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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F24F
審判 全部申し立て 特174条1項  F24F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F24F
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:83  F24F
管理番号 1385190
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-08 
確定日 2022-03-29 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6824779号発明「空気調和機の防カビ方法およびそれを用いた空気調和機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6824779号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の明細書について訂正することを認める。 特許第6824779号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6824779号の請求項1〜6に係る特許についての出願は、平成29年2月28日に出願され、令和3年1月15日にその特許権の設定登録がされ、令和3年2月3日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての主な経緯は、以下のとおりである。

令和3年7月8日 : 特許異議申立人伊藤裕美(以下、「異議申立人」という。)による請求項1〜6に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年10月7日付け : 取消理由通知書
令和3年12月10日 : 特許権者による意見書、乙第1号証(特開2012−215347号公報)及び訂正請求書の提出
令和3年12月22日付け : 訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項
令和4年1月27日 : 異議申立人による意見書及び甲第4号証(「平成14年(行ケ)第188号 特許取消決定取消請求事件」の判決文写し)の提出

2 訂正の適否
(1)訂正の内容
令和3年12月10日の訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書を、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示すために当審で付したものである。)。

ア 訂正事項1
特許明細書の段落【0015】に
「本発明の他の形態は、熱交換器と、熱伝導材から成形されて、前記熱交換器の下方に配置されるドレンパンと、熱伝導材から成形されて前記熱交換器および前記ドレンパンに溜まった結露水にそれぞれ連結される第1伝熱部材と、前記熱交換器に結合されて、前記熱交換器との間で結露水の表面張力に基づき前記結露水を保持する楔形状を作り出す第2伝熱部材とを備える空気調和機に関する。」とあるのを、
「本発明の他の形態は、熱交換器と、熱伝導材から成形されて、前記熱交換器の下方に配置されるドレンパンと、熱伝導材から成形されて前記熱交換器および前記ドレンパンに溜まった結露水にそれぞれ連結される第1伝熱部材と、前記熱交換器に結合されて、前記熱交換器の前側体および後側体を相互に連結する連結体と前記熱交換器との間で結露水の表面張力に基づき前記結露水を保持する楔形状を作り出す第2伝熱部材とを備える空気調和機に関する。」に訂正する。

イ 訂正事項2
特許明細書の段落【0016】に
「熱交換器の表面から流れ落ちドレンパンに溜まった結露水には第1伝熱部材を通じて確実に熱は伝達される。熱交換器と第2伝熱部材との間に形成される楔形状の空間には表面張力の働きで結露水は保持される。冷媒の凝縮に基づき熱交換器が加熱されると、ドレンパンに溜まった結露水や楔空間に留まった結露水は確実に設定温度まで加熱される。ドレンパンに溜められる結露水や楔空間に保持される結露水は十分に加熱されることができる。加熱された結露水中で細菌やカビは殺菌される。こうして細菌やカビを殺して数を減少させることができる。」とあるのを、
「熱交換器の表面から流れ落ちドレンパンに溜まった結露水には第1伝熱部材を通じて確実に熱は伝達される。前記熱交換器の前側体および後側体を相互に連結する連結体と前記熱交換器との間に、第2伝熱部材により形成される楔形状の空間には表面張力の働きで結露水は保持される。冷媒の凝縮に基づき熱交換器が加熱されると、ドレンパンに溜まった結露水や楔空間に留まった結露水は確実に設定温度まで加熱される。ドレンパンに溜められる結露水や楔空間に保持される結露水は十分に加熱されることができる。加熱された結露水中で細菌やカビは殺菌される。こうして細菌やカビを殺して数を減少させることができる。」に訂正する。

(2)訂正要件についての判断
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、取消理由通知書において、「さらに、段落【0015】に『前記熱交換器との間で結露水の表面張力に基づき前記結露水を保持する楔形状を作り出す第2伝熱部材』と記載されているが、ここでいう第2伝熱部材によって作り出される『結露水を保持する楔形状』とは、例えば図5において、どの部分を指すのか不明である。」と指摘されたことに基づいて、「結露水を保持する楔形状」が図5においてどの部分を指すのかを明確にするための訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
図5において、伝熱部材74a及び74b自体が楔形状であって、熱交換器14の前側体14a及び後側体14bと連結体73との間で伝熱部材74a及び74bが存在しない部分が楔形状の空間を形成し、そこに結露水を保持することは明らかであるから、訂正事項1は、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項1は、特許請求の範囲に記載された発明とは関連しない。また、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

イ 訂正事項2
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は、取消理由通知書において、「さらに、段落【0016】に『熱交換器と第2伝熱部材との間に形成される楔形状の空間には表面張力の働きで結露水は保持される』と記載されているが、ここでいう『熱交換器と第2伝熱部材との間に形成される楔形状の空間』とは、例えば図5において、どの部分を指すのか不明である。また、段落【0016】に『ドレンパンに溜まった結露水や楔空間に留まった結露水は確実に設定温度まで加熱される。ドレンパンに溜められる結露水や楔空間に保持される結露水は十分に加熱されることができる。』と記載されているが、ここでいう『楔空間』とは、例えば図5において、どの部分を指すのか不明である。」と指摘されたことに基づいて、「楔形状の空間」及び「楔空間」が図5においてどの部分を指すのかを明確にするための訂正である。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
「第2伝熱部材」とは「第1伝熱部材74a」及び「第2伝熱部材74b」を指しており、図5を見れば、伝熱部材74a及び74b自体が楔形状であり、熱交換器14の前側体14a及び後側体14bと連結体73との間で伝熱部材74a及び74bが存在しない部分が楔形状の空間を形成し、そこに結露水を保持することは明らかである。それゆえ、「楔形状の空間」が図5においてどの部分を指すのかを明確にするために、楔形状の空間が「前記熱交換器の前側体および後側体を相互に連結する連結体と前記熱交換器との間に、第2伝熱部材により形成される」ことを明示する訂正を行ったものであるから、訂正事項2は、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項である。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項2は、特許請求の範囲に記載された発明とは関連しない。また、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(3)小活
上記のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正することを認める。

3 本件特許の請求項1〜6に係る発明
本件特許の請求項1〜6に係る発明は、特許請求の範囲に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
冷媒の蒸発に伴う結露水で熱交換器の表面を濡らす工程と、
冷媒の凝縮に基づき前記熱交換器を加熱し、摂氏45度以上摂氏60度以下に前記熱交換器の温度を維持し、前記結露水中の湿熱殺菌を実施する工程と、
を備えることを特徴とする空気調和機の防カビ方法。
【請求項2】
請求項1に記載の空気調和機の防カビ方法において、前記熱交換器は、前記冷媒の循環経路を構成する冷媒管に結合されて、相互に平行に広がる放熱フィンを備えることを特徴とする空気調和機の防カビ方法。
【請求項3】
請求項2に記載の空気調和機の防カビ方法において、前記熱交換器は空気調和機に含まれる送風ファンの回転軸よりも前側に配置される前側体および送風ファンの回転軸よりも後側に配置される後側体を含み、前記熱交換器の加熱にあたって、前記熱交換器の前側体および後側体を相互に連結する連結体に前記熱交換器から熱を伝え、前記連結体が設定温度に達するまで前記凝縮を実施することを特徴とする空気調和機の防カビ方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気調和機の防カビ方法において、前記熱交換器の加熱にあたって、前記熱交換器から落ちる結露水を受けるドレンパンに溜まった結露水に前記熱交換器から熱を伝え、前記ドレンパンに溜まった結露水が設定温度に達するまで前記凝縮を実施することを特徴とする空気調和機の防カビ方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気調和機の防カビ方法において、前記凝縮時に設定される圧縮機の過負荷条件は、暖房運転時に設定される前記圧縮機の過負荷条件に比べて緩和されることを特徴とする空気調和機の防カビ方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の空気調和機の防カビ方法において、前記熱交換器の加熱時に送風ファンの回転を停止することを特徴とする空気調和機の防カビ方法。」

4 特許異議申立理由の概要及び証拠方法
特許異議申立書における特許異議申立理由の概要及び証拠方法は以下のとおりである。
(1)特許異議申立理由の概要
ア 特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)について
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一である。

イ 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
本件特許の請求項1〜6に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

ウ 特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)について
本件特許の請求項1〜6に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確ではなく、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

エ 特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)について
発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項1〜6に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

オ 特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)について
本件特許の請求項1〜6に係る発明は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものでなく、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

カ 特許法第17条の2第3項(同法第113条第1号
設定登録時の明細書段落【0007】、【0008】、【0015】及び【0016】に記載された事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものでないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。

(2)証拠方法
甲第1号証:特開2000−213795号公報
甲第2号証:特開2006−125801号公報
甲第3号証:実願平4−30239号(実開平5−90213号)のCD−ROM
(以下「甲第1号証」等を、「甲1」等という。)

5 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
請求項1〜6に係る特許に対して、当審が令和3年10月7日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1(新規性
下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
理由2(進歩性
下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由3(新規事項の追加
平成30年6月11日付け手続補正書でした補正は、以下の点で当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。

理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
<請求項1に係る発明について>
請求項1に係る発明は、甲1発明と同一、又は甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

理由2(進歩性)について
<請求項2に係る発明について>
請求項2に係る発明は、甲1発明及び甲2に記載された技術1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
<請求項3に係る発明について>
請求項3に係る発明は、甲1発明、甲2に記載された技術1、及び甲3に記載された技術1、2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
<請求項4に係る発明について>
請求項4に係る発明は、甲1発明、甲2に記載された技術1、2、及び甲3に記載された技術1、2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
<請求項5に係る発明について>
請求項5に係る発明は、甲1発明、甲2に記載された技術1、2、及び甲3に記載された技術1、2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
<請求項6に係る発明について>
請求項6に係る発明は、甲1発明、甲2に記載された技術1ないし3、及び甲3に記載された技術1、2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

理由3(新規事項の追加)について
平成30年6月11日付け提出の手続補正書による段落【0008】、【0015】、【0016】に関する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではなく、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。

<取消理由通知において採用した証拠方法>
甲第1号証:特開2000−213795号公報
甲第2号証:特開2006−125801号公報
甲第3号証:実願平4−30239号(実開平5−90213号)のCD−ROM

(2)甲各号証の記載
ア 甲1
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付したものである。以下同様。)。
(ア)「【要約】
【課題】 室内機内部での菌類の繁殖を抑制し、室内空間の快適性を向上することができる空気調和装置を提供すること。
【解決手段】 室内機3と室外機2とを備え、冷暖房運転が可能なヒートポンプ式の空気調和装置1において、室内機3の室内熱交換器7を凝縮器として機能させて、室内機3内をカビ・ダニなどの菌類の生育可能温度以上の一定温度(60℃)を所定の時間(60分)維持する減菌モードを実行する。これによって、室内機3内の菌類を死滅させてその数を減少させると共に、室内機3内部の水分の蒸発を促進させる。」

(イ)「【0004】従って、暖房シーズンでは空気調和装置で暖房運転をすることで室内機内部を30〜65℃に加熱することができるため、菌類の繁殖は皆無であるが、冷房シーズンでは冷房運転をすることで室内機内部が10〜30℃になり、かつ、熱交換器で発生する結露水(ドレン水)による湿気も豊富にあるため、菌類の繁殖は著しい。このように室内機内部でカビが繁殖すると、空調運転の開始時に不快なカビの臭いが室内に吹き出し、ユーザに不快感を与えることになる。そして、臭いだけでなく、カビの胞子を人間が吸い込むと喘息の原因になる場合もある。また、ダニについては、臭いはしないものの、カビと同様に人間が吸い込むと喘息の原因になる場合がある。このような菌類の吹出しは、冷房シーズンや暖房シーズンの初め頃が特に顕著である。これは、空気調和装置を使用しないオフシーズンに繁殖した菌類が室内機内部にこもっているからである。」

(ウ)「【0019】室外熱交サーミスタ17は、室外熱交換器5に付設されており、熱交温度として、冷房運転時には凝縮器として機能する室外熱交換器5の凝縮温度を検出し、暖房運転時には蒸発器として機能する室外熱交換器5の蒸発温度を検出する。また、室内熱交サーミスタ18は、室内熱交換器7に付設されており、熱交温度として、冷房運転時には蒸発器として機能する室内熱交換器7の蒸発温度を検出し、暖房運転時には凝縮器として機能する室内熱交換器7の凝縮温度を検出する。さらに、室外温度サーミスタ19は室外機2の適当な場所に配置されており、室外温度を検出し、また室内温度サーミスタ20は室内機3の適当な場所に配置されており、室内温度を検出する。」

(エ)「【0022】また空気調和装置1では、リモコン等の操作手段からの指示に基づいて、減菌モードの実行が可能である。減菌モードとは、室内機3の室内熱交換器7を凝縮器として機能させて、少なくとも室内機3内をカビ・ダニなどの菌類の生育可能温度以上に上昇させる運転モードであり、室内機3内部の菌類の減菌とドレン水等の水分の蒸発の促進を行うものである。これによって、室内機3内部の菌類は全て死滅するかあるいは数が減少し、また生育に必要な水分も減少するので、室内機3内部での菌類の繁殖を抑制できる。
【0023】ところで、減菌モードでの運転は短時間では効果は低く、できる限り長時間行うことが好ましい。従って、空調運転(冷暖房運転等)を行っていないときに常時行うようにすれば最も効果的ではあるが、電力消費の問題や室内環境への影響などを考慮すると現実的ではなく、菌類の生育可能温度以上の一定温度を所定の時間維持した後に減菌モードを停止するようにする。
【0024】ここで、菌類の生育可能温度以上の一定温度とは、50℃以上であり、好ましくは60℃以上である。これは、一般的なカビやダニの生育限界は約50℃とされているからであり、またコウジカビなどの特殊なカビの生育限界は約60℃とされているからである。また、一定温度を維持する時間は、60分以上である。これは、菌類の生育可能温度以上の一定温度をほぼ60分維持すれば、菌類が概ね死滅することが知られているからである。
【0025】具体的に減菌モードの運転は、室内機3の室内熱交換器7の凝縮温度を50℃以上、好ましくは60℃以上となるように暖房運転と同じサイクルで行う。但し、室内ファン7aは冷暖房運転時の最小風速以下の風速、いわゆる超微風速となるように制御される。これは、減菌モードは室内機3の内部の温度を上昇させることが目的であるため、空調運転の際の風速は必要としないからであり、また室内ファン7aを停止させたのでは室内熱交換器7のみが高温となり、室内機3の内部全体を加熱することができないからである。尚、超微風速で減菌モードを行うことによって、室内環境への影響を最小限に抑えることができ、室内に人が居るときや空調運転の途中で行うことも可能となる。
【0026】また制御部16は、圧縮機4の目標運転周波数FKINを、運転可能な上限値に設定しておき、室内熱交換器7の熱交温度DCがなるべく高くなるようにする。さらに制御部16は、タイマTKIN0を60分にセットし、タイマオーバになるまで減菌モードを継続する。」

(オ)「【0034】ところで、減菌モードはいつ行ってもよい。例えば、冷房シーズンの終り頃と暖房シーズンの終り頃に行えば、オフシーズン中に菌類が繁殖することが防止され、これまでは暖房シーズンの初め頃や冷房シーズンの初め頃に特に起こり易かった不快な臭いやホコリの発散を低減できる。また、菌類の繁殖の著しい冷房シーズン中に適宜行うようにすれば、菌類の繁殖を効果的に抑制することができる。尚、減菌モードは室内に人がいないときに行う方が良いが、空調運転の途中で行うようにしても良い。例えば、冷房運転中に減菌モードを実行し、終了後に再び冷房運転を再開するようにしてもよい。」

上記(ア)〜(オ)の記載事項を総合すると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「冷媒の凝縮に基づき熱交換器を加熱し、摂氏50度以上に前記熱交換器の温度を維持し、室内機内部の減菌を実施する工程を備える空気調和装置の減菌モード。」

イ 甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0002】
微生物の不活化方法としては加熱処理があるが、微生物を加熱空気による乾熱加熱を行う場合と、蒸気や熱水による湿熱加熱を行う場合とで不活化効果は大きく異なる。すなわち、湿熱加熱は乾熱加熱に比べて不活化効果が大きいことが知られている(例えば、非特許文献1)。この理由としては、微生物の生育培地の水分量が多くなるほど、微生物への伝熱量も大きく加熱効果が高くなり、微生物を構成する蛋白質および核酸が熱変性しやすくなるためと考えられる。」

(イ)「【0017】
次に、このような空気調和機の冷凍サイクルにおける動作を説明する。図1において冷房サイクル運転では、冷媒は実線矢印Aのように流れ、室内熱交換器14で蒸発し、室外熱交換器22で放熱する。また、逆冷房サイクル運転では、冷媒は破線矢印Bのように流れ、室外熱交換器22で蒸発し、室内熱交換器14で放熱する。なお、このような冷媒の流れの切り替えは四方弁28で行われ、圧縮機26は冷媒を高温、高圧にして放熱しやすくし、膨張弁24では冷媒の圧力を低下させて蒸発させやすくしている。
【0018】
図2は、本発明の実施の形態の空気調和機における室内熱交換器14の斜視図である。室内熱交換器14は、例えば冷媒が通る銅管36とアルミ製のフィン38で構成されるフィンチューブ型で、その表面に結露センサ12および温度センサ13が備えられている。温度センサ13の取り付け位置は室内熱交換器14の表面を平均する温度を計測できるように、銅管36とフィン38の辺縁の中央がよい。冷房サイクル運転では、室内熱交換器14で冷媒が蒸発し、その表面が低温になるため結露して結露水40に覆われた状態になっている。ここでフィン38の表面は一様に水膜に覆われているが、フィン38の上端から下端にかけて水滴を形成し、ドレンパン44に流下する。従ってフィン38の下端が最も濡れた状態になっている。そのため図2に示すように、逆冷房サイクル運転時の圧縮機からの高温冷媒を室内熱交換器14の下部から上部に向けて循環させると、最も微生物42が生育しやすい箇所から高温加熱できるので効果的である。」

(ウ)「【0020】
図3は、本発明の実施の形態の空気調和機の運転方法である微生物の不活化運転のフローチャートである。冷房サイクル運転を行っているときに、不活化運転の指示が出されると、第1ステップでは結露センサにより室内熱交換器の表面が結露水で覆われているかを確認する。結露水で覆われていないと、室内熱交換器の表面が結露水で覆われるまで冷房サイクル運転を続ける。結露水で覆われると、ファンを停止する。また、室内熱交換器の急速な昇温を図るために室内機吹出口を閉鎖してもよい。第2ステップでは逆冷房サイクル運転を行い、室内熱交換器を昇温させる。そして室内熱交換器の表面温度を温度センサで計測し、微生物の蛋白質変性温度に達しているか確認する。微生物の蛋白質変性温度に達していないと、逆冷房サイクル運転を続ける。第3ステップでは室内熱交換器の表面の温度が微生物の蛋白質の構造を破壊する蛋白質変性温度に達すると、室内熱交換器をその温度以上で所定時間保持する。」

(エ)「【0024】
次に、本発明の実施の形態の空気調和機の運転方法での微生物の不活化条件についての実験方法を説明する。室内熱交換器の表面温度を約15℃とした冷房サイクル運転から、逆冷房サイクル運転に切り替え結露水が蒸発しない条件で、到達させる室内熱交換器14の表面温度とその温度で保持する時間を変えた。そして、それぞれの温度と時間の組み合わせにおける室内熱交換器14のアルミフィン上の微生物が死滅せずに残っている生残菌数を計測した。その計測の試験方法は菌転写法を、菌数の測定方法は平板混釈法を用いた。」

(オ)「【0035】
(表3)からわかるように、室内熱交換器の表面温度を85℃以上で、10分以上保持する条件で微生物の生残菌数が、逆冷房サイクル運転前で15℃の室内熱交換器での生残菌数の1000分の1未満に減少している。また、このときの微生物の種類を調べるとウエルシ菌であった。従って、室内熱交換器の表面温度を少なくとも85℃で、10分保持するとウエルシ菌の生残菌数が減少し、不活化できることがわかる。このように不活化運転の温度、時間条件を異ならせることで、室内熱交換器の表面で生育する微生物を選択的に不活化することもできる。具体的には、逆冷房サイクル運転で到達させる室内熱交換器の表面の温度を複数に変えるようにすればよい。例えば2段階に変え、「不活化ノーマル運転」は、空中浮遊細菌および真菌を不活化する。これらの微生物を不活化させる条件は、室内熱交換器の表面温度を75℃以上で5分以上保持すれば不活化できる。「不活化強運転」は、ウエルシ菌を不活化する。この微生物を不活化させる条件は、室内熱交換器の表面温度を85℃以上で10分以上保持すれば不活化できる。
【0036】
なお、不活化運転の指示は図1に示すように、リモコン35から行うようにすればよい。このようにすれば、不活化運転を行うタイミングを選択でき、冷房運転を終了し無人となった室内で不活化運転を行えるため、高温気流による不快を感じることもないし、毎日繰返して行う等の不活化運転の効果的な運転方法も選択できる。
【0037】
また図2に示すように、室内熱交換器14の結露水40を受けるドレンパン44の通水面46と反対面48に、室内熱交換器14を分岐した銅管50を接触させてもよい。通水面46は常に結露水40が供給されるので、生育しやすい環境である。従って、このようなドレンパン44も上述した微生物の生育上限温度以上で所定時間保持すればよい。ドレンパン44の材質としては、伝熱特性に優れたアルミ等の金属がよい。また、図2に示すように室内熱交換器14を弁52で銅管36と銅管50とに分岐させ、逆冷房サイクル運転のときのみ銅管50に冷媒を流すようにすればよい。このようにすることで、冷房サイクル運転時に、冷房能力が低下することもなく、また銅管50による結露が生じることもない。」

(カ)




ウ 甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0007】
熱交換器8は水平方向に三つに折り曲げられ、隣接する二つが逆V字形に形成されたもので、その一つを本体2側に向け、他を前面カバー3側に向けて配置している。送風機9は逆V字形に形成された熱交換器8の下部中央に設けている。このような配置であれば送風機9と三つに折り曲げられた各熱交換器との距離差が少なくなり、熱交換器8を通過する空気の分布(風速分布)を良くすることができると共に、筐体1を小型化することができるからである。なお、図の11および12はそれぞれ熱交換器8から流下する結露水を受けるための露受け溝で、後方の露受け溝12に集められた結露水は図示しない水路により前方の露受け溝11に導かれるようになっている。
【0008】
ところで、図示のような熱交換器8では、その折り曲げ部が開放されたままになっていると、そこを熱交換されない空気が通過し、熱交換率が低下する。そこで、本実施例においては、逆V字形に形成されている熱交換器8の折り曲げ部の下部に遮風板13を設けている。この遮風板13は図3に示すような逆V字形の成形品で、熱交換器8に対応した長さになっている。一方、熱交換器8のフィンには遮風板13の装着に必要な図4に示すような切欠部14が形成されている。この切欠部14はフィンの製作時に打ち抜かれたものである。
【0009】
矢印は上部の吸込口4aから流入する空気の流れを表しているが、熱交換器8に遮風板13が装着されていると、熱交換器8の折り曲げ部に向かった空気流は遮風板13によって前後に振り分けられ、折り曲げによって出来た前後二つの熱交換器内を流れるようになる。なお、遮風板13は樹脂成形品であるが、これに限定するものではなく、例えば、アルミ材を使用して所定の形状に加工したものであってもよく、また、最初から所定の形状に形成されたものでなく、熱交換器8が所定の形状に折り曲げられる前に平板のまま切欠部14に装着し、熱交換器8と同時に所定の形状に成形してもよい。」

(イ)




(3)当審の判断
ア 理由1,2について
本件特許の請求項1〜6に係る発明を、以下「本件発明1」等という。
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(a)甲1発明の「冷媒の凝縮に基づき熱交換器を加熱し、摂氏50度以上に前記熱交換器の温度を維持」することは、摂氏50度以上摂氏60度以下の範囲において、本件発明1の「冷媒の凝縮に基づき前記熱交換器を加熱し、摂氏45度以上摂氏60度以下に前記熱交換器の温度を維持」することに相当する。

(b)甲1発明の減菌モードは、甲1の段落【0022】の記載によるとカビを死滅させることを目的としているので、防カビ方法であり、また、本件発明1の結露水中の湿熱殺菌は、室内機内部の殺菌である。そうすると、甲1発明の「室内機内部の減菌を実施する空気調和装置の減菌モード」は、本件発明1の「結露水中の湿熱殺菌を実施する工程と、を備える空気調和機の防カビ方法」と、「室内機内部の殺菌を実施する工程を備える空気調和機の防カビ方法」という限りにおいて共通する。

以上から、本件発明1と甲1発明とは、
「冷媒の凝縮に基づき前記熱交換器を加熱し、摂氏45度以上摂氏60度以下に前記熱交換器の温度を維持し、室内機内部の殺菌を実施する工程を備える空気調和機の防カビ方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
「防カビ方法」に関して、本件発明1では、「冷媒の蒸発に伴う結露水で熱交換器の表面を濡らす工程」を備えるものであるのに対し、甲1発明では、そのような工程を備えるものか否か不明な点。

[相違点2]
「室内機内部の殺菌を実施する工程」に関して、本件発明1では、「結露水中の湿熱殺菌を実施する工程」であるのに対し、甲1発明では、「室内機内部の減菌を実施する工程」である点。

b 判断
上記相違点1について検討する。
甲1の段落【0034】に、「ところで、減菌モードはいつ行ってもよい。例えば、冷房シーズンの終り頃と暖房シーズンの終り頃に行えば、オフシーズン中に菌類が繁殖することが防止され、これまでは暖房シーズンの初め頃や冷房シーズンの初め頃に特に起こり易かった不快な臭いやホコリの発散を低減できる。また、菌類の繁殖の著しい冷房シーズン中に適宜行うようにすれば、菌類の繁殖を効果的に抑制することができる。尚、減菌モードは室内に人がいないときに行う方が良いが、空調運転の途中で行うようにしても良い。例えば、冷房運転中に減菌モードを実行し、終了後に再び冷房運転を再開するようにしてもよい。」(下線は当審が付与。)と記載されていることから、特に冷房運転中に甲1発明の減菌モードを実行すれば、熱交換器が結露水で濡れている可能性が高く、この限りにおいて、本件発明1と同様に「冷媒の蒸発に伴う結露水で熱交換器の表面を濡らす工程」が実施されているといえる。しかし、甲1発明において減菌モードを実行する前に冷房運転を行うことは、減菌モードを実行する際に必ず行うものではない。すなわち、冷房運転は減菌モードに必ず含まれる工程とはいえない。そのことは、甲1の段落【0034】の「減菌モードはいつ行ってもよい。例えば、冷房シーズンの終り頃と暖房シーズンの終り頃に行えば、オフシーズン中に菌類が繁殖することが防止され、これまでは暖房シーズンの初め頃や冷房シーズンの初め頃に特に起こり易かった不快な臭いやホコリの発散を低減できる。」と記載されていることから明らかである。
そうすると、本件発明1の防カビ方法は、「冷媒の蒸発に伴う結露水で熱交換器の表面を濡らす工程」を必ず備えるものであるのに対して、甲1発明の減菌モードは、そのような工程を必ず備えるものではないので、相違点1は実質的な相違点である。
そして、上記したように甲1発明の減菌モードは、冷房運転中(冷媒の蒸発に伴う結露水で熱交換器の表面を濡らす工程後)に実行する場合もあるが、そもそも減菌モードはいつ実行してもよいものであるので、甲1発明の減菌モードにおいて、「冷媒の蒸発に伴う結露水で熱交換器の表面を濡らす工程」を必ず備えるようにする動機は存在しない。また、たとえ甲2,3に、湿熱加熱を目的とする「冷媒の蒸発に伴う結露水で熱交換器の表面を濡らす工程」に関する技術が記載されていたとしても、甲1発明に適用する動機は存在しない。

以上から、相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明と同一ではないし、甲1発明に基いて、又は甲1発明及び甲2、3に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1を直接的に引用するものであるから、本件発明2〜6と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1において相違する。
そうすると、本件発明2〜6は、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲2、3に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 理由3について
(ア)段落【0008】に関する補正について
エアコンの放熱フィン表面に、撥水性とする表面加工を施すことだけでなく、親水性とする表面加工を施すことも一般的であり(乙第1号証の段落【0002】参照。)、そして親水性の表面処理を施すと、放熱フィンの表面に結露水が付着することは避けられないので、結露水が付着した向かい合った放熱フィン同士の間に表面張力の働きで結露水が保持されることは自明な事項といえる。
そうすると、「向かい合った放熱フィン同士の間には表面張力の働きで結露水が保持されることができる。」という記載を含む段落【0008】に関する補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとまではいえない。

(イ)段落【0015】及び【0016】に関する補正について
特許権者は、令和3年12月10日提出の意見書の「5(5)イ 段落【0015】について」及び「5(5)ウ 段落【0016】について」において、段落【0015】及び【0016】に記載された「第1伝熱部材」とは、「第1伝熱部材74a」ではなく、「第3伝熱部材76」又は「第4伝熱部材77」を指し、「第2伝熱部材」とは、「第1伝熱部材74a」及び「第2伝熱部材74b」を指している旨の釈明を行った。
また、本件訂正により、「楔形状の空間」又は「楔空間」が特定され、当初明細書等の図5を見れば、伝熱部材74a及び74b自体が楔形状であり、熱交換器14と連結体73との間で伝熱部材74a及び74bが存在しない部分が楔形状の空間を形成し、そこに結露水を保持していることは明らかであるので、段落【0015】及び【0016】に関する補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとまではいえない。

6 取消理由通知において採用しなかった特許異議理由について
(1)特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、概略以下の主張をしている。
「本件発明1は、「冷媒の蒸発に伴う結露水で熱交換器の表面を濡らす工程」(上記発明特定事項A)との事項により特定される。しかし、発明特定事項Aは、(i)冷媒の蒸発に伴う結露水を生じさせる冷房運転や除湿運転(以下、纏めて冷房運転等という)がこの工程に含まれるのか、又は、(ii)冷房運転後に行われる専用の工程(段落0055〜0063)だけを指しているのかが、不明である。」
しかし、「冷媒の蒸発に伴う結露水で熱交換器の表面を濡らす工程」という記載自体は明確であり、また、本件明細書又は図面に当該記載における用語が通常の意味と矛盾する明示の定義が置かれているわけでもないので、当該記載は明確である。
よって、本件発明1〜6は明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、採用することができない。

(2)特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、概略以下の主張をしている。
「明細書段落0058には、「濡れ量の予め定めた規定量とは…蒸発することで湿熱殺菌が行えなくならない水量に設定」と記載されている。しかし、結露水はドレンパンへの落下によりすぐに表面で蒸発してしまい、湿熱殺菌を行うことができない。特に、段落0058には「室内熱交換器14の温度が下がり、結露水の生成は促進される」との記載がある。結露水の促進により室内熱交換器14の表面での水滴の大きさが大きくなるから、自重により落下し易い。この結果、表面はすぐに乾燥し、湿熱殺菌が行えなくなる。このため、単に「熱交換器の表面を濡らす」に過ぎない本件発明1において、例えば3分〜10分(段落0063)という長時間にわたって、どのように表面に結露水を保持するのかが発明の詳細な説明には記載されていない。」
しかし、結露水を保持する点については、本件の発明の詳細な説明の段落【0008】に「向かい合った放熱フィン同士の間には表面張力の働きで結露水が保持されることができる。」と記載されている。
よって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1〜6を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されており、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしている。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、採用することができない。

(3)特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、概略以下の主張をしている。
「(a)上記「(4−4−1)取消理由3(特許法第36条第6項第2号違反)」の(a)において(i)と解釈した場合、本件明細書段落0034等には、冷房運転等に次いで、更に室内熱交換器14の冷却及び加熱運転を行うことが記載されているにすぎず、本件発明1の工程としての冷房運転等の後、それとは別の冷却を行わずに加熱運転を行う防カビ方法は本件明細書等には記載されていない。
(b)上記「(4−4−2)取消理由4(特許法第36条第4項第1号違反)」において説明したように、例えば3分〜10分(段落0063)という長時間にわたって、どのように表面に結露水を保持するのかが発明の詳細な説明には記載されていない。このため、本件明細書に接した当業者にとって、単に「熱交換器の表面を濡らす」に過ぎない本件発明1〜6は、「細菌やカビを殺して数を減少させる、所謂殺菌を実現する」という本件発明の課題を解決できないことが明らかである。」
しかし、(a)の主張については、本件の発明の詳細な説明の段落【0059】に「推定された濡れ量が予め定めた規定量に達していれば、防カビ処理部81はステップS4で室内熱交換器14を加熱する。」と記載されている。また、(b)の主張については、上記「特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)について」に記載したように、結露水を保持する点については本件の発明の詳細な説明の段落【0008】に記載されていることから、その前提において誤っている。
よって、本件発明1〜6は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、採用することができない。

(4)特許法第17条の2第3項(同法第113条第1号)について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、概略以下の主張をしている。
「段落【0007】に関する「湿熱殺菌」の定義について、出願当初は「湿度が高い状態で細菌やカビに熱を与える」とあるが、設定登録時には「結露水中であれば十分に殺菌効果」に変更されている。「湿度」とは、気体中における蒸気の相対量であることが当業者にとっての技術常識であるから、出願当初の「湿熱殺菌」は、あくまで気体中での水分による殺菌と、当業者は理解するはずである。また、「気体中での水分による殺菌」から「結露水中での殺菌」が自明といえるものでもない。従って、「湿熱殺菌」の定義に関する補正は、新たな技術的事項を追加するものである。
さらに、段落【0007】の「特に、空気調和機の分野で一般的な冷媒が使用される場合には、当業者に知られるように、熱交換器で実質的に摂氏60度を超える温度の実現は難しいことから、これまでになく実用的な湿熱殺菌が完成した。」等の技術的事項も当初明細書に記載されておらず、自明でもないから、新たな技術的事項である。」
しかし、湿熱殺菌が結露水中の殺菌であることについては、本件の発明の詳細な説明の段落【0010】に「こうして熱交換器では前側体および後側体を相互に連結する連結体が十分な設定温度まで加熱されるので、連結体の表面に生成される結露水とともに細菌やカビは十分に加熱され、湿熱殺菌が実施される。」と記載されている。さらに、熱交換器で実質的に摂氏60度を超える温度の実現は難しいことについては、そもそも技術常識であり、それを示唆する記載として、段落【0061】に「室内熱交換器14の加熱にあたって、室内熱交換器14の温度が60度を超えて過負荷条件とならないようにするために、膨張弁17の開度および、送風ファン23、24の回転は適宜調整されればよい。」と記載されている。
よって、段落【0007】に関する補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、採用することができない。

7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (54)【発明の名称】空気調和機の防カビ方法およびそれを用いた空気調和機
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機の防カビ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および2は空気調和機を開示する。例えば日本では夏場の冷房運転時に室内熱交換器の表面に結露水が生成される。結露水はカビの繁殖の要因となる。カビは不快な臭いの原因となる。空気調和機の室内機ではカビの抑制が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−62000号公報
【特許文献2】特開2016−65687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2に記載の空気調和機は、細菌やカビの繁殖を抑制するにあたって、冷房運転後に室内機の本体内を乾燥するため、熱交換器を加熱する。しかしながら、こうした乾燥のための加熱は細菌やカビの生育を抑制できても、細菌やカビを殺して数を減少させる、いわゆる殺菌には繋がらない。熱交換器が乾燥している状態では、温度を摂氏150度以上にしないと、細菌やカビを殺して数を減少させることはできない。一般には、空気調和機の熱交換器を乾燥させるための暖房運転時における熱交換器の温度は、摂氏40度程度に設定される。冷房運転が再度行われると、生育が抑制されていた細菌やカビが、再び繁殖する可能性が潜在していた。
【0005】
本発明は、熱交換器を加熱することで、細菌やカビを殺して数を減少させる、いわゆる殺菌を実現する空気調和機の防カビ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態は、結露水で熱交換器の表面を濡らす工程と、冷媒の凝縮に基づき熱交換器を加熱し、摂氏45度以上摂氏60度以下に前記熱交換器の温度を維持する工程とを備える空気調和機の防カビ方法(カビの防除方法)に関する。
【0007】
本発明者は、たとえ摂氏45度以上摂氏60度以下の温度範囲であっても結露水中であれば十分に殺菌効果(以下、「湿熱殺菌」と称する)が得られることを見出した。特に、空気調和機の分野で一般的な冷媒が使用される場合には、当業者に知られるように、熱交換器で実質的に摂氏60度を超える温度の実現は難しいことから、これまでになく実用的な湿熱殺菌が完成した。摂氏60度以下の温度でありながら、結露水中で細菌やカビを加熱することで、単に生育を抑制した状態よりも細菌やカビの数を減少させ、不快な臭いの発生は防止される。
【0008】
前記熱交換器は、前記冷媒の循環経路を構成する冷媒管に結合されて、相互に平行に広がる放熱フィンを備えてもよい。向かい合った放熱フィン同士の間には表面張力の働きで結露水が保持されることができる。こうして放熱フィンの表面に保持された結露水が加熱されることで、放熱フィンの表面で湿熱殺菌は実現されることができる。放熱フィンの表面で細菌やカビの数を減少させることができる。
【0009】
空気調和機の防カビ方法は、前記熱交換器の表面を濡らす際に前記熱交換器内で前記冷媒を蒸発させればよい。熱交換器の温度が下がり、効率的に熱交換器の表面に結露水が生成される。熱交換器の表面では十分な濡れが確保されることができる。
【0010】
空気調和機の防カビ方法は、前記熱交換器の加熱にあたって、前記熱交換器の前側体および後側体を相互に連結する連結体を設け、前記熱交換器から熱を伝え、前記連結体が設定温度に達するまで前記冷媒の凝縮を実施してもよい。こうして熱交換器では前側体および後側体を相互に連結する連結体が十分な設定温度まで加熱されるので、連結体の表面に生成される結露水とともに細菌やカビは十分に加熱され、湿熱殺菌が実施される。
【0011】
熱交換器を連結する連結体は、熱交換器の前側体および後側体の空隙を遮風するものである。連結体は、前記冷媒の蒸発により温度が下がった熱交換器の伝熱を受け、表面に結露水が発生する。連結体は遮風するものであるため、連結体の近傍は結露水が蒸発しにくい。連結体の近傍を乾燥させることが困難であった。湿熱殺菌を実施することで、空気が流通しにくい連結体近傍の細菌やカビを殺して数を減少させることができる。
【0012】
空気調和機の防カビ方法は、前記熱交換器の加熱にあたって、前記熱交換器に連結されて、前記熱交換器から落ちる結露水を受けるドレンパンを備え、前記ドレンパンに溜まった結露水に前記熱交換器から熱を伝え、前記ドレンパンに溜まった結露水が設定温度に達するまで前記凝縮を実施してもよい。こうしてドレンパンに溜まった結露水が十分な設定温度まで加熱されるので、ドレンパンに溜められる結露水とともに細菌やカビは十分に加熱され、湿熱殺菌が実施される。
【0013】
前記凝縮時に設定される圧縮機の過負荷条件は、暖房運転時に設定される前記圧縮機の過負荷条件に比べて緩和されてもよい。凝縮時には圧縮機の過負荷条件は緩和されるので、暖房運転時に比べて熱交換器は高い温度まで加熱されることができる。細菌やカビの湿熱殺菌は実現される。
【0014】
空気調和機の防カビ方法は、前記熱交換器の加熱時に送風ファンの回転を停止してもよい。結露水の蒸発は確実に抑制されることができる。
【0015】
本発明の他の形態は、熱交換器と、熱伝導材から成形されて、前記熱交換器の下方に配置されるドレンパンと、熱伝導材から成形されて前記熱交換器および前記ドレンパンに溜まった結露水にそれぞれ連結される第1伝熱部材と、前記熱交換器に結合されて、前記熱交換器の前側体および後側体を相互に連結する連結体と前記熱交換器との間で結露水の表面張力に基づき前記結露水を保持する楔形状を作り出す第2伝熱部材とを備える空気調和機に関する。
【0016】
熱交換器の表面から流れ落ちドレンパンに溜まった結露水には第1伝熱部材を通じて確実に熱は伝達される。前記熱交換器の前側体および後側体を相互に連結する連結体と前記熱交換器との間に、第2伝熱部材により形成される楔形状の空間には表面張力の働きで結露水は保持される。冷媒の凝縮に基づき熱交換器が加熱されると、ドレンパンに溜まった結露水や楔空間に留まった結露水は確実に設定温度まで加熱される。ドレンパンに溜められる結露水や楔空間に保持される結露水は十分に加熱されることができる。加熱された結露水中で細菌やカビは殺菌される。こうして細菌やカビを殺して数を減少させることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように開示の方法によれば、従来よりも効果的な殺菌を実現する空気調和機の防カビ方法は提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る空気調和機の構成を概略的に示す概念図である。
【図2】一実施形態に係る室内機の外観を概略的に示す斜視図である。
【図3】室内機の本体の構成を概略的に示す斜視図である。
【図4】室内機の構造を概略的に示す分解斜視図である。
【図5】室内機の本体の拡大垂直断面図である。
【図6】制御部の構成を概略的に示すブロック図である。
【図7】防カビ処理動作を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。
【0020】
(1)空気調和機の構成
図1は本発明の一実施形態に係る空気調和機11の構成を概略的に示す。空気調和機11は室内機12および室外機13を備える。室内機12は例えば建物内の室内空間に設置される。その他、室内機12は室内空間に相当する空間に設置されればよい。室内機12には室内熱交換器14が組み込まれる。室外機13には圧縮機15、室外熱交換器16、膨張弁17および四方弁18が組み込まれる。室内熱交換器14、圧縮機15、室外熱交換器16、膨張弁17および四方弁18は冷凍回路19を形成する。室外機13は、室外空気との熱交換が可能な屋外に設置されればよい。
【0021】
冷凍回路19は第1循環経路21を備える。第1循環経路21は四方弁18の第1口18aおよび第2口18bを相互に結ぶ。第1循環経路21には圧縮機15が設けられている。圧縮機15の吸入管15aは四方弁18の第1口18aに冷媒配管を介して接続される。第1口18aからガス冷媒は圧縮機15の吸入管15aに供給される。圧縮機15は低圧のガス冷媒を所定の圧力まで圧縮する。圧縮機15の吐出管15bは四方弁18の第2口18bに冷媒配管を介して接続される。圧縮機15の吐出管15bからガス冷媒は四方弁18の第2口18bに供給される。冷媒配管は例えば銅管であればよい。
【0022】
冷凍回路19は第2循環経路22をさらに備える。第2循環経路22は四方弁18の第3口18cおよび第4口18dを相互に結ぶ。第2循環経路22には、第3口18c側から順番に室外熱交換器16、膨張弁17および室内熱交換器14が組み込まれる。室外熱交換器16は、通過する冷媒と周囲の空気との間で熱エネルギーを交換する。室内熱交換器14は、通過する冷媒と周囲の空気との間で熱エネルギーを交換する。
【0023】
室外機13には送風ファン23が組み込まれる。送風ファン23は室外熱交換器16に通風する。送風ファン23は例えば羽根車の回転に応じて気流を生成する。送風ファン23の働きで気流は室外熱交換器16を通り抜ける。室外の空気は室外熱交換器16を通り抜け冷媒と熱交換する。熱交換された冷気または暖気の気流は室外機13から吹き出される。通り抜ける気流の流量は羽根車の回転数に応じて調整される。
【0024】
室内機12には送風ファン24が組み込まれる。送風ファン24は室内熱交換器14に通風する。送風ファン24は羽根車の回転に応じて気流を生成する。送風ファン24の働きで室内機12には室内空気が吸い込まれる。室内空気は室内熱交換器14を通り抜け冷媒と熱交換する。熱交換された冷気または暖気の気流は室内機12から吹き出される。通り抜ける気流の流量は羽根車の回転数に応じて調整される。
【0025】
室内機12には上下風向板25a、25bを備える。上下風向板25a、25bは、室内機12から吹き出される気流の向きを規定する。上下風向板25a、25bの構造の詳細は後述される。
【0026】
冷凍回路19で冷房運転が実施される場合には、四方弁18は第2口18bおよび第3口18cを相互に接続し第1口18aおよび第4口18dを相互に接続する。したがって、圧縮機15の吐出管15bから高温高圧の冷媒が室外熱交換器16に供給される。冷媒は室外熱交換器16、膨張弁17および室内熱交換器14を順番に流通する。室外熱交換器16では冷媒から外気に放熱する。膨張弁17で冷媒は低圧まで減圧される。減圧された冷媒は室内熱交換器14で周囲の空気から吸熱する。冷気が生成される。冷気は送風ファン24の働きで室内空間に吹き出される。
【0027】
冷凍回路19で暖房運転が実施される場合には、四方弁18は第2口18bおよび第4口18dを相互に接続し第1口18aおよび第3口18cを相互に接続する。圧縮機15から高温高圧の冷媒が室内熱交換器14に供給される。冷媒は室内熱交換器14、膨張弁17および室外熱交換器16を順番に流通する。室内熱交換器14では冷媒から周囲の空気に放熱する。暖気が生成される。暖気は送風ファン24の働きで室内空間に吹き出される。膨張弁17で冷媒は低圧まで減圧される。減圧された冷媒は室外熱交換器16で周囲の空気から吸熱する。その後、冷媒は圧縮機15に戻る。
【0028】
空気調和機11は温度センサ26aおよび湿度センサ26bを備える。温度センサ26aは室内熱交換器14に接続される。温度センサ26aは室内熱交換器14の温度を計測する。温度センサ26aは、計測された温度の温度情報を含む温度信号を出力する。湿度センサ26bは室内機12内に設置される。湿度センサ26bは室内機12内の相対湿度を計測する。湿度センサ26bは、計測された湿度の湿度情報を含む湿度信号を出力する。
【0029】
空気調和機11は制御部27を備える。制御部27は、例えば室外機13に組み込まれる図示しない制御ボード上に形成される。制御部27には、個別の信号線で、室外機13内の四方弁18、膨張弁17および圧縮機15が電気的に接続される。同様に、制御部27には、個別の信号線で室内機12内の送風ファン24の駆動モータ、上下風向板25a、25bの駆動源、温度センサ26aおよび湿度センサ26bが電気的に接続される。制御部27は、温度センサ26aからの温度信号や湿度センサ26bからの湿度信号に基づき、室外機13内の四方弁18、膨張弁17および圧縮機15、並びに、室内機12内の送風ファン24の動作を制御する。そうした制御の結果、後述されるように、空気調和機11の冷房運転や暖房運転、防カビ処理動作は実現される。制御部27は、リモコンから室内機12に入力される操作信号に基づき冷房運転中や暖房運転中に送風ファン24の動作や上下風向板25a、25bの動作を制御して、冷気や暖気の風量や風向きを変えることができる。
【0030】
(2)室内機の構成
図2は一実施形態に係る室内機12の外観を概略的に示す。室内機12の本体(筐体)28aにはアウターパネル28bが覆い被さる。本体28aの下面には吹出口29が形成される。吹出口29は室内に向けて開口する。本体28aは例えば室内の壁面に固定されることができる。室内熱交換器14で冷気または暖気が生成され、冷気または暖気の気流は吹出口29から吹き出す。
【0031】
吹出口29には前後1対の上下風向板25a、25bが配置される。上下風向板25a、25bはそれぞれ本体の長手方向と平行な水平軸線32a、32b回りに回転することができる。回転に応じて上下風向板25a、25bは吹出口29を開閉する。上下風向板25a、25bの角度に応じて、吹き出される気流の方向は変えられる。
【0032】
図3に示されるように、本体28aには吸込口33が形成される。吸込口33は本体28aの正面および上面で開口する。室内の空気は吸込口33から本体28a内に取り込まれ、室内熱交換器14に向けて供給される。
【0033】
吸込口33には水平軸線32a、32bに平行な方向にエアフィルタアセンブリ34が並べられる。エアフィルタアセンブリ34はエアフィルタ35およびダストボックス36を備える。エアフィルタ35はダストボックス36に保持される。ダストボックス36は本体28aに着脱自在に取り付けられる。ダストボックス36が本体28aにセットされると、エアフィルタ35は吸込口33の全面にわたって配置される。
【0034】
ダストボックス36には前側のフィルタレール38が形成される。本体28aには前側のフィルタレール38の延長線上に対応して後側のフィルタレール39が形成される。フィルタレール38、39は水平軸線32a、32bに直交する垂直面に沿って延びる。エアフィルタ35の左右両端はスライド自在にフィルタレール38、39に保持される。エアフィルタ35は、後述する第2従動ギア52により駆動され、フィルタレール38、39に沿って移動する。
【0035】
図4に示されるように、本体28aには送風ファン24が回転自在に支持される。送風ファン24には例えばクロスフローファンが用いられる。送風ファン24は水平軸線32a、32bに平行な回転軸41回りで回転する。送風ファン24の回転軸41は本体28aの設置時の水平方向に延びる。送風ファン24は吹出口29に平行に配置される。送風ファン24には駆動源(図示されず)から回転軸41回りの駆動力が伝達される。駆動源は本体28aに支持される。送風ファン24の回転に応じて気流は室内熱交換器14を通過する。その結果、冷気または暖気の気流が生成される。冷気または暖気の気流は吹出口29から吹き出される。
【0036】
室内熱交換器14は前側体14aおよび後側体14bを備える。前側体14aは送風ファン24の前側から送風ファン24に向き合わせられる。後側体14bは送風ファン24の後側から送風ファン24に向き合わせられる。前側体14aおよび後側体14bは後述されるように上端で相互に連結される。前側体14aおよび後側体14bは冷媒管42aを有する。すなわち、冷媒管42aは、水平軸線32a、32bに平行に延び、本体28aの正面視左右端で折り返され、再び水平軸線32a、32bに平行に延び、再び本体28aの正面視左右端で折り返され、これらが繰り返される。冷媒管42aは第2循環経路22の一部を構成する。冷媒管42aには複数の放熱フィン42bが結合される。放熱フィン42bは水平軸線32a、32bに直交しつつ相互に平行に広がる。冷媒管42aおよび放熱フィン42bは例えば銅やアルミニウムといった金属材料から形成されることができる。冷媒管42aおよび放熱フィン42bを通じて冷媒と空気との間で熱交換が実現される。
【0037】
図4に示されるように、エアフィルタアセンブリ34はフィルタ清掃ユニット43を備える。ダストボックス36はフィルタ清掃ユニット43の1構成要素を担う。ダストボックス36は上ダストボックス45および下ダストボックス46を備える。上ダストボックス45はエアフィルタ35の前面側に配置される。上ダストボックス45はカバー47を有する。カバー47はボックス本体48の貯留空間49を開閉する。下ダストボックス46はエアフィルタ35の後面側に配置される。上ダストボックス45および下ダストボックス46はエアフィルタ35挟み込む。エアフィルタ35の清掃時、概ねエアフィルタ35の前面の塵埃は上ダストボックス45のボックス本体48に回収され、エアフィルタ35の後面の塵埃は下ダストボックス46に回収される。
【0038】
フィルタ清掃ユニット43は第1従動ギア51および第2従動ギア52を備える。第1従動ギア51は上ダストボックス45に支持される。第1従動ギア51は水平軸53回りで回転する。第1従動ギア51の歯は上ダストボックス45の外面から部分的に露出する。同様に、第2従動ギア52は下ダストボックス46に支持される。第2従動ギア52は水平軸54回りで回転する。第2従動ギア52は、下ダストボックス46の両端でエアフィルタ35を駆動する。第2従動ギア52の歯は下ダストボックス46の外面から部分的に露出する。エアフィルタアセンブリ34が本体28aにセットされると、第1従動ギア51は本体28aに搭載の第1駆動ギア(図示されず)に噛み合い、同様に第2従動ギア52は本体28aに搭載の第2駆動ギア(図示されず)に噛み合う。個々の駆動ギアには個別に電動モータといった駆動源(図示されず)が連結される。個々の駆動源から供給される駆動力に応じて第1従動ギア51および第2従動ギア52は個別に回転する。
【0039】
図5に示されるように、フィルタ清掃ユニット43は清掃ブラシ66を備える。清掃ブラシ66は上ダストボックス45内に収納される。清掃ブラシ66はブラシ台座67を備える。ブラシ台座67は第1従動ギア51からの駆動力により水平軸68回りに回転することができる。ブラシ毛69はブラシ台座67の筒面上に所定の中心角範囲にわたって配置される。ブラシ毛69の植毛範囲はブラシ台座67の軸方向にエアフィルタ35を横切る広がりを有する。清掃ブラシ66は所定の回転位置でブラシ毛69をエアフィルタ35に接触させ当該回転位置以外ではブラシ毛69をエアフィルタ35から離脱させる。ブラシ毛69がエアフィルタ35に接触する状態で水平軸線32a、32bに直交する垂直面に沿った方向にエアフィルタ35が移動すると、エアフィルタ35の前面に付着した塵埃はブラシ毛69に絡め取られることができる。
【0040】
フィルタ清掃ユニット43はブラシ受け71を備える。ブラシ受け71は下ダストボックス46内に収納される。ブラシ受け71は受け面72を有する。受け面72は清掃ブラシ66に向き合わせられる。ブラシ毛69がエアフィルタ35に接触する際に受け面72はブラシ毛69との間にエアフィルタ35を挟み込む。その他、受け面72にはブラシ毛が植毛されてもよい。
【0041】
室内熱交換器14は、前側体14aおよび後側体14bを相互に連結する連結体73を備える。連結体73は、前側体14aの上端および後側体14bの上端に結合される。連結体73は、例えば銅やアルミニウムといった熱伝導性の良い金属材料から成形される。前側体14aと連結体73との間には前側体14aから連結体73に熱を伝える第1伝熱部材74aが挟み込まれる。前側体14aと連結体73とは相互に密着し前側体14aと連結体73との間には高い熱伝達率が確立される。第1伝熱部材74aには、樹脂フィラーで多数の銅粒子や銀粒子を含有する伝熱性接着剤、伝熱性を有するはんだ材、伝熱性を有する溶接材が用いられればよい。こうして室内熱交換器14から連結体73には前側体14aから効率的に熱が伝わる。同様に、後側体14bと連結体73との間には後側体14bから連結体73に熱を伝える第2伝熱部材74bが挟み込まれる。後側体14bと連結体73とは相互に密着し後側体14bと連結体73との間には高い熱伝達率が確立される。第2伝熱部材74bは第1伝熱部材74aと同様な素材から形成される。こうして室内熱交換器14から連結体73には後側体14bから効率的に熱が伝わる。
【0042】
室内熱交換器14は、前側体14aの下方に下側体14a1を備える。前側体14aおよび下側体14a1の隙間を遮風する遮風体88を備える。遮風体88は、前側体14aの下端および下側体14a1の上端に結合される。遮風体88は、例えば銅やアルミニウムといった熱伝導性の良い金属材料から成形される。前側体14aと遮風体88、および下側体14a1と遮風体88とは、相互に接触している。前側体14aおよび下側体14a1から遮風体88に伝熱される。こうして室内熱交換器14から遮風体88に熱が伝わる。こうして遮風体88の風下に溜まった凝縮水に熱が伝わる。
【0043】
空気調和機11の室内機12は、室内熱交換器14の下方に配置されるドレンパンを備える。ドレンパンは、前側体14aの下方に配置される第1ドレンパン75aと、後側体14bの下方に配置される第2ドレンパン75bとを含む。第1ドレンパン75aは、送風ファン24の前方で本体28aに支持される。第2ドレンパン75bは、送風ファン24の後方で本体28aに支持される。第1ドレンパン75aおよび第2ドレンパン75bの一部には、熱伝導材により熱交換器の熱が伝熱されるようにしてもよい。前側体14aの表面に生成される結露水は重量の作用で第1ドレンパン75aに流れ落ちる。後側体14bの表面に生成される結露水は同様に重力の作用で第2ドレンパン75bに流れ落ちる。第1ドレンパン75aおよび第2ドレンパン75bは、それぞれ最下位置の排出口(図示されず)に向けて緩やかに傾斜する。個々の排出口には室外機13に繋がる配管が接続される。
【0044】
前側体14aと第1ドレンパン75aとの間には前側体14aから第1ドレンパン75aに溜まった結露水に熱を伝える第3伝熱部材76が挟み込まれる。第3伝熱部材76には、伝熱性を有する素材が用いられればよい。こうして室内熱交換器14から第1ドレンパン75aに溜まった結露水に熱が伝わる。
【0045】
前側体14aと第2ドレンパン75bとの間には後側体14bから第2ドレンパン75bに溜まった結露水に熱を伝える第4伝熱部材77が挟み込まれる。第4伝熱部材77には第3伝熱部材76と同様な素材が用いられる。こうして室内熱交換器14から第2ドレンパン75bに溜まった結露水に熱が伝わる。
【0046】
(3)制御系の構成
図6に示されるように、制御部27は、冷房運転の動作を管理する冷房運転部78と、暖房運転の動作を管理する暖房運転部79と、防カビ処理の動作を管理する防カビ処理部81とを備える。これら冷房運転部78、暖房運転部79および防カビ処理部81には弁切替制御部82、開度制御部83、圧縮機制御部84、送風ファン制御部85および風向制御部86が接続される。弁切替制御部82は四方弁18に接続される。弁切替制御部82は四方弁18に向けて制御信号を出力する。四方弁18は受信した制御信号に応じて第1位置および第2位置の間で切り替えられる。第1位置では四方弁18は第2口18bおよび第3口18cを相互に接続し第1口18aおよび第4口18dを相互に接続する。第2位置では四方弁18は第2口18bおよび第4口18dを相互に接続し第1口18aおよび第3口18cを相互に接続する。弁切替制御部82は、冷房運転部78、暖房運転部79または防カビ処理部81からの指示に応じて、第1位置または第2位置を特定する制御信号を生成する。
【0047】
開度制御部83は膨張弁17に接続される。開度制御部83は膨張弁17に向けて制御信号を出力する。膨張弁17の開度は受信した制御信号に応じて調整される。制御信号は膨張弁17の開度を特定する。室内熱交換器14の温度の設定にあたって、後述される圧縮機15の制御とともに膨張弁17の開度の調整は用いられる。開度制御部83は、冷房運転部78、暖房運転部79または防カビ処理部81からの指示に応じて、膨張弁17の開度を特定する制御信号を生成する。
【0048】
圧縮機制御部84は圧縮機15に接続される。圧縮機制御部84は圧縮機15に向けて制御信号を出力する。圧縮機15の動作は受信した制御信号に応じて制御される。制御信号は例えば圧縮機15の回転数を特定する。室内熱交換器14の温度の設定にあたって、膨張弁17の開度とともに圧縮機15の動作は調整される。圧縮機制御部84は、冷房運転部78、暖房運転部79または防カビ処理部81からの指示に応じて、圧縮機15の回転数を特定する制御信号を生成する。
【0049】
送風ファン制御部85は送風ファン23、24に接続される。送風ファン制御部85は送風ファン23、24に向けて制御信号を出力する。送風ファン23、24の回転は受信した制御信号に応じて制御される。制御信号は例えば送風ファン23、24の回転および静止を切り替える。送風ファン23、24の回転時には制御信号は送風ファン23、24の回転数を特定する。送風ファン23、24の回転に基づく風量に応じて、室内熱交換器14あるいは室外熱交換器16で交換される熱エネルギー量は調整される。送風ファン制御部85は、冷房運転部78、暖房運転部79または防カビ処理部81からの指示に応じて、動作の停止や送風ファン23、24の回転数を特定する制御信号を生成する。
【0050】
風向制御部86は上下風向板25a、25bに接続される。風向制御部86は上下風向板25a、25bに向けて制御信号を出力する。水平軸線32a、32b回りで上下風向板25a、25bの姿勢は受信した制御信号に応じて制御される。制御信号は例えば水平軸線32a、32b回りで上下風向板25a、25bの角度を特定する。最小角度で上下風向板25a、25bは吹出口33を閉じる。最大角度で上下風向板25a、25bは最大限に吹出口33を開放する。風向制御部86は、冷房運転部78、暖房運転部79または防カビ処理部81からの指示に応じて、上下風向板25a、25bの角度を特定する制御信号を生成する。
【0051】
冷房運転部78は、弁切替制御部82に指示して冷房運転を確立する。冷房運転部78は、冷房運転時の設定温度および風量に応じて開度制御部83および圧縮機制御部84に指示して膨張弁17の開度および圧縮機15の回転数を制御する。暖房運転部79は、弁切替制御部82に指示して暖房運転を確立する。暖房運転部79は、暖房運転時の設定温度および風量に応じて開度制御部83および圧縮機制御部84に指示して膨張弁17の開度および圧縮機15の回転数を制御する。
【0052】
防カビ処理部81には温度センサ26aおよび湿度センサ26bが接続される。温度センサ26aおよび湿度センサ26bは、空気調和機の冷房運転あるいは暖房運転に用いられるセンサと兼用されるものであってもよい。防カビ処理部81は、室内熱交換器14の温度および本体28a内の湿度に基づき、室内熱交換器14の表面に生成される結露水の水量を推定する。ここでは、防カビ処理部81は例えば温度センサ26aで検出される温度ごとの飽和水蒸気量および冷房運転の経過時間に基づき結露水の水量を推定すればよい。
【0053】
防カビ処理部81にはタイマー87が接続される。タイマー87は防カビ処理部81の指示に従って計時する。空気調和機の運転の継続時間や運転終了時からの経過時間が測定される。タイマー87は防カビ処理部81に向けて計時信号を出力する。計時信号は、計時された時間の値を特定する。防カビ処理部81は、計時された時間の値に応じて、弁切替制御部82の動作や開度制御部83の動作、圧縮機制御部84の動作を制御する。
【0054】
(4)防カビ処理動作
次に、空気調和機11で実施される防カビ処理動作を説明する。防カビ処理動作の実行にあたって制御部27の防カビ処理部81は作動する。防カビ処理動作は例えば冷房運転後に室内熱交換器14の温度および湿度に基づき実行されればよい。こうした防カビ処理動作の実行にあたって、防カビ処理部81には、冷房運転の終了を知らせる通知が冷房運転部78から供給される。
【0055】
図7に示されるように、防カビ処理部81は、冷房運転終了の通知を受け取ると、ステップS1で送風ファン24の回転を停止する。停止の実現にあたって防カビ処理部81は送風ファン制御部85に指令信号を供給する。指令信号は送風ファン24の停止を特定する。送風ファン24の静止は室内熱交換器14の表面から結露水が蒸発することを抑制する。このとき、四方弁18は冷房運転時の位置が維持される。
【0056】
なお、ステップS1で防カビ処理部81から供給される指令信号は、ファンの回転数を低くしたり、回転を間欠的にするものであってもよい。結露水の水量に応じて、適宜調整されればよい。
【0057】
防カビ処理部81はステップS2で、室内熱交換器14の表面に生成される結露水の水量から、室内熱交換器14の濡れ量を特定する。濡れ量の特定にあたって防カビ処理部81は温度信号および湿度信号から飽和水蒸気量を推定する。防カビ処理部81は、推定された飽和水蒸気量、および、タイマー87で計時された継続時間や経過時間の値から結露水の水量を特定する。一般に、冷房運転後には室内熱交換器14の温度は低く室内熱交換器14の表面に結露水は生成される。
【0058】
推定された濡れ量が予め定めた規定量に不足する場合には、防カビ処理部81はステップS3で室内熱交換器14を冷却する。室内熱交換器14の冷却にあたって防カビ処理部81は開度制御部83および圧縮機制御部84に指令信号を供給する。指令信号は、例えば、室内熱交換器14内で冷媒の蒸発温度を下げる膨張弁17および圧縮機15の動作を特定する。その結果、室内熱交換器14の温度が下がり、結露水の生成は促進される。室内熱交換器14の表面では十分な濡れが確保されることができる。濡れ量の予め定めた規定量とは、湿熱殺菌を行うために室内熱交換器14を加熱している間に、蒸発することで湿熱殺菌が行えなくならない水量に設定されればよい。
【0059】
推定された濡れ量が予め定めた規定量に達していれば、防カビ処理部81はステップS4で室内熱交換器14を加熱する。室内熱交換器14の加熱にあたって冷媒の凝縮が用いられる。このとき、防カビ処理部81は弁切替制御部82に指令信号を供給する。指令信号は四方弁18の切り替えを特定する。四方弁18は暖房運転時の位置に切り替えられる。ここでは、加熱時の室内熱交換器14の温度は摂氏45度以上に設定される。好ましくは、室内熱交換器14の温度は摂氏60度以上に設定される。こうして従来行っていた乾燥の動作を経ずに、室内熱交換器14の表面で結露水を蒸発させずに室内熱交換器14は加熱される。室内熱交換器14によって、結露水は加熱される。加熱された結露水中で細菌やカビは加熱される。したがって、細菌やカビは湿熱殺菌される。細菌やカビを殺して数を減少させることができる。
【0060】
特に、室内熱交換器14の温度が摂氏45度以上に設定されると、結露水が摂氏45度以上に熱せられ、効果的に細菌やカビの湿熱殺菌は実現される。さらに、室内熱交換器14の温度が摂氏60度以上に設定されると、さらに効果的に細菌やカビの湿熱殺菌は実現される。殺菌までの時間は短縮されることができる。ただし、結露水の蒸発をできる限り抑制したいことから、室内熱交換器14の温度は摂氏70度以下でできる限り低い温度に設定されることが望まれる。前記熱交換器が乾燥している状態では、温度が摂氏45度以上に設定されても、細菌やカビの殺菌には繋がらない。
【0061】
室内熱交換器14の加熱にあたって、室内熱交換器14の温度が60度を超えて過負荷条件とならないようにするために、膨張弁17の開度および、送風ファン23、24の回転は適宜調整されればよい。
【0062】
このとき、連結体73並びに第1ドレンパン75aおよび第2ドレンパン75bには室内熱交換器14から熱が伝わる。冷媒の凝縮は、連結体73並びに第1ドレンパン75aおよび第2ドレンパン75bが設定温度に達するまで実行される。連結体73並びに第1ドレンパン75aおよび第2ドレンパン75bの温度は、室内熱交換器14の温度上昇に遅れて追従する。温度センサ26aの検出した温度に基づき、室内熱交換器14が予め定めた時間より長く、所定の温度以上となった場合に、設定温度に達したと判断すればよい。加熱する箇所の温度を直接測定するために、連結体73に、連結体の温度を検出する図示しない連結体温度センサを設けても良い。同様に、第1ドレンパン75aおよび第2ドレンパン75bの加熱が行われる近傍に、図示しないドレンパン温度センサを設けても良い。こうして室内熱交換器14では連結体73が十分な設定温度まで加熱されるので、連結体73の表面に生成される結露水中で細菌やカビは十分に加熱され湿熱殺菌される。同様に、第1ドレンパン75aおよび第2ドレンパン75bが十分な設定温度まで加熱されるので、第1ドレンパン75aおよび第2ドレンパン75bに溜められる結露水中で細菌やカビは十分に加熱され湿熱殺菌される。
【0063】
ステップS5で防カビ処理部81は湿熱殺菌の完了を判断する。判断にあたって例えば防カビ処理部81はタイマー87の計時を用いる。タイマー87は、設定温度の持続時間を計測する。設定温度の持続時間が規定値に達すると、防カビ処理部81は湿熱殺菌を終了する。設定温度の持続時間が規定値未満であれば、防カビ処理部81は加熱の動作を継続する。設定温度の持続時間の規定値は、湿熱殺菌の効果が得られる時間以上であればよい。出願人の実験によれば、大腸菌であれば3分以上、黒カビであれば5分以上とすることで、湿熱殺菌の効果が得られることが分かっている。またレジオネラ菌であれば10分以上が望ましいことが分かっている。このとき、防カビ処理部81はステップS6で圧縮機15の動作を観視する。設定温度までの加熱にあたって圧縮機15の過負荷が検知されると、ステップS7で防カビ処理部81は圧縮機15の吐出温度を低下させ、加熱の動作を終了する。過負荷が検知されなければ、ステップS5で湿熱殺菌の完了が判断されるまで、加熱の動作は継続される。
【0064】
ここでは、凝縮時に設定される圧縮機15の過負荷条件は、暖房運転時に設定される圧縮機15の過負荷条件に比べて緩和される。つまり、過負荷条件のしきい値となる吐出温度が高く設定されたり、吐出温度が過負荷条件のしきい値を所定時間超えた際に過負荷保護動作となるまでの時間が長く設定されたりする。防カビ処理動作時には圧縮機15の過負荷条件は緩和されるので、暖房運転時に比べて室内熱交換器14は高い温度まで加熱されることができる。細菌やカビの湿熱殺菌は実現される。
【0065】
空気調和機11の防カビ処理動作では湿熱殺菌の処理に続いて本体28a内の乾燥処理が実施されてもよい。この乾燥処理では室内熱交換器14の加熱が維持されたまま、送風ファン24の回転が開始される。送風ファン24の回転動作にあたって防カビ処理部81は送風ファン制御部85に指令信号を供給する。指令信号は送風ファン24の回転数を特定する。送風ファン24の回転は加熱された結露水の蒸発を促進する。このとき、吹出口33は上下風向板25a、25bで閉じられてもよい。吹出口33の閉鎖にあたって防カビ処理部81は風向制御部86に向けて指令信号を供給する。指令信号は上下風向板25a、25bの最小角度を特定する。こうして冷房運転後の暖気の吹き出しは回避される。こうして湿熱殺菌の処理に引き続き乾燥加熱が継続されることで、湿熱殺菌で残存する細菌やカビの成長は抑制される。
【符号の説明】
【0066】
11…空気調和機、14…熱交換器(室内熱交換器)、14a…前側体、14b…後側体、15…圧縮機、24…(室内機の)送風ファン、73…連結体、75a…ドレンパン(第1ドレンパン)、75b…ドレンパン(第2ドレンパン)、76…伝熱部材(第3伝熱部材)、77…伝熱部材(第4伝熱部材)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-18 
出願番号 P2017-036408
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (F24F)
P 1 651・ 121- YAA (F24F)
P 1 651・ 55- YAA (F24F)
P 1 651・ 83- YAA (F24F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 河内 誠
林 茂樹
登録日 2021-01-15 
登録番号 6824779
権利者 株式会社富士通ゼネラル
発明の名称 空気調和機の防カビ方法およびそれを用いた空気調和機  
代理人 特許業務法人落合特許事務所  
代理人 豊岡 静男  
代理人 豊岡 静男  
代理人 特許業務法人落合特許事務所  

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