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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
管理番号 1385194
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-21 
確定日 2022-03-31 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6823040号発明「ロックボルト定着材用組成物、ロックボルト定着材およびロックボルト工法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6823040号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。 特許第6823040号の請求項1−4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6823040号の請求項1〜4に係る特許についての出願は、平成26年6月27日に出願された特願2014−133400号の一部を平成30年11月26日に新たな特許出願とした特願2018−220006号であって、令和3年1月12日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1〜4に係る特許に対し、同年7月21日に特許異議申立人である和栗由莉菜(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年10月20日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である同年12月22日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)を行い、特許権者から訂正請求があったことを、令和4年1月11日付けで特許異議申立人に通知し、特許異議申立人は、その指定期間内である同年2月9日に意見書を提出した。

第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項1からなる。
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記アミン化合物が、ジエチルトルエンジアミン、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、ヘキサメチレンジアミン、および末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)からなる群から選ばれる少なくとも一つのアミン化合物(b1)を含有するものであり、」と記載されているのを、「前記アミン化合物が、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、および3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも一つのアミン化合物(b1)を含有するものであり、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜4も同様に訂正する)。

2 一群の請求項について
訂正前の請求項1〜4について、請求項2〜4はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1〜4に対応する訂正後の請求項1〜4は、特許法第120条の5第4項に規定するに規定する一群の請求項である。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る特許発明では、「前記アミン化合物」が「ジエチルトルエンジアミン、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、ヘキサメチレンジアミン、および末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)からなる群から選ばれる少なくとも一つのアミン化合物(b1)」を含有すると記載している。これに対して、訂正後の請求項1は、「ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、および3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも一つのアミン化合物(b1)」との記載により、択一的記載の要素である「ジエチルトルエンジアミン」、「ヘキサメチレンジアミン」および「末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)」を削除するものである。そのため、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
同様に、訂正後の請求項2〜4は、訂正後の請求項1に記載された「前記アミン化合物が、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、および3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも一つのアミン化合物(b1)を含有するものであり、」との記載を引用することにより、訂正後の請求項2〜4においてアミン化合物についての択一的記載の要素を削除するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、「前記アミン化合物」について択一的記載の要素を削除するものであり、当該訂正により訂正前の請求項1に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2〜4の記載についても実質的に訂正するものであるが、上記アの理由から明らかなように、訂正後の請求項1の記載は、訂正前の請求項1との関係で特許請求の範囲を実質的に拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2〜4の記載について何ら訂正するものではなく、訂正後の請求項2〜4に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないといえる。
したがって、訂正事項1は、訂正前の請求項2〜4との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、明細書の段落【0031】、【0063】および【0074】の記載に基づいて導き出される構成である。すなわち、段落【0031】には「これらのうち、ジエチルトルエンジアミン、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、ヘキサメチレンジアミン、および末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)が好ましい。」と記載され、段落【0063】には「アミン化合物(b1−2):ジエタノールアミン((株)日本触媒製)」、「アミン化合物(b1−3):1,2−プロパンジアミン(和光純薬工業(株)製)」、「アミン化合物(b1−4):3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン(和光純薬工業(株)製)」が記載され、段落【0074】の【表1】にはこれらアミン化合物 (b1−2)、(b1−3)および (b1−4)を用いた実施例7〜9が記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。

(2)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許第6823040号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1〜4に係る発明は、令和3年12月22日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件特許発明1」〜「本件特許発明4」、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。

「【請求項1】
トンネル掘削後の周辺地山に打設するロックボルト定着材用組成物であって、
前記定着材用組成物が、
ポリオール、アミン化合物および水(c)を含んでなる(A)成分とイソシアネート化合物を含んでなる(B)成分とからなり、
前記ポリオールが、ポリエーテルポリオール(a1)を含有するものであり、
前記アミン化合物が、前記アミン化合物が、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、および3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも一つのアミン化合物(b1)を含有するものであり、
前記水(c)の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.3質量部〜2.5質量部である、ロックボルト定着材用組成物。
【請求項2】
(A)成分および(B)成分の粘度が、いずれも、25℃において、650mPa・Sec以下である、請求項1に記載のロックボルト定着材用組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のロックボルト定着材用組成物を硬化させて得られるロックボルト定着材。
【請求項4】
岩盤ないし地盤に所定間隔で複数個の孔を穿設する工程、
前記孔内に空隙のないボルトと注入ロッドを挿入する工程、および、
前記注入ロッドより、請求項1または2に記載のロックボルト定着材用組成物を、岩盤ないし地盤に注入し、固結させる工程
からなる、ロックボルト工法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
本件訂正前の請求項1〜4に係る特許に対して、当審が令和3年10月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1(進歩性)本件特許の請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証〜甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開平4−102615号公報
甲第2号証:特開平10−77800号公報
甲第3号証:特開昭63−7413号公報
甲第6号証:公益社団法人土木学会建設技術研究委員会編、「土木施工なんでも相談室[基礎工・地盤改良編]2011年改訂版、第1版・第1刷、公益社団法人土木学会 、平成23年9月30日、p.40,170
甲第7号証:「山岳トンネル工事の環境保全」連載講座小委員会、「連載講座 山岳トンネル工事の環境保全(1)、トンネルと地下〔通巻383号〕、vol.33、no.7、株式会社土木工学社、平成14年7月1日、p.77−79

理由2(サポート要件)本件特許の請求項1〜4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

本件特許発明の課題は、【0008】の記載からみて、発泡タイプでありながら、水質汚染が少なく、十分な強度、長期耐久性、十分な強度発現速度を有するロックボルト定着材用組成物および該組成物が硬化されてなるロックボルト定着材を提供することにあると認める。
ここで、本件特許発明は、「アミン化合物として、末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)を含有する」ことを発明特定事項としている。
そして、実施例の記載をみると、アミン化合物として、平均分子量が2000である末端アミノ化ポリプロピレングリコール(商品名:ジェファーミンD−2000、ハンツマン社製)に加え、ジエチルトルエンジアミン、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、ヘキサメチレンジアミンを含有するものが、発泡タイプでありながら、水質汚染が少なく、十分な強度、長期耐久性、十分な強度発現速度を有するロックボルト定着材用組成物および該組成物が硬化されてなるロックボルト定着材を提供できることは、理解できるが、アミン化合物として、末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)を含有するもの(プロピレングリコール単位が複数連結し、なおかつ、分子量が2000よりも少ないもの)が、発泡タイプでありながら、水質汚染が少なく、十分な強度、長期耐久性、十分な強度発現速度を有するロックボルト定着材用組成物および該組成物が硬化されてなるロックボルト定着材を提供できることは、理解できない。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明に、末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)を含有するものが、発泡タイプでありながら、水質汚染が少なく、十分な強度、長期耐久性、十分な強度発現速度を有するロックボルト定着材用組成物および該組成物が硬化されてなるロックボルト定着材を提供できることのメカニズムは記載されていないし、発泡タイプでありながら、水質汚染が少なく、十分な強度、長期耐久性、十分な強度発現速度を有するロックボルト定着材用組成物および該組成物が硬化されてなるロックボルト定着材を提供できることという出願時の技術常識もない。
そうすると、上記発明の詳細な説明の記載から、アミン化合物として末端アミノ化ポリプロピレングリコール(商品名:ジェファーミンD−2000、ハンツマン社製)に加え、ジエチルトルエンジアミン、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、ヘキサメチレンジアミンを含有するものから、アミン化合物として末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)を含有する本件特許発明にまで一般化できるとはいえない。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲を超えていると認められる。

第5 前記第4における理由1(進歩性)についての判断
1 甲号証について
甲第1号証:特開平4−102615号公報
甲第2号証:特開平10−77800号公報
甲第3号証:特開昭63−7413号公報
甲第4号証:特表2013−532221号公報
甲第6号証:公益社団法人土木学会建設技術研究委員会編、「士木施工なんでも相談室[基礎工・地盤改良編]2011年改訂版、第1版・第1刷、公益社団法人土木学会 、平成23年9月30日、p.40,170
甲第7号証:山本育徳編、「トンネルと地下〔通巻383号〕」、株式会社土木工学社、平成14年7月1日、p.77−79

2 甲号証の記載について
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)
1a「【特許請求の範囲】
1 岩盤に所定間隔で複数個の孔を穿設し、前記孔内に中空の注入ボルトを挿入し、ボルトの開口部より、
(A)水酸基数2個以上、水酸基当量120以下のポリオールおよび(または)アミノ基1個以上、アミン当量20〜500の有機ポリアミン化合物を必須成分とし、要すればこれに水、発泡剤、整泡剤、触媒、無機充填剤、改質剤、有機希釈剤、安定剤などを配合してなる液状成分と、
(B)イソシアネート基を2個以上有する有機ポリイソシアネートを必須成分とし、要すればこれに希釈剤、無機充填剤などを配合してなる液状成分とを注入することからなる岩盤安定化工法であって、前記(A)成分と(B)成分を混合し、NCO基1当量に対する水酸基当量とアミン当量の合計当量の比率が0.5/1〜10/1の範囲で混合注入することを特徴とする岩盤固結安定化工法。」
1b「また、アミノ基を少なくとも1個以上有し、アミン当量20〜500の有機ポリアミン化合物としては、エチレンジアミン、トリ、テトタ、ペンタ、ヘキサメチレンジアミンなどのジアミン類、エタノールアミンなどのアルコールアミン類、トルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、m−フェ二レンジアミン、キシリレンジアミン、3.3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族1、2級アミン類、さらにポリプロピレングリコールの末端をアミノ化した各種ジェファーミンシリーズ(ジェファーソン・ケミカル・カンパニー製)、ポリテトラメチレングリコールとアミノ安息香酸のジエステル(コダック社製)なとの各種アミン化合物があげられる。」(第3ページ右下欄第1〜15行)
1c「なお、たとえばトンネルの天盤部に注入するばあいには、注入に先立ち、約2mの間隔でたとえば42mmφピットレッグオーガーを用いて削孔し、深さ2m、削孔角度10〜30°の注入孔を設け、この注入孔に第1図に示すようなスタチックミキサー(2)および逆止弁(6)を内挿した有孔の長さ3m、中空炭素鋼鋼管製ロックボルト(1)を内挿し、該中空炭素鋼鋼管製ロックボルト(1)の口元を、注入薬液の逆流を防ぐために、ウエス、急結セメント、発泡硬質ウレタン樹脂をあらかじめ含浸させたウエスなどを用いてシールし、薬液を前記した方法で注入することが好ましい。注入作業は、注入圧の急激な上昇または所定注入量よりもさらに約20容量%を増加した分を注入して終了する。一般に、1孔あたり薬液は30〜200kg注入される。」(第5ページ右下欄第14行〜第6ページ左上欄第9行)
1d「以下、実施例に基づいて本発明の岩盤固結工法をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
第1表に本発明による製造例1〜7と比較製造例1〜2を記載した。
・・・
GP−300 グリセリンとプロピレンオキ
シド(以下、POと称す)を付
加重合した平均分子量300の
トリール
・・・
GP−350 グリセリンとPOを付加重合し
た平均分子量350のトリオー

・・・
D−220 プロピレングリコールとPOを
付加重合した平均分子量220の
ジオール
・・・
MOCA 3,3−ジクロロ−4,4’ ジアミノ
ジフェニルメタン(全アミン
価=420 KOHmg/g、OH価
=315 KOHmg/g、分子量
267.16、塩素含量26.6%)
・・・
ロ 含ハロゲンアルキルエーテル
(臭素51.8%)
・・・
TCEP トリスクロロエチルホスフェ
―ト
シリコンCF ポリオキシアルキレンオキシ
ド変性ジメチルポリシロキサ
ン系製泡剤
カオライザー 花王(株)製トリエチレンジアミ
No.31 ンを33重量%濃度でジプロピ
ングリコールに溶解したもの
・・・
ミリオネート 日本ポリウレタン工業(株)製ポ
MR−100 リメチレンポリフェニルイソ
シアネート(NCO基含有量32
%)
・・・

」(第6ページ左上欄第18行〜第7ページ下欄)

(2)甲第2号証(以下、「甲2」という。)
2a「【請求項1】 注入通路が設けられたロックボルトの基端部に、一方の面に弾性体からなるシール部材が設けられたプレートを嵌め込んでボアホールにセットし、
ロックボルトの基端部側からボアホール奥方向に向けて該ロックボルトに押し付け力を作用させ、
ロックボルト押し付け状態において、前記注入通路から定着材をボアホール内に注入することを特徴とする定着材注入方法。」
2b「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は定着材注入方法およびシールユニットに係わり、特に、トンネル工事その他の土木工法に用いられるロックボルト(ケーブルボルト)のうち、ボルトを打設してから後で定着材の注入を行う後注入式ロックボルトの施工における定着材注入方法および定着材注入に際して用いられるシールユニットに関する。」
2c「【0016】上記定着材注入を続行すると、ボアホール103内が図2(b)に示すように定着材120により一杯に充填され、しかる後、定着材は排気パイプ106を介してボアホール外に排出される(リターン)。これにより、注入完了となり、定着材の注入を停止し、押し付け装置112による押し付けを解除する。注入完了後に、ロックボルト104の押し付け力を解除しても、ボアホール103内は定着材120が密実充填された状態となっているため、ロックボルトの落下は生じない。」

(3)甲第3号証(以下、「甲3」という。)
3a「【特許請求の範囲】
(1) トンネル切羽の天盤部に天盤のアーチに沿つて所定間隔で複数個の孔を穿設し、上記孔内に、先端側に薬液吐出孔を有するロツクボルトを根元まで挿入した状態で位置決めし、そのロツクボルト内に岩盤固結用薬液を圧入し、上記孔内に岩盤固結用薬液を充満させたのち岩盤に浸透させ、上記孔内にロツクボルトを残した状態で上記孔内充満および岩盤浸透の岩盤固結用薬液を硬化させることにより岩盤固結を行う方法であつて、上記複数個の孔の穿設とそれに付随する薬液の注入を数次に分けて行い、第一次では複数個の孔のうちの所定数の孔を相互に大きな間隔を保つた状態で穿設して薬液の注入を行い、第二次では上記第一次で穿設された孔と孔との間にそれぞれ別個の孔を穿設して薬液の注入を行うようにし、かつ岩盤固結用薬液として、速硬性の二液型発泡ウレタン樹脂を使用することを特徴とする岩盤固結工法。」
3b「上記速硬性の二液型発泡ウレタン樹脂としては、例えば、下記のA液とB液とを配合比1:1で使用し、2液混合後の硬化時間が、5〜30秒と極めて短いものが賞用される。上記A液は、水酸基を二つ以上もつ第一級ポリオールを主成分とする混合液で水酸基価250〜450KOHmg/gのポリオール液から構成されている。このようなポリオール液は、通常、水酸基価20〜6400KOHmg/g、平均分子量18〜5000で2官能以上の第一および第二級ポリオールを数種併用して調製される。また、上記B液はイソシアネート基を二つ以上有するジフエニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ポリメチレン・ポリフエニル・ポリイソシアネート(ポリメリツクMDI、クルードMDI)およびトリレンジイソシアネート(TDI)の少なくとも一つの主成分とする平均分子量174〜2000、イソシアネート基含有量18〜48重量%(以下「%」と略す)のイソシアネート液から構成されている。」(第3ページ左下欄第11行〜右下欄第9行)
3c「なお、上記A液のポリオール成分は、第一級水酸基をもち、イソシアネート基との反応性は非常に速く活発であるが、さらに反応速度を速めるため触媒を配合してもよい。触媒としては、例えばエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等の脂肪族アミンや、4,4’−ジアミノジフエニルメタン等の芳香族アミンと、ジブチル錫ジラウレート、オクチル酸錫、塩化第二錫、オクテン酸鉛、ナフテン酸鉛等の有機金属系触媒との併用があげられる。」(第4ページ右上欄第11行〜左下欄第1行)
3d「つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
まず、二液型発泡ウレタン樹脂のA液(ポリオール成分)としてつぎの第1表に示す3種類のA液I、II、IIIを準備した。
( 以 下 余 白)

上記3種類のA液I、II、IIIの特性は第2表のとおりである。

また、B液(イソシアネート成分)として、第3表に示す3種類のB液I、II、IIIを準備した。

つぎに、上記A液およびB液を用い、つぎのようにして岩盤固結を行つた。
〔実施例1〕
トンネル切羽先端の砂質軟弱天盤部に、合計13個の孔を穿設し薬液注入するに当たり、第一次として、天盤のアーチに沿つて140cm間隔で7個の孔を上向きに(水平面との傾斜角θが10〜20゜)穿設し、これらの孔のうち、アーチ状の一端側にあるものから他端側にあるものに向かつて順次第1図に示す打ち込みタイプのロツクボルトを挿入し、アーチ状の一端側のロツクボルトから接続ユニツト付のホースを用いて上記A液IおよびB液Iを、配合比1:1、圧力20Kg/cm2で圧入し岩盤固結を行つた。つぎに、第二次として、上記孔の間に、隣接する孔との間隔が70cmになるように上記と同様にして6個の孔を穿設し上記と同様に薬液を圧入し岩盤固結を行つた。この固結状態は第12図のようになつた。
・・・
〔実施例3〕
薬液として、A液IIIおよびB液IIIを用いた。それ以外は実施例1と同様にして岩盤固結を行つた。この場合にも実施例1とほぼ同様の極めて優れた効果が得られた。
このように、この発明の方法によれば、従来法では施工が困難ないし不可能な砂質等の特に軟弱な天盤部を施工対象とすることができ、かつ施工時間の大幅な短縮および使用岩盤固結用薬液の大幅な低減を実現でき、しかも施工の簡素化をも達成しうることがわかる。」(第7ページ左下欄下から第1行〜第9ページ右下欄第13行)

(4)甲第4号証(以下、「甲4」という。)
4a「【請求項1】
A.一般化学構造;
【化1】

(式中、Rはアルキルまたはアルキレン基である)を有するノボラックポリオールを含む樹脂組成物であって、前記ノボラックポリオールは、前記ノボラックポリオールの質量平均分子量を前記ノボラックポリオールの当量で割ることによって計算して2〜30の平均ヒドロキシル官能価を有する樹脂組成物;および
B.イソシアネート組成物
の反応生成物を含む硬質ポリウレタンフォームであって、
前記ノボラックポリオールが、100質量部の前記樹脂組成物あたり3〜65質量部の量で存在する、硬質ポリウレタンフォーム。」
4b「【0044】
樹脂組成物は、架橋剤および/または鎖延長剤も含み得る。架橋剤としては、さらなるポリオール、アミン、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。架橋剤が樹脂組成物中に含まれるならば、架橋剤は、任意の量で存在し得る。本発明における使用が想定される鎖延長剤としては、ヒドラジン、第1および第2ジアミン、アルコール、アミノ酸、ヒドロキシ酸、グリコール、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。使用が想定される特定の鎖延長剤としては、モノエチレングリコールおよびジエチレングリコール、モノプロピレングリコールおよびジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、メチルプロピレンジオール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンおよびトリエタノールアミン、N−N’−ビス−(2ヒドロキシ−プロピルアニリン)、トリメチロールプロパン、グリセリン、ヒドロキノンビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン、ジエチルトルエンジアミン、3,5−ジメチルチオ−トルエンジアミン、ヒドラジン、イソホロンジアミン、アジピン酸、シラン、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。樹脂組成物中に含まれるならば、鎖延長剤は任意の量で存在し得る。」

(5)甲第6号証(以下、「甲6」という。)
6a「1.水質管理
ウレタン系注入に際して,地下水等の水質汚濁を防止するため,注入箇所の湧水等の水質汚濁状況を監視しなくてはならない.その場合,注入による水質への影響のないことを確認するために,施工前,施工中及び施工後の水質監視を行う.施工前はウレタン注入による影響のないバックグラウンド値を把握するために行い,施工中及び施工後は地下水の水質変化を監視する.」第170ページ第3〜7行

(6)甲第7号証(以下、「甲7」という。)
7a「(2)水質汚濁
山岳トンネル工事における濁水の発生呈や性状は地山の状態(地質,湧水の水質と湧水量)や施工方式,掘削方法,ずり出し方式 排水方法,吹付けコンクリート,二次巻きコンクリートの打設状況などによって大きく異なる.トンネル工事で問題となる水質汚濁現象は,浮遊物質(ss), 水素イオン渡度(pH),および油分そしてごくまれに鉄分や重金属類の混入などがある.ss濃度は1,000〜3,000程度の値を超える場合もある.また,pHについても9〜11くらいの値が多く,吹付けコンクリートプラント関連からの排水では,とくに強アルカリ性を示すことが多い.
トンネル工事からの濁水を直接河川,湖沼,農業水路などに排出すると水質汚染を起こし,生活環境,自然珠漿に被害を及ばすことになる.水質汚濁対策の管理フローは図−4に示すとおりである.
とくに最近は環境保全に対する規制が厳しくなってきており,工事からの濁水に対しても「水質汚濁防止法」の規定による排水基準,さらには都道府県条例で定められた排水基準に行政指導が行われ,この基準を満たすような濁水処理設備が要求されるようになってきている.」第599ページ左欄第9〜29行)

3 甲1に記載された発明
甲1には、製造例4に着目すると、GP350(グリセリンとPOを付加重合した平均分子量350のトリオール)を70g、D−220(プロピレングリコールとPOを付加重合した平均分子量220のジオール)を15g、MOCA(3,3−ジクロロ−4,4’ ジアミノジフェニルメタン(全アミン価=420 KOHmg/g、OH価=315 KOHmg/g、分子量267.16、塩素含量26.6%))を15g、難燃剤ロ(含ハロゲンアルキルエーテル(臭素51.8%))を10g、TCEP(トリスクロロエチルホスフェ―ト)を20g、シリコンCF(ポリオキシアルキレンオキシド変性ジメチルポリシロキサン系製泡剤)を2g、カオライザーNo.31(花王(株)製トリエチレンジアミンを33重量%濃度でジプロピングリコールに溶解したもの)を0.7g及び希釈剤(塩化メチレン)を2gからなるA剤(合計135g)、並びに、ミリオネートMR−100(日本ポリウレタン工業(株)製ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(NCO基含有量32%)を143.1g含む組成物が、記載されており(摘記1d参照)、「トンネルの天盤部に注入するばあいには・・・削孔し・・・注入孔を設け、この注入孔に・・・中空炭素鋼鋼管製ロックボルト(1)を内挿し・・・薬液を・・・注入する」と記載されているから(摘記1c参照)、この組成物は、トンネル掘削後に、トンネル天盤部の岩盤へ挿入された中空のロックボルトを通じて注入される薬液であるといえる。
そうすると、甲1には、「GP350(グリセリンとPOを付加重合した平均分子量350のトリオール)を70g、D−220(プロピレングリコールとPOを付加重合した平均分子量220のジオール)を15g、MOCA(3,3−ジクロロ−4,4’ ジアミノジフェニルメタン(全アミン価=420 KOHmg/g、OH価=315 KOHmg/g、分子量267.16、塩素含量26.6%))を15g、難燃剤ロ(含ハロゲンアルキルエーテル(臭素51.8%))を10g、TCEP(トリスクロロエチルホスフェ―ト)を20g、シリコンCF(ポリオキシアルキレンオキシド変性ジメチルポリシロキサン系製泡剤)を2g、カオライザーNo.31(花王(株)製トリエチレンジアミンを33重量%濃度でジプロピングリコールに溶解したもの)を0.7g及び希釈剤(塩化メチレン)を2gからなるA剤(合計135g)、並びに、ミリオネートMR−100(日本ポリウレタン工業(株)製ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(NCO基含有量32%)を143.1g含む、トンネル掘削後に、トンネル天盤部の岩盤へ挿入された中空のロックボルトを通じて注入される薬液」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

4 対比・判断
(1)本件特許発明1
ア 引用発明との対比
本件特許発明1と引用発明を対比する。
引用発明の「GP350(グリセリンとPOを付加重合した平均分子量350のトリオール)を70g、D−220(プロピレングリコールとPOを付加重合した平均分子量220のジオール)を15g、MOCA(3,3−ジクロロ−4,4’ ジアミノジフェニルメタン(全アミン価=420 KOHmg/g、OH価=315 KOHmg/g、分子量267.16、塩素含量26.6%))を15g、難燃剤ロ(含ハロゲンアルキルエーテル(臭素51.8%))を10g、TCEP(トリスクロロエチルホスフェ―ト)を20g、シリコンCF(ポリオキシアルキレンオキシド変性ジメチルポリシロキサン系製泡剤)を2g、カオライザーNo.31(花王(株)製トリエチレンジアミンを33重量%濃度でジプロピングリコールに溶解したもの)を0.7g及び希釈剤(塩化メチレン)を2gからなるA剤(合計135g)」は、「GP350(グリセリンとPOを付加重合した平均分子量350のトリオール)」及び「D−220(プロピレングリコールとPOを付加重合した平均分子量220のジオール)」はポリエステルポリールであり、「MOCA(3,3−ジクロロ−4,4’ ジアミノジフェニルメタン(全アミン価=420 KOHmg/g、OH価=315 KOHmg/g、分子量267.16、塩素含量26.6%))」はアミン化合物であるから、本件特許発明1の「ポリオール、アミン化合物を含んでなる(A)成分」及び「前記ポリオールが、ポリエーテルポリオール(a1)を含有するものであり」に相当する。
引用発明の「ポリイソシアネート(ミリオネートMR−100)」は、本件特許発明1の「イソシアネート化合物を含んでなる(B)成分」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と引用発明は、「ポリオール、アミン化合物を含んでなる(A)成分とイソシアネート化合物を含んでなる(B)成分とからなり、
前記ポリオールが、ポリエーテルポリオール(a1)を含有するものである、組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
組成物が、本件特許発明1ではトンネル掘削後の周辺地山に打設するロックボルト定着材用組成物であるのに対し、引用発明ではトンネル掘削後に、トンネル天盤部の岩盤へ挿入された中空のロックボルトを通じて注入される薬液である点。

<相違点2>
アミン化合物が、本件特許発明1では、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも一つであるのに対し、引用発明ではMOCA(3,3−ジクロロ−4,4’ ジアミノジフェニルメタン(全アミン価=420 KOHmg/g、OH価=315 KOHmg/g、分子量267.16、塩素含量26.6%))である点。

<相違点3>
(A)成分が、本件特許発明1では、水(c)を含み、水(c)の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.3質量部〜2.5質量部であるのに対し、引用発明では水を含まない点。

イ 相違点についての検討
事案に鑑み<相違点2>及び<相違点3>について検討する。
甲1には引用発明の薬液は要すれば水を含むことが記載されており(摘記1a参照)、各種製造例において水を1g含むものが記載されており(摘記1d参照)、水1gは(A)成分100質量部に対して0.7質量部である。
しかし、甲1に、引用発明の薬液に含まれるアミン化合物としてジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンは、記載も示唆もない。
ここで、確かに、甲3には岩盤固結工法に使用されるポリオール、アミン及び水を含むA液のアミンとしてジエタノールアミンが記載されているものの(摘記3a、3b、3c参照)、甲1の記載から、引用発明においてジエタノールアミンを採用した場合に、水をどの程度含ませれば良いのか不明であるから、引用発明において、アミン化合物としてMOCAに代えて、ジエタノールアミンを採用し、かつ、水(c)を含むものとし、水(c)の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.3質量部〜2.5質量部であるものとする動機付けがあるとはいえない。
また、甲4には、硬質ポリウレタンフォームを構成するポリオールを含む樹脂組成物においてイソホロンジアミン(3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン)を含んでも良いことが記載されているが(摘記4a、4b参照)、硬質ポリウレタンフォームは引用発明のようなトンネル掘削後に岩盤に注入する薬液とは分野が異なるから、引用発明において、アミン化合物としてMOCAに代えて、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンを採用する動機付けがあるとはいえない。
そして、1,2−プロパンジアミンについては、甲2〜甲4にも記載も示唆もない。
そうすると、引用発明において、アミン化合物としてジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも一つを採用し、かつ、水(c)を含み、水(c)の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.3質量部〜2.5質量部であるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

ウ 本件特許発明1の効果について
確かに、甲6及び甲7に記載のとおり、トンネル工事においては通常水質汚染を少なくする必要があるが(摘記6a、7a参照)、本件特許明細書の【表1】の記載からみて、アミン化合物としてジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも一つを採用し、かつ、水(c)を含み、水(c)の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.3質量部〜2.5質量部であるものとしたことにより、本件特許発明1のロックボルト定着材用組成物は水中白濁試験において優れた透明性を示しており、そのような本件特許発明1の効果は、引用発明から予測し得ない顕著なものであるといえる。

エ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人は、意見書において、アミン化合物について「訂正後の構成Eのアミン化合物は 、甲1の有機ポリアミン化合物として具体的に記載されておりません。しかしながら、「ジアミン類」として「トリメチレンジアミン」が記載されております。「トリメチレンジアミン」は「1,3−プロパンジアミン」のことであり、「1,2−プロパンジアミン」とは極めて近似したジアミン類であるから、「1,2−プロパンジアミン」が奏する効果は当業者が容易に予測できることであり、甲1の「ジアミン類」に例示されている「トリメチレンジアミン」に代えて「1,2−プロパンジアミン」を用いる程度のことは当業者が容易に為し得ることです。
また、構成Eの「ジエタノールアミン」は、甲3に記載されております。甲3の「ジエタノールアミン」は、甲1の「有機ポリアミン化合物」に用いられる「アルコールアミン類」に属しており、ポリオール成分とイソシアネート基との反応速度を速めるために使用されております。甲1の「有機ポリアミン化合物」もポリオールとポリイソシアネートとの反応活性を大にするものであり、甲3の「ジエタノールアミン」と同様な効果を奏するものであるから、甲1の「アルコールアミン類」に具体例として記載されている「エタノールアミン」に代えて甲4の「ジエタノールアミン」を用いる程度のことは当業者が容易に為し得ることです。更に、構成Eの「3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン」は甲4に記載されております。甲4の鎖延長剤として記載されている「イソホロンジアミン」は、甲8から「3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン」のことです。甲1における「ポリオールとポリイソシアネートを主成分とする速硬性硬質発泡ポリウレタンシステム・・・有機系グラウトは必然的に可燃性であり、防火安全面からも改善の余地が残されていた」との記載によれば、ポリウレタン固結体が可燃性を有している点に技術課題が存在するところ、甲4にも「硬質ポリウレタンフォームは可燃性があり…こうした点はすべて望ましくない」と記載されています。両者はポリウレタンの可燃性を解決課題としている点で共通しているから、甲1のアミン化合物に、甲4の「3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン」を転用することは当業者が適宜為し得る最適材料の選択に過ぎません。」と主張し、また、本件特許発明1の効果について「本件特許発明の課題は、トンネル工事の技術分野に携わる当業者に普遍に共有されている「水質汚濁等の水質汚染を少なくする」という課題(及び効果)を記載したに過ぎず、当業者が容易に予測できたものです。
すなわち、甲6に記載されているように、昭和49年に建設省より出された「薬液注入工事よる建設工事の施工に関する暫定指針」に示された事項に留意し、「山岳トンネルエ法におけるウレタン注入の安全管理に関するガイドライン(案)」等に従い計画・管理を行うことが必要です。このため、トンネルにおける薬液注入工法にウレタンを採用した際には、水質汚染を監視して注入による水質への影響がないことを確認して水質汚染を防止する必要があり、注入箇所の湧水等が特 定の水質基準を満たしていることを施工前、施工中、及び施工後にわたって行わなければならない上、この水質基準の変更も注視しなければならないから、ウレタン注入の際の水質汚染防止を図るという課題は、本件特許に係る特許出願の原出願の出願前の甲1に記載された発明にも当然に存在します。同様に、甲7には、トンネル工事における水質汚染については、水質汚濁防止法や都道府県条例によって定められた排水基準に基づく行政指導に従う必要があるということが、本件特許に係る特許出願の原出願前において周知です。そのため、当業者であれば、トンネル工事においてロックボルトを定着するのに地山へ注入するウレタンのような薬液を使用する際、法律や条例を遵守して水質汚濁等の水質汚染を生じないように工事を進めるのが当然の責務です。このように甲6及び甲7によれば、「水質汚濁等の水質汚染を少なくする」という本件特許発明の課題はトンネル工事の技術分野に携わる当業者に普遍に共有されているものであり、甲1に記載された発明に接した当業者は水質汚濁等の水質汚染防止という課題に着目する動機を当然に有します。
従って、訂正された構成Eのアミン化合物の「ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン」が記載されていない甲1の発明に接した当業者であっても、前記の通りこれらアミン化合物という構成とすること自体は当業者が容易に想到できるものであるのですから、甲第6号証に記載のような本件特許発明の課題に着目する動機を当然に有しており、水質汚染を少なくする必要があるとして甲1に記載されていないが想到容易なアミン化合物を採用して水中汚濁試験における透明性を確認したとしても水質汚染という課題を水中汚濁試験での透明性で判断するに過ぎずそもそも効果が共通しているのですから、本件特許発明が奏する効果は何ら顕著でなく、当業者が容易に予測できたものです。」と主張する。
(イ)しかし、アミン化合物については、上記イ<相違点2>及び<相違点3>について検討したとおり、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも一つを採用し、かつ、水(c)を含み、水(c)の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.3質量部〜2.5質量部であるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
また、トンネル工事の際に水質に配慮が必要という課題があることは理解できるが、本件特許発明で特定されたアミンを用いることでトンネル工事の際の水質に影響が少なくなるということを認めるに足りる証拠はないから、この主張は採用できない。
また、効果についての主張は、特許異議申立人が提示した証拠に記載された発明の奏する効果と本件特許発明の奏する効果が同等であることを前提とするものであるが、その前提が成り立つと認めるに足りる証拠はない。
そうすると、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用できない。

オ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、<相違点1>について検討するまでもなく、引用発明、並びに、甲2〜甲4、甲6及び甲7の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)本件特許発明2〜4
本件特許発明2〜4は、本件特許発明1を引用してさらに限定するものであり、上記本件特許発明1と引用発明との<相違点2>及び<相違点3>と同等の相違点を有するものであるから、本件特許発明2〜4は、引用発明、並びに、甲2〜甲4、甲6及び甲7の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

第6 前記第4における理由2(サポート要件)についての判断
本件訂正により、本件特許発明1はアミン化合物として末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)を含まないものとなったので、前記第4における理由2(サポート要件)の取消理由は解消した。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
特許異議申立人の主張は以下のとおりである。
理由1(進歩性)本件特許の請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証〜甲第5号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲第1〜4号証:第5 1に示した甲号証に同じ。
甲第5号証:「現場技術者のための吹付けコンクリート・ロックボルトQ&A」、社団法人日本トンネル技術協会、平成15年3月、「はじめに」及びp.174−175

理由2(明確性要件)本件特許の特許請求の範囲の記載は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない出願に対してなされたものであり、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

本件特許発明1には「末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)」という記載がある。ここで「末端アミノ化プロピレングリコール」は、化学式「H2NCH(CH3)CH2NH2」で表される1,2−プロパンジアミン及び化学式「H2N(CH)3NH2」で表される1,3−プロパンジアミンである。それの分子量は74.1であって一義的に定まるから、これらプロパンジアミンに重量平均分子量は存在しない。上記記載における「末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)」の技術的意味を当業者が理解できないから、本件特許発明1は明確でない。
また本件特許発明2〜4によっても、当該文言の技術的意味を当業者が理解できないことに変わりないから、本件特許発明2〜4も明確でない。

2 当審の判断
理由1
甲5にも、アミン化合物として、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも一つを採用し、かつ、水(c)を含み、水(c)の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.3質量部〜2.5質量部であるものとすることは、記載も示唆もないから、引用発明において、アミン化合物として、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも一つを採用し、かつ、水(c)を含み、水(c)の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.3質量部〜2.5質量部であるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、甲1〜甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
本件特許発明2〜4についても、同様に、甲1〜甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

理由2
本件訂正により、本件特許発明1はアミン化合物として「末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)」を含まないものとなったので、前記1の特許異議申立人の主張する理由は解消した。

第8 むすび
以上のとおりであるから、令和3年10月20日付けの取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル掘削後の周辺地山に打設するロックボルト定着材用組成物であって、
前記定着材用組成物が、
ポリオール、アミン化合物および水(c)を含んでなる(A)成分とイソシアネート化合物を含んでなる(B)成分とからなり、
前記ポリオールが、ポリエーテルポリオール(a1)を含有するものであり、
前記アミン化合物が、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、および3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも一つのアミン化合物(b1)を含有するものであり、
前記水(c)の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.3質量部〜2.5質量部である、ロックボルト定着材用組成物。
【請求項2】
(A)成分および(B)成分の粘度が、いずれも、25℃において、650mPa・Sec以下である、請求項1に記載のロックボルト定着材用組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のロックボルト定着材用組成物を硬化させて得られるロックボルト定着材。
【請求項4】
岩盤ないし地盤に所定間隔で複数個の孔を穿設する工程、
前記孔内に空隙のないボルトと注入ロッドを挿入する工程、および、
前記注入ロッドより、請求項1または2に記載のロックボルト定着材用組成物を、岩盤ないし地盤に注入し、固結させる工程
からなる、ロックボルト工法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-03-23 
出願番号 P2018-220006
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09K)
P 1 651・ 537- YAA (C09K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 瀬下 浩一
木村 敏康
登録日 2021-01-12 
登録番号 6823040
権利者 第一工業製薬株式会社
発明の名称 ロックボルト定着材用組成物、ロックボルト定着材およびロックボルト工法  
代理人 中村 哲士  
代理人 前澤 龍  
代理人 前澤 龍  
代理人 中村 哲士  
代理人 蔦田 正人  
代理人 有近 康臣  
代理人 富田 克幸  
代理人 富田 克幸  
代理人 有近 康臣  
代理人 蔦田 正人  
代理人 水鳥 正裕  
代理人 水鳥 正裕  
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