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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 一部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1385139
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-02 
確定日 2022-03-10 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6737329号発明「容器用金属板およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6737329号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5〕、6について訂正することを認める。 特許第6737329号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6737329号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜6に係る特許についての出願は、平成29年3月10日(優先権主張 平成28年3月10日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和2年7月20日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和2年8月5日発行)がされ、その後、請求項1〜5に係る特許について、令和3年2月2日に特許異議申立人豊田敦子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、令和3年5月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和3年7月29日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、この本件訂正請求について、令和3年9月9日に申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第6737329号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜6について訂正することを求める」ものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。
なお、下線は訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「双極子間力が40mN/m以下であるポリエステルフィルムと;
を備え、前記容器内面側の最上層となる層がポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの少なくとも一方を含有し、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの合計含有量がラミネート後に前記容器内面側の前記最上層となる層を構成するポリエステルの80mol%以上である
ことを特徴とする容器用金属板。」とあるのを、
「ヘキサデカン、ヨウ化メチレン及び水に対するそれぞれの接触角の値を下記(1)式に代入し、連立方程式を解くことにより算出される双極子間力が40mN/m以下であるポリエステルフィルムと;
を備え、前記容器内面側の最上層となる層がポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの少なくとも一方を含有し、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの合計含有量がラミネート後に前記容器内面側の前記最上層となる層を構成するポリエステルの80mol%以上である
ことを特徴とする容器用金属板。
【数1】

」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2〜5についても同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に、
「下記(1)式を充足する
ことを特徴とする、容器用金属板の製造方法。
0.9−{0.4/(Tm−Tg)}×(Tr−Tg)≦t≦2.6−{0.4/(Tm−Tg)}×(Tr−Tg)・・・(1)」とあるのを、
「下記(2)式を充足する
ことを特徴とする、容器用金属板の製造方法。
0.9−{0.4/(Tm−Tg)}×(Tr−Tg)≦t≦2.6−{0.4/(Tm−Tg)}×(Tr−Tg)・・・(2)」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1の「双極子間力」について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、その限定は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0027】に記載されており、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
さらに、訂正事項1は、上記のように、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1の訂正により、双極子間力を算出する「式(1)」が加入されたことに伴い、請求項6の式の番号を、それと区別するために訂正するものであるから、当該訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
さらに、訂正事項2は、上記のとおり明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項2〜5は、訂正前の請求項1を、直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1〜5〕、6について訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、特許異議の申立てがされた本件特許の請求項1〜5に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、それらを「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
金属板と;
前記金属板の容器内面側となる表面にラミネートされ、0.010〜2.000質量%のワックスを含有し、ヘキサデカン、ヨウ化メチレン及び水に対するそれぞれの接触角の値を下記(1)式に代入し、連立方程式を解くことにより算出される双極子間力が40mN/m以下であるポリエステルフィルムと;
を備え、前記容器内面側の最上層となる層がポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの少なくとも一方を含有し、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの合計含有量がラミネート後に前記容器内面側の前記最上層となる層を構成するポリエステルの80mol%以上である
ことを特徴とする容器用金属板。
【数1】

【請求項2】
前記ワックスが、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス及びステアリン酸ナトリウムのいずれか又は複数である
ことを特徴とする、請求項1に記載の容器用金属板。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムが2層以上の構成からなる積層フィルムであって、少なくともラミネート後に前記容器内面側の前記最上層となる層が質量比で0.010〜2.000%のワックスを含有する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の容器用金属板。
【請求項4】
前記積層フィルムの前記金属板側の層におけるポリブチレンテレフタレートの含有量が該層に含まれる前記ポリエステルの5〜80mol%である
ことを特徴とする、請求項3に記載の容器用金属板。
【請求項5】
前記金属板の容器外面側となる表面に、結晶化温度が120℃以下であるポリエステルフィルムがラミネートされている
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の容器用金属板。」

第4 当審の判断
1 取消理由の概要
当審が令和3年5月28日付け通知したで取消理由は次のとおりである。
本件特許の請求項1、3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

甲第1号証:特開2006−69212号公報
甲第4号証:「ぬれ技術ハンドブック〜基礎・測定評価・データ〜」、株式会社テクノシステム、2005年12月20日第2刷発行、25〜34頁(技術常識を示す文献)
甲第5号証:筏義人他1名、「高分子の表面エネルギー(その3)」、日本接着協会誌、Vol.15、No.3(1979)、9〜19頁(技術常識を示す文献)
以下、「甲第1号証」を「甲1」という。他も同様。

2 甲1の記載事項、甲1に記載された発明
(1)甲1の記載事項
ア 特許請求の範囲
「【請求項1】
両面にポリエステルを主成分とする樹脂フィルムラミネート層を有する容器用金属板であって、容器成形後に容器内面側になる樹脂フィルムの内容物と接する面の、表面自由エネルギーの極性力成分γshが、4.0×10-3N/m以下であることを特徴とする容器用フィルムラミネート金属板。」
「【請求項4】
請求項1において、容器成形後に容器内面側になる樹脂フィルムは、ポリエステルを主成分とする樹脂フィルムであって、更に、質量比で樹脂フィルムに対して、0.10〜2.0%のワックス成分を含有する樹脂フィルムであることを特徴とする容器用フィルムラミネート金属板。」
「【請求項9】
請求項1において、容器成形後に容器内面側になる樹脂フィルムは少なくとも2層以上から構成され且つ内容物と接する最上層にのみワックス成分を含有する樹脂フィルムであり、該ワックス成分は、該樹脂フィルムの最上層を構成するフィルムに対して、質量比で0.10〜2.0%含有されていることを特徴とする容器用フィルムラミネート金属板。」
イ 発明が解決しようとする課題
「【0005】
よって本発明は、上記事情を考慮し、内容物取り出し性を確保するとともに、容器加工に要求される成形性、密着性を兼ね備えた容器用フィルムラミネート金属板を提供することを目的とする。」
ウ 発明を実施するための最良の形態
「【0029】
本発明者らは、上記フィルムをラミネートした金属板を素材とする食品容器(缶詰)の内容物取り出し性について詳細に調査した。その結果、内容物取り出し易さはラミネート金属板の表面自由エネルギーと相関があり、その表面自由エネルギーを小さくすることで容物物を取り出しやすくできることを見出し、そして、ラミネート金属板の表面自由エネルギーを30×10-3N/m(30dyn/cm)以下に規定することで良好な内容物取り出し性が得られることを見出した。ここで、表面自由エネルギーとは、物体の表面張力とほぼ同値であり、この値が高いほど、ぬれ易く、密着力も高くなる。表面自由エネルギーを小さくすることで内容物とラミネート金属板との密着力が弱くなり、内容物が取り出しやすくなると考えられる。
【0030】
しかし、容器によっては、より良好な内容物取り出し性が要求される場合があり、前記ラミネート金属板では満足できる内容物取り出し性が奏されない場合のあることが明らかになった。そこで、本発明者らは、内容物の取り出し易さをさらに改善すべく種々の検討を行った。その結果、表面自由エネルギーの極性力成分γshが、内容物取り出し性の支配因子であることが明らかになった。
【0031】
表面自由エネルギーは、分散力成分γsdと極性力成分γshに分解される。表面自由エネルギーの分散力成分γsdは、ファンデルワールス力すなわち分子間に働く弱い引力の中核をなす力で、無極性分子を含むすべての分子間に働く。一方、表面自由エネルギーの極性力成分γshは、水素結合に代表される極性基間の強い相互作用力のことである。
【0032】
表面自由エネルギーの極性力成分γshが内容物取り出し性の支配因子であるということは、内容物の極性基とポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの極性基間の相互作用力によって内容物がポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムに密着し、内容物が取り出しにくくなっているためと考えられる。
【0033】
さらに検討した結果、容器成形後に容器内面側になる樹脂フィルムの内容物と接する面の表面自由エネルギーの極性力成分γshを規定することで、より良好な内容物取り出し性を奏するようにできることが明らかになった。この知見に基づき、本発明では表面自由エネルギーの極性力成分γshを規定する。
【0034】
すなわち、本発明では、容器成形後に容器内面側になる樹脂フィルムの内容物と接する側の面(図1R>1中、樹脂フィルムaの外面側(1))について、表面自由エネルギーの極性力成分γshを4.0×10-3N/m(4.0dyn/cm)以下に規定する。4.0×10-3N/m以下に限定した理由は、4.0×10-3N/m超となると、樹脂フィルムと内容物との密着力が過度となり、内容物の取り出し性が劣るためである。内容物取り出し性をより良好にするには、前記表面自由エネルギーの極性力成分γshは2.0×10-3N/m(2.0dyn/cm)以下であることが好ましい。
【0035】
一般的に、表面自由エネルギーを下げる処理をすると、その分散力成分γsd及び極性力成分γshの両方が減少するが、特別な処理を行うことにより、例外的に分散力成分γsd、極性力成分γshのいずれか一方のみを減少させることができる。」
「【0040】
本発明では、容器成形後に容器内面側になる樹脂フィルムが、ワックス成分を含有するポリエステルを主成分とする樹脂フィルムであることを規定する。添加物としてワックス成分を含有させる理由は、(1)表面自由エネルギーの極性力成分γshを低下させることと、(2)表面への潤滑性付与である。(1)の効果によってフィルムに内容物が密着し難くなり、(2)の効果によってフィルム表面の摩擦係数を低下させることでもって内容物の取り出し性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0041】
添加するワックス成分としては、有機・無機滑剤が使用可能であるが、脂肪酸エステル等の有機滑剤が望ましく、中でも植物ロウの一つであって天然ワックスであるカルナウバろう(主成分:CH3(CH2)24COO(CH
2)29CH3であり、この他種々の脂肪族とアルコールからなる成分も含有する)あるいはステアリン酸エステルは、上記の(1)、(2)効果が大きく、かつ分子構造上当該フィルムへの添加が容易であるため好適であり、カルナウバろうが特に好適である。
【0042】
本発明では、容器成形後に容器内面側になる樹脂フィルムが、質量比で、樹脂フィルムに対して、0.10〜2.0%のワックス成分を含有することを規定する。ワックス成分の含有量を、0.10%以上に限定した理由は、0.10%未満となると、上記(1)の表面自由エネルギーの極性力成分γshを4.0×10-3N/m以下に低下させることができなくなり、また(2)の効果が乏しくなり、内容物の取り出し性が劣るためである。表面自由エネルギーの極性力成分γshを2.0×10-3N/m以下に低下するには、ワックス成分の含有量を0.80%以上にすることが望ましい。また、2.0%以下に限定した理由は、2.0%を超えると内容物取り出し性がほぼ飽和してしまい特段の効果が得られないとともに、フィルム成膜技術的にも困難な領域であり生産性に乏しくコスト高をまねいてしまうからである。」
「【0056】
さらに前記ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルが好ましく、繰り返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレートであることが加工性、耐衝撃性の点から望ましい。また95モル%以上とすれば、より一層の特性向上が可能なため更に望ましい。」
「【0060】
複層フィルムの最上層のみに、ワックスが添加あるいはオレフィン樹脂がブレンドされている場合、ワックスの添加量は、複層構造のフィルムの最上層を構成する樹脂フィルムに対して、質量比で0.10〜2.0%、より好ましくは0.80〜2.0%とすることで、コスト低下を実現しながら、内容物取り出し性を良好にできる。また、オレフィン樹脂のブレンド量は、複層構造のフィルムの最上層を構成する樹脂フィルムに対して、質量比で5.0〜20.0%、より好ましくは10.0〜20.0%とすることで、コスト低下を実現しながら、内容物取り出し性を良好にできる。」
「【0064】
容器の内面側となるフィルムに添加可能な顔料としては、容器成形後に優れた意匠性を発揮できる観点から、ベンズイミダゾロン系有機顔料が望ましい。この顔料は着色力・展延性に富み、FDAに認可された安全衛生物質であるからである。例えば、ベンズイミダゾロンイエローを用いれば、容器の内面を金色にすることが可能である。」
「【0086】
(4)表面自由エネルギーの極性力成分γsh
ラミネート金属板の表面に液体を滴下したときの接触角をθ、ラミネート金属板の表面自由エネルギーの分散力成分をγsd、極性力成分をγsh、また液体の表面自由エネルギーをγ1、その分散力成分をγ1d、その極性力成分γ1hとすると、これらは次の関係を満足する。
【0087】
γ1(1+cosθ)/2*(γ1h)1/2=(γsd)1/2*(γ1d)1/2/(γ1h)1/2+(γsh)1/2
【0088】
そこで、表面自由エネルギーが既知(γ1、γ1h、γ1dが既知)の5つの液体(純水、グリセロール、ホルムアミド、エチエングリコール、ジメチルグリコロール)を測定物(ラミネート金属板)の表面に滴下し、各々の液体について接触角θを測定して求める(湿度:55〜65%、温度20℃)。
【0089】
上記式に前記5液の各々について測定した接触角θと各々の液体のγ1、γ1h、γ1dの値を代入して、最小二乗法フィッティングで、γshを求める。このようにして求めたγshが、ラミネート金属板の表面自由エネルギーの極性力成分γshである。」
「【0096】
【表1】


「【0098】
【表3】



(2)甲1に記載された発明
上記記載事項(特に発明例11)からみて、甲1には、次の引用発明が記載されている。
「クロムめっき鋼板に樹脂フィルムをラミネートした容器用フィルムラミネート金属板であって、樹脂フィルムが二層のPETであり、上層のPETが、カルナウバワックスを0.80mass%含有し、容器成形後に容器内面側になる樹脂フィルムの内容物と接する面の表面自由エネルギーの極性力成分γshについて、5つの液体(純水、グリセロール、ホルムアミド、エチレングリコール、ジメチルグリコロール)をラミネート金属板の表面に滴下し、各々の液体について接触角θを測定し、それぞれ、以下の式
γ1(1+cosθ)/2*(γ1h)1/2
=(γsd)1/2*(γ1d)1/2/(γ1h)1/2+(γsh)1/2
に代入して求めた値が、1.5×10-3N/mである、容器用フィルムラミネート金属板。」

3 本件発明1、3について
(1)本件発明1と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「クロムめっき鋼板」、「容器用フィルムラミネート金属板」は、それぞれ、本件発明1の「金属板」、「容器用金属板」に相当する。
イ 引用発明の「クロムめっき鋼板」に「ラミネート」した「樹脂フィルムが二層のPETであり、上層のPETが、カルナウバワックスを0.80mass%含有し、容器成形後に容器内面側になる樹脂フィルムの内容物と接する面の表面自由エネルギーの極性力成分γshについて、5つの液体(純水、グリセロール、ホルムアミド、エチレングリコール、ジメチルグリコロール)をラミネート金属板の表面に滴下し、各々の液体について接触角θを測定し、それぞれ、以下の式
γ1(1+cosθ)/2*(γ1h)1/2
=(γsd)1/2*(γ1d)1/2/(γ1h)1/2+(γsh)1/2
に代入して求めた値が、1.5×10-3N/mである」ことと、
本件発明1の「金属板の容器内面側となる表面にラミネートされ、0.010〜2.000質量%のワックスを含有し、ヘキサデカン、ヨウ化メチレン及び水に対するそれぞれの接触角の値を下記(1)式に代入し、連立方程式を解くことにより算出される双極子間力が40mN/m以下であるポリエステルフィルム」「を備え、前記容器内面側の最上層となる層がポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの少なくとも一方を含有し、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの合計含有量がラミネート後に前記容器内面側の前記最上層となる層を構成するポリエステルの80mol%以上である」「

」こととは、
「金属板の容器内面側となる表面にラミネートされたポリエステルのフィルムを備え、容器内面側の最上層となる層が、ワックスを含有するポリエチレンテレフタレートを含む」という限りで一致する。
ウ そうすると、本件発明1と引用発明は、
「金属板と、金属板の容器内面側となる表面にラミネートされたポリエステルのフィルムを備え、容器内面側の最上層となる層が、ワックスを含有するポリエチレンテレフタレートを含む、容器用金属板。」
で一致し、次の相違点1で相違する。
《相違点1》
「金属板の容器内面側となる表面にラミネートされたポリエステルのフィルムを備え、容器内面側の最上層となる層が、ワックスを含有するポリエチレンテレフタレートを含む」ことに関して、
本件発明1が、「金属板の容器内面側となる表面にラミネートされ、0.010〜2.000質量%のワックスを含有し、ヘキサデカン、ヨウ化メチレン及び水に対するそれぞれの接触角の値を下記(1)式に代入し、連立方程式を解くことにより算出される双極子間力が40mN/m以下であるポリエステルフィルム」「を備え、前記容器内面側の最上層となる層がポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの少なくとも一方を含有し、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの合計含有量がラミネート後に前記容器内面側の前記最上層となる層を構成するポリエステルの80mol%以上である」「

」のに対し、
引用発明は、「クロムめっき鋼板」に「ラミネート」した「樹脂フィルムが二層のPETであり、上層のPETが、カルナウバワックスを0.80mass%含有し、容器成形後に容器内面側になる樹脂フィルムの内容物と接する面の表面自由エネルギーの極性力成分γshについて、5つの液体(純水、グリセロール、ホルムアミド、エチレングリコール、ジメチルグリコロール)をラミネート金属板の表面に滴下し、各々の液体について接触角θを測定し、それぞれ、以下の式
γ1(1+cosθ)/2*(γ1h)1/2
=(γsd)1/2*(γ1d)1/2/(γ1h)1/2+(γsh)1/2
に代入して求めた値が、1.5×10-3N/mである」点。

(2)上記相違点1について検討する。
ア 本件発明1の「双極子間力」は、上記式(1)のヤング・デュプレ・拡張フォークスの固体表面張力3成分系式に基づく、分散力、双極子間力及び水素結合力に分けられた表面自由エネルギー(表面張力)のうちの双極子間力であり、表面張力、分散力成分、双極子成分及び水素結合成分が既知の液体試料3種(ヘキサデカン、ヨウ化メチレン、水)の容器用金属板の表面に対する接触角を測定し、それそれ、上記ヤング・デュプレ・拡張フォークスの固体表面張力3成分系式に代入して、連立方程式を解くことにより求められる(本件特許明細書の段落【0026】〜【0028】)。
一方、引用発明の「表面自由エネルギーの極性力成分γsh」は、甲1の段落【0086】〜【0089】の記載によれば、ラミネート金属板の表面自由エネルギーを分散力成分γsdと極性力成分γshに分けたうちの極性力成分であり、表面自由エネルギーが既知(γ1、γ1h、γ1dが既知)の「5つの液体(純水、グリセロール、ホルムアミド、エチレングリコール、ジメチルグリコロール)をラミネート金属板の表面に滴下し、各々の液体について接触角θを測定し、それぞれ、以下の式
γ1(1+cosθ)/2*(γ1h)1/2
=(γsd)1/2*(γ1d)1/2/(γ1h)1/2+(γsh)1/2
に代入して求めた値」である。
ここで、引用発明の上記式は、
γ1(1+cosθ)=2√(γ1d*γsd)+2√(γ1h*γsh)
に変形できる。
イ 上記のように、本件発明1の3つの変数から「双極子間力」を求める式(1)と、引用発明の2つの変数から極性力成分γshを求める式は異なる。さらに、本件発明1の「双極子間力」の算出に用いられる試料と、引用発明の極性力成分γshの算出に用いられる試料は、それぞれ、甲4(33頁)の表1.3.1に示されるように、分散力、双極子間力及び水素結合力の内訳が異なり、中には、双極子間力又は水素結合力が「0mN/m」の試料も存在し、ラミネート金属板表面のそれらの成分の項の値は、連立方程式の中で反映されないことになる。
そのため、引用発明の極性力成分γshは、引用発明の上記式において求められる分散力成分γsdを表面自由エネルギーから除いたものであるが、この極性力成分γshの値が、異なる試料で求められる本件発明1の式(1)の分散力成分と水素結合成分を表面自由エネルギー(表面張力)から除いた値である、「双極子間力」よりも、必ず大きい値になるとする根拠はない。
そうすると、引用発明の「表面自由エネルギーの極性力成分γshが、1.5×10−3N/mである」ことが、必ずしも、本件発明1の「ヘキサデカン、ヨウ化メチレン及び水に対するそれぞれの接触角の値を下記(1)式に代入し、連立方程式を解くことにより算出される双極子間力が40mN/m以下」であるとはいえない。また、申立人が提出した証拠には、このことを示唆するものはない。
ウ よって、上記相違点1は実質的なものであり、本件発明1は引用発明ではない。

(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、上記(2)で述べたように、本件発明1は引用発明ではないから、本件発明3も引用発明ではない。

4 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立人は、上記取消理由のほか、以下ア〜エの理由を申立てている。
ア 甲1に基づく、本件発明1〜3、5に対する進歩性に係る理由
イ 甲2(特開2002−302560号公報)に基づく、本件発明1、3に対する新規性、本件発明1〜3、5に対する進歩性の理由
ウ 甲3(特開2001−220453号公報)に基づく、本件発明1、3に対する新規性、本件発明1〜3、5に対する進歩性の理由
エ サポート要件に係る理由

(2)しかし、上記理由ア〜エは、以下に示すように理由がない。
ア 上記理由ア(甲1の進歩性)について
上記3(2)で述べたように、本件発明1と引用発明とは、上記相違点1で相違する。そして、甲1には、金属板にラミネートした上層の樹脂フィルムについて、極性力成分に換えて双極子間力に着目して、フィルムを構成しようとする動機付けがなく、本件発明1〜3、5に係る各発明が、甲1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
イ 上記理由イ(甲2の新規性進歩性)について
甲2(主に請求項1、2、4及び6の記載、段落【0041】の記載)には、次の甲2発明が記載されている。
「少なくとも片面の摩擦係数が0.3未満であるフィルム表面の表面自由エネルギーが40mN/m未満である容器用ポリエステルフィルムであって、フィルム中にカルナウバワックスを0.3〜2重量%含有し、表面自由エネルギーは、測定液として、水、エチレングリコール、ホルムアミドおよびジヨードメタンの4種類を使用し、接触角計(協和界面科学(株)製CA−D型)を用いて各液体のフィルム表面に対する静的接触角を求め、それぞれの液体について5回測定し、その平均接触角(θ)と測定液(j)の表面張力の各成分を下式にそれぞれ代入し、4つの式からなる連立方程式をγL、γ+、γ-について解いて求めたものであり、そのフィルムを容器の金属表面にラミネートしたもの。
(γLγjL)1/2+2(γ+γj-)1/2+2(γj+γ-)1/2=(1+cosθ)[γjL+2(γj+γj-)1/2]/2
ただし、γ=γL+2(γ+γ-)1/2γj=γjL+2(γj+γj-)1/2
ここで、γ、γL、γ+、γ-は、それぞれフィルム表面の表面自由エネルギー、長距離間力項、ルイス酸パラメーター、ルイス塩基パラメーターを、また、γj、γjL、γj+、γj-は、ぞれぞれ用いた測定液の表面自由エネルギー、長距離間力項、ルイス酸パラメーター、ルイス塩基パラメーターを示す。」
本件発明1と甲2発明を対比すると、
本件発明1が「金属板の容器内面側となる表面にラミネートされ、0.010〜2.000質量%のワックスを含有し、ヘキサデカン、ヨウ化メチレン及び水に対するそれぞれの接触角の値を下記(1)式に代入し、連立方程式を解くことにより算出される双極子間力が40mN/m以下であるポリエステルフィルム」「を備え、前記容器内面側の最上層となる層がポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの少なくとも一方を含有し、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの合計含有量がラミネート後に前記容器内面側の前記最上層となる層を構成するポリエステルの80mol%以上である」「

」のに対し、
甲2発明は「少なくとも片面の摩擦係数が0.3未満であるフィルム表面の表面自由エネルギーが40mN/m未満である容器用ポリエステルフィルムであって、フィルム中にカルナウバワックスを0.3〜2重量%含有し、表面自由エネルギーは、測定液として、水、エチレングリコール、ホルムアミドおよびジヨードメタンの4種類を使用し、接触角計(協和界面科学(株)製CA−D型)を用いて各液体のフィルム表面に対する静的接触角を求め、それぞれの液体について5回測定し、その平均接触角(θ)と測定液(j)の表面張力の各成分を下式にそれぞれ代入し、4つの式からなる連立方程式をγL、γ+、γ-について解いて求めたもの」
「(γLγjL)1/2+2(γ+γj-)1/2+2(γj+γ-)1/2=(1+cosθ)[γjL+2(γj+γj-)1/2]/2
ただし、γ=γL+2(γ+γ-)1/2γj=γjL+2(γj+γj-)1/2
ここで、γ、γL、γ+、γ-は、それぞれフィルム表面の表面自由エネルギー、長距離間力項、ルイス酸パラメーター、ルイス塩基パラメーターを、また、γj、γjL、γj+、γj-は、ぞれぞれ用いた測定液の表面自由エネルギー、長距離間力項、ルイス酸パラメーター、ルイス塩基パラメーターを示す。」である点(以下「相違点2」という。)で相違する。
この相違点2は、上記3(2)における検討を踏まえれば、実質的な相違点であり、上記(2)アにおける検討を踏まえれば、相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到できたとすることもできない。
よって、本件発明1、3は甲2発明ではなく、また、本件発明1〜3、5に係る各発明は、甲2発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
ウ 上記理由ウ(甲3の新規性進歩性)について
甲3(主に請求項1〜3、7〜9の記載、段落【0050】の記載)には、次の甲3発明が記載されている。
「フィルム表面の表面自由エネルギーが20〜40mN/mであるポリエステルフィルムであって、フィルム中にシリコーン化合物を0.001〜5重量%含有し、表面自由エネルギーは、測定液として、水、エチレングリコール、ホルムアミドの3種類を使用し、接触角計(協和界面科学(株)製CA−D型)を用いて各液体のフィルム表面に対する静的接触角を求め、それぞれの液体について10回測定し、その平均接触角(θ)と測定液(j)の表面張力の各成分を下式にそれぞれ代入し、3つの式からなる連立方程式をγL、γ+、γ−について解いたものであり、そのフィルムを容器の金属板にラミネートしたもの。
(γLγjL)1/2+2(γ+γj−)1/2+2(γj+γ−)1/2=(1+cosθ)[γjL+2(γj+γj−)1/2]/2
(ただし、γ=γL+2(γ+γ−)1/2γj=γjL+2(γj+γj−)1/2)
ここで、γ、γL、γ+、γ−は、それぞれフィルム表面の表面自由エネルギー、長距離間力項、ルイス酸パラメーター、ルイス塩基パラメーターを示し、また、γj、γjL、γj+、γj−は、ぞれぞれ用いた測定液の表面自由エネルギー、長距離間力項、ルイス酸パラメーター、ルイス塩基パラメーターを示す。」
本件発明1と甲3発明を対比すると、
本件発明1が「金属板の容器内面側となる表面にラミネートされ、0.010〜2.000質量%のワックスを含有し、ヘキサデカン、ヨウ化メチレン及び水に対するそれぞれの接触角の値を下記(1)式に代入し、連立方程式を解くことにより算出される双極子間力が40mN/m以下であるポリエステルフィルム」「を備え、前記容器内面側の最上層となる層がポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの少なくとも一方を含有し、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの合計含有量がラミネート後に前記容器内面側の前記最上層となる層を構成するポリエステルの80mol%以上である」「

」のに対し、
甲3発明は
「フィルム表面の表面自由エネルギーが20〜40mN/mであるポリエステルフィルムであって、フィルム中にシリコーン化合物を0.001〜5重量%含有し、表面自由エネルギーは、測定液として、水、エチレングリコール、ホルムアミドの3種類を使用し、接触角計(協和界面科学(株)製CA−D型)を用いて各液体のフィルム表面に対する静的接触角を求め、それぞれの液体について10回測定し、その平均接触角(θ)と測定液(j)の表面張力の各成分を下式にそれぞれ代入し、3つの式からなる連立方程式をγL、γ+、γ−について解いたもの」
「(γLγjL)1/2+2(γ+γj−)1/2+2(γj+γ−)1/2=(1+cosθ)[γjL+2(γj+γj−)1/2]/2
(ただし、γ=γL+2(γ+γ−)1/2γj=γjL+2(γj+γj−)1/2)
ここで、γ、γL、γ+、γ−は、それぞれフィルム表面の表面自由エネルギー、長距離間力項、ルイス酸パラメーター、ルイス塩基パラメーターを示し、また、γj、γjL、γj+、γj−は、ぞれぞれ用いた測定液の表面自由エネルギー、長距離間力項、ルイス酸パラメーター、ルイス塩基パラメーターを示す。」である点(以下「相違点3」という。)で相違する。
この相違点3は、上記3(2)における検討を踏まえれば、実質的な相違点であり、上記(2)アにおける検討を踏まえれば、相違点3に係る本件発明1の構成を容易に想到できたとすることもできない。
よって、本件発明1、3は甲3発明ではなく、また、本件発明1〜3、5に係る各発明は、甲3発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
エ 上記理由エ(サポート要件)について
申立人は、本件特許の発明の詳細な説明の実施例の記載からは、双極子間力が20mN/m未満のポリエステルフィルムをラミネートした金属板を用いた容器が、内容物の取り出しやすさに優れるかどうか明らかでなく、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、サポート要件を満たしていない旨主張する。
しかし、本件発明の解決しようとする課題は、「内容物の取り出し易さに優れた容器用金属板およびその製造方法を提供すること」(本件特許明細書の段落【0006】)であるところ、その課題は、発明の詳細な説明の記載によれば、
「【0025】
容器中の食品の表面と熱可塑性樹脂フィルムの表面との界面に働く力が小さいほど取り出し易いというのは感覚的にも理解し易い。
一般的に、分子間に働く力としては、双極子間力よりも水素結合力の方が強い。しかしながら、ラミネート金属板の表面では、電気的に陰性の原子に共有結合した水素原子が少ないため、水素結合力はごく微弱である。そのため、本発明者らは、ラミネート金属板の内容物の取り出しやすさの評価指標としては、水素結合力が不適当であることを知見した。また、本発明者らは、ラミネート金属板の内容物の取り出しやすさの評価指標として、熱可塑性樹脂フィルムの双極子間力に着目した。」
「【0029】
次に、本発明者らは、双極子間力の大きさと食品用容器からの内容物の取り出しやすさとの関係を調べた。結果を図1に示す。
なお、内容物の取り出しやすさ(ミートリリース性)の評価は、次のように行った。まず、双極子間力の異なる容器用金属板から缶体を作成した。その缶体に、鮭の切り身を鮭の皮が缶壁と密着するように充填し、蓋を巻き締めた。缶の蓋が下側となる状態でレトルト処理を行った後、缶の蓋を上側にし、蓋を取り外した。内容物を取り出した際に、缶壁への鮭の皮の付着状況を評価し、鮭の皮が全く付着していない又はほとんど付着していないものを「Good」、鮭の皮がやや付着している又は鮭の皮の大部分が付着しているものを「No Good」と評価した。
【0030】
図1に示すように、本発明者らは、双極子間力が40mN/m以下であれば、内容物の取り出しやすさに優れることを見出した。」
と記載され、この記載から、熱可塑性樹脂フィルムの双極子間力が40mN/m以下であれば、容器中の食品の表面と熱可塑性樹脂フィルムの表面との界面に働く力が小さくなり、食品を取り出し易くなることが理解できる。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の実施例には、双極子間力が20mN/m未満のポリエステルフィルムをラミネートした金属板について記載されていないとしても、発明の詳細な説明からの上記理解からすれば、双極子間力が20mN/m未満のポリエステルフィルムであっても、上記課題を解決し得ると認識できるものであり、解決できないことを示す証拠も提出されていない。
したがって、本件発明1〜5は発明の詳細な説明に記載したものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と;
前記金属板の容器内面側となる表面にラミネートされ、0.010〜2.000質量%のワックスを含有し、ヘキサデカン、ヨウ化メチレン及び水に対するそれぞれの接触角の値を下記(1)式に代入し、連立方程式を解くことにより算出される双極子間力が40mN/m以下であるポリエステルフィルムと;
を備え、前記容器内面側の最上層となる層がポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの少なくとも一方を含有し、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの合計含有量がラミネート後に前記容器内面側の前記最上層となる層を構成するポリエステルの80mol%以上である
ことを特徴とする容器用金属板。
【数1】

ここで、各記号は以下を表す。
γd:分散力
γP:双極子間力 ・・・(1)
γh:水素結合力
γs:フィルムの表面張力
γL:液体の表面張力
【請求項2】
前記ワックスが、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス及びステアリン酸ナトリウムのいずれか又は複数である
ことを特徴とする、請求項1に記載の容器用金属板。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムが2層以上の構成からなる積層フィルムであって、少なくともラミネート後に前記容器内面側の前記最上層となる層が質量比で0.010〜2.000%のワックスを含有する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の容器用金属板。
【請求項4】
前記積層フィルムの前記金属板側の層におけるポリブチレンテレフタレートの含有量が、該層に含まれる前記ポリエステルの5〜80mol%である
ことを特徴とする、請求項3に記載の容器用金属板。
【請求項5】
前記金属板の容器外面側となる表面に、結晶化温度が120℃以下であるポリエステルフィルムがラミネートされている
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の容器用金属板。
【請求項6】
金属板と、ポリエステル及び0.010〜2.000質量%のワックスを含有するポリエステルフィルムと、を一対のラミネートロール間に挟んだ状態で通過させ、前記金属板の容器内面側となる表面に前記ポリエステルフィルムをラミネートするラミネート工程と;
前記ラミネート工程後に、前記表面に前記ポリエステルフィルムがラミネートされた前記金属板を冷却する冷却工程と;
を有し、
前記一対のラミネートロールの温度であるTr(単位:℃)が、前記ポリエステルフィルムのガラス転移温度であるTg(単位:℃)以上、かつ、前記ワックスの融点であるTm(単位:℃)以下であり、
前記ラミネート工程終了から前記冷却工程開始までの時間であるt(単位:秒)tが、下記(2)式を充足する
ことを特徴とする、容器用金属板の製造方法。
0.9−{0.4/(Tm−Tg)}×(Tr−Tg)≦t≦2.6−{0.4/(Tm−Tg)}×(Tr−Tg)・・・(2)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-03-01 
出願番号 P2018-504610
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (B32B)
P 1 652・ 537- YAA (B32B)
P 1 652・ 113- YAA (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 石井 孝明
特許庁審判官 藤井 眞吾
井上 茂夫
登録日 2020-07-20 
登録番号 6737329
権利者 日本製鉄株式会社
発明の名称 容器用金属板およびその製造方法  
代理人 勝俣 智夫  
代理人 勝俣 智夫  
代理人 山口 洋  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 寺本 光生  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 寺本 光生  
代理人 山口 洋  

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