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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C22C |
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管理番号 | 1385211 |
総通号数 | 6 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-06-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-11-05 |
確定日 | 2022-04-06 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第6884852号発明「鋼線およびばね」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6884852号の請求項1〜10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6884852号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜10(以下、それぞれ「本件請求項1」等」という。)に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)12月5日(優先権主張 平成29年3月28日)に国際出願され、令和3年5月14日にその特許権の設定登録がされ、同年6月9日に特許掲載公報が発行され、その後、令和3年11月5日に、その請求項1〜10(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である神田紀子(以下「申立人A」という。)により特許異議の申立てがされ、また、令和3年12月2日に、その請求項1〜10(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である田中康植(以下「申立人B」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 なお、申立人Aにより令和3年11月5日に提出された特許異議申立書を、以下「申立書A」といい、申立人Bにより令和3年12月2日に提出された特許異議申立書を、以下「申立書B」という。 第2.本件特許発明 本件特許の請求項1〜10に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」等という。)は、それぞれ本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 0.7質量%以上1.0質量%以下の炭素と、0.12質量%以上0.32質量%以下の珪素と、0.3質量%以上0.9質量%以下のマンガンとを含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼から構成され、 長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さが直径の0.5%以下であり、 長手方向に垂直な断面において、重心を通る直線上における硬さの最大値と最小値との差が50HV以下であり、 前記鋼の金属組織はパーライト組織である、鋼線。 【請求項2】 前記不可避的不純物であるリンは0.025質量%以下、硫黄は0.025質量%以下、銅は0.2質量%以下である、請求項1に記載の鋼線。 【請求項3】 長手方向に垂直な断面の直径は0.5mm以上7mm以下である、請求項1または請求項2に記載の鋼線。 【請求項4】 引張強さが1900MPa以上2450MPa以下である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の鋼線。 【請求項5】 引張試験における絞りの値が40%以上60%以下である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の鋼線。 【請求項6】 耐へたり性試験における残留せん断ひずみが0.2%以下である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の鋼線。 【請求項7】 伸線時の減面率が80%以上90%以下である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の鋼線。 【請求項8】 請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の鋼線からなる、ばね。 【請求項9】 表面における圧縮残留応力が300MPa以上である、請求項8に記載のばね。 【請求項10】 表面の硬さが450HV以上である、請求項8または請求項9に記載のばね。」 第3.特許異議の申立ての理由の概要 1.申立人Aは、証拠方法として、次の甲第1号証〜甲第3号証を提出し、申立ての理由として、以下の申立理由により、本件請求項1〜10に係る特許は取り消されるべきものである旨を主張している。 甲第1号証:ばね技術研究会編,“ばね技術シリーズ ばね用材料とその特性”,日刊工業新聞社,2000年2月28日,p.2〜7,90〜101 甲第2号証:特開2001−220650号公報 甲第3号証:社団法人日本塑性加工学会編,“引抜き加工 ―基礎から先端技術まで―”,コロナ社,1994年3月30日,初版第2刷,p.162〜165 なお、以下、申立人Aが提出した上記甲第1号証等を、それぞれ「甲A1」等という。 (1)申立理由A−1(進歩性) 本件特許発明1〜10は、甲A1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由A−2(進歩性) 本件特許発明1〜10は、甲A1に記載された発明及び甲A2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2.申立人Bは、証拠方法として、次の甲第1号証〜甲第8号証を提出し、申立ての理由として、以下の申立理由により、本件請求項1〜10に係る特許は取り消されるべきものである旨を主張している。 甲第1号証:西岡多三郎,外1名,“鋼線の硬度分布(第1報)”,日本金属学会誌,公益社団法人日本金属学会,1958年8月,第22巻,第8号,p.412〜416 甲第2号証:特開平10−166029号公報 甲第3号証:上田太郎,外2名,“炭素鋼における表面脱炭深さの非破壊測定に関する研究”、材料試験,1958年11月15日,第7巻,第62号,p.600〜605 甲第4号証:線材製品協会 日本線材製品輸出組合編,“線材製品読本”, 線材製品協会 日本線材製品輸出組合,平成9年10月,改訂第4版,p.56〜57 甲第5号証:社団法人日本金属学会編,“講座・現代の金属学 材料編 第4巻 鉄鋼材料”,社団法人日本金属学会,昭和60年6月20日,p.15〜20 甲第6号証:高橋栄治,“流動層パテンティング”,日本金属学会会報,社団法人日本金属学会,1978年,第17巻,第7号,p.620〜621 甲第7号証:特開2008−133539号公報 甲第8号証:国際公開第2007/114491号 なお、以下、申立人Bが提出した上記甲第1号証等を、それぞれ「甲B1」等という。 (1)申立理由B−1(新規性) 本件特許発明1〜3は、甲B1に記載された発明であるから、同発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由B−2(新規性) 本件特許発明1〜7は、甲B2に記載された発明であるから、同発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由B−3(進歩性) 本件特許発明1〜10は、甲B1及び/又は甲B2に記載された発明、並びに甲B3〜甲B8に記載されるような周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 第4.当審の判断 当審は、以下に述べるとおり、申立人A及び申立人Bそれぞれによる特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできないと判断した。 1.本件特許明細書等の記載 本件特許の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)には、以下の記載がなされている。 「【0006】 [本開示が解決しようとする課題] 上述のように、ばねの製造に使用される鋼線においては、耐へたり性および強度の向上が求められる。そこで、耐へたり性および強度に優れる鋼線および当該鋼線からなることにより耐へたり性および強度に優れるばねを提供することを目的の1つとする。 【0007】 [本開示の効果] 上記鋼線によれば、耐へたり性および強度に優れる鋼線を提供することができる。」 「【0009】 本発明者の検討によれば、適切な成分組成を選択し、脱炭層深さを従来に比べて極めて小さいレベルに抑えるとともに、径方向における硬さのばらつきを抑制することで、耐へたり性および強度を向上させることができる。本願の鋼線においては、ばねに必要な強度を確保可能な成分組成の鋼が採用される。また、耐へたり性および強度を向上させる観点から、全脱炭層深さが直径の0.5%以下という極めて小さいレベルに抑えられるとともに、深さ方向(径方向)における硬さの最大値と最小値との差が50HV以下に抑えられる。その結果、本願の鋼線によれば、耐へたり性および強度に優れる鋼線を提供することができる。」 「【0020】 図1および図2を参照して、本実施の形態における鋼線1は、長手方向に垂直な断面が円形である。鋼線1は、0.7質量%以上1.0質量%以下の炭素と、0.12質量%以上0.32質量%以下の珪素と、0.3質量%以上0.9質量%以下のマンガンとを含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼から構成される。このような成分組成を有する鋼として、たとえばJIS規格G3502に規定されるSWRS87A、SWRS87Bなどを採用することができる。鋼線1は、焼入処理および焼戻処理が実施された状態の金属組織ではなく、パーライト組織を含む金属組織を有している。」 「【0022】 図1および図2を参照して、鋼線1の長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さdは直径の0.5%以下である。全脱炭層深さdは、JIS規格G0558に従って測定することができる。より具体的には、図2を参照して、鋼線1の外周面2付近には、脱炭部4が形成されている。脱炭部4は、素地5中において外周面2から鋼の結晶粒界に沿って内部へと延在する。本実施の形態の鋼線1においては、結晶粒全体が脱炭状態となるフェライト脱炭は発生せず、結晶粒界に沿って脱炭部4が形成される部分脱炭(粒界脱炭)が発生している。そして、部分脱炭が発生している領域の深さが本実施の形態における全脱炭層深さdである。全脱炭層深さdは、鋼線1の直径の0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがさらに好ましい。 【0023】 本実施の形態の鋼線1においては、ばねに必要な強度を確保可能な上記成分組成の鋼が採用される。また、耐へたり性および強度を向上させる観点から、全脱炭層深さdが直径の0.5%以下という極めて小さいレベルに抑えられるとともに、深さ方向(径方向)における硬さの最大値と最小値との差が50HV以下に抑えられる。その結果、鋼線1は、耐へたり性および強度に優れる鋼線となっている。」 「【0032】 次に、鋼線1およびばね100の製造方法の一例について説明する。図4を参照して、本実施の形態における鋼線1の製造方法においては、まず工程(S10)として原料線材準備工程が実施される。工程(S10)では、図5を参照して、0.7質量%以上1.0質量%以下の炭素と、0.12質量%以上0.32質量%以下の珪素と、0.3質量%以上0.9質量%以下のマンガンとを含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼から構成される原料線材10が準備される。具体的には、たとえばJIS規格G3502に規定されるSWRS87Bからなる原料線材10が準備される。原料線材10の長手方向に垂直な断面の形状は円形である。 【0033】 次に、工程(S20)として表層部除去工程が実施される。工程(S20)では、工程(S10)において準備された原料線材10の外周面を含む表層部が全周にわたって除去される。表層部の除去は、たとえば切削加工により実施することができる。工程(S20)は、鋼線1の製造において必須の工程ではないが、これを実施することにより、工程(S10)において準備された原料線材10の脱炭層を除去することができる。 【0034】 次に、工程(S30)としてパテンティング工程が実施される。工程(S30)では、工程(S20)が実施された原料線材10に対してパテンティングが実施される。具体的には、原料線材10がオーステナイト化温度(A1点)以上の温度域に加熱された後、Ms点よりも高い温度域まで急冷され、当該温度域で保持される熱処理が実施される。これにより、原料線材10の金属組織がラメラ間隔の小さい微細パーライト組織となる。ここで、上記パテンティング処理において、原料線材10をA1点以上の温度域に加熱する処理は、脱炭の発生を抑制する観点から不活性ガス雰囲気中で実施される。また、同様の観点から、原料線材10をA1点以上の温度域に加熱する処理は、必要最低限の時間とすることが好ましい。 【0035】 次に、工程(S40)として伸線工程が実施される。工程(S40)では、原料線材10が伸線加工(引抜き加工)される。 【0036】 図6は、工程(S40)を実施するための引抜き装置の被加工材の進行方向αに沿った断面を示す図である。図6を参照して、工程(S40)を実施するための引抜き装置は、ダイス50を備えている。ダイス50には、被加工材の進行方向αに沿ってダイス50を貫通する貫通孔が形成されている。この貫通孔を取り囲む壁面が被加工材と接触する加工面51である。工程(S30)までが実施された原料線材10が長手方向に沿って(被加工材の進行方向αに沿って)進行してダイス50の貫通孔へと進入し、入口58に到達すると、原料線材10の外周面11がダイス50の加工面51に接触する。これにより、原料線材10は加工され、長手方向に垂直な断面の形状が被加工材の進行方向αに垂直な断面における加工面51の形状に対応する形状となるように塑性変形する。ダイス50の貫通孔の、被加工材の進行方向αに垂直な断面の面積は、入口58に比べて出口59において小さくなっている。そして、原料線材10がダイス50の出口59に到達するとダイス50の加工面51による加工が完了し、鋼線1が得られる。 【0037】 ここで、ダイス50の貫通孔は、入口58から出口59に近づくにしたがって、被加工材の進行方向αに垂直な断面積が小さくなるテーパ領域を有する。このテーパ領域のテーパ角であるダイス半角θを小さくすることにより、得られる鋼線1の長手方向に垂直な断面において、重心を通る直線上における硬さの最大値と最小値との差を小さくすることができる。本実施の形態の鋼線1の製造方法では、一般的なばね用鋼線の製造に用いられるダイスに比べてダイス半角θが30%程度小さいダイス50が採用される。工程(S40)における原料線材10の長手方向に垂直な断面の断面積S0に対するS0と鋼線1の長手方向に垂直な断面の断面積Sとの差(S0−S)の割合である減面率(S0−S)/S0は、80%以上90%以下とすることが好ましく、83%以上87%以下とすることがより好ましい。工程(S40)における伸線加工は、複数のダイスを用いて複数回に分けて実施されてもよい。 【0038】 以上の手順により、本実施の形態における鋼線1が得られる。本実施の形態の鋼線1の製造方法では、工程(S20)が実施されることにより、脱炭層が除去される。また、工程(S30)においてパテンティング処理における加熱が不活性雰囲気中において実施されることにより、原料線材10に脱炭が生じることが抑制される。そのため、鋼線1の長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さを、直径の0.5%以下とすることができる。また、本実施の形態の鋼線1の製造方法では、工程(S40)において、ダイス半角θが小さいダイス50を用いて伸線加工が実施される。そのため、鋼線1の長手方向に垂直な断面の重心を通る直線上における硬さの最大値と最小値との差を50HV以下にまで小さくすることができる。このように、本実施の形態の鋼線1の製造方法によれば、耐へたり性および強度に優れる鋼線1を製造することができる。」 「【0043】 (実施例1) 本願の鋼線の耐へたり性を確認する実験を行った。実験の手順は以下の通りである。まず、JIS規格G3502に規定されるSWRS87Bからなる原料線材を準備し、上記実施の形態と同様の方法により鋼線1を製造した。工程(S40)における伸線加工の減面率を78.2%、83.0%、84.9%および86.4%とした鋼線1(実施例A、B、CおよびD)を製造した。また、比較のため、汎用オイルテンパー線(比較例A)および汎用ピアノ線(比較例B)についても準備した。汎用オイルテンパー線としては、弁ばね用オイルテンパー線(JIS規格G3561に規定されるSWOSC−V)を採用した。汎用ピアノ線としては、JIS規格G3522に規定されるSWRS82Aからなる原料線材をパテンティング処理した後、伸線加工したものを採用した。 ・・・ 【0045】 図10を参照して、本願の鋼線である実施例A〜Dは、いずれも汎用ピアノ線である比較例Bに比べて残留せん断ひずみが低減されており、優れた耐へたり性を有していることが確認される。また、伸線時の減面率が80%以上90%以下である実施例B、CおよびDについては、焼入焼戻処理が実施されることで製造コストが高くなるオイルテンパー線である比較例Aと遜色ない耐へたり性を有している。このことから、伸線時の減面率は80%以上90%以下(83%以上87%以下)とすることが好ましいことが確認される。特に、実施例Cの残留せん断ひずみは0.18%以下となっており、耐へたり性が特に優れている。」 「【0047】 (実施例2) 鋼線の特性に及ぼす伸線時のダイス半角θの影響を確認する実験を行った。上記実施の形態の鋼線の製造方法において、伸線時のダイス半角θが一般的なばね用鋼線の製造に用いられる範囲である条件(比較例C)と、それに対して30%小さいダイス半角θが採用される上記実施の形態の条件(上記実施例B)とで同一組成の鋼からなる鋼線を製造し、引張試験を実施した。また、実施例Bおよび比較例Cの鋼線の長手方向に垂直な断面において、中心を通る直線上における表面直下から中心までの硬さ分布を測定した。引張試験の結果を表1に示す。また、硬さ分布の測定結果を表2および図11に示す。なお、鋼線の直径は3.5mmである。 【0048】 【表1】 【0049】 【表2】 【0050】 表1を参照して、実施例Bの鋼線は、引張強度において比較例Cを上回るだけでなく、絞りにおいても比較例Cを上回っている。このことから、ダイス半角を小さく設定することは、高い強度を確保しつつ絞りを向上させる観点から、有効であることが確認される。 【0051】 表2および図11を参照して、比較例Cの鋼線の硬さは径方向において69HVの差があるのに対し、実施例Bの鋼線の硬さは径方向において43HVの差に抑えられている。このことから、ダイス半角を小さく設定することは、上記硬さの差を低減する観点からも有効であることが確認される。」 「【0052】 (実施例3) ばねの耐久性に及ぼす表面硬さおよび表面における圧縮応力の大きさの影響を調査する実験を行った。実験の手順は以下の通りである。 【0053】 まず、JIS規格G3502に規定されるSWRS87Bからなる原料線材を準備し、上記実施の形態と同様に工程(S10)〜(S40)を実施して鋼線1を作製した。鋼線1に対して、冷間コイリング成形(コイルの平均径:21.6mm、巻数:5.75巻、有効巻数:3.25巻)を実施した後、300℃に加熱して25分間保持するひずみ取り焼鈍を実施した。その後、座面研磨およびショットピーニングを実施した。ショットピーニングは、2回に分けて実施した。1回目と2回目とのショット粒の平均径は0.3mmとした。その後さらに、230℃に加熱して10分間保持する低温焼鈍および冷間セッチングを実施し、ばね100を作製した。上記ショットピーニングにおける1回目および2回目のショット粒の粒径および処理時間を調整し、表面硬さおよび表面における圧縮残留応力の異なる7種類のサンプルを得た(サンプルA〜G)。表面硬さは、JIS Z2244に従って測定した。残留応力は、X線回折法により測定した。そして、サンプルA〜Gのばね100に対して平均応力588MPa、応力振幅534MPaの条件で軸方向に圧縮を繰り返す疲労試験を実施した。サンプルA〜Gについて、それぞれ8個のばねを作製し、実験に供した。そして、応力の繰り返し数:106回および107回の時点において、未折損のばねの個数によって耐久性を評価した。各サンプルの表面硬さおよび表面における圧縮残留応力、ならびに実験結果を表3に示す。 【0054】 【表3】 」 「【0057】 (実施例4) 本願のばねの耐へたり性を確認する実験を行った。具体的には、上記サンプルE、FおよびAのばね100に対して、120℃に加熱した状態で軸方向に圧縮し、48時間保持する処理を実施した。また、比較のため、本願の範囲外である汎用オイルテンパー線(サンプルH;実施例1の場合と同種のオイルテンパー線)および汎用ピアノ線(サンプルI;実施例1の場合と同種のピアノ線)についても同様のばねを作製し、同様に実験に供した。その後、圧縮を解除し、試験前後のばねの軸方向における長さの変化から残留せん断ひずみを算出した。圧縮時のせん断応力値を変化させることにより、せん断応力値とせん断ひずみ量との関係を調査した。実験結果を図12に示す。 【0058】 図12を参照して、いずれのばねにおいても、せん断応力の増大に伴って、残留するせん断ひずみの量が大きくなっている。そして、本願のばねであるサンプルE、FおよびAのせん断ひずみ量は、各応力において汎用ピアノ線からなるばねであるサンプルIよりも小さい。また、サンプルE、FおよびAのせん断ひずみ量は、熱処理費用に伴って製造コストが高くなる汎用オイルテンパー線からなるばねであるサンプルHと遜色ない値となっている。このことから、本願のばねは、耐へたり性に優れるばねであることが確認される。」 「【0059】 (実施例5) 鋼線の表層硬さに及ぼす全脱炭層深さの影響を確認する実験を行った。上記実施の形態の鋼線の製造方法において、工程(S20)の実施の有無および工程(S30)における熱処理の条件を変更することにより、全脱炭層深さの異なる鋼線を準備した。そして、各鋼線の表層硬さを測定した。表層硬さは、断面の表面から25μm以内の領域の硬度を、JIS Z2244に従って測定した。実験結果を図13に示す。図13において、横軸は、長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さの、鋼線の直径に対する割合を示している。図13において、縦軸は表層硬さを示している。 【0060】 図13を参照して、全脱炭層深さが大きくなるにしたがって、表層硬さが低下している。そして、全脱炭層深さが鋼線の直径の0.5%以下である場合に、表層硬さ(表面硬さ)が好ましい値である450HV以上となっている。このことから、鋼線において、長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さは、直径の0.5%以下であることが好ましいことが確認される。」 「【図1】 」 「【図2】 」 「【図4】 」 「【図6】 」 「【図11】 」 「【図12】 」 「【図13】 」 2.甲各号証の記載、及び引用発明 (1)甲A1の記載、及び甲A1発明 (1−1)甲A1の記載 本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲A1(ばね技術研究会編,“ばね技術シリーズ ばね用材料とその特性”,日刊工業新聞社,2000年2月28日,p.2〜7,90〜101)には、以下の内容が記載されている。 なお、下線又は枠囲いは注目すべき記載箇所に、当審が付したものである(以下同じ。)。 「▼5▲JIS B 2704-1994 圧縮および引張コイルばね設計基準、同B 2709-1995 ねじりコイルばね設計基準では静荷重を受ける引張り・圧縮およびねじりコイルばねにおける各種ばね用線の許容応力を,線径に応じて推奨している。また,同規格には繰返し荷重を受けるコイルばねの下限、および上限応力を与えた場合の疲れ強さ線図による寿命推定法が,参考として記載されている。ただし,JIS規格どおりの設計にこだわらず,より高性能のばねが要求される場合には,JIS規格にない高性能材料,またはショットピーニングなどの加工工程の検討が必要である。」(第3頁第9行〜第4頁第1行) ※当審注:「▼5▲」は、5を○で囲んだ表記を意味する。 「 」(第4頁) 「(i)ピアノ線の種類と用途 ピアノ線と称するものには弁ばね用ピアノ線,ばね用ピアノ線,楽器用ピアノ線などがあるが、通常はばね用ピアノ線を単にピアノ線と呼んでいる。 JIS G 3522 (ピアノ線)には表2.10〔1〕に示すように,A種,B種及びV種の三種類があり,引張強さ,巻付け性,ねじり特性,曲げ性、線径およびその許容差,外観,きず,脱炭,表面状態などが規格化されている。」(第90頁第29行〜第91頁第2行) 「 」(第90頁) 「(ii)ピアノ線の製造方法 ピアノ線の化学成分が均一で偏析がなく,不純物,非金属介在物などの少ないことが要求されるので,その母材となるピアノ線材は,JISで規定されているP,S,Cu などのほか,有害な不純物の少ない厳選した高級スクラップ,または高級銑鉄を主原料とする。」(第91頁第12〜15行) 「 」(第91頁) 「ピアノ線の線材以降の代表的な製造工程は図2.99のとおりであり,パテンチングという熱処理を施したあと,酸洗,表面処理を行い,常温で伸線加工を施して仕上げられる。なお,製品の寸法に応じて上記工程が繰り返し行われる。」(第91頁第23行〜第92頁第4行) 「 」(第92頁) 「▼1▲パテンチング パテンチングとは,高炭素鋼線を連続的に等温変態、もしくは連続冷却変態させて微細なパーライト組織にする熱処理方法のことであり,通常,線材を連続的に走行させ,鋼のA3変態点以上の温度に加温保持したのち、直ちに A1変態点以下の温度に冷却してパーライト変態させる。」(第92頁第15〜18行) ※当審注:「▼1▲」は、1を○で囲んだ表記を意味する。 「 」(第96頁) 「 」(第97頁) 「図2.101にピアノ線の機械的性質と,伸線加工度の関係の一例〔6〕を示す。パテンチング後の伸線による断面積の減少に伴って,引張強さ及び硬さは加工硬化で急激に上昇していくが,絞りはやや上昇し,70〜80%の伸線加工度を超えると逆に低下してくる。また,伸びは伸線加工の初期において急激に低下し,その後70〜80%まではほとんど変わらないが,加工度が80%程度を超えると再び低下する。また曲げ回数,ねじり回数なども,85%を超えた加工領域では低下する。」(第98頁第1〜9行) 「 」(第98頁) (1−2)甲A1発明 甲A1の記載に関し、特に第90〜91頁のピアノ線に関する記載に着目すると、「(i)ピアノ線の種類と用途」の欄における表2.10に示される「A種,B種およびV種の三種類」のピアノ線のうち、A種であるピアノ線(ピアノ線A種、SWP−A)は、「(ii)ピアノ線の製造方法」の欄に、「ピアノ線の化学成分が均一で偏析がなく,不純物,非金属介在物などの少ないことが要求されるので,その母材となるピアノ線材は,JISで規定されているP,S,Cu などのほか,有害な不純物の少ない厳選した高級スクラップ,または高級銑鉄を主原料とする。」と記載されるように、「ピアノ線材」を母材として用いて製造されたものであることは明らかである。 以上によれば、甲A1には、次の発明が記載されていると認められる。 「ピアノ線材を母材として用いて製造されたA種であるピアノ線。」(以下、「甲A1発明」という。) (1−3)申立人Aの主張する甲A1に記載された発明について ア.申立人Aは、甲A1には、「記号『SWP−A』であり、種類記号が『SWRS87B』であるピアノ線が記載されて」(申立書A第13頁第14〜15行)おり、かつ、甲A1の「図2.101から、減面率が例えば90%である場合に、絞りが約50%であり、硬さが約530HVであるピアノ線が記載されて」(申立書A第14頁第14〜15行)おり、さらには、「記号が『SWP−A』であるピアノ線では、『有害な脱炭層を認めてはならない』と規格されている。つまり、記号が『SWP−A』であるピアノ線の脱炭層の深さは、実質的にゼロである。」(申立書A第14頁第1〜4行)として、甲A1には、 「A:0.85質量%以上0.90質量%以下の炭素と、 B:0.12質量%以上0.32質量%以下の珪素と、 C:0.60質量%以上0.90質量%以下のマンガンとを含み、 D:残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼から構成され、 E:長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さが実質的にゼロであり、 G:鋼の金属組織はパーライト組織であり、 H:不可避的不純物であるリンは0.025質量%以下、硫黄は0.025質量%以下、銅は0.2質量%以下であり、 I:長手方向に垂直な断面の直径は0・08mm以上10.0mm以下であ り、 J:引張強さが2050MPa以上2260MPa以下であり、 K:引張試験における絞りの値が約50%であり、 M:伸線時の減面率が80%以上90%%以下である、ばね用の鋼線。」(申立書A第14頁第14〜26行)との発明が記載されている、と主張している。 イ.しかしながら、甲A1には、A種であるピアノ線(SWP−A)として、種類記号が「SWRS87B」であるピアノ線材を母材として用いて製造されたピアノ線は記載されているとはいえず、また、図2.101に示されるピアノ線の機械的性質についても、どのようなピアノ線材を母材として用いて製造された、どのような種類のピアノ線に関して確認されたものであるかも不明である。 さらには、甲A1における「有害な脱炭層を認めてはならない」との記載が、「ピアノ線の脱炭層の深さは、実質的にゼロである。」ことを一義的に意味するといえるかどうかも、明らかではない。 ウ.したがって、上記ア.の申立人Aが主張する甲A1記載の発明は、甲A1の記載に基づくものとはいえず、採用することはできない。 (2)甲A2の記載 本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲A2(特開2001−220650号公報)には、以下の内容が記載されている。 「【請求項1】 質量%でC:0.60〜0.95%、Si:0.1〜1.2%、Mn:0.30〜0.90を含有し、体積%で90%以上のベイナイト組織を有することを特徴とする鋼線。」 「【請求項4】 線表面から線中心までの深さ方向のビッカース硬度分布が、平均値±50の範囲内に収まり、かつ線表面の円周方向のビッカース硬度分布が、平均値±50の範囲内に収まることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼線。」 「【0010】従って、本発明の主目的は、製造コストではパーライト鋼線と同等の低コストを実現し、かつ高温域における耐熱性およびばねの耐疲労性では、従来の耐熱ばね用鋼線であるSi-Cr鋼オイルテンパー線と同等の高耐熱性と高耐疲労性を実現できる鋼線とばねおよびその製造方法を提供することにある。」 「【0011】 【課題を解決するための手段】本発明は、母相の金属組織をベイナイトとすること、またはW、Mo、V、Ti添加による微細炭化物の析出強化を行うことによって上記の目的を達成する。」 「【0045】(試験例3)次に、表1の実施例を用い、圧延後の線材を皮剥ぎすることなく、ベイナイトが主体の組織に変態させる工程を経て、直径9.5mmから3.5mmまで伸線したものと、圧延後に線表面から20μm、50μm、150μm、300μmの皮剥ぎをそれぞれ行ってから伸線(減面率82%)を行ったものを用意した。そして、これら試料のビッカース硬度平均値とそれに対する線表面から線中心までの深さ方向の硬度分布(ビッカース硬度)と線表面の円周方向の硬度分布(ビッカース硬度)ならびに疲労強度を求めた。深さ方向の硬度は、鋼線の横断面における中心から表面の間の10点の硬度を測定し、これらの平均値を求めると共に、各測定値と平均値との差を求めることで調べた。周方向の硬度は、鋼線表面の周方向における8点の硬度を測定し、これらの平均値を求めると共に、各測定値と平均値との差を求めることで調べた。疲労強度の測定条件は試験例2と同様である。その結果を表3に示す。 【0046】 【表3】 【0047】試験結果より、皮剥ぎを行わなかった実施例-1では、線表面の脱炭の影響と思われる線表面から線中心への深さ方向、及び線表面円周方向に硬度のばらつきがあり、他の皮剥ぎを行っている鋼線より疲労強度が低い。また、皮剥ぎを20μm行った実施例-2においても、脱炭層を取り除くには十分ではなく、円周方向に硬度のばらつきが確認された。疲労強度も50μm以上皮剥ぎしたものと比べて低い値となった。これに対して、50μm以上皮剥ぎしたものについては、疲労強度が高く、ほぼ同等の特性が得られた。」 (3)甲A3の記載 本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲A3(社団法人日本塑性加工学会編,“引抜き加工 ―基礎から先端技術まで―”,コロナ社,1994年3月30日,初版第2刷,p.162〜165)には、以下の内容が記載されている。 なお、点線(・・・)は記載の抽出を省略した箇所に、当審が付したものである(以下同じ。)。 「図6.84は,高炭素鋼の圧延直接パテンティング線材を用いて,ダイス角度および単位断面減少率をそれぞれ4水準および2水準に変化させて鋼線の機械的性質を調査した結果である。・・・またダイス角度は銅線の横断面内の硬さ分布にも影響を及ぼし,ダイス角度が大きくなるほど断面の中心と表層部の硬さの差が大きくなる69)。」 (4)甲B1の記載、及び甲B1発明 (4−1)甲B1の記載 本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲B1(西岡多三郎,外1名,“鋼線の硬度分布(第1報)”,日本金属学会誌,公益社団法人日本金属学会,1958年8月,第22巻,第8号,p.412〜416)には、以下の内容が記載されている。 「本研究においては、Tafel 1のごとき成分の4種類の炭素鋼線材A,B,C,Dを用い,10%HNO3中で直径を約1/10だけ溶解,脱炭層を除去して後5.59mmまで伸線し,つぎに酸化脱炭防止ガス中でTafel 2のごとき種々の熱処理を行ったが,その際線が均一に加熱されるように線を加 熱炉壁に接触させず1本づつ熱処理した。つぎにこれら熱処理した鋼線をTafel 3のごとき伸線条件にて伸線した。」(第413頁左欄第4〜11行) 「 」(第413頁) ※当審注:かかるドイツ語を含むTafel 1は、炭素鋼線材A,B,C,Dの化学組成を示す表である。 「 」(第413頁) ※当審注:かかるドイツ語を含むTafel 2は、炭素鋼線材A,B,C,Dに対する熱処理条件と引張強さとを示す表であり、甲B1の第413頁左欄第5〜8行に「10%HNO3中で直径を約1/10だけ溶解,脱炭層を除去して後5.59mmまで伸線し、つぎに酸化脱炭防止ガス中でTafel 2のごとき種々の熱処理を行った」と説明される熱処理に関する。特に、炭素鋼線材Dに対しては、空気パテンティングが実施されたことが把握できる。 「 」(第413頁) ※当審注:かかるドイツ語を含むTafel 3は、炭素鋼線材A,B,C,Dに対する伸線条件を示す表であり、特に、角度が2.5°,5°,10°,20°,40°の各種のダイスを伸線に用いたことが把握できる。 「Abb.3は炭素含有量約0.6%の8.61mmの種々の鋼線を空気パテンティングした場合,硬度分布におよぼすMn含有量,オーステナイト粒度および脱炭,スケールの影響を表す図でそれら試料の成分,粒度は図中の表のごとくである。」(第413頁右欄下から第2行〜第414頁左欄第4行) 「 」(第414頁) ※当審注:かかるドイツ語を含むAbb.3は、甲B1の第413頁右欄下から第2行〜第414頁左欄第4行に説明されるとおりの図面であり、特に、Nr.2は炭素鋼線材Cを脱炭させたものとなっている。 「なお脱炭させた線は周辺部の硬度は脱炭のため低い」(第414頁右欄第8〜9行) 「 」(第415頁) ※当審注:かかるドイツ語を含むAbb.6は、第415頁右欄第12〜13行に説明されるとおりの図面であり、ここでは特に、空気パテンティングを行った炭素鋼線材Dを最大8回まで伸線した場合にダイス角度が硬度分布に与える影響を示す図面部分を抽出している。なお、かかる図6に記載された“Kern”及び“Rand”は、それぞれ炭素鋼線材の「中心」及び「端」を意味する。 「Abb.6はStahl A,B,C,Dの5.59mm鋼線を各種の角度のダイスで伸線した場合の硬度分布を示す図である。」(第415頁右欄第12〜13行) 「Stahl Bはいずれの角度の場合も硬度は中心部は低く、中心と周辺の中間部に最高があり、この硬度差に対しては10°までは余り影響はないが、20°以上では急に硬度差は大となり、・・・Stahl Dの場合も硬度分布の形はStahl B,Cの場合と似ているが、その硬度差はさらに大きく現れる。」(第415頁右欄第24〜35行) (4−2)甲B1発明 甲B1の第413頁左欄第4〜11行、同頁のTafel 1〜3の記載をもとに、特に第415頁のAbb.6に硬度分布が示される、ダイス角度2.5°のダイスで8回伸線した場合の炭素鋼線材Dに関して着目すると、甲B1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「0.81%のCと、0.23%のSiと、0.33%のMnと、0.025%のPと、0.0008のSと、0.01%のCuを化学成分として含む炭素鋼線材を用い、10%HNO3中で直径を約1/10だけ溶解、脱炭層を除去して後5.59mmまで伸線し、つぎに酸化脱炭防止ガス中で空気パテンティングを行い、ダイス角度2.5°のダイスで8回伸線してなる鋼線。」(以下、「甲B1発明」という。) (5)甲B2の記載、及び甲B2発明 (5−1)甲B2の記載 本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲B2(特開平10−166029号公報)には、以下の内容が記載されている。 「【請求項1】Cを0.6〜1.0重量%含有し、 素線を真歪で1.6以上伸線した後の引張強度が1700N/mm2 以上で、 パーライト中のセメンタイトが結晶構造を具えていることを特徴とする高強度炭素鋼ワイヤ。 【請求項2】素線を真歪で2.8以上伸線した後の引張強度が2000N/mm2 以上であることを特徴とする請求項1記載の高強度炭素鋼ワイヤ。」 「【0002】 【従来の技術】従来、高炭素鋼線を伸線した際の組織変化に関して、「第41回伸線技術分科会資料,96年6月7日:亜鉛めっき鋼線の機械的性質に及ぼすミクロ組織の影響」および「ISIJ Vol 9, P1486, 96 年9月28日:高炭素鋼線の伸線時におけるラメラセメンタイトの形態変化」が報告されている。これらは、伸線加工に伴いパーライトラメラのセメンタイトが単結晶から微細化してゆくことを開示している。 【0003】パーライト組織は板状で厚さが10μm前後のセメンタイト(Fe3C)と厚さ100μm前後のフェライト(Fe)が積層された金属組織である。それぞれはコロニー(一般にサブμmから数μmの大きさ)と呼ばれる単位内で全て結晶方位が揃った単結晶の板である。フェライトはbbc ,セメンタイトはorthorhombicと呼ばれる結晶構造をしている。 【0004】これを加工してゆくとその加工度が大きくなるに従ってセメンタイトの単結晶の板に変化が起きる。すなわち、真歪1.7の加工により、元々1つの結晶であったものがナノオーダー(10-9m) の結晶に微細化する(ナノ構造)。それぞれはorthorhombicに並んでいるが、方位は同じではない。もしくは、界面にSiが入り込んでいる。さらに真歪3.58の加工では一層細かくなり、ラメラセメンタイトがアモルファス(非晶質)化し、全く原子配列に規則性がなくなる。そして、このナノ構造化やアモルファス化が高延性の発現要因と考えられていた。」 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかし、上記のような強加工を行った後でもナノ構造のように微細化していない結晶構造を保った線材の方がより延性に優れるはずと考え、種々の検討を行った結果、本発明に至ったものである。すなわち、本発明の主目的は、強加工を行ってもナノ構造のように微細化していない結晶構造を維持し、高強度,高靱性を有するワイヤとその製造方法を提供することにある。」 「【0006】 【課題を解決するための手段】本発明は、前記のように強加工により大きな歪が負荷されて真歪1.7でナノ構造化、さらに同3.58でアモルファス化が生じることを考えると、歪の与え方でナノ構造化やアモルファス化が避けられるものと考えて想到するに至ったものである。 【0007】本発明の特徴は、Cを0.6〜1.0重量%含有し、素線を真歪で1.6以上伸線した後の引張強度が1700N/mm2 以上で、パーライト中のセメンタイトが結晶構造を具えていることにある。すなわち、上記真歪の加工を行ってもナノ結晶構造やアモルファスになっていないことを特徴とする。特に、上記構成において、素線を真歪で2.8以上伸線した後の引張強度が2000N/mm2 以上であることを特徴とする。」 「【0010】以下、本発明の実施の形態を説明する。下記化学成分(数値は全て重量%)の材料を供試材とし、図1に示す工程でワイヤの製造を行った。すなわち、圧延材をパテンティングし、その後乾式伸線または湿式伸線を行って本発明材と比較材を作製した。乾式伸線では11.5mmから4.9mmに伸線し、湿式伸線では1.2mmから0.2mmに伸線した。 【0011】 【0012】上記製造工程における各工程の詳細は次の通りである。 <パテンティング前>圧延材の表面脱炭層を完全に除去するため、ピーリング加工を行った。 【0013】<パテンティング>本発明材のパテンティング温度は、変態開始から終了まで、途中の変態発熱を含めて温度を均一化し、580±5℃で行った。このようにして得られた伸線前の素線の硬度分布を調べた。硬度分布は素線の横断面において外周部,中心部,これらの中間部の3箇所のビッカース硬度を測定し、そのばらつきを求めることで調べた。その結果、いずれの位置においても硬度はほぼ一定し、ばらつきは5%以内であった。」 「【0015】<伸線>本発明例の伸線に用いたダイス1は、図2に示すように、アプローチ角(2α)が10°以下のものとした。また、伸線は、ダイス軸に対するワイヤ2の伸線方向のずれを±0.1°となるようにした。このとき、伸線は低温で行い、ダイス排出側の線材温度が100℃以下となるよう、線速を乾式では20m/分,湿式では100m/分とした。」 「【0017】[引張試験]上記工程で得られた各線材について引張試験を行って、引張強度,絞り,伸びを測定した。その結果は次の通りである。 」 「【0019】図3に示すように、この組織はフェライトとセメンタイトが積層された構造であることが判る。・・・」 「【図1】 」 「【図2】 」 「【図3】 」 (5−2)甲B2発明 甲B2の記載に関し、特に本発明材2を用いた高強度炭素鋼ワイヤの実施の形態に関する記載(【請求項1】、【0010】〜【0015】、【0017】、【図1】)に着目すると、甲B2には、次の発明が記載されていると認められる。 「Cを0.82重量%、Siを0.19重量%、Mnを0.52重量%、Pを0.009重量%、Sを0.008重量%含む供試材を用いた圧延材について、表面脱炭層を完全に除去するピーリング加工を行い、580±5℃でパテンティングを行い、アプローチ角が10°以下のダイスを用いて1.2mmから0.2mmまで真歪3.58で湿式伸線を行った、引張強度3668N/mm2で、パーライト中のセメンタイトが結晶構造を備えている高強度炭素鋼ワイヤ。」(以下、「甲B2発明」という。) (6)甲B3の記載 本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲B3(上田太郎,外2名,“炭素鋼における表面脱炭深さの非破壊測定に関する研究”、材料試験,1958年11月15日,第7巻,第62号,p.600〜605)には、以下の内容が記載されている。 「 」(第601頁) 「Fig.1は微小硬度計により求めた断面における硬さの分布」(第601頁右欄第4〜5行) 「脱炭した表面層の硬さはビッカース硬さ115〜125であり,これより内部に至る硬さの分布はゆるやかな変化をなしており,」(第601頁右欄第8〜11行) (7)甲B4の記載 本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲B4(線材製品協会 日本線材製品輸出組合編,“線材製品読本”, 線材製品協会 日本線材製品輸出組合,平成9年10月,改訂第4版,p.56〜57)には、以下の内容が記載されている。 「 」(第57頁) (8)甲B5の記載 本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲B5(社団法人日本金属学会編,“講座・現代の金属学 材料編 第4巻 鉄鋼材料”,社団法人日本金属学会,昭和60年6月20日,p.15〜20)には、以下の内容が記載されている。 「 」(第19頁) (9)甲B6の記載 本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲B6(高橋栄治,“流動層パテンティング”,日本金属学会会報,社団法人日本金属学会,1978年,第17巻,第7号,p.620〜621)には、以下の内容が記載されている。 「一般にパテンティング処理とは圧延材あるいは伸線材をA3変態点以上の温度(通常1123-1273K)でオーステナイト化した後,一定温度の溶融鉛あるいは空気中で冷却すること(前者を鉛パテンティング,後者をエアーパテンティング,と言う)により,鋼線の組織を微細パーライト組織とする熱処理法である。」(第620頁左欄12〜18行) (10)甲B7の記載 本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲B7(特開2008−133539号公報)には、以下の内容が記載されている。 「【0075】 次に、以下のようにしてばね特性試験を行い、疲労限特性を評価した。 ばね特性試験: 各供試鋼線を用いて常温でばね成形し、歪取り焼鈍(400℃×20min)、座面研磨、二段ショットピーニング(直径0.6mmのラウンドカットワイヤHRc60によりカバーレッジ95%以上、投射速度80m/sで15分間ショットを行った後、直径0.1mmのラウンドカットワイヤHRc65によりカバーレッジ100%以上、投射速度200m/sで20分間ショット)、低温焼鈍(230℃×20min)および温間セッチング(200℃、τmax=1200MPa相当)を行う。得られた各ばねに588±441MPaのせん断応力を負荷し、ばね50本の1,000万回までの折損率によって判定し、疲労折損率が0であれば「○(疲労特性に優れる)」とし、それ以外の場合を「×」と評価した。」 (11)甲B8の記載 本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲B8(国際公開第2007/114491号)には、以下の内容が記載されている。 「窒化処理やショットピーニングでは表層硬度が高まり、ばね疲労における耐久性が格段に向上することが知られている」(明細書第1頁第16〜17行) 「実ばねではショットピーニングにより圧縮残留応力を付与することが一般的になりつつある」(明細書第37頁第22〜24行) 3.申立理由A−1(進歩性)及び申立理由A−2(進歩性)について (1)本件特許発明1について ア.対比 本件特許発明1と甲A1発明とを対比する。 (ア)甲A1発明の「ピアノ線材を母材として用いて製造されたA種であるピアノ線」は、ピアノ線材及びピアノ線が鋼からなるものであることは明らかであり、また、甲1の第91頁第23行〜第92頁第4行、第92頁第15〜18行に記載されるように、ピアノ線は、ピアノ線材をパテンチングによりパーライト変態させたものであることから、本件特許発明1における「鋼から構成され」、「前記鋼の金属組織はパーライト組織である、鋼線」に相当する。 (イ)そうすると、本件特許発明1と甲A1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。 <一致点> 鋼から構成され、前記鋼の金属組織はパーライト組織である、鋼線。 <相違点1> 本件特許発明1の鋼線は、「0.7質量%以上1.0質量%以下の炭素と、0.12質量%以上0.32質量%以下の珪素と、0.3質量%以上0.9質量%以下のマンガンとを含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる」成分の鋼から構成されるものであるのに対し、甲A1発明のピアノ線は、そのように成分が特定された鋼から構成されるものとはなっていない点。 <相違点2> 本件特許発明1の鋼線は、「長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さが直径の0.5%以下」であるのに対し、甲A1発明のピアノ線は、そのように全脱炭層深さが特定されるものとなっていない点。 <相違点3> 本件特許発明1の鋼線は、「長手方向に垂直な断面において、重心を通る直線上における硬さの最大値と最小値との差が50HV以下」であるのに対し、甲A1発明のピアノ線は、そのように硬さの最大値と最小値との差が特定されるものとなっていない点。 イ.相違点の検討 事案に鑑み、相違点3について検討する。 (ア)申立理由A−1(進歩性)について a.本件特許明細書等に記載された実施例B(【0043】〜【0051】、【図10】、【図a1】)の鋼線は、「長手方向に垂直な断面において、重心を通る直線上における硬さの最大値と最小値との差が50HV以下」との条件(以下「硬度差条件」という。)を満たすものであり、本件特許発明1の鋼線の具体例である。そして、かかる実施例Bの鋼線は、【0045】に記載されるように「優れた耐へたり性を有している」ことが実証されていることに加え、【0048】【表1】及び【0050】によれば、【0049】【表2】及び【図11】に示される上記硬度差条件を満たさない比較例Cの鋼線よりも、高い強度を確保しつつ絞りが向上することも実証されており、【0006】に記載される「耐へたり性および強度に優れる鋼線および当該鋼線からなることにより耐へたり性および強度に優れるばねを提供する」との課題を解決するものとなっている。 そうすると、本件特許発明1の鋼線の上記硬度差条件は、少なくとも強度の向上がもたらされる点において、課題解決に寄与することが理解できる。 b.これに対し、「ばね用材料とその特性」に関する甲A1の記載は、当該技術分野における一般的技術水準といえる内容について紹介してはいるものの、本件特許発明1のような鋼線の上記硬度差条件と強度との関係に着目した技術思想が開示されるものではないから、甲A1発明のピアノ線について、本件特許発明1の上記硬度差条件を満たすようにする動機付けは見いだせない。 c.また、甲A3の第163頁第19行から同第25行に記載されるように「ダイス半角θが小さいほど表層部と中心部との硬度差が小さくなること」が、たとえ当業者の技術常識であったとしても、甲A1発明のピアノ線を製造する際に、ダイス半角θが小さいダイスを採用する動機付けは見いだせないから、申立人Aが主張するように、「結果的に、甲1発明のピアノ線の硬度差を50HV以下に設定することは、課題を解決するために当業者がなし得る設計事項に過ぎない」などということはできない。 さらに、本件特許発明1の鋼線における上記硬度差条件により強度を向上する効果は、甲A1発明及び技術常識から予測し得ない有利な効果である。 d.したがって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲A1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 e.申立人Aは、相違点3に関連した主張として、 「ばね用線の製造では、線に伸線加工が施される。この伸線加工では、線がダイスに通される。このダイスの孔はテーパーであり、ダイス半角を有している。このダイス半角は、本件特許の図6において、符号θで表されている。ダイス半角θが大きいダイスでは、ダイスと線との接触面積が小さい。従ってこのダイスでは、摩擦熱の発生が少なく、よって線の脆化が抑制されうる。一方、ダイス半角θが小さいダイスでは、加工が緩やかである。従ってこのダイスでは、線の中心部まで十分に加工される。ダイス半角θが小さいダイスにより、表層部と中心部との硬度差が小さい鋼線が得られうる。 ダイス半角θが小さいほど表層部と中心部との硬度差が小さくなることは、甲第3号証の第163頁第19行から同第25行にも記載されている通り、当業者によく知られた事項である。目指す鋼線の性能を考慮し、適切なダイス半角θを設定して伸線を行うことが、当業者の日常である。 本件特許発明1の課題は、その明細書の段落【0006】に記載の通り、耐へたり性及び強度の向上にある。本件特許発明1は、その明細書の段落【0037】に記載された通り、ダイス半角θが小さいダイスにより、硬さの最大値と最小値との差が小さく、よって耐へたり性及び強度に優れたばね用線が得られている。 前述の通り、甲1発明のピアノ線(鋼線)にも当然に硬度差は存在しており、甲1発明には、硬度差として、何らかの値が内在している。甲1発明の課題である『疲れ強さ(耐へたり性及び強度)の向上』を目的として、ダイス半角θが小さいダイスを採用し、結果的に、甲1発明のピアノ線の硬度差を50HV以下に設定することは、課題を解決するために当業者がなし得る設計事項に過ぎない。そもそも、本件特許発明1において、硬度差を50HV以下とすることに、格別の意義も認められない。 本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。」(申立書A第15頁第19行〜第16頁第15行)と述べているが、申立人Aが提出した甲A1及び甲A3のいずれにも、「疲れ強さ(耐へたり性及び強度)の向上」を目的として、ダイス半角θが小さいダイスを採用する動機付けを見出せないから、申立人Aのかかる主張は採用できない。 なお、申立人Aのかかる主張における「甲1発明」とは、申立人Aが主張をする甲A1に記載された発明を意味する。 (イ)申立理由A−2(進歩性)について a.鋼の金属組織がパーライト組織である本件特許発明1の鋼線は、上記(ア)b.の上記硬度差条件を満たすことで、少なくとも強度の向上がもたらされるものとなっている。 b.これに対し、甲A2には、「製造コストではパーライト鋼線と同等の低コストを実現し、かつ高温域における耐熱性およびばねの耐疲労性では、従来の耐熱ばね用鋼線であるSi-Cr鋼オイルテンパー線と同等の高耐熱性と高耐疲労性を実現できる鋼線とばねおよびその製造方法を提供する」(【0010】)との課題、及びかかる課題を解決する手段として「質量%でC:0.60〜0.95%、Si:0.1〜1.2%、Mn:0.30〜0.90を含有し、体積%で90%以上のベイナイト組織を有する」(請求項1)鋼線が開示されている。そして、甲A2に記載された、かかるベイナイト組織を有する鋼線は、金属組織をパーライト組織としない前提のものとなっている。 c.また、甲A2には、かかるベイナイト組織を有する鋼線に関し、「線表面から線中心までの深さ方向のビッカース硬度分布が、平均値±50の範囲内に収まり、かつ線表面の円周方向のビッカース硬度分布が、平均値±50の範囲内に収まる」ようにすること(以下、「甲A2記載のビッカース硬度分布」という。)で、疲労強度を高くできる(【請求項4】、【0045】〜【0047】)という技術思想が示唆されている。 d.ここで、上記甲A2記載のビッカース硬度分布は、本件特許発明1の上記硬度差条件との比較において、「長手方向に垂直な断面において、重心を通る直線上における硬さの最大値と最小値との差」が所定範囲内に収まる点において、その特徴が類似しているとはいえる。 しかしながら、本件特許発明1は、上記bのように、金属組織がパーライト組織である鋼線が上記硬度差条件を満たすことで、少なくとも強度の向上がもたらされるという技術思想のものとなっているのに対し、甲A2に記載されているのは、上記dのように、ベイナイト組織を有する鋼線を上記甲A2記載のビッカース硬度分布を満たすものとすることで、疲労強度を高くするという技術思想のものであり、両者は前提とする鋼線の金属組織が異なり、かつ、「長手方向に垂直な断面において、重心を通る直線上における硬さの最大値と最小値との差」を所定範囲内に収めることの技術思想も異なるものとなっている。 e.以上を踏まえると、たとえ当業者が甲A2の記載に触れたとしても、本件特許発明1と同様に、金属組織がパーライト組織であることを前提とする甲1A発明のピアノ線に、そもそも、金属組織をパーライト組織としない前提の甲A2記載のベイナイト組織を有する鋼線に関する技術事項を適用する動機付けを見いだすことはできない。 仮に、両者の金属組織が異なるにも関わらず、当業者として、甲A1発明のピアノ線に、上記甲A2記載のビッカース硬度分布によるベイナイト組織の疲労強度を高める技術思想を適用する余地があったとしても、せいぜい、甲A1発明のピアノ線の金属組織をベイナイト組織に変更した上で、ピアノ線の疲労強度を高めるために効果的なビッカース硬度分布の設計を想到できるにとどまるから、本件特許発明1の相違点3にかかる発明特定事項に想到することは困難である。 f.また、本件特許発明1の相違点3にかかる発明特定事項が実現されることによる、少なくとも鋼線の強度の向上をもたらすとの効果は、甲A1発明及び甲A2に記載された事項からでは示唆されない異質な効果であり、当業者が予測することができない顕著な効果であるといえる。 g.したがって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲A1に記載された発明及び甲A2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 h.申立人Aは、相違点3に関連した主張として、 「甲第2号証には、前述の通り、ばね用線の硬さの最大値と最小値との差が31HV、25HV、18HV及び15HVであるとの事項(甲2記載事項)が記載されている。この硬度差は、本件特許発明1における範囲である『50HV以下』に含まれる。 甲1発明及び甲第2号証に係る発明(甲2発明)の技術分野は、いずれも、ばね用の鋼である。甲1発明と甲2発明との間には、『技術分野の関連性』がある。 前述の通り、甲1発明及び甲2発明は、それぞれ、耐疲労性の改善をその課題としている。甲1発明と甲2発明との間には、『課題の共通性』がある。このように、甲1発明と甲2発明との間には、『技術分野の関連性』及び『課題の共通性』がある。よって、甲1発明に甲2記載事項を適用して本件特許発明1の構成とすることには、動機付けがあると言うべきである。 本件特許発明1は、甲1発明及び甲2記載事項に基づいて当業者が容易に想到できたものである。」(申立書A第16頁第17行〜第17頁第1行)とも述べているが、上記e.で判断したとおりであるから、申立人Aのかかる主張は採用できない。 なお、申立人Aのかかる主張における「甲第2号証」とは甲A2のことであり、「甲1発明」及び「甲2発明は、それぞれ申立人Aが主張をする甲A1及び甲A2に記載された発明を意味する。 (ウ)小括 以上のとおり、本件特許発明1は、甲A1に記載された発明に基いて、又は甲A1に記載された発明及び甲A2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、本件特許発明1に係る特許が、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえない。 (2)本件特許発明2〜10について 本件請求項2〜10は、本件請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(1)で述べたとおり、本件特許発明1が、甲A1に記載された発明に基いて、又は甲A1に記載された発明及び甲A2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、本件特許発明2〜10についても同様に、甲A1に記載された発明に基いて、又は甲A1に記載された発明及び甲A2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、本件特許発明2〜10に係る特許が、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえない。 4.申立理由B−1(新規性)について (1)本件特許発明1について ア.対比 本件特許発明1と甲B1発明とを対比する。 (ア)甲B1発明の炭素鋼線材の構成元素たる「C」、「Si」、及び「Mn」は、本件特許発明1の鋼線の構成元素たる「炭素」、「珪素」、及び「マンガン」に相当する。そして、甲B1発明では、かかる炭素鋼線材に所定の処理を施してなる「鋼線」について、その構成元素が直接特定されてはいないものの、かかる「鋼線」が鋼から構成されるものであり、かつ、炭素鋼線材の構成元素たる「C」、「Si」、及び「Mn」を含むことは明らかであるから、本件特許発明1の「鋼線」と甲B1発明の「鋼線」とは、炭素と珪素とマンガンとを含む鋼から構成される点の限りで一致するといえる。 (イ)また、甲B1発明の「鋼線」を製造するにあたって施される「空気パテンティング」は、「エアーパテンティング」として甲B6の第620頁左欄12〜18行に「鋼線の組織を微細パーライト組織とする熱処理法」として説明される処理を指すから、甲B1発明の「空気パテンティング」が施された「鋼線」は、本件特許発明1の「鋼の金属組織はパーライト組織である、鋼線。」に相当する。 (ウ)そうすると、本件特許発明1と甲B1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。 <一致点> 炭素と珪素とマンガンとを含む鋼から構成され、前記鋼の金属組織はパーライト組織である、鋼線。 <相違点4> 本件特許発明1の鋼線は、「0.7質量%以上1.0質量%以下の炭素と、0.12質量%以上0.32質量%以下の珪素と、0.3質量%以上0.9質量%以下のマンガンとを含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼から構成され」との成分特定がなされているのに対し、甲B1発明の鋼線は、かかる成分のものか否かが不明な点。 なお、甲B1発明の鋼線は、「0.81%のCと、0.23%のSiと、0.33%のMnと、0.025%のPと、0.0008のSと、0.01%のCuを化学成分として含む炭素鋼線材」を用いて作られるものではあるが、 a.甲B1発明の「%」が本件特許発明1の「質量%」を表すものか否かが不明であり、 b.また、甲B1発明の炭素鋼線材は、C、Si、M以外に鉄でも不可避的不純物でもない元素を含む余地もあるため、本件特許発明1のように「残部が鉄および不可避的不純物からなる」といえるか否かが不明であり、 c.さらには、甲B1発明の炭素鋼線材を「10%HNO3中で直径を約1/10だけ溶解、脱炭層を除去して後5.59mmまで伸線し、つぎに酸化脱炭防止ガス中で空気パテンティングを行い、ダイス角度2.5°のダイスで伸線」する製造過程後の鋼線の化学成分は、元素の含有割合含めて炭素鋼線材と同じ化学成分といえるか否かも不明である。 <相違点5> 本件特許発明1の鋼線は、「長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さが直径の0.5%以下」であるのに対し、甲B1発明の鋼線は、そのように全脱炭層深さが特定されるものとなっていない点。 <相違点6> 本件特許発明1の鋼線は、「長手方向に垂直な断面において、重心を通る直線上における硬さの最大値と最小値との差が50HV以下」であるのに対し、甲B1発明の鋼線は、そのように硬さの最大値と最小値との差が特定されるものとなっていない点。 イ.相違点の検討 事案に鑑み、相違点5について検討する。 (ア)甲B1発明の「鋼線」は、「10%HNO3中で直径を約1/10だけ溶解、脱炭層を除去」との処理、及び「酸化脱炭防止ガス中で空気パテンティングを行い」との処理とが行われたものであり、脱炭層形成が一定程度抑えられたものとは認められる。 しかしながら、前者の脱炭層を除去する処理で鋼線材表面の脱炭層が完全に除去されるか否かは不明であるし、後者の空気パテンティングによる処理も、酸化脱炭防止ガスが脱炭層の形成を防止できる程度が不明であるから、本件特許発明1のように「長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さが直径の0.5%以下」との要件を満たす「鋼線」であるとまでいえない。 (イ)したがって、相違点4及び6について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲B1に記載された発明とはいえないから、本件特許発明1に係る特許が、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえない。 (ウ)申立人Bは、相違点5に関連した主張として、 「甲第1号証には、『長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さが直径の0.5%以下』であることについては具体的に言及されていない。 しかしながら、本件特許明細書の段落0038には、『本実施の形態の鋼線1の製造方法では、工程(S20)が実施されることにより、脱炭層が除去される。また、工程(S30)においてパテンティング処理における加熱が不活性雰囲気中において実施されることにより、原料線材10に脱炭が生じることが抑制される。そのため、鋼線1の長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さを、直径の0.5%以下とすることができる。』と記載されている。 ここで、甲第1号証には、前記の記載1−1および記載1−3に示すように、『10% HNO3中で直径を約1/10だけ溶解、脱炭層を除去』した後に、『酸化脱炭防止ガス中』で空気パテンティングを行ったことが記載されている。したがって、甲第1号証に記載される鋼線Dは、『長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さが直径の0.5%以下』との要件を満足している。」(申立書B第12頁第1〜13行)と述べているが、上記(ア)で判断したとおりであるから、申立人Bのかかる主張は採用できない。 なお、申立人Bのかかる主張における「甲第1号証」とは、甲B1のことである。 (2)本件特許発明2〜3について 本件請求項2〜3は、本件請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(1)で述べたとおり、本件特許発明1が、甲B1に記載された発明とはいえない以上、本件特許発明2〜3についても同様に、甲B1に記載された発明とはいえないから、本件特許発明2〜3に係る特許が、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえない。 5.申立理由B−2(新規性)について (1)本件特許発明1について ア.対比 本件特許発明1と甲B2発明とを対比する。 (ア)甲B2発明の「高強度炭素鋼ワイヤ」は、本件特許発明1の「鋼線」に相当する。 (イ)また、甲B2発明の供試材の構成元素たる「C」、「Si」、及び「Mn」は、本件特許発明1の鋼線の構成元素たる「炭素」、「珪素」、及び「マンガン」に相当する。そして、甲B2発明では、かかる供試材に所定の処理を施してなる「高強度炭素鋼ワイヤ」について、その構成元素が直接特定されてはいないものの、かかる「高強度炭素鋼ワイヤ」が鋼から構成されるものであり、かつ、供試材の構成元素たる「C」、「Si」、及び「Mn」を含むことは明らかであるから、本件特許発明1の「鋼線」と甲B1発明の「高強度炭素鋼ワイヤ」とは、炭素と珪素とマンガンとを含む鋼から構成される点の限りで一致するといえる。 (ウ)さらに、甲B2発明の高強度炭素鋼ワイヤの製造時に施される「パテンティング」は、「エアーパテンティング」として甲B6の第620頁左欄12〜18行に「鋼線の組織を微細パーライト組織とする熱処理法」として説明される処理同様、鋼の金属組織をパーライト組織とする処理であると考えられ、このことは、甲B2発明の高強度炭素鋼ワイヤが「パーライト中のセメンタイトが結晶構造を備えている」とされるように、パーライトであることを前提とするかのような規定がなされていることからも裏付けられる。 そうすると、本件特許発明1の「鋼線」と甲B2発明の「高強度炭素鋼ワイヤ」とは、「鋼の金属組織はパーライト組織である」点でも共通するといえる。 (エ)以上から、本件特許発明1と甲B2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。 <一致点> 炭素と珪素とマンガンとを含む鋼から構成され、前記鋼の金属組織はパーライト組織である、鋼線。 <相違点7> 本件特許発明1の鋼線は、「0.7質量%以上1.0質量%以下の炭素と、0.12質量%以上0.32質量%以下の珪素と、0.3質量%以上0.9質量%以下のマンガンとを含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼から構成され」との成分特定がなされているのに対し、甲B2発明の高強度炭素鋼ワイヤは、かかる成分のものか否かが不明な点。 なお、甲B2発明の高強度炭素鋼ワイヤは、「Cを0.82重量%、Siを0.19重量%、Mnを0.52%重量%、Pを0.009重量%、Sを0.008重量%含む供試材」を用いて作られるものではあるが、 a.甲B2発明の高強度炭素鋼ワイヤは、C、Si、M以外に鉄でも不可避的不純物でもない元素を含む余地もあるため、本件特許発明1のように「残部が鉄および不可避的不純物からなる」といえるか否かが不明であり、 b.また、甲B2発明の「供試材を用いた圧延材について、表面脱炭層を完全に除去するピーリング加工を行い、580±5℃でパテンティングを行い、アプローチ角が10°以下のダイスを用いて1.2mmから0.2mmまで真歪3.58で湿式伸線」する製造過程後の高強度炭素鋼ワイヤの化学成分は、元素の含有割合含めて供試材と同じ化学成分といえるか否かも不明である。 <相違点8> 本件特許発明1の鋼線は、「長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さが直径の0.5%以下」であるのに対し、甲B2発明の高強度炭素鋼ワイヤは、そのように全脱炭層深さが特定されるものとなっていない点。 <相違点9> 本件特許発明1の鋼線は、「長手方向に垂直な断面において、重心を通る直線上における硬さの最大値と最小値との差が50HV以下」であるのに対し、甲B2発明の高強度炭素鋼ワイヤは、そのように硬さの最大値と最小値との差が特定されるものとなっていない点。 イ.相違点の検討 事案に鑑み、相違点8について検討する。 (ア)甲B2発明の「高強度炭素鋼ワイヤ」は、「表面脱炭層を完全に除去するピーリング加工」との処理、及び「580±5℃でパテンティングを行い」との処理とが行われたものであり、前者のピーリング加工の処理で脱炭層が一旦完全に除去されるとは認められる。 しかしながら、後者のパテンティングによる処理で脱炭層の形成を具体的にどの程度抑えているかは不明であるから、本件特許発明1のように「長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さが直径の0.5%以下」との要件を満たす「鋼線」であるとまでいえない。 (イ)したがって、相違点7及び9について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲B2に記載された発明とはいえないから、本件特許発明1に係る特許が、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえない。 (ウ)申立人Bは、相違点8に関連した主張として、 「また、甲第2号証にも、『長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さが直径の0.5%以下』であることについては具体的に言及されていない。 しかしながら、甲第2号証には、前記の記載2−4および記載2−5に示すように、パテンティング前に『圧延材の表面脱炭層を完全に除去するため、ピーリング加工』を行い、その後、パテンティングを行ったことが記載されている。 なお、甲第2号証には、パテンティングを行う際の雰囲気については具体的に記載されていない。しかし、甲第3号証には、前記の記載3−1および記載3−2に示すように、脱炭した表面層の硬さは内部に比べて100HV以上低下することが記載されている。 同様に、甲第1号証には、前記の記載1−5および記載1−6に示すように、脱炭させた線は周辺部の硬度は脱炭のため低くなっており、100HV以上低下することが記載されている。 一方、甲第2号証には、前記の記載2−5に示すように、『硬度分布は素線の横断面において外周部,中心部,これらの中間部の3箇所のビッカース硬度を測定し、そのばらつきを求めることで調べた』結果、『いずれの位置においても硬度は ほぼ一定し、ばらつきは5%以内であった』ことが記載されている。 このことは、甲第2号証に記載される本発明材2が、外周部に脱炭層を有しないことを意味している。すなわち、甲第2号証に記載される本発明材2は、『長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さが直径の0.5%以下』との要件を満足している。」(申立書B第12頁第16行〜第13頁第7行)と述べているが、甲B2に記載されたパテンティング後の伸線前の素線は、横断面における外周部,中心部,これら中間部の3カ所のビッカース硬度のばらつきは5%以内となっており、これは周辺部について脱炭がなされていないために、本件特許発明1の「鋼線」に関する「長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さが直径の0.5%以下」との要件も満足されるとの関係が必ず成立するとも明確な裏付けがなされているものではないし、上記(ア)で判断したとおりであるから、申立人Bのかかる主張は採用できない。 なお、申立人Bのかかる主張における「甲第2号証」とは、甲B2のことである。 (2)本件特許発明2〜7について 本件請求項2〜7は、本件請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(1)で述べたとおり、本件特許発明1が、甲B2に記載された発明とはいえない以上、本件特許発明2〜7についても同様に、甲B2に記載された発明とはいえないから、本件特許発明2〜7に係る特許が、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえない。 6.申立理由B−3(進歩性)について (1)本件特許発明1について ア.対比 本件特許発明1と甲B1発明との一致点・相違点は、上記4.(1)ア.(エ)のとおりであり、また、本件特許発明1と甲B2発明との一致点・相違点は、上記5.(1)ア.(エ)のとおりである。 イ.相違点の検討 事案に鑑み、本件特許発明1の「長手方向に垂直な断面における全脱炭層深さが直径の0.5%以下」との条件(以下、「脱炭層深さ条件」という。)に関わる相違点5及び7について、まとめて検討する。 (ア)本件特許明細書等に記載された実施例5(【0059】〜【0060】、【図13】)によると、上記脱炭層深さ条件を満たす本件特許発明1の鋼線は、表層硬さ(表面硬さ)が450HV以上となることが実証されており、また、実施例3(【0052】〜【0054】)及び実施例4(【0057】〜【0058】、【図12】)によると、そのように鋼線の表面硬さが450HV以上であることにより、少なくとも耐へたり性を有する点において、課題(【0006】)解決に寄与することが把握できる。 (イ)これに対し、甲B1には、「鋼線の硬度分布」の現象解明を関する内容が記載されており、また、甲B2には、強加工を行っても結晶構造を維持し、高強度、高靱性を有する高強度炭素鋼ワイヤに関する内容が記載されている一方、本件特許発明1のような鋼線の上記脱炭層深さ条件と耐へたり性との関係に着目した技術思想を把握することはできない。 (ウ)また、申立人Bにより、周知技術を示す文献として提示される甲B3〜甲B8の記載から、本件特許発明1のような鋼線の上記脱炭層深さ条件と耐へたり性との関係に着目した技術思想を把握することはできない。 (エ)そうすると、たとえ当業者が甲B1〜甲B8の記載に触れたとしても、甲B1発明及び/又は甲B2発明、並びに甲B3〜甲B8記載の周知技術により、少なくとも鋼線の耐へたり性を良好なものとする本件特許発明1の相違点5及び7にかかる発明特定事項に想到することは困難である。 (オ)また、本件特許発明1の相違点5及び7にかかる発明特定事項が実現されることによる、少なくとも鋼線の強度の向上をもたらすとの効果は、甲B1発明及び/又は甲B2発明、並びに甲B3〜甲B8記載の周知技術からでは示唆されない異質な効果であり、当業者が予測することができない顕著な効果であるといえる。 (カ)以上のとおり、本件特許発明1は、甲B1及び/又は甲B2に記載された発明、並びに周知技術に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、本件特許発明1に係る特許が、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえない。 (2)本件特許発明2〜10について 本件請求項2〜10は、本件請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(1)で述べたとおり、本件特許発明1が、甲B1及び/又は甲B2に記載された発明、並びに周知技術に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、本件特許発明2〜10についても同様に、甲B1及び/又は甲B2に記載された発明、並びに周知技術に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、本件特許発明2〜10に係る特許が、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえない。 第5.むすび 以上のとおり、申立人Aによる特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできず、また、申立人Bによる特許異議の申立ての理由によっても、本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-03-28 |
出願番号 | P2019-508557 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C22C)
P 1 651・ 113- Y (C22C) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
粟野 正明 |
特許庁審判官 |
井上 猛 市川 篤 |
登録日 | 2021-05-14 |
登録番号 | 6884852 |
権利者 | 日本発條株式会社 住友電気工業株式会社 |
発明の名称 | 鋼線およびばね |
代理人 | 北野 修平 |
代理人 | 田中 勝也 |
代理人 | 北野 修平 |
代理人 | 田中 勝也 |