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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E04C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E04C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  E04C
審判 全部申し立て 2項進歩性  E04C
管理番号 1385152
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-23 
確定日 2022-03-29 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6757792号発明「グラフェン又は酸化グラフェンを有する建材製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6757792号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−9〕、〔10、11〕について訂正することを認める。 特許第6757792号の請求項1、4、6、7及び9ないし11に係る特許を維持する。 特許第6757792号の請求項2、3、5及び8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6757792号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、2015年(平成27年)12月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年(平成27年)11月11日 ドイツ)を国際出願日とする出願であって、令和2年9月2日にその特許権の設定登録がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の特許異議の申立ての経緯は以下のとおりである。

令和 3年 3月23日 特許異議申立人谷口 俊春(以下「申立人
」という。)による請求項1ないし11に
係る発明の特許に対する特許異議の申立て
同年 7月26日付け 取消理由通知
同年10月26日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年12月17日 意見書の提出(申立人)

第2 訂正の適否についての判断

1.訂正の内容
令和3年10月26日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、請求項ごとに整理すると以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「セメント又は石膏含有建材製品であって、
前記建材製品は、グラフェン及び/又は酸化グラフェンを含み、
前記建材製品は、建材ボードであり、
前記建材ボードは、複数の材料層を備え、
前記材料層の少なくとも1つが、グラフェン紙又は酸化グラフェン紙により構成されたグラフェン又は酸化グラフェン層である、セメント又は石膏含有建材製品。」
と記載されているのを、
「セメント又は石膏含有建材製品であって、
前記建材製品は、グラフェン及び/又は酸化グラフェンを含み、
前記建材製品は、建材ボードであり、
前記建材ボードは、複数の材料層を備え、
前記材料層の少なくとも1つが、グラフェン紙又は酸化グラフェン紙により構成されたグラフェン又は酸化グラフェン層であり、
前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、前記建材ボードの少なくとも一つの表面にある、セメント又は石膏含有建材製品。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
請求項4に
「請求項2に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1に記載の」
に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
請求項6に
「請求項1乃至5いずれか1項に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1又は4に記載の」
に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(8)訂正事項8
請求項9に
「請求項1乃至8いずれか1項に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1、4、6、又は7のいずれか1項に記載の」
に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に、
「建材製品の機械的強度を向上させるため、又は、建材製品の耐火性等級を向上させるための、グラフェン及び/又は酸化グラフェンの使用であって、
前記建材製品が、セメント含有建材製品であり、
前記グラフェン及び/又は前記酸化グラフェンが、グラフェン紙又は酸化グラフェン紙として使用される、グラフェン及び/又は酸化グラフェンの使用。」
と記載されているのを、
「建材製品の機械的強度を向上させるため、又は、建材製品の耐火性等級を向上させるための、グラフェン及び/又は酸化グラフェンの使用であって、
前記グラフェン及び/又は前記酸化グラフェンが、グラフェン紙又は酸化グラフェン紙として使用され、
前記建材製品が、セメント含有建材ボードであり、
前記建材ボードは、複数の材料層を備え、
前記材料層の少なくとも1つはグラフェン紙又は酸化グラフェン紙により構成されたグラフェン又は酸化グラフェン層であり、
前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、前記建材ボードの少なくとも一つの表面にある、グラフェン及び/又は酸化グラフェンの使用。」
に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア.訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「グラフェン又は酸化グラフェン層」について「前記建材ボードの少なくとも一つの表面にある」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0017】には「本発明の特に好ましい実施形態によれば、前記建材ボードは、層の形状で、グラフェン及び/又は酸化グラフェンを含む。この層は、前記建材ボードの少なくとも一表面、好ましくは両表面に存在し得る。」との記載があるから、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2、3、5及び7
ア.訂正の目的について
訂正事項2、3、5及び7に係る訂正は、それぞれ訂正前の請求項2、3、5及び8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2、3、5及び7に係る訂正は、請求項を削除するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項4
ア.訂正の目的について
訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項4が請求項1の記載を引用する請求項2の記載を引用していたところ、訂正事項1に係る訂正によって訂正前の請求項2に係るすべての発明特定事項が請求項1に記載されたことに伴い、訂正後の請求項1の記載を引用するようにしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、発明特定事項の実質的な変更を伴うものではないから、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項6及び8
ア.訂正の目的について
訂正事項6及び8に係る訂正は、訂正事項2、3、5及び7に係る訂正によって訂正前の請求項2、3、5及び8が削除されたことに伴い、引用する請求項から訂正によって削除された請求項を除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6及び8に係る訂正は、引用する請求項の一部を削除するものであって、発明特定事項の実質的な変更を伴うものではないから、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項9
ア.訂正の目的について
訂正事項9に係る訂正は、訂正前の「セメント含有建材製品」が「セメント含有建材ボード」であることを限定するとともに、当該「建材ボード」について「前記建材ボードは、複数の材料層を備え、前記材料層の少なくとも1つはグラフェン紙又は酸化グラフェン紙により構成されたグラフェン又は酸化グラフェン層であり、前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、前記建材ボードの少なくとも一つの表面にある」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正前の特許請求の範囲の請求項1には「前記建材製品は、建材ボードであり、前記建材ボードは、複数の材料層を備え、前記材料層の少なくとも1つが、グラフェン紙又は酸化グラフェン紙により構成されたグラフェン又は酸化グラフェン層である」ことが記載され、請求項2には「前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、前記建材ボードの少なくとも一つの表面にある」ことが記載されていたから、訂正事項9に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2ないし9は直接または間接的に請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1ないし9に対応する本件訂正後の請求項1ないし9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、本件訂正前の請求項11は請求項10を引用するものであって、訂正事項9によって記載が訂正される請求項10に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項10及び11に対応する本件訂正後の請求項10及び11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(7)小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、訂正後の請求項[1−9]、[10、11]について訂正することを認める。

第3 本件発明について

上記「第2」のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明11」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
セメント又は石膏含有建材製品であって、
前記建材製品は、グラフェン及び/又は酸化グラフェンを含み、
前記建材製品は、建材ボードであり、
前記建材ボードは、複数の材料層を備え、
前記材料層の少なくとも1つが、グラフェン紙又は酸化グラフェン紙により構成されたグラフェン又は酸化グラフェン層であり、
前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、前記建材ボードの少なくとも一つの表面にあるセメント又は石膏含有建材製品。

【請求項2】 (削除)

【請求項3】 (削除)

【請求項4】
前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、前記表面における全領域又は一部領域に亘って適用された、請求項1に記載のセメント又は石膏含有建材製品。

【請求項5】 (削除)

【請求項6】
前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、個別の複数の帯を有する、請求項1又は4に記載のセメント又は石膏含有建材製品。

【請求項7】
前記複数の帯が、前記建材ボードの長手方向及び/又は横断方向に延びている、請求項6に記載のセメント又は石膏含有建材製品。

【請求項8】 (削除)

【請求項9】
少なくとも一つの前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、前記建材ボードの材料における補強材として含まれている、請求項1、4、6、又は7のいずれか1項に記載のセメント又は石膏含有建材製品。

【請求項10】
建材製品の機械的強度を向上させるため、又は、建材製品の耐火性等級を向上させるための、グラフェン及び/又は酸化グラフェンの使用であって、
前記グラフェン及び/又は前記酸化グラフェンが、グラフェン紙又は酸化グラフェン紙として使用され、
前記建材製品が、セメント含有建材ボードであり、
前記建材ボードは、複数の材料層を備え、
前記材料層の少なくとも1つは、グラフェン紙又は酸化グラフェン紙により構成されたグラフェン又は酸化グラフェン層であり、
前記グラフェン又は酸化グラフェン層が前記建材ボードの少なくとも一つの表面にある、グラフェン及び/又は酸化グラフェンの使用。

【請求項11】
前記建材製品が、石膏含有建材製品である、請求項10に記載のグラフェン及び/又は酸化グラフェンの使用。

第4 特許異議申立理由及び取消理由通知で通知した取消理由の概要

1.特許異議申立理由の概要
申立人は、本件訂正前の本件特許の請求項1ないし11に係る発明に対して、証拠として甲第1号証ないし甲第7号証を提出し、次の特許異議申立理由を申し立てている。

(1)(明確性)本件特許発明1−11は、明確ではない。

(2)(実施可能要件)本件特許明細書の発明の詳細な説明は当業者が本件特許発明1−11を実施できる程度に記載されたものではない。

(3)(サポート要件)本件特許発明1−11は、本件特許明細書に記載されたものではない。

(4)(新規性)本件特許発明10−11は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明である。

(5)(進歩性)本件特許発明1−11は、
甲第1号証と、必要に応じて甲第2号証ないし甲第7号証及び技術常識に基づいて、
甲第2号証と、必要に応じて甲第1号証、甲第3号証ないし甲第7号証及び技術常識に基づいて、
甲第5号証と、必要に応じて甲第1号証ないし甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証及び技術常識に基づいて、
甲第6号証と、必要に応じて甲第1号証ないし甲第5号証、甲第7号証及び技術常識に基づいて、又は、
甲第7号証と、必要に応じて甲第1号証ないし甲第6号証及び技術常識に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものである。

(証拠一覧)
甲第1号証 国際公開第2009/123771号
甲第2号証 国際公開第2012/125854号
甲第3号証 特開2013−56815号公報
甲第4号証 国際公開第2009/049375号
甲第5号証 豪国特許出願公開第2010202894号明細書
甲第6号証 国際公開第2014/066079号
甲第7号証 国際公開第2014/037882号

2.取消理由通知で通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1ないし11に係る特許に対して、当審が令和3年7月26日付けの取消理由通知において特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

進歩性)本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第5 取消理由通知で通知した取消理由についての当審の判断

1.甲号証
(1)甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された甲第4号証には次の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。また、括弧内に甲第4号証に対応する日本特許出願の公表公報である特表2011−500488号公報の対応箇所を付記した。)

ア.「For example, it has been observed that a single layer of graphene sheets can be deposited on a substrate by drop-casting from a dilute graphene dispersion (see Figure 2b) , which provides a facile approach to obtain single graphene sheets for device fabrication or studies on the properties of individual sheets. Uniform graphene papers or films can also be readily formed on a membrane filter by vacuum filtration of as-reduced dispersions. Freestanding films or graphene paper5 can be peeled off from the membrane. The samples of graphene paper were then annealed at different temperatures before being cooled down to room temperature for various measurements. The resulting films are bendable and exhibit a shiny metallic luster (Figure 4a). The conductivity is found to be -6000 S/m at room temperature, which is comparable to that of chemically modified single-walled carbon nanotube paper5. Like many other lyophobic dispersions, once the graphene dispersions are dried, they are not dispersible in water any more, making as-prepared graphene films water- resistant. It has been recently demonstrated that strong graphene oxide paper can be prepared using a similar strategy6. The resulting paper could find use in many fields such as membranes, anisotropic conductors and supercapacitors. Preliminary measurements show that the graphene paper obtained from direct filtration of the stable graphene dispersions gives a tensile modulus up to 35 GPa, which is close to that of the graphene oxide paper. It is expected that strong, conductive, flexible, and thermally stable graphene paper should be more attractive than non-conductive, less thermally stable graphene oxide paper for practical applications.」(第9ページ第29行〜第11ページ第2行)
(【0034】
例えば、希釈グラフェン分散液からドロップキャスト法(drop-casting)により、グラフェンシートの単層が基板に被着され得ることが観察された(図2b参照)。これは、デバイス作製又は個々のシートの特性研究のためのグラフェンシートの単層を得るための容易な手法を提供する。還元されたままの分散液を真空ろ過することにより、均一なグラフェン紙又はフィルムを膜フィルター上に容易に形成することもできる。自立フィルム又はグラフェン紙は膜から剥がすことができる。その後、様々な測定のために室温に冷却する前に、グラフェン紙試料を異なる温度でアニーリング(焼き戻し)した。生成したフィルムは曲げることができ、輝きのある金属性の光沢を示す(図4a)。導電率は室温で〜6000S/mであることがわかり、これは化学的に修飾された単層カーボンナノチューブ紙の導電率に匹敵する(非特許文献5)。他の多くの疎液性分散液と同様に、グラフェン分散液は一度乾燥すると、もはや水中に分散することができない。このため製造されたままのグラフェンフィルムは耐水性である。類似の方法を用いて強い酸化グラフェン紙が製造され得ることが最近実証された(非特許文献6)。生成した紙は膜、異方性導体及びスーパーキャパシタのような多くの分野で用途を見出し得た。安定なグラフェン分散液を直接ろ過することで得られたグラフェン紙は35GPaもの引張係数を生じることが予備的測定により示されるが、これは酸化グラフェン紙の引張係数に近い。実用的応用において、頑丈で導電性でしなやかで且つ熱的に安定なグラフェン紙は、非導電性で熱的安定性に劣る酸化グラフェン紙より魅力的であるはずだと期待される。)

イ.「It has also been demonstrated that highly ordered graphene paper can be prepared by directional flow-induced assembly of graphene sheets that are well dispersed in solution. Moderate thermal annealing can enhance its mechanical stiffness and strength as well as electrical conductivity. The results of cell culture experiments also indicate that graphene paper may be biocompatible and therefore suitable for biomedical applications. The combination of the exceptional mechanical strength, thermal stability, high electrical conductivity and biocompatibility makes graphene paper a promising material for many technological applications from electrodes for flexible batteries to biomedical applications, such as inclusion in heart valves.」(第17ページ第19〜32行)
(【0046】
高度に秩序化したグラフェン紙は、溶液中に十分に分散したグラフェンシートを方向性の流れにより誘導された集合により製造できることも実証された。適度な熱アニーリングは電気伝導率に加えて機械的剛性及び強度を増強し得る。細胞培養実験の結果は、グラフェン紙が生物適合性であり、そのため生物医学的応用に適する可能性があることも示唆する。優れた機械的強度、熱的安定性、高電気伝導率及び生物適合性の組み合わせのため、グラフェン紙は、フレキシブル電池の電極から、心臓弁への埋め込みのような生物医学的応用まで多くの工学的応用のための有望な材料である。)

ウ.以上を総合すると、甲第4号証には次の2の発明(以下、それぞれ「甲4発明」及び「甲4方法発明」という。)が記載されている。

(甲4発明)
「グラフェン紙であって、
安定なグラフェン分散液を直接ろ過することで得られたグラフェン紙は35GPaもの引張係数を生じ、
優れた機械的強度、熱的安定性、高電気伝導率及び生物適合性の組み合わせのため、多くの工学的応用のための有望な材料である
グラフェン紙。」

(甲4方法発明)
「甲4発明のグラフェン紙を工学的応用のために使用する使用方法。」

(2)甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された甲第5号証には次の記載がある(行数は甲第5号証のページ左端に記載されたものを用いた。また、括弧内に当審で作成した仮訳を付した。)。

ア.「It is known to provide a reinforced plasterboard having external layers of paper on either side of a core of cementitious gypsum based material. One previously proposed reinforced plasterboard has an internal layer of mesh reinforcement embedded within one side of the core of cementitious material, with a layer of paper immediately adjacent to the mesh reinforcement.」(第1ページ第11〜15行)
(仮訳:セメント質石膏ベースの材料のコアの両側に紙の外側層を有する強化石膏ボードを提供することが知られている。以前に提案されたある強化石膏ボードは、セメント質材料のコアの片側に埋め込まれたメッシュ強化材の内側層を有しており、紙の層が当該メッシュ強化材に直接隣接している。)

イ.「With reference to Figures 1 to 3, there are illustrated reinforced plasterboards 10, in accordance with examples of the present invention. Each of the reinforced plasterboards 10 has a reinforced paper liner 12 on one or both sides of a core 14 of cementitious material, so as to improve impact resistance and flexural strength. The reinforced plasterboard 10 may be suitable for use as panelling to cover a wall, ceiling or floor of a building.
In both cases shown in Figures 1 and 2, the reinforced plasterboard 10 includes the core 14 of cementitious material, and the reinforced paper liner 12 on at least one side of the core 14. The reinforced paper liner 12 includes two layers of paper 16, 18 with a reinforcement in the form of a reinforcement layer 20 interposed between the two layers of paper 16, 18.
Although the examples shown in the drawings have the reinforced paper liner including two layers of paper with the reinforcement element in the form of a reinforcement layer interposed between the layers of paper, in other examples the reinforced paper liner may include a layer of paper with the reinforcement element integrally formed within the layer of paper. In such a case, the reinforcement element may comprise an impregnated reinforcement mesh which is integrated within the paper during manufacture of the paper.」(第4ページ第30行〜第5ページ第18行)
(仮訳:図1ないし3を参照すると、本発明の例に従って強化石膏ボード10が示されている。それぞれの強化石膏ボード10は、耐衝撃性及び曲げ強度を改善するために、セメント質材料のコア14の片側又は両側に強化紙ライナー12を有している。強化石膏ボードは、建物の壁、天井又は床を覆うパネル材として用いるのに適している。
図1及び2に示される両者において、強化石膏ボードは、セメント質材料のコア14、及び、コア14の少なくとも一方の側の強化紙ライナー12を含んでいる。強化紙ライナー12は、2層の紙16、18を含み、2層の紙16、18の間に挿入された強化層20の形態で強化されている。
当該図に示された例は、2層の紙と、紙の層の間に挿入された強化層の形態の強化要素を含む強化紙ライナーを有するが、他の例では、強化紙ライナーは、紙の層と、紙の層内に一体的に形成された強化要素を含んでいてもよい。この場合、強化要素は、製造中に紙に一体化された含浸強化メッシュから成ってもよい。)

ウ.上記「ア.」記載の強化石膏ボードは従来技術のものであるが、上記「イ.」記載の強化石膏ボードと同様に「建物の壁、天井又は床を覆うパネル材として用いる」ことができることは明らかである。

エ.上記「イ.」から、甲第5号証には次の発明(以下「甲5−1発明」という。)が記載されていると認められる。

「強化石膏ボードであって、
耐衝撃性及び曲げ強度を改善するために、セメント質材料のコアの片側又は両側に強化紙ライナーを有しており、
強化紙ライナーは、2層の紙を含み、2層の紙の間に挿入された強化層の形態で強化されており、
建物の壁、天井又は床を覆うパネル材として用いる
強化石膏ボード。」

オ.上記「ア.」記載の従来技術に着目すると、上記「ア.及びウ.」から、甲第5号証には次の発明(以下「甲5−2発明」という。)が記載されていると認められる。

「強化石膏ボードであって、
セメント質石膏ベースの材料のコアの両側に紙の外側層を有するとともに、
セメント質材料のコアの片側に埋め込まれたメッシュ強化材の内側層を有しており、
紙の層が当該メッシュ強化材に直接隣接しており、
建物の壁、天井又は床を覆うパネル材として用いる
強化石膏ボード。」

2.判断
(1)本件特許発明1
ア.甲5−1発明を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件特許発明1と甲5−1発明とを対比する。

a.甲5−1発明の「強化石膏ボード」は、「建物の壁、天井又は床を覆うパネル材として用いる」ものであるから、本件特許発明1の「石膏含有建材製品」に相当するとともに、「建材ボード」にも相当する。

b.甲5−1発明の「強化石膏ボード」は、「セメント質材料のコアの片側又は両側に強化紙ライナーを有しており、強化紙ライナーは、2層の紙を含み、2層の紙の間に挿入された強化層の形態で強化されて」いるから、「セメント質材料のコア」、「2層の紙」及び「強化層」を有している。そして、これらがいずれも層を成していることは明らかであるから、甲5−1発明のこの点は、本件特許発明1の「前記建材ボードは、複数の材料層を備え」に相当する。

c.そうすると、本件特許発明1と甲5−1発明とは、
「石膏含有建材製品であって、
前記建材製品は、建材ボードであり、
前記建材ボードは、複数の材料層を備える、
石膏含有建材製品。」
の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)本件特許発明1の建材製品は、「グラフェン及び/又は酸化グラフェンを含み」、「材料層の少なくとも1つが、グラフェン紙又は酸化グラフェン紙により構成されたグラフェン又は酸化グラフェン層であり、グラフェン又は酸化グラフェン層が、建材ボードの少なくとも一つの表面にある」のに対して、甲5−1発明はグラフェン及び/又は酸化グラフェンを含まず、材料層にグラフェン又は酸化グラフェン層を有さない点。

(イ)判断
事案に鑑み、まず、相違点1のうちの「グラフェン又は酸化グラフェン層が、建材ボードの少なくとも一つの表面にある」との点について検討する。

a.甲第4号証及び甲第5号証には、それぞれ上記「1.(1)及び(2)」に摘記した事項等が記載されているが、グラフェン又は酸化グラフェン層が、建材ボードの少なくとも一つの表面にある点については記載も示唆もない。

b.また、一般にグラフェン又は酸化グラフェン層は炭素原子1層またはその積層体程度の非常に薄い厚さを有するものであって、従来建築部材において慣用されていた強化層とはその性状が大きく異なるものであるところ、甲4発明は「グラフェン紙」が「優れた機械的強度」を有し「多くの工学的応用のための有望な材料である」ことを示すにとどまり、建築分野に応用する際の具体的な態様については何ら開示するものではないから、甲5−1発明の「2層の紙の間に挿入された強化層」として甲4発明の「グラフェン紙」を採用する動機付けはない。

c.さらに、強化層を建築部材の表面に設けることは、建築の技術分野において本件特許出願前に普通に行われていたことであると認められるものの、甲5−1発明においては「強化紙ライナーは、2層の紙を含み、2層の紙の間に挿入された強化層の形態で強化されて」おり、「強化層」は「2層の紙」と一体の「強化紙ライナー」として用いられているところ、このうち表面側の「紙」を省いて「強化層」を建築部材の表面に設ける動機付けもない。

d.そうすると、甲5−1発明において相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到することができたということはできない。

e.申立人は、令和3年12月17日提出の意見書において、「本件特許明細書の【0023】段落には、「グラフェン及び/又は酸化グラフェン層は、前記建材ボードの表面に存在し、例えば板紙や(不織)繊維などの被覆材により、全領域又は一部領域に亘って包まれている。」と記載されている。つまり、本件特許発明において、グラフェン及び/又は酸化グラフェン層が建材ボードの表面に存在することとは、必ずしもグラフェン及び/又は酸化グラフェン層が最表面にある場合に限定されているのではなく、その上に、さらに、板紙や(不織)繊維などの被覆材により被覆されていること、つまり、グラフェン及び/又は酸化グラフェン層が内部に存在する場合も包含されている。」(第6ページ第2〜12行)と主張している。
しかしながら、上記「b.」で検討したとおり、そもそも甲5−1発明の「2層の紙の間に挿入された強化層」として甲4発明の「グラフェン紙」を採用する動機付けはない。
また、「表面」の通常の語義は「物の外側をなす面。」(岩波書店『広辞苑 第六版』)であるところ、被覆材により包まれている層は外側をなすものではないから、「表面にある」とはいえない。
そして、申立人が挙げた本件特許明細書の上記記載は、建材ボードの表面にグラフェン及び/又は酸化グラフェン層が存在し、さらに被覆材により、全領域又は一部領域に亘って包まれているという層構成を順を追って説明していると解することができ、このような理解は「表面」の通常の語義とも整合する。
なお、本件訂正前の請求項8は、請求項2を引用する場合には、「前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、前記建材ボードの少なくとも一つの表面にある」ことと、「少なくとも一つの前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、全領域又は一部領域に亘って、被覆材により覆われている」こととの両者を発明特定事項とするものであったが、本件訂正により請求項8は削除され、本件特許発明が両者の事項を同時に備えるものではないことが明確になっている。
そうすると、本件特許発明1における「表面」の意味を、通常の語義を離れて「グラフェン及び/又は酸化グラフェン層が内部に存在する場合も包含」すると解することはできないから、申立人の主張を採用することはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5−1発明及び甲4発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.甲5−2発明を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件特許発明1と甲5−2発明とを対比する。

a.甲5−2発明の「強化石膏ボード」は、「建物の壁、天井又は床を覆うパネル材として用いる」ものであるから、本件特許発明1の「石膏含有建材製品」に相当するとともに、「建材ボード」にも相当する。

b.甲5−2発明の「強化石膏ボード」は、「セメント質石膏ベースの材料のコアの両側に紙の外側層を有するとともに、セメント質材料のコアの片側に埋め込まれたメッシュ強化材の内側層を有しており、紙の層が当該メッシュ強化材に直接隣接して」いるから、「セメント質石膏ベースの材料のコア」、「紙の外側層」及び「メッシュ強化材」を有している。そして、これらがいずれも層を成していることは明らかであるから、甲5−2発明のこの点は、本件特許発明1の「前記建材ボードは、複数の材料層を備え」に相当する。

c.そうすると、本件特許発明1と甲5−2発明とは、
「石膏含有建材製品であって、
前記建材製品は、建材ボードであり、
前記建材ボードは、複数の材料層を備える、
石膏含有建材製品。」
の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点A)本件特許発明1の建材製品は、「グラフェン及び/又は酸化グラフェンを含み」、「材料層の少なくとも1つが、グラフェン紙又は酸化グラフェン紙により構成されたグラフェン又は酸化グラフェン層であり、グラフェン又は酸化グラフェン層が、建材ボードの少なくとも一つの表面にある」のに対して、甲5−2発明のものはグラフェン及び/又は酸化グラフェンを含まず、材料層にグラフェン又は酸化グラフェン層もない点。

(イ)判断
事案に鑑み、まず、相違点Aのうちの「グラフェン又は酸化グラフェン層が、建材ボードの少なくとも一つの表面にある」との点について検討する。

a.甲第4号証及び甲第5号証には、グラフェン又は酸化グラフェン層が、建材ボードの少なくとも一つの表面にある点について、何ら記載も示唆もない。

b.また、上記「ア.(イ)b.」で検討したとおり、甲4発明は「グラフェン紙」を建築分野に応用する際の具体的な態様について何ら開示するものではないから、甲5−2発明の「セメント質材料のコアの片側に埋め込まれたメッシュ強化材」として甲4発明の「グラフェン紙」を採用する動機付けはない。

c.さらに、強化層を建築部材の表面に設けることは、建築の技術分野において本件特許出願前に普通に行われていたことであると認められるものの、甲5−2発明においては「メッシュ強化材の内側層」は「セメント質材料のコアの片側に埋め込まれた」ものであり、「コアの両側に紙の外側層を有する」ところ、「メッシュ強化材の内側層」を「コア」から分離したり「紙の外側層」をなくして表面に位置させる動機付けはない。

d.そうすると、甲5−2発明において相違点Aに係る本件特許発明1とすることは当業者が容易に想到することができたものではない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5−2発明及び甲4発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明4、6、7及び9
本件特許発明4、6、7及び9は、本件特許発明1に係る請求項1を引用し、さらに限定したものである。
そうすると、本件特許発明4、6、7及び9は、上記「(1)」と同様の理由により、甲5−1発明又は甲5−2発明及び甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明10
ア.対比
本件特許発明10と甲4方法発明とを対比する。

(ア)甲4方法発明の「グラフェン紙を工学的応用のために使用する使用方法」において、「グラフェン」が「グラフェン紙」として使用されていることは自明であって、甲4方法発明のこの点は本件特許発明10の「グラフェンの使用」、及び、「グラフェンが、グラフェン紙として使用され」に相当する。

(イ)甲4方法発明の「工学的応用」が「優れた機械的強度、熱的安定性、高電気伝導率及び生物適合性の組み合わせのため」であることと、本件特許発明10の「建材製品の機械的強度を向上させるため、又は、建材製品の耐火性等級を向上させるため」とは、「機械的強度を向上させるため」の点で共通する。

(ウ)そうすると、本件特許発明10と甲4方法発明とは、
「機械的強度を向上させるための、グラフェンの使用であって、
前記グラフェンが、グラフェン紙として使用される、グラフェンの使用。」
の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点a)
本件特許発明10が「建材製品」の機械的強度を向上させるため、又は、建材製品の耐火性等級を向上させるための使用であって、「建材製品が、セメント含有建材製品であり、前記建材ボードは、複数の材料層を備え、前記材料層の少なくとも1つはグラフェン紙又は酸化グラフェン紙により構成されたグラフェン又は酸化グラフェン層であり、前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、前記建材ボードの少なくとも一つの表面にある」のに対して、甲4方法発明はそのようなものでない点。

イ.判断
相違点aのうち、「グラフェン又は酸化グラフェン層が、前記建材ボードの少なくとも一つの表面にある」との点については、上記「(1)ア.(イ)及びイ.(イ)」で検討したとおりであって、甲4発明を主引用発明とし甲5−1発明又は甲5−2発明を副引用発明とした場合にも同様のことがいえるから、本件特許発明10は、甲4方法発明及び甲5−1発明又は5−2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明11
本件特許発明11は、本件特許発明10に係る請求項10を引用し、さらに限定したものである。
そうすると、本件特許発明11は、上記「(3)」と同様の理由により、甲4方法発明及び甲5−1発明又は甲5−2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断

本件特許の請求項2、3、5及び8は本件訂正により削除されたので、以下では訂正後の請求項1、4、6、7及び9ないし11について判断する。

1.明確性実施可能要件及びサポート要件
(1)申立人は、訂正前の請求項1ないし11に記載された「グラフェン紙」及び「酸化グラフェン紙」については、本件特許明細書の段落【0022】に「紙状形状で使用される。」と開示されるのみであって、いかなる形態のものを意味するのかが不明確であり、また、「グラフェン紙」及び「酸化グラフェン紙」には、その用語上、グラフェン又は酸化グラフェンを含む紙状のものであればいかなるものも包含されるが、グラフェンや酸化グラフェンを互いの上に配して堆積させる態様以外には、本件明細書中には記載も示唆もないから、訂正前の本件特許発明1ないし11は、実施可能要件及びサポート要件を満たさない等と主張する(申立書第20ページ第19行〜第21ページ第19行)。
しかしながら、上記段落【0022】の記載によれば、「グラフェン紙」及び「酸化グラフェン紙」がグラフェン及び酸化グラフェンを「紙状形状」としたものであることは明らかであるから、訂正後の請求項1、4、6、7及び9ないし11の当該記載は明確である。
また、本件特許明細書の段落【0022】には、グラフェン紙及び酸化グラフェン紙の製造方法について、「酸化グラフェン紙は、例えば、酸化グラフェンのコロイド溶液化、及び続く前記領域に亘っての堆積、及び酸化グラフェン片の乾燥により製造され得る。グラフェン紙も、現在、複数のグラフェン層を互いの上に配し、界面活性剤の浴槽に沈め、乾燥することにより製造され得る。このように製造されたフィルムは、紙のように加工され得る、すなわち、切断され、折り畳まれ得る。」との記載があって、当業者は当該方法によりグラフェン紙及び酸化グラフェン紙を作ることができるから、訂正後の本件特許発明1、4、6、7及び9ないし11は実施可能でないとはいえない。
また、本件特許明細書の段落【0006】には「グラフェン」が「より一層優れた機械的安定性」や「鋼よりも優れた引き裂き抵抗」を有することが記載されており、当業者は、グラフェンや酸化グラフェンを互いの上に配して堆積させる以外の態様の「グラフェン紙」及び「酸化グラフェン紙」によっても、「グラフェン」自体が有する上記の性質等によって「機械的負荷及び/又は熱負荷に関して所定の強度を有」する(段落【0003】)という本件特許発明の課題が解決されると認識できるから、訂正後の本件特許発明1、4、6、7及び9ないし11は発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。

(2)申立人は、訂正前の請求項1ないし9に記載された「材料層」は、いかなる層までが包含されるのかが不明確であり、セメントや石膏を含まないものも包含されるが、そのような場合には、セメントや石膏がどのような態様で含まれるのかが不明確であり、また、いずれの材料層もセメントや石膏を含まない場合には、どのようにすれば実施できるのかが理解できないし、本件特許明細書中に記載された発明でもない等と主張する(申立書第21ページ第20行〜第22ページ第9行)。
しかしながら、「材料層」が、それぞれ所定の「材料」からなり、相互に区別される「層」であることは当業者にとって自明であるから、訂正後の請求項1、4、6、7及び9の当該記載は明確である。
また、訂正後の本件特許発明1、4、6、7及び9は「セメント又は石膏含有建材製品」であるから、「材料層」のいずれかが「セメント又は石膏」を含有することは自明であって、申立人の「セメントや石膏を含まないものも包含される」という主張は前提において失当である。
そうすると、訂正後の本件特許発明1、4、6、7及び9は実施可能でないとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものでないともいえない。

(3)申立人は、訂正前の請求項4ないし9に記載された「一部領域」が何を意味するのかが不明確である等と主張する(申立書第22ページ第10〜22行)。
しかしながら、「一部領域」が「一部」の「領域」を意味することは明らかであるし、申立人が例示する「目視で確認できないほどごく微量のグラフェン層」が「一部領域」に含まれないことは当業者にとって自明である。
そうすると、訂正後の請求項4、6、7及び9の当該記載は明確である。また、訂正後の本件特許発明4、6、7及び9は実施可能でないとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものでないともいえない。

(4)申立人は、訂正前の請求項6、7及び9の「前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、個別の複数の帯を有する」等の記載は不明確である等と主張する(申立書第22ページ下から5行〜第23ページ第12行)。
しかしながら、技術常識を踏まえれば、当該記載が「グラフェン又は酸化グラフェン層」が「複数の帯」とされたことを意味することは明らかである。
そうすると、訂正後の請求項6、7及び9の当該記載は明確である。また、訂正後の本件特許発明6、7及び9は実施可能でないとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものでないともいえない。

(5)申立人は、訂正前の請求項8及び9に記載された「被覆材」は、いかなる材質の層までが包含されるのかが不明確である等と主張する(申立書第23ページ第13行〜下から3行)。
しかしながら、本件訂正により請求項8は削除され、請求項9は請求項8を引用しないものとされた。
そうすると、訂正後の請求項9は当該記載に関して明確である。また、訂正後の本件特許発明9は実施可能でないとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものでないともいえない。

(6)申立人は、訂正前の請求項10の「セメント含有建材製品」、及び、請求項11の「石膏含有建材製品」は外延が不明確である等と主張する(申立書第23ページ下から2行〜第24ページ第18行)。
しかしながら、「セメント含有建材製品」がセメントを含有する建材製品を、「石膏含有建材製品」が石膏を含有する建材製品を、それぞれ意味することは明らかであるから、それぞれの外延は明確である。
また、請求項10では「建材製品」が「セメント含有建材ボード」であることが特定されており、本件特許明細書の段落【0017】ないし【0026】には「建材ボード」の実施の態様が記載されているから、請求項10及び11に係る申立人のその余の主張にも理由がない。
そうすると、訂正後の請求項10及び11の当該記載は明確である。また、訂正後の本件特許発明10及び11は実施可能でないとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものでないともいえない。

(7)申立人は、訂正前の請求項11には「石膏含有建材製品」が記載されているが、請求項11が引用する請求項10において、建材製品はセメント含有建材製品であると記載されているから、請求項11の建材製品がセメントを含有するか否か不明確である旨等を主張する(申立書第24ページ第19行〜第25ページ第3行)。
しかしながら、訂正後の請求項11の当該記載は、「石膏含有建材製品」かつ「セメント含有建材製品」、すなわち石膏及びセメントを含有する建材製品を特定していると解することができるから明確である。
そうすると、訂正後の請求項11の当該記載は明確である。また、訂正後の本件特許発明11は実施可能でないとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものでないともいえない。

(8)申立人は、訂正前の本件特許発明1ないし11は、実施例が存在しない以上、当業者であっても、どのようにすれば本件特許発明を実施できるのかが分からないし、機械的負荷及び/又は熱負荷に関して所定の強度を有しているか否かは分からないので、課題を解決しているとは言えない等と主張する(申立書第25ページ第4〜17行)。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0017】ないし【0026】には実施の態様が記載されているし、本件特許明細書には、グラフェン及び酸化グラフェンの機械的負荷及び熱負荷について、「特に、グラフェン及び酸化グラフェンの引張強度が、たわみ抵抗、破断荷重及び曲げ引張強度といった建材ボードの機械的特性を改善するために、有利に利用され得る。」(段落【0014】)、「酸化グラフェンは、グラフェンの特性と同様に良好な機械的特性を有する。」(段落【0006】)、「さらに、特に二次元六角形ハニカム構造及び単分子層厚みを有するグラフェンは、建材、特に建材ボード又はプラスターの耐火性を改善するためのかなりの可能性を有する。グラフェンの熱伝導率は、高い異方性がある。該熱伝導率は、二次元格子における伝搬方向においては非常に高いが、該格子における伝搬方向に対する垂直方向においては非常に低い。これは、グラフェン層の一方側における高温は、他方側に伝わらないことを意味する。」(段落【0015】)等の記載があるから、当業者は、グラフェン及び酸化グラフェンを用いれば、機械的負荷及び/又は熱負荷に関して所定の強度となることが理解できる。
そうすると、訂正後の本件特許発明1、4、6、7及び9ないし11は実施可能でないとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものでないともいえない。

(9)以上のとおりであるから、申立人の明確性実施可能要件及びサポート要件に係る主張はいずれも採用することができないものであって、訂正後の本件特許発明1、4、6、7及び9ないし11は明確であり、実施可能であり、また、発明の詳細な説明に記載されたものである。

2.新規性及び進歩性
(1)甲号証
取消理由通知で引用しなかった各甲号証には次の記載がある。なお、以下では、外国語文献については原文の摘記を省略し、対応する日本特許出願の公表公報の対応箇所を摘記した。

ア.甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された甲第1号証には次の記載がある。

(ア)「【請求項1】
官能化グラフェンシートと少なくとも1種のバインダとを含むコーティング。」

(イ)「【0045】
これらのコーティングは、金属;ポリマー質材料;布(fabrics)(クロスを含む)および織物(textiles);ガラスおよび他の鉱物;セラミックス;シリコン表面;木;紙およびボール紙などのパルプ系材料;シリコンおよび他の半導体;積層板;コンクリート、れんがおよび他の建材などを含むがそれらに限定されない多種多様な基材に適用できる。これらの基材は、本発明のコーティングを適用する前に、他のコーティングまたは同様の材料で処理しておくことができる。
・・・
【0049】
基材に適用した場合、これらのコーティングは様々な形態を有することができる。これらのコーティングは膜または線、パターンおよび他の形状として存在することができる。これらのコーティングは、オーバーコーティング、ワニス、ポリマー、布などのさらなる材料で覆うことができる。
・・・
【0051】
これらのコーティングは、同一の基材の異なる場所(point)に種々の厚さで適用することができ、その基材上に3次元構造を構成するために使用することができる。
【0052】
これらのコーティングは、橋梁および建物などの野外構造物を含む、金属(例えば鋼、アルミニウムなど)表面などの表面を不動態化するために使用することができる。本発明のコーティングの他の使用例には、耐UV放射コーティング、耐摩耗性コーティング、耐液体(炭化水素、アルコール、水など)性および/または気体浸透性を有するコーティング、電気伝導性コーティング、静電気消散コーティング、ならびに耐爆風および耐衝撃性コーティングが含まれる。これらのコーティングは電気伝導性を有する布を作製するのに使用することができる。これらのコーティングは、太陽電池用;サイネージ(signage)、平面型ディスプレイ;発光ダイオード、有機発光ダイオードおよびポリマー発光ダイオードディスプレイを含むフレキシブルディスプレイ;ディスプレイの背面および前面;ならびに、エレクトロルミネッセントおよびOLED照明を含む照明に使用することができる。」

イ.甲第2号証
本件特許の出願前に頒布された甲第2号証には次の記載がある。

(ア)「【請求項1】
グラフェンを合成する方法であって、
a)少なくとも1つの溶剤と多環式芳香族炭化水素形成を促進する少なくとも1つの炭素質材料とを含む反応混合物を、該炭素質材料の完全燃焼を抑制する条件下で還流させる段階;
b)その後、前記反応混合物の還流により生成された蒸気を捕集する段階;
c)前記蒸気を基板に誘導し、それによりグラフェンを該基板の表面に堆積させる段階;および
d)前記基板の表面からグラフェンを回収する段階
を含む方法。
・・・
【請求項9】
グラフェン酸化物生成方法であって、
a)少なくとも1つの溶剤と少なくとも1つの酸化剤と多環式芳香族炭化水素形成を促進する少なくとも1つの化合物とを含む反応混合物を、該炭素源の二酸化炭素または一酸化炭素への完全燃焼を防止する条件下で還流させる段階;
b)その後、前記反応混合物の還流により生成された蒸気流を捕集する段階;
c)その後、前記蒸気流を基板に誘導し、それによりグラフェン酸化物を該基板の表面に堆積させる段階;および
d)前記基板の表面からグラフェン酸化物を回収する段階
を含む方法。」

(イ)「【0003】
グラフェンおよびグラフェン誘導体の合成
単層グラフェンは、大きな比表面積、高い固有移動度、高いヤング率(≒1.0TPa)、高い熱伝導率(≒5000 Wm−1K−1)、高い光透過率(≒97.7%)、低いガス透過性、および高い電子輸送能力をはじめとするその実測および理論物性の結果として、近年、多数の研究、調査および議論の対象になっている(例えば、Geimら、「The Rise of Graphene」、Nat. Mater., 第6巻、183−191頁、2007;およびZhuら、「Graphene and Graphene Oxide:Synthesis, Properties, and Applications」、Adv. Mater., 第22巻、3906−3924頁、2010を参照されたし)。グラフェンのこれらの特性に基づき、光触媒、エネルギー貯蔵、太陽電池、透明電極、半導体、高強度/低重量複合材料、保護コーティングおよび電界放出などの非常に多数の用途での使用が考えられている。しかし、大規模かつ経済的生産方法は、依然として見つけられていない。」

(ウ)「【0027】
コンクリート舗装およびアスファルト舗装技術
コンクリートおよびアスファルトコンクリートは、建築に使用される2つの一般的複合材料である。コンクリートは、最低でもセメント質材料、細骨材、粗骨材および水から成る複合材である。アスファルトコンクリートは、最低でも、アスファルトと、一部の原油および天然鉱床に存在する高粘度の粘着性ブラックタール様物質と、粗骨材とから概して成る複合材である。これらの材料の強度を増そうとして長年にわたり多くのタイプの混合物および添加剤が開発されてきた。
・・・
【0030】
実際には、いずれのタイプの「添加剤」も、コンクリートまたはアスファルトコンクリート製品または系の強度の劇的増加を示さなかった。グラフェンおよび一定のグラフェン誘導体を現状技術の方法の代わりにコンクリートおよびアスファルトに対する強化用「添加剤」として使用できると考えられる。
【0031】
軍事科学および弾道科学(Ballistics Science)
コロンビア大学(米国、ニューヨーク州、ニューヨーク)での最近の調査によると、グラフェンは、地球上で最強の材料として同定される。グラフェンの法外な強度は、コロンビア調査員により、その炭素−炭素共有結合マトリックスに起因するとされている。試験されたグラフェン試料は、グラフェンの欠陥のない単層であった。これらの試料の試験により、グラフェンの単一シートは42Nm−1の固有強度を有することが明らかになった。」

(エ)「【0065】
1つの実施形態では、チャンバ内の周囲酸素(O2)の量を制限するように反応環境を制御して、加熱中に反応体の完全燃焼を阻害する。1つの実施形態では、添加溶剤の存在下で反応を行う。1つの実施形態では、生成されたGOを、加熱または非加熱液体捕集媒体に懸濁している還元グラフェン酸化物(rGO)またはグラフェンシートに変換する。結果として生じるrGOまたはグラフェンシートを使用して、広範な有用製品を製造することができ、それらとしては、保護コーティング、および低重量/高強度グラフェン補強複合材、電線および繊維が挙げられるが、これらに限定されない。
・・・
【0068】
1つの実施形態では、結果として生ずるグラフェンシートを使用して、低重量、高強度、グラフェン補強複合材をはじめとする(しかしこれに限定されない)、広範な有用製品を製造することができる。」

(オ)「【0092】
1つの実施形態において、本発明は、グラフェンを含む溶液でコーティングされた材料を含む複合材料を含み、前記グラフェンを含む溶液は、少なくとも1つの溶剤と多環式芳香族炭化水素形成を促進する少なくとも1つの化合物とを含む反応混合物を、その炭素源の二酸化炭素または一酸化炭素への完全燃焼を防止する条件下で還流させる段階、およびその後、前記反応混合物を複合材料の表面に塗布する段階を含むプロセスによって製造される。
【0093】
1つの実施形態において、本発明は、グラフェンを含む溶液でコーティングされた繊維を含む複合材料を含み、前記グラフェンを含む溶液は、少なくとも1つの溶剤と多環式芳香族炭化水素形成を促進する少なくとも1つの化合物とを含む反応混合物を、その炭素源の二酸化炭素または一酸化炭素への完全燃焼を防止する条件下で還流させる段階、およびその後、複合材料を構成する前記繊維の表面に前記反応混合物を塗布する段階を含むプロセスによって製造される。
【0094】
1つの実施形態において、本発明は、グラフェンを含む溶液でコーティングされた繊維メッシュを含む複合材料を含み、前記グラフェンを含む溶液は、少なくとも1つの溶剤と多環式芳香族炭化水素形成を促進する少なくとも1つの化合物とを含む反応混合物を、その炭素源の二酸化炭素または一酸化炭素への完全燃焼を防止する条件下で還流させる段階、およびその後、複合材料を構成する前記繊維メッシュの表面に前記反応混合物を塗布する段階を含むプロセスによって製造される。
・・・
【0097】
1つの実施形態において、本発明は、グラフェンおよびその誘導体を含む溶液でコーティングされた繊維ガラスを含み、前記グラフェンおよびその誘導体を含む溶液は、少なくとも1つの溶剤と多環式芳香族炭化水素形成を促進する少なくとも1つの化合物とを含む反応混合物を、その炭素源の二酸化炭素または一酸化炭素への完全燃焼を防止する条件下で還流させる段階、およびその後、前記反応混合物を前記繊維ガラスに塗布する段階を含むプロセスによって製造される。
【0098】
1つの実施形態において、本発明は、グラフェンおよびその誘導体を含む溶液でコーティングされたプラスチックを含み、前記グラフェンおよびその誘導体を含む溶液は、少なくとも1つの溶剤と多環式芳香族炭化水素形成を促進する少なくとも1つの化合物とを含む反応混合物を、その炭素源の二酸化炭素または一酸化炭素への完全燃焼を防止する条件下で還流させる段階、およびその後、前記反応混合物を前記プラスチックに塗布する段階を含むプロセスによって製造される。」

(カ)「【0132】
1つの実施形態では、チャンバ内の周囲酸素(O2)の量を制限するように反応環境を制御し、それによって、加熱中に反応体の燃焼を阻害する。1つの実施形態では、添加溶剤の使用なしで前記反応を行う。1つの実施形態では、生成されたGOを、加熱または非加熱液体捕集媒体に懸濁している還元グラフェン酸化物(rGO)またはグラフェンシートに変換する。結果として生ずる疎水性自己組織化シートは、rGOまたはグラフェンに容易に還元され、該rGOまたはグラフェンを工業で使用して、保護コーティング、および低重量/高強度グラフェン補強複合材、電線ならびに繊維をはじめとする(しかしこれらに限定されない)、一定の範囲の有用な製品を生産することができる。」

(キ)「【0178】
前記蒸気流の中に固体基板を配置することにより、または固体基板に前記蒸気流を塗布することにより、グラフェン/グラフェン誘導体スケールを固体基板に塗布して、グラフェン/グラフェン誘導体皮膜がコーティングされた基板を形成することができる。固体基板上への堆積により前記スケール層における一切の捲縮および折り畳みが好ましくは低減される。一部の実施形態では、堆積後、堆積されたスケールを、それらの均一性を向上させるためにアニールする。一部の実施形態では、堆積スケールを、その基板を加熱することによりアニールする。一部の実施形態では、隣接堆積スケール上の反応性末端基が互いに反応して、より大きいグラフェン/グラフェン誘導体シートを形成する。一部の実施形態では、還元剤を使用して、層中のGOをrGOに変換する。」

(ク)「【0291】
1つの実施形態では、前記水性ゲル化グラフェン、または捕集されたグラフェンもしくはグラフェン誘導体を有する水性プールを複合材料の形成の際に水の代わりに使用する。1つの実施形態では、前記水性ゲル化グラフェン、または捕集されたグラフェンもしくはグラフェン誘導体を有する水性プールをセメント混合物中の水の代わりに使用して、従来のコンクリートに比べて改善された強度を有するグラフェン補強コンクリートを形成する。1つの実施形態では、前記水性ゲル化グラフェン、または捕集されたグラフェンもしくはグラフェン誘導体を有する水性プールをアスファルトコンクリートの形成の際に使用して、従来のアスファルトコンクリートに比べて改善された強度を有するグラフェン補強アスファルトコンクリートを形成する。」

(ケ)「【0403】
SGANおよびSGAN含有凝塊のex situ熱分解合成を非潤滑用途でのかかる分子の使用にも適応させる。1つの実施形態において、前記粒子または凝塊を、材料の表面に、該材料を強化するためのまたは該材料の熱遮蔽もしくは熱吸収を増すためのコーティングとして塗布することができる。1つの実施形態において、前記コーティングは、サーマルコーティング、ドリルコーティング、またはトーチ・レジスタント・コーティング(torch−resistant coating)である。1つの実施形態において、前記材料は弾道発射体であり、該弾道発射体としては、弾丸およびミサイルを挙げることができるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、前記材料は対弾道装置であり、該対弾道装置としては、戦車装甲または防具が挙げられるがこれらに限定されず、該防具としては、防弾チョッキまたは板が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、前記材料は工具であり得、該工具としては、切削ビット、トンネル掘削用具、研磨ポリッシュ、紙やすりまたは中ぐり用具が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、熱遮蔽体、例えば、宇宙船用の再突入熱遮蔽板、ノーズコーンまたはロケット・エンジン・コーンであり得る。1つの実施形態では、前記粒子または凝塊を一定の材料と併用して、そのベース材料より大きい強度またはより大きい熱遮蔽もしくは熱吸収特性を有する複合材料を形成することができる。一部の実施形態において、前記材料は、タイヤ、耐火材料、消防器具、または消防服であり得る。」

ウ.甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された甲第3号証には次の記載がある。

(ア)「【請求項1】
還元された酸化グラフェン層である第1層、及び
下記化学式(1)で表わされる化合物の重合体を前記還元された酸化グラフェン層にコーティングしたコーティング層である第2層が、順次に繰り返し積層され、
下記化学式(1)で表わされる化合物が酸化グラフェンを還元して前記第1層を形成するのと同時に前記第2層が形成されることを特徴とするグラフェンペーパー。
・・・」

(イ)「【0019】
本発明によるコーティング層及び還元された酸化グラフェン層を順次に積層したグラフェンペーパーは、電気伝導度及び機械的性質が優れているだけでなく、大面積のグラフェンペーパーを経済的に形成することができる。よって、薄膜電極、可撓性電極、スーパーキャパシタ、半導体導電膜の補強剤、TFT半導体層電極などの電子材料において有用である。
・・・
【0021】
本発明では、酸化グラフェンを、下記化学式(1)で表わされる化合物で処理して還元するのと同時にコーティングして、還元された酸化グラフェンペーパーを製造する。このように製造されたグラフェンペーパーでは、電気伝導度及び機械的特性が向上するため、各種表示素子または可撓性電極に有用であり、TFT半導体層などに適用することができる。」

(ウ)「【0038】
さらに、本発明は、グラフェンペーパーを備えた薄膜電極を提供する。また、本発明は、グラフェンペーパーを備えた可撓性電極を提供する。本発明によるコーティング層及び還元された酸化グラフェン層を順次に積層したグラフェンペーパーは、電気伝導度及び機械的性質が優れているだけでなく、大面積のグラフェンペーパーを経済的に形成することができる。よって、薄膜電極、可撓性電極、スーパーキャパシタ、半導体導電膜の補強剤、TFT半導体層電極などの電子材料製造に有用である。」

(エ)「【0043】
図6に示すように、実施例1で製造したドーパミンコーティング層を含む還元された酸化グラフェンペーパーでは、常温で、電気伝導度が現われた。これに比べ、比較例1で製造した酸化グラフェンペーパーでは、常温で、電気伝導度が現われなかった。この結果から、実施例1では、ドーパミンによって十分に還元されたことが、確認された。また、それぞれの熱処理に対して、実施例1で製造したpDop/rGOペーパーでは、比較例1で製造したGOペーパーに比べて、100℃のときに350倍、150℃のときに450倍、200℃のときに12倍、電気伝導度が向上した。したがって、本発明によるpDop/rGOペーパーは、電気伝導度が非常に優れているため、薄膜電極、可撓性電極、スーパーキャパシタ、半導体導電膜の補強剤、TFT半導体層電極などの電子材料に有用である。
<実験例3>機械的特性評価
実施例1及び比較例1で製造したグラフェンペーパーの機械的特性を調べるために、次のような実験を行なった。具体的には、実施例1で製造したグラフェンペーパー(pDop/rGO Paper)を、幅3mm、標点距離15mm、厚さ3.2μmにしてサンプルを作製した。また、比較例1で製造したグラフェンペーパーを、幅3mm、標点距離15mm、厚さ3.0μmにしてサンプルを作製した。次に、50Nロードセルの引張試験機(製造社:Instron、モデル:Instron−5543)を用いて、上記各サンプルを延伸率、強度及び剛性を、10μm/分のローディング速度で測定した。延伸率測定結果を図7に示し、強度測定結果を図8に示し、剛性測定結果を図9に示す。
・・・
【0045】
図7に示すように、実施例1で製造したグラフェンペーパーの延伸率は約1.4%であり、比較例1で製造したグラフェンペーパーの延伸率は約0.8%であり、本発明によるグラフェンペーパーの延伸率が約70%増加することが分かった。図8に示すように、実施例1で製造したグラフェンペーパーの強度は約134MPaであり、比較例1で製造したグラフェンペーパーの強度は約93MPaであり、本発明によるグラフェンペーパーの強度が約45%増加することが分かった。図9に示すように、実施例1で製造したグラフェンペーパーの剛性は約17GPaであり、比較例1で製造したグラフェンペーパーの剛性は約15GPaであり、本発明によるグラフェンペーパーの剛性が約12%増加することが分かった。したがって、本発明によるグラフェンペーパーは、延伸率、強度及び剛性が優れていて、薄膜電極、可撓性電極、スーパーキャパシタ、半導体導電膜の補強剤、TFT半導体層電極などの電子材料に有用である。」

エ.甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された甲第6号証には次の記載がある。

(ア)「【請求項1】
2つのカバーシートの間に配置される硬化石膏芯を備えるボードであって、前記芯が、スタッコ、水および少なくとも1種のアルファ化デンプンを含むスラリーから形成され、前記デンプンは、前記デンプンがVMA法に従う条件を受ける間に粘度が測定される場合に約20センチポイズから約700センチポイズの前記粘度の特性を有する、ボード。」

(イ)「【0002】
硬化石膏(すなわち、硫酸カルシウム二水和物)は、建物建築および改築のためのパネルおよび他の製品を含めた、多くの製品において用いられるよく知られた材料である。1つのこうしたパネル(しばしば石膏ボードと呼ばれる)は、2つのカバーシート(例えば、表面が紙のボード)の間に挟まれた硬化石膏芯の形態であり建物の内壁および天井の乾式壁構造において一般に用いられる。しばしば「スキムコート」と呼ばれる、1つまたは複数の緻密層が、芯の両側に、通常は紙−芯境界面において含まれ得る。」

(ウ)「【0006】
一態様において、本発明は、硬化石膏芯を含むボードを提供する。芯は、石膏のインターロックしている結晶マトリックスを含んでいてよい。ボードは、2つのカバーシート(例えば、紙から形成される)の間に配置されていてよい。硬化石膏芯は、水、スタッコならびに下記の実施例1に記述されているように、デンプンおよび水の総重量の15重量%の量の水中のデンプンを用いて、デンプンがVMA法に従う条件を受ける場合に「ミッドレンジ」の粘度を有する(すなわち、約20センチポイズから約700センチポイズの粘度を有する)として特徴付けられる少なくとも1種のアルファ化(pregelatinized)デンプンを含むスラリーから形成される。したがって、VMA法は、VMA法の条件を受ける場合にデンプンがミッドレンジの粘度特性を示すかどうかを判定するために用いられる。これは、これらの条件下でデンプンを石膏スラリーに加えなければならないことを意味するものではない。むしろ、デンプンをスラリーに追加する場合、デンプンは(水中のデンプンの様々な濃度の)湿性形態または乾燥形態であってよく、かつ本発明の実施形態に従って、完全に糊化されている必要がないかまたはそうでなければVMA法に記述されている条件下である必要がない。本明細書で使用する場合、「アルファ化」は、糊化の任意の程度を意味する。」

(エ)「【0063】
カバーシートは、任意の適した材料および基本重量で形成してよい。有利には、ミッドレンジの粘度によって特徴付けられるアルファ化デンプンを含むスラリーから形成されるボード芯は、例えば、一部の実施形態におけるより低重量のボード(例えば、約35pcf(561kg/m3)以下の密度を有する)についてでも45lbs/MSF(219.7g/m2)未満(例えば、約33lbs/MSF(161g/m2)から45lbs/MSF(219.7g/m2))などの、より低い基本重量のカバーシートを備えるボードにおいてでさえ十分な強度を提供する。しかしながら、必要に応じて、一部の実施形態において、例えば、釘引抜き耐性(nail pull resistance)をさらに強化するためまたは取り扱い性を向上するため、例えば、最終使用者のために望ましい「感触」特性を促進するためにより重い基本重量が用いられ得る。一部の実施形態において、特により低密度のボードについて、強度(例えば、釘引抜き強度)を向上するために、片方または両方のカバーシートは、紙から形成してよくかつ例えば、少なくとも約45lbs/MSF(220g/m2)(例えば、約45lbs/MSF(220g/m2)から約65lbs/MSF(317g/m2)、約45lbs/MSF(220g/m2)から約60lbs/MSF(293g/m2)、約45lbs/MSF(220g/m2)から約55lbs/MSF(268g/m2)、約50lbs/MSF(224g/m2)から約65lbs/MSF(317g/m2)、約50lbs/MSF(224g/m2)から約60lbs/MSF(293g/m2)など)の基本重量を有していてよい。必要に応じて、一部の実施形態において、1つのカバーシート(例えば、設置される時の「表」紙側)は、例えば、釘引抜き耐性および取扱い性を向上するために、前述のより高い基本重量を有していてもよい一方で、他のカバーシート(例えば、ボードが設置される時の「裏」シート)は、必要に応じて幾分低い基本重量を有していてよい(例えば、45lbs/MSF(220g/m2)未満の基本重量、例えば、約33lbs/MSF(161g/m2)から45lbs/MSF(220g/m2)、例えば、約33lbs/MSF(161g/m2)から約40lbs/MSF(195g/m2))。」

(オ)「【0069】
表カバーシートは、スラリーの比較的高密度の層の形態の薄いスキムコートを保持していてよい。さらに、当技術分野において知られているような、ハードエッジは、例えば、表スキムコートを形成する同一スラリー流から形成され得る。排出導管に泡が挿入される実施形態において、二次的な石膏スラリーの流れは、高密度のスキムコートスラリーを形成するためにミキサー本体から取り出してよく、これを次いで表スキムコートおよび当技術分野において知られているようなハードエッジを形成するために用いてよい。通常は表スキムコートおよびハードエッジは、含まれる場合、通常はミキサーの上流において、移動している表カバーシート上に芯スラリーが堆積される前に堆積される。芯スラリーは、排出導管から排出された後、必要に応じて、(場合によってはスキムコートを保持する)表カバーシート上に広げられ、第2のカバーシート(典型的には「裏」カバーシート)で覆われて最終生成物への前身であるサンドイッチ構造の形態の湿性アセンブリを形成する。存在する場合、第2のカバーシートは、表スキムコートのための物と同一または異なる第2の(高密度)石膏スラリーから形成され得る、第2のスキムコートを場合によっては保持していてよい。カバーシートは、紙、繊維状マットまたは他の種類の材料(例えば、金属箔、プラスチック、ガラスマット、セルロース充填剤および無機充填剤のブレンドなどの不織材料など)から形成され得る。」

オ.甲第7号証
本件特許の出願前に頒布された甲第7号証には次の記載がある。

(ア)「【請求項1】
グラフェン溶液又は酸化グラファイト溶液を青鋼基板に塗布することと、
前記溶液を乾燥させて前記青鋼基板上に前記グラフェン又は酸化グラフェンのシートを形成することと、
を含むグラフェンシートの製造方法。
・・・
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法によって製造されたグラフェンシート。」

(イ)「【0002】
グラフェンは、互いに結合した(典型的には六角形構造の形態のsp2結合である)、炭素原子の単層を含む分子である。グラフェンは、高い熱伝導率(5,000W/mK)、室温での高い電子輸送能(250,000cm3/Vs)、高い引張強度、高い機械的安定性(ヤング率1TPa)などの数多くの望ましい熱的特性及び機械特性を有している。グラフェンのこれらの特性から、グラフェンはセンサー、バッテリー、スーパーキャパシタ、水素貯蔵システムなどの様々な用途やナノコンポジットの補強充填剤として有用である。」

(ウ)「【0007】
本明細書において、用語「グラフェンシート」又は「酸化グラフェンシート」には、互いに共有結合している芳香族多環式炭素原子の単層を有する分子を含めることができる。用語「グラフェンシート」又は「酸化グラフェンシート」には、複数の、すなわち2個、3個、4個、5〜10個、1〜20個、1〜50個、あるいは1〜100個の、炭素原子の単層が炭素に戻ることなく互いに積み重なっている分子も含まれる。したがって、本明細書において、用語「グラフェンシート」又は「酸化グラフェンシート」とは、芳香族多環式炭素の単層だけでなく、互いに積み重なった複数のこのような層のこともいう。」

(エ)「【0026】
形成されたグラフェンシートは、青鋼基板から剥がすことができる。グラフェンシートは青鋼から手で(剥離によって)剥がしてもよいし、新聞紙産業、薄層プラスチック産業、及び蓄電器産業で既存の機械的剥離技術によって剥がしてもよい。酸化グラフェンのシートは、空気中から水を吸収するその能力のため、湿気のない場所で保存する必要がある。あるいは、水蒸気が侵入できないプラスチック材料の中にシートを封入してもよい。しかし、グラフェンシートは他のプラスチックや薄型金属材料のように貯蔵することもできる。グラフェンシート及び酸化グラフェンシートは共に、これらがより強いこと、これらが圧縮後でさえも形状が変わらないこと、という2点を除いては、薄いプラスチックの食品用ラップと同じ質感及び軟度を有している。
【0027】
青鋼基板からシートを剥がした後、以降の用途次第でシートを更に加工してもよい。シートにはその最終用途によって、巻取、圧縮、化学的処理等が行われてもよい。青鋼基板から剥がしたシートは、マイクロエレクトロニクス、医療、建築の分野を含む様々な用途で使用することができる。」

(2)新規性
ア.甲第1号証に記載された発明を引用発明とする場合
甲第1号証(上記「(1)ア.」参照。)には「官能化グラフェンシートと少なくとも1種のバインダとを含むコーティング」(【請求項1】)について、「コンクリート、れんがおよび他の建材」に適用すること(段落【0045】)や、「これらのコーティングは、橋梁および建物などの野外構造物を含む、金属(例えば鋼、アルミニウムなど)表面などの表面を不動態化するために使用することができる」こと(段落【0052】)等が記載されており、官能化グラフェンシートを含むコーティングを一般に構造材であるコンクリートやれんがに適用することや、不動態化を目的として建物などの野外構造物を含む金属表面などに使用することが開示されているものの、当該コーティングを一般に窯業系の仕上げ用建材であると認められる「セメント含有建材ボード」である「建材製品」に使用することは記載されていない。
そうすると、本件特許発明10及び11は、甲第1号証に記載された発明ではない。

イ.甲第2号証に記載された発明を引用発明とする場合
甲第2号証(上記「(1)イ.」参照。)には「コンクリート舗装およびアスファルト舗装技術」(段落【0027】)について「グラフェンおよび一定のグラフェン誘導体を現状技術の方法の代わりにコンクリートおよびアスファルトに対する強化用「添加剤」として使用できる」こと(段落【0030】)等が記載されているものの、粗骨材を含有するコンクリート及びアスファルトに対する添加剤としての使用が開示されるに止まり、グラフェン誘導体を一般に窯業系の仕上げ用建材であると認められる「セメント含有建材ボード」である「建材製品」の表面に使用することは記載されていない。
そうすると、本件特許発明10及び11は、甲第2号証に記載された発明ではない。

(3)進歩性
ア.甲第5号証に記載された発明を主引用発明とする場合
(ア)上記「第5 2.(1)ア.及びイ.」で対比したとおり、本件特許発明1、4、6、7及び9と甲5−1発明又は甲5−2発明とは、少なくとも本件特許発明1、4、6、7及び9ないし11においては「グラフェン又は酸化グラフェン層が、建材ボードの少なくとも一つの表面にある」のに対して、甲5−1発明又は甲5−2発明はグラフェン又は酸化グラフェン層を有さない点で相違するところ、以下ではこの点に着目して検討する。

(イ)上記「第5 2.(1)ないし(4)」で検討したとおり、本件特許発明1、4、6、7及び9は、甲5−1発明又は甲5−2発明及び甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
甲第1号証及び甲第2号証については、上記「(2)」で検討したとおりであって、グラフェン又は酸化グラフェンが「建材ボードの少なくとも一つの表面にある」ことについては記載も示唆もない。
甲第3号証(上記「(1)ウ.」参照。)には、「グラフェンペーパー」が「電子材料に有用である」こと(段落【0045】)等が記載されているが、「建材ボードの少なくとも一つの表面にある」ことについては記載も示唆もない。
甲第4号証にも、上記「第5 2.(1)ア.(イ)」において検討したとおり、グラフェン又は酸化グラフェン層が「建材ボードの少なくとも一つの表面にある」ことについては記載も示唆もない。
甲第6号証(上記「(1)エ.」参照。)には、「2つのカバーシートの間に配置される硬化石膏芯を備えるボード」(【請求項1】)が記載されているが、当該「2つのカバーシート」は甲5−1発明の「2層の紙」と同様のものであって、甲5−1発明の「強化層」や甲5−2発明の「メッシュ強化材」に相当する層を有することや、そのような層が「建材ボードの少なくとも一つの表面にある」ことについては記載も示唆もない。なお、甲第6号証の段落【0063】には、「強度(例えば、釘引抜き強度)を向上するために、片方または両方のカバーシートは、紙から形成してよ」いとの記載もあるが、ここでいう「強度」は「釘引抜き強度」であるところ、各甲号証にはグラフェン又は酸化グラフェン層の釘引抜き強度に関する性質については記載も示唆もない。
甲第7号証(上記「(1)オ.」参照。)には、「グラフェンシート」が「建築の分野を含む様々な用途で使用することができる」こと(段落【0027】)等が記載されているが、「グラフェンシート」が「建材ボードの少なくとも一つの表面にある」ことについては記載も示唆もない。

(ウ)そうすると、甲5−1発明又は甲5−2発明に、甲第1号証ないし甲第4号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載の発明及び技術常識を適用しても、本件特許発明1、4、6、7及び9の「グラフェン又は酸化グラフェン層が、建材ボードの少なくとも一つの表面にある」との発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたことではない。

(エ)また、本件特許発明1、4、6、7及び9と同じく「グラフェン又は酸化グラフェン層が、建材ボードの少なくとも一つの表面にある」ことを発明特定事項とする本件特許発明10及び11についても、同様の理由で甲第5号証に記載の発明に、甲第1号証ないし甲第4号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載の発明及び技術常識を適用しても、本件特許発明10及び11の「グラフェン又は酸化グラフェン層が、建材ボードの少なくとも一つの表面にある」との発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたことではない。

イ.甲第1号証ないし甲第4号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載された発明を主引用発明とする場合
上記「ア.」で検討したとおり、甲第1号証ないし甲第7号証には、「グラフェン又は酸化グラフェン層が、建材ボードの少なくとも一つの表面にある」ことについては記載も示唆もないから、甲第1号証ないし甲第4号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載された発明のいずれを主たる引用発明としても、当該引用発明において本件特許発明1、4、6、7及び9ないし11のグラフェン又は酸化グラフェン層が、建材ボードの少なくとも一つの表面にある」との発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたことではない。

ウ.小括
そうすると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1、4、6、7及び9ないし11は、甲第1号証ないし甲第7号証のいずれかに記載された発明並びにその余の甲号証に記載された事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1、4、6、7及び9ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1、4、6、7及び9ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項2、3、5及び8は本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項2、3、5及び8に対して申立人がした特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなった。そうすると、請求項2、3、5及び8についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8の規定により準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント又は石膏含有建材製品であって、
前記建材製品は、グラフェン及び/又は酸化グラフェンを含み、
前記建材製品は、建材ボードであり、
前記建材ボードは、複数の材料層を備え、
前記材料層の少なくとも1つが、グラフェン紙又は酸化グラフェン紙により構成されたグラフェン又は酸化グラフェン層であり、
前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、前記建材ボードの少なくとも一つの表面にある、セメント又は石膏含有建材製品。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、前記表面における全領域又は一部領域に亘って適用された、請求項1に記載のセメント又は石膏含有建材製品。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、個別の複数の帯を有する、請求項1又は4に記載のセメント又は石膏含有建材製品。
【請求項7】
前記複数の帯が、前記建材ボードの長手方向及び/又は横断方向に延びている、請求項6に記載のセメント又は石膏含有建材製品。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
少なくとも一つの前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、前記建材ボードの材料における補強材として含まれている、請求項1、4、6、又は7のいずれか1項に記載のセメント又は石膏含有建材製品。
【請求項10】
建材製品の機械的強度を向上させるため、又は、建材製品の耐火性等級を向上させるための、グラフェン及び/又は酸化グラフェンの使用であって、
前記グラフェン及び/又は前記酸化グラフェンが、グラフェン紙又は酸化グラフェン紙として使用され、
前記建材製品が、セメント含有建材ボードであり、
前記建材ボードは、複数の材料層を備え、
前記材料層の少なくとも1つは、グラフェン紙又は酸化グラフェン紙により構成されたグラフェン又は酸化グラフェン層であり、
前記グラフェン又は酸化グラフェン層が、前記建材ボードの少なくとも一つの表面にある、グラフェン及び/又は酸化グラフェンの使用。
【請求項11】
前記建材製品が、石膏含有建材製品である、請求項10に記載のグラフェン及び/又は酸化グラフェンの使用。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-14 
出願番号 P2018-517159
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (E04C)
P 1 651・ 536- YAA (E04C)
P 1 651・ 113- YAA (E04C)
P 1 651・ 537- YAA (E04C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 長井 真一
特許庁審判官 森次 顕
奈良田 新一
登録日 2020-09-02 
登録番号 6757792
権利者 クナーフ ギプス カーゲー
発明の名称 グラフェン又は酸化グラフェンを有する建材製品  
代理人 特許業務法人藤本パートナーズ  
代理人 特許業務法人藤本パートナーズ  

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