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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L 審判 全部申し立て 特174条1項 A23L |
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管理番号 | 1385165 |
総通号数 | 6 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-06-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-05-17 |
確定日 | 2022-04-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6787563号発明「接着成形食品の製造方法、接着成形食品用の接着成分分散液、および、接着成形食品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6787563号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項4、5について訂正することを認める。 特許第6787563号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6787563号は、平成28年6月30日に出願され、令和2年11月2日に特許権の設定登録がなされ、同年11月18日にその特許公報が発行され、その後、請求項1〜5に係る特許に対して、令和3年5月17日に特許異議申立人 小林敏樹(以下「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。 令和3年 8月20日付け:取消理由通知 同年10月22日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者) 同年11月12日付け:特許法第120条の5第5項に基づく通知 なお、令和3年11月12日付けの特許法第120条の5第5項に基づく通知に対する申立人からの応答はなかった。 第2 訂正の可否 1 訂正の内容 令和3年10月22日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、訂正前の請求項1〜5は一群の請求項である。 訂正事項1:特許請求の範囲の請求項4の 「前記接着成分分散液を生成する工程において、前記トランスグルタミナーゼの重量比率を比率Aとし、前記タンパク質の重量比率を比率Bとするとき、前記比率Aと前記比率Bとは、下記条件1を満たす、 (条件1)A:B=0.006±0.003:0.994±0.003」を、 「前記接着成分分散液を生成する工程において、前記トランスグルタミナーゼの比活性が、10000(ユニット/g)であって、前記トランスグルタミナーゼの重量比率を比率Aとし、前記タンパク質の重量比率を比率Bとするとき、前記比率Aと前記比率Bとは、下記条件1を満たす、 (条件1)A×比活性/10000:B=0.006±0.003:0.994±0.003」と訂正する。 訂正事項2:特許請求の範囲の請求項5の 「前記接着成分分散液を生成する工程において、前記トランスグルタミナーゼの重量比率を比率Aとし、前記タンパク質の重量比率を比率Bとするとき、前記比率Aと前記比率Bとは、下記条件2を満たす、 (条件2)A:B=0.012±0.006:0.988±0.006」を、 「前記接着成分分散液を生成する工程において、前記トランスグルタミナーゼの比活性が、5000(ユニット/g)であって、前記トランスグルタミナーゼの重量比率を比率Aとし、前記タンパク質の重量比率を比率Bとするとき、前記比率Aと前記比率Bとは、下記条件2を満たす、 (条件2)A×比活性/10000:B=0.012±0.006:0.988±0.006」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、本件【0090】の「トランスグルタミナーゼの比活性が、10000(ユニット/g)であって、トランスグルタミナーゼの重量比率を比率A、カゼインナトリウムの重量比率を比率B(=1−A)とするとき、下記条件を満たす範囲において、各実施例と同様に、分散性・作業性・接着力の全ての条件が充足されることが確認された。 A×比活性/10000:B=0.006±0.003:0.994±0.003」との記載に基づき規定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 訂正事項2は、本件【0090】の「トランスグルタミナーゼの比活性が、5000(ユニット/g)であって、トランスグルタミナーゼの重量比率を比率A、カゼインナトリウムの重量比率を比率B(=1−A)とするとき、下記条件を満たす範囲において、各実施例と同様に、分散性・作業性・接着力の全ての条件が充足されることが確認された。 A×比活性/10000:B=0.012±0.006:0.988±0.006」との記載に基づき規定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の各規定に適合するので、本件訂正を認める。 第3 本件訂正後の請求項1〜5に係る発明 本件訂正により訂正された訂正請求項1〜5に係る発明(以下、「本件訂正発明1」〜「本件訂正発明5」、まとめて「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 水との相溶性を有した2価以上のアルコールを含む水溶性液状物を生成する工程と、 トランスグルタミナーゼ、および、その基質となるタンパク質から構成される接着成分が前記水溶性液状物に分散した接着成分分散液を生成する工程と、 複数の食品原料と前記接着成分分散液とを混合して前記食品原料同士を接着し、それによって、前記食品原料の成形体である接着成形食品を製造する工程とを含み、 前記アルコールは、グリセリン、および、プロピレングリコールの少なくとも1つであり、 前記水溶性液状物を100重量部としたとき、 前記水溶性液状物を生成する工程において、前記アルコールが60重量部以上であり、 前記接着成分分散液を生成する工程において、前記接着成分に対する前記水溶性液状物の重量比が1.5以上7.0以下である 接着成形食品の製造方法。 【請求項2】 前記水溶性液状物を100重量部としたとき、 前記水溶性液状物を生成する工程において、前記アルコールが70重量部以上であり、 前記接着成分分散液を生成する工程において、前記トランスグルタミナーゼが0.12重量部以上0.30重量部以下である 請求項1に記載の接着成形食品の製造方法。 【請求項3】 前記水溶性液状物を100重量部としたとき、 前記水溶性液状物を生成する工程において、前記アルコールが70重量部以上であり、 前記接着成分分散液を生成する工程において、前記トランスグルタミナーゼが0.24重量部である 請求項1または2に記載の接着成形食品の製造方法。 【請求項4】 前記接着成分分散液を生成する工程において、前記トランスグルタミナーゼの比活性が、10000(ユニット/g)であって、前記トランスグルタミナーゼの重量比率を比率Aとし、前記タンパク質の重量比率を比率Bとするとき、前記比率Aと前記比率Bとは、下記条件1を満たす、 (条件1)A×比活性/10000:B=0.006±0.003:0.994±0.003 請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着成形食品の製造方法。 【請求項5】 前記接着成分分散液を生成する工程において、前記トランスグルタミナーゼの比活性が、5000(ユニット/g)であって、前記トランスグルタミナーゼの重量比率を比率Aとし、前記タンパク質の重量比率を比率Bとするとき、前記比率Aと前記比率Bとは、下記条件2を満たす、 (条件2)A×比活性/10000:B=0.012±0.006:0.988±0.006 請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着成形食品の製造方法。」 第4 取消理由の概要及びこれに対する当審の判断 1 取消理由の概要 請求項1〜5に係る特許に対して、当審が令和3年8月20日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は以下のとおりである。 「(新規事項)令和2年4月17日提出の手続補正書による補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 … ・請求項4、5 ・備考 … 本件発明4に記載の「(条件1)A:B=0.006±0.003:0.994±0.003」は、当初明細書等の段落【0090】に記載の上記条件「A×比活性/10000:B=0.006±0.003:0.994±0.003」とは異なる条件であり、さらに、トランスグルタミナーゼの比活性が任意の場合あっても、本件発明4に記載の「(条件1)A:B=0.006±0.003:0.994±0.003」を満たす場合に、各実施例と同様に、分散性・作業性・接着力の全ての条件が充足されると、一義的に解せる記載はない。 … 本件発明5に記載の「(条件2)A:B=0.012±0.006:0.988±0.006」は、当初明細書等の段落【0090】に記載の上記条件「A×比活性/10000:B=0.012±0.006:0.988±0.006」とは異なる条件であり、さらに、トランスグルタミナーゼの比活性が任意の場合あっても、本件発明5に記載の「(条件2)A:B=0.012±0.006:0.988±0.006」を満たす場合に、各実施例と同様に、分散性・作業性・接着力の全ての条件が充足されると、一義的に解せる記載もない。 トランスグルタミナーゼの比活性については、実際に、当初明細書等の上記段落【0090】には、実施例3のトランスグルタミナーゼの比活性を10000(ユニット/g)から5000(ユニット/g)に変更した場合、トランスグルタミナーゼの重量比率(比率A)と、カゼインナトリウムの重量比率(比率B)とを、トランスグルタミナーゼの比活性が、5000(ユニット/g)である場合の条件の範囲内へ変更した上で、分散性・作業性・接着力の全ての条件が充足されたことを確認していること、及び、トランスグルタミナーゼの比活性が変わる場合、トランスグルタミナーゼの重量比率や、カゼインナトリウムの重量比率を、都度、適宜至適な範囲とすることが記載されている。 これらの記載からも、トランスグルタミナーゼの比活性が10000(ユニッ卜/g)以外の任意の場合に、当初明細書等の段落【0090】に記載の上記条件「A×比活性/10000:B=0.006±0.003:0.994±0.003」を満たす範囲において、各実施例と同様に、分散性・作業性・接着力の全ての条件が充足されるとは認められず、また、トランスグルタミナーゼの比活性が、5000(ユニット/g)以外の任意の場合に、当初明細書等の段落【0090】に記載の上記条件「A×比活性/10000:B=0.012±0.006:0.988±0.006」を満たす範囲において、各実施例と同様に、分散性・作業性・接着力の全ての条件が充足されるとは認められない。 ましてや、トランスグルタミナーゼの比活性が任意の場合であっても、当初明細書等に記載のこれらの条件とは異なる条件である、本件発明4に記載の「(条件1)」又は本件発明5に記載の「(条件2)」を満たす範囲において、各実施例と同様に、分散性・作業性・接着力の全ての条件が充足されるとは認められない。 4 そうすると、本件発明4及び5を追加する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でされたものとは認められない。」 2 当審の判断 本件訂正により、本件請求項4に係る発明は 「前記接着成分分散液を生成する工程において、前記トランスグルタミナーゼの比活性が、10000(ユニット/g)であって、前記トランスグルタミナーゼの重量比率を比率Aとし、前記タンパク質の重量比率を比率Bとするとき、前記比率Aと前記比率Bとは、下記条件1を満たす、 (条件1)A×比活性/10000:B=0.006±0.003:0.994±0.003 請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着成形食品の製造方法。」となり、本件請求項5に係る発明は 「前記接着成分分散液を生成する工程において、前記トランスグルタミナーゼの比活性が、5000(ユニット/g)であって、前記トランスグルタミナーゼの重量比率を比率Aとし、前記タンパク質の重量比率を比率Bとするとき、前記比率Aと前記比率Bとは、下記条件2を満たす、 (条件2)A×比活性/10000:B=0.012±0.006:0.988±0.006 請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着成形食品の製造方法。」となった。すなわち、上記第2で検討したとおり、本件請求項4及び5に係る発明は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 3 まとめ したがって、当審が令和3年8月20日付け取消理由通知で示した上記取消理由には、理由がない。 第5 異議申立ての理由について 申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。 <証拠方法>(以下、甲第1〜9号証を「甲1」〜「甲9」という。) 甲1:特開平6−284867号公報 甲2:特表2014−532421号公報 甲3:Bioresource Technology,2008,99,3794-3800 甲4:特開2013−23号公報 甲5:特開平9−322770号公報 甲6:特開2010−148516号公報 甲7:特表2004−534527号公報 甲8:油化学,1990,39(12),1003-1013 甲9:繊維学会誌(繊維と工業),2009,65(11)412-421 訂正前の本件請求項1〜5に係る発明(以下、「本件発明1〜5」という。)についての特許に対する異議申立ての理由は以下のとおりである。 (1)申立理由1(進歩性要件違反) 本件特許発明1ないし5は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証〜甲第7号証に記載された当該分野の技術常識とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(サポート要件違反) 本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、記載に不備があることから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (3)申立理由3(補正要件違反) 請求項4、5を追加した令和2年4月17日付け補正は、本件特許の出願当初の明細書等に記載された範囲内でしたものではなく、不適法な補正であるから、該補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、それ故、該補正により追加された本件特許の請求項4、5は同法第113条第1号の規定により取り消されるべきものである。 なお、申立理由3は、当審が令和3年8月20日付け取消理由通知で示した上記取消理由と同旨である。 1 申立理由1について (1)甲1の記載事項 ア 「【請求項1】 トランスグルタミナーゼ及びカゼイン類を有効成分として含有することを特徴とする食品原材料の結着用酵素製剤。 … 【請求項4】 食品原材料に請求項1〜3のいずれかに記載の酵素製剤を添加作用させることを特徴とする結着成形食品の製造法。 【請求項5】 食品原材料にトランスグルタミナーゼ及びカゼイン類を添加作用させることを特徴とする結着成形食品の製造法。 【請求項6】 食品原材料に、トランスグルタミナーゼ及びカゼイン類に加えて、食品用界面活性剤をも添加作用させることを特徴とする請求項5記載の結着成形食品の製造法。 【請求項7】 食品原材料に、食品用賦形剤又は/及び電解質をも添加することを特徴とする請求項5又は6記載の結着成形食品の製造法。」 イ 「【0021】本発明の酵素製剤中のトランスグルタミナーゼの含有量は、利用する際の作業性の見地からカゼイン類等を含有する酵素製剤中の蛋白質1g当たり、通常1〜50,000ユニット、好ましくは10〜5,000ユニットである。もちろん、上記含量に限定されるものではない。」 ウ 「【0048】すなわち、この酵素製剤は、少量の添加で十分な結着効果を出すためには、対象とする食品原材料に容易かつ均一に混合させる必要がある。この場合の添加法として、そのまま対象食品原材料にまぶす方法及び水等に分散溶解してから添加する方法がある。 【0049】両方法を比較すると、結着効果から判断して、後者の水等に分散溶解した後に食品原材料に添加する方法が好ましい。しかしながら、この酵素製剤は水に分散溶解させた場合、分散溶解後ただちにトランスグルタミナーゼがカゼイン類に対して反応を開始するため、食品原材料に対する十分な結着効果を得るには、この酵素製剤を短時間で分散溶解し、対象食品原材料には素早く添加混合して適用する必要がある。 【0050】ところが、この酵素製剤は、分散溶解時、カゼイン類はダマ状の塊になりやすく均一分散しにくいといった問題が生じる。生じたダマを高速撹拌等の方法により強制的に破壊分散することは可能であるが、この場合同時に高速撹拌による表面張力の急激な変化によるトランスグルタミナーゼの失活が起こり、結果として食品原材料の結着効果の低下をきたすという新たな問題が生じることにもなりかねない。 【0051】本発明者は、このような問題を解決するため鋭意研究を行った。その結果、トランスグルタミナーゼ及びカゼイン類に食品用界面活性剤を加えることにより、本発明の第1の具体的態様による酵素製剤の有する食品原材料の結着効果を落とすことなく、しかも迅速かつ容易に水に分散溶解が可能となることを見いだし、本発明の第2の具体的態様に係わる酵素製剤を発明するに至った。」 エ 「【0067】食品原材料に本発明酵素製剤を添加作用させることには、特別の困難はなく、単に食品原材料に本発明の酵素製剤を添加混合し、その後、トランスグルタミナーゼの作用が奏される条件で放置することで行なえる。このような条件は、通常0〜60℃、好ましくは5〜40℃で、5分間〜48時間、好ましくは10分間〜24時間の放置である。なお、この反応条件は一応の目安であり、使用する原料等により適宜変更を加えてもよい。」 オ 「【0079】 【作用】本発明によれば、本発明は畜肉は言うに及ばず、魚、甲殻類、軟体動物、貝類、魚卵類、野菜、果物、及び加工食品等の食品原材料の単独もしくは2種以上を組み合わせたものの結着成形において、最終製品に塩味が発現するような量の食塩の使用を必要とせず、かつ蛋白質の溶出による粘りを発現させることなく、トランスグルタミナーゼとカゼイン類を併用し、又はこれらに加えて食品用界面活性剤をも併用することによって、従来の技術にみられない食品原材料の結着成形を可能とし、さらにこれらの成形物を調理加工したり、レトルト処理をしたり、冷凍しても何ら外観、食感及び味、風味において通常の食品と同等の品質を提供し得るものである。」 カ 「【0142】実施例17 豚モモブロック肉2,000g及び豚モモ屑肉1,000gに対し、下記第2表に示すピックル液25重量%注入して全量を3,750gとした。 【0143】 【表2】 第2表:ピックル液 原材料 配合比(重量%) 大豆蛋白 4 カゼインナトリウム 4 食 塩 3.2 リン酸塩 1.2 乳 糖 4 アスコルビン酸 0.2 グルタミン酸ナトリウム 2 トランスグルタミナーゼ 0.023 市 水 81.4 合 計 100 【0144】ついで、カゼインナトリウム30gを添加して混合後、更にトランスグルタミナーゼを肉1gに対して1ユニット相当量を均一に添加した後、タンブラーにより常温で30分間タンブリングし、これを折幅125mmのポリ塩化ビニリデン製の非可食性ケーシングチューブに充填後、真空スタッファーに脱気した。このものを室温にて1時間放置した後、−40℃の冷凍庫にて表面のみを半凍結し、直ちに約3mm厚さにスライスした。このものをレトルトパウチに充填、シール後、レトルト装置にてレトルト処理(123℃、8分、F0値約7)を行うことによってトランスグルタミナーゼで処理されたチャーシューを得た(試作品A)。 【0145】比較のために、上記製法においてピックル液中に及びタンブリング時に全くトランスグルタミナーゼを用いなかった以外は同様の処理を行うことによってさらにチャーシューを得た(試作品B)。 【0146】これら2種の試作品の品質を評価した結果、試作品Aは通常のチャーシューチルド品と同等の歯ごたえと風味を有したのに対して、試作品Bはジューシー感がなくボソボソの食感を呈し、喉ごしが悪くチャーシューとはいい難かった。 【0147】また、レトルト後の歩留まりについても、試作品Aについては約80%であったのに対して、試作品Bの場合は約72%となり、歩留まりの点でも試作品Aは優れ、トランスグルタミナーゼの効果は顕著であった。 【0148】更に実施例を掲げる。以下の実施例において使用したトランスグルタミナーゼは、特に記載のない限り、放線菌ストレプトベルチシリュウムに属する微生物(Streptoverticillium mobaraense IFO 13819)起源のもの(比活性1.0ユニット/mg)である。 【0149】実施例18 本発明の酵素製剤6種類を下記第3表に示すレシピー(a)〜(f)で配合することにより調製した。 【0150】 【表3】 第3表:酵素製剤 酵素製剤No. レシピー トランスグルタミナーゼ 1,000 ユニット 1 (a) カゼインナトリウム 90 g 蔗糖脂肪酸エステル(HLB値16) 10 g トランスグルタミナーゼ 10,000 ユニット 2 (b) カゼインナトリウム 90 g 蔗糖脂肪酸エステル(HLB値16) 10 g トランスグルタミナーゼ 100,000 ユニット 3 (c) カゼインナトリウム 90 g 蔗糖脂肪酸エステル(HLB値16) 10 g トランスグルタミナーゼ 10,000 ユニット 4 (d) カゼインナトリウム 95 g 蔗糖脂肪酸エステル(HLB値16) 5 g トランスグルタミナーゼ 10,000 ユニット 5 (e) カゼインナトリウム 95 g 蔗糖脂肪酸エステル(HIB値10) 5 g トランスグルタミナーゼ 10,000 ユニット カゼインナトリウム 50 g 6 (f) 蔗糖脂肪酸エステル(HLB値16) 3 g 馬鈴薯澱粉 46 g 塩化ナトリウム 1 g 【0151】いずれの酵素製剤とも水に分散させた後、スケトウタラ小片切身又は豚モモ肉小片にそれぞれ添加、混合し、常温(25℃)で約1時間放置すると、いずれも結着力の優れた製品合わせ肉が得られた。添加に際しては、酵素製剤は泡立て器を用いて3〜5倍量の水に溶解分散させて使用したが、いずれの酵素製剤とも瞬時に溶解分散することができた。 【0152】また、上記各酵素製剤は25℃で1年間、暗所で保存してもほとんどの比活性の低下はなく、また1年後にスケトウタラ小片切身及び豚モモ肉小片に添加してもいずれも優れた結着効果を示した。」 (2)甲1に記載された発明 甲1の実施例17及び18からみて、甲1には以下の甲1発明が記載されていると認められる。 「トランスグルタミナーゼ及びカゼイン類を有効成分として含有する酵素製剤を水に溶解分散してなる溶解分散液を生成する工程と 複数の食品原材料に前記溶解分散液を添加混合して食品原材料同士を結着し、それによって、食品原材料の成形体である結着成形食品を製造する工程とを含み 前記溶解分散液を生成する工程において、前記酵素製剤を、3〜5倍量の水に溶解分散させる 結着成形食品の製造方法。」 (3)対比及び判断 ア 本件訂正発明1について (ア)甲1発明との対比 甲1発明の「カゼイン類」は本件訂正発明1の「その基質となるタンパク質」に相当する。また、甲1発明の「前記酵素製剤を、3〜5倍量の水に溶解分散させる」ことは、本件訂正発明の「前記接着成分に対する前記水溶性液状物の重量比が1.5以上7.0以下である」に含まれるものと解される。 甲1発明の「食品原材料」及び「結着」は、それぞれ本件訂正発明1の「食品原料」及び「接着」と同義であると認められる。そうであれば、甲1発明における「溶解分散液」は、本件訂正発明1における「接着成分分散液」に相当するものとなっていると認められる。 そうすると、本件訂正発明1と甲1発明とは以下の点で一致する。 「トランスグルタミナーゼ、および、その基質となるタンパク質から構成される接着成分が前記水溶性液状物に分散した接着成分分散液を生成する工程と、 複数の食品原料と前記接着成分分散液とを混合して前記食品原料同士を接着し、それによって、前記食品原料の成形体である接着成形食品を製造する工程とを含み、 前記水溶性液状物を100重量部としたとき、 前記接着成分分散液を生成する工程において、前記接着成分に対する前記水溶性液状物の重量比が1.5以上7.0以下である 接着成形食品の製造方法。」 そして、両者は以下の点で相違する。 相違点:本件訂正発明1は、水溶性液状物に「水との相溶性を有した2価以上のアルコールを含む」ものであり、「前記アルコールは、グリセリン、および、プロピレングリコールの少なくとも1つ」であり、「前記水溶性液状物を100重量部としたとき、前記水溶性液状物を生成する工程において、前記アルコールが60重量部以上」であるのに対し、甲1発明は、これらの構成を有しない点。 (イ)相違点についての検討 甲1発明において構成される「酵素製剤」及びその水への溶解分散物において、グリセリンやプロピレングリコールのようなアルコールを添加しうることは、甲1において何ら記載も示唆もない。 そして、「グリセリンやプロピレングリコール等の多価アルコールがトランスグルタミナーゼをはじめとする酵素の安定化剤として作用することは甲第2号証〜甲第7号証にも記載のあるとおり、本件特許の出願時において周知であった」(申立書25頁)としても、甲1発明において、「グリセリンやプロピレングリコール等の多価アルコール」をあえて存在させることが当業者にとって容易であったと解される根拠は見いだすことができない。 したがって、本件訂正発明1は、甲第2号証〜甲第7号証を参照しても、甲1発明から当業者が容易になしえたものとはいえない。 イ 本件訂正発明2〜5について 本件訂正発明2〜5は、本件訂正発明1を更に限定するものである。したがって、本件訂正発明1が甲第2号証〜甲第7号証を参照しても、甲1発明から当業者が容易になしえたものとはいえないことに鑑みると、本件訂正発明2〜5も、甲第2号証〜甲第7号証を参照しても、甲1発明から当業者が容易になしえたものとはいえない。 (4)まとめ したがって、本件訂正発明1〜5は、甲1に記載された発明と、甲第2号証〜甲第7号証に記載された当該分野の技術常識から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 よって、申立理由1には、理由がない。 2 申立理由2について (1)申立人の主張 申立人は申立書(31〜32頁)において、以下のとおり主張する。 「本件特許明細書には、「水溶性液状物を100重量部としたとき、トランスグルタミナーゼが0.075重量部未満であるときには、接着肉の接着力が得られないことが認められた」と記載されており…、本件特許発明が解決すべき必須の課題である「適正な接着効果を奏する」を解決できない態様、すなわち、水溶性液状物を100重量部としたとき、トランスグルタミナーゼが0.075重量部未満である態様が明示されている。 他方、本件特許の請求項1において、水溶性液状物を100重量部としたときのトランスグルタミナーゼの量は規定されていない。構成要件B1では、接着成分に対する水溶性液状物の重量比が規定されているものの、そもそも接着成分中のトランスグルタミナーゼの含有量が規定されておらず、トランスグルタミナーゼの量は何ら規定されていないのである。 以上のとおり、本件特許の請求項1は、本件特許の権利者/出願人が、本件特許発明の課題を解決できないことを明示的に認めている態様を包含しており、本件特許明細書において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超え」ていることは明らかである…。したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。」 (2)検討 本件【0077】において述べるのは、実施例11〜17及び比較例16〜18の試験条件における事象である。比較例17は「水溶性液状物がグリセリンと水とを80:20の割合で含む。そして、水溶性液状物を100重量部としたとき、グリセリンが80重量部であり、水が20重量部である。また、この水溶性液状物に分散される接着成分は、トランスグルタミナーゼとカゼインナトリウムとを0.006:0.994の割合で含む。また、接着成分を分散する水溶性液状物と接着成分の割合は、8:1である。そして、水溶性液状物を100重量部としたとき、トランスグルタミナーゼが0.075重量部であり、カゼインナトリウムが12.43重量部である。」という試験条件で実施されたものであり、本件訂正発明はこの試験条件のみに限定されるものではない。そうであれば、本件訂正発明は、必ずしも「水溶性液状物を100重量部としたとき、トランスグルタミナーゼが0.075重量部」という条件を満たしていないからといって、実施できないということはできない。 そして、本件発明の詳細な説明からは、本件訂正発明1は、「水溶性液状物を100重量部としたとき、…水溶性液状物を生成する工程において、…アルコールが60重量部以上であり、…接着成分分散液を生成する工程において、前記接着成分に対する前記水溶性液状物の重量比が1.5以上7.0以下」(【0006】)であるときに、「接着猶予時間を確保しつつ、適正な接着効果を奏することのできる」(【0005】)ものであることが確認できる。 このため、本件訂正発明1は、本件発明の詳細な説明に記載されたものといえる。 (3)まとめ よって、申立理由2には、理由がない。 3 申立理由3について 上記のとおり、申立理由3は、当審が令和3年8月20日付け取消理由通知で示した取消理由と同旨である。 よって、申立理由3には、理由がない。 4 まとめ 以上のことから、異議申立ての理由には、いずれも理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、請求項1〜5に係る発明の特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 水との相溶性を有した2価以上のアルコールを含む水溶性液状物を生成する工程と、 トランスグルタミナーゼ、および、その基質となるタンパク質から構成される接着成分が前記水溶性液状物に分散した接着成分分散液を生成する工程と、 複数の食品原料と前記接着成分分散液とを混合して前記食品原料同士を接着し、それによって、前記食品原料の成形体である接着成形食品を製造する工程とを含み、 前記アルコールは、グリセリン、および、プロピレングリコールの少なくとも1つであり、 前記水溶性液状物を100重量部としたとき、 前記水溶性液状物を生成する工程において、前記アルコールが60重量部以上であり、 前記接着成分分散液を生成する工程において、前記接着成分に対する前記水溶性液状物の重量比が1.5以上7.0以下である 接着成形食品の製造方法。 【請求項2】 前記水溶性液状物を100重量部としたとき、 前記水溶性液状物を生成する工程において、前記アルコールが70重量部以上であり、 前記接着成分分散液を生成する工程において、前記トランスグルタミナーゼが0.12重量部以上0.30重量部以下である 請求項1に記載の接着成形食品の製造方法。 【請求項3】 前記水溶性液状物を100重量部としたとき、 前記水溶性液状物を生成する工程において、前記アルコールが70重量部以上であり、 前記接着成分分散液を生成する工程において、前記トランスグルタミナーゼが0.24重量部である 請求項1または2に記載の接着成形食品の製造方法。 【請求項4】 前記接着成分分散液を生成する工程において、前記トランスグルタミナーゼの比活性が、10000(ユニット/g)であって、前記トランスグルタミナーゼの重量比率を比率Aとし、前記タンパク質の重量比率を比率Bとするとき、前記比率Aと前記比率Bとは、下記条件1を満たす、 (条件1)A×比活性/10000:B=0.006±0.003:0.994±0.003 請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着成形食品の製造方法。 【請求項5】 前記接着成分分散液を生成する工程において、前記トランスグルタミナーゼの比活性が、5000(ユニット/g)であって、前記トランスグルタミナーゼの重量比率を比率Aとし、前記タンパク質の重量比率を比率Bとするとき、前記比率Aと前記比率Bとは、下記条件2を満たす、 (条件2)A×比活性/10000:B=0.012±0.006:0.988±0.006 請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着成形食品の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-03-25 |
出願番号 | P2016-130368 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A23L)
P 1 651・ 55- YAA (A23L) P 1 651・ 537- YAA (A23L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
冨永 みどり |
特許庁審判官 |
吉岡 沙織 大熊 幸治 |
登録日 | 2020-11-02 |
登録番号 | 6787563 |
権利者 | 千葉製粉株式会社 |
発明の名称 | 接着成形食品の製造方法、接着成形食品用の接着成分分散液、および、接着成形食品 |
代理人 | 恩田 博宣 |
代理人 | 恩田 誠 |
代理人 | 恩田 博宣 |
代理人 | 恩田 誠 |