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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60W
審判 全部申し立て 2項進歩性  B60W
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B60W
管理番号 1385155
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-09 
確定日 2022-04-08 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6775134号発明「ドライバ状態検出装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6775134号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲、訂正後の請求項〔1〜3、5〜8〕について訂正することを認める。 特許第6775134号の請求項1〜8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6775134号の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成28年5月20日に出願したものであって、令和2年10月8日に特許権の設定登録がされ、令和2年10月28日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和3年4月9日:特許異議申立人田中貞嗣 他1名(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和3年7月8日付け:取消理由通知書
令和3年9月9日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年10月1日:特許権者による手続補正書(方式)の提出
令和3年11月2日:申立人による意見書の提出
令和3年11月18日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和4年1月19日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和4年3月7日:申立人による意見書の提出

なお、令和3年9月9日提出の訂正請求書は、令和4年1月19日に訂正請求書が提出されたから、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。


第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
令和4年1月19日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6775134号の明細書、特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜3及び請求項5〜8について訂正することを求める。」というものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)

(訂正事項1)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、
予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、
前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、
前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器と、
を備え、
前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定する、
ドライバ状態検出装置。」とあるのを、
「車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、
予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、
前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、
前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器と、
を備え、
前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定し、前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして前記運転者に対する運転支援が必要であると判定する、
ドライバ状態検出装置。」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2、3、5〜8についても同様に訂正する。)

(訂正事項2)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8に
「請求項3〜7のいずれか1項に記載のドライバ状態検出装置。」とあるのを、
「請求項3又は4に記載のドライバ状態検出装置。」に訂正する。

(訂正事項3)
本件訂正前の明細書の【0006】に
「上述の課題を解決するために、ここに開示された技術の一態様は、車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器と、を備え、前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定するものである。」とあるのを、
「上述の課題を解決するために、ここに開示された技術の一態様は、車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器と、を備え、前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定し、前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして運転支援が必要であると判定するものである。」に訂正する。

ここで、訂正前の請求項1〜3及び5〜8は、請求項2、3及び5〜8が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1〜3、5〜8〕について請求されている。

また、明細書の【0006】に係る訂正は、請求項1との記載を整合させるものであり、請求項1〜3及び5〜8に関係する訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4号に規定する一群の請求項〔1〜3、5〜8〕について請求されている。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「状態判定部」について、「前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして前記運転者に対する運転支援が必要であると判定する」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、本件特許明細書の【0061】〜【0063】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

ここで、申立人は、令和4年3月7日の意見書で、【0061】〜【0063】には、「反応がある」と判定する条件について、具体的な3つの例示しかなく、あらゆる操作が対象であることは記載されておらず、また、どのような状態となった場合を「反応がない」と判定するかについて、具体的な記載がないから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものでない旨主張する。
しかし、本件特許明細書の【0024】、【0025】を参照すると、本件発明は、「体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる」場合を検出するために「通常の運転姿勢から逸脱した前傾姿勢になっている」ことを検出するものであるから、運転者の反応がある場合は、当然に「体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っている」場合でないことは明らかである。
そして、本件特許明細書の【0061】には、「ステップS804において、状態判定部312は、ステップS803の警報音発生器201の作動に対して、運転者23の反応があるか否かを判定する。」と記載されている。また、【0062】及び図8には、運転者の反応があると判定された(ステップS804でYES)場合以外は、運転者23の反応がない(ステップS804でNO)場合と判定されることが記載されている。
そうすると、本件特許明細書(【0061】〜【0063】等)には、運転者の反応があると判定された場合以外は、運転者の反応がない場合と判定し、運転者の反応がない場合に運転支援を行うことが記載されている。
さらに、運転者の反応がある場合とは、車両に対する操作がある場合を含むことは技術常識であって、そして、本件特許明細書の【0061】には、車両に対する操作がある場合に関して、具体的に「例えば操作スイッチ106が操作されて警報音発生器201がオフにされる」場合、「ブレーキペダル107が操作される」場合、「ステアリングセンサ108の検出値に基づき、ステアリングホイールが操作されたと判定する」場合が記載されている。
そうすると、本件特許明細書の【0061】の具体的な3つの例示は、単なる例示でしかなく、車両に対する操作がない場合に運転者の反応がないものとすることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、当該申立人の主張は当を得ないものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
上記訂正事項2は、訂正前の請求項8の「請求項3〜7のいずれか1項」を引用するものから、「請求項3又は4」を引用するものに、引用する請求項について、請求項5〜7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
上記訂正事項3は、訂正事項1により請求項1が訂正されたことにより、明細書の【0006】の記載を、請求項1の記載に整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当する。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項3は、本件特許明細書の【0061】及び【0062】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項3は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第4項〜第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜3、5〜8〕について訂正することを認める。


第3 本件発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1〜8に係る発明(以下「本件発明1〜8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、
予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、
前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、
前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器と、
を備え、
前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定し、前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして前記運転者に対する運転支援が必要であると判定する、
ドライバ状態検出装置。
【請求項2】
前記姿勢判定部は、前記運転者の前傾姿勢の角度として、胴体の鉛直方向に対する傾斜角であるトルソー角を前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から判定する、
請求項1に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項3】
前記運転者が前記車両を運転中の運転環境を検出する環境検出部と、
前記環境検出部により検出された前記運転環境が予め定められた環境条件を満たすか否かを判定する環境判定部と、をさらに備え、
前記記憶部は、予め定められた、前記第1閾値角度より大きい第2閾値角度を保存し、
前記状態判定部は、前記運転環境が前記環境条件を満たすと前記環境判定部により判定された場合には、前記第1閾値角度に代えて、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が前記第2閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する、
請求項1又は2に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項4】
車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、
予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、
前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、
前記運転者が前記車両を運転中の運転環境を検出する環境検出部と、
前記環境検出部により検出された前記運転環境が予め定められた環境条件を満たすか否かを判定する環境判定部と、を備え、
前記記憶部は、予め定められた、前記第1閾値角度より大きい第2閾値角度を保存し、
前記状態判定部は、前記運転環境が前記環境条件を満たすと前記環境判定部により判定された場合には、前記第1閾値角度に代えて、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が前記第2閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する、
ドライバ状態検出装置。
【請求項5】
前記環境検出部は、前記車両の速度を検出する車速センサを含み、
前記環境判定部は、前記車速センサにより検出された前記車両の速度が予め定められた第1速度以下の場合に、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定する、
請求項3または4に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項6】
前記環境検出部は、前記車両の進行方向に配置された交通信号機の点灯色を検出する信号センサを含み、
前記環境判定部は、前記信号センサにより検出された前記交通信号機の点灯色が赤色である場合に、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定する、
請求項3〜5のいずれか1項に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項7】
前記環境検出部は、
前記車両の速度を検出する車速センサと、
前記車両と同一方向に走行する前方の他車を検出する車両センサと、を含み、
前記環境判定部は、前記車速センサにより検出された前記車両の速度と、前記車両センサにより検出された前記他車の数とに基づき、交通渋滞であるか否かを判定し、交通渋滞であると判定すると、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定する、
請求項3〜6のいずれか1項に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項8】
前記環境検出部は、
前記車両の速度を検出する車速センサと、
運転者用シートの座面部に配置され、前記運転者用シートに着座する前記運転者の圧力分布を検出する第1圧力センサと、
前記運転者用シートの背面部に配置され、前記運転者用シートに着座する前記運転者の圧力の有無を検出する第2圧力センサと、を含み、
前記環境判定部は、
前記第1圧力センサにより検出された前記圧力分布から、前記運転者の左足による左圧力値と前記運転者の右足による右圧力値との差圧を算出し、
前記車速センサにより検出された前記車両の速度が予め定められた第2速度以下であり、前記差圧が所定圧力値以上であり、かつ、前記第2圧力センサによって前記運転者の圧力が無いことが検出されると、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定する、
請求項3又は4に記載のドライバ状態検出装置。」


第4 当審の判断
1 令和3年11月18日付け取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正前の本件特許に対して通知した令和3年11月18日付け取消理由通知書(決定の予告)による取消理由の概要は、以下のとおりである。

進歩性)本件発明1及び2は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第4号証に記載された発明及び周知の事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

<引用文献等一覧>
甲第4号証:特開2016−38793号公報
(以下「甲4」という。)

2 令和3年11月18日付け取消理由(決定の予告)についての当審の判断
(1)本件発明1の進歩性について
ア 甲4に記載された事項及び発明
甲4には、以下の事項が記載されている。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の装置では、脇見や居眠り等により姿勢が崩れた場合だけでなく、運転者の癖により姿勢が崩れた場合にも、危険な状態にあると判定され、運転者に警告が行われるおそれがある。」
・「【0013】
検出手段21は、カメラ31により撮影された画像に基づいて、ドライバの姿勢崩れを検出する。詳しくは、検出手段21は、カメラ31により撮影された画像を認識して、姿勢崩れ量Lを算出する。姿勢崩れ量Lの定義は色々考えられるが、例えば図3に示すように、ヘッドレスト51aの中心を基準点とし、基準点とドライバの顔中心との距離を姿勢崩れ量Lとする。ヘッドレスト51aの中心の代わりに、ステアリング52の中心を基準点としてもよい。あるいは、ドライバが正面を向いた適切な姿勢でシート51に着座した時の顔中心を基準点として登録しておき、この基準点と画像から認識したドライバの顔中心との距離を姿勢崩れ量Lとしてもよい」
・「【0021】
設定スイッチ36(設定手段)は、ドライバが姿勢情報を提示する頻度を設定するためのスイッチである。設定スイッチ36は、機械スイッチでもよいし、ディスプレイ33と一体的に形成されたタッチスイッチでもよい。癖による姿勢崩れの場合、頻繁に姿勢情報を提示すると、煩わしく感じるドライバも存在する。このようなドライバは、設定スイッチ36を操作して、例えば1トリップ中に1回や数時間毎に1回のように、都合のよい頻度で姿勢情報を取得できるように設定できる。」
・「【0023】
まず、姿勢崩れを検出したか否か判定する(S10)。すなわち、姿勢崩れ量Lが閾値Thよりも大きくなったか否か判定する。姿勢崩れを検出していない場合は(S10:NO)、S10の処理を繰り返し実行する。姿勢崩れを検出した場合(S10:YES)、次に、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出しているか否か判定する(S11)。時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出していない場合は(S11:NO)、S10の処理に戻る。
【0024】
一方、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合は(S11:YES)、次に、癖による姿勢崩れか否か判定する(S12)。運転開始直後から姿勢崩れを検出している場合、すなわち、運転開始直後から時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合に、癖による姿勢崩れと判定する(S12:YES)。ここでは、運転開始直後を、シフトポジションをパーキングから移動させてから所定時間内、又は車両の走行を開始してから所定時間内とする。シフトポジションや走行開始は、車両センサ41の検出値に基づき判断する。一方、運転開始直後から姿勢崩れを検出していない場合、すなわち、運転開始直後よりも以降に、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合に、癖以外の姿勢崩れと判定する(S12:NO)。
【0025】
癖による姿勢崩れと判定した場合、次に、停車中か否か判定する(S13)。詳しくは、車両センサ41の検出値に基づいて、車速がVkm/h以下か否か判定する。Vkm/hは、0km/h(完全な停車)でもよいし、停車とみなせる程度に十分に低い速度(例えば1km/h)でもよい。停車中でないと判定した場合は(S13:NO)、S13の処理を繰り返し実行する。
【0026】
一方、停車中と判定した場合は(S13:YES)、適切な運転姿勢及び姿勢崩れの影響を提示する(S14)。図6に、提示する適切な運転姿勢の一例を示す。図6に示す例では、正しい運転姿勢を図解するイラストレーションをディスプレイ33に表示させ、さらに、正しい運転姿勢を取る手順A〜Dをディスプレイ33に表示させるとともに、スピーカ34から音声出力させる。手順Aは、「正面を向いて座り、背もたれの位置を調整して、運転操作時に背もたれから離れないようにする」である。手順Bは、「シート位置を調整して、ペダルがしっかりと踏み込め、ハンドルを握ったときにひじが少し曲がるようにする」である。手順Cは、「ヘッドレストの中央が耳の上端あたりになるようにする」である。手順Dは、「シートベルトを正しく装着する」である。
【0027】
また、姿勢崩れの影響を、ディスプレイ33に表示させるとともにスピーカ34から音声出力させる。姿勢崩れの影響の例としては、「崩れた姿勢で運転を続けると、疲労が蓄積して体に負担をかけることになります」、「崩れた姿勢で運転していると、運転操作がスムーズではなくなり、事故を起こす可能性が高くなります」といったものが挙げられる。
【0028】
さらに、癖による姿勢崩れの崩れ方に応じて、姿勢情報の内容を変化させて提示してもよい。詳しくは、姿勢崩れの崩れ方を、前かがみになっている、リラックスしすぎている(仰け反っている)、ドアにもたれかかっている等のパターンに分類し、分類した姿勢崩れのパターンに対応した姿勢情報を提示する。
【0029】
姿勢崩れのパターンの分類は、例えば、予め姿勢崩れのパターンを分類したテーブルを用意しておき、このテーブルと画像認識により検出したドライバの姿勢とを比較して行うことができる。その他の方法を用いて姿勢崩れのパターンの分類を行ってもよい。以下に、姿勢崩れのパターンに応じて提示する姿勢情報の例を説明する。
【0030】
例えば、背中がシート51の背もたれについておらず、前かがみの姿勢になっている場合、図7(a)に示す例のように、前かがみの姿勢のイラストレーションをディスプレイ33に表示させる。これにより、ドライバは、自分の姿勢の癖を客観的に把握することができる。さらに、前かがみ姿勢の影響として、内容(1)及び(2)をディスプレイ33に表示させるとともにスピーカ34から音声出力させる。内容(1)は、「エアバッグが開いたときに強い衝撃を受けます」、内容(2)は、「ルームミラーやドアミラーに映る後方や後側面の位置がずれてしまうので、死角の範囲が広くなり十分な状況の確認がしにくくなります」である。この場合、適正な運転姿勢の情報として、図6の手順Aだけを提示するようにしてもよい。
【0031】
また、腰がシート51についておらず、リラックスしすぎた姿勢になっている場合、図7(b)に示す例のように、リラックスしすぎた姿勢のイラストレーションをディスプレイ33に表示させる。さらに、リラックスしすぎた姿勢の影響として、内容(1)及び(2)をディスプレイ33に表示させるとともにスピーカ34から音声出力させる。内容(1)は、「衝突したときにシートベルトの下に体が潜り込んでしまう可能性があります」、内容(2)は、「前方の視界が悪くなります」である。この場合、適正な運転姿勢の情報として、図6の手順Bだけを提示するようにしてもよい。
【0032】
次に、癖以外の姿勢崩れと判定した場合は(S12:NO)、直ちに注意を喚起する(S15)。具体的には、スピーカ34から警告音を出力する。
あるいは、「休息を取ってください」といった注意を、ディスプレイ33に表示させるとともにスピーカ34から音声出力させる。
【0033】
続いて、ドライバの姿勢が改善したか否か判定する(S16)。
姿勢崩れ量Lが閾値Th以下になった場合には、ドライバの姿勢が改善したと判定して(S16:YES)、本処理を終了する。
【0034】
一方、姿勢崩れ量Lが閾値Thよりも大きい状態のままの場合には、ドライバの姿勢が改善していないと判定して(S16:NO)、時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じているか否か判定する(S17)。すなわち、時間T2よりも長い間、目の開度が閾値Thoよりも小さいか否か判定する。
【0035】
時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じている場合(S17:YES)、適切な制動及び操舵を行い安全に停車するように、車両制御装置40へ指示を出す。また、周囲の車両に危険を知らせるために、車両制御装置40へヘッドライトの灯火及びクラクションの吹聴の指示を出す。さらに、車両の他の搭乗者に危険を知らせるために、スピーカ34へ警報出力の指示を出す。
【0036】
一方、時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じていない場合(S17:NO)、S13の処理と同様に停車中か否か判定し(S19)、停車中の場合には(S19:YES)、S14の処理と同様に、適切な運転姿勢及び姿勢崩れの影響を提示する(S20)。以上で本処理を終了する。」
・「【0045】
・癖以外の姿勢崩れとの判定に伴い注意を喚起した後に、ドライバの姿勢が改善されず、且つドライバが時間T2を超えて目を閉じている場合には、ドライバは意識喪失等により運転不能な状態であるおそれが高い。そのため、このような場合には、車両を安全に停車させることにより、事故を防ぐことができる。」
・「【図2】


・「【図5】


・「【図7】



上記記載を総合し、【0030】の前かがみ姿勢に関する姿勢の崩れに着目すると、甲4には、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。
「カメラ31により撮影された画像に基づいて、ドライバの前かがみ姿勢崩れを検出する検出手段21を有し、
まず、姿勢崩れ量Lが閾値Thよりも大きくなったか否か判定することで、前かがみ姿勢崩れを検出したか否か判定し(S10)、
前かがみ姿勢崩れを検出した場合(S10:YES)、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合は(S11:YES)、次に、癖による姿勢崩れか否か判定し(S12)、
次に、癖以外の姿勢崩れと判定した場合は(S12:NO)、スピーカ34から警告音を出力し、
続いて、ドライバの姿勢が改善したか否か判定し、ドライバの姿勢が改善していないと判定して(S16:NO)、時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じている場合(S17:YES)、適切な制動及び操舵を行い安全に停車するように、車両制御装置40へ指示を出す、
運転者監視装置。」

イ 対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明の「ドライバ」は、本件発明1の「運転者」に相当し、同様に「運転者監視装置」は「ドライバ状態検出装置」にそれぞれ相当する。
また、甲4発明の「癖以外」の「前かがみ姿勢崩れ」は、甲4の「脇見や居眠り等により姿勢が崩れた場合だけでなく、運転者の癖により姿勢が崩れた場合にも、危険な状態にあると判定され、運転者に警告が行われるおそれがある。」(【0004】)及び「癖以外の姿勢崩れとの判定に伴い注意を喚起した後に、ドライバの姿勢が改善されず、且つドライバが時間T2を超えて目を閉じている場合には、ドライバは意識喪失等により運転不能な状態であるおそれが高い。」(【0045】)の記載を参照すると、脇見や居眠り等により姿勢が崩れた場合や意識喪失等により運転不能な状態等の危険な状態を意味するから、本件発明1の「異常状態」に相当する。
(イ)甲4発明の「カメラ31」は、図2を参照すると、車両の室内に配置されており、「ドライバの前かがみ姿勢崩れを検出する検出手段21」であるから、本件発明1の「車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部」に相当する。
(ウ)甲4発明の「カメラ31により撮影された画像に基づいて、ドライバの前かがみ姿勢崩れを検出する検出手段21」と、本件発明1の「前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部」とは、「前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢を判定する姿勢判定部」の限りで一致する。
(エ)甲4発明の「癖以外の姿勢崩れと判定した場合は(S12:NO)、」「警告音を出力」する「スピーカ34」は、本件発明1の「前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器」に相当する。


したがって、本件発明1と甲4発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢を判定する姿勢判定部と、
前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器と、
を備える、
ドライバ状態検出装置。」

<相違点1>
本件発明1は、「予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と」を備えるのに対して、甲4発明は、「まず、姿勢崩れ量Lが閾値Thよりも大きくなったか否か判定することで、前かがみ姿勢崩れを検出したか否か判定し(S10)、前かがみ姿勢崩れを検出した場合(S10:YES)、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合は(S11:YES)、次に、癖による姿勢崩れか否か判定」する点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定し、前記運転者の反応がない場合に前記運転者に対する運転支援が必要であると判定する、」のに対して、甲4発明は、「ドライバの姿勢が改善したか否か判定し、ドライバの姿勢が改善していないと判定して(S16:NO)、時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じている場合(S17:YES)、適切な制動及び操舵を行い安全に停車するように、車両制御装置40へ指示を出す」点。

ウ 判断
上記相違点について検討する。
<相違点1、2について>
本件発明1の、「予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と」を備え、「前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定し、前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして前記運転者に対する運転支援が必要であると判定する」ことは、本件特許明細書の【0024】、【0025】及び令和4年1月19日の意見書((2−3−1)反論事項1の欄)を参照すると、「通常の運転姿勢から逸脱した前傾姿勢になっている」ことを検出するものであって、「体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる」場合を検出するものである。
これに対して、甲4の【0045】には、「癖以外の姿勢崩れとの判定に伴い注意を喚起した後に、ドライバの姿勢が改善されず、且つドライバが時間T2を超えて目を閉じている場合には、ドライバは意識喪失等により運転不能な状態であるおそれが高い」と記載されているから、甲4発明は、「まず、姿勢崩れ量Lが閾値Thよりも大きくなったか否か判定することで、前かがみ姿勢崩れを検出したか否か判定し(S10)、前かがみ姿勢崩れを検出した場合(S10:YES)、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合は(S11:YES)、次に、癖による姿勢崩れか否か判定し(S12)、次に、癖以外の姿勢崩れと判定した場合は(S12:NO)、スピーカ34から警告音を出力し、続いて、ドライバの姿勢が改善したか否か判定し、ドライバの姿勢が改善していないと判定して(S16:NO)、時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じている場合(S17:YES)」場合にドライバは意識喪失等により運転不能な状態であると判定するものである。
そうすると、本件発明1と甲4発明とは、共にドライバの意識喪失等を判定するものであるが、その判定手段が大きく異なるものである。
よって、上記相違点1、2に係る本件発明1の発明特定事項は、甲4発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものでない。

また、申立人が提出した甲第3号証(特開2007−280061号公報)の【0043】〜【0044】及び【図7】に記載されているように、前傾姿勢、すなわち前かがみ姿勢をドライバの姿勢の傾きで検知することが周知の事項であるとしても、上記相違点1、2に係る本件発明1の発明特定事項は、申立人が提出した甲第1号証(特開2016−9255号公報)、甲第2号証(特表2014−520607号公報)、甲第3号証、甲第5号証(特開平7−57172号公報)、甲第6号証(実願昭56−160949号(実開昭58−65135号)のマイクロフィルム)及び甲第7号証(特開2000−301963号公報)には、何ら示されていない。

<本件発明1の奏する作用効果について>
本件発明1は、上記相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項により、体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる場合を検知するという格別な効果を奏するものである。

エ 小括
したがって、本件発明1は、甲4発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2の進歩性について
ア 対比
本件発明2と甲4発明とを対比すると、上記相違点1及び2に加え、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

<相違点3>
本件発明2は、「前記姿勢判定部は、前記運転者の前傾姿勢の角度として、胴体の鉛直方向に対する傾斜角であるトルソー角を前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から判定する」のに対して、甲4発明は、そのように特定されていない点。

イ 判断
相違点について検討するに、上記相違点1及び2については、上記(1)ウと同じである。

エ 小括
したがって、本件発明2は、甲4発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 令和3年11月18日付け取消理由(決定の予告)に採用しなかった異議申立理由についての当審の判断
(1)本件発明1〜3の進歩性について
上記2(1)ウのとおり、甲第1号証には、本件発明1の、「予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と」を備え、「前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定し、前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして前記運転者に対する運転支援が必要であると判定する」ことで、「体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる」場合を検出することについて、記載されていないから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
また、上記2(1)ウのとおり、甲第1号証〜甲第7号証には、本件発明1の、「予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と」を備え、「前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定し、前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして前記運転者に対する運転支援が必要であると判定する」ことで、「体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる」場合を検出することについて、記載されていないから、本件発明1〜3は、甲第1号証〜甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明4の進歩性について
ア 対比
本件発明4と甲4発明とを対比するに、本件発明4と甲4発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

<相違点4>
本件発明4は、「予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、
前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、
前記運転者が前記車両を運転中の運転環境を検出する環境検出部と、
前記環境検出部により検出された前記運転環境が予め定められた環境条件を満たすか否かを判定する環境判定部と、を備え、
前記記憶部は、予め定められた、前記第1閾値角度より大きい第2閾値角度を保存し、
前記状態判定部は、前記運転環境が前記環境条件を満たすと前記環境判定部により判定された場合には、前記第1閾値角度に代えて、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が前記第2閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する」のに対して、甲4発明は、「まず、姿勢崩れ量Lが閾値Thよりも大きくなったか否か判定することで、前かがみ姿勢崩れを検出したか否か判定し(S10)、
前かがみ姿勢崩れを検出した場合(S10:YES)、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合は(S11:YES)、次に、癖による姿勢崩れか否か判定し(S12)、
次に、癖以外の姿勢崩れと判定した場合は(S12:NO)、スピーカ34から警告音を出力し、
続いて、ドライバの姿勢が改善したか否か判定し、ドライバの姿勢が改善していないと判定して(S16:NO)、時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じている場合(S17:YES)、適切な制動及び操舵を行い安全に停車するように、車両制御装置40へ指示を出す」点。

ウ 判断
上記相違点について検討する。
<相違点4について>
本件発明4は、「予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、
前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、
前記運転者が前記車両を運転中の運転環境を検出する環境検出部と、
前記環境検出部により検出された前記運転環境が予め定められた環境条件を満たすか否かを判定する環境判定部と、を備え、
前記記憶部は、予め定められた、前記第1閾値角度より大きい第2閾値角度を保存し、
前記状態判定部は、前記運転環境が前記環境条件を満たすと前記環境判定部により判定された場合には、前記第1閾値角度に代えて、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が前記第2閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する」ことで、「体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる」場合を検出するものである。
これに対して、甲4発明は、「まず、姿勢崩れ量Lが閾値Thよりも大きくなったか否か判定することで、前かがみ姿勢崩れを検出したか否か判定し(S10)、前かがみ姿勢崩れを検出した場合(S10:YES)、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合は(S11:YES)、次に、癖による姿勢崩れか否か判定し(S12)、次に、癖以外の姿勢崩れと判定した場合は(S12:NO)、スピーカ34から警告音を出力し、続いて、ドライバの姿勢が改善したか否か判定し、ドライバの姿勢が改善していないと判定して(S16:NO)、時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じている場合(S17:YES)」場合にドライバは意識喪失等により運転不能な状態であると判定するものである。
そうすると、本件発明4と甲4発明とは、共にドライバの意識喪失等を判定するものであるが、その判定手段が大きく異なるものである。
そして、上記相違点4に係る本件発明4の発明特定事項は、甲第1号証〜甲第3号証及び甲第5号証〜甲第7号証に何ら示されていないから、甲4発明において、上記相違点4に係る本件発明4の事項とすることを、当業者が容易に想到し得たとする理由はない。

<本件発明4の奏する作用効果について>
本件発明4は、上記判定手段により、体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる場合を検知するという格別な効果を奏するものである。

(3)本件発明5〜8の進歩性について
本件発明5〜8は、本件発明1又は4の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記2(1)及び3(2)の理由と同様の理由により、甲第1号証〜甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)サポート要件について
申立人は、本件発明6に関して、本件特許明細書には、「環境検出部」が「交通信号機の点灯色検出する信号センサ」のみを含み、「環境判定部」が「交通信号機の点灯色が赤色である場合」に直ちに「環境条件を満たすと判定する」ことは記載されていないから、本件発明6は、発明の詳細な説明に記載されたものでない旨主張する。
また、本件発明8に関して、本件特許明細書には、「第2速度」について記載も示唆もないから、本件発明8は、発明の詳細な説明に記載されたものでない旨主張する。

しかし、本件発明6は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに限定を加えた発明である。
そして、本件発明1が、本件発明が解決しようとする課題を解決していることは、本件発明1にサポート要件違反に係る主張がされていないことからも明らかであるから、本件発明1の発明特定事項を全て備える本件発明6は、本件発明が解決しようとする課題を解決していることは明らかである。
また、本件発明6については、本件特許明細書の【0015】に、交通信号機の点灯色が赤色である場合、運転者の前傾姿勢の角度が第2閾値を超えると運転者が異常状態であると判定する点が記載されており、当該事項は、【0054】の「車両10の速度」等の判断に関係ないことは、技術的に明らかである。
したがって、本件発明6は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
さらに、本件発明8は、本件発明1又は4の発明特定事項を全て備え、さらに限定を加えた発明である。
そして、本件発明4が、本件発明が解決しようとする課題を解決していることは、本件発明4にサポート要件違反に係る主張がされていないことからも明らかであるから、本件発明1又は4の発明特定事項を全て備える本件発明8は、本件発明が解決しようとする課題を解決していることは明らかである。
また、本件発明8については、【0018】〜【0020】等に記載されており、本件発明8が、本件発明が解決しようとする課題を解決することが明らかであるから、本件発明8は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(5)明確性要件について
申立人は、本件発明6及び7は、本件発明5を引用する場合、どのような場合に「環境条件を満たすと判定する」のかが明確でない旨主張する。
また、本件発明8は、本件発明5又は7を引用する場合、どのような場合に「環境条件を満たすと判定する」のかが明確でない旨主張する。

しかし、本件発明6は、本件発明5を引用する場合、その文言から、「前記車速センサにより検出された前記車両の速度が予め定められた第1速度以下の場合」であって、「前記信号センサにより検出された前記交通信号機の点灯色が赤色である場合に、」「前記運転環境が前記環境条件を満たす」ものであるから、明確である。
また、本件発明7は、本件発明5を引用する場合、その文言から、「前記車速センサにより検出された前記車両の速度が予め定められた第1速度以下の場合」であって、「前記車速センサにより検出された前記車両の速度と、前記車両センサにより検出された前記他車の数とに基づき、交通渋滞であるか否かを判定し、交通渋滞であると判定すると」、「前記運転環境が前記環境条件を満たす」ものであるから、明確である。
そして、本件発明8は、本件訂正により請求項5又は7を引用するものが削除されたため明確となった。


第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】ドライバ状態検出装置
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、運転者の異常状態を検出するドライバ状態検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者の脈拍、体温等の生体情報を検出し、検出した生体情報から運転者の体調等を推定する技術が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の技術では、車両座席のアームレスト部や機器を作動させるための操作スイッチに、生体情報を検出するセンサが組み込まれている。これによって、生体庸報を検出する際に運転者に拘束感を与えないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−247649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、センサを用いて運転者の生体情報を正確に検出するためには、センサを運転者に密着させておく必要がある。このため、生体情報を検出するセンサを用いる限りは、運転者に拘束感を与えることは避けられない。そこで、生体情報を検出するセンサを用いることなく、簡易に運転者の異常状態を検出することが望まれている。
【0005】
ここに開示された技術は、生体情報を検出するセンサを用いることなく、簡易に運転者の異常状態を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、ここに開示された技術の一態様は、車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器と、を備え、前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定(し、前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして前記運転者に対する運転支援が必要であると判定)するものである。
【0007】
この態様では、撮像部により撮像された運転者の画像から、運転者の前傾姿勢の角度が姿勢判定部により判定される。判定された運転者の前傾姿勢の角度が、記憶部に保存されている第1閾値角度を超えると、運転者が異常状態になっていると状態判定部により判定される。運転者の前傾姿勢の角度が第1閾値角度を超えているということは、正常な運転姿勢から逸脱しており、運転者が正常状態ではないと考えられる。したがって、本態様によれば、生体盾報を検出するセンサを用いることなく、簡易に運転者の異常状態を検出することができる。
【0008】
上記態様において、前記姿勢判定部は、前記運転者の前傾姿勢の角度として、胴体の鉛直方向に対する傾斜角であるトルソー角を前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から判定してもよい。
【0009】
この態様では、運転者の前傾姿勢の角度として、胴体の鉛直方向に対する傾斜角であるトルソー角が姿勢判定部によって判定される。トルソー角が第1閾値角度を超えると、正常な運転姿勢から逸脱している。したがって、本態様によれば、生体情報を検出するセンサを用いることなく、簡易に運転者の異常状態を検出することができる。
【0010】
上記態様において、前記運転者が前記車両を運転中の運転環境を検出する環境検出部と、前記環境検出部により検出された前記運転環境が予め定められた環境条件を満たすか否かを判定する環境判定部と、をさらに備えてもよい。前記記憶部は、さらに、前記第1閾値角度より大きい値に予め定められた第2閾値角度を保存してもよい。前記状態判定部は、前記運転環境が前記環境条件を満たすと前記環境判定部により判定された場合には、前記第1閾値角度に代えて、前記姿勢検出部により検出された前記運転者の前傾姿勢の角度が前記第2閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定してもよい。
【0011】
この態様では、運転者が車両を運転中の運転環境が環境検出部により検出される。検出された運転環境が環境条件を満たすか否かが環境判定部により判定される。運転環境が環境条件を満たすと判定された場合には、第1閾値角度に代えて、姿勢検出部により検出された運転者の前傾姿勢の角度が第2閾値角度を超えると、運転者が異常状態になっていると状態判定部により判定される。運転環境が環境条件を満たす場合には、運転者が正常状態であっても、運転者の前傾姿勢の角度が第1閾値角度を超えることがあり得る。したがって、運転環境が環境条件を満たす場合には、運転者の前傾姿勢の角度が第2閾値角度を超えると、運転者が異常状態になっていると判定することにより、誤判定を防止することができる。
【0012】
上記態様において、前記環境検出部は、前記車両の速度を検出する車速センサを含んでもよい。前記環境判定部は、前記車速センサにより検出された前記車両の速度が予め定められた第1速度以下の場合に、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定してもよい。
【0013】
この態様では、車速センサにより検出された車両の速度が第1速度以下の場合に、運転環境が環境条件を満たすと判定される。車両の速度が第1速度以下の低速の場合には、運転者が正常状態であっても、運転以外の操作を行うために、運転者の前傾姿勢の角度が第1閾値角度を超えることがあり得る。したがって、車両の速度が第1速度以下の場合には、運転者の前傾姿勢の角度が第2閾値角度を超えると、運転者が異常状態になっていると判定することにより、誤判定を防止することができる。
【0014】
上記態様において、前記環境検出部は、前記車両の進行方向に配置された交通信号機の点灯色を検出する信号センサを含んでもよい。前記環境判定部は、前記信号センサにより検出された前記交通信号機の点灯色が赤色である場合に、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定してもよい。
【0015】
この態様では、信号センサにより検出された交通信号機の点灯色が赤色である場合に、運転環境が環境条件を満たすと判定される。交通信号機の点灯色が赤色である場合には、運転者が正常状態であっても、運転以外の操作を行うために、運転者の前傾姿勢の角度が第1閾値角度を超えることがあり得る。したがって、車両の速度が所定速度以下の場合には、運転者の前傾姿勢の角度が第2閾値角度を超えると、運転者が異常状態になっていると判定することにより、誤判定を防止することができる。
【0016】
上記態様において、前記環境検出部は、前記車両の速度を検出する車速センサと、前記車両と同一方向に走行する前方の他車を検出する車両センサと、を含んでもよい。前記環境判定部は、前記車速センサにより検出された前記車両の速度と、前記車両センサにより検出された前記他車の数とに基づき、交通渋滞であるか否かを判定し、交通渋滞であると判定すると、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定してもよい。
【0017】
この態様では、車両の速度と、車両と同一方向に走行する前方の他車の数とに基づき、交通渋滞であるか否かが判定され、交通渋滞であると判定されると、運転環境が環境条件を満たすと判定される。交通渋滞である場合には、運転者が正常状態であっても、運転以外の操作を行うために、運転者の前傾姿勢の角度が第1閾値角度を超えることがあり得る。したがって、交通渋滞である場合には、運転者の前傾姿勢の角度が第2閾値角度を超えると、運転者が異常状態になっていると判定することにより、誤判定を防止することができる。
【0018】
上記態様において、前記環境検出部は、前記車両の速度を検出する車速センサと、運転者用シートの座面部に配置され、前記運転者用シートに着座する前記運転者の圧力分布を検出する第1圧力センサと、前記運転者用シートの背面部に配置され、前記運転者用シートに着座する前記運転者の圧力の有無を検出する第2圧力センサと、を含んでもよい。前記環境判定部は、前記第1圧力センサにより検出された前記圧力分布から、前記運転者の左足による左圧力値と前記運転者の右足による右圧力値との差圧を算出し、前記車速センサにより検出された前記車両の速度が予め定められた第2速度以下であり、前記差圧が所定圧力値以上であり、かつ、前記第2圧力センサによって前記運転者の圧力が無いことが検出されると、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定してもよい。
【0019】
この態様では、車速センサにより車両の速度が検出される。運転者用シートの座面部に配置された第1圧力センサにより、運転者用シートに着座する運転者の圧力分布が検出される。運転者用シートの背面部に配置された第2圧力センサにより、運転者用シートに着座する運転者の圧力の有無が検出される。車両の速度が第2速度以下であり、運転者の左足による左圧力値と前記運転者の右足による右圧力値との差圧が所定圧力値以上であり、かつ、第2圧力センサによって運転者の圧力が無いことが検出されると、運転環境が環境条件を満たすと判定される。
【0020】
運転者の左足による左圧力値と前記運転者の右足による右圧力値との差圧が所定圧力値以上であって、かつ、第2圧力センサによって検出される運転者の圧力が無いということは、運転者は、車両が第2速度以下の低速であるために、運転者用シートから左右のいずれかに身を乗り出して運転以外の操作を行っていると考えられる。この操作を行うために、運転者が正常状態であっても、運転者の前傾姿勢の角度が第1閾値角度を超えることがあり得る。したがって、運転者の前傾姿勢の角度が第2閾値角度を超えると、運転者が異常状態になっていると判定することにより、誤判定を防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
このドライバ状態検出装置によれば、判定された運転者の前傾姿勢の角度が第1閾値角度を超えると、運転者が異常状態になっていると判定されるため、生体情報を検出するセンサを用いることなく、簡易に運転者の異常状態を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施の形態のドライバ状態検出装置が搭載された車両の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】トルソー角を説明する図である。
【図3】トルソー角の実測データの一例を示す図である。
【図4】運転中に運転席の左前方のグローブボックスを操作している運転者を概略的に示す図である。
【図5】運転者が普通に運転しているときに第1圧力センサにより検出された圧力分布の一例を示す図である。
【図6】運転者が運転席の左前方のグローブボックスを操作しているときに第1圧力センサにより検出された圧力分布の一例を示す図である。
【図7】ドライバ状態検出動作の一例を示すフローチャートである。
【図8】ドライバ状態検出動作の一例を示すフローチャートである。
【図9】剖検の例から推定された事故直前における運転者の運転姿勢を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(本開示に係る一態様の着眼点)
まず、本開示に係る一態様の着眼点が説明される。交通事故の死亡原因の一つに、運転中における運転者の体調の急変がある。運転者の体調の急変の要因には、脳血管疾患及び心疾患等の種々の疾患が含まれており、体調の急変により運転が継続できなくなった運転者の状態は一定ではない。
【0024】
このような運転者の体調不良を、脈拍又は眼球の動きなどの生体情報から判断することは困難である。しかも、上述のように、生体晴報を検出するセンサを用いることなく、簡易に運転者の状態を検出することが望まれている。
【0025】
図9は、剖検の例から推定された事故直前における運転者の運転姿勢を概略的に示す図である。図9に示されるように、運転席1に着座している運転者2は、ステアリングホイール3に寄りかかって、通常の運転姿勢に比べて前傾姿勢になっている。運転中に体調が急変した運転者2は、事故を回避するための行動を実行できていない場合が多い。したがって、運転者2は、体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる。このため、図9に示されるように、運転者2は、通常の運転姿勢から逸脱した前傾姿勢になっていると考えられる。上述の考察に鑑みて、以下に説明される本開示の一態様が考え出された。
【0026】
(実施の形態)
以下、図面を参照しつつ、本開示の実施の形態が説明される。なお、各図では、同様の要素には同様の符号が付され、適宜、説明が省略される。
【0027】
図1は、本実施の形態のドライバ状態検出装置が搭載された車両の構成を概略的に示すブロック図である。車両10は、例えば4輪自動車である。車両10は、図1に示されるように、車内カメラ101、車外カメラ102、車速センサ103、第1圧力センサ104、第2圧カセンサ105、操作スイッチ106、ブレーキペダル107、ステアリングセンサ108、警報音発生器201、ハザードフラッシャー202、運転支援装置203、電子制御ユニット(ECU)300を備える。
【0028】
車内カメラ101(撮像部の一例)は、車両10の室内の例えば助手席側のフロントピラーに、車内カメラ101の光軸が車両10の運転者用シートを向くように取り付けられる。車内カメラ101は、車両10の運転者を横方向から撮像する。車内カメラ101は、撮像した画像データをECU300に出力する。代替的に、車内カメラ101は、車両10の室内の運転者用シートの横方向の天井に、車内カメラ101の光軸が車両10の運転者用シートを向くように取り付けられてもよい。さらに代替的に、複数のカメラが、助手席側のフロントピラー、車両10の室内の天井等に、各々の光軸が車両10の運転者用シートを向くように取り付けられてもよい。
【0029】
車外カメラ102(環境検出部の一例、信号センサの一例、車両センサの一例)は、車両10の室内の例えばルームミラーの背面側又はフロントガラスの上端近傍に、車外カメラ102の光軸が車両10の前方を向くように取り付けられる。車外カメラ102は、車両10の前方の交通信号機、車両10と同一方向に走行する前方の他車等を撮像する。車外カメラ102は、撮像した画像データをECU300に出力する。車速センサ103(環境検出部の一例)は、車両10の走行速度を検出する。車速センサ103は、検出した車両10の走行速度をECU300に出力する。
【0030】
第1圧力センサ104(環境検出部の一例)は、運転者用シートの座面部に配置されている。第1圧力センサ104は、運転者用シートに着座した運転者の圧力分布を検出する。第1圧力センサ104は、検出した圧力分布をECU300に出力する。第2圧力センサ105は、運転者用シートの背面部に配置されている。第2圧力センサ105は、運転者用シートの背面部にもたれた運転者の圧力を検出する。第2圧力センサ105は、検出した圧力値をECU300に出力する。
【0031】
操作スイッチ106は、作動している警報音発生器201を停止させるためのもので、運転者により操作される。ブレーキペダル107は、ブレーキを作動させるためのもので、運転者の足により操作される。ステアリングセンサ108は、ステアリングホイールに配置され、運転者によりステアリングホイールに加えられるトルクを検出する。
【0032】
警報音発生器201は、例えばブザー又はベルを含み、運転者に対する警報音を発生する。ハザードフラッシャー202は、橙色の全て(例えば4個)の方向指示灯を一斉に点滅させる。運転支援装置203は、運転者による車両10の運転を支援する。運転支援装置203は、自動的にブレーキを作動させて車両10を減速又は停止させる機能を有してもよい。運転支援装置203は、ステアリングホイールを制御することにより車両10に車線を維持させる機能を有してもよい。
【0033】
ECU300は、車両10の全体の動作を制御する。ECU300は、中央演算処理装置(CPU)310、メモリ320、その他の周辺回路を含む。メモリ320(記憶部の一例)は、例えば、フラッシュメモリなどの半導体メモリ、ハードディスク、又は他の記憶素子で構成される。メモリ320は、プログラムを保存するメモリ、データを一時的に保存するメモリ等を含む。メモリ320は、予め定められた第1閾値角度θt1及び第2閾値角度θt2(θt1<θt2)をプログラムの一部として保存している。第1閾値角度θt1及び第2閾値角度θt2は後に詳述される。なお、メモリ320は、プログラムを保存する領域、データを一時的に保存する領域を備えた単一のメモリで構成されていてもよい。
【0034】
CPU310は、メモリ320に保存されているプログラムに従って動作することにより、姿勢判定部311、状態判定部312、環境判定部313、計時部314、運転制御部315として機能する。
【0035】
姿勢判定部311は、車内カメラ101により撮像された画像データから、例えばテンプレートマッチングによって、運転者を抽出する。姿勢判定部311は、抽出した運転者のトルソー角(前傾姿勢の角度の一例)を判定する。
【0036】
図2は、トルソー角を説明する図である。図2では、運転者用シート21に着座し、ステアリングホイール22を握って車両を運転している運転者23を横から見た状態が示されている。トルソー角は、胴体の鉛直方向に対する傾斜角である。具体的には、トルソー角θは、腰の下端24と首の付け根25とを結んだ直線26の鉛直線27に対する傾斜角である。
【0037】
姿勢判定部311は、テンプレートマッチング等によって抽出した運転者23の腰の下端24と首の付け根25とを検出して、トルソー角θを判定する。本実施形態では、図2に示されるように、腰の下端24に対して首の付け根25が前方に水平な場合にθ=+90度とし、腰の下端24に対して首の付け根25が後方に水平な場合にθ=−90度としている。すなわち、本実施形態では、運転者23が前傾姿勢の場合にトルソー角θを正の値に設定し、後傾姿勢の場合にトルソー角θを負の値に設定している。運転者23が正常に運転しているときは、通常、図2に示されるように、トルソー角θは負の値になっている。
【0038】
状態判定部312は、姿勢判定部311により判定された運転者23のトルソー角θがメモリ320に保存されている第1閾値角度θt1以上であるか否かを判定する。状態判定部312は、トルソー角θが第1閾値角度θt1以上であれば、運転者23が異常状態になっていると判定する。
【0039】
図3は、トルソー角θの実測データの一例を示す図である。図3には、運転中に一定時間ごとに計測された運転者のトルソー角を積算した結果が示されている。図3の横軸はトルソー角θを表し、縦軸は計測された頻度を表す。図3の下図は、低頻度のトルソー角θの頻度数を明瞭に表すために、上図の縦軸を拡大した図である。図3の下図に示されるように、トルソー角θは、θt1≧θ≧−θt11の範囲に含まれている。
【0040】
そこで、メモリ320には、θt1が予め定められた第1閾値角度として保存されている。そして、状態判定部312は、姿勢判定部311により判定されたトルソー角θが第1閾値角度θt1以上(つまりθ≧θt1)のときに、運転者が異常状態になっていると判定する。
【0041】
環境判定部313は、車速センサ103により検出された車両10の速度と、車外カメラ102により撮像された画像データとに基づき、現在の運転環境が交通渋滞であるか否かを判定する。具体的には、環境判定部313は、車外カメラ102により撮像された画像データから、例えばテンプレートマッチングによって、車両10と同一方向に走行する前方の他車を抽出する。環境判定部313は、車速センサ103により検出された車両10の速度が所定速度Vt(例えばVt=10km/h)以下であって、かつ、抽出された他車の数が所定数(例えば2)以上のときに、現在の運転環境が交通渋滞であると判定する。環境判定部313は、現在の運転環境が交通渋滞であると判定すると、運転環境が予め定められた環境条件を満たすと判定する。
【0042】
環境判定部313は、さらに、車外カメラ102により撮像された画像データに基づき、現在の運転環境が赤信号であるか否かを判定する。具体的には、環境判定部313は、車外カメラ102により撮像された画像データから、例えばテンプレートマッチングによって、車両10の進行方向に配置された交通信号機を抽出する。環境判定部313は、抽出された交通信号機の点灯色が赤色であるか否かを判定する。環境判定部313は、交通信号機の点灯色が赤色であると判定すると、現在の運転環境が赤信号であると判定する。環境判定部313は、現在の運転環境が赤信号であると判定すると、運転環境が予め定められた環境条件を満たすと判定する。
【0043】
環境判定部313は、さらに、車速センサ103により検出された車両10の速度と、第1圧力センサ104により検出された圧力分布と、第2圧力センサ105により検出された圧力値とに基づき、運転者がグローブボックスを操作しているか否かを判定する。
【0044】
図4は、運転中に運転席の左前方のグローブボックスを操作している運転者を概略的に示す図である。図5は、運転者が普通に運転しているときに第1圧力センサ104により検出された圧力分布の一例を示す図である。図6は、運転者が運転席の左前方のグローブボックスを操作しているときに第1圧力センサ104により検出された圧力分布の一例を示す図である。図5、図6では、圧力が等しい等圧線が示されている。
【0045】
通常の運転中には、例えば図2に示されるように、運転者23は、運転者用シート21の中央に着座し、左右の両手でステアリングホイール22を保持している。このため、図5に示されるように、第1圧力センサ104により検出される、左足による左圧力値50Lと、右足による右圧力値50Rとは、ほぼ均等になっている。
【0046】
これに対して、運転者23は、車両10の低速走行中に、助手席の前方に設けられたグローブボックスに収納されているものを取り出すなど、グローブボックスを操作することがある。この場合には、図4に示されるように、運転者23は、運転者用シート21から身を乗り出して、右手でステアリングホイール22を保持しつつ、左手でグローブボックスを操作する。このため、図6に示されるように、第1圧力センサ104により検出される、左足による左圧力値50Lと、右足による右圧力値50Rとの差圧は、予め定められた圧力値以上になる。このとき、図4に示されるように、運転者23は、運転者用シート21から身を乗り出しているため、第2圧力センサ105により検出される、運転者用シート21の背面部に印加される圧力値は0になる。
【0047】
図6に示される圧力分布は、運転者23がグローブボックスを操作している間、維持される。そこで、計時部314は、第1圧力センサ104により検出された、左圧力値50Lと右圧力値50Rとの差圧が予め定められた閾値圧力Pt以上である状態の継続時間をカウントする。閾値圧力Ptは、人物がグローブボックスを操作する姿勢をとっているときに想定される左右の圧力差に設定されている。
【0048】
環境判定部313は、車速センサ103により検出された車両10の速度が所定速度Vt(例えばVt=10km/h、第2速度の一例)以下であり、第1圧力センサ104により検出された、左圧力値50Lと右圧力値50Rとの差圧が閾値圧力Pt以上である状態が所定時間Tt(例えばTt=1秒間)以上継続し、かつ、第2圧力センサ105により検出された圧力値が0であるときに、運転者23がグローブボックスを操作していると判定する。環境判定部313は、運転者23がグローブボックスを操作していると判定すると、運転環境が予め定められた環境条件を満たすと判定する。
【0049】
状態判定部312は、さらに、運転環境が予め定められた環境条件を満たすと環境判定部313により判定されると、トルソー角θが第2閾値角度θt2以上(つまりθ≧θt2)のときに、運転者が異常状態になっていると判定する。上述のように、θt2>θt1に設定されている。つまり、状態判定部312は、運転環境が予め定められた環境条件を満たすと環境判定部313により判定されると、運転者の前傾姿勢が通常よりも大きくなったときに、運転者が異常状態になっていると判定する。
【0050】
運転制御部315は、運転者23が異常状態になっていると状態判定部312により判定されると、ハザードフラッシャー202を作動させ、全ての方向指示器を点滅させて、他車に注意を促す。運転制御部315は、運転支援装置203を制御して、運転者の運転を支援する。運転制御部315は、例えばブレーキを動作させて、車両10を減速又は停止させてもよい。運転制御部315は、ステアリングホイール22を制御して、車両10が走行している車線を維持してもよい。
【0051】
図7、図8は、ドライバ状態検出動作の一例を示すフローチャートである。例えば車両10のエンジンが始動されると、例えば一定の時間間隔で、図7、図8に示される動作が実行される。
【0052】
ステップS701において、CPU310は、車速センサ103、第1圧力センサ104、第2圧力センサ105の検出値を読み込み、メモリ320に保存する。ステップS702において、姿勢判定部311は、車内カメラ101により撮像された画像データから、例えばテンプレートマッチングによって、運転者23の画像を抽出する。姿勢判定部311は、抽出した運転者23の画像から、トルソー角θを判定する。
【0053】
ステップS703において、状態判定部312は、ステップS702で姿勢判定部311により判定されたトルソー角θが第1閾値角度θt1以上であるか否かを判定する。トルソー角θが第1閾値角度θt1以上であれば(ステップS703でYES)、状態判定部312は、処理をステップS704に進める。一方、トルソー角θが第1閾値角度θt1未満であれば(ステップS703でNO)、状態判定部312は、運転者23が異常状態ではないと判定して、図7、図8に示される動作を終了する。
【0054】
ステップS704において、環境判定部313は、車速センサ103により検出された車両10の速度が所定速度Vt以下であるか否かを判定する。環境判定部313が、車両10の速度は所定速度Vt以下であると判定すれば(ステップS704でYES)、状態判定部312は、処理をステップS705に進める。一方、環境判定部313が、車両10の速度は所定速度Vtを超えていると判定すれば(ステップS704でNO)、状態判定部312は、処理をステップS803(図8)に進める。
【0055】
ステップS705において、環境判定部313は、車外カメラ102により撮像された画像データに基づき、現在の運転環境が交通渋滞又は信号待ちであるか否かを判定する。環境判定部313が、現在の運転環境が交通渋滞又は信号待ちであると判定すれば(ステップS705でYES)、状態判定部312は、処理をステップS706に進める。一方、環境判定部313が、現在の運転環境が交通渋滞でも信号待ちでもないと判定すれば(ステップS705でNO)、状態判定部312は、処理をステップS803(図8)に進める。
【0056】
ステップS706において、環境判定部313は、第1圧力センサ104により検出された、左圧力値50L(図5、図6)と右圧力値50R(図5、図6)との差圧が閾値圧力Pt以上である状態が所定時間Tt以上継続しているか否かを判定する。環境判定部313が、上記差圧が閾値圧力Pt以上である状態が所定時間以上継続していると判定すれば(ステップS706でYES)、状態判定部312は、処理をステップS707に進める。一方、環境判定部313が、上記差圧が閾値圧力Pt未満であるか、又は上記差圧が閾値圧力Pt以上である状態が所定時間Tt以上継続していないと判定すれば(ステップS706でNO)、状態判定部312は、運転者23が異常状態ではないと判定して、図7、図8に示される動作を終了する。
【0057】
ステップS707において、環境判定部313は、第2圧力センサ105により検出された圧力値が0であるか否かを判定する。第2圧力センサ105により検出された圧力値が0であれば(ステップS706でYES)、環境判定部313は、運転者23がグローブボックスを操作していると判定する。環境判定部313が、運転者23がグローブボックスを操作していると判定すると、状態判定部312は、処理をステップS801(図8)に進める。
【0058】
一方、環境判定部313が、第2圧力センサ105により検出された圧力値は0でないと判定すると(ステップS707でNO)、状態判定部312は、運転者23が異常状態ではないと判定して、図7、図8に示される動作を終了する。
【0059】
図8のステップS801において、状態判定部312は、メモリ320から第2閾値角度θt2を読み出す。ステップS802において、状態判定部312は、ステップS702で姿勢判定部311により判定されたトルソー角θが第2閾値角度θt2以上であるか否かを判定する。トルソー角θが第2閾値角度θt2以上であれば(ステップS802でYES)、状態判定部312は、処理をステップS803に進める。一方、トルソー角θが第2閾値角度θt2未満であれば(ステップS802でNO)、状態判定部312は、運転者23が異常状態ではないと判定して、図7、図8に示される動作を終了する。
【0060】
ステップS803において、状態判定部312は、運転者23が異常状態になっていると判定し、警報音発生器201を作動させて、運転者23に注意を促す。
【0061】
ステップS804において、状態判定部312は、ステップS803の警報音発生器201の作動に対して、運転者23の反応があるか否かを判定する。状態判定部312は、例えば操作スイッチ106が操作されて警報音発生器201がオフにされると、運転者23の反応があると判定する。状態判定部312は、ブレーキペダル107が操作されると、運転者23の反応があると判定してもよい。状態判定部312は、ステアリングセンサ108の検出値に基づき、ステアリングホイールが操作されたと判定すると、運転者23の反応があると判定してもよい。
【0062】
運転者23の反応があると判定すると(ステップS804でYES)、状態判定部312は、図7、図8に示される動作を終了する。一方、運転者23の反応がないと判定すると(ステップS804でNO)、状態判定部312は、処理をステップS805に進める。
【0063】
ステップS805において、運転制御部315は、ハザードフラッシャー202を作動させて、ハザードランプ(橙色の4個の方向指示器)を点滅させる。続くステップS806において、運転制御部315は、運転支援装置203を作動させる。その後、図7、図8に示される動作は終了する。
【0064】
以上説明されたように、本実施形態では、車内カメラ101により撮像された運転者23の画像から、運転者23のトルソー角θが判定される。判定されたトルソー角θが第1閾値角度θt1以上であって(ステップS703でYES)、車両10の速度が所定速度Vtを超えていれば(ステップS704でNO)、運転者23が異常状態になっていると判定されて、警報音発生器201が作動される。
【0065】
また、本実施形態では、判定されたトルソー角θが第1閾値角度θt1以上であって(ステップS703でYES)、車両10の速度が所定速度Vt以下であって(ステップS704でYES)、交通渋滞又は信号待ちでなければ(ステップS705でNO)、運転者23が異常状態になっていると判定される。
【0066】
したがって、本実施形態によれば、生体情報を検出するセンサを用いることなく、簡易に運転者23の異常状態を検出することができる。
【0067】
また、本実施形態では、判定されたトルソー角θが第1閾値角度θt1以上であって(ステップS703でYES)、車両10の速度が所定速度Vt以下であって(ステップS704でYES)、交通渋滞又は信号待ちであって(ステップS705でYES)、グローブボックスを操作していると判定されると(ステップS706,S707でYES)、判定されたトルソー角θが第1閾値角度θt1より大きい第2閾値角度θt2以上のときに(ステップS802でYES)、運転者23が異常状態になっていると判定される。したがって、本実施形態によれば、グローブボックスの操作による誤判定を防止することができる。
【0068】
(変形された実施の形態)
(1)図7、図8において、ステップS704〜S707,S801,S802を省略し、トルソー角θが第1閾値角度θt1以上であれば(ステップS703でYES)、処理をステップS803に進めるようにしてもよい。この実施形態でも、生体情報を検出するセンサを用いることなく、簡易に運転者23の異常状態を検出することができる。
【0069】
(2)図7、図8において、ステップS705〜S707を省略し、車両10の速度が所定速度Vt(第1速度の一例)以下であれば(ステップS704でYES)、処理をステップS801に進めるようにしてもよい。この実施形態によれば、車両10が低速で走行しているときに、運転者23が通常よりも前傾姿勢を急角度にしてトルソー角θが大きくなった場合でも、第1閾値角度θt1に代えて第2閾値角度θt2を用いることにより、誤判定を防止することができる。
【0070】
(3)図7、図8において、ステップS706〜S707を省略し、交通渋滞又は信号待ちであれば(ステップS705でYES)、処理をステップS801に進めるようにしてもよい。この実施形態によれば、交通渋滞又は信号待ちの間に、運転者23がステアリングホイール22にもたれかかっているような場合でも、第1閾値角度θt1に代えて第2閾値角度θt2を用いることにより、誤判定を防止することができる。
【0071】
(4)図7、図8において、ステップS705を省略し、車両10の速度が所定速度Vt以下であれば(ステップS704でYES)、処理をステップS706に進めるようにしてもよい。この実施形態によれば、交通渋滞又は信号待ちでなくても、グローブボックスを操作していると判定されると、第1閾値角度θt1に代えて第2閾値角度θt2が用いられるため、誤判定を防止することができる。
【0072】
(5)姿勢判定部311は、判定した運転者23のトルソー角θをメモリ320に蓄積するようにしてもよい。状態判定部312は、第1閾値角度θt1を、メモリ320に蓄積されたトルソー角θの変動範囲の上限値に書き換えてもよい。これによって、第1閾値角度θt1を、車両10を使用する運転者23に適合した値に更新することができる。
【符号の説明】
【0073】
101 車内カメラ
102 車外カメラ
103 車速センサ
104 第1圧力センサ
105 第2圧力センサ
311 姿勢判定部
312 状態判定部
313 環境判定部
314 計時部
320 メモリ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、
予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、
前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、
前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器と、
を備え、
前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定(し、前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして前記運転者に対する運転支援が必要であると判定)する、
ドライバ状態検出装置。
【請求項2】
前記姿勢判定部は、前記運転者の前傾姿勢の角度として、胴体の鉛直方向に対する傾斜角であるトルソー角を前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から判定する、
請求項1に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項3】
前記運転者が前記車両を運転中の運転環境を検出する環境検出部と、
前記環境検出部により検出された前記運転環境が予め定められた環境条件を満たすか否かを判定する環境判定部と、
をさらに備え、
前記記憶部は、予め定められた、前記第1閾値角度より大きい第2閾値角度を保存し、
前記状態判定部は、前記運転環境が前記環境条件を満たすと前記環境判定部により判定された場合には、前記第1閾値角度に代えて、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が前記第2閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する、
請求項1又は2に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項4】
車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、
予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、
前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、
前記運転者が前記車両を運転中の運転環境を検出する環境検出部と、
前記環境検出部により検出された前記運転環境が予め定められた環境条件を満たすか否かを判定する環境判定部と、
を備え、
前記記憶部は、予め定められた、前記第1閾値角度より大きい第2閾値角度を保存し、
前記状態判定部は、前記運転環境が前記環境条件を満たすと前記環境判定部により判定された場合には、前記第1閾値角度に代えて、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が前記第2閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する、
ドライバ状態検出装置。
【請求項5】
前記環境検出部は、前記車両の速度を検出する車速センサを含み、
前記環境判定部は、前記車速センサにより検出された前記車両の速度が予め定められた第1速度以下の場合に、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定する、
請求項3または4に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項6】
前記環境検出部は、前記車両の進行方向に配置された交通信号機の点灯色を検出する信号センサを含み、
前記環境判定部は、前記信号センサにより検出された前記交通信号機の点灯色が赤色である場合に、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定する、
請求項3〜5のいずれか1項に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項7】
前記環境検出部は、
前記車両の速度を検出する車速センサと、
前記車両と同一方向に走行する前方の他車を検出する車両センサと、
を含み、
前記環境判定部は、前記車速センサにより検出された前記車両の速度と、前記車両センサにより検出された前記他車の数とに基づき、交通渋滞であるか否かを判定し、交通渋滞であると判定すると、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定する、
請求項3〜6のいずれか1項に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項8】
前記環境検出部は、
前記車両の速度を検出する車速センサと、
運転者用シートの座面部に配置され、前記運転者用シートに着座する前記運転者の圧力分布を検出する第1圧力センサと、
前記運転者用シートの背面部に配置され、前記運転者用シートに着座する前記運転者の圧力の有無を検出する第2圧力センサと、
を含み、
前記環境判定部は、
前記第1圧力センサにより検出された前記圧力分布から、前記運転者の左足による左圧力値と前記運転者の右足による右圧力値との差圧を算出し、
前記車速センサにより検出された前記車両の速度が予め定められた第2速度以下であり、前記差圧が所定圧力値以上であり、かつ、前記第2圧力センサによって前記運転者の圧力が無いことが検出されると、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定する、
(請求項3又は4に)記載のドライバ状態検出装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-29 
出願番号 P2016-100977
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B60W)
P 1 651・ 113- YAA (B60W)
P 1 651・ 121- YAA (B60W)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 鈴木 充
佐々木 正章
登録日 2020-10-08 
登録番号 6775134
権利者 マツダ株式会社 国立大学法人滋賀医科大学
発明の名称 ドライバ状態検出装置  
代理人 小谷 悦司  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 西谷 浩治  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 西谷 浩治  
代理人 小谷 悦司  
代理人 平田 晴洋  
代理人 平田 晴洋  
代理人 平田 晴洋  
代理人 小谷 悦司  
代理人 西谷 浩治  
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