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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 F23G 審判 全部申し立て 2項進歩性 F23G 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 F23G |
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管理番号 | 1385213 |
総通号数 | 6 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-06-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-12-02 |
確定日 | 2022-05-20 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6927127号発明「廃棄物焼却方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6927127号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6927127号の請求項1に係る特許についての出願は、平成30年3月30日に出願され、令和3年8月10日にその特許権の設定登録がされ、令和3年8月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について令和3年12月2日に特許異議申立人 石井健治(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 ホッパに投入されシュートを経由して供給された廃棄物を燃焼室で燃焼しボイラで蒸気を発生させる廃棄物焼却炉による廃棄物焼却方法であって、 間欠的に外部から廃棄物をホッパに投入する廃棄物投入工程と、 上記燃焼室へ廃棄物を供給するとともに、該燃焼室内へ燃焼用空気を供給して、該燃焼室内で廃棄物を燃焼させる廃棄物燃焼工程と、 燃焼室からの排ガスとの熱交換によりボイラで蒸気を発生させる蒸気発生工程と、 シュート内での廃棄物の性状の測定値に基づいて操作端の操作量を制御する燃焼制御工程とを備える廃棄物焼却方法において、 上記燃焼制御工程は、 廃棄物の性状としての該廃棄物の嵩密度及び水分率の少なくとも一方の測定値の単位時間あたりの変化量である測定値の時間変化率を算出する演算工程と、 上記演算工程で算出された上記測定値の時間変化率が所定の閾値を超えているときに、廃棄物の発熱量の変動が所定範囲を超えていると判定する判定工程と、 上記判定工程で廃棄物の発熱量の変動が所定範囲を超えていると判定されたときに、上記廃棄物の発熱量の変動が上記所定範囲内となるような操作端の操作量を算出し、該操作量に基づいて操作端を制御する操作量指示工程とを備えることを特徴とする廃棄物焼却方法。」 第3 特許異議申立ての概要 異議申立人は、証拠として、甲第1号証、甲第2号証(以下「甲1、甲2」という。)を提出し、概略次の本件特許の取り消しを主張している。 甲1:特開2015−224822号公報 甲2:特開平10−169952号公報 理由1(進歩性):本件特許発明は、甲1、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 理由2(実施可能要件):本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない。 理由3(サポート要件):本件特許の請求項1の記載は発明が解決しようとしている課題の解決手段が反映されたものではないので、本件特許発明は特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない。 理由4(明確性):本件特許の請求項1の記載が明確でないので、本件特許発明は特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない。 第4 当審の判断 1 理由1(進歩性)について (1)甲1 ア 甲1には以下の記載がある(下線は当審において付したものである。以下同様。)。 (ア)「【請求項8】 ホッパに投入された廃棄物を燃焼室で燃焼しボイラで蒸気を発生させる廃棄物焼却炉による廃棄物焼却方法であって、 間欠的に外部から廃棄物をホッパに投入する廃棄物投入工程と、 上記ホッパから燃焼室へ廃棄物を供給するとともに、該燃焼室内へ燃焼用空気を供給して、該燃焼室内で廃棄物を燃焼させる廃棄物燃焼工程と、 燃焼室からの排ガスとの熱交換によりボイラで蒸気を発生させる蒸気発生工程と、 燃焼室内での廃棄物の燃焼状態量としての焼却プロセス情報に基づき各操作端の操作量を制御する燃焼制御工程とを備える廃棄物焼却方法において、 上記燃焼制御工程は、 廃棄物焼却炉での入出熱についての入出熱情報と燃焼室内での廃棄物の焼却状況を監視するための焼却状況監視情報とを上記焼却プロセス情報として取得する焼却プロセス情報取得工程と、 前回投入された廃棄物の燃焼について焼却プロセス情報工程で取得された上記入出熱情報及び該廃棄物の焼却量に基づいて、今回投入された廃棄物の燃焼についての発熱量基準値を算出し、該発熱量基準値と予め設定されたボイラでの目標蒸発量とに基いて廃棄物の目標焼却量を算出する目標焼却量算出工程と、 燃焼室内への廃棄物供給量及び空気供給量の少なくとも一方を制御量として、上記目標蒸発量に基いて制御量基準値を算出する制御量基準値算出工程と、 今回投入された廃棄物の燃焼中に焼却プロセス情報取得工程で取得される焼却状況監視情報に基いて上記制御量基準値を補正する制御量基準値補正工程と、 補正された制御量基準値に基いて操作端の操作量を算出する操作量算出工程と、 ホッパ内での廃棄物の表面の高さ及びホッパヘ投入された廃棄物の投入量に基いて廃棄物の嵩密度を算出し、今回投入された廃棄物の嵩密度について前回の嵩密度からの変化量を算出し、該変化量が所定の閾値を超えているときに、廃棄物の質が変化したことを検出する廃棄物の質変化検出工程とを備え、 上記目標焼却量算出工程は、上記廃棄物の質変化検出工程で廃棄物の質の変化が検出されたときに、算出された嵩密度の変化量に基いて発熱量基準値を補正することを特徴とする廃棄物焼却方法。」 (イ)「【0018】 <第二発明> 第二発明に係る廃棄物焼却方法は、ホッパに投入された廃棄物を燃焼室で燃焼しボイラで蒸気を発生させる廃棄物焼却炉による廃棄物焼却方法であって、間欠的に外部から廃棄物をホッパに投入する廃棄物投入工程と、上記ホッパから燃焼室へ廃棄物を供給するとともに、該燃焼室内へ燃焼用空気を供給して、該燃焼室内で廃棄物を燃焼させる廃棄物燃焼工程と、燃焼室からの排ガスとの熱交換によりボイラで蒸気を発生させる蒸気発生工程と、燃焼室内での廃棄物の燃焼状態量としての焼却プロセス情報に基づき各操作端の操作量を制御する燃焼制御工程とを備える。 「【0019】 かかる廃棄物焼却方法において、本発明では、上記燃焼制御工程は、廃棄物焼却炉での入出熱についての入出熱情報と燃焼室内での廃棄物の焼却状況を監視するための焼却状況監視情報とを上記焼却プロセス情報として取得する焼却プロセス情報取得工程と、前回投入された廃棄物の燃焼について焼却プロセス情報工程で取得された上記入出熱情報及び該廃棄物の焼却量に基づいて、今回投入された廃棄物の燃焼についての発熱量基準値を算出し、該発熱量基準値と予め設定されたボイラでの目標蒸発量とに基いて廃棄物の目標焼却量を算出する目標焼却量算出工程と、燃焼室内への廃棄物供給量及び空気供給量の少なくとも一方を制御量として、上記目標蒸発量に基いて制御量基準値を算出する制御量基準値算出工程と、今回投入された廃棄物の燃焼中に焼却プロセス情報取得工程で取得される焼却状況監視情報に基いて上記制御量基準値を補正する制御量基準値補正工程と、補正された制御量基準値に基いて操作端の操作量を算出する操作量算出工程と、ホッパ内での廃棄物の表面の高さ及びホッパヘ投入された廃棄物の投入量に基いて廃棄物の嵩密度を算出し、今回投入された廃棄物の嵩密度について前回の嵩密度からの変化量を算出し、該変化量が所定の閾値を超えているときに、廃棄物の質が変化したことを検出する廃棄物の質変化検出工程とを備え、上記目標焼却量算出工程は、上記廃棄物の質変化検出工程で廃棄物の質の変化が検出されたときに、算出された嵩密度の変化量に基いて発熱量基準値を補正することを特徴としている。」 (ウ)「【0023】 図1は、本発明の実施形態に係る廃棄物燃焼炉を示す概略構成図である。本実施形態に係る廃棄物燃焼炉は、火格子を有する全連型(24時間連続運転)の火格子式廃棄物焼却炉であり、間欠的に外部から廃棄物が投入されるホッパ1と、該ホッパ1から供給された廃棄物を燃焼するための燃焼室2と、該燃焼室2内へ下方から燃焼用一次空気を供給する燃焼用一次空気供給手段3と、燃焼室2の後流側の二次燃焼領域に二次燃焼用空気を供給する二次燃焼用空気供給手段4と、燃焼室2からの排ガスを受け該排ガスとの熱交換により蒸気を発生させるボイラ5と、燃焼室2内での廃棄物の燃焼状態量としての後述の焼却プロセス情報に基づき各操作端の操作量を制御する燃焼制御手段6とを備えている。ボイラ5の入口近傍が二次燃焼領域に相当する。 【0024】 ホッパ1は、クレーン(図示せず)によって投入された廃棄物を受ける。該ホッパ1の下部には、廃棄物を押し出して燃焼室2内へ供給する往復動可能な押出機7が設けられている。本実施形態では、該押出機7の移動速度によって燃焼室2内への廃棄物供給量が調整されるようになっている。また、ホッパ1の上部には、ホッパ1内での廃棄物の表面の高さ(レベル)を計測するための廃棄物レベル計8が設けられている。」 (エ)「【0029】 燃焼制御手段6は、焼却プロセス情報に基づき各操作端の操作量を、例えばPID制御により制御する。本実施形態における燃焼制御においては、燃焼室内への廃棄物供給量及び空気供給量が制御量として設定されている。また、上記廃棄物供給量に対応する操作端は押出機7及び火格子9a〜9dであり、上記空気供給量に対応する操作端はダンパ13である。つまり、上記廃棄物供給量に対応する操作端の操作量は押出機7の移動速度及び火格子9a〜9dの送り速度であり、上記空気供給量に対応する操作端の操作量はダンパ13の開度である。図1に見られるように、操作端としての押出機7、火格子9a〜9d及びダンパ13はそれぞれ燃焼制御手段6の後述の制御部23により制御されるようになっている。 【0030】 燃焼制御手段6は、後述の焼却プロセス情報を取得する焼却プロセス情報取得部20と、ホッパ1に投入された廃棄物の質の変化を検出する廃棄物の質変化検出部21と、焼却プロセス情報取得部20で取得された焼却プロセス情報及び廃棄物の質変化検出部21で算出された廃棄物嵩密度変化量に基いて操作端の操作量を算出する演算部22と、該演算部22で算出された操作量に基いて各操作端を制御する制御部23とを有している。」 (オ)「【0034】 以下、図2を参照しながら、燃焼制御手段6による燃焼制御の流れを説明する。廃棄物の質変化検出部21は、廃棄物がホッパ1に投入された際に、廃棄物レベル計8で計測されたホッパ1内での廃棄物の表面の高さの増加分に対してホッパ1の断面積(水平方向形状の面積)を乗じることにより、ホッパ1内へ投入された廃棄物の体積を算出する。次に、廃棄物投入量(重量)を廃棄物体積で除して廃棄物の嵩密度を算出する。ここで、廃棄物投入量は、例えば、ホッパ1への廃棄物の投入の際、クレーンに設けられた重量計(図示せず)により計測される。次に、今回投入された廃棄物の嵩密度について、前回投入された廃棄物の嵩密度からの変化量を算出し、該変化量が所定の閾値を超えているときに、廃棄物の質が変化したことを検出する。 【0035】 目標焼却量算出部24は、まず、前回投入された廃棄物の燃焼について焼却プロセス情報取得部20により取得された入出熱情報及び該廃棄物の焼却量に基づいて、今回投入された廃棄物の燃焼についての発熱量基準値を算出する。具体的には、目標焼却量算出部24は、前回の燃焼時に焼却プロセス情報取得部20により取得された入出熱情報を用いて燃焼室2とボイラ5における熱収支計算を行う。すなわち、焼却炉とボイラにおける総入熱量と総出熱量が等しいという熱収支が成立していることから、廃棄物の燃焼による発熱量が、取得された出熱情報の総和から廃棄物の燃焼による発熱量を除くその他の入熱情報を差し引いた熱量として算出される。さらに、この算出された廃棄物の燃焼による発熱量算出値を、前回の燃焼時における廃棄物の実際の焼却量で除することにより、今回投入された廃棄物の燃焼についての発熱量基準値を算出する。次に、該目標焼却量算出部24は、既述の廃棄物の質変化検出部21によって廃棄物の質が変化したことが検出された場合には、該廃棄物の質変化検出部21で算出された嵩密度の変化量に基いて、上記発熱量基準値を補正する。さらに、目標焼却量算出部24は、算出あるいは補正された発熱量基準値とオペレータにより予め設定されたボイラでの目標蒸発量とに基いて、今回投入された廃棄物の燃焼について、目標蒸発量を達成するために必要な廃棄物の目標焼却量を算出する。 【0036】 制御量基準値算出部25は、目標焼却量算出部24で算出した目標焼却量に基づき導いた燃焼室内への廃棄物供給量及び燃焼用一次空気供給量を制御量として、上記目標蒸発量を達成するための制御量の基準値を算出する。」 (カ)「【0039】 燃焼制御手段6がPID制御により各操作端を制御している場合において、廃棄物嵩密度の変化量が所定の閾値を超えたときには、燃焼制御手段6は、該変化量に応じて比例ゲインを調整することとしてもよい。このように比例ゲインを調整することにより、廃棄物発熱量の瞬時値の影響を一次的に高めて、廃棄物の質の急激な変化に対してより良好に追従することができる。」 【0040】 次に、図3に基いて、本実施形態における燃焼制御の動作を説明する。まず、オペレータが目標蒸発量を設定する(S1)。また、目標焼却量算出部24が、今回投入された廃棄物の燃焼についての発熱量基準値を算出する(S2)。このとき、廃棄物の質変化検出部21によって廃棄物の質の変化が検出され発熱量基準値の補正値が算出されている場合には、上記補正値に基いて上記発熱量基準値が補正される(S3)。」 (キ)「 」 イ 上記アから分かること (ア)図1の記載及び技術常識を参酌すると、図1におけるホッパ1において、燃焼室2と接続するまでの長方形の部分はホッパ1のシュート部分であることが分かり、ホッパ1の入口から投入された廃棄物はホッパ1のシュートを経由して燃焼室2に供給されることが分かる。 そして、段落【0018】と図1の記載から、甲1にはホッパ1の入口に投入されホッパ1のシュートを経由して供給された廃棄物を燃焼室2で燃焼しボイラ5で蒸気を発生させる廃棄物焼却炉による廃棄物焼却方法が記載されていることが分かり、当該廃棄物焼却方法は、間欠的に外部から廃棄物をホッパ1の入口に投入する廃棄物投入工程と、燃焼室2へ廃棄物を供給するとともに、該燃焼室2内へ燃焼用空気を供給して、該燃焼室2内で廃棄物を燃焼させる廃棄物燃焼工程と、燃焼室2からの排ガスとの熱交換によりボイラ5で蒸気を発生させる蒸気発生工程と、各操作端の操作量を制御する燃焼制御工程とを備えていることが分かる。 (イ)段落【0019】、【0034】の記載から燃焼制御工程は、廃棄物の質が変化したことを検出する廃棄物の質変化検出工程を備えていること分かり、図1の記載も参酌すると、当該質変化検出工程においては、廃棄物の質はホッパ1のシュート内で測定されていると認められる。 さらに、段落【0029】、【0030】の記載を参酌すると、燃焼制御工程においては、廃棄物の質の測定値に基づいて操作端の操作量が制御されていることが分かる。 そうしてみると、当該燃焼制御工程はホッパ1のシュート内での廃棄物の質の測定値に基づいて操作端の操作量を制御しているものであると認められる。 (ウ)段落【0019】、【0030】の記載を参酌すると、燃焼制御工程における質変化検出工程では、廃棄物の質としての廃棄物の嵩密度の変化量を検出していることが分かる。 (エ)段落【0019】、【0039】の記載を参酌すると、燃焼制御工程は、廃棄物嵩密度の変化量が所定の閾値を超えたときに、廃棄物の質が変化していると判定する工程(以下、「判定工程」という。)を備えていることが分かる。 (オ)段落【0039】には、判定工程で廃棄物の質が変化していると判定されたときに、PID制御における比例ゲインを調整することが記載されており、段落【0029】には各操作端の操作量を制御する際は、PID制御を行っていることが記載されている。 また、段落【0029】には、PID制御により制御される操作端の操作量は、押出機7の移動速度及び火格子9a〜9dの送り速度であり、それによって、燃焼室内への廃棄物供給量及び空気供給量を制御することが記載されており、さらに、段落【0034】には、廃棄物供給量及び燃焼用一次空気供給量を制御することによって、蒸発量が目標蒸発量となるように制御していることが記載されているので、判定工程で廃棄物の質が変化していると判定されたときに、蒸発量が目標蒸発量となるように、操作端の操作量を制御していることが分かる。 そして、段落【0019】には、燃焼制御工程において操作端の操作量を算出すること(操作量算出工程)、段落【0018】には、燃焼制御工程において各操作端の操作量を制御することがそれぞれ記載されているので、燃焼制御工程は、判定工程で廃棄物の質が変化していると判定されたときに、蒸発量が目標蒸発量となるように、操作端の操作量を算出し、該操作量に基づいて操作端を制御する工程(以下、「操作量指示工程」という。)を備えていることが分かる。 ウ 上記ア及びイを総合すると、甲1には、下記の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「ホッパ1の入口に投入されホッパ1のシュートを経由して供給された廃棄物を燃焼室2で燃焼しボイラ5で蒸気を発生させる廃棄物焼却炉による廃棄物焼却方法であって、 間欠的に外部から廃棄物をホッパ1の入口に投入する廃棄物投入工程と、 上記燃焼室2へ廃棄物を供給するとともに、該燃焼室2内へ燃焼用空気を供給して、該燃焼室2内で廃棄物を燃焼させる廃棄物燃焼工程と、 燃焼室2からの排ガスとの熱交換によりボイラ5で蒸気を発生させる蒸気発生工程と、 ホッパ1のシュート内での廃棄物の質の測定値に基づいて操作端の操作量を制御する燃焼制御工程とを備える廃棄物焼却方法において、 上記燃焼制御工程は、 廃棄物の質としての該廃棄物の嵩密度の測定値の変化量を算出する質変化検出工程と、 上記演算工程で算出された上記測定値が所定の閾値を超えているときに、廃棄物の質が変化していると判定する判定工程と、 上記判定工程で廃棄物の質が変化していると判定されたときに、目標蒸発量となるような操作端の操作量を算出し、該操作量に基づいて操作端を制御する操作量指示工程とを備える廃棄物焼却方法。」 (2)甲2 ア 甲2には次の記載がある (ア)「【0011】 【発明が解決しようとする課題】ところが、制御装置17によるPID制御では、汚泥供給率の変動や汚泥中の水分率の変化や汚泥中の有機成分の変化に伴う汚泥自体の発熱量変化等の要因により炉床温度が変化することから、炉床温度が上昇または下降してから炉床ガンの補助燃料の流量は、炉床温度の変化を抑制するように調整されている。 【0012】従って、汚泥供給率や汚泥中の水分率の大きな変動に対しては炉床ガンの補助燃料の流量の調整が間に合わず、制御の時間遅れを引き起こし、炉床温度が大きく上昇または下降してしまうことになる。即ち、炉床温度が変化したと判断した時点で炉床ガンの補助燃料の流量を変化させることを余儀なくされる。炉床温度の制御は、後追いの制御となる。 【0013】かかるガン操作による後追いの制御では、炉床温度を目標範囲内に維持することは困難であり、そのため、オペレータは常に汚泥を焼却する際の炉床温度に注意を払わらなければならず、炉床温度の変化が激しい場合には、炉床温度のPlD制御によるガン操作から手動操作によるガン操作に切り替えて行なわなければならず、運転管理が困難等であった。また、排ガス性状が悪化したり、炉床ガンの補助燃料の流量が増大したりする問題があった。 【0014】ちなみに、制御装置17による制御は図11に実験結果として示されている。図に示すように、炉床温度は810℃±8℃の範囲で変動している。本発明は、上述の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、汚泥供給率の変動や、汚泥中の水分率が変化しても、炉床温度が変化する前に、炉床温度を目標範囲内に制御することができる汚泥焼却炉の燃焼制御方法およびその装置並びにファジィ推論燃焼制御プログラムの媒体を提供することである。」 (イ)「【0036】炉床温度変化率計算手段24は、時刻tにおける炉床温度Ttと時刻(t−Δt)における炉床温度T(t-Δt)の単位時間Δtについての差分(Tt−T(t-Δt))を計算するものである。汚泥水分変化率計算手段26は、汚泥供給率と水分率から汚泥水分変化率の増減を計算するもので、次の計算式で求められる。 【0037】Δw/Δt={qt(mt−mc)−q(t-Δt)(m(t-Δt)−mc)}/Δt ここで、Δw:汚泥水分変化率の増減量(例えばkg/h) Δt:単位時間(例えば10分) qt:時刻tにおける汚泥供給率(kg/h) q(t-Δt):時刻(t−Δt)における汚泥供給率(kg/h) mt:時刻tにおける水分率(%) m(t-Δt):時刻(t−Δt)における水分率(%) mc:自燃水分率(%) 自燃水分率とは、炉床ガン10による燃料供給を行なわなくても汚泥自体が燃焼する水分率である。」 (ウ)「【0041】 NLL:(かなり低い)かなり小さい NL ;(とても低い)とても小さい NM ;(低い)小さい NS :(少し低い)少々小さい ZR :(丁度よい)そのまま PS :(少し高い)少々大きい PM :(高い)大きい また、炉床温度以外の入力変数および出力変数に対しても、各変数に応じて同様に数種類定められている。」 (エ)「【0049】炉床温度変化率計算手段24では、時刻tにおける炉床温度Ttと時刻(t−Δt)における炉床温度T(t-Δt)の単位時間Δtについての差分(Tt−T(t-Δt))が炉床温度変化率として計算され、炉床温度変化率はファジィ推論部25に入力される。一方、汚泥供給率センサ22により、汚泥焼却炉1の炉床部5に供給される汚泥の汚泥供給率(単位時間当たりの汚泥供給量で、例えばkg/h)が検出され、汚泥水分変化率計算手段26に送られる。含水率センサ23により、汚泥中の水分率(水分重量/汚泥重量×100%)が計測され、汚泥水分変化率計算手段26に送られる。汚泥水分変化率計算手段26では、汚泥供給率と水分率から汚泥水分変化率の増減が計算され、汚泥水分変化率はファジィ推論部25に入力変数として入力される。 【0050】ファジィ推論部25においては、ファジィ推論が以下のように行なわれる。まず、入力変数がファジィ推論部25に入力され、ファジィ推論部25から炉床ガン補助燃料の流量の修正量が出力される。ファジィ推論部25においては、知識28,メンバーシップ関数群29,30,31,32を用いて周知のデファジフィケーションにより炉床ガン補助燃料の流量の修正量が出力される。 【0051】炉床ガン補助燃料の流量の修正量は、バルブ操作量計算手段27により該炉床ガン補助燃料の流量の修正量に対応した炉床ガン補助燃料の流量に換算される。さらに、炉床ガン補助燃料の流量に応じた回転角度の開度に炉床ガン補助燃料用バルブ16が調整される。炉床ガン補助燃料用バルブ16がその開度の状態で補助燃料が炉床ガン10に送られる。 【0052】炉起動時は炉床温度が低く、炉床部5は温度立上げ時の燃焼状態となっているが、入出力変数の初期値に応じて燃焼状態が立上げ運転時と定常運転時のどちらかとなる。即ち、炉床温度は805℃付近より低い温度では立上げ状態となり、805℃では定常状態となって、汚泥が焼却可能となる。 【0053】汚泥の状態が変化すると、炉床温度,炉床温度変化率に影響を与えるということが確認されている。これを考慮して、炉床温度が変化する前に、炉床部5の炉床温度に対する影響度の大きい汚泥の状態を見て、フィードフォワード制御により、炉床ガン補助燃料の流量の修正量を制御し、事前に炉床温度を制御している。補助燃料の燃焼の結果として生じる被制御系の燃焼状態を示す炉床温度が変化し、炉床温度がフィードバックされる。」 (オ)「【0056】具体的に説明すると、例えば、フィードバックされる入力変数としての炉床温度が805℃で丁度よく、汚泥水分変化率が0になると、炉床温度のラベルはZR,汚泥水分変化率のラベルはZRで,ファジィ推論部25でルール42が適用され、炉床ガン補助燃料の流量の修正量のラベルはZRで、炉床ガン補助燃料の流量の修正量は変化しなように出力され、前記温度系はバランスのとれた状態に収束している。この状態から、汚泥水分変化率が増加してラベルZRから例えばラベルPSに変化すると、炉床ガン補助燃料の流量の修正量はラベルZRからPSに変化する(ルール43)。この結果、汚泥水分変化率の増加で炉床部5が冷却され、炉床温度が下がろうとしても、炉床ガン補助燃料用バルブ16の開度が大きくなり、炉床ガン補助燃料の流量が増加し、炉床部5において発熱量が増加し、炉床温度は元の収束値(ラベルZR)に戻ることになる。」 (カ)「 」 イ 上記アからわかること (ア)段落【0036】、【0049】の記載を参酌すると、含水率センサ23で計測した汚泥中の水分率を用いて、汚泥の水分率の単位時間あたりの変化量を算出することが分かる。 (イ)段落【0049】ないし段落【0053】の記載を参酌すると、算出した汚泥の水分率の単位時間あたりの変化量に基づき、操作端(補助燃料用バルブ16)の操作量を制御することが分かる。 ウ 上記ア及びイを総合すると、甲2には、下記の技術(以下「甲2技術」という。)が記載されていると認められる。 「汚泥の水分率の単位時間あたりの変化量を算出し、算出した汚泥の水分率の単位時間あたりの変化量に基づき、操作端の操作量を制御する技術。」 (3)本件特許発明と甲1発明との対比・判断 甲1発明における「ホッパ1の入口」は本件特許発明における「ホッパ」に相当し、以下同様に、「ホッパ1のシュート」は「シュート」に、「燃焼室2」は「燃焼室」に、「ボイラ5」は「ボイラ」に、「廃棄物の質」は「廃棄物の性状」に、それぞれ相当する。 また、甲1発明における「質変化検出工程」は、本件特許発明の「演算工程」と「廃棄物の性状としての該廃棄物の嵩密度の測定値の変化量を算出する」との限りにおいて一致し、甲1発明の「判定工程」は本件特許発明の「判定工程」と「演算工程で算出された測定値が所定の閾値を超えているとき」を「判定する」との限りにおいて一致し、甲1発明の「操作量指示工程」は本件特許発明の「操作量指示工程」と「判定工程で判定されたときに、操作端の操作量を算出し、該操作量に基づいて操作端を制御する」との限りにおいて一致する。 したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。 [一致点] 「ホッパに投入されシュートを経由して供給された廃棄物を燃焼室で燃焼しボイラで蒸気を発生させる廃棄物焼却炉による廃棄物焼却方法であって、 間欠的に外部から廃棄物をホッパに投入する廃棄物投入工程と、 上記燃焼室へ廃棄物を供給するとともに、該燃焼室内へ燃焼用空気を供給して、該燃焼室内で廃棄物を燃焼させる廃棄物燃焼工程と、 燃焼室からの排ガスとの熱交換によりボイラで蒸気を発生させる蒸気発生工程と、 シュート内での廃棄物の性状の測定値に基づいて操作端の操作量を制御する燃焼制御工程とを備える廃棄物焼却方法において、 上記燃焼制御工程は、 廃棄物の性状としての該廃棄物の嵩密度の測定値の変化量を算出する演算工程と、 上記演算工程で算出された上記測定値が所定の閾値を超えているときを判定する判定工程と、 上記判定工程で判定されたときに、操作端の操作量を算出し、該操作量に基づいて操作端を制御する操作量指示工程とを備える廃棄物焼却方法。」 [相違点1] 演算工程に関して、本件特許発明は「廃棄物の嵩密度及び水分率の少なくとも一方の測定値の単位時間あたりの変化量である測定値の時間変化率を算出」しているのに対し、甲1発明は廃棄物の嵩密度の測定値の変化量を算出している点。 [相違点2] 判定工程に関して、本件特許発明は「演算工程で算出された測定値の時間変化率が所定の閾値を超えているときに、廃棄物の発熱量の変動が所定範囲を超えていると判定」しているのに対し、甲1発明は演算工程で算出された上記測定値が所定の閾値を超えているときに廃棄物の質が変化していると判定している点。 [相違点3] 操作量指示工程に関して、本件特許発明は「判定工程で廃棄物の発熱量の変動が所定範囲を超えていると判定されたときに、廃棄物の発熱量の変動が所定範囲内となるような操作端の操作量を算出」しているのに対して、甲1発明は、「判定工程で廃棄物の質が変化していると判定されたときに、目標蒸発量となるような操作端の操作量を算出」している点。 事案に鑑みまず相違点1について検討する。 [相違点1について] 甲2技術は汚泥の水分率の単位時間あたりの変化量を算出しているものであるが、甲1発明では廃棄物の嵩密度の変化量を検出しており、検出する対象が「水分率」と「嵩密度」とで相違しているので、そもそも甲1発明に甲2技術を適用する動機付けは存在しない そうしてみると、甲1発明において、相違点1に係る構成の如く嵩密度の変化量を検出していることに代えて、嵩密度の単位時間あたりの変化量を検出するように構成することは、甲2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 以上のとおり、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲1発明及び甲2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 理由2(実施可能要件)について 本件特許発明の「判定工程」における「所定の閾値」の設定について、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0045】には、「嵩密度の時間変化率に対する閾値P2は、例えば、廃棄物焼却炉の試運転時、嵩密度の時間変化率の算出と蒸発量の測定を行いながら、閾値を増減させてみることにより、誤検知が生じないような適正な値を見出したうえで設定される。」、段落【0046】には「廃棄物の水分率により発熱量の変動を把握する場合も、図2(A)に基き廃棄物の嵩密度について既述したのと同様に、水分率の変化量に対して閾値Q1を設定した場合には誤検知が生じ(図2(B)の中段のグラフ参照)、水分率の時間変化率(単位時間あたりの水分率の変化量)に対して閾値Q2を設定することにより誤検知の回避が可能となる(図2(B)の下段のグラフ参照)。閾値Q2は、嵩密度の場合における閾値P2と同じ要領で設定される。」との記載がある。 そうしてみると、嵩密度の時間変化率に対する閾値P2及び水分率の時間変化率に対して閾値Q2は、嵩密度又は水分率の時間変化率の算出と蒸発量の測定とを行いながら、閾値を増減させることで、適正な値を見出して設定されるものであると解釈できる。 また、図2記載の具体的な実施例においては、例えば、閾値P2は「−0.03付近の値」、閾値Q2は「−1.0付近の値」と設定していることも記載されている。 したがって、「所定の閾値」の設定について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。 また、「判定工程」を含む各工程についても、他の段落の記載を総合すると、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。 よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものと認められる。 3 理由3(サポート要件)について 本件特許の発明の詳細な説明の段落【0015】の記載を参酌すると、本件特許発明が解決しようとする課題は、「焼却炉の燃焼室へ供給される直前の廃棄物の発熱量の変動を正確に把握して、廃棄物の発熱量の変動に対応して、適正な運転条件で各操作量を制御し廃棄物焼却炉の安定運転を可能とする廃棄物焼却方法を提供すること」であり、段落【0016】の記載を参酌すると、当該課題の解決のために、本件発明は「水分率及び嵩密度の少なくとも一方の測定値データに基づき廃棄物の発熱量の変動を検知する際に誤った判定を回避できる方法を検討し、適切なタイミングでフィードフォワード制御を実施できる方法を見出した」ものであると解釈できる。 そして、段落【0042】−【0046】、【0050】の記載を総合すると、当該課題の具体的な解決手段は発熱量の変動の把握するための嵩密度又は水分率の時間変化率に対する閾値を見出して設定し、嵩密度又は水分率の時間変化率が当該閾値を超えているときに、発熱量の変動が所定範囲を超えていると判定して、廃棄物の発熱量の変動が所定範囲内となるように操作端を制御することであると解釈できる。 「2 理由2(実施可能要件)について」で上述したとおり、「所定の閾値」は嵩密度又は水分率の時間変化率の算出と蒸発量の測定とを行いながら、閾値を増減させることで適正な値を見出して設定されるものであると認められ、段落【0039】には、発熱量の変動の所定範囲とは、目標蒸発量を達成するために必要とされる廃棄物の発熱量に対して、発熱量の変動の許容される範囲のことであることが記載されている。 そうしてみると、「嵩密度又は水分率の時間変化率の算出と蒸発量の測定とを行いながら設定される閾値」である「所定の閾値」は、「発熱量が所定範囲を超えること(目標蒸発量を達成できなくなること)」を判定可能な値に設定されているものと認められる。 そして、本件特許発明では、「燃焼制御工程」が、「廃棄物の性状としての該廃棄物の嵩密度及び水分率の少なくとも一方の測定値の単位時間あたりの変化量である測定値の時間変化率を算出する演算工程」と、「上記演算工程で算出された上記測定値の時間変化率が所定の閾値を超えているときに、廃棄物の発熱量の変動が所定範囲を超えていると判定する判定工程」と、「上記判定工程で廃棄物の発熱量の変動が所定範囲を超えていると判定されたときに、上記廃棄物の発熱量の変動が上記所定範囲内となるような操作端の操作量を算出し、該操作量に基づいて操作端を制御する操作量指示工程」とを備えることが特定されている。 そうしてみると、本件特許発明は本件特許の発明の詳細な説明に記載された課題の解決手段が反映されたものであると認められる。 4 理由4(明確性)について 本件特許の請求項1の記載を検討したが、すべて一般的に使用される用語で記載されており、直ちに不明瞭とされる箇所はない。 なお、「閾値」に関し、「所定」の語が使用され、特許請求の範囲のそのほかの記載で直接的に定められた内容が見当たらない箇所があるが、発明の詳細な説明の段落【0044】−【0046】、【0050】を参酌すれば、閾値として定めるに当たっての定義が理解できるので、特許を取り消すほどの不備に当たらない。 そして、他に不明な点はないので、本件特許発明は明確である。 第5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-05-12 |
出願番号 | P2018-070104 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(F23G)
P 1 651・ 536- Y (F23G) P 1 651・ 537- Y (F23G) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
林 茂樹 |
特許庁審判官 |
田村 佳孝 西村 泰英 |
登録日 | 2021-08-10 |
登録番号 | 6927127 |
権利者 | JFEエンジニアリング株式会社 |
発明の名称 | 廃棄物焼却方法 |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |