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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1385148
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-12 
確定日 2022-03-25 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6756482号発明「光学ガラス、プリフォーム及び光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6756482号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。 特許第6756482号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6756482号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜6に係る特許についての出願は、平成28年1月15日(優先権主張 平成27年1月21日)の出願であって、令和2年8月31日にその特許権の設定登録がされ、同年9月16日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1〜6に係る特許に対して、令和3年3月12日に特許異議申立人合同会社SAS(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年6月8日付けで取消理由が通知され、同年8月5日に特許権者により訂正請求書及び意見書の提出がされ、同年9月8日に申立人により意見書の提出がされ、同年12月7日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年12月27日に手続補正書及び意見書の提出がされたものである。

第2 訂正の適否について
1 訂正請求書の補正及びその適否
令和3年12月27日提出の手続補正書による補正の内容は、同年8月5日提出の訂正請求書における訂正事項1を補正するものであって、訂正事項1における「酸化物基準のモル比(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)/Ln2O3が0.10以下」との記載を「酸化物基準のモル和(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)/Ln2O3が0.1以下」に訂正する事項を削除するものであるから、当該補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
したがって、前記補正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第131条の2第1項の規定に適合するから、当該補正を認める。
2 訂正の内容
令和3年12月27日提出の手続補正書による補正は、前記1のとおり認められるから、同年8月5日提出の訂正請求書における訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1〜6を訂正の単位として訂正することを求めるものであって、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「酸化物基準のモル%で、
B2O3成分を56.0%以上80.0%以下(56.0%を除く)、
La2O3成分 0〜30.0%、
Y2O3成分 0〜15.0%、
SiO2成分 0〜11.0%、
Li2O成分 0〜15.0%、
Gd2O3成分の含有量が5.0%未満であり、
Ln2O3成分を10.0%以上40.0%以下(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)含有し、
酸化物基準のモル比(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)/Ln2O3が0.10以下であり、
酸化物基準のモル和(ZnO+CaO)が1.0%以上16.0%未満であり
比重が4.50以下であり、
1.67以上1.80以下の屈折率(nd)を有し、52以上60以下のアッベ数(νd)を有し、
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が、(−0.01νd+2.17)≦nd≦(−0.01νd+2.37)の関係を満たす光学ガラス。」
とあるのを、
「酸化物基準のモル%で、
B2O3成分を56.0%以上80.0%以下(56.0%を除く)、
La2O3成分 0〜30.0%、
Y2O3成分 0〜15.0%、
SiO2成分 1.0超11.0%以下、
Li2O成分 0〜15.0%、
Gd2O3成分の含有量が2.1%以下であり、
Ln2O3成分を18.0%以上40.0%以下(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)含有し、
酸化物基準のモル比(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)/Ln2O3が0.10以下であり、
酸化物基準のモル和(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)が1.0%未満であり、
酸化物基準のモル和(ZnO+CaO)が1.0%以上16.0%未満であり
比重が4.50以下であり、
1.67以上1.80以下の屈折率(nd)を有し、52以上60以下のアッベ数(νd)を有し、
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が、(−0.01νd+2.17)≦nd≦(−0.01νd+2.37)の関係を満たす光学ガラス。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜6も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に
「酸化物基準のモル和(SiO2+Li2O)が0.5%以上25.0%以下である請求項1又は2記載の光学ガラス。」
とあるのを、
「酸化物基準のモル和(SiO2+Li2O)が3.0%以上25.0%以下である請求項1又は2記載の光学ガラス。」
に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4〜6も同様に訂正する。)。
3 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、願書に添付された明細書の段落【0030】、【0031】、【0034】及び【0061】の記載に基づき、訂正前の請求項1に記載された「光学ガラス」の組成について、「SiO2成分」、「Gd2O3成分」、「Ln2O3成分」及び「酸化物基準のモル和(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)」の範囲を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、願書に添付された明細書の段落【0058】の記載に基づき、訂正前の請求項3の「酸化物基準のモル和(SiO2+Li2O)」の範囲を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。

第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に併せて「本件発明1」などという。)。
「【請求項1】
酸化物基準のモル%で、
B2O3成分を56.0%以上80.0%以下(56.0%を除く)、
La2O3成分 0〜30.0%、
Y2O3成分 0〜15.0%、
SiO2成分 1.0超11.0%以下、
Li2O成分 0〜15.0%、
Gd2O3成分の含有量が2.1%以下であり、
Ln2O3成分を18.0%以上40.0%以下(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)含有し、
酸化物基準のモル比(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)/Ln2O3が0.10以下であり、
酸化物基準のモル和(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)が1.0%未満であり、
酸化物基準のモル和(ZnO+CaO)が1.0%以上16.0%未満であり
比重が4.50以下であり、
1.67以上1.80以下の屈折率(nd)を有し、52以上60以下のアッベ数(νd)を有し、
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が、(−0.01νd+2.17)≦nd≦(−0.01νd+2.37)の関係を満たす光学ガラス。
【請求項2】
酸化物基準での、Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)のモル和が15.0%以下、
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)のモル和が25.0%以下である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物基準のモル和(SiO2+Li2O)が3.0%以上25.0%以下である請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物基準のモル和(SrO+BaO)が15.0%以下である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項6】
請求項1から4いずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。」

第4 特許異議の申立てについて
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:特公昭44−14823号公報
甲第2号証:特開昭55−116641号公報
甲第3号証:特開2008−280235号公報
甲第4号証:特開平8−59282号公報
(1)申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)
設定登録時の請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、請求項1〜6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)
設定登録時の請求項1〜4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、請求項1〜6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)
設定登録時の請求項1〜4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、請求項1〜6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(4)申立理由4(甲第4号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)
設定登録時の請求項1〜4に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、請求項1〜6に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
2 取消理由通知書に記載した取消理由の概要
設定登録時の請求項1〜6に係る特許に対して、令和3年6月8日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)
設定登録時の請求項1〜6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、請求項5、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)
設定登録時の請求項1〜6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、請求項5、6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(3)取消理由3(甲第4号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)
設定登録時の請求項1〜6に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、請求項5、6に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
3 各甲号証の記載内容について
(1)甲第1号証の記載事項
ア 「特許請求の範囲
La2O3−ThO2−B2O3三元素のA(37/28/35);B(57/3/40);C(60/0/40);D(56/6,5/37,5);E(40/29/31)の諸点で囲む面で決定される組成I、(その際その列の括弧内の三つの数値はLa2O3−ThO2−B2O3の含有量の重量%を示し)および安定なアルカリ土類酸化物(0〜20重量%)、−酸化カドミウム(38〜64重量%)−酸化亜鉛(40〜58重量%)−酸化リチウム(0〜0.7重量%)−硼酸塩(31〜43重量%)よりなる群より選ばれた成分を有するガラスの組成になつている成分IIの混合物からなる光学ガラスにおいて、該成分Iの重量%は95〜50、該成分IIの重量%は5〜50の範囲にあり、上記の2価酸化物+Li2Oの硼酸に対するモル比が値0.2を超え、かつZnO及び/又はCdOのアルカリ土類+Li2Oに対する重量比が少なくとも2であることを特徴とする光学ガラス。」(第11欄第17〜36行)
イ 「本発明者は研究の結果、屈折率ndが約1.71以上のガラスに於いてZnOおよび(又は)CdOのアルカリ土類酸化物+Li2Oに対する重量比を少なくとも2に選ぶときには、上述のモル比がより高い値をとる組成に於いても尚極めて重要なガラスの得られることを見出した。このガラスの特に重要なことは極限光学的性質を有するとともに、このガラスが従来のものに比し結晶化傾向が特に少なく、従つてより大きな溶融単位に於いて作業を行うことが可能である点である。・・・その一つは本発明の如くある大量ガラスの安定性をより一層改善することを研究し、他は製造時の大きな困難を克服して極限の光学的性質を有するガラスを創成しようとすることである。・・・従つてこのようにして多様なトリウムのない著しく失透に対し安定なガラスを製造することが出来、かつその光学的性質は表に示される如くなお極めて良好であるようにすることが出来る。」(第2欄第12行〜第3欄第14行)
ウ 「次の実施例は本発明によるガラスの組成の計算方法を示す。
・・・
当該ガラスのnd値およびν値は次の表に於いて1a乃至1e,2a乃至2c,3a乃至3cおよび4a乃至4eの下方に挙げてある。ここには他の実施例も記してある。
・・・

」(第6欄第1行〜第10欄末行)
(2)甲第2号証の記載事項
ア 「2.特許請求の範囲
重量パーセントにおいて下記の組成よりなる高屈折率低分散の光学的性能を有する光学ガラス。
SiO2が 2 乃至5 %
B2O3が 24乃至32%
ZnOが 1 乃至20%
ZrO2が 1 乃至10%
La2O3が 45.1乃至55%
Y2O3が 1 乃至20%
CaOとPbOとが 0 乃至10%
WO3が 0 乃至10%
Nb2O5が 0 乃至20%
Li2OとK2OとNa2Oとが0 乃至1 %」(第1頁左下欄第4〜17行)
イ 「本発明は、屈折率ndが1.74乃至1.85あり、アッベ数νdが38乃至55の光学性能範囲にあり、酸化トリウムを全く含まず、しかも耐失透性に優れた高屈折率、低分散の光学ガラスに関する。」(第1頁右下欄第2〜6行)
ウ 「ZrO2は、失透に対して安定な成分であるが、これが1%以下、または10%以上となると、その効果は著しく低下する。
・・・
Y2O3は、高屈折率、低分散成分中でも、特に失透に対して安定な成分であるが、これを1%以下にすると、その効果が得られず、これを20%以上にすると、逆に耐失透性を悪化する。」(第2頁右下欄第10行〜第3頁左上欄第2行)
エ 「本発明に係る光学ガラスの実施例を次表により示す。

」(第3頁右上欄12行〜左下欄末行)
(3)甲第3号証の記載事項
ア 「【請求項5】
重量基準で、
SiO2 2〜10%
B2O3 5〜45%
La2O3 30〜60%
RO(R=Zn,Sr,Ba) 0〜15%
Ln2O3(Ln=Y,Gd) 0〜40%
ZrO2+Nb2O5+Ta2O5 0〜30%
を含む基礎ガラス組成物100%に対し、
Fe 5〜50ppm
を含有していることを特徴とする光学ガラス。」
イ 「【実施例1】
【0052】
次に、実施例1の光学ガラスを、試験例1〜10として表1に示す。実施例1では、10種類のガラス試料を作製し、それぞれの蛍光量を測定した。なお、表1の組成は重量基準の百分率で表記した。
・・・
【0058】
本実施例の光学ガラスは、屈折率(nd)が1.75〜2.10、アッベ数(νd)が28〜50の範囲にある。そして、本実施例の光学ガラスは、特に、蛍光顕微鏡に用いられる対物レンズの先端レンズとして好適な光学特性を有している。
・・・
【0060】
【表1】


(4)甲第4号証の記載事項
ア 「【請求項1】重量比(以下wt%)で、
B2O3 30.5〜45 wt%
Li2O 0.1〜 2.5wt%
Na2O 0 〜 5 wt%
K2O 0 〜 5 wt%
但し、Li2O+Na2O+K2O
0.1〜 7.0wt%
ZnO 1 〜19.5wt%
La2O3 18 〜43.5wt%
SiO2 0 〜 5 wt%
Al2O3 0 〜 5 wt%
MgO 0 〜 5 wt%
CaO 0 〜15 wt%
SrO 0 〜15 wt%
BaO 0 〜15 wt%
ZrO2 0 〜 5 wt%
Gd2O3 0 〜25 wt%
Y2O3 0 〜10 wt%
Yb2O3 0 〜10 wt%
Nb2O5 0 〜 5 wt%
Ta2O5 0 〜 5 wt%
As2O3 0 〜 1 wt%
Sb2O3 0 〜 1 wt%
の組成を有し、屈折率(nd)が1.65〜1.70、アッベ数(νd)が50〜56、屈伏点(At)が630℃以下であることを特徴とする光学ガラス。」
イ 「【0008】本発明の目的は、屈折率(nd)が1.65〜1.70、アッベ数(νd)が50〜56の光学恒数を持ち、屈伏点がモールド成形に適した630℃以下であり、さらにモールド成形中に多量のガラスの組成成分が揮発することなく、化学的耐久性、失透に対する安定性に優れ、環境汚染のない新規な光学ガラスを提供することである。」
ウ 「【0013】・・・La2O3は比較的に失透に対する安定性を低下させることなく、屈折率を高くし、化学的耐久性を向上させる必須成分であるが、18wt%未満では十分な効果が得られず、43.5wt%を越えると失透に対する安定性が低下し、屈伏点も上昇する。
・・・
【0016】・・・Gd2O3は比較的に失透に対する安定性を低下させることなく、屈折率を高くし、化学的耐久性を向上させるが、25wt%を越えると失透に対する安定性が低下し、屈伏点も上昇する。
【0017】Y2O3、Yb2O3は屈折率を高くし、化学的耐久性を向上させるが、10wt%を越えると失透に対する安定性が低下し、屈伏点も上昇する。・・・」
エ 「【0018】
【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。本発明に係る実施組成例(数値はwt%)を、光学恒数(nd,νd)及び屈伏点(At、数値は℃)とともに表1、表2に示す。
・・・
【0020】
【表1】

・・・
【0022】
【発明の効果】以上の通り、本発明によれば屈折率(nd)が1.65〜1.70、アッベ数(νd)が50〜56、屈伏点(At)が630℃以下であることを特徴とし、化学的耐久性、失透に対する安定性に優れ、環境汚染のない光学ガラスが提供される。
【0023】しかも、本発明による光学ガラスは屈伏点が低いため、特に、高精度な金型の面をガラス素材に加圧転写して、最終的な研削・研磨工程を要しないで所定の性能を有するレンズを得るモールド成形にきわめて有用である。」
4 当審の判断
事案に鑑み、特許異議申立理由及び取消理由を纏めて検討する。
(1)取消理由1及び申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の前記3(1)ア及びウの記載事項を、例3aの「光学ガラス」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「重量%で、B2O3 40.6%、La2O3 47.9%、Li2O 0.4%、ZnO 10.95%からなる組成を有し、Nd値が1.7166、ν値が54.2である光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の組成は、モル%で表すと、B2O3が約66.4モル%、La2O3が約16.7モル%、Li2Oが約1.5モル%、ZnOが約15.3モル%となるし、また、当該組成には、Y2O3成分、SiO2成分、Gd2O3成分、Yb2O3成分、TiO2成分、Ta2O5成分、Nb2O5成分、ZrO2成分、CaO成分を含まないことは明らかであるし、さらに、当該組成から算出した、La2O3とGd2O3とY2O3とYb2O3のモル和は約16.7モル%、TiO2とTa2O5とNb2O5とZrO2のモル和は0モル%、ZnOとCaOのモル和は約15.3モル%、モル比(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)/Ln2O3は0となるから、甲1発明の組成は、本件発明1の「酸化物基準のモル%で、
B2O3成分を56.0%以上80.0%以下(56.0%を除く)、
La2O3成分 0〜30.0%、
Y2O3成分 0〜15.0%、
Li2O成分 0〜15.0%、
Gd2O3成分の含有量が2.1%以下であり
酸化物基準のモル比(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)/Ln2O3が0.10以下であり、
酸化物基準のモル和(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)が1.0%未満であり、
酸化物基準のモル和(ZnO+CaO)が1.0%以上16.0%未満」であるとの規定を満足する。
また、甲1発明の「Nd値が1.7166、ν値が54.2である」ことは、本件発明1の「1.67以上1.80以下の屈折率(nd)を有し、52以上60以下のアッベ数(νd)を有」するとの規定を満足するし、さらに、本件発明1の「(−0.01νd+2.17)≦nd≦(−0.01νd+2.37)の関係」(以下「関係式」という。)に代入すると、左辺は1.628、右辺は1.828となり、Nd値(1.7166)との大小関係を満たすから、本件発明1の関係式の規定も満足する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の相違点1〜3で相違し、その余の点で一致する。
<相違点1>
本件発明1では、SiO2成分を1.0超11.0モル%含有しているのに対して、甲1発明では、SiO2成分を含まない点。
<相違点2>
本件発明1では、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)を18.0モル%以上40.0モル%以下で含有しているのに対して、甲1発明では、La2O3含有量が47.9重量%(約16.7モル%)であり、モル%に換算した組成から算出されたLa2O3とGd2O3とY2O3とYb2O3のモル和が約16.7モル%である点。
<相違点3>
本件発明1では、比重が4.50以下であるのに対して、甲1発明では、この点が明らかでない点。
(イ)相違点の検討
事案に鑑み、相違点2について検討する。
まず、甲1発明において、La2O3とGd2O3とY2O3とYb2O3のモル和(Ln2O3成分の含有量)は約16.7モル%であるから、相違点2は実質的なものである。
次に、相違点2に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討する。
甲第1号証には、光学的性質が良好であり、失透に対して安定であることを目的(前記3(1)イ)として、光学ガラスの各成分の含有割合を特定範囲内とすること(前記3(1)ア)が記載されているから、甲1発明において、La2O3含有量を当該特定範囲内で調整することは、当業者であれば容易に想起することである。
しかしながら、La2O3成分はガラスの屈折率及びアッベ数を高める成分であるところ、甲第1号証には、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)をそれぞれ、1.67以上1.80以下、52以上60以下とし、さらに、(−0.01νd+2.17)≦nd≦(−0.01νd+2.37)の関係を満たすようにガラス組成を調整することは記載も示唆もされていないから、甲1発明において、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が上記関係を満たすように、La2O3含有量を調整して、Ln2O3成分を18.0モル%以上40.0モル%以下とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)小括
以上で検討したとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
なお、甲第1号証に記載された例4a又は例4bの「光学ガラス」に注目して甲第1号証に記載された発明を認定しても同様である。
ウ 本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、前記イで検討した理由により、本件発明2〜6は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
エ 取消理由1及び申立理由1についての結論
以上のとおりであるから、取消理由1及び申立理由1に理由はない。
(2)取消理由2及び申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)について
ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の前記3(2)ア、イ及びエの記載事項を、No.4の「光学ガラス」に注目して整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「重量パーセントにおいて、B2O3が30%、La2O3が46%、Y2O3が17%、SiO2が3%、Li2Oが0.4%、ZrO2が2%、ZnOが2%の組成よりなり、屈折率ndが1.7655、アッベ数νdが53.0である光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明との対比
甲2発明の組成は、モル%で表すと、B2O3が約57.3モル%、La2O3が約18.8モル%、Y2O3が約10.0モル%、SiO2が約6.6モル%、Li2Oが約1.8モル%、ZrO2が約2.2モル%、ZnOが約3.3モル%となるし、また、当該組成には、Gd2O3成分、Yb2O3成分、TiO2成分、Ta2O5成分、Nb2O5成分、CaO成分を含まないことは明らかであるし、さらに、当該組成から算出した、La2O3とGd2O3とY2O3とYb2O3のモル和は約28.8モル%、TiO2とTa2O5とNb2O5とZrO2のモル和は約2.2モル%、ZnOとCaOのモル和は約3.3モル%、モル比(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)/Ln2O3は約0.075になるから、甲2発明の組成は、本件発明1の「酸化物基準のモル%で、
B2O3成分を56.0%以上80.0%以下(56.0%を除く)、
La2O3成分 0〜30.0%、
Y2O3成分 0〜15.0%、
SiO2成分 1.0超11.0%、
Li2O成分 0〜15.0%、
Gd2O3成分の含有量が2.1%以下であり、
Ln2O3成分を18.0%以上40.0%以下(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)含有し、
酸化物基準のモル比(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)/Ln2O3が0.10以下であり、
酸化物基準のモル和(ZnO+CaO)が1.0%以上16.0%未満であ」るとの規定を満足する。
また、甲2発明の「屈折率ndが1.7655、アッベ数νdが53.0である」ことは、本件発明1の「1.67以上1.80以下の屈折率(nd)を有し、52以上60以下のアッベ数(νd)を有」するとの規定を満足するし、さらに、本件発明1の関係式に代入すると、左辺は1.640、右辺は1.840となり、屈折率nd値(1.7655)との大小関係を満たすから、本件発明1の関係式の規定も満足する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、以下の相違点4、5で相違し、その余の点で一致する。
<相違点4>
本件発明1では、酸化物基準のモル和(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)が1.0モル%未満であるのに対して、甲2発明では、ZrO2含有量が2重量%(約2.2モル%)であり、モル%に換算した組成から算出されたTiO2とTa2O5とNb2O5とZrO2のモル和が約2.2モル%である点。
<相違点5>
本件発明1では、比重が4.50以下であるのに対して、甲2発明では、この点が明らかでない点。
(イ)相違点の検討
事案に鑑み、相違点4について検討する。
まず、甲2発明において、酸化物基準のモル和(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)は約2.2モル%であるから、相違点4は実質的なものである。
次に、相違点4に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討する。
甲2発明は、耐失透性に優れた高屈折率、低分散の光学ガラスに関するものであり(前記3(2)イ)、ZrO2は失透に対して安定な成分として1重量%以上添加されるものである(前記3(2)ウ)。
そして、甲2発明において、酸化物基準のモル和(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)を1モル%未満にするためには、少なくともZrO2を1重量%未満にする必要があるところ、甲2発明の耐失透性に優れた光学ガラスを得るという目的に鑑みれば、このようにZrO2を調整する動機付けが生じることはないから、甲2発明において、ZrO2を1モル%未満とし、酸化物基準のモル和(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)を1.0モル%未満とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)小括
以上で検討したとおり、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
なお、甲第2号証に記載されたNo.5の「光学ガラス」に注目して甲第2号証に記載された発明を認定しても同様である。
ウ 本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、前記イで検討した理由により、本件発明2〜6は、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
エ 申立人の主張について
申立人は、令和3年9月8日提出の意見書に甲第5号証(国際公開第2010/035770号)及び甲第6号証(国際公開第01/60753号)を添付して、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証の記載を根拠に、甲2発明において、ZrO2成分が1.0モル%未満になるように、ZrO2成分をY2O3成分に置換することは当業者が容易に想到し得たことである旨を主張するので、以下で検討する。
まず、申立人が根拠とする、甲第2号証の第2頁右下欄第10行〜第3頁左上欄第2行(前記3(2)ウ)、甲第5号証の段落[0026]及び[0038]、甲第6号証の第7頁第4〜14行には、光学ガラスのZrO2成分とY2O3成分とが置換可能な等価な成分であることを記載していない。
また、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証の上記記載からは、ZrO2成分とY2O3成分は、光学ガラスの屈折率、アッベ数、耐失透性に対して類似の作用を有することを理解できるものの、ZrO2成分とY2O3成分が置換可能な等価な成分であることを示す証拠はないから、類似の作用を有するということが、直ちにZrO2成分をY2O3成分に置換する動機付けとなるとも言いがたい。
そうすると、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証の上記記載を考慮したとしても、甲2発明において、ZrO2をモル%で1%未満とし、酸化物基準のモル和(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)を1.0%未満とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
オ 取消理由2及び申立理由2についての結論
以上のとおりであるから、取消理由2及び申立理由2に理由はない。
(3)取消理由3及び申立理由4(甲第4号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)について
ア 甲第4号証に記載された発明
甲第4号証の前記3(4)ア及びエの記載事項を、No.5の「光学ガラス」に注目して整理すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「B2O3 40.8wt%、La2O3 29.0wt%、SiO2 2.0wt%、Li2O 2.3wt%、Gd2O3 15.9wt%、ZnO 9.8wt%、As2O3 0.2wt%の組成を有し、屈折率(nd)が1.6926、アッベ数(νd)が55.6、屈伏点(At)が624℃である光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲4発明との対比
甲4発明の組成は、モル%で表すと、B2O3が約61.7モル%、La2O3が約9.4モル%、SiO2が約3.5モル%、Li2Oが約8.1モル%、Gd2O3が約4.6モル%、ZnOが約12.7モル%、As2O3が約0.1モル%となるし、また、当該組成には、Y2O3成分、Yb2O3成分、TiO2成分、Ta2O5成分、Nb2O5成分、ZrO2成分、CaO成分を含まないことは明らかであるし、さらに、当該組成から算出した、La2O3とGd2O3とY2O3とYb2O3のモル和は約14.0モル%、TiO2とTa2O5とNb2O5とZrO2のモル和は0モル%、ZnOとCaOのモル和は約12.7モル%、モル比(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)/Ln2O3は0となるから、甲4発明の組成は、本件発明1の「酸化物基準のモル%で、
B2O3成分を56.0%以上80.0%以下(56.0%を除く)、
La2O3成分 0〜30.0%、
Y2O3成分 0〜15.0%、
SiO2成分 1.0超11.0%、
Li2O成分 0〜15.0%、
酸化物基準のモル比(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)/Ln2O3が0.10以下であり、
酸化物基準のモル和(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)が1.0%未満であり、
酸化物基準のモル和(ZnO+CaO)が1.0%以上16.0%未満」であるとの規定を満足する。
また、甲4発明の「屈折率(nd)が1.6926、アッベ数(νd)が55.6」であることは、本件発明1の「1.67以上1.80以下の屈折率(nd)を有し、52以上60以下のアッベ数(νd)を有」するとの規定を満足するし、さらに、本件発明1の関係式に代入すると、左辺は1.614、右辺は1.814となり、屈折率nd値(1.6926)との大小関係を満たすから、本件発明1の関係式の規定も満足する。
そうすると、本件発明1と甲4発明とは、以下の相違点6〜8で相違し、その余の点で一致する。
<相違点6>
本件発明1では、Gd2O3成分の含有量が2.1モル%以下であるのに対して、甲4発明では、Gd2O3成分の含有量が15.9wt%(約4.6モル%)である点。
<相違点7>
本件発明1では、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)を18.0モル%以上40.0モル%以下で含有しているのに対して、甲4発明では、La2O3含有量が29.0wt%(約9.4モル%)、Gd2O3成分の含有量が15.9wt%(約4.6モル%)であり、モル%に換算した組成から算出されたLa2O3とGd2O3とY2O3とYb2O3のモル和が約14.0モル%である点。
<相違点8>
本件発明1では、比重が4.50以下であるのに対して、甲4発明では、この点が明らかでない点。
(イ)相違点の検討
事案に鑑み、相違点7について検討する。
まず、甲4発明において、La2O3とGd2O3とY2O3とYb2O3のモル和(Ln2O3成分の含有量)は約14.0モル%であるから、相違点7は実質的なものである。
次に、相違点7に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討する。
甲4発明は、屈折率(nd)が1.65〜1.70である光学ガラスを提供することを目的とするもの(前記3(4)イ)であるところ、甲4発明の屈折率(nd)は1.6926であり、屈折率(nd)の上限である1.70に近いものとなっている。そして、La2O3、Gd2O3、Y2O3、Yb2O3は、屈折率を高くする成分(前記3(4)ウ)であるところ、甲4発明には、これら成分と置換可能な同等な成分を含有していない。
そうしてみると、屈折率(nd)が上限である1.70に近い甲4発明において、屈折率を1.65〜1.70の範囲に収めつつ、La2O3、Gd2O3、Y2O3、Yb2O3のいずれかの成分を増加させて、Ln2O3成分を18.0モル%以上40.0モル%以下とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)小括
以上で検討したとおり、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
なお、甲第1号証に記載されたNo.6〜No.9の「光学ガラス」に注目して甲第4号証に記載された発明を認定しても同様である。
ウ 本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、前記イで検討した理由により、本件発明2〜6は、甲第4号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
エ 取消理由3及び申立理由4についての結論
以上のとおりであるから、取消理由3及び申立理由4に理由はない。
(4)申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とした新規性進歩性欠如)について
ア 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証の前記3(3)ア及びイの記載事項を、試験例2の「光学ガラス」に注目して整理すると、甲第3号証には、次の発明(以下、甲3発明という。)が記載されていると認められる。
「重量基準で、SiO2 3.5%、B2O3 30%、La2O3 45%、ZnO 2%、SrO 1%、Y2O3 8.5%、Gd2O3 6%、ZrO2 2%、Na2O 1%、K2O 1%よりなる基礎ガラス組成物100%に対し、Fe 45ppmを含有しており、屈折率(nd)が1.75〜2.10、アッベ数(νd)が28〜50の範囲にある光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲3発明との対比
甲3発明の組成は、モル%で表すと、B2O3が約56.8モル%、La2O3 が約18.2モル%、Y2O3が約5.0モル%、SiO2が約7.7モル%、Gd2O3が約2.2モル%、ZrO2が約2.1モル%、ZnOが約3.2モル%、SrOが約1.3モル%、Na2Oが約2.1モル%、K2Oが約1.4モル%となるし、また、当該組成には、Li2O成分、Yb2O3成分、TiO2成分、Ta2O5成分、Nb2O5成分、CaO成分を含まないことは明らかであるし、さらに、当該組成から算出した、La2O3とGd2O3とY2O3とYb2O3のモル和は約25.4モル%、TiO2とTa2O5とNb2O5とZrO2のモル和は約2.1モル%、ZnOとCaOのモル和は約3.2モル%、モル比(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)/Ln2O3は約0.084になるから、甲3発明の組成は、本件発明1の「酸化物基準のモル%で、
B2O3成分を56.0%以上80.0%以下(56.0%を除く)、
La2O3成分 0〜30.0%、
Y2O3成分 0〜15.0%、
SiO2成分 1.0超11.0%、
Li2O成分 0〜15.0%、
Ln2O3成分を18.0%以上40.0%以下(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)含有し、
酸化物基準のモル比(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)/Ln2O3が0.10以下であり、
酸化物基準のモル和(ZnO+CaO)が1.0%以上16.0%未満」であるとの規定を満足する。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは、以下の相違点9〜12で相違し、その余の点で一致する。
<相違点9>
本件発明1では、Gd2O3成分の含有量が2.1モル%以下であるのに対して、甲3発明では、Gd2O3成分の含有量が6重量%(約2.2モル%)である点。
<相違点10>
本件発明1では、酸化物基準のモル和(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)が1.0モル%未満であるのに対して、甲3発明では、ZrO2含有量が2重量%(約2.1モル%)であり、モル%に換算した組成から算出されたTiO2とTa2O5とNb2O5とZrO2のモル和が約2.1モル%である点。
<相違点11>
本件発明1では、比重が4.50以下であるのに対して、甲3発明では、この点が明らかでない点。
<相違点12>
本件発明1では、屈折率(nd)が1.67以上1.80以下であり、アッベ数(νd)が52以上60以下であり、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が、(−0.01νd+2.17)≦nd≦(−0.01νd+2.37)の関係を満たしているのに対して、甲3発明では、屈折率(nd)が1.75〜2.10、アッベ数(νd)が28〜50の範囲にある点。
(イ)相違点の検討
事案に鑑み、相違点12について検討する。
相違点12は、少なくとも本件発明1と甲3発明のアッベ数(νd)の範囲は重複していないから、実質的なものである。
次に、相違点12に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討すると、甲第3号証には、アッベ数(νd)を52以上60以下にする動機付けとなるような記載も示唆もない。加えて、甲第3号証には、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)を、(−0.01νd+2.17)≦nd≦(−0.01νd+2.37)の関係を満たすように調整することが記載されていないし、このようなことが技術常識であることを示す証拠もない。
そうしてみると、甲3発明において、アッベ数(νd)が52以上60以下とすること、さらに、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)を、(−0.01νd+2.17)≦nd≦(−0.01νd+2.37)の関係を満たすように調整することは、容易想到な事項であるといえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)小括
以上で検討したとおり、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ 本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、前記イで検討した理由により、本件発明2〜6は、甲第3号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
エ 申立理由3についての結論
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、請求項1〜6に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル%で、
B2O3成分を56.0%以上80.0%以下(56.0%を除く)、
La2O3成分 0〜30.0%、
Y2O3成分 0〜15.0%、
SiO2成分 1.0%超11.0%以下、
Li2O成分 0〜15.0%、
Gd2O3成分の含有量が2.1%以下であり、
Ln2O3成分を18.0%以上40.0%以下(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)含有し、
酸化物基準のモル比(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)/Ln2O3が0.10以下であり、
酸化物基準のモル和(TiO2+Ta2O5+Nb2O5+ZrO2)が1.0%未満であり、
酸化物基準のモル和(ZnO+CaO)が1.0%以上16.0%未満であり
比重が4.50以下であり、
1.67以上1.80以下の屈折率(nd)を有し、52以上60以下のアッベ数(νd)を有し、
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が、(−0.01νd+2.17)≦nd≦(−0.01νd+2.37)の関係を満たす光学ガラス。
【請求項2】
酸化物基準での、Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)のモル和が15.0%以下、
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)のモル和が25.0%以下である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物基準のモル和(SiO2+Li2O)が3.0%以上25.0%以下である請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物基準のモル和(SrO+BaO)が15.0%以下である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項6】
請求項1から4いずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-15 
出願番号 P2016-006124
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C03C)
P 1 651・ 113- YAA (C03C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 宮澤 尚之
金 公彦
登録日 2020-08-31 
登録番号 6756482
権利者 株式会社オハラ
発明の名称 光学ガラス、プリフォーム及び光学素子  

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