• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1385145
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-02 
確定日 2022-03-15 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6749096号発明「粘着テープ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6749096号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−8〕について訂正することを認める。 特許第6749096号の請求項1−4及び6−8に係る特許を維持する。 特許第6749096号の請求項5に係る特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6749096号の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成27年12月28日(優先権主張 平成27年4月1日)に出願され、令和2年8月13日にその特許権の設定登録がされ、同年9月2日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1〜8に係る特許に対し、令和3年3月2日に特許異議申立人石井豪(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年6月9日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内(延長45日)である同年10月25日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)を行った。特許権者から訂正請求があったことを、同年11月2日付けで特許異議申立人に通知したが、それに対して、特許異議申立人は、何ら応答しなかった。

第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項1〜9からなる。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「粘着テープであって、前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み、」とあるのを、「粘着テープであって、前記粘着テープは、車両のワイヤーハーネス用の粘着テープであり、前記粘着剤層は、水分散散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり、前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、4、6、7、8も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み、前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み、」とあるのを、「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み、前記ポリ塩化ビニルフィルムとして、該ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないものを用い、前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は35重量%以下であり、前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、4、6、7、8も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子1000未満のカルボン酸エステルとを含み、直径80mmの円に相当する面積の前記粘着テープを120℃に16時間保持して行われる凝着量測定において、凝着量が5mg以下である、粘着テープ。」とあるのを、「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み、前記ポリ塩化ビニルフィルムは、該フィルムに含まれる前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量WPLHと該フィルムに含まれる前記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量WPLLとの関係が、以下の式:1≦(WPLH/WPLL)≦50;を満たし、前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤であり、前記分子量1000未満のカルボン酸エステルは、分子量700以上1000未満のカルボン酸エステルであり、直径80mmの円に相当する面積の前記粘着テープを120℃に16時間保持して行われる凝着量測定において、凝着量が5mg以下である、粘着テープ。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、4、6、7、8も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は10〜50重量%」とあるのを、「前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は10重量%以上35重量%以下」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、4、6、7、8も同様に訂正する)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1から5のいずれか一項に記載の粘着テープ。」とあるのを、「請求項1から4のいずれか一項に記載の粘着テープ。」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1から6のいずれか一項に記載の粘着テープ。」とあるのを、「請求項1、2、3、4または6に記載の粘着テープ。」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1から7のいずれか一項に記載の粘着テープと」とあるのを、「請求項1、2、3、4、6または7に記載の粘着テープと」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8に「粘着テープと、を含むワイヤーハーネス。」とあるのを、「粘着テープと、を含む、車両用ワイヤーハーネス。」に訂正する。

2 一群の請求項について
上記訂正事項1〜9に係る訂正前の請求項1〜8について、請求項2〜8は、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、上記訂正事項1〜3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、請求項3〜8は、上記訂正事項4によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものであり、請求項6〜8は、上記訂正事項5によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものであり、請求項7、8は、上記訂正事項6によって記載が訂正される請求項6に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1〜8に対応する訂正後の請求項1〜8は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求項1〜8について請求されている。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る特許発明は、「粘着剤層」を含む「粘着テープ」に関するものである。
これに対して、訂正後の請求項1は、訂正前の請求項1における「粘着剤層」を水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層に特定し、かつ、訂正前の請求項1における「粘着テープ」の用途として車両のワイヤーハーネス用と特定することにより、訂正後の請求項1に係る発明について、粘着剤層及び粘着テープをより具体的に特定し、更に限定するものである。
同様に、訂正後の請求項2、3、4、6、7、8は、訂正後の請求項1に記載された「前記粘着テープは、車両のワイヤーハーネス用の粘着テープであり、前記粘着剤層は水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり、」との記載を引用することにより、訂正後の請求項2、3、4、6、7、8に係る発明(以下、「訂正発明2、3、4、6、7、8」という。)における粘着剤層及び粘着テープをより具体的に特定し、更に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アから明らかなように、訂正事項1は、訂正前の請求項1、2、3、4、6、7、8における粘着剤層及び粘着テープをより具体的に特定し、更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成である。すなわち、明細書の段落【0111】には、粘着テープの好ましい用途として、車両のワイヤーハーネスが記載され、明細書の段落【0063】には、粘着剤層について、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層が好ましいことが記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る特許発明は、「可塑剤を含有するポリ塩化ビニルフィルム」を含む「粘着テープ」に関するものである。
これに対して、訂正後の請求項1は、訂正前の請求項1におけるポリ塩化ビニルフィルムについて、ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないものを用いること、及び、上記ポリ塩化ビニルフィルムにおける上記可塑剤の含有量は35重量%以下であることを特定することにより、訂正後の請求項1に係る発明について、ポリ塩化ビニルフィルムをより具体的に特定し、更に限定するものである。
同様に、訂正後の請求項2、3、4、6、7、8は、訂正後の請求項1に記載された「前記ポリ塩化ビニルフィルムとして、該ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないものを用い、前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は35重量%以下であり、」との記載を引用することにより、訂正発明2、3、4、6、7、8におけるポリ塩化ビニルフィルムをより具体的に特定し、更に限定するものである。
したがって。訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アから明らかなように、訂正事項2は、訂正前の請求項1、2、3、4、6、7、8におけるポリ塩化ビニルフィルムをより具体的に特定し、更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成である。すなわち、明細書の段落【0056】には、ポリ塩化ビニルフィルムとして、該ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないものを用いる態様においても好ましく実施することができることが記載されており、段落【0025】には、可塑剤の含有量がPVCフィルムの35重量%以下である態様でも好ましいことが、記載されている。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る特許発明は、「可塑剤を含有するポリ塩化ビニルフィルム」を含む「粘着テープ」に関するものであり、ポリ塩化ビニルフィルムが、可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含むことを特定している。
これに対して、訂正後の請求項1は、「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、該フィルムに含まれる前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量WPLHと、該フィルムに含まれる前記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量WPLLとの関係が、以下の式:1≦(WPLH/WPLL)≦50;を満たし、前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤であり、前記分子量1000未満のカルボン酸エステルは、分子量700以上1000未満のカルボン酸エステルであり、」との記載により、上記ポリ塩化ビニルフィルムに含まれる上記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量WPLHと上記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量WPLLとの関係を特定し、かつ、上記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の分子量の下限を大きくし、上記分子量1000未満のカルボン酸エステルの分子量の範囲を特定することで、訂正後の請求項1に係る発明について、ポリ塩化ビニルフィルムの組成をより具体的に特定し、更に限定するものである。
同様に、訂正後の請求項2、3、4、6、7、8は、訂正後の請求項1に記載された「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、該フィルムに含まれる前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量WPLHと、該フィルムに含まれる前記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量WPLLとの関係が、以下の式:1≦(WPLH/WPLL)≦50;を満たし、前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤であり、前記分子量1000未満のカルボン酸エステルは、分子量700以上1000未満のカルボン酸エステルであり、」との記載を引用することにより、訂正発明2、3、4、6、7、8におけるポリ塩化ビニルフィルムの組成をより具体的に特定し、更に限定するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アから明らかなように、訂正事項3は、訂正前の請求項1、2、3、4、6、7、8におけるポリ塩化ビニルフィルムをより具体的に特定し、更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成である。すなわち、明細書の段落【0010】には、ポリ塩化ビニルフィルムは、該フィルムに含まれる前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量WPLHと、該フィルムに含まれる前記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量WPLLとの関係が、以下の式:1≦(WPLH/WPLL)≦50;を満たすことが好ましいことが記載されている。また、明細書の段落【0029】、【0038】には、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤(PLH)の分子量について、分子量2000以上のPLHの使用が有利であることが記載され、明細書の段落【0029】、【0033】には、分子量1000未満のカルボン酸エステル(PLL)について、分子量700以上のPLLを用いる態様が好ましいことが記載されている。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項2に係る特許発明は、ポリ塩化ビニルフィルムにおける可塑剤の含有量は10〜50重量%であることを特定している。
これに対して、訂正後の請求項2は、訂正後の請求項1の従属項であるところ、上記訂正事項1により、訂正後の請求項1ではポリ塩化ビニルフィルムにおける可塑剤の含有量が35重量%以下に特定されたことに伴い、訂正事項2では、訂正後の請求項2においてポリ塩化ビニルフィルムにおける可塑剤の含有量の上限を35重量%と限定するものであり、訂正後の請求項2に係る発明について、ポリ塩化ビニルフィルムを更に限定するものである。
同様に、訂正後の請求項3、4、6、7、8は、訂正後の請求項2に記載された「前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は10重量%以上35重量%以下」との記載を引用することにより、訂正後の請求項3、4、6、7、8に係る発明(以下、「訂正発明3、4、6、7、8」という。)におけるポリ塩化ビニルフィルムを更に限定するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アから明らかなように、訂正事項4は、訂正前の請求項2、3、4、6、7、8におけるポリ塩化ビニルフィルムを更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成である。すなわち、明細書の段落【0025】には、好ましい態様として、可塑剤の含有量がポリ塩化ビニルフィルムの35重量%以下であることが記載されている。
したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、請求項5を削除するというものであるから、当該訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、請求項5を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、請求項5を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。

(6)訂正事項6〜8
ア 訂正の目的について
訂正事項6〜8は、訂正前の請求項6〜8が請求項5を含む複数項の記載を引用する記載であるところ、訂正事項5で請求項5が削除されて請求項5を引用できなくなったことに伴い、請求項5を引用しないものとするための訂正であって、訂正事項6〜8は、引用する請求項の数を減少させるものなので、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項6〜8は、請求項5を引用しないものとするための訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6〜8は、請求項5を引用しないものとするための訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。

(7)訂正事項9
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項8に係る特許発明は、電線と、該電線の周囲に巻き付けられている請求項1から7のいずれか一項に記載の粘着テープと、を含むワイヤーハーネスである。
これに対して、訂正後の請求項8は、訂正前の請求項8におけるワイヤーハーネスを「車両用ワイヤーハーネス」に特定することにより、訂正後の請求項9に係る発明について、ワイヤーハーネスの用途をより具体的に特定し、更に限定するものである。すなわち、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アから明らかなように、訂正事項9は、訂正前の請求項8におけるワイヤーハーネスをより具体的に特定し、更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項9は、願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成である。明細書の段落【0011】には、粘着テープの好ましい用途として、車両のワイヤーハーネスが記載されている。したがって、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(8)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許第6749096号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−8〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1〜4及び6〜8に係る発明は、令和3年10月25日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜4及び6〜8に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件特許発明1」〜「本件特許発明8」、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。

「【請求項1】
可塑剤を含有するポリ塩化ビニルフィルムと、
該フィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層とを含む粘着テープであって、
前記粘着テープは、車両のワイヤーハーネス用の粘着テープであり、
前記粘着剤層は、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムとして、該ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないものを用い、
前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は35重量%以下であり、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、該フィルムに含まれる前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量WPLHと、該フィルムに含まれる前記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量WPLLとの関係が、以下の式:
1≦(WPLH/WPLL)≦50;
を満たし、
前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤であり、
前記分子量1000未満のカルボン酸エステルは、分子量700以上1000末満のカルボン酸エステルであり、
直径80mmの円に相当する面積の前記粘着テープを120℃に16時間保持して行われる凝着量測定において、凝着量が5mg以下である、粘着テープ。
【請求項2】
前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は10重量%以上35重量%である、請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項3】
前記脂肪酸金属塩は、周期表の1族、2族、12族、13族および14族(ただしPbを除く。)のいずれかに属する少なくとも1種の金属元素を含む、請求項1または2に記載の粘着テープ。
【請求項4】
前記脂肪酸金属塩は、Li、Na、Ca、Mg、Zn、BaおよびSnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の粘
着テープ。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、酸化防止剤を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の粘着テープ。
【請求項7】
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、エラストマーを含む、請求項1、2、3、4または6のいずれか一項に記載の粘着テープ。
【請求項8】
電線と、該電線の周囲に巻き付けられている請求項1、2、3、4、6または7のいずれか一項に記載の粘着テープと、を含む、車両用ワイヤーハーネス。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
本件訂正前の請求項1〜8に係る特許に対して、当審が令和3年6月9日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1(進歩性)本件特許の請求項1〜8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証〜甲第6号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開平8−259909号公報
甲第2号証:特開2008−201911号公報
甲第3号証:特開平10−158452号公報
甲第4号証:特開平7−268159号公報
甲第5号証:特開2012−197394号公報
甲第6号証:特許2006−291145号公報

理由2(サポート要件)本件特許の請求項1〜8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記(以下、第6、1.に記載)の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

第5 前記第4における理由1(進歩性)についての判断
1 甲号証の記載について
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)
1a「【請求項1】 ポリ塩化ビニルフィルムの片面に粘着剤層を設けたポリ塩化ビニル粘着テープにおいて、基材のポリ塩化ビニルフィルムが、ポリ塩化ビニル100重量部当たり、25℃での粘度が1000〜5000センチポイズのポリエステル系可塑剤30〜100重量部を含有するポリ塩化ビニル樹脂組成物から形成されたフィルムであり、かつ、粘着剤層が、ゴム成分100重量部当たりフェノール系酸化防止剤0.5〜10重量部を含有するゴム系粘着剤から形成された層であることを特徴とするポリ塩化ビニル粘着テープ。」
1b「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、耐熱劣化性に優れ、長期間安定な粘着力を示すボリ塩化ビニル粘着テープを提供することにある。本発明者らは、前記従来技術の問題点を克服するために鋭意研究した結果、基材のポリ塩化ビニルフィルムに可塑剤として特定の粘度範囲を有するポリエステル系可塑剤を配合し、かつ、粘着剤層には、フェノール系酸化防止剤を添加したゴム系粘着剤を使用することにより、高温条件下でも経時による粘着力の変化がが小さく、伸びや引張強さの低下が抑制され、しかも変色のないポリ塩化ビニル粘着テープの得られることを見い出し、その知見に基づいて本発明を完成するに至った。」
1c「【0010】ポリエステル系可塑剤の配合割合は、ポリ塩化ビニル100重量部に対して、30〜100重量部である。この配合割合が30重量部未満では、可塑化効果が不充分であり、粘着テープの柔軟性が損なわれる。この配合割合が、100重量部超過では、粘着テープの引張強さが低下する。この配合割合は、柔軟性及び引張強さのバランスからみて、ポリ塩化ビニル100重量部に対して、40〜60重量部の範囲が好ましい。
【0011】ポリ塩化ビニルには、必要に応じて、酸化カルシウムなどの充填剤、酸化チタンなどの顔料、鉛系安定剤、有機スズ系安定剤、金属石けんなどのポリ塩化ビニル用安定剤などを配合することができる。これらの成分の配合割合は、通常、ポリ塩化ビニル100重量部に対して、充填剤は0〜100重量部、顔料は0〜5重量部、安定剤が1〜5重量部である。また、ポリエステル系可塑剤と共に、トリ・2−エチルヘキシルトリメリテートなどの低分子量可塑剤を併用することができるが、本発明の目的を損なわないために、その配合割合は、ポリ塩化ビニル100重量部に対して、通常、20重量部以下、好ましくは15重量部以下、より好ましくは10重量部以下とする。
・・・
【0018】[実施例1]ポリ塩化ビニル(住友化学社製SX−11F)100重量部、ポリエステル系可塑剤〔旭電化社製サイザーPN−650、粘度3000cP(25℃)〕50重量部、トリー(2−エチルヘキシル)トリメリテート(TOTM:花王社製トリメックスT−08)10重量部、鉛系安定剤(堺化学社製TL−5000)3重量部、及び酸化チタン1重量部を混合し、カレンダーロールを用いて0.2mm厚のフィルムに加工した。一方、天然ゴム60重量部、スチレン−ブタジエンゴム40重量部、ポリテルペン50重量部、及びフェノール系酸化防止剤3重量部(チバガイギー社製イルガノックス1010)をトルエンで溶解して粘着剤溶液を調製した。上記で得られたポリ塩化ビニルフィルムの片面に、粘着剤溶液をコーターにより乾燥後の厚さが50μmになるように塗布し、乾燥してポリ塩化ビニル粘着テープを作成した。」

(2)甲第2号証(以下、「甲2」という。)
2a「【請求項1】
ポリ塩化ビニル系基材の一方の面に、再剥離型粘着剤層が設けられたマスキングテープであって、
前記ポリ塩化ビニル系基材が、ポリ塩化ビニルと、アジピン酸ポリエステル系可塑剤と、熱安定剤としてのステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛およびハイドロタルサイト系化合物を含むマスキングテープ。」
2b「【0003】
上記塗布作業時あるいはその後の乾燥、焼付時に、160℃以上の高温にワークが曝される場合がある。この場合、マスキングテープも高温に曝されることになり、特に軟質ポリ塩化ビニルを基材とするマスキングテープの場合には、基材中の可塑剤や安定剤がブリードアウトして、粘着剤層の物性を損なうことがあった。また、可塑剤や安定剤が基材表面にブリードアウトすると、粘着剤層と基材との密着性が低下し、マスキングテープをワークから剥離する際に、粘着剤層がワークに転着し、いわゆる糊残りを引き起こして、ワークを汚染することがあった。
・・・
【0009】
基材から安定剤等がブリードアウトした場合、粘着剤層の物性が損なわれるのみならず、基材と粘着剤層との間にブリードアウトした安定剤等により、粘着剤層と基材との密着性が低下し、粘着剤層がワークに転着し、糊残りを引き起こして、ワークを汚染してしまう。
【特許文献1】 特開平11−228917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであり、鉛系安定剤を含む塩化ビニル系基材を用いたマスキングテープと同等の耐熱性を有する環境対応型のマスキングテープを提供するものである。すなわち、本発明は、高温環境下に曝されることがあるマスキングテープにおいて、粘着剤層の物性劣化および糊残りの発生を防止することを目的としている。」
2c「【0017】
本発明に係るマスキングテープは、ポリ塩化ビニル系基材と、その上に形成された再剥離型粘着剤層とからなる。ここで、ポリ塩化ビニル系基材は、ポリ塩化ビニルを主成分とし、可塑剤としてアジピン酸ポリエステルを含み、また熱安定剤としてのステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛およびハイドロタルサイト系化合物を含む。
・・・
【0021】
アジピン酸ポリエステルとしては、その重量平均分子量が500〜2200、好ましくは800〜2000のアジピン酸ポリエステルが好適に用いられる。アジピン酸ポリエステルの分子量が低すぎる場合には、耐水性の低下や可塑剤のブリードが起こる恐れがあり、一方、分子量が高すぎる場合には、フィルム成形温度における塩化ビニル配合物が高粘度化しフィルム形成が困難になったり、マスキングテープとして使用するための基材としての可塑化効果が低下する恐れがある。なお、アジピン酸ポリエステルの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される。
【0022】
アジピン酸ポリエステルは、一種単独で用いても良く、また2種以上を併用してもよい。アジピン酸ポリエステルは、前記ポリ塩化ビニル100重量部に対して、好ましくは5〜50重量部、さらに好ましくは20〜45重量部の割合で用いられる。アジピン酸ポリエステルの配合量が少なすぎる場合には、基材の柔軟性の不十分になる恐れがあり、一方、配合量が多すぎる場合には、製膜時の安定性が低下する恐れがある。
・・・
【0037】
なお、以下の実施例および比較例において基材の調製に際して、重合度約1000のポリ塩化ビニルを用い、また重量平均分子量約1200のアジピン酸ポリエステル系可塑剤を使用した。ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ハイドロタルサイト系化合物、三塩基性硫酸鉛、ステアリン酸バリウムはいずれも市販品を使用した。
【0038】
まず表に示されるような各成分を各割合で配合し、フィルム原料となる混合物を作成した。表中の配合割合は重量部を示す。その後、混合物を使用してカレンダー方式で、厚さ100μmのフィルムを製膜し基材を得た。
【0039】
また、グラシン紙(60g/m2)にシリコーン加工を行い、厚さ70μmの剥離シートを作成した。剥離シート上にエマルション系再剥離型粘着剤(三井化学製MT-TACK-CR 5322ER)を塗布、乾燥し、20μm厚の粘着剤層を作成し、上記基材を貼り合わせ、マスキングテープを得た。
・・・
【表1】


(3)甲第3号証(以下、「甲3」という。)
3a「【請求項1】 塩化ビニル系樹脂100重量部に、(イ)下記〔化1〕の一般式(I)で表されるハイドロタルサイト化合物の少なくとも一種0.01〜10重量部、(ロ)ヒンダードアミン化合物の少なくとも一種0.01〜10重量部、及び(ハ)含窒素含硫黄系防黴剤の少なくとも一種0.001〜10重量部を含有してなる塩化ビニル系樹脂組成物。
【化1】


3b「【0006】軟質塩化ビニル系樹脂組成物において、可塑剤としてポリエステル可塑剤を使用することにおいて特に耐久性が優れたものが得られるが、上記防黴剤を使用する系においては耐候時のブリードは他の可塑剤と比較してむしろ大きい。
【0007】さらに、ハイドロタルサイト化合物は、塩化ビニル系樹脂用の優れた耐熱向上剤として知られ、特に、鉛系、有機錫系、カドミウム系などの、耐熱性は優れるが人体・環境への悪影響が懸念される安定剤を用いない場合においてこれを補う目的で広く使用されており、これを上記の配合系に使用した場合にも、着色性、耐熱性、耐候性(変色)はある程度改善される。しかしながら、耐候時のブリードに関してはさらに大きくする欠点があり、これの改善が強く求められていた。
【0008】また、ヒンダードアミン化合物は、合成樹脂用の光安定剤として知られているが、これが塩化ビニル系樹脂に含窒素含硫黄防黴剤を用いた系での耐候時のブリードの抑制効果があることは全く知られていなかった。
【0009】従って、本発明の目的は、カビなどの微生物の発生が抑制され、かつ、着色性、耐熱性、耐候性の優れた塩化ビニル系樹脂組成物を提供することにある。
・・・
【0023】本発明の組成物には、通常塩化ビニル系樹脂に使用される可塑剤を配合することができ、これら可塑剤としては、例えば、ジヘプチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレートなどのフタレート系可塑剤、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジ(ブチルジグリコール)アジペートなどのアジペート系可塑剤、トリクレジルホスフェートなどのホスフェート系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、塩素化パラフィン系可塑剤、トリメリテート系可塑剤、ピロメリテート系可塑剤、ビフェニルテトラカルボキシレート系可塑剤などがあげられるが、特に耐久性の要求される用途においては、ポリエステル系可塑剤を用いることが好ましい。」
3c「【0051】実施例1
下記の配合物にてカレンダー加工を行ない、0.5mmのシートを作成した。これを190℃のオーブン中に入れ、黒化時間(HS)(分)を測定した。また上記シートを張り合わせて180℃にてプレス加工を行なって1mmの試験片を作成した。この試験片の着色性を目視により確認した。評価基準は1〜10の10段階で、1はほとんど着色のない状態を表し、数値の増大に伴って着色が大きいことを表す。
【0052】また、耐候性を評価するため、上記試験片をUVテスター(50mW/cm2,65℃,Light/Dew=4h/4h,40%RH)に入れ、100時間後、200時間後および300時間後の表面状態(渇変およびブリード)を目視により評価した。評価はともに1〜10で表し、1が変化なしで数値の増大とともに褐変あるいはブリードが大きいことを表す。
【0053】それらの結果を下記〔表1〕に示す。
【0054】
(配 合) 重量部
ポリ塩化ビニル樹脂(数平均分子量1300) 100
ポリエステル可塑剤(アジピン酸−1,3−ブタンジ 50
オール/オクタノール縮合物、Mw=2000)
ジイソノニルアジペート 25
エポキシ化大豆油 3
酸化チタン(ルチル) 2
ラウリン酸亜鉛 0.2
ステアリン酸亜鉛 0.2
トリス(ノニルフェニル)ホスファイト 1.0
HT−1(組成式:Mg4.5Al2(OH)13・CO3・4.5H2O) 0.5
試験化合物(下記〔表1〕参照) 0.05
2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール(防黴剤−1) 0.1
【0055】
【表1】

【0056】上記〔表1〕中の*1〜*5は、それぞれ次のことを示す。
*1:テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブタンテトラカルボキシレート
*2:ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)・ジ(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート
*3:1−(2−ヒドロキシエチル)−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール/コハク酸ジエチル重縮合物
*4:1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−第三オクチルアミノ−s−トリアジン重縮合物
*5:3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルオキシカルボニルオキシ)ブチルカルボニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン」

(3)甲第4号証(以下、「甲4」という。)
4a「【請求項1】 塩化ビニル系樹脂100重量部にトリメリテート系可塑剤20〜200重量部を混合した後、さらにポリエステル系可塑剤1〜50重量部を混合したことを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。」
4b「【0002】
【従来技術】自動車内装材であるクラッシュパッド(インストルメントパネルともいう)、グローブボックス、コンソールボックス、ドアトリム、アームレスト、ヘッドレスト等に軟質塩化ビニル製品が多用されている。その中で特に、クラッシュパッド、グローブボックス、コンソールボックス、ドアトリム等には粉体成形製品が多く使用されている。ところが、従来から広く使用されてきたフタレート系可塑剤は、耐熱性と非フォギング性に問題をかかえており、これに起因する劣化現象を解決する必要に迫られている。とくに、最近搭載の増えてきたエアバッグはクラッシュパッドの一部を構成するとびら内に格納されていて、もし、これが劣化していたら、衝突時にエアバッグのとびら部分が破壊してしまい、大へん危険である。
【0003】耐熱可塑剤にはピロメリテート系、トリメリテート系、ポリエステル系、高分子量フタレート系可塑剤が挙げられるが、コストと製品の性能に影響を及ぼす可塑剤吸収性能等の点から、トリメリテート系可塑剤が一般的に用いられている。そこで、クラッシュパッドに対する耐熱性や耐フォギング性の要求が高まるにつれて、従来のフタレート系可塑剤からトリメリテート系可塑剤の使用へと転換が進んできた。しかしながら、トリメリテート系可塑剤を使用した物はフタレート系可塑剤を使用した従来の材料に比べて光劣化によりミクロクラックが発生しやすい欠点があるので、耐熱性の要求と共に耐光性も高い品質が要求されるようになった。
【0004】一般に、耐光性の改良を図る方法としては、紫外線吸収剤や光安定剤等の添加が通常の対策であるが、通常の添加量ではクラックの発生を抑えることは困難である。可塑剤の併用は、フタレート系可塑剤の耐熱性の向上を図るために、相溶性のあるポリエステル系可塑剤を併用する場合があるが、フタレート系可塑剤を使用しているためにフォギングの問題が解決できない。更に、ポリエステル系可塑剤はトリメリテート系可塑剤と相溶せず、これまで二者の混合は不適当とされ、耐熱可塑剤同士であって両者の欠点を補完し合うというメリットも少ないことから、両者の混合は行われていないのが実情であった。
【0005】
【目的】本発明の目的は、耐熱性のみでなく耐光性も兼ね備えた製品を得ることができる塩化ビニル系樹脂組成物および該組成物の層を含む積層体を提供する点にある。
・・・
【0011】本発明で用いるトリメリテート系可塑剤は、トリメリット酸のエステルであり、エステル化のために用いられるアルコール成分としては、n−ヘキシルアルコール、イソヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、イソデシルアルコールなどのC5〜C11のアルコールおよびこれらの混合物などが用いられている。具体的なトリメリテート類を例示すれば、トリ−n−オクチルトリメリテート、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート、トリデシルトリメリテートおよびこれらの混合物等を挙げることができる。」
4c「【0023】実施例1〜8、比較例1〜3
表1〜3及び表4に示す種類と量の各成分をヘンシェルミキサーを用い、つぎの要領でブレンドした。先ず、塩化ビニル樹脂、ハイドロタルサイト、過塩素酸ナトリウム、紫外線吸収剤、ステアリン酸亜鉛および顔料を仕込み、次いでトリメリット酸エステル可塑剤(実施例1〜8)又はフタル酸エステル可塑剤(比較例1)を添加して前記可塑剤が粉体に吸収された後にポリエステル系可塑剤を添加した。ドライアップ後に50℃まで冷却した段階で粉体流動性改良剤である微粒塩化ビニル樹脂を添加して粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物としてのパウダーコンパウンドを調製した。また、可塑剤の種類による耐光性の相違をみるために、可塑剤としてフタル酸単独(比較例2)またはメリット酸エステル単独(比較例3)とし、他の成分は、実施例1〜8と同様のパウダーコンパウンド(比較例2、3)を調製した。
・・・
【0025】
【表2】

・・・
〔注〕(配合材料)
塩化ビニル樹脂 :ゼオン103EP 日本ゼオン(株)製、塩化ビニル単独重合体、平均重合度 1000(JIS K 6721)
平均粒径約110μm
トリメリット酸エステル:トリメックスNSK 花王(株)製 C6〜C10のアルキルトリメリテート
フタル酸エステル :PL−200、三菱瓦斯化学(株)製、n−C9アルコールおよびn−C11アルコールのフタル酸エステル
ポリサイザー
(W−1200,W−2060,W−2040,W−2050,W−2350) :いずれも大日本インキ化学工業(株)製アジピン酸系ポリエステル可塑剤
ポリサイザー
(W−780,P−29) :いずれも大日本インキ化学工業(株)製フタル酸およびアジピン酸併用系ポリエステル可塑剤
紫外線吸収剤 :チヌビンP、チバガイギー社製、トリアゾール系
微粒塩化ビニル樹脂 :粒度基準平均重合度850、平均粒径1μm
顔料 :フタロシアニンブルー、酸化チタン、カーボン混合品
・・・
【0028】前記実施例、比較例の耐光性試験評価は次のようにして行った。
(イ)パウダーコンパウンドを、オイル加熱式スラッシュ成形機に幅200mm、長さ750mmのハーフインストルメントパネルの金型を装着したものによりシート成形した。すなわち、オイル加熱により、金型が240℃になった時点でパウダーコンパウンドを仕込み、金型を反転させて未融着の余剰のパウダーコンパウンドを回収し、そのままの状態で30秒間放置して樹脂組成物のゲル化を待った。次いで、冷却用オイルを流して約45秒間経過させ、温度が65℃になった時点で冷却オイルの循環を停止した。1mm厚の樹脂成形品を金型から剥した。
【0029】(ロ)得られた塩化ビニル樹脂シートから145mm×200mmのシートを切出して147mm×217mm×10mmの金型の中に敷き、変性MDI系イソシアネート16.9gとポリエーテルポリオール(トリエチレンジアミン1.0重量%、水1.6重量%含有)31.4gを混合してシートの上に注ぎ、金型を密閉した。10分後に表皮1mm厚に9mm厚の発泡ポリウレタンが裏打ちされた試料を金型から取出した。」

(5)甲第5号証(以下、「甲5」という。)
5a「【請求項1】
(a)塩化ビニル樹脂100質量部と、(b)ポリエステル系可塑剤及び/又はピロメリット酸エステル系可塑剤90〜180質量部を含有する粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。」
5b「【0022】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、着色剤、耐衝撃性改良剤、過塩素酸化合物(過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等)、酸化防止剤、防黴剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、発泡剤、β−ジケトン類等の添加剤を含有し得る。」

(6)甲第6号証(以下、「甲6」という。)
6a「【請求項1】
塩化ビニル系樹脂、フィラーおよび/または金属水酸化物を含有する塩化ビニル系樹脂組成物において、該フィラーおよび/または金属水酸化物のJIS K5101に基づくpH値が9.0以上であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。」
6b「【0027】
本発明においては、好ましい実施態様として、さらにエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を配合してもよい。EVA樹脂は、高分子可塑剤として作用すると共に、耐水溶性切削油性と耐熱性、耐油性とのバランスを向上するために有効である。」

2 甲号証に記載された発明
(1)甲1に記載された発明
甲1には、基材のポリ塩化ビニルフィルムに可塑剤として特定の粘度範囲を有するポリエステル系可塑剤を配合すること、及び、ポリエステル系可塑剤と共に、トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート(当審注:「トリ・2−エチルヘキシルトリメリテート」は「トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート」の誤記と認める。)などの低分子量可塑剤を併用することができることが記載されている(摘記1b、1c参照)。
そうすると、実施例1のポリ塩化ビニル粘着テープとして、甲1には、「ポリ塩化ビニル(住友化学社製SX−11F)100重量部、ポリエステル系可塑剤〔旭電化社製サイザーPN−650、粘度3000cP(25℃)〕50重量部、低分子量可塑剤としてトリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート(TOTM:花王社製トリメックスT−08)10重量部、鉛系安定剤(堺化学社製TL−5000)3重量部、及び酸化チタン1重量部からなるポリ塩化ビニルフィルムの片面に、天然ゴム60重量部、スチレン−ブタジエンゴム40重量部、ポリテルペン50重量部、及びフェノール系酸化防止剤3重量部(チバガイギー社製イルガノックス1010)をトルエンで溶解して調製した粘着剤溶液を乾燥後の厚さが50μmとなるように塗布して乾燥して作成されたポリ塩化ビニル粘着テープ」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる(摘記1c参照)。

(2)甲2に記載された発明
甲2には実施例1として「エマルション系再剥離型粘着剤(三井化学製MT-TACK-CR 5322ER)を塗布し、乾燥した20μm厚の粘着剤層に、ポリ塩化ビニル100重量部、可塑剤(重量平均分子量約1200のアジピン酸ポリエステル)40重量部、ステアリン酸カルシウム0.5重量部、ステアリン酸亜鉛0.2重量部、ハイドロタルサイト1重量部からなる基材を貼り合わせたマスキングテープ」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる(摘記2c参照)。

(3)甲3に記載された発明
甲3には、塩化ビニル系樹脂に使用される可塑剤について、ジイソノニルアジペートなどのアジペート系可塑剤があげられていることから(摘記3b参照)、実施例1−1〜1−5において用いられたジイソノニルアジペートは可塑剤とみなすことができる。
そうすると、甲3には、[0055]の表1の各化合物を、単に、試験化合物と記載すると、「ポリ塩化ビニル樹脂(数平均分子量1300)100重量部、ポリエステル可塑剤(アジピン酸−1,3−ブタンジオール/オクタノール縮合物、Mw=2000)50重量部、可塑剤としてジイソノニルアジペート25重量部、エポキシ化大豆油3重量部、酸化チタン(ルチル)2重量部、ラウリン酸亜鉛0.2重量部、ステアリン酸亜鉛0.2重量部、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト1.0重量部、HT−1(組成式:Mg4.5Al2(OH)13・CO3・4.5H2O)0.5重量部、試験化合物0.05重量部、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール(防黴剤−1)0.1重量部からなる配合物にてカレンダー加工を行い、作成したシート」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる(摘記3c参照)。

(4)甲4に記載された発明
甲4には、トリメリテート系可塑剤は、トリメリット酸のエステルでありとの記載から(摘記4b参照)、実施例のパウダーコンパウンドから塩化樹脂ビニルシートを得ているから(摘記4c参照)、実施例5として「ポリ塩化ビニル樹脂100重量部、可塑剤としてトリメリット酸エステル(トリメックスNSK 花王(株)製 C6〜C10のアルキルトリメリテート)60重量部、ポリサイザーW−2050(2900CPS)(大日本インキ化学工業(株)製アジピン酸系ポリエステル可塑剤)20重量部、ハイドロタルサイト1重量部、過塩素酸ナトリウム0.5重量部、紫外線吸収剤0.2重量部、ステアリン酸亜鉛0.2重量部、顔料2重量部、微粒塩化ビニル樹脂(ダスティング剤)10重量部からなるパウダーコンパウンドを、オイル加熱式スラッシュ成形機に、オイル加熱により、金型が240℃になった時点で仕込み、金型を反転させて未融着の余剰のパウダーコンパウンドを回収し、そのままの状態で30秒間放置して樹脂組成物のゲル化を待ち、次いで、冷却用オイルを流して約45秒間経過させ、温度が65℃になった時点で冷却オイルの循環を停止し、1mm厚の樹脂成形品を金型から剥して、得られた塩化ビニル樹脂シート」の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる(摘記4c参照)。

3 当審の判断
(1)本件特許発明1
ア 甲1発明を主たる引用発明とする場合
(ア)甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「ポリエステル系可塑剤〔旭電化社製サイザーPN−650、粘度3000cP(25℃)〕」は、本件特許発明1の「可塑剤として」の「ポリエステル系可塑剤」に相当する。
また、甲1発明の「低分子量可塑剤としてトリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート(TOTM:花王社製トリメックスT−08)」は、カルボン酸エステルであるから、本件特許発明1の「可塑剤として」の「カルボン酸エステル」に相当する。
甲1発明の「ポリ塩化ビニルフィルム」は、上記可塑剤を含むから、本件特許発明1の「可塑剤を含有するポリ塩化ビニルフィルム」に相当し、その架橋剤を含まない組成及び電子線照射をしていない製法からみて(摘記1cの【0018】参照)、ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないといえるものであるから、「ポリ塩化ビニルフィルムとして、該ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないものを用い」に相当する。
甲1発明の「粘着剤溶液を乾燥後の厚さが50μmとなるように塗布して乾燥して作成されたポリ塩化ビニル粘着テープ」は、粘着剤溶液が乾燥後の厚さが50μmとなるように塗布され乾燥したものは粘着剤層であり、粘着剤溶液はポリ塩化ビニルフィルムの一方の表面に配置されたものといえるから、本件特許発明1の「該フィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層を含む粘着テープ」に相当する。
なお、トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート(TOTM:花王社製トリメックスT−08)(カルボン酸エステル)の化学式はC33H54O6と表され、分子量は約547と求められることは技術常識である。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、「可塑剤を含有するポリ塩化ビニルフィルムと、
該フィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層とを含む粘着テープであって、
前記ポリ塩化ビニルフィルムとして、該ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないものを用い、
前記可塑剤として、ポリエステル系可塑剤と、カルボン酸エステルとを含む、
粘着テープ。」である点で一致し、以下の点相違する。

<相違点1−1>
粘着テープが、本件特許発明1では車両のワイヤーハーネス用であるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。

<相違点1−2>
粘着剤層が、本件特許発明1では、水分散型粘着剤組成物から形成されたものであるのに対し、甲1発明では、天然ゴム60重量部、スチレン−ブタジエンゴム40重量部、ポリテルペン50重量部、及びフェノール系酸化防止剤3重量部(チバガイギー社製イルガノックス1010)をトルエンで溶解して調製した粘着剤溶液を乾燥後の厚さが50μmとなるように塗布して乾燥したものである点。

<相違点1−3>
本件特許発明1では、ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含むのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。

<相違点1−4>
ポリ塩化ビニルフィルムにおける可塑剤の含有量が、本件特許発明1では35重量%以下であるのに対し、甲1発明では、36.6((50+10)/(100+50+10+3+1))重量%である点。

<相違点1−5>
ポリ塩化ビニルフィルムに含まれる可塑剤として、本件特許発明1では、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み、
該フィルムに含まれる前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量WPLHと、該フィルムに含まれる前記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量WPLLとの関係が、以下の式:
1≦(WPLH/WPLL)≦50;
を満たし、
前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤であり、
前記分子量1000未満のカルボン酸エステルは、分子量700以上1000末満のカルボン酸エステルであるのに対し、甲1発明では、ポリエステル系可塑剤〔旭電化社製サイザーPN−650、粘度3000cP(25℃)〕の分子量は不明であり、トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート(TOTM:花王社製トリメックスT−08)(カルボン酸エステル)の分子量は約547であり、本件特許発明1のカルボン酸エステルの可塑剤の分子量の範囲には含まれず、しかも、甲1発明は上記式を満たすものではない点。

<相違点1−6>
本件特許発明1では、直径80mmの円に相当する面積の粘着テープを120℃に16時間保持して行われる凝着量測定において、凝着量が5mg以下であると特定されるのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。

(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず、相違点1−5について検討する。
甲1には、「基材のポリ塩化ビニルフィルムに可塑剤として特定の粘度範囲を有するポリエステル系可塑剤を配合し、かつ、粘着剤層には、フェノール系酸化防止剤を添加したゴム系粘着剤を使用することにより、高温条件下でも経時による粘着力の変化が小さく、伸びや引張強さの低下が抑制され、しかも変色のないポリ塩化ビニル粘着テープの得られること」が見いだされたことにより、「耐熱劣化性に優れ、長期間安定な粘着力を示すボリ塩化ビニル粘着テープ」が提供されたものであることが記載されている(【0007】)。
さらに、基材のポリ塩化ビニルフィルムに含まれる可塑剤について、ポリエステル系可塑剤については、配合割合によって、可塑化効果が不充分であり、粘着テープの柔軟性が損なわれたり、粘着テープの引張強さが低下したりすることが記載されている(【0010】)。
また、該可塑剤について、トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテートなどの低分子量可塑剤を併用することができ、その配合割合は、甲1発明の目的を損なわないように上限が定められることが記載されている(【0011】)。
そうすると、トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテートなどの低分子量可塑剤は、基材フィルムの可塑化効果が不充分とならないように、粘着テープの柔軟性が損なわれないように、粘着テープの引張強さが低下しないようにするために、ポリエステル系可塑剤に併用されるものであり、その含有量は、劣化性に優れ、長期間安定な粘着力を示すボリ塩化ビニル粘着テープが提供できることが損なわれない範囲のものであることが理解できる。
しかしながら、甲1発明におけるトリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテートなどの低分子量可塑剤は、ポリエステル系可塑剤に併用されて、基材フィルムを可塑化するために用いられているものであるところ、低分子量可塑剤として、トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート以外に、どのような範囲の分子量ものを用いて、どのような含有量とすれば、劣化性に優れ、長期間安定な粘着力を示すボリ塩化ビニル粘着テープが提供できるかどうかは、当業者にとって明らかではない。
したがって、ポリ塩化ビニルフィルムに用いられるカルボン酸エステルの可塑剤として、本件特許発明1で規定される範囲のものが本件出願前に周知だとしても、甲1発明の低分子量可塑剤として、トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテートに替えて、本件特許発明1で規定される範囲の可塑剤を採用する動機付けは見いだすことはできない。

また、甲2〜甲6には、上記相違点1−5に係る本件特許発明1の発明特定事項については記載も示唆もない。

以上のことから、甲2〜甲6の記載を参照しても、甲1発明において、上記相違点1−5に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たす可塑剤を用いことは当業者にとって容易になしえることであるということはできない。

(ウ)本件特許発明1の効果について
a 本件特許発明1の課題は、「可塑剤を含有するPVCフィルムを備え、かつフォギングが抑制された粘着テープを提供すること」(【0005】)と解される。
b そして、可塑剤を含有するPVCフィルムを備えた粘着テープのフォギングを抑制することについて、本件特許明細書には次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
「【0007】
ここに開示される技術は、上記PVCフィルムにおける可塑剤の含有量が例えば10〜50重量%程度である態様で好ましく実施され得る。かかる組成のPVCフィルムによると、良好なフォギング防止性(すなわち、フォギングを抑制する性能)と好適な柔軟性とが同時に実現される傾向にある。」
「 【0009】
好ましい一態様に係る粘着テープを構成するPVCフィルムは、上記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含む。このような構成のPVC粘着テープは、フォギング防止性と他の特性(例えば初期粘着力や低温特性)とを高レベルで両立しやすい。
【0010】
上記PVCフィルムは、該PVCフィルムに含まれる上記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量WPLHと、該PVCフィルムに含まれる上記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量WPLLとの関係が、以下の式:
1≦(WPLH/WPLL)≦50;
を満たすことが好ましい。このようなPVCフィルムを有する粘着テープは、フォギング防止性と他の特性(例えば初期粘着力や低温特性)とをより高レベルで両立しやすい。」
「【0028】
一般に、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、高温においても揮発しにくいことから、凝着量の低減(ひいてはフォギング防止性の向上)に適している。その反面、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、低温では可塑剤自体の粘稠性のために可塑化効果が低下する。このため、PVC粘着テープに求められる柔軟性が不足しがちである。一方、分子量1000未満のカルボン酸エステルは、低温でも柔軟性を発現させる効果に優れるが、高温では揮発しやすく、フォギングを生じる要因となりやすい。」
「【0029】
本発明者らは、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤(PLH)と、分子量1000未満のカルボン酸エステル(PLL)とを組み合わせて用いることにより、PLLの高温下での揮発が抑制されることを見出した。さらに、このことによって可塑剤を含む組成のPVCフィルムを用いたPVCテープにおいて凝着量が効果的に低減され、良好なフォギング防止性が得られることを見出した。ここに開示される技術を実施するにあたり、上記効果が得られる理由を明らかにする必要はないが、おそらくは、PLLとPLHとの分子間相互作用によりPLLの揮発性が低下したものと考えられる。また、本発明者らは、可塑剤としてPLLを単独で含むPVCフィルムを用いた場合に比べて、PLLとPLHとを組み合わせて含むPVCフィルムを用いた粘着テープでは、粘着力の経時変化(典型的には粘着力の低下)が抑制されることを見出した。これは、上記粘着力の経時変化の一因はPLLの粘着剤層への移行にあると考えられるところ、PLLと組み合わせてPLHを用いることにより、おそらくは、PLLとPLHとの分子間相互作用およびPLHとPVCとの相互作用によってPLLの粘着剤層への移行が抑えられて粘着力の経時変化が抑制されたものと考えられる。このように、PLHとPLLとを組み合わせて用いることにより、PLHまたはPLLを単独で使用する構成に比べて、フォギング防止性と他の特性とをより高レベルで両立させることができる。」
「【0040】
PLLの配合量に対するPLHの配合量の比は特に限定されない。例えば、PVCフィルムに含まれるPLLの重量WPLLに対するPLHの重量WPLHの比(WPLH/WPLL)を0.1〜500程度とすることができる。凝着量低減の観点から、通常は、WPLH/WPLLを0.5〜100とすることが有利であり、1〜50とすることが好ましい。フォギング防止性と他の特性(粘着力の経時変化抑制、幅広い温度域での柔軟性など)とをより高レベルで両立する観点から、好ましい一態様において、WPLH/WPLLを1〜25とすることができ、1〜15(例えば1〜10)とすることがより好ましく、1〜8(例えば1〜5)とすることがさらに好ましい。」
「【0047】
(脂肪酸金属塩)
ここに開示される技術におけるPVCフィルムは、PVCおよび可塑剤に加えて、脂肪酸金属塩を含有することが好ましい。PVCフィルムは、該PVCフィルムまたはPVC粘着テープの加工時や該粘着テープの使用環境において、上記PVCフィルムに含まれるPVCが、熱、紫外線または剪断力等のような物理的エネルギー等を受け、これを起因とする化学反応等によって変色し、あるいは物理的、機械的または電気的特性を損なうことがある。PVCフィルムに脂肪酸金属塩を含有させることにより、該脂肪酸金属塩が上記化学反応を防止または抑制する安定剤として機能し得る。また、上記化学反応(典型的には、塩化水素の脱離)を防止または抑制することは、PVC粘着テープについて測定される凝着量の低減、ひいてはフォギング防止性の向上に有利に貢献し得る。」
c また、本件特許明細書には、本件特許発明1を具体化したものとして、実施例1〜5が示され、可塑剤について、分子量1000未満のカルボン酸エステル(PLL)として、「L1:株式会社ジェイ・プラス製品、フタル酸ジイソノニル、商品名「DINP」、分子量504」のみを含むものが比較例1として示されている。また、比較例2については、特許権者は意見書において、H0(分子量1500)のみを可塑剤として含むものであると釈明している。
d 上記本件特許明細書の記載(特に下線部)によれば、可塑剤を含有するPVCフィルムを備えた粘着テープのフォギングの抑制は、PVCフィルムにおける可塑剤の含有量が例えば10〜50重量%程度であること、PVCフィルムは、上記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含むこと、及び、該PVCフィルムに含まれる上記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量WPLHと、該PVCフィルムに含まれる上記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量WPLLとの関係が、以下の式:
1≦(WPLH/WPLL)≦50;
を満たすこと、PVCフィルムに脂肪酸金属塩を含有させることであることが理解される。
そして、それらを全て満たす実施例の記載において、可塑剤を含有するPVCフィルムを備えた粘着テープのフォギングが抑制されることが確認されている。
以上のことから、本件特許発明1は上記事項を実質的に全て満たすものであって、フォギングが抑制されるものであり、その作用効果は実施例において確認されていることが理解できる。
e そして、本件特許発明1は、上記相違点1−5に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えることで、フォギング防止性と他の特性(例えば初期粘着力や低温特性)とを高レベルで両立しやすいものとなったものといえる(【0009】、【0010】、【0029】)。
f これに対し、甲1発明は、フォギングの抑制について考慮されたものではない。そして、甲2、甲3、甲5及び甲6についても、フォギングの抑制については記載されていない。また、甲4には、フォギング性について記載はあるものの、粉体成形用の塩化ビニル系樹脂組成物に関するものであり、成形製品には自動車用内装材が例示されており(摘記4b参照)、本件特許発明1のようなワイヤーハーネス用の粘着テープのような柔軟性が求められるものではないことから、甲4から、フォギング防止性と他の特性(例えば初期粘着力や低温特性)とを高レベルで両立しやすいものとなる、という本件特許発明1の作用効果は、当業者が容易に予測し得るものではない。
g そうすると、本件特許発明1は、上記相違点1−5に係る発明特定事項を備えることで、甲1発明や甲2〜甲6からは当業者が予測し得ない、フォギングを防止し、しかも、フォギング防止性と他の特性(例えば初期粘着力や低温特性)とを高レベルで両立する、という格別顕著な作用効果を奏するものである、いうことができる。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、<相違点1−1>〜<相違点1−4>及び<相違点1−6>について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2〜甲6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

イ 甲2発明を主たる引用発明とする場合
(ア)甲2発明との対比
甲2発明の「ポリ塩化ビニル100重量部、可塑剤(重量平均分子量約1200のアジピン酸ポリエステル)40重量部、ステアリン酸カルシウム0.5重量部、ステアリン酸亜鉛0.2重量部、ハイドロタルサイト1重量部からなる基材」は、「ポリ塩化ビニル」及び「可塑剤」を含有し、マスキングテープの記載であるからフィルム状であり、本件特許発明1の「可塑剤を含有するポリ塩化ビニルフィルム」に相当する。
甲2発明の「粘着剤層に」及び「基材を貼り合わせたマスキングテープ」は、マスキングテープにはポリ塩化ビニルが含まれ、粘着剤に基材を貼り合わせたものであり、基材に架橋剤の添加や活性エネルギー線の照射等は行われていないから、本件特許発明1の「フィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層を含む粘着テープ」及び「前記ポリ塩化ビニルフィルムとして、該ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないものを用い」に相当する。
甲2発明の基材に「ステアリン酸亜鉛」が含まれることは、本件特許発明1の「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み」に相当する。
甲2発明の「剥離シート上にエマルション系再剥離型粘着剤(三井化学製MT-TACK-CR 5322ER)を塗布し、乾燥した20μm厚の粘着剤層」は、エマルション系再剥離型粘着剤は水分散型粘着剤であることは明らかであるから、本件特許発明1の「前記粘着剤層は、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり」に相当する。
甲2発明の「可塑剤(アジピン酸ポリエステル)」は、ポリエステル系可塑剤であり、分子量約1200であるから(摘記2c参照)、本件特許発明1の「分子量1000以上のポリエステル系可塑剤」に相当し、甲2発明の「可塑剤(アジピン酸ポリエステル)」の含有量「40重量部」は、可塑剤は基材中27.7(40/100+40+1+2)重量%であるから、本件特許発明1の「前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は35重量%以下であり」を充足する。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明は、「可塑剤を含有するポリ塩化ビニルフィルムと、
該フィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層とを含む粘着テープであって、
前記粘着剤層は、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムとして、該ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないものを用い、
前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は35重量%以下であり、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤を含む、
粘着テープ。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2−1>
粘着テープが、本件特許発明1では車両のワイヤーハーネス用であるのに対し、甲2発明ではマスキングテープである点。

<相違点2−2>
可塑剤として、本件特許発明1では、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、該フィルムに含まれる前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量WPLHと、該フィルムに含まれる前記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量WPLLとの関係が、以下の式:
1≦(WPLH/WPLL)≦50;
を満たし、
分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤であり、
分子量1000未満のカルボン酸エステルは、分子量700以上1000末満のカルボン酸エステルであるのに対し、甲2発明では、アジピン酸ポリエステルの重量平均分子量は約1200であり、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤ではなく、しかも、分子量1000未満のカルボン酸エステルを含まず、さらに、上記式を満たさない点。

<相違点2−3>
本件特許発明1では、直径80mmの円に相当する面積の粘着テープを120℃に16時間保持して行われる凝着量測定において、凝着量が5mg以下であると特定されるのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。

(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず、<相違点2−2>について検討する。
甲2には、ポリ塩化ビニル系基材と、可塑剤としてアジピン酸ポリエステルを含むこと(【0017】)、アジピン酸ポリエステルとしては、その重量平均分子量が500〜2200であること(【0021】)、アジピン酸ポリエステルは、一種単独で用いても良く、また2種以上を併用してもよいこと(【0022】)が記載されているものの、アジピン酸ポリエステル以外の可塑剤を用いることについては記載も示唆もされていない。しかも、甲2には、アジピン酸ポリエステルの分子量が低すぎる場合には、耐水性の低下や可塑剤のブリードが起こる恐れがあることが記載されていること(【0022】)から、甲2発明において、可塑剤として、比較低分子量の分子量700以上1000末満のカルボン酸エステルを含有させた場合には、耐水性の低下や可塑剤のブリードが起こる恐れが生じるため、甲2発明の可塑剤について、アジピン酸ポリエステルに加えて、分子量700以上1000末満のカルボン酸エステルを含有させる動機付けを見いだすことはできない。
そして、<相違点2−2>に係る本件特許発明1の発明特定事項は、上記ア(ア)の<相違点1−5>に係る本件特許発明特定事項と実質的に同じであり、<相違点2−2>に係る本件特許発明1の発明特定事項も、上記ア(イ)で検討したとおり、上記<相違点1−5>に係る本件特許発明1の発明特定事項と同様に、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

(ウ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、上記ア(ウ)のとおり、甲2、及び、甲1、甲3〜甲6の記載からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであると認められる。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、<相違点2−1>及び<相違点2−3>について検討するまでもなく、甲2発明、及び、甲1、甲3〜甲6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

ウ 甲3発明を主たる引用発明とする場合
(ア)甲3発明との対比
甲3発明の「ポリエステル可塑剤(アジピン酸−1,3−ブタンジオール/オクタノール縮合物、Mw=2000)」は、本件特許発明1の「可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤」及び「前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤であり」に相当する。
甲3発明の「可塑剤としてジイソノニルアジペート」は、カルボン酸エステル系の可塑剤であり、化学式はC24H46O4と表され、分子量は399と求められ、本件特許発明1の「可塑剤として」の「分子量1000未満のカルボン酸エステル」に相当する。
甲3発明の「シート」は、ポリ塩化ビニル樹脂及び可塑剤を含むものであり、カレンダー加工により作成されたものであり、架橋剤の添加や活性エネルギー線照射等は行われていないから、本件特許発明1の「可塑剤を含有するポリ塩化ビニルフィルム」及び「前記ポリ塩化ビニルフィルムとして、該ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないものを用い」に相当する。
甲3発明の「ラウリン酸亜鉛」は、ポリ塩化ビニルフィルムに含まれる脂肪酸金属塩であるから、本件特許発明1の「ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲3発明は、「可塑剤を含有するポリ塩化ビニルフィルムと、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムとして、該ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないものを用い、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み、
前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤である、
ポリ塩化ビニルフィルム。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3−1>
本件特許発明1は、フィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層を含む粘着テープであり、前記粘着テープは、車両のワイヤーハーネス用の粘着テープであり、
前記粘着剤層は、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層であることが特定されているのに対し、甲3発明は、シートであり、粘着剤層を有していない点。

<相違点3−2>
ポリ塩化ビニルフィルムにおける可塑剤の含有量が、本件特許発明1では35重量%以下であるのに対し、甲4発明では、41.2((50+25)/(100+50+25+3+2+0.2+0.2+0.2+1.0+0.5+0.05+0.1))重量%である点。

<相違点3−3>
ポリ塩化ビニルフィルムが、可塑剤として、本件特許発明1では、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルを含み、
該フィルムに含まれる前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量WPLHと、該フィルムに含まれる前記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量WPLLとの関係が、以下の式:
1≦(WPLH/WPLL)≦50;
を満たし、
前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤であり、
前記分子量1000未満のカルボン酸エステルは、分子量700以上1000末満のカルボン酸エステルであるのに対し、甲3発明では、可塑剤として、ポリエステル可塑剤(アジピン酸−1,3−ブタンジオール/オクタノール縮合物、Mw=2000)50重量部とジイソノニルアジペート25重量部とを含み、ジイソノニルアジペートの分子量は399であり、本件特許発明1のカルボン酸エステルには含まれず、しかも、上記式は満たさない点。

<相違点3−4>
本件特許発明1では、直径80mmの円に相当する面積の粘着テープを120℃に16時間保持して行われる凝着量測定において、凝着量が5mg以下であると特定されるのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。

(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず、<相違点3−3>について検討する。
甲3では、ジイソノニルアジペートは、塩化ビニル系樹脂に使用されるアジペート系可塑剤として例示されたものであり、ジイソノニルアジペート以外に、どのような分子量のものを用いられることができるかについては記載も示唆もない。
したがって、ジイソノニルアジペートに替えて、上記相違点3−3に係る本件発明特事項を満たすような、カルボン酸エステルの可塑剤を用いる動機付けを見いだすことができない。
そして、<相違点3−3>に係る本件特許発明1の発明特定事項は、上記ア(ア)の<相違点1−5>に係る本件特許発明特定事項と実質的に同じであり、<相違点3−3>に係る本件特許発明1の発明特定事項によって、上記ア(イ)で検討したとおり、本件特許発明1も格別顕著な作用効果を奏するものであるから、上記<相違点1−5>に係る本件特許発明1の発明特定事項と同様に、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。
(ウ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、上記ア(ウ)のとおり、甲3、及び、甲1、甲2、甲4〜甲6の記載からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであると認められる。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、<相違点3−1>、<相違点3−2>及び<相違点3−4>について検討するまでもなく、甲3発明、及び、甲1、甲2、甲4〜甲6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

エ 甲4発明を主たる引用発明とする場合
(ア)甲4発明との対比
甲4発明の「可塑剤としてトリメリット酸エステル(トリメックスNSK 花王(株)製 C6〜C10のアルキルトリメリテート)」及び「ポリサイザーW−2050(2900CPS)(大日本インキ化学工業(株)製アジピン酸系ポリエステル可塑剤)」は、本件特許発明1の「可塑剤」に相当する。
甲4発明の「パウダーコンパウンドを、オイル加熱式スラッシュ成形機に、オイル加熱により、金型が240℃になった時点で仕込み、金型を反転させて未融着の余剰のパウダーコンパウンドを回収し、そのままの状態で30秒間放置して樹脂組成物のゲル化を待ち、次いで、冷却用オイルを流して約45秒間経過させ、温度が65℃になった時点で冷却オイルの循環を停止し、1mm厚の樹脂成形品を金型から剥して、得られた塩化ビニル樹脂シート」は、シートはポリ塩化ビニル樹脂及び可塑剤を含むものであり、架橋剤の添加や活性エネルギー線照射等を行っていないから、本件特許発明1の「可塑剤を含有するポリ塩化ビニルフィルム」及び「前記ポリ塩化ビニルフィルムとして、該ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないものを用い」に相当する。
甲4発明の「ステアリン酸亜鉛」は、シートに含まれるものであるから、本件特許発明1の「ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み」に相当する。
甲4発明の「ポリサイザーW−2050(2900CPS)(大日本インキ化学工業(株)製アジピン酸系ポリエステル可塑剤)」及び「トリメリット酸エステル(トリメックスNSK 花王(株)製 C6〜C10のアルキルトリメリテート)」は、本件特許発明1の「ポリエステル系可塑剤」及び「可塑剤として」の「カルボン酸エステル」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲4発明は、「可塑剤を含有するポリ塩化ビニルフィルムと、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムとして、該ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないものを用い、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、ポリエステル系可塑剤と、カルボン酸エステルとを含む、
ポリ塩化ビニルフィルム。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4−1>
本件特許発明1は、フィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層を含む粘着テープであり、前記粘着テープは、車両のワイヤーハーネス用の粘着テープであり、前記粘着剤層は、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層であるのに対し、甲4発明は、塩化ビニル樹脂シートであり、粘着剤層を有していない点。

<相違点4−2>
ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量が、本件特許発明1では35重量%以下であるのに対し、甲4発明では、43.5((60+20)/(100+60+20+1+0.5+0.2+0.2+0.2+2+10)重量%である点。

<相違点4−3>
ポリ塩化ビニルフィルムが、可塑剤として、本件特許発明1では、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み、
該フィルムに含まれる前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量WPLHと、該フィルムに含まれる前記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量WPLLとの関係が、以下の式:
1≦(WPLH/WPLL)≦50;
を満たし、
前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤であり、
前記分子量1000未満のカルボン酸エステルは、分子量700以上1000末満のカルボン酸エステルであることが特定されているのに対し、甲4発明では、トリメリット酸エステル(トリメックスNSK 花王(株)製 C6〜C10のアルキルトリメリテート)60重量部、ポリサイザーW−2050(2900CPS)(大日本インキ化学工業(株)製アジピン酸系ポリエステル可塑剤)20重量部を含み、いずれも分子量は不明であり、上記式を満たすかどうか不明である点。

<相違点4−4>
本件特許発明1では、直径80mmの円に相当する面積の粘着テープを120℃に16時間保持して行われる凝着量測定において、凝着量が5mg以下であると特定されるのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。

相違点についての検討
事案に鑑み、まず、<相違点4−3>について検討する。
甲4には、ポリエステル系可塑剤については、その分子量が800〜4000程度であることが記載されている(【0012】)ところ、分子量が本件特許発明1で規定された範囲外のものも含まれる。また、トリメリット酸エステル(トリメックスNSK 花王(株)製 C6〜C10のアルキルトリメリテート)の分子量については、どのような範囲のものが用いられるものなのかについては、記載も示唆もない。そして、甲4発明は、<相違点4−1>で述べたように、粘着剤層を有していない。
そうすると、上記相違点4−3に係る本件発明特事項を満たすような、可塑剤を用いる動機付けを見いだすことができない。
そして、<相違点4−3>に係る本件特許発明1の発明特定事項は、上記ア(ア)の<相違点1−5>に係る本件特許発明特定事項と実質的に同じであり、<相違点4−3>に係る本件特許発明1の発明特定事項によって、上記ア(イ)で検討したとおり、本件特許発明1も格別顕著な作用効果を奏するものであるから、上記<相違点1−5>に係る本件特許発明1の発明特定事項と同様に、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

(ウ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、上記ア(ウ)のとおり、甲4、及び、甲1〜甲3、甲5、甲6の記載からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであると認められる。

(エ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、<相違点4−1>、<相違点4−2>及び<相違点4−4>について検討するまでもなく、甲3発明、及び、甲1、甲2、甲4〜甲6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

イ 本件特許発明2〜4、6〜8について
本件特許発明2〜4、6〜8は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用してさらに限定するものであり、上記本件特許発明1と甲1発明との<相違点1−4>、上記本件特許発明1と甲2発明との<相違点2−2>、上記本件特許発明1と甲3発明との<相違点3−3>、上記本件特許発明1と甲4発明との<相違点4−3>と実質的に同等の相違点を有するものであるから、本件特許発明2〜4、6〜8は、甲1発明、甲2発明、甲3発明、甲4発明及び甲1〜甲6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

第6 前記第4における理由2(サポート要件)についての判断
1.前記第4における理由2(サポート要件)の概要
理由2の概要は、以下のとおりである。
(1)一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。…当然のことながら,その数式の示す範囲が単なる憶測ではなく,実験結果に裏付けられたものであることを明らかにしなければならないという趣旨を含むものである。』とされている〔知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。

(2)そして、本件特許発明の課題は、【0005】の記載からみて、可塑剤を含有するPVCフィルムを備え、かつフォギングが抑制された粘着テープを提供することにあると認める。

(3)可塑剤について
本件特許発明1は、「前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000末満のカルボン酸エステルとを含」むことを発明特定事項としているが、この特定は、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤及び1000末満のカルボン酸エステル系の可塑剤のあらゆる組み合わせを包含し、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤及び1000末満のカルボン酸エステル系の可塑剤のあらゆる含有量を規定している。
しかしながら、発明の詳細な説明の実施例等からは、分子量2800、分子量3200、分子量5800のポリエステル系可塑剤と、分子量750、分子量810、分子量834のカルボン酸エステル系の可塑剤と、の組み合わせであって、分子量2800、分子量3200、分子量5800のポリエステル系可塑剤が20〜30重量%であり、分子量750、分子量810、分子量834のカルボン酸エステル系の可塑剤が3〜15重量%であるもののみが、可塑剤を含有するPVCフィルムを備え、所定条件下での凝着量が少なくかつフォギングが抑制された粘着テープを提供できる程度のことしか理解できない。
そして、発明の詳細な説明には、実施例より揮発しやすい分子量1000以上2800未満のポリエステル系可塑剤を使用した場合や、分子量750未満のカルボン酸エステル系の可塑剤を使用した場合、さらには分子量1000以上のポリエステル系可塑剤及び1000末満のカルボン酸エステル系の可塑剤のあらゆる含有量の組み合わせが、可塑剤を含有するPVCフィルムを備え、凝着量が少なくかつフォギングが抑制された粘着テープを提供できるとするメカニズムは記載されていないし、そのような出願時の技術常識もない。
むしろ、実施例より揮発しやすいポリエステル系可塑剤やカルボン酸エステル系の可塑剤を使用した場合、あるいは、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤が分子量1000末満のカルボン酸エステル系の可塑剤より少ない配合量の場合、可塑剤を含有するPVCフィルムを備え、所定値以下の凝着量かつ良好なフォギング防止性を示す粘着テープを提供できないことは、明らかである。
そうすると、発明の詳細な説明の内容を参酌しても、本件特許発明1が、前記課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲を超えていると認められる。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2〜8についても同様である。

(4)粘着剤について
本件特許発明1は、「該フィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層とを含む粘着テープ」を規定している。
ここで、本件特許明細書の段落0128や段落0129に開示されているように、凝着量やフォギング性の測定は、フィルムと粘着剤とを含む粘着テープを対象として測定されるため、粘着剤由来の揮発成分もこれらの評価結果に関与すると解されるから、粘着剤が多くの揮発成分を含む場合には、粘着テープ全体の凝着量が高まる場合があることは明らかである。すなわち、粘着テープ全体の凝着量を低減するためには、フィルムの規定のみでは不十分であり、粘着剤層についても、揮発成分の含有量が少ない粘着剤や、フィルムと相性の良い粘着剤等を採用する必要があることは明らかである。
しかしながら、本件特許明細書を参照しても、粘着剤の種類と凝着量との関係についての説明がなく、また、本件特許明細書の実施例においては、粘着剤として水分散型ゴム系粘着剤組成物を使用した場合しか開示されていないから、水分散型ゴム系粘着剤組成物以外の粘着剤を使用した場合についても「凝着量が 5 m g 以下」を達成することができると直ちに理解することができない。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲を超えていると認められる。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2〜8についても同様である。

2.判断
(1)本件特許発明の課題
本件特許発明の課題は、【0005】の記載からみて、可塑剤を含有するPVCフィルムを備え、かつフォギングが抑制された粘着テープを提供することにあると認める。
そして、上記「第3 1(1)ア(ウ)本件特許発明1の効果について」で述べたように、本件特許発明は、本件特許発明の課題を解決することを当業者は理解するといえる。以下、詳述する。

(2)可塑剤について
本件特許発明1は、可塑剤について、「ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は35重量%以下であり、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、該フィルムに含まれる前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量WPLHと、該フィルムに含まれる前記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量WPLLとの関係が、以下の式:
1≦(WPLH/WPLL)≦50;
を満たし、
前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤であり、
前記分子量1000未満のカルボン酸エステルは、分子量700以上1000末満のカルボン酸エステルであり」と特定された。
そして、【0032】、【0038】及び【0040】に記載のとおり、揮発を抑制して凝着量を低減する観点から、前記分子量1000未満のカルボン酸エステルとして分子量700以上1000末満のカルボン酸エステルを用い、凝着量低減の観点から、前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤として分子量2000以上のポリエステル系可塑剤、1≦(WPLH/WPLL)≦50の配合量の比率とするものであるから、そのような可塑剤を備えることにより、直径80mmの円に相当する面積の粘着テープを120℃に16時間保持して行われる凝着量測定において、凝着量が5mg以下とすることができ、フォギング防止性と他の特性とをより高いレベルで両立させることができる車両のワイヤーハーネス用粘着テープを提供できることが理解できる。
実際、本件特許明細書の【表2】からみても、そのような可塑剤を備えることにより、直径80mmの円に相当する面積の粘着テープを120℃に16時間保持して行われる凝着量測定において、凝着量が5mg以下とすることができ、フォギング防止性と他の特性とをより高いレベルで両立させることができる車両のワイヤーハーネス用粘着テープを提供できることが理解できる。
そうすると、本件特許明細書の内容を参酌すれば、本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2〜4、6〜8が、前記課題を解決できると認識できる範囲にあるといえる。
したがって、本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2〜4、6〜8は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲にあると認められる。

(3)粘着剤について
本件特許発明1は、粘着剤について、「前記粘着剤層は、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり」と特定された。
ここで、粘着剤層が、水分散型粘着剤組成物から形成されたものであれば、水分散型は溶剤系より揮発量が減るから、凝着量が減り、フォギングを防止できるといえる。
そして、本件特許明細書の【表2】からみて、水分散型ゴム系粘着剤組成物を使用した場合に、直径80mmの円に相当する面積の粘着テープを120℃に16時間保持して行われる凝着量測定において、凝着量が5mg以下とすることができ、フォギング防止性と他の特性とをより高いレベルで両立させることができる車両のワイヤーハーネス用粘着テープを提供できることが理解できる。
さらに、令和3年10月25日付けの特許権者の意見書の第8〜10ページに記載の追加試験例によれば、水分散型ゴム系粘着剤組成物と同様に水分散型アクリル系粘着剤組成物も「凝着量が5mg以下」を達成でき、所定条件下での凝着量が少なくかつフォギングが抑制された車両のワイヤーハーネス用の粘着テープを提供できることは明らかであるから、水分散型ゴム系粘着剤組成物を使用した場合に、「凝着量が5mg以下」を達成でき、所定条件下での凝着量が少なくかつフォギングが抑制された車両のワイヤーハーネス用の粘着テープを提供できることは明らかである。
そうすると、本件特許明細書の内容を参酌すれば、本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2〜4、6〜8が、前記課題を解決できると認識できる範囲にあるといえる。
したがって、本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2〜4、6〜8は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲にあると認められる。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
特許異議申立人の主張は以下のとおりである。
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
本件特許明細書には、段落0025、段落0032、段落0033、段落0035、段落0038、段落0039、段落0040に、凝着量を低減させるための手段として、PVCフィルムにおける可塑剤の含有量を50重量%以下とすること、PLLとしてトリメリッ ト酸エステルおよびピロメリット酸エステル等を使用すること、PLLの分子量を400以上とすること、PLHの分子量を2000以上とすること、PVC100重量部に対する PLHの配合量を60重量部未満とすること、WPLH/WPLLを0.5〜100とすること、等が開示されている。
一方で、本件特許発明1は、前述した様々な凝着量低減手段の中から、「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み」及び「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み」という構成のみを選択し、限定している。
ここで、本件特許明細書の実施例においては、前述の要件を全て満たす場合に初めて凝着量が低減できることしか開示されていない。即ち、本件特許明細書の実施例には、PVCフィルムにおける可塑剤の含有量を50重量%以下とし、PLLとしてトリメリット酸エステル又はピロメリット酸エステルを使用し、PLLの分子量を400以上とし、PLHの分子量を2000以上とし、PVC100重量部に対するPLHの配合量を60重量部未満とし、WPLH/WPLLを0.5〜100とした場合に初めて、凝着量が5mg以下になることしか開示されていない。従って、本件特許明細書を見た当業者は、「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み」及び「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み」という2つの構成を満たすだけで、発明の課題を解決できる程度に凝着量を低減することができると直ちに理解することができない。以上説明したように、本件特許発明1〜8は、凝着量の低減手段が十分に規定されていないという点で、本件特許明細書で開示された範囲を超えており、サポート要件を充足しない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
本件特許発明1は、「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み」及び「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み」という上記2つの構成に加え、「前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は35重量%以下であり」、「前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤であり」、「前記分子量1000未満のカルボン酸エステルは、分子量700以上1000末満のカルボン酸エステルであり」という構成を有するものである。
そして、本件特許明細書の【0032】、【0038】及び【0040】に記載のとおり、揮発を抑制して凝着量を低減する観点から、前記分子量1000未満のカルボン酸エステルとして分子量700以上1000末満のカルボン酸エステルを用い、凝着量低減の観点から、前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤として分子量2000以上のポリエステル系可塑剤、1≦(WPLH/WPLL)≦50の配合量の比率とするものであり、さらに、【表2】からみて、「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み」及び「前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み」という上記2つの構成に加え、「前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は35重量%以下であり」、「前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤であり」、「前記分子量1000未満のカルボン酸エステルは、分子量700以上1000末満のカルボン酸エステルであり」という構成を有する場合に、発明の課題を解決できる程度に凝着量を低減することができることは明らかである。
したがって、本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2〜4、6〜8は、その課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。

第8 むすび
以上のとおりであるから、令和3年6月9日付けの取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜4及び6〜8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜4及び6〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
訂正前の請求項5は本件訂正により削除されたため、請求項5についての特許異議の申立ては、不適法なものであり、その補正をすることができないから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑剤を含有するポリ塩化ビニルフィルムと、
該フィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層と
を含む粘着テープであって、
前記粘着テープは、車両のワイヤーハーネス用の粘着テープであり、
前記粘着剤層は、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムとして、該ポリ塩化ビニルフィルム全体の架橋性を意図的に高める処理が施されていないものを用い、
前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は35重量%以下であり、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、該フィルムに含まれる前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量WPLHと、該フィルムに含まれる前記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量WPLLとの関係が、以下の式:
1≦(WPLH/WPLL)≦50;
を満たし、
前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、分子量2000以上のポリエステル系可塑剤であり、
前記分子量1000未満のカルボン酸エステルは、分子量700以上1000未満のカルボン酸エステルであり、
直径80mmの円に相当する面積の前記粘着テープを120℃に16時間保持して行われる凝着量測定において、凝着量が5mg以下である、粘着テープ。
【請求項2】
前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は10重量%以上35重量%以下である、請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項3】
前記脂肪酸金属塩は、周期表の1族、2族、12族、13族および14族(ただしPbを除く。)のいずれかに属する少なくとも1種の金属元素を含む、請求項1または2に記載の粘着テープ。
【請求項4】
前記脂肪酸金属塩は、Li、Na、Ca、Mg、Zn、BaおよびSnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の粘着テープ。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、酸化防止剤を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の粘着テープ。
【請求項7】
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、エラストマーを含む、請求項1、2、3、4または6に記載の粘着テープ。
【請求項8】
電線と、該電線の周囲に巻き付けられている請求項1、2、3、4、6または7に記載の粘着テープと、を含む、車両用ワイヤーハーネス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-03 
出願番号 P2015-257441
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 瀬下 浩一
亀ヶ谷 明久
登録日 2020-08-13 
登録番号 6749096
権利者 日東電工株式会社 台灣日東電工股▲ふん▼有限公司
発明の名称 粘着テープ  
代理人 大井 道子  
代理人 谷 征史  
代理人 谷 征史  
代理人 谷 征史  
代理人 大井 道子  
代理人 大井 道子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ