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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01L |
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管理番号 | 1385144 |
総通号数 | 6 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-06-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-02-26 |
確定日 | 2022-03-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6746540号発明「熱伝導シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6746540号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−14〕について訂正することを認める。 特許第6746540号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6746540号の請求項1ないし14に係る特許についての出願は、平成29年7月24日に出願され、令和2年8月7日にその特許権の設定登録がなされ、同年8月26日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、以後の本件特許異議の申立てに係る手続の概要は以下のとおりである。 令和3年 2月26日 特許異議申立人 安藤 宏による請求項1ない し14に係る特許に対する特許異議の申立て 令和3年 6月 4日付け 取消理由通知 令和3年 8月 5日 特許権者による訂正請求書・意見書の提出 令和3年 9月22日 特許異議申立人による意見書の提出 令和3年10月28日付け 取消理由通知(決定の予告) 令和3年12月27日 特許権者による意見書の提出 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 令和3年8月5日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第6746540号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし14について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである(なお、下線は訂正部分を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7W/mK以上であり、」とあるのを、「熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が 7.5W/mK以上であり、」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に、「請求項1又は2に記載の熱伝導シート。」とあるのを、「請求項2に記載の熱伝導シート。」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導シート。」とあるのを、「請求項2又は3に記載の熱伝導シート。」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導シート。」とあるのを、「請求項2〜4のいずれかに記載の熱伝導シート。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項6に、「請求項1〜5のいずれかに記載の熱伝導シート。」とあるのを、「請求項2〜5のいずれかに記載の熱伝導シート。」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7に、「請求項1〜6のいずれかに記載の熱伝導シート。」とあるのを、「請求項2〜6のいずれかに記載の熱伝導シート。」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項9に、「請求項1又は8に記載の熱伝導シート。」とあるのを、「請求項8に記載の熱伝導シート。」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項10に、「請求項1、8、又は9のいずれかに記載の熱伝導シート。」とあるのを、「請求項8又は9に記載の熱伝導シート。」に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項11に、「請求項1、8、9、又は10のいずれかに記載の熱伝導シート。」とあるのを、「請求項8〜10のいずれかに記載の熱伝導シート。」に訂正する。 2.訂正の適否についての判断 (1)一群の請求項について 訂正前の請求項1ないし14について、請求項2ないし14は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1ないし14に対応する訂正後の請求項1ないし14は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア.訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1に係る発明において、熱伝導シートにおける熱伝導率について、「7W/mK以上」とあったのを「7.5W/mK以上」とし、その範囲(下限)を限定するものである。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、熱伝導シートにおける熱伝導率について「7W/mK以上」とあったのを「7.5W/mK以上」とし、その範囲(下限)を限定することに関して、本件明細書の段落【0060】の【表1】には、実施例11として、熱伝導率[W/m・K]が実施例の中で一番低い「7.5」であるものが記載されている。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 また、訂正事項1は上述のとおり、請求項1に係る発明において、熱伝導シートにおける熱伝導率について「7W/mK以上」とあったのを「7.5W/mK以上」とし、その範囲(下限)を限定することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 イ.訂正事項2 訂正事項2は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用する記載であったところ、請求項1の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、訂正事項2は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するだけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 ウ.訂正事項3 訂正事項3は、訂正前の請求項4が請求項1ないし3のいずれかを引用する記載であったところ、請求項1の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、訂正事項3は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するだけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 エ.訂正事項4 訂正事項4は、訂正前の請求項5が請求項1ないし4のいずれかを引用する記載であったところ、請求項1の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、訂正事項4は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するだけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 オ.訂正事項5 訂正事項5は、訂正前の請求項6が請求項1ないし5のいずれかを引用する記載であったところ、請求項1の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、訂正事項5は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するだけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 カ.訂正事項6 訂正事項6は、訂正前の請求項7が請求項1ないし6のいずれかを引用する記載であったところ、請求項1の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、訂正事項6は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するだけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 キ.訂正事項7 訂正事項7は、訂正前の請求項9が請求項1又は8を引用する記載であったところ、請求項1の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、訂正事項7は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するだけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 ク.訂正事項8 訂正事項8は、訂正前の請求項10が請求項1、8、又は9のいずれかを引用する記載であったところ、請求項1の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、訂正事項8は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するだけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 ケ.訂正事項9 訂正事項9は、訂正前の請求項11が請求項1、8、9、又は10のいずれかを引用する記載であったところ、請求項1の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、訂正事項9は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するだけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (3)独立特許要件について 訂正事項1ないし9については「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるが、本件においては、訂正前の請求項1ないし14の全請求項について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1ないし14に係る訂正事項1ないし9に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3.訂正の適否についてのむすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜14〕について訂正することを認める。 第3 当審の判断 1.本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明14」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。 「【請求項1】 熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が 7.5W/mK以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であることを特徴とする、熱伝導シート。 【請求項2】 前記熱伝導性フィラーが非球状フィラーである、請求項1に記載の熱伝導シート。 【請求項3】 前記熱伝導性フィラーのアスペクト比が10以上である、請求項2に記載の熱伝導シート。 【請求項4】 前記熱伝導性フィラーの長軸がシート面に対して60°以上の角度で配向している、請求項2又は3に記載の熱伝導シート。 【請求項5】 前記樹脂の25℃における粘度が10〜2000Pa・sである、請求項 2〜4のいずれかに記載の熱伝導シート。 【請求項6】 前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して180〜700質量部である、請求項2〜5のいずれかに記載の熱伝導性シート。 【請求項7】 前記熱伝導性フィラーの体積割合が、35〜75体積%である、請求項2〜6のいずれかに記載の熱伝導性シート。 【請求項8】 前記熱伝導性フィラーが球状フィラーである、請求項1に記載の熱伝導シート。 【請求項9】 前記樹脂の粘度が10Pa・s以下である、請求項8に記載の熱伝導シート。 【請求項10】 前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して1000〜3000質量部である、請求項8又は9に記載の熱伝導シート。 【請求項11】 前記熱伝導性フィラーの体積割合が、65〜95体積%である、請求項8〜10のいずれかに記載の熱伝導シート。 【請求項12】 少なくとも一方の表層部のゲル分率が、内層部のゲル分率よりも大きい、請求項1〜11のいずれかに記載の熱伝導シート。 【請求項13】 前記熱伝導性フィラーの熱伝導率が12W/m・k以上である、請求項1〜12のいずれかに記載の熱伝導シート。 【請求項14】 前記樹脂のガラス転移温度が25℃以下である、請求項1〜13のいずれかに記載の熱伝導シート。」 2.取消理由通知(決定の予告)等に記載した取消理由について (1)取消理由の概要 令和3年10月28日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(理由A−2ないしA−4(進歩性))、及び令和3年6月4日付け取消理由通知に記載したその他の取消理由(理由A−1(進歩性)、理由B(サポート要件))の概要は、次のとおりである。 (1−1)令和3年10月28日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(理由A−2ないしA−4) 下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 記 理由A−2(進歩性:引用例2を主引例とする場合) ・請求項1、2、4ないし7、13、14に対して引用例2 ・請求項3に対して引用例2、6 理由A−3(進歩性:引用例3を主引例とする場合) ・請求項1、2、4ないし7、13、14に対して引用例3 ・請求項3に対して引用例3、6 理由A−4(進歩性:引用例4を主引例とする場合) ・請求項1ないし7、13、14に対して引用例4 <<引用例一覧>> 引用例2:特開2010−132856号公報(甲第2号証) 引用例3:特開2011−162642号公報(甲第3号証) 引用例4:国際公開第2016/129257号(甲第4号証) 引用例6:国際公開第2013/099089号(甲第8号証) <<参考文献一覧>> 甲第10号証:関西カーボン加工株式会社、「カーボンソリッド材の特性」 (https://kansai-carbon.co.jp/material/carbon/solid.h ml) 甲第11号証:豊田昌弘「膨張黒鉛とその応用」、炭素、No.233、 p.157〜165 甲第12号証:炭素材料学会編「新・炭素材料入門」(第1版第4刷)、 2015年、p.59 (1−2)令和3年6月4日付け取消理由通知に記載した上記(1−1)以外の取消理由(理由A−1(進歩性)、理由B(サポート要件)) 理由A−1(進歩性:引用例1を主引例とする場合) 下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 記 ・請求項1、13、14に対して引用例1ないし3、5 ・請求項2、3に対して引用例1ないし3、5、6 ・請求項8に対して引用例1ないし3、5、7 <<引用例一覧>> 引用例1:特開2015−92534号公報(甲第1号証) 引用例2:特開2010−132856号公報(甲第2号証) 引用例3:特開2011−162642号公報(甲第3号証) 引用例5:特開2017−126614号(甲第5号証) 引用例6:国際公開第2013/099089号(甲第8号証) 引用例7:特開平5−65347号公報 <<参考文献一覧>> 甲第10号証:関西カーボン加工株式会社、「カーボンソリッド材の特性」 (https://kansai-carbon.co.jp/material/carbon/solid.ht ml) 甲第11号証:豊田昌弘「膨張黒鉛とその応用」、炭素、No.233、 p.157〜165 甲第12号証:炭素材料学会編「新・炭素材料入門」(第1版第4刷)、 2015年、p.59 理由B(サポート要件) 請求項5ないし7、9ないし14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 記 ア.請求項5において「前記樹脂の25℃における粘度が10〜2000Pa・sである」と記載され、当該請求項5は請求項1についても引用するものである。ここで、請求項1においては、熱伝導性フィラーの形状については何ら特定がなされていない。したがって、当該請求項5が請求項1を引用する場合のものにおいては、熱伝導性フィラーの形状にかかわらず、具体的には「球状フィラー」であっても、「樹脂の25℃における粘度が10〜2000Pa・s」であると特定するものであるといえる。 しかしながら、発明の詳細な説明には、熱伝導性フィラーが「非球状フィラー」である場合に、樹脂の25℃における粘度は好ましくは10〜2000Pa・sであることが記載(段落【0031】)され、熱伝導性フィラーが「球状フィラー」である場合には、樹脂の25℃における粘度は好ましくは10Pa・s以下であることが記載(段落【0043】)されており、熱伝導性フィラーの形状にかかわらず、「樹脂の25℃における粘度が10〜2000Pa・s」とすることは記載されていない。 以上のことを踏まえると、出願時の技術常識に照らしても、本件請求項5に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件請求項5に係る発明及び請求項5を引用する請求項6,7,12ないし14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 イ.請求項6において「前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して180〜700質量部である」と記載され、当該請求項6は請求項1についても引用するものである。ここで、請求項1においては、熱伝導性フィラーの形状については何ら特定がなされていない。したがって、当該請求項6が請求項1を引用する場合のものにおいては、熱伝導性フィラーの形状にかかわらず、具体的には「球状フィラー」であっても、「熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して180〜700質量部」であると特定するものであるといえる。 しかしながら、発明の詳細な説明には、熱伝導性フィラーが「非球状フィラー」である場合に、熱伝導性フィラーの含有量は、樹脂100質量部に対して好ましくは180〜700質量部であることが記載(段落【0027】)され、熱伝導性フィラーが「球状フィラー」である場合には、熱伝導性フィラーの含有量は、樹脂100質量部に対して好ましくは1000〜3000質量部であることが記載(段落【0043】)されており、熱伝導性フィラーの形状にかかわらず、「熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して180〜700質量部」とすることは記載されていない。 以上のことを踏まえると、出願時の技術常識に照らしても、本件請求項6に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件請求項6に係る発明及び請求項6を引用する請求項7,12ないし14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 ウ.請求項7において「前記熱伝導性フィラーの体積割合が、35〜75体積%である」と記載され、当該請求項7は請求項1についても引用するものである。ここで、請求項1においては、熱伝導性フィラーの形状については何ら特定がなされていない。したがって、当該請求項7が請求項1を引用する場合のものにおいては、熱伝導性フィラーの形状にかかわらず、具体的には「球状フィラー」であっても、「熱伝導性フィラーの体積割合が、35〜75体積%」であると特定するものであるといえる。 しかしながら、発明の詳細な説明には、熱伝導性フィラーが「非球状フィラー」である場合に、熱伝導性フィラーの体積割合は、好ましくは35〜75体積%であることが記載(段落【0028】)され、熱伝導性フィラーが「球状フィラー」である場合には、熱伝導性フィラーの体積割合は、好ましくは65〜95%であることが記載(段落【0043】)されており、熱伝導性フィラーの形状にかかわらず、「熱伝導性フィラーの体積割合が、35〜75体積%」とすることは記載されていない。 以上のことを踏まえると、出願時の技術常識に照らしても、本件請求項7に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件請求項7に係る発明及び請求項7を引用する請求項12ないし14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 エ.請求項9において「前記樹脂の粘度が10Pa・s以下である」と記載され、当該請求項9は請求項1についても引用するものである。ここで、請求項1においては、熱伝導性フィラーの形状については何ら特定がなされていない。したがって、当該請求項9が請求項1を引用する場合のものにおいては、熱伝導性フィラーの形状にかかわらず、具体的には「非球状フィラー」であっても、「樹脂の粘度が10Pa・s」であると特定するものであるといえる。 しかしながら、発明の詳細な説明には、熱伝導性フィラーが「球状フィラー」である場合に、樹脂の25℃における粘度は好ましくは10Pa・s以下であることが記載(段落【0043】)され、熱伝導性フィラーが「非球状フィラー」である場合には、樹脂の25℃における粘度は好ましくは10〜2000Pa・sであることが記載(段落【0031】)されており、熱伝導性フィラーの形状にかかわらず、「樹脂の粘度が10Pa・s以下」とすることは記載されていない。 以上のことを踏まえると、出願時の技術常識に照らしても、本件請求項9に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件請求項9に係る発明及び請求項9を引用する請求項10ないし14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 オ.請求項10において「前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して1000〜3000質量部である」と記載され、当該請求項10は請求項1についても引用するものである。ここで、請求項1においては、熱伝導性フィラーの形状については何ら特定がなされていない。したがって、当該請求項10が請求項1を引用する場合のものにおいては、熱伝導性フィラーの形状にかかわらず、具体的には「非球状フィラー」であっても、「熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して1000〜3000質量部」であると特定するものであるといえる。 しかしながら、発明の詳細な説明には、熱伝導性フィラーが「球状フィラー」である場合に、熱伝導性フィラーの含有量は、樹脂100質量部に対して好ましくは1000〜3000質量部であることが記載(段落【0043】)され、熱伝導性フィラーが「非球状フィラー」である場合には、熱伝導性フィラーの含有量は、樹脂100質量部に対して好ましくは180〜700質量部であることが記載(段落【0027】)されており、熱伝導性フィラーの形状にかかわらず、「熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して1000〜3000質量部」とすることは記載されていない。 以上のことを踏まえると、出願時の技術常識に照らしても、本件請求項10に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件請求項10に係る発明及び請求項10を引用する請求項11ないし14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 カ.請求項11において「前記熱伝導性フィラーの体積割合が、65〜95体積%である」と記載され、当該請求項11は請求項1についても引用するものである。ここで、請求項1においては、熱伝導性フィラーの形状については何ら特定がなされていない。したがって、当該請求項11が請求項1を引用する場合のものにおいては、熱伝導性フィラーの形状にかかわらず、具体的には「非球状フィラー」であっても、「熱伝導性フィラーの体積割合が、65〜95体積%」であると特定するものであるといえる。 しかしながら、発明の詳細な説明には、熱伝導性フィラーが「球状フィラー」である場合に、熱伝導性フィラーの体積割合は、好ましくは65〜95体積%であることが記載(段落【0043】)され、熱伝導性フィラーが「非球状フィラー」である場合には、熱伝導性フィラーの体積割合は、好ましくは35〜75%であることが記載(段落【0028】)されており、熱伝導性フィラーの形状にかかわらず、「熱伝導性フィラーの体積割合が、65〜95体積%」とすることは記載されていない。 以上のことを踏まえると、出願時の技術常識に照らしても、本件請求項11に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件請求項11に係る発明及び請求項11を引用する請求項12ないし14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 (2)引用例の記載事項 (2−1)引用例1 取消理由通知において引用した引用例1(特開2015−92534号公報)には、「シリコーン熱伝導性シート」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「【請求項1】 熱伝導性充填材が混合されたシリコーン硬化物から形成されたシリコーン熱伝導性シートであって、厚さ方向に貫通した複数の孔が設けられるシリコーン熱伝導性シート。 ・・・・・(中 略)・・・・・ 【請求項7】 熱伝導率が0.3〜7.0W/m・Kである請求項1〜6のいずれかに記載のシリコーン熱伝導性シート。」 イ.「【0022】 上記シリコーン熱伝導性シートのアスカーC硬度は、2〜25であることが好ましい。シリコーン熱伝導性シートは、硬度が上記範囲内であると、後述するように開口面積率を所定の範囲に調整することと相俟って、圧縮強度をより適切なものとしつつ、放熱性も良好にすることが可能になる。このような観点から、アスカーC硬度は、より好ましくは5〜20、さらに好ましくは5〜15である。 また、シリコーン熱伝導性シートの熱伝導率は、0.3〜7.0W/m・Kであることが好ましく、1.0〜5.0W/m・Kであることがより好ましい。シリコーン熱伝導性シートの熱伝導率が上記範囲内であれば、シートに複数の孔を設けても、シリコーン熱伝導性シートの良好な熱伝導性が確保され、電子部品の熱をより効率的に放熱することが可能になる。」 ウ.「【0027】 <圧縮強度> シリコーン熱伝導性シートの25%圧縮強度は、例えば200kPa以下であればよいが、150kPa以下であることが好ましく、120kPa以下であることがより好ましい。 また、シリコーン熱伝導性シートの50%圧縮強度は、例えば400kPa以下であればよいが、350kPaであることが好ましく、300kPa以下であることがさらに好ましい。 シリコーン熱伝導性シートは、25%圧縮強度が150kPa以下となるとともに、50%圧縮強度が350kPa以下となることで、その柔軟性に優れ、かつ圧縮率が大きくなっても面圧縮に対する反力が小さくなり、放熱シートとして小型の電子機器において好適に使用されるようになる。また、落下した場合には、電子部品等に付与される衝撃を吸収することも可能になる。 また、圧縮強度の下限値は、特に限定されないが、シリコーン熱伝導性シートの25%圧縮強度は、好ましくは10kPa以上、より好ましくは40kPa以上である。また、シリコーン熱伝導性シートの50%圧縮強度は、好ましくは100kPa以上、より好ましくは180kPa以上である。」 エ.「【0031】 実施例1 商品名「TC−CAS−10」のシリコーンパッド(信越化学工業株式会社製、厚み:0.5mm、アスカーC硬度:10、熱伝導率:1.8W/m・K)を30mm×30mmに切り出し、さらに直径6mmの円形の孔を5個形成し、実施例1のシリコーン熱伝導性シートを得た。5個の孔は、図2に示すように、4個の孔を碁盤目状に並べ、1個の孔をその4個の孔の中心に配置した。 ・・・・・(中 略)・・・・・ 【0035】 実施例5 商品名「EX30050」のシリコーンパッド(デクセリアルズ株式会社製、厚み:0.5mm、アスカーC硬度:25、熱伝導率:3.0W/m・K)を使用する以外は実施例2と同様に実施した。 【0036】 実施例6 商品名「EX30050」のシリコーンパッド(デクセリアルズ株式会社製、厚み:0.5mm、アスカーC硬度:25、熱伝導率:3.0W/m・K)を使用する以外は実施例4と同様に実施した。」 上記「ア.」ないし「エ.」から以下のことがいえる。 ・引用例1に記載の「シリコーン熱伝導性シート」は、上記「ア.」の【請求項1】の記載によれば、熱伝導性充填材が混合されたシリコーン硬化物から形成され、厚さ方向に貫通した複数の孔が設けられたシリコーン熱伝導性シートである。 ・上記「ア.」の【請求項7】、「イ.」、「エ.」の記載によれば、シリコーン熱伝導性シートの熱伝導率は0.3〜7.0W/m・Kである(実施例では、1.8W/m・Kあるいは3.0W/m・Kである。)。 ・上記「ウ.」の記載によれば、シリコーン熱伝導性シートは、25%圧縮強度が150kPa以下となるとともに、50%圧縮強度が350kPa以下となるものである。 以上のことから、上記記載事項を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 「熱伝導性充填材が混合されたシリコーン硬化物から形成され、厚さ方向に貫通した複数の孔が設けられたシリコーン熱伝導性シートであって、 熱伝導率が0.3〜7.0W/m・Kであり、 25%圧縮強度が150kPa以下となるとともに、50%圧縮強度が350kPa以下となる、シリコーン熱伝導性シート、シリコーン熱伝導性シート。」 (2−2)引用例2 取消理由通知(決定の予告)において引用した引用例2(特開2010−132856号公報)には、「熱伝導シート」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「【請求項1】 0.1〜1mmol/gのカルボキシル基を有する有機高分子化合物(A)と、エポキシ当量が400以下であり、且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個である硬化剤(B)と、の反応物と、 鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(C)と、を含有する組成物を含む熱伝導シートであって、前記黒鉛粒子(C)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、熱伝導シート内部で、この熱伝導シートの厚み方向に配向している熱伝導シート。」 イ.「【請求項7】 熱伝導シート表面での前記黒鉛粒子(C)の配向方向への引張強度が、20〜30℃の温度範囲内で0.1MPa以上であり、且つ熱伝導シート表面でのアスカーC硬度が80以下である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の熱伝導シート。」 ウ.「【0010】 本発明は、高い熱伝導性及び高い柔軟性を保ちつつ、高い膜強度及び高い圧縮復元性を有する熱伝導シート、この熱伝導シートを生産性、コスト面及びエネルギー効率の点で有利に、且つ確実に得られる製造方法、及び高い放熱能力を持つ、この熱伝導シートを用いた放熱装置を提供することを目的とするものである。」 エ.「【0023】 <熱伝導シート> 本発明の熱伝導シートは、0.1〜1mmol/gのカルボキシル基を有する有機高分子化合物(A)と、エポキシ当量が400以下であり、且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個である硬化剤(B)と、の反応物と、 鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(C)と、を含有する組成物を含む熱伝導シートであって、前記黒鉛粒子(C)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、熱伝導シート内部で、この熱伝導シートの厚み方向に配向している。 以下、本発明の熱伝導シートに用いられる材料を説明する。」 オ.「【0036】 (黒鉛粒子(C)) 本発明に用いられる黒鉛粒子(C)は、その形状が、鱗片状、楕球状又は棒状のものが用いられ、中でも熱伝導性に優れるため鱗片状が好ましい。黒鉛粒子(C)の結晶中の6員環面の配向方向は、鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向である。これは、X線回折測定によって確認することができる。」 カ.「【0044】 (熱伝導シートの物性) 本発明の熱伝導シートは、熱伝導シート表面での前記黒鉛粒子(C)の配向方向への引張強度が、20〜30℃の温度範囲内で0.1MPa以上であり、且つ前記熱伝導シート表面でのアスカーC硬度が80以下である。 前記黒鉛粒子(C)の配向方向への引張強度が、20〜30℃の温度範囲内で0.1MPa以上であると、取り扱い性が向上し、実装時におけるシートが破れにくくなるため好ましい。 本発明の熱伝導シート表面でのアスカーC硬度が80以下であると、被着体との密着性が良く、熱伝導率が高くなるため好ましい。」 キ.「【0075】 (実施例1) 有機高分子化合物(A)としてカルボキシル基含有アクリル酸エステル共重合樹脂(アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−280改2DR、カルボキシル基含有量:0.69mmol/g、重量平均分子量:53万、Tg=−39℃)931g、硬化剤(B)としてビスフェノールF型エポキシ(東都化成株式会社製、商品名:YDF−170、2官能、エポキシ当量:156g/eq.)101g、黒鉛粒子(C)として鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、長径の平均値:500〜1000μm)2220g、及び難燃剤として芳香族縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製、商品名:CR−741)871gを、100℃で30分、ニーダー混練機(株式会社モリヤマ製、DS3−SGHM−E型加圧双腕型ニーダー)で混練し、組成物を得た。 【0076】 組成物全体積に対する各成分の配合比を、各成分の比重から計算したところ、有機高分子化合物(A)が29.3体積%、硬化剤(B)が3.2体積%、黒鉛粒子(C)が40体積%、及び難燃剤が27.5体積%であった。また、硬化剤(B)の含有量は、有機高分子化合物(A)中のカルボキシル基の量に対して、1当量であった。 【0077】 得られた組成物を0.5g程度の塊に千切りし、20mlの酢酸エチルに溶かし、組成物中の有機高分子化合物(A)が、酢酸エチル内に溶け出しているのを目視で確認し、組成物中の有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が、未反応であることを確認した。 【0078】 得られた組成物を50g程度の塊に千切ったものを、押し出し成形機(株式会社パーカー製、商品名:HKS40−15型押し出し機)及びロール成形機(日立機械エンジニアリング株式会社製、商品名:V2S−SR型シーティング熱ロール機)を用い、厚さ2mm状の1次シートを得た。 【0079】 得られた1次シートを、5cm角にカッターで切り出し、切り出したシートを150枚積層し、積層方向に0.3MPaの圧力をかけながら、170℃で、3時間加熱し、厚さ30cmの成形体を得た。 得られた成形体の一部から0.5g程度の塊を千切り取り、20mlの酢酸エチルに溶かし、成形体中の有機高分子化合物(A)が、酢酸エチル内に溶け出していないのを目視で確認し、成形体中の有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が、反応していることを確認した。 【0080】 次いで、この成形体をドライアイスで−10℃に冷却した後、5cm×30cmの積層断面を、0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名:超仕上げかんな盤スーパーメカ、スリット部からの刀部の突出長さ:0.11mm)を用いてスライス(1次シート面から出る法線に対して0度、即ち、黒鉛粒子(C)の配向方向に対して90度の角度でスライス)し、縦5cm×横30cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(I)を得た。 【0081】 この熱伝導シート(I)の物性値を求めたところ、引張強度は0.5MPa、アスカーC硬度は80、圧縮復元率は90%、及び熱伝導率は30W/mKと良好な値を示した。 【0082】 この熱伝導シート(I)を、2cm角に切り抜き、4cm角の銅板に挟み、0.6MPaの圧力をかけながら、170℃で、3時間加熱して圧着し、20〜30℃の場所に1日放置した後に、熱伝導シートと銅板とを剥がすと、熱伝導シートの一部が銅板に付着残存することなく剥がすことが可能であった。」 上記「ア.」ないし「キ.」から以下のことがいえる。 ・引用例2に記載の「熱伝導シート」は、上記「ア.」、「エ.」、「オ.」の記載によれば、0.1〜1mmol/gのカルボキシル基を有する有機高分子化合物(A)と、エポキシ当量が400以下であり、且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個である硬化剤(B)と、の反応物と、鱗片状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向に配向している黒鉛粒子(C)と、を含有する組成物を含み、前記黒鉛粒子(C)の鱗片の面方向が、熱伝導シート内部でこの熱伝導シートの厚み方向に配向している熱伝導シートである。 ・上記「イ.」、「カ.」、「キ.」の記載によれば、熱伝導シートは、アスカーC硬度が80以下であり、実施例1では80である。また、引張強度が0.1MPa以上であり、実施例1では0.5MPaである。 ・上記「キ.」の記載によれば、熱伝導シートの熱伝導率は、実施例1では30W/mKである。 以上のことから、特に実施例1に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 「0.1〜1mmol/gのカルボキシル基を有する有機高分子化合物(A)と、エポキシ当量が400以下であり、且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個である硬化剤(B)と、の反応物と、鱗片状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向に配向している黒鉛粒子(C)と、を含有する組成物を含み、前記黒鉛粒子(C)の鱗片の面方向が、熱伝導シート内部でこの熱伝導シートの厚み方向に配向している熱伝導シートであって、 熱伝導率が30W/mKであり、 アスカーC硬度が80であり、 引張強度が0.5MPaである、熱伝導シート。」 (2−3)引用例3 取消理由通知(決定の予告)において引用した引用例3(特開2011−162642号公報)には、「熱伝導シート」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「【請求項1】 鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の六角平面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子又は六方晶窒化ほう素粒子(A)と、Tgが50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の架橋硬化物(B)と、重量平均分子量が5000以上100000以下、かつTgが0℃以下であり、反応性官能基を有さないポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(C)と、を含有する組成物を含む熱伝導シートであって、 前記黒鉛粒子又は六方晶窒化ほう素粒子(A)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が熱伝導シートの厚み方向に配向していることを特徴とする熱伝導シート。」 イ.「【0017】 <熱伝導シート> 本発明の熱伝導シートは、鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の六角平面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子又は六方晶窒化ほう素粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)と、重量平均分子量が5000以上100000以下、かつTgが0℃以下であり、反応性官能基を有さないポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(C)とを含有する組成物を含んでなる。 前記黒鉛粒子又は六方晶窒化ほう素粒子(A)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、熱伝導シートの厚み方向に配向していることを特徴とする。 【0018】 本発明における黒鉛粒子又は六方晶窒化ほう素粒子(A)の形状は、鱗片状、楕球状又は棒状であり、なかでも鱗片状が好ましい。前記黒鉛粒子又は六方晶窒化ほう素粒子(A)の形状が球状や不定形の場合は熱伝導性に劣り、繊維状の場合はシートに成形するのが困難で生産性に劣る。」 ウ.「【0067】 (実施例1) 黒鉛粒子(A)として鱗片状の膨張黒鉛粒子(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF−L、質量平均径:450μm)555g、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(B’)としてアクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(共重合質量比82/10/3/5、ナガセケムテックス製、重量平均分子量:53万、Tg:−39℃)145g、硬化剤(b)としてネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス製、EX−211)9.7g、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(C)として、ARUFON UP−1170(東亞合成製、液状、重量平均分子量:8000、Tg:−57℃)103g、難燃剤としてビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(りん酸エステル系難燃剤、大八化学工業株式会社製、商品名:CR−741)218gをポリエチレン袋中で予備混合して組成物を得た。 【0068】 この組成物を温度80℃に設定したロール混練機(関西ロール(株)製、LABOLATRY MILL(8×20Tロール))を用いて混練し、混練シートを得た。 この混練シートの一部を直径1cmの球状に丸め、小型プレスで0.5mm厚のシート状にした。これを20枚に切り分けたものを積層して再度同様にプレスした。この操作を更にもう1回繰り返して得たシートの表面をX線回折により分析した。2θ=77°付近に黒鉛の(110)面に対応するピークが確認できず、用いた膨張黒鉛粉末(HGF−L)が「結晶中の6員環面が鱗片の面方向に配向している」ことを確認できた。 【0069】 得られた混練シートを2〜3mm角程度の大きさに刻んでペレット状にした。これを、(株)東洋精機製作所製、ラボプラストミルMODEL20C200を用い、100℃で幅60mm厚み1mmのシート状に押し出し一次シートを得た。 上記で得られた混練シート及び一次シートにおいて、成分(B’)と硬化剤(b)が硬化していないことを確認するため、予め、混練シート及び一次シートの一部分(0.2g程度)を切り取り、その10〜50倍量の酢酸n-ブチルの入ったサンプル瓶に投入、振り混ぜて樹脂が溶解することを目視確認する方法により、成分(B’)と硬化剤(b)が未反応であることを確認した。 【0070】 弾性率の変化が15%以下となるような加熱条件を決定するために、上記一次シートを少量サンプリングし、プレスして0.5mm厚のサンプルシートにし、これを1cm×5cmに打ち抜き、サンプルシートを温度・時間(1時間間隔)を振って硬化させた。その結果、170℃で6時間加熱した硬化サンプルシートと5時間加熱した硬化サンプルシートの、温度25±1℃の環境に1時間静置した後の弾性率の差は3%の変化であった。よって、170℃、6時間を加熱(硬化)条件とした。 【0071】 この一次シートを4cm×20cmの大きさにカッターで切り出し、40枚積層し、手で軽く押さえてシート間を接着させ、さらに3kgの重石を載せた上170℃の熱風乾燥機で6時間処理してシート間を良く接着させ、かつ組成物中でポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(B’)と硬化剤(b)とを反応させてポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の架橋硬化物(B)に変成させ、厚さ4cmの成形体を得た。 次いで、この成形体をドライアイスで−20℃に冷却した後、4cm×20cmの積層断面を超仕上げカンナ盤((株)丸仲鐵工所製 商品名:スーパーメカ(スリット部からの刀部の突出長さ:0.19mm))を用いてスライスし(一次シート面から出る法線に対し0度の角度でスライス)、縦4cm×横20cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(I)を得た。 【0072】 熱伝導シート(I)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定しその平均値を求めたところ90度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。 【0073】 熱伝導シート(I)を2cm角に打ち抜いたものを高さ5mm以上になるまで積層した上、25℃においてアスカー硬度計C型で測定したところ、アスカーC硬度は60と柔軟なゴムシートであることが確認できた。 【0074】 この熱伝導シート(I)の熱伝導率を測定したところ、70W/mKと良好な値を示した。また、熱伝導シート(I)のトランジスタと銅ヒートシンクに対する密着性も良好であった。 【0075】 この熱伝導シート(I)のタック力を測定したところ、25gfと仮固定に充分な値を示した。 この熱伝導シート(I)の引張強度を測定したところ、0.32MPaとハンドリングに充分な値を示した。 【0076】 次に、この熱伝導シート(I)の耐熱性を確認するため、熱風乾燥機を用いて170℃で3h熱処理した。熱処理後のタック力を測定したところ、22gfと充分にタック力を保持していた。また、熱処理前後の引張弾性率の変化は5%と少なく耐熱性が高いことが確認できた。結果を表1に示す。」 上記「ア.」ないし「ウ.」から以下のことがいえる。 ・引用例3の「熱伝導シート」は、上記「ア.」、「イ.」の記載によれば、鱗片状であり、結晶中の六角平面が鱗片の面方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の架橋硬化物(B)と、重量平均分子量が5000以上100000以下、かつTgが0℃以下であり、反応性官能基を有さないポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(C)と、を含有する組成物を含み、前記黒鉛粒子(A)の鱗片の面方向が熱伝導シートの厚み方向に配向している熱伝導シートである。 ・上記「ウ.」の記載によれば、熱伝導シートは、実施例1ではアスカーC硬度は60、熱伝導率は70W/mK、引張強度は0.32MPaである。 以上のことから、特に実施例1に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、引用例3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているといえる。 「鱗片状であり、結晶中の六角平面が鱗片の面方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の架橋硬化物(B)と、重量平均分子量が5000以上100000以下、かつTgが0℃以下であり、反応性官能基を有さないポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(C)と、を含有する組成物を含み、前記黒鉛粒子(A)の鱗片の面方向が熱伝導シートの厚み方向に配向している熱伝導シートであって、 熱伝導率が70W/mKであり、 アスカーC硬度が60であり、 引張強度が0.32MPaである、熱伝導シート。」 (2−4)引用例4 取消理由通知(決定の予告)において引用した引用例4(国際公開第2016/129257号)には、「熱伝導シート」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「[請求項1] 樹脂と、粒子状炭素材料と、繊維状炭素材料とを含む、熱伝導シート。 ・・・・(中 略)・・・・ [請求項5] 厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上である、請求項1〜4の何れかに記載の熱伝導シート。 [請求項6] アスカーC硬度が70以下である、請求項1〜5の何れかに記載の熱伝導シート。 [請求項7] 引張強度が1.5MPa以上である、請求項1〜6の何れかに記載の熱伝導シート。」 イ.「[請求項11] 厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上であり、 アスカーC硬度が70以下であり、 引張強度が1.5MPa以上である、熱伝導シート。」 ウ.「[0008] 本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、樹脂と、粒子状炭素材料と、繊維状炭素材料とを含む組成物を用いて形成した熱伝導シートが、熱伝導性、柔軟性および強度の全てに優れていることを見出し、本発明を完成させた。 [0009] 即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上であり、アスカーC硬度が70以下であり、引張強度が1.5MPa以上であることを特徴とする。このような熱伝導シートでは、熱伝導性、柔軟性および強度が十分に高いレベルで並立されている。」 エ.「[0056]<熱伝導シートの性状> そして、本発明の熱伝導シートは、特に限定されることなく、以下の性状を有していることが好ましい。 [0057][熱伝導率] 熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が、25℃において、20W/m・K以上であることが好ましく、30W/m・K以上であることがより好ましく、40W/m・K以上であることが更に好ましい。熱伝導率が20W/m・K以上であれば、例えば発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用した場合に、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えることができる。 [0058] また、熱伝導シートは、25℃における熱伝導率と、90℃における熱伝導率との間の増減率が、20%以内であることが好ましく、15%以内であることがより好ましい。熱伝導率の増減率が20%以内であれば、幅広い温度帯において優れた熱伝導性を発揮することができる。 [0059][硬度] 更に、熱伝導シートは、アスカーC硬度が、70以下であることが好ましく、65以下であることがより好ましい。アスカーC硬度が70以下であれば、例えば発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用した場合に、優れた柔軟性を発揮し、発熱体と放熱体とを良好に密着させることができる。 [0060][強度] また、熱伝導シートは、引張強度が、1.5MPa以上であることが好ましく、2.0MPa以上であることがより好ましく、2.2MPa以上であることが更に好ましい。引張強度が1.5MPa以上であれば、ハンドリングおよび加工が容易になると共に、取り付け時および使用中の熱伝導シートの損傷を十分に抑制することができるからである。また、熱伝導シートの硬度との関係から、引張強度は、10MPa以下であることが好ましい。」 上記「ア.」ないし「エ.」から以下のことがいえる。 ・引用例4の「熱伝導シート」は、上記「ア.」の[請求項1]の記載によれば、樹脂と、粒子状炭素材料と繊維状炭素材料とを含む熱伝導シートである。 ・上記「ア.」の[請求項5]〜[請求項7]、「イ.」ないし「エ.」の記載によれば、熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上であり、アスカーC硬度が70以下であり、引張強度が1.5MPa以上である。 以上のことから、上記記載事項を総合勘案すると、引用例4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されているといえる。 「樹脂と、粒子状炭素材料と繊維状炭素材料とを含む熱伝導シートであって、 厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上であり、 アスカーC硬度が70以下であり、 引張強度が1.5MPa以上である、熱伝導シート。」 (3)取消理由についての当審の判断 (3−1)令和3年10月28日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(理由A−2ないし理由A−4(進歩性))について 理由A−2(進歩性:引用例2を主引例とする場合)について ア.本件発明1について 本件発明1と引用発明2とを対比する。 (ア)熱伝導シートについて 引用発明2における鱗片状の「黒鉛粒子(C)」、有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)との「反応物」は、それぞれ本件発明1でいう「熱伝導性フィラー」、「樹脂」に相当する。そして、引用発明2における「熱伝導シート」は、これら黒鉛粒子(C)と反応物を含有する組成物を含むものであることから、本件発明1でいう「熱伝導シート」に相当するものである。 したがって、本件発明1と引用発明2とは、「熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シート」である点で一致する。 (イ)熱伝導率について 引用発明2の熱伝導シートにおける熱伝導率は30W/mKであり、本件発明1で特定する「7.5W/mK以上」の範囲(条件)に含まれる。 (ウ)30%圧縮強度について 本件発明1では「30%圧縮強度が1500kPa以下」であると特定するのに対し、引用発明2ではそのような特定を有していない点で相違する。 (エ)引張強度について 引用発明2の熱伝導シートにおける引張強度は0.5MPaであり、本件発明1で特定する「0.08MPa以上」の範囲(条件)に含まれる。 (オ)よって上記(ア)ないし(エ)によれば、本件発明1と引用発明2とは、 「熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7.5W/mK以上であり、引張強度が0.08MPa以上であることを特徴とする、熱伝導シート。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点] 本件発明1では「30%圧縮強度が1500kPa以下」であると特定するのに対し、引用発明2ではそのような特定を有していない点。 (カ)そこで、上記相違点について検討する。 本件発明1における「30%圧縮強度」の値と引用発明2における「アスカーC硬度」の値とはともに、熱伝導シートの柔軟性を評価する指標であるといえる点で共通するものであるが、そもそも引用例2には「N%圧縮強度」の値についての記載も示唆もなく、引用発明2に係る熱伝導シートの30%圧縮強度の値がどの程度なのかは不明である。 ここで、甲第15号証(東邦工業ゴム株式会社、ゴムスポンジシート)の各表の「硬度(Cタイプ)」と「25%圧縮荷重」の測定値を参照すると、「30%圧縮強度」の値と「アスカーC硬度」の値との間に正の相関関係があるように解されるが、各表のいずれもゴムスポンジシートについてのものであって、引用発明2のように樹脂(有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)との反応物)と熱伝導性フィラー(鱗片状の黒鉛粒子(C))とを含有する熱伝導シートではなく、さらに、「N%圧縮強度」はシート全体を圧縮して測定する(本件特許明細書の段落【0051】を参照)のに対して、「アスカーC硬度」は押針でシートを部分的に加圧して測定する(甲第9号証の2222−2223頁を参照)という測定方法の違いも考慮すると、引用発明2のように樹脂と熱伝導性フィラーとを含有する熱伝導シートにおいては、樹脂や熱伝導性フィラーの種類や配合比などにかかわらず必ず正の相関関係があるとまでは一般化していうことはできない。そして、引用例2の段落【0044】に「本発明の熱伝導シート表面でのアスカーC硬度が80以下であると、被着体との密着性がよく、熱伝導率が高くなるため好ましい。」との記載があることから、仮に引用発明2におけるアスカーC硬度の値をより被着体との密着性がよくなるように80よりも小さくしたとしても、必ずしも30%圧縮強度の値も小さくなるとは限らない。なお、通常、熱伝導シートのアスカーC硬度の値を変化させると引張強度などの他のパラメータの値も変動するといえ(引用例2の各実施例を参照)、他のパラメータの値、特に引張強度の値を本件発明1で特定する範囲内に保持しつつもアスカーC硬度の値を小さい値に変化させることについても、樹脂や熱伝導性フィラーの種類や配合比などの組み合わせについて試行錯誤を必要とし必ずしも容易でないといえる。 以上のことを踏まえると、引用発明2において、「30%圧縮強度」の上限値を「1500kPa」に設定し、「1500kPa以下」の条件(範囲)を満たすものとすることについてまでも当業者が容易になし得たものとすることはできない。 なお、取消理由通知(決定の予告)等において採用しなかった他の証拠〔甲第6号証(特開2011−1540号公報)、甲第7号証(特開2016−204570号公報)、甲第13号証(特開2004−288825号公報)、及び甲第14号証(特開2012−38763号公報)〕を参照しても、引用発明2において、「30%圧縮強度」の上限値を「1500kPa」に設定し、「1500kPa以下」の条件(範囲)を満たすものとすることを導き出すことはできない。 (キ)よって、本件発明1は、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.本件発明2、4ないし7、13、14について 請求項2、4ないし7、13、14は請求項1を引用するものであり、本件発明2、4ないし7、13、14は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2、4ないし7、13、14は、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.本件発明3について 取消理由通知(決定の予告)において引用した引用例6(国際公開第2013/099089号)には、優れた熱伝導率を示すシートを得ることができるように厚さに対する長径の比すなわちアスペクト比が30以上のものを用いることが記載されているにすぎない(段落[0081]を参照)。 そして、請求項3は請求項1を引用するものであり、本件発明3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明3は、引用例2に記載された発明及び周知の技術事項(引用例6に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 理由A−3(進歩性:引用例3を主引例とする場合)について ア.本件発明1について 本件発明1と引用発明3とを対比する。 (ア)熱伝導シートについて 引用発明3における鱗片状の「黒鉛粒子(A)」、「ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の架橋硬化物(B)」及び「反応性官能基を有さないポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(C)」は、それぞれ本件発明1でいう「熱伝導性フィラー」、「樹脂」に相当する。そして、引用発明3における「熱伝導シート」は、これら黒鉛粒子(A)と、架橋硬化物(B)及び高分子化合物(C)とを含有する組成物を含むものであることから、本件発明1でいう「熱伝導シート」に相当するものである。 したがって、本件発明1と引用発明3とは、「熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シート」である点で一致する。 (イ)熱伝導率について 引用発明3の熱伝導シートにおける熱伝導率は70W/mKであり、本件発明1で特定する「7.5W/mK以上」の範囲(条件)に含まれる。 (ウ)30%圧縮強度について 本件発明1では「30%圧縮強度が1500kPa以下」であると特定するのに対し、引用発明3ではそのような特定を有していない点で相違する。 (エ)引張強度について 引用発明3の熱伝導シートにおける引張強度は0.32MPaであり、本件発明1で特定する「0.08MPa以上」の範囲(条件)に含まれる。 (オ)よって上記(ア)ないし(エ)によれば、本件発明1と引用発明3とは、 「熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7.5W/mK以上であり、引張強度が0.08MPa以上であることを特徴とする、熱伝導シート。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点] 本件発明1では「30%圧縮強度が1500kPa以下」であると特定するのに対し、引用発明3ではそのような特定を有していない点。 (カ)そこで、上記相違点について検討する。 本件発明1における「30%圧縮強度」の値と引用発明3における「アスカーC硬度」の値とはともに、熱伝導シートの柔軟性を評価する指標であるといえる点で共通するものであるが、そもそも引用例3には「N%圧縮強度」の値についての記載も示唆もなく、引用発明3に係る熱伝導シートの30%圧縮強度の値がどの程度なのかは不明である。 ここで、甲第15号証(東邦工業ゴム株式会社、ゴムスポンジシート)の各表の「硬度(Cタイプ)」と「25%圧縮荷重」の測定値を参照すると、「30%圧縮強度」の値と「アスカーC硬度」の値との間に正の相関関係があるように解されるが、各表のいずれもゴムスポンジシートについてのものであって、引用発明3のように樹脂(ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の架橋硬化物(B)及び反応性官能基を有さないポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(C))と熱伝導性フィラー(鱗片状の黒鉛粒子(A))とを含有する熱伝導シートではなく、さらに、「N%圧縮強度」はシート全体を圧縮して測定する(本件特許明細書の段落【0051】を参照)のに対して、「アスカーC硬度」は押針でシートを部分的に加圧して測定する(甲第9号証の2222−2223頁を参照)という測定方法の違いも考慮すると、引用発明3のように樹脂と熱伝導性フィラーとを含有する熱伝導シートにおいては、樹脂や熱伝導性フィラーの種類や配合比などにかかわらず必ず正の相関関係があるとまでは一般化していうことはでない。そして、引用例3の段落【0073】に「アスカーC硬度は60と柔軟なゴムシートであることが確認できた。」との記載があり、仮に引用発明3におけるアスカーC硬度の値をより柔軟なゴムシートとなるように60よりも小さくしたとしても、必ずしも30%圧縮強度の値も小さくなるとは限らない。なお、通常、熱伝導シートのアスカーC硬度の値を変化させると引張強度などの他のパラメータの値も変動するといえ(引用例3の各実施例を参照)、他のパラメータの値、特に引張強度の値を本件発明1で特定する範囲内に保持しつつもアスカーC硬度の値を小さい値に変化させることについても、樹脂や熱伝導性フィラーの種類や配合比などの組み合わせについて試行錯誤を必要とし必ずしも容易でないといえる。 以上のことを踏まえると、引用発明3において、「30%圧縮強度」の上限値を「1500kPa」に設定し、「1500kPa以下」の条件(範囲)を満たすものとすることについてまでも当業者が容易になし得たものとすることはできない。 なお、取消理由通知(決定の予告)等において採用しなかった他の証拠〔甲第6号証(特開2011−1540号公報)、甲第7号証(特開2016−204570号公報)、甲第13号証(特開2004−288825号公報)、及び甲第14号証(特開2012−38763号公報)〕を参照しても、引用発明3において、「30%圧縮強度」の上限値を「1500kPa」に設定し、「1500kPa以下」の条件(範囲)を満たすものとすることを導き出すことはできない。 (キ)よって、本件発明1は、引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.本件発明2、4ないし7、13、14について 請求項2、4ないし7、13、14は請求項1を引用するものであり、本件発明2、4ないし7、13、14は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2、4ないし7、13、14は、引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.本件発明3について 取消理由通知(決定の予告)において引用した引用例6(国際公開第2013/099089号)には、優れた熱伝導率を示すシートを得ることができるように厚さに対する長径の比すなわちアスペクト比が30以上の鱗片状黒鉛粒子を用いることが記載されているにすぎない(段落[0081]を参照)。 そして、請求項3は請求項1を引用するものであり、本件発明3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明3は、引用例3に記載された発明及び周知の技術事項(引用例6に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 理由A−4(進歩性:引用例4を主引例とする場合)について ア.本件発明1について 本件発明1と引用発明4とを対比する。 (ア)熱伝導シートについて 引用発明4における「粒子状炭素材料と繊維状炭素材料」、「樹脂」は、それぞれ本件発明1でいう「熱伝導性フィラー」、「樹脂」に相当する。そして、引用発明4における「熱伝導シート」は、これら粒子状炭素材料及び繊維状炭素材料と、樹脂とを含むものであることから、本件発明1でいう「熱伝導シート」に相当するものである。 したがって、本件発明1と引用発明4とは、「熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シート」である点で一致する。 (イ)熱伝導率について 引用発明4の熱伝導シートにおける熱伝導率は20W/m・K以上であり、本件発明1で特定する「7.5W/mK以上」の範囲(条件)に含まれる。 (ウ)30%圧縮強度について 本件発明1では「30%圧縮強度が1500kPa以下」であると特定するのに対し、引用発明4ではそのような特定を有していない点で相違する。 (エ)引張強度について 引用発明4の熱伝導シートにおける引張強度は1.5MPa以上であり、本件発明1で特定する「0.08MPa以上」の範囲(条件)に含まれる。 (オ)よって上記(ア)ないし(エ)によれば、本件発明1と引用発明4とは、 「熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7.5W/mK以上であり、引張強度が0.08MPa以上であることを特徴とする、熱伝導シート。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点] 本件発明1では「30%圧縮強度が1500kPa以下」であると特定するのに対し、引用発明4ではそのような特定を有していない点。 (カ)そこで、上記相違点について検討する。 本件発明1における「30%圧縮強度」の値と引用発明4における「アスカーC硬度」の値とはともに、熱伝導シートの柔軟性を評価する指標であるといえる点で共通するものであるが、そもそも引用例4には「N%圧縮強度」の値についての記載も示唆もなく、引用発明4に係る熱伝導シートの30%圧縮強度の値がどの程度なのかは不明である。 ここで、甲第15号証(東邦工業ゴム株式会社、ゴムスポンジシート)の各表の「硬度(Cタイプ)」と「25%圧縮荷重」の測定値を参照すると、「30%圧縮強度」の値と「アスカーC硬度」の値との間に正の相関関係があるように解されるが、各表のいずれもゴムスポンジシートについてのものであって、引用発明4のように樹脂と熱伝導性フィラー(粒子状炭素材料と繊維状炭素材料)とを含有する熱伝導シートではなく、さらに、「N%圧縮強度」はシート全体を圧縮して測定する(本件特許明細書の段落【0051】を参照)のに対して、「アスカーC硬度」は押針でシートを部分的に加圧して測定する(甲第9号証の2222−2223頁を参照)という測定方法の違いも考慮すると、引用発明4のように樹脂と熱伝導性フィラーとを含有する熱伝導シートにおいては、樹脂や熱伝導性フィラーの種類や配合比などにかかわらず必ず正の相関関係があるとまでは一般化していうことはできない。そして、引用例4の段落[0059]に「熱伝導シートは、アスカーC硬度が、70以下であることが好ましく、65以下であることがより好ましい。アスカーC硬度が70以下であれば、例えば発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用した場合に、優れた柔軟性を発揮し、発熱体と放熱体とを良好に密着させることができる。」との記載があることから、仮に引用発明4におけるアスカーC硬度の値をより優れた柔軟性を発揮するように70以下のより小さい値としたとしても、必ずしも30%圧縮強度の値も小さくなるとは限らない。なお、通常、熱伝導シートのアスカーC硬度の値を変化させると引張強度などの他のパラメータの値も変動するといえ(引用例4の各実施例を参照)、他のパラメータの値、特に引張強度の値を本件発明1で特定する範囲内に保持しつつもアスカーC硬度の値を小さい値に変化させることについても、樹脂や熱伝導性フィラーの種類や配合比などの組み合わせについて試行錯誤を必要とし必ずしも容易でないといえる。 以上のことを踏まえると、引用発明4において、「30%圧縮強度」の上限値を「1500kPa」に設定し、「1500kPa以下」の条件(範囲)を満たすものとすることについてまでも当業者が容易になし得たものとすることはできない。 なお、取消理由通知(決定の予告)等において採用しなかった他の証拠〔甲第6号証(特開2011−1540号公報)、甲第7号証(特開2016−204570号公報)、甲第13号証(特開2004−288825号公報)、及び甲第14号証(特開2012−38763号公報)〕を参照しても、引用発明4において、「30%圧縮強度」の上限値を「1500kPa」に設定し、「1500kPa以下」の条件(範囲)を満たすものとすることを導き出すことはできない。 (キ)よって、本件発明1は、引用例4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.本件発明2ないし7、13、14について 請求項2ないし7、13、14は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし7、13、14は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし7、13、14は、引用例4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3−2)令和3年6月4日付け取消理由通知に記載した上記(1−1)以外の取消理由(理由A−1(進歩性)、理由B(サポート要件))について 理由A−1(進歩性:引用例1を主引例とする場合)について ア.本件発明1について 本件発明1と引用発明1とを対比する。 (ア)熱伝導シートについて 引用発明1における「熱伝導性充填材」、「シリコーン硬化物」は、それぞれ本件発明1でいう「熱伝導性フィラー」、「樹脂」に相当する。そして、引用発明1における「シリコーン熱伝導性シート」は、熱伝導性充填材が混合されたシリコーン硬化物から形成されてなるものであり、熱伝導性充填材及びシリコーン硬化物を含有するものであることから、本件発明1でいう「熱伝導シート」に相当するものである。 したがって、本件発明1と引用発明1とは、「熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シート」である点で一致する。 (イ)熱伝導率について 熱伝導率について、本件発明1では「7.5W/mK以上」と特定するのに対し、引用発明1では0.3〜7.0W/m・Kである点で相違する。 (ウ)30%圧縮強度について 引用発明1のシリコーン熱伝導性シートにおける圧縮強度は25%圧縮強度が150kPa以下となるとともに、50%圧縮強度が350kPa以下であり、一般に圧縮率が高くなる程、圧縮強度は大きくなるから、引用発明1のシリコーン熱伝導性シートにおける30%圧縮強度は当然、50%圧縮強度の上限値の350kPaより低い値である。したがって、本件発明1で特定する「1500kPa以下」の範囲(条件)に含まれることは明らかである。 (エ)引張強度について 本件発明1では「引張強度が0.08MPa以上」であると特定するのに対し、引用発明1ではそのような特定を有していない点で相違する。 (オ)よって上記(ア)ないし(エ)によれば、本件発明1と引用発明1とは、 「熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シートであって、30%圧縮強度が1500kPa以下であることを特徴とする、熱伝導シート。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 熱伝導率について、本件発明1では「7.5W/mK以上」と特定するのに対し、引用発明1では0.3〜7.0W/m・Kである点。 [相違点2] 本件発明1では「引張強度が0.08MPa以上」であると特定するのに対し、引用発明1ではそのような特定を有していない点。 (カ)そこで、まず上記相違点1について検討する。 引用例1の段落【0022】には「また、シリコーン熱伝導性シートの熱伝導率は、0.3〜7.0W/m・Kであることが好ましく、1.0〜5.0W/m・Kであることがより好ましい。シリコーン熱伝導性シートの熱伝導率が上記範囲内であれば、シートに複数の孔を設けても、シリコーン熱伝導性シートの良好な熱伝導性が確保され、電子部品の熱をより効率的に放熱することが可能になる。」と記載されている。かかる記載によれば、シリコーン熱伝導性シートに複数の孔を設けることとの関係において、熱伝導率の上限については「7.0W/m・K」が好ましく、「5.0W/m・K」がより好ましいとされているものと解される(実施例においても、1.8W/m・Kあるいは3.0W/m・Kである(段落【0031】、【0035】、【0036】)。)。 してみると、熱伝導シートにおいて良好なハンドリング性(取り扱い性)を得るためには引張強度がおよそ0.1MPa以上必要であるという周知の技術事項を示す文献として引用した引用例2(特開2010−132856号公報)には、熱伝導性充填材として鱗片状の黒鉛粒子を用い、熱伝導シートの熱伝導率が30W/mKであることが記載され(上記(2−2)を参照)、引用例3(特開2011−162642号公報)には、熱伝導性充填材として鱗片状の黒鉛粒子を用い、熱伝導シートの熱伝導率が70W/mKであることが記載され(上記(2−3)を参照)、そして引用例5(特開2017−126614号公報)には、熱伝導性充填材として鱗片状の膨張黒鉛粉末を用い、熱伝導シートの初期熱伝導率が14.8W/mKであることが記載されている(段落【0094】〜【0109】を参照)としても、上述のより好ましいとされる上限の「5.0W/m・K」、さらには好ましいとされる「7.0W/m・K」をあえて超えて本件発明1で特定する「7.5W/m・K以上」を満たす値とすべき動機がなく、引用発明1において相違点1に係る構成を導き出すことはできない。なお、このことは取消理由通知(決定の予告)等において採用しなかった他の証拠〔甲第6号証(特開2011−1540号公報)、甲第7号証(特開2016−204570号公報)、甲第13号証(特開2004−288825号公報)、及び甲第14号証(特開2012−38763号公報)〕を参照しても同様であり、引用発明1において相違点1に係る構成を導き出すことはできない。 (キ)よって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用例1に記載された発明、及び周知の技術事項(引用例2、3、5に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 イ.本件発明2、3について 取消理由通知において引用した引用例6(国際公開第2013/099089号)には、優れた熱伝導率を示すシートを得ることができるように厚さに対する長径の比すなわちアスペクト比が30以上の鱗片状黒鉛粒子を用いることが記載されているにすぎない(段落[0081]を参照)。 そして、請求項2、3は請求項1を引用するものであり、本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2、3は、引用例1に記載された発明、及び周知の技術事項(引用例2、3、5、6に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 ウ.本件発明8について 取消理由通知において引用した引用例7(特開平5−65347号公報)には、熱伝導シートに用いられる熱伝導性フィラーとして球状のものは周知であることが記載されているにすぎない(段落【0011】を参照)。 そして、請求項8は請求項1を引用するものであり、本件発明8は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明8は、引用例1に記載された発明、及び周知の技術事項(引用例2、3、5、7に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 エ.本件発明13、14について 請求項13、14は請求項1を引用するものであり、本件発明13、14は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明13、14は、引用例1に記載された発明、及び周知の技術事項(引用例2,3,5に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 理由B(サポート要件)について 上記(1−2)の「ア.」ないし「ウ.」のとおりの記載不備の指摘に対して、本件訂正請求による訂正により、請求項3ないし7の各請求項について請求項1の引用が削除された。その結果、請求項5ないし7に係る発明及び請求項5ないし7を引用する請求項12ないし14に係る発明は、熱伝導性フィラーの形状が引用する請求項2に記載の「非球状フィラー」であるものに特定され、発明の詳細な説明に記載されたとおりのものとなった。 また、上記(1−2)の「エ.」ないし「カ.」のとおりの記載不備の指摘に対して、本件訂正請求による訂正により、請求項9ないし11の各請求項について請求項1の引用が削除された。その結果、請求項9ないし11に係る発明及び請求項9ないし11を引用する請求項12ないし14に係る発明は、熱伝導性フィラーの形状が引用する請求項8に記載の「球状フィラー」であるものに特定され、発明の詳細な説明に記載されたとおりのものとなった。 したがって、取消理由で指摘した不備な点は解消され、請求項5ないし7、9ないし11に係る特許、及び請求項5ないし7、9ないし11のいずれかを引用する請求項12ないし14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。 3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)申立理由の概要 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。 (1−1)申立理由A(新規性) 請求項1に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。 請求項1ないし4、6、7、13に係る発明は、下記の甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし4、6、7、13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。 請求項1ないし4、6、13に係る発明は、下記の甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし4、6、13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。 請求項1ないし4、6、13に係る発明は、下記の甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし4、6、13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。 記 甲第1号証:特開2015−92534号公報 甲第2号証:特開2010−132856号公報 甲第3号証:特開2011−162642号公報 甲第4号証:国際公開第2016/129257号 (1−2)申立理由B(実施可能要件) 本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1ないし14に係る発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、請求項1ないし14に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 (1−3)申立理由C(サポート要件) 請求項1ないし14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 (2)甲第1号証ないし甲第4号証の記載事項 甲第1号証の記載事項、及び甲第1号証に記載された発明は、上記「2.(2−1)引用例1」に記載したとおりである。 また、甲第2号証ないし甲第4号証の記載事項、及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明は、上記「2.(2−2)引用例2」ないし「2.(2−4)引用例4」に記載したとおりである。 (3)申立理由についての当審の判断 (3−1)申立理由A(新規性)について ア.甲第1号証を引用例とする場合 甲第1号証に記載された発明は、上記引用発明1である。 そして、本件発明1と甲第1号証に記載された発明(引用発明1)とを対比すると、上記「2.(3−2)」の「理由A−1(進歩性:引用例1を主引例とする場合)について」に記載したとおり、以下の点で相違し、その余の点で一致する。 [相違点1] 熱伝導率について本件発明1では「7.5W/mK以上」と特定するのに対し、甲第1号証に記載された発明では0.3〜7.0W/m・Kである点。 [相違点2] 本件発明1では「引張強度が0.08MPa以上」であると特定するのに対し、甲第1号証に記載された発明ではそのような特定を有していない点。 よって、上記のとおり相違点があるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。 イ.甲第2号証を引用例とする場合 甲第2号証に記載された発明は、上記引用発明2である。 そして、本件発明1と甲第2号証に記載された発明(引用発明2)とを対比すると、上記「2.(3−1)」の「理由A−2(進歩性:引用例2を主引例とする場合)について」に記載したとおり、以下の点で相違し、その余の点で一致する。 [相違点] 本件発明1では「30%圧縮強度が1500kPa以下」であると特定するのに対し、甲第2号証に記載された発明ではそのような特定を有していない点。 よって、上記のとおり相違点があるから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。 また、請求項2ないし4、6、7、13は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし4、6、7、13は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし4、6、7、13は、甲第2号証に記載された発明ではない。 ウ.甲第3号証を引用例とする場合 甲第3号証に記載された発明は、上記引用発明3である。 そして、本件発明1と甲第3号証に記載された発明(引用発明3)とを対比すると、上記「2.(3−1)」の「理由A−3(進歩性:引用例3を主引例とする場合)について」に記載したとおり、以下の点で相違し、その余の点で一致する。 [相違点] 本件発明1では「30%圧縮強度が1500kPa以下」であると特定するのに対し、甲第3号証に記載された発明ではそのような特定を有していない点。 よって、上記のとおり相違点があるから、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明ではない。 また、請求項2ないし4、6、13は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし4、6、13は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし4、6、13は、甲第3号証に記載された発明ではない。 エ.甲第4号証を引用例とする場合 甲第4号証に記載された発明は、上記引用発明4である。 そして、本件発明1と甲第4号証に記載された発明(引用発明4)とを対比すると、上記「2.(3−1)」の「理由A−4(進歩性:引用例4を主引例とする場合)について」に記載したとおり、以下の点で相違し、その余の点で一致する。 [相違点] 本件発明1では「30%圧縮強度が1500kPa以下」であると特定するのに対し、甲第4号証に記載された発明ではそのような特定を有していない点。 よって、上記のとおり相違点があるから、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明ではない。 また、請求項2ないし4、6、13は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし4、6、13は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし4、6、13は、甲第4号証に記載された発明ではない。 (3−2)申立理由B(実施可能要件)及び申立理由C(サポート要件)について 特許異議申立人は、次のような実施可能要件及びサポート要件についての申立理由を主張している。 本件請求項1に係る発明は、熱伝導率、30%圧縮強度、引張強度の望ましい数値範囲を記載したものに過ぎないところ、このような望ましい数値範囲を全て満たす熱伝導シートとして、本件明細書中、実施例によって裏付けられているのは、特定の熱伝導性フィラーと特定の樹脂とを、特定量で組み合わせたもののみである。これに対して、本件請求項1に係る発明においては、「熱伝導性フィラー」と「樹脂」とを含有するとのみされ、特定の熱伝導性フィラーと特定の樹脂とを、特定量で組み合わせたもの以外も含み、本件請求項1に係る発明の範囲全般にわたって、実施例と同等の効果が得られるかは不明である(例えば、熱伝導性フィラーとして実施例で使用されているのは、板状(鱗片状)の窒化ホウ素、グラフェン、球状のアルミナ(酸化アルミニウム)のみであり、他の材質を用いた実施例はなく、そのような場合にも所定の効果が得られることは理解できない。)。よって、本件明細書の記載は請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2ないし14に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではなく(実施可能要件)、また、本件請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2ないし14に係る発明は本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない(サポート要件)。 そこで、まず申立理由B(実施可能要件)について検討する。 本件請求項1ないし14に係る発明は物の発明に係るものであるから、本特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすること、すなわちその物を製造することができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明をみると、段落【0046】には熱伝導シートの製造方法について記載され、また、段落【0049】、【0050】、【0053】〜【0056】、及び【0060】(【表1】)には各実施例において使用した樹脂や熱伝導性フィラーの材料、混合量などが具体的に記載されており、これによれば、当業者であればその実施をすることができるものと認められる。 したがって、たとえ本件請求項1に係る発明に含まれ得るあらゆる熱導電性フィラーや樹脂の材料を使用した実施例の記載がないとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、少なくとも一つの当業者が実施可能な実施例(実施例1など)が記載されているといえるのであるから、本件請求項1ないし14に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとまではいえない。 次に、申立理由C(サポート要件)について検討する。 本件請求項1に係る発明においては、「熱伝導率が7.5W/mK以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上」であるとする特定事項を有しており、かかる特定事項により、本件特許明細書の段落【0007】に記載のように「熱伝導性、柔軟性、及び取り扱い性に優れる熱伝導シートを提供することができる。」という効果が得られるものであるといえ、たとえ実施例において使用した熱伝導性フィラーや樹脂の材料、混合量以外のものであっても、上記特定事項を満たせば上記効果が得られることは明らかである。 したがって、本件請求項1に係る発明において、実施例において使用した特定の熱伝導性フィラーと特定の樹脂、特定量の組み合わせに特定(限定)されていないからといって、当該本件請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとまではいえず、発明の詳細な説明に記載されたものでないということはできない。 よって、特許異議申立人の申立理由B(実施可能要件)及び申立理由C(サポート要件)に関する上記主張は採用することはできず、請求項1に係る特許、及び請求項1を引用する請求項2ないし14に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号にそれぞれ規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。 第4 むすび 以上のとおり、本件発明1ないし14に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件発明1ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7.5W/mK以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であることを特徴とする、熱伝導シート。 【請求項2】 前記熱伝導性フィラーが非球状フィラーである、請求項1に記載の熱伝導シート。 【請求項3】 前記熱伝導性フィラーのアスペクト比が10以上である、請求項2に記載の熱伝導シート。 【請求項4】 前記熱伝導性フィラーの長軸がシート面に対して60°以上の角度で配向している、請求項2又は3に記載の熱伝導シート。 【請求項5】 前記樹脂の25℃における粘度が10〜2000Pa・sである、請求項2〜4のいずれかに記載の熱伝導シート。 【請求項6】 前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して180〜700質量部である、請求項2〜5のいずれかに記載の熱伝導性シート。 【請求項7】 前記熱伝導性フィラーの体積割合が、35〜75体積%である、請求項2〜6のいずれかに記載の熱伝導性シート。 【請求項8】 前記熱伝導性フィラーが球状フィラーである、請求項1に記載の熱伝導シート。 【請求項9】 前記樹脂の粘度が10Pa・s以下である、請求項8に記載の熱伝導シート。 【請求項10】 前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して1000〜3000質量部である、請求項8又は9に記載の熱伝導シート。 【請求項11】 前記熱伝導性フィラーの体積割合が、65〜95体積%である、請求項8〜10のいずれかに記載の熱伝導シート。 【請求項12】 少なくとも一方の表層部のゲル分率が、内層部のゲル分率よりも大きい、請求項1〜11のいずれかに記載の熱伝導シート。 【請求項13】 前記熱伝導性フィラーの熱伝導率が12W/m・k以上である、請求項1〜12のいずれかに記載の熱伝導シート。 【請求項14】 前記樹脂のガラス転移温度が25℃以下である、請求項1〜13のいずれかに記載の熱伝導シート。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-03-04 |
出願番号 | P2017-142796 |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L) P 1 651・ 121- YAA (H01L) P 1 651・ 537- YAA (H01L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
山田 正文 |
特許庁審判官 |
畑中 博幸 井上 信一 |
登録日 | 2020-08-07 |
登録番号 | 6746540 |
権利者 | 積水化学工業株式会社 |
発明の名称 | 熱伝導シート |
代理人 | 虎山 滋郎 |
代理人 | 田口 昌浩 |
代理人 | 田口 昌浩 |
代理人 | 虎山 滋郎 |