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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01N
審判 全部申し立て 発明同一  A01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01N
管理番号 1385207
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-09-15 
確定日 2022-05-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6843814号発明「抗ウィルス部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6843814号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6843814号の請求項1〜4に係る特許についての出願は、平成30年11月16日の出願であって、令和3年2月26日にその特許権の設定登録がされ、同年3月17日にその特許公報が発行され、その後、令和3年9月15日に中島 由貴により、同年同月17日に猪狩 充により、同年同月同日に加藤 三千代により(以下順に「特許異議申立人A〜C」といい、あわせて「特許異議申立人」という。)、それぞれ特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

令和3年12月24日付け 取消理由通知
令和4年 3月 4日 意見書の提出

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜4に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」などと、また、これらを合わせて「本件発明」ということがある。)である。

「【請求項1】
基材表面に抗ウィルス成分として銅化合物を含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒を含まない、有機バインダ硬化物が固着形成されてなり、前記有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満であることを特徴とする抗ウィルス部材。
【請求項2】
前記有機バインダ硬化物は、膜状に基材表面に固着されてなるか、島状に分散して基材表面に固着されてなるか、もしくは、基材表面に前記バインダ硬化物が形成された領域と前記バインダ硬化物が形成されていない領域とが混在して設けられてなる請求項1に記載の抗ウィルス部材。
【請求項3】
前記有機バインダ硬化物は、前記抗ウィルス成分として銅化合物を含み、前記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認される請求項1に記載の抗ウィルス部材。
【請求項4】
前記抗ウィルス部材は、拭き取り処理される態様で使用される請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗ウィルス部材。」

第3 特許異議申立人が申し立てた理由の概要
1 特許異議申立人Aが申し立てた理由の概要
[申立理由A1]本件発明1、2は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記甲第A1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本件発明1、2に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

[申立理由A2]本件発明1、2、4は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記甲第A1号証に記載された発明に基いて、本件発明3は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記甲第A1、A3、A4号証に記載された発明に基いて、それぞれ本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1〜4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。


甲第A1号証:特表2014−532100号公報(以下「甲A1」という。他の甲各号証についても同様。)
甲第A2号証:照明学会雑誌、昭和49年、第58巻、第9号、pp.486〜493
甲第A3号証:特表2007−504291号公報
甲第A4号証:特開2003−528975号公報

2 特許異議申立人Bが申し立てた理由の概要
[申立理由B1]本件発明1、3は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記甲第B1〜B6号証に記載された発明に基いて、本件発明2、4は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記甲第B1〜B7号証に記載された発明に基いて、それぞれ本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1〜4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。


甲第B1号証:特開2015−205998号公報(以下「甲B1」という。他の甲各号証についても同様。)
甲第B2号証:特開平8−333139号公報
甲第B3号証:計測自動制御学会論文集、昭和56年9月、第17巻、第6号、pp.645〜649
甲第B4号証:特許第6843815号公報
甲第B5号証:特開平9−57893号公報
甲第B6号証:特開2016−13995号公報
甲第B7号証:特開平8−299418号公報

[申立理由B2]本件発明1〜4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。
よって、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

具体的な理由の概要は次のとおりである。
本件発明の課題について、本件明細書の【0007】(なお、特許異議申立書には「段落0006」と記載があるが、誤記と認める。)「高額な合成設備を必要とせず、簡便に施工済の据え付け品等に対しても現場施工により、信頼性の高い抗ウィルス性等の抗微生物性能を持続的に発揮する抗微生物部材を提供することを目的とする」と記載されており、本件発明1〜4においては、抗ウィルス成分として銅化合物を含むことが特定されているところ、本件明細書において上記課題を解決したものとして具体的に開示されているのは、銅化合物として酢酸銅を用いたものだけであり(実施例、【0132】〜【0136】)、酢酸銅以外の銅化合物を用いた場合にも、酢酸銅を用いた場合と同様に本件発明の課題が解決できるか否かは当業者にとって自明ではない。

3 特許異議申立人Cが申し立てた理由の概要
[申立理由C1]本件発明1〜4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。
よって、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

具体的な理由の概要は次のとおりである。
実施例の結果を基に、それと同様の効果(拭き取り処理後も高い抗ウィルス活性を有する効果)を奏すると認められる範囲を、材質などは問わず全ての基材について「有機バインダ硬化物を含む基材表面」の光沢度が45%未満である範囲の全体にまで拡張又は一般化することはできない。
本件発明のうち、黒色光沢メラミン基板以外の他の基材上に有機バインダ硬化物が固着形成された抗ウィルス部材の発明は、発明の詳細な説明に記載した発明ではなく、また、本件発明のうち光沢度が10%未満である抗ウィルス部材の発明も発明の詳細な説明に記載した発明ではない。

[申立理由C2]本件発明1〜4に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しない。
よって、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

具体的な理由の概要は次のとおりである。
同じ組成で且つ同じ量の有機バインダ硬化物が基材上に固着形成されたとしても、基材の材質などの如何により「有機バインダ硬化物を含む基材表面」の光沢度は大きく変わるため、該光沢度を45%未満の範囲に調整することは、当業者にとっても、過度の試行錯誤を要する事項であるから、本件発明の「前記有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満であること」との特定事項を満たすことは、当業者といえども容易に実施可能な事項であるとはいえない。

[申立理由C3]本件発明1は、本件特許出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた甲第C1号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「C1明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件発明1に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。


甲第C1号証:特開2019−43089号公報(以下「甲C1」という。また、甲C1に係る特許出願は特願2017−171170号である。)

[申立理由C4]本件発明1、2、4は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記甲第C2〜C4号証に記載された発明、甲第C5、C4、C3号証に記載された発明又は甲C6、C5号証に記載された発明に基いて、本件発明3は、上記各発明のそれぞれに甲C7〜C10号証に記載された技術的事項を適用することにより、それぞれ本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1〜4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。


甲第C2号証:特開2018−27692号公報(以下「甲C2」という。他の甲各号証についても同様。)
甲第C3号証:特開2010−168578号公報
甲第C4号証:精密工学会誌、(2016)、Vol.82、No.11、pp.944〜947
甲第C5号証:特開2015−205998号公報(甲B1と同じ。)
甲第C6号証:特表2014−532100号公報(甲A1と同じ。)
甲第C7号証:特表2007−504291号公報(甲A3と同じ。)
甲第C8号証:特表2003−528975号公報(甲A4と同じ。)
甲第C9号証:特開2011−153163号公報
甲第C10号証:特開2013−71893号公報

第4 当審が通知した令和3年12月24日付け取消理由の概要
[理由1]本件特許の請求項1〜4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


刊行物1:特開2015−205998号公報(甲B1、甲C5と同じ。)
刊行物2:特開平8−333139号公報(甲B2と同じ。)
刊行物3:計測自動制御学会論文集、昭和56年9月、第17巻、第6号、pp.645〜649(甲B3と同じ。)
刊行物4:照明学会雑誌、昭和49年、第58巻、第9号、pp.486〜493(甲A2と同じ。)
刊行物5:特開平9-57893号公報(甲B5と同じ。)
刊行物6:特開2016−13995号公報(甲B6と同じ。)
刊行物7:特開平8−299418号公報(甲B7と同じ。)

第5 当審の判断
当審は、本件発明1〜4に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由により取り消すべきものではないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 甲各号証、各刊行物について
(1)甲各号証、各刊行物の記載事項
刊行物1(甲B1、甲C5と同じ。):
1a)「【請求項1】
銅粒子及び銅化合物粒子の少なくともいずれか一方を酸化物粒子に担持してなり、前記酸化物粒子100質量部に対して前記銅粒子及び銅化合物粒子の合計担持量は0.1〜10質量部であり、平均二次粒子径が80nm〜600nmである銅担持酸化物と、
平均二次粒子径が1μm〜15μmである硫酸バリウムと、
前記銅担持酸化物及び硫酸バリウムを分散させる、撥水性の樹脂バインダーと、
を有し、
前記銅担持酸化物の比重が、前記硫酸バリウムの比重に対して40〜90%であり、
前記樹脂バインダー100質量部に対して、前記銅担持酸化物が0.1〜10質量部であり、前記硫酸バリウムが10〜45質量部であり、
塗膜厚が前記硫酸バリウムの平均二次粒子径よりも1〜2μm厚いことを特徴とする抗ウイルス性塗膜。
・・・
【請求項4】
基材と、
前記基材上に設けられ、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の抗ウイルス性塗膜と、
を有する抗ウイルス性部材。」

1b)「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、抗ウイルス活性を有する材料の添加量を増加させなくても高い抗ウイルス性を発揮することが可能な抗ウイルス性塗膜を提供することにある。」

1c)「【0010】
[抗ウイルス性塗膜]
本実施形態に係る抗ウイルス性塗膜は、銅粒子及び銅化合物粒子の少なくともいずれか一方を酸化物粒子に担持してなり、平均二次粒子径が80nm〜600nmである銅担持酸化物を含有している。さらに抗ウイルス性塗膜は、平均二次粒子径が1μm〜15μmである硫酸バリウムと、銅担持酸化物及び硫酸バリウムを分散させる、撥水性の樹脂バインダーを含有している。
【0011】
(銅担持酸化物)
本実施形態の抗ウイルス性塗膜は、上述のように抗ウイルス性を発揮するために、銅粒子及び銅化合物粒子の少なくともいずれか一方を酸化物粒子に担持してなる銅担持酸化物を含有している。本実施形態では、銅及び銅化合物の少なくとも一方が酸化物粒子の表面で微粒子状に担持されており、これらの比表面積が増大しているため、容易に銅イオンを溶出する。そして、当該銅イオンが塗膜表面に付着したウイルスや微生物と接触することで、ウイルス等の酵素や蛋白質と結合し活性を低下させ、ウイルス等の代謝機能を阻害し易くなる。さらに溶出した銅イオンの触媒作用によって空気中の酸素を活性酸素化し、ウイルス等の有機物を分解し易くなる。そのため、銅担持酸化物を含有することによって、高い抗ウイルス性を発揮することが可能となる。」

1d)「【0016】
ここで、銅担持酸化物に含まれる銅粒子としては金属銅の粒子を用いることができ、銅化合物粒子としては次のような化合物の粒子を用いることができる。銅化合物としては、例えば、酸化銅(I)、硫化銅(I)、ヨウ化銅(I)、塩化銅(I)及び水酸化銅(I)等の一価銅化合物、並びに、水酸化銅(II)、酸化銅(II)、塩化銅(II)、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、フッ化銅(II)、ヨウ化銅(II)及び臭化銅(II)等の二価銅化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。なお、銅イオンを溶出し易いという観点から銅化合物として一価銅化合物を用いることが好ましく、さらに入手の容易性という観点から、酸化銅(I)を用いることが特に好ましい。」

1e)「【0029】
(硫酸バリウム)
本実施形態の抗ウイルス性塗膜は、硫酸バリウム(BaSO4)を含有している。さらに上述の銅担持酸化物の比重が、硫酸バリウムの比重に対して40〜90%となっている。本実施形態の塗膜中に、抗ウイルス活性を有する銅担持酸化物に加え、硫酸バリウムを含有することにより、塗膜の表面に微細な凹凸を形成することが可能となる。これにより、後述する撥水性の樹脂バインダーによる防汚性能と、微細凹凸による銅担持酸化物の露出面積の増加とにより、抗ウイルス性能に優れた塗膜を得ることが可能となる。
【0030】
詳細に説明すると、本実施形態では銅担持酸化物の比重が硫酸バリウムの比重より低いため、図1に示すように、硫酸バリウム2の粒子が抗ウイルス性塗膜10の内部に沈降し、その影響で銅担持酸化物1の粒子が抗ウイルス性塗膜10の表面に移動し易くなる。その結果、銅担持酸化物1が抗ウイルス性塗膜10から露出する割合を増加させることが可能となる。
【0031】
さらに、本実施形態では、後述するように、抗ウイルス性塗膜の厚さtが硫酸バリウム2の平均二次粒子径よりも1〜2μm厚くなるように、塗布量を調節する。そのため、塗膜の表面が硫酸バリウム2の形状に沿って凹凸形状となり、銅担持酸化物の塗膜表面からの露出面積が増加する。その結果、銅担持酸化物とウイルスとの接触率が増加するため、ウイルスの不活性化を高めることが可能となる。
【0032】
硫酸バリウムの平均二次粒子径は1μm〜15μmであることが好ましく、3μm〜10μmであることがより好ましい。平均二次粒子径がこの範囲内であることにより、硫酸バリウムを塗膜中に高分散させ、塗膜表面の微細凹凸を増加させることが可能となる。なお、硫酸バリウムの平均二次粒子径は、塗膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより求めることができる。
【0033】
本実施形態の抗ウイルス性塗膜において、硫酸バリウムの含有量は、樹脂バインダー100質量部に対して銅担持酸化物が10〜45質量部であることが好ましく、20〜35質量部であることがより好ましい。硫酸バリウムの含有量が10質量部未満の場合は、銅担持酸化物が塗膜表面へ偏在し難くなり、塗膜表面からの露出量が低減し、抗ウイルス活性が低下する可能性がある。また、塗膜表面の凹凸が減少する可能性もある。さらに、塗膜の硬度が低下する恐れもある。硫酸バリウムの含有量が45質量部を超える場合は、バインダー樹脂が不足するため、膜物性が低下する可能性がある。」

1f)「【0035】
(樹脂バインダー)
本実施形態の抗ウイルス性塗膜は、上述の銅担持酸化物及び硫酸バリウムを分散させる樹脂バインダーを含有する。さらに樹脂バインダーは、撥水性であることが好ましい。撥水性の樹脂バインダーを使用することにより、親水性の汚れや油類等の疎水性の汚れの付着を抑制し、抗ウイルス性を長期間維持することが可能となる。
【0036】
撥水性の樹脂バインダーとしては撥水性を有していれば特に限定されないが、例えば抗ウイルス性塗膜の水接触角を90〜150°にできるものが好ましい。このような樹脂バインダーを用いることにより、塗膜の防汚性をより向上させることが可能となる。なお、水接触角は、日本工業規格JIS R3257(基板ガラス表面のぬれ性試験方法)に準拠して求めることができる。
・・・
【0039】
さらに撥水性樹脂バインダーとしては、(A)撥水基を有し、炭素−炭素二重結合を有するモノマーと、(B)撥水基を有さず、炭素−炭素二重結合を有するモノマーと、を共重合してなるアクリル樹脂を用いることができる。
・・・
【0047】
撥水性樹脂バインダーとして、上述の(A)成分と(B)成分とを共重合してなるアクリル樹脂を用いる場合、必要に応じて硬化剤を添加してもよい。硬化剤としては、例えばイソシアネート及びアミノ樹脂の少なくともいずれか一方を用いることができる。」

1g)「【0052】
上述のように、本実施形態の抗ウイルス性塗膜は、硫酸バリウムを添加することにより、表面に微細な凹凸を形成している。そのため、塗膜表面における銅担持酸化物の露出面積を増加させ、抗ウイルス性能に優れた塗膜とすることができる。また、撥水性樹脂バインダーを使用しているため、塗膜の防汚性能を向上させることが可能となる。さらに銅担持酸化物が硫酸バリウムに対して比重を小さく設定しているため、より効果的に銅担持酸化物を表面に露出することが可能となる。そのため、塗膜組成としての銅担持酸化物の含有量を減少させても一定の抗ウイルス性能を発現することが可能となるため、塗膜のコスト低減も図ることが可能となる。
【0053】
[抗ウイルス性塗膜の製造方法]
次に、本実施形態に係る抗ウイルス性塗膜の製造方法について説明する。抗ウイルス性塗膜は、上述の銅担持酸化物、硫酸バリウム、樹脂バインダー及び溶媒を混合することにより、液状の抗ウイルス組成物を調製する。その後、得られた抗ウイルス組成物を基材に塗布し乾燥することにより得ることができる。」

1h)「【0061】
基材としては、天井材、タイル、ガラス、壁紙、壁材、床及び造作材などの建築資材、自動車用内装材(インストルメントパネル、シート、天井材)、冷蔵庫やエアコン等の家電製品、衣類やカーテン等の繊維製品、工業用設備、医療用設備などが好ましい。さらに基材としては、例えば、ドア、ドアハンドル、引き手、手摺り、内装カウンター、家具、キッチン、トイレ、風呂、照明器具、タッチパネル、スイッチ及びこれらに用途に用いられるシートなども好ましい。本実施形態の抗ウイルス性塗膜は抗ウイルス性が高いため、このような人体などが頻繁に接触する面に対して特に有効である。
【0062】
また、本実施形態に係る抗ウイルス性部材は、例えば空気清浄機用フィルターやエアコン用フィルターなどとしても適用することができる。そして、住宅だけでなく、病院及び高齢者施設、並びに電車、バス及び飛行機のような公共交通機関等の不特定多数の人が利用する場所に用いられることにより、菌・ウイルスの感染リスクを低減することが可能となり、有用である。
【0063】
本実施形態に係る抗ウイルス性部材は、上述の抗ウイルス組成物を基材に塗布し乾燥することにより得ることができる。この際の塗布方法及び乾燥条件は特に限定されない。抗ウイルス組成物を基材の少なくとも一部に塗布する方法としては、スクリーン印刷、スピンコート、ディップコート、ロールコート、刷毛コート、スプレーコート、インクジェットなどの方法を用いることができる。また、乾燥条件としては、有機溶剤が除去される条件ならば特に限定されず、加熱雰囲気及び/又は減圧雰囲気により有機溶剤を除去してもよい。
【0064】
なお、必要に応じて、抗ウイルス組成物が乾燥した後、さらに紫外線照射を行ってもよい。これにより、得られる塗膜を硬化させ、硬度を高めることが可能となる。」

1i)「【実施例】
【0067】
[実施例1]
・・・
【0071】
ここで、撥水性の樹脂バインダーとして、ジメチルシリコン骨格を含む側鎖とフルオロアルキル基とを有するアクリル樹脂を用いた。なお、このアクリル樹脂としては、ジメチルシリコン基・水酸基含有フッ素シリコーン樹脂である株式会社T&K TOKA製「ZX−025」を使用した。なお、この「ZX−025」は、固形分が41.2質量%であり、水酸基価が120である。また、硬化剤として、トルエンジイソシアネート樹脂(三井化学株式会社製「タケネート(登録商標)D−103N」、固形分:75質量%)を用いた。
【0072】
さらに硫酸バリウムとして、竹原化学工業株式会社製W−6(平均二次粒子径:5.0μm、比重:4.5)を用いた。そして、この硫酸バリウム10質量部に対してメチルエチルケトン(和光純薬工業株式会社製)38質量部、湿潤分散剤(BYK社製DISPERBYK−116)2質量部を加え、スターラーで1時間攪拌することで、硫酸バリウム分散液を得た。なお、硫酸バリウム分散液の固形分は24質量%であった。また、メチルエチルケトンは和光純薬工業株式会社製を使用し、湿潤分散剤はBYK社製DISPERBYK(登録商標)−116を使用した。
・・・
【0075】
[実施例2]
まず、銅担持酸化物として、次のように銅化合物担持酸化アルミニウムを調製した。まず、蒸留水1000mlに50gの酸化アルミニウム(製品名:TM−D、大明化学工業株式会社製、平均一次粒子径:100nm、比重:4.0)を懸濁させた。次に、酸化アルミニウム100質量部に対して銅イオンが1.0質量部となるように、1.5gの塩化銅(II)二水和物(CuCl2・2H2O、関東化学株式会社製)を懸濁液に添加した。そして、懸濁液を90℃に加熱し、攪拌しながら1時間熱処理を行った。
【0076】
次に、加熱処理を行った懸濁液に対し、CuCl2・2H2O:C6H12O6:NaOHのモル比が1:4:8になるように、水酸化ナトリウム水溶液とグルコース水溶液を添加した。そして、混合物を70℃で1時間熱処理し、スラリーを濾過した後、得られた粉体を純水で洗浄して80℃で乾燥し、ミキサーで粉砕することにより、銅化合物担持酸化アルミニウム(酸化銅担持酸化アルミニウム)を得た。なお、水酸化ナトリウム水溶液は、濃度が1mol/Lの水溶液を13.75ml添加し、グルコース水溶液は、濃度が1mol/Lの水溶液を7ml添加した。また、水酸化ナトリウム及びグルコースは、関東化学株式会社製のものを使用した。
【0077】
得られた銅化合物担持酸化アルミニウム1質量部をイオン交換水99質量部に懸濁し、150Wの超音波分散機を用いて5分間分散処理を行った。そして、得られた溶液を2cm角のスライドガラス基材にキャストすることにより、観察用の試験片を得た。得られた試験片を透過型電子顕微鏡で観察した結果、酸化アルミニウム粒子の平均一次粒子径は30nmであり、銅化合物の平均粒子径は4nmであった。
【0078】
上述のように得られた銅化合物担持酸化アルミニウム10質量部に対して、メチルエチルケトン35質量部、湿潤分散剤5質量部を加え、スターラーで1時間攪拌することで、銅化合物担持酸化アルミニウムの分散液を得た。なお、銅化合物担持酸化アルミニウムの分散液の固形分は30質量%であった。また、メチルエチルケトンは和光純薬工業株式会社製を使用し、湿潤分散剤はBYK社製DISPERBYK(登録商標)−112を使用した。
【0079】
そして、実施例1の樹脂バインダー100質量部に対して、銅化合物担持酸化アルミニウムの分散液30質量部、実施例1の硫酸バリウム分散液90質量部、メチルエチルケトン500質量部、硬化剤40質量部を混合した。さらに、この混合物をホモディスパー(高速分散機、プライミクス株式会社製)で攪拌することにより、抗ウイルス組成物を得た。
【0080】
次に、この抗ウイルス組成物をガラス板上にバーコータによって塗布し、100℃の温度で10分間加熱して乾燥することによって、本例の塗膜板を得た。なお、本例の塗膜板の断面を観察した結果、塗膜の膜厚は7.0μmであり、銅化合物担持酸化アルミニウムの平均二次粒子径は0.5μmであり、硫酸バリウムの平均二次粒子径は5μmであった。
・・・
【0094】
[抗ウイルス性能評価]
ウイルスとしてQβバクテリオファージを用いて評価を実施した。具体的には、Qβバクテリオファージを1×109PFU/mLになるように調整し、ファージ溶液を得た。次に、ファージ溶液を、ガラス板及び上記各例の塗膜板上に0.1mL滴下し、OHPフィルムを被せて室温で2時間放置した。そして、ガラス板及び各例の抗ウイルス性塗膜におけるプラーク数を測定し、以下の式よりウイルスの不活化率R(抗ウイルス)を算出した。
[数1]
R(抗ウイルス)=Log(D/E)
R(抗ウイルス):上記条件における各例の塗膜板に係るウイルスの不活化率
D:上記条件におけるガラス板のプラーク数(個)
E:上記条件における塗膜板のプラーク数(個)
【0095】
表1には、各例における樹脂バインダーの固形分、銅担持酸化物における酸化物粒子の種類、固形分及び酸化物粒子100質量部に対する銅の担持量、銅担持酸化物の平均二次粒子径、並びに、硫酸バリウムの固形分及び平均二次粒子径を示す。さらに、表1には、各例の塗膜の厚さ及び不活化率Rも合わせて示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1に示すように、比較例1では、抗ウイルス性能に効果のある銅化合物担持酸化物が一定量塗膜中に含有されているが、硫酸バリウムの含有量が少ない。そのため、銅化合物担持酸化物が樹脂バインダー内に埋没し表面に露出しないため、抗ウイルス活性が発現しなかった。比較例2では、銅を担持する酸化物粒子に比重の大きな酸化亜鉛(比重:5.6)を用いた。そのため、銅化合物担持酸化物が沈降し易くなり、塗膜表面における銅化合物担持酸化物の露出量が低下したことから、抗ウイルス活性が低下した。また、比較例3では、銅化合物担持酸化物が一定量表面に露出しているが、抗ウイルス活性に効果のある銅の担持量が微量のため、抗ウイルス活性が発現しなかった。
【0098】
これに対し、本実施形態に係る実施例1及び2では、比較例1〜3に比べてQβバクテリオファージの不活化率が大幅に向上しており、抗ウイルス活性が高いことが確認された。」

刊行物2(甲B2と同じ。):
2a)「【請求項1】 硝子容器の外周表面にアンダ−コ−ト層を設けた後、0.2%以上の抗菌剤を含有したトップコ−ト層からなる被膜層を形成し焼き付け塗装してなる抗菌性加工硝子容器。」

2b)「【0011】
【作用】本発明は、化粧品用、医薬品用、飲食用等の硝子容器を対象とし、その外周表面に抗菌剤を含有した樹脂組成物の被膜層を形成するが、アンダ−コ−ト層に次ぎ抗菌剤含有のト−プコ−ト層を設けた場合、その表面薄膜に抗菌剤が集約含有された構成のため抗菌効果を顕現発揮せしめるように働く。また、抗菌剤を含有した樹脂組成物に表面凹凸形成剤を配合せしめることにより硝子容器の外周表面に積極的に凹凸を設け表面積の増加を図り、その表面積の拡大に伴い、抗菌剤の作用を有効に発揮できるように働く。次に、抗菌剤を含有する樹脂組成物に沈降防止剤を配合せしめることにより含有抗菌剤が可及的被膜層の表面側に位置、集結し易く、抗菌効果並びに持続性を発揮し得るように働く。さらに、抗菌剤に対し、表面凹凸形成剤及び/又は沈降防止剤を適宜組み合わせた樹脂組成物による被膜層を形成し、これらの相乗効果によって抗菌効果の発揮と併せ、比較的長期間にわたりその効果を持続できるように働く。」

刊行物3(甲B3と同じ。):
3a)「3. 2 光沢感と表面粗さ
光沢感を規定する因子として粗さに注目し,その他の因子が一定の試料を探すと,No.1〜7とNo.8〜14の二つの試料群が選び出される.これら試料の光沢官能値と粗さの関係を図示するとFig.2のようになる.
塗膜表面が完全鏡面であれば,反射率は(1)式のように表わされるが,粗面でその粗さが入射光の波長より小さい場合の反射率は,Bennettらによれば次式

のように表わされる7).ここで,R0は完全鏡面での反射率で(1)式の反射率に等しい.σは2乗平均平方根粗さ,mは2乗平均平方根粗さのスロープで粗さの鋭さを表わし,Δθは反射光を集める光学系の受光角である.(3)式の右辺第1項は表面反射率を,第2項は表面拡散反射率をそれぞれ表わしている.簡単のために粗さとしてσに注目すると,σが大きい程第1項は小さく,第2項が大きくなることがわかる.したがって,粗さが大きくなると光沢が低くなると予想されるが,Fig.2はそのことを顕著に示している.」(647頁左欄8行〜右欄7行)

3b)「

」(647頁、Fig.2)

刊行物4(甲A2と同じ。):
4a)「3. 光沢の測定方法
3.1 鏡面光沢度測定方法
種々の光沢度測定方法の中で,個々の表面について,どの方法を用いるべきかは,その物体表面の特性およびその測定目的によって定めるべきである.一般に非金属面で,面の平らさに関係する物理的な意味での光沢度を測る場合は鏡面光沢度が適している.また,塗料,陶磁器,プラスチックなどは,国際的にも習慣的にも鏡面光沢度が用いられており,工業的には最も広く用いられている方法である.
鏡面光沢度測定装置は,試料面に規定された入射角および開き角の光束を入射し,正反射方向に反射する規定の開き角内の光束を適当な受光器で測るもので,図4に示すような光学系を用いる.入射角,受光角,光源側および受光側の開き角は,JISあるいはASTM11)で規定され,その値は表2のとおりである.入射角,開き角などの許容差が両者の規格で若干異なるが,開き角の場合,その実効値を厳密に定めることは困難である.」(490頁右欄18〜35行)

4b)「

」(491頁、表2)

刊行物5(甲B5と同じ。):
5a)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、我々の身の廻りに存在する生活用品、産業用に使われる延伸プラスチックフィルムの表面が抗菌性を発揮することにあり、そのためにはフィルムと抗菌剤との密着性を高め、少量の抗菌剤の使用であっても抗菌効果が高く、しかも抗菌機能を長期間に亘って保持できるようにした抗菌延伸プラスチックフィルムを提供することにある。」

5b)「【0010】前記の点から鋭意研究の結果、1μm以下の超微粒子の銀を含む無機化合物をプラスチックフィルム表面に摩耗などで容易に剥離・脱落しなく、本無機粒子の抗菌機能を長期間の実用に亘って保持できるためには粗面粗さ(Ra)0.2 μm以上、最大粗さ(Rt)1μm以上、0.5 μm以上の粗さ個数(1mm当り)Pc5ケ/mm以上もつプラスチックフィルムが良く、また本発明のプラスチックフィルムとして、耐有機溶剤などにすぐれた基材が良く、本無機粒子とバイダーと希釈溶剤とを混ぜ、薄膜塗布するときに本希釈溶剤で一定の粗さをもつ基材が溶けて粒子の定着をそこなう粗さが変化しないことが必要である。バイダーは、例えば、ポリエステル、ウレタン、アクリル、オルガノシラン等である。」

刊行物6(甲B6と同じ。):
6a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物性材料に関し、より詳細には、粗面化処理を施した樹脂性基材層上に銅‐錫系合金の薄膜が設けられた抗微生物性材料に関する。」

6b)「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、樹脂製基材層と銅‐錫系合金薄膜とを含み、該銅‐錫系合金薄膜は、前記樹脂製基材層上に配置され、銅と錫を原子比で50:50〜95:5の割合で含有し、前記樹脂製基材層の銅‐錫系合金薄膜側の表面には、粗面化処理が施されており、前記銅‐錫系合金薄膜の厚さが2〜1500nmであることを特徴とする抗微生物性材料が提供される。」

6c)「【0023】
本発明においては、基材層に粗面化処理を施すことが重要な特徴である。即ち、基材層に粗面化処理を施し、その上に薄い銅‐錫系合金薄膜を設けることにより、本発明の抗微生物性材料の表面は、基材層の粗面に対応する凹凸を有することとなり、その結果、表面全体における実際に摩擦を受ける部分の面積を減らすことができる。さらに、粗面化処理には、表面積を増加させる効果もある。こうした効果が組み合わさって、本発明の抗微生物性材料は非常に優れた耐摩耗性を示し、高い抗微生物性を長期に亘って発揮することができる。
【0024】
粗面化処理を施された基材層の表面粗さは、最大高さ(Rz)で表して、1.5〜14.0μmの範囲にあることが好ましく、2.5〜10.5μmの範囲にあることがより好ましく、3.5〜9.5μmの範囲にあることが特に好ましい。表面粗さがこの範囲内にあると、抗微生物性材料に人の手指が触れるとき(抗微生物性材料表面に対して略垂直に力が加わるよう触れるとき)、抗微生物性材料の凹部まで手指が入るので優れた抗微生物性を発揮することができる。しかし、抗微生物性材料表面で手指を動かすとき(抗微生物性材料に対して略平行に手指を動かすとき)には、手指が凹部にほとんど入らないので、凹部内に存在する銅‐錫系合金薄膜が摩耗されにくい。基材層の表面粗さ(Rz)が小さすぎると、抗微生物性材料表面の表面粗さも小さくなり、抗微生物性材料が例えば人の指が擦れるなどして摩擦を受ける際に表面凹部にまで指が接触し、十分な耐摩耗性を発揮することができなくなる。一方、Rzが大きすぎると、手指等との接触が抗微生物性材料の凸部にのみ集中して、銅‐錫系合金薄膜が残存する凹部には手指等が接触しなくなってしまうため、抗微生物効果が減衰する虞が生じる。また、摩擦を受ける際にも、凸部だけが局部的に激しく磨滅してしまう。」

刊行物7(甲B7と同じ。):
7a)「【請求項1】 バインダーに、抗菌剤を0.5〜3重量%を添加混合して抗菌剤混合バインダーを形成し、且つ該抗菌剤混合バインダーをスクリーン印刷用の刷版スクリーンに設けられた透過面を透過させて、パネルまたはシート材料に塗布して抗菌性被膜を形成することを特徴とする抗菌性被膜を有するパネルまたはシート材料。」

7b)「【0011】前記刷版スクリーン5の透過面4は、前記抗菌剤混合バインダー1の塗布面が、例えば温水噴射洗浄装置を備えた便座の操作用のパネル2の場合、該操作用のパネル2に直接抗菌剤混合バインダー1を塗布して抗菌処理を必要とする部分のみに形成すればよく、抗菌処理を不要とする部分は透過面4を形成する必要はない。」

甲A1:
A1a)「【請求項1】
(a)液体キャリアと、
(b)少なくとも約10重量%の顔料と、
(c)0.7以下の相溶性スコアを有するラテックスバインダーポリマーと、
(d)4級アンモニウム化合物と、
を含有する
塗料組成物。
・・・
【請求項15】
塗料は、ウィルスを不活性化させる能力を有している
請求項1に記載された塗料組成物。
【請求項16】
乾燥した塗料フィルムが、60℃で測定した場合に5から85光沢単位の光沢を有している
請求項1に記載された塗料組成物。
・・・
【請求項19】
更に、金属イオン含有化合物、高分子殺生物剤、ヘテロ環化合物、フェノール、有機金属化合物、アルデヒド、タンパク質、過酸化物、アルコール、酵素、ポリペプチド、及びハロゲン放出化合物から選択される1以上の殺生物剤を有する
請求項1に記載された塗料組成物。」

A1b)「【0003】
多くの添加剤を塗料に添加することができる。添加剤は、塗料組成物中で典型的には比較的低濃度で用いられるが、流動性、安定性、塗料性能、及び塗布品質を含む塗料の様々な性質に寄与する。
殺生物剤、特に抗菌剤は、静菌性及び殺菌性を有する添加剤である。殺生物剤は、限定されるものではないが、細胞壁合成の阻害、細胞膜の破壊、タンパク質合成の阻害、及び核酸合成の阻害を含む、1つまたはいくつかの異なるメカニズムにより殺菌を行う。いくつかの殺生物剤は、抗ウィルス作用を有することもあり、風邪及びインフルエンザ等のウィルスの不活性化に寄与する。
様々な殺生物剤がよく知られており、様々な目的に使用される。そのような殺生物剤として、例えば無機殺生物剤が挙げられ、無機殺生物剤としては、例えば、銀、亜鉛、銅などの金属イオンを含むものが挙げられる。他の無機殺生物剤としては、リン酸塩、金属イオン、金属、又はゼオライト若しくはヒドロキシアパタイトを含む他の殺生物剤が挙げられる。有機酸、フェノール類、アルコール類及び4級アンモニウム化合物を含む有機殺生物剤も存在する。」

A1c)「【0005】
・・・他の一実施態様では、本発明は、広範囲の殺生物能力を有する、高品質塗料組成物を含む。有用な一実施態様では、乾燥塗膜は、バクテリア又はウィルスの塗布表面への適用後2時間以内に、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及びウィルスを、3対数(log)を超える量だけ減少させる能力を有している。細菌及びウィルスの減少は、本明細書に記載される日本工業規格(JIS)Z2801に基づく試験において、4級アンモニウム化合物を含有しないコントロール塗料と比較して測定される。」

A1d)「【0006】
・・・他の有用な一実施態様では、塗料組成物は、表面に塗布され乾燥した場合に、60℃で5〜85単位、例えば、5から85単位までの光沢を有する。」

A1e)「【0009】
・・・
本発明に係る塗料組成物は、一般に、少なくとも約17重量%、例えば少なくとも約17.5重量%から約55重量%までのバインダー樹脂固形分を含む。ラテックス塗料組成物中で有用なバインダーは公知であり、アクリル類、ビニルアクリル類又はスチレンアクリル類等の高分子バインダーを含む。」

A1f)「【0018】
・・・
また、本発明の塗料組成物は、他の殺生物剤を含有してもよく、それらとしては、限定されるものではないが、金属イオン含有化合物、高分子殺生物剤、ヘテロ環化合物、フェノール類、有機金属化合物類、アルデヒド類、タンパク質、過酸化物、アルコール類、酵素、ポリペプチド及びハロゲン放出化合物が挙げられる。
本発明により得られる塗料は、一般に、7から10の間のpHを有するように調製される。」

A1g)「【0021】
・・・
有用な一実施態様では、乾燥した塗料フィルムは、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、及びウィルスを、適用後2時間以内に3対数を超えて減少させる。」

A1h)「実施例
【0022】
下記の成分を当業者に知られた技術を用いて混合することにより、安定かつ高品質な塗料組成物の例を調製した。
比較例
【表4】

1 Byk Chemie社製BYK(登録商標)024
2 Dow社製CELLOSIZE(商品名)QP−4400H
3 Dow社製TAMOL(商品名)1254
4 Unimin Specialty Minerals社製MINEX(商品名)4
5 Unimin Specialty Minerals社製MINEX(商品名)2
6 Cognis社製LOXANOL(商品名)EFC100
7 Dow社製ACRYSOL(商品名)RM−8W
8 Dow社製ACRYSOL(商品名)RM−2020NPR
9 Dow社製TRITON(商品名)X−102
【0023】
0.65gのBarquat MB−80の4級アンモニウム化合物を比較例の塗料に添加し、次いでエアーミキサーを用いて室温で10分間攪拌し、実施例1を得た。
本明細書で説明される塗料組成物について、抗菌活性を試験した。細菌テスト用塗料試験片を以下の手法により調製した:7ミルウェットフィルム流涎機を用いて、黒色LenetaスクラブチャートP121−10N上に、HARMONY(登録商標)interior acrylic latex(フラット、エクストラホワイト)を引いた(draw down)。ベース被膜を空気により終夜乾燥させ、次いで、その上に7ミルフィルム流涎機を用いて実施例1の塗料を引いた。空気により終夜乾燥させた後、第2の実施例1の7ミル塗膜を塗布し、終夜空気により乾燥させた。同様の方法を用いて、ベース被膜(Harmony(登録商標)interior acrylic latex paint)及び比較例の塗料による2つの被膜を有するコントロールを調製した。未塗布Lenetaチャートからなる追加のコントロールサンプルについても、塗布したサンプルと同じ方法で試験した。
【0024】
塗料の殺菌能力を試験するため、日本工業規格JISZ2801を以下のように調整して用いた:ATCC8739に代えてE.Coli菌ATCC11229を使用し、0.3mlの有機土壌負荷(25mL Fetal Bovine Serum+5mL Triton X−100)を培養物に添加した。3個の1インチ×1インチのパラフィルムラボラトリーフィルム片を無菌ガラスペトリ皿に配置し、引いた塗料の中心から20cm×20cmのサンプルを、作成した各片上に配置した。25μlの種菌を塗料表面上に播種した。播種後、サンプルをカバーガラスで覆い、飽和湿度で2時間培養した。比較例の塗料についても、実施例1の塗料と同様の方法で処理した。塗料の正方形パラフィルム及びカバーガラスを、5mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が充填された無菌50ml円錐状チューブ中に配置することによって細菌を回収し、15〜30秒間ボルテックスを行い、残留細菌を溶液中に放出させた。溶出液上で総生菌数(TVC)を計測した。各サンプルから回収した細菌のコロニー形成単位/ミリリットル(CFU/ml)を計算し、未処理塗料と比較したときの抗菌塗料の対数減少量を、CFU/mlで結果として報告した。種菌のCFU/mlを、25μlの細菌培養物を5mlのPBSを含む無菌50mlチューブに直接移すことにより測定し、試験を完了した。Staph菌のCFU/mlは、9.7×105であり、E.Coli菌のCFU/mlは1.0×106であった。種菌のCFU/mlが2.5×105から1×107CFU/mlの間であり、未塗布Lenetaチャート、パラフィルムコントロール及び比較例のCFU/mlが5から6.7Log10CFU/mlの間であったことから、試験条件の有効性が適切であると判断した。
【0025】
これらの塗料に対する抗菌性試験の結果が、表4にまとめられている。
表4
【表5】

【0026】
未塗布フィルムを使用しなかった以外は上述の細菌試験と手順と同じ手順を用いて、別のウィルス試験用塗料試験片を作製した。塗料のウィルス不活性化能力を試験するために、次の手順を使用した。1%のウシ胎児血清を含有する最小必須培地(Minimum Essential Medium)中のストックインフルエンザAウィルス(ATCC VR−544 香港型)を試験に用いた。ストックウィルスを、−70℃以下で貯蔵した。試験日に、ストックウィルスを、10倍段階希釈系列により滴定し、感染力を分析し、ウィルスの初期力価を決定した。試験の初期力価は、1x107.75TCID50%/0.10mlであった。
【0027】
比較例及び実施例1の塗料が塗布された1インチ×1インチの複製試験片を、無菌ペトリ皿に配置した。試験片の両面に、約15分間、UV光を照射した。試験ウィルスの100μlのアリコートをサンプルに播種した。接種物をキャリアフィルム(20mm×20mm、無菌ストマッカーバッグ製)で覆い、キャリアフィルムを、試験ウィルスがフィルム中に広がるように、しかしフィルムの端部からこぼれないように、押し付けた。各サンプルが播種されたときに、暴露時間を開始した。サンプルを、暴露期間中、相対湿度40%で20℃に設定されたコントロールチャンバーに移した。試験片を、1又は2時間、20℃及び40%の相対湿度で、ウィルスに接触させ続けた。
各暴露時間の後、試験培地の1.0mlアリコート(1% v/vの熱失活ウシ胎児血清、10マイクログラム/mlのゲンタマイシン、10ユニット/mlのペニシリン、及び2.5マイクログラム/mlのアンホテリシンBを添加した最小必須培地)を、各サンプルを被覆するために用いたフィルムの下面と同様、各試験及びコントロール試験片上に個別に滴下した。各塗料試験片の表面を、無菌プラスチックセルスクレーパにより擦った。試験培地を回収し、ボルテックスタイプのミキサーによりかき混ぜ、10段階希釈系列を調製した。希釈系列について、アカゲザル腎細胞に対する感染力を分析した。比較例及び実施例1のそれぞれについて、2回の反復実験のTCID50%(組織培養感染量)/0.1mlの幾何平均を決定し、比較例の結果から実施例1の結果を差し引くことにより、各接触時間での対数減少量を計算した。
【0028】
本発明によって調製された塗料のウィルス試験の結果が表5にまとめられている。
表5
【表6】



甲A2:刊行物4として示したとおり。

甲A3:
A3a)「【請求項1】
親水性高分子スラリーを調製すること、酸化銅(I)及び酸化銅(II)を含むイオン性銅粉末混合物を該スラリー中へ分散すること、次いで、該スラリーを押し出すか又は成型して親水性高分子材料を形成することを含む、親水性高分子材料に抗ウイルス特性を付与する方法であって、Cu++とCu+の両方を放出する水不溶性粒子が該親水性高分子材料内に直接かつ完全に封入されている、方法。」

A3b)「【0062】
物理試験において、最終生産物は、効果的な殺菌及び抗ウイルス品質を示した以外は、従来のグローブの全ての物理的特性を示した。」

A3c)「【0066】
実施例1
a)ある量の酸化銅粉末を、自体公知であり前述の先行技術に記載されている酸化還元プロセスを通じて製造した。この製造において、ホルムアルデヒドを還元剤として用いた。得られた粉末は、酸化銅(I)と酸化銅(II)の混合物を示す濃い茶色であった。
b)この粉末を乾燥させ、約4ミクロンの粒子径まで製粉した。
・・・
【0071】
実施例2
Cu++とCu+の両方を放出する実施例1に従って作られた複数のバッグを、試験のために、臨床免疫学のルースベン−アリ協会(Ruth Ben−Ari Institute of Clinical Immunology)とイスラエルのカプランメディカルセンター(Kaplan Medical Center)のエイズセンターに送った。
【0072】
方法:HIVを含んだ培地のアリコートを、UV滅菌Cupron銅含有ラテックスバッグ又は銅を含有していないUV滅菌ラテックスバッグ中に置いた。いかなる材料にも曝露していないウイルスストックを、感染性のポジティブコントロールとして使った。ウイルス活性のネガティブコントロールとしては、いかなるウイルスも含まない培地をCupron銅含有バッグ中に置いた。室温における20分間のインキュベーション後、それぞれのバッグからの50μlの滴を、10%のウシ胎仔血清(FCS)を含んだ40μlの新鮮培地と混合し、それぞれの混合物を10%FCSを含んだ1mlの培地中の標的細胞に加えた。次いで、このウイルス−細胞混合物を、37℃のCO2加湿インキュベーター中の24ウェルプレートで、インキュベートした。4日間のインキュベート後、1ウェルあたりに存在するウイルスの量を定量した。
【0073】
結果:ウイルスを含有し、銅を含まないラテックスバッグに曝露した培地のウイルス感染性は、用いたストックウイルスのものと同様であったが、ウイルスをスパイクし、Cupron銅カチオン放出バッグに曝露した培地中又はスパイクしていない培地中では、ウイルス感染性は測定されなかった。
【0074】
それゆえ、Cupron銅カチオン放出ラテックスバッグは、ウイルスを不活化した。
【0075】
実施例2の結果は、本発明によるデバイスは、それと接触した流体中のウイルスを不活化するのに効果的であり、それゆえ、例えば、本発明による血液保存バッグは、その中に保存された血液が当該血液の受容者にウイルスを感染させないことを確実にしうることを最終的に証明している。」

甲A4:
A4a)「 【請求項1】 抗菌性および抗ウィルス性のポリマー材料であって、イオンの銅の微視的粒子を有しており、該粒子が該ポリマー材料に封入され、かつその表面から突出している、ポリマー材料。
【請求項2】 上記ポリマー材料がフィルムである、請求項1記載の抗菌性および抗ウィルス性のポリマー材料。
【請求項3】 上記ポリマー材料が繊維である、請求項1記載の抗菌性および抗ウィルス性のポリマー材料。
【請求項4】 上記ポリマー材料が糸である、請求項1記載の抗菌性および抗ウィルス性のポリマー材料。」

A4b)「 【0030】
実施例1−繊維の調製
2つのビーズ状の薬品を各160℃の別個の浴中で加熱することによって全500グラムのポリアミド2成分化合物を調製した。
次いで、2つの別個の成分を共に混合し、混合物をその色が均一に見えるまで15分間攪拌した。
該混合した化学品(chemistry)を再度2つの別個のポット中に分割した。一方のポットにはCuOとCu2O粉末の混合物25グラムを添加し、1%混合物を得た。第二のポットにはCuOとCu2Oの混合物6.25グラムを添加し、0.25%混合物を得た。両方の場合において、160℃の温度を維持した。化合物をその色が均一に見えるまで攪拌した。
2つの混合物を孔を有する紡糸口金を通過させた。紡糸口金は、直径が50と70ミクロンとの間の繊維を与えた(hield)。Cu++放出粉末を20ミクロン未満の粒子に粉砕したので紡糸口金の孔に障害物は観察されなかった。押し出された繊維を空冷し、円錐形に紡績した。
繊維を生物学的な活性について試験した。
任意の合成繊維を製造する通常の製造方法と該製造方法との間の差異は、原料へのCu++放出粉末の添加である。
【0031】
実施例2
高濃縮HIV−1ウイルスの100μlアリコートを37℃で30分間、繊維上でインキュベートした。次いで、各10μlの前処理したウイルスを1mlの培地で培養したMT−2細胞(リンパ球 ヒト 細胞株)に添加した。次いで、細胞を37℃のモイストインキュベーター中で5日間インキュベートし、ウイルスの感染性および増殖を市販のELISA(Enzyme Based Immuno-absorbtion Assay)キットを用いて上清中のp24(特異的HIV−1タンパク質)の量を測定することによって決定した。結果は2回の実験の平均である。細胞へのCuOまたはCu2Oの可能性のある細胞毒性のコントロールとして、上記と同様の実験を行ったが、HIV−1を含まない100μlの天然媒地と共に繊維をインキュベートした。細胞毒性は観察されなかった。すなわち、上述した実験条件において死滅した宿主細胞は観察されなかった。
CuOおよびCu2Oを含ませた幾つかの繊維の、組織培養におけるHIV−1増殖を阻害する能力の評価を以下にまとめる。
陰性コントロール(CuOおよびCu2Oを含まないポリマー繊維):阻害なし
陽性コントロール(CuOおよびCu2O粉末): 70%阻害
1%CuOおよびCu2O繊維: 26%阻害」

甲B1〜B3:刊行物1〜3として示したとおり。

甲B4:
B4a)「【0011】
本発明の抗微生物部材は、表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が基材の表面に固着されてなり、上記バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%以上、100%未満となるように、上記バインダ硬化物を含む基材表面に凹凸が形成されているため、抗微生物活性を有するバインダ硬化物の表面積が大きくなり、流動するウィルス、菌、カビなどの微生物と上記バインダ硬化物との接触確率が高まり、ウィルス、細菌、カビなどの微生物を失活させることができるのである。
【0012】
なお、上記バインダ硬化物を含む基材表面の光沢度が100%以上となると、凹凸が小さくなり、ウィルスや菌等の微生物との接触確率が低下してしまい、充分な抗微生物活性が得られない可能性がある。」

B4b)「【実施例】
【0130】
(実施例1)
(1)酢酸銅の濃度が1.75wt%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フイルム和光純薬社製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して酢酸銅水溶液を調製した。紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製 UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)とを重量比97:2:1で混合し、ホモジナイザーを用い、8000rpmで30分間撹拌して調製した。上記1.75wt%酢酸銅水溶液と上記紫外線硬化樹脂液を重量比1.9:1.0で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗微生物組成物を調製した。
なお、IGM社製のOmnirad500は、BASF社のIRGACURE500と同じもので、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンとベンゾフェノンとを重量比1:1で含む混合物である。この光重合開始剤は、水に不溶であり、紫外線により還元力を発現する。また、IGM社製 Omnirad184は、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(アルキルフェノン)であり、光重合開始剤として、アルキルフェノンとベンゾフェノンとを重量比2:1で含む混合物である。
【0131】
(2)ついで、300mm×300mmの大きさの黒色光沢メラミン基板上に、1.2g/分の噴出速度で分散媒を含んだ状態で15.0g/m2に相当する抗微生物組成物をスプレーガン(アネスト岩田製 LPH−50)を用い、0.1MPaのエアー圧力、30cm/secのストローク速度で霧状に散布し、抗微生物組成物の液滴を黒色光沢メラミン基板表面に付着させた。
【0132】
(3)この後、黒色光沢メラミン基板を80℃で3分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cm2の照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、基材であるメラミン基板表面にその表面の一部が露出するように銅化合物を含むバインダ硬化物が固着形成された抗微生物部材を得た。
【0133】
(実施例2)
分散媒を含んだ状態で10.0g/m2に相当する抗微生物組成物をスプレーガンを用いて黒色光沢メラミン基板表面に付着させた以外は実施例1と同様にして実施例2に係る抗微生物部材を得た。」

B4c)「【0136】
(試験例1)
実施例1の抗微生物組成物を黒色光沢メラミン基板に刷毛で塗布した後、このメラミン基板を80℃で3分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cm2の照射強度で80秒間紫外線を照射して、紫外線硬化樹脂を硬化させた後、コロイダルシリカを用いて樹脂表面を鏡面研磨し、試験例1に係る抗微生物部材を得た。」

B4d)「【0139】
(試験例4)
分散媒を含んだ状態で18.0g/m2に相当する抗微生物組成物をスプレーガンを用いて黒色光沢メラミン基板表面に付着させた以外は実施例1と同様にして試験例4に係る抗微生物部材を得た。」

B4e)「【0148】
【表1】



甲B5〜B7:刊行物5〜7として示したとおり。

甲C1:
C1a)「【請求項1】
無機系基材上に着色剤を含有する化粧層とクリア層とを有する化粧板であって、
前記クリア層が化粧板の表層であり、
前記クリア層が抗ウイルス剤を含有し、
前記クリア層中の抗ウイルス剤の含有量が10質量%以下であり、
前記クリア層の乾燥塗布量が0.2〜25g/m2であることを特徴とする化粧板。
【請求項2】
無機系基材上の有機成分量の総量が250g/m2以下である請求項1に記載の化粧板。
【請求項3】
前記無機系基材がケイ酸カルシウム基材である請求項1又は2に記載の化粧板。」

C1b)「【0005】
本発明が解決しようとする課題は、抗ウイルス性を発現可能な抗ウイルス剤を含有しながらも、低コストで好適な外観を有する化粧板を提供することにあり、特に耐光試験での変色が生じにくく、光照射に対しても良好な外観を保持できる化粧板を提供することにある。」

C1c)「【0022】
クリア層に含有する抗ウイルス剤としては、無機系の抗ウイルス剤を使用しても、有機系の抗ウイルス剤を使用してもよいが、取り扱いが容易で不燃性を確保しやすいことから、無機系の抗ウイルス剤を使用することが好ましい。無機系抗ウイルス剤としては、金属イオン担持体や金属酸化物等を好ましく使用できる。金属イオン担持体の金属イオンとしては、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン等を使用できる。」

C1d)「【0024】
また、クリア層を光沢度6の白色基板上に形成したときの光沢度が3〜30であることが好ましく、3〜25であることがより好ましい。」

C1e)「【0046】
<実施例1>
[クリア層形成前の化粧板(白色塗装板)の作製]
まず、厚さ6mmの珪酸カルシウム板(三菱マテリアル建材社製ヒシタイカ#70)の片面に対して、珪酸カルシウム板の表層強化及びアルカリ成分の溶出を防止するための固形分比50%MDI(日本ポリウレタン製MR−100)をロールコーターで乾燥時の塗布量が40g/m2となるように塗工し、ベースコート層の一つであってシーラー処理を行うシーラー層を形成し、十分に乾燥させた。次に、その上から目どめ処理層として固形分比100%のエポキシアクリレート系紫外線硬化型塗料(DIC製AC−12)をロールコーターで乾燥時の塗布量100g/m2となるように塗工し、上記シーラー層と併せてベースコート層を形成した。次に、その上からサンディング加工を行い、表面が平滑な下地処理済み珪酸カルシウム板を得た。
【0047】
次に、その上から化粧層用塗料として、二液タイプの白色系アクリルウレタン系エナメル塗料(DIC製UCカラーFK D−023NT(酸化チタン含有))をフローコーターで乾燥時の塗布量で40g/m2塗工して、クリア層形成前の化粧板(白色塗装板)を得た。化粧層用塗膜中の酸化チタンの含有率は40%である。
【0048】
[クリア層用塗料の作製]
次に、クリア層用塗料として二液タイプの白色系アクリルウレタン系クリア塗料(DIC製UCクリヤーDFクリーン01(酸化チタン非含有))100部に、抗ウイルス剤(銀イオン系担持ガラスタイプ 平均粒径3ミクロン)を乾燥後のクリア層における含有率が1質量%になるように配合し、クリア層用塗料を作製した。
【0049】
[クリア層付き化粧板の特性]
上記クリア層形成前の化粧板の上にクリア層用塗料をナチュラルロールコーターで乾燥塗布量1g/m2となるように塗工して、実施例1のクリア層付きの白色化粧板を得た。その後、実施例1のクリア塗装白色化粧板の60°光沢度をグロスメーター(堀場製作所製IG−330)により測定した結果、15となった。」

甲C2:
C2a)「【請求項1】
基材と、
前記基材の一方面又は両面上に積層される表層樹脂層と、
前記表層樹脂層上に配置される耐酸化性樹脂からなる樹脂シートと、
前記樹脂シート上に担持される機能性物質と、からなり、
前記機能性物質が担持されている側の前記樹脂シートの表面には、凹陥模様が形成されてなることを特徴とする化粧板。
【請求項2】
前記凹陥模様の深さは、10〜50μmである請求項1に記載の化粧板。」

C2b)「【0010】
さらに、本発明の化粧板では、機能性物質が担持されている側の樹脂シートの表面に、凹陥模様が形成されている。したがって、樹脂シートがシリコーン樹脂やフッ素樹脂のような撥水性樹脂からなる場合であっても、細菌やウィルスが凹陥模様の溝内に捕捉されるため、光触媒などの機能性物質と充分に反応する機会と時間が得られ、細菌やウィルスを失活させることができる。また、表面に凹陥模様が形成されている場合は、化粧板の表面積が大きくなるため、光触媒などの機能性物質の担持量を増やすことができ、細菌やウィルスをより効率的に失活させることができる。さらに、凹陥模様の溝内部にも光触媒などの機能性物質が担持されるため、化粧板表面を拭き取り清掃しても溝内部の機能性物質は除去されず残存するため、拭き取り清掃により、化粧板が細菌やウィルスの失活機能を喪失することがない。」

C2c)「【0023】
本発明の化粧板では、樹脂シートの表面に形成されている凹陥模様により、細菌やウィルスが捕捉されて、光触媒などの機能性物質との接触確率が高くなり、かつ接触時間も長くなるので、細菌やウィルスを失活させる機能が高い。また、化粧板の表面積が大きくなるため、光触媒などの機能性物質の担持量を増やすことができる。」

C2d)「【0035】
本発明の化粧板において、機能性物質は、抗菌性、抗ウィルス性、抗アレルゲン性、消臭性等の機能を有する機能材であることが望ましい。例えば、抗菌性、抗ウィルス性の機能性物質としては、可視光応答型光触媒が挙げられる。この可視光応答型光触媒の具体例としては、例えば、酸化チタンに白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの白金族、鉄、銅などを担持させたものなどが挙げられる。」

C2e)「【実施例】
【0049】
(実施例1)
(一次メラミン含浸工程)
厚さ0.2〜0.3mmのロール紙を、メラミン樹脂溶液中に浸漬させる。溶液の温度20℃、浸漬時間2分となるように、ロール紙を溶液中に浸漬しながら通過させることにより、ロール紙にメラミン樹脂を含浸させる。なお、ロール紙の移動速度は、10〜20cm/秒である。
(乾燥工程)
メラミン樹脂溶液中を通過したロール紙は、乾燥機により、温度100℃、乾燥時間30秒となるように乾燥させる。
【0050】
(二次メラミン含浸工程)
乾燥工程を経たロール紙を、メラミン樹脂溶液中に浸漬させる。溶液の温度20℃、浸漬時間30分となるように、ロール紙を溶液中に浸漬しながら通過させることにより、メラミン樹脂をロール紙に含浸させる。なお、ロール紙の移動速度は、10〜20cm/秒である。 (乾燥・切断工程) メラミン樹脂溶液中を通過したロール紙は、乾燥機により、温度100℃、乾燥時間2時間となるように乾燥させる。乾燥後、910mm×1820mmに切断する。
【0051】
(樹脂シート形成工程)
厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに、シリコーン系バインダーとしてアクリルシリコン樹脂エマルジョン(チタン工業株式会社製 PCU−103)を10μmの厚さに塗布することにより、シリコーン塗布フィルム(シリコーン樹脂シート)を得る。
【0052】
(組合せ工程)
厚み0.3〜0.4mmのフェノール樹脂含浸コア紙を4枚積層し、その上に、上記工程により得られたメラミン樹脂含浸紙及びシリコーン樹脂シートを積層する。さらに、そのシリコーン樹脂シート上に、転写によりシリコーン樹脂シートの表面に木材の導管状の窪みを形成できるように、表面に多数の凸形状が設けられたステンレス製の賦型板を載置する。
プレス機により、温度170℃、圧力50kg/cm2、時間100分で加熱加圧する。これにより、シリコーン樹脂シートがメラミン樹脂含浸層上に固定されるとともに、賦型板の凸形状の転写により、シリコーン樹脂シートの表面に木材の導管様の凹陥模様が形成される。
【0053】
(光触媒担持工程)
平均粒子径100nmのCuO−TiO2の光触媒を水に分散したスラリーと、シリカゾル(SiO2濃度:3重量%)とを、4.5:5.5の重量割合(固形分重量)で含むメタノール混合溶液(光触媒濃度0.05重量%)を調製する。上記工程で得られたシリコーン樹脂シートを表面に有する基材に、スプレーを用いて上記メタノール混合溶液を塗布し、25℃で12時間乾燥させることにより、シリコーン樹脂シート上に上記光触媒が担持された化粧板の製造を完了する。」

甲C3:
C3a)「【請求項1】
一価の銅化合物を、ウイルスを不活化する有効成分として含むことを特徴とする抗ウイルス性塗料。
【請求項2】
前記一価の銅化合物が、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、水酸化物、シアン化物、チオシアン酸塩、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性塗料。
【請求項3】
前記一価の銅化合物が、CuCl、Cu(CH3COO)、CuI、CuBr、Cu2O、CuOH、Cu2S、CuCN、およびCuSCNからなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とする請求項2に記載の抗ウイルス性塗料。」

C3b)「【発明の効果】
【0012】
本発明の塗料に含まれる一価の銅化合物は、脂質を含むエンベロープと呼ばれる膜で包まれているウイルスや、エンべロープを持たないウイルスなど様々なウイルスが接触した場合に、該接触したウイルスを不活化することができる。したがって本発明によれば、塗布乾燥するだけで様々な製品に高い抗ウイルス性能を付与できる抗ウイルス性塗料、および当該抗ウイルス塗料が塗布乾燥されたことにより抗ウイルス性が付与された製品を提供することができる。」

C3c)「【0063】
(膜強度測定)
摩擦試験器にて、試験片の上に10000番の研磨紙を乗せ、加重100gを掛けながら、摩擦紙を左右2cmごとスライドさせることにより、膜の傷を観察した。傷がないものを(○)とし、やや傷がついた状態を(△)、膜が剥がれてしまったものを(×)とした。結果を表1に示す。 【0064】
【表3】



甲C4:
C4a)「反射光のうち,正反射方向の光で光沢,種々の方向へ広がる拡散反射光で表面色を認識する.なお,正反射光を含む色のことを物体色と呼ぶ4).一方,物体内に吸収される光は材料ごとに決まっているため5),正反射成分と拡散反射成分の総和は,表面の凹凸状態にかかわらず材料が同じであれば一定値となる.すなわち,凹凸が小さくなり正反射成分が多くなると光沢は高くなるが6),拡散反射成分は減少するため色が変化することが推察される.」(944頁右欄下から1行〜945頁左欄7行)

C4b)「算術平均粗さRaが小さくなるにしたがい,光沢度は指数関数的に高くなる.特に,光沢度が急激に高くなるのはRaが約0.2μm以下の領域となっている.・・・凹凸高さが約0.2μmより小さくなると,入射光のほとんどが拡散されずに正反射することとなる.」(945頁左欄25行〜右欄4行)

甲C5:刊行物1として示したとおり。
甲C6:甲A1として示したとおり。
甲C7〜C8:甲A3〜A4として示したとおり。

甲C9:
C9a)「【請求項1】
一価銅化合物を有効成分として含むウイルス不活化剤。
【請求項2】
一価銅化合物が酸化第一銅、硫化第一銅、ヨウ化第一銅、及び塩化第一銅からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物である請求項1に記載のウイルス不活化剤。」

C9b)「【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、酸化第二銅(CuO)硫化第二銅CuS)などの二価銅化合物に比べて酸化第一銅(Cu2O)、硫化第一銅(Cu2S)、ヨウ化第一銅(CuI)、塩化第一銅 (CuCl)などの一価銅化合物がウイルスに対してはるかに強い不活化作用を有しており、一価銅イオンがウイルスに対して特異的に不活化作用を発揮することを見出した。」

C9c)「【図2】



甲C10:
C10a)「【実験例3】
【0042】
サンプルNo.1、5、6、7、13、20の抗ウイルス抗菌塗布剤の抗ウイルス性、即ち、サンプルNo.1、6、13、については耐磨耗試験700回(往復)後、サンプルNo.5、6(試料を2枚使用)、7、20についてはスプレー塗布直後の抗ウイルス性を試験するため、A型インフルエンザウイルス(Influenza A virus H1N1 PR/8/34)を発育鶏卵の漿尿膜腔に接種し、ふ卵器で培養後、漿尿液を採取し、密度勾配遠心法により精製したウイルス液を供試ウイルス液とした。3cm×5cmの試験プレートを滅菌シャーレに入れ、供試ウイルス液0.125mlを試験プレートに接種し、さらに2.5cm×5cmのポリプロピレン製のフィルムで上面をカバーし、供試ウイルス液と試験プレートとの接触効率を高め、室温にて10分間作用させた。作用後、フィルムと試験品をスチロールケースに入れ、リン酸緩衝生理食塩水10mlを加え、3分間振とうしてウイルスを誘出し、誘出液をウイルス感染価測定試料の原液として用いた。ウイルス感染価測定用試料をリン酸緩衝生理食塩水で10倍段階希釈した後、測定用試料原液または段階希釈ウイルス液50μlと5%ウシ胎児血清を含むDulbecco’s modified Eagle’s Mediumに懸濁したMadin−Darby canine kidney細胞50μlを96マイクロプレートに植え込んだ。その後、炭酸ガスふ卵器で4日間培養を行った。培養後、顕微鏡下で細胞変性効果を確認し、Reed−Muench法を用いてウイルス感染価(TCID50/ml)を求めた。ウイルス感染価は、下記の式によってウイルス感染価対数減少値とした。
【0043】
【数1】

【0044】
その結果、サンプルNo.1の耐磨耗試験後におけるウイルス感染価対数減少値は0.0、サンプル7は0.1、サンプルNo13は0.2であり、いずれも抗ウイルス性は認められなかった。一方、サンプルNo.5のウイルス感染価対数減少値は1.7、サンプルNo.6のスプレー直後は2.6、同じくサンプルNo.6の700回(往復)の耐磨耗試験後は1.6、サンプル20は1.0であり、いずれも抗ウイルス性が認められた。」

(2)引用発明
ア 刊行物1(甲B1、甲C5と同じ。)について
刊行物1には、抗ウイルス性塗膜についての記載があるところ(摘示1a〜1i)、実施例2の記載からみて、刊行物1には、
「ジメチルシリコン骨格を含む側鎖とフルオロアルキル基とを有するアクリル樹脂である樹脂バインダー100質量部に対して、銅化合物担持酸化アルミニウム10質量部に対して、メチルエチルケトン35質量部、湿潤分散剤5質量部を加え、スターラーで1時間攪拌することで得た銅化合物担持酸化アルミニウムの分散液30質量部、硫酸バリウム10質量部に対してメチルエチルケトン38質量部、湿潤分散剤2質量部を加え、スターラーで1時間攪拌することで得た硫酸バリウム分散液90質量部、メチルエチルケトン500質量部、硬化剤40質量部を混合し、さらに、この混合物をホモディスパーで攪拌することにより得た抗ウイルス組成物をガラス板上にバーコータによって塗布し、100℃の温度で10分間加熱して乾燥することによって得た塗膜板。」(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。

イ 甲A1(甲C6と同じ。)について
甲A1には、塗料組成物についての記載があるところ(摘示A1a〜A1h)、実施例として塗料組成物を調製した後、当該塗料組成物を用いて製造した試験片が、抗インフルエンザAウイルス性を有することが記載されている(摘示A1h)ことから、甲A1には、
「ベース皮膜がされた黒色LenetaスクラブチャートP121−10Nの上に7ミルフィルム流涎機を用いて下記塗料組成物を引いて空気により終夜乾燥させた後、第2の下記塗料組成物の7ミル塗膜を塗布し、終夜空気により乾燥させて製造される、抗インフルエンザAウイルス性を有する試験片。
塗料組成物:下記表4の成分を当業者に知られた技術を用いて混合することにより、安定かつ高品質な塗料組成物の例を調製し、この塗料に0.65gのBarquat MB−80の4級アンモニウム化合物を添加し、次いでエアーミキサーを用いて室温で10分間攪拌し得た塗料組成物。
【表4】

1 Byk Chemie社製BYK(登録商標)024
2 Dow社製CELLOSIZE(商品名)QP−4400H
3 Dow社製TAMOL(商品名)1254
4 Unimin Specialty Minerals社製MINEX(商品名)4
5 Unimin Specialty Minerals社製MINEX(商品名)2
6 Cognis社製LOXANOL(商品名)EFC100
7 Dow社製ACRYSOL(商品名)RM−8W
8 Dow社製ACRYSOL(商品名)RM−2020NPR
9 Dow社製TRITON(商品名)X−102」の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されていると認める。

ウ 甲C1について
C1明細書等には、化粧板についての記載があるところ(摘示C1a〜C1e)、実施例1の記載(摘示C1e)からみて、
「下地処理済み珪酸カルシウム板の上から化粧層用塗料として、二液タイプの白色系アクリルウレタン系エナメル塗料を塗工して得た化粧板(白色塗装板)の上に、下記クリア層用塗料をナチュラルロールコーターで乾燥塗布量1g/m2となるように塗工して得た、グロスメーター(堀場製作所製IG−330)により測定した60°光沢度が15である、クリア層付きの白色化粧板。
クリア層用塗料:二液タイプの白色系アクリルウレタン系クリア塗料(DIC製UCクリヤーDFクリーン01(酸化チタン非含有))100部に、抗ウイルス剤(銀イオン系担持ガラスタイプ 平均粒径3ミクロン)を乾燥後のクリア層における含有率が1質量%になるように配合したクリア層用塗料。」の発明(以下「甲C1発明」という。)が記載されていると認める。

エ 甲C2について
甲C2には、化粧板についての記載があるところ(摘示C2a〜C2e)、実施例1の記載(摘示C2e)からみて、
「フェノール樹脂含浸コア紙を4枚積層し、その上に、メラミン樹脂含浸紙及びシリコーン樹脂シートを積層し、シリコーン樹脂シートの表面に木材の導管様の凹陥模様を形成したものを基材とし、シリコーン樹脂シートの表面に、平均粒子径100nmのCuO−TiO2の光触媒を水に分散したスラリーと、シリカゾル(SiO2濃度:3重量%)とを、4.5:5.5の重量割合(固形分重量)で含むメタノール混合溶液(光触媒濃度0.05重量%)をスプレーを用いて塗布し、25℃で12時間乾燥させることにより製造されるシリコーン樹脂シート上に光触媒が担持された化粧板。」の発明(以下「甲C2発明」という。)が記載されていると認める。

2 当審が通知した令和3年12月24日付け取消理由について
(1)本件発明1について
本件発明1と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「ガラス板」は本件発明1の「基材」に相当する。
刊行物1の【0011】には、銅化合物は抗ウイルス性を発揮するための成分であることが記載されているから、刊行物1発明の「銅化合物」は、本件発明1の「抗ウィルス成分として」の「銅化合物」に相当する。
刊行物1発明の「アクリル樹脂である樹脂バインダー」は本件発明1の「有機バインダ」に相当する。
刊行物1発明は、銅化合物担持酸化アルミニウム、アクリル樹脂である樹脂バインダー及び硬化剤を含有する抗ウイルス性組成物をガラス板上にバーコーターによって塗布し、乾燥することによって得た塗膜板であるところ、樹脂バインダーは、塗布、乾燥することによって硬化物となって基材に固着していることは明らかであるから、上で述べたことも考慮すると、当該塗膜板は、基材表面に銅化合物を含む有機バインダ硬化物が固着形成されてなる抗ウイルス部材であるといえる。
そして、刊行物1発明は、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒を含まない。
したがって、本件発明1と刊行物1発明とは、
「基材表面に抗ウィルス成分として銅化合物を含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒を含まない、有機バインダ硬化物が固着形成されてなる抗ウィルス部材。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−刊1>
本件発明1は「前記有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満である」と特定しているのに対し、刊行物1発明はかかる特定のない点。

上記相違点について検討する。
刊行物1には、抗ウイルス活性を有する材料の添加量を増加させなくても高い抗ウイルス性を発揮することが可能な抗ウイルス性塗膜を提供することを目的とすることが記載されているところ(【0005】)、微細凹凸による銅担持酸化物の露出面積の増加とにより、抗ウイルス性能に優れた塗膜を得ることが可能となること(【0029】)、塗膜の表面が硫酸バリウムの形状に沿って凹凸形状となり、銅担持酸化物の塗膜表面からの露出面積が増加し、その結果、銅担持酸化物とウイルスとの接触率が増加するため、ウイルスの不活性化を高めることが可能となること(【0031】)が記載されている。この点については、刊行物2にも、抗菌剤を含有した樹脂組成物に表面凹凸形成剤を配合せしめることにより硝子容器の外周表面に積極的に凹凸を設け表面積の増加を図り、その表面積の拡大に伴い、抗菌剤の作用を有効に発揮できるように働くことが記載されている(摘示2a、2b)。
これらの記載を考慮すると、刊行物1には、塗膜表面の凹凸によって銅担持酸化物の露出面積が増加し、銅担持酸化物とウイルスとの接触率が増加するため、ウイルスの不活性化を高めることが記載ないし示唆されているといえる。
また、刊行物1には、硫酸バリウムの平均二次粒子径が特定の範囲内であることにより、硫酸バリウムを塗膜中に高分散させ、塗膜表面の微細凹凸を増加させることが可能となること、硫酸バリウムの配合量が少ないと、塗膜表面の凹凸が減少することが記載されている(【0032】、【0033】)から、当業者は、硫酸バリウムの平均二次粒子径、量を調整することにより塗膜表面の凹凸を調節できることが理解できるといえる。
そして、刊行物3には、塗膜表面について、粗さが大きくなると光沢が低くなると予想されること及びそのことを示す図2が記載され(摘示3a、3b)、刊行物4には、面の平らさに関係する物理的な意味での光沢度を測る場合は鏡面光沢度が適していること、JIS Z 8741による鏡面光沢度の測定条件が記載されている(摘示4a、4b)。
ここで、抗ウイルス活性を有する材料の添加量を増加させなくても高い抗ウイルス性を発揮することが可能な抗ウイルス性塗膜を提供することを目的とし、当該目的を硫酸バリウムによって塗膜表面に凹凸を形成することによって解決したものであるといえる刊行物1発明において、凹凸の程度を調整して所望の抗ウイルス性が得られるようにするにあたり、刊行物4の記載事項を参考にして、凹凸の程度、すなわち、塗膜表面の粗さ、平らさを有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741による鏡面光沢度によって表現し、特定することは当業者が容易になし得た事項であるということはできる。
しかし、刊行物1には、硫酸バリウムの平均二次粒子径、量と有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741による鏡面光沢度に準拠した光沢度との関係は記載も示唆もされておらず、それが本件出願時の技術常識であるともいえない。また、刊行物1に記載された発明において、硫酸バリウムによって塗膜表面に凹凸を形成することによって課題を解決するにあたって、有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741による鏡面光沢度に準拠した光沢度を指標とすることの記載・示唆は刊行物1にはなく、したがって、実際に当該光沢度をどの程度とすればよいかについての記載・示唆もないといえる。さらに、刊行物1発明において、「有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満である」とすることができるかも不明である。そして、刊行物2〜4のいずれにも、抗ウイルス性塗膜を有する有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741による鏡面光沢度に準拠した光沢度をどの程度のものとすればよいかについての観点からの記載・示唆はない。
また、刊行物5には、一定の粗面粗さを有するものは抗菌機能を長期間の実用に亘って保持できること(摘示5a、5b)、刊行物6には、基材層の粗面に対応する凹凸を有することとなり、その結果、表面全体における実際に摩擦を受ける部分の面積を減らすことができること、粗面化処理には、表面積を増加させる効果もあり、こうした効果が組み合わさって、本発明の抗微生物性材料は非常に優れた耐摩耗性を示し、高い抗微生物性を長期に亘って発揮することができること(摘示6a〜6c)が記載されているものの、抗ウイルス性塗膜を有する基材表面のJIS Z 8741による鏡面光沢度に準拠した光沢度という観点に着目して当該光沢度をどの程度のものとすればよいかについての記載・示唆はない。
したがって、刊行物1〜6の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、刊行物1発明において「有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満である」とすることが当業者が容易になし得た事項であるということはできない。

よって、本件発明1が奏する効果について検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1〜6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)本件発明2〜4について
本件発明2は、本件発明1についてさらに、「前記有機バインダ硬化物は、膜状に基材表面に固着されてなるか、島状に分散して基材表面に固着されてなるか、もしくは、基材表面に前記バインダ硬化物が形成された領域と前記バインダ硬化物が形成されていない領域とが混在して設けられてなる」ことを、本件発明3は、本件発明1についてさらに、「前記有機バインダ硬化物は、前記抗ウィルス成分として銅化合物を含み、前記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認される」ことを、本件発明4は、本件発明1〜3についてさらに、「前記抗ウィルス部材は、拭き取り処理される態様で使用される」ことを、それぞれ、特定するものであるところ、いずれも本件発明1の発明特定事項のすべてを有するものであるから、本件発明1と同様に、刊行物1発明とは、上記相違点1−刊1を有する。
刊行物7には、抗菌性被膜を有するパネルまたはシート材料において、抗菌処理を必要とする部分のみに透過面を形成することができること等が記載されている(摘示7a、7b)に過ぎないから、刊行物7の記載を参酌しても、上記相違点1−刊1の点を当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、本件発明1と同様に、本件発明2、4は刊行物1〜7に記載された発明に基いて、本件発明3は刊行物1〜6に記載された発明に基いて、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、理由1は理由がない。

3 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由A1について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲A1発明とを対比する。
甲A1発明の「ベース皮膜がされた黒色LenetaスクラブチャートP121−10N」は本件発明1の「基材」に相当する。
甲A1発明の「Barquat MB−80の4級アンモニウム化合物」について、甲A1の記載(【0003】、【0026】〜【0028】)からみて、抗インフルエンザAウイルス性を有するといえるから、甲A1発明は「抗ウィルス成分」を含む限りにおいて本件発明1と共通する。
甲A1発明の「UCAR(商品名)6045」は、ビニルアクリルポリマーであり(甲A1の【0012】参照)、【0009】に記載のバインダーに相当するものであって、本件発明1の「有機バインダ」に相当する。
甲A1発明は、Barquat MB−80の4級アンモニウム化合物及びビニルアクリルポリマーであるバインダーを含有する塗料組成物をベース皮膜がされた黒色LenetaスクラブチャートP121−10N上に7ミルフィルム流涎機によって塗布し、乾燥することによって得た試験片であるところ、塗料組成物は、塗布、乾燥することによって硬化物となって基材に固着しているといえるから、上で述べたことも考慮すると、当該試験片は、基材表面に抗ウィルス成分を含む有機バインダ硬化物が固着形成されてなる抗ウイルス部材であるといえる。
そして、甲A1発明は、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒を含まない。
したがって、本件発明1と甲A1発明とは、
「基材表面に抗ウィルス成分を含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒を含まない、有機バインダ硬化物が固着形成されてなる抗ウィルス部材。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−甲A1−1>
本件発明1は「前記有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満である」と特定しているのに対し、甲A1発明はかかる特定のない点。

<相違点1−甲A1−2>
本件発明1は「抗ウィルス成分として銅化合物」を含むと特定しているのに対し、甲A1発明は抗インフルエンザAウイルス性を有するものとして含むのは、Barquat MB−80の4級アンモニウム化合物である点。

上記相違点について検討する。
<相違点1−甲A1−1>について
甲A1には、乾燥した塗料フィルムが、60℃で測定した場合に5から85光沢単位の光沢を有していることが記載されている(請求項16)ものの、当該光沢が、JIS Z 8741に準拠したものであることは記載されておらず、また、その数値範囲についても、重複する部分はあるものの異なっている。
そして、それらについて、相違しないという出願時の技術常識もないから、甲A2の記載を考慮しても、この点は実質的な相違点である。

<相違点1−甲A1−2>について
甲A1には、他の殺生物剤として、金属イオン含有化合物、有機金属化合物類等を含有してもよいこと、よく知られた無機殺生物剤として、銅などの金属イオンを含むものが挙げられることが記載されているが(摘示A1c、A1b)、それらの記載は含有してよい殺生物剤の例が記載されているに過ぎない。
また、甲A3には酸化銅(I)及び酸化銅(II)を含むイオン性銅粉末混合物を該スラリー中へ分散することを含む、親水性高分子材料に抗ウイルス特性を付与する方法が(摘示A3a〜A3c)、甲A4にはイオンの銅の微視的粒子が封入され、かつその表面から突出している抗菌性および抗ウィルス性ポリマー材料が(A4a〜A4b)、それぞれ記載されているに過ぎない。
したがって、出願時の技術常識を考慮しても、甲A1発明が抗ウィルス成分として銅化合物を含むことを意味するとはいえないので、この点は実質的な相違点である。

なお、甲A1の上記摘示A1c、A1bの記載は、銅などの金属イオンを含むものが他の殺生物剤として例示的に記載されているに過ぎず、そのような殺生物剤を含有する塗料組成物は具体的に記載されてもいないから、かかる殺生物剤を含有する塗料組成物等が甲A1に記載された発明であるとはいえない。

よって、本件発明1は甲A1に記載された発明であるとはいえない。

イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の発明特定事項のすべてを有するものであるから、本件発明1と同様に甲A1に記載された発明であるとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、申立理由A1は理由がない。

(2)申立理由A2について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲A1発明とを対比した場合の一致点・相違点は上記(1)アで示したとおりである。

<相違点1−甲A1−1>について
甲A1には、乾燥した塗料フィルムが、60℃で測定した場合に5から85光沢単位の光沢を有していることが記載されている(請求項16)ものの、当該光沢が、JIS Z 8741に準拠したものであることは記載されておらず、また、その数値範囲についても、重複する部分はあるものの異なっている。
そして、甲A1には、60℃で測定した場合に5から85光沢単位の光沢を有していることとする技術的意義について何ら記載がないから、仮に、当該光沢単位がJIS Z 8741に準拠したものであるとしても、5から85光沢単位とは異なる範囲であることを含む、甲A1発明において「有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満である」とする動機付けがあるともいえない。
したがって、甲A2の記載を考慮しても、この点が当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

<相違点1−甲A1−2>について
甲A1には、他の殺生物剤として、金属イオン含有化合物、有機金属化合物類等を含有してもよいこと、よく知られた無機殺生物剤として、銅などの金属イオンを含むものが挙げられることが記載されているが(摘示A1c、A1b)、それらの記載は含有してよい殺生物剤の例が記載されているに過ぎない。
また、甲A3には酸化銅(I)及び酸化銅(II)を含むイオン性銅粉末混合物を該スラリー中へ分散することを含む、親水性高分子材料に抗ウイルス特性を付与する方法が(摘示A3a〜A3c)、甲A4にはイオンの銅の微視的粒子が封入され、かつその表面から突出している抗菌性および抗ウィルス性ポリマー材料が(A4a〜A4b)、それぞれ記載されているが、すでに抗ウイルス性を付与する成分としてBarquat MB−80の4級アンモニウム化合物を含有する甲A1発明において、さらに抗ウイルス性を付与する成分を追加する動機付けを見出すことができず、仮にかかる動機付けがあり、本件出願時の技術常識を参酌したとしても、多数記載された殺生物剤(摘示A1f)から、銅化合物を選択することが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、この点も当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

よって、本件発明1が奏する効果について検討するまでもなく、本件発明1は甲A1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 本件発明2〜4について
本件発明2は本件発明1を、本件発明3は本件発明1を、本件発明4は本件発明1〜3を、それぞれ引用するものであって、本件発明1の発明特定事項のすべてを有するものである。
また,甲A3には酸化銅(I)及び酸化銅(II)を含むイオン性銅粉末混合物を該スラリー中へ分散することを含む、親水性高分子材料に抗ウイルス特性を付与する方法が(摘示A3a〜A3c)、甲A4にはイオンの銅の微視的粒子が封入され、かつその表面から突出している抗菌性および抗ウィルス性ポリマー材料が(A4a〜A4b)、それぞれ記載されているに過ぎず、これらの記載事項を参酌しても、甲A1発明において、有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満であるものとすること、抗ウィルス成分として銅化合物を含むものとすることを動機付けるものではない。
したがって、本件発明2、4は甲A1に記載された発明に基いて、本件発明3は甲A1、A3、A4に記載された発明に基いて、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、申立理由A2は理由がない。

(3)申立理由B1について
申立理由B1は甲B1(刊行物1と同じ。)を主引用例として、本件発明1、3については甲B2〜B6(甲B2、B3、B5、B6はそれぞれ、刊行物2、3、5、6と同じ。)を副引用例とし、本件発明2、4についてはさらに甲B7(刊行物7と同じ。)を副引用例とするものであるところ、当審が取消理由として通知した理由1とは、甲B4を副引用例としてさらに用いている点でのみ相違するが、甲B4は本件出願後に頒布された刊行物であるから、これを参酌して本件発明1〜4の進歩性を否定することはできない。
したがって、上記2で述べたのと同様に、申立理由B1は理由がない。

審判請求人Bは、甲B4の記載事項から、本件発明における光沢度の上限に特別な技術的意義は存在しないことを主張するが(審判請求書27頁)、本件発明は拭き取り処理後の抗ウィルス活性に着目している点等の点において甲B4に記載された発明とは異なる技術的特徴を有するといえるから、光沢度の上限に特別な技術的意義は存在しないとの上記主張は採用できない。

(4)申立理由B2、C1について
ア 判断の前提
以下の観点に立って判断する。
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ 本件明細書の記載
a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物性を備え、同時に拭き取りに対しての耐久性も備えた抗微生物部材に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の抗菌性合成樹脂延伸フィルムでは、充分な抗菌、抗ウィルス性能が得られなかった。また、特許文献2の抗菌積層フィルムは、拭き取り清掃時に抗微生物層の表面に応力がかかると、当該抗微生物層が摩耗してしまい、抗微生物性能が低下するという問題があった。さらに、特許文献3の抗ウィルスコートでも充分な抗菌、抗ウィルス性能が得られなかった。従って、抗菌性、抗ウィルス性、抗カビ性等の抗微生物性能に優れ、抗微生物性能が持続的に発揮される抗微生物部材が望まれていた。
また、低コストで塗工性の高い抗微生物部材が望まれていた。
【0007】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものであり、高額な合成設備を必要とせず、簡便に施工済の据え付け品等に対しても現場施工により、信頼性の高い抗ウィルス性等の抗微生物性能を持続的に発揮する抗微生物部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究した結果、抗菌性、抗ウィルス性、抗カビ性などの抗微生物性能を示す表面部分の光沢度が抗微生物特性に寄与していることを新たに知見し、本発明を完成させた。
本発明の抗微生物部材は、基材表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固着形成されてなり、上記バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満であることを特徴とする。」

b)「【0011】
本発明の抗微生物部材は、表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が基材の表面に固着されてなり、上記バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満となるように、上記バインダ硬化物を含む基材表面に凹凸が形成すされているため、抗微生物活性を有するバインダ硬化物の表面積が大きくなり、流動するウィルス、菌、カビなどの微生物と上記バインダ硬化物との接触確率が高まり、ウィルス、細菌、カビなどの微生物を失活させることができるのである。
【0012】
また、上記バインダ硬化物を含む基材表面の光沢度が45%未満であると、抗微生物成分を含むバインダ硬化物の基材表面への付着量が増加し、凹凸が滑らかな性状となるため、バインダ硬化物表面の滑り性が高くなり、拭き取り清掃時に抗微生物成分を含むバインダ硬化物表面に応力がかかっても、バインダ硬化物が摩耗で欠損することがなく、上記バインダ硬化物の有する抗微生物活性が低下することがない。
すなわち、本発明の抗微生物部材は、拭き取り処理がなされる態様で使用されることが望ましい。また、本発明は、本発明の抗微生物部材が、拭き取り処理がなされる態様での使用であってもよい。
さらに、微生物活性を有するバインダ硬化物が凹凸形状で形成されているため、ウィルス等の微生物が凹凸形状の凹部にトラップされやすく、ウィルス等の微生物を確実に失活させられる。上記光沢度は、特に10%以上、45%未満が好ましい。拭き取り清掃などの摩耗の力が働いた場合でも、抗ウィルス性能などの抗微生物性能を維持できるだけの耐久性を発揮できるからである。
なお、本発明において、上記光沢度は、JIS Z 8741(1997)に準じて測定し得られる値であり、測定機器としては、具体的に、コニカミノルタ製 CM−25cGを用いることができる。上記光沢度を測定する際の測定光の入射角度は60°で測定する。光沢度の表記は(%)とする。」

c)「【0013】
本発明の抗微生物部材は、基材表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固着形成されてなり、上記バインダ硬化物は、膜状に基材表面に固着してなるか、島状に分散して基材表面に固着されてなるか、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在して設けられてなることが望ましい。
【0014】
本発明の抗微生物部材は、基材表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固着形成されてなり、上記バインダ硬化物は、島状に分散して基材表面に固着されてなるか、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在して設けられてなるため、基材表面に抗微生物成分からなるバインダ硬化物で構成される凹凸が形成されている。このため、バインダ硬化物を膜状に形成した場合に比べて、抗微生物成分を含むバインダ硬化物の総表面積が大きくなることから、ウィルス等の微生物との接触確率が高くなり、またウィルス等の微生物をバインダ硬化物間にトラップできるため、高い抗微生物活性が得られるのである。また、抗微生物成分がバインダ硬化物中に含まれているため、基材との密着性にも優れ、拭き取り清掃による脱落も防止できる。
なお、本発明の抗微生物部材において、上記バインダ硬化物が膜状に基材表面に固着してなる場合、上記膜表面に研磨処理やブラスト処理、賦形板を用いた転写処理などを行い、凹凸形状を形成して光沢度を調整することが好ましい。
【0015】
本明細書において、バインダ硬化物は、基材表面の10%以上、95%以下を覆っていることが望ましく、バインダ硬化物が形成されたバインダ硬化物形成領域と、バインダ硬化物が形成されていないバインダ硬化物非形成領域と、が混在した状態であればよい。すなわち、バインダ硬化物は、基材表面の一部を露出するように、基材表面に固着形成されているのである。バインダ硬化物は島状に形成されていてもよく、また、上記バインダ硬化物が形成された領域とバインダ硬化物が形成されていない領域が混在して設けられた状態であってもよい。
【0016】
上記島状とは、基材表面のバインダ硬化物が他のバインダ硬化物と接触しない孤立した状態で存在していることをいう。島状に散在しているバインダ硬化物の形状は特に限定されず、その輪郭を平面視した際、円形、楕円形等の曲線から構成される形状であってもよく、多角形等の形状であってもよく、円形、楕円形等が細い部分を介して繋がり合ったような形状であってもよく、アメーバ状のようなものでもよい。また、島同士が互いに入り組んで接触することなく隣接していてもよい。
また、上記バインダ硬化物は、バインダ硬化物が形成された領域とバインダ硬化物が形成されていない領域とが混在して設けられた状態のバインダ硬化物と、島状に形成されたバインダ硬化物とが混在していてもよい。」

d)「【0017】
本発明の抗微生物部材では、上記バインダ硬化物は、上記抗微生物成分として、無機系抗微生物剤及び有機系抗微生物剤からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが望ましい。
【0018】
本発明の抗微生物部材において、上記バインダ硬化物が、上記抗微生物成分として、無機系抗微生物剤及び有機系抗微生物剤からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいると、確実に高い抗微生物活性を有する抗微生物部材を実現することができる。
【0019】
本発明の抗微生物部材では、また、無機系抗微生物剤としては、銀、銅、亜鉛、チタン、タングステン等からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む金属酸化物あるいは金属水和物の粒子を用いることもできる。無機系抗微生物剤の具体例としては、例えば、酸化銅(I)(亜酸化銅)、酸化銅(II)、炭酸銅(II)、水酸化銅(II)、塩化銅(II)、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持されたアルミナ、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持されたシリカ、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持された酸化亜鉛、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持された酸化チタン、もしくは酸化タングステン、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持されたリン酸カルシウム等の無機粒子が挙げられる。銀イオン及び銅イオンの少なくとも一方で交換されたゼオライトは、さらに亜鉛イオン等の他の金属イオンで交換されていてもよい。また、本発明の無機系抗微生物剤としては、銅の錯体であることが望ましい。
【0020】
本発明の抗微生物部材では、上記無機系抗微生物剤は、銀、銅、亜鉛、白金、亜鉛化合物、銀化合物、銅化合物、金属イオンでイオン交換されたゼオライト、及び、銅の錯体からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0021】
本発明の抗微生物部材において、上記無機系抗微生物剤が、銀、銅、亜鉛、白金、亜鉛化合物、銀化合物、銅化合物、金属イオンでイオン交換されたゼオライト、及び、銅の錯体からなる群から選択される少なくとも1種であると、上記無機系抗微生物剤を粒子状とすることができ、該無機系抗微生物剤がバインダ硬化物から露出し易く、より高い抗微生物活性を有する抗微生物部材となる。
・・・
【0024】
本発明の抗微生物部材では、上記バインダ硬化物は、有機バインダ、無機バインダ及び有機・無機ハイブリッドバインダから選ばれる少なくとも1種以上のバインダ硬化物を含むことが望ましい。
【0025】
上記有機バインダは、熱硬化性樹脂及び電磁波硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0026】
本発明の抗微生物部材では、上記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。上記電磁波硬化型樹脂は、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び、アルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0027】
本発明の抗微生物部材において、上記電磁波硬化型樹脂が、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び、アルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であると、バインダ硬化物は、透明性を有するとともに、基材に対する密着性にも優れる。
・・・
【0030】
本発明の抗微生物部材では、上記バインダ硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅は、0.1〜500μmであり、その厚さの平均値は、0.1〜20μmであることが望ましい。
【0031】
本発明の抗微生物部材において、上記バインダ硬化物の上記基材の表面に平行な方向の最大幅を0.1〜500μmとすることにより、基材の表面がバインダ硬化物により被覆されていない部分の割合を適切に保つことができ、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合でも、意匠等の外観や美観が損なわれてしまうのを防止することができる。
【0032】
本発明の抗微生物部材においては、上記バインダ硬化物の上記基材の表面に平行な方向の最大幅が0.1μm未満のバインダ硬化物を形成することは技術的に困難であり、バインダ硬化物の基材表面の被覆率も低くなってしまい、抗微生物活性が低下してしまう。一方、上記バインダ硬化物の上記基材の表面に平行な方向の最大幅が500μmを超えると、1個のバインダ硬化物の大きさが大きくなりすぎ、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合、バインダ硬化物が邪魔して意匠等が見にくくなり、意匠等の外観や美観が損なわれてしまう。
【0033】
本発明の抗微生物部材において、バインダ硬化物の厚さの平均値が0.1〜20μmであると、バインダ硬化物の厚さが薄いので、バインダ硬化物の連続層となりにくく、バインダ硬化物が島状に散在、もしくは、上記バインダ硬化物が膜状に形成され、当該バインダ硬化物の膜が形成された領域内に硬化物が形成されていない領域が混在して設けられた状態にさせ易くなり、意匠等の外観や美観が損なわれてしまうのを防止することができ、高い抗微生物活性を得ることができる。
【0034】
本発明の抗微生物部材において、その厚さの平均値が0.1μm未満のバインダ硬化物を形成するのは技術的に難しく、バインダ硬化物の基材表面の被覆率も低くなってしまい、抗微生物活性が低下してしまう。一方、バインダ硬化物の厚さの平均値が20μmを超えると、バインダ硬化物が厚すぎるので、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合、バインダ硬化物が邪魔して意匠等が見にくくなり、意匠等の外観や美観が損なわれてしまう。」

e)「【0035】
本発明の抗微生物部材では、無機系抗微生物剤として銅化合物を含み、上記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))は、0.4〜50であることが望ましい。
【0036】
また、Cu(I)の銅は、Cu(II)の銅と比較して抗微生物性能により優れているため、本発明の抗微生物部材において、無機系抗微生物剤として銅化合物を含み、上記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認されることが望ましい。
具体的には、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が1.0〜4.0であると、より抗微生物性能に優れた抗微生物部材となる。
【0037】
なお、Cu(I)とは、銅のイオン価数が1であることを意味し、Cu+と表す場合もある。一方、Cu(II)とは、銅のイオン価数が2であることを意味し、Cu2+と表す場合もある。なお、一般的に、Cu(I)の結合エネルギーは、932.5eV±0.3(932.2 〜 932.8eV)、Cu(II)の結合エネルギーは、933.8eV±0.3(933.5 〜 934.1eV)である。」

f)「【0038】
本発明の抗微生物部材において、抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固着形成されている基材表面のJIS B 0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)は、0.1〜5μmであることが望ましい。
【0039】
本発明の抗微生物部材おいては、抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固着形成されている基材表面のJIS B 0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)が、0.1〜5μmであると、バインダ硬化物を含む基材表面の表面積及び凹凸が適切な範囲となり、ウィルス等の微生物と抗微生物成分とが接触する確率が高くなり、また、表面の凹凸の谷間に、ウィルス等の微生物がトラップされ易くなり、その結果、ウィルス等の微生物を失活させ易くなる。
【0040】
本発明の抗微生物部材では、バインダ硬化物が島状に散在している場合は、上記島状のバインダ硬化物は、基材の表面1平方メートル当たり0.05×108〜30×108個存在することが望ましい。
【0041】
本発明の抗微生物部材おいて、上記バインダ硬化物が島状に散在している場合、上記島状のバインダ硬化物が、基材の表面1平方メートル当たり0.05×108〜30×108個存在すると、バインダ硬化物の大きさが適切に設定されていることとなり、基材表面に形成された意匠等の外観や美観が損なわれてしまうのを防止することができ、単位担持量当たり抗微生物活性の高い抗微生物部材となる。」

g)「【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明の抗微生物部材の一実施形態を模式的に示す平面図である。
【図2】図2(a)は、本発明の抗微生物部材の他の一実施形態を模式的に示す断面図であり、図2(b)は、図2(a)に示した抗微生物部材の断面図である。
【0045】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明の抗微生物部材について詳細に説明する。
本発明の抗微生物部材は、基材表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固着形成されてなり、上記バインダ硬化物を含む表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満であることを特徴とする。上記バインダ硬化物は、膜状に基材表面に固着してなるか、島状に分散して基材表面に固着されてなるか、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在して設けられており、抗微生物部材表面に凹凸が形成される。本発明においては、バインダ硬化物は、基材表面の10%以上、95%以下を覆っていることが望ましい。
【0046】
本発明の抗微生物部材は、基材表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固着形成されてなり、上記バインダ硬化物は、上記バインダ硬化物が膜状に基材表面に固着してなるか、島状に分散して基材表面に固着されてなるか、もしくは基材表面に上記バインダ硬化物が形成された領域と上記バインダ硬化物が形成されていない領域が混在して設けられ、上記バインダ硬化物を含む基材その表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満となるように、凹凸が形成されている。このため、抗微生物成分を含むバインダ硬化物の総表面積が大きくなることから、ウィルス等の微生物との接触確率が高くなり、またウィルス等の微生物をバインダ硬化物間にトラップできるため、高い抗微生物活性が得られるのである。また、抗微生物成分がバインダ硬化物中に含まれているため、基材との密着性にも優れ、拭き取り清掃による脱落も防止できる。
なお、本発明の抗微生物部材において、上記バインダ硬化物が膜状に基材表面に固着してなる場合、上記膜表面に研磨処理やブラスト処理、賦形板を用いた転写処理などを行い、凹凸形状を形成して光沢度を調整することが好ましい。」

h)「【0050】
本発明の抗微生物部材では、上記バインダ硬化物が基材表面の全体には存在せず、バインダ硬化物が形成されたバインダ硬化物形成領域とバインダ硬化物が形成されていないバインダ硬化物非形成領域が混在しているため、バインダ硬化物の残留応力や冷熱サイクル時に発生する応力を抑制することが可能となり、基材と高い密着性を有し、基材から剥がれにくいバインダ硬化物となる。また、スパッタなどで形成した抗菌金属からなるアイランドにように、拭き取り清掃などで剥離することもない。
【0051】
本発明の抗微生物部材を構成する基材の材料は、特に限定されるものでなく、例えば、金属、ガラス等のセラミック、樹脂、繊維織物、木材等が挙げられる。
また、本発明の抗微生物部材を構成する基材となる部材も、特に限定されるものではなく、タッチパネルの保護用フィルムやディスプレイ用のフィルムであってもよく、建築物内部の内装材、壁材、窓ガラス、手すり等であってもよい。また、ドアノブ、トイレのスライド鍵などでもよい。さらに事務機器や家具等であってもよく、上記内装材の外、種々の用途に用いられる化粧板等であってもよい。
【0052】
上記化粧板は、基板と基板の表面上に積層された表面樹脂層を有する。
上記化粧板に使用する基板は、特に限定されるものではなく、一般的に化粧板に使用されるコア紙やマグネシアセメント等の不燃板等を使用することができる。・・・
【0053】
マグネシアセメント不燃板は、・・・
【0054】
また、上記化粧板を構成する表層樹脂層に用いることができる樹脂としては、・・・などが挙げられる。これらの中では、メラミン樹脂を用いることが望ましい。
【0055】
メラミン樹脂は、透光性などの光学的、視覚的特性を損なうことなく、寸法安定性や靭性を改善した樹脂である。・・・
【0056】
上記表層樹脂層は、模様や色彩が印刷された印刷紙に樹脂が含浸された化粧層であってもよく、填料の量が15%以下で樹脂を含浸した場合には透光性となるオーバーレイ紙に樹脂が含浸されたオーバーレイ層でもよい。表層樹脂層がオーバーレイ層である場合には、化粧層はオーバーレイ層の下に設けられる。
なお、填料とは紙に添加して、白色度や平滑度を調整するための無機粒子(フィラー)であり、炭酸カルシウム、タルク、クレーおよびカオリンから選ばれる少なくとも1種以上が望ましい。填料は無機粒子であるため、填料の含有量は紙の重量と紙を強熱して残存する灰分の重量から計算することができる。
【0057】
本発明の抗微生物部材において、上記バインダ硬化物は、上記抗微生物成分として、無機系抗微生物剤及び有機系抗微生物剤からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいることが望ましい。
上記バインダ硬化物中には、上記した無機系抗微生物剤が1種類のみ含まれていてもよく、2種類以上の無機系抗微生物剤が含まれていてもよく、上記した有機系抗微生物剤が1種類のみ含まれていてもよく、2種類以上の有機系抗微生物剤が含まれていてもよい。さらに、上記バインダ硬化物中には、上記無機系抗微生物剤と上記有機系抗微生物剤とが2種類以上含まれていてもよい。
【0058】
また、本発明の抗微生物部材において、上記無機系抗微生物剤は、銀、銅、亜鉛、白金、亜鉛化合物、銀化合物、銅化合物、金属イオンでイオン交換されたゼオライト、及び、銅の錯体からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0059】
上記バインダ硬化物中に含まれている無機系抗微生物剤として、例えば、銀、銅、亜鉛及び白金の少なくとも1種からなる金属が挙げられる。
バインダ硬化物中には、銀、銅、亜鉛及び白金の粒子が単独で含まれていてもよく、銀、銅、亜鉛及び白金のうち、2種類以上の金属粒子が含まれていてもよく、例えば、銀、銅、亜鉛及び白金のうち、少なくとも2種を含む合金の金属粒子が固定されていてもよい。
【0060】
上記バインダ硬化物中に含まれている無機系抗微生物剤として、例えば、銅の酸化物、銅の水酸化物、銅のカルボン酸塩、銅の錯体、銅の水溶性無機塩等の銅化合物等が挙げられる。
上記銅のカルボン酸塩としては、酢酸銅(II)、酢酸銅(I)、シュウ酸銅(I)、安息香酸銅(II)、フタル酸銅(II)等が挙げられる。
上記銅の錯体としては、例えば、アセチルアセトンと銅との錯体、5−メチル−2,4−ヘキサンジオン等のβジケトンと銅との錯体、銅(I)(1−ブタンチオレート)、銅(I)(へキサフルオロペンタンジオネートシクロオクタジエン)等が挙げられる。
上記銅の水溶性無機塩としては、例えば、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)等が挙げられる。その他の銅化合物としては、二価の銅化合物が望ましく、例えば、銅(II)(メトキシド)、銅(II)エトキシド、銅(II)プロポキシド、銅(II)ブトキシド等が挙げられる。未硬化のバインダ中に銅化合物(II)を添加して、重合開始剤によって銅化合物を一価に還元することが望ましい。
【0062】
また、無機系抗微生物剤としては、銀、銅、亜鉛、チタン、タングステン等から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属酸化物あるいは金属水和物の粒子を用いることもできる。無機系抗微生物剤の具体例としては、例えば、酸化銅(I)(亜酸化銅)、酸化銅(II)、炭酸銅(II)、水酸化銅(II)、塩化銅(II)、銀イオン及び銅イオンの少なくとも一方で交換されたゼオライト、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持されたアルミナ、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持されたシリカ、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持された酸化亜鉛、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持された酸化チタン、もしくは酸化タングステン、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持されたリン酸カルシウム等の無機粒子が挙げられる。銀イオン及び銅イオンの少なくとも一方で交換されたゼオライトは、さらに亜鉛イオン等の他の金属イオンで交換されていてもよい。また、本発明の無機系抗微生物剤としては、銅の錯体であることが望ましい。
【0063】
本発明の抗微生物部材では、上記有機系抗微生物剤は、抗微生物樹脂、スルホン酸系界面活性剤、銅のアルコキシド、及び、ビス型第四級アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。」

i)「【0088】
本発明の抗微生物部材では、上記バインダ硬化物は、有機バインダ、無機バインダ、有機・無機ハイブリッドバインダ及び/又は電磁波硬化型樹脂のバインダ硬化物であることが望ましい。上記有機・無機ハイブリッドのバインダとしては有機金属化合物を使用することができる。
本発明の抗微生物部材では、上記抗微生物成分として、無機系抗微生物剤及び有機系抗微生物剤からなる群から選択される少なくとも1種と、バインダである有機バインダ、無機バインダ、有機・無機ハイブリッドのバインダ及び電磁波硬化型樹脂の少なくとも1種と、を混合したものを硬化させることにより、バインダ硬化物を得ることができる。
【0089】
次に、本発明の抗微生物部材における電磁波硬化型樹脂の硬化物について説明する。
・・・
【0090】
このような電磁波硬化型樹脂は、例えば、・・・からなる群から選択される少なくとも1種が望ましい。
【0091】
上記アクリル樹脂としては、・・・等が挙げられる。
【0092】
上記エポキシ樹脂としては、・・・等が挙げられる。
これらの樹脂は、透明性を有するとともに、基材に対する密着性にも優れる。
【0093】
次に、本発明の抗微生物部材における無機バインダの硬化物について説明する。
・・・
【0094】
液滴は、孤立して基材表面に付着するとバインダ硬化物は島状となり、液滴が基材表面に重畳して付着すると、バインダ硬化物は膜状となり、そのバインダ硬化物は、バインダ硬化物の形成領域とバインダ硬化物が形成されていない非形成領域が混在した形態となる。これは、上記した電磁波硬化型樹脂においても同様である。
【0095】
上記無機バインダとしては、・・・
【0096】
本発明の抗微生物部材では、上記バインダ硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅は、0.1〜500μmであり、その厚さの平均値は、0.1〜20μmであることが望ましい。
【0097】
本発明の抗微生物部材において、バインダ硬化物の厚さの平均値が0.1〜20μmであると、バインダ硬化物の厚さが薄いので、バインダ硬化物の連続層となりにくく、バインダ硬化物が島状に散在、もしくは、上記バインダ硬化物が膜状に形成され、当該バインダ硬化物の膜が形成された領域内に硬化物が形成されていない領域が混在して設けられた状態にさせ易くなり、意匠等の外観や美観が損なわれてしまうのを防止することができ、高い抗微生物活性を得ることができる。
【0098】
本発明の抗微生物部材において、その厚さの平均値が0.1μm未満のバインダ硬化物を形成するのは技術的に難しく、バインダ硬化物の基材表面の被覆率も低くなってしまい、抗微生物活性が低下してしまう。一方、バインダ硬化物の厚さの平均値が20μmを超えると、バインダ硬化物が厚すぎるので、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合、バインダ硬化物が邪魔して意匠等が見にくくなり、意匠等の外観や美観が損なわれてしまう。
【0099】
また、本発明の抗微生物部材において、上記バインダ硬化物の上記基材の表面に平行な方向の最大幅を0.1〜500μmとすることにより、基材の表面がバインダ硬化物により被覆されていない部分の割合を適切に保つことができ、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合でも、意匠等の外観や美観が損なわれてしまうのを防止することができる。
【0100】
本発明の抗微生物部材においては、上記バインダ硬化物の上記基材の表面に平行な方向の最大幅が0.1μm未満のバインダ硬化物を形成することは技術的に困難であり、バインダ硬化物の基材表面の被覆率も低くなってしまい、抗微生物活性が低下してしまう。一方、上記バインダ硬化物の上記基材の表面に平行な方向の最大幅が500μmを超えると、1個のバインダ硬化物の大きさが大きくなりすぎ、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合、バインダ硬化物が邪魔して意匠等が見にくくなり、意匠等の外観や美観が損なわれてしまう。
【0101】
上記バインダ硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅やその厚さの平均値は、走査型顕微鏡、レーザー顕微鏡を用いることにより、測定することができる。 具体的には、画像解析・画像計測ソフトウェアを備えた走査型顕微鏡やレーザー顕微鏡を用いることにより、又は、走査型顕微鏡、レーザー顕微鏡で得られた画像を画像解析・画像計測ソフトウェアを用いて画像解析等を行うことにより、上記したバインダ硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅やその厚さの平均値を求めることができる。
【0102】
本発明の抗微生物部材では、表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固着している基材の上記バインダ硬化物を含む表面のJIS B 0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)は、0.1〜5μmであることが望ましい。
上記算術平均粗さ(Ra)は、東京精密製の接触式表面粗さ測定機であるHANDYSURFを用い、8mmの測定長さで測定することにより得ることができる。
【0103】
本発明の抗微生物部材おいては、表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固着している基材の上記バインダ硬化物を含む表面のJIS B 0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)が、0.1〜5μmであると、バインダ硬化物を含む基材表面の表面積が適切な範囲となり、ウィルス等の微生物と抗微生物成分が接触する確率が高くなり、また、表面の凹凸の谷間に、ウィルス等の微生物がトラップされ易くなり、その結果、ウィルス等の微生物を失活させ易くなる。
【0104】
本発明の抗微生物部材では、上記バインダ硬化物が島状に散在している場合、上記島状のバインダ硬化物は、基材の表面1平方メートル当たり0.05×108〜30×108個存在することが望ましい。
【0105】
本発明の抗微生物部材おいて、上記バインダ硬化物が島状に散在している場合、上記島状のバインダ硬化物が、基材の表面1平方メートル当たり0.05×108〜30×108個存在すると、バインダ硬化物の大きさが適切に設定されていることとなり、基材表面に形成された意匠等の外観や美観が損なわれてしまうのを防止することができ、単位担持量当たり抗微生物活性の高い抗微生物部材となる。」

j)「【0106】
本発明の抗微生物部材によれば、例えば、ヒトの手が接触する頻度の高いノブ、スライドキー、持ち手、取っ手、手すり等に、表面に形成されたパターン、色彩、意匠、色調等を変えることなく、抗微生物機能を付加することができる。また、建築内部の、・・・抗微生物機能を付加することができる。」

k)「【0107】
次に、上記した抗微生物部材の製造方法について説明する。
上記抗微生物部材を製造する際には、まず、基材の表面に、抗微生物成分と未硬化のバインダと分散媒と重合開始剤とを含む抗微生物組成物を散布する散布工程を行い、続いて必要に応じて、上記散布工程により基材表面に散布された上記抗微生物組成物を乾燥させて上記分散媒を除去する乾燥工程を行い、最後に上記乾燥工程で分散媒を除去した上記混合抗微生物組成物中の上記未硬化のバインダを硬化させる硬化工程を行い、基材の表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が基材表面に固着し、バインダ硬化物が基材表面の一部が露出するように被覆している抗微生物部材を得ることができる。バインダの硬化は、乾燥と同時でもよい。上記抗微生物成分としては、二価の銅化合物であることが望ましい。重合開始剤によって銅(II)を銅(I)に還元して、銅(II)と銅(I)を共存させることができるからである。
【0108】
(1)散布工程
本発明の抗微生物部材を製造する際には、まず、散布工程として、基材の表面に、抗微生物成分と未硬化のバインダと分散媒と重合開始剤とを含む抗微生物組成物を散布する。
【0109】
散布の対象となる基材の材料は、特に限定されるものでなく、例えば、金属、ガラス等のセラミック、樹脂、繊維織物、木材等が挙げられる。
・・・
【0111】
上記バインダは、有機バインダ、無機バインダおよび有機・無機ハイブリッドバインダから選ばれる少なくとも1種以上からなり、上記有機バインダは、熱硬化性樹脂、電磁波硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0112】
上記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることが望ましい。上記電磁波硬化型樹脂は、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び、アルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
・・・
【0126】
(2)乾燥工程
上記散布工程により基材の表面に散布された抗微生物成分と未硬化のバインダと分散媒と重合開始剤とを含む抗微生物組成物を乾燥させ、分散媒を蒸発、除去し、抗微生物成分を含むバインダ硬化物を基材表面に仮固定させるとともに、バインダ硬化物の収縮により、抗微生物成分をバインダ硬化物の表面から露出させることができる。
・・・
【0127】
(3)硬化工程
上記の抗微生物部材を製造する際には、硬化工程として、上記乾燥工程で分散媒を除去した抗微生物組成物中の上記未硬化の電磁波硬化型樹脂であるモノマーやオリゴマーに電磁波を照射して上記未硬化のバインダを硬化させ、バインダ硬化物とする。
・・・
【0129】
上記抗微生物部材の表面の光沢度は、抗微生物組成物中の抗微生物成分の濃度、添加する粒子の平均粒子径、分散媒の濃度等や塗液の噴出速度、散布にかかる時間等を操作することにより、調整することができる。スプレーガンを用いて噴射する場合は、スプレーガンのエアー圧力やスプレー塗布幅、スプレーガンの移動速度、塗液の噴出速度、塗布距離を変化させることにより、抗微生物部材の表面の光沢度を調整できる。また、基材自体の表面の光沢度を調整して、抗微生物部材の表面の光沢度を調整してもよい。
【0130】
上記バインダ硬化物の基材表面への被覆率は、抗微生物組成物中の抗微生物成分の濃度、分散媒の濃度等や散布の圧力、塗液の噴出速度、散布時間等を操作することにより、調整することができる。
スプレーガンを用いて噴射する場合は、スプレーガンのエアー圧力やスプレー塗布幅、スプレーガンの移動速度、塗液の噴出速度、塗布距離を変化させることにより、バインダ硬化物の被覆率を調整できる。
【0131】
本発明の抗微生物部材は、拭き取り処理される態様で使用されることが望ましく、トイレの壁面、ドアのノブ、スライドキー、つり革、いすの肘掛、幼稚園や学校の教室の壁面、机の木口面等で好適に用いることができる。」

l)「【実施例】
【0132】
(実施例1)
(1)酢酸銅の濃度が1.75wt%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フィルム和光純薬社製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して酢酸銅水溶液を調製した。紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製 UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)とを重量比97:2:1で混合し、ホモジナイザーを用い、8000rpmで30分間撹拌して調製した。上記1.75wt%酢酸銅水溶液と上記紫外線硬化樹脂液を重量比1.9:1.0で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗微生物組成物を調製した。
なお、IGM社製のOmnirad500は、BASF社のIRGACURE500と同じもので、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(アルキルフェノン)とベンゾフェノンとを重量比1:1で含む混合物である。この光重合開始剤は、水に不溶であり、紫外線により還元力を発現する。また、光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)は、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(アルキルフェノン)であり、光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンとを重量比で2:1の割合で含む混合物である。
【0133】
(2)ついで、300mm×300mmの大きさの黒色光沢メラミン基板上に、1.2g/分の噴出速度で分散媒を含んだ状態で45.0g/m2に相当する抗微生物組成物をスプレーガン(アネスト岩田製 LPH−50)を用い、0.1MPaのエアー圧力、30cm/secのストローク速度で霧状に散布し、抗微生物組成物の液滴を黒色光沢メラミン基板表面に付着させた。
【0134】
(3)この後、黒色光沢メラミン基板を80℃で3分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cm2の照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、基材であるメラミン基板表面にその表面の一部が露出するように銅化合物を含むバインダ硬化物が固着形成された抗微生物部材を得た。
(実施例2)
実施例1の抗微生物組成物を黒色光沢メラミン基板に刷毛で膜状に塗布した後、この黒色光沢メラミン基板を80℃で3分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cm2の照射強度で80秒間紫外線を照射して、紫外線硬化樹脂を硬化させ、実施例2に係る抗微生物部材を得た。
【0135】
(実施例3)
分散媒を含んだ状態で30.0g/m2に相当する抗微生物組成物をスプレーガンを用いて黒色光沢メラミン基板表面に付着させた以外は実施例1と同様にして実施例3に係る抗微生物部材を得た。
(実施例4)
分散媒を含んだ状態で20.0g/m2に相当する抗微生物組成物をスプレーガンを用いて黒色光沢メラミン基板表面に付着させた以外は実施例1と同様にして実施例4に係る抗微生物部材を得た。
(実施例5)
(1)光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)とを重量比97:2:1で混合し、ホモジナイザーを用いて、8000rpmで10分間撹拌して紫外線硬化樹脂液を調製した。なお、IGM社製 Omnirad500は、BASF社のIRGACURE500と同じもので、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(アルキルフェノン)とベンゾフェノンの1:1の混合物である。この光重合開始剤は、水に不溶性であり、紫外線を吸収することで還元力を発現する。また、光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)は、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(アルキルフェノン)であり、光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンとを重量比で2:1の割合で含む混合物である。
(2)水とビス型第四級アンモニウム塩(1,1′−ジデシル−3,3′−[ブタン−1,4−ジイルビス(オキシメチレン)]ジピリジニウム=ジブロミド)と上記紫外線硬化樹脂液を重量比19:0.51:10で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗微生物組成物を調製した。
(3)ついで、500mm×500mmの大きさの黒色光沢メラミン板上に、7.5g/分の噴出速度で分散媒を含んだ状態で18.0g/m2に相当する抗微生物組成物をスプレーガン(明治機械製作所製 FINERSPOT G12)を用い、0.1MPaのエアー圧力、30cm/秒のストローク速度で霧状に散布し、抗微生物組成物の液滴を黒色光沢メラミン板表面に島状に散在させた。
(4)この後、黒色光沢メラミン板を80℃で3分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cm2の照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、基材である黒色光沢メラミン基板表面にビス型第四級アンモニウム塩を含むバインダ硬化物が固着した抗微生物部材を得た。
【0136】
(実施例6)
(1)光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)とを重量比97:2:1で混合し、ホモジナイザーを用いて、8000rpmで10分間撹拌して紫外線硬化樹脂液を調製した。なお、IGM社製 Omnirad500は、BASF社のIRGACURE500と同じもので、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(アルキルフェノン)とベンゾフェノンの1:1の混合物である。この光重合開始剤は、水に不溶性であり、紫外線を吸収することで還元力を発現する。また、光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)は、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(アルキルフェノン)であり、光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンとを重量比で2:1の割合で含む混合物である。
(2)水とビス型第四級アンモニウム塩(1,1′−ジデシル−3,3′−[ブタン−1,4−ジイルビス(オキシメチレン)]ジピリジニウム=ジブロミド)と上記紫外線硬化樹脂液を重量比19:0.51:10で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗微生物組成物を調製した。
(3)ついで、500mm×500mmの大きさの黒色光沢メラミン板上に、抗微生物組成物をバーコータにて黒色光沢メラミン板表面に膜状に塗布した。
(4)この後、黒色光沢メラミン板を80℃で3分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cm2の照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、基材である黒色光沢メラミン基板表面にビス型第四級アンモニウム塩を含むバインダ硬化物が固着した抗微生物部材を得た。次に、♯100のアルミナ粒子を用いてショットブラスト処理を行い、光沢度を10%に調整した。
【0137】
(試験例1)
分散媒を含んだ状態で15.0g/m2に相当する抗微生物組成物をスプレーガンを用いて黒色光沢メラミン基板表面に付着させた以外は実施例1と同様にして試験例1に係る抗微生物部材を得た。
【0138】
(試験例2)
(1)塩化銅(I)の濃度が0.34wt%になるように、塩化銅(I)粉末(富士フイルム和光純薬社製)を純水に懸濁させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して塩化銅懸濁液を調製した。上記0.34wt%塩化銅(I)懸濁液とポリビニルアルコールとを重量比1.9:1.0で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗微生物組成物を調製した。
(2)ついで、300mm×300mmの大きさの黒色光沢メラミン化粧板を用意し、霧吹きを用いて上記抗微生物組成物をこの黒色光沢メラミン化粧板表面に、当該抗微生物組成物の硬化物が固着した黒色光沢メラミン化粧板表面の光沢度が35%になるよう吹き付けた。
(3)この後、抗微生物組成物が付着したガラス板を室温で24時間乾燥させ、基材であるガラス板表面にその表面の一部が露出するように塩化銅(I)を含むバインダ硬化物が固着形成された抗微生物部材を得た。
【0139】
(試験例3)
(1)オレイン酸カリウム50.0gを水2000gに加熱溶解し、これに17.7%硝酸銅水溶液82.5gを添加し、オレイン酸銅の懸濁液を得た。この懸濁液を吸引ろ過により懸濁粒子を分取し、これを水で洗浄した後、真空乾燥を行うことにより、オレイン酸銅45.7gを得た。攪拌機を備えた1L容の4ツ口フラスコに、有機溶媒としてメチルイソブチルケトン500gを入れ、これにメタクリル酸メチル42.5gとジエチレングリコールジメタクリレート4.5gを添加溶解させ、次に、この溶液に上記のオレイン酸銅10.8gを添加して懸濁液とし、更に重合触媒として熱重合開始剤である過酸化ベンゾイル0.5gを添加して、抗微生物組成物とした。
(2)次いで、300mm×300mmの大きさの黒色光沢メラミン化粧板ガラス板を用意し、上記抗微生物組成物を黒色光沢メラミン基板上に霧吹きを用いて、当該抗微生物組成物の硬化物が固着した黒色光沢メラミン化粧板表面の光沢度が35%になるよう吹き付けた。
(3)この後、抗微生物組成物が付着した黒色光沢メラミン化粧板を、窒素置換により脱気を行いながら60℃に加熱し、10時間の加熱重合反応を行い、塩化銅(II)を含むバインダ硬化物が固着形成された抗微生物部材を得た。
【0140】
(試験例4)
♯100のアルミナを用いたショットブラスト処理に代えて、平均粒子径2μmのダイヤモンドスラリーを用いた研磨粗化処理を行い、表面の光沢度を47%に調整した以外は実施例6と同様にして試験例4に係る抗微生物部材を得た。
【0141】
(比較例1)
黒色光沢メラミン基板上に、抗微生物組成物を付着させなかった。
【0142】
(Cu(I)/Cu(II)の測定試験)
・・・
【0143】
(光沢度測定)
光沢度は、JIS Z 8741(1997)に準じて測定した。測定機器は、コニカミノルタ製 CM−25cGを用いて行った。測定光の入射角度は60°で測定した。光沢度の表記は(%)とする。
【0144】
(抗微生物部材の表面の拭き取り処理)
実施例1、2、3、4、5、6及び、試験例1、2、3、4で得られた抗微生物部材、並びに、比較例1で用いた黒色光沢メラミン基板に対し、水道水を染み込ませたマイクロファイバークロスを用いて、150Paの圧力で11000回の拭き取り処理を実施した。以下の抗ウィルス評価、抗菌評価、抗カビ評価は、この拭き取り処理後の抗微生物部材に対して行った。
【0145】
(ファージウィルスを用いた抗ウィルス評価)
この抗ウィルス試験は以下のように実施した。
実施例、及び、試験例で得られた抗微生物部材、並びに、比較例で用いた黒色光沢メラミン基板における拭き取り処理後の抗ウィルス性を評価するために、JIS Z 2801 抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果を改変した手法を用いた。
改変点は、「試験菌液の接種」を「試験ウィルスの接種」に変更した点である。ウィルスを使用することによる変更点についてはすべてJIS L 1922繊維製品の抗ウィルス性試験方法に基づき変更した。
測定結果は実施例1、2で得られた抗微生物部材についてJIS L 1922付属書Bに基づき、大腸菌への感染能力を失ったファージウィルス濃度をウィルス不活度として表示する。
ここで、ウィルス濃度の指標として、大腸菌に対して不活性化されたウィルスの濃度(ウィルス不活度)を使用し、このウィルス不活度に基づいて抗ウィルス活性値を算出した。
【0146】
以下、手順を具体的に記載する。
(1)実施例、及び、試験例で得られた抗微生物部材、並びに、比較例で用いた黒色光沢メラミン基板について、当該抗微生物部材、及び、当該黒色光沢メラミン基板を1辺50mm角の正方形に切り出して試験試料とした。この試験試料を滅菌済プラスチックシャーレに置き、試験ウィルス液(>107PFU/mL)を0.4mL接種する。試験ウィルス液は108PFU/mLのストックを精製水で10倍希釈したものを使用した。
(2)対照試料として50mm角のポリエチレンフイルムを用意し、試験試料と同様にウィルス液を接種した。
(3)接種したウィルスの液の上から40mm角のポリエチレンを被せ、試験ウィルス液を均等に接種させた後、25℃で所定時間反応させた。
(4)接種直後または反応後、SCDLP培地10mLを加え、ウィルス液を洗い流した。
(5)JIS L 1922付属書Bによってウィルスの感染値を求めた。
(6)以下の計算式を用いて抗ウィルス活性値を算出した。
Mv=Log(Vb/Vc)
Mv:抗ウィルス活性値
Log(Vb):ポリエチレンフイルムの所定時間反応後の感染値の対数値
Log(Vc):試験試料の所定時間反応後の感染値の対数値
参考規格 JIS L 1922、JIS Z 2801
測定方法は、プラーク測定法によった。
得られた抗ウィルス活性値を表1に示す。
・・・
【0149】
【表1】

【0150】
上記実施例、比較例、及び試験例の評価結果から、光沢度が45%未満の抗微生物部材については、拭き取り処理を行った後でも、抗ウィルス活性値、抗菌活性値、抗カビ活性値ともに、実用な範囲を維持できている。すなわち、拭き取り処理後であっても、抗ウィルス活性、抗菌活性及び抗カビ活性のいずれについても優れた効果が確認された。
すなわち、本発明では、特に光沢度を10%以上、45%未満に調整することで、耐久性、抗ウィルス性能、抗菌性能、抗カビ性能に優れた抗微生物部材が得られる。また、スプレーで塗布するだけで、簡単に抗ウィルス性活性を含む抗微生物活性を付与できるので、特別な合成設備を必要とせず、低コストで現場施工を実現できる。」

m)「【符号の説明】
【0151】
10、20 抗微生物部材
11、21 基材
12 膜形成領域
13 膜非形成領域
22 バインダ硬化物

【図1】

【図2】



ウ 判断
(ア)課題
本件明細書、図面及び特許請求の範囲のすべての記載事項(特に【0007】の記載)及び出願時の技術常識からみて、本件発明1〜4の解決しようとする課題は、「高額な合成設備を必要とせず、簡便に施工済の据え付け品等に対しても現場施工により、信頼性の高い抗ウィルス性等の抗微生物性能を持続的に発揮する抗微生物部材を提供すること」であると認める。

(イ)判断
本件明細書には、上記課題について、「抗菌性、抗ウィルス性、抗カビ性などの抗微生物性能を示す表面部分の光沢度が抗微生物特性に寄与していることを新たに知見し、本発明を完成させた。」こと、「本発明の抗微生物部材は、基材表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固着形成されてなり、上記バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満であることを特徴とする。」ことが記載されており(【0008】)、これらの記載から上記課題は、抗微生物部材の基材表面の所定の光沢度を特定したことにより解決したことが理解できる。
また、光沢度と抗ウィルス活性の関係について、「本発明の抗微生物部材は、表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が基材の表面に固着されてなり、上記バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満となるように、上記バインダ硬化物を含む基材表面に凹凸が形成すされているため、抗微生物活性を有するバインダ硬化物の表面積が大きくなり、流動するウィルス、菌、カビなどの微生物と上記バインダ硬化物との接触確率が高まり、ウィルス、細菌、カビなどの微生物を失活させることができるのである。」(【0011】)、「上記バインダ硬化物を含む基材表面の光沢度が45%未満であると、抗微生物成分を含むバインダ硬化物の基材表面への付着量が増加し、凹凸が滑らかな性状となるため、バインダ硬化物表面の滑り性が高くなり、拭き取り清掃時に抗微生物成分を含むバインダ硬化物表面に応力がかかっても、バインダ硬化物が摩耗で欠損することがなく、上記バインダ硬化物の有する抗微生物活性が低下することがない。」及び「微生物活性を有するバインダ硬化物が凹凸形状で形成されているため、ウィルス等の微生物が凹凸形状の凹部にトラップされやすく、ウィルス等の微生物を確実に失活させられる。上記光沢度は、特に10%以上、45%未満が好ましい。拭き取り清掃などの摩耗の力が働いた場合でも、抗ウィルス性能などの抗微生物性能を維持できるだけの耐久性を発揮できるからである。」(【0012】)との記載があり、同様の記載が【0046】にあることから、本件明細書において、光沢度と抗ウィルス活性の関係について技術的な説明がされているといえる。
さらに、基材表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固着形成されることについての記載(【0013】〜【0016】)、抗微生物成分についての記載(【0017】〜【0021】)、バインダ硬化物についての記載(【0024】〜【0034】、【0038】〜【0041】)、無機系抗微生物剤としての銅化合物についての記載(【0035】〜【0037】)があり、基材の材料、基材となる部材に関する記載を含めた同様の記載があり(【0045】〜【0046】、【0050】〜【0063】、【0088】〜【0105】、【0106】、【0109】、【0111】〜【0112】)、これらの記載は本件発明の特定事項に関する技術的な説明にあたる。
加えて、【0107】〜【0130】には、抗微生物部材の製造方法についての記載がある。
そして、実施例1〜4、試験例2〜3として、本件発明の抗ウィルス部材に相当するものの記載があり、その製造方法として、スプレーガンによる散布、刷毛による塗布又は霧吹きによる吹き付けの後乾燥、紫外線照射による硬化等をすること、それらの抗ウィルス評価の結果についての記載があり、それらの結果を踏まえて、「上記実施例、比較例、及び試験例の評価結果から、光沢度が45%未満の抗微生物部材については、拭き取り処理を行った後でも、抗ウィルス活性値、抗菌活性値、抗カビ活性値ともに、実用な範囲を維持できている。すなわち、拭き取り処理後であっても、抗ウィルス活性、抗菌活性及び抗カビ活性のいずれについても優れた効果が確認された。・・・また、スプレーで塗布するだけで、簡単に抗ウィルス性活性を含む抗微生物活性を付与できるので、特別な合成設備を必要とせず、低コストで現場施工を実現できる。」との記載がある(【0150】)。
さらに、図面として、本件発明の抗微生物部材の実施形態の図の記載がある(図1〜2)。
したがって、本件明細書及び図面には、本件発明の抗ウィルス部材の具体例、具体的な製造方法が記載されているといえ、また、本件明細書及び図面の記載から、本件発明に該当する抗ウィルス部材が、高額な合成設備を必要とせず、簡便に施工済の据え付け品等に対しても現場施工により、信頼性の高い抗ウィルス性等の抗微生物性能を持続的に発揮することが具体的に確認できるといえる。
してみると、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(ウ)申立理由B2について
申立理由B2は、概要、酢酸銅以外の銅化合物を用いた場合にも酢酸銅を用いた場合と同様に本件発明の課題が解決できるかは自明ではないことを理由とするものである。
そこで検討するに、本件明細書には、具体的な化合物を例示して、使用することができる各種銅化合物が記載されており(【0019】、【0035】〜【0037】、【0060】〜【0063】)、本件明細書の実施例1〜4には、酢酸銅、試験例3、4には、塩化銅、オレイン酸銅を、それぞれ用いたものについての記載があり、【0150】等の記載から、それらについて、高額な合成設備を必要とせず、簡便に施工済の据え付け品等に対しても現場施工により、信頼性の高い抗ウィルス性等の抗微生物性能を持続的に発揮することが具体的に確認できるといえる。
そして、本件明細書の記載からみて、銅、銅イオン自体が抗ウィルス活性を有すると認識できるといえるところ、実施例、試験例に記載されたもの以外の銅化合物についても、銅を含む以上、その効果上多少の差があったとしても、酢酸銅等と同様の抗ウィルス活性を有すると認められ、合成設備、施工等の点においても酢酸銅等と同様の効果を奏するといえ、結果として一定程度課題解決ができるといえる。
したがって、上記理由があるものとすることはできない。

(エ)申立理由C1について
特許異議申立人Cは、申立理由C1の理由として、本件明細書において効果が具体的に示されているのは、実施例1〜4に記載された特定のもののみであることを指摘し、「有機バインダ硬化物を含む基材表面」の光沢度が高いか低いかは、基材の材質や表面状態、固着形成された有機バインダ硬化物の材質及び付着量など、様々な要因に依存することを指摘し、その証拠として実験成績証明書I及びIIを提示し、また、光沢度が10%未満である抗ウィルス部材については、拭き取り処理後も高い抗ウィルス活性を有するという効果が得られる点について明らかにされていないことを指摘する。
そして、上記実験成績証明書Iについては、その結果から、たとえ有機バインダ硬化物が同組成且つ同量であっても、「有機バインダ硬化物を含む基材表面」の光沢度は、基材の材質によって大きく異なるという事実が明らかに証明されること、「有機バインダ硬化物を含む基材表面」の光沢度が45%未満である試料と45%以上である試料はいずれも拭き取り処理前後において同等の抗ウィルス活性を有すること、上記実験成績証明書IIについては、その結果から、有機バインダ硬化物が本件発明1の実施例1のそれに相当する場合についても、「有機バインダ硬化物を含む基材表面」の光沢度は、基材の材質によって大きく異なるという事実が明らかに証明されること、実験成績証明書I及びIIから、本件明細書の実施例に記載された結果を基に、それと同様の効果が得られると認められる範囲を、材質などは問わず全ての基材について「有機バインダ硬化物を含む基材表面」の光沢度が45%未満である範囲にまで拡張又は一般化することはできないことを、それぞれ指摘する。
そこで検討する。
本件明細書には、基材の材料について、特に限定されるものでなく、例えば、金属、ガラス等のセラミックであることについての記載(【0051】〜【0056】、【0109】)、有機バインダ硬化物の表面の被覆の程度についての記載(【0013】〜【0016】、【0045】〜【0046】、【0050】)、バインダ硬化物は、有機バインダ、無機バインダ及び有機・無機ハイブリッドバインダから選ばれる少なくとも1種以上のバインダ硬化物を含むことが望ましく、有機バインダは、熱硬化性樹脂及び電磁波硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましいこと、熱硬化性樹脂及び電磁波硬化型樹脂の具体例についての記載(【0024】〜【0027】、【0088】〜【0092】、【0111】〜【0112】)、バインダ硬化物の上記基材の表面に平行な方向の最大幅、バインダ硬化物の厚さについての記載(【0030】〜【0034】、【0096】〜【0101】)、抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固着形成されている基材表面のバインダ硬化物を含む表面のJIS B 0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)、島状のバインダ硬化物の個数についての記載(【0038】〜【0041】、【0102】〜【0105】)がある。
これらの記載から、本件発明は、基材、バインダの種類、バインダ硬化物の被覆の程度、基材表面のバインダ硬化物を含む表面の粗さについて、様々な態様を包含するといえる。
一方、実験成績証明書I及びIIの記載から、たとえ有機バインダ硬化物が固着した基材について、その製造方法が同様であっても、基材の種類に応じてその光沢度は様々であるといえ、さらに、基材の表面状態、固着形成された有機バインダ硬化物の材質及び付着量等が光沢度に影響することは十分に考えられる。
しかし、本件明細書には、「バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度(決定注:以下単に「光沢度」という。)が、45%未満となるように、上記バインダ硬化物を含む基材表面に凹凸が形成すされているため、抗微生物活性を有するバインダ硬化物の表面積が大きくなり、流動するウィルス、菌、カビなどの微生物と上記バインダ硬化物との接触確率が高まり、ウィルス、細菌、カビなどの微生物を失活させることができる」(【0011】)、「また、上記バインダ硬化物を含む基材表面の光沢度が45%未満であると、抗微生物成分を含むバインダ硬化物の基材表面への付着量が増加し、凹凸が滑らかな性状となるため、バインダ硬化物表面の滑り性が高くなり、拭き取り清掃時に抗微生物成分を含むバインダ硬化物表面に応力がかかっても、バインダ硬化物が摩耗で欠損することがなく、上記バインダ硬化物の有する抗微生物活性が低下することがない。・・・上記光沢度は、特に10%以上、45%未満が好ましい。拭き取り清掃などの摩耗の力が働いた場合でも、抗ウィルス性能などの抗微生物性能を維持できるだけの耐久性を発揮できるからである。」(【0012】)、「・・・バインダ硬化物を含む基材その表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満となるように、凹凸が形成されている。このため、抗微生物成分を含むバインダ硬化物の総表面積が大きくなることから、ウィルス等の微生物との接触確率が高くなり、またウィルス等の微生物をバインダ硬化物間にトラップできるため、高い抗微生物活性が得られるのである。また、抗微生物成分がバインダ硬化物中に含まれているため、基材との密着性にも優れ、拭き取り清掃による脱落も防止できる。」(【0046】)との記載があり、これらの記載から、光沢度を45%未満とすることと、抗ウィルス活性、拭き取り清掃による脱落の防止等との技術的関係が理解でき、この点については、本件明細書に記載された実施例1〜4において、拭き取り処理後において、光沢度が45%未満である10〜35%の場合に一定値以上の抗ウィルス活性値となることが具体的に確認することができる。
そして、基材の材質(種類)や表面状態、固着形成された有機バインダ硬化物の材質及び付着量等の要因が光沢度に影響を与えるとしても、それらは、そもそも本件発明1の発明特定事項とはされていないものであって、それらが特定されていないからといって、直ちにサポート要件を満たさない理由にはならず、また、材質等が変わって光沢度が45%未満の場合に課題が解決できないといえる実験結果が示されているわけでもない。
また、本件明細書には、「上記光沢度は、特に10%以上、45%未満が好ましい。拭き取り清掃などの摩耗の力が働いた場合でも、抗ウィルス性能などの抗微生物性能を維持できるだけの耐久性を発揮できるからである。」(【0012】)との、10%以上の光沢度が特に好ましい旨の記載があり、実施例では、光沢度は最低でも10%であり、10%未満であるものの記載はないが、上記【0012】の記載は、特に好ましい光沢度の範囲が記載されているに過ぎず、程度の差があることは予測できるものの、光沢度が10%の場合と大きく相違しないことから、光沢度が10%未満であっても、抗ウィルス性、耐久性を有するものであると理解できる。
したがって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2〜4は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるといえる。
よって、上記理由があるものとすることはできない。

エ まとめ
以上のとおりであるから、申立理由B2、C1は理由がない。

(5)申立理由C2について
ア 判断の前提
物の発明における発明の実施とは、その物を生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明については、明細書にその物を製造する方法及び使用することについての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造し、使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。

イ 本件明細書の記載
上記(4)イで示したとおりである。

ウ 判断
上記(4)ウ(イ)で述べたとおり、本件明細書及び図面には、光沢度と抗ウィルス活性の関係、基材表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固着形成されることについての記載、抗微生物成分についての記載、バインダ硬化物についての記載、無機系抗微生物剤としての銅化合物についての記載、基材の材料、基材となる部材に関する記載、抗微生物部材の製造方法についての記載、本件発明の抗ウィルス部材に相当する実施例の記載、本件発明の抗微生物部材の実施形態等の図の記載があり、また、本発明の抗微生物部材は、トイレの壁面、ドアのノブ等に使用できることが記載されている(【0131】)から、これらの記載に基づけば、明細書にその物を製造する方法及び使用することについての具体的な記載があり、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造し、使用することができるといえる。
したがって、発明の詳細な説明は、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。

エ 申立理由C2について
上記(4)ウ(エ)で述べたとおり、基材の表面状態、固着形成された有機バインダ硬化物の材質及び付着量等が光沢度に影響することが考えられる。
しかし、本件明細書には、「上記抗微生物部材の表面の光沢度は、抗微生物組成物中の抗微生物成分の濃度、添加する粒子の平均粒子径、分散媒の濃度等や塗液の噴出速度、散布にかかる時間等を操作することにより、調整することができる。スプレーガンを用いて噴射する場合は、スプレーガンのエアー圧力やスプレー塗布幅、スプレーガンの移動速度、塗液の噴出速度、塗布距離を変化させることにより、抗微生物部材の表面の光沢度を調整できる。また、基材自体の表面の光沢度を調整して、抗微生物部材の表面の光沢度を調整してもよい。」(【0129】)との記載があり、この記載から、光沢度は抗微生物組成物中の抗微生物成分の濃度、添加する粒子の平均粒子径の操作等の各種方法により調整できることを理解することができ、実施例、試験例の記載から、具体的には、アルミナ粒子を用いたショットブラスト処理、霧吹きによる吹き付け、ダイヤモンドスラリーを用いた研磨粗化処理によっても調整できることが理解できる。
してみると、たとえ基材の表面状態、固着形成された有機バインダ硬化物の材質及び付着量等が光沢度に影響したとしても、当業者は、本件明細書の記載に基づいて光沢度を45%未満とすることができるといえる。

オ まとめ
以上のとおりであるから、申立理由C2は理由がない。

(6)申立理由C3について
本件発明1と甲C1発明とを対比する。
甲C1発明の「化粧板(白色塗装板)」は本件発明1の「基材」に相当する。
甲C1発明の「抗ウイルス剤(銀イオン系担持ガラスタイプ 平均粒径3ミクロン)」は、抗ウィルス成分としての金属含有物である限りにおいて、本件発明1の「抗ウィルス成分として」の「銅化合物」に相当する。
甲C1発明の「二液タイプの白色系アクリルウレタン系クリア塗料(DIC製UCクリヤーDFクリーン01(酸化チタン非含有))」は、化粧板の上に塗工してクリア層を形成するものであるから、本件発明1の「有機バインダ」に相当する。
甲C1発明は、化粧板(白色塗装板)の上に抗ウイルス剤を含有するクリア層用塗料をナチュラルロールコーターで塗工して得たクリア層付きの白色化粧板であるといえるところ、クリア層塗料は、塗布、乾燥することによって硬化物となって基材に固着していることは明らかであるから、上で述べたことも考慮すると、当該化粧板は、基材表面に金属含有物を含む有機バインダ硬化物が固着形成されてなる抗ウイルス部材であるといえる。
そして、甲C1発明は、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒を含まない。
したがって、本件発明1と甲C1発明とは、
「基材表面に抗ウィルス成分として金属含有物を含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒を含まない、有機バインダ硬化物が固着形成されてなる抗ウィルス部材。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−甲C1−1>
抗ウィルス成分としての金属含有物について、本件発明1は「銅化合物」であるのに対し、抗C1発明は「銀イオン系担持ガラスタイプ 平均粒径3ミクロン」である点。

<相違点1−甲C1−2>
本件発明1は「前記有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満である」と特定しているのに対し、甲C1発明は「グロスメーター(堀場製作所製IG−330)により測定した60°光沢度が15である」としている点。

上記相違点について検討する。
<相違点1−甲C1−1>について
C1明細書等には、クリア層に含有する抗ウイルス剤として、無機系の抗ウイルス剤、有機系の抗ウイルス剤のいずれを使用してもよいが、取り扱いが容易で不燃性を確保しやすいことから、無機系の抗ウイルス剤を使用することが好ましいこと、無機系抗ウイルス剤としては、金属イオン担持体や金属酸化物等を好ましく使用でき、金属イオン担持体の金属イオンとしては、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン等を使用できることが記載されている(摘示C1c)。
しかし、C1明細書等には、抗ウィルス剤として「銅化合物」は記載されていない。仮に銅イオンを金属イオンとする金属イオン担持体が銅化合物に相当するとしても、当該担持体はC1明細書等において抗ウイルス剤として記載された多数の物質のうちの例示の1つとして記載されているに過ぎないから、甲C1発明において、抗ウイルス剤が当該担持体に置き換えられた化粧板が記載されているということもできない。
さらに、特定の実施例に基づく甲C1発明に係る化粧板に用いられている抗ウイルス剤である、「銀イオン系担持ガラスタイプ 平均粒径3ミクロン」を、「銅イオンを金属イオンとする金属イオン担持体」や「銅化合物」とすることが、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるともいえない。

してみると、相違点1−甲C1−2について検討するまでもなく、本件発明1はC1明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

以上のとおりであるから、申立理由C3は理由がない。

(7)申立理由C4について
申立理由C4は、本件発明1、2、4について、(申立理由C4−1)甲C2を主引用例とし、甲C3及びC4を副引用例とする理由、(申立理由C4−2)甲C5(刊行物1、甲B1と同じ。)を主引用例とし、甲C3及びC4を副引用例とする理由、(申立理由C4−3)甲C6(甲A1と同じ。)を主引用例とし、甲C5(刊行物1、甲B1と同じ。)を副引用例とする理由であり、本件発明3について、さらに甲C7〜10に記載された技術的事項を適用する理由である。

ア 申立理由C4−1について
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲C2発明とを対比する。
甲C2発明の「基材」は本件発明1の「基材」に相当する。
甲C2発明の「平均粒子径100nmのCuO−TiO2の光触媒」について、甲C2には、「細菌やウィルスが凹陥模様の溝内に捕捉されるため、光触媒などの機能性物質と充分に反応する機会と時間が得られ、細菌やウィルスを失活させることができる。」(【0010】)との記載があるから、本件発明1の「抗ウィルス成分として」の「銅化合物」に相当する。
甲C2発明は、概要、基材のシリコーン樹脂シートの表面に、CuO−TiO2の光触媒を水に分散したスラリーと、シリカゾルとを含むメタノール混合溶液をスプレーを用いて塗布し、乾燥させることにより製造されるシリコーン樹脂シート上に光触媒が担持された化粧板であるところ、シリカゾルを含むメタノール混合溶液は、塗布、乾燥することによってバインダ硬化物となって基材に固着していることは明らかであるから、上で述べたことも考慮すると、当該化粧板は、基材表面に抗ウィルス成分として銅化合物を含むバインダ硬化物が固着形成されてなる抗ウイルス部材であるといえる。
そして、甲C2発明は、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まない。
したがって、本件発明1と甲C1発明とは、
「基材表面に抗ウィルス成分として銅化合物を含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まない、バインダ硬化物が固着形成されてなる抗ウィルス部材。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−甲C2−1>
本件発明1は「光触媒を含まない」と特定しているのに対し、甲C2発明は「平均粒子径100nmのCuO−TiO2の光触媒」を含む点。

<相違点1−甲C2−2>
バインダ硬化物について、本件発明1は「有機」と特定しているのに対し、甲C2発明は「平均粒子径100nmのCuO−TiO2の光触媒を水に分散したスラリーと、シリカゾル(SiO2濃度:3重量%)とを、4.5:5.5の重量割合(固形分重量)で含むメタノール混合溶液(光触媒濃度0.05重量%)をスプレーを用いて塗布し、25℃で12時間乾燥させることにより」形成されるものである点。

<相違点1−甲C2−3>
本件発明1は「前記有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満である」と特定しているのに対し、甲C2発明はそのような特定のない点。

上記相違点について検討する。
<相違点1−甲C2−3>について
甲C2には、「本発明の化粧板では、機能性物質が担持されている側の樹脂シートの表面に、凹陥模様が形成されている。したがって、樹脂シートがシリコーン樹脂やフッ素樹脂のような撥水性樹脂からなる場合であっても、細菌やウィルスが凹陥模様の溝内に捕捉されるため、光触媒などの機能性物質と充分に反応する機会と時間が得られ、細菌やウィルスを失活させることができる。また、表面に凹陥模様が形成されている場合は、化粧板の表面積が大きくなるため、光触媒などの機能性物質の担持量を増やすことができ、細菌やウィルスをより効率的に失活させることができる。さらに、凹陥模様の溝内部にも光触媒などの機能性物質が担持されるため、化粧板表面を拭き取り清掃しても溝内部の機能性物質は除去されず残存するため、拭き取り清掃により、化粧板が細菌やウィルスの失活機能を喪失することがない。」との記載(【0010】)、「本発明の化粧板では、樹脂シートの表面に形成されている凹陥模様により、細菌やウィルスが捕捉されて、光触媒などの機能性物質との接触確率が高くなり、かつ接触時間も長くなるので、細菌やウィルスを失活させる機能が高い。また、化粧板の表面積が大きくなるため、光触媒などの機能性物質の担持量を増やすことができる。」との記載(【0023】)があり、これらの記載から、化粧板の機能性物質を担持する樹脂シートの表面の凹陥模様が、ウィルス失活、拭き取り清掃に対する耐性等の点で有利な効果を奏することが記載されているといえる。しかし、甲C2発明において、ウィルス失活、拭き取り清掃に対する耐性等を考慮して化粧板の機能性物質を担持している樹脂シートの凹陥模様の深さ等を調整するとしても、甲C2には、バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満であるとすることについては記載も示唆もされていないから、当該調整をバインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度に基づいて行い、さらに、光沢度の範囲を45%未満であるとすることが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
甲C3には、一価の銅化合物を、ウイルスを不活化する有効成分として含むことを特徴とする抗ウイルス性塗料に関する記載が(摘示C3a〜C3c)、甲C4には、反射光のうち、正反射方向の光で光沢、種々の方向へ広がる拡散反射光で表面色を認識すること、算術平均粗さRaが小さくなるにしたがい、光沢度は指数関数的に高くなること等の記載が(摘示C4a〜C4b)あるに過ぎず、これらの記載事項を考慮しても、甲C2発明において、「バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満である」とすることが当業者が容易になし得た事項であるということはできない。

したがって、相違点1−甲C2−1〜2及び本件発明1が奏する効果について検討するまでもなく、本件発明1は甲C2〜C4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(イ)本件発明2〜4について
本件発明2は本件発明1を、本件発明3は本件発明1を、本件発明4は本件発明1〜3を、それぞれ引用するものであって、本件発明1の発明特定事項のすべてを有するものである。
甲C7(甲A3と同じ。)には、酸化銅(I)及び酸化銅(II)を含むイオン性銅粉末混合物を該スラリー中へ分散することを含む、親水性高分子材料に抗ウイルス特性を付与する方法が(摘示A3a〜A3c)、甲C8(甲A4と同じ。)には、イオンの銅の微視的粒子が封入され、かつその表面から突出している抗菌性および抗ウィルス性ポリマー材料が(摘示A4a〜A4b)、甲C9には、酸化第二銅(CuO)硫化第二銅CuS)などの二価銅化合物に比べて酸化第一銅(Cu2O)、硫化第一銅(Cu2S)、ヨウ化第一銅(CuI)、塩化第一銅 (CuCl)などの一価銅化合物がウイルスに対してはるかに強い不活化作用を有していること等が(摘示C9a〜C9c)、甲C10には、抗ウイルス抗菌塗布剤の抗ウイルス性について、スプレー塗布直後のものと耐磨耗試験後のものについて試験をすること(摘示C10a)が記載されているが、これらの記載事項を参酌しても相違点1−甲C2−3に係る本件発明の技術的事項を当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
したがって、本件発明1と同様に、本件発明2、4は甲C2〜C4に記載された発明に基いて、本件発明3は甲C2〜C4、C7〜C10に記載された発明に基いて、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 申立理由C4−2について
(ア)本件発明1について
甲C5は刊行物1と同じ刊行物であるから、甲C5に記載された発明は、上記1(2)アで示したとおりの刊行物1発明である。
そして、本件発明1と刊行物1発明との一致点・相違点は、上記2(1)で示したとおりである。

そこで、上記相違点1−刊1について検討する。
上記2(1)で述べたとおり、刊行物1には、塗膜表面の凹凸によって銅担持酸化物の露出面積が増加し、銅担持酸化物とウイルスとの接触率が増加するため、ウイルスの不活性化を高めることが記載ないし示唆されているといえ、刊行物1の記載から、当業者は、硫酸バリウムの平均二次粒子径、量を調整することにより塗膜表面の凹凸を調節できることが理解できるといえるが、刊行物1には、硫酸バリウムの平均二次粒子径、量と有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741による鏡面光沢度に準拠した光沢度との関係は記載も示唆もされておらず、それが本件出願時の技術常識であるともいえない。また、刊行物1に記載された発明において、硫酸バリウムによって塗膜表面に凹凸を形成することによって課題を解決するにあたって、有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741による鏡面光沢度に準拠した光沢度を指標とすることの記載・示唆は刊行物1にはなく、したがって、実際に当該光沢度をどの程度とすればよいかについての記載・示唆もないといえる。さらに、刊行物1発明において、「有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満である」とすることができるかも不明である。
そして、甲C3には、一価の銅化合物を、ウイルスを不活化する有効成分として含むことを特徴とする抗ウイルス性塗料に関する記載が(摘示C3a〜C3c)、甲C4には、反射光のうち、正反射方向の光で光沢、種々の方向へ広がる拡散反射光で表面色を認識すること、算術平均粗さRaが小さくなるにしたがい、光沢度は指数関数的に高くなること等の記載が(摘示C4a〜C4b)あるに過ぎず、これらの記載事項を参酌しても、刊行物1発明において、「バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満である」とすることが当業者が容易になし得た事項であるということはできない。

したがって、本件発明1が奏する効果について検討するまでもなく、本件発明1は甲C5、C4及びC3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(イ)本件発明2〜4について
本件発明2は本件発明1を、本件発明3は本件発明1を、本件発明4は本件発明1〜3を、それぞれ引用するものであって、本件発明1の発明特定事項のすべてを有するものである。
甲C7〜C10に記載された事項は上記ア(イ)で示したとおりであり、かかる記載事項を参酌しても上記相違点1−刊1に係る本件発明の技術的事項を当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
したがって、本件発明1と同様に、本件発明2、4は甲C5、C4及びC3に記載された発明に基いて、本件発明3は甲C5、C4、C3、C7〜C10に記載された発明に基いて、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ 申立理由C4−3について
(ア)本件発明1について
甲C6は甲A1と同じ刊行物であるから、甲C6に記載された発明は、上記1(2)イで示したとおりの甲A1発明である。
そして、本件発明1と甲A1発明との一致点・相違点は、上記(1)アで示したとおりである。

そこで、上記相違点1−甲A1−1及び2について検討する。
<相違点1−甲A1−1>について
上記(2)アで述べたとおり、甲A1には、乾燥した塗料フィルムが、60℃で測定した場合に5から85光沢単位の光沢を有していることが記載されている(請求項16)ものの、当該光沢が、JIS Z 8741に準拠したものであることは記載されておらず、また、その数値範囲についても、重複する部分はあるものの異なっている。
そして、甲A1には、60℃で測定した場合に5から85光沢単位の光沢を有していることとする技術的意義について何ら記載がないから、仮に、当該光沢単位がJIS Z 8741に準拠したものであるとしても、5から85光沢単位とは異なる範囲であることを含む、甲A1発明において「有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741に準拠した光沢度が、45%未満である」とする動機付けがあるともいえない。
上記2(1)で述べたとおり、刊行物1(甲B1、甲C5と同じ。)には、塗膜表面の凹凸によって銅担持酸化物の露出面積が増加し、銅担持酸化物とウイルスとの接触率が増加するため、ウイルスの不活性化を高めることが記載ないし示唆されているといえ、刊行物1の記載から、硫酸バリウムの平均二次粒子径、量を調整することにより塗膜表面の凹凸を調節できることが理解できるといえるが、上述のとおり、刊行物1には特定の光沢単位の光沢を有していることとする技術的意義について何ら記載がなく、甲A1発明は硫酸バリウムを用いるものでもない。
また、刊行物1には、硫酸バリウムの平均二次粒子径、量と有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741による鏡面光沢度に準拠した光沢度との関係は記載も示唆もされておらず、それが本件出願時の技術常識であるともいえず、硫酸バリウムによって塗膜表面に凹凸を形成するにあたって、有機バインダ硬化物を含む基材表面のJIS Z 8741による鏡面光沢度に準拠した光沢度を指標とすることの記載・示唆はなく、したがって、実際に当該光沢度をどの程度とすればよいかについての記載・示唆もないといえる。
したがって、この点が当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

<相違点1−甲A1−2>について
甲A1には、他の殺生物剤として、金属イオン含有化合物、有機金属化合物類等を含有してもよいこと、よく知られた無機殺生物剤として、銅などの金属イオンを含むものが挙げられることが記載されているが(摘示A1c、A1b)、それらの記載は含有してよい殺生物剤の例が記載されているに過ぎない。
また、刊行物1には、銅化合物は抗ウイルス性を発揮するための成分であることが記載されており、甲C7〜C9の記載から、本件出願時において銅イオンが抗ウイルス性を発揮するものであることが周知の技術的事項であるといえたとしても、すでに抗ウイルス性を付与する成分としてBarquat MB−80の4級アンモニウム化合物を含有する甲A1発明において、さらに抗ウイルス性を付与する成分を追加する動機付けを見出すことができず、仮にかかる動機付けがあり、甲C7〜C9の記載事項を参酌したとしても、多数記載された殺生物剤(摘示A1f)から、銅化合物を選択することが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、この点も当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

よって、本件発明1が奏する効果について検討するまでもなく、本件発明1は甲C6及びC5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(イ)本件発明2〜4について
本件発明2は本件発明1を、本件発明3は本件発明1を、本件発明4は本件発明1〜3を、それぞれ引用するものであって、本件発明1の発明特定事項のすべてを有するものである。
甲C7〜C10に記載された事項は上記ア(イ)で示したとおりであり、かかる記載事項を参酌しても上記相違点1−甲A1−1及び2に係る本件発明の技術的事項を当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
したがって、本件発明1と同様に、本件発明2、4は甲C6及びC5に記載された発明に基いて、本件発明3は甲C6、C5、C7〜C10に記載された発明に基いて、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 甲5についての特許異議申立人Cの主張について
特許異議申立人Cは、甲C5の実施例2に記載された塗膜板の製造プロセスをほぼ再現したとする実験成績証明書IIIを提示して、甲C5の実施例2に記載された塗膜板は本件発明1の光沢度についての発明特定事項を満たすものである旨、実験成績証明書IIIは、本件発明1が、甲C5に記載の発明に甲3、4に記載の一般常識又は技術事項を適用することによって容易に想到することを裏付けるものである旨主張する。
しかし、実験成績証明書IIIは使用した材料、塗膜板の製造方法において甲C5の実施例2と異なる点があるため甲C5の実施例2の再現実験であるとはいえない。したがって、甲C5の実施例2に記載された塗膜板は本件発明1の光沢度についての発明特定事項を満たすものであるとはいえず、実験成績証明書IIIをみても、本件発明1が、甲C5に記載の発明に甲3、4に記載の一般常識又は技術事項を適用することによって容易に想到することができたものであるとはいえない。
よって、上記主張を採用することはできない。

オ まとめ
以上のとおりであるから、申立理由C4は理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1〜4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-05-09 
出願番号 P2018-215708
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A01N)
P 1 651・ 161- Y (A01N)
P 1 651・ 121- Y (A01N)
P 1 651・ 536- Y (A01N)
P 1 651・ 537- Y (A01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 冨永 保
伊藤 佑一
登録日 2021-02-26 
登録番号 6843814
権利者 イビデン株式会社
発明の名称 抗ウィルス部材  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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