Wnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、前記二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さないことが具体的に記載されている。
そうすると、優先明細書には、本件訂正後の請求項1の「4つの受容体結合ドメインを含む四価の二パラトープ抗体であって、2つの第1の受容体結合ドメインは2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ1ドメインにそれぞれ結合し、2つの第2の受容体結合ドメインは同じ2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ3ドメインにそれぞれ結合し、前記同じLRP6標的受容体のβ−プロペラ1ドメインおよびβ−プロペラ3ドメインへの前記第1および第2の受容体結合ドメインの結合がWnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、前記四価の二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さない、四価の二パラトープ抗体。」について、当業者が実施できる程度の記載が存するといえる。
したがって、本件特許の出願は、パリ条約による優先権主張の利益を享受できるものであるから、本件発明1〜40の新規性進歩性の判断の基準となる日は、優先明細書(甲5)が外国庁に受理された優先日(2010年5月6日)であると認められる。
これに対して、甲1は、優先日である2010年5月6日よりも後の2010年8月31日に頒布された刊行物であるから、本件発明1〜40が新規性進歩性を欠如することの証拠にはならない。
したがって、申立理由3(甲1を主引例とする新規性進歩性)は理由がない。

(4)申立理由5(甲3を主引例とする進歩性
甲3には、天然のLRP6アンタゴニストであるDkk1が、Wnt9b及びWnt3a媒介シグナル伝達の両方を阻害することが記載され(第9175頁右欄、第9176頁右欄、第9178頁左欄、Table1、Figure 2、5、S2及びS7等)、Dkk1によるこの阻害は、Figure 5Bに示されるように同じLRP6受容体のWnt9b及びWnt3aに対する異なる結合部位の両方に同時に結合することによって達成されること、また、同じLRP6受容体の複数の生物学的に関連する部位へ結合するDkk1の能力を模倣する潜在的なWntシグナル伝達阻害剤の設計、Wnt関連疾患の治療におけるその阻害剤の使用についても示唆されている(第9178頁右欄)。
しかし、甲3には、Dkk1の能力を模倣する分子として、Wnt3aシグナル伝達とWnt9シグナル伝達の両方を同時に阻害する二パラトープ抗体が記載されておらず、まして、本件発明1〜40が対象とする「2つの第1の受容体結合ドメインは2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ1ドメインにそれぞれ結合し、2つの第2の受容体結合ドメインは同じ2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ3ドメインにそれぞれ結合」する「四価の二パラトープ抗体」については示唆すらされていない。
そうしてみると、甲3の記載から、本件発明1〜40が対象とする上記「四価の二パラトープ抗体」を、当業者が容易に想到し得たとすることができないうえ、甲2、甲5、甲7〜甲14のいずれにも、「四価の二パラトープ抗体」に関する記載や示唆は見当たらないことから、甲3に記載された発明に、甲2、甲5、甲7〜14に記載された事項や本件優先日の技術常識を組み合わせたとしても、本件発明1〜40を当業者が容易に想到し得たとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本件訂正については適法であるから、これを認める。
取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、訂正後の請求項1〜40に係る特許を取り消すことはできない。
他に、請求項1〜40に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4つの受容体結合ドメインを含む四価の二パラトープ抗体であって、2つの第1の受容体結合ドメインは2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ1ドメインにそれぞれ結合し、2つの第2の受容体結合ドメインは同じ2つのLRP6標的受容体上の各々のβ−プロペラ3ドメインにそれぞれ結合し、前記同じLRP6標的受容体のβ−プロペラ1ドメインおよびβ−プロペラ3ドメインへの前記第1および第2の受容体結合ドメインの結合がWnt−1およびWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、前記四価の二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さない、四価の二パラトープ抗体。
【請求項2】
前記第1および/または第2の受容体結合ドメインの一方または両方が、IgG抗体、scFv断片、および抗体可変ドメインからなる群から選択される、請求項1に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項3】
前記第1の受容体結合ドメインの一方または両方が第1の抗体可変ドメインであり、かつ、前記第2の受容体結合ドメインの一方または両方が第2の抗体可変ドメインである、請求項1または2に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項4】
前記第1および第2の受容体結合ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てがラクダ抗体を含む、請求項1または2に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項5】
前記第1および第2の受容体結合ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てがシングルドメイン抗体を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項6】
前記第1および第2の受容体結合ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てが単一の可変ドメインまたはVHHを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項7】
前記第1の抗体可変ドメインと前記第2の抗体可変ドメインが、前記第1の抗体可変ドメインと前記第2の抗体可変ドメインとがそれぞれLRP6のβ−プロペラ1ドメインとβ−プロペラ3ドメインに結合することを許容する空間分布を有するリンカーによって連結している、請求項3に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項8】
前記第1および第2の抗体可変ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てが単一の可変ドメインまたはVHHを含む、請求項7に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項9】
前記第1の受容体結合ドメインと前記第2の受容体結合ドメインがリンカーによって連結している、請求項1〜8のいずれかに記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項10】
前記リンカーがGly−Serリンカーである、請求項9に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項11】
前記リンカーが(Gly4Ser)4および(Gly4Ser)3からなる群より選択される、請求項9または10に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項12】
半減期を延長する部分をさらに含む、請求項1〜11のいずれかに記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項13】
前記半減期を延長する部分が血清タンパク質に結合する部分である、請求項12に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項14】
前記血清タンパク質が、アルブミン、IgG、FcRnまたはトランスフェリンである、請求項13に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項15】
4つの抗体可変ドメインを含む四価の二パラトープ分子を含む組成物であって、2つの第1の抗体可変ドメインは2つのLRP6標的受容体のβ−プロペラ1ドメインに結合してWnt−1シグナル伝達経路を阻害し、2つの第2の抗体可変ドメインは同じ2つのLRP6標的受容体のβ−プロペラ3ドメインに結合してWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、かつ、前記四価の二パラトープ分子がWntシグナルの有意な増強を示さない、組成物。
【請求項16】
前記第1および第2の抗体可変ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てがラクダ抗体を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記第1および第2の抗体可変ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てがシングルドメイン抗体を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
前記第1および第2の抗体可変ドメインの1つ、2つ、3つまたは全てが単一の可変ドメインまたはVHHを含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
前記第1の抗体可変ドメインと前記第2の抗体可変ドメインがリンカーによって連結している、請求項15に記載の組成物。
【請求項20】
前記リンカーがGly−Serリンカーである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記リンカーが(Gly4Ser)4および(Gly4Ser)3からなる群より選択される、請求項19または20に記載の組成物。
【請求項22】
半減期を延長する部分をさらに含む、請求項15〜21のいずれかに記載の組成物。
【請求項23】
前記半減期を延長する部分がアルブミンに結合する部分である、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
4つのVHHを含む四価の二パラトープ抗体であって、2つの第1のVHHは2つのLRP6標的受容体のβ−プロペラ1ドメインにそれぞれ結合してWnt−1シグナル伝達経路を阻害し、2つの第2のVHHは同じ2つのLRP6標的受容体のβ−プロペラ3ドメインにそれぞれ結合してWnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路を阻害し、前記四価の二パラトープ抗体がWntシグナルの有意な増強を示さず、かつ、半減期を延長する部分をさらに含む、四価の二パラトープ抗体。
【請求項25】
前記半減期を延長する部分がアルブミンに結合する部分である、請求項24に記載の四価の二パラトープ抗体。
【請求項26】
請求項1〜14、24または25のいずれか一項に記載の四価の二パラトープ抗体または請求項15〜23のいずれか一項に記載の組成物と、医薬上許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項27】
請求項1〜15、24または25のいずれか一項に記載の四価の二パラトープ抗体をコードする核酸。
【請求項28】
請求項27の核酸を含むベクター。
【請求項29】
請求項27の核酸を含む宿主細胞。
【請求項30】
(a)LRP6のβ−プロペラ1に結合する2つの第1の受容体結合ドメインを提供すること;
(b)LRP6のβ−プロペラ3に結合する2つの第2の受容体結合ドメインを提供すること;および
(c)第1の受容体結合ドメインの少なくとも1つを第2の受容体結合ドメインの少なくとも1つに連結すること、
を含む請求項1に記載の四価の二パラトープ抗体を得る方法。
【請求項31】
前記第1および第2の受容体結合ドメインが、IgG抗体、scFv断片、および抗体可変ドメインからなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記第1および第2の受容体結合ドメインが、前記第1および第2の受容体結合ドメインがそれぞれLRP6のβ−プロペラ1とβ−プロペラ3に結合することを許容する空間分布を有するリンカーによって連結されている、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
医薬としての使用のための、請求項1〜14、24または25のいずれか一項に記載の四価の二パラトープ抗体または請求項15〜23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
LRP6を発現する癌を有する対象の処置のための医薬としての使用のための、請求項1〜14、24または25のいずれか一項に記載の四価の二パラトープ抗体または請求項15〜23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
対象がヒトである、請求項33または34に記載の四価の二パラトープ抗体または組成物。
【請求項36】
前記癌が乳癌、肺癌、多発性骨髄腫、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、胃癌、前立腺癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、骨肉腫、扁平上皮癌および黒色腫からなる群から選択される癌である、請求項34または35に記載の四価の二パラトープ抗体または組成物。
【請求項37】
前記癌が乳癌である、請求項34または35に記載の四価の二パラトープ抗体または組成物。
【請求項38】
Wnt−1、Wnt−3またはWnt−3aシグナル伝達経路が介在する疾患を処置するための、請求項1〜14、24または25のいずれか一項に記載の四価の二パラトープ抗体または請求項15〜23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項39】
乳癌、肺癌、多発性骨髄腫、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、胃癌、前立腺癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、骨肉腫、扁平上皮癌および黒色腫からなる群から選択される癌の処置のための医薬の製造における、請求項1〜14、24または25のいずれか一項に記載の四価の二パラトープ抗体または請求項15〜23のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項40】
請求項1〜14、24または25のいずれか一項に記載の四価の二パラトープ抗体または請求項15〜23のいずれか一項に記載の組成物であって、
(i)第1の受容体結合ドメインの一方または両方が、LRP6のβ−プロペラ1ドメインに結合する参照抗体と、β−プロペラ1ドメインへの結合について競合し、前記参照抗体がMOR08168、MOR08545またはMOR06706から選択されたものであるか、または(ii)第2の受容体結合ドメインの一方または両方が、LRP6のβ−プロペラ3ドメインに結合する参照抗体と、β−プロペラ3ドメインへの結合について競合し、前記参照抗体がMOR06475、MOR08193またはMOR08473から選択されたものである
の一方または両方である、四価の二パラトープ抗体または組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-02 
出願番号 P2017-157638
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C12N)
P 1 651・ 537- YAA (C12N)
P 1 651・ 113- YAA (C12N)
P 1 651・ 536- YAA (C12N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 福井 悟
特許庁審判官 伊藤 良子
上條 肇
登録日 2020-03-19 
登録番号 6678627
権利者 ノバルティス アーゲー
発明の名称 治療的低密度リポタンパク質関連タンパク質6(LRP6)多価抗体の組成物および使用方法  
代理人 大森 規雄  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 箱田 満  
代理人 小林 浩  
代理人 大森 規雄  
代理人 片山 英二  
代理人 箱田 満  
代理人 小林 浩  
代理人 片山 英二  
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