• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1385198
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-18 
確定日 2022-02-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6836344号発明「カルボナーラソース及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6836344号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6836344号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許についての出願は、平成28年7月12日の出願であって、令和3年2月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許の全請求項に対し、令和3年8月18日付けで特許異議申立人 本間 裕美(以下、「申立人A」という。)より、同年同月24日付けで特許異議申立人 森田 弘潤(以下、「申立人B」という。)より、それぞれ特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜4に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
以下、本件特許の請求項1〜4に係る発明を、請求項順にそれぞれ、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などといい、これらをまとめて「本件特許発明」ともいう。

「【請求項1】
卵黄液、リン酸塩、増粘多糖類及び架橋澱粉を含む冷凍カルボナーラソースであって、
ソース全量に対して、前記卵黄液が0.5〜8質量%、前記リン酸塩が1.2質量%以下、前記増粘多糖類が0.02〜0.5質量%、前記架橋澱粉が0.15〜5質量%の範囲で含まれており、
前記リン酸塩の含有量が、前記卵黄液に対して1.5質量%以上である、
前記冷凍カルボナーラソース。
【請求項2】
前記リン酸塩の含有量が、前記卵黄液に対して3.0質量%以上である、請求項1記載の冷凍カルボナーラソース。
【請求項3】
前記架橋澱粉がリン酸架橋澱粉である請求項1又は2に記載の冷凍カルボナーラソース。
【請求項4】
卵黄液、リン酸塩、増粘多糖類及び架橋澱粉を含む原料を加熱混合処理した後、冷凍処理することを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の冷凍カルボナーラソースの製造方法。」」

第3 申立理由の概要
1 申立人Aについて
申立人Aは、証拠方法として甲第1号証〜甲第9号証(以下、それぞれ「甲A1」、「甲A2」などという。)を提出し、以下の申立理由を主張している。

(1)申立理由の概要
ア 申立理由A1−1(進歩性
本件特許発明1〜4は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された甲A1及び甲A2に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

イ 申立理由A1−2(進歩性
本件特許発明1〜4は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された甲A4及び甲A2に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

ウ 申立理由A2(サポート要件)
本件特許発明1〜4に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が以下の(Aア)〜(Aウ)の点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

エ 申立理由A3(実施可能要件
本件特許発明1〜4に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が以下の(Aウ)の点で、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

(Aア)本件特許明細書の実施例の記載から、増粘多糖類の配合量が本件特許発明1〜4の範囲内であっても、普通である3点を下回る結果になることが推定されるため、課題を解決できないものも含まれていることになり、発明の詳細な説明に記載された内容を本件特許発明1〜4にまで拡張ないし一般化することはできない。

(Aイ)本件特許明細書の実施例の記載から、架橋澱粉の配合量が本件特許発明1〜4の範囲内であっても、普通である3点を下回る結果になることが推定されるため、課題を解決できないものも含まれていることになり、発明の詳細な説明に記載された内容を本件特許発明1〜4にまで拡張ないし一般化することはできない。

(Aウ)卵黄液は、甲A6〜甲A8のとおり、酵素処理したものや加熱後に均質化したものが知られているところ、本件特許明細書の実施例等の記載からは、卵黄液としてどのようなものを用いたのか詳細が不明となっており、当業者であっても実施することができない。
また、本件特許発明1〜4の卵黄液は、加熱凝固や酵素処理を含め種々の処理や添加剤を加配した後に均質化した卵黄を排除していないと解されるから、課題を解決できないものも含まれていることになる。
したがって、発明の詳細な説明に記載された内容を請求項に係る発明にまで拡張ないし一般化することはできないし、本件特許発明1〜4は、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載したものではない。

オ 申立理由A4(明確性要件)
本件特許発明1〜4に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、以下の(Aエ)〜(Aオ)の点で、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

(Aエ)上記(Aウ)のとおり、本件特許発明1〜4の「卵黄液」は、本件特許明細書の記載をみても不明である。

(Aオ)本件特許明細書の比較例1は、甲A9を参酌すれば本件特許発明1の範囲に含まれることになるため、本件特許発明1〜4の記載は不明確である。

(2)証拠方法
甲A1:特開2012−105602号公報
甲A2:特開2007−259834号公報
甲A3:特開2007−295900号公報
甲A4:特開平1−304847号公報
甲A5:特開2008−35811号公報
甲A6:特開2009−159992号公報
甲A7:特開2002−232号公報
甲A8:特開2002−355011号公報
甲A9:一色賢司、他3名、「食品中の縮合リン酸塩含有量の測定」、日
本栄養・食糧学会誌,1988年,Vol.41,No.6,p
.481−486

2 申立人Bについて
申立人Bは、証拠方法として甲第1号証〜甲第14号証(以下、それぞれ「甲B1」、「甲B2」などという。)を提出し、以下の申立理由を主張している。

(1)申立理由の概要
ア 申立理由B1(明確性要件)
本件特許発明1〜4に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、以下の(Bア)の点で、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

(Bア)本件特許発明1〜4の「卵黄液」は、甲B8を考慮してもどのような卵黄を用いた場合がその技術的範囲に含まれるかを判断することは不可能である。

イ 申立理由B2(サポート要件)
本件特許発明1〜4に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が以下の(Bイ)〜(Bカ)の点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

(Bイ)本件特許明細書に記載の実施例及び比較例は、官能評価の不備により、本件特許発明1〜4のサポートとはなり得ない。

(Bウ)本件特許発明1〜4の「卵黄液」は、上記(Bア)のとおり、酵素分解卵黄が含まれるか否か不明確であり、技術的課題を解決できない態様を含んでいる。

(Bエ)本件特許発明1〜4の「リン酸塩」は、甲B9〜甲B12から明らかなとおり、その種類によって効果が異なるのが技術常識であり、技術的課題を解決できない態様を含んでいる。

(Bオ)本件特許発明1〜4の「増粘多糖類」は、甲B3や甲B13〜甲B14から明らかなとおり、その種類によって増粘効果などの特性が異なるものであり、技術的課題を解決できない態様を含んでいる。

(Bカ)本件特許発明の「架橋澱粉」は、その種類及び量に関して、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲であると認められない。

ウ 申立理由B3(進歩性
本件特許発明1〜4は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された甲B1に記載された発明及び甲B2〜甲B7に示される技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

(2)証拠方法
甲B1:特開2012−105602号公報
甲B2:「食品添加物基礎講座(その6) 食品を形作る食品添加物(2
)」、[online]、2010年4月25日 加筆・改訂、
[2021年8月19日検索]、インターネット<URL:ht
tps://www.asama−chemical.co.j
p/TENKAB/YUKAWA6.HTM>
甲B3:特開2012−10602号公報
甲B4:特開2010−17137号公報
甲B5:特開2007−259834号公報
甲B6:特開2015−160822号公報
甲B7:「PURITYTM W Starch ピュリティ W (
ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン」の商品カタログ、イ
ングレディオン・ジャパン株式会社、2013年4月1日
甲B8:新村出編、「対照」、広辞苑 第六版、株式会社岩波書店、20
08年1月11日、p.1683
甲B9:西澤卓也、「リン酸塩類の食品加工への利用技術について」、[
online]、2015年10月号、月刊フードケミカル、p
.60−66、インターネット<URL:http://oft
.organo.co.jp/english/orgadmi
n/wp−content/uploads/2017/05/
20170522_01.pdf>
甲B10:特開2009−89635号公報
甲B11:特開2011−193761号公報
甲B12:特開2007−70403号公報
甲B13:中村愛美、他4名、「食材の物性に及ぼす影響から見た市販と
ろみ調整食品の分類」、[online]、2012年、栄養
学雑誌、Vol.70、No.1、p.59−70、インター
ネット<URL:https://www.jstage.j
st.go.jp/article/eiyogakuzas
hi/70/1/70_1_59/_pdf/−char/j
a>
甲B14:特開平10−33125号公報

なお、甲B1は甲A1と、甲B5は甲A2と、それぞれ同じ文献である。

第4 本件特許明細書の記載
1 技術分野の記載
(本1)「【0001】
本発明は卵黄の加熱凝固が抑制され、卵黄に由来する特有の滑らかな粘度と卵黄の自然な風味を有する、冷凍カルボナーラソース及びその製造方法に関する。」

2 背景技術の記載
(本2)「【0002】
カルボナーラソースとは、卵黄又は全卵、チーズ及びクリーム類、更に必要に応じて添加される調味料等を含む原料混合物を加熱処理してクリーム状に調製されたソースである。卵黄は加熱凝固性を有しているため、原料混合物をゆっくりと加熱して卵黄がダマ状にならずに適度な粘度になる段階で加熱を停止することで、卵黄に由来する特有の滑らかな粘度を有するカルボナーラソースを得ることができる。しかしながら、工業的には75〜100℃での加熱殺菌工程を備える必要があり、このような条件下では卵黄が凝固してダマになり、ボソボソとした食感が生じる。それ故、卵黄の加熱凝固を防止又は抑制する必要がある。
【0003】
・・・
特許文献6の実施例2では、リン酸三ナトリウムでpH調整した卵黄液をトリプシン処理した後、食塩及び牛乳を混合して加熱凝固させ、加熱凝固物に生クリーム及び粉チーズを加えて高速ミキサーで均質化した均質化物を使用したカルボナーラソースが開示されている。特許文献7及び特許文献8では、耐熱性(耐熱凝固性)に優れたアルカリプロテアーゼで処理した酵素処理卵黄が開示されている。特許文献9では、卵黄、澱粉及び水を加えた懸濁液を加熱凝固させた後に微粉化して得た加熱処理しても熱凝固しない卵黄含有食品原料が開示されている。これらは、卵黄の加熱凝固を防いでダマ感を解消するには十分な効果があるが、卵黄が酵素変性又は熱変性を受けているために卵黄に由来する特有の滑らかな粘度を得るには満足できるものではなく、また、プロテアーゼ処理した卵黄を使用する場合においては硫化物のような特有の分解臭と苦味が生じるという問題があった。
特許文献10では、熱凝固性を低下することができるアルギン酸塩を含有する卵黄液が開示されている。しかしながら、あらかじめアルギン酸塩溶液を温水で希釈した後に卵黄を添加して均質化する工程を必要としており、簡便性に欠けるものであった。
特許文献11では、卵黄、乳固形分、糖類及びリン酸塩を含んで調整したカスタードを流動状態でUHT殺菌処理する殺菌済みカスタードソースの製造方法が開示されている。カスタードソースを流動状態でUHT殺菌処理する場合、本来熱凝固は起こらないが、リン酸塩を配合することで、加熱殺菌処理による目に見えない凝集物の発生を抑制して良好な食感のカスタードソースが得られることが開示されている。しかしながら、この文献はカルボナーラソースにおいて問題となる卵黄の熱凝固によるダマ感の防止について何ら示唆するものではない。
・・・
【特許文献11】特開平01−304847」

3 発明が解決しようとする課題の記載
(本3)「【0005】
本発明は卵黄の加熱凝固を抑制し、卵黄に由来する特有の滑らかな粘度と卵黄の自然な風味を有する、冷凍カルボナーラソース及びその製造方法を提供することを課題とする。」

4 課題を解決するための手段の記載
(本4)「【0006】
そこで本発明者等は上記課題を解決する為鋭意研究を重ねた結果、卵黄液、リン酸塩、増粘多糖類及び架橋澱粉を含む冷凍カルボナーラソースであって、卵黄液に対して1.5質量%以上のリン酸塩を含み、リン酸塩の含有量はソース全量に対して1.2質量%以下とすることにより、卵黄液の加熱による凝固を防ぎ、ダマの発生がなく、卵黄由来の粘性が付与され、冷凍カルボナーラソースが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」

5 発明の効果の記載
(本5)「【0007】
本発明により、卵黄液の加熱による凝固を防ぎ、ダマの発生がなく、卵黄由来の粘性が付与された冷凍カルボナーラソースを得ることができる。」

6 発明を実施するための形態の記載
(本6)「【0008】
本発明の冷凍カルボナーラソースは卵黄液、リン酸塩、増粘多糖類及び架橋澱粉を含む。
本発明において「卵黄液」とは、常法により割卵した後に黄味と白身を分離し、回収した黄味を均質化したものである。使用する卵は食用に供される鳥類の卵であれば何れでもよく、ニワトリ、ウズラ、アヒル、ダチョウ等が例示される。好ましくはニワトリである。
ソース中の卵黄液の好ましい含量は0.5〜8質量%であり、0.5質量%未満では卵の風味が乏しい傾向にあり、8質量%を超えると加熱調理時に焦げ付きやすくなる傾向にある。」

(本7)「【0009】
本発明において「リン酸塩」は食用に使用できるリン酸塩であれば特に限定なく使用することができる。好ましくはポリリン酸塩であり、より好ましくはトリポリリン酸塩、ピロリン酸塩である。最も好ましくはトリポリリン酸ナトリウム及び/又はピロリン酸四ナトリウムである。
本発明において、リン酸塩は卵黄液に対して1.5質量%以上添加する。卵黄液に対してリン酸塩の添加量が1.5質量%未満では、卵黄液が加熱凝固してダマが生じて食感が悪くなる。リン酸塩は卵黄液に対して好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、最も好ましくは30質量%以上添加することができる。リン酸塩は卵黄液に対して好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下添加することができる。リン酸塩は卵黄液に対して1.5質量%以上含まれていれば卵黄液の熱凝固抑制効果を得ることができるが、カルボナーラソース全体に対して1.2質量%を超えて含まれると、リン酸塩の異味が出て食味が悪くなる。そのため、前述の卵黄液に対するリン酸塩の好ましい量にかかわらず、リン酸塩は、カルボナーラソース全体に対して1.2質量%以下である。」

(本8)「【0010】
本発明において「増粘多糖類」は食用に使用できる増粘多糖類であれば特に限定なく使用することができる。好ましくはキサンタンガム、タマリンドガム、グアガム、ジェランガム、カラギーナンである。より好ましくはキサンタンガムである。
増粘多糖類はソース全体に対して0.02〜0.5質量%の範囲で配合することができる。好ましくは0.025〜0.43質量%であり、より好ましくは0.05〜0.3質量%である。0.5質量%を超えると、増粘多糖類特有の粘りが出るために滑らかさを損なう。0.02質量%未満では、卵黄特有の滑らかな粘度は得られるものの、全体としての粘度が低くなる。」

(本9)「【0011】
本発明において「架橋澱粉」は、澱粉のグルコース残基の水酸基同士を化学修飾により架橋したものである。本発明において使用される架橋澱粉としては、例えば、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、リン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉が挙げられ、好ましくはリン酸架橋された澱粉であり、さらに好ましくはヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉である。架橋澱粉の原料となる澱粉としては特に限定されるものでなく、例えば、イモ類澱粉(馬鈴薯、タピオカ、甘藷など)、穀類澱粉(小麦、ワキシーコーンスターチ、コーンスターチ、米など)、豆類澱粉(エンドウ豆、そら豆、インゲン豆など)などがあげられる。
架橋澱粉はソース全体に対して0.15〜5質量%の範囲で配合することができる。好ましくは0.3〜4.5質量%であり、より好ましくは1〜3.5質量%である。5質量%を超えると、澱粉特有の粘りが出るために滑らかさを損なう。0.15質量%未満では、卵黄特有の滑らかな粘度は得られるものの、全体としての粘度が低くなる。」

(本10)「【0012】
本発明の冷凍カルボナーラソースは、通常カルボナーラソースに使用されるその他の原料、例えばチーズ類、クリーム類、調味料、添加剤等を含むことができる。
本発明の冷凍カルボナーラソースの製造方法は、卵黄液、リン酸塩、増粘多糖類及び架橋澱粉を含む原料を加熱混合処理した後、冷凍処理する以外は、通常の冷凍カルボナーラソースの製造方法にしたがって製造することができる。・・・」

7 実施例の記載
(本11)「【0013】
・・・
製造例1 冷凍カルボナーラソースの製造
(1)下記配合表の原料を調理器に投入し、混合しながら中心温度が85℃になるまで昇温し、85℃で10分間混合加熱してカルボナーラソースを得た。
(2)真空冷却機にカルボナーラソースを投入し、中心温度が20℃になるまで冷却した。
(3)100gずつ袋に充填して密閉し、急速冷凍(−35℃、45分)して冷凍カルボナーラソースを得た。
【表1】

*1:リン酸塩にはトリポリリン酸ナトリウムとピロリン酸四ナトリウムとを50重量%ずつ混合したパンフォス10(八宝商会社製)を使用した。
*2:HPとは、ヒドロキシプロピル化の略である。・・・
*3:卵黄液は、鶏卵を割卵して卵黄と卵白を分離し、卵黄を均質化したものである。
【0014】
評価
製造例1で得られた冷凍カルボナーラソースを98℃以上の湯煎で解凍し、皿に盛り付けた茹でスパゲッティー200gにかけて十分に混合し、10名の専門パネラーにより下記評価表に従って官能評価を行った。なお卵黄の熱凝固耐性付与を目的に、従来から酵素分解卵黄がカルボナーラソース等の卵黄含有食品に広く利用されていることから、酵素分解卵黄を使用したカルボナーラソース(対照例)の滑らかさ及びダマ感を各々3点及び5点とした。
【表2】



(本12)「【0015】
試験1:リン酸塩と卵黄の量についての評価
表1記載の配合量のリン酸塩及び卵黄液とした以外は製造例1に従って冷凍カルボナーラソースを製造し、官能評価を行った。・・・結果を表3に示す。
【表3】

(配合量の単位:ソース全体に対する質量%)
注*:卵黄液に対する質量%
【0016】
対照例では、卵黄の加熱凝固による影響はないものの、硫化物の様な特有の分解臭があり、増粘剤による適度な滑らかさが得られた。リン酸塩を配合した対象例2ではリン酸塩により卵黄の風味がやや損なわれていた。実施例では、何れも滑らかさ及びダマ感共に優れていた。比較例1では、卵黄液に対するリン酸塩の配合割合が少ないために、卵黄が熱凝固してダマ感があり、滑らかさも得られなかった。比較例2は、リン酸塩による卵黄の熱凝固を十分に抑制してダマ感並びに滑らかさに優れていたが、リン酸塩の異味により食味が損なわれた。比較例3では、卵黄の熱凝固は生じず良好な食感と卵黄の風味がしたが、リン酸塩の異味が強く食味が損なわれた。比較例4では、卵黄液の配合割合が少ないために卵黄の風味に乏しかった。比較例5では、卵黄の熱凝固は抑制されていたものの、加熱調理器具の底にコゲが生じたので官能評価を実施しなかった。」

(本13)「【0017】
試験2:増粘多糖類の量の評価
表4記載の配合量のキサンタンガムとした以外は製造例1に従って冷凍カルボナーラソースを製造し、試験1と同様に官能評価を行った。結果を表4に示す。
【表4】

(配合量の単位:ソース全体に対する質量%)
キサンタンガムにはノヴァザン200メッシュ(エー・ディー・エム・ジャパン社製)を使用した。
【0018】
実施例4〜6では、何れも滑らかさ及びダマ感共に優れていた。実施例7では、卵黄特有の滑らかな粘度は得られていたが、全体として粘度不足のために滑らかさが劣り、軽い食感であった。実施例8では、キサンタンガムの粘度が強くなるために滑らかさが劣り、重い食感であった。」

(本14)「【0019】
試験3:架橋澱粉の量の検討
表5記載の配合量のHPリン酸架橋澱粉とした以外は製造例1に従って冷凍カルボナーラソースを製造し、官能評価を行った。結果を表5に示す。
【表5】

(配合量の単位:ソース全体に対する質量%)
実施例9〜11では、何れも滑らかさ及びダマ感共に優れていた。実施例12では、卵黄特有の滑らかな粘度は得られていたが、全体として粘度不足のために滑らかさが劣り、軽い食感であった。実施例13では、粘度が高くなるために滑らかさが劣り、重い食感であった。」

(本15)「【0020】
試験4:澱粉の種類の検討
表5記載の各種澱粉を使用した以外は製造例1に従って冷凍カルボナーラソースを製造し、官能評価を行った。結果を表6に示す。
【表6】

(配合量の単位:ソース全体に対する質量%)
リン酸架橋澱粉にはC☆CreamTex75710(カーギルジャパン社製)を、アジピン酸架橋澱粉にはパインエース2(松谷化学工業社製)を、HP澱粉にはゆり(松谷化学工業社製)を、生澱粉には白雪(茶)(新進社製)を使用した。
実施例2、14〜15では、何れも滑らかさ及びダマ感共に優れていた。HP澱粉又は生澱粉を使用した比較例6および7は、冷凍解凍した際に離水が生じ、滑らかさが損なわれ、ボソボソとした食感であった。」

第5 甲号証に記載された事項
1 甲A1(甲B1)の記載事項
(甲A1a)「【0002】
カルボナーラは、卵黄、クリーム類、チーズ等の材料を用いてクリーム状のソースを作り、このソースをパスタと和えることにより作られるパスタ料理である。ここで、カルボナーラソース等に用いる卵黄あるいは卵黄含有組成物には、卵黄由来のアミラーゼが含まれているため、これらをソースに加えると、アミラーゼが小麦粉澱粉等の粘性材を分解し、ソース類の粘性を十分に維持できない(粘性が低下する)問題があった。
また、これとは別に、卵黄を含むソース等をレトルト加圧加熱殺菌処理した場合には、卵黄由来の凝集が生じることがあり、ソース等の滑らかさを損なうという問題があった。」

(甲A1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献に記載の卵黄含有組成物では、卵黄に含まれるタンパク質が凝固する温度以上で卵黄含有組成物を加熱するため、通常アミラーゼが失活しており、ソースに添加しても粘性が低下する問題はなく、加熱殺菌処理による卵黄由来の凝集の発生を抑えることができる。しかしながら、先行技術で得られた卵黄含有組成物を用いてカルボナーラソース等のソースを調製した際に、ソースの食感に細かなざらつきがあり、やわらかな軽い食感が損なわれ、パスタ等への上掛け性や麺絡みがよくない等の問題が新たに生じた。
従って、本発明は、十分な粘度を有すると共に、十分にやわらかな食感を有するソース類を調製可能な卵黄含有組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、卵黄等を含む混合物に、所定の条件で加熱処理と乳化処理とを施すことにより、十分な粘度を有し、十分にやわらかな食感を有するソースを調整可能な卵黄含有組成物を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は、卵黄及び水を含む混合物に、卵黄に含まれるアミラーゼが失活し、且つ卵黄に含まれるタンパク質が凝固しない条件で加熱処理を施す工程と、前記混合物に乳化処理を施す工程とを有する卵黄含有組成物の製造方法、及びこの製造方法により得られた卵黄含有組成物を用いて卵黄を含有するソースを調製する工程を有するソースの製造方法を提供する。」

(甲A1c)「【0011】
[卵黄含有組成物]
本発明の卵黄含有組成物の製造方法により得られる、卵黄含有組成物は卵黄及び水を含み、必要に応じてクリーム類、増粘剤、油脂及びその他の成分を含む。
(卵黄)
卵黄は、一般に流通している卵黄であればいずれのものであってもよい。例えば、鶏、鶉、アヒルなどの家禽卵より得られる生卵黄又はこれを殺菌したもの、冷蔵若しくは冷凍したもの、酵素処理したもの、フリーズドライなどで乾燥させたもの、脱糖処理したもの、脱コレステロール処理したもの、又は食塩若しくは糖類を加配したもの等が挙げられる。生卵黄又はこれを冷蔵若しくは冷凍したもの、糖類を加配したもの等生卵黄と同等のものを好適に用い得る。
また、卵黄の含有量は、卵黄の風味や、ソース等に用いた場合にやわらかな食感、滑らかさが得られやすいことから、卵黄含有組成物に対して生卵黄換算で10質量%〜70質量%となるような含有量が好ましく、25質量%〜50質量%となるような含有量がより好ましい。なお、卵黄及び水を含む混合物を調製する際に、水以外の他の成分と卵黄を混合する前に、あらかじめ卵黄を水で希釈してもよい。
・・・
(増粘剤)
卵黄含有組成物は、好ましくは増粘剤を含む。卵黄含有組成物が増粘剤を含むことにより、卵黄含有組成物の流動状の物性を安定にすることができ、卵黄含有組成物から調製されるソース等の粘性や食感の調整にも機能し得る場合がある。
増粘剤としては特に限定されるものではないが、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアガム等のガム類、及びデンプン質原料を挙げることができる。これらの中でも、キサンタンガムが好ましい。なお、デンプン質原料としては、馬鈴薯デンプン、小麦デンプン、コーンスターチ、タピオカデンプン、もち米デンプン等のデンプン及びこれらの加工デンプンや、小麦粉等、成分にデンプンを含むものを使用することができる。増粘剤の含有量は、任意である。
・・・
(その他の成分)
卵黄含有組成物は、卵黄、クリーム、及び増粘剤のほか、食塩、砂糖、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、糖類、トリポリリン酸ナトリウム等の乳化剤、乳化補助剤、エキス、ラード等の食用油脂、香辛料、色素、発色剤等を含有していてもよい。」

(甲A1d)「【0014】
<実施例1;本発明の卵黄含有組成物の調製>
表1に示した原料を予め混合分散し、高速撹拌機であるホモミクサー及び低速撹拌機である斜軸アンカー型撹拌羽根を共に備えた高速撹拌加熱機(株式会社カジワラ製)により、ホモミクサーの回転数3500rpm、斜軸アンカー型撹拌羽根の回転数24rpmで高速・低速撹拌を行いながら、原料品温が75℃になるまで加熱し、流動状の卵黄含有組成物を調製した。得られた卵黄含有組成物は、鮮やかな黄白色の均一で滑らかな流動物であった。
調製した上記の卵黄含有組成物を、パウチ容器に充填密封し、冷却後冷凍庫で冷凍してパウチ容器入り冷凍卵黄含有組成物を調製した。保存後に解凍した卵黄含有組成物は、冷凍前の卵黄含有組成物と同様の性状を有していた。
【表1】

【0015】
<実施例2;実施例1の卵黄含有組成物を用いた濃縮タイプ冷凍カルボナーラソースの調製>
表2に示す、実施例1で得られた卵黄含有組成物とそれ以外の成分を、クッカーで原料の品温が90℃に達温するまで混合した後、パウチ容器に充填密封し、冷却後冷凍庫で冷凍してパウチ容器入りの濃縮タイプ冷凍カルボナーラソースを調製した。
保存後、解凍した後の濃縮タイプカルボナーラソースは、鮮やかな薄黄白色の均一で滑らかな流動物で、粘度は9130mPa・sであった(東機産業株式会社製B型粘度計、測定条件ロータNo.4、60rpm、60℃)。
解凍した上記の濃縮タイプのカルボナーラソース1質量部に、水0.5質量部を加えて一煮立ちさせたカルボナーラソースを茹でたスパゲティーに絡めた。一煮立ちさせたカルボナーラソースは、鮮やかな薄黄白色の均一で滑らかな流動物で、粘度870mPa・sであった(東機産業株式会社製B型粘度計、測定条件ロータNo.3、60rpm、60℃)。
カルボナーラソースはスパゲティーの表面に厚みをもって均一に絡められており、スパゲティーに均一に鮮やかな薄黄白色が与えられ、喫食の間を通じて上記の状態が保持されていた。また、カルボナーラソースはフワッとしたやわらかい口どけの食感を有していた。
【表2】



2 甲A2(甲B5)の記載事項
(甲A2a)「【0008】
そこで、本発明の目的は、冷凍保存し解凍した後も、品質の劣化が起きることのない冷凍ソース又は冷凍スープを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、冷凍ソース又は冷凍スープに、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体と、澱粉、デキストリン、還元デキストリン、ゼラチン及び増粘多糖類から選ばれる1種又は2種以上とを配合するならば、意外にも、冷凍保存し解凍した後も離水や食感が悪化することがなく、冷凍による品質の劣化を防止することができることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(甲A2b)「【0026】
本発明の増粘多糖類は、食用として一般的に用いているものであれば特に限定するものではなく、例えば、ジェランガム、カラギーナン、ファーセルラン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガム、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、及びタマリンドガム等が挙げられる。これら増粘多糖類の中でも、カラギーナン及びキサンタンガムを配合すると冷凍による品質の劣化が充分に防止された冷凍ソース又は冷凍スープが得られ易く好ましい。」

(甲A2c)「【0050】
[実施例1]
下記の配合の冷凍カルボナーラソースを製した。つまり、調製例3で得られた複合体、化工澱粉(ピユリティーW(商品名)、日本エヌエスシー(株)製)、牛乳、菜種油、ショ糖脂肪酸エステル、卵黄、酵素処理卵黄油、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、チキンブイヨン、砂糖、食塩、清水を二重釜に投入し、撹拌させながら加熱し、90度に達温後攪拌を停止した。次いでストレーナーに通した後140g(1食分)ずつパウチに充填し、冷却後、−35℃で25分間凍結処理し、冷凍カルボナーラソースを製した。
【0051】
<配合割合>
牛乳 6kg
菜種油 8kg
ショ糖脂肪酸エステル(HLB14) 0.5kg
卵黄 4.5kg
酵素処理卵黄油 0.2kg
クリームチーズ 10kg
ナチュラルチーズ 1kg
(パルミジャーノレジャーノ)
化工澱粉 2.5kg
チキンブイヨン 1kg
砂糖 1kg
食塩 1kg
複合体(調製例3) 4.6kg
清水 残余
―――――――――――――――――――――――――――
合計 104kg」

3 甲A3の記載事項
(甲A3a)「【0063】
[実施例7]
・・・化工澱粉であるヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(日本エヌエスシー(株)製、ピユリティーW)1.5kg・・・」

4 甲A4の記載事項
(甲A4a)「本発明者らは、予め調理された保存性を有するカスタードソースを得るべく、カスタードソースを加熱殺菌処理することを試みたが、以下の問題が発生した。
(1)バッチ(静置)式の加熱殺菌処理をする場合;
殺菌処理によってカスタードソースが卵豆腐様に凝固し、流動状のソースとならない。
(2)連続式の加熱殺菌処理をする場合;
上記(1)のように殺菌処理によってカスタードソースが凝固する問題はない。しかし、殺菌処理後のカスタードソースは、食した際に粉っぽい凝集物が舌に感じられ、ザラついた食感であり、後味がわるいものであった。この問題は、本発明者らの研究の過程で発覚したもので、従来は知られていない問題である。尚、上記の凝集物は肉眼では確認することができないものである。
(発明が解決しようとする問題点)
本発明は、予め調理された保存性を有するカスタードソースを得ることを目的とし、特にカスタードソースを加熱殺菌処理する場合に、前記の凝集物の発生による食感の劣化の起こらない殺菌済カスタードソースの製造法の提供を目的とする。
(問題点を解決するための手段)
本発明者らの研究により、カスタードソースを加熱殺菌処理するに際して、カスタードソースを流動状態で殺菌処理することに加えて、カスタードソース中にリン酸塩を添加することによって、前記の凝集物の発生による食感の劣化の問題が解消されることが明らかになった。」(1ページ右欄15行〜2ページ右上欄3行)

(甲A4b)「カスタードソースには、主成分として卵黄、乳固形分及び糖類が含まれる。卵黄は生、冷凍のもの等を使用できる。乳固形分は、牛乳、練乳、全脂粉乳、脱脂粉乳等の乳製品に由来するものである。糖類としては、砂糖、ブドウ糖、果糖が例示される。
上記の成分は、各々カスタードソース中に卵黄3.5〜15.0重量%、好ましくは6.5〜12.0重量%、乳固形分4.2〜12.0重量%、好ましくは6.0〜10.5重量%、及び糖類12.0〜25.0重量%、好ましくは14.0〜22.0重量%の割合で含むのが望ましい。・・・
本発明では、前記の主たる成分に加えてカスタードソース中にリン酸塩を添加する。リン酸塩としては、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、メタリン酸塩等の縮合リン酸塩及びオルトリン酸塩が例示される。・・・
これらのリン酸塩は、カスタードソース中に含まれる割合が0.1〜0.8重量%、好ましくは0.15〜0.6重量%となるように添加するのが望ましい。カスタードソース中のリン酸塩が0.1重量%に満たない場合は、加熱殺菌処理による凝集物の発生を良好に防止し難い。一方、0.8重量%を越える場合は、カスタードソースの風味に悪影響を及ぼす傾向がある。しかして、カスタードソース中に含まれるリン酸塩の割合を上記の範囲とすることによって、加熱殺菌処理による凝集物の発生を防止して舌触りがよく、また風味のよいカスタードソースを得ることができる。
・・・
カスタードソース中には必要により増粘剤を添加することができる。増粘剤はカスタードソースに適当な粘性を付与する目的で使用する。増粘剤としては、キサンタンガム、グアガム、ジェランガム等のガム質、カラギーナン及び各種澱粉が例示される。カスタードソースを安定に増粘する上で、キサンタンガム等の高温で安定性のある増粘剤の使用が好ましい。これらの増粘剤は、カスタードソース中に含まれる割合が0.1〜3.0重量%、好ましは0.3〜2.5重量%となるように添加することが望ましい。上記の割合によって、カスタードソースに食感上好適な粘性を付与することができる。」(2ページ右上欄12行〜3ページ左上欄15行)

5 甲A5の記載事項
(甲A5a)「【0050】
[実施例4:カルボナーラ用レトルトソース]
・・・
【0051】
<ソース部の配合割合>
酵素処理卵黄 1部
酵素処理卵黄油 0.4部
ナチュラルチーズ 7部
化工澱粉 1.5部
粉末卵(実施例2) 1.0部
キサンタンガム 0.04部
牛乳 30部
生クリーム 30部
ブラックペパー 0.2部
清水 残余
――――――――――――――――――――
合計 100部
【0052】
<具材を含めたカルボナーラ用レトルトソースの配合割合>
上記ソース部 100部
ベーコン 20部
―――――――――――――――――
合計 120部
・・・
【0054】
[実施例5:カスタードクリーム]
・・・
【0055】
<配合>
加糖液卵黄(砂糖含有量20%) 150g
牛乳 690g
グラニュー糖 120g
コーンスターチ 40g
粉末卵(実施例2) 5g
―――――――――――――――――――――
合計 1005g」

6 甲A6の記載事項
(甲A6a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト処理されているにも拘らず、卵黄及びナチュラルチーズを高濃度に含有させたとしても比較的低粘度を示し、しかも滑らかな状態が維持されたカルボナーラ用レトルトソースに関する。」

(甲A6b)「【0014】
また、「卵黄」としては、一般的に流通している卵黄であればいずれのものでも良く、例えば、鶏、うずら、あひる等の家禽卵より得られる生卵黄又はこれを殺菌したもの、冷蔵若しくは冷凍したもの、スプレードライ若しくはフリーズドライ等で乾燥したもの、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD、プロテアーゼ等の酵素で処理したもの、脱糖処理したもの、超臨界二酸化炭素処理等で脱コレステロールしたもの、あるいは食塩若しくは糖類を加配したもの等が挙げられる。」

7 甲A7の記載事項
(甲A7a)「【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳述する。本発明に用いる卵黄液は、通常の生卵黄、約60度、3分間程度加熱した殺菌卵黄、熱凝固変性した卵黄、一部だけ熱凝固変性した卵黄を均質化したもの、または乾燥卵黄を水にといたものであっても良く、特に何ら制限は無い。たとえば、割卵した後、卵白と分離して得られた卵黄等がごく一般的なものである。また卵黄液中の卵黄濃度は特に制限ない。」

8 甲A8の記載事項
(甲A8a)「【請求項1】 卵黄および乳蛋白質を含有するレトルトソース類の製造法において、卵黄と食塩を含む水分散液を加熱した後、均質化処理して得られた卵黄処理液を用いることを特徴とする、レトルトソース類の製造法。」

(甲A8b)「【0007】次に加熱処理された卵黄を含む液は均質化処理を行い卵黄処理液を得る。この均質化処理方法はいずれの方法で行ってもよい。例えば高速回転撹拌機、コロイドミル、超音波式乳化機、せん断型、衝撃型、キャビテーション型の均質機等を用いることによって均質化を行うことができるが、特に高圧タイプの均質機を用いることが好ましい。」

(甲A8c)「【0013】実施例1
水73重量部に生卵黄20重量部、食塩2重量部、小麦澱粉5重量部を加えて卵黄を分散させた後90℃まで加熱処理した。次にこの分散液を高圧(圧力150kg/cm2)均質機により均質化処理を行い卵黄処理液を得た。得られた卵黄処理液を用いて下記表1に示す配合で85℃まで炊き上げてカルボナーラソースを得た。このカルボナーラソースを7号缶に285g充填した後レトルト殺菌し、カルボナーラソースを得た。」

9 甲A9の記載事項
(甲A9a)「

」(484〜485ページ)

10 甲B2の記載事項
(甲B2a)「食品添加物基礎講座(その6)
食品を形作る食品添加物(2)
今回は、食品を形作る食品添加物の2回目として、糊料・増粘安定剤類を見直そう。
・・・
新しく指定された加工デンプン類
国際的に汎用されている食品添加物を、日本でも使用できるようにする指定に向けての検討品目として、加工デンプン類も検討されてきた。その結果、2008年10月1日に、次の11品目の加工デンプン類が新たに食品添加物として指定され、成分規格も設定された。
アセチル化アジピン酸架橋デンプン,
アセチル化酸化デンプン,
アセチル化リン酸架橋デンプン,
オクテニルコハク酸デンプンナトリウム,
酢酸デンプン,
酸化デンプン,
ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、
ヒドロキシプロピルデンプン,
リン酸架橋デンプン,
リン酸化デンプン,
リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン
これらの加工デンプンは、かつては化工デンプンとも称され、海外からの輸入に際しては、デンプンの範疇とみなされてきたが、国際的には食品添加物として評価され、使用されていることから、日本でも食品添加物に加えられたものである。11品目の中では、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムは乳化の目的で使用されることもあるが、そのほかの10品目は、糊料および製造用剤として使用される。それぞれに、糊化温度、粘性などに違いがあるため、必要に応じて使い分けされたり、組み合わせて使用される。」(Page 1 of 3の1行〜Page 2 of 3の44行)

11 甲B3の記載事項
(甲B3a)「【0011】
本発明のパスタソースとは、茹でたスパゲッティーやマカロニ等のパスタと和えてパスタ料理に仕上げるためのソースをいう。このようなパスタソースの味の種類としては、例えば、カルボナーラスパゲッティー等のクリーム系パスタを得るためのパスタソース・・・が挙げられる。
【0012】
本発明のパスタソースは、非溶解状態の澱粉及び/又は非溶解状態の加熱溶解性ガム質が分散していることを特徴とし、これにより、和えやすさを損なうことなくパスタと和えた後のパスタの「のび」を抑制することができる。 ・・・
【0014】
ここで、パスタソース中に、非溶解状態で分散する澱粉としては、常温(15〜25℃)で水に不溶性又は難溶性で常温よりも高い温度に加熱することにより溶解して増粘性を発揮する生澱粉、もしくは水に不溶性又は難溶性の架橋澱粉を挙げることができる。
・・・
【0016】
また、前記架橋澱粉としては、架橋処理により水への溶解性が抑制され水中で粒子状態が保たれやすく加工された架橋澱粉が挙げられる。このような架橋澱粉としては、前記生澱粉に、アセチル化アジピン酸架橋や、アセチル化リン酸架橋等を施し、澱粉分子中の水酸基のうちいくつかを架橋処理したもの等が挙げられる。・・・
【0017】
一方、パスタソース中に、非溶解状態で分散する澱粉加熱溶解性のガム質とは、常温(15〜25℃)で水に不溶性又は難溶性で常温よりも高い温度に加熱することにより溶解して増粘性を発揮するガム質をいう。このような加熱溶解性のガム質としては、加熱溶解性タマリンドシードガム(溶解温度70〜90℃)、加熱溶解性ローカストビーンガム(溶解温度70〜80℃)及び加熱溶解性カラギーナン(カッパカラギーナン、イオタカラギーナンともに溶解温度70〜80℃)等をあげることができ、本発明においては、これらの1種又は複数種を合わせて使用することができる。・・・
【0018】
本発明においては、上述した澱粉及び加熱溶解性ガム質の中でも、架橋澱粉を非溶解状態でパスタソースに分散させるとパスタの「のび」を抑制効果が高く特に好ましい。
【0019】
また、本発明のパスタソースにおいて、上述の澱粉及び/又は加熱溶解性ガム質の合計配合量は、使用する澱粉や加熱溶解性ガム質の種類にもよるが、乾物換算でパスタソースに対して0.01〜20%が好ましく、0.1〜10%がより好ましい。・・・」

(甲B3b)「【0026】
[実施例1]
下記に示す配合割合でガーリックパスタソースを製した。・・・ワキシーコーンスターチを原料とした架橋澱粉(商品名「ファリネックスVA70WM」、松谷化学株式会社製)を投入し・・・
・・・
【0041】
[実施例5]
下記に示す配合割合でクリームパスタソースを製した。・・・ワキシーコーンスターチを原料とした架橋澱粉(実施例1と同じ)を投入し・・・
【0042】
<配合割合>
生クリーム 30%
食塩 2%
グルタミン酸ナトリウム 1%
鮭エキス 1%
キサンタンガム 0.2%
架橋澱粉 3%
清水 残余
合計 100%」

12 甲B4の記載事項
(甲B4a)「【0001】
本発明は、電子レンジ加熱調理に適したレトルトクリームソース・・・に関する。
・・・
【0015】
本発明が対象とするレトルトクリームソースとは、少なくとも調味料及び乳原料を含有する乳化状のソースであって、常法でレトルト処理されたものである。・・・乳原料としては、牛乳、クリーム、バター、チーズ、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダーなどが挙げられる。・・・
・・・
【0027】
本発明のレトルトクリームソースの粘度の調整は、電子レンジ調理中のクリームソースの沸き上がりを抑制する効果が得られ易い点から、澱粉を用いる。・・・これらの澱粉の中でも、具材にソースが絡み易い好ましい性状を付与できるという点から、湿熱処理澱粉又は加工澱粉を好ましく使用できる。なお、澱粉の使用量は、レトルトクリームソースの粘度が前記粘度となるに必要な量を配合すればよく、具体的には、レトルトクリームソース全体の好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜5質量%である。」

(甲B4b)「【0054】
[実施例1]
・・・
【0055】
(2)クリームソース
表1に示す配合原料を用意した。・・・クリームソースを得た。
・・・
【0057】
【表1】



13 甲B6の記載事項
(甲B6a)「【0049】
・・・ファリネックスVA70WM(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、松谷化学工業株式会社)・・・」

14 甲B7の記載事項
(甲B7a)「PURITYTM W Starch
ピュリティーW
(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン)
・・・
*この素材は、加工食品向けの原料であり、そのまま食するものではありません。
Effective Date: April 01,2013」

15 甲B8の記載事項(○数字は< >で示す)
(甲B8a)「【対照】<1>他と照らし合わせること。・・・<2>互いに対立する二つの要素がきわだつこと。・・・【対照実験】ある対象についての一定の因子の作用を明らかにする実験を行う場合、これと別に、その因子を取り除きそれ以外は全く同一の条件下で実験を行なって両者の結果を比較検討することがある。このとき後者の実験を対照実験と呼ぶ。・・・【対照的】二つの事物の相違が目立つさま。」(1683ページ2段〜3段の「たい−しょう」の項目)

16 甲B9の記載事項(○数字は< >で示す)
(甲B9a)「

」(60ページ左欄表1)

(甲B9b)「4)リン酸塩を形成する陽イオンの作用
食品添加物のリン酸塩を構成する固有の陽イオンとしては,ナトリウム以外に,カリウム,アンモニウム,カルシウム,マグネシウム,および鉄(III)イオンがリン酸塩を形成する。この陽イオンが,食品への利用において,ミネラル強化(Ca,Mg,Fe),イーストフード(NH4,K,P),増粘安定化のゲル形成助剤(K,Ca)として利用される。」(61ページ右欄11〜19行)

(甲B9c)「5.リン酸塩製剤と添加量
食品加工におけるリン酸塩の使用法としては,対象食品のpHや作業性,品質改良などの点で十分な効果を発揮するために,複数のリン酸塩を併用することが多い。代表的なリン酸塩とpHと溶解性は以下に示す通りであるが,ユーザーでは,<1>食品に最適なpHや特性への調整のしやすさ<2>溶解性改善<3>作業効率の向上などの点で,リン酸塩は複数原料を配合させた製剤で使用することが多い。

」(64ページ右欄14行〜図11)

17 甲B10の記載事項
(甲B10a)「【0035】
・・・一方、調味液にメタリン酸ナトリウムを添加した比較例1の茹卵は、卵白部の硬化が防止されたものの、添加したメタリン酸ナトリウムにより茹卵風味が大幅に損なわれてしまい好ましくなかった。」

18 甲B11の記載事項
(甲B11a)「【0014】
・・・尚、上記の塩類には、ナトリウム塩の他にも、カリウム塩やカルシウム塩があるが、カリウム塩では味覚的に苦味を有するものがあること、又、カルシウム塩では使用品目や使用量等に制限があることなどから、ナトリウム塩が好適に使用される理由である。」

19 甲B12の記載事項
(甲B12a)「【0003】
・・・特にリン酸塩は有効なpH範囲が広いこともあり、多くの加工食品に利用されているが、カルシウムが存在すると沈澱を生じることがあり、使用を制約される場合がある。更にリン酸カルシウムは極めて溶解性が悪いため、食品として摂取した後、腸内でのカルシウムの吸収性を大きく損なうとされており、無機のリン酸やリン酸塩は使用を制限すべきともいわれている。」

20 甲B13の記載事項
(甲B13a)「

・・・

」(60ページ表1〜62ページ表3)

(甲B13b)「市販とろみ調整食品が食材の物性に及ぼす影響をもとに分類を行なうと,各とろみ剤の特徴が食材の種類によって異なることが明らかとなった。したがって,とろみを付与する食材や目的に応じて適切な製品を選択することが重要である。」(69ページ左欄6〜10行)

21 甲B14の記載事項
(甲B14a)「【0003】・・・他のガム質や澱粉水溶液は低温で粘度が高く、高温になるにつれて粘度が低下するという基本的性質があるのに対して、キサンタンガム水溶液の粘度は、温度依存性が比較的小さいという特異な性質を持つ。耐塩性や耐酸性にも優れている。これらの性質のため、キサンタンガムは、ドレッシング,ケチャップ,マヨネーズ,塩辛,佃煮等、多くの食品の増粘剤として利用されている。」

第6 当審の判断
当審は、本件特許発明1〜4に係る特許は、上記第3に概要を示した申立人A及び申立人Bの特許異議申立理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
なお、以下、第4及び第5の本件特許明細書及び甲号証の記載事項については、単に(本1)や(甲A1a)などと記載する。

1 申立理由A4(明確性要件)及び申立理由B1(明確性要件)について
(1)(Aエ)及び(Bア)について
ア 申立人の主張
申立人Aが主張する(Aエ)及び申立人Bが主張する(Bア)は、以下のとおり、いずれも本件特許発明1〜4の「卵黄液」は不明確であるというものである。
すなわち、(Aエ)は、本件特許発明1〜4の「卵黄液」は、本件特許明細書の記載をみても、単に割卵して得た生卵黄をそのまま何らの加熱又は酵素分解などの処理や添加物の添加なしに均質化したものに限定されるのか、それとも、何らかの処理・添加剤の添加を経た後に均質化したのか、後者である場合はどのような処理までが許容されるのかが不明であるというものであり、(Bア)は、本件特許発明1〜4の「卵黄液」は、甲B8の「対照」(上記(甲B8a))という言葉の意味を考慮して、本件特許明細書の実施例などの記載をみても、酵素分解卵黄が含まれるか否かが不明確であり、具体的にどのような卵黄を用いた場合が本件特許発明1〜4の技術的範囲に含まれるかを判断することは不可能であるというものである。

イ 判断
本件特許発明1〜4の「卵黄液」は、上記(本6)に「本発明において『卵黄液』とは、常法により割卵した後に黄味と白身を分離し、回収した黄味を均質化したものである。使用する卵は食用に供される鳥類の卵であれば何れでもよく、ニワトリ、ウズラ、アヒル、ダチョウ等が例示される。好ましくはニワトリである。」と定義されているとおりのものとして明確である。
そして、従来技術に関して、上記(本2)に「特許文献7及び特許文献8では、耐熱性(耐熱凝固性)に優れたアルカリプロテアーゼで処理した酵素処理卵黄が開示されている。特許文献9では、卵黄、澱粉及び水を加えた懸濁液を加熱凝固させた後に微粉化して得た加熱処理しても熱凝固しない卵黄含有食品原料が開示されている。これらは、卵黄の加熱凝固を防いでダマ感を解消するには十分な効果があるが、卵黄が酵素変性又は熱変性を受けているために卵黄に由来する特有の滑らかな粘度を得るには満足できるものではなく、また、プロテアーゼ処理した卵黄を使用する場合においては硫化物のような特有の分解臭と苦味が生じるという問題があった。特許文献10では、熱凝固性を低下することができるアルギン酸塩を含有する卵黄液が開示されている。しかしながら、あらかじめアルギン酸塩溶液を温水で希釈した後に卵黄を添加して均質化する工程を必要としており、簡便性に欠けるものであった。」と記載されており、実施例に関して、上記(本11)に「卵黄液は、鶏卵を割卵して卵黄と卵白を分離し、卵黄を均質化したものである。」、「なお卵黄の熱凝固耐性付与を目的に、従来から酵素分解卵黄がカルボナーラソース等の卵黄含有食品に広く利用されていることから、酵素分解卵黄を使用したカルボナーラソース(対照例)の滑らかさ及びダマ感を各々3点及び5点とした。」と記載されていることからも、酵素変性や熱変性を受けているようなものではなく、常法により割卵した後に黄味と白身を分離し、回収した黄味を均質化したものであることは明確であるといえる。
よって、上記申立人Aの(Aエ)及び申立人Bの(Bア)の主張はいずれも採用できない。

(2)(Aオ)について
ア 申立人の主張
申立人Aの主張する(Aオ)は、本件特許発明1に記載の「リン酸塩」はその存在形態に限定がないから、ソースに含まれるすべてのリン酸塩の合計量と解され、そうすると、本件特許明細書の比較例1はソース中にチーズを3質量部含むところ(上記(本12))、甲A9の上記(甲A9a)に記載のとおりチーズにもリン酸塩が含まれるから、この量もあわせればリン酸塩の量が少ない比較例1も本件特許発明1の条件を満たすことになり、発明の詳細な説明の記載と整合しておらず、不明確となっており、同様の理由で本件特許発明1を引用する本件特許発明2〜4も不明確であるというものである。

イ 判断
本件特許発明1〜4の「リン酸塩」は、上記(本7)の「本発明において『リン酸塩』は食用に使用できるリン酸塩であれば特に限定なく使用することができる。好ましくはポリリン酸塩であり、より好ましくはトリポリリン酸塩、ピロリン酸塩である。最も好ましくはトリポリリン酸ナトリウム及び/又はピロリン酸四ナトリウムである。本発明において、リン酸塩は卵黄液に対して1.5質量%以上添加する。」との記載のとおり、リン酸塩として添加されるものとして明確である。
そして、実施例に関する上記(本11)の「(1)下記配合表の原料を調理器に投入し、混合しながら中心温度が85℃になるまで昇温し、85℃で10分間混合加熱してカルボナーラソースを得た。」との記載及び表中の「リン酸塩*1」と「*1:リン酸塩にはトリポリリン酸ナトリウムとピロリン酸四ナトリウムとを50重量%ずつ混合したパンフォス10(八宝商会社製)を使用した。」との記載からも、リン酸塩として添加されるものを意味していることは明確である。
よって、上記申立人Aの(Aオ)の主張は採用できない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1〜4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものではないから、特許法第113条第4号により取り消すべきものではなく、申立理由A4(明確性要件)及び申立理由B1(明確性要件)は理由がない。

2 申立理由A2(サポート要件)、申立理由A3(実施可能要件)及び申立理由B(サポート要件)について
(1)本件特許発明1〜4について
本件特許明細書全体の記載、特に上記(本3)からみて、本件特許発明1〜4の解決しようとする課題は、「卵黄の加熱凝固を抑制し、卵黄に由来する特有の滑らかな粘度と卵黄の自然な風味を有する、冷凍カルボナーラソース及びその製造方法を提供すること」にあると認める。
そして、上記(本4)及び(本6)〜(本10)の一般記載から、上記課題は、卵黄液、リン酸塩、増粘多糖類及び架橋澱粉を含む冷凍カルボナーラソースにおいて、卵黄液に対して1.5質量%以上のリン酸塩を含み、リン酸塩の含有量はソース全量に対して1.2質量%以下とすることにより解決できることが理解でき、卵黄液、リン酸塩、増粘多糖類及び架橋澱粉として使用できるものの具体例や好ましい配合量、製造方法が説明されていることから、冷凍カルボナーラソースを製造できることが理解できる。
また、上記(本11)〜(本15)の実施例によって、卵黄液に対して1.5質量%以上のリン酸塩を含み、リン酸塩の含有量はソース全量に対して1.2質量%以下とすることにより、食味、滑らかさ、ダマ感(加熱凝固)の官能評価において優れた冷凍カルボナーラソースを製造できることが確認されている。
したがって、本件特許発明1〜4は、発明の詳細な説明において、課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであり、発明の詳細な説明は、本件特許発明1〜4について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

(2)申立人A及び申立人Bの主張について
ア (Aア)及び(Aイ)について
(ア)申立人の主張
申立人Aの主張する(Aア)は、本件特許明細書の各実施例は、酵素分解卵黄を使用した対照例の滑らかさの評価を3点の普通とし、増粘多糖類の配合量を変更して評価した結果を表4に示しているところ、本件特許発明1の範囲内である、増粘多糖類0.4質量%の滑らかさの点数が3.8点であったのに対し、範囲外である0.6質量%では0.9点であったから、本件特許発明1の範囲内である、増粘多糖類0.5質量%の滑らかさの評価点は、(3.8点+0.9点)÷2から導き出される2.4点程度になると考えられ、普通である3点を下回る結果になることが推定されるから、本件特許発明1〜4は課題を解決できないものも含まれていることになり、発明の詳細な説明に記載された内容を本件特許発明1〜4にまで拡張ないし一般化することはできないというものである。
また、(Aイ)は、本件特許明細書の各実施例は、酵素分解卵黄を使用した対照例の滑らかさの評価を3点の普通とし、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉の配合量を変更して評価した結果を表5に示しているところ、本件特許発明1の範囲内である、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉4質量%の滑らかさの点数が3.7点であったのに対し、範囲外である6質量%では滑らかさの点数が0.5点であったから、本件特許発明1の範囲内である、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉5質量%の滑らかさの評価点は、(3.7点+0.5点)÷2から導き出される2.1点程度になると考えられ、普通である3点を下回る結果になることが推定されるから、本件特許発明1〜4は課題を解決できないものも含まれていることになり、発明の詳細な説明に記載された内容を本件特許発明1〜4にまで拡張ないし一般化することはできないというものである。

(イ)判断
申立人Aの主張は、上記(本13)の「試験2:増粘多糖類の量の評価」及び上記(本14)の「試験3:架橋澱粉の量の検討」のそれぞれについて、配合量が異なる2つの評価の結果を足して2で割り平均を求めたところ、課題を解決できないものが含まれているというものであるが、評価の点数までこのような計算で明らかになる根拠が不明であり、単なる推測に過ぎず採用できない。
よって、上記申立人Aの(Aア)及び(Aイ)の主張はいずれも採用できない。

イ (Aウ)及び(Bウ)について
(ア)申立人の主張
申立人Aが主張する(Aウ)及び申立人Bが主張する(Bウ)は、以下のとおり、いずれも本件特許発明1〜4の「卵黄液」は不明確であることを前提とするものである。
すなわち、(Aウ)は、本件特許発明1〜4は、卵黄の加熱凝固を抑制し、卵黄に由来する特有の滑らかな粘度と卵黄の自然な風味を有する、冷凍カルボナーラソース及びその製造方法を提供することを課題とし、卵黄液、リン酸塩、増粘多糖類及び架橋澱粉を特定量で冷凍カルボナーラソースに配合することで課題を解決しているが、この卵黄液は、本件特許明細書の記載によれば、種々の卵黄に由来する広範なものを含むと考えられるところ、甲A6に記載のとおり、カルボナーラソースに用いる卵黄液は、通常、生卵黄、殺菌卵黄、冷蔵卵黄、冷凍卵黄、乾燥卵黄のほか、酵素処理したもの、脱糖処理したもの、脱コレステロールしたもの、食塩や糖類を加配したものが利用できることが知られており(上記(甲A6a)〜(甲A6b))、甲A7には、加熱処理後に均質化した卵黄が記載され(上記(甲A7a))、甲A8には、種々の装置や配合を用いて均質化処理した卵黄が記載されているのに対し(上記(甲A8a)〜(甲A8c))、本件特許明細書の実施例では、均質化処理の前にどのような処理が存在したのかも、均質化処理をどのような装置や条件で行ったのかも、一切開示されていないから、当業者であっても、卵黄液としてどのようなものを用いたのか詳細が不明であり、実施することができない。また、本件特許発明1〜4は、加熱凝固や酵素処理を含め種々の処理や添加剤を加配した後に均質化した卵黄を排除していないと解されるから、課題を解決できないものも含まれていることとなる。したがって、発明の詳細な説明に記載された内容を請求項に係る発明にまで拡張ないし一般化することはできないし、本件特許発明1〜4は、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載したものではないというものである。
(Bウ)は、本件特許発明1〜4の「卵黄液」には、酵素分解卵黄が含まれると解釈し得るところ、上記(本12)の酵素分解卵黄を用いた対照例の評価結果は、課題を解決できているとは考えられないものであり、配合割合に関しても、卵黄液の量がソース全量に対して0.5〜8質量%であることを強調して特許が付与された経緯があるにも拘わらず、実施例は2質量%の場合しか開示されていない。卵黄の配合量が多くなれば、当然その分加熱凝固によるダマが発生しやすくなり、卵黄に由来する特有の滑らかな粘度を得ることが難しくなり、逆に卵黄の配合量が小さくなれば、卵黄に由来する自然な風味を得ることが難しくなることが予想されるのだから、0.5〜8質量%の範囲にまで、その効果を一般化・抽象化し得るとは認められないというものである。

(イ)判断
本件特許発明1〜4の「卵黄液」は、上記1(1)イで述べたとおり、常法により割卵した後に黄味と白身を分離し、回収した黄味を均質化したものであることは明確であり、甲A7の上記(甲A7a)に「割卵した後、卵白と分離して得られた卵黄等がごく一般的なものである」と記載されているとおり、当業者であれば、本件特許明細書で定義され、実施例で使用された卵黄液について理解できるといえるから、申立人A及び申立人Bの主張は前提において誤っている。
また、本件特許明細書の上記(本6)に「ソース中の卵黄液の好ましい含量は0.5〜8質量%であり、0.5質量%未満では卵の風味が乏しい傾向にあり、8質量%を超えると加熱調理時に焦げ付きやすくなる傾向にある。」と記載されているところ、申立人Bも、卵黄液の配合量が多ければ加熱凝固の問題が生じ、少なければ風味の問題が生じることを理解しているとおり、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らしても、実施例で効果が示された2質量%の場合しか、課題を解決できると認識できないとはいえない。そして、本件特許発明1〜4が、いわゆるサポート要件を満たすことは、上記(1)で述べたとおりである。
よって、上記申立人Aの(Aウ)及び申立人Bの(Bウ)の主張はいずれも採用できない。

ウ (Bイ)について
申立人Bの主張は、要するに、本件特許明細書に記載の実施例及び比較例は、官能評価が信憑性に欠けるものと言わざるを得ないから、本件特許発明1〜4のサポートとはなり得ないというものであるが、本件特許明細書の上記(本11)のとおり、10名の専門パネラーが、食味、滑らかさ、ダマ感(加熱凝固)のそれぞれについて定められた評価基準にしたがって官能評価を行ったことが説明されている。
よって、上記申立人Bの(Bイ)の主張は採用できない。

エ (Bエ)〜(Bカ)について
(ア)申立人の主張
申立人Bの主張する(Bエ)は、本件特許発明1〜4の「リン酸塩」は、上記(本7)のとおり、食用に使用できるリン酸塩であれば特に限定がないところ、上記(本11)〜(本12)の実施例は、トリポリリン酸ナトリウムとピロリン酸四ナトリウムとを50重量%ずつ混合したパンフォス10(八宝商会社製)を0.06〜0.9質量%で用いた場合のみであるのに対し、甲B9〜甲B12のとおり、日本で食品添加物として認可されているリン酸塩は22種類もの化合物が存在するうえ、リン酸やその塩の種類及び使用する量によって効果が異なることが技術常識であるから(上記(甲B9a)〜(甲B9c)、(甲B10a)、(甲B11a)及び(甲B12a))、技術的課題を解決できない態様を含んでいるというものであり、
(Bオ)は、本件特許発明1〜4の「増粘多糖類」は、上記(本8)のとおり、食用に使用できる増粘多糖類であれば特に限定がないところ、この成分が、卵黄に由来する特有の滑らかな粘度に大きな影響を与えることは明らかであるのに対し、上記(本13)の実施例では、キサンタンガムのみが用いられているうえ、甲B3や甲B13〜甲B14から明らかなとおり、増粘多糖類はその種類によって増粘効果などの特性が異なるものであり(上記(甲B3a)【0017】、(甲B13a)〜(甲B13c)、(甲B14a))、上記(本13)の実施例7、8の記載から、本件特許発明1〜4で特定する量の上限値及び下限値においても効果を奏するか不明というほかなく、技術的課題を解決できない態様を含んでいるというものであり、
(Bカ)は、本件特許発明1〜4の「架橋澱粉」は、甲B2の上記(甲B2a)からも明らかなとおり、増粘剤として寄与するものであるところ、その適切な粘度は増粘多糖類の種類や配合量との相関で決まることが自明であるといえるのに、上記(本14)〜(本15)の実施例は、キサンタンガムが0.2質量%の状態での評価を示しているに過ぎず、実施例12、13の評価結果や実施例2、14、15を比較した結果から、本件特許発明1〜4で特定する種類や配合割合に関して、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らして当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲であると認められないというものである。

(イ)判断
上記(本7)〜(本9)に、リン酸塩、増粘多糖類及び架橋澱粉の具体例が示され、卵黄液のダマ感(加熱凝固)、食味、滑らかさの観点から、それぞれの配合量の好ましい範囲の上限値及び下限値について説明されている。
そして、上記(本12)〜(本15)の実施例において、リン酸塩、増粘多糖類及び架橋澱粉の配合量を変更して、卵黄液のダマ感(加熱凝固)、食味、滑らかさとの関係が具体的に確認されている。
本件特許発明1〜4は、卵黄液、リン酸塩、増粘多糖類及び架橋澱粉を特定の量で組み合わせて配合することにより、課題を解決したものといえるところ、申立人Bは、実施例で効果が確認されたものしか課題を解決できると認識できない理由として、リン酸塩、増粘多糖類、架橋澱粉について、それぞれに多種類のものが存在することや、種類に応じて特性が異なることを主張しているが、一般的な技術的事項を示したに過ぎない。そして、本件特許発明1〜4が、いわゆるサポート要件を満たすことは、上記(1)で述べたとおりである。
よって、上記申立人Bの(Bエ)〜(Bカ)の主張は採用できない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1〜4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものではないから、特許法第113条第4号により取り消すべきものではなく、申立理由A2(サポート要件)、申立理由A3(実施可能要件)及び申立理由B(サポート要件)は理由がない。

3 申立理由A1−1(進歩性)及び申立理由B3(進歩性)について
申立理由A1−1及び申立理由B3は、いずれも同じ文献である甲A1及び甲B1を主たる引用文献とする理由のため、以下では、甲A1のみを示して検討する。

(1)甲A1に記載された発明
甲A1の実施例2からみて(上記(甲A1d))、甲A1には、次の「甲A1発明」が記載されていると認める。

甲A1発明
「卵黄 40質量部、キサンタンガム 0.5質量部、トリポリリン酸ナトリウム 1質量部、ラード 5質量部、脱脂粉乳 10質量部及び水 43.5質量部からなる合計で100質量部の卵黄含有組成物を30質量部と、ベシャメルソース 60質量部と、チーズパウダー 5質量部と、調味料 5質量部とからなる合計で100質量部の濃縮タイプ冷凍カルボナーラソース。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
甲A1発明の「卵黄」、「キサンタンガム」、「トリポリリン酸ナトリウム」、「濃縮タイプ冷凍カルボナーラソース」は、それぞれ、本件特許発明1の「卵黄液」、「増粘多糖類」、「リン酸塩」、「冷凍カルボナーラソース」に該当する。
そして、甲A1発明は、ソース全量に対する含有量として算出すると、卵黄を12質量%(30×0.4)、トリポリリン酸ナトリウムを0.3質量%(30×0.01)、キサンタンガムを0.15質量%(30×0.005)含有しており、トリポリリン酸ナトリウムの含有量が、卵黄に対して2.5質量%(0.3/12×100)と計算される。
甲A1発明が、上記の成分以外の成分を含有する点は、上記(本10)の「本発明の冷凍カルボナーラソースは、通常カルボナーラソースに使用されるその他の原料、例えばチーズ類、クリーム類、調味料、添加剤等を含むことができる。」との記載からみて、本件特許発明1との相違点とはならない。
よって、両発明は、次の一致点及び相違点1〜2を有する。

一致点
「卵黄液、リン酸塩及び増粘多糖類を含む冷凍カルボナーラソースであって、
ソース全量に対して、前記リン酸塩が1.2質量%以下、前記増粘多糖類が0.02〜0.5質量%の範囲で含まれており、
前記リン酸塩の含有量が、前記卵黄液に対して1.5質量%以上である、
前記冷凍カルボナーラソース。」である点。

相違点1
本件特許発明1は、ソース全量に対して、前記卵黄液が0.5〜8質量%の範囲で含まれるのに対し、甲A1発明は、ソース全量に対して、卵黄が12質量%で含まれる点。

相違点2
本件特許発明1は、さらに架橋澱粉を含み、ソース全量に対して、前記架橋澱粉が0.15〜5質量%の範囲で含まれるのに対し、甲A1発明は、架橋澱粉が含まれない点。

イ 判断
(ア)相違点1について
甲A1には、「(卵黄)・・・卵黄の含有量は、卵黄の風味や、ソース等に用いた場合にやわらかな食感、滑らかさが得られやすいことから、卵黄含有組成物に対して生卵黄換算で10質量%〜70質量%となるような含有量が好ましく、25質量%〜50質量%となるような含有量がより好ましい。」(上記(甲A1c))と記載されているから、甲A1発明の卵黄含有組成物中の卵黄の含有量である40質量部を10〜70質量部の範囲内で変更すれば、ソース全量に対する卵黄の含有量は、3〜21質量%(30×0.1〜30×0.7)の範囲内と計算される。
しかしながら、甲A1には、卵黄含有組成物に対して含有させる卵黄の量が記載されているだけで、ソース全量に対する卵黄の含有量について着目したところはないから、甲A1に示されている実施例の組成について、卵黄の含有量のみ変更したと仮定して計算した数値が、本件特許発明1で特定する0.5〜8質量%の範囲と一部重複する範囲となるとしても、甲A1発明について、濃縮タイプ冷凍カルボナーラソース全量に対する卵黄の含有量が0.5〜8質量%の範囲となるように、卵黄の含有量を変更する動機付けはない。
したがって、相違点1は、当業者が容易になし得たものではない。

(イ)相違点2について
a 甲A1発明は、濃縮タイプ冷凍カルボナーラソース中の卵黄含有組成物にキサンタンガムを含有するところ、甲A1には、「[卵黄含有組成物]・・・卵黄含有組成物は卵黄及び水を含み、必要に応じて・・・増粘剤・・・を含む。」、「(増粘剤)・・・増粘剤としては特に限定されるものではないが、キサンタンガム・・・等のガム類、及びデンプン質原料を挙げることができる。これらの中でも、キサンタンガムが好ましい。なお、デンプン質原料としては、・・・これらの加工デンプン・・・を使用することができる。」と記載されている(上記(甲A1c))。
しかしながら、甲A1には、「加工デンプン」は増粘剤の一例として、キサンタンガムとともに併記されているだけであり、架橋澱粉については記載もされていない。
したがって、甲A1発明において、さらに架橋澱粉を配合する動機付けはない。

b 甲A2には、冷凍保存し解凍した後も、品質の劣化が起きることのない冷凍ソースを提供することを目的として、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体と、澱粉、デキストリン、還元デキストリン、ゼラチン及び増粘多糖類から選ばれる1種又は2種以上とを配合したことが記載され(上記(甲A2a))、実施例1には、加工澱粉(ピユリティーW(商品名)、日本エヌエヌシー(株)製)を含有する冷凍カルボナーラソースが記載されており(上記(甲A2c))、甲A3の上記(甲A3a)及び甲B7の上記(甲B7a)の記載から、ピユリティーWはヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉であることが理解でき、その含有量は、冷凍カルボナーラソース全量に対して約2.4重量%(2.5kg÷104kg)と計算される。
しかしながら、甲A2には、澱粉と増粘多糖類は同等の選択肢として記載され、特に、カラギーナン及びキサンタンガムが好ましいことが記載されている(上記(甲A2b))。
そうすると、甲A1と甲A2は、冷凍カルボナーラソースという点で共通するものの、冷凍による品質の劣化を抑制することを目的としても、既に「キサンタンガム」を含有する甲A1発明に、「植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体」を添加するのではなく、これと組み合わせるか単独で、加工澱粉を選択し、かつ、甲A1発明とは組成も異なる甲A2に記載の実施例1から計算される量として配合する動機付けはない。

c 甲B2には、架橋澱粉を含む加工デンプン類が記載され、糊化温度、粘性などに違いがあるため、組み合わせて使用されることが記載されている(上記(甲B2a))。
甲B3には、非溶解状態の澱粉及び/又は非溶解状態の加熱溶解性ガム質が分散しているパスタソースであって、澱粉は架橋澱粉が好ましいこと、パスタソースにおける澱粉及び/又は加熱溶解性ガム質の合計配合量は0.1〜10%が好ましいことが記載され(上記(甲B3a))、甲B6の上記(甲B6a)を参照すれば、実施例に、キサンタンガム0.2%と架橋澱粉(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)3%を配合したクリームパスタソースが記載されている(上記(甲B3b))。
甲B4には、チーズなどを含有できるレトルトクリームソースについて、粘度の調整は、具材にソースが絡み易い性状を付与できる観点から加工澱粉を使用でき、その使用量は、ソースの全体の0.5〜5質量%が好ましいことが記載され(上記(甲B4a))、実施例に、キサンタンガム0.02質量%、アセチル化アジピン酸架橋澱粉2質量%を配合したクリームソースが記載されている(上記(甲B4b))。
甲B5には、上記bで示したことが記載されている。
しかしながら、甲B2は、新しく指定された加工デンプン類が紹介されているに過ぎず、甲B3は、非溶解状態の澱粉及び/又は非溶解状態の加熱溶解性ガム質が分散していることより、和えやすさを損なうことなくパスタと和えた後のパスタの「のび」を抑制することができるというものであり、甲B4は、電子レンジ加熱調理に適したレトルトクリームソースについて、粘度の調整は、電子レンジ調理中のクリームソースの沸き上がりを抑制する効果が得られ易い点から、澱粉を用いると記載されているだけであり、甲B5については、上記bで示したとおりである。
そして、甲A1発明の濃縮タイプ冷凍カルボナーラソースと、甲B3及び甲B4のクリームソースが、パスタ用のクリームタイプのソースという点で共通し、甲B5とは冷凍カルボナーラソースという点で共通するとしても、甲B3及び甲B4に、本件特許発明1の規定する量の範囲内でキサンタンガムと架橋澱粉を配合したクリームソースの実施例が記載されていたり、甲B5に本件特許発明1の規定する量の範囲内で架橋澱粉を配合した冷凍カルボナーラソース記載されていたりすることで、甲B2〜甲B5の開示から特に架橋澱粉にのみ着目し、甲A1発明に、甲B3〜甲B5のそれぞれの実施例に記載の配合量を参酌して、さらに架橋澱粉を配合する動機付けは見いだせない。

d したがって、相違点2は、甲A1及び甲A2あるいは甲A1及び甲B2〜甲B7に示される技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものではない。

(ウ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、上記相違点1及び相違点2に係る構成に加え、リン酸塩及び増粘多糖類の含有量を特定することで、甲A1発明からは予測できない、上記(本5)に記載の効果を奏するものである。

(エ)申立人の主張について
a 申立人A及び申立人Bは、甲A1に記載された発明として、甲A1の実施例2の組成について、卵黄の含有量に関してのみ一般記載を組み合わせて、卵黄については3〜21質量%含有する発明を認定し、上記相違点1は相違点ではないと主張している。
しかしながら、甲A1は、カルボナーラソース等に用いる卵黄あるいは卵黄含有組成物には、卵黄由来のアミラーゼが含まれているため、これらをソースに加えると、アミラーゼが小麦粉澱粉等の粘性材を分解し、ソース類の粘性を十分に維持できない(粘性が低下する)問題があったことや、卵黄を含むソース等をレトルト加圧加熱殺菌処理した場合には、卵黄由来の凝集が生じることがあり、ソース等の滑らかさを損なうという問題があったことから(上記(甲A1a)))、卵黄及び水を含む混合物に、卵黄に含まれるアミラーゼが失活し、且つ卵黄に含まれるタンパク質が凝固しない条件で加熱処理を施す工程と、前記混合物に乳化処理を施す工程とを施すことにより、十分な粘度を有し、十分にやわらかな食感を有するソースを調整可能な卵黄含有組成物を提供したものである(上記(甲A1b))。そして、好ましくは増粘剤を含むとは記載されているが、その種類は特に限定されるものでなく、リン酸塩については、その他の添加してもよい成分に、トリポリリン酸ナトリウム等の乳化剤と記載されているだけである(上記(甲A1c))。
したがって、甲A1は、加熱処理や乳化処理の工程に特徴を有する卵黄含有組成物に関する技術的事項を開示するものであり、増粘剤やリン酸塩の配合を必須とするものではないから、実施例の組成について、増粘剤であるキサンタンガムとトリポリリン酸ナトリウムについては、具体的に示された数値を採用しつつ、卵黄の含有量のみは一般記載からの範囲で特定した発明を認定することはできない。
よって、申立人A及び申立人Bの甲A1に記載された発明に関する主張は採用できない。

b 申立人Aは、実施例2の濃縮タイプ冷凍カルボナーラソースは、喫食時に、1質量部に水0.5質量部を加えて一煮立ちさせていることを理由に、喫食時における希釈された組成から甲A1に記載された発明を認定し、この場合は、卵黄が8質量%(30×0.4÷1.5)となるから、相違点ではないと主張している。
しかしながら、「濃縮タイプ冷凍カルボナーラソース」ではなく、解凍後に水を加えて希釈したソースの組成から、冷凍カルボナーラソースとした場合の発明を仮定して、甲A1に記載された発明を認定することはできない。
よって、申立人Aの甲A1に記載された発明に関する主張は採用できない。

ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲A1及び甲A2に記載された発明、あるいは甲A1に記載された発明及び甲B2〜甲B7に示される技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものではない。

(3)本件特許発明2〜4について
本件特許発明2〜3は、それぞれ、本件特許発明1を直接引用して、さらに「前記リン酸塩の含有量が、前記卵黄液に対して3.0質量%以上である」こと、「前記架橋澱粉がリン酸架橋澱粉である」ことを特定するものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、甲A1及び甲A2に記載された発明、あるいは甲A1に記載された発明及び甲B2〜甲B7に示される技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものではない。
また、本件特許発明4は、本件特許発明1〜3何れかの冷凍カルボナーラソースを製造する発明であるところ、本件特許発明1〜3が、甲A1及び甲A2に記載された発明、あるいは甲A1に記載された発明及び甲B2〜甲B7に示される技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものではない以上、本件特許発明4も同様に、甲A1及び甲A2に記載された発明、あるいは甲A1に記載された発明及び甲B2〜甲B7に示される技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものではない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、特許法第113条第2号により取り消すべきものではなく、申立理由A1−1(進歩性)及び申立理由B3(進歩性)は理由がない。

4 申立理由A1−2(進歩性)について
(1)甲A4に記載された発明
甲A4のカスタードソースの組成について説明した記載からみて(上記(甲A4a))、甲A4には、次の「甲A4発明」が記載されていると認める。

甲A4発明
「カスタードソース中に卵黄3.5〜15.0重量%、乳固形分4.2〜12.0重量%、糖類12.0〜25.0重量%、リン酸塩0.1〜0.8重量%及びキサンタンガム、グアガム、ジェランガム等のガム質、カラギーナン及び各種澱粉が例示される増粘剤0.1〜3.0重量%含む、カスタードソース。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
甲A4発明の「カスタードソース」は、本件特許発明1の「冷凍カルボナーラソース」と、「卵黄を含有するソース」である点で共通する。
甲A4発明が、カスタードソース中に「卵黄3.5〜15.0重量%」、「リン酸塩0.1〜0.8重量%」含むことは、本件特許発明1が、ソース全量に対して「前記卵黄液が0.5〜8質量%、前記リン酸塩が1.2質量%以下」の範囲で含まれていることと、ソース全量に対して「前記卵黄液が3.5〜8質量%、前記リン酸塩が1.2質量%以下」の範囲で含まれている点で共通する。
甲A4発明の「キサンタンガム、グアガム、ジェランガム等のガム質、カラギーナン及び各種澱粉が例示される増粘剤」は、本件特許発明1の「増粘多糖類及び架橋澱粉」と「増粘剤」である点で共通する。
よって、両発明は、次の一致点及び相違点1〜4を有する。

一致点
「卵黄液、リン酸塩、増粘剤を含む卵黄を含有するソースであって、
ソース全量に対して、前記卵黄液が3.5〜8質量%、前記リン酸塩が1.2質量%以下の範囲で含まれている、
前記卵黄を含有するソース。」である点。

相違点1:
「卵黄を含有するソース」が、本件特許発明1は、「冷凍カルボナーラソース」であるのに対し、甲A4発明は、「カスタードソース」である点。

相違点2
「増粘剤」について、本件特許発明1は、「増粘多糖類及び架橋澱粉」であって、ソース全量に対して、「前記増粘多糖類が0.02〜0.5質量%、前記架橋澱粉が0.15〜5質量%の範囲で含まれて」いると特定しているのに対し、甲A4発明は、カスタードソース中に「キサンタンガム、グアガム、ジェランガム等のガム質、カラギーナン及び各種澱粉が例示される増粘剤0.1〜3.0重量%含む」と特定している点。

相違点3
本件特許発明1は、「前記リン酸塩の含有量が、前記卵黄液に対して1.5質量%以上である」と特定しているのに対し、甲A4発明は、そのような特定をしていない点。

相違点4
本件特許発明1は、乳固形分及び糖類を含むと特定されていないのに対し、甲A4発明はこれらを含むと特定されている点。

イ 判断
(ア)相違点1及び4について
相違点1及び4は関連するのでまとめて検討する。
本件特許発明1の冷凍カルボナーラソースと、甲A4発明のカスタードソースとは、どちらも卵黄を含有するソースであることでは共通している。
しかしながら、カルボナーラソースとは、上記(本2)の「カルボナーラソースとは、卵黄又は全卵、チーズ及びクリーム類、更に必要に応じて添加される調味料等を含む原料混合物を加熱処理してクリーム状に調製されたソースである。」や上記(本10)の「本発明の冷凍カルボナーラソースは、通常カルボナーラソースに使用されるその他の原料、例えばチーズ類、クリーム類、調味料、添加剤等を含むことができる。」との記載のとおり、卵黄とチーズ及びクリーム類を含むものであるのに対し、カスタードソースは、上記(甲A4a)の「カスタードソースは卵黄、牛乳及び糖類等を混ぜ合せて加熱したもので、冷たくして、或いはあたたかくしてデザート等に用いられる。」や上記(甲A4b)の「カスタードソースには、主成分として卵黄、乳固形分及び糖類が含まれる。」との記載のとおり、卵黄と牛乳(乳固形分)及び糖類を含むものであって、両者はその組成が異なるものである。
このことは、甲A5の実施例4(カルボナーラ用レトルトソース)及び実施例5(カスタードクリーム)の組成からも明らかである(上記(甲A5a))。
そして、甲A4は、カスタードソースに関する技術的事項を開示するものであるところ(上記(甲A4a))、卵黄以外の成分である牛乳(乳固形分)及び糖類を、チーズ及びクリーム類に変更して、冷凍カルボナーラソースとする動機付けはない。
なお、甲A4は、上記(本2)に先行技術文献として示された特許文献11であり、「しかしながら、この文献はカルボナーラソースにおいて問題となる卵黄の熱凝固によるダマ感の防止について何ら示唆するものではない。」と記載されているとおり、甲A4には、カルボナーラソースに関する記載も示唆もない。
したがって、相違点1及び4は、当業者が容易になし得たものではない。

(イ)相違点2について
甲A4には、増粘剤について、必要により添加することができる成分として、キサンタンガムなどのガム類と澱粉とが併記されているうえ、澱粉については「各種澱粉」と記載されているだけである(上記(甲A4a))。
また、甲A5についてみても、カスタードクリームの実施例にはコーンスターチ(とうもろこし澱粉)が配合され、カルボナーラソースの実施例にはキサンタンガムと加工澱粉が配合されているが、甲A5全体を参酌しても加工澱粉が架橋澱粉であると理解できる記載はない(上記(甲A5a))から、甲5Aを参照しても、甲A4発明に、増粘剤としてキサンタンガムと架橋澱粉の両方を配合する動機付けはない。
そして、甲A2には、上記3(2)イ(イ)bのとおり、冷凍カルボナーラソースにヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉である加工澱粉を、ソース全体の量として計算すると2.4重量%含有する実施例が記載されているといえるが、甲A4発明はカスタードソースであるから、甲A2の冷凍カルボナーラソースの実施例について、架橋澱粉に着目した場合に算出される値で架橋澱粉を配合する動機付けもないし、キサンタンガムなどの増粘多糖類と併用して配合する動機付けもない。
したがって、相違点2は、当業者が容易になし得たものではない。

(ウ)相違点3について
甲A4発明は、卵黄3.5〜15.0重量%とリン酸塩0.1〜0.8重量%を含むから、リン酸塩の含有量は、卵黄液に対して0.7(0.1÷15.0)質量%〜22.9(0.8÷3.5)質量%と算出できるが、1.5質量%以上と特定する動機付けはない。
したがって、相違点3は、当業者が容易になし得たものではない。

(エ)申立人の主張について
申立人Aは、甲A5を示し、卵黄含有ソースの技術分野において、カスタードソースとカルボナーラソースは組成が似通っており、同様の技術構成を採用することは極一般的なことであるから、甲A4発明において、甲A2を参照し、好ましいとされた加工澱粉を同量用いて冷凍カルボナーラソースとすることに困難性はないと主張している。
しかしながら、上記(イ)のとおり、カスタードソースとカルボナーラソースは組成が異なることが明らかであり、同様の技術構成を採用することが一般的であることが窺える証拠も示されていない。
よって、申立人Aの主張は採用できない。

ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲A4及び甲A2に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。

(3)本件特許発明2〜4について
上記3(3)で述べたとおり、本件特許発明2〜4は本件特許発明1を技術的に特定する発明であるか、本件特許発明1を引用する発明であるから、本件特許発明2〜4は、本件特許発明1と同様の理由により、甲A4及び甲A2に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、特許法第113条第2号により取り消すべきものではなく、申立理由A1−2(進歩性)は理由がない。

第7 むすび
したがって、申立人A及び申立人Bの特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-01-31 
出願番号 P2016-137413
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
冨永 保
登録日 2021-02-09 
登録番号 6836344
権利者 株式会社ニップン
発明の名称 カルボナーラソース及びその製造方法  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 秋澤 慈  
代理人 服部 博信  
代理人 市川 さつき  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 須田 洋之  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ