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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A44B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A44B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A44B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A44B
管理番号 1385142
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-05 
確定日 2022-03-10 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6735156号発明「面ファスナー雌部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6735156号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1−22〕について訂正することを認める。 特許第6735156号の請求項1−13、15−22に係る特許を維持する。 特許第6735156号の請求項14に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6735156号(以下「本件特許」という)の請求項1〜22に係る特許についての出願は、平成28年6月9日(優先権主張平成27年6月19日)の特許出願(以下「本件特許出願」という)であり、令和2年7月15日にその特許権の設定登録がされ、同年8月5日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、概略次のとおりである。
令和3年 2月 5日 : 特許異議申立人大澤豊(以下「申立人」という)による請求項1〜22に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年 6月29日付け: 取消理由の通知
令和3年 8月31日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年10月28日 : 申立人による意見書の提出

第2 本件訂正
1 訂正の内容
令和3年8月31日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正」という)は、特許第6735156号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜22について訂正することを求める、というものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1の「面ファスナー雄部材に係合可能な係合層と該係合層を保持する物性層とを有する面ファスナー雌部材であって、」との記載を、「面ファスナー雄部材に係合可能な係合層と該係合層を保持する物性層とを有する面ファスナー雌部材であって、該物性層が繊維の不織布又はフィルムであり、」と訂正する。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項1の「式(1)で表される柔軟性指数Aが0.004g−2以上である、」との記載を、「式(1)で表される柔軟性指数Aが0.004g−2以上0.08g−2以下である、」と訂正する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項13の「前記面ファスナー雌部材がエンボスパターンを有する、」との記載を、「前記面ファスナー雌部材がエンボスパターンを有し、前記面ファスナー雌部材の表面全体の面積に対する前記エンボスパターンによる溶着部の面積の割合が35%以下である、」と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項14を削除する。
(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項15の「請求項14に記載の」との記載を、「請求項13に」と訂正する。
(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項16の「請求項13から15までのいずれか」との記載を、「請求項13または15」と訂正する。
(7)訂正事項7
本件訂正前の請求項18の「請求項13から17までのいずれか」との記載を、「請求項13、および、15から17までのいずれか」と訂正する。
(8)訂正事項8
本件訂正前の請求項19の「請求項1から18までのいずれか」との記載を、「請求項1から13、および、15から18までのいずれか」と訂正する。
(9)訂正事項9
本件訂正前の請求項21の「請求項1から20までのいずれか」との記載を、「請求項1から13、および、15から20までのいずれか」と訂正する。
(10)訂正事項10
本件訂正前の請求項22の「請求項1から20までのいずれか」との記載を、「請求項1から13、および、15から20までのいずれか」と訂正する。
(11)一群の請求項
本件訂正前の請求項1〜22は、請求項2〜22が、本件訂正の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであり、請求項1の記載の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1〜22〕に対して請求するものである。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に記載された「物性層」が「繊維の不織布又はフィルム」であることを規定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
願書に添付した明細書(以下、明細書、特許請求の範囲、及び図面を総称して、「本件明細書等」という)の段落【0050】には、「物性層」が「繊維の不織布又はフィルム」であることが記載されているから、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の事項といえる。
また、訂正事項1は、既に述べたように特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1に記載された「柔軟指数A」につき、「上限値」が「0.08g−2以下」であることを規定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
本件明細書等の段落【0074】には、「本発明の面ファスナー雌部材は、式(1)で表される柔軟性指数Aが0.004g−2以上であり、・・・さらに好ましくは0.01g−2〜0.08g−2であり、」と記載されており、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内でしたものといえる。
また、訂正事項2は、既に述べたように特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項13に記載された「エンボスパターン」につき面ファスナー雌部材の表面全体の面積に対するエンボスパターンによる溶着部の面積の割合を規定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
本件明細書等の段落【0084】には「本発明の面ファスナー雌部材は、該面ファスナー雌部材の表面全体の面積に対する、エンボスパターンによる溶着部の面積の割合(以下、「エンボス溶着面積割合」と称することがある)が、好ましくは35%以下であり、」と記載され、また、請求項14(本件訂正前)には、「前記面ファスナー雌部材の表面全体の面積に対する前記エンボスパターンによる溶着部の面積の割合が35%以下である」と記載されており、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内でしたものといえる。
また、訂正事項3は、既に述べたように特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項14を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
訂正事項4は、本件明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5〜10について
訂正事項5〜10は、訂正事項4による請求項14を削除することにともない、引用する請求項から請求項14を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、引用する請求項から一部の請求項を削除することは、新規事項を追加するものでもなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)小括
以上のとおりであるから、訂正事項1〜10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、本件訂正の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正が認められることから、本件特許の請求項1〜13、15〜22に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、まとめて「本件発明」ともいう。)は、令和3年8月31日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜13、15〜22に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
面ファスナー雄部材に係合可能な係合層と該係合層を保持する物性層とを有する面ファスナー雌部材であって、
該物性層が繊維の不織布又はフィルムであり、
該係合層が繊維の不織布を含み、
式(1)で表される柔軟性指数Aが0.004g−2以上0.08g−2以下である、
面ファスナー雌部材。
A=1/(P1×P2) (1)
P1:面ファスナー雌部材をMD方向に25mm×CD方向に50mmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を巻き内側として、CDが円周となるようにリング状とし、端部が互いに重なることのないようにステープラーで2箇所固定して得られたリング体に、50mm/分の速度で14mmまで軸方向から圧縮荷重を加え、該リング体が変形する際の最大圧縮荷重。
P2:面ファスナー雌部材をMD方向に25mm×CD方向に50mmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を巻き内側として、CDが円周となるようにリング状とし、端部が互いに重なることのないようにステープラーで2箇所固定して得られたリング体に、高さ35mmから高さ5mmまでプラスティック板を自由落下させて幅方向から圧縮荷重を加え、該リング体が変形する際の最大圧縮荷重。
【請求項2】
前記柔軟性指数Aが0.01g−2〜0.08g−2である、請求項1に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項3】
前記柔軟性指数Aが0.02g−2〜0.05g−2である、請求項2に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項4】
前記P1が70g以下である、請求項1から3までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項5】
前記P1が15g〜40gである、請求項4に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項6】
前記P2が4.05g以下である、請求項1から5までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項7】
前記P2が1g〜2.5gである、請求項6に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項8】
前記係合層中の不織布の坪量と前記物性層中の不織布の坪量との合計が60g/m2以下である、請求項1から7までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項9】
前記係合層中の不織布の坪量と前記物性層中の不織布の坪量との合計が30g/m2〜47g/m2である、請求項8に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項10】
前記面ファスナー雌部材の密度が110kg/m3以下である、請求項1から9までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項11】
前記面ファスナー雌部材の密度が50kg/m3以下である、請求項10に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項12】
前記面ファスナー雌部材が不織布のみからなる、請求項1から11までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項13】
前記面ファスナー雌部材がエンボスパターンを有し、前記面ファスナー雌部材の表面全体の面積に対する前記エンボスパターンによる溶着部の面積の割合が35%以下である、請求項1から12までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。」
「【請求項15】
前記面ファスナー雌部材の表面全体の面積に対する前記エンボスパターンによる溶着部の面積の割合が12%〜28%である、請求項13に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項16】
前記エンボスパターンによる溶着部の厚みが100μm以下である、請求項13または15に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項17】
前記エンボスパターンによる溶着部の厚みが25μm〜55μmである、請求項16に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項18】
前記エンボスパターンが不連続のエンボスパターンである、請求項13、および、15から17までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項19】
前記繊維の表面と前記物性層の前記係合層側の表面が、同種のポリマーを含む、請求項1から13、および、15から18までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項20】
前記ポリマーがポリオレフィンである、請求項19に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項21】
請求項1から13、および、15から20までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材と、該面ファスナー雌部材と係合する面ファスナー雄部材とを有する、面ファスナー。
【請求項22】
請求項1から13、および、15から20までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材を有する衛生用品。」

第4 特許権者に通知された取消理由
本件訂正前の請求項1〜22に係る特許に対して、当審が特許権者に対して令和3年6月29日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
・ 本件発明10〜22は、明確でないため、本件請求項10〜22に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・ 本件発明1、2、4〜22は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載したものでないため、本件請求項1、2、4〜22に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・ 本件明細書等の発明の詳細な説明は、本件発明13〜22を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、本件発明1〜22の技術的意義が明確でないため、本件請求項1〜22に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第5 当審の判断
1 令和3年6月29日に通知した取消理由についての判断
(1) 特許法第36条第6項第2号について(明確性要件)
a この条文を根拠として特許権者に通知された理由の概要は、次のとおりである。
・ 請求項10、11には「密度」についての発明特定事項が含まれていて、この「密度」の算出のために厚さが計測されるところ、その厚さの計測方法について、層間の界面をどのように特定するのか、エンボス処理が施された場合どのように計測するのか、係合層と物質層が同一繊維の不織布からなる場合に両者の界面をどのように特定するのかが明確でなく、また、不織布表面に毛羽立ちが存在する場合に技術的な欠陥がある計測方法であって、そのようにして密度を規定することの技術的な意味が明らかでない、
b そこで検討する。本件明細書等には、「密度」について次の記載がある。
「【0069】
本発明の面ファスナー雌部材の密度は、好ましくは110kg/m3以下であり、より好ましくは5kg/m3〜110kg/m3であり、さらに好ましくは10kg/m3〜110kg/m3であり、さらに好ましくは10kg/m3〜80kg/m3であり、さらに好ましくは10kg/m3〜70kg/m3であり、特に好ましくは10kg/m3〜60kg/m3であり、最も好ましくは20kg/m3〜50kg/m3である。本発明の面ファスナー雌部材の密度が上記範囲内に収まることにより、面ファスナー雄部材との係合力により優れ、使い捨ておむつなどでは装着時や排泄後等においてズレ落ちの問題を効果的に解消し得る。本発明の面ファスナー雌部材の密度が100kg/m3より大きいと、面ファスナー雌部材の不織布の繊維が密に詰まった状態になるため、面ファスナー雄部材の係合部分が面ファスナー雌部材中に装入され難くなり、優れた係合力が発現できないおそれがある。なお、本発明の面ファスナー雌部材の密度(kg/m3)は、本発明の面ファスナー雌部材中の不織布の坪量(Xg/m2)と、後述する方法に基づき測定される本発明の面ファスナー雌部材中の不織布の厚み(Ymm)から計算される値である。より具体的には、本発明の面ファスナー雌部材の密度(kg/m3)は、X/Y(kg/m3)として計算される。」
また、この記載で言及された厚みの計測について次の記載がある。
「【0093】
<不織布厚さ>
キーエンス社製のデジタルマイクロスコープ「VHX−1000」を用いて、倍率100倍で不織布断面を撮影し、同機の画像解析ソフト不織布厚さを計測した。なお、厚さ測定においては、不織布断面の上部と下部のそれぞれにおいて、繊維との交点が10点となるような平行な線を、それぞれ上辺および下辺とし、上辺および下辺の間の長さを不織布厚さとした。」
c 上記bに摘記した記載により、各層の厚さ、ひいては、密度は、一般的に求まり得るものと理解でき、このことは、表1、表2にまとめられた実施例で各層の厚さ、密度が示されていることからしても否定されるべきものではない。
係合層と物質層の材料の異同や表面に毛羽立ちが存在することによって界面の認識に難しさを伴うことがあったとしても、層の厚さは、bに摘記した方法によって計測し得るものである。また、物質層がフィルムの形態である場合には、なおさら厚さの計測に問題が生じるものとは考えられない。
エンボス処理が施された場合について、特許権者は、「エンボスパターンのない領域の厚み」を用いる旨説明するが、これは、本件明細書等の表1,表2にまとめられた実施例、比較例で各層の“エンボスパターンのない領域の厚さ”が示されていることと符合する。
よって、請求項10、11に係る発明、及び、請求項10、11を引用する請求項12、13、15〜22に係る発明は、明確である。
(2) 特許法第36条第6項第1号について(サポート要件)
a この条文を根拠として特許権者に通知された理由の概要は、次のとおりである。
・ 本件訂正前の請求項1、2、4〜22は、「係合力に優れたもの」以外のものも包含されており、物性層が特定されず、係合層の繊維径等が特定されず、柔軟性指数Aの上限値が特定されていないため、所与の課題を解決するための手段を反映したものではない。
b そこで検討する。
(a) 本件発明の解決しようとする課題は、「本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的とするところは、不織布が採用された係合層を有する面ファスナー雌部材であって、面ファスナー雄部材との係合力に優れた、面ファスナー雌部材を提供することにある。また、本発明の目的とするところは、本発明の面ファスナー雌部材を有する面ファスナーを提供することにある。また、本発明の目的とするところは、本発明の面ファスナー雌部材を有する衛生用品を提供することにある」(段落【0006】)である。
(b) 面ファスナーの係合力について、本件明細書等の段落【0074】には、「0.004g−2」を下限、「0.08g−2」を上限とすることが記載され、さらに本件明細書等には、係合力に優れたものとして実施例1〜13が坪量等のデータと共に開示されており、実施例における「柔軟性指数A」について、「0.007g−2」(実施例7)から、「0.051g−2」(実施例12)の範囲で係合性が良好であることが確認されている。
(c) そうしてみると、本件訂正後の発明である本件発明1、2、4〜13、15〜22は、所与の課題を解決するための手段を反映したものといえる。
(3)特許法第36条第4項第1号について(実施可能要件
a この条文を根拠として特許権者に通知された理由の概要は、次のとおりである。
(a) 本件訂正前の請求項13は、「エンボスパターン」についての発明特定事項が含まれているところ、本件明細書等に開示された以外のエンボス処理で係合力に優れた面ファスナー雌部材を得る方法が明らかでない。
(b) 実施例からすると、「柔軟性指数A」は、係合性に寄与しておらず、この柔軟性指数Aを特定することの技術的な意義が明らかでない。
(c) 請求項16、17は、「溶着部の厚み」についての発明特定事項が含まれているところ、実施例からすると、溶着部の厚みは、係合性に寄与しておらず、この溶着部の厚みを特定することの技術的な意義が明らかでない。
b そこで検討する。
(a) 上記a(a)について。本件訂正により、請求項13の記載においてエンボスパターンによる溶着部の面積の割合が明確にされ、エンボス処理が施されている実施形態において面ファスナー雄部材との係合力に優れる面ファスナー雌部材が明確になったため、本件発明13、15〜22は、発明の詳細な説明に基づいて当業者が実施できるものである。
(b) 上記a(b)について。本件訂正により、「柔軟性指数A」が明確に特定されるに至ったため、本件訂正後の本件発明1〜13、15〜22は、「柔軟性指数A」をその特定の範囲内のものとしたことにより、係合力に優れたものを対象としたものと理解できる。
(c) 上記a(c)について。「溶着部の厚み」は、請求項16および17に特定されるように、柔軟性指数Aが0.004g−2以上0.08g−2以下に調整する際に寄与する構成要素の1つであり、技術的意義を有する。
(4)小括
以上を踏まえると、本件訂正後の本件請求項1〜13、15〜22に係る特許は、特許法第36条第4項第1号並びに同第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当しない。

2 取消理由の通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、新規性進歩性に係る理由を申し立てているので、以下、検討する。
(1) 各甲第号証に記載された事項及びそれに記載された発明(以下、「甲第1号証」等を「甲1」等のようにいう。)
ア 甲1(特開平9−3755号公報)
(ア) 本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲1には、以下の記載がある。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱収縮した繊維を含む第一繊維層の片面もしくは両面に、非収縮性繊維を含む第二繊維層が積層されてなる不織布であって、両繊維層は部分的に熱融着部により厚さ方向に一体化され、かつ各熱融着部の間では前記第二繊維層が表層部分に突出して凸部を形成していることを特徴とする表面に凹凸を有する不織布。
・・・
【請求項3】 第一繊維層の収縮した繊維層を構成する繊維が、融解ピーク温度(Tm℃)が130<Tm<145のエチレン−プロピレンランダムコポリマーを70重量%以上含むポリマーからなる繊維である請求項1に記載の表面に凹凸を有する不織布。
【請求項4】 第二繊維層の非収縮性繊維が、エチレン−プロピレンランダムコポリマーを鞘成分に配置し、芯成分にポリオレフィン成分を配置した芯鞘型複合繊維である請求項1に記載の表面に凹凸を有する不織布。
・・・
【請求項6】 請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面に凹凸を有する不織布であって、非収縮性繊維が表層部分に突出して形成された凸部が、面ファスナー雄材のフック部との係合部であることを特徴とする面ファスナー雌材。
【請求項7】 第一繊維層として最大熱収縮率が少なくとも50%である熱収縮性繊維を50重量%以上含んでおり、第二繊維層として前記熱収縮性繊維が収縮する温度では実質的に熱収縮しない非収縮性繊維からなり、かつ第一繊維層または第二繊維層の少なくとも一方の繊維層に熱融着性繊維を不織布中30重量%以上含む繊維層を用意し、第一繊維層の片面または両面に第二繊維層を積層し、加熱エンボスロールを用いて上記熱収縮性繊維の融点近傍の温度で加熱加圧処理を施すことにより、両繊維層を部分的に熱融着させると同時に、前記熱収縮性繊維を熱収縮させて第二繊維層の各熱融着部の間に凸部を形成させることを特徴とする表面に凹凸を有する不織布の製造方法。
【請求項8】 第二繊維層が、繊度1.5〜10デニール、繊維長38〜76mmのステープルファイバーで構成された目付10〜40g/m2の短繊維ウエブである請求項7に記載の不織布の製造方法。
【請求項9】 第一繊維層が、繊維長38〜76mm、かつ目付10〜40g/m2の範囲のパラレルウエブである請求項7に記載の不織布の製造方法。
【請求項10】 エンボスロールとして、頂面の面積が0.35〜1mm2の小突起が1cm2あたり10〜100個配設されたものを用い、熱融着部の不織布表面に占める面積割合が10〜50%である不織布を形成する請求項7に記載の不織布の製造方法。」
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、面ファスナー雌材、特に使い捨ておむつのようなディスポーザブル商品に好適な、表面に凹凸を有する不織布と面ファスナー雌材及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】通常、面ファスナーは、ループ型の雌材と、雌材と係合する鈎型、またはきのこ型などのフック部を有する雌材からなる。面ファスナーは簡便に使用することができるため、衣料、靴、鞄、日用品などの開閉部、あるいは車両の座席カバーの取り付け部等に設けられ、多くの分野で広く使用されている。また、最近では使い捨ておむつを固着または固定させるべく、面ファスナー雌材をおむつのウエスト部に貼付したものも提案され、実用に供されている。
・・・
【0007】本発明は、前記従来の問題を解決するため、柔軟で係合力が高くかつコストの安い面ファスナー雌材に適した表面に凹凸を有する不織布、及び面ファスナー雌材並びにその製造方法を提供することを目的とする。」
・「【0018】熱収縮性繊維が50重量%以上含まれていれば、第一繊維層にその他の繊維を混合することができる。混合する繊維は特に限定されず、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等から任意に一あるいは二以上選択して使用することができる。勿論、第一繊維層は熱収縮性繊維のみから構成されてもよい。
・・・
【0020】第一繊維層の態様は、ステープルファイバーからなるパラレルウエブ、クロスウエブ、セミランダムウエブ、ランダムウエブなど何れであっても良いが、繊維ウエブの熱収縮の方向を一方向に集中させるほうが、第二繊維層に凸部が均一に形成される。従って第一繊維層はパラレルウエブであることが好ましい。この場合、カード通過性やウエブの地合い等を考慮すると、ステープルファイバーの繊維長は38〜76mmであることが望ましい。また、本発明では第一繊維層の目付を10〜40g/m2とすることが特に好ましく、10g/m2未満ではウエブにむらができ、均一に熱収縮しないため凸部が不均一となる。逆に、目付が40g/m2よりも大きいと、熱収縮後の繊維ウエブの厚みが大きくなってファスナー全体が嵩高くなり、柔軟性や通気性に劣るものとなる。
【0021】第二繊維層は、第一繊維層の熱収縮により、その表面に多数の凸部が形成されるものである。従って、第二繊維層を構成する繊維は、繊維集合物を形成することができ、熱収縮性繊維が収縮する温度において実質的に収縮しないものであれば素材等は特に限定されない。例えば、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、綿、ウール等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテンなどのポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維の中から任意に一あるいは二以上選択して使用することができる。繊維形状等も限定されず、分割性複合繊維や異形断面を有する繊維等を任意に用いることができる。
【0022】特に、本発明では、第一繊維層と第二繊維層を部分的に熱融着させるので、非収縮性繊維は第一繊維層との接合性が良好な繊維であることが望ましい。例えば、熱収縮性繊維として前述したエチレン−プロピレンランダムコポリマーからなる繊維を使用する場合、エチレン−プロピレンランダムコポリマーが繊維表面を占めるような芯鞘型複合繊維は分割型複合繊維を使用するとよい。
・・・
【0026】本発明の不織布を面ファスナー雌材として使用する場合、熱融着部が不織布表面に占める割合は10〜50%であることが好ましく、より好ましくは15〜30%である。具体的には、頂面の面積が0.35〜1mm2の小突起が1cm2あたり10〜100個配設されたエンボスロール、より好ましくは0.4〜0.8mm2の頂面を有する小突起が1cm2あたり20〜70個配設されたものを用いるとよい。
・・・
【0028】熱処理温度および圧力は、熱収縮性繊維や熱融着性繊維に応じて決定する必要がある。 ・・・ 25kg/cm未満であると圧着不良となって層間剥離が生じやすくなり、85kg/cmを超えると熱融着部に穴があくといった不都合が生じる。
・・・
【0030】このようにして得られる本発明の不織布は、第一繊維層の熱収縮により第二繊維層に凸部が形成されたものである。そしてこの凸部においては繊維同士があまり接合しておらず、比較的自由度が高くなっているから、面ファスナー雄材のフック部と係合しやすい状態となっている。そしてこの凸部は、鉤型、キノコ型、いずれの形状の雄材とも係合可能である。また、両繊維層が凸部と凸部の間が熱融着部となっており、凸部を形成する繊維の一部は熱融着部で固定されているので、凸部の安定性は極めて高く、雄材と繰り返し係合された場合でも毛羽立ちが少ない。従って、本発明の不織布は面ファスナー雌材として非常に有用なものである。
【0031】
【作用】前記した本発明の不織布によれば、収縮した繊維層と非収縮性繊維からなる少なくとも2種類の繊維から構成される不織布であって、部分的に熱融着部により厚さ方向に一体化され、かつ各熱融着部の間の非熱融着部では前記非収縮性繊維が表層部分に突出して凸部を形成していることにより、柔軟で係合力が高くかつコストの安い面ファスナー雌材に適した表面に凹凸を有する不織布を実現できる。」
・「【0036】(実施例1〜6)熱収縮性繊維として、融解ピーク温度が136℃のエチレン−プロピレンランダムコポリマーを260℃で溶融紡糸し、3.5倍に延伸したもの(表中、PNEと略す)を使用した。前記PNE繊維の最大熱収縮率は150℃で92%であった。これを繊度2デニール、繊維長51mmのステープルファイバー(短繊維)とし、パラレルカードで目付10g/m2のパラレルウエブを作成し、この繊維ウエブを第一繊維層とした。なお、最大熱収縮率の測定方法は、繊維を50本束ねて、黒い綿糸で所定間隔に印をつけ、温度150℃の雰囲気下に30秒程度曝した後、印をつけた間隔を測定し熱収縮率を算出する。融解ピーク温度(融点)より高い温度で測定しているが、処理時間が短いので繊維形状を保ったまま収縮させることができる。
【0037】次に、非収縮性繊維として、鞘成分がエチレン−プロピレンランダムコポリマー、芯成分がポリプロピレンの芯鞘型複合繊維を、芯鞘の成分比が63/37となるように鞘成分を250℃、芯成分を280℃で溶融複合紡糸し、2.4倍に延伸したもの(表中、NBF−Pと略す)を使用した。これを繊度2デニール、繊維長51mmのステープルファイバー(短繊維)とし、パラレルカードで目付20g/m2のパラレルウエブを作成し、この繊維ウエブを第二繊維層とした。
【0038】続いて、第一繊維層の上に第二繊維層を積層し、この積層物を、頂面の面積が0.785mm2の円錐台型の小突起が1cm2あたり25個、規則的に配設されたエンボスロールと、その下方に配置されたフラットロールの両ロール間に、第一繊維層がエンボスロールと当接するように導入し、表中にそれぞれ示す温度および圧力で両繊維層を熱圧着すると同時に第一繊維層を熱収縮させた。
【0039】得られた実施例1の不織布の表面は規則的な凹凸を有しており、その平面は図1に示すような形状をしていた。図1において、不織布1の表面には規則的な凸部5と、規則的な凹部(融着部)4が存在し、前記凸部5は主に第二繊維層3で形成され、前記凹部(融着部)4及び前記凸部5の下の部分は主に第一繊維層2が収縮した状態で形成されていた。図2は図1の裏面を示すもので、主に第一繊維層2で覆われており、規則的に凹部(融着部)4が存在していた。次に、図1〜2の模式的な断面を見ると図3のように熱融着部4が凹部となり、第一繊維層2の熱収縮によって第二繊維層3が凸部5を形成していた。また、この不織布は柔軟で且つ、風合の良いものであった。それぞれの不織布の厚み、引張強力、係合力を表1に示す。
【0040】
【表1】


・・・
【0045】次に、実施例1〜6の不織布と、市販の面ファスナー(クラレ(株)製:商品名、“マジックテープベルクロ”)の雌材について、それぞれカンチレバー法(JIS L 1085 A法)に基づいて曲げ長さを測定し、剛軟性を評価した。得られた結果を表3に示す。表中、タテ方向の曲げ長さは繊維ウエブ中の繊維方向を長さ方向として測定したものであり、ヨコ方向の曲げ長さは繊維ウエブ中の繊維方向と90°の角をなす方向を長さ方向として測定したものである。
【0046】
【表3】


・・・
【0049】次に本発明の方法によれば、前記不織布及び面ファスナー雌材を効率良く合理的に製造できる。本発明の不織布は、表面に微細な凹凸を有し、面ファスナー雌材に非常に適した構造となっている。そして、各熱融着部の間に形成された凸部においては繊維の自由度が比較的高く嵩高であるため、本発明の不織布は汎用されている面ファスナー雌材に比べて著しく柔軟性に富んだものとなっている。それ故に、これを使い捨ておむつなどに使用した場合、着用者に違和感を与えることがない。更に本発明の不織布は、複雑な製造工程を経ることなく、積層されたウエブを熱ロールを用いて加工することにより得られるので、比較的安価に生産することができる。従って、本発明の不織布は、柔軟性と低コストが要求されているおむつなどのディスポーザブル商品に使用される面ファスナー雌材として特に好ましく使用することが出来る。」
・【図1】

・【図2】

・【図3】

(イ) 上記ア(ア)の記載事項のうち、特に請求項6の記載に着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という)が記載されていると認められる。
「熱収縮した繊維を含む第一繊維層の片面もしくは両面に、非収縮性繊維を含む第二繊維層が積層されてなる不織布であって、両繊維層は部分的に熱融着部により厚さ方向に一体化され、かつ各熱融着部の間では前記第二繊維層が表層部分に突出して凸部を形成している表面に凹凸を有する不織布であって、非収縮性繊維が表層部分に突出して形成された凸部が、面ファスナー雄材のフック部との係合部である面ファスナー雌材。」
イ 甲2(特表2010−524573号公報)
(ア) 本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲2には、以下の記載がある。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合不織布から構成されたフック・ループ型ファスナー用のループ材料であって、
前記複合不織布は、
熱可塑性捲縮ステープルファイバのカード不織布のループ層であって、前記ステープルファイバは1.5〜6.0dTEXであり、前記カード不織布は10〜35g/m2の秤量を有する前記ループ層と、
前記ループ層が対面して重ね合わされる基材層であって、5〜30g/m2の秤量を有するスパンボンド又はスパンメルト不織布の前記基材層と、
前記ループ層を前記基材層に連結する複数の結合領域であって、実質的に非通気性であり、前記ループ材料の表面積の35〜55%を含む前記複数の結合領域と、
から構成されることを特徴とするフック・ループ型ファスナー用のループ材料。
・・・
【請求項10】
複合不織布から構成されたフック・ループ型ファスナー用のループ材料であって、
前記複合不織布は、
ポリプロピレン捲縮ステープルファイバのカード不織布のループ層であって、前記ステープルファイバは1.5〜6.0dTEXであり、前記カード不織布は10〜35g/m2の秤量を有する前記ループ層と、
前記ループ層が対面して重ね合わされる基材層であって、5〜30g/m2の秤量を有するポリプロピレンスパンボンド又はスパンメルト不織布の前記基材層と、
前記ループ層を前記基材層に連結する複数の結合領域であって、実質的に非通気性であり、前記ループ材料の表面積の35〜55%を含み、機械横断方向に延在し、前記複数の結合領域間の距離が1〜4mmの範囲にある前記複数の結合領域と、
から構成され、
前記複合不織布は、1500l/m2/秒以下の通気性を有することを特徴とするフック・ループ型ファスナー用のループ材料。」
・「【技術分野】
【0002】
本発明は、使い捨て物品又は衣類に使用されるループ・フック型ファスナー用のループ材料に関する。
【背景技術】
【0003】
消費者又は工業用途において、フック・ループ式のファスナーを使用することは広く知られている。このような用途の例として、おむつなどの衛生的で吸収性の使い捨て物品、手術着などの使い捨て衣類等が挙げられる。
・・・
【0007】
ポリプロピレンは比較的に低コストで、感触が柔軟で、入手可能で、また加工が容易であるので、おむつ用途の不織材料の製造には好ましい。不織ループ材料としては、コストをさらに下げ、ループ材料の柔軟性及び可撓性を改善するために、フィルム支持層の使用をなくすことが好ましい。」
・「【0019】
複合不織布10では、ループ層12及び基材層14が、対面接触し、結合領域16にて共に連結されている。複合不織布10は、少なくとも2種の異なる不織材料を含んでもよい。非結合領域のループ層12は「マウンド」を形成し、このマウンドによって、不織ループ層が開いて、フック係合に適合する。結合領域のループ層12は平坦であり、これによりループ層は閉じて、フック係合には適合しない。複合不織布10の通気性は全体で1500l/m2/秒を超えてはならない。一実施形態では、通気性は1300l/m2/秒を超えてはならない。別の実施形態では、通気性は800l/m2/秒でなければならない。通気性の上限は、複合不織布が(前述のような)おむつ製造プロセスにおいて十分に機能する閾値を表し、通気性の下限は、複合不織布が十分な柔軟性を有する(すなわち、フィルムのような堅い感じのしない)閾値を表す。通気性は、Textest AG社(スイス国チューリッヒ所在)のAir Permeability Tester III、Model FX 3300を用いて測定される。
【0020】
ループ層12は、特に、フック・ループ型ファスナーのフック(図示せず)を係合するように構成されている。一実施形態では、ループ層12は、熱可塑性捲縮ステープルファイバから製造されたカード不織布であってよい。一実施形態では、ステープルファイバは、1.5〜6.0の範囲のdTEXを有してよい。カード不織布の秤量は、10〜35g/m2の範囲であってよい。あるいは、秤量は、18〜27g/m2の範囲であってよい。複合不織布10にカード不織布を含める前には、カード不織布は、非結合(好ましい)でもよいし結合していてもよい。結合する場合には、任意の既知の手段(二成分ファイバ;熱によるポイント結合、超音波、マイクロ波;接着剤、等)によって結合を達成してもよいが、二成分ファイバを用いて結合を達成することが好ましい。本明細書で用いる熱可塑性物質とは、任意の熱可塑性材料を指す。熱可塑性材料には、ポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これに限定するものではない。ポリオレフィンには、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、これらの共重合体及びこれらのブレンドが挙げられるが、これに限定するものではない。ポリエステルには、PET、PBT、これらの共重合体及びこれらのブレンドが挙げられるが、これに限定するものではない。一実施形態では、熱可塑性材料は、ポリプロピレンである。
【0021】
基材層14は、特に、ループ層12のファイバを適所に保持し、ループ層12を物品/衣類(図示せず)に固定できるように表面を提供し、物品/衣類を組み合わせるのを容易にする。一実施形態では、基材層は、熱化組成フィラメントから作製されたスパンボンド又はスパンメルト不織布であってもよい。本明細書で用いるスパンボンド又はスパンメルト不織布とは、スパンボンド法又はスパンメルト法によって作製された不織布を指す。スパンメルトとは、スパンボンド法(S)とメルトブロウン法(M)とを組み合わせたものである。スパンメルト不織布は、SM又はSMS又はSMMS等の構造を有し得る。スパンボンド又はスパンメルト不織布の秤量は、5〜30g/m2の範囲であってよい。あるいは、秤量は、11〜17g/m2の範囲であってよい。スパンボンド又はスパンメルト不織布は、調節して通気性を低減することができる。低減された通気性は、複合不織布を物品/衣類に貼り付けるときの物品/衣類製造工程において有用になる。基材層14は、製造時、複合不織布10を組み立てる前にカレンダー加工されてもよい。このカレンダー加工後、一方の側は「滑らか」である。すなわち、彫刻付きローラーによるくぼみはない。この滑らかな側は、複合不織布10の露出された側でもよく、その上に印刷されてもよい。本明細書で用いる熱可塑性物質とは、任意の熱可塑性材料を指す。熱可塑性材料には、ポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これに限定するものではない。ポリオレフィンには、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、これらの共重合体及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これに限定するものではない。ポリエステルには、PET、PBT、これらの共重合体及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これに限定するものではない。一実施形態では、熱可塑性材料はポリプロピレンである。
・・・
【0024】
図5を参照すると、複合不織布10は次のように製造される。すなわち、熱可塑性樹脂からフィラメントを押し出すことによって、スパンメルト又はスパンボンドの第1ウェブ20を形成する。次いで、このウェブをカレンダー加工によって強化する。第2ウェブ22は、捲縮ステープルファイバをカード加工して強化されていないウェブを生成することによって生成される。次いで2つのウェブを重ね合わせる(すなわち、対面させる)。重ね合わせられた2つのウェブから構成されたウェブ(得られたウェブ)をホットカレンダー24(ロール26は例えば彫刻付きローラーであり、ロール28は例えば滑らかなローラーである)に通して、次の結果を達成する。すなわち、捲縮ステープルファイバを複数のゾーンで結合し、両ウェブを複数のゾーンに沿って連結することによってカードウェブを強化する。カレンダー加工工程では、ウェブの結合は不織布が生成される熱可塑性ポリマーの融点又はその付近で起こる。ウェブを共に適切に結合させるのに十分な温度及び圧力で加工することが重要である。この後、複合不織布を30で巻き取る。」
・「【0028】
(スリットサンプルロール1)
SMSベース層:14g/m2
カードファイバ最上層:23g/m2
結合領域:17.4%
彫刻:アイランド(図4参照)
180°剥離試験にはAplix社の94x試作品フック(マッシュルーム状フックを有し、フック密度が385個/cm2の13mm幅テープ)を用いた。
サンプルはマスターロールをスリットして17日後のロールから採取した。
【0029】
(スリットサンプルロール2)
SMSベース層:14g/m2
カードファイバ最上層:23g/m2
結合領域:42%
彫刻:水平に不連続な波形(図3を参照)
180°剥離試験にはAplix社の94x試作品フック(マッシュルーム状フックを有し、フック密度が385個/cm2の13mm幅テープ)を用いた。
サンプルはマスターロールをスリットして21日後のロールから採取した。」
・「【図1】


・「【図3】


・「【図4】


・「【図5】


(イ) 上記イ(ア)の記載事項のうち、特に請求項1の記載に着目すると、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という)が記載されている。
「複合不織布から構成されたフック・ループ型ファスナー用のループ材料であって、
前記複合不織布は、
熱可塑性捲縮ステープルファイバのカード不織布のループ層であって、前記ステープルファイバは1.5〜6.0dTEXであり、前記カード不織布は10〜35g/m2の秤量を有する前記ループ層と、
前記ループ層が対面して重ね合わされる基材層であって、5〜30g/m2の秤量を有するスパンボンド又はスパンメルト不織布の前記基材層と、
前記ループ層を前記基材層に連結する複数の結合領域であって、実質的に非通気性であり、前記ループ材料の表面積の35〜55%を含む前記複数の結合領域と、
から構成されるフック・ループ型ファスナー用のループ材料。」
ウ 甲3(特表2008−518649号公報)
(ア) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲3には、以下の記載がある。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカニカルファスナーとしてのループ側不織布材料(28)において、オムツ、ベルト式オムツ、失禁処理用品及び失禁処理パッドのような使い捨て衛生用品(2)に用いられ、この場合、該不織布材料(30)の第1の上面(40)が、第1の比較的大きなボンディングされない領域(42)を含み、該領域は互いに間隔を取って島状に配置されている、不織布材料であって、前記第1の比較的大きなボンディングされない領域(42)が、ボンディングされた輪郭(44)に境界を区切られ、該境界の外では第2の比較的小さなボンディングされない領域(48)に囲まれ、前記第2の比較的小さなボンディングされない該領域(48)によって互いに間隔を取っていることを特徴とする、上記の不織布材料。
・・・
【請求項25】
請求項1から24のいずれか1項に記載の前記ループ側不織布材料(28)を含むメカニカルファスナーを備えることを特徴とする衛生用品、特にオムツ、ベルト式オムツ、失禁処理オムツ、または失禁処理パッド。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルファスナーに用いるループ側不織布材料に関する。これは、特に使い捨て衛生用品、例えばオムツ、ベルト式オムツ、失禁処理用品及び失禁パッドに用いるものである。この場合、不織布材料の第1の上面は、第1の比較的大きなボンディングされない領域を含み、これら第1の領域は互いに間隔を取って島状に配置されている。
・・・
【0008】
これら比較的大きなボンディングされない領域は、メカニカルに作用するファスナー機能の形成に利用される主たるものである。これらの領域は、ボンディングされた輪郭によって境界を区切られ、あるいは定められている。この輪郭は、特にライン状のエンボシング、また特にホットエンボシングによって形成することができ、このホットエンボシングは、特に超音波溶接またはカレンダーエンボシングによって得られる。これらエンボシングラインは、連続するものとしても、中断を持つものとしても形成することができ、特に点線状、または破線状に形成することもできる。しかしこのボンディングされた輪郭の外側では、これら第1のボンディングされない島状領域の間に、さらなる比較的小さなボンディングされない領域または部分が設けられている。これらの領域または部分は、第1の比較的大きなボンディングされない領域を互いに分離する。この関連で、第2の比較的小さなボンディングされない領域または部分についていうとき、これは次のようなことと理解されたい。すなわち、島状の比較的大きな領域が、近くに並んでまたはつながって配置されている。あるいは第2の比較的小さなボンディングされない領域がさらに、ボンディングされた部分領域を囲んでいる。このような配置が行われているため、第1の比較的大きなボンディングされない領域の可能最大な内接円を、第2のボンディングされない領域に取り込み、あるいは挿入することが、不可能となっている。
・・・
【0017】
不織布材料の良好で十分な安定性、すなわち繊維の良好な拘束、及び不織布材料の破損強さが得られるのは、第1の表面の総面積に対する、ボンディングされた領域の総面積割合が、好ましくは10から60%、好ましくは15から40%、さらに好ましくは15から30%、特に15から25%、特に有利な方法として19から22%である場合である。ここでボンディングされた領域とは、次のようなボンディングされた輪郭をいう。この輪郭は、第1の島状領域の境界を区切り、また場合によっては第1の島状領域の間に追加して設けられたボンディングされた部分領域の境界を区切る。
【0018】
本発明による不織布材料は、好ましくはスパンボンデッド不織布、またはカードウェブ、またはメルトブロー不織布、またはウォーターニードル不織布を含むことができる。有利な方法として、複数の不織布層からなる不織布ラミネートとすることもできる。本発明の好ましい一つの実施形態によれば、この材料は、スパンボンド不織布とカードウェブを互いに結合したものを含む。このような場合のカードウェブが、好ましくは第1の上面を形成し、この面が、メカニカルファスナーにおけるフック側コンポーネントの係着エリアとなるものとする。
【0019】
本発明によるループ側不織布材料が複数の不織布層からなる場合、それは不織布ラミネートである。したがって、これらの層を、第1の比較的大きなボンディングされない島状領域の境界を区切るボンディングされた輪郭によって、互いに結合すれば有利である。これは例えばホットエンボシングによって、しかも特にカレンダーエンボシングまたは超音波溶接によって行うことができる。本発明による不織布材料を不織布ラミネートとして形成する場合、強度を全体として上げるために、第1の上面と反対側の不織布層を、もうひとつのボンディングパターンによって、特にホットエンボシングによって得られたボンディングパターンによって、固定することができる。したがってもう1つのこの不織布層は、ファスナーのフック側コンポーネントの係着領域を形成するのではなく、反対側に設けられるものである。このボンディングパターンは、好ましくは、このもう1つの不織布層を前もって製造する際に、その事前固定のために施されるものとする。
【0020】
本発明による不織布材料の面積あたり重量は、好ましくは15から120g/m2、特に20から90g/m2、特に30から80g/m2、特に40から70g/m2、さらに特に50から65g/m2とする。
【0021】
次のような不織布層の、すなわち第1の上面を形成し、第1のボンディングされない島状領域と、ボンディングされた輪郭と、第2のボンディングされない領域とを備える不織布層の面積あたり重量は、好ましくは10から60g/m2、特に10から40g/m2、特に15から35g/m2、さらに特に20から35g/m2とする。
・・・
【0023】
不織布材料を形成するにあたっては、第1の上面を形成する不織布層が、太さが1から10dtex、好ましくは2から8dtex、さらに好ましくは3から6dtexの繊維を含むか、あるいはそのような繊維からなるものであることが有利である。さらには、第1の上面を形成する不織布層が、親水性繊維を含むか、または親水性繊維からなるものであることが有利である。
【0024】
本発明による不織布材料が複数の不織布層からなる場合、その材料がキャリヤとして含む不織布層は、その面積あたり重量を10から100g/m2、好ましくは15から60g/m2、さらに好ましくは30から40g/m2とする。このキャリヤ層は、この場合第1の上面と反対側に配置される。このキャリヤ層は、太さが1から6dtex、好ましくは1から4dtex、さらに好ましくは2から4dtexの繊維を含むものとする。
・・・
【0026】
すでに示唆したように、本発明の不織布材料の剛性は0.80N未満、特に0.60N未満、特に0.40N未満、特に0.30N未満、特に0.25N未満、特に0.2N未満、特に0.18N未満、特に0.16未満とし、0.05を最小とするのが有利である。」
・「【0049】
この不織布材料28は不織布ラミネート30からなっていて、その断面図を図2に模式的に示す。この図の切断線は、図3aに記載する線B‐Bにそって位置する。この材料は、プロピレン・スパンボンデッド不織布層32を備え、この層はキャリヤ層であって、繊維太さ2.2dtex、面積あたり重量30g/m2の繊維からなる。また面積あたりの密度は48.37個/cm2の楕円形ボンディングポイント34(ホットエンボシングポイント)によって固定されている。この場合楕円形ボンディングポイントの半軸の寸法は、それぞれ0.85mm及び0.59mmとする。それに応じて、楕円形ボンディングポイントのプレス面積は0.394mm2、総面積に対するボンディングポイントの割合は19.0%となる。ボンディングポイントの深さは0.80mmである。このスパンボンデッド不織布層32の上に、カードウェブ層36が、ホットカレンダーエンボシングによって接合される。図示の場合のカードウェブは、太さ4.4dtex、繊維長さ40mmの親水化ポリプロピレン繊維からなる。図3は、カレンダーロール表面の展開図を示し、このカレンダーロールは、ホットカレンダーによってカードウェブ層36の第1の上面40に施されたエンボシングパターン38に対応する。したがって図3は、不織布ラミネート30の第1の上面40の見取り図をも示すことになる。」
・「【0053】
ボンディングされた領域44、50の総面積割合は、20.7%である。第1の比較的大きなボンディングされない島状領域(42)の面積割合は、約35.7%である。この場合、第1のボンディングされない島状領域の面積を求めるには、内接円52の面積を利用する。」
・「【図2】


(イ) 上記ウ(ア)の記載事項のうち、特に図2に図示される形態に着目すると、甲3には次の発明(以下「甲3発明」という)が記載されていると認められる。
「繊維太さ2.2dtex、面積あたり重量30g/m2の繊維からなるキャリヤ層たるプロピレン・スパンボンデッド不織布層(32)の上に太さ4.4dtex、繊維長さ40mmの親水化ポリプロピレン繊維からなるカードウェブ層(36)がホットカレンダーエンボシングによって接合されてなるメカニカルファスナーとしてのループ側不織布材料。」
エ 甲4(特開2002−333092号公報)
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲4には、以下の記載がある。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、断熱性に優れ、施工性に優れ、例えば建材用等に最適な繊維・微粒子複合断熱材に関する。」
・「【0016】本発明で使用される繊維の繊度は繊維構造体を形成出来る範囲で有れば特に限定されないが、0.2デニール〜50デニールが好ましく使用される。繊度を繊維の平均径に換算する場合は、以下の式で行う。
【0017】
平均径(μm)=11.91×(d/ρ)1/2(dは繊度、ρは比重)」
(カ)甲5(特開平7−185249号公報)
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲5には、以下の記載がある。
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は脱臭フィルタに関する。」
・「【0008】
【作用】本発明の脱臭フィルタの不織布基材(以下、「基材」ということがある)を構成する繊維として、平均繊維径が20〜35μmのものを使用する。平均繊維径が20μm未満であると、単位繊維目付の基材における繊維本数が多くなるので、圧力損失が大きくなり、一方、平均繊維径が35μmを越えると、単位繊維目付の基材における繊維本数が少なくなるので、基材強度が低下するためである。より好ましくは、25〜30μmである。
【0009】なお、基材を構成する繊維の断面形状は円形である必要はなく、楕円形、長円形、三角形や六角形などの多角形、Y形やX形などの、いわゆる異形断面形状の繊維であっても構わない。このような異形断面形状の繊維の場合には、次の式により円形断面に換算した値を繊維径とみなす。
【0010】
繊維径(μm)=11.89×(d/ρ)0.5
d:繊度(デニール)、ρ:比重」
オ 甲6
甲6は、インターネットから2020年5月11日に取得された「プラスチックの比重、密度の一覧」と題された資料で、プラスチックがポリプロピレンの場合、その比重、密度は0.90から0.91g/cm3であることが記載されている。
カ 甲7(日本規格協会編、「JISハンドブック31 繊維」、財団法人日本規格協会、2002年1月31日 第1版第1刷発行 p.279)
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲7には、表2に9,000mで重量が1gの繊維を1デニールということが示されている。
キ 甲8(特開2007−98370号公報)
本件特許出願の優先日前に頒布された甲8には、以下の記載がある。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、複層フィルターに関するものであり、特に、エレクトレット加工により、ビル空調のフィルター、吸塵カーテン、マスク素材などのエアフィルター用素材として好適に用いることができる複層フィルターに関するものである。」
・「【0059】
なお、本発明において、繊維径の単位が「dtex」で表示されている場合、下記式1に基づいて繊維径の単位を「μm」に換算することができる。但し、式1中、Dは、繊維の繊度(dtex)、ρは、繊維を構成している合成樹脂の密度(g/cm3)である。なお、繊維断面が異形断面の場合は同一面積からなる円形断面の繊維に換算する。
【0060】
【数1】


(2) 甲1発明に基づく検討
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「第一繊維層」は、繊維の不織布であり、また、「第二繊維層」は、繊維の不織布を含むものである。
そして、甲1発明の、「第一繊維層」、「第二繊維層」、「面ファスナー雌材」は、それぞれ、本件発明1の「係合層を保持する物性層」、「面ファスナー雄部材に係合可能な係合層」、「面ファスナー雌部材」に相当する。
そうすると、両発明の一致点、相違点は、次のとおりである。
〈一致点〉
面ファスナー雄部材に係合可能な係合層と該係合層を保持する物性層とを有する面ファスナー雌部材であって、該物性層が繊維の不織布又はフィルムであり、該係合層が繊維の不織布を含む、面ファスナー雌部材。
〈相違点1〉
本件発明1は、「A=1/(P1×P2) (1)
P1:面ファスナー雌部材をMD方向に25mm×CD方向に50mmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を巻き内側として、CDが円周となるようにリング状とし、端部が互いに重なることのないようにステープラーで2箇所固定して得られたリング体に、50mm/分の速度で14mmまで軸方向から圧縮荷重を加え、該リング体が変形する際の最大圧縮荷重。
P2:面ファスナー雌部材をMD方向に25mm×CD方向に50mmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を巻き内側として、CDが円周となるようにリング状とし、端部が互いに重なることのないようにステープラーで2箇所固定して得られたリング体に、高さ35mmから高さ5mmまでプラスティック板を自由落下させて幅方向から圧縮荷重を加え、該リング体が変形する際の最大圧縮荷重。」とした上で「式(1)で表される柔軟性指数Aが0.004g−2以上0.08g−2以下である」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような柔軟性指数の値につき明らかでない点。
(イ) 相違点1について検討する。
甲1発明を開示する甲1には、係合層(第二繊維層)、物性層(第一繊維層)の繊維の織度、繊維長、目付、熱溶着部が不織布表面に占める割合といったものの範囲についての一般的説明があり、また、実施例として、エチレン−プロピレンランダムコポリマーで繊度2デニール、繊維長51mmのステープルファイバー(短繊維)を得て目付10g/m2で第一繊維層(物性層)とし、鞘成分がエチレン−プロピレンランダムコポリマー、芯成分がポリプロピレンの芯鞘型複合繊維で繊度2デニール、繊維長51mmのステープルファイバー(短繊維)を得て目付20g/m2で第二繊維層(係合層)とし、頂面の面積が0.785mm2の円錐台型の小突起が1cm2あたり25個規則的に配設されたエンボスロールを用いて両繊維層を熱圧着すると同時に第一繊維層を熱収縮させて不織布としたものが表1にまとめられている。表1には、各実施例における処理後の非融着部の厚み、処理後の融着部の厚みも示されている。
これらの実施例は、柔軟度に優れ、係合力も高いものと評価されているが、そうであるからといって、甲1の開示からでは、甲1発明として本件発明1でいう“柔軟度指数A”の値がいかなるものであるかは、不明であるといわざるを得ない。
申立人は、本件特許明細書等に記載された物性層、係合層それぞれについて好ましいとされる繊維径、坪量、総坪量、密度、熱融着部が不織布表面に占める割合を根拠に、甲1発明が本件発明1の柔軟性指数Aを満たす蓋然性が高いと指摘するが、繊維径、総密度や総坪量といった要素が、個別にそうした好ましい値になっているからといって、ただちに本件発明1の柔軟性指数Aを満たすものであるとはいえない。これは、本件特許明細書等の表2に示された比較例をみても明らかなことである。
そうすると、上記相違点1は、実質的なものというべきであり、本件発明1は甲1発明ではない。
そして、本件発明1の柔軟性指数Aの値を得るためには坪量、密度等種々の要素の調整が必要であることは自明であり、柔軟性指数Aについて認識されていない甲1発明において坪量、密度等種々の要素を調整して柔軟性指数Aを本件発明1に記載された値に特定していくことは、当業者にとって容易になし得たこととはいえない。さらに他の証拠方法(甲2〜甲8)を参酌しても、甲1発明における柔軟性指数Aの値を本件発明1の範囲にすることが当業者にとって容易に想到し得たということはできない。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たことではないから、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではない。
イ 本件発明2〜13、15〜22について
本件発明2〜13、15〜22は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、それに他の発明特定事項を付加したものである。
そうすると、本件発明2〜13、15〜22を甲1発明と対比すると、既に上記(ア)aで述べた、本件発明1と甲1発明を対比したときの相違点1が存在するものである。
そして、その相違点1についての判断は、既に上記ア(イ)で述べたとおりであるので、本件発明2〜13、15〜22は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもない。
(3) 甲2発明に基づく検討
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「基材層」は、繊維の不織布であり、また、「ループ層」は、繊維の不織布を含むものである。
そして、甲2発明の、「基材層」、「ループ層」、「フック・ループ型ファスナー用のループ材料」は、それぞれ、本件発明1の「係合層を保持する物性層」、「面ファスナー雄部材に係合可能な係合層」、「面ファスナー雌部材」に相当する。
そうすると、両発明の一致点、相違点は、次のとおりである。
〈一致点〉
面ファスナー雄部材に係合可能な係合層と該係合層を保持する物性層とを有する面ファスナー雌部材であって、該物性層が繊維の不織布又はフィルムであり、該係合層が繊維の不織布を含む、面ファスナー雌部材。
〈相違点2〉
本件発明1では、
「A=1/(P1×P2) (1)
P1:面ファスナー雌部材をMD方向に25mm×CD方向に50mmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を巻き内側として、CDが円周となるようにリング状とし、端部が互いに重なることのないようにステープラーで2箇所固定して得られたリング体に、50mm/分の速度で14mmまで軸方向から圧縮荷重を加え、該リング体が変形する際の最大圧縮荷重。
P2:面ファスナー雌部材をMD方向に25mm×CD方向に50mmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を巻き内側として、CDが円周となるようにリング状とし、端部が互いに重なることのないようにステープラーで2箇所固定して得られたリング体に、高さ35mmから高さ5mmまでプラスティック板を自由落下させて幅方向から圧縮荷重を加え、該リング体が変形する際の最大圧縮荷重。」とした上で「式(1)で表される柔軟性指数Aが0.004g−2以上0.08g−2以下である」と特定されているのに対して、甲2発明では、そのような柔軟性指数の値につき明らかでない点。
(イ) 相違点2について検討する。
甲2発明は、坪量及び結合領域の面積の値についての発明特定事項が含まれ、また、甲2発明を開示する甲2には、用いる繊維の織度の範囲についての一般的説明がある。甲2発明に係るフック・ループ型ファスナー用のループ材料は、柔軟なものと評価されているが、そうであるからといって、甲2の開示からでは、甲2発明として本件発明1でいう“柔軟度指数A”の値がいかなるものであるかは、不明であるといわざるを得ない。
そして、既に上記(2)ア(イ)で本件発明1と甲1発明の相違点1について述べたと同様に、上記相違点2は、実質的なものというべきであり、本件発明1は、甲2発明ではないし、また、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではない。
ア 本件発明2〜13、15〜22について
本件発明2〜13、15〜22は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含み、それに他の発明特定事項を付加したものである。
そうすると、本件発明2〜13、15〜22を甲2発明と対比すると、既に上記(ア)aで述べた、本件発明1と甲2発明を対比したときの相違点2が存在するものである。
そして、その相違点2についての判断は、既に上記(ア)bで述べたとおりであるので、本件発明2〜13、15〜22は、いずれも、甲2発明ではないし、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもない。
(4) 甲3発明に基づく検討
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明の「キャリヤ層たるプロピレン・スパンボンデッド不織布層(32)」は、繊維の不織布であり、また、「カードウェブ層(36)」は、繊維の不織布を含むものである。
そして、甲3発明の、「キャリヤ層たるプロピレン・スパンボンデッド不織布層(32)」、「カードウェブ層(36)」、「メカニカルファスナーとしてのループ側不織布材料」は、それぞれ、本件発明1の「係合層を保持する物性層」、「面ファスナー雄部材に係合可能な係合層」、「面ファスナー雌部材」に相当する。
そうすると、両発明の一致点、相違点は、次のとおりである。
〈一致点〉
面ファスナー雄部材に係合可能な係合層と該係合層を保持する物性層とを有する面ファスナー雌部材であって、
該物性層が繊維の不織布又はフィルムであり、
該係合層が繊維の不織布を含む、面ファスナー雌部材。
〈相違点3〉
本件発明1では、
「A=1/(P1×P2) (1)
P1:面ファスナー雌部材をMD方向に25mm×CD方向に50mmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を巻き内側として、CDが円周となるようにリング状とし、端部が互いに重なることのないようにステープラーで2箇所固定して得られたリング体に、50mm/分の速度で14mmまで軸方向から圧縮荷重を加え、該リング体が変形する際の最大圧縮荷重。
P2:面ファスナー雌部材をMD方向に25mm×CD方向に50mmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を巻き内側として、CDが円周となるようにリング状とし、端部が互いに重なることのないようにステープラーで2箇所固定して得られたリング体に、高さ35mmから高さ5mmまでプラスティック板を自由落下させて幅方向から圧縮荷重を加え、該リング体が変形する際の最大圧縮荷重。」とした上で「式(1)で表される柔軟性指数Aが0.004g−2以上0.08g−2以下である」と特定されているのに対して、甲3発明では、そのような柔軟性指数の値につき明らかでない点。
(イ) 相違点3について検討する。
甲3発明には、繊維の織度、不織布層(32)の面積あたりの重量値についての発明特定事項が含まれ、また、甲3発明を開示する甲3には、ボンディングされた領域の総面積割合等についての一般的説明がある。
甲3発明は、剛性が小さいものと評価されるが、そうであるからといって、甲3の開示からでは、甲3発明として本件発明1でいう“柔軟度指数A”の値がいかなるものであるかは、不明であるといわざるを得ない。
そして、既に上記(2)ア(イ)で本件発明1と甲1発明の相違点1について述べたと同様に、上記相違点3は、実質的なものというべきであり、本件発明1は、甲3発明ではないし、また、本件発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではない。
イ 本件発明2〜13、15〜22について
本件発明2〜13、15〜22は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含み、それに他の発明特定事項を付加したものである。
そうすると、本件発明2〜13、15〜22を甲3発明と対比すると、既に上記(ア)aで述べた、本件発明1と甲3発明を対比したときの相違点3が存在するものである。
そして、その相違点3についての判断は、既に上記(ア)bで述べたとおりであるので、本件発明2〜13、15〜22は、いずれも、甲3発明と同一ではなく、また、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもない。
(5) 小括
以上のとおり、本件発明1〜13、15〜22は、甲1発明、甲2発明、甲3発明のいずれの発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に規定される発明に該当いない。
また、甲1発明、甲2発明、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項に規定により特許を受けられない発明ではない。
したがって、請求項1〜13、15〜22に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。

第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1〜13、15〜22に係る特許は、特許権者に通知した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消されるべきものではなくなった。
また、本件発明1〜13、15〜22に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によって取り消すこともできない。
本件請求項14は、本件訂正により削除された。このことにより、本件請求項14に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面ファスナー雄部材に係合可能な係合層と該係合層を保持する物性層とを有する面ファスナー雌部材であって、
該物性層が繊維の不織布またはフィルムであり、
該係合層が繊維の不織布を含み、
式(1)で表される柔軟性指数Aが0.004g−2以上0.08g−2以下である、
面ファスナー雌部材。
A=1/(P1×P2) (1)
P1:面ファスナー雌部材をMD方向に25mm×CD方向に50mmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を巻き内側として、CDが円周となるようにリング状とし、端部が互いに重なることのないようにステープラーで2箇所固定して得られたリング体に、50mm/分の速度で14mmまで軸方向から圧縮荷重を加え、該リング体が変形する際の最大圧縮荷重。
P2:面ファスナー雌部材をMD方向に25mm×CD方向に50mmに切出し、切出した面ファスナー雌部材の物性層表面を巻き内側として、CDが円周となるようにリング状とし、端部が互いに重なることのないようにステープラーで2箇所固定して得られたリング体に、高さ35mmから高さ5mmまでプラスティック板を自由落下させて幅方向から圧縮荷重を加え、該リング体が変形する際の最大圧縮荷重。
【請求項2】
前記柔軟性指数Aが0.01g−2〜0.08g−2である、請求項1に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項3】
前記柔軟性指数Aが0.02g−2〜0.05g−2である、請求項2に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項4】
前記P1が70g以下である、請求項1から3までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項5】
前記P1が15g〜40gである、請求項4に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項6】
前記P2が4.05g以下である、請求項1から5までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項7】
前記P2が1g〜2.5gである、請求項6に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項8】
前記係合層中の不織布の坪量と前記物性層中の不織布の坪量との合計が60g/m2以下である、請求項1から7までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項9】
前記係合層中の不織布の坪量と前記物性層中の不織布の坪量との合計が30g/m2〜47g/m2である、請求項8に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項10】
前記面ファスナー雌部材の密度が110kg/m3以下である、請求項1から9までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項11】
前記面ファスナー雌部材の密度が50kg/m3以下である、請求項10に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項12】
前記面ファスナー雌部材が不織布のみからなる、請求項1から11までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項13】
前記面ファスナー雌部材がエンボスパターンを有し、前記面ファスナー雌部材の表面全体の面積に対する前記エンボスパターンによる溶着部の面積の割合が35%以下である、請求項1から12までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項14】削除
【請求項15】
前記面ファスナー雌部材の表面全体の面積に対する前記エンボスパターンによる溶着部の面積の割合が12%〜28%である、請求項13に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項16】
前記エンボスパターンによる溶着部の厚みが100μm以下である、請求項13または15に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項17】
前記エンボスパターンによる溶着部の厚みが25μm〜55μmである、請求項16に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項18】
前記エンボスパターンが不連続のエンボスパターンである、請求項13、および、15から17までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項19】
前記繊維の表面と前記物性層の前記係合層側の表面が、同種のポリマーを含む、請求項1から13、および、15から18までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材。
【請求項20】
前記ポリマーがポリオレフィンである、請求項19に記載の面ファスナー雌部材。
【請求項21】
請求項1から13、および、15から20までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材と、該面ファスナー雌部材と係合する面ファスナー雄部材とを有する、面ファスナー。
【請求項22】
請求項1から13、および、15から20までのいずれかに記載の面ファスナー雌部材を有する衛生用品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-01 
出願番号 P2016-115122
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A44B)
P 1 651・ 537- YAA (A44B)
P 1 651・ 536- YAA (A44B)
P 1 651・ 113- YAA (A44B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 久保 克彦
藤井 眞吾
登録日 2020-07-15 
登録番号 6735156
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 面ファスナー雌部材  
代理人 籾井 孝文  
代理人 籾井 孝文  

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