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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C25D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C25D
審判 全部申し立て 発明同一  C25D
管理番号 1385176
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-02 
確定日 2022-03-25 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6792829号発明「蒸着マスクを製造するための金属板及び金属板の製造方法並びに蒸着マスク、蒸着マスクの製造方法及び蒸着マスクを備える蒸着マスク装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6792829号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項11について訂正することを認める。 特許第6792829号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6792829号の請求項1〜11に係る特許についての出願は、令和1年5月13日(優先権主張 平成30年11月13日 日本国)を出願日とする特願2019−90946号であり、令和2年11月11日にその特許権の設定登録がされ、同年12月2日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項(請求項1〜11)に係る特許について、令和3年6月2日に特許異議申立人村戸良至(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年8月3日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月27日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、異議申立人からは意見書の提出がなかったものである。

第2 訂正の適否

1 訂正事項
上記令和3年9月27日になされた訂正の請求は、本件特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項11について訂正することを求めるものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の具体的な訂正事項は次のとおりである。

特許請求の範囲の請求項11に「金属板の製造方法。」とあるのを、「金属板の製造方法であり、前記製造方法は、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であるか否かを検査する検査工程を含み、前記圧延工程における圧延条件及び前記アニール工程におけるアニール条件が、前記検査工程の結果に基づいて設定される、金属板の製造方法。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)上記訂正事項は、訂正前の請求項11の「金属板の製造方法」が、「前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であるか否かを検査する検査工程を含み、前記圧延工程における圧延条件及び前記アニール工程におけるアニール条件が、前記検査工程の結果に基づいて設定される」ことを含むことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)上記訂正事項の内、「前記製造方法は、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であるか否かを検査する検査工程を含み」は、本件明細書の【0087】の「アニール工程の後、金属板64の断面に現れる結晶粒の寸法を検査する結晶粒検査工程を実施する。具体的には、結晶粒の平均断面積が第1閾値以上且つ第2閾値以下であるか否かを検査する。」との記載、及びこの第1閾値以上且つ第2閾値以下に関する同【0093】の「検査工程においては、例えば、結晶粒の平均断面積が0.5μm2以上且つ50μm2以下である金属板64を、合格と判定する。また、結晶粒の平均断面積が0.5μm2未満である、又は50μm2を超える金属板64を、不合格と判定する。」等の記載に基づくものである。
また、上記訂正事項の内、「前記圧延工程における圧延条件及び前記アニール工程におけるアニール条件が、前記検査工程の結果に基づいて設定される」は、同【0110】の「検査工程を金属板64の製造方法における金属板64の選別以外の目的で用いる例について説明する。例えば、結晶粒の平均断面積に基づく金属板64の検査は、圧延工程の条件やアニール工程の条件などの、金属板64を製造するための条件を最適化するために利用されてもよい。具体的には、まず、様々な圧延条件やアニール条件で金属板64を製造し、得られた金属板64の結晶粒の平均断面積を算出する。また、圧延条件及びアニール条件と、得られた金属板64の結晶粒の平均断面積とを照らし合わせる。これによって、結晶粒の平均断面積が0.5μm2以上且つ50μm2以下である金属板64を高い確率で製造するための圧延条件及びアニール条件などを見出すことができる。このように、結晶粒の平均断面積に基づく金属板64の検査は、適切な圧延条件及びアニール条件を見出すために利用されてもよい。」との記載等に基づくものであるから、上記訂正事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(3)上記訂正事項は、訂正前の請求項11の「金属板の製造方法」をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
本件訂正は、請求項11について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項11について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項11に係る発明を含め、請求項1ないし請求項11に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応して「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
蒸着マスクを製造するために用いられる金属板であって、
前記金属板は、少なくともニッケルを含む鉄合金の圧延材からなり、且つ30μm以下の厚みを有し、
前記金属板の断面のうち前記金属板の圧延方向に直交する平面に対して−10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であり、
前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される、金属板。
【請求項2】
前記圧延材におけるニッケル及びコバルトの含有量が合計で30質量%以上且つ38質量%以下である、請求項1に記載の金属板。
【請求項3】
前記結晶粒の平均断面積が、2.0μm2以上である、請求項1又は2に記載の金属板。
【請求項4】
前記金属板は、13μm以上の厚みを有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の金属板。
【請求項5】
蒸着マスクであって、
金属板と、
金属板に形成された貫通孔と、を備え、
前記金属板は、少なくともニッケルを含む鉄合金の圧延材からなり、且つ30μm以下の厚みを有し、
前記金属板の断面のうち前記金属板の圧延方向に直交する平面に対して−10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であり、
前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される、蒸着マスク。
【請求項6】
前記圧延材におけるニッケル及びコバルトの含有量が合計で30質量%以上且つ38質量%以下である、請求項5に記載の蒸着マスク。
【請求項7】
前記結晶粒の平均断面積が、2.0μm2以上である、請求項5又は6に記載の蒸着マスク。
【請求項8】
前記金属板は、13μm以上の厚みを有する、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の蒸着マスク。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれか一項に記載の蒸着マスクと、
前記蒸着マスクが溶接されたフレームと、を備える、蒸着マスク装置。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の金属板を準備する工程と、
前記金属板を長手方向に沿って搬送する工程と、
前記金属板に貫通孔を形成する加工工程と、を備える、蒸着マスクの製造方法。
【請求項11】
蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法であって、
少なくともニッケルを含む鉄合金からなり、且つ30μm以下の厚みを有する前記金属板を、圧延法によって圧延材として得る作製工程を備え、
前記作製工程は、70%以上95%以下の圧下率で前記金属板を圧延する圧延工程と、前記圧延工程によって得られた前記金属板を搬送しながら500℃〜600℃の範囲内で30秒〜90秒にわたってアニールするアニール工程と、を含み、
前記金属板の断面のうち圧延材の圧延方向に直交する平面に対して−10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であり、
前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される、金属板の製造方法であり、
前記製造方法は、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であるか否かを検査する検査工程を含み、
前記圧延工程における圧延条件及び前記アニール工程におけるアニール条件が、前記検査工程の結果に基づいて設定される、金属板の製造方法。」

第4 令和3年8月3日付けで通知した取消理由及びこの取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要

1 令和3年8月3日付けで通知した取消理由の概要
・特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(以下、「取消理由」という。)
本件明細書の【0007】及び【0008】等の記載によれば、製造方法の発明である訂正前の請求項11に係る発明の課題は、「蒸着マスクの厚みが小さくても、蒸着マスクを構成する金属板の強度が低下せず、蒸着マスクの製造工程や蒸着マスクの使用の際に金属板に塑性変形が生じない金属板の製造方法」を提供することにあるといえる。
そして、本件明細書の特に「検査工程」に関する、同【0089】、【0090】、【0091】及び【0093】等の記載によれば、金属板の強度を確保するには、金属板の結晶粒の寸法を小さくすることは知られていたところ、30μm以下の厚みを有する金属板の結晶粒の寸法を定量的に把握する手法として、EBSD法に基づいて結晶粒の平均断面積を算出する方法が、精度などの点で優れていることに基づき、この結晶粒の平均断面積が第1閾値以上第2閾値以下であるか否かを検査し、この条件を満足する金属板を選別していることが理解される。また、同【0148】〜【0171】に記載される「実施例」においても、同【0162】に記載される第2例〜第16例は、【0163】でEBSD法に基づいて結晶粒の平均断面積を算出し、「OK」又は「NG」の判定を行っている。
一方で、製造方法における「圧延工程」及び「アニール工程」について、本件明細書には、これらの工程の条件に関する概略的な記載を、それぞれ認めることができるが、「圧延工程」又は「アニール工程」でこれらの条件を満足すれば、EBSD法に基づいて算出された結晶粒の平均断面積が第1閾値以上第2閾値以下となるのかは明らかでない。
そうすると、本件明細書の記載によれば、検査工程において、EBSD法に基づいて結晶粒の平均断面積を算出し、この結晶粒の平均断面積が第1閾値以上第2閾値以下であるか否かを検査し、選別工程において、この条件を満足する金属板を選別することにより、上記の発明の課題を解決していると理解するのが相当である。
しかしながら、本件発明11には、上記の検査工程、選別工程に関する特定はなされていないから、本件発明11は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。

2 取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要
(1)特許法第29条の2所定の規定違反(以下、「申立理由1」という。)
本件発明1〜10及び訂正前の請求項11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、それらの特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:国際公開2020/067537号

(2)特許法第29条第2項所定の規定違反(以下、「申立理由2」という。)
ア 本件発明1〜10は、下記甲第2号証に記載された発明及び下記甲第6〜8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、訂正前の請求項11に係る発明は、下記甲第2号証に記載された発明及び下記甲第6〜9号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2−1」という。)。
イ 本件発明1〜10は、下記甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、訂正前の請求項11に係る発明は、下記甲第3号証に記載された発明及び下記甲第9号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2−2」という。)。
ウ 本件発明1〜10は、下記甲第4号証に記載された発明及び下記甲第6〜8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2−3」という。)。
エ 本件発明1〜10は、下記甲第5号証に記載された発明及び下記甲第6〜8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2−4」という。)。

甲第2号証:特開平8−260109号公報
甲第3号証:特開2014−101543号公報
甲第4号証:特開2001−262278号公報
甲第5号証:特開平5−144384号公報
甲第6号証:国際公開第2018/066611号
甲第7号証:特開平10−319870号公報
甲第8号証:特開2017−150038号公報
甲第9号証:特開2017−66530号公報
(以下、「甲第1号証」を「甲1」などという。)

(3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(以下、「申立理由3」という。)
本件発明の課題を解決するために、本件発明1の金属板は、「前記金属板の断面のうち前記金属板の圧延方向に直交する平面に対して−10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であり、
前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される、」との構成を備えるところ、この構成を得るために、アニール工程の温度や時間は重要な要件であると理解されるが、【0148】〜【0171】に記載された実施例において、金属板の厚みや圧下率については記載があるものの、アニールに関しては、温度、時間のみならず、アニール工程そのものが行われたのか否かについても開示されていない。
ここで、【0077】には、「アニール工程の条件は、金属板64の厚みや圧下率などに応じて適切に設定されるが、例えば、500℃以上600℃以下の範囲内で30秒以上90秒以下にわたってアニール工程が実施される。」との記載があるが、本件明細書の記載を見ても、本件発明1及び本件発明5における金属板の厚みや、訂正前の請求項11に係る発明における圧下率において、500℃以上600℃以下の範囲内で30秒以上90秒以下のアニール工程が行われた場合に、どのような結晶粒が得られるのか理解できない。
そうすると、課題を解決するために必要な上記の構成をどのようにして得るのか理解できないから、本件発明1、5、これらの発明を引用する本件発明2〜4、6〜10、及び訂正前の請求項11に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により、発明の課題を解決できると当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、サポート要件を満たしていない。

第5 当審の判断

1 取消理由(特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反))について
取消理由は、要するに、本件発明の課題を解決するには、EBSD法に基づいて結晶粒の平均断面積を算出し、この結晶粒の平均断面積が第1閾値以上第2閾値以下であるか否かを検査する検査工程と、この条件を満足する金属板を選別する選別工程を含む金属板の製造方法である必要があると理解されるところ、訂正前の請求項11に係る発明には、上記の検査工程、及び判定工程に関する特定はなされていないから、訂正前の請求項11に係る発明は、サポート要件を満たしていないというものである。
本件訂正により、本件発明11には、「蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法」が、「前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であるか否かを検査する検査工程」を含むことが特定されることにより、本件発明11には、発明の課題を解決するのに直接的に必要な検査工程が特定された。そして、本件発明11には、訂正前の請求項1に係る発明の、結晶粒の平均断面積が第1閾値以上第2閾値以下である条件を満足する金属板を選別する選別工程は、直接には特定されていないものの、本件発明11は、訂正前の請求項11に係る発明の、結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であることが満たされている金属板の製造方法として特定されているのであるから、上記検査工程後、当然、訂正前の請求項11に係る発明の上記の条件を満たされている金属板を選別しているといえる。
そうすると、本件発明11は、本件発明の課題を解決するのに必要な工程が特定されているものであり、本件発明の課題を解決できるものであるから、本件発明11は、サポート要件を満たしており、取消理由には理由がない。

2 申立理由1(特許法第29条の2所定の規定違反)について
甲1に係る日本語特許出願は、2019年(令和1年)9月27日を国際出願日とする国際特許出願であり、本件特許についての出願の優先日である平成30年11月13日の後に出願されたものであるから、特許法第184条の13の規定により読み替えて適用する同法第29条の2の規定中の、特許出願の日(優先日)前の「他の特許出願又は実用新案登録出願(第百八十4条の4第3項又は実用新案法第四十8条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされた第百八十4条の4第1項の外国語特許出願又は同法第四十8条の4第1項の外国語実用新案登録出願を除く。)」に該当しない。
したがって、申立理由1には、理由がない。
なお、この甲1に係る日本語特許出願は、本件特許についての出願の優先日前に出願された「特願2018−182993号」などを基礎出願として優先権を主張するものであり、特許法第184条の15第2項の規定により読み替えて適用する同法第41条第3項の規定により、当該日本語特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に係る発明のうち、当該基礎出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明は、当該日本語特許出願について国際公開がされた時に、当該基礎出願について出願公開されたものとみなして、同法第29条の2の規定を適用することから、本来、当該基礎出願を、特許法第29条の2所定の拡大先願の判断における、いわゆる「先願」とするのが相当であるが、ここでは、本件特許異議の申立てにかんがみ、当該日本語特許出願を「先願」として扱い、その国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「甲1明細書等」という。)に記載された発明と本件発明との異同について、念のため検討しておく。
(1)甲1明細書等に記載の事項
ア 「請求の範囲
[請求項1] 質量%にて、Ni:35.0〜37.0%、Co:0.00〜0.50%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、 板厚が5.00μm以上50.00μm以下であるメタルマスク材料であって、 一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を、当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし、エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の、前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値である反り量が5.0mm以下であることを特徴とするメタルマスク材料。」

イ 「技術分野
[0001] 本発明は、有機ELディスプレイ(OLED)の製造等で使用されるメタルマスク材料とメタルマスクに関する。
背景技術
[0002] RGB素子を個別にパターニングする塗り分け方式でOLEDをカラー表示する場合、メタルマスクを使用し、RGB毎に他の色の電極開口部をマスキングして蒸着する。すなわち、OLED用のメタルマスクは、窓枠形状のフレームにゆがみやたるみの無いようにテンションを付加した状態で固定され、図18に示すように、有機EL発光材料3aをマスク孔1aからガラス基板又はフィルム基板等の基板2上に蒸着させる。
・・・
[0006] しかし、インバー合金からなるメタルマスク材料をハーフエッチングすると、メタルマスク材料の中央部が凹むように縁部側が反り返る変形(以下、「エッチング後の反り」という。)が生じる場合がある。このようなエッチング後の反りによって、前記基板2とのアライメントの精度が損なわれ、基板2上の画素パターンとメタルマスク1のパターンとの間に位置ずれが生じるため、有機EL素子の有機化合物層の微細なパターニングを行うことができないという問題が生じる。
・・・
[0013] 本発明は、このような問題に鑑みて成されたものであり、反り量が低減されるOLED用のメタルマスク材料とその製造方法とメタルマスクを提供することを課題とする。」

ウ 「実施例
[0144] 以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
[0145] [実施例1]
表10、11の条件にて、冷間圧延の圧下率と焼鈍温度を調整することにより、試料No.1〜6のメタルマスク材料を製造した。表10に記載された元素成分は、試料No.1〜6のメタルマスク材料の組成であり、表10の”CC”は連続鋳造によってスラブが製造されたことを示す。また、最終焼鈍は、水素ガス雰囲気化で4.0秒以上保定することにより行った。
[0146][表10]

[0147][表11]

・・・
[0149] 本発明例のメタルマスク材料の酸化皮膜厚は、図16に示すように3.5nm未満であった。これらの試料No.1〜6のそれぞれを100mm角にカットして、前記カットされた試料の片面をレジストで覆い、次いで、板厚が2/5になるまで塩化第二鉄水溶液中に浸漬することによりハーフエッチングを行った。試料No.2〜6の反り量は、いずれも5.0mm以下であった。これに対して、試料No.1は、反り量が5.0mm超であった。前記反り量の測定結果を表11に示す。
・・・
[0153] 試料No.1〜6の|ΔD|、DM、引張強さ(TS)、降伏強度(YS)、ハーフエッチングの反り量の各測定結果を表12に示す。尚、表12の降伏強度(YS)は、JIS Z2241に規定する金属材料引張試験方法に準拠する試験方法に基づいて測定された0.2%耐力である。
[0154][表12]



(2)甲1明細書等に記載された発明
上記(1)アの[請求項1]の記載によれば、甲1明細書等には、「質量%にて、Ni:35.0〜37.0%、Co:0.00〜0.50%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
板厚が5.00μm以上50.00μm以下であるメタルマスク材料であって、
一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を、当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし、エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の、前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値である反り量が5.0mm以下であることを特徴とするメタルマスク材料。」が記載されている。
そして、このメタルマスク材料の実施例として、同ウの[0149]には、「100mm角にカットして、前記カットされた試料の片面をレジストで覆い、次いで、板厚が2/5になるまで塩化第二鉄水溶液中に浸漬することによりハーフエッチングを行った。」後の反り量が、「いずれも5.0mm以下」である試料No.2〜6の他、反り量が5.0mm超であり、比較例に当たる試料No.1が記載されている。
ここで、試料No.1のメタルマスク材料は、同ウの[0146][表10]によれば、質量%にて、Ni:35.7%、Co:0.28%を含有し、残部がFe及び不純物からなるものであり、同ウの[0147][表11]によれば、板厚が25μmであり、同ウの[0154][表12]によれば、反り量が7.0mmであるものである。
さらに、試料No.1のメタルマスク材料は、同ウの[0147][表11]によれば、最終圧延圧下率が91.7%、最終焼鈍温度650℃で保定時間4.8秒の条件で製造されたものである。
試料No.1のメタルマスク材料に関する事項を、上記(1)アの[請求項1]の記載に当てはめると甲1明細書等には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

「質量%にて、Ni:35.7%、Co:0.28%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
板厚が25μmであるメタルマスク材料であって、
一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を、当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし、エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の、前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値である反り量が7.0mmであり、
最終圧延圧下率が91.7%、最終焼鈍温度650℃で保定時間4.8秒の条件で製造されたメタルマスク材料。」

(3)本件発明1について
ア 対比
上記(1)イの[0002]の「RGB素子を個別にパターニングする塗り分け方式でOLEDをカラー表示する場合、メタルマスクを使用し、RGB毎に他の色の電極開口部をマスキングして蒸着する。」との記載によれば、甲1発明の「メタルマスク」は、蒸着の際のパターニングのメタルマスクとして用いられるものであるから、本件発明1の「蒸着マスク」に相当する。また、甲1発明の「質量%にて、Ni:35.7%、Co:0.28%を含有し、残部がFe及び不純物から」なる「メタルマスク材料」は、本件発明1における「蒸着マスクを製造するために用いられる金属板であって」「少なくともニッケルを含む鉄合金」からなるものである。さらに、甲1発明の「メタルマスク材料」は、圧延を経て製造されるものであるから、「圧延材」であり、「板厚が25μm」であるから、本件発明1の「30μm以下の厚みを有し」との条件を満たすものである。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、「蒸着マスクを製造するために用いられる金属板であって、前記金属板は、少なくともニッケルを含む鉄合金の圧延材からなり、且つ30μm以下の厚みを有する金属板。」の点で一致し、以下の点で相違しているものと認められる。

<相違点>
本件発明1は、「金属板の断面のうち前記金属板の圧延方向に直交する平面に対して−10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であり、
前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される」ものであるのに対し、甲1発明では、この様な構成を有しているのか明らかでない点。

イ 判断
上記相違点について、検討する。
(ア)甲1明細書等には、上記相違点に係る本件発明1の構成は何ら記載されていないし、金属板内の結晶粒の大きさに関する記載すらない。
(イ)異議申立人は、異議申立書の25頁15行〜26頁13行において、上記相違点について、以下のとおり主張する。
「金属組織の特性(結晶粒の大きさ等)は、出発材料と製造方法により決定されることは、当業者には明らかである。
本件特許の明細書には、金属板の製造方法が開示されている(段落0057〜0086)。製造方法には、一般的な蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法と同様、溶解工程、圧延工程、アニール工程が含まれる。
そして、本件特許の明細書においては、結晶粒の大きさについて、圧延工程で圧下率を調整することにより結晶粒の寸法を調整することができることが開示されている(段落0063)。また、アニール工程の温度が高い場合は結晶粒の成長が速く進むので、アニール工程の時間が長すぎると結晶粒の平均断面積が大きくなることを開示している(段落0080)。より具体的には、圧下率は、好ましくは、70%以上、95%以下である(段落0065)。また、アニール工程の条件は、たとえば、500℃以上600℃以下の範囲内で30秒以上90秒以下であり(段落0077)、温度に応じて、アニール工程の時間の上限を、・・・
・600℃超650℃以下:1分以下
とすることができる(段落0080)。
甲1号証には、前述したとおり、最終圧延圧下率が91.7%であり、最終焼鈍温度が650℃、保定時間が4.8秒である具体例が示されている。これは、上述した本件特許の圧下率、アニール工程の温度、時間の範囲に含まれる。してみれば、甲1発明のメタルマスク材料は、本件特許の金属板と同じ金属組織、すなわち、結晶粒の大きさを有する。言い換えれば、甲1発明は、上述した本件発明の1−C、1−Dの要件を満たす。」
念のため上記主張についても検討するに、確かに出発材料が同じで、甲1発明のメタルマスク用素材を製造する工程、及びその工程での具体的な各製造条件までが、本件発明1の金属板の製造方法における具体的な各製造条件に一致しているのであれば、甲1発明においても、本件発明1の金属板と同じメタルマスク用素材が製造されていると考える余地がある。
しかしながら、本件明細書における圧延工程、アニール工程(焼鈍に相当する)の条件は範囲として記載され、その範囲に甲1明細書等に記載の対応する工程の条件が含まれるからといって、各工程における具体的な製造条件で一致しているとすることはできない。しかも、本件明細書に記載される工程には、本件訂正で、本件発明11に対して特定された「結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であるか否かを検査する検査工程」及び、前記「検査工程」に引き続く、上記条件を満足する金属板を選別する選別工程を含まれるが、甲1明細書等に記載される製造方法には、これらの工程は存在していない。
そうすると、本件明細書に記載される本件発明1の製造方法と、甲1明細書等に記載される甲1発明の製造方法が同じであるということはできないから、甲1発明の「メタルマスク用素材」が、本件発明1の「金属板」と同じ物であるということはできず、異議申立書での上記の観点でも、上記相違点を、実質的な相違点ではないとすることはできない。

ウ 小括
以上のとおり、上記相違点は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1発明と同一であるとすることはできない。

(4)本件発明2〜11について
本件発明1を少なくとも引用する本件発明2〜4、10、「蒸着マスク」の発明である本件発明5、本件発明5を少なくとも引用する本件発明6〜9、及び「金属板の製造方法」である本件発明11は、いずれも、発明特定事項に、上記(3)アに記載の相違点に係る本件発明1の構成を有するものであるところ、この相違点が実質的な相違点である以上、本件発明2〜11は、甲1発明と同一であるとすることはできない。

(5)申立理由1に関するまとめ
以上のとおり、本件特許1〜11は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。
したがって、申立理由1には、理由がない。

3 申立理由2(特許法第29条第2項所定の規定違反について
(1)甲2〜甲9に記載の事項
ア 甲2に記載の事項
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量%にて、Ni31〜36%、Cu1.0%を越え4.0%以下、Mn1.0%以下、Si0.5%以下、B0.0005〜0.1%を含有し、NiとCuの含有量は101%≦3Ni+2Cu≦110%の関係を満足し、残部は不純物を除き実質的にFeよりなることを特徴とする電子部品用Fe−Ni系合金。
【請求項2】 圧延方向および厚み方向に平行な面の結晶粒の平均断面積が200μm2以下かつ平均展伸度が2.5以上であることを特徴とする電子部品用Fe−Ni系合金。」

(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、リードフレーム、シャドウマスク等の電子部品材料として使用するのに適した低コストのFe−Ni系合金に関するものである。」

(ウ)「【0006】そこで本発明は、低Ni合金の低コスト、低熱膨張特性および熱間加工性を害することなく耐食性を、さらにはプレス打ち抜き性および強度をも改善した電子部品用低Ni合金を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の重要な点は、低Ni合金にCuとBを複合添加することで低Ni合金の低熱膨張特性を害することなく、耐食性、強度を、またCu単独添加低Ni合金の熱間加工性や耐食性を改善したものである。すなわち、Bを添加することでCu添加による熱間加工性の劣化を防止し、またさらに耐食性、強度を向上させることができる。また、結晶粒の大きさと形状を制御することで、強度、プレス打ち抜き面の平滑性のいずれをも向上させることができる。」

(エ)「【0013】結晶粒の制御はNiの低下およびCuの添加により劣化した強度を向上させるのに効果があり、また材料のプレス性の向上にも著しい効果がある。本発明合金において、圧延方向と厚み方向に平行の断面での結晶粒の平均断面積を200μm2以下、かつ展伸度を2.5以上とすると、Fe−42%Ni合金に比し、強度は勝るとも劣らず、プレス打ち抜き面の平滑性は遜色のないものとなるので望ましい。このうち、結晶粒の平均断面積 200μm2以下を得るためには、例えば70〜80%の冷間圧延後、組成によって再結晶温度が変わるので注意が必要であるが、例えば33.7Ni−2.0Cuならば800℃で約3分間の焼鈍を行なえばよい。また、展伸度2.5以上を得るためには、再結晶組織の材料を約40%の圧下率で圧延すればよい。より望ましくは平均断面積は100μm2以下、展伸度は3以上、より望ましい展伸度は3.5以上である。
【0014】
【実施例】以下、本発明を実施例により説明する。表1に示す組成の合金を真空高周波誘導炉にて溶解、鋳造した後、1150℃で鍛造、熱間圧延を行い、1000℃×1hの溶体化処理を施した後、冷間圧延と軟化焼鈍を繰り返し、0.25mmの板材に仕上げた。さらにそれぞれ定められた圧延率で最終冷間圧延を施した後、還元雰囲気中において再結晶温度以下の一定温度で歪取焼鈍を施した。」

イ 甲3に記載の事項
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
NiとCoとを合計で30〜45質量%、Coを0〜6質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe−Ni系合金であり、圧延面の結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折強度を、それぞれ、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)としたとき、以下の関係を満たすことを特徴とする、メタルマスク材料。
式1:I(200)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦40%
式2:I(311)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦25%
式3:{I(220)+I(200)}/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦90%
【請求項2】
請求項1に記載のメタルマスク材料を用いたメタルマスク。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELディスプレイの製造等で使用されるメタルマスク材料及びメタルマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
・・・
有機ELディスプレイの製造では、一定寸法の開孔を複数設けたメタルマスクを基板上にセットし、蒸着により有機材料を基板の所定位置に成形するカラーパターニング工程がある。この工程では、蒸着源からの輻射熱、さらには、メタルマスク表面に温度の高い有機材料が付着することで、メタルマスクの温度が100℃程度にまで上昇する場合があり、基板上の成形位置の精度を保つため、メタルマスクには基板と同程度以下の熱膨張を有する材料を使用する必要がある。」

(ウ)「【0012】
(結晶の配向)
メタルマスク材料の圧延面の結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折積分強度を、それぞれ、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)としたとき、以下の式1〜式3の関係を満たすと、エッチング性(エッチングの均一性)に優れ、高精細なエッチング加工が可能となる。
式1:I(200)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦40%
式2:I(311)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦25%
式3:{I(220)+I(200)}/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦90%
【0013】
一般に、結晶方位によりエッチング速度に差異があることが知られており、材料が特定方位に強く配向していない場合に均一にエッチングされる。材料が特定方位に強く配向した場合は、特定方位が優先的にエッチングされ易くなる、又はエッチングされ難くなることで、エッチングが不均一になることで、エッチング精度が低下する。メタルマスク用素材として使用されるFe−Ni系の合金では、主要な結晶方位は(111)、(200)、(220)、(311)であり、本発明者が各方位の配向度とエッチング性の関係を鋭意調査した結果、(200)、(311)につき、それぞれが一定範囲以下かつ、(200)、(220)の合計の配向度が一定値以下の場合に、良好なエッチング性を示すことを見出した。すなわち、均一かつ精度良くエッチングするためには、式1〜式3を満たすような、特定方位にのみ強く配向しない材料を使用すればよい。式1〜式3につき、いずれか1つ以上が上限を超えた場合、エッチング速度が部分的に不均一となり、エッチング精度が劣化する。
なお、式1〜式3は、後述する最終再結晶焼鈍前の圧延加工度及び結晶粒度を制御することで、調整することができる。
【0014】
(厚み)
本発明のメタルマスク材料の厚みは、例えば、0.02〜0.10mm、より好ましくは、0.025〜0.08mmとすることができる。メタルマスク材料の厚みが、0.02mm未満であるとハンドリング性が劣ると共に、有機材料の堆積によりメタルマスクに歪や変形が生じ易くなることで、基板上に形成される有機材料の位置精度が劣る場合がある。メタルマスク材料の厚みが0.10mmを超えるとシャドウイング効果が顕著に生じる場合がある。
【0015】
(メタルマスク材料の製造方法)
本発明のメタルマスク材料は、例えば、次のように製造することができるが、以下に示す方法に限定されることを意図しない。
まず溶解炉で原料を溶解し、上記Fe−Ni系合金組成の溶湯を得る。この時、溶湯の酸素濃度が高いと、酸化物などの晶出物の生成量が増えてエッチング不良の原因となる場合があるため、一般的な脱酸方法、例えば炭素を加えて真空誘導溶解などにより溶湯の清浄度を高めてからインゴットに鋳造する。その後、熱間圧延、酸化層の研削除去の後、冷間圧延と焼鈍を繰返して所定の厚みに仕上げる。ここで、最終再結晶焼鈍前の冷間圧延加工度を35〜85%とし、最終再結晶焼鈍にてJIS G 0551に規定する結晶粒度番号が7.0以上となるように焼鈍し、さらに最終冷間圧延の加工度を35〜85%とする。最終再結晶焼鈍後の結晶粒度番号を7.0以上とするためには、最終再結晶焼鈍時の温度と時間を制御すれば良い。
【0016】
メタルマスク材料の(200)、(220)、(311)の配向度は、上述のように最終再結晶焼鈍前の冷間圧延加工度、最終再結晶焼鈍の結晶粒度番号、及び最終冷間圧延の加工度によって決まる。例えば、最終冷間圧延の加工度が低い場合は、最終再結晶焼鈍で得られる結晶配向がそのまま残りやすいため、最終製品の結晶配向は最終再結晶焼鈍の影響を強く受ける。また、最終再結晶焼鈍前の冷間圧延加工度に応じて、最終再結晶焼鈍の結晶配向が影響を受ける。・・・
最終再結晶焼鈍後の結晶粒度番号が7.0未満であると、(200)の配向が強くなり、式1の値が上限値を超え、ハーフエッチング性及びエッチング精度が劣る。なお、最終再結晶焼鈍後の結晶粒度番号が大きくても、未再結晶部分がなければ、エッチング性への影響は小さいため、結晶粒度番号に特に上限は無い。」

(エ)「【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
(実験例A)
(1)メタルマスク材料の製造
Feに36質量%のNiを加えた原料を真空誘導溶解にて溶製し、厚み50mmのインゴットを鋳造した。これを8mmまで熱間圧延し、表面の酸化膜を研削除去した後、圧延と焼鈍を繰返して、表1の板厚のメタルマスク材料に仕上げた。最終再結晶焼鈍前の圧延加工度及び結晶粒度を表1に示す。結晶粒度は、最終再結晶焼鈍時の炉温度1000〜1150℃、炉内滞留時間8〜60秒の間で調整することで制御した。・・・
【0021】
【表1】



ウ 甲4に記載の事項
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 質量%にて、Ni:30〜50%、Nb:0.005〜0.1%、C:0.01%未満、N:0.002〜0.02%、残部が実質的にFeからなり、0.000013≦[%Nb]・[%N]≦0.002であることを特徴とする高強度低熱膨張Fe−Ni系合金。
・・・
【請求項7】 請求項1ないし6のいずれかに記載のFe−Ni系合金よりなることを特徴とするシャドウマスク。
【請求項8】 請求項1ないし6のいずれかに記載のFe−Ni系合金よりなることを特徴とするリードフレーム。」

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高強度でかつ平均熱膨張係数が小さいFe−Ni系合金に関するものであり、特にシャドウマスク及びリードフレーム、さらには精密機械の各部品等の素材に適用されるものに関する。
【0002】
【従来の技術】・・・これらFe−Ni系合金やFe−Ni−Co系合金(以下、Fe−Ni系合金と総称する)は、テレビやコンピューターのディスプレイにおけるシャドウマスク、ブラウン管電子銃の電極、あるいは半導体パッケージ等の製造に用いられるリードフレームといった低熱膨張特性が必要とされる用途に使用されている。」

(ウ)「【0010】上述したような従来の合金の場合は、その造塊・凝固時に晶出する炭、窒化物が粗大になり易く、これはエッチング面に突出したり、またプレス打抜き時に金型の摩耗を増長するといった問題に繋がる。そこで本発明は、粗大になり易い炭、窒化物の析出を抑えた手法にて高強度低熱膨張Fe−Ni系合金を達成し、そして、それら合金よりなるシャドウマスクやリードフレームを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】まず、本発明者らは、Fe−Ni系合金の高強度化の手法として、粗大となり易い析出炭化物に依らない手法を検討した。その結果、超微細な調整が可能なNb窒化物を組織中に多数析出させることで結晶粒の微細化が達成でき、諸特性の劣化をきたさずに高強度化を達成するに有効な手段であることをつきとめた。つまり、Fe−Ni系合金への溶解度積が小さいNb、Nを利用することで、少量のNb添加で、超微細な窒化ニオブを析出させる手法であり、粗大な炭、窒化物の析出を抑えかつ、分散強化を主作用とする従来の方法にも依らないことから、多量のNb添加をも必要としない方法である。」

(エ)「【0025】加えて、本発明者らは、その結晶粒の微細化による高強度化を達成するに有効な窒化ニオブのサイズについて検討した。本発明のFe−Ni系合金においては、その高強度化に効果を示す平均結晶粒径として、JIS G 0551による粒度番号が10以上であることが望ましい。・・・
【0030】
【実施例】 (実施例1)真空誘導溶解炉により、表1に示す各種成分に調整したFe−36%Niアンバー系合金の鋼塊を作製した。その後、1100℃に加熱して固溶化処理を行ない、続いて鍛造と熱間圧延を施して厚さ2.5mmの板材とした。この板材に800〜900℃での窒化ニオブの析出処理を行った後、冷間圧延と焼鈍を繰り返して厚さ0.1mmの冷間圧延材とした。
【0031】これら仕上げた冷間圧延材を供試材とし、各供試材についての平均結晶粒径(JIS G 0551による結晶粒度番号)と、最大の窒化ニオブの粒径、0.2%耐力、熱膨張係数を測定した。なお、窒化ニオブの粒径測定は、供試材をスピード法で腐食した組織面について、その総測定観察視野面積500μm2を走査電子顕微鏡にて観察することで行なった。また、0.2%耐力は20℃おいて、熱膨張係数は20〜100℃の範囲で測定した。
【0032】
【表1】

【0033】本発明を満たすNo.1〜5は、窒化ニオブの微細析出により微細な結晶粒が得られており、Nb無添加材(No.7)に比べて、熱膨張特性等のシャドウマスク材としての特性を損なうこと無く、耐力を約10%程度向上させることができた。」

エ 甲5に記載の事項
(ア)「【請求項1】 ニッケルおよび鉄を主成分とし、かつ少くとも表面層の結晶粒内の転位密度が1011dl/cm2を超えていることを特徴とするシャドウマスク用素材。
【請求項2】 重量比でニッケルを25〜50%、残部が実質的に鉄もしくは鉄を主体とした鉄−コバルト系から成り、熱膨脹係数が 7×10-6/℃以下の低熱膨脹合金でかつ、結晶粒が粒度番号(JIS G0551 による)13以上であることを特徴とするシャドウマスク用素材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、たとえばカラーテレビのシャドウマスク構成に適するシャドウマスク用素材に関する。」

(イ)「【0006】本発明は上記事情に対処してなされたもので、熱膨脹係数が小さいとともに、少なくとも表面層の結晶粒内の転位密度が比較的高く、もしくは結晶粒もより微細で良好なエッチング性を呈し、高精度に所要の微細な電子線通過孔の形設可能なシャドウマスク用素材の提供を目的とする。」

(ウ)「【0008】本発明に係る第1のシャドウマスク用素材は、前記のように Ni-Fe系において、少くとも表面層の結晶粒内の転位密度を1011dl/cm2を超えるように制御されており、好ましくは結晶粒度も粒度番号(JIS G0551による)8以上、さらに好ましくは13以上のものである。そして、前記Ni-Fe系における組成比は、熱膨脹係数を 9×10-6/℃以下程度に押さえるため、重量比でNi25〜45%,残部が実質的にFeであることが望ましいが、たとえば結晶粒を揃えるため、重量比で7%程度以下のCoを添加してもよいし、また転位の絡まりを少なくするため、重量比で5%程度以下のCrを添加してもよい。ここで、少くとも表面層(10nm〜0.05mm程度)の結晶粒内の転位密度を1011dl/cm2を超えるように選択・設定したのは、エッチング液(通常はFeCl2)に対する濡れ性および迅速なエッチング性を得るためで、少くとも表面層の結晶粒内の転位密度を1011〜1013dl/cm2に選択・制御することがさらに望ましい。」

(エ)「【実施例】以下本発明の実施例を説明する。
【0014】実施例1〜6
表−1に示す組成の合金を用意し、それぞれ融点以上で溶融して調製した溶湯を、高速回転する双ロール上に流し急冷して厚さ 2 mm 、幅800 mmの薄板を得た。これらの薄板を 800℃で 時間真空アニール(焼鈍)した後、94%の圧下率で冷間圧延して厚さ0.15 mm のシャドウマスク用素材を得た。」

(オ)「【0020】
【発明の効果】上記説明したように、本発明に係るシャドウマスク用素材は、熱膨脹係数が小さいばかりでなく、結晶粒内の転位密度が1011dl/cm2を超えたものとすることにより、あるいは結晶粒をJISG0551の規定による粒度番号No.13 以上の微細粒形型が、特に選択されている。したがって、たとえばフォトエッチングによる電子線通過孔の形設(開孔)において、高精度に孔径の一様な電子線通過孔を形設し得るとともに、電子の衝突による昇温に伴う電子線通過孔の位置ズレも防止され、カラーテレビに組み込んで実用に供した場合、色ズレなど起こらず鮮明できめ細かい(高画質の)画像が得られる。」

オ 甲6に記載の事項
(ア)「[0001] 本開示の実施形態は、蒸着マスクの製造方法、有機半導体素子の製造方法、及び有機ELディスプレイの製造方法に関する。
[0002] 蒸着マスクを用いた蒸着パターンの形成は、通常、蒸着作製するパターンに対応する開口部が設けられた蒸着マスクと蒸着対象物とを密着させ、蒸着源から放出された蒸着材を、開口部を通して、蒸着対象物に付着させることにより行われる。
[0003] 上記蒸着パターンの形成に用いられる蒸着マスクとしては、例えば、蒸着作成するパターンに対応する樹脂マスク開口部を有する樹脂マスクと、金属マスク開口部(スリットと称される場合もある)を有する金属マスクとを積層してなる蒸着マスク(例えば、特許文献1)等が知られている。また、金属製の蒸着マスク(シャドウマスク)も知られている(例えば、特許文献2)。」

カ 甲7に記載の事項
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 開口部が一定間隔で複数個形成されているシャドウマスクにおいて、前記開口部は気化源からの気化物の飛来方向に合わせて主面に対して垂直でない断面形状を有していることを特徴とするシャドウマスク。」

(イ)「【0015】次に、図3に示す真空蒸着装置10内の基板ホルダー14に、透明支持基板1をアノード2を下面にして搭載し、抵抗加熱ボートにN,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(α−ナフチル)−1、1′−ビフェニル−4、4′−ジアミン(以下、α−NPDと記す)を入れ、真空ポンプで真空蒸着装置10内を1×10-4Pa以下程度に排気する。しかる後、正孔輸送層4を蒸着する範囲を四角形にくり抜いた金属製のシャドウマスクを、透明支持基板1のアノード2側に基板に対して固定するように設置し、真空蒸着装置10内にこの基板とシャドウマスク9の下部に配置されているα−NPDの装填された抵抗加熱ボートに電流を流して加熱する。α−NPD層を膜厚約50μmに蒸着して、正孔輸送層4を形成した。」

キ 甲8に記載の事項
(ア)「【請求項1】
成膜材料を蒸着又はスパッタリングによって堆積させることによる成膜プロセスでパターニングに使用されるシャドーマスクであって、
成膜対象物に対向するように配置される第1面と、
前記成膜材料に晒されるように配置される第2面と、
を有し、
前記第1面及び前記第2面は、それぞれ、凹凸を有し、
前記第2面は、前記第1面よりも、粗面化されていることを特徴とするシャドーマスク。」

(イ)「【0002】
近年、有機EL(Electro-luminescent)素子を用いた有機EL表示装置が実用化されており、有機EL素子の有機層やカソード電極を形成する際に、蒸着法が採られる場合があり、前述の有機層やカソード電極を所望の形状に形成するために、多数の微細なスリットを配列して構成されたシャドーマスクが使用されている。表示装置の高精細化、高画質化が進むに従って、当該シャドーマスクの開発も進められている。シャドーマスクは、蒸着マスク、メタルマスクとも呼ばれている。」

ク 甲9に記載の事項
(ア)「【0071】
(金属板の製造方法)
はじめに図9(a)(b)を参照して、金属板の製造方法について説明する。図9(a)は、母材を圧延して、所望の厚さを有する金属板を得る工程を示す図であり、図9(b)は、圧延によって得られた金属板をアニールする工程を示す図である。
【0072】
〔圧延工程〕
はじめに図9(a)に示すように、ニッケルを含む鉄合金から構成された母材55を準備し、この母材55を、一対の圧延ロール56a,56bを含む圧延装置56に向けて、矢印D1で示す搬送方向に沿って搬送する。一対の圧延ロール56a,56bの間に到達した母材55は、一対の圧延ロール56a,56bによって圧延され、この結果、母材55は、その厚みが低減されるとともに、搬送方向に沿って伸ばされる。これによって、厚みt0の板材64Xを得ることができる。図9(a)に示すように、板材64Xをコア61に巻き取ることによって巻き体62を形成してもよい。厚みt0の具体的な値は、好ましくは上述のように5〜85μmの範囲内となっている。
・・・
【0075】
〔アニール工程〕
その後、圧延によって板材64X内に蓄積された残留応力を取り除くため、図9(b)に示すように、アニール装置57を用いて板材64Xをアニールし、これによって長尺金属板64を得る。アニール工程は、図9(b)に示すように、板材64Xや長尺金属板64を搬送方向(長手方向)に引っ張りながら実施されてもよい。すなわち、アニール工程は、いわゆるバッチ式の焼鈍ではなく、搬送しながらの連続焼鈍として実施されてもよい。アニール工程が実施される期間は、長尺金属板64の厚みや圧延率などに応じて適切に設定されるが、例えば500℃で60秒以上にわたってアニール工程が実施される。なお上記「60秒」は、アニール装置57中の500℃に加熱された空間を板材64Xが通過することに要する時間が60秒であることを意味している。
・・・
【0078】
なお、上述の圧延工程、スリット工程およびアニール工程を複数回繰り返すことによって、厚みt0の長尺の金属板64を作製してもよい。」

(2)申立理由2−1(甲2を主引用例とする理由)、申立理由2−3(甲4を主引用例とする理由)、申立理由2−4(甲5を主引用例とする理由)について
ア 本件発明1について
本件発明1は、蒸着マスクを製造するための金属板に関するものであり(【0001】)、蒸着マスクでは、蒸着材料を所望のパターンで精度良く基板に蒸着させるために、蒸着マスクの厚みが小さいことが好ましいが、蒸着マスクの厚みが小さいと、蒸着マスクを構成する金属板の強度が低下し、蒸着マスクの製造工程や蒸着マスクの使用の際に金属板に塑性変形が生じやすくなってしまうという課題があった(【0007】)。
この塑性変形は、特に、金属板の厚みが30μm以下の場合に生じやすく(【0088】)、原因としては、金属板の強度の低下が考えられるのに対し、これを防ぐには、金属板の結晶粒の寸法を小さくすることが考えられる(【0089】)。
そして、30μm以下の厚みを有する金属板の結晶粒の寸法を定量的に把握する手法として、電子線後方散乱回折法(EBSD法)に基づいて結晶粒の平均断面積を算出する方法が、精度などの点で優れているため、本件発明1は、蒸着マスクとして求められる強度の点から、EBSD法に基づいて算出された結晶粒の平均断面積の上限を50μm2とする(【0090】)と共に、溶接性の低下の点から、EBSD法に基づいて算出された結晶粒の平均断面積の下限を0.5μm2とするものである。
一方、甲2には、リードフレーム、シャドウマスク等の電子部品材料として使用するのに適したFe−Ni系合金(上記(1)ア(ア)、(イ))が記載され、圧延、焼鈍後の板材は、圧延方向と厚み方向に平行の断面での結晶粒の平均断面積が200μm2以下であることも記載されている(同(ア)、(エ))。
ここで、甲6〜8の上記(1)オ〜キの記載によれば、表示装置の基板に対し蒸着材料を所望のパターンで精度良く蒸着させるために用いる「蒸着マスク」が「シャドウマスク」とも呼ばれることがあることは理解できる。しかしながら、「シャドウマスク」は、甲2と同様に、「シャドウマスク」との記載のある甲4の同ウ(イ)の【0002】に「テレビやコンピューターのディスプレイにおけるシャドウマスク」、及び甲5の同エ(ア)の【0001】に「カラーテレビのシャドウマスク」、(オ)に「カラーテレビに組み込んで実用に供した場合、色ズレなど起こらず鮮明できめ細かい(高画質の)画像が得られる。」と記載されるように、「CRTディスプレイの表示面の後ろにある、蛍光体に電子ビームを照射するための金属板」を意味する方が一般的であり、甲2における「シャドウマスク」も、リードフレームと並列的に記載され、電子部品材料とされていることから、甲4及び甲5に記載の「シャドウマスク」と同様に、カラーテレビ等に組み込まれるものであるといえる。
そうすると、甲2に記載される「シャドウマスク」に関する事項は、本件発明1の「蒸着マスク」とは、別異な技術分野における事項であり、甲2に記載される「シャドウマスク」を、本件発明1の「蒸着マスク」とする何の動機付けもない。
また、上述のように、甲4及び甲5に記載の「シャドウマスク」も、蒸着マスクとは、別異な技術分野に係るものであるから、甲4及び甲5に記載される「シャドウマスク」を、本件発明1の「蒸着マスク」とする何の動機付けもない。
以上のとおり、甲6〜8に記載の事項を考慮したとしても、甲2、4及び5の「シャドウマスク」を、本件発明1の「蒸着マスク」とすることは当業者が容易に想到し得ることとはいえないから、本件発明1は、甲2、4、5に記載された発明及び甲6〜8に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2〜10について
本件発明1を少なくとも引用する本件発明2〜4、10、「蒸着マスク」の発明である本件発明5、本件発明5を少なくとも引用する本件発明6〜9は、いずれも、蒸着マスクを発明特定事項に含むものであるから、上記アで述べたのと同様に、本件発明2〜10は、甲2、4、5に記載された発明及び甲6〜8に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明11について
「金属板の製造方法」である本件発明11は、蒸着マスクを発明特定事項に含むものであると共に、本件発明11に対して追加で引用された甲9も、甲2の「シャドウマスク」を「蒸着マスク」にすることができるか否かに関係するものではないから、本件発明11は、上記アで述べたのと同様に、甲2に記載された発明及び甲6〜9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 申立理由2−1、申立理由2−3及び申立理由2−4に関するまとめ
上記ア〜ウによれば、申立理由2−1、申立理由2−3及び申立理由2−4には、理由がない。

(3)申立理由2−2(甲3を主引用例とする理由)について
ア 甲3に記載された発明
甲3の上記(1)イ(ア)の【請求項1】には、「NiとCoとを合計で30〜45質量%、Coを0〜6質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe−Ni系合金であり、圧延面の結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折強度を、それぞれ、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)としたとき、以下の関係を満たすことを特徴とする、メタルマスク材料。
式1:I(200)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦40%
式2:I(311)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦25%
式3:{I(220)+I(200)}/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦90%」が記載されている。
そして、甲3の同(イ)の【0014】の「本発明のメタルマスク材料の厚みは、例えば、0.02〜0.10mm、より好ましくは、0.025〜0.08mmとすることができる。」との記載によれば、上記メタルマスク材料の厚みは、0.02〜0.10mmであることが理解できるから、甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

「NiとCoとを合計で30〜45質量%、Coを0〜6質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe−Ni系合金であり、圧延面の結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折強度を、それぞれ、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)としたとき、以下の関係を満たし、厚みが、0.02〜0.10mmである、メタルマスク材料。
式1:I(200)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦40%
式2:I(311)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦25%
式3:{I(220)+I(200)}/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦90%」

イ 本件発明1について
(ア)対比
甲3の上記(1)イ(イ)の【0002】の「有機ELディスプレイの製造では、一定寸法の開孔を複数設けたメタルマスクを基板上にセットし、蒸着により有機材料を基板の所定位置に成形するカラーパターニング工程がある。」との記載によれば、甲3発明の「メタルマスク」は、蒸着の際のカラーパターニングのマスクとして用いられるものであるから、本件発明1の「蒸着マスク」に相当する。
また、甲3発明の「NiとCoとを合計で30〜45質量%、Coを0〜6質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe−Ni系合金であ」る、「メタルマスク材料」は、本件発明1における「蒸着マスクを製造するために用いられる金属板であって」、「少なくともニッケルを含む鉄合金」からなるものである。さらに、甲3発明の「メタルマスク材料」は、「圧延面」を有し、圧延を経て製造されるものであるから、「圧延材」である。
そうすると、本件発明1と甲3発明は、「蒸着マスクを製造するために用いられる金属板であって、前記金属板は、少なくともニッケルを含む鉄合金の圧延材からなる、金属板。」の点で一致し、以下の点で相違しているものと認められる。

<相違点1>
本件発明1では、圧延材の厚みが、「30μm以下」であるのに対し、甲3発明では、「0.02〜0.10mm」である点。
<相違点2>
本件発明1は、「金属板の断面のうち前記金属板の圧延方向に直交する平面に対して−10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であり、 前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される」ものであるのに対し、甲3発明では、この様な構成を有しているのか明らかでない点。

(イ)判断
事案に鑑み、上記相違点2について、検討する。
a 甲3には、上記相違点2に係る本件発明1の構成は何ら記載されていない。
b 甲3の上記上記(1)イ(ウ)の【0015】の「最終再結晶焼鈍前の冷間圧延加工度を35〜85%とし、最終再結晶焼鈍にてJIS G 0551に規定する結晶粒度番号が7.0以上となるように焼鈍し、さらに最終冷間圧延の加工度を35〜85%とする。最終再結晶焼鈍後の結晶粒度番号を7.0以上とするためには、最終再結晶焼鈍時の温度と時間を制御すれば良い。」との記載によれば、甲3発明の「メタルマスク材料」は、少なくとも、最終再結晶焼鈍前に冷間圧延加工、最終再結晶焼鈍、その後、加工度35〜85%の最終冷間圧延の工程を経るものであるところ、最終再結晶焼鈍の状態で、JIS G 0551に規定する結晶粒度番号が7.0以上となっているものである。そして、甲3の同(エ)の【0021】【表1】の記載によれば、最終再結晶焼鈍の結晶粒径において、7.0、7.5、9.0及び12.0の例も認められる。ここで、メタルマスク材料は、最終冷間圧延を経ることにより、結晶粒の断面積が変化するといえるが、甲3では、最終冷間圧延後のメタルマスク材料、すなわち甲3発明におけるメタルマスク材料における結晶粒の断面積がどの程度であるのかは不明である。また、結晶粒の断面積はその断面の選択により、断面積の値が大きく変化するところ、結晶粒の断面積の取り方を含め、JIS G 0551に規定する結晶粒度番号における数値が、本件発明1のEBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される結晶粒の平均断面積においてどの程度の数値になるのかも不明であるから、甲3発明は、上記相違点2における本件発明1の結晶粒の平均断面積を有するものとすることはできない。
さらに、甲3発明は、甲3発明で特定されるメタルマスク材料に対応する最終冷間圧延後のメタルマスク材料に対して結晶粒度番号を特定するものではなく、甲3発明のメタルマスク材料に対して結晶粒の大きさを所定の範囲としようとするものではないから、甲3発明には、メタルマスク材料を、上記相違点2における本件発明1の結晶粒の平均断面積を有するものとする動機付けはない。
c 異議申立人は、上記相違点2について、異議申立書40頁15行〜41頁13行で、以下のとおり主張する。
「JIS G 0551における単位面積(1mm2)当たりの結晶粒の数mと、結晶粒度番号Gmとの間には、m=2(Gm+3)の関係がある。したがって、結晶粒度番号で7.0以上は、結晶粒の断面積がおよそ977μm2以下に相当する。甲3号証には、最終再結晶焼鈍の結晶粒粒度番号が12.0の例が示されている(段落0021、表1、実施例3)。これは、およそ31μm2の結晶粒の断面積に相当する。
結晶粒の観察方向について、金属に圧延を施すと、一般に、金属結晶は展伸され、圧延方向に長い形状となる。したがって、同じ金属結晶を、圧延方向に直交する平面に対して−10°以上+10°以下の角度を成す断面で観察した場合と、圧延方向に平行な断面で観察した場合では、圧延方向に平行な断面で観察した場合のほうが結晶粒の断面積は大きく測定される。したがって、甲3発明の最終冷間圧延の前の結晶粒の断面積は、本件発明の測定方法を用いた場合31μm2以下となり、本件発明の金属板と同程度である。
さらに、甲3号証に記載の発明では、最終再結晶焼鈍の後に、最終冷間圧延が施される。冷間圧延が施されれば、結晶粒の断面積は小さくなるので、最終冷間圧延が施された後の甲3発明の結晶粒の断面積は、本件発明の測定方法を用いた場合31μm2未満となる。
仮に甲3号証における結晶粒の最終冷間圧延が施された後の断面積31μm2未満が、0.5μm2未満の本件発明における結晶粒の断面積に相当し、すなわち、1/62未満の値に相当し、本件発明の範囲外となるのであれば、甲3号証の実施例1、実施例2の結晶粒度番号9.0、7.0は、それぞれ、244μm2、977μm2に相当するから、この例の結晶粒の断面積は本件発明の範囲内であると考えられる。なお、甲3号証の圧下率を考慮すると、最終再結晶焼鈍の後に、さらに最終冷間圧延が施されることを考慮しても、甲3号証における結晶粒の断面積31μm2が、0.5μm2未満の本件発明における結晶粒の断面積に相当するということは、一般的には考えられない。」
しかしながら、最終再結晶焼鈍の結晶粒粒度番号が12.0の場合が、およそ31μm2の結晶粒の断面積に相当するとしても、上記bで述べたように、甲3発明で特定されるメタルマスク材料に対応する最終冷間圧延後のメタルマスク材料において、本件発明1の、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される結晶粒の平均断面積とした場合に、どの程度の値になるのかが具体的に示されておらず、上記の異議申立書に記載の内容を考慮したとしても、甲3発明は、上記相違点2に係る本件発明1の結晶粒の平均断面積を有するものとすることはできないし、甲3発明には、メタルマスク材料を、上記相違点2に係る本件発明1の結晶粒の平均断面積を有するものとする動機付けもない。
さらには、上記(2)アで述べたように、本件発明1は、蒸着マスクの厚みを小さくした際(具体的には厚みが30μm以下)の、蒸着マスクを構成する金属板の強度が低下に対応するため、金属板の結晶粒の寸法を小さくしているものであるから、結晶粒の寸法と蒸着マスクの厚みの関係が重要であるところ、甲3に記載される最終再結晶焼鈍の結晶粒粒度番号が12.0の場合(甲3の上記(1)イ(エ)の【0021】【表1】の実施例3)の箔厚(メタルマスク材料の厚み)は、0.10mmであり、30μmを大きく超えるものであるから、単純に、最終再結晶焼鈍の結晶粒粒度番号の点のみ実施例3より切り出し、甲3発明に適用することができるとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明2〜11
本件発明1を少なくとも引用する本件発明2〜4、10、「蒸着マスク」の発明である本件発明5、本件発明5を少なくとも引用する本件発明6〜9、及び「金属板の製造方法」の発明である本件発明11は、いずれも、上記イで述べた相違点2に係る本件発明1の構成を発明特定事項に含むものであるから、上記イで述べたのと同様に、本件発明2〜11は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 申立理由2−2に関するまとめ
上記ア〜ウによれば、申立理由2−2には、理由がない。

(4)申立理由3(特許法第36条第6項第1号所定の規定違反)について
申立理由3は、要は、以下のものである。
本件発明の課題を解決するために、本件発明1の金属板は、「前記金属板の断面のうち前記金属板の圧延方向に直交する平面に対して−10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であり」との構成を備えるところ、この構成を得るために、アニール工程の温度や時間は重要な要件であると理解されるが、【0148】〜【0171】に記載された実施例において、金属板の厚みや圧下率については記載があるものの、アニールに関しては、温度、時間のみならず、アニール工程そのものが行われたのか否かについても開示されていない。ここで、【0077】には、「アニール工程の条件は、金属板64の厚みや圧下率などに応じて適切に設定されるが、例えば、500℃以上600℃以下の範囲内で30秒以上90秒以下にわたってアニール工程が実施される。」との記載があるが、本件明細書の記載を見ても、本件発明1及び本件発明5における金属板の厚みや、訂正前の請求項11に係る発明における圧下率において、500℃以上600℃以下の範囲内で30秒以上90秒以下のアニール工程が行われた場合に、どのような結晶粒が得られるのか理解できない。
そうすると、課題を解決するために必要な上記の構成をどのようにして得るのか理解できないから、本件発明1、5、これらの発明を引用する本件発明2〜4、6〜10、及び訂正前の請求項11に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により、発明の課題を解決できると当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、サポート要件を満たしていない。
上記理由について検討するに、本件発明は、本件明細書の記載によれば、本件発明11で特定されたように、「結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であるか否かを検査する検査工程」(【0087】等)を含むものであると共に、結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下である条件を満足する金属板を選別する選別工程(【0106】等)を有するものであるから、【0148】〜【0171】に記載された実施例において、アニールにおける温度及び時間の条件が記載されていないとしても、本件発明1の結晶粒の断面積における上記の構成を得られることが、本件明細書の記載から理解できる。
さらには、本件明細書の【0077】に「アニール工程の条件は、金属板64の厚みや圧下率などに応じて適切に設定されるが、例えば、500℃以上600℃以下の範囲内で30秒以上90秒以下にわたってアニール工程が実施される。」と記載されるように、アニール工程の条件について、条件設定の手がかりとなる記載があると共に、同【0110】に「結晶粒の平均断面積に基づく金属板64の検査は、圧延工程の条件やアニール工程の条件などの、金属板64を製造するための条件を最適化するために利用されてもよい。具体的には、まず、様々な圧延条件やアニール条件で金属板64を製造し、得られた金属板64の結晶粒の平均断面積を算出する。また、圧延条件及びアニール条件と、得られた金属板64の結晶粒の平均断面積とを照らし合わせる。これによって、結晶粒の平均断面積が0.5μm2以上且つ50μm2以下である金属板64を高い確率で製造するための圧延条件及びアニール条件などを見出すことができる。」と記載されているように、当業者であれば、検査工程における結果を基に、アニール工程の条件を適宜最適化することができるといえるから、この点でも、本件発明1の結晶粒の断面積における上記の構成を得られることが、本件明細書の記載から理解できる。
そうすると、申立理由3により、本件発明1、5、これらの発明を引用する本件発明2〜4、6〜10、及び本件発明11は、発明の詳細な説明の記載により、発明の課題を解決できると当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、サポート要件を満たしていないとすることはできないから、申立理由3には、理由がない。

第6 むすび

上記第5で検討したとおり、本件特許1〜11は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条の2及び同法第29条のいずれの規定に違反してされたものであるともいうことはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由及び申立理由では、本件特許1〜11を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1〜11を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着マスクを製造するために用いられる金属板であって、
前記金属板は、少なくともニッケルを含む鉄合金の圧延材からなり、且つ30μm以下の厚みを有し、
前記金属板の断面のうち前記金属板の圧延方向に直交する平面に対して−10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であり、
前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される、金属板。
【請求項2】
前記圧延材におけるニッケル及びコバルトの含有量が合計で30質量%以上且つ38質量%以下である、請求項1に記載の金属板。
【請求項3】
前記結晶粒の平均断面積が、2.0μm2以上である、請求項1又は2に記載の金属板。
【請求項4】
前記金属板は、13μm以上の厚みを有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の金属板。
【請求項5】
蒸着マスクであって、
金属板と、
金属板に形成された貫通孔と、を備え、
前記金属板は、少なくともニッケルを含む鉄合金の圧延材からなり、且つ30μm以下の厚みを有し、
前記金属板の断面のうち前記金属板の圧延方向に直交する平面に対して−10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であり、
前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される、蒸着マスク。
【請求項6】
前記圧延材におけるニッケル及びコバルトの含有量が合計で30質量%以上且つ38質量%以下である、請求項5に記載の蒸着マスク。
【請求項7】
前記結晶粒の平均断面積が、2.0μm2以上である、請求項5又は6に記載の蒸着マスク。
【請求項8】
前記金属板は、13μm以上の厚みを有する、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の蒸着マスク。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれか一項に記載の蒸着マスクと、
前記蒸着マスクが溶接されたフレームと、を備える、蒸着マスク装置。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の金属板を準備する工程と、
前記金属板を長手方向に沿って搬送する工程と、
前記金属板に貫通孔を形成する加工工程と、を備える、蒸着マスクの製造方法。
【請求項11】
蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法であって、
少なくともニッケルを含む鉄合金からなり、且つ30μm以下の厚みを有する前記金属板を、圧延法によって圧延材として得る作製工程を備え、
前記作製工程は、70%以上95%以下の圧下率で前記金属板を圧延する圧延工程と、前記圧延工程によって得られた前記金属板を搬送しながら500℃〜600℃の範囲内で30秒〜90秒にわたってアニールするアニール工程と、を含み、
前記金属板の断面のうち圧延材の圧延方向に直交する平面に対して−10°以上+10°以下の角度を成す断面に現れる結晶粒をEBSD法で測定し、測定結果を解析することにより算出される、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であり、
前記平均断面積は、EBSD法によって得られた測定結果を、結晶方位の差が5度以上の部分を結晶粒界と認定する条件下でエリア法により解析することによって算出される、金属板の製造方法であり、
前記製造方法は、前記結晶粒の平均断面積が、0.5μm2以上且つ50μm2以下であるか否かを検査する検査工程を含み、
前記圧延工程における圧延条件及び前記アニール工程におけるアニール条件が、前記検査工程の結果に基づいて設定される、金属板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-15 
出願番号 P2019-090946
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (C25D)
P 1 651・ 121- YAA (C25D)
P 1 651・ 537- YAA (C25D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 原 賢一
後藤 政博
登録日 2020-11-11 
登録番号 6792829
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 蒸着マスクを製造するための金属板及び金属板の製造方法並びに蒸着マスク、蒸着マスクの製造方法及び蒸着マスクを備える蒸着マスク装置  
代理人 中村 行孝  
代理人 中村 行孝  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 柏 延之  
代理人 宮嶋 学  
代理人 高田 泰彦  
代理人 柏 延之  
代理人 高田 泰彦  
代理人 岡村 和郎  
代理人 岡村 和郎  
代理人 宮嶋 学  
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