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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05K
審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H05K
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H05K
管理番号 1385131
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-19 
確定日 2022-03-30 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6697063号発明「電磁波吸収シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6697063号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕、6について訂正することを認める。 特許第6697063号の請求項1ないし3、5に係る特許を維持する。 特許第6697063号の請求項4、6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6697063号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2017年11月2日(優先権主張 2016年11月4日)を国際出願日とする特願2018−519070号の一部を平成30年12月14日に新たな特許出願としたものであって、令和2年4月27日にその特許権の設定登録がされ、同年5月20日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 2年11月19日 :特許異議申立人齋田英治(以下、「特許
異議申立人」という)による特許異議の
申立て
令和 3年 3月10日付け:取消理由通知
令和 3年 4月27日 :特許権者との面接
令和 3年 5月14日 :特許権者による
意見書の提出及び訂正請求
令和 3年 9月10日 :特許異議申立人による
意見書の提出
令和 3年11月 2日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 4年 1月 7日 :特許権者による意見書の提出


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和3年5月14日付けの訂正請求の趣旨は、特許第6697063号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし5、6について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、以下の事項により特定されるとおりに訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2、3、5も同様に訂正する。)
「【請求項1】
ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する電磁波吸収材料である磁性酸化鉄とゴム製バインダーとを含む電磁波吸収層を有する透過型の電磁波吸収シートであって、
前記電磁波吸収シートの面内の一方向における弾性域の最大伸び率が20%〜200%であり、
前記電磁波吸収層における前記磁性酸化鉄の体積含率が30%以上であることを特徴とする、電磁波吸収シート。」(当審注:下線は訂正箇所を示す。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する訂正。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6を削除する訂正。

(4)一群の請求項
訂正前の請求項1ないし5は、請求項2ないし5が、訂正の請求の対象である請求項1を直接又は間接的に引用しており、請求項5が、訂正の請求の対象である請求項4を引用する関係にあるから、本件訂正事項1及び2は、一群の請求項1ないし5について請求されている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1における「ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する電磁波吸収材料である磁性酸化鉄とゴム製バインダーとを含む電磁波吸収層を有する電磁波吸収シート」が「透過型」の電磁波吸収シートであることを限定する訂正であるから、訂正事項1は、請求項1について、特許請求の範囲を減縮する訂正である。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3、5についても同様に、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
明細書の段落【0030】ないし【0107】(特に、段落【0030】【0034】を参照。)に第1の実施の形態として透過型の電磁波吸収シートについて記載されている。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、請求項6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3 小括
以上とおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし5、6について訂正することを認める。


第3 本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件発明1ないし6」という。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるものである。なお、訂正部分について、当審で下線を付した。

「【請求項1】
ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する電磁波吸収材料である磁性酸化鉄とゴム製バインダーとを含む電磁波吸収層を有する透過型の電磁波吸収シートであって、
前記電磁波吸収シートの面内の一方向における弾性域の最大伸び率が20%〜200%であり、
前記電磁波吸収層における前記磁性酸化鉄の体積含率が30%以上であることを特徴とする、電磁波吸収シート。
【請求項2】
前記磁性酸化鉄が、イプシロン酸化鉄またはストロンチウムフェライトから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の電磁波吸収シート。
【請求項3】
前記ゴム製バインダーとして、アクリルゴムまたはシリコーンゴムのいずれかを用いた、請求項1または2に記載の電磁波吸収シート。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記電磁波吸収シートを貼着可能とする接着層をさらに備えた、請求項1〜4のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項6】
(削除)」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和3年11月2日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。

下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1ないし9に基づき、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

・本件発明1に対して
・引用文献1、2

・本件発明2に対して
・引用文献1、2、5、6

・本件発明3に対して
・引用文献1ないし7

・本件発明5に対して
・引用文献1ないし9

〈引用文献等〉
引用文献1 「76GHz帯で吸収特性を有するフェライト系電波吸収体の開発」、倉橋真司他、愛媛県工業系研究報告No.45、2007年(甲第1号証)
引用文献2 特開平4−10595号公報(甲第2号証)
引用文献3 「アクリルゴム(ACM)の成分、用途、特性、物性(比重、耐熱性、硬度)、耐薬品性について」、インターネット<https://www.toishi.info/sozai/rubbers/acm.html>、2011年8月26日更新(甲第9号証)
引用文献4 「シリコーンゴム(VMQ,PVMQ,FVMQ)の特性|シリコーンゴムの成分、用途、比重、耐熱性、硬度、耐薬品性などの物性」、インターネット<https://www.toishi.info/sozai/rubbers/vmq-pvmq-fvmq.html>、2011年8月26日更新(甲第10号証)
引用文献5 「150GHz(ギガヘルツ)を超えるミリ波吸収磁性材料の開発に成功」大越慎一、インターネット<https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2007/22.html>、2007年10月25日更新(甲第3号証)
引用文献6 特開2007−250823号公報(甲第4号証)
引用文献7 特開2003−332783号公報(甲第5号証)
引用文献8 特開2004−6436号公報(甲第6号証)
引用文献9 特開平10−117084号公報(甲第7号証)

2 引用文献の記載事項・引用発明
(1)引用文献1
取消理由通知(決定の予告)において引用した引用文献1(「76GHz帯で吸収特性を有するフェライト系電波吸収体の開発」、倉橋真司他、愛媛県工業系研究報告No.45、2007年、(甲1号証))には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。以下、同様。

ア「・・・ミリ波帯域で吸収特性が期待できる六方晶フェライトを対象として、組成調整や結晶制御を行ったフェライト粉末を試作した。・・・また、六方晶フェライトをゴム材料に混合したサンプルを試作し、混合比率と複素比透磁率の関連性を評価するとともに、理論計算による吸収体の設計技術について検討した。
その結果、ミリ波帯域において吸収特性を有する六方晶フェライトを得ることができた。」(12頁左欄下から12ないし1行)

イ「吸収に起因する材料定数(複素比誘電率、複素比透磁率)の測定法としては、・・・・(略)・・・板状試料で材料定数値の周波数特性を測定可能な誘電体レンズを用いたフリースペース法で測定した。・・・(略)・・・
ネットワークアナライザ(VNA)から発信した電波を誘電体レンズアンテナから測定試料に送信し、試料からの反射波及び、透過波をレンズアンテナで受信した後、反射波、透過波の振幅及び位相量を測定し、その値から複素比誘電率、複素比透磁率を求めた。」(12頁右欄下から10行ないし13頁左欄5行)

ウ「2.六方晶フェライト粉末の作製
ミリ波帯域で吸収特性を有するフェライト系粉末を作製するため、以下に示す基本組成を元に組成調整や結晶構造を変化させた粉末を作製した。
・・・(略)・・・
作製したフェライト系粉末一覧を図2に示す。・・・

」(13頁左欄11ないし16行)

エ「基本組成を元に組成調整や結晶構造を変化させた粉末の磁気特性を評価するために、ゴムベースに作製したフェライト系粉末を一定比率(55Vol%)で混合したサンプルのうちNT033の測定結果を図5(a)(b)に示す。(図5(a)は略)

・・・(中略)・・・・磁気損失については、約70GHz付近に比透磁率のピークがあることが確認でき、吸収材料として可能性がある材料であることがわかる。」(14頁左欄下から6行ないし右欄10行)

オ「4.電波吸収材の設計
電波吸収材を設計するために、[NT033]粉末をEVAゴムに60Vol%混合したサンプルを試作し、材料定数を測定した。これまでの測定用サンプルについては、混錬性に優れているNBRゴムを用いていたが、製品化を考慮して耐候性と加工精度に優れており、他の周波数での吸収材として製品化実績のあるEVAを用いた。図13(a)は複素比誘電率、また、(b)には複素比透磁率の測定結果を示す。
(図13(a)は略)

ベースゴムが異なってもμ”のピーク周波数がほぼ一定であることが確認できる。・・・・(中略)・・・・
設計厚みを0.29mmと0.91mmとして、サンプル作製を行い、理論計算と実測値の比較検討を行った。
・・・・(中略)・・・・
理論計算値と実測値比較を図14に示す。

[0.29mm][0.91mm]ともに、理論計算値と実測値がほぼ一致した。理論計算と若干ずれる原因としては、吸収材料の厚み誤差や実測時の金属板との隙間などが考えられるが、基本的な吸収特性の把握には問題ない程度である。」(16頁左欄下から9行ないし右欄下から8行)

上記「オ」に記載された設計厚みを0.29mmとして作製されたサンプルは、理論計算値と実測値の比較を行った図14の縦軸が「反射減衰量」となっていること、及び「理論計算と若干ずれる原因としては、吸収材料の厚み誤差や実測時の金属板の隙間などが考えられる」と記載され、金属板が存在していることから反射型の電磁波吸収体であるといえる。
また、上記「オ」によれば、上記サンプルに用いられた電波吸収材は[NT033]粉末をEVAゴムに60Vol%混合したものであることは明らかであり、[NT033]粉末は、上記「ウ」によれば図2に記載された「作製したフェライト系粉末一覧」に記載された粉末であり、六方晶フェライトの粉末である。そして、[NT033]は上記「エ」の図5(b)、上記「オ」の図13(b)からミリ波帯域である約70GHz付近に複素比透磁率(μ”)のピークがあることが確認でき、また、上記「ア」の記載を参照してみても、上記サンプルに用いられた電波吸収材はミリ波吸収特性を有することは明らかである。

そうしてみると、引用文献1の記載から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ミリ波吸収特性を有する六方晶フェライトの粉末である[NT033]をEVAゴムに60Vol%で混合し、厚みを0.29mmとした、金属板を有する反射型の電磁波吸収体。」

3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の六方晶フェライトは、磁性酸化鉄であり、また、ミリ波吸収特性を有することから、技術常識を踏まえればミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴しているということができる。そうしてみると、引用発明の「ミリ波吸収特性を有する六方晶フェライトの粉末である[NT033]」は本件発明1の「ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する電磁波吸収材料である磁性酸化鉄」に相当する。
そして、引用発明の「EVAゴム」は本件発明1の「ゴム製バインダー」に相当し、また、引用発明の「[NT033]をEVAゴムに60Vol%で混合し」ていることは、本件発明1の「磁性酸化鉄の体積含率が30%以上であること」に含まれる。
しかしながら、引用発明の「電磁波吸収体」は本件発明1の「電磁波吸収シート」に対応するものの、引用発明の「電磁波吸収体」は金属板を有する反射型の「電磁波吸収体」であるのに対して、本件発明1の「電磁波吸収シート」は「透過型」である点で相違する。
また、本件発明1は、「前記電磁波吸収シートの面内の一方向における弾性域の最大伸び率が20%〜200%」であるのに対して、引用発明においては電磁波吸収体の面内の一方向における弾性域の最大伸び率について特定されていない点で相違する。

そうしてみると、本件発明1と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する電磁波吸収材料である磁性酸化鉄とゴム製バインダーとを含む電磁波吸収層を有する電磁波吸収シートであって、前記電磁波吸収層における前記磁性酸化鉄の体積含率が30%以上であることを特徴とする、電磁波吸収シート。」

(相違点1)
本件発明1の「電磁波吸収シート」は「透過型」であるのに対して、引用発明の「電磁波吸収体」は金属板を有する反射型の「電磁波吸収体」である点。

(相違点2)
本件発明1では「前記電磁波吸収シートの面内の一方向における弾性域の最大伸び率が20%〜200%」であるのに対して、引用発明では、電磁波吸収シートの面内の一方向における弾性域の最大伸び率について特定されていない点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
引用発明は金属板を有する反射型の電磁波吸収体である。金属板を除いたフェライト系粉末とゴムの混合物からなる電磁波吸収体の特性に関して、引用文献1の図5(b)、図13(b)から70GHz付近に複素比透磁率(μ”)のピークを有していることが見てとれ、上記「2(1)エ」に摘記したように、「磁気損失については、約70GHz付近に比透磁率のピークがあることが確認でき、吸収材料として可能性がある材料であることがわかる」と記載されている。
しかしながら、上記の金属板を除いたフェライト系粉末とゴムの混合物からなる電磁波吸収体を透過型の電波吸収体として使用することについて引用文献1には何らの記載も示唆もされておらず、「吸収材料として可能性がある」としているのは反射型の電磁波吸収体の吸収材としての可能性があることを述べたものにすぎない。
また、反射型の電磁波吸収体と透過型の電磁波吸収体とでは電磁波の吸収原理が異なることを踏まえれば、透過型の電磁波吸収体そのものは周知の構成であったとしても、反射型の電磁波吸収体から金属板を除いたフェライト系粉末とゴムの混合物からなる電磁波吸収体を、そのまま透過型の電磁波吸収体とすることは当業者であっても容易に想到できた事項とはいえない。
また、取消理由通知(決定の予告)において本件請求項1に対して引用した引用文献2ないし5、他の請求項に対して引用した引用文献6ないし9、及び特許異議申立人が提出したその他の証拠をみても、反射型の電磁波吸収体から金属板を除いたフェライト系粉末とゴムの混合物からなる電磁波吸収体を、透過型の電磁波吸収体とすることについて何らの記載も示唆もされていない。したがって、これらを参照しても引用発明から相違点1に係る構成を容易に想到することはできない。
したがって、引用発明及び引用文献2ないし5に基づいて、本件発明1の相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

(2)本件発明2、3、5について
本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を含んだ本件発明2、3、5は、本件発明1と同様に引用文献1ないし5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、請求項2、3、5に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

(3)特許異議申立人の意見書での主張について
なお、異議申立人は令和3年9月10日付け意見書において、「引用文献1に記載の電波吸収体(図4)から金属板を取り除いたものは、透過型の電磁波吸収体そのものである。」(1頁下から7ないし6行)として、引用文献1のサンプル以外の透過型の電波吸収体について甲第4号証、参考資料3(特開2004−77399号公報)、参考資料4(特開2007−180469号公報)、参考資料5(特開2008−66364号公報)、参考資料6(特開2010−114407号公報)、参考資料7(特開2011−66430号公報)、参考資料8(特開2012−216865号公報)、
を挙げている。しかしながら、上述したようにこれらの文献を見ても、反射型の電磁波吸収体から金属板を除いたフェライト系粉末とゴムの混合物からなる電磁波吸収体を、透過型の電磁波吸収体とすることについて何らの記載も示唆もされていないし、また、これらの文献に記載された透過型の電磁波吸収体は本件発明1のようにミリ波帯域以上で用いられるものでもない。参考資料10(特開2009−59728号公報)、参考資料14(電波吸収体の技術と応用、株式会社シーエムシー出版、第11章参照、2004年10月25日発行)をみても同様である。
そして、透過型の電磁波吸収体と反射型の電磁波吸収体とでは、電磁波の吸収原理が異なることから、単に反射型の電磁波から反射板を取り除いただけでは透過型の電磁波吸収体として最適化されたものといえず、直ちに透過型の電磁波吸収体として使用することは想起できないといえる。
したがって、特許異議請求人の上記の主張を採用することはできない。


第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
進歩性(特許法第29条第2項)について
(1)申立理由の概要
特許異議申立書における進歩性に係る特許異議申立ての概要は、次のとおりである。
請求項1に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証に記載された発明、及び甲第9、10号証に記載された周知技術を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものである。
請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に、さらに甲第3、4号証に記載された発明を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものである。
請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に、さらに甲第5号証に記載された発明を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものである。
請求項4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に、さらに甲第6号証に記載された発明を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものである。
請求項5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に、さらに甲第7号証に記載された発明を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものである。
請求項6に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明に、甲第1ないし8号証に記載された発明、及び甲第9、10号証に記載された周知技術を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものである。

甲第1号証:「76GHz帯で吸収特性を有するフェライト系電波吸収体の開発」、倉橋真司他、愛媛県工業系研究報告No.45、2007年
甲第2号証:特開平4−10595号公報
甲第3号証:「150GHz(ギガヘルツ)を超えるミリ波吸収磁性材料の開発に成功」大越慎一、インターネット<https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2007/22.html>、2007年10月25日更新
甲第4号証:特開2007−250823号公報
甲第5号証:特開2003−332783号公報
甲第6号証:特開2004−6436号公報
甲第7号証:特開平10−117084号公報
甲第8号証:特開2011−192978号公報
甲第9号証:「アクリルゴム(ACM)の成分、用途、特性、物性(比重、耐熱性、硬度)、耐薬品性について」、インターネット<https://www.toishi.info/sozai/rubbers/acm.html>、2011年8月26日更新
甲第10号証:「シリコーンゴム(VMQ,PVMQ,FVMQ)の特性|シリコーンゴムの成分、用途、比重、耐熱性、硬度、耐薬品性などの物性」、インターネット<https://www.toishi.info/sozai/rubbers/vmq-pvmq-fvmq.html>、2011年8月26日更新

(2)当審の判断
上記「第2」のとおり、令和3年5月14日付けの訂正請求により、本件の特許請求の範囲の請求項1は「透過型の」電磁波吸収シートであることが特定され、反射型の電磁波吸収シートについて記載されていた請求項4及び6は削除された。
したがって、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本件発明1)は上記「第3」に記載したとおりである。
また甲第1号証に記載された発明は上記「第4」「2(1)」のとおりである。
よって、本件発明1と引用発明とを対比すると少なくとも上記「第4」「3(1)ア」に示した(相違点1)を有し、同「イ」において判断したように甲2ないし10号証を参照しても相違点1は当業者が容易に構成できた事項と言うことはできない。
そして、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を含んだ本件発明2、3、5は、本件発明1と同様に引用文献1ないし5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 記載不備(第36条第6項第1号:サポート要件、第6項第2号:明確性、第4項第1号:実施可能要件)について
(1)申立理由の概要
令和3年5月14日付けの訂正請求により、請求項4及び6は削除されたことに鑑み、請求項1ないし3及び4に対して検討する。特許異議申立人は特許異議申立書において、次のように主張している。

「(エ−1)本件特許発明1の構成(C) の「 前記電磁波吸収層における前記磁性酸化鉄の体積含率が30%以上である」には、磁性酸化鉄の割合が体積含率にて記載されているのに対して、本件の特許明細書の発明の詳細な説明には、重量部にて記載されているため(表1から表3)、本件特許発明1と発明の詳細な説明に記載された発明との整合性をとることができない。
(エ−2)さらに、本件特許発明1の構成(B)の「前記電磁波吸収シートの面内の一方向における弾性域の最大伸び率が20%〜200%であり、」に対して、本件の特許明細書の発明の詳細な説明では、弾性域の最大伸び率の下限値を20%とした理由について、「電磁波吸収シートの伸びが20%より小さいと、曲面上の被着体に貼着する際に十分引き延ばせなくなって、作業性が低下してしまう。また、形状が変化する可動部への貼着に対応できなくなり、弾性を有するという本実施形態にかかる電磁波吸収シートの特徴を活かすことができなくなる。」ことを挙げているが(【0077】)、本件の特許明細書には、弾性域の最大伸び率が20%のときには弾性を有するが、20%未満、例えば、19%になると弾性が急激に低下することは記載されていない。つまり、本件の特許明細書には、弾性域の最大伸び率の下限値を20%とすることについての臨界的意義が示されていない。
(エ−3)また、本件の特許明細書の発明の詳細な説明には、弾性域の最大伸び率が200%のときは破断するとの記載があるが(【0093】)、そのときに電磁波吸収量に関する記載が存在しない。本件の特許明細書の発明の詳細な説明には、伸び率が0%〜75%のときの電磁波吸収量に関するデータは記載されているが(【0101】、【0135】、)、伸び率が76%〜200%のときの電磁波吸収量に関するデータが存在しない。このため、伸び率が76%〜200%のとき、特に、200%のときに、所望の電磁波吸収量を得ることができるか不明である。
(エ−4)さらに、本件特許発明1の構成(C)に記載の「体積含率が30%以上」には、体積含率99%が含まれるが、例えば、磁性酸化鉄の体積含率が99%であるとき、つまり、ゴム製バインダーの体積含率が、僅か1%のときに電磁波吸収シートの弾性域の最大伸び率が200%になることは考えられない。また、磁性酸化鉄の体積含率が99%であるときに最大伸び率が20%になるとも考えられない。
つまり、磁性酸化鉄の体積含率30%以上と弾性域の最大伸び率20%〜200%との関係には実現不可能な点が存在している。
(エ−5)さらに、本件特許発明1の構成(A)には、「ミリ波帯域以上の周波数帯域」と記載されているが、発明の詳細な説明には、75.5GHzのデータしか存在せず、ミリ波帯域の上限値である300GHzにおいても適用できるか不明である。また、「ミリ波帯域以上の周波数帯域」とは、30GHz〜300GHz以上の周波数帯域であるが、300GHzを超える実験データが存在しない。
(エ−6)
以上、(エ−1)ないし(エ−5)に記載したように、本件特許発明1には、本件の特許明細書の発明の詳細な説明と整合性とれない記載が存在し、かつ、各数値範囲全体にわたる十分な数の具体的例が本件の特許明細書の発明の詳細な説明に示されていない。さらに、本件特許発明1は、本件の出願時の技術水準に照らしても、本件の特許明細書に記載の具体例から、本件特許発明1の各数値範囲全体にまで拡張ないし一般化できるとはいえないものである。
従って、本件特許発明1ないし特許発明5は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
さらに、本件の特許明細書の発明の詳細な説明には、不明りょうな記載があるため、本件特許発明1を明確に把握することができないから、本件特許発明1ないし特許発明5は、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
さらに、本件の特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1と整合をとれない記載が存在し、かつ、不明点及び実現不可能な点が存在し、本件の特許明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、本件特許発明1ないし特許発明5は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」

(2)当審の判断
ア 特許異議申立人の主張する上記(エ−1)に関して検討すると、本件明細書の表1ないし3においては重量部で記載されているものの、段落【0020】に「また、前記電磁波吸収層における前記磁性酸化鉄の体積含率が30%以上であることが好ましい。」と記載されており、体積含率が30%以上とする点に関して、本件発明1と発明の詳細な説明に記載された発明との整合性が取れていないとはいえない。

イ 特許異議申立人の主張する上記(エ−2)に関して検討すると、本件明細書の段落【0077】に「一方、電磁波吸収シートの伸びが20%より小さいと、曲面状の被着体に貼着する際に十分引き延ばせなくなって、作業性が低下してしまう。また、形状が変化する可動部への貼着に対応できなくなり、弾性を有するという本実施形態にかかる電磁波吸収シートの特徴を活かすことができなくなる。」と弾性域の最大伸び率の下限値を20%とする根拠が記載されているから、発明の詳細な説明に記載されているといえ、例えば19%でどうなるかは関係なく、この点において請求項1に係る発明は明確であってその臨界的意義が問われるものでもない。

ウ 特許異議申立人の主張する上記(エ−3)に関して検討すると、本件明細書の段落【0076】に「また、電磁波吸収シートの伸びの大きさの範囲としては、入力インピーダンス値が空気中のインピーダンス値から大きくずれてしまい、インピーダンス整合が取れなくなるため電磁波吸収能力が低下する範囲として、上限は200%とする。また、電磁波吸収シートの伸びが大きすぎると、電磁波吸収シートの厚さが薄くなって電磁波吸収材料の密度が低下するため、電磁波吸収能力も低下する。さらに、電磁波吸収シートの伸びが200%を超える状態では、電磁波吸収シートの可撓性や屈曲性が低下する。」と記載され、インピーダンス整合、電磁波吸収能力、及び可撓性や屈曲性の観点から上限を200%とすることが記載されているから、伸び率が76%〜200%のときの電磁波吸収量に関するデータが存在しないとしても直ちに記載不備とはいえない。

エ 特許異議申立人の主張する上記(エ−4)に関して検討すると、本件のように複数のパラメータが存在し、その相対的な関係を端的に表現することが難しい場合においては、個々のパラメータが他のパラメータとの関係において実現不可能な点を含む場合であっても、明らかに実施不可能である範囲を明確に示せない場合には必ずしも不明確とはいえない。また、磁性酸化鉄の体積含率が30%以上であることは明細書の段落【0013】【0020】【0157】に、最大伸び率が200%となることは段落【0016】【0017】【0142】にそれぞれ記載されており、この点で請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明であるということができる。

オ 特許異議申立人の主張する上記(エ−5)に関して検討すると、本件請求項1において、30GHz〜300GHz以上の周波数帯域であると数字を明示しているわけではなく、また、発明の詳細な説明の段落【0016】【0024】【0156】に「ミリ波帯域以上の高周波数帯域で磁気共鳴する磁性酸化鉄」を備えることで「ミリ波帯域以上の高い周波数帯域の電磁波の遮蔽と吸収」を行うことが記載されていることから、この点において請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載された発明でないとも、また発明が明確ではないともいえない。

カ したがって、上記アないしオによれば、本件請求項1には発明の詳細な説明と整合性のとれない記載が存在せず、各数値範囲にわたる十分な具体的例が本件の特許明細書の発明の詳細な説明に示されていないとはいえず、また不明りょうな記載も存在しないから、本件発明1ないし特許発明5は、特許法第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。
また、本件の特許明細書の発明の詳細な説明に、本件発明1と整合をとれない記載、及び、不明点及び実現不可能な点は存在せず、発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるから、本件発明1ないし特許発明5に関し、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、請求項1ないし3、5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に請求項1ないし3、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項4及び6に係る特許は、上記のとおり訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する電磁波吸収材料である磁性酸化鉄とゴム製バインダーとを含む電磁波吸収層を有する透過型の電磁波吸収シートであって、
前記電磁波吸収シートの面内の一方向における弾性域の最大伸び率が20%〜200%であり、
前記電磁波吸収層における前記磁性酸化鉄の体積含率が30%以上であることを特徴とする、電磁波吸収シート。
【請求項2】
前記磁性酸化鉄が、イプシロン酸化鉄またはストロンチウムフェライトから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の電磁波吸収シート。
【請求項3】
前記ゴム製バインダーとして、アクリルゴムまたはシリコーンゴムのいずれかを用いた、請求項1または2に記載の電磁波吸収シート。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記電磁波吸収シートを貼着可能とする接着層をさらに備えた、請求項1〜4のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項6】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-18 
出願番号 P2018-234317
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (H05K)
P 1 651・ 536- YAA (H05K)
P 1 651・ 121- YAA (H05K)
P 1 651・ 537- YAA (H05K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 清水 稔
山本 章裕
登録日 2020-04-27 
登録番号 6697063
権利者 マクセル株式会社
発明の名称 電磁波吸収シート  
代理人 特許業務法人池内アンドパートナーズ  
代理人 特許業務法人池内アンドパートナーズ  
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