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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J |
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管理番号 | 1385137 |
総通号数 | 6 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-06-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-01-19 |
確定日 | 2022-03-18 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6726953号発明「伸縮性多孔質フィルムおよび物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6726953号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−5]について訂正することを認める。 特許第6726953号の請求項1、2、4及び5に係る特許を維持する。 特許第6726953号の請求項3に対する特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6726953号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成27年11月30日(優先権主張 平成27年4月15日)を出願日とする特許出願であって、令和2年7月2日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和3年1月19日に特許異議申立人 藤下万実(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ、同年4月16日付けで取消理由が通知され、同年6月14日に特許権者 日東電工株式会社(外1名)(以下、「特許権者」という。)から訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年6月25日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年7月16日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年9月10日付けで取消理由<決定の予告>が通知され、特許権者から同年11月12日に意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「ポリマー成分と充填剤を含み、表面に空隙を有する伸縮性多孔質フィルム」との記載を、 「ポリマー成分と充填剤を含み、表面に空隙を有し、厚みが60μm〜140μmである、伸縮性多孔質フィルム」に訂正し、 同じく請求項1の「該ポリマー成分がプロピレン系エラストマーを含み、」との記載を、 「該ポリマー成分がプロピレン系エラストマーおよび直鎖状低密度ポリエチレンを含み」に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4及び5も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1から3までのいずれかに記載の」とあるのを、 「請求項1または2に記載の」に訂正する。 請求項4の記載を直接引用する請求項5についても同様に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1に係る請求項1の訂正は、請求項1に記載の伸縮性多孔質フィルムについて、「厚みが60μm〜140μmである」ことを規定すると共に、請求項1に記載のポリマー成分がプロピレン系エラストマーに加えて、「直鎖状低密度ポリエチレン」を含むことを規定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項3及び本件特許明細書の段落【0022】、【0041】及び【0042】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4及び5に係る訂正についても同様である。 (2)訂正事項2について 訂正事項2に係る請求項3の訂正は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2に係る請求項3の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3に係る請求項4の訂正は、訂正前の請求項4が引用していた請求項3を引用しないようにするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項3に係る請求項4の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 請求項4の記載を直接引用する請求項5に係る訂正についても同様である。 3 訂正の適否についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−5]について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」といい、これらを総称して「本件発明」という場合がある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリマー成分と充填剤を含み、表面に空隙を有し、厚みが60μm〜140μmである、伸縮性多孔質フィルムであって、 該ポリマー成分がプロピレン系エラストマーおよび直鎖状低密度ポリエチレンを含み、 該プロピレン系エラストマーの230℃で2.16kgfにおけるMFRが0.1g/10分〜18g/10分であり、 王研式透気度計により測定される透気度が99999sec/100cc未満であり、 100%伸長した状態での王研式透気度計により測定される透気度が60000sec/100cc未満となる伸長方向を有し、 ヒステリシス試験において、幅20mm、チャック間距離30mmから、引張速度50mm/分にてチャック間距離60mmまで引張り、1分間保持した後、チャック間距離の引張りをなくしたときの残留歪みが10mm以下となる引張り方向を有する、 伸縮性多孔質フィルム。 【請求項2】 前記プロピレン系エラストマーがメタロセン系エラストマーである、請求項1に記載の伸縮性多孔質フィルム。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 請求項1または2に記載の伸縮性多孔質フィルムを含む物品。 【請求項5】 粘着剤層を有する、請求項4に記載の物品。」 第4 特許異議申立書に記載された申立ての理由の概要 令和3年1月19日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載された申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1、3及び4に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立理由3(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。具体的な指摘事項は以下のとおり。 本件特許明細書の詳細な説明において、段落0036、段落0051に記載のプロピレン系エラストマーと充填剤の種類は広範囲である。その製造方法も、段落0060に記載されるように特定されてなく、段落0027に記載されるように延伸すら必要ではない。 即ち、本件特許明細書では、実施例以外で、本件特許発明のフィルムを得るための説明は曖昧で、このような説明に従って、実施例以外の本件特許発明のフィルムを得るのは困難である。 4 申立理由4(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。具体的な指摘事項は以下のとおり。 本件特許発明1は、非常に広範囲であり、材料の特定もわずかな上、特に透気度の範囲が極めて広い。具体的には、透気度は、99999sec/100cc未満であり、0sec/100cc及びその近傍の値も含む。技術常識としてそのような透気度を有するフィルムは、本件特許明細書の開示から製造するのは不可能である。透気度は空気がフィルムを通過する速度のため、透気度の値が低いほど通気性が良いことを意味する。実施例では、透気度は最も低くて6892sec/100ccである。実施例から0〜99999sec/100ccまで到底拡張できない。本件特許発明の課題は、「優れた伸縮性および優れた通気性を有する伸縮性多孔質フィルムを提供すること」である(本件特許明細書段落0005)。構成要件Fは伸縮性に直接関し、構成要件D,Eは直接通気性に関しており、本件特許発明は、達成しようとする数値で規定されている。実施例のフィルムはこの課題を達成できているが、特定の材料と特定の製法しか開示されていない。 従って、実施例1〜3から請求項1〜5に記載の広い範囲まで発明を拡張ないし一般化できない。 5 証拠方法 甲第1号証:特開昭60−166436号公報 甲第2号証:特表2009−539481号公報 甲第3号証:特開2009−126000号公報 甲第4号証:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、「永久ひずみ」、https://kotobank.jp/word/永久ひずみ-35835 甲第5号証: ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、「伸び率」、https://kotobank.jp/word/伸び率-112372 甲第6号証:伊牟田淳一、「メタロセン系触媒によるエラストマーの合成」、高分子、46巻、11月号、824〜827頁(1997年) 甲第7号証:2019年11月21日付意見書 甲第8号証:エクソンモービル・ジャパン合同会社、「プロピレン系エラストマー『Vistamaxシリーズ』」、https://www.ipros.jp/product/detail/2000251363 甲第9号証:高橋浩司、「日本からの提案による初のISO紙パルプ試験規格―透気度試験方法/王研法―」、日本印刷学会誌、第52巻、第3号、245〜249頁(2015年) 証拠の表記については、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。 以後、甲第1号証から甲第9号証については、それぞれ「甲1」から「甲9」のようにいう。 第5 取消理由<決定の予告>に記載した取消理由の概要 当審が令和3年9月10日付けで特許権者に通知した取消理由<決定の予告>に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。 取消理由2(甲2を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲2に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第6 当審の判断 以下に述べるように、当審が令和3年9月10日付けで特許権者に通知した取消理由<決定の予告>に記載した取消理由2は、理由がないと判断する。 1 主な証拠に記載された事項等 (1)甲2に記載された事項 甲2には、「吸収性物品用伸張性外側カバー」に関して、おおむね次の事項が記載されている。下線は当審において付与した。 ・「【0001】 本発明は、一般に吸収性物品、及び該物品とともに使用される伸長性外側カバー(「SOC」)に関する少なくとも1つの実施形態を提供する。より詳細には、本発明の実施形態は下着のような、低力で回復可能に伸長する伸長性外側カバーに関する。本発明の少なくとも1つの実施形態はまた、弾性コア層及び弾性表皮層を含むエラストマーフィルムに関しており、前記弾性表皮層は前記弾性コア層に比べると粘着が少ない。 【背景技術】 【0002】 従来のテープ式おむつ、プルオン式おむつ、トレーニングパンツ、失禁用ブリーフ等のような吸収性物品は、尿及び/又は他の排泄物を受容及び収容する利益を提供する。かかる吸収性物品は腰部開口部及び1対の脚部開口部を確定するシャーシを備えることができる。1対のバリアレグカフは、シャーシから脚部開口部に隣接した着用者に向かって延伸することができ、これにより液体及び他の身体滲出物の封じ込めを改善するために着用者の身体と封止を形成する。従来のシャーシは、典型的には、トップシートと衣類に面する外側カバー(バックシートと言う場合もある)との間に配置される吸収性コアを備える。」 ・「【0007】 従って、コア層よりも粘着の少ない弾性表皮層を有する外側カバーを提供することが望ましいであろう。綿の下着の質感及び外観を有する、小さな力で回復可能に伸長する外側カバーを提供することがさらに望ましい。綿の下着の質感及び外観を有する通気可能な外側カバーの製造プロセスを提供することがさらに望ましい。」 ・「【0021】 本明細書で使用する場合、用語「活性化された」は、材料の少なくとも一部に弾性延伸性を付与するために、例えば、漸増伸長によるなどの、機械的に変形された材料を指す。」 ・「【0031】 吸収性物品に含まれるエラストマーは、おむつにおける、より高価な構成要素の1つであり得るので、また、外側カバーの面積、従ってエラストマーの使用は全体が伸びる外側カバーにとっては大きくなり得るので、外側カバーを比較的安価な低坪量のエラストマーで商業用に製造できることが望ましい可能性がある。弾性ポリプロピレン、例えば、エクソンモービル社(Exxon-Mobil)製のビスタマックス(VISTAMAXX)は、スチレン系ブロックコポリマーなどの従来のエラストマーより典型的には安価であるので、魅力的な候補であり得る。加えて、その溶融強度の高さにより、スチレン系ブロックポリマーと商業的に比べて低坪量(例えば、10〜40g/m2)でこれら弾性ポリプロピレンをより容易に押し出すことができる。最後に、多くの他の吸収性物品の構成要素は多くの場合ポリプロピレンで作られているので、弾性ポリプロピレンとの機械的結合がより容易であり得る。」 ・「【0038】 他の特に好適な弾性構成成分の例には、弾性ポリプロピレンが挙げられる。これらの材料において、プロピレンはポリマー主鎖の主要構成成分に相当し、その結果、いずれかの残りの結晶化度は、ポリプロピレン結晶の特徴を有する。プロピレン系エラストマー分子ネットワークの中に埋め込まれた残りの結晶性構成要素は物理的架橋として機能して、高い復元、低い固定及び低い力緩和のような弾性ネットワークの機械的特性を改善するポリマー鎖固着能力を提供してもよい。弾性ポリプロピレンの好適な例には、弾性ランダムポリ(プロピレン/オレフィン)コポリマー、立体エラー(stereoerror)を含むアイソタクチックポリプロピレン、アイソタクチック/アタクチックポリプロピレンブロックコポリマー、アイソタクチックポリプロピレン/ランダムポリ(プロピレン/オレフィン)コポリマーブロックコポリマー、ステレオブロック弾性ポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレンブロックポリ(エチレン−コ−プロピレン)ブロックシンジオタクチックポリプロピレン三元ブロックコポリマー、アイソタクチックポリプロピレンブロック位置不規則性(regioirregular)ポリプロピレンブロックアイソタクチックポリプロピレン三元ブロックコポリマー、ポリエチレンランダム(エチレン/オレフィン)コポリマーブロックコポリマー、極低密度ポリプロピレン(即ち、超低密度ポリプロピレンと同等)、メタロセンポリプロピレン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。結晶性アイソタクチックブロック及び非晶質アタクチックブロックを含む好適なポリプロピレンポリマーが、例えば、米国特許第6,559,262号、同第6,518,378号、及び同第6,169,151号に記載されている。ポリマー鎖に沿って立体エラーを有する好適なアイソタクチックポリプロピレンが、米国特許番号第6,555,643号及び欧州特許第1 256 594 A1号に記載されている。好適な例には、主鎖に組み込まれた低濃度のコモノマー(例えば、エチレン又は高級α−オレフィン)がを含有するプロピレンを含む弾性ランダムコポリマー(RCP)が挙げられる。好適な弾性RCP材料は、商品名「ビスタマックス」{テキサス州ヒューストン(Houston)のエクソンモービル社(ExxonMobil)から入手可能}及び商品名「バーシファイ(VERSIFY)」{ミシガン州ミッドランド(Midland)のダウ・ケミカル社(Dow Chemical)から入手可能}として入手可能である。伸長性外側カバーが、印刷された弾性材料を含む場合、エラストマー構成成分はスチレン系ブロックコポリマーであってもよい。」 ・「【0052】 積層ポリマーフィルム及び印刷された弾性層 本発明の少なくとも1つの実施形態によるポリマーフィルムは、例えばキャストフィルム装置又はインフレーションフィルム装置のような従来の装置及び方法を用いて形成することができる。ポリマーフィルムはまた、不織布繊維とともに共押し出しすることもできる。ポリマーフィルムはまた、例えばフィルムの形成前に樹脂に染料を添加することで着色することもできる(着色のこの方法はまた本発明のポリマー繊維材料にも用いることができる)。得られるポリマーフィルムの坪量は、10g/m2〜40g/m2の範囲又は12g/m2〜30g/m2の範囲、例えば15g/m2〜25g/m2の範囲である。ポリマーフィルムは100μm未満の厚さを有してもよく、ポリマーフィルムは10μm〜50μmの厚さを有してもよい。」 ・「【0056】 ポリマーフィルムは任意に有機充填剤粒子及び無機充填剤粒子を含有することができる。フィルムの通気性の促進とフィルムの液体水バリア特性の維持を同時に達成するのに十分なミクロ細孔形成するために、充填剤粒子は小さくてもよい(例えば、平均直径0.4μm〜8μm)。好適な充填剤の例には、炭酸カルシウム、非膨潤性粘土、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、炭酸ナトリウム、タルク、硫酸マグネシウム、二酸化チタン、ゼオライト、硫酸アルミニウム、セルロ ース系粉末、珪藻土、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、カオリン、雲母、炭素、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ガラス粒子、パルプ粉、木粉、キチン、キチン誘導体、及びポリマー粒子が挙げられる。フィルムの通気性を改善するための好適な無機充填剤粒子は炭酸カルシウムである。」 ・「【0058】 伸長性外側カバーの最終処理 ポリマーフィルムを含有する実施形態では、不織布材料及びポリマーフィルムは、それぞれの機械方向を他方のものと実質的にそろえてともに積層してもよい。結合は、接着積層、押出積層、熱点結合、超音波点結合、接着パターン結合、接着スプレー結合、及びフィルムの通気性を維持する他の技術(例えば、結合領域がポリマーフィルムと不織布繊維との間の境界面の25%未満をカバーする技術)などの従来技術を用いて達成されてもよい。」 ・「【0060】 機械方向及び/又は機械横方向への機械的活性化プロセスを用いて外側カバー材料に伸長性を与えることができる。かかる方法は、典型的には、ウェブが伸長/回復特性を示すひずみ範囲を増加させ、材料に所望の触覚/審美的特性(例えば、綿花状の質感)を付与する。機械的活性化プロセスには、リングロール、SELF化{ディファレンシャル(differential)又は浮き上がり}、及び当該技術分野において既知の漸増式にウェブを伸長させる他の手段が挙げられる。好適な機械的活性化プロセスの例は、米国特許番号第5,366,782号に記載されているリングロール法である。具体的には、リングロール装置は、漸増的に伸長させる噛み合う歯を有する向かい合ったロールを有し、それによって外側カバーを形成する材料(又はその一部)を可塑的に変形して、それによってリングロールされた区域において外側カバーに伸長性をもたせる。単一方向(例えば横断方向)に実施される活性化は、1軸的に伸長性である外側カバーをもたらす。2方向(例えば機械方向及び横断方向又は外側カバーの中心線周囲に対称性を保つ他の2方向)に実施される活性化は、2軸伸長性である外側カバーをもたらす。いくつかの実施形態において、伸長性外側カバーは少なくとも1つの領域(例えば、前側又は後ろ側腰部区域の少なくとも一方の部分)で活性化され、少なくとも1つの他の区域は非活性化のままであり、この他の区域には弾性状に形成された構造化されたウェブ材料を含むことができる。」 ・「【0106】 (実施例8) 実施例8の試料は、充填剤粒子を含有することが、エラストマー構成成分(V1100フィルム等級ビスタマックス弾性ポリプロピレン及び任意でベクターV4211スチレン系ブロックコポリマー)、塑性体構成成分(LL6201線状低密度ポリエチレン)、炭酸カルシウム充填剤粒子、及び二酸化チタン不透明粒子で形成される塑弾性フィルムの通気性及び引張特性に与える影響を示している。試料は、CDだけに500s−1のひずみ速度、4.4mmの係合深さ、及び3.8mm(0.150インチ)のピッチで活性化した後に試験された。処方及び得られた特性を表8A及び表8Bに示す。表8Bに記載の試料が(実施例5及び6に記載のように修正された)ヒステリシス試験にかけられた。 【表16】 【表17】 【0107】 表8A〜8Bの結果は、本開示のフィルム処方に充填剤粒子を含むことで、好ましい機械的特性を維持した状態でフィルムの通気性を実質的に増加させることができることを示している。」 (2)甲2に記載された発明 上記(1)の記載によれば、甲2の実施例8A〜8E、8G〜8Jには、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。 「V1100フィルム等級ビスタマックス弾性ポリプロピレン30〜44重量%と線状低密度ポリエチレン7〜20重量%と炭酸カルシウム充填剤粒子44〜56重量%を含む、ミクロ細孔が形成された塑弾性フィルムであって、 フィルムの厚さが30〜46μmであり、 CDだけに500s−1のひずみ速度、4.4mmの係合深さ、及び3.8mm(0.150インチ)のピッチで活性化した、塑弾性フィルム。」 2 本件発明1について 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「塑弾性フィルム」は、伸張性外側カバーに関しての実施例であって、「好ましい機械特性を維持した状態でフィルムの通気性を実質的に増加」(甲2の段落【0107】)したものであるから、本件発明1の「伸縮性多孔質フィルム」に相当する。 甲2発明の「V1100フィルム等級ビスタマックス弾性ポリプロピレン」は、本件発明1における「ポリマー成分」及び「プロピレン系エラストマー」に相当する。 甲2発明の「線状低密度ポリエチレン」は、本件発明1における「直鎖状低密度ポリエチレン」に相当する。 甲2発明の「炭酸カルシウム充填剤粒子」は、本件発明1における「充填剤」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2発明とは、 「ポリマー成分と充填剤を含み、伸縮性多孔質フィルムであって、 該ポリマー成分がプロピレン系エラストマーおよび直鎖状低密度ポリエチレンを含む、 伸縮性多孔質フィルム。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2−1> 伸縮性多孔質フィルムに関し、本件発明1は、「表面に空隙を有する」と特定するのに対し、甲2発明は、この点を特定しない点 <相違点2−2> 伸縮性多孔質フィルムに関し、本件発明1は、「王研式透気度計により測定される透気度が99999sec/100cc未満であり、100%伸長した状態での王研式透気度計により測定される透気度が60000sec/100cc未満となる伸長方向を有し」と特定するのに対し、甲2発明は、この点を特定しない点 <相違点2−3> 伸縮性多孔質フィルムに関し、本件発明1は、「ヒステリシス試験において、幅20mm、チャック間距離30mmから、引張速度50mm/分にてチャック間距離60mmまで引張り、1分間保持した後、チャック間距離の引張りをなくしたときの残留歪みが10mm以下となる引張り方向を有する」と特定するのに対し、甲2発明は、この点を特定しない点 <相違点2−4> プロピレン系エラストマーに関し、本件発明1は、「230℃で2.16kgfにおけるMFRが0.1g/10分〜18g/10分であり」と特定するのに対し、甲2発明は、この点を特定しない点 <相違点2−5> 伸縮性多孔質フィルムの厚みに関し、本件発明1は、「60μm〜140μm」と特定するのに対し、甲2発明は、30〜46μmである点 事案に鑑み、相違点2−2から検討する。 甲2発明の塑弾性フィルムの透気度について、甲2には開示がなく、記載されている「MVTR」と透気度との関係も不明であり、甲2発明の透気度を示す証拠は示されていないから、甲2発明が相違点2−2の条件を満足するものとはいえない。 また、本件特許明細書に記載の実施例2及び3と対比しても、プロピレン系エラストマー及び直鎖状低密度ポリエチレンと充填剤の配合比において大きく相違し(実施例2及び3は、プロピレン系エラストマー:直鎖状低密度ポリエチレン:充填剤は、98:42:200(質量%に換算すると29:12:59)と77:63:200(同じく、23:18:59)であるのに対し、甲2発明は、33〜40:7〜20:44〜56(同じく、35〜39:8〜17:48〜53)である。)、製造方法においても、本件特許の実施例2及び3では「Tダイから溶融押出を行い、1軸ロール延伸方式により、延伸温度60℃、延伸倍率4倍で長手(MD)方向に延伸して」いるのに対し、甲2発明では、延伸条件等が不明であって同じであるとはいえないから、特に「100%伸張下状態での透気度」は、本件特許明細書に記載の実施例2、3と同程度の透気度であるとはいえない。 そして、甲2は、「吸収性物品、及び該物品とともに使用される伸張性外側カバー」に関する技術であって、絆創膏のような身体に対する追従性が求められるものではないから、甲2発明において、100%伸長した状態での王研式透気度計により測定される透気度を調整する動機はなく、甲2発明において、相違点2−2に係る発明特定事項とすることは当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 本件発明2、4及び5について 本件発明2、4及び5は、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記2のとおり、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である本件発明2、4及び5は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4 まとめ したがって、取消理由<決定の予告>に記載した取消理由2には、理由がない。 第7 取消理由<決定の予告>に採用しなかった特許異議申立書に記載された申立ての理由について 取消理由<決定の予告>において採用しなかった申立理由は、申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)、申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)においての新規性、申立理由3(サポート要件)及び申立理由4(実施可能要件)であるので、以下、検討する。 1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について (1)甲1に記載された発明 甲1の2頁左上欄8〜20行、4頁左上欄2〜20行、5頁右上欄15〜20行、同頁左下欄1〜4行、同頁左下欄13〜16行、7頁左下欄6〜20行、同頁右下欄5行〜8頁左上欄8行、8頁、10頁左上欄1行〜同頁右上欄3行、10頁の表の記載によれば、甲1の実施例5には、以下の発明(以下、「甲1実施例5発明」という。)が記載されていると認める。 「100%モジュラスが15kg/cm2、破断伸びが1000%及び永久ひずみが10%のエチレン−プロピレン−ジエン共重合体[商品名;JSR EP57P(第3成分ENB)日本合成ゴム]社製)]35gとポリプロピレン粉末(グレード名;YE−130 MI=4 徳山曹達社製)15gと重質炭酸カルシウム[商品名;ホワイトンSB(平均粒径1.7μ)白石カルシウム社製]50gよりなる組成物を小型バンバリーミキサーに投入し、190℃で5分間混練した後架橋剤2.5−ジメチル−2,5(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3(商品名;カヤヘキサYD 化薬ヌーリー社製)0.4gを添加して更に5分間混練し、この後、2,4−ジターシャリブチルクレゾールを1g添加して更に3分間混練後、200℃プレス成形して厚さ0.30mmのシート状組成物を得、該シート状組成物は、230℃のメルトフローインデックスは0.5であり、次いで該シート状組成物を80℃で延伸倍率を変化させてタテ、ヨコ同じ倍率に逐次二軸延伸した後、それぞれ冷却後取り外して得た、通気度が1200sec/100ccであり、永久ひずみが10%である柔軟にして回復弾性のある多孔性シート。」 また、上記記載によれば、甲1の実施例11には、以下の発明(以下、「甲1実施例11発明」という。)が記載されていると認める。 「エチレン−ブテン−1共重合体と線状低密度ポリエチレン(商品名;ウルトゼックス−2020L、三井石油化学社製)(LLDPE)、重質炭酸カルシウム、その他にタルク(商品名:ミクロエースK−1、粒径:3.3μ、日本タルク社製)、水酸化マグネシウム(商品名;キスマ5A、粒径2μ、協和化学工業社製)及び珪藻土(商品名;ラジオライトード、粒径5μ、昭和化学工業社製)を配合したものを、180℃の二軸押出機を用いてペレットにし、このペレットを用いて50mmφのベントタイプの押出機を用い、180℃の樹脂温度で、サーキュラーダイより厚さ0.07mmのシートを押出し、空冷して引き取り、次にロール温度60℃で縦方向(MD)にのみ3倍延伸した後、冷却しつつ巻き取った多孔性シートであって、 通気度が380sec/100ccであり、 永久ひずみが20%である多孔性シート。」 (2)本件発明1と甲1実施例5発明との対比・判断 本件発明1と甲1実施例5発明を対比する。 甲1実施例5発明の「エチレン−プロピレン−ジエン共重合体[商品名;JSR EP57P(第3成分ENB)日本合成ゴム]社製)]35gとポリプロピレン粉末(グレード名;YE−130 MI=4 徳山曹達社製)15gと重質炭酸カルシウム[商品名;ホワイトンSB(平均粒径1.7μ)白石カルシウム社製]50gよりなる組成物を小型バンバリーミキサーに投入し、190℃で5分間混練した後架橋剤2.5−ジメチル−2,5(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3(商品名;カヤヘキサYD 化薬ヌーリー社製)0.4gを添加して更に5分間混練し、この後、2,4−ジターシャリブチルクレゾールを1g添加して更に3分間混練」した状態の樹脂成分が、本件発明1の「ポリマー成分」及び「プロピレン系エラストマー」に相当し、当該樹脂成分の230℃のメルトフローインデックスは0.5(甲1の測定条件は230℃10分間に2160gの荷重であって本件特許と同じである)であるから、本件発明1の「該プロピレン系エラストマーの230℃で2.16kgfにおけるMFRが0.1g/10分〜18g/10分であり」を満たす。 甲1実施例5発明の「重質炭酸カルシウム」は、本件発明1の「充填剤」に相当する。 そして、甲1実施例5発明の「多孔性シート」は、「柔軟にして回復弾性のある」「多孔性シート」であるから、本件発明1の「伸縮性多孔質フィルム」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1実施例5発明とは、 「ポリマー成分と充填剤を含み、伸縮性多孔質フィルムであって、 該ポリマー成分がプロピレン系エラストマーを含み、 該プロピレン系エラストマーの230℃で2.16kgfにおけるMFRが0.1g/10分〜18g/10分である、 伸縮性多孔質フィルム。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1−1> 本件発明1は、「直鎖状低密度ポリエチレンを配合する」と特定するのに対して、甲1実施例5発明は、当該成分を配合していない点 <相違点1−2> 伸縮性多孔質フィルムに関し、本件発明1は、「表面に空隙を有する」と特定するのに対し、甲1実施例5発明は、この点を特定しない点 <相違点1−3> 伸縮性多孔質フィルムに関し、本件発明1は、「王研式透気度計により測定される透気度が99999sec/100cc未満であり、100%伸長した状態での王研式透気度計により測定される透気度が60000sec/100cc未満となる伸長方向を有し」と特定するのに対し、甲1実施例5発明は、「通気度は1200sec/100cc」との特定である点 <相違点1−4> 伸縮性多孔質フィルムに関し、本件発明1は、「ヒステリシス試験において、幅20mm、チャック間距離30mmから、引張速度50mm/分にてチャック間距離60mmまで引張り、1分間保持した後、チャック間距離の引張りをなくしたときの残留歪みが10mm以下となる引張り方向を有する」と特定するのに対し、甲1実施例5発明は、「永久ひずみが10%」との特定である点 まず、新規性から検討する。 相違点1−1は、実質的な相違点であるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1実施例5発明であるとはいえない。 次に、進歩性について検討する。 相違点1−1について、甲1には、多孔質フィルムに配合する成分として、直鎖状低密度ポリエチレンに相当するLLDPEを配合した実施例11が記載されているが、当該実施例11においてLLDPEは、エチレン−ブテン−1共重合体とともに用いられているものであって、甲1実施例5発明の「エチレン−プロピレン−ジエン共重合体[商品名;JSR EP57P(第3成分ENB)日本合成ゴム]社製)]35gとポリプロピレン粉末(グレード名;YE−130 MI=4 徳山曹達社製)15gと重質炭酸カルシウム[商品名;ホワイトンSB(平均粒径1.7μ)白石カルシウム社製]50gよりなる組成物を小型バンバリーミキサーに投入し、190℃で5分間混練した後架橋剤2.5−ジメチル−2,5(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3(商品名;カヤヘキサYD 化薬ヌーリー社製)0.4gを添加して更に5分間混練し、この後、2,4−ジターシャリブチルクレゾールを1g添加して更に3分間混練」した状態の樹脂(ポリプロピレン系エラストマー)とは異なるものである。 そして、甲1において実施例として記載されている甲1実施例5発明の樹脂成分に、さらに、直鎖状低密度ポリエチレンを配合する動機がなく、直鎖状低密度ポリエチレンを配合することで多孔質フィルムの100%伸張時の通気度が向上するとの効果については記載されていないし、提示されたいずれの証拠にもこの点についての記載はない。 そうすると、甲1実施例5発明において、相違点1−1に係る発明特定事項を採用することは当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1実施例5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明2、4及び5と甲1実施例5発明との対比について 本件発明2、4及び5は、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記(2)のとおり、本件発明1は、甲1実施例5発明でないから、本件発明4は、同様に、甲1実施例5発明でないし、本件発明2、4及び5は、同様に、甲1実施例5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件発明1と甲1実施例11発明との対比・判断 本件発明1と甲1実施例11発明を対比する。 甲1実施例11発明の「エチレン−ブテン−1共重合体」は、本件発明1の「ポリマー成分」及び「エラストマー」に相当する。 甲1実施例11発明の「線状低密度ポリエチレン」は、本件発明1の「直鎖状低密度ポリエチレン」に相当する。 甲1実施例11発明の「重質炭酸カルシウム」は、本件発明1の「充填剤」に相当する。 そして、甲1実施例11発明の「多孔性シート」は、柔軟にして回復弾性のある「多孔性シート」であるから、本件特許発明1の「伸縮性多孔質フィルム」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1実施例11発明とは、 「ポリマー成分と充填剤を含み、伸縮性多孔質フィルムであって、 該ポリマー成分がエラストマーおよび直鎖状低密度ポリエチレンを含み、 を含み、 伸縮性多孔質フィルム。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1−5> 多孔質フィルムに関し、本件発明1は、「表面に空隙を有する」と特定するのに対し、甲1実施例11発明は、この点を特定しない点 <相違点1−6> 多孔質フィルムに関し、本件発明1は、「王研式透気度計により測定される透気度が99999sec/100cc未満であり、100%伸長した状態での王研式透気度計により測定される透気度が60000sec/100cc未満となる伸長方向を有し」と特定するのに対し、甲1実施例11発明は、「通気度は380sec/100cc」との特定である点 <相違点1−7> 多孔質フィルムに関し、本件発明1は、「ヒステリシス試験において、幅20mm、チャック間距離30mmから、引張速度50mm/分にてチャック間距離60mmまで引張り、1分間保持した後、チャック間距離の引張りをなくしたときの残留歪みが10mm以下となる引張り方向を有する」と特定するのに対し、甲1実施例11発明は、「永久ひずみが20%」との特定である点 <相違点1−8> エラストマーに関し、本件発明1は、「プロピレン系」であって、「該プロピレン系エラストマーの230℃で2.16kgfにおけるMFRが0.1g/10分〜18g/10分であり」と特定するのに対し、甲1実施例11発明は、この点を特定しない点 まず、新規性から検討する。 事案に鑑み、相違点1−8から検討する。 甲1実施例11発明の「エチレン−ブテン−1共重合体」は、ポリプロピレン系エラストマーということはできないし、その230℃で2.16kgfにおけるMFRは不明であって、当該エチレン−ブテン−1共重合体の230℃で2.16kgfにおけるMFRが0.1g/10分〜18g/10分であるとの証拠もない。 そうすると、相違点1−8は、実質的な相違点であるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1実施例11発明であるとはいえない。 次に、進歩性について検討する。 相違点1−8について、プロピレン系エラストマーとして、230℃で2.16kgfにおけるMFRが3.0であるエクソンモービル製VM1100が知られていたとしても、甲1実施例11発明の「エチレン−ブテン−1共重合体」に代えて、当該特定のプロピレン系エラストマーを採用する動機はない。そして、特定のMFRのプロピレン系エラストマーを配合することで多孔質フィルムの100%伸張時の通気度が向上するとの効果については全く記載されていないし、その他の証拠にも記載されていない。 そうすると、甲1実施例11発明において、相違点1−8に係る発明特定事項を採用することは当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1実施例11発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件発明2、4及び5と甲1実施例11発明との対比について 本件発明2、4及び5は、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記(4)のとおり、本件発明1は、甲1実施例11発明でないから、本件発明4は、同様に、甲1実施例11発明でないし、本件発明2、4及び5は、同様に、甲1実施例11発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (6) まとめ したがって、申立理由1には理由がない。 2 申立理由2の甲2に基づく新規性について 本件発明1と甲2に記載された発明とを対比すると、上記第6 2において検討したとおり、少なくとも相違点2−2において実質的に相違しているから、本件発明1は、甲2に記載された発明でない。 本件発明2、4及び5は、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものであるから、本件発明2、4及び5は、同様に、甲2に記載された発明とはいえない。 よって、申立理由2の甲2に基づく新規性は理由がない。 3 申立理由3(実施可能要件)について (1)判断基準 本件発明1、2、4及び5は何れも物の発明であるところ、物の発明の実施とは、その物の生産及び使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 (2)発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、優れた伸縮性および優れた通気性を有する伸縮性多孔質フィルムを提供することにある。また、そのような伸縮性多孔質フィルムを含む物品を提供することにある。」 ・「【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明の伸縮性多孔質フィルムは、 表面に空隙を有する伸縮性多孔質フィルムであって、 王研式透気度計により測定される透気度が99999sec/100cc未満であり、 100%伸長した状態での王研式透気度計により測定される透気度が60000sec/100cc未満となる伸長方向を有し、 ヒステリシス試験において、幅20mm、チャック間距離30mmから、引張速度50mm/分にてチャック間距離60mmまで引張り、1分間保持した後、チャック間距離の引張りをなくしたときの残留歪みが10mm以下となる引張り方向を有する。」 ・「【発明の効果】 【0014】 本発明によれば、優れた伸縮性および優れた通気性を有する伸縮性多孔質フィルムを提供できる。また、そのような伸縮性多孔質フィルムを含む物品を提供できる。」 ・「【発明を実施するための形態】 【0016】 ≪伸縮性多孔質フィルム≫ 本発明の伸縮性多孔質フィルムは、表面に空隙を有する伸縮性多孔質フィルムである。本発明の伸縮性多孔質フィルムは、表面に空隙を有することにより、優れた通気性を有する。 【0017】 本発明の伸縮性多孔質フィルムは、王研式透気度計により測定される透気度が99999sec/100cc未満であり、好ましくは80000sec/100cc未満であり、より好ましくは70000sec/100cc未満であり、さらに好ましくは60000sec/100cc未満であり、特に好ましくは50000sec/100cc未満であり、最も好ましくは40000sec/100cc未満である。本発明の伸縮性多孔質フィルムの王研式透気度計により測定される透気度が上記範囲内にあれば、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、優れた通気性を有することができる。 【0018】 本発明の伸縮性多孔質フィルムは、100%伸長した状態での王研式透気度計により測定される透気度が60000sec/100cc未満となる伸長方向を有する。この透気度は、好ましくは50000sec/100cc未満であり、より好ましくは40000sec/100cc未満であり、さらに好ましくは30000sec/100cc未満であり、特に好ましくは10000sec/100cc未満であり、最も好ましくは5000sec/100cc未満である。本発明の伸縮性多孔質フィルムが、100%伸長した状態での王研式透気度計により測定される透気度が上記範囲内となる伸長方向を有すれば、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、伸長状態において優れた通気性を有することができる。 【0019】 なお、上記「伸長方向を有する」とは、本発明の伸縮性多孔質フィルムにおいて、上記透気度が上記範囲内となる伸長方向を少なくとも1方向有すればよいことを意味する。このような伸長方向としては、代表的には、本発明の伸縮性多孔質フィルムが未延伸のフィルムである場合は該フィルムの全ての方向が好ましく挙げられ、本発明の伸縮性多孔質フィルムが一軸延伸されたフィルムである場合は該延伸の方向と直交する方向(長手(MD)方向に延伸した場合はCD方向)が好ましく挙げられる。また、本発明の伸縮性多孔質フィルムが二軸延伸されたフィルムである場合は、同時延伸か逐次延伸か、二軸の延伸倍率の違い、などの各種条件により、上記透気度が上記範囲内となる伸長方向が決まることになる。 【0020】 本発明の伸縮性多孔質フィルムは、ヒステリシス試験において、幅20mm、チャック間距離30mmから、引張速度50mm/分にてチャック間距離60mmまで引張り、1分間保持した後、チャック間距離の引張りをなくしたときの残留歪みが10mm以下となる引張り方向を有する。この残留歪みは、好ましくは9mm〜1mmであり、より好ましくは8mm〜1mmであり、さらに好ましくは7mm〜1mmであり、特に好ましくは6mm〜2mmであり、最も好ましくは5mm〜3mmである。本発明の伸縮性多孔質フィルムが、上記残留歪みが上記範囲内となる引張り方向を有すれば、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、優れた伸縮性を有することができる。」 ・「【0022】 本発明の伸縮性多孔質フィルムの厚みは、好ましくは30μm〜300μmであり、より好ましくは40μm〜200μmであり、さらに好ましくは50μm〜150μmであり、特に好ましくは60μm〜140μmであり、最も好ましくは70μm〜120μmである。本発明の伸縮性多孔質フィルムの厚みが上記範囲内にあれば、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた伸縮性およびより優れた通気性を有することができる。」 ・「【0030】 ポリマー成分は、好ましくはプロピレン系エラストマーを含む。 【0031】 ポリマー成分がプロピレン系エラストマーを含むことにより、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた伸縮性を発現し得る。また、ポリマー成分がプロピレン系エラストマーを含むことにより、充填剤と組み合わせることで、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた通気性を発現し得る。 【0032】 プロピレン系エラストマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。 【0033】 本発明の伸縮性多孔質フィルムがプロピレン系エラストマーを含むことによって、熱安定性が向上し、例えば、本発明の伸縮性多孔質フィルムを製造する際の熱劣化を抑制し得る。また、本発明の伸縮性多孔質フィルムがプロピレン系エラストマーを含むことによって、保存安定性が向上し、本発明の伸縮性多孔質フィルムを保存している間における物性値の変動を抑制し得る。 【0034】 本発明の伸縮性多孔質フィルムがプロピレン系エラストマーを含むことによって、本発明の伸縮性多孔質フィルムの製造工程が簡素化でき、加工費を抑制し得る。これは、プロピレン系エラストマーを採用すると、本発明の伸縮性多孔質フィルムを製造する際に押出成形することが可能となり、マスターバッチを作製する必要がなくなり得るからである。 【0035】 ポリマー成分中のプロピレン系エラストマーの含有割合は、本発明の効果がより発現する点で、好ましくは30重量%〜100重量%であり、より好ましくは40重量%〜95重量%であり、さらに好ましくは50重量%〜90重量%であり、特に好ましくは55重量%〜85重量%であり、最も好ましくは60重量%〜80重量%である。ポリマー成分中のプロピレン系エラストマーの含有割合を上記範囲内とすれば、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた伸縮性を発現し得る。また、ポリマー成分中のプロピレン系エラストマーの含有割合を上記範囲内とすれば、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、充填剤と組み合わせることで、より優れた通気性を発現し得る。 ・・・ 【0038】 プロピレン系エラストマーとしては、その230℃で2.16kgfにおけるMFRが、好ましくは0.1g/10分〜18g/10分であり、より好ましくは0.5g/10分〜15g/10分であり、さらに好ましくは1.0g/10分〜10g/10分であり、特に好ましくは1.5g/10分〜7g/10分であり、最も好ましくは2g/10分〜5g/10分である。プロピレン系エラストマーの上記MFRを上記範囲内とすれば、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた伸縮性を発現し得る。また、プロピレン系エラストマーの上記MFRを上記範囲内とすれば、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、充填剤と組み合わせることで、より優れた通気性を発現し得る。 【0039】 プロピレン系エラストマーは、市販品として入手することも可能である。このような市販品としては、例えば、三井化学株式会社製の「タフマー」(登録商標)シリーズの中のいくつか、エクソンモービル社製の「ビスタマックス(Vistamaxx)」(登録商標)シリーズの中のいくつか(例えば、ビスタマックス7010等)が挙げられる。」 ・「【0041】 ポリマー成分は、好ましくは直鎖状低密度ポリエチレンを含む。 【0042】 ポリマー成分がプロピレン系エラストマーとともに直鎖状低密度ポリエチレンを含むことにより、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた伸縮性を発現し得る。また、ポリマー成分がプロピレン系エラストマーとともに直鎖状低密度ポリエチレンを含むことにより、充填剤と組み合わせることで、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた通気性を発現し得る。 【0043】 直鎖状低密度ポリエチレンは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。 【0044】 本発明の伸縮性多孔質フィルムがプロピレン系エラストマーとともに直鎖状低密度ポリエチレンを含むことによって、熱安定性が向上し、例えば、本発明の伸縮性多孔質フィルムを製造する際の熱劣化を抑制し得る。また、本発明の伸縮性多孔質フィルムがプロピレン系エラストマーとともに直鎖状低密度ポリエチレンを含むことによって、保存安定性が向上し、本発明の伸縮性多孔質フィルムを保存している間における物性値の変動を抑制し得る。 【0045】 本発明の伸縮性多孔質フィルムがプロピレン系エラストマーとともに直鎖状低密度ポリエチレンを含むことによって、本発明の伸縮性多孔質フィルムの製造工程が簡素化でき、加工費を抑制し得る。これは、プロピレン系エラストマーとともに直鎖状低密度ポリエチレンを採用すると、本発明の伸縮性多孔質フィルムを製造する際に押出成形することが可能となり、マスターバッチを作製する必要がなくなり得るからである。 【0046】 ポリマー成分中の直鎖状低密度ポリエチレンの含有割合は、本発明の効果がより発現する点で、好ましくは0重量%〜70重量%であり、より好ましくは5重量%〜60重量%であり、さらに好ましくは10重量%〜50重量%であり、特に好ましくは15重量%〜45重量%であり、最も好ましくは20重量%〜40重量%である。ポリマー成分中の直鎖状低密度ポリエチレンの含有割合を上記範囲内とすれば、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた伸縮性を発現し得る。また、ポリマー成分中の直鎖状低密度ポリエチレンの含有割合を上記範囲内とすれば、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、充填剤と組み合わせることで、より優れた通気性を発現し得る。 【0047】 直鎖状低密度ポリエチレンとしては、その密度が、好ましくは0.910g/cm3〜0.940g/cm3である。直鎖状低密度ポリエチレンの密度を上記範囲内とすれば、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた伸縮性を発現し得る。また、直鎖状低密度ポリエチレンの密度を上記範囲内とすれば、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、充填剤と組み合わせることで、より優れた通気性を発現し得る。 【0048】 直鎖状低密度ポリエチレンとしては、その230℃で2.16kgfにおけるMFRが、好ましくは1g/10分〜50g/10分である。直鎖状低密度ポリエチレンの上記MFRを上記範囲内とすれば、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた伸縮性を発現し得る。また、直鎖状低密度ポリエチレンの上記MFRを上記範囲内とすれば、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、充填剤と組み合わせることで、より優れた通気性を発現し得る。 【0049】 直鎖状低密度ポリエチレンは、市販品として入手することも可能である。このような市販品としては、例えば、株式会社プライムポリマー製の「ウルトゼックス」(登録商標)シリーズの中のいくつかが挙げられる。」 ・「【0051】 本発明の伸縮性多孔質フィルムは、好ましくは、充填剤を含む。充填剤としては、好ましくは、無機粒子、有機粒子から選ばれる少なくとも1種である。充填剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。本発明の伸縮性多孔質フィルムが充填剤を含むことにより、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた通気性を発現し得る。 【0052】 無機粒子としては、例えば、タルク、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカ、クレー、マイカ、硫酸バリウム、ウィスカー、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。 【0053】 有機粒子としては、例えば、アクリルビーズ、スチレンビーズ、シリコーン樹脂粒子などが挙げられる。 【0054】 充填剤の平均粒径としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な平均粒径を採用し得る。このような充填剤の平均粒径としては、好ましくは0.5μm〜50μmである。充填剤の平均粒径を上記範囲内に調整することにより、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた通気性を発現し得る。 【0055】 充填剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な含有量を採用し得る。このような充填剤の含有量としては、伸縮性多孔質フィルム中のポリマー成分100重量部に対して、好ましくは50重量部〜400重量部である。充填剤の含有量を上記範囲内に調整することにより、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた通気性を発現し得る。」 ・「【0060】 ≪伸縮性多孔質フィルムの製造≫ 本発明の伸縮性多孔質フィルムを製造する方法としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な方法を採用し得る。 【0061】 本発明の伸縮性多孔質フィルムを製造する方法としては、代表的には、Tダイ成形機を用いて成型して製造する方法が挙げられる。例えば、Tダイ成形機を用いて、本発明の伸縮性多孔質フィルムの材料を、Tダイから押出し、その後、ロール状に巻き取ることによって、伸縮性多孔質フィルムのロール体を製造することができる。Tダイを用いるTダイ法以外に、インフレーション法なども採用し得る。 【0062】 本発明の伸縮性多孔質フィルムは、未延伸フィルムが延伸処理されたものであってもよい。このような、未延伸フィルムを延伸処理することを、事前伸長と称することがある。本発明の伸縮性多孔質フィルムは、未延伸フィルムが延伸処理されたものであることにより、より優れた伸縮性を発現し得る。また、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、未延伸フィルムが延伸処理されたものであることにより、充填剤と組み合わせることで、優れた通気性をより発現し得る。 【0063】 事前伸張は、本発明の伸縮性多孔質フィルムが最終利用において再度伸張されること(後伸長)に対して、予め伸張しておくという意味の事前伸張である。 【0064】 事前伸張は、好ましくは、本発明の伸縮性多孔質フィルムを製造して十分に固化した後に行う。 【0065】 事前伸張は、少なくとも1方向において、その元の長さまたは幅に対して全体に行っても良いし、部分的に行っても良い。また、事前伸張は、任意の方向に行うことができる。事前伸張は、好ましくは、少なくとも1方向において、その元の長さまたは幅に対して行う。 【0066】 事前伸張の伸長度合は、好ましくは1.5倍以上2.5倍未満(代表的には2.0倍)、より好ましくは2.5倍以上3.5倍未満(代表的には3.0倍)、さらに好ましくは3.5倍以上4.5倍未満(代表的には4.0倍)、特に好ましくは4.5倍以上5.5倍未満(代表的には5.0倍)である。なお、例えば、2.0倍の事前伸長とは、原長をLとしたときに2Lに伸長(延伸と称する場合もある)することを意味する。このような伸長度合で事前伸張することにより、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた伸縮性を発現し得る。また、このような伸長度合で事前伸張することにより、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、充填剤と組み合わせることで、より優れた通気性を発現し得る。 【0067】 事前伸張は、好ましくは、ポリマー成分の融点未満の温度で実施される。このような温度で事前伸張することにより、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、より優れた伸縮性を発現し得る。また、このような温度で事前伸張することにより、本発明の伸縮性多孔質フィルムは、充填剤と組み合わせることで、より優れた通気性を発現し得る。 【0068】 本発明の伸縮性多孔質フィルムは、好ましくは、このように事前伸張させることにより、ポリマー成分が塑性変形したりポリマーの脆性破壊点を超えて伸長されたりして、優れた伸縮性を発現し得る。」 ・「【実施例】 【0070】 以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。なお、実施例等における、試験および評価方法は以下のとおりである。また、特に断りがない限り、部は重量部を意味し、%は重量%を意味する。 ・・・ 【0075】 〔実施例1〕 メタロセンポリプロピレン系エラストマー(エクソンモービル社製、商品名:ビスタマックス7010、密度=0.861g/cm3、MFR=3g/10分):140重量部、炭酸カルシウム(平均粒子径=1.1μm):200重量部、ステアリン酸:1重量部、酸化防止剤:1重量部を、180℃で溶融混練し、混合材料を得た。 得られた混合材料を押出機に投入し、Tダイから溶融押出を行い、1軸ロール延伸方式により、延伸温度60℃、延伸倍率4倍で長手(MD)方向に延伸して、厚みが100μmの伸縮性多孔質フィルム(1)を得た。 結果を表1に示した。 【0076】 〔実施例2〕 メタロセンポリプロピレン系エラストマー(エクソンモービル社製、商品名:ビスタマックス7010、密度=0.861g/cm3、MFR=3g/10分):140重量部の代わりに、メタロセンポリプロピレン系エラストマー(エクソンモービル社製、商品名:ビスタマックス7010、密度=0.861g/cm3、MFR=3g/10分):98重量部、直鎖状低密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製、商品名:ウルトゼックス2022L、密度=0.919g/cm3、MFR=2g/10分):42重量部とした以外は、実施例1と同様に行い、厚みが100μmの伸縮性多孔質フィルム(2)を得た。 結果を表1に示した。 【0077】 〔実施例3〕 メタロセンポリプロピレン系エラストマー(エクソンモービル社製、商品名:ビスタマックス7010、密度=0.861g/cm3、MFR=3g/10分):140重量部の代わりに、メタロセンポリプロピレン系エラストマー(エクソンモービル社製、商品名:ビスタマックス7010、密度=0.861g/cm3、MFR=3g/10分):77重量部、直鎖状低密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製、商品名:ウルトゼックス2022L、密度=0.919g/cm3、MFR=2g/10分):63重量部とした以外は、実施例1と同様に行い、厚みが100μmの伸縮性多孔質フィルム(3)を得た。 結果を表1に示した。 ・・・ 【0081】 【表1】 【0082】 【表2】 」 (3)実施可能要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明の段落【0016】ないし【0020】、【0022】には、本件発明の伸縮性多孔性フィルムの物性が、段落【0030】〜【0039】には、プロピレン系エラストマーについて、段落【0041】〜【0049】には、直鎖状低密度ポリエチレンについて、段落【0051】〜【0056】には充填剤についてそれぞれ具体的に記載され、段落【0060】〜【0068】には、本件発明の伸縮性多孔質フィルムの製造方法が記載されている。 そして、段落【0070】〜【0081】に、本件発明の具体的な実施例として、実施例2及び3の伸縮性多孔性フィルムが記載されている。 そうすると、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明に係る伸縮性多孔性フィルムを生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。 よって、本件発明に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。 (4)異議申立人の主張について 異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 3に記載の主張をしている。しかしながら、上記(3)で示したように、本件発明に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足するものであって、前記主張は失当であり、採用できない。 (5)むすび したがって、申立理由3には理由がない。 4 申立理由4(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。 (3)発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記3(2)に記載のとおりである。 (4)サポート要件の判断 発明の詳細な説明の【0002】ないし【0005】によると、本件発明1ないし5に係る発明の解決しようとする課題は、「優れた伸縮性および優れた通気性を有する伸縮性多孔質フィルムを提供すること」及び「そのような伸縮性多孔質フィルムを含む物品を提供すること」である(以下、「発明の課題」という。)。 そして、発明の課題に関して、発明の詳細な説明には、発明の課題の解決するための手段として、本発明の伸縮性多孔質フィルムは「表面に空隙を有する伸縮性多孔質フィルムであって、王研式透気度計により測定される透気度が99999sec/100cc未満であり、100%伸長した状態での王研式透気度計により測定される透気度が60000sec/100cc未満となる伸長方向を有し、ヒステリシス試験において、幅20mm、チャック間距離30mmから、引張速度50mm/分にてチャック間距離60mmまで引張り、1分間保持した後、チャック間距離の引張りをなくしたときの残留歪みが10mm以下となる引張り方向を有する。」(段落【0006】とされ、本発明によれば、「優れた伸縮性および優れた通気性を有する伸縮性多孔質フィルムを提供できる。また、そのような伸縮性多孔質フィルムを含む物品を提供できる。」(段落【0014】)とされている。 また、「王研式透気度計により測定される透気度が99999sec/100cc未満であり、100%伸長した状態での王研式透気度計により測定される透気度が60000sec/100cc未満となる伸長方向を有」することの技術的意義が記載され(段落【0017】〜【0019】)、「ヒステリシス試験において、幅20mm、チャック間距離30mmから、引張速度50mm/分にてチャック間距離60mmまで引張り、1分間保持した後、チャック間距離の引張りをなくしたときの残留歪みが10mm以下となる引張り方向を有する」ことの技術的意義及び調整方法が記載されている(段落【0020】及び【0021】)。 そして、そのような伸縮性多孔質フィルムを製造するための樹脂組成物であるプロピレン系エラストマーについて(段落【0030】〜【0039】)、直鎖状低密度ポリエチレンについて(段落【0041】〜【0049】)充填材について(段落【0051】〜【0056】)も具体的に記載され、本件発明の伸縮性多孔質フィルムの製造方法(段落【0060】〜【0068】)についても記載されている。 加えて、本件発明の具体的に記載されている「表面に空隙を有する伸縮性多孔質フィルムであって、王研式透気度計により測定される透気度が99999sec/100cc未満であり、100%伸長した状態での王研式透気度計により測定される透気度が60000sec/100cc未満となる伸長方向を有し、ヒステリシス試験において、幅20mm、チャック間距離30mmから、引張速度50mm/分にてチャック間距離60mmまで引張り、1分間保持した後、チャック間距離の引張りをなくしたときの残留歪みが10mm以下となる引張り方向を有する」実施例2及び3の伸縮性多孔性フィルムは、浸軟現象がなく、関節への追従性試験結果がよいのに対し、これを満たさない比較例は、浸軟現象があり、関節への追従性試験結果が悪いことが確認されている。 そうすると、当業者は、「表面に空隙を有する伸縮性多孔質フィルムであって、王研式透気度計により測定される透気度が99999sec/100cc未満であり、100%伸長した状態での王研式透気度計により測定される透気度が60000sec/100cc未満となる伸長方向を有し、ヒステリシス試験において、幅20mm、チャック間距離30mmから、引張速度50mm/分にてチャック間距離60mmまで引張り、1分間保持した後、チャック間距離の引張りをなくしたときの残留歪みが10mm以下となる引張り方向を有する」伸縮性多孔質フィルムは、発明の課題を解決できると理解する。 そして、本件発明1は、これらの事項を満たす伸縮性多孔質フィルムであるから、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるし、請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2、4及び5についても、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 よって、本件発明1、2、4及び5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。 (4)異議申立人の主張について 異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 4に記載の主張をしている。しかしながら、上記(3)で示したように、本件発明に関して、発明の詳細な説明の記載はサポート要件を充足するものであって、前記主張は失当であり、採用できない。 第8 結語 上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、取消理由<決定の予告>及び特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許の請求項3に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項3に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリマー成分と充填剤を含み、表面に空隙を有し、厚みが60μm〜140μmである、伸縮性多孔質フィルムであって、 該ポリマー成分がプロピレン系エラストマーおよび直鎖状低密度ポリエチレンを含み、 該プロピレン系エラストマーのMFRが0.1g/10分〜18g/10分であり、 王研式透気度計により測定される透気度が99999sec/100cc未満であり、 100%伸長した状態での王研式透気度計により測定される透気度が60000sec/100cc未満となる伸長方向を有し、 ヒステリシス試験において、幅20mm、チャック間距離30mmから、引張速度50mm/分にてチャック間距離60mmまで引張り、1分間保持した後、チャック間距離の引張りをなくしたときの残留歪みが10mm以下となる引張り方向を有する、 伸縮性多孔質フィルム。 【請求項2】 前記プロピレン系エラストマーがメタロセン系エラストマーである、請求項1に記載の伸縮性多孔質フィルム。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 請求項1または2に記載の伸縮性多孔質フィルムを含む物品。 【請求項5】 粘着剤層を有する、請求項4に記載の物品。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-03-03 |
出願番号 | P2015-232629 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C08J)
P 1 651・ 537- YAA (C08J) P 1 651・ 536- YAA (C08J) P 1 651・ 121- YAA (C08J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
細井 龍史 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 相田 元 |
登録日 | 2020-07-02 |
登録番号 | 6726953 |
権利者 | 日東電工株式会社 株式会社ニトムズ |
発明の名称 | 伸縮性多孔質フィルムおよび物品 |
代理人 | 籾井 孝文 |
代理人 | 籾井 孝文 |
代理人 | 籾井 孝文 |