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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  C09J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1385209
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-13 
確定日 2022-03-25 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6859092号発明「易接着層形成用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6859092号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔6−17〕について訂正することを認める。 特許第6859092号の請求項1ないし5、7ないし17に係る特許を維持する。 特許第6859092号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6859092号の請求項1〜17に係る特許についての出願は、平成28年12月21日(優先権主張 平成28年2月15日、日本)の出願であって、令和3年3月29日にその特許権の設定登録がされ、同年4月14日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年10月13日に特許異議申立人奥村一正(以下、「申立人」という、)は特許異議の申立てを行い、当審は、令和3年12月14日付けで取消理由を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は、令和4年2月10日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。この訂正請求に対し、訂正事項は請求項6を削除し、請求項6を引用する請求項を請求項6を引用しない請求項とする訂正のみであるから、合議体は、申立人に対して意見書を提出する機会を与える必要のない特別の事情に当たると判断して、申立人に意見書を提出する機会を与えなかった。

第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、次の訂正事項1〜7のとおりである。なお、訂正前の請求項7〜17は、訂正前の請求項6の記載を直接的又は間接的に引用しているから、本件訂正は、一群の請求項6〜17について請求されている。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7に、
「エポキシ化合物(B)が、脂肪族ポリオールポリグリシジルエーテルを含み、エポキシ当量170g/当量以下を充足する請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。」と記載されているのを、
「エポキシ化合物(B)が、脂肪族ポリオールポリグリシジルエーテルを含み、エポキシ当量170g/当量以下を充足する請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に、
「ポリウレタン樹脂(A)とエポキシ化合物(B)との割合が、前者/後者(重量比)=99/1〜10/90である請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。」と記載されているのを、
「ポリウレタン樹脂(A)とエポキシ化合物(B)との割合が、前者/後者(重量比)=99/1〜10/90である請求項1〜5、7のいずれかに記載の組成物。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9に、
「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材と、この基材上に請求項1、3〜8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層とを含む易接着性基材。」と記載されているのを、
「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材と、この基材上に請求項1、3−5、7、8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層とを含む易接着性基材。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10に、
「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、二軸延伸フィルムである基材と、この基材上に請求項2〜8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層とを含む易接着性基材。」と記載されているのを、
「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、二軸延伸フィルムである基材と、この基材上に請求項2〜5、7、8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層とを含む易接着性基材。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項15に、
「請求項1、3〜8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層を介して、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材と偏光子とが積層された積層ユニットを有する偏光板。」と記載されているのを、
「請求項1、3〜5、7、8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層を介して、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材と偏光子とが積層された積層ユニットを有する偏光板。」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項16に、
「請求項2〜8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層を介して、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、二軸延伸フィルムである基材と偏光子とが積層された積層ユニットを有する偏光板。」と記載されているのを、
「請求項2〜5、7、8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層を介して、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、二軸延伸フィルムである基材と偏光子とが積層された積層ユニットを有する偏光板。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)ア 訂正事項1について
訂正事項1は、請求項6を削除するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1に伴って、請求項7の引用請求項を「請求項1〜6」から「請求項1〜5」に減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1に伴って、請求項8の引用請求項を「請求項1〜7」から「請求項1〜5、7」に減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
エ 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1に伴って、請求項9の引用請求項を「請求項1、3〜8」から「請求項1、3〜5、7、8」に減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
オ 訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項1に伴って、請求項10の引用請求項を「請求項2〜8」から「請求項2〜5、7、8」に減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
カ 訂正事項6について
訂正事項6は、訂正事項1に伴って、請求項15の引用請求項を「請求項1、3〜8」から「請求項1、3〜5、7、8」に減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
キ 訂正事項7について
訂正事項7は、訂正事項1に伴って、請求項16の引用請求項を「請求項2〜8」から「請求項2〜5、7、8」に減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(2)小括
以上のとおり、訂正事項1〜7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔6〜17〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項6〜17について訂正することを認めるので、本件の請求項1〜5及び7〜17に係る発明は、令和4年2月10日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜5及び7〜17に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、請求項に係る発明を、項番号に応じて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ともいう。)である。
「【請求項1】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材上に易接着層を形成するための組成物であって、カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含む易接着層形成用組成物。
【請求項2】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、二軸延伸フィルムである基材上に易接着層を形成するための組成物であって、カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)と、シリカ微粒子とを含む易接着層形成用組成物。
【請求項3】
環構造が、無水マレイン酸構造、マレイミド構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、ラクタム環構造、及びラクトン環構造から選択された少なくとも1以上の構造を有する請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
ポリウレタン樹脂(A)が、引っ張り弾性率1000N/mm2以上5000N/mm2以下を充足しない、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
エポキシ化合物(B)が、脂肪族エポキシ化合物を含む請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
エポキシ化合物(B)が、脂肪族ポリオールポリグリシジルエーテルを含み、エポキシ当量170g/当量以下を充足する請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
ポリウレタン樹脂(A)とエポキシ化合物(B)との割合が、前者/後者(重量比)=99/1〜10/90である請求項1〜5、7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材と、この基材上に請求項1、3〜5、7、8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層とを含む易接着性基材。
【請求項10】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、二軸延伸フィルムである基材と、この基材上に請求項2〜5、7、8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層とを含む易接着性基材。
【請求項11】
基材が、二軸延伸フィルムである請求項9記載の接着性基材。
【請求項12】
基材と易接着層との厚み比が、前者/後者=1/0.1〜1/0.001である請求項9〜11のいずれかに記載の接着性基材。
【請求項13】
光学用である請求項9〜12のいずれかに記載の接着性基材。
【請求項14】
偏光子に接着させるための請求項9〜13のいずれかに記載の接着性基材。
【請求項15】
請求項1、3〜5、7、8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層を介して、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材と偏光子とが積層された積層ユニットを有する偏光板。
【請求項16】
請求項2〜5、7、8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層を介して、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、二軸延伸フィルムである基材と偏光子とが積層された積層ユニットを有する偏光板。
【請求項17】
請求項15又は16記載の偏光板を備えた画像表示装置。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要
本件訂正前の請求項6〜17に係る発明に対して、当審が令和3年12月14日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、本件発明6について、その範囲を具体的に特定することができず、また、本件発明6について、本件明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないことから、本件発明6及び本件発明6を引用する本件発明7〜17は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件発明6及び本件発明6を引用する本件発明7〜17について本件明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。

第5 取消理由通知に記載した取消理由についての当審の判断
本件訂正により、訂正前の請求項6は削除され、訂正後の請求項7〜17は請求項6を引用しないものとなったことにより、上記取消理由は解消した。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、甲第1号証(特開2009−193061号公報。以下、甲各号証は「甲1」などという。)、甲2(国際公開第2015/098750号)、甲3(特開2012−32768号公報)、甲4(特開2010−55062号公報)、甲5(特開2015−24511号公報)、甲6(特開2007−127893号公報)、甲7(特開2007−119565号公報)、甲8(特開2012−206343号公報)、甲9(特開2012−159666号公報)、甲10(特願2014−155943号(特開2016−33552号))を引用し、次の理由1〜理由5について、主張している。
1 理由1(特許法第29条2項、甲1を主引用例とする取消理由)
本件発明1及び2は、甲1及び甲2の記載から当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明3〜17は、甲1〜3の記載から当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 理由2(特許法第29条2項、甲4を主引用例とする取消理由)
本件発明1及び2は、甲4及び甲2の記載から当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明3〜17は、甲4、2及び3の記載から当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 理由3(特許法第29条2項、甲5を主引用例とする取消理由)
本件発明1〜3は、甲5の記載及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明4〜17は、甲5及び甲2の記載並びに周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 理由4(特許法第29条2項、甲8を主引用例とする取消理由)
本件発明1〜3は、甲8の記載及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明4〜17は、甲8及び甲2の記載並びに周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 理由5(特許法第29条の2、甲10を先願とする取消理由)
本件発明1〜3、5〜17は、甲10に記載された発明と実質的に同一である。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
1 理由1(特許法第29条2項、甲1を主引用例とする取消理由)
(1)甲1の記載
甲1には以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
偏光子と、接着剤層と、カルボキシル基を有するウレタン樹脂と架橋剤とを含む易接着剤組成物で形成された易接着層と、(メタ)アクリル系樹脂を含む保護フィルムとを有する、偏光板。
・・・(中略)・・・
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の偏光板を備える、画像表示装置。」
イ 「【0014】
・・・(中略)・・・
A.偏光板の全体構成
図1は、本発明の好ましい実施形態による偏光板の概略断面図である。偏光板10は、偏光子11と、接着剤層12と、易接着層13と、保護フィルム14とをこの順に有する。・・・(中略)・・・」
ウ 「【0035】
A−3.易接着層
上記易接着層13は、カルボキシル基を有するウレタン樹脂と架橋剤とを含む易接着剤組成物で形成される。易接着層をこのような易接着剤組成物で形成することにより、偏光子と保護フィルムとの密着性(特に、高温・高湿下における)に優れた偏光板を提供し得る。また、ウレタン樹脂を用いることにより、保護フィルムとの密着性に優れた易接着層が得られ得る。易接着剤組成物は、好ましくは、水系である。水系は、溶剤系に比べて環境面に優れ、作業性にも優れ得る。
・・・(中略)・・・
【0043】
上記ウレタン樹脂は、カルボキシル基を有する。カルボキシル基を有することにより、偏光子と保護フィルムの密着性(特に、高温における)に優れた偏光板を提供し得る。カルボキシル基を有するウレタン樹脂は、例えば、上記ポリオールと上記ポリイソシアネートとに加え、遊離カルボキシル基を有する鎖長剤を反応させることにより得られる。・・・(中略)・・・
【0046】
上記易接着剤組成物が水系の場合、好ましくは、上記ウレタン樹脂の製造において中和剤を用いる。中和剤を用いることにより、水中におけるウレタン樹脂の安定性が向上し得る。中和剤としては、例えば、アンモニア、N−メチルモルホリン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等が挙げられる。・・・(中略)・・・
【0049】
上記架橋剤は、カルボキシル基と反応し得る、任意の適切な架橋剤を採用し得る。好ましくは、カルボキシル基と反応し得る基を有するポリマーが挙げられる。カルボキシル基と反応し得る基としては、例えば、有機アミノ基、オキサゾリン基、エポキシ基、カルボジイミド基等が挙げられる。好ましくは、架橋剤は、オキサゾリン基を有する。・・・(中略)・・・
【0051】
上記易接着剤組成物は、任意の適切な添加剤をさらに含み得る。添加剤としては、例えば、ブロッキング防止剤、分散安定剤、揺変剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、分散剤、界面活性剤、触媒、フィラー、滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0052】
上述したように、易接着剤組成物は、好ましくは水系である。・・・(中略)・・・易接着剤組成物中の架橋剤の含有量は、ウレタン樹脂100重量部に対して、好ましくは1〜30重量部、さらに好ましくは3〜20重量部である。・・・(中略)・・・
【0053】
上記易接着層の厚みは、任意の適切な値に設定し得る。好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは0.1〜5μm、特に好ましくは0.2〜1.5μmである。・・・(中略)・・・」
エ 「【0054】
A−4.保護フィルム
上記保護フィルム14は、(メタ)アクリル系樹脂を含む。・・・(中略)・・・
【0058】
本発明においては、高い耐熱性、高い透明性、高い機械的強度を有する点で、上記(メタ)アクリル系樹脂として、グルタル酸無水物構造を有する(メタ)アクリル系樹脂、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂、グルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。
・・・(中略)・・・
【0075】
保護フィルムは、未延伸フィルムまたは延伸フィルムのいずれでもよい。延伸フィルムである場合は、1軸延伸フィルムまたは2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸フィルムである場合は、同時2軸延伸フィルムまたは逐次2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸した場合は、機械的強度が向上し、フィルム性能が向上する。・・・(中略)・・・
【0080】
保護フィルムの厚さは、好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μmである。・・・(中略)・・・」
オ 「【0083】
B.製造方法
・・・(中略)・・・例えば、易接着層は、予め、保護フィルムの片側に形成される。易接着層は、代表的には、上記易接着剤組成物を保護フィルムの片側に塗布して、乾燥させることにより形成される。
・・・(中略)・・・」
カ 「【0086】
C.画像表示装置
本発明の画像表示装置は、本発明の偏光板を備える。画像表示装置の具体例としては、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)のような自発光型表示装置、液晶表示装置が挙げられる。液晶表示装置は、液晶セルと、当該液晶セルの少なくとも片側に配置された上記偏光板とを備える。」
キ 「【0088】
[実施例1]
(偏光子の作製)
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを、28℃温水中に60秒間浸漬して膨潤させた。次に、ヨウ素およびヨウ化カリウム(重量比1:10)を含む水溶液に浸漬して、3.3倍まで延伸しながら、所定の単体透過率となるように染色した。その後、3重量%のホウ酸および2重量%のヨウ化カリウムを含む水溶液中に10秒間浸漬し、60℃の4重量%のホウ酸および3重量%のヨウ化カリウムを含む水溶液中で延伸倍率が計6.0倍となるように延伸した。その後、得られた延伸フィルムを、5重量%のヨウ化カリウムを含む水溶液に10秒間浸漬し、40℃のオーブンで3分間乾燥して、厚さ30μmの偏光子を得た。
【0089】
(保護フィルムの作製)
[下記一般式(1)中、R1は水素原子、R2およびR3はメチル基であるラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂{共重合モノマー重量比=メタクリル酸メチル/2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル=8/2、ラクトン環化率約100%、ラクトン環構造の含有割合19.4%、重量平均分子量133000、メルトフローレート6.5g/10分(240℃、10kgf)、Tg131℃}90重量部と、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂{トーヨーAS AS20、東洋スチレン社製}10重量部との混合物;Tg127℃]のペレットを二軸押し出し機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出しして、厚さ110μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シートを得た。この未延伸シートを、160℃の温度条件下、縦2.0倍、横2.4倍に延伸して保護フィルム(厚さ40μm、面内位相差Δnd0.8nm、厚み方向位相差Rth1.5nm)を得た。
【0090】
【化1】

【0091】
(コロナ放電処理)
上記で得られた保護フィルムの片側に、コロナ放電処理(コロナ放電電子照射量:77W/m2/min)を施した。
【0092】
(易接着層の形成)
カルボキシル基を有する水系ウレタン樹脂(第一工業製薬製、商品名:スーパーフレックス210、固形分:33%)100gに対して、架橋剤(日本触媒製、商品名:エポクロスWS700、固形分:25%)20gを添加し、3分間攪拌し、易接着剤組成物を得た。
得られた易接着剤組成物を、コロナ放電処理を施した保護フィルムのコロナ放電処理面に、バーコーター(#6)で塗布した。その後、保護フィルムを熱風乾燥機(140℃)に投入し、ウレタン組成物を約5分乾燥させて、易接着層(0.2〜0.4μm)を形成した。
【0093】
(第2の保護フィルム)
厚さ40μmのトリアセチルセルセルロースフィルムを、10%の水酸化ナトリウム水溶液(60℃)に30秒間浸漬してケン化した後、60秒間水洗し、第2の保護フィルムを得た。
【0094】
(接着剤組成物の調製)
アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(平均重合度:1200、ケン化度:98.5モル%,アセトアセチル基変性度:5モル%)100重量部に対し、メチロールメラミン20重量部を30℃の温度条件下で純水に溶解し、固形分濃度0.5%の水溶液を得た。得られた水溶液を接着剤組成物として、30℃の温度条件下で用いた。
【0095】
(偏光板の作製)
上記接着剤組成物を調製から30分後に、易接着層を形成した保護フィルムの易接着層側に、乾燥後の厚みが50nmとなるように接着剤組成物を塗布した。同様に、上記第2の保護フィルムの片側に、接着剤組成物を塗布した。その後、接着剤組成物を介して、偏光子の両側それぞれに、保護フィルムおよび第2の保護フィルムを積層し、熱風乾燥機(70℃)に投入して5分間乾燥させて、偏光板を得た。
・・・(中略)・・・
【0112】
実施例1〜5および比較例7〜9で得られた偏光板について、以下の評価を行った。評価結果を表2に示す。
1.偏光子と保護フィルムとの接着性
上記で得られた偏光板から5cm×5cmの寸法のサンプル片を切り出し、保護フィルムの表面に粘着加工を施し、ガラス板に貼り付けた。その後、偏光板の1つの角部を摘み、対角線方向に1mm/secの速度で偏光板をガラス板から剥離し、剥離位置を観察した。なお、偏光板の角部がガラス板に対して90°となるように剥離した。評価基準は以下のとおりである。
○:粘着剤とガラス板との界面で剥離した
×:偏光子と保護フィルムとの界面で剥離した
2.耐水性(密着性)
上記で得られた偏光板から、25mm×50mmの寸法の矩形状のサンプル片を切り出し、60℃の温水に5時間浸漬した。その後、偏光子と保護フィルムとの界面における剥離の有無を観察した。判定基準は以下のとおりである。
◎:剥離は確認されなかった
○:一部に剥離が確認された
×:全体に剥離が確認された
3.耐湿性1(密着性)
上記で得られた偏光板から、25mm×50mmの寸法の矩形状のサンプル片を切り出し、温度60℃、湿度90%RHの恒温恒湿機に入れ、500時間放置した。その後、偏光子と保護フィルムとの界面における剥離の有無を目視にて観察した。判定基準は以下のとおりである。
◎:剥離は確認されなかった
○:一部に剥離が確認された
×:全体に剥離が確認された
4.耐湿性2(耐色性)
上記で得られた偏光板から、25mm×50mmの寸法の矩形状のサンプル片を切り出し、温度60℃、湿度90%RHの恒温恒湿機に入れ、500時間放置した。その後、変色の様子を目視にて観察した。判定基準は以下のとおりである。
◎:変色は確認されなかった
○:わずかに変色が確認された
×:全体的に変色が確認された
5.耐熱性(密着性および耐色性)
上記で得られた偏光板から、25mm×50mmの寸法の矩形状のサンプル片を切り出し、60℃の恒温機に入れ、500時間放置した。その後、変色や偏光子と保護フィルムとの界面における剥離の様子を目視にて観察した。判定基準は以下のとおりである。
◎:剥離および変色は確認されなかった
○:わずかに剥離が確認され、わずかに変色が確認された
×:全体的に剥離および変色が確認された
【0113】
【表2】


(2)甲2の記載
甲2には次の記載がある。
ア 「[0015][1.複層フィルムの概要]
本発明の複層フィルムは、基材フィルムと、この基材フィルム上に設けられた易接着層とを備える。また、易接着層は、ポリウレタンと、このポリウレタンを架橋させうる架橋剤と、不揮発性塩基とを含む組成物の硬化物からなる層である。前記のポリウレタン、架橋剤及び不揮発性塩基を含む組成物を、以下、適宜「ウレタン組成物」と呼ぶ。
[0016][2.基材フィルム]
基材フィルムとしては、通常、樹脂フィルムを用いる。基材フィルムを構成する樹脂としては、任意の重合体を含む樹脂を用いうる。中でも、基材フィルムを構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を用いることが特に好ましい。脂環式構造含有重合体を含む樹脂を、以下、適宜「脂環式構造含有重合体樹脂」と呼ぶ。脂環式構造含有重合体樹脂は、透明性、低吸湿性、寸法安定性および軽量性などに優れ、光学フィルムに適している。
[0017] また、基材フィルムは、1層のみを含む単層構造のフィルムであってもよく、2層以上の層を備える複層構造のフィルムであってもよい。基材フィルムが複層構造を有する場合、基材フィルムが備える層のうち1層以上が脂環式構造含有重合体樹脂からなることが好ましく、基材フィルムの少なくとも1つの最外層が脂環式構造含有重合体樹脂からなることが特に好ましい。脂環式構造含有重合体樹脂は接着性が低い傾向があるが、この低い接着性を易接着層によって補うことができる。そのため、基材フィルムが脂環式構造含有重合体樹脂からなる層を備える場合に、接着性を向上させうるという本発明の利点を有効に活かすことができる。」
イ 「[0054][3.易接着層]
易接着層は、ポリウレタン、架橋剤及び不揮発性塩基を含むウレタン組成物の硬化物からなる層である。このようなウレタン組成物の硬化物からなる易接着層を用いることにより、本発明の複層フィルムを任意の部材に貼り合せる場合に、接着性を高めることができる。また、この易接着層は、優れた接着性を高湿度環境において長期間維持できる。
・・・(中略)・・・
[0056] 従来の易接着層では、一般に、低い引っ張り弾性率を有する重合体が用いられていた。これは、より広い面積で接着面に接触することによって接着性を向上させる観点では、易接着層は、接着面の凹凸に応じて変形しうる程度に柔軟であることが望ましいと考えられていたからである。・・・(中略)・・・
[0058] ポリウレタンの引っ張り弾性率は、例えば、当該ポリウレタンのモノマーの種類及び比率を調整することにより制御できる。引っ張り弾性率の制御方法の具体例を挙げると、ポリウレタンの原料となるモノマーのうち、後述する(2)ポリエーテルポリオール、(3)ポリエステルポリオール、(4)ポリエーテルエステルポリオール、及び(5)ポリカーボネートポリオールなどのマクロポリオールの種類及び仕込み比を調整することにより、ポリウレタンの引っ張り弾性率を調整しうる。
・・・(中略)・・・
[0070] また、これらのポリウレタンは、その分子構造に酸構造を含んでいてもよい。・・・(中略)・・・
[0071] 酸構造としては、例えば、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SO3H)等の酸基などを挙げることができる。・・・(中略)・・・」
ウ 「[0079][3.2.架橋剤]
架橋剤は、ポリウレタンが有する反応性の基と反応して結合を形成することにより、ポリウレタンを架橋させうる。この架橋により、易接着層の機械的強度、接着性及び耐湿熱性を向上させることができる。・・・(中略)・・・
[0080] 架橋剤としては、例えば、ポリウレタンが有する反応性の基と反応して結合を形成できる官能基を1分子内に2個以上有する化合物を用いうる。中でも、架橋剤としては、ポリウレタンが有するカルボキシル基又はその無水物基と反応しうる官能基を有する化合物が好ましい。
架橋剤の具体例を挙げると、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物等が挙げられる。また、架橋剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
・・・(中略)・・・
[0083] より具体的にエポキシ化合物の例を挙げると、1,4−ビス(2’,3’−エポキシプロピルオキシ)ブタン、1,3,5−トリグリシジルイソシアヌレート、1,3−ジクリシジル−5−(γ−アセトキシ−β−オキシプロピル)イソシヌレート、ソルビトールポリグリシジルエーテル類、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類、ジグリセロ−ルポリグルシジルエーテル、1,3,5−トリグリシジル(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、グリセロールポリグリセロールエーテル類およびトリメチロ−ルプロパンポリグリシジルエーテル類等が挙げられる。
また、エポキシ化合物の例を市販品で挙げると、ナガセケムテックス社製の「デナコール(デナコールEX−521,EX−614Bなど)」シリーズ等を挙げることができる。・・・(中略)・・・
[0084] エポキシ化合物の量は、ポリウレタンを100重量部に対し、通常2重量部以上、好ましくは5重量部以上、より好ましくは8重量部以上であり、通常40重量部以下、好ましくは35重量部以下、より好ましくは30重量部以下である。・・・(中略)・・・
[0101] 前記の架橋剤の中でも、エポキシ化合物及びカルボジイミド化合物が好ましく、エポキシ化合物が特に好ましい。エポキシ化合物を架橋剤として用いると、易接着層の接着性を特に大きく向上させることができる。また、カルボジイミド化合物を架橋剤として用いると、ウレタン組成物のポットライフを改善することができる。」
エ 「[0106][3.4.粒子]
ウレタン組成物は、粒子を含むことが好ましい。ウレタン組成物が粒子を含むことにより、そのウレタン組成物の硬化物によって形成される易接着層の表面粗さを大きくできる。これにより、易結着層の表面の滑り性を向上させることができるので、複層フィルムのブロッキングの防止、及び、複層フィルムを巻回する際のシワの発生の抑制が可能となる。
[0107] 粒子としては、無機粒子、有機粒子のいずれを用いてもよい。ただし、水分散性の粒子を用いることが好ましい。無機粒子の材料を挙げると、例えば、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア等の無機酸化物;・・・(中略)・・・等が挙げられる。・・・(中略)・・・これらの中でも、シリカが好ましい。シリカの粒子は、シワの発生を抑制する能力及び透明性に優れ、ヘイズを生じ難く、着色が無いため、本発明の複層フィルムの光学特性に与える影響が小さい。また、シリカはウレタン組成物での分散性および分散安定性が良好である。シリカの粒子の中でも、非晶質コロイダルシリカ粒子が特に好ましい。」
オ 「[0145]基材フィルムの厚みt1と易接着層の厚みt2との比t2/t1は、0.0003以上が好ましく、0.0010以上がより好ましく、0.0025以上が特に好ましく、また、0.0100以下が好ましく、0.0080以下がより好ましく、0.0050以下が特に好ましい。・・・(中略)・・・」
カ 「[0157][7.複層フィルムの用途]
本発明の複層フィルムは、通常、光学フィルムとして使用される。複層フィルムの用途となる光学フィルムの例を挙げると、保護フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルムなどが挙げられる。
[0158] ここで、本発明の複層フィルムは、前述のように、任意の部材と接着性に優れ、且つ、その接着性を高湿度下において長期間維持できる利点を有する。・・・(中略)・・・、本発明の複層フィルムは、偏光板保護フィルムとして用いることが好ましい。
[0159] 偏光板は、通常、偏光子と偏光板保護フィルムとを備える。したがって、本発明の複層フィルムを偏光板保護フィルムとして用いる場合には、通常、偏光子に本発明の複層フィルムを易接着層側で貼り合わせる。
[0160] 偏光板は、例えば、本発明の複層フィルムの易接着層と偏光子とを貼り合わせることにより製造できる。接着の際、易接着層に接着剤層を介することなく直接に偏光子を貼り合せてもよく、接着剤層を介して貼り合せてもよい。・・・(中略)・・・」
キ 「[0174](初期カッター剥離試験)
各実施例及び比較例で製造した複層フィルムの易接着層の表面と、製造例2で製造した偏光子の片面とを、製造例3で製造した接着液を用いてロールラミネーターで貼り合わせた。さらに、偏光子のもう片面に、保護フィルム(コニカミノルタ社製トリアセチルセルロースフィルム、商品名「KC4UYW」、厚み:40μm)を、製造例3で製造した接着液を用いて貼り合せることにより、偏光板を製造した。
次いで、この偏光板の複層フィルムの易接着層とは反対側の面とガラス基板とを、粘着シート(日東電工社製「LUCIACS CS9621T」)を介して貼り合わせて、サンプルを作製した。
[0175]その後、サンプルの端部及び表面からカッターにて切り込みを入れた。そして、サンプルの偏光板を引っ張って、剥離を試みた。
その結果、複層フィルムとガラス基板との間で剥離が生じる場合は、易接着層及び接着液は十分な接着強度を有しており、初期カッター剥離試験の結果を「良」と評価した。また、偏光子と複層フィルムとの間で剥離が起きる場合は、接着強度が不十分であり、初期カッター剥離試験の結果を「不良」と評価した。
[0176](湿熱後カッター剥離試験)
前記(初期カッター剥離試験)と同様にして、ガラス基板、複層フィルム、偏光子及び保護フィルムをこの順で備えるサンプルを作製した。
このサンプルの一部を60℃90%RHの恒温恒湿槽中で静置した。このサンプルの一部を一定時間毎に恒温恒湿槽から取り出し、前記(初期カッター剥離試験)と同様にして、基材フィルムの剥離を試みた。
[0177] その結果、恒温恒湿槽中での静置の開始後500時間が経過した後において、偏光子と複層フィルムとの間で剥離が生じないで複層フィルムとガラス基板との間で剥離が生じる場合、湿熱後カッター剥離試験の結果を「優」と評価した。
また、恒温恒湿槽中での静置の開始後200時間〜500時間において、偏光子と複層フィルムとの間で剥離が生じないで複層フィルムとガラス基板との間で剥離が起きる場合、湿熱後カッター剥離試験の結果を「良」と評価した。
さらに、恒温恒湿槽中での静置の開始後200時間が経過する前において偏光子と複層フィルムとの間で剥離が起きる場合、湿熱後カッター剥離試験の結果を「不良」と評価した。
[0178][製造例1:基材フィルムの製造]
脂環式構造含有重合体樹脂(日本ゼオン社製「ZEONOR1430」;ガラス転移温度135℃)のペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて、70℃で2時間乾燥した。その後、65mm径のスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するTダイ式のフィルム溶融押出し成形機を使用し、溶融樹脂温度270℃、Tダイの幅500mmの成形条件で、厚み100μm、長さ1000mのフィルムを製造した。このフィルムは、脂環式構造含有重合体樹脂からなる基材フィルムである。
[0179][製造例2:偏光子の製造]
厚み80μmのポリビニルアルコールフィルムを、0.3%のヨウ素水溶液中で染色した。その後、染色したポリビニルアルコールフィルムを4%のホウ酸水溶液及び2%のヨウ化カリウム水溶液中で5倍まで延伸した後、50℃で4分間乾燥させて、偏光子を製造した。
[0180][製造例3:接着液の製造]
アセトアセチル基を含むポリビニルアルコール(日本合成化学工業製「ゴーセファイマーZ410」)に水を加えて固形分3%に希釈し、接着液を製造した。
[0181][実施例1]
(1−1.樹脂組成物の製造)
ポリエーテル系ポリウレタンの水分散体(第一工業製薬社製「スーパーフレックス870」)をポリウレタンの量で100部と、架橋剤としてエポキシ化合物(ナガセケムテックス社製「デナコールEX313」)15部と、不揮発性塩基としてアジピン酸ジヒドラジド2部と、滑材としてシリカ粒子の水分散液(日産化学社製「スノーテックスMP1040」;平均粒子径120nm)をシリカ粒子の量で8部及びシリカ粒子の水分散液(日産化学社製「スノーテックスXL」;平均粒子径50nm)をシリカ粒子の量で8部と、濡れ剤としてアセチレン系界面活性剤(エアープロダクツアンドケミカルズ社製「サーフィノール440」)を固形分合計量に対して0.5重量%と、水とを配合して、固形分濃度2%の液状の樹脂組成物1を得た。
[0182](1−2.複層フィルムの製造)
コロナ処理装置(春日電機社製)を用いて、出力300W、電極長240mm、ワーク電極間3.0mm、搬送速度4m/minの条件で、製造例1で得た基材フィルムの表面に放電処理を施した。
[0183] 基材フィルムの放電処理を施した表面に、前記の液状の樹脂組成物1を、乾燥厚みが0.1μmになるようにロールコーターを用いて塗布した。その後、温度130℃で60秒間加熱して、基材フィルム上に易接着層を形成した。これにより、基材フィルム及び易接着層を備える複層フィルムを得た。
この複層フィルムについて、上述した方法で、初期カッター剥離試験及び湿熱後カッター剥離試験を行なった。
[0184][実施例2]
前記工程(1−1)において、架橋剤としてエポキシ化合物の代わりにカルボジイミド化合物(日清紡ケミカル社製「カルボジライトV−02」)を用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして複層フィルムの製造及び評価を行なった。
[0185][実施例3]
前記工程(1−1)において、架橋剤としてエポキシ化合物の代わりにオキサゾリン化合物(日本触媒社製「エポクロスWS700」)を用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして複層フィルムの製造及び評価を行なった。
[0186][実施例4]
前記工程(1−1)において、ポリエーテル系ポリウレタンの水分散液の種類を第一工業製薬社製「スーパーフレックス130」に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして複層フィルムの製造及び評価を行なった。
[0187][実施例5]
前記工程(1−1)において、ポリエーテル系ポリウレタンの水分散液の種類を第一工業製薬社製「スーパーフレックス130」に変更した。
また、前記工程(1−1)において、架橋剤としてエポキシ化合物の代わりにカルボジイミド化合物(日清紡ケミカル社製「カルボジライトV−02」)を用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして複層フィルムの製造及び評価を行なった。
[0188][実施例6]
前記工程(1−1)において、ポリエーテル系ポリウレタンの水分散液の種類を第一工業製薬社製「スーパーフレックス130」に変更した。
前記工程(1−1)において、架橋剤としてエポキシ化合物の代わりにオキサゾリン化合物(日本触媒社製「エポクロスWS700」)を用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして複層フィルムの製造及び評価を行なった。
・・・(中略)・・・
[0192][表1]


ク 「[請求項1] 基材フィルムと、前記基材フィルム上に設けられた易接着層とを備え、
前記易接着層は、ポリウレタンと、前記ポリウレタンを架橋させうる架橋剤と、不揮発性塩基とを含む組成物の硬化物からなり、
前記ポリウレタンの引っ張り弾性率が、1000N/mm2以上5000N/mm2以下である、複層フィルム。
・・・(中略)・・・
[請求項3] 前記架橋剤が、エポキシ化合物を含む、請求項1又は2記載の複層フィルム。
[請求項4] 前記組成物が、粒子を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の複層フィルム。」

(3)甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の【0089】〜【0092】(上記(1)キ)に記載された実施例1において、易接着層を形成された保護フィルムの、易接着層を形成するための易接着剤組成物は、次のようなものであると認められる。
「[下記一般式(1)中、R1は水素原子、R2およびR3はメチル基であるラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂{共重合モノマー重量比=メタクリル酸メチル/2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル=8/2、ラクトン環化率約100%、ラクトン環構造の含有割合19.4%、重量平均分子量133000、メルトフローレート6.5g/10分(240℃、10kgf)、Tg131℃}90重量部と、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂{トーヨーAS AS20、東洋スチレン社製}10重量部との混合物;Tg127℃]のペレットを二軸押し出し機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出しして、厚さ110μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シートを得て、この未延伸シートを、160℃の温度条件下、縦2.0倍、横2.4倍に延伸して保護フィルム(厚さ40μm、面内位相差Δnd0.8nm、厚み方向位相差Rth1.5nm)を得て、上記で得られた保護フィルムの片側に、コロナ放電処理(コロナ放電電子照射量:77W/m2/min)を施し、
カルボキシル基を有する水系ウレタン樹脂(第一工業製薬製、商品名:スーパーフレックス210、固形分:33%)100gに対して、架橋剤(日本触媒製、商品名:エポクロスWS700、固形分:25%)20gを添加し、3分間攪拌し、易接着剤組成物を得て、得られた易接着剤組成物を、上記コロナ放電処理を施した保護フィルムのコロナ放電処理面に、バーコーター(#6)で塗布し、その後、保護フィルムを熱風乾燥機(140℃)に投入し、ウレタン組成物を約5分乾燥させて、易接着層(0.2〜0.4μm)を形成して得られた易接着層を形成された保護フィルムにおいて、
上記易接着層を形成するために用いられた上記易接着剤組成物。


」(以下、「甲1発明」という。)

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「易接着剤組成物」に含まれる「カルボキシル基を有する水系ウレタン樹脂(第一工業製薬製、商品名:スーパーフレックス210、固形分:33%)」は、本件発明1の「カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)」に相当する。
また、甲1発明の「ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シート」は、本件発明1の「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂」に相当し、甲1発明の「保護フィルム」は、上記「ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シート」から形成され、架橋弾性体を含まないことは明らかであることから、本件発明1の「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材」に相当する。
そして、甲1発明の「易接着剤組成物」は、保護フィルム上に易接着層を形成するための組成物であるから、本件発明1の「架橋弾性体を含まない基材上に易接着層を形成するための組成物」及び「易接着層形成用組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材上に易接着層を形成するための組成物であって、カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)を含む易接着層形成用組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1−1−1)(当審注:相違点 請求項−通番−甲番号)
易接着層形成用組成物の成分について、本件発明1は、「エポキシ化合物(B)」が含まれるのに対し、甲1発明の「易接着剤組成物」には、エポキシ化合物は含まれない点。

ここで、相違点1−1−1について検討する。
甲1の【0113】(上記(1)キ)には、実施例1の易接着層が形成された保護フィルムから得られた偏光板について、偏光板と保護フィルムとの接着性、耐水性(密着性)、耐湿性1(密着性)、耐湿性2(耐色性)及び耐熱性(密着性及び耐色性)について、いずれも優れたものであることが示されている。
そうすると、甲1発明の「易接着剤組成物」にさらに別の成分を添加したり、他の易接着剤組成物を用いる動機付けは見いだせない。

そして、上記相違点1−1−1について、申立人は、特許異議申立書において、次のように主張している。
「甲第2号証の実施例1と実施例2及び3との対比、及び、実施例4と実施例5及び6との対比から、架橋剤としてエポキシ化合物を用いた場合には、架橋剤としてカルボジイミド化合物やオキサゾリン化合物を用いた場合よりも、湿熱後カッター剥離試験の結果が良好であり、湿熱後の易接着層の接着性を向上できることが理解できる([0101]及び[表1])。
したがって、甲第2号証には、易接着層を形成するための組成物であってカルボキシル基を含むポリウレタンと架橋剤とを含む組成物において、架橋剤としてカルボジイミド化合物やオキサゾリン化合物を用いた場合よりも、架橋剤としてエポキシ化合物を用いた場合の方が湿熱後の易接着層の接着性を向上できることが記載されているといえる。
甲1発明も、甲第2号証に記載された発明も、高温高湿下における密着性の向上を目的としているから(甲第1号証の【0035】、甲第2号証の[0054])、甲1発明において湿熱後の易接着層の接着性をさらに向上するために、甲第2号証の記載に基づきエポキシ基を有する架橋剤を選択することは、当業者が容易に想到し得たことである。」(96頁15〜24行)

そこで、申立人の上記主張について検討する。
そもそも、甲1には、「ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シート」の、高温高湿下の密着性については記載されておらず、甲1発明が、高温高湿下における密着性の向上を目的としているものであるということはできない。
また、甲2の実施例1〜6は、いずれも、脂環式構造含有重合体樹脂からなる基材フィルム([0178](上記(2)キ))を用いたものであり、甲2に、「脂環式構造含有重合体樹脂は接着性が低い傾向があるが、この低い接着性を易接着層によって補うことができる。そのため、基材フィルムが脂環式構造含有重合体樹脂からなる層を備える場合に、接着性を向上させうるという本発明の利点を有効に活かすことができる。」([0017](上記(1)ア))と記載されていることから、甲2に記載された易接着層は、脂環式構造含有重合体樹脂について、その低い接着性を補うようにしたものと解され、甲1発明のような、脂環式構造含有重合体樹脂ではない「ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シート」に対して、接着性を易接着層によって向上させようとするものではない。さらに、甲1発明の「易接着剤組成物」に、架橋剤としてエポキシ化合物を含有させた場合に、「ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シート」に対する湿熱後の接着性がどのように変化するかは明らかではない。
そうすると、申立人が主張するように、甲2に架橋剤としてエポキシ化合物を用いた場合、湿熱後の易接着層の接着性が向上するということが記載されていたとしても、甲1発明には、湿熱後の易接着層の接着性を向上するという課題は存在しないし、しかも、そのような架橋剤を用いた場合、「ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シート」に対する接着性が向上することは明らかではないことから、甲1発明の易接着組成物に、甲2に記載された架橋剤を用いる動機付けを見いだすことはできない。

一方、本件発明1は、上記相違点1−1−1に係る発明特定事項を備えることで、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成されたアクリル樹脂基材について、「アクリル樹脂基材上に、高温高湿下においてもアクリル樹脂基材との接着に優れた易接着層を形成することができるため、アクリル樹脂基材と偏光子をこの易接着層を介して積層することにより、高温高湿下においてもアクリル樹脂基材と偏光子の接着性に優れた偏光板、さらにはこの偏光板を備えた画像表示装置を得ることができる。」(【0178】)という、高温高湿下の接着性については考慮されていない甲1からは当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであって、その作用効果は、実施例において確認されているといえる。

以上のことから、本件発明1は、甲2の記載を参照したとしても、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

イ 本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明において、「この未延伸シートを、160℃の温度条件下、縦2.0倍、横2.4倍に延伸して保護フィルム(厚さ40μm、面内位相差Δnd0.8nm、厚み方向位相差Rth1.5nm)を得て」は、「保護フィルム」が縦横に延伸された二軸延伸フィルムであることを意味するから、上記アで述べた本件発明1と甲1発明との一致点から明らかなように、本件発明2と甲1発明とは、「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、二軸延伸フィルムである基材上に易接着層を形成するための組成物であって、カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)を含む易接着層形成用組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点2−1−1)
易接着層形成用組成物の成分について、本件発明2は、「エポキシ化合物(B)」が含まれるのに対し、甲1発明の「易接着剤組成物」には、エポキシ化合物は含まれない点。
(相違点2−2−1)
易接着層形成用組成物の成分について、本件発明2は、「シリカ微粒子」が含まれるのに対し、甲1発明の「易接着剤組成物」には、シリカ微粒子は含まれない点。

ここで、上記相違点2−1−1について検討すると、上記相違点2−1−1は、上記アで述べた本件発明1と甲1発明との相違点1−1−1と同一であるから、本件発明1と同様に、当業者が容易に想到し得るものではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2の記載を参照したとしても、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

ウ 本件発明3〜5及び7〜17
本件発明3〜5及び7〜17は、本件発明1又は2を直接的又は間接的に引用して、さらに限定するものであるから、本件発明1及び2と同様に、甲2の記載を参照したとしても、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

エ まとめ
以上のとおり、理由1は理由がない。

2 理由2(特許法第29条2項、甲4を主引用例とする取消理由)
(1)甲4の記載
甲4には以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
(メタ)アクリル系樹脂フィルムと、ウレタン樹脂と微粒子とを含む易接着剤組成物で形成された易接着層とを有する、偏光子保護フィルム。
【請求項2】
前記ウレタン樹脂がカルボキシル基を有する、請求項1に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項3】
前記微粒子がコロイダルシリカである、請求項1または2に記載の偏光子保護フィルム。
・・・(中略)・・・
【請求項6】
前記(メタ)アクリル系樹脂がラクトン環構造を有する、請求項1から5のいずれかに記載の偏光子保護フィルム。
・・・(中略)・・・
【請求項8】
偏光子と、請求項1から7のいずれかに記載の偏光子保護フィルムとを有する、偏光板。
【請求項9】
請求項8に記載の偏光板を有する、画像表示装置。」
イ 「【0016】
・・・(中略)・・・
A.偏光子保護フィルムおよび偏光板の全体構成
・・・(中略)・・・偏光子保護フィルム10は、(メタ)アクリル系樹脂フィルム11と易接着層12とを有する。・・・(中略)・・・偏光板100は、偏光子14と接着剤層13と偏光子保護フィルム10とをこの順に有する。・・・(中略)・・・」
ウ 「【0021】
本発明においては、高い耐熱性、高い透明性、高い機械的強度を有する点で、上記(メタ)アクリル系樹脂として、グルタル酸無水物構造を有する(メタ)アクリル系樹脂、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂、グルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。
・・・(中略)・・・
【0038】
(メタ)アクリル系樹脂フィルムは、未延伸フィルムまたは延伸フィルムのいずれでもよい。延伸フィルムである場合は、1軸延伸フィルムまたは2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸フィルムである場合は、同時2軸延伸フィルムまたは逐次2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸した場合は、機械的強度が向上し、フィルム性能が向上する。・・・(中略)・・・
【0043】
(メタ)アクリル系樹脂フィルムの厚さは、好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μmである。」
エ 「【0045】
A−2.易接着層
上記易接着層は、ウレタン樹脂と微粒子とを含む易接着剤組成物で形成される。易接着層をこのような易接着剤組成物で形成することにより、巻き取り時に生じるブロッキングを効果的に抑制して、巻取性に優れた偏光子保護フィルムを提供し得る。また、ウレタン樹脂を用いることにより、(メタ)アクリル系樹脂フィルムとの密着性に優れた易接着層が得られ得る。易接着剤組成物は、好ましくは、水系である。・・・(中略)・・・
【0053】
上記ウレタン樹脂は、好ましくは、カルボキシル基を有する。カルボキシル基を有することにより、偏光子との密着性(特に、高温・高湿下における)に優れた偏光子保護フィルムを提供し得る。カルボキシル基を有するウレタン樹脂は、例えば、上記ポリオールと上記ポリイソシアネートとに加え、遊離カルボキシル基を有する鎖長剤を反応させることにより得られる。・・・(中略)・・・
【0056】
上記易接着剤組成物が水系の場合、好ましくは、上記ウレタン樹脂の製造において中和剤を用いる。中和剤を用いることにより、水中におけるウレタン樹脂の安定性が向上し得る。中和剤としては、例えば、アンモニア、N−メチルモルホリン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用い得る。
・・・(中略)・・・
【0059】
上記微粒子は、任意の適切な微粒子を用い得る。好ましくは、水分散性の微粒子である。具体的には、無機系微粒子、有機系微粒子のいずれも用い得る。無機系微粒子としては、例えば、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア等の無機酸化物、・・・(中略)・・・等が挙げられる。・・・(中略)・・・これらの中でも、好ましくは、シリカである。ブロッキング抑制能にさらに優れ得、かつ、透明性に優れ、ヘイズを生じず、着色もないので、偏光板の光学特性に与える影響がより小さいからである。また、シリカは易接着剤組成物への分散性および分散安定性が良好であるので、易接着層形成時の作業性にもより優れ得るからである。さらに、シリカは、(メタ)アクリル系樹脂フィルムとの密着性にも優れる。
・・・(中略)・・・
【0061】
上記易接着剤組成物が水系の場合、好ましくは、上記微粒子は水分散体として配合される。具体的には、微粒子としてシリカを採用する場合、好ましくは、コロイダルシリカとして配合される。・・・(中略)・・・
【0062】
上記易接着剤組成物は、好ましくは、架橋剤を含む。当該架橋剤は、任意の適切な架橋剤を採用し得る。具体的には、上記ウレタン樹脂がカルボキシル基を有する場合、架橋剤としては、好ましくは、カルボキシル基と反応し得る基を有するポリマーが挙げられる。カルボキシル基と反応し得る基としては、例えば、有機アミノ基、オキサゾリン基、エポキシ基、カルボジイミド基等が挙げられる。好ましくは、架橋剤は、オキサゾリン基を有する。これらの中でも、オキサゾリン基を有する架橋剤は、上記ウレタン樹脂と混合したときの室温でのポットライフが長く、加熱することによって架橋反応が進行するため、作業性が良好である。
・・・(中略)・・・
【0066】
上記易接着層の厚みは、任意の適切な値に設定し得る。好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは0.1〜5μm、特に好ましくは0.2〜1.5μmである。・・・(中略)・・・」
オ 「【0089】
B.製造方法
・・・(中略)・・・例えば、易接着層は、予め、(メタ)アクリル系樹脂フィルムの片側に形成される。易接着層は、代表的には、上記易接着剤組成物を(メタ)アクリル系樹脂フィルムの片側に塗布して、乾燥させることにより形成される。・・・(中略)・・・
【0092】
本発明の偏光板は、代表的には、上記偏光子保護フィルムと上記偏光子とを接着剤層を介して積層することにより製造される。・・・(中略)・・・」
カ 「【0093】
C.画像表示装置
本発明の画像表示装置は、本発明の偏光板を有する。画像表示装置の具体例としては、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)のような自発光型表示装置、液晶表示装置が挙げられる。液晶表示装置は、液晶セルと、当該液晶セルの少なくとも片側に配置された上記偏光板とを有する。」
キ 「【0095】
[実施例1]
(偏光子の作製)
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを、28℃温水中に60秒間浸漬して膨潤させた。次に、ヨウ素およびヨウ化カリウム(重量比1:10)を含む水溶液に浸漬して、3.3倍まで延伸しながら、所定の単体透過率となるように染色した。その後、3重量%のホウ酸および2重量%のヨウ化カリウムを含む水溶液中に10秒間浸漬し、60℃の4重量%のホウ酸および3重量%のヨウ化カリウムを含む水溶液中で延伸倍率が計6.0倍となるように延伸した。その後、得られた延伸フィルムを、5重量%のヨウ化カリウムを含む水溶液に10秒間浸漬し、40℃のオーブンで3分間乾燥して、厚さ30μmの偏光子を得た。
【0096】
((メタ)アクリル系樹脂フィルムの作製)
[下記一般式(1)中、R1は水素原子、R2およびR3はメチル基であるラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂{共重合モノマー重量比=メタクリル酸メチル/2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル=8/2、ラクトン環化率約100%、ラクトン環構造の含有割合19.4%、重量平均分子量133000、メルトフローレート6.5g/10分(240℃、10kgf)、Tg131℃}90重量部と、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂{トーヨーAS AS20、東洋スチレン社製}10重量部との混合物;Tg127℃]のペレットを二軸押し出し機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出しして、厚さ110μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シートを得た。この未延伸シートを、160℃の温度条件下、縦2.0倍、横2.4倍に延伸して(メタ)アクリル系樹脂フィルム(厚さ:40μm、面内位相差Δnd:0.8nm、厚み方向位相差Rth:1.5nm)を得た。
【0097】
【化1】

【0098】
(コロナ放電処理)
上記で得られた(メタ)アクリル系樹脂フィルムの片側に、コロナ放電処理(コロナ放電電子照射量:77W/m2/min)を施した。
【0099】
(偏光子保護フィルムの作製)
ポリエステルウレタン(第一工業製薬製、商品名:スーパーフレックス210 固形分:33%)16.8g、架橋剤(オキサゾリン含有ポリマー、日本触媒製、商品名:エポクロスWS−700、固形分:25%)4.2g、1重量%のアンモニア水2.0g、コロイダルシリカ(扶桑化学工業製、クォートロンPL−3、固形分:20重量%)0.42gおよび純水76.6gを混合し、易接着剤組成物を得た。
得られた易接着剤組成物を、コロナ放電処理を施した(メタ)アクリル系樹脂フィルムのコロナ放電処理面に、乾燥後の厚みが350nmとなるように、バーコーター(#6)で塗布した。その後、(メタ)アクリル系樹脂フィルムを熱風乾燥機(140℃)に投入し、易接着剤組成物を約5分乾燥させて、易接着層(0.3〜0.5μm)を形成した。
【0100】
(第2の偏光子保護フィルム)
厚さ40μmのトリアセチルセルセルロースフィルムを、10%の水酸化ナトリウム水溶液(60℃)に30秒間浸漬してケン化した後、60秒間水洗し、第2の偏光子保護フィルムを得た。
【0101】
(接着剤組成物の調製)
アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(平均重合度:1200、ケン化度:98.5モル%,アセトアセチル基変性度:5モル%)100重量部に対し、メチロールメラミン20重量部を30℃の温度条件下で純水に溶解し、固形分濃度0.5%の水溶液を得た。得られた水溶液を接着剤組成物として、30℃の温度条件下で用いた。
【0102】
(偏光板の作製)
上記接着剤組成物を調製から30分後に、偏光子保護フィルムの易接着層側に、乾燥後の厚みが50nmとなるように接着剤組成物を塗布した。同様に、上記第2の偏光子保護フィルムの片側に、接着剤組成物を塗布した。その後、接着剤組成物を介して、偏光子の両側それぞれに、偏光子保護フィルムおよび第2の偏光子保護フィルムを、小型ラミネーターを用いて積層し、熱風乾燥機(70℃)に投入して5分間乾燥させて、偏光板を得た。
・・・(中略)・・・
【0107】
各実施例および比較例で得られた偏光子保護フィルムおよび偏光板について、以下に示す評価を行った。評価結果を表1にまとめる。
1.偏光子保護フィルムの巻取性
上記で得た偏光子保護フィルムをロール状に巻き取る際の滑り性を評価し、ならびに、巻き取った後に一定時間放置し、再び展開した偏光子保護フィルムの状態を目視観察した。以下の基準で評価した。
○:滑り性よく巻き取ることができ、かつ、巻き取り後24時間経過してもシワ、折れが発生しない
△:巻き取り直後にはシワ、折れは認められないが、24時間以内にシワ、折れが発生する
×:巻き取る際に滑り性が乏しく、シワ、折れが発生する
2.偏光子保護フィルムの静摩擦係数(易接着層と(メタ)アクリル系樹脂フィルムとの間)
測定装置:トライボギア TYPE14(新東科学(株)製)
ガラス板上に固定したフィルムと、10mmφのステンレス製の円盤に固定したフィルムを密着させ、円盤に固定したフィルムの上から200gの荷重をかけて6.0mm/分の速度で水平方向(荷重方向と垂直な方向)に移動させたときの動き出しの最大負荷から静摩擦係数を求めた。
3.偏光子保護フィルムの密着性(易接着層と(メタ)アクリル系樹脂フィルムとの密着性)
上記で得られた(メタ)アクリル系樹脂フィルムの表面に、各実施例および比較例で用いた易接着剤組成物を、乾燥後の厚みが300nmとなるようにバーコーターで塗布して、オーブンで乾燥させ、保護フィルム表面に易接着層を形成した。このようにして、試験サンプルを得た。
得られた試験サンプルの(メタ)アクリル系樹脂フィルムと易接着層との密着性について、JIS K54003.5に準拠して基盤目試験を行った。具体的には、試験サンプルの易接着層面に、鋭利な刃物で1mm角の基盤目状の切り込みを入れた後、セロハンテープ(24mm幅、JIS Z1522)を木へらで密着させた。その後、セロハンテープを剥がし、切り込み100マス中、粘着テープに付着しないマス目の数を数えた。すなわち、易接着層が剥離しない場合を100/100と示し、全て剥離する場合を0/100と示す。
4.透過率およびヘイズ
上記で得られた偏光板の透過率およびヘイズを、日本電色工業社製NDH−1001DPを用いて測定した。
5.偏光板の接着性(偏光子と(メタ)アクリル系樹脂フィルムとの接着性)
上記で得られた偏光板から5cm×5cmの寸法のサンプル片を切り出し、偏光子保護フィルムの表面に粘着加工を施し、ガラス板に貼り付けた。その後、偏光板の1つの角部を摘み、対角線方向に1mm/secの速度で偏光板をガラス板から剥離し、剥離位置を観察した。なお、偏光板の角部がガラス板に対して90°となるように剥離した。評価基準は以下のとおりである。
○:粘着剤とガラス板との界面で剥離した
×:偏光子と偏光子保護フィルムとの界面で剥離した
6.耐水性(密着性)
上記で得られた偏光板から、25mm×50mmの寸法の矩形状のサンプル片を切り出し、60℃の温水に5時間浸漬した。その後、偏光子と偏光子保護フィルムとの界面における剥離の有無を観察した。判定基準は以下のとおりである。
○:剥離は確認されなかった
△:一部に剥離が確認された
×:全体に剥離が確認された
7.耐湿性1(密着性)
上記で得られた偏光板から、25mm×50mmの寸法の矩形状のサンプル片を切り出し、温度60℃、湿度90%RHの恒温恒湿機に入れ、500時間放置した。その後、偏光子と偏光子保護フィルムとの界面における剥離の有無を目視にて観察した。判定基準は以下のとおりである。
○:剥離は確認されなかった
△:一部に剥離が確認された
×:全体に剥離が確認された
8.耐湿性2(耐色性)
上記で得られた偏光板から、25mm×50mmの寸法の矩形状のサンプル片を切り出し、温度60℃、湿度90%RHの恒温恒湿機に入れ、500時間放置した。その後、変色の様子を目視にて観察した。判定基準は以下のとおりである。
○:変色は確認されなかった
△:わずかに変色が確認された
×:全体的に変色が確認された
9.耐熱性1(密着性)
上記で得られた偏光板から、25mm×50mmの寸法の矩形状のサンプル片を切り出し、60℃の恒温機に入れ、500時間放置した。その後、偏光子と偏光子保護フィルムとの界面における剥離の有無を目視にて観察した。判定基準は以下のとおりである。
○:剥離は確認されなかった
△:一部に剥離が確認された
×:全体的に剥離が確認された
10.耐熱性2(耐色性)
上記で得られた偏光板から、25mm×50mmの寸法の矩形状のサンプル片を切り出し、60℃の恒温機に入れ、500時間放置した。
その後、変色の様子を目視にて観察した。判定基準は以下のとおりである。
○:変色は確認されなかった
△:わずかに変色が確認された
×:全体的に変色が確認された
【0108】
【表1】


(2)甲4に記載された発明(甲4発明)
甲1の【0096】〜【0099】((1)キ)に記載された実施例1において、易接着層を形成された偏光子保護フィルムにおいて、易接着層を形成するための易接着剤組成物は、次のようなものであると認められる。
「[下記一般式(1)中、R1は水素原子、R2およびR3はメチル基であるラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂{共重合モノマー重量比=メタクリル酸メチル/2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル=8/2、ラクトン環化率約100%、ラクトン環構造の含有割合19.4%、重量平均分子量133000、メルトフローレート6.5g/10分(240℃、10kgf)、Tg131℃}90重量部と、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂{トーヨーAS AS20、東洋スチレン社製}10重量部との混合物;Tg127℃]のペレットを二軸押し出し機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出しして、厚さ110μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シートを得て、この未延伸シートを、160℃の温度条件下、縦2.0倍、横2.4倍に延伸して(メタ)アクリル系樹脂フィルム(厚さ:40μm、面内位相差Δnd:0.8nm、厚み方向位相差Rth:1.5nm)を得て、上記で得られた(メタ)アクリル系樹脂フィルムの片側に、コロナ放電処理(コロナ放電電子照射量:77W/m2/min)を施し、
ポリエステルウレタン(第一工業製薬製、商品名:スーパーフレックス210 固形分:33%)16.8g、架橋剤(オキサゾリン含有ポリマー、日本触媒製、商品名:エポクロスWS−700、固形分:25%)4.2g、1重量%のアンモニア水2.0g、コロイダルシリカ(扶桑化学工業製、クォートロンPL−3、固形分:20重量%)0.42gおよび純水76.6gを混合し、易接着剤組成物を得て、
得られた易接着剤組成物を、コロナ放電処理を施した(メタ)アクリル系樹脂フィルムのコロナ放電処理面に、乾燥後の厚みが350nmとなるように、バーコーター(#6)で塗布した。その後、(メタ)アクリル系樹脂フィルムを熱風乾燥機(140℃)に投入し、易接着剤組成物を約5分乾燥させて、易接着層(0.3〜0.5μm)を形成した。易接着層を形成された偏光子保護フィルムにおいて、
上記易接着層を形成するために用いられた上記易接着剤組成物。

」(以下、「甲4発明」という。)

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲4発明とを対比する。
本件発明1の「カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)」と甲4発明の「易接着剤組成物」に含まれる「ポリエステルウレタン(第一工業製薬製、商品名:スーパーフレックス210 固形分:33%)」とは、「ポリウレタン樹脂(A)」である点で共通する。
また、甲4発明の「ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シート」は、本件発明1の「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂」に相当し、甲1発明の「偏光子保護フィルム」は、上記「ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シート」から形成され、架橋弾性体を含まないことは明らかであることから、本件発明1の「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材」に相当する。
そして、甲4発明の「易接着剤組成物」は、偏光子保護フィルム上に易接着層を形成するための組成物であるから、本件発明1の「架橋弾性体を含まない基材上に易接着層を形成するための組成物」及び「易接着層形成用組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲4発明とは、「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材上に易接着層を形成するための組成物であって、ポリウレタン樹脂(A)を含む易接着層形成用組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1−1−4)
易接着層形成用組成物の成分について、本件発明1は、「エポキシ化合物(B)」が含まれるのに対し、甲4発明の「易接着剤組成物」には、エポキシ化合物は含まれない点。
(相違点1−2−4)
易接着層形成用組成物の「ポリウレタン樹脂」について、本件発明1は、「カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)」であるのに対し、甲4発明の「ポリエステルウレタン(第一工業製薬製、商品名:スーパーフレックス210 固形分:33%)」は、ポリウレタン樹脂であるとしても、カルボキシル基を有するかどうか不明な点。

ここで、相違点1−1−4について検討する。
甲4の【0108】(上記(1)キ)には、実施例1の易接着層が形成された偏光子保護フィルムから得られた偏光板について、偏光子と(メタ)アクリル系樹脂フィルムとの接着性、耐水性、耐湿性1(密着性)、耐湿性2(耐色性)、耐熱性1(密着性)及び耐熱性2(耐色性)について、いずれも優れたものであることが示されている。
そうすると、甲4発明の「易接着剤組成物」にさらに別の成分を添加したり、他の易接着剤組成物を用いる動機付けは見いだせない。

また、甲4には、「ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シート」の、高温高湿下の接着性についての記載はなく、上記「1(3)」の相違点1−1−1において述べたように、本件発明1は、上記相違点1−1−4に係る発明特定事項を備えることで、「アクリル樹脂基材上に、高温高湿下においてもアクリル樹脂基材との接着に優れた易接着層を形成することができるため、アクリル樹脂基材と偏光子をこの易接着層を介して積層することにより、高温高湿下においてもアクリル樹脂基材と偏光子の接着性に優れた偏光板、さらにはこの偏光板を備えた画像表示装置を得ることができる。」(【0178】)という、甲4からは当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものである。

以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2の記載を参照したとしても、甲4発明から当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

イ 本件発明2について
本件発明2と甲4発明とを対比する。
甲1発明において、「この未延伸シートを、160℃の温度条件下、縦2.0倍、横2.4倍に延伸して(メタ)アクリル系樹脂フィルム(厚さ:40μm、面内位相差Δnd:0.8nm、厚み方向位相差Rth:1.5nm)を得て」は、「偏光子保護フィルム」が縦横に延伸された二軸延伸フィルムであることを意味し、「コロイダルシリカ(扶桑化学工業製、クォートロンPL−3、固形分:20重量%)」は本件発明2の「シリカ微粒子」に相当するから、上記アで述べた本件発明1と甲4発明との一致点から明らかなように、本件発明2と甲4発明とは、「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、二軸延伸フィルムである基材上に易接着層を形成するための組成物であって、カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)とシリカ微粒子とを含む易接着層形成用組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点2−1−4)
易接着層形成用組成物の成分について、本件発明2は、「エポキシ化合物(B)」が含まれるのに対し、甲4発明の「易接着剤組成物」には、エポキシ化合物は含まれない点。
(相違点2−2−4)
易接着層形成用組成物の「ポリウレタン樹脂」について、本件発明2は、「カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)」であるのに対し、甲4発明の「ポリエステルウレタン(第一工業製薬製、商品名:スーパーフレックス210 固形分:33%)」は、ポリウレタン樹脂であるとしても、カルボキシル基を有するかどうか不明な点。

ここで、上記相違点2−1−4について検討すると、上記相違点2−1−4は、上記アで述べた本件発明1と甲4発明との相違点1−1−4と同一であるから、本件発明1と同様に、当業者が容易に想到し得るものではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2の記載を参照したとしても、甲4発明から当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

ウ 本件発明3〜5及び7〜17
本件発明3〜5及び7〜17は、本件発明1又は2を直接的又は間接的に引用して、さらに限定するものであるから、本件発明1及び2と同様に、甲2の記載を参照したとしても、甲4発明から当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

エ まとめ
以上のとおり、理由2は理由がない。

3 理由3(特許法第29条2項、甲5を主引用例とする取消理由)
(1)甲5には以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
脂環式構造含有重合体またはアクリル重合体を含む樹脂からなる表面層を有する基材フィルムと、この基材フィルムにおける前記表面層上に形成される易接着層と、を備える複層フィルムであって、
前記易接着層は、極性基を有する樹脂Aと、前記樹脂A中の前記極性基と反応する官能基を分子内に2以上有する架橋剤と、を備える水系樹脂組成物を用いて形成される層であり、
前記架橋剤中の前記官能基は、エポキシ基、カルボジイミド基、および/またはオキザゾリン基である、複層フィルム。
【請求項2】
前記樹脂Aは、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、および/またはポリエステル樹脂である、請求項1に記載の複層フィルム。
【請求項3】
前記水系樹脂組成物は、1または2種類以上の微粒子をさらに含む、請求項1または2に記載の複層フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の複層フィルムを備える偏光板保護フィルム。
【請求項5】
偏光子と、請求項4に記載の偏光板保護フィルムとを備える偏光板。」
イ 「【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0004】
しかしながら、脂環式構造含有重合体またはアクリル重合体を含む樹脂からなる層を有するフィルムの中には、他の部材との接着性が必ずしも十分ではない場合がある。このため、当該フィルムの表面に易接着層を設ける場合がある。なお、易接着層とは、必要に応じて接着剤を介してフィルムを何らかの部材と貼り合わせる際に、フィルムの接着力を補強して、より強固に接着させる層である。易接着層については、ウレタン樹脂により形成したものが従来から提案されている(特許文献1参照)。
・・・(中略)・・・
【0006】
しかしながら、易接着層には、より一層高い接着力が求められており、たとえば、従来の易接着層を備える複層フィルムを、例えば偏光子と貼り合せた後に高温高湿度の環境下に長時間置くと接着力が低下することがあった。
【0007】
本発明の目的は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、脂環式構造含有重合体またはアクリル重合体を含む樹脂からなる表面層を有する基材フィルムと、この基材フィルムにおける前記表面層上に形成される易接着層と、を備える複層フィルムであって、高温高湿度環境であってもその接着力を長期間維持できる複層フィルムを提供することである。また、本発明の他の目的は、接着力の高い複層フィルムを用いることにより、耐久性に優れる偏光板保護フィルムおよび偏光板を提供することである。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、脂環式構造含有重合体またはアクリル重合体を含む樹脂からなる表面層を有する基材フィルムにおける前記表面層と他の部材との接着力がより一層高く、かつ、高温高湿度環境であってもその接着力を長期間維持できる複層フィルムを提供できる。また、本発明によれば、接着力の高い複層フィルムを用いることにより、耐久性に優れる偏光板保護フィルムおよび偏光板を提供できる。」
ウ 「【0013】
<基材フィルム>
基材フィルムは、脂環式構造含有重合体またはアクリル重合体を含む樹脂からなる表面層を有する。したがって、基材フィルムが1層のみを有する単層構造のフィルムである場合、脂環式構造含有重合体樹脂からなる層またはアクリル樹脂からなる層のみによって基材フィルムが形成される。・・・(中略)・・・」
エ 「【0038】
<アクリル樹脂>
アクリル重合体とは、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸誘導体の重合体を意味し、例えばアクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸およびメタクリル酸エステルなどの重合体及び共重合体が挙げられる。・・・(中略)・・・
【0039】
アクリル重合体としては、(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位を含む重合体が好ましい。その場合、アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステルのみからなる単独重合体若しくは共重合体でもよく、また、(メタ)アクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体との共重合体でもよい。
・・・(中略)・・・
【0043】
アクリル重合体は、アクリル酸又はアクリル酸誘導体のみの重合体であってもよいが、アクリル酸又はアクリル酸誘導体とこれに共重合可能な単量体との共重合体でもよい。共重合可能な単量体としては、例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、並びに、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、・・・(中略)・・・などが挙げられる。・・・(中略)・・・
【0045】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、モノカルボン酸、多価カルボン酸、多価カルボン酸の部分エステル及び多価カルボン酸無水物のいずれでもよく、その具体例としては、・・・(中略)・・・、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。」
オ 「【0073】
基材フィルムは、延伸されていない未延伸フィルムであってもよく、延伸された延伸フィルムであってもよい。・・・(中略)・・・
【0074】
延伸方法は特に制限されず、例えば、一軸延伸法、二軸延伸法のいずれを採用してもよい。・・・(中略)・・・」
カ 「【0080】
<水系樹脂組成物>
水系樹脂組成物は、極性基を有する樹脂Aと、樹脂A中の極性基と反応する官能基を分子内に2以上有する架橋剤とを含む組成物であって、水溶性または水分散性を有する。
【0081】
<極性基を有する樹脂A>
極性基を有する樹脂Aとしては、水溶性または水分散性を有し、架橋剤により架橋され得る樹脂であればよく特に限定されない。極性基を有する樹脂Aとしては、たとえば、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の種々のポリマーに極性基を導入したものを用いることができる。極性基としては、カルボキシル基、・・・(中略)・・・などが挙げられ、メチロール基、水酸基、カルボキシル基、およびアミノ基のいずれかの基であることが好ましく、水酸基またはカルボキシル基がより好ましく、カルボキシル基が特に好ましい。・・・(中略)・・・
【0085】
ポリウレタン樹脂としては、水系ウレタン樹脂として市販されているものを用いてもよい。水系ウレタン樹脂とは、ポリウレタン樹脂と水とを含む組成物であり、通常、ポリウレタン及び必要に応じて含まれる他の成分が水の中に分散しているものである。・・・(中略)・・・」
キ 「【0088】
<架橋剤>
前記架橋剤は、特に限定されないが、前記樹脂Aにおける極性基と反応して結合を形成できる官能基を分子内に2個以上有する化合物である。架橋剤としては、たとえば、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0089】
<エポキシ化合物>
エポキシ化合物としては、分子内に2個以上のエポキシ基を有する多官能のエポキシ化合物を用いることができる。これにより、架橋反応を進行させて樹脂Aからなる易接着層の機械的強度を効果的に向上させることができる。
・・・(中略)・・・
【0092】
より具体的に、前記エポキシ化合物としては、1,4−ビス(2’,3’−エポキシプロピルオキシ)ブタン、1,3,5−トリグリシジルイソシアヌレート、1,3−ジクリシジル−5−(γ−アセトキシ−β−オキシプロピル)イソシヌレート、ソルビトールポリグリシジルエーテル類、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類、ジグリセロ−ルポリグルシジルエーテル、1,3,5−トリグリシジル(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、グリセロールポリグリセロールエーテル類およびトリメチロ−ルプロパンポリグリシジルエーテル類等のエポキシ化合物が好ましく、その具体的な市販品としては、例えばナガセケムテックス社製の「デナコール(デナコールEX−521,EX−614Bなど)」シリーズ等を挙げることができる。
【0093】
エポキシ化合物の量は、樹脂Aを100重量部に対し、通常2重量部以上、好ましくは5重量部以上、より好ましくは8重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは16重量部以下、より好ましくは14重量部以下である。・・・(中略)・・・」
ク 「【0110】
<その他の成分>
水系樹脂組成物は、本発明の効果を著しく損わない限り、前記した以外のその他の成分を含んでいてもよい。このような構成によれば、易接着層が微粒子を含むことにより、易接着層の表面に凹凸を形成できる。・・・(中略)・・・
【0111】
また、水系樹脂組成物は、1種類または2種類以上の微粒子をさらに含むことが好ましい。このような構成によれば、易接着層が微粒子を含むことにより、易接着層の表面に凹凸を形成できる。このような凹凸が形成されることにより、複層フィルムを長尺状に形成した場合には、この複層フィルムの巻回時に易接着層が他の層と接触する面積が小さくなることにより、その分だけ易接着層の表面の滑り性を向上させて、本発明の複層フィルムを巻回する際のシワの発生を抑制できる。
・・・(中略)・・・
【0113】
微粒子としては、無機微粒子、有機微粒子のいずれを用いてもよいが、水分散性の微粒子を用いることが好ましい。無機微粒子の材料を挙げると、例えば、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア等の無機酸化物・・・(中略)・・・等が挙げられる。・・・(中略)・・・これらの中でも、シリカが好ましい。シリカの微粒子は、シワの発生を抑制する能力及び透明性に優れ、ヘイズを生じ難く、着色が無いため、本発明の複層フィルムの光学特性に与える影響がより小さいからである。また、シリカはウレタン樹脂への分散性および分散安定性が良好だからである。また、シリカの微粒子の中でも、非晶質コロイダルシリカ粒子が特に好ましい。」
ケ 「【0145】
基材フィルムの厚みt1と易接着層の厚みt2との比t2/t1は、0.0003以上が好ましく、0.0010以上がより好ましく、0.0025以上が特に好ましく、また、0.0100以下が好ましく、0.0080以下がより好ましく、0.0050以下が特に好ましい。・・・(中略)・・・」
コ 「【0149】
・・・(中略)・・・、本発明に係る複層フィルムを組み込んだ表示装置の表示画像の鮮明性を高めることができる。・・・(中略)・・・
【0151】
・・・(中略)・・・本発明の複層フィルムを液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に、表示品質を良好なものにすることが可能になる。・・・(中略)・・・
【0154】
<偏光板>
本発明の複層フィルムは、光学フィルムとして任意の用途に用いてもよい。・・・(中略)・・・本発明の複層フィルムは、偏光板保護フィルムとして用いることが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0156】
偏光板は、例えば、本発明の複層フィルムの易接着層と偏光子とを貼り合わせることにより製造できる。接着の際、易接着層に接着層を介することなく直接に偏光子を貼り合せてもよく、接着層を介して貼り合せてもよい。・・・(中略)・・・」
サ 「【実施例】
【0166】
・・・(中略)・・・なお、以下の説明において、量を示す「部」及び「%」は、別に断らない限り重量基準である。・・・(中略)・・・
【0167】
<製造例1:基材フィルムの製造>
脂環式構造含有重合体樹脂(ZEONOR1430、日本ゼオン社製;ガラス転移温度135℃)のペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて70℃で2時間乾燥した。その後、65mm径のスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するTダイ式のフィルム溶融押出し成形機を使用し、溶融樹脂温度270℃、Tダイの幅500mmの成形条件で、厚み100μm、長さ1000mの基材フィルムを製造した。この基材フィルムは、脂環式構造含有重合体樹脂からなる基材フィルムである。
【0168】
<製造例2:偏光子の製造>
厚み80μmのポリビニルアルコールフィルムを0.3%のヨウ素水溶液中で染色した。その後、4%のホウ酸水溶液及び2%のヨウ化カリウム水溶液中で5倍まで延伸した後、50℃で4分間乾燥させて偏光子を製造した。
【0169】
<製造例3:接着液の調製>
ゴーセファイマーZ410(日本合成化学工業製、アセトアセチル基を含むポリビニルアルコール)に水を加えて固形分3%に希釈し、接着液を製造した。
・・・(中略)・・・
【0170】
<実施例1>
<水系樹脂組成物1の調製>
極性基を有する樹脂Aであるポリウレタン樹脂の水分散体としてスーパーフレックス210(第一工業製薬社製、カルボキシル基含有エステル系ポリウレタン樹脂)を、含まれるポリウレタン樹脂が100部となる量取り、ここにエポキシ化合物であるデナコールEX−521(ナガセケムテックス社製)20部と、セバシン酸ジヒドラジド5部と、シリカ微粒子(平均粒子径100nm)8部と、水とを配合して、固形分5%の液状の水系樹脂組成物1を得た。
【0171】
<複層フィルムの製造>
コロナ処理装置(春日電機社製)を用いて、出力300W、電極長240mm、ワーク電極間3.0mm、搬送速度4m/minの条件で、製造例1で得た基材フィルムの表面に放電処理を施した。
【0172】
基材フィルムの放電処理を施した表面に、前記の液状の水系樹脂組成物1を、乾燥膜厚が0.5μmになるようにロールコーターを用いて塗布した。その後、テンター式横延伸機を用いて、基材フィルムの両端部をクリップで把持して延伸温度140℃で40秒かけて、延伸倍率2.0倍で連続的に横一軸延伸し、さらに左右両端の部分を裁断して除去した。これにより、塗布された水系樹脂組成物1を乾燥する工程と、フィルムを延伸する工程とが同時に実施され、基材フィルムの表面に易接着層が形成されて、配向軸が幅方向に一致した延伸複層フィルム1を得た。
・・・(中略)・・・
【0176】
<実施例5>
水系樹脂組成物1の代わりに下記水系樹脂組成物5を用いた以外は、実施例1と同様にして、延伸複層フィルム5を製造した。
<水系樹脂組成物5の調製>
極性基を有する樹脂Aであるポリウレタン樹脂の水分散体としてスーパーフレックス130(第一工業製薬社製、カルボキシル基含有エーテル系ポリウレタン樹脂)を、含まれるポリウレタン樹脂が100部となる量取り、ここにエポキシ化合物であるデナコールEX−521(ナガセケムテックス社製)20部と、セバシン酸ジヒドラジド5部と、シリカ微粒子(平均粒子径100nm)8部と、水とを配合して、固形分5%の液状の水系樹脂組成物5を得た。
・・・(中略)・・・
【0180】
<実施例9>
水系樹脂組成物1の代わりに下記水系樹脂組成物9を用いた以外は、実施例1と同様にして、延伸複層フィルム9を製造した。
<水系樹脂組成物9の調製>
極性基を有する樹脂Aであるポリウレタン樹脂の水分散体としてスーパーフレックス150HS(第一工業製薬社製、カルボキシル基含有エステル・エーテル系ポリウレタン樹脂)を、含まれるポリウレタン樹脂が100部となる量取り、ここにエポキシ化合物であるデナコールEX−521(ナガセケムテックス社製)20部と、セバシン酸ジヒドラジド5部と、シリカ微粒子(平均粒子径100nm)8部と、水とを配合して、固形分5%の液状の水系樹脂組成物9を得た。
・・・(中略)・・・
【0184】
<実施例13>
水系樹脂組成物1の代わりに下記水系樹脂組成物13を用いた以外は、実施例1と同様にして、延伸複層フィルム13を製造した。
<水系樹脂組成物13の調製>
極性基を有する樹脂Aであるポリウレタン樹脂の水分散体としてスーパーフレックス870(第一工業製薬社製、カルボキシル基含有エーテル系ポリウレタン樹脂)を、含まれるポリウレタン樹脂が100部となる量取り、ここにエポキシ化合物であるデナコールEX−521(ナガセケムテックス社製)20部と、セバシン酸ジヒドラジド5部と、シリカ微粒子(平均粒子径100nm)8部と、水とを配合して、固形分5%の液状の水系樹脂組成物13を得た。
・・・(中略)・・・
【0188】
<実施例17>
水系樹脂組成物1の代わりに下記水系樹脂組成物17を用いた以外は、実施例1と同様にして、延伸複層フィルム17を製造した。
<水系樹脂組成物17の調製>
極性基を有する樹脂Aであるポリウレタン樹脂の水分散体としてハイドランWLS201(DIC社製、カルボキシル基含有エーテル系ポリウレタン樹脂)を、含まれるポリウレタン樹脂が100部となる量取り、ここにエポキシ化合物であるデナコールEX−521(ナガセケムテックス社製)20部と、セバシン酸ジヒドラジド5部と、シリカ微粒子(平均粒子径100nm)8部と、水とを配合して、固形分5%の液状の水系樹脂組成物17を得た。
・・・(中略)・・・
【0192】
<実施例21>
水系樹脂組成物1の代わりに下記水系樹脂組成物21を用いた以外は、実施例1と同様にして、延伸複層フィルム21を製造した。
<水系樹脂組成物21の調製>
極性基を有する樹脂Aであるポリウレタン樹脂の水分散体としてハイドランWLS202(DIC社製、カルボキシル基含有エーテル系ポリウレタン樹脂)を、含まれるポリウレタン樹脂が100部となる量取り、ここにエポキシ化合物であるデナコールEX−521(ナガセケムテックス社製)20部と、セバシン酸ジヒドラジド5部と、シリカ微粒子(平均粒子径100nm)8部と、水とを配合して、固形分5%の液状の水系樹脂組成物21を得た。」
・・・(中略)・・・
【0204】
<接着力の評価:耐湿試験後の複合体の接着強度評価>
各実施例で製造した複層フィルムの易接着層の表面と、製造例3で製造した偏光子の片面とを、製造例4で製造した接着剤を用いてロールラミネーターで貼り合わせることにより、偏光板を製造した。次いで、所定の接着剤を介してガラス基板と、偏光板における易接着層とは反対側の面とを貼り合わせて複合体を形成した。得られた複合体を60℃、90%RHの恒温高湿槽中で200時間放置した。その後、複合体の端部および表面からカッターにて切り込みを入れ剥離を行った。偏光板とガラス基板の間で剥離が生じる場合は易接着層、および接着剤は十分な強度を保っているため○、偏光子と複層フィルムの間で剥離が起きる場合は強度不十分で×と評価した。
【0205】
実施例1〜実施例32は、接着強度評価試験において、十分な強度を保っており、その評価はいずれも「○」であった。」

(2)甲5に記載された発明(甲5発明)
甲5の請求項2に記載された複層フィルムについて、易接着層を形成する水系樹脂組成物に着目すれば、甲5には、次のものが記載されていると認められる。
「脂環式構造含有重合体またはアクリル重合体を含む樹脂からなる表面層を有する基材フィルムと、この基材フィルムにおける前記表面層上に形成される易接着層と、を備える複層フィルムであって、
前記易接着層は、極性基を有する樹脂Aと、前記樹脂A中の前記極性基と反応する官能基を分子内に2以上有する架橋剤と、を備える水系樹脂組成物を用いて形成される層であり、
前記樹脂Aは、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、および/またはポリエステル樹脂であり、
前記架橋剤中の前記官能基は、エポキシ基、カルボジイミド基、および/またはオキザゾリン基である、複層フィルムにおいて、
前記易接着層を形成するための上記水系樹脂組成物。」(以下、「甲5発明」という。)

(3)対比・判断
ア 本件発明5について
本件発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「脂環式構造含有重合体またはアクリル重合体を含む樹脂からなる表面層を有する基材フィルム」には、その具体例である実施例からみて、特段、架橋弾性体を含むことは想定されていないから、本件発明1の「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材」と甲5発明の「基材フィルム」とは、「架橋弾性体を含まない基材」である点で共通する。
本件発明1の「易接着層を形成するための組成物であって、カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含む易接着層形成用組成物」と甲5発明の「易接着層」を形成する「極性基を有する樹脂Aと、前記樹脂A中の前記極性基と反応する官能基を分子内に2以上有する架橋剤と、を備える水系樹脂組成物」とは、「易接着層を形成するための組成物である易接着層形成用組成物」である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲5発明とは、「架橋弾性体を含まない基材上に易接着層を形成するための組成物である易接着層形成用組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1−1−5)
基材の成分について、本件発明1では、「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され」た「基材」であるのに対し、甲5発明では、「脂環式構造含有重合体またはアクリル重合体を含む樹脂からなる表面層を有する基材フィルム」である点。
(相違点1−2−5)
易接着層を形成するための組成物である易接着層形成用組成物について、本件発明1では、「カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含む」のに対し、甲5発明では、「極性基を有する樹脂Aと、前記樹脂A中の前記極性基と反応する官能基を分子内に2以上有する架橋剤と、を備える水系樹脂組成物」であって、「前記樹脂Aは、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、および/またはポリエステル樹脂であり、前記架橋剤中の前記官能基は、エポキシ基、カルボジイミド基、および/またはオキザゾリン基である」点。

ここで、相違点1−1−5について検討する。
甲5の【0004】及び【0007】(上記(1)イ)の記載からみて、甲5発明は、「脂環式構造含有重合体またはアクリル重合体を含む樹脂からなる表面層を有する基材フィルム」と他の部材との接着において、高温高湿度環境であってもその接着力を長期間維持できる複層フィルムを提供しようとするものと解される。
そうすると、「基材フィルム」について、「脂環式構造含有重合体またはアクリル重合体を含む樹脂」以外の、本件発明1のような「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され」た「基材」は想定されているとはいえない。また、甲5には、「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され」た「基材」についての記載はなく、「基材」の材質が異なれば接着力は変化することは明らかであり、「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され」た「基材」に甲5発明の易接着層を形成した場合に、高温高湿度環境であってもその接着力を長期間維持できるものとなるかどうかは不明である。
これに対し、上記「1(3)」の相違点1−1−1において述べたように、本件発明1は、上記相違点1−1−5に係る発明特定事項を備えることで、「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され」た「基材上に、高温高湿下においてもアクリル樹脂基材との接着に優れた易接着層を形成することができるため、アクリル樹脂基材と偏光子をこの易接着層を介して積層することにより、高温高湿下においてもアクリル樹脂基材と偏光子の接着性に優れた偏光板、さらにはこの偏光板を備えた画像表示装置を得ることができる。」(【0178】)という、甲5からは当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものである。

以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明から当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

イ 本件発明2について
本件発明2と甲5発明とを対比する。
上記アで述べた本件発明1と甲5発明との一致点から明らかなように、本件発明2と甲5発明とは、「基材上に易接着層を形成するための組成物である易接着層形成用組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点2−1−5)
基材の成分について、本件発明1では、「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され」た「基材」であるのに対し、甲5発明では、「脂環式構造含有重合体またはアクリル重合体を含む樹脂からなる表面層を有する基材フィルム」である点。
(相違点2−2−5)
易接着層を形成するための組成物である易接着層形成用組成物について、本件発明1では、「カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とシリカ微粒子を含む」のに対し、甲5発明では、「極性基を有する樹脂Aと、前記樹脂A中の前記極性基と反応する官能基を分子内に2以上有する架橋剤と、を備える水系樹脂組成物」であって、「前記樹脂Aは、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、および/またはポリエステル樹脂であり、前記架橋剤中の前記官能基は、エポキシ基、カルボジイミド基、および/またはオキザゾリン基である」点。
(相違点2−3−5)
基材について、本件発明2では、二軸延伸フィルムであることが特定されているのに対し、甲5発明では、二軸延伸フィルムであることは規定されていない点。

ここで、上記相違点2−1−5について検討すると、上記相違点2−1−5は、上記アで述べた本件発明1と甲5発明との相違点1−1−5と同一であるから、本件発明1と同様に、当業者が容易に想到し得るものではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲5発明から当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

ウ 本件発明3〜5及び7〜17
本件発明3〜5及び7〜17は、本件発明1又は2を直接的又は間接的に引用して、さらに限定するものであるから、本件発明1及び2と同様に、甲5発明から当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

エ まとめ
以上のとおり、理由3は理由がない。

4 理由4(特許法第29条2項、甲8を主引用例とする取消理由)
(1)甲8の記載
甲8には、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を表面に有する基材フィルムと、ウレタン樹脂層とを備え、
前記ウレタン樹脂層は、
(A)ポリウレタン、
(B)エポキシ化合物、
(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、
(D)前記(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対して1.4当量〜2.7当量の、三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物
を含む樹脂を硬化させた層である、複層フィルム。
【請求項2】
前記(A)ポリウレタンが酸構造を含有し、
前記(B)エポキシ化合物の量が、前記(A)ポリウレタンの酸構造と当量になる前記(B)エポキシ化合物の量に対し、0.2倍〜1.4倍である、請求項1記載の複層フィルム。
・・・(中略)・・・
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の複層フィルムを備える、偏光板保護フィルム。
【請求項14】
偏光子と、請求項13記載の偏光板保護フィルムとを備える、偏光板。」
イ 「【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0004】
ところが、脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を有するフィルムのなかには、他の部材との接着性に劣るものがある。そこで、当該フィルムの表面に、易接着層を設けることが従来からなされてきた。易接着層とは、必要に応じて接着剤を介してフィルムを何らかの部材と貼り合わせる際に、フィルムの接着力を補強して、より強固に接着させる層である。易接着層については、ウレタン樹脂により形成したものが従来から提案されてきた(特許文献1〜3参照)。
・・・(中略)・・・
【0006】
ところが、ウレタン樹脂によって形成された易接着層は、耐水性に劣ることがあった。このため、従来の易接着層を備える複層フィルムを、例えば偏光子と貼り合せた後に高温高湿度の環境下に長時間置くと、接着力が低下することがあった。
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を有する基材フィルムを備えた複層フィルムであって、接着力が高く、且つ、高湿度環境であってもその接着力が低下し難い複層フィルムを提供することを目的とする。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を有する基材フィルムを備え、接着力が高く、且つ、高湿度環境であってもその接着力が低下し難い複層フィルムを提供できる。
・・・(中略)・・・
さらに、本発明によれば、本発明の複層フィルムを備えた偏光板保護フィルム及び偏光板を提供できる。」
ウ 「【0041】
〔2−2.アクリル樹脂〕
アクリル重合体とは、アクリル酸又はアクリル酸誘導体の重合体を意味し、例えばアクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸およびメタクリル酸エステルなどの重合体及び共重合体が挙げられる。・・・(中略)・・・
【0042】
アクリル重合体としては、(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位を含む重合体が好ましい。その場合、アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステルのみからなる単独重合体若しくは共重合体でもよく、また、(メタ)アクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体との共重合体でもよい。
・・・(中略)・・・
【0046】
アクリル重合体は、アクリル酸又はアクリル酸誘導体のみの重合体であってもよいが、アクリル酸又はアクリル酸誘導体とこれに共重合可能な単量体との共重合体でもよい。共重合可能な単量体としては、例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、並びに、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、・・・(中略)・・・などが挙げられる。・・・(中略)・・・
【0048】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、モノカルボン酸、多価カルボン酸、多価カルボン酸の部分エステル及び多価カルボン酸無水物のいずれでもよく、その具体例としては、・・・(中略)・・・、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0058】
アクリル樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、アクリル重合体以外にもその他の成分を含んでいてもよい。・・・(中略)・・・」
エ 「【0070】
〔2−3.基材フィルムの構造及び物性等〕
基材フィルムは、一層のみを備える単層構造のフィルム層であってもよく、二層以上の層を備える複層構造のフィルム層であってもよい。・・・(中略)・・・
【0076】
基材フィルムは、延伸されていない未延伸フィルムであってもよく、延伸された延伸フィルムであってもよい。・・・(中略)・・・」
オ 「【0082】
[3.ウレタン樹脂層]
ウレタン樹脂層は、(A)ポリウレタン、(B)エポキシ化合物、(C)成分{即ち、一級アミン及び二級アミンの一方又は両方}、並びに、(D)成分{即ち、三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物}を含む未硬化状態のウレタン樹脂を硬化させた層である。ウレタン樹脂層は易接着層として機能し、接着剤を介して基材フィルムを他の部材(例えば、偏光子等)と貼り合わせる際に、接着剤による基材フィルムと他の部材との接着を補強して、より強固に接着させようになっている。すなわち、ウレタン樹脂層は、接着剤の機能を補強する層であり、別称としてプライマー層などと呼ばれる。
・・・(中略)・・・
【0095】
ポリウレタンは、酸構造を有することが好ましい。・・・(中略)・・・このようなポリウレタンを用いたウレタン樹脂層は、界面活性剤が不要であるために、脂環式構造含有重合体樹脂及びアクリル樹脂との接着性に優れ、かつ高い透明性を維持できるため、好ましい。
【0096】
酸構造としては、例えば、カルボキシル基(−COOH)、スルホン酸基(−SO3H)等の酸基などを挙げることができる。・・・(中略)・・・
【0098】
ポリウレタンに酸構造を導入する方法は、従来から用いられている方法が特に制限なく使用できる。好ましい例を挙げると、ジメチロールアルカン酸を、前記(2)から(4)に記載したグリコール成分の一部もしくは全部と置き換えることによって、予めポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール等にカルボキシル基を導入する方法が挙げられる。ここで用いられるジメチロールアルカン酸としては、例えば、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸などが挙げられる。・・・(中略)・・・
【0101】
ポリウレタンとしては、水系ウレタン樹脂として市販されているものを用いてもよい。水系ウレタン樹脂とは、ポリウレタンと水とを含む組成物であり、通常、ポリウレタン及び必要に応じて含まれる他の成分が水の中に分散しているものである。・・・(中略)・・・」
カ 「【0102】
〔3−2.(B)エポキシ化合物〕
エポキシ化合物は架橋剤として機能する成分であり、エポキシ化合物を用いることによってウレタン樹脂層の機械的強度を高めることができる。また、エポキシ化合物が有する極性構造により、接着力を向上させる作用も見込まれる。
【0103】
エポキシ化合物としては、エポキシ基を有する化合物を用いる。通常は、1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を用いる。これにより、架橋反応を進行させてウレタン樹脂層の機械的強度を効果的に向上させることができる。
・・・(中略)・・・
【0106】
エポキシ化合物の量は、ポリウレタン100重量部に対し、通常2重量部以上、好ましくは5重量部以上、より好ましくは8重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは16重量部以下、より好ましくは14重量部以下である。・・・(中略)・・・」
キ 「【0128】
〔3−6.その他の成分〕
・・・(中略)・・・
【0129】
例えば、未硬化状態のウレタン樹脂は、さらに微粒子を含むことが好ましい。これにより、ウレタン樹脂層も微粒子を含むことになり、ウレタン樹脂層の表面に凹凸を形成できる。これにより、巻回の際にウレタン樹脂層が他の層と接触する面積が小さくなり、その分だけウレタン樹脂層の表面の滑り性を向上させて、本発明の複層フィルムを巻回する際のシワの発生を抑制できる。
・・・(中略)・・・
【0131】
微粒子としては、無機微粒子、有機微粒子のいずれを用いてもよいが、水分散性の微粒子を用いることが好ましい。無機微粒子の材料を挙げると、例えば、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア等の無機酸化物・・・(中略)・・・等が挙げられる。・・・(中略)・・・これらの中でも、シリカが好ましい。シリカの微粒子は、シワの発生を抑制する能力及び透明性に優れ、ヘイズを生じ難く、着色が無いため、本発明の複層フィルムの光学特性に与える影響がより小さいからである。また、シリカはウレタン樹脂への分散性および分散安定性が良好だからである。また、シリカの微粒子の中でも、非晶質コロイダルシリカ粒子が特に好ましい。
・・・(中略)・・・」
ク 「【0169】
基材フィルムの厚みt1とウレタン樹脂層の厚みt2との比t2/t1は、0.0003以上が好ましく、0.0010以上がより好ましく、0.0025以上が特に好ましく、また、0.0100以下が好ましく、0.0080以下がより好ましく、0.0050以下が特に好ましい。」
ケ 「【0173】
・・・(中略)・・・本発明に係る複層フィルムを組み込んだ表示装置の表示画像の鮮明性を高めることができる。・・・(中略)・・・
【0175】
・・・(中略)・・・本発明の複層フィルムを液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に、表示品質を良好なものにすることが可能になる。・・・(中略)・・・
【0178】
[6.偏光板]
本発明の複層フィルムは、光学フィルムとして任意の用途に用いてもよい。・・・(中略)・・・本発明の複層フィルムは、偏光板保護フィルムとして用いることが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0180】
偏光板は、例えば、本発明の複層フィルムのウレタン樹脂層と偏光子とを貼り合わせることにより製造できる。接着の際、ウレタン樹脂層に接着層を介することなく直接に偏光子を貼り合せてもよく、接着層を介して貼り合せてもよい。・・・(中略)・・・」
コ 「【実施例】
【0185】
・・・(中略)・・・なお、以下の説明において、量を示す「部」及び「%」は、別に断らない限り重量基準である。・・・(中略)・・・
【0186】
[製造例1:基材フィルム(I)の製造]
脂環式構造含有重合体樹脂(ZEONOR1430、日本ゼオン社製;ガラス転移温度135℃)のペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて70℃で2時間乾燥した。その後、65mm径のスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するTダイ式のフィルム溶融押出し成形機を使用し、溶融樹脂温度270℃、Tダイの幅500mmの成形条件で、厚み100μm、長さ1000mの基材フィルム(I)を製造した。この基材フィルム(I)は、脂環式構造含有重合体樹脂からなる基材フィルムである。
【0187】
[製造例2:基材フィルム(II)の製造]
ゴム粒子を含むメタクリル樹脂(ガラス転移温度105℃、ビカット軟化温度103℃)からなるb層、スチレン−無水マレイン酸共重合体(ダイラークD332、ノヴァケミカルジャパン社製、ガラス転移温度130℃、ビカット軟化温度130℃、オリゴマー成分含有量3重量%)からなるa層を、b層(厚み70μm)−a層(厚み40μm)−b層(厚み70μm)の順に備える未延伸の3層構造のフィルムを、共押出成形により得た。得られたフィルムを、延伸温度134℃、延伸速度107%/分、MD方向の延伸倍率1.6倍、TD方向の延伸倍率1.2倍で同時に二軸延伸し、幅1200mm、厚み(総厚)94μmの延伸フィルムを基材フィルム(II)として得た。この基材フィルム(II)は、表面にアクリル樹脂からなる層を有する基材フィルムである。
【0188】
[製造例3:偏光子の製造]
厚み80μmのポリビニルアルコールフイルムを0.3%のヨウ素水溶液中で染色した。その後、4%のホウ酸水溶液及び2%のヨウ化カリウム水溶液中で5倍まで延伸した後、50℃で4分間乾燥させて偏光子を製造した。
【0189】
[製造例4:接着液の調製]
ゴーセファイマーZ410(日本合成化学工業製、アセトアセチル基を含むポリビニルアルコール)に水を加えて固形分3%に希釈し、接着液を製造した。
【0190】
[実施例1]
〔(A)ポリウレタンの準備〕
温度計、攪拌機、窒素導入管および冷却管を備えた四つ口フラスコに、ポリエステルポリオールであるマキシモールFSK−2000(川崎化成工業社製、水酸基価56mgKOH/g)840部、トリレンジイソシアネート119部、およびメチルエチルケトンを200部入れ、窒素を導入しながら75℃で1時間反応させた。反応終了後、60℃まで冷却し、ジメチロールプロピオン酸35.6部を加え、75℃で反応させて、酸構造を含有するポリウレタンの溶液を得た。前記のポリウレタンのイソシアネート基(−NCO基)の含有量は0.5%であった。
【0191】
次いで、このポリウレタンの溶液を40℃にまで冷却し、水1500部、イソフタル酸ジヒドラジド(沸点224℃以上)51.4部(ポリウレタン100部に対し3部)を加え、ホモミキサーで高速撹拌することにより乳化を行った。この乳化液から加熱減圧下によりメチルエチルケトンを留去し、中和されたポリウレタンの水分散体を得た。この水分散体の固形分濃度は40%であった。
【0192】
〔液状樹脂の調製〕
さらに、この水分散体を、含まれるポリウレタンが100部となる量取り、ここにエポキシ化合物であるデナコールEX−313(ナガセケムテックス社製、グリセロール ポリグリシジル エーテル、エポキシ当量141g/eq)10部と、シリカ微粒子(平均粒子径100nm)8部と、イミダゾール(沸点257℃)4.3部と、水とを配合して、未硬化状態のウレタン樹脂として固形分5%の液状の水系樹脂を得た。これは、計算上、デナコールEX−313のエポキシ基1当量に対して、イミダゾールを1.8当量配合させたものである。
【0193】
〔複層フィルムの製造〕
コロナ処理装置(春日電機社製)を用いて、出力300W、電極長240mm、ワーク電極間3.0mm、搬送速度4m/minの条件で、製造例1で得た基材フィルムIの表面に放電処理を施した。
【0194】
基材フィルムIの放電処理を施した表面に、前記の液状の水系樹脂を、乾燥膜厚が0.5μmになるようにロールコーターを用いて塗布した。その後、テンター式横延伸機を用いて、基材フィルムIの両端部をクリップで把持して延伸温度140℃で40秒かけて、延伸倍率2.0倍で連続的に横一軸延伸し、さらに左右両端の部分を裁断して除去した。
これにより、塗布された水系樹脂を乾燥する工程と、フィルムを延伸する工程とが同時に実施され、基材フィルムIの表面にウレタン樹脂層が形成されて、配向軸が幅方向に一致した延伸複層フィルム1を得た。
・・・(中略)・・・
【0197】
[実施例4]
エポキシ化合物の種類をデナコールEX−521(ナガセケムテックス社製、ポリグリセロール ポリグリシジル エーテル、エポキシ当量183g/eq)に変更したこと、イソフタル酸ジヒドラジドの代わりにアジピン酸ジヒドラジド(沸点270℃)をポリウレタン100部に対し3部となる量用いたこと、並びに、イミダゾールの代わりに2−メチルイミダゾール(沸点270℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム4を製造した。この際、デナコールEX−521のエポキシ基1当量に対して、2−メチルイミダゾールは1.9当量であった。
・・・(中略)・・・
【0200】
[実施例7]
基材フィルムIの代わりに製造例2で得た基材フィルムIIを用いたこと、イソフタル酸ジヒドラジドの代わりにアジピン酸ジヒドラジド(沸点270℃)をポリウレタン100部に対し3部となる量用いたこと、イミダゾールの代わりに2−メチル−2−イミダゾリン(沸点144℃)を5.5部用いたこと、シリカ微粒子の代わりにアクリル樹脂微粒子(平均粒子径100nm)を用いたこと、並びに、延伸温度を100℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム7を製造した。この際、デナコールEX−313のエポキシ基1当量に対する2−メチル−2−イミダゾリンの当量は1.8当量であった。
【0201】
[実施例8]
基材フィルムIの代わりに製造例2で得た基材フィルムIIを用いたこと、エポキシ化合物の種類をPG−207GS(新日鐵化学社製、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量320g/eq)に変更したこと、イソフタル酸ジヒドラジドの代わりにモノエタノールアミン(沸点171℃)をポリウレタン100部に対し3部となる量用いたこと、イミダゾールの量を2.0部にしたこと、並びに、延伸温度を134℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム8を製造した。この際、PG−207GSのエポキシ基1当量に対して、イミダゾールは1.9当量であった。
・・・(中略)・・・
【0209】
[接着力の評価]
〔初期の偏光板のピール強度測定〕
実施例又は比較例で製造した延伸複層フィルム又は複層フィルムのウレタン樹脂層の表面と、製造例3で製造した偏光子の片面とを、製造例4で製造した接着剤を用いてロールラミネーターで貼り合わせることにより、偏光板を製造した。得られた偏光板を幅10mmに切断し、偏光子とフィルムとを90°方向に引っ張り、剥がれる際の引っ張り力(90°ピール強度)を測定した。測定は20mmの長さで行い、その際の平均値(平均ピール強度)を求めた。なお、測定機としては万能引張圧縮試験機(TCM−500CR:新興通信工業社製)を用い、引張速度20mm/分で試験を実施した。結果を表1〜3に示す。
【0210】
〔耐湿試験後の偏光板のピール強度測定〕
前記のように作製した偏光板を60℃、90%RHの恒温高湿槽中で200時間放置した。その後、得られた偏光板を幅10mmに切断し、上記の〔初期の偏光板のピール強度測定〕と同様にして、平均ピール強度を求めた。結果を表1〜3に示す。
【表1】

【0211】
【表2】



(2)甲8に記載された発明(甲8発明)
甲8の請求項1に記載された複層フィルムは、基材フィルムとウレタン樹脂層とを備え、ウレタン樹脂層は、特定の樹脂を硬化させたものであるところ、硬化させる前の樹脂に着目すれば、甲8には、次のものが記載されていると認められる。
「脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を表面に有する基材フィルムと、硬化されたウレタン樹脂層とを備えた複層フィルムにおいて、硬化されたウレタン樹脂層を形成させるための、
(A)ポリウレタン、(B)エポキシ化合物、(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、(D)前記(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対して1.4当量〜2.7当量の、三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物を含む樹脂。」

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲8発明とを対比する。
甲8発明の「脂環式構造含有重合体またはアクリル重合体を含む樹脂からなる表面層を有する基材フィルム」には、その具体例である実施例からみて、特段、架橋弾性体を含むことは必須ではないことから、本件発明1の「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材」と甲8発明の「基材フィルム」とは、「架橋弾性体を含まない基材」である点で共通する。
甲8発明の「硬化されたウレタン樹脂層」は、【0082】(上記(1)オ)の「ウレタン樹脂層は、接着剤の機能を補強する層であり、別称としてプライマー層などと呼ばれる。」という記載等からみて、本件発明1の「易接着層」に相当するものであって、本件発明1の「易接着層を形成するための組成物であって、カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含む易接着層形成用組成物」と甲8発明の「硬化されたウレタン樹脂層を形成させるための、(A)ポリウレタン、(B)エポキシ化合物、(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、(D)前記(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対して1.4当量〜2.7当量の、三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物を含む樹脂」とは、「易接着層を形成するための組成物であって、ポリウレタン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含む易接着層形成用組成物」である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲8発明とは、「架橋弾性体を含まない基材上に易接着層を形成するための組成物であるポリウレタン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含む易接着層形成用組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1−1−8)
基材について、本件発明1では、「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され」た「基材」であるのに対し、甲8発明では、「脂環式構造含有重合体またはアクリル重合体を含む樹脂からなる表面層を有する基材フィルム」である点。
(相違点1−2−8)
易接着層形成用組成物に含まれるウレタン樹脂について、本件発明1では、「カルボキシル基を有する」ものであるのに対し、甲8発明では「(A)ポリウレタン」にカルボキシル基を有することは規定されていない点。

ここで、相違点1−1−8について検討する。
甲8の【0004】及び【0006】(上記(1)イ)の記載からみて、甲8発明は、「脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる表面層を有する基材フィルム」と他の部材との接着において、高温高湿度環境であってもその接着力が低下し難い複層フィルムを提供しようとするものと解される。
そうすると、甲8発明においては、「基材フィルム」について、「脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂」以外の、本件発明1のような「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され」た「基材」は想定されているとはいえない。また、甲8には、「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され」た「基材」についての記載はなく、「基材」の材質が異なれば接着力は変化することは明らかであり、「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され」た「基材」に甲8発明の易接着層を形成した場合に、高温高湿度環境であってもその接着力が低下し難いものとなるかどうかは不明である。
これに対し、上記「1(3)」の相違点1−1−1において述べたように、本件発明1は、上記相違点1−1−8に係る発明特定事項を備えることで、「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され」た「基材上に、高温高湿下においてもアクリル樹脂基材との接着に優れた易接着層を形成することができるため、アクリル樹脂基材と偏光子をこの易接着層を介して積層することにより、高温高湿下においてもアクリル樹脂基材と偏光子の接着性に優れた偏光板、さらにはこの偏光板を備えた画像表示装置を得ることができる。」(【0178】)という、甲8からは当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものである。

以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲8発明から当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

イ 本件発明2について
本件発明2と甲8発明とを対比する。
上記アで述べた本件発明1と甲8発明との一致点から明らかなように、本件発明2と甲8発明とは、「基材上に易接着層を形成するための組成物であるポリウレタン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含む易接着層形成用組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点2−1−8)
基材の成分について、本件発明2では、「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され」た「基材」であるのに対し、甲8発明では、「脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる表面層を有する基材フィルム」である点。
(相違点2−2−8)
易接着層形成用組成物に含まれるウレタン樹脂について、本件発明2では、「カルボキシル基を有する」ものであるのに対し、甲8発明では「(A)ポリウレタン」にカルボキシル基を有することは規定されていない点。
(相違点2−3−8)
易接着層形成用組成物の成分について、本件発明2では、「シリカ微粒子」が含まれるのに対し、甲8発明の「樹脂」には「シリカ微粒子」は含まれない点。
(相違点2−4−8)
基材について、本件発明2では、二軸延伸フィルムであることが特定されているのに対し、甲8発明では、二軸延伸フィルムであることは規定されていない点。

ここで、上記相違点2−1−8について検討すると、上記相違点2−1−8は、上記アで述べた本件発明1と甲8発明との相違点1−1−8と同一であるから、本件発明1と同様に、当業者が容易に想到し得るものではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲8発明から当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

ウ 本件発明3〜5及び7〜17
本件発明3〜5及び7〜17は、本件発明1又は2を直接的又は間接的に引用して、さらに限定するものであるから、本件発明1及び2と同様に、甲8発明から当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

エ まとめ
以上のとおり、理由4は理由がない。

5 理由5(特許法第29条の2、甲10を先願とする取消理由)
(1)甲10の記載(甲10発明)
甲10は、本件特許の優先日前に出願され且つ本件特許の優先日後であって出願日前に出願公開されたものであり、甲10には以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
カルボキシル基を有するポリウレタン、および、エポキシ基を有する架橋剤を含有する易接着剤組成物からなる易接着層、並びに、架橋弾性体を含む(メタ)アクリル系樹脂フィルムを有する、偏光子保護フィルム。
・・・(中略)・・・
【請求項6】
偏光子と、接着剤層と、請求項1〜5のいずれか一項に記載の偏光子保護フィルムとを有する偏光板。」
イ 「【背景技術】
【0002】
・・・(中略)・・・、偏光子保護フィルムとしては、通常、セルロース系材料からなるフィルムが使用される。近年、耐久性の向上を目的として、(メタ)アクリル系材料からなる偏光子保護フィルムが提案されている。
【0003】
(メタ)アクリル系フィルムは強度が低いことから、強度向上のために二軸延伸などの処理を施こしたり、架橋弾性体を含有させたり等の検討が行われている。
【0004】
しかし、一般に(メタ)アクリル系フィルムは、セルロース系フィルムに比較し偏光子との親和性が乏しいことから、接着性を向上させるために(メタ)アクリル系フィルムに親水化処理(コロナ放電処理やプラズマ処理)を施すことや、易接着層を設けることが提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
特に、架橋弾性体を含む(メタ)アクリル系樹脂フィルムは偏光子との密着性がさらに劣る傾向があるため、架橋弾性体を含む(メタ)アクリル系樹脂フィルムに適した接着性向上の改善法を検討する必要がある。」
ウ 「【0018】
・・・(中略)・・・
A.架橋弾性体を含む(メタ)アクリル系樹脂フィルム
架橋弾性体を含む(メタ)アクリル系樹脂フィルム(以下、「本発明のアクリル系樹脂フィルム」と称することがある。)は、(メタ)アクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂組成物から形成される。なお、本願において、「(メタ)アクリル」は「アクリルまたはメタクリル」を意味する。
・・・(中略)・・・
【0020】
上記(メタ)アクリル系樹脂としては、Tg(ガラス転移温度)が、90℃以上が好ましく、105℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。Tgが90℃以上である(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含むことにより、耐熱性、耐久性に優れたものとなる。
・・・(中略)・・・
【0022】
また、より高い耐熱性を有する(メタ)アクリル系樹脂として、グルタル酸無水物構造を有する(メタ)アクリル系樹脂、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂、グルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂、N−置換マレイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0072】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、フィルムの機械的強度に優れることから、未延伸フィルム、1軸延伸フィルム、2軸延伸フィルムのいずれでも好適に使用できる。
・・・(中略)・・・
【0074】
本発明のアクリル系樹脂フィルムの厚さは、5〜200μmが好ましく、10〜100μmがより好ましい。」
エ 「【0076】
・・・(中略)・・・
B.易接着層
易接着層は、本発明のアクリル系樹脂フィルムの表面上に、カルボキシル基を有するポリウレタン、および、エポキシ基を有する架橋剤を含有する易接着剤組成物(以下、「本発明の易接着剤組成物」と称することがある。)を塗布後、乾燥することで形成される。
・・・(中略)・・・
【0092】
・・・(中略)・・・
易接着剤組成物中の架橋剤の含有量は、カルボキシル基を有するポリウレタン100重量部に対して、好ましくは0.01〜30重量部、さらに好ましくは0.1〜20重量部である。
【0093】
易接着層の厚みは、任意の適切な値に設定できる。好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは0.1〜5μm、特に好ましくは0.2〜1.5μmである。このような範囲に設定することにより、優れた偏光子との密着性を発現できる。
・・・(中略)・・・
【0097】
本発明の易接着剤組成物には、任意の適切な添加剤をさらに含有しても良い。添加剤としては、例えば、ブロッキング防止剤、分散安定剤、揺変剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、分散剤、界面活性剤、触媒、フィラー、滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。」
オ 「【0098】
偏光板5は、偏光子1と、接着剤層2と、易接着層3と、アクリル系樹脂フィルム4の順に積層したものである。」
カ 「【実施例1】
【0118】
(架橋弾性体を含む(メタ)アクリル系樹脂フィルムの製造)
パラペットHR−S{共重合モノマー重量比=メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル=99/1}90重量部と製造例1で得られた架橋弾性体10重量部とを二軸押出機で混練してペレット化した。得られたペレットを二軸押し出し機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出しして、厚さ100μmのフィルムを得た。この未延伸フィルムを、130℃の温度条件下、縦1.6倍、横1.6倍に延伸して架橋弾性体を含む(メタ)アクリル系樹脂フィルム(厚さ40μm、面内位相差Δnd0.8nm、厚み方向位相差Rth1.5nm)を得た。
【0119】
(コロナ放電処理)
上記で得られた架橋弾性体を含む(メタ)アクリル系樹脂フィルムの片側に、コロナ放電処理(コロナ放電電子照射量:77W/m2/min)を施した。
【0120】
(易接着層の形成)
カルボキシル基を有する水系ポリウレタン(第一工業製薬製、商品名:スーパーフレックス210、固形分:33%)100重量部に対して、エポキシ系架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX−810、固形分:100%、エポキシ当量:113g/eq)1.3重量部、純水を250重量部加え、コロナ放電処理を施した架橋弾性体を含む(メタ)アクリル系保護フィルムのコロナ放電処理面に、バーコーター(#3)で塗布し、塗膜を形成した。その後フィルムを熱風乾燥機(80℃)に投入し、塗膜を約5分乾燥させて、易接着層(0.2〜0.4μm)を形成し、偏光子保護フィルムを得た。
【0121】
(接着剤組成物の調製)
アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(平均重合度:1200、ケン化度:98.5モル%,アセトアセチル基変性度:5モル%)100重量部に対し、メチロールメラミン20重量部を70℃の温度条件下で純水に溶解し、固形分濃度1.0%の水溶液を得た。得られた水溶液を接着剤組成物として、25℃の温度条件下で用いた。
【0122】
(PVAと偏光子保護フィルムとの貼合)
偏光子保護フィルムの易接着層側に、乾燥後の厚みが50nmとなるように接着剤組成物を塗布した。その後、接着剤組成物の塗布膜を介して、日本合成化学製ポリビニルアルコールフィルム ボブロンーEX(膜厚12μm)と偏光子保護フィルムを積層し、熱風乾燥機(100℃)に投入して5分間乾燥させて、積層体を得た。
【実施例2】
【0123】
エポキシ系架橋剤の使用量を5.2重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコールフィルムと架橋弾性体を含む(メタ)アクリル系保護フィルムを貼合した。
・・・(中略)・・・
【0126】
・・・(中略)・・・
実施例1〜2および比較例1〜3で作製された積層体について、JIS K 6854に準じ、T型剥離試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0127】
【表1】

・・・(中略)・・・
【0129】
エポキシ系架橋剤を使用することで、オキサゾリン系架橋剤を使用した場合よりも密着性に優れることがわかる。また、オキサゾリン系架橋剤は使用量によっては密着性が劣る場合があるが、エポキシ系架橋剤は安定した密着性を示す。」
キ 「【0130】
本発明の偏光板は、液晶表示装置や自発光型表示装置などの画像表示装置に好適に使用され得る。」

(2)甲10に記載された発明
甲10の請求項1(上記(1)ア)に記載された「易接着剤組成物」に着目すれば、甲10には、次のものが記載されていると認められる。
「カルボキシル基を有するポリウレタン、および、エポキシ基を有する架橋剤を含有する易接着剤組成物からなる易接着層、並びに、架橋弾性体を含む(メタ)アクリル系樹脂フィルムを有する、偏光子保護フィルムにおいて、架橋弾性体を含む(メタ)アクリル系樹脂フィルム上に易接着層を形成するための、カルボキシル基を有するポリウレタン、および、エポキシ基を有する架橋剤を含有する易接着剤組成物。」(以下、「甲10発明」という。)

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲10発明とを対比する。
甲10発明の「架橋弾性体を含む(メタ)アクリル系樹脂フィルム」は、本件発明1の「アクリル樹脂で構成され」た「基材」に相当する。
甲10発明の「カルボキシル基を有するポリウレタン、および、エポキシ基を有する架橋剤を含有する易接着剤組成物」は、本件発明1の「カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含む易接着層形成用組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲10発明とは、「アクリル樹脂で構成された基材上に易接着層を形成するための組成物であって、カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含む易接着層形成用組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1−1−10)
基材について、本件発明1は「架橋弾性体を含まない」のに対し、甲10発明は「架橋弾性体を含む」点。
(相違点1−2−10)
基材のアクリル樹脂について、本件発明1は「主鎖に環構造を有する」ものであるのに対し、甲10発明の「(メタ)アクリル系樹脂フィルム」のアクリル樹脂が主鎖に環構造を有するものであることは規定されていない点。

ここで、相違点1−1−10について検討する。
「(メタ)アクリル系樹脂フィルム」に架橋弾性体が含まれるものと含まれないものとでは、「(メタ)アクリル系樹脂フィルム」の特性が異なるものとなることは明らかであり、上記相違点1−1−10は実質的な相違点である。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲10発明と同一であるとすることはできない。

イ 本件発明2について
上記アで述べた本件発明1と甲10発明との一致点から明らかなように、本件発明2と甲10発明とは、「アクリル樹脂で構成された基材上に易接着層を形成するための組成物であって、カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含む易接着層形成用組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点2−1−10)
「易接着層形成用組成物」の成分について、本件発明2では、「シリカ微粒子」が含まれているのに対し、甲10発明の「易接着剤組成物」には、シリカ微粒子が含まれることは規定されていない点。そ
(相違点2−2−10)
基材について、本件発明2では、「二軸延伸フィルムである」のに対し、甲10発明の「(メタ)アクリル系樹脂フィルム」は、「二軸延伸フィルムである」ことは規定されていない点。
(相違点2−3−10)
基材のアクリル樹脂について、本件発明2は「主鎖に環構造を有する」ものであるのに対し、甲10発明の「(メタ)アクリル系樹脂フィルム」のアクリル樹脂が主鎖に環構造を有するものであることは規定されていない点。

ここで、相違点2−1−10について検討する。
甲10には、「易接着剤組成物」に、シリカ微粒子が含まれることは記載されていない。
本件発明2においては、「シリカ微粒子」がブロッキング防止のために用いられているとしても(【0048】)、甲10の【0097】には、「易接着剤組成物には、任意の適切な添加剤をさらに含有しても良い。」と記載され、「添加剤としては、例えば、ブロッキング防止剤、分散安定剤、揺変剤・・・」と記載され、「ブロッキング防止剤」を添加剤して用いることは示唆されているものの、添加剤にはブロッキング防止剤以外のものも例示されている。しかも、「ブロッキング防止剤」には、シリカ微粒子以外にも様々なものがあることから、甲10には、添加剤として、「シリカ微粒子」の「ブロッキング防止剤」を用いることまでが記載されているとはいえない。そして、シリカ微粒子が含まれるものと含まれないものとでは、「(メタ)アクリル系樹脂フィルム」の特性が異なるものとなることは明らかである。
したがって、上記相違点2−1−10は実質的な相違点であり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲10発明と同一であるとすることはできない。

ウ 本件発明3及び7〜17
本件発明3及び7〜17は、本件発明1又は2を直接的又は間接的に引用して、さらに限定するものであるから、本件発明1及び2と同様に、甲10発明と同一であるとすることはできない。

エ まとめ
以上のとおり、理由5は理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜5及び7〜17に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1〜5及び7〜17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項6に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項6に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材上に易接着層を形成するための組成物であって、カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含む易接着層形成用組成物。
【請求項2】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、二軸延伸フィルムである基材上に易接着層を形成するための組成物であって、カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)と、シリカ微粒子とを含む易接着層形成用組成物。
【請求項3】
環構造が、無水マレイン酸構造、マレイミド構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、ラクタム環構造、及びラクトン環構造から選択された少なくとも1以上の構造を有する請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
ポリウレタン樹脂(A)が、引っ張り弾性率1000N/mm2以上5000N/mm2以下を充足しない、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
エポキシ化合物(B)が、脂肪族エポキシ化合物を含む請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
エポキシ化合物(B)が、脂肪族ポリオールポリグリシジルエーテルを含み、エポキシ当量170g/当量以下を充足する請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
ポリウレタン樹脂(A)とエポキシ化合物(B)との割合が、前者/後者(重量比)=99/1〜10/90である請求項1〜5、7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材と、この基材上に請求項1、3〜5、7、8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層とを含む易接着性基材。
【請求項10】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、二軸延伸フィルムである基材と、この基材上に請求項2〜5、7、8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層とを含む易接着性基材。
【請求項11】
基材が、二軸延伸フィルムである請求項9記載の接着性基材。
【請求項12】
基材と易接着層との厚み比が、前者/後者=1/0.1〜1/0.001である請求項9〜11のいずれかに記載の接着性基材。
【請求項13】
光学用である請求項9〜12のいずれかに記載の接着性基材。
【請求項14】
偏光子に接着させるための請求項9〜13のいずれかに記載の接着性基材。
【請求項15】
請求項1、3〜5、7、8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層を介して、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、架橋弾性体を含まない基材と偏光子とが積層された積層ユニットを有する偏光板。
【請求項16】
請求項2〜5、7、8のいずれかに記載の組成物で形成された易接着層を介して、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂で構成され、二軸延伸フィルムである基材と偏光子とが積層された積層ユニットを有する偏光板。
【請求項17】
請求項15又は16記載の偏光板を備えた画像表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-17 
出願番号 P2016-248522
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 16- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 536- YAA (C09J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 木村 敏康
川端 修
登録日 2021-03-29 
登録番号 6859092
権利者 株式会社日本触媒
発明の名称 易接着層形成用組成物  
代理人 岩谷 龍  
代理人 勝又 政徳  
代理人 勝又 政徳  
代理人 岩谷 龍  
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