• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1385182
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-14 
確定日 2022-03-24 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6799829号発明「非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、及び非水電解質二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6799829号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5〕について訂正することを認める。 特許第6799829号の請求項2〜5に係る特許を維持する。 特許第6799829号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6799829号の請求項1〜5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2017年(平成29年)1月26日(優先権主張 平成28年3月30日)を国際出願日とする出願であって、令和2年11月26日にその特許権の設定登録がなされ、同年12月16日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、令和3年6月14日に特許異議申立人金澤毅(以下、「申立人」という。)より、その請求項1〜5(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議の申立事件であって、同年9月27日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年11月26日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)がなされ、その後、令和4年1月13日に、申立人から意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。


第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6799829号の特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜5について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、訂正箇所には、当審で下線を付した。

(1)訂正事項1
請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
請求項2について、本件訂正前の「前記リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している、請求項1に記載の正極活物質。」との記載を、
「リチウム遷移金属酸化物粒子と、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物と、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物と、
を有し、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子は、組成式LiaNixM*(1-x)O2(0.95≦a≦1.2、0.85≦x<1.0、M*はCo、Alを少なくとも含む)で表される酸化物を主成分として構成され、
前記リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している、非水電解質二次電池用正極活物質。」と訂正する。
請求項2を引用する請求項3についても、同様に訂正する。

(3)訂正事項3
請求項3について、本件訂正前の「請求項1又は2に記載の正極活物質を含む正極と、」を「請求項2に記載の正極活物質を含む正極と、」と訂正する。

(4)訂正事項4
請求項4について、本件訂正前の
「リチウム化合物と遷移金属酸化物を混合して焼成し、リチウム遷移金属酸化物粒子を合成する工程と、
未洗浄の前記リチウム遷移金属酸化物粒子とタングステン(W)を含む金属酸化物を混合して、前記焼成の温度よりも低い温度で熱処理する工程と、
を含み、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子は、組成式LiaNixM*(1-x)O2(0.95≦a≦1.2、0.85≦x<1.0、M*はCo、Alを少なくとも含む)で表される酸化物を主成分として構成される、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」との記載を、
「リチウム化合物と遷移金属酸化物を混合して焼成し、リチウム遷移金属酸化物粒子を合成する工程と、
未洗浄の前記リチウム遷移金属酸化物粒子と、タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物を混合して、前記焼成の温度よりも低い温度であって、前記金属酸化物と、前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰Li化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成する温度で熱処理することで、前記金属酸化物と前記リチウム金属酸化物を前記リチウム遷移金属酸化物の表面に付着させる工程と、
を含み、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子は、組成式LiaNixM*(1-x)O2(0.95≦a≦1.2、0.85≦x<1.0、M*はCo、Alを少なくとも含む)で表される酸化物を主成分として構成され、
前記リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」と訂正する。
請求項4を引用する請求項5についても、同様に訂正する。

2 本件訂正請求についての当審の判断
2−1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
訂正事項1
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載された事項の範囲内の訂正である。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、本件訂正前に請求項1を引用していた請求項2について、請求項1の発明特定事項を繰り入れて独立請求項とするとともに、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)【0027】、【0029】、【0030】の記載を根拠として、訂正前の請求項1の発明特定事項である「タングステン(W)を含む金属酸化物」について、「リチウム(Li)を含まない」ことを特定するものである。
したがって、訂正事項2は、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正事項1において訂正前の請求項1を削除することに伴い、本件訂正前の請求項3について、引用する請求項を「請求項1又は2」から請求項1を省き「請求項2」に変更するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項4について、本件明細書【0027】、【0029】、【0030】の記載を根拠として、訂正前の発明特定事項である「タングステン(W)を含む金属酸化物」について、「リチウム(Li)を含まない」ことを特定(以下、「訂正事項4−1」という。)し、また、本件明細書【0037】、【0040】の記載を根拠として、訂正前の発明特定事項である「熱処理工程」の「温度」について、「金属酸化物と、前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰Li化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成する温度」であることを特定(以下、「訂正事項4−2」という。)し、さらに、本件明細書【0037】、【0040】の記載を根拠として、訂正前の発明特定事項である「熱処理工程」について、「熱処理することで、前記金属酸化物と前記リチウム金属酸化物を前記リチウム遷移金属酸化物の表面に付着させる工程」とする(以下、「訂正事項4−3」という。)とともに、本件訂正前の請求項2の発明特定事項である「リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」ことを特定(以下、「訂正事項4−4」という。)するものである。
そして、訂正事項4−1〜訂正事項4−4は、いずれも「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。

2−2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2、3は、請求項1を引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるし、本件訂正前の請求項5は、請求項4を引用するものであって、請求項4の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1〜3及び請求項4、5は、それぞれ一群の請求項である。
そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めがないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1〜3〕、〔4、5〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2−3 独立特許要件について
本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、令和3年11月26日に特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜3〕、〔4、5〕についての訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
令和3年11月26日に特許権者が行った請求項1〜5についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜5に係る発明(以下、請求項1〜5に係る発明を、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明5」という。また、請求項1〜5に係る発明をまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
リチウム遷移金属酸化物粒子と、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物と、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物と、
を有し、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子は、組成式LiaNixM*(1-x)O2(0.95≦a≦1.2、0.85≦x<1.0、M*はCo、Alを少なくとも含む)で表される酸化物を主成分として構成され、
前記リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項2に記載の正極活物質を含む正極と、
負極と、
非水電解質と、
を備えた、非水電解質二次電池。
【請求項4】
リチウム化合物と遷移金属酸化物を混合して焼成し、リチウム遷移金属酸化物粒子を合成する工程と、
未洗浄の前記リチウム遷移金属酸化物粒子と、タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物を混合して、前記焼成の温度よりも低い温度であって、前記金属酸化物と、前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰Li化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成する温度で熱処理することで、前記金属酸化物と前記リチウム金属酸化物を前記リチウム遷移金属酸化物の表面に付着させる工程と、
を含み、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子は、組成式LiaNixM*(1-x)O2(0.95≦a≦1.2、0.85≦x<1.0、M*はCo、Alを少なくとも含む)で表される酸化物を主成分として構成され、
前記リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理の温度は、200〜700℃である、請求項4に記載の製造方法。」

2 令和3年9月27日付けで通知された取消理由の概要
令和3年9月27日付けで通知された取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項について
本件特許の請求項1、3〜5に係る発明は、下記の甲1に記載された発明であるため、特許法第29条第1項第3号に規定する要件を満たしておらず、また、本件特許の請求項1〜5に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるため、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていないから、請求項1〜5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(特許異議申立書(以下、「申立書」という。)第37頁第23行〜第46頁第19行)。

甲1:国際公開第2016/017092号(申立人が提出した甲第1号証:以下、「甲1」という。)

(2)特許法第29条の2について
本件特許の請求項1〜5に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、本件特許の出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開された下記の甲2に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2に規定する要件を満たしていないから、請求項1〜5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立書第46頁第20行〜第55頁第6行)。

甲2に係る特許出願:特願2016−13816号(特開2017−134996号公報(申立人が提出した甲第2号証:以下、「甲2」という。)参照。)

(3)特許法第36条第6項第1号について
本件特許の請求項4、5に係る発明は、熱処理する工程の温度について、金属酸化物と余剰リチウムが反応してリチウム金属酸化物を生成する温度であるとは必ずしもいえず、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項4、5に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立書第66頁第18行〜第68頁第11行の一部)。

3 上記2以外の異議申立理由の概要
申立人は、上記2で示した取消理由以外に、次の証拠方法(上記2で示した甲1,甲2を除く)で、下記(1)〜(3)の特許異議申立て理由を主張している。
(証拠方法)
甲第3号証:特開2016−110999号公報(以下、「甲3」という。)
甲第4号証:特開2006−286614号公報(以下、「甲4」という。)
甲第5号証:国際公開第2012/131779号(以下、「甲5」という。)

(1)特許法第29条の2について
本件特許の請求項1〜5に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、本件特許の出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開された甲3に係る特許出願(特願2015−212398号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2に規定する要件を満たしていないから、請求項1〜5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立書第55頁第7行〜第61頁第15行)。

(2)特許法第36条第6項第1号について
ア 本件特許の請求項1〜3に係る発明は、リチウム遷移金属酸化物粒子の組成が課題を解決するものとはいえないため、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1〜3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立書第61頁第18行〜第63頁第16行)。

イ 本件特許の請求項1〜3に係る発明は、金属酸化物と余剰リチウムとの反応性が低い場合は課題を解決し得ないため、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1〜3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立書第63頁第17行〜第65頁第3行)。

ウ 本件特許の請求項1〜5に係る発明は、金属酸化物が酸化タングステンであることが特定されておらず課題を解決し得ないため、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1〜5に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立書第65頁第4行〜第66頁第17行)。

エ 本件特許の請求項4、5に係る発明は、金属酸化物の添加量が極微量の場合課題を解決し得ないため、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項4、5に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立書第66頁第18行〜第68頁第11行の一部)。

オ 本件特許の請求項4、5に係る発明は、リチウム遷移金属酸化物粒子の組成、及び、余剰Liの量が特定されておらず、課題を解決するものとはいえないため、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項4、5に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立書第68頁第12行〜第71頁第10行)。

(3)特許法第36条第6項第2号について
ア 請求項1の「リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した」とは、どの程度の接着力をもって付着、接着しているのかが明らかではないから、本件特許の請求項1〜3に係る発明は、明確とはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、請求項1〜3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立書第71頁第12行〜第73頁第6行、第73頁第14〜15行)。

イ 請求項2の「リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」とは、何を基準として「多い」のかが明らかではないし、その量をどのように評価するのかが明らかではないから、本件特許の請求項2、3に係る発明は、明確とはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、請求項2、3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立書第73頁第7〜13行、第73頁第16行〜最終行)。

4 本件明細書の記載
(1)本件明細書の記載事項
本件明細書には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、及び非水電解質二次電池に関する。」

「【発明の概要】
【0005】
ところで、リチウム遷移金属酸化物粒子(焼成物)の洗浄を省略できれば、濾過、乾燥工程も不要となり、正極活物質の製造コストの低減、環境負荷の低減等を図ることができる。本開示の目的は、リチウム遷移金属酸化物粒子を洗浄しなくても、電池の充電保存時等におけるガス発生量を抑制できる正極活物質を提供することである。なお、特許文献1の正極活物質は、洗浄工程を経ているにも関わらず、これを使用した電池では充電保存時のガス発生量が多い。」

「【0013】
未洗浄粒子の表面に特定の金属元素を含む化合物を付着させた本開示に係る正極活物質では、未洗浄粒子の表面に存在する余剰のリチウムが当該化合物と反応してリチウム金属化合物となり、ガス発生の原因となる余剰リチウムの量が大幅に減少する。このため、リチウム遷移金属酸化物粒子を洗浄しなくても、充電保存時等におけるガス発生量が少ない非水電解質二次電池を提供することができる。」

「【0027】
金属化合物M1は、上述の通り、金属元素Mを含む化合物であって、リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着している。なお、金属化合物M1の一部がリチウム遷移金属酸化物粒子の表面から脱落し、正極合材層中に存在していてもよい。金属化合物M1を未洗浄のリチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着させることによって、電池の充電保存時等におけるガス発生の原因となる余剰のLiを無害化することができる。金属化合物M1は、リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に存在するLiと反応してリチウム金属化合物M2に変化する。即ち、金属化合物M1が存在するということは、リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に余剰のLiが殆ど残っていないといえる。」

「【0029】
金属化合物M1に含まれる金属元素Mは、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、ガリウム(Ga)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、タングステン(W)、及びビスマス(Bi)から選択される少なくとも1種である。金属元素Mがこれらの少なくとも1種である場合にのみ、容量低下等の不具合を招くことなく、充電保存時等におけるガス発生を抑えることができる。中でも、金属元素Mは、Al、Ga、Sn、及びWからなる群、Al,Ga、及びSnからなる群、又は、Al、及びGaからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0030】
金属化合物M1の具体例としては、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化スズ、酸化タングステン等の金属元素M1の酸化物、窒化アルミニウム、窒化ガリウム等の金属元素M1の窒化物、水酸化アルミニウム、水酸化ガリウム等の金属元素M1の水酸化物などが挙げられる。金属化合物M1としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよいが、1種類以上の酸化物を用いることが好ましい。」

「【0035】
リチウム金属化合物M2は、金属化合物M1よりもリチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している。正極活物質におけるリチウム金属化合物M2の含有量は、正極活物質量に対して、例えば0.2〜4モル%である。」

「【0037】
上述の正極活物質は、例えば、リチウム化合物と遷移金属酸化物を混合して焼成し、リチウム遷移金属酸化物粒子を合成する工程(以下、「工程(1)」という)と、未洗浄のリチウム遷移金属酸化物粒子と金属化合物M1を混合して、工程(1)の焼成温度よりも低い温度で熱処理する工程(以下、「工程(2)」という)とを含む製造工程によって得られる。未洗浄のリチウム遷移金属酸化物粒子(未洗浄粒子)の表面には余剰のLi化合物が存在するが、金属化合物M1を添加して熱処理することにより、金属化合物M1と余剰Li化合物が反応してリチウム金属化合物M2を生成し、ガス発生の原因となる余剰Li化合物が大幅に減少する。本製造工程によれば、リチウム遷移金属酸化物粒子の洗浄が不要であり、水洗工程に続く濾過、乾燥工程も不要である。したがって、正極活物質の製造コストの低減、環境負荷の低減等を図ることができる。
【0038】
工程(1)で使用されるリチウム化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウムなどが例示できる。遷移金属酸化物としては、Ni、Co、Mn、及びAlから選択される少なくとも1種を含む複合酸化物(例えば、ニッケルコバルトアルミニウム酸化物、ニッケルコバルトマンガン酸化物)などが例示できる。上述のように、焼成時にLiの一部が揮発して失われるため、目的とする生成物の化学両論比よりも過剰のLi(リチウム化合物)が使用される。このため、焼成物(リチウム遷移金属酸化物粒子)の粒子表面には余剰のLiが存在している。」

「【0040】
工程(2)では、工程(1)で得られたリチウム遷移金属酸化物粒子を未洗浄の状態で使用する。未洗浄粒子に対して、例えば20〜600μmol/gの割合で金属化合物M1を混合し、未洗浄粒子の表面に金属化合物M1の微粒子を付着させる。そして、当該混合物を熱処理することにより、未洗浄粒子の表面に存在するLiと金属化合物M1が反応してリチウム金属化合物M2が生成する。これにより、リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に、金属化合物M1とリチウム金属化合物M2の微粒子が付着した正極活物質が得られる。」

「【0042】
工程(2)における熱処理温度は、工程(1)の焼成温度より低く、好ましくは200〜700℃、より好ましくは300〜500℃である。熱処理温度が当該範囲内であれば、金属化合物M1と余剰のLiとの十分な反応性を確保しながら、金属化合物M1とリチウム遷移金属酸化物の結晶中のLiとの反応を抑えることができる。」

「【0054】
<実施例1>
[正極活物質の作製]
LiNi0.91Co0.06Al0.03O2で表されるニッケルコバルトアルミニウム酸化物と水酸化リチウム(LiOH)を、モル比が1:1.03となるように混合し、当該混合物を酸素気流中745℃で20時間焼成した。未洗浄の焼成物に対し、焼成物1g当り161μmolの割合で酸化タングステン(WO3)を添加して混合した後、酸素気流中400℃で3時間熱処理して正極活物質を得た。
【0055】
[正極の作製]
上記正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンを、100:1.25:1の質量比で混合し、N−メチル−2ピロリドン(NMP)を適量添加して粘度調整し、正極合材スラリーを調製した。次に、当該正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の片面に塗布し、80℃のホットプレート上で塗膜を乾燥させた。塗膜(正極合材層)の密度が3g/ccとなるように、塗膜が形成された集電体をローラーを用いて圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、正極集電体の両面に正極合材層が形成された正極板を作製した。
【0056】
[負極の作製]
黒鉛粉末と、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロースを、100:1:1の質量比で混合し、水を適量添加して粘度調整し、負極合材スラリーを調製した。次に、当該負極合材スラリーを銅箔からなる負極集電体の片面に塗布し、80℃のホットプレート上で塗膜を乾燥させた。塗膜が形成された集電体をローラーを用いて圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、負極集電体の両面に負極合材層が形成された負極板を作製した。
【0057】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)を、3:7の体積比で混合した。当該混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1mol/Lの濃度で溶解させて非水電解質を調製した。
【0058】
[電池の作製]
アルミニウム製リードを取り付けた上記正極板と、ニッケル製リードを取り付けた上記負極板を、ポリエチレン製のセパレータを介して渦巻状に巻回し、巻回型の電極体を作製した。当該電極体をアルミニウムラミネートシートで構成される外装体内に挿入し、真空中105℃で2時間乾燥した後、外装体内に上記非水電解質を注入した。電極体及び非水電解質が収容された外装体を封止して、電池A1を作製した。
【0059】
電池A1について、充放電試験及び保存試験を行い、評価結果をそれぞれ表1,2に示した(以降の実施例・比較例についても同様)。
【0060】
[充放電試験]
0.1Cで4.2Vまで定電流充電した後、電流値が0.01C相当になるまで4.2Vで定電圧充電して充電を完了した。10分間休止後、0.1Cで2.5Vになるまで定電流放電した。5分間休止後、0.05Cで2.5Vになるまで定電流放電した。さらに5分間休止後、0.01Cで2.5Vになるまで定電流放電して放電を完了した。サイクル間の休止時間は10分間とした。
【0061】
[保存試験]
上記充放電を2サイクル行った後、充電のみを1サイクル分実施した電池A1の体積を浮力法(アルキメデス法)で測定した。その後、85℃の恒温槽で3時間の保存試験を実施した。保存試験後の電池A1を室温まで降温した後、再度浮力法にて体積を測定した。保存試験前の体積と保存試験後の体積の差をガス発生量とし、正極活物質1g当りで規格化した。」

「【0067】
【表1】



(2)本件明細書【0054】の記載事項の検討
ア 本件明細書【0054】には、「LiNi0.91Co0.06Al0.03O2で表されるニッケルコバルトアルミニウム酸化物と水酸化リチウム(LiOH)を、モル比が1:1.03となるように混合し、当該混合物を酸素気流中745℃で20時間焼成した」と記載されている。

イ ここで、上記アの記載は、同一物質であるにも関わらず、「LiNi0.91Co0.06Al0.03O2」の表記には「Li」が含まれているものの、「ニッケルコバルトアルミニウム酸化物」の表記には「リチウム」が含まれていない。

ウ 一方、本件明細書には、「リチウム化合物と遷移金属酸化物を混合して焼成し、リチウム遷移金属酸化物粒子を合成する工程(以下、「工程(1)」という)」(【0037】)、及び、「工程(1)で使用されるリチウム化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウムなどが例示できる。遷移金属酸化物としては、Ni、Co、Mn、及びAlから選択される少なくとも1種を含む複合酸化物(例えば、ニッケルコバルトアルミニウム酸化物、ニッケルコバルトマンガン酸化物)などが例示できる」(【0038】)と記載されている。

エ そうすると、上記ウの記載に照らせば、上記アの「LiNi0.91Co0.06Al0.03O2で表されるニッケルコバルトアルミニウム酸化物」は上記ウの「遷移金属酸化物」に相当し、上記アの「水酸化リチウム(LiOH)」は上記ウの「リチウム化合物」に相当する。

オ しかしながら、上記ウの記載によれば、「遷移金属酸化物としては、Ni、Co、Mn、及びAlから選択される少なくとも1種を含む複合酸化物(例えば、ニッケルコバルトアルミニウム酸化物、ニッケルコバルトマンガン酸化物)などが例示できる」と、リチウムが含まれていないにも関わらず、上記アの「LiNi0.91Co0.06Al0.03O2」の表記には「Li」が含まれており、これらの記載は合致しない。

カ また、リチウム遷移金属酸化物を合成する際に、リチウムを含まない遷移金属酸化物と水酸化リチウム等のリチウム化合物を合成することは、慣用的に広く行われていることである(例えば、甲4の【0045】(後述の5の(4))参照)。

キ そうすると、本件明細書【0054】の「LiNi0.91Co0.06Al0.03O2」は、「Ni0.91Co0.06Al0.03O2」の誤記であると認められる。

ク したがって、以下の検討は、上記キの誤記が存在することを前提に行うこととする。

5 甲号証の記載
(1)甲1の記載
甲1には次の記載がある。
なお、特に断りのない限り、各甲号証に記載された発明の認定に関する箇所には、当審で下線を付した。以下、同じ。
「[0027][正極]
正極は、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とで構成される。正極集電体には、例えば、導電性を有する薄膜体、特にアルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属箔や合金箔、アルミニウムなどの金属表層を有するフィルムが用いられる。正極活物質層は、正極活物質の他に、導電材及び結着剤を含むことが好ましい。
[0028]正極活物質は、リチウムと、金属元素Mとを含むリチウム遷移金属複合酸化物であり、前記金属元素Mは、ニッケル、コバルト、マンガン等を含む群より選択される少なくとも一種からなり、かつ金属元素Mの中でニッケルを主成分として含む。ここで、主成分がニッケルであるとは、リチウムを除く金属元素Mのうち、ニッケルの割合(モル換算)が最も多いことを意味する。
[0029]また、リチウム含有遷移金属複合酸化物は、Mg、Al等の非遷移金属元素を含有するものであってもよい。具体例としては、Ni−Co−Mn、Ni−Mn−Al、Ni−Co−Al等のリチウム含有遷移金属複合酸化物が挙げられる。」

「[0038]リチウム含有遷移金属複合酸化物の一次粒子及び二次粒子の少なくとも一方の表面には、タングステン化合物が付着していることが好ましく、一次粒子と二次粒子の両方の表面に付着していることが好ましい。
[0039]リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面にタングステン化合物が付着していると、非水電解液とNi系正極活物質との接触を防ぎ、副反応によるガス発生が抑制されると考えられる。
[0040]リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面に付着させるタングステン化合物としては、タングステンの酸化物及びタングステンのリチウム複合酸化物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特に、WO3、Li2WO4、WO2等が好ましい。」

「[0043]リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面に、タングステン化合物を付着させる方法としては、例えば、正極合剤スラリー作製時にリチウム含有遷移金属複合酸化物とタングステン化合物を混合する方法や、焼成後のリチウム含有遷移金属複合酸化物に、タングステン化合物を混合した後、熱処理する方法等を挙げることができる。
[0044]なお、焼成後のリチウム含有遷移金属複合酸化物に、タングステン化合物を混合した後、熱処理することで製造した場合は、リチウム含有遷移金属複合酸化物の一次粒子及び二次粒子の両方の表面にタングステン化合物を付着させることができるので、より好ましい。
[0045][非水電解質]
非水電解質は、非水系溶媒と、非水系溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。」

「[0063] 〔第1実験例〕
(実験例1)
[正極の作製]
[正極合剤スラリーの調整]
リチウム含有遷移金属複合酸化物としてのLiNi0.82Co0.15Al0.03O2で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に、酸化タングステン(WO3)を混合した後、200℃で熱処理することにより、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の表面にタングステン化合物が付着した正極活物質を得た。
[0064]次に、得られた正極活物質100質量部に、炭素導電剤としてのカーボンブラック1質量部と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン0.9質量部とを混合し、さらに、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)を適量加えることにより正極合剤スラリーを調製した。
[0065]次に、該正極合剤スラリーを、厚みが15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、乾燥した。これを所定の電極サイズに切り取り、ローラーを用いて合剤密度が3.64g/ccになるように圧延した。その後、正極集電体に正極集電タブを取り付け、正極集電体上に正極合剤層が形成された正極を作製した。
[0066][負極の作製]
負極活物質としての黒鉛粉末100質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部と、結着剤としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部となるように混合し、さらに水を適宜加えた後、負極合剤スラリーを調製した。
[0067]次に、負極合剤スラリーを、厚みが10μmの銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、乾燥した。これを所定の電極サイズに切り取り、ローラーを用いて圧延した。その後、負極集電体に負極集電タブを取り付け、負極集電体上に負極合剤層が形成された負極を作製した。
[0068][電極体の作製]
偏平状の巻回電極体の作製には、上記正極を1枚、上記負極を1枚、ポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを1枚用いた。まず、正極と負極とをセパレータを介して互いに絶縁した状態で対向させた。次に、円柱形の巻き芯を用いて、渦巻き状に巻回した。この際、正極集電タブ及び負極集電タブは、共に電極内においてそれぞれ最外周側に位置するように配置した。その後、巻き芯を引き抜いて巻回電極体を作製した後、押し潰して、偏平状の巻回電極体を得た。この偏平状の巻回電極体は、正極と負極とがセパレータを介して積層された構造を有している。
[0069][非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、20:60:20の体積比で混合した。さらに、電解質としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を、上記混合溶媒に対して1.3モル/リットルの濃度になるように溶解させて、非水電解液を調製した。
[0070][電池の作製]
このようにして調製した非水電解液と上記偏平状の巻回電極体とを、アルゴン雰囲気下のグローブボックス中にて、アルミニウム製のラミネート外装体内に挿入し、図1及び図2に示される構造を有する、非水電解質二次電池10を作製した。ラミネート外装体11の外周縁端部はヒートシール部18により密封した。
[0071]延在部19は、電池の予備充電時に電解液等の分解により発生したガスが充放電に及ぼす影響を最小限に抑制するための予備室である。予備充電後に、ラミネート外装体11をA−A線でヒートシールすることにより密閉した後、延在部19を切断してもよいが、ガス発生量を評価するために本実施例では延在部を残して試験を実施した。
[0072]また、当該非水電解質二次電池は、電池電圧が4.2Vとなるまで充電し、その後2.5Vまで放電したときの電池の設計容量は、814mAhであった。
[0073]このようにして作製した電池を、以下、電池A1と称する。」

「[0107] 〔第3実験例〕
(実験例11)
リチウム含有遷移金属複合酸化物としてのLiNi0.91Co0.06Al0.03O2で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に酸化タングステン(WO3)を混合した後、200℃で熱処理することにより、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の表面にタングステン化合物が付着した正極活物質を得たこと以外は、上記実験例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
[0108]このようにして作製した電池をA7とする。」

「[請求項1]リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と、リチウムイオンを挿入脱離可能な炭素材料を含む負極と、非水電解液とを備えた非水電解質二次電池において、
前記リチウム遷移金属複合酸化物はNiを含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなり、
前記Niが、前記リチウム遷移金属複合酸化物中のリチウムを除く全金属元素におけるモル換算で主成分であり、
前記一次粒子及び前記二次粒子の少なくとも一方の表面にタングステン化合物が付着し、
前記非水電解液が環状カーボネートと鎖状カーボネートからなり、
前記鎖状カーボネートと前記環状カーボネートとの体積比(鎖状カーボネート/環状カーボネート)が3以上、9未満である非水電解質二次電池。」

「[請求項6]前記リチウム遷移金属複合酸化物が、一般式LiaNixCoyAlzO2(0.9≦a≦1.2、0.8≦x<1、0<y<0.20、0<z≦0.05、x+y+z=1)で表されるリチウム含有遷移金属複合酸化物である請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。」

(2)甲2の記載
甲2には次の記載がある。
「【請求項1】
一般式:LizNi1−x−yCoxMyO2(ただし、0.00≦x≦0.35、0.00≦y≦0.35、0.95≦z≦1.20、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される一次粒子及び一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物粒子と、リチウムを含有しないタングステン化合物粉末を混合してリチウムニッケル複合酸化物粒子とタングステン化合物粒子を含むタングステン混合物を得る混合工程と、
前記タングステン混合物を熱処理して一次粒子表面にタングステンを分散させ、一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を設けたリチウムニッケル複合酸化物粒子を形成する熱処理工程を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程における熱処理温度が、100〜600℃であることを特徴とする請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」

「【請求項4】
前記混合工程に用いるリチウムを含有しないタングステン化合物が、酸化タングステン(WO3)またはタングステン酸(WO3・H2O)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記タングステンおよびリチウムを含む化合物が、タングステン酸リチウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」

「【請求項8】
一般式:LizNi1−x−yCoxMyO2(ただし、0.00≦x≦0.35、0.00≦y≦0.35、0.95≦z≦1.20、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される一次粒子および一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物粒子から構成された非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を有し、
前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面に存在する、リチウムを含む全ての化合物に含有されるリチウム量が、正極活物質の全量に対して0.05〜0.35質量%、タングステンおよびリチウムを含む化合物以外のリチウムを含む化合物に含有されるリチウム量が、正極活物質の全量に対して0.05質量%以下、前記リチウムを含む化合物における炭酸リチウムに含まれるリチウム量が、正極活物質の全量に対して0.03質量%以下であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。」

「【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を有することを特徴とする非水系電解質二次電池。」

「【0034】
一般的に、正極活物質の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウムニッケル複合酸化物の持つ高容量という長所が消されてしまう。
対して、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」という。)においては、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面にリチウム(Li)とタングステン(W)を含む化合物(以下、「LiW化合物」ということがある。)を形成させているが、この化合物は、リチウムイオン伝導率が高く、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に上記化合物を形成させることで、電解液との界面でLiの伝導パスを形成することから、正極活物質の反応抵抗(以下、「正極抵抗」ということがある。)を低減して出力特性を向上させるものである。」

「【0045】
また、複合酸化物粒子の一次粒子表面に存在するリチウムニッケル複合酸化物およびLiW化合物以外のリチウムを含む化合物に含有されるリチウム量(以下、「余剰リチウム量」という。)は、正極活物質の全量に対して0.05質量%以下、好ましくは0.03質量%以下である。
【0046】
このように余剰リチウム量を制限することにより、高い充放電容量と出力特性を得るとともにサイクル特性を向上させている。
複合酸化物粒子の二次粒子表面および一次粒子表面には、LiW化合物以外にも水酸化リチウムおよび炭酸リチウムが存在し、これらの余剰リチウム量として存在量を表すことができるリチウムを含む化合物は、リチウムの伝導性が悪く、リチウムニッケル複合酸化物質からのリチウムイオンの移動を阻害している。
【0047】
すなわち、余剰リチウム量を低減することで、LiW化合物によるリチウムイオンの移動促進効果を高め、充放電時のリチウムニッケル複合酸化物への負荷を低減してサイクル特性を向上させることができる。
また、余剰リチウム量を制御することで、複合酸化物粒子間でのリチウムイオンの移動も均一化され、特定の複合酸化物粒子に負荷がかかることが抑制され、サイクル特性を向上させることができる。
余剰リチウムが少なくなり過ぎることは、LiW化合物が形成される際に複合酸化物粒子の結晶中から過剰にリチウムが引き抜かれていることを示している。したがって、電池特性の低下を抑制するため、余剰リチウム量は0.01質量%以上であることが好ましい。」

「【0057】
[混合工程]
混合工程は、母材であるリチウムニッケル複合酸化物粒子にタングステン化合物粉末を混合して、リチウムニッケル複合酸化物粒子とタングステン化合物粒子のタングステン混合物(以下、単に混合物という。)を得る工程である。
複合酸化物粒子にリチウムを含有しないタングステン化合物粉末を混合することで、次の熱処理工程おいて母材の複合酸化物粒子の一次粒子表面に存在するタングステンを含有しないリチウムを含む化合物と前記タングステン化合物粒子を反応させることができる。すなわち、後述するように一次粒子表面に存在するタングステンを含有しないリチウムを含む化合物とリチウムを含有しないタングステン化合物を反応させて一次粒子表面に分散させ、さらに熱を加えることでLiW化合物を一次粒子表面に形成させる。
【0058】
混合前の複合酸化物粒子の水分率は、0.2質量%未満であることが好ましい。これにより、湿潤状態で保管される時間を短くすることが可能であり、複合酸化物粒子からのリチウムの過剰な溶出をさらに抑制することができる。
さらに、混合前の複合酸化物粒子は、焼成した状態のままであることが好ましい。焼成状態の複合酸化物粒子を用いることで、タングステン化合物と反応する十分な量の一次粒子表面に存在するリチウム化合物を確保することができ、タングステン化合物と反応することにより複合酸化物粒子から引き抜かれるリチウムを低減して、一次粒子表面の劣化層の形成を抑制することができる。」

「【0060】
このように、タングステン化合物は、リチウムニッケル複合酸化物表面に存在するリチウム化合物と反応して、余剰リチウムを低減するため、リチウムを含有しないタングステン化合物を用いる。例えば、酸化タングステン、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウムなどリチウムと反応が容易な化合物であることが好ましく、不純物混入の可能性が低い酸化タングステン(WO3)またはタングステン酸(WO3・H2O)がより好ましい。リチウムを含有するタングステン化合物では、一次粒子表面にLiW化合物を形成することはできるが、余剰リチウムを十分に低減することができない。」

「【0064】
ここで、リチウム化合物とタングステン化合物を反応させてタングステンを分散させ、さらに一次粒子表面にLiW化合物を形成させることが重要である。
熱処理工程において、タングステン混合物を加熱することで、二次粒子の表面に残存しているリチウム化合物がタングステン化合物粒子と反応する。一次粒子表面に残存しているリチウム化合物中には水酸化リチウムが含まれるため、タングステン化合物と反応する際に水が生成され、生成した水とともにタングステンとリチウムが、少なくとも二次粒子の表面近傍の一次粒子表面まで浸透して分散し、リチウム化合物とタングステン化合物の反応が継続される。さらに加熱を続けると、水は蒸発してLiW化合物が形成される。このLiW化合物の形成により、電池特性を向上させることができる。また、得られる正極活物質における余剰リチウムが大幅に低減され、電池特性をより向上させることができる。
【0065】
さらには、一次粒子表面の余剰リチウムの低減とともに、タングステン化合物は複合酸化物粒子中の過剰なリチウムとも反応し、複合酸化物粒子中に過剰に存在するリチウムを引き抜く効果も有する。リチウムが引き抜かれることにより、リチウムニッケル複合酸化物粒子の結晶性が向上し、電池特性をさらに高いものとすることができる。」

「【0072】
(3)非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極及び非水系電解液などからなり、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。」

「【0087】
(電池の製造及び評価)
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質の評価は、以下のように電池を作製し、充放電容量を測定することで行なった。
非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して図2に示す正極1(評価用電極)を作製した。その作製した正極1を真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。そして、この正極1を用いて2032型のコイン型電池Bを、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
Li金属負極2には、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用い、電解液には、1MのLiPF6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の3:7混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。セパレータ3には膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン型電池Bは、ガスケット4とウェーブワッシャー5を有し、正極缶6と負極缶7とでコイン状の電池に組み立てられた。
製造したコイン型電池Bの性能を示す初期放電容量、正極抵抗は、以下のように評価した。」

「【実施例1】
【0092】
Niを主成分とする酸化物と水酸化リチウムを混合して焼成する公知技術で得られたLi1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物粒子の粉末を母材とした。
150gの母材に、リチウムニッケル複合酸化物に含まれるNi、Co及びAlの原子数の合計に対してW量が0.30原子%となるように酸化タングステン(WO3)を1.08g添加し、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合し、混合粉末を得た。
【0093】
得られた混合粉末はSUS製容器に移し、脱炭酸空気でパージした電気炉の中に入れ、500℃に3時間加熱した後、炉冷した。使用した脱炭酸空気の炭酸ガス(CO2)量は10ppm以下であった。
【0094】
最後に目開き38μmの篩にかけ解砕することにより、一次粒子表面にLiW化合物を有する正極活物質を得た。
得られた正極活物質のタングステン含有量をICP法により分析したところ、タングステン含有量はNi、Co及びAlの原子数の合計に対して0.30原子%であることが確認された。
【0095】
[全リチウム量]
得られた正極活物質1gに純水10mlを加えて1分間攪拌後、固液分離して液中に溶出
したLiをICP法により分析することで求めた。全リチウム量は、正極活物質の全量に対して0.09質量%であった。
【0096】
[余剰リチウム量]
得られた正極活物質の余剰リチウムを、正極活物質から溶出してくるLiを滴定することにより評価した。得られた正極活物質1gに純水10mlを加えて1分間攪拌後、ろ過したろ液のpHを測定しながら塩酸を加えていくことにより出現する中和点から溶出するリチウムの化合物状態を分析して余剰リチウム量を評価したところ、余剰リチウム量は、正極活物質の全量に対して0.02質量%であった。」
「【0099】
[電池評価]
得られた正極活物質を使用して作製された正極を有する図2に示すコイン型電池Bの電池特性を評価した。なお、サイクル試験前の正極抵抗は実施例1を「1.00」とした相対値を評価値とした。
初期放電容量は、214mAh/gであった。
以下、実施例及び比較例については、実施例1と変更した物質、条件のみを示す。また、実施例1の初期放電容量、正極抵抗及びサイクル特性の評価値を合わせて表1に示す。」

(3)甲3の記載
甲3には次の記載がある。
「【請求項1】
一般式:LizNi1−x−yCoxMyO2(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成された層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物粉末と、前記リチウム金属複合酸化物粉末に対して2質量%以上の水分と、
タングステン化合物、もしくはタングステン化合物およびリチウム化合物とのタングステン混合物であり、
含有されるタングステン量に対する前記水分と固体分のタングステン化合物、もしくは水分と固体分のタングステン化合物およびリチウム化合物に含有される合計のリチウム量のモル比が1.5以上、3.0未満である前記タングステン混合物を得る混合工程と、
得られた前記タングステン混合物を熱処理して前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に、タングステン酸リチウムを形成させる熱処理工程を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」

「【請求項7】
前記熱処理を100〜600℃で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」

「【請求項9】
一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成された層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物粉末からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
一般式:LizNi1−x−yCoxMyWaO2+α(ただし、0<x≦0.35、
0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0<a≦0.03、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面にタングステン酸リチウムを有し、前記タングステン酸リチウムに含まれるLi2WO4の存在比率が50mol%以上であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。」

「【請求項15】
請求項9〜14のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を有することを特徴とする非水系電解質二次電池。」

「【0038】
ここで、このタングステン酸リチウムの中で、Li2WO4存在比率を50mol%以上とすることが重要である。
即ち、タングステン酸リチウムはLi2WO4、Li4WO5、Li6W2O9など多くの存在形態を有するが、Li2WO4は、リチウムイオン伝導性が高く、一次粒子の表面にLi2WO4を存在させることで、正極活物質の反応抵抗がより大きく低減されるため、より大きな出力特性向上の効果が得られる。さらに、正極抵抗の低減により、電池容量の向上も可能となる。
【0039】
また、Li2WO4は、リチウムイオン伝導性が高いLi4WO5などのタングステン酸リチウムと比べて溶媒、特に水分によって解離しにくいため、電池の高温保存時におけるガス発生量を抑制することが可能であり、安全性上の問題も少ない。
さらに、本発明においては、このLi2WO4存在比率を好ましくは50mol%を超え、90%mol以下、より好ましくは50mol%を超え、80mol%以下とすることで、リチウムイオン伝導性が高く、正極抵抗低減効果がLi2WO4より大きいLi4WO5を少量存在させ、ガス発生量の増加の抑制と正極抵抗のさらに大きな低減効果を得ている。」

「【0058】
この混合物のLiモル比は、1.5以上、3.0未満とする。
これにより、得られる正極活物質のLi2WO4存在比率を50mol%以上とすることができる。Liモル比が1.5未満になると、Li2WO4存在比率が50%未満になり、酸化タングステンが増加して反応抵抗の低減に寄与しないタングステンが増加する。一方、Liモル比が3.0以上になると、相対的に生成されるLi4WO5が多くなり、Li2WO4存在比率が50%未満となる。また、余剰リチウム量が多くなる。
そこで、Li2WO4存在比率の制御と余剰リチウム量低減の観点から、Liモル比は2.5以下であることが好ましい。Liモル比を2.5以下とすることで過剰なLi4WO5の生成を抑制することができる。
なお、添加するタングステン化合物によっては、Liモル比が1.5未満になる場合があるが、その場合には、リチウム化合物を添加して不足分を補えばよく、リチウム化合物としては水酸化リチウム(LiOH)などの水溶性化合物が好ましい。」

「【0078】
(3)非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極および非水系電解液などからなり、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。」

「【0092】
(電池の製造および評価)
正極活物質の初期放電容量および正極抵抗の評価には、図2に示す2032型コイン電池1(以下、コイン型電池と称す)を使用した。
図2に示すように、コイン型電池1は、ケース2と、このケース2内に収容された電極3とから構成されている。
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。電極3は、正極3a、セパレータ3cおよび負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容されている。
【0093】
なお、ケース2はガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封してケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0094】
図2に示すコイン型電池1は、以下のようにして製作した。
まず、非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極3aを作製した。その作製した正極3aを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0095】
この正極3aと、負極3b、セパレータ3cおよび電解液とを用いて、図2に示すコイン型電池1を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
なお、負極3bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。
セパレータ3cには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClO4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。」

「【実施例1】
【0104】
Niを主成分とする酸化物粉末と水酸化リチウムを混合して焼成する公知技術で得られたLi1.030Ni0.82Co0.15Al0.03O2で表されるリチウム金属複合酸化物粒子の粉末を母材とした。このリチウム金属複合酸化物粉末の平均粒径は12.4μmであり、比表面積は0.3m2/gであった。なお、平均粒径はレーザー回折散乱法における体積積算平均値を用い、比表面積は窒素ガス吸着によるBET法を用いて評価した。
【0105】
100mlの純水に3.3gの水酸化リチウム(LiOH)を溶解した水溶液中に、15.6gの酸化タングステン(WO3)を添加して撹拌することにより、タングステン化合物の水溶液を得た。
【0106】
次に、母材とするリチウム金属複合酸化物粉末75gを前記水溶液に浸漬し、さらに10分間攪拌することで十分に混合すると同時にリチウム金属複合酸化物粉末を水洗した。その後、ヌッチェを用いて吸引ろ過することで固液分離し、リチウム金属複合酸化物粒子と、液成分と、タングステン化合物からなるタングステン混合物を得た。この混合物を乾燥させ、乾燥前後の質量から求めたリチウム金属複合酸化物粒子に対する水分量は7.5質量%であった。
【0107】
また、ICP発光分光法により分析したところ、液成分のLi濃度は1.71mol/L、混合物のタングステン含有量は0.0038molであり、Liモル比は2.5であった。
【0108】
得られた混合物を、ステンレス(SUS)製焼成容器に入れ、真空雰囲気中において、100℃まで昇温して12時間、さらに190℃まで昇温して10時間熱処理し、その後室温まで炉冷した。
最後に目開き38μmの篩にかけ解砕することにより、一次粒子表面にタングステン酸リチウムを有する正極活物質を得た。
【0109】
得られた正極活物質のタングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、Ni:Co:Alは、原子数比で82:15:3であり、タングステン含有量はNi、CoおよびMの原子数の合計に対して0.5原子%の組成であることが確認され、そのLi/Meは0.987であり、芯材のLi/Meは0.985であった。なお、芯材のLi/Meは、水洗時と同濃度のLiを含む水酸化リチウム溶液を用い、同条件で水洗したリチウム金属複合酸化物粉末をICP発光分光法により分析することにより求めた。
【0110】
[タングステン酸リチウムおよび余剰リチウム分析]
得られた正極活物質中のタングステン酸リチウムの存在状態について、正極活物質から溶出してくるLiを滴定することにより評価した。
得られた正極活物質に純水を加えて一定時間攪拌後、ろ過したろ液のpHを測定しながら塩酸を加えていくことにより出現する中和点から溶出するリチウムの化合物状態を評価したところ、タングステン酸リチウム中にはLi4WO5とLi2WO4の存在が確認され、含まれるLi2WO4の存在比率を算出したところ、60mol%であった。また、余剰リチウムは、正極活物質の全量に対して0.02質量%であった。」

(4)甲4の記載
甲4には次の記載がある。
「【0026】
また、VPr=(1−C/D)/(A2×B3)を0.0005〜0.04の範囲にするためには、上述したように、正極活物質を合成(二次焼成)する前に、遷移金属水酸化物を、適正温度で、一次焼成し、酸化物にする必要がある。一次焼成の焼成温度は、450〜900℃とすることが望ましい。また、焼成時間は、単一結晶構造の酸化物が得られる時間であればよく、別段限定されないが、5時間以上とすることが望ましい。さらに、焼成雰囲気は、酸化雰囲気であればよく、別段限定されないが、例えば空気や酸素の雰囲気が好ましい。
また、二次焼成の焼成温度は、700〜800℃とすることが望ましい。また、焼成時間は、単一結晶構造の複合酸化物が得られる時間であればよく、別段限定されないが、5時間以上とすることが望ましい。さらに、焼成雰囲気は、酸化雰囲気であればよく、別段限定されないが、例えば空気や酸素の雰囲気が好ましい。」

「【0045】
得られたNi0.82Co0.15Al0.03O2に対し、Ni、CoおよびAlの原子数の和と、Liの原子数との比が1.00:1.01になるように、水酸化リチウム1水和物を加えた。得られた混合物に対し、二次焼成として、酸素雰囲気中、750℃で10時間の熱処理を行うことにより、目的とするLi1.01Ni0.82Co0.15Al0.03O2を得た。得られたリチウムニッケル複合酸化物は、粉末X線回折により、単一相の六方晶層状構造(真比重D:4.84g/ml)であった。また、複合酸化物中にCoおよびAlが固溶していることを確認した。その後、複合酸化物を、粉砕、分級して、正極活物質Aとした。」

「【0082】
《電池P》
リチウムニッケル複合酸化物の調製において、ビーカー内の水溶液における硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸アルミニウムの濃度を変え、Ni0.89Co0.08Al0.03(OH)2で表される水酸化物を調製し、これを原料に用いたこと以外、正極活物質Aと同様の要領で、式:Li1.01Ni0.89Co0.08Al0.03O2で表される平均粒径12.0μmの正極活物質P(真比重4.82g/ml、タップ密度2.4g/ml、一次粒子の平均粒径0.4μm)を得た。次に、正極活物質Pを用いたこと以外、電池Aと同様の要領で電池Pを作製した。」

(5)甲5の記載
甲5には次の記載がある。
「[0066]a)熱処理工程
熱処理工程は、ニッケル複合水酸化物粒子(以下、単に複合水酸化物粒子という)を加熱して熱処理する工程であり、複合水酸化物粒子に含有されている水分が除去される。この熱処理工程を行うことによって、複合水酸化物粒子中に焼成工程まで残留している水分を減少させることができる。言い換えれば、この熱処理工程により、複合水酸化物粒子を複合酸化物粒子に転換することができるので、製造される正極活物質中の金属の原子数およびリチウムの原子数の割合がばらつくことを防ぐことができる。」

「[0071]b)混合工程
混合工程は、熱処理工程で複合水酸化物を熱処理することによって得られた粒子(以下、熱処理粒子という)と、リチウム化合物とを混合することにより、リチウム混合物を得る工程である。
なお、熱処理粒子とは、熱処理工程で残留水分が除去されたニッケル複合水酸化物粒子や、熱処理工程で酸化物に転換されたニッケル複合酸化物粒子、またはそれらの混合粒子を意味する。」

「[0077]c)焼成工程
焼成工程は、上記混合工程で得られたリチウム混合物を焼成して、リチウムニッケル複合酸化物を形成する工程である。焼成工程においてリチウム混合物を焼成すると、熱処理粒子中に、リチウム化合物中のリチウムが拡散するので、リチウムニッケル複合酸化物が形成される。
[0078](焼成温度)
リチウム混合物の焼成温度は、700〜850℃、好ましくは720〜820℃である。
焼成温度が700℃未満であると、熱処理粒子中へのリチウムの拡散が十分に行われなくなり、余剰のリチウムおよび未反応の粒子が残ったり、結晶構造が十分整わなくなったりして、十分な電池特性が得られなくなる。また、焼成温度が850℃を超えると、熱処理粒子間で激しく焼結が生じるとともに、異常粒子が生じるおそれがある。したがって、焼成後の粒子が粗大となってしまい粒子形態(後述する球状二次粒子の形態)を保持することができなくなるおそれがあり、正極活物質を形成したときに、比表面積が低下して正極の抵抗が上昇して電池容量が低下する。」

「[請求項1]一般式(I):
Ni1−x−yCoxMy(OH)2+α (I)
(式中、0≦x≦0.22、0≦y≦0.15、x+y<0.3、0≦α≦0.5、Mは添加元素であり、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す)
で表されるニッケル複合水酸化物の粒子を製造する製造方法であって、
前記ニッケル複合酸化物の粒子における金属の原子比に対応する金属の原子比を有する金属化合物を含む実質的に錯イオン形成剤を含まない核生成用水溶液のpHを液温25℃基準で11.5〜13.2となるように制御して一次粒子からなる核を生成する核生成工程と、
該核生成工程で得られた前記核を含有する粒子成長用水溶液のpHを液温25℃基準で9.5〜11.0となるように制御して、前記核の外面に該核を形成する一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外殻部を形成させる粒子成長工程とからなる
ことを特徴とするニッケル複合水酸化物粒子の製造方法。」

6 当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項について(上記2の(1))
(1)−1 甲1に記載された発明
ア 甲1の実施例11の正極活物質に注目すると、甲1(特に、上記5の(1)の[0107]参照。)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「リチウム含有遷移金属複合酸化物としてのLiNi0.91Co0.06Al0.03O2で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に酸化タングステン(WO3)を混合した後、200℃で熱処理することにより得た、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の表面にタングステン化合物が付着した、非水電解質二次電池用正極活物質。」

イ また、甲1の実施例11の正極活物質の製造方法に注目すると、甲1(特に、上記5の(1)の[0107]参照。)には、次の発明(以下、「甲1方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「リチウム含有遷移金属複合酸化物としてのLiNi0.91Co0.06Al0.03O2で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に酸化タングステン(WO3)を混合した後、200℃で熱処理することにより得た、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の表面にタングステン化合物が付着した、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」

(1)−2 本件発明2と甲1発明との対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「リチウム含有遷移金属複合酸化物」は、本件発明2の「リチウム遷移金属酸化物粒子」に相当する。

イ 甲1発明の「LiNi0.91Co0.06Al0.03O2で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物」は、本件発明2の「組成式LiaNixM*(1-x)O2(0.95≦a≦1.2、0.85≦x<1.0、M*はCo、Alを少なくとも含む)で表される酸化物」に相当する。

ウ 甲1発明の「リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の表面にタングステン化合物が付着した」事項と、本件発明2の「リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物と、前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物と、を有」する事項とは、「リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、タングステン(W)を含む金属化合物を有する」事項で共通する。

エ 上記ア〜ウより、本件発明2と甲1発明とは、
「リチウム遷移金属酸化物粒子と、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、タングステン(W)を含む金属化合物と、
を有し、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子は、組成式LiaNixM*(1-x)O2(0.95≦a≦1.2、0.85≦x<1.0、M*はCo、Alを少なくとも含む)で表される酸化物を主成分として構成される、非水電解質二次電池用正極活物質。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点1−1)
「リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、タングステン(W)を含む金属化合物」が、本件発明2は、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」及び「リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」であるのに対し、甲1発明は、「タングステン化合物」であって、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」や「リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」であるかが不明である点。

(相違点1−2)
本件発明2では、「リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」のに対し、甲1発明では、「リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に酸化タングステン(WO3)を混合した後、200℃で熱処理することにより得た」ものであって、本件発明2の「リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」事項を有するか否かが不明である点。

(1)−3 相違点についての検討
ア 事案に鑑み、まず、上記相違点1−2について検討する。

イ 本件明細書【0040】、【0042】の記載によれば、本件発明2は、「リチウム遷移金属酸化物粒子」に対して、「金属化合物M1を混合し、未洗浄粒子の表面に金属化合物M1の微粒子を付着させ」、「当該混合物」を「200〜700℃、より好ましくは300〜500℃」で「熱処理することにより、未洗浄粒子の表面に存在するLiと金属化合物M1が反応してリチウム金属化合物M2が生成する」ものである。

ウ そうすると、甲1発明は、「リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に酸化タングステン(WO3)を混合した後、200℃で熱処理」しているから、上記イに照らせば、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の表面に存在するLiと酸化タングステン(WO3)とが反応して、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成しており、また、200℃という温度であるからすると、酸化タングステン(WO3)もリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の表面に残っていると考えられる。

エ しかしながら、甲1発明の「非水電解質二次電池用正極活物質」には、上記ウの「リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」及び「酸化タングステン(WO3)」が、どの程度の量存在するのかが不明である。

オ そうすると、上記相違点1−2は、実質的な相違点である。

カ 次に、甲1発明において、上記相違点1−2に係る本件発明2の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことであるか否かを検討する。

キ 甲1には、「リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面にタングステン化合物が付着していると、非水電解液とNi系正極活物質との接触を防ぎ、副反応によるガス発生が抑制される」([0039])と、「リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面に、タングステン化合物を付着させる方法としては、例えば、・・・(略)・・・焼成後のリチウム含有遷移金属複合酸化物に、タングステン化合物を混合した後、熱処理する方法等を挙げることができる」([0043])と記載されている。

ク 上記キによれば、甲1発明の「熱処理」は、リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面にタングステン化合物を付着させ、非水電解液とNi系正極活物質との接触を防ぎ、副反応によるガス発生を抑制するために行うものであるといえる。

ケ そして、甲1発明は、「リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に酸化タングステン(WO3)を混合した後、200℃で熱処理する」ものの、当該「熱処理」により、「リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」が生成されることが記載も示唆もされていない。

コ そうすると、甲1発明の「非水電解質二次電池用正極活物質」において、「リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」を、「酸化タングステン(WO3)」よりも、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の表面に多く付着させる動機がない。

サ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、甲1発明において、上記相違点1−2に係る本件発明2の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

シ よって、本件発明2は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ス また、請求項3は請求項2を引用するものであり、本件発明3は、本件発明2の発明特定事項を全て含むものであるから、同様の理由により、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(1)−4 本件発明4と甲1方法発明との対比、及び、相違点についての検討
ア 本件発明4と甲1方法発明とを対比すると、少なくとも、次の相違点で相違する。

(相違点1−3)
本件発明4では、「リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」のに対し、甲1方法発明では、「非水電解質二次電池用正極活物質」が、「リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に酸化タングステン(WO3)を混合した後、200℃で熱処理することにより得た」ものであって、本件発明4の「リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」事項を有するか否かが不明である点。

イ そして、上記相違点1−3は上記相違点1−2と同様の相違点であるから、上記(1)−3で検討した理由と同様の理由により、上記相違点1−3は、実質的な相違点であるし、甲1方法発明において、上記相違点1−3に係る本件発明4の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ウ よって、本件発明4は、甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ また、請求項5は請求項4を引用するものであり、本件発明5は、本件発明4の発明特定事項を全て含むものであるから、同様の理由により、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)特許法第29条の2について(上記2の(2)及び上記3の(1))
(2)−1 甲2を主引例とした場合
(2)−1−1 甲2に係る出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明
ア 甲2に係る出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面には、その実施例1の正極活物質に注目すると(特に、上記5の(2)の【0034】、【0092】〜【0094】参照。)、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物粒子の粉末を母材とし、この母材に、酸化タングステン(WO3)を添加し、十分に混合し、さらに、500℃で3時間加熱した後、炉冷し、解砕して得た、一次粒子表面にリチウム(Li)とタングステン(W)を含む化合物を有する、非水系電解質二次電池用正極活物質。」

イ また、甲2に係る出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面には、その実施例1の正極活物質の製造方法に注目すると(特に、上記5の(2)の【0034】、【0092】〜【0094】参照。)、次の発明(以下、「甲2方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物粒子の粉末を母材とし、この母材に、酸化タングステン(WO3)を添加し、十分に混合し、さらに、500℃で3時間加熱した後、炉冷し、解砕して得た、一次粒子表面にリチウム(Li)とタングステン(W)を含む化合物を有する、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」

(2)−1−2 本件発明2と甲2発明との対比
本件発明2と甲2発明とを対比する。
ア 甲2発明の「リチウムニッケル複合酸化物粒子の粉末」は、本件発明2の「リチウム遷移金属酸化物粒子」に相当する。

イ 甲2発明の「Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2」は、本件発明2の「組成式LiaNixM*(1-x)O2(0.95≦a≦1.2、0.85≦x<1.0、M*はCo、Alを少なくとも含む)で表される酸化物」に相当する。

ウ 甲2発明の「一次粒子表面にリチウム(Li)とタングステン(W)を含む化合物を有する」事項と、本件発明2の「リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」「を有」する事項とは、「リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属化合物」「を有」する事項で共通する。

エ 上記ア〜ウより、本件発明2と甲2発明とは、
「リチウム遷移金属酸化物粒子と、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属化合物と、
を有し、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子は、組成式組成式LiaNixM*(1-x)O2(0.95≦a≦1.2、0.85≦x<1.0、M*はCo、Alを少なくとも含む)で表される酸化物を主成分として構成される、非水電解質二次電池用正極活物質。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点2−1)
「リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属化合物」が、本件発明2は、「リチウム金属酸化物」であって、さらに、「リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」「を有」するのに対し、甲2発明は、「リチウムニッケル複合酸化物粒子の粉末を母材とし、この母材に、酸化タングステン(WO3)を添加し、十分に混合し、さらに、500℃で3時間加熱した後、炉冷し、解砕して得た」ものであり、「リチウム(Li)とタングステン(W)を含む化合物」が「リチウム金属酸化物」であるか否かが不明であるし、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」を有するか否かが不明である点。

(相違点2−2)
本件発明2は、「リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」のに対し、甲2発明は、「リチウムニッケル複合酸化物粒子の粉末を母材とし、この母材に、酸化タングステン(WO3)を添加し、十分に混合し、さらに、500℃で3時間加熱した後、炉冷し、解砕して得た」ものであって、「リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」ものであるか否かが不明である点。

(2)−1−3 相違点についての検討
ア 事案に鑑み、まず、相違点2−2について検討する。

イ 上記(1)の(1)−3のイより、本件発明2は、「リチウム遷移金属酸化物粒子」に対して、「金属化合物M1を混合し、未洗浄粒子の表面に金属化合物M1の微粒子を付着させ」、「当該混合物」を「200〜700℃、より好ましくは300〜500℃」で「熱処理することにより、未洗浄粒子の表面に存在するLiと金属化合物M1が反応してリチウム金属化合物M2が生成する」ものである。

ウ そうすると、甲2発明は、「リチウムニッケル複合酸化物粒子の粉末を母材とし、この母材に、酸化タングステン(WO3)を添加し、十分に混合し、さらに、500℃で3時間加熱し」ているから、上記イに照らせば、リチウムニッケル複合酸化物粒子の粉末の表面に存在するLiと酸化タングステン(WO3)とが反応して、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成していると考えられる。

エ しかしながら、上記ウにおいて、未反応の「酸化タングステン(WO3)」が残っているか否かが不明であるし、「リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」及び「酸化タングステン(WO3)」が、どの程度の量存在するのかも不明である。

オ そうすると、上記相違点2−2は実質的な相違点であるから、本件発明2は、甲2発明と同一であるとはいえない。

カ また、請求項3は請求項2を引用するものであり、本件発明3は、本件発明2の発明特定事項を全て含むものであるから、同様の理由により、本件発明3は、甲2発明と同一であるとはいえない。

(2)−1−4 本件発明4と甲2方法発明との対比、及び、相違点についての検討
ア 本件発明4と甲2方法発明とを対比すると、少なくとも、次の相違点で相違する。

(相違点2−3)
本件発明4では、「リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」のに対し、甲2方法発明では、「非水系電解質二次電池用正極活物質」が、「リチウムニッケル複合酸化物粒子の粉末を母材とし、この母材に、酸化タングステン(WO3)を添加し、十分に混合し、さらに、500℃で3時間加熱した後、炉冷し、解砕して得た」ものであって、「リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」ものであるか否かが不明である点。

イ そして、上記相違点2−3は上記相違点2−2と同様の相違点であるから、上記(2)−1−3で検討した理由と同様の理由により、本件発明4は、甲2方法発明と同一であるとはいえない。

ウ また、請求項5は請求項4を引用するものであり、本件発明5は、本件発明4の発明特定事項を全て含むものであるから、同様の理由により、本件発明5は、甲2方法発明と同一であるとはいえない。

(2)−2 甲3を主引例とした場合
(2)−2−1 甲3に係る出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明
ア 甲3に係る出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲には、その請求項9によれば、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成された層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物粉末からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
一般式:LizNi1−x−yCoxMyWaO2+α(ただし、0<x≦0.35、
0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0<a≦0.03、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面にタングステン酸リチウムを有し、前記タングステン酸リチウムに含まれるLi2WO4の存在比率が50mol%以上であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。」

イ また、甲3に係る出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲には、その請求項1によれば、次の発明(以下、「甲3方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「一般式:LizNi1−x−yCoxMyO2(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成された層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物粉末と、前記リチウム金属複合酸化物粉末に対して2質量%以上の水分と、
タングステン化合物、もしくはタングステン化合物およびリチウム化合物とのタングステン混合物であり、
含有されるタングステン量に対する前記水分と固体分のタングステン化合物、もしくは水分と固体分のタングステン化合物およびリチウム化合物に含有される合計のリチウム量のモル比が1.5以上、3.0未満である前記タングステン混合物を得る混合工程と、
得られた前記タングステン混合物を熱処理して前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に、タングステン酸リチウムを形成させる熱処理工程
を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」

(2)−2−2 本件発明2と甲3発明との対比
本件発明2と甲3発明とを対比する。
ア 甲3発明の「リチウム金属複合酸化物」、「タングステン酸リチウム」は、それぞれ、本件発明2の「リチウム遷移金属酸化物粒子」、「リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」に相当する。

イ 甲3発明の「リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面にタングステン酸リチウムを有」する事項は、本件発明2の「リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」「を有」する事項に相当する。

ウ 上記ア、イより、本件発明2と甲3発明とは、
「リチウム遷移金属酸化物粒子と、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物と、
を有する、
非水電解質二次電池用正極活物質。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点3−1)
本件発明2は、「リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」「を有」するのに対し、甲3発明は、タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物を有するか否かが不明である点。

(相違点3−2)
本件発明2は、「リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」のに対し、甲3発明は、そのような構成を有するか否かが不明である点。

(相違点3−3)
「リチウム遷移金属酸化物粒子」が、本件発明2は、「組成式LiaNixM*(1-x)O2(0.95≦a≦1.2、0.85≦x<1.0、M*はCo、Alを少なくとも含む)で表される酸化物を主成分として構成され」ているのに対し、甲3発明は、「一般式:LizNi1−x−yCoxMyWaO2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0<a≦0.03、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され」る点。

(2)−2−3 相違点についての検討
ア 事案に鑑み、まず、上記相違点3−2について検討する。

イ 甲3には、「この混合物のLiモル比は、1.5以上、3.0未満とする。これにより、得られる正極活物質のLi2WO4存在比率を50mol%以上とすることができる。Liモル比が1.5未満になると、Li2WO4存在比率が50%未満になり、酸化タングステンが増加して反応抵抗の低減に寄与しないタングステンが増加する」(【0058】)と記載されている。
なお、この記載には、「正極活物質のLi2WO4存在比率を50mol%以上とすることができる」と記載されているが、甲3の「タングステン酸リチウムに含まれるLi2WO4の存在比率が50mol%以上である」(請求項1)との記載、「タングステン酸リチウムの中で、Li2WO4存在比率を50mol%以上とすることが重要である。即ち、タングステン酸リチウムはLi2WO4、Li4WO5、Li6W2O9など多くの存在形態を有するが、Li2WO4は、リチウムイオン伝導性が高く、一次粒子の表面にLi2WO4を存在させることで、正極活物質の反応抵抗がより大きく低減されるため、より大きな出力特性向上の効果が得られる」(【0038】)等の記載から見て、「正極活物質のLi2WO4存在比率を50mol%以上とすることができる」との記載は、正確には、「正極活物質のタングステン酸リチウムに含まれるLi2WO4存在比率を50mol%以上とすることができる」と解される。

ウ そして、上記イによれば、「Liモル比が1.5未満になると、Li2WO4存在比率が50%未満になり、酸化タングステンが増加」するとのことであるから、「タングステン酸リチウムに含まれるLi2WO4の存在比率が50mol%以上である」甲3発明の「非水系電解質二次電池用正極活物質」に、酸化タングステンが含まれていることもあり得る。

エ しかしながら、甲3発明において、上記ウの「酸化タングステン」の量も「タングステン酸リチウム」の量も不明である。

オ そうすると、上記相違点3−2は実質的な相違点であるから、本件発明2は、甲3発明と同一であるとはいえない。

カ また、請求項3は請求項2を引用するものであり、本件発明3は、本件発明2の発明特定事項を全て含むものであるから、同様の理由により、本件発明3は、甲3発明と同一であるとはいえない。

(2)−2−4 本件発明4と甲3方法発明との対比、及び、相違点についての検討
ア 本件発明4と甲3方法発明とを対比すると、少なくとも、次の相違点で相違する。

(相違点3−4)
本件発明4では、「リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」のに対し、甲3方法発明では、そのような構成を有するかが不明である点。

イ そして、上記相違点3−4は上記相違点3−2と同様の相違点であるから、上記(2)−2−3で検討した理由と同様の理由により、本件発明4は、甲3方法発明と同一であるとはいえない。

ウ また、請求項5は請求項4を引用するものであり、本件発明5は、本件発明4の発明特定事項を全て含むものであるから、同様の理由により、本件発明5は、甲3方法発明と同一であるとはいえない。

(2)−2−5 付記
ア 申立人は,申立書(第61頁第13〜15行)において、「類似する理由になるので上げていないが、本件特許発明1〜5は、特願2015−212399号(特開2016−111000号公報)からも同様の理由から特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない」と主張している。

イ ここで、上記アの特願2015−212399号は、甲3と同一の出願人による出願であって、出願番号が甲3に係る出願と連番となるものである。

ウ そして、上記アの特願2015−212399号の請求項1に係る発明(以下、「甲3−1発明」という。)と甲3発明とは、「タングステン酸リチウムに含まれるLi2WO4の存在比率」が異なるだけでほぼ同様の発明であり、本件発明2、3と甲3−1発明とは、少なくとも上記相違点3−2で相違するから、上記(2)−2−3で検討した理由と同様の理由により、本件発明2、3は、甲3−1発明と同一であるとはいえない。

エ また、上記アの特願2015−212399号の請求項9に係る発明(以下、「甲3−1方法発明」という。)と甲3方法発明とは、「タングステン混合物」において、「含有されるタングステン量に対する前記水分と固体分のタングステン化合物、もしくは水分と固体分のタングステン化合物およびリチウム化合物に含有される合計のリチウム量のモル比」が異なるだけでほぼ同様の発明であり、本件発明4、5と甲3−1方法発明とは、少なくとも上記相違点3−4で相違するから、上記(2)−2−4で検討した理由と同様の理由により、本件発明4、5は、甲3−1方法発明と同一であるとはいえない。

オ よって、申立人の上記アの主張には理由がない。

(3)特許法第36条第6項第1号について(上記2の(3)及び上記3の(2))
(3)−1 上記2の(3)について
ア 本件発明の解決しようとする課題(以下、「本件課題」という。)は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「リチウム遷移金属酸化物粒子を洗浄しなくても、電池の充電保存時等におけるガス発生量を抑制できる正極活物質を提供すること」(【0005】)であると認められる。

イ そして、本件明細書には、「上述の正極活物質は、例えば、リチウム化合物と遷移金属酸化物を混合して焼成し、リチウム遷移金属酸化物粒子を合成する工程(以下、「工程(1)」という)と、未洗浄のリチウム遷移金属酸化物粒子と金属化合物M1を混合して、工程(1)の焼成温度よりも低い温度で熱処理する工程(以下、「工程(2)」という)とを含む製造工程によって得られる。未洗浄のリチウム遷移金属酸化物粒子(未洗浄粒子)の表面には余剰のLi化合物が存在するが、金属化合物M1を添加して熱処理することにより、金属化合物M1と余剰Li化合物が反応してリチウム金属化合物M2を生成し、ガス発生の原因となる余剰Li化合物が大幅に減少する。本製造工程によれば、リチウム遷移金属酸化物粒子の洗浄が不要であり、水洗工程に続く濾過、乾燥工程も不要である。したがって、正極活物質の製造コストの低減、環境負荷の低減等を図ることができる」(【0037】)と記載されている。

ウ また、本件明細書の実施例1と比較例1との対比において、金属化合物としてWO3を添加した実施例1が、金属化合物を添加しない比較例1よりも、ガス発生量が少ない(【0067】の表1参照。)ことが示されている。

エ そうすると、上記イ、ウより、本件発明が、未洗浄のリチウム遷移金属酸化物粒子に、金属化合物M1を添加して熱処理して、金属化合物M1と余剰Li化合物が反応してリチウム金属化合物M2を生成するものであれば、ガス発生の原因となる余剰Li化合物が減少し、本件課題を解決しているといえる。

オ しかしながら、本件訂正前の請求項4に係る発明は、「熱処理する工程」の温度について、「リチウム化合物と遷移金属酸化物を混合して焼成」する「温度よりも低い温度」であることが特定されているものの、当該温度が、金属化合物M1と余剰Li化合物が反応してリチウム金属化合物M2を生成する温度であるとは必ずしもいえないから、電池の充電保存時等におけるガス発生量を抑制できるものとはいえず、本件課題を解決し得ない発明を含むものであった。

カ そこで、特許権者は、本件訂正により、上記オの「熱処理する工程」について、「金属酸化物と、前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰Li化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成する温度で熱処理することで、前記金属酸化物と前記リチウム金属酸化物を前記リチウム遷移金属酸化物の表面に付着させる工程」であることを特定した。

キ そして、上記カの特定により、本件発明4は、本件課題を解決するものとなった。

ク よって、本件発明4及びそれを引用する本件発明5は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(3)−2 上記3の(2)のアについて
ア 本件発明の解決しようとする課題は、上記(3)−1のアのとおりである。

イ そして、本件明細書【0013】、【0027】の記載を参酌すれば、本件発明は、未洗浄のリチウム遷移金属酸化物粒子(未洗浄粒子)の表面には余剰のLi化合物が存在するところ、当該Li化合物は「余剰」のものであるから、金属化合物M1を添加して熱処理することにより、金属化合物M1と余剰Li化合物が反応してリチウム金属化合物M2を生成し、ガス発生の原因となる余剰Li化合物が減少し、本件課題を解決すると考えられる。

ウ また、本件明細書の実施例1と比較例1との対比において、金属化合物としてWO3を添加した実施例1が、金属化合物を添加しない比較例1よりも、ガス発生量が少ない(【0067】の表1参照。)ことが示されており、実施例1の正極活物質は、本件課題を解決するものである。

エ そうすると、本件発明は、上記イより、リチウム金属化合物M2が生成していると考えられるし、また、上記イ、ウより、リチウム遷移金属酸化物粒子の組成によらず、本件課題を解決しているといえるから、本件発明2及びそれを引用する本件発明3は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(3)−3 上記3の(2)のイについて
ア 本件発明の解決しようとする課題は、上記(3)−1のアのとおりである。

イ そして、上記(3)−2のイより、本件発明は、未洗浄のリチウム遷移金属酸化物粒子(未洗浄粒子)の表面には余剰のLi化合物が存在するところ、当該Li化合物は「余剰」のものであるから、金属化合物M1を添加して熱処理することにより、金属化合物M1と余剰Li化合物が反応してリチウム金属化合物M2を生成し、ガス発生の原因となる余剰Li化合物が減少し、本件課題を解決すると考えられる。

ウ そうすると、たとえ、金属化合物M1が、余剰Li化合物との反応性の低い物質であったとしても、多少なりとも反応が起こり発生するガス量が減少すれば、「電池の充電保存時等におけるガス発生量を抑制できる」(当審注:下線は当審で付した。)といえる。

エ よって、本件発明2及びそれを引用する本件発明3は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(3)−4 上記3の(2)のウについて
ア 本件発明の解決しようとする課題は、上記(3)−1のアのとおりである。

イ そして、上記(3)−2のイより、本件発明は、未洗浄のリチウム遷移金属酸化物粒子(未洗浄粒子)の表面には余剰のLi化合物が存在するところ、当該Li化合物は「余剰」のものであるから、金属化合物M1を添加して熱処理することにより、金属化合物M1と余剰Li化合物が反応してリチウム金属化合物M2を生成し、ガス発生の原因となる余剰Li化合物が減少し、本件課題を解決すると考えられる。

ウ そうすると、上記イのように、金属化合物M1と余剰Li化合物が反応してリチウム金属化合物M2を生成する過程において、最終的に、金属化合物M1が残っているか否かにかかわらず、本件課題を解決するものといえるから、本件発明2は、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」の存在・不存在によらず、本件課題を解決するものといえる。

エ また、本件発明4は、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない」「金属酸化物とリチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰リチウム化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成する温度で熱処理する」ものであって、上記(3)−4のイによれば、本件課題を解決するものである。

オ したがって、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」をさらに限定せずとも、本件発明2、4及びそれを引用する本件発明3、5は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(3)−5 上記3の(2)のエについて
ア 本件発明の解決しようとする課題は、上記(3)−1のアのとおりである。

イ そして、上記(3)−2のイより、本件発明は、未洗浄のリチウム遷移金属酸化物粒子(未洗浄粒子)の表面には余剰のLi化合物が存在するところ、当該Li化合物は「余剰」のものであるから、金属化合物M1を添加して熱処理することにより、金属化合物M1と余剰Li化合物が反応してリチウム金属化合物M2を生成し、ガス発生の原因となる余剰Li化合物が減少し、本件課題を解決すると考えられる。

ウ そうすると、金属化合物M1が極微量であったとしても、本件発明4は、「金属酸化物とリチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰リチウム化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成する温度で熱処理する」ものであって、多少なりとも余剰リチウムが減少するものであるから、発生するガス量も減少し、「電池の充電保存時等におけるガス発生量を抑制できる」(当審注:下線は当審で付した。)ものといえる。

エ よって、本件発明4及びそれを引用する本件発明5は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(3)−6 上記3の(2)のオについて
ア 本件発明の解決しようとする課題は、上記(3)−1のアのとおりである。

イ そして、上記(3)−2のエより、本件発明は、リチウム遷移金属酸化物粒子の組成によらず、本件課題を解決しているといえる。

ウ また、上記(3)−2のイより、本件発明は、未洗浄のリチウム遷移金属酸化物粒子(未洗浄粒子)の表面には余剰のLi化合物が存在するところ、当該Li化合物は「余剰」のものであるから、金属化合物M1を添加して熱処理することにより、金属化合物M1と余剰Li化合物が反応してリチウム金属化合物M2を生成し、ガス発生の原因となる余剰Li化合物が減少し、本件課題を解決すると考えられる。

エ そうすると、余剰Li化合物の量の多少に関わらず、金属化合物M1と余剰Li化合物が反応し、発生するガス量は減少すると考えられるから、「電池の充電保存時等におけるガス発生量を抑制できる」ものといえる。

オ よって、本件発明4及びそれを引用する本件発明5は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(4)特許法第36条第6項第2号について(上記3の(3))
(4)−1 上記3の(3)のア
ア 本件発明2は、「リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物と、前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物と、を有」するとの発明特定事項を含むものである。

イ ここで、一般に、「付着」とは、「異種の2物質が接触したときにくっつき合う現象。」(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「付着」の解説)を意味するから、接着力や付着量に関わらず、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」や「リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」が、「リチウム遷移金属酸化物粒子の表面」にくっつき合っていれば、上記アの発明特定事項を満たすこととなる。

ウ また、上記イより、付着量に関わらず、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」や「リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」が、「リチウム遷移金属酸化物粒子の表面」にくっつき合っていれば、上記アの発明特定事項を満たすこととなる。

エ よって、本件発明2及びそれを引用する本件発明3は、明確である。

(4)−2 上記3の(3)のイ
ア 本件発明2は、「リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」との発明特定事項を含むものである。

イ そして、本件明細書には、次の記載がある。
「【0035】
リチウム金属化合物M2は、金属化合物M1よりもリチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している。正極活物質におけるリチウム金属化合物M2の含有量は、正極活物質量に対して、例えば0.2〜4モル%である。」

ウ 上記イの記載からすると、上記アの発明特定事項は、「モル%」を基準としていることは明らかである。

エ そして、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに、「金属化合物M1」の付着量と「リチウム金属化合物M2」の付着量との対比が、測定方法により異なる根拠がないから、本件明細書に付着量の測定方法が記載されていなくても、上記アの発明特定事項は明確である。

オ よって、本件発明2及びそれを引用する本件発明3は、明確である。

7 申立人の意見について
(1)特許法第29条第2項違反について
ア 申立人は、次の主張をしている。
特許権者が主張する、「本件発明2の正極活物質によれば、電池の充電保存時等におけるガス発生の原因となる余剰のLiをより確実に、かつ効率よく無害化でき、リチウム遷移金属酸化物を洗浄しなくても、充電保存時等におけるガス発生量が少ない非水電解質二次電池を提供することができる」(申立人意見書第3頁第14〜18行)という効果について、「本件特許明細書に開示された実施例等においては、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」と、「リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」と、が生成していることについてすら分析されておらず、両化合物の付着量の違いについても分析されていません。このため、特許発明2の構成と、本件特許権者が主張する上記効果との関係は、本件特許明細書の記載から明らかではなく、上記効果についての主張は認められません。」(申立人意見書第3頁第26〜32行)

イ 確かに、申立人が主張するように、本件明細書に記載された実施例においては、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」と、「リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」と、が生成していることについて分析されていない。

ウ ここで、本件明細書で引用されている特許文献1(特開2015−216105号公報)には、次の記載がある。
「【0086】
以上のようにして、下記一般式(4)で表され、・・・(略)・・・一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を調製する。
・・・(略)・・・
【0087】
(化4)
一般式:LiaNi1−x−yCoxMyO2・・・(4)
(式中、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、ZrおよびMoから選ばれる少なくとも1種の元素である。aは、0.98≦b≦1.11、xは0<x≦0.15、yは0<y≦0.07、x+yは≦0.16を満たす数値である。)
・・・(略)・・・
【0089】
一方、aが1.11を超えると、焼成粉末の表面に余剰のリチウム化合物が多量に存在し、これを水洗で除去するのが難しくなる。余剰のリチウム化合物の除去が不十分な正極活物質を用いると、電池の充電時にガスが多量に発生されるばかりでなく、高pHを示す粉末であるため電極作製時に使用する有機溶剤などの材料と反応してスラリーがゲル化して不具合を起こす要因ともなる。」

エ 上記ウによれば、リチウムニッケル複合酸化膜の表面に存在する余剰リチウムの除去が不十分であると、電池の充電時にガスが多量に発生する。すなわち、リチウムニッケル複合酸化膜の表面に存在する余剰リチウムが、電池の充電時のガス発生の原因であることが理解できる。

オ そして、本件明細書に記載された実施例1(【0054】〜【0061】、【0067】の表1)によれば、リチウムのモル比が1.03(すなわち、余剰リチウムを含む。)であり、酸化タングステン(WO3)を添加して得た正極活物質(【0054】)を用いて作製した電池のガス発生量が、酸化タングステン(WO3)を添加しなかった電池と比較して少なくなっている(【0067】の表1参照。)。

カ 上記エからすると、余剰リチウムが電池の充電時のガス発生の原因であり、上記オからすると、余剰リチウムを含み、酸化タングステン(WO3)を添加して得た正極活物質(【0054】)を用いて作製した電池のガス発生量が、酸化タングステン(WO3)を添加しなかった電池と比較して少なくなっているから、酸化タングステン(WO3)、すなわち、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」の添加により、余剰リチウムが減少していることが理解できる。

キ そして、本件明細書には、「未洗浄粒子の表面に特定の金属元素を含む化合物を付着させた本開示に係る正極活物質では、未洗浄粒子の表面に存在する余剰のリチウムが当該化合物と反応してリチウム金属化合物となり、ガス発生の原因となる余剰リチウムの量が大幅に減少する」(【0013】)と記載されている。

ク そうすると、上記カより、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」の添加により、余剰リチウムが減少しているから、上記キの記載を参酌することにより、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」と余剰リチウムとが反応して、「リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」となっている蓋然性が高いことが理解できる。

ケ したがって、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」と、「リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物」と、が生成していることについて分析されていないものの、本件明細書の記載及び技術常識から、このような減少が起きていることが推測できる。

コ よって、申立人の上記アの主張には理由がない。

サ また、申立人は、次の主張をしている。
「甲第1号証に記載された発明において、上記課題を解決するために、リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面に付着させるタングステン化合物である、タングステン酸化物、およびタングステンのリチウム複合酸化物の割合を選択することは設計事項に過ぎません。」(申立人意見書第4頁第7〜10行)

シ しかしながら、上記6の(1)の(1)−3でも検討したように、甲1には、タングステン化合物が熱処理により余剰リチウムと反応して、タングステンのリチウム化合物が生成されることが記載も示唆もされていないから、タングステン化合物とタングステンのリチウム化合物の割合を選択する動機がない。

ス よって、申立人の上記サの主張には理由がない。

(2)特許法第36条第6項第1号違反について
ア 申立人は、本件課題を解決している、本件明細書の実施例1では、Liの割合が2程度となっているから、本件発明1は、本件課題を解決するものとはいえない旨主張(申立書第62頁第22行〜第63頁第4行)している。

イ しかしながら、上記4の(2)で検討したとおり、本件明細書の実施例1の記載には誤記が存在し、申立人は当該誤記を誤記のとおりに解釈し、それを根拠として上記アの主張をしているから、申立人の上記アの主張には理由がない。

ウ また、申立人は、次の主張(申立人意見書第9頁第3〜18行)をしている。
本件発明2の「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」は、例えばNa2WO4等の化合物も包含しています。そして、本件特許明細書の実施例の記載に照らして、上記金属酸化物として酸化タングステンであることが必須の要件であるといえます。また、請求項4の「未洗浄の前記リチウム遷移金属酸化物粒子とタングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物を混合して」との規定についても言えます。
そうすると、依然として、本件特許発明2、4、および従属する3、5はサポート要件を充足するものではありません。

エ しかしながら、上記6の(3)の(3)−4でも検討したように、本件発明2は、「タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物」の存在・不存在によらず、本件課題を解決するものである。

オ また、本件発明4は、「金属酸化物とリチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰リチウム化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成する温度で熱処理する」ものであるから、本件課題を解決するものである。

カ よって、申立人の上記ウの主張には理由がない。

(3)特許法第36条第6項第2号違反について
ア 申立人は、次の主張(申立人意見書第9頁第26行〜第10頁第8行)をしている。
本件発明4の「金属酸化物とリチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰リチウム化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成する温度で熱処理する」と規定されている。
この規定は、(a)具体的にどの程度、原料である「金属酸化物」と「余剰リチウム化合物」とが反応した場合を意味し、(b)どのような場合に「リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成」したと判断できるのかが明らかではなく、(c)係る温度がどのような温度を意味しているのかが明らかではないから、本件発明4及び従属する本件発明5は不明確である。

イ しかしながら、請求項4に「金属酸化物とリチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰リチウム化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成する温度で熱処理する」と特定されているとおり、(a)「金属酸化物とリチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰リチウム化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成」しさえすれば、原料である「金属酸化物」と「余剰リチウム化合物」との反応が如何なる量でも構わないし、(b)周知の手法により、「金属酸化物とリチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰リチウム化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成する」ことが確認できた場合に、「金属酸化物とリチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰リチウム化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成」したと判断できるし、(c)当該温度は、「金属酸化物とリチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰リチウム化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成」した温度を意味していることは明らかである。

ウ よって、申立人の上記アの主張には理由がない。

エ また、申立人は次の主張をしている。
本件特許発明4は、「前記リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」とも規定していますが、リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に、リチウム金属酸化物の方が、金属酸化物よりも多く付着するためには、単に金属酸化物と余剰Li化合物とが反応する温度では足りず、金属酸化物と余剰Li化合物とが広い範囲に渡って高い割合で反応する反応条件である必要があるものといえます。上記反応条件としては、反応温度以外に、反応時間や、金属酸化物の種類、粒径、金属酸化物とリチウム遷移金属酸化物粒子との接触の程度等が挙げられます。
このため、係る観点から見ても訂正後の本件特許発明4における「前記金属酸化物とリチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰リチウム化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成する温度で熱処理する」との規定は依然として不明確であ(申立人意見書第10頁第9〜20行)る。

オ しかしながら、本件発明4には、「金属酸化物とリチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰リチウム化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成する温度で熱処理する」と特定されているから、申立人が主張する条件、すなわち、反応温度、反応時間、金属酸化物の種類、粒径、金属酸化物とリチウム遷移金属酸化物粒子との接触の程度等は、「金属酸化物とリチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰リチウム化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成する温度で熱処理する」ものを全て包含すると解され、これらのものを具体的に特定しなくても、本件発明4の「前記リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している」との発明特定事項は、明確であるといえる。

カ よって、申立人の上記エの主張には理由がない。

8 むすび
以上のとおり、本件の請求項2〜5に係る特許は、令和3年9月27日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項2〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件の請求項1は、本件訂正により削除されたから、本件の請求項1に係る特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
リチウム遷移金属酸化物粒子と、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物と、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着した、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物と、
を有し、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子は、組成式LiaNixM*(1−x)O2(0.95≦a≦1.2、0.85≦x<1.0、M*はCo、Alを少なくとも含む)で表される酸化物を主成分として構成され、
前記リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項2に記載の正極活物質を含む正極と、
負極と、
非水電解質と、
を備えた、非水電解質二次電池。
【請求項4】
リチウム化合物と遷移金属酸化物を混合して焼成し、リチウム遷移金属酸化物粒子を合成する工程と、
未洗浄の前記リチウム遷移金属酸化物粒子と、タングステン(W)を含み、リチウム(Li)を含まない金属酸化物を混合して、前記焼成の温度よりも低い温度であって、前記金属酸化物と、前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面における余剰Li化合物とが反応し、リチウム(Li)及びタングステン(W)を含むリチウム金属酸化物が生成する温度で熱処理することで、前記金属酸化物と前記リチウム金属酸化物を前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に付着させる工程と、
を含み、
前記リチウム遷移金属酸化物粒子は、組成式LiaNixM*(1−x)O2(0.95≦a≦1.2、0.85≦x<1.0、M*はCo、Alを少なくとも含む)で表される酸化物を主成分として構成され、
前記リチウム金属酸化物は、前記金属酸化物よりも前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に多く付着している、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理の温度は、200〜700℃である、請求項4に記載の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-14 
出願番号 P2018-508457
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 土屋 知久
境 周一
登録日 2020-11-26 
登録番号 6799829
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、及び非水電解質二次電池  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ