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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1385233
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-22 
確定日 2022-06-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6939880号発明「リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6939880号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6939880号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、2017年4月28日を国際出願日とする出願であって、令和3年9月6日に特許権の設定登録がされ、令和3年9月22日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、令和4年3月22日に特許異議申立人前田洋志により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし3の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
体積基準の粒度分布において、下記(1)〜(4)を満たし、複数の扁平状の黒鉛粒子がその配向面が非平行となるように集合又は結合している粒子を含み、CuKα線を用いたX線回折測定により求められる黒鉛結晶の層間距離d(002)が3.38Å以下であり、窒素ガス吸着のBET法による比表面積が1.0m2/g〜5.0m2/gであり、真比重が2.22以上である、リチウムイオン二次電池用負極材。
(1)小径側からの累積が10%となるときの粒子径(D10)が5μm〜14μmである
(2)小径側からの累積が50%となるときの粒子径(D50)が15μm〜27μmである
(3)小径側からの累積が90%となるときの粒子径(D90)が20μm〜55μmである
(4)9.516μm以下の粒子径の積算値Q3が4%〜30%である
【請求項2】
集電体と、集電体上に形成された請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、を有するリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極を有するリチウムイオン二次電池。」

第3 申立理由の概要
理由1 請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし3に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである。

理由2 請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、又は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2014−67680号公報
甲第2号証:特開2014−89887号公報
甲第3号証:特開2006−236752号公報

第4 甲各号証の記載事項、引用発明
1 甲第1号証
(1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。
「【0001】
本発明は、非水系二次電池に用いる負極と、その負極の製造に用いる黒鉛粒子及びその製造方法と、前記負極を有する非水系二次電池に関するものである。」

「【0021】
以下、本発明の非水系二次電池用負極(以下、単に「本発明の負極」ともいう)、その形成に使用される非水系二次電池用黒鉛粒子(以下、単に「本発明の黒鉛粒子」ともいう)、ならびに前記負極を使用した非水系二次電池について、その内容を詳細に述べる。なお、以下に記載する発明の構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨をこえない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0022】
[本発明の非水系二次電池用負極]
本発明の非水系二次電池用負極(以下適宜「電極シート」ともいう。)は、集電体と、その集電体上に形成された活物質層とを備えると共に、その活物質層が、後述する本発明の非水系二次電池用黒鉛粒子を含有することを特徴とする。」

「【0053】
BET法による比表面積の測定は、表面積計(大倉理研製全自動表面積測定装置)を用いて、試料に対して窒素流通下350℃で15分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用いて、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって行なう。該測定で求められる比表面積を、本発明の黒鉛粒子の比表面積と定義する。」

「【0084】
(体積基準平均粒径 (d50))
本発明の黒鉛粒子の体積基準平均粒径(d50)は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)が、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上、特に好ましくは7μm以上であり、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、更に好ましくは40μm以下、特に好ましくは30μm以下である。」

「【0096】
ここで、d90は前記黒鉛粒子についてレーザー回折・散乱式粒度分布測定により体積基準で測定された小粒子側からの90%積算部の粒径をμm単位で表したものであり、d10は前記黒鉛粒子について同様に測定された小粒子側からの10%積算部の粒径をμm単位で表したものである。」

「【0102】
<黒鉛粒子の形態>
本発明の黒鉛粒子の形態は、特に限定はされないが、球状、回転楕円体状、塊状、板状、多角形状などが挙げられ、中でも球状、回転楕円体状、塊状、多角形状が負極とした時に粒子の充填性を向上することができるので好ましい。
【0103】
また、本発明の黒鉛粒子の表面形態は、特に限定はされないが、後述の図2のSEM写真に示す様に凹凸構造を有することが好ましい。凹凸構造としては、例えば、(1)球状や回転楕円体状などの粒子表面に穴が開いた凹部構造や、(2)球状や回転楕円体状などの粒子表面に微粒子が結着した凸部構造などが挙げられる。粒子表面に凹凸構造を有すると、高密度の負極とした場合でも非水系電解液の浸入可能な空隙が確保できるので、サイクル特性の向上が期待できる。」

「【0162】
(他の炭素材料との混合)
以上説明した製造方法(I)〜(III)のいずれかで製造された本発明の非水系二次電池用黒鉛粒子は、何れか一種を単独で、又は二種以上を任意の組成及び組み合わせで併用して、非水系二次電池用負極材として好適に使用することができるが、一種又は二種以上を、他の一種又は二種以上のその他炭素材料と混合し、これを非水系二次電池、好ましくはリチウムイオン二次電池の負極材料として用いてもよい。」

「【0198】
[非水系二次電池]
本発明の非水系二次電池、特にリチウムイオン二次電池の基本的構成は、従来公知の非水系二次電池と同様であり、通常、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を備える。前記負極としては、上述した本発明の負極を用いる。この負極を用いて非水系二次電池を作製する場合、非水系二次電池を構成する正極、電解質等の電池構成上必要な部材の選択については特に制限されない。以下、本発明の負極を用いた非水系二次電池の詳細を例示するが、使用し得る材料や作製の方法等は以下の具体例に限定されるものではない。」

「【0225】
〔単一の炭素材で本発明の黒鉛粒子を構成する例〕
[実施例1]
原料黒鉛として体積基準平均粒径が17μmの球状天然黒鉛を用い、粗面化工程としてローターとステーターからなる粉砕装置を用い、ローターの周速度145m/sec、投入速度200kg/hrで粉砕し、表面に凹凸構造を有した黒鉛を得た。その得られた黒鉛100質量部に対して、キノリン不溶分≦0.5%、軟化点80℃の原料有機物ピッチを30質量部の割合で、ニーダーを用いて捏合した。この捏合物を、モールドプレス成型機を用いて2kgf/cm2(0.20MPa)で1分間、加圧処理を行うことで成型体とした後、不活性雰囲気1000℃で脱VM焼成を行い、更に3000℃で黒鉛化した。得られた黒鉛質成形体を粗砕、微粉砕、分級処理し、黒鉛粒子からなる粉末サンプルを得た。得られた粉末サンプルにおいて、球状天然黒鉛粒子と黒鉛質物の質量比率(球状天然黒鉛粒子:黒鉛質物)は1:0.15であることが確認された。このサンプルについて、前記測定法で吸液性係数、粒径、SA、Tap密度、DBP吸油量、ラマンR値、細孔容積Vi、全細孔容積、表面官能基O/Cを測定した。
【0226】
その結果、及び、上記測定法に従い、サイクル維持率(電解液Aを使用)、初期効率を測定した結果を下記表1に示す。また、図2に前記粉末サンプルのSEM観察写真を示す。SEM観察の結果、粒子表面に凹凸構造が形成されているのが観察された。
【0227】
[実施例2]
粗面化工程としてローターの周速度を125m/secとした以外は実施例1と同様に行ない黒鉛粒子からなる粉末サンプルを得た。これについて、実施例1と同様な方法で物性、電池特性の評価、SEM観察を行った。結果を下記表1に示す。」

「【0230】
【表1】



「【0236】
球状天然黒鉛粒子E:体積基準平均粒径、Tap密度、比表面積(SA)、円形度がそれぞれ下記表2に示す値である球状天然黒鉛。」

図2


ここで、実施例2は、表1に記載されたd10、d50及びd90の値が本件特許発明1と対比するのに最もふさわしくかつ特許異議申立人も引用しているので、当該実施例2に着目すると、甲第1号証には次の事項が記載されている。
・【0227】によると、実施例2の黒鉛粒子からなる粉末サンプルは、粗面化工程としてローターの周速度を125m/secとした以外は実施例1と同様に作成したものであるから、その形状は、【0225】の記載の実施例1の黒鉛粒子からなる粉末サンプルと同様である。
また、【0226】によると、図2に示された実施例1の黒鉛粒子からなる粉末サンプルは、粒子表面に凹凸構造が形成されている。
そして、図2より粉末サンプルが球状であることが見て取れる。
以上のことより、実施例2の粉末サンプルは、球状の粒子表面に凹凸構造が形成された黒鉛粒子を含んでいることが読み取れる。
・【0053】によると、窒素吸着BET1点法によって行う測定で求められる比表面積が、本発明の黒鉛粒子の比表面積である。
また、【0236】によると、「SA」は比表面積のことである。
そして、表1によると、実施例2の「SA」は、2.3m2/gであるから、実施例2の粉末サンプルは、窒素吸着BET1点法によって行なう測定で求められる比表面積が2.3m2/gである。
・【0084】、【0096】及び表1によると、実施例2の粉末サンプルは、体積基準で測定された小粒子側からの10%積算部の粒径(d10)が9.6μmで、体積基準平均粒径(d50)が15.2μmで、体積基準で測定された小粒子側からの90%積算部の粒径(d90)が23.3μmである。
・【0021】によると、本発明は非水系二次電池用負極の形成に使用される非水系二次電池用黒鉛粒子に関するものであり、【0198】によると、非水系二次電池はリチウムイオン二次電池のことである。
そうすると、実施例2の粉末サンプルは、リチウムイオン二次電池用負極の形成に使用されるリチウムイオン二次電池用黒鉛粒子である。

(2)引用発明1
上記記載事項より、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「球状の粒子表面に凹凸構造が形成された黒鉛粒子を含み、
窒素吸着BET1点法によって行なう測定で求められる比表面積が2.3m2/gであり、
体積基準で測定された小粒子側からの10%積算部の粒径(d10)が9.6μmで、
体積基準平均粒径(d50)が15.2μmで、
体積基準で測定された小粒子側からの90%積算部の粒径(d90)が23.3μmである
リチウムイオン二次電池用負極の形成に使用されるリチウムイオン二次電池用黒鉛粒子。」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用の負極材及びそれを用いた非水電解液二次電池、特にリチウムイオン二次電池用の負極材及びそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。」

「【0010】
前記課題を解決するため、本発明の負極活物質は、黒鉛粒子を含む粉末からなり、該粉末の累積体積10%における粒径をD10、累積体積50%における粒径をD50としたときの粒径比D10/D50が0.1〜0.52の範囲であり、D10が1.2〜9.2μmの範囲であり、D50が10〜18.5μmの範囲であり、且つ該粉末の比表面積が3.0〜6.5 m2/g の範囲である。」

「【0019】
黒鉛粒子の形状は、球状、塊状又は扁平球状であることが好ましい。この場合、黒鉛粒子の平均粒径は、1〜数十μmの範囲であることが好ましく、10〜18.5μmの範囲であることがより好ましい。平均粒径が上記の範囲を超える場合、負極活物質の粒度分布を以下で説明する範囲に制御することが困難となるため、好ましくない。或いは、黒鉛粒子の形状は、例えば燐片状又は繊維状のように、アスペクト比の大きな形状であっても良い。但し、核材全体のアスペクト比は、1〜5の範囲であることが好ましく、1〜3の範囲であることがより好ましい。この場合、核材結晶のc軸長さ(以下、「Lc」とも記載する)は、上記のアスペクト比を満足する範囲内であれば、特に限定されない。アスペクト比が上記の範囲を超える場合、大きい無定形の粒子の比率が多くなり、負極活物質の粒度分布を以下で説明する範囲に制御しても、無定形粒子が負極の充填性を低下させるため、好ましくない。」

「【0046】
<2. 負極>
本発明の負極活物質は、非水電解液二次電池(例えばリチウムイオン電池)の負極材として好適に使用し得る。それ故、本発明はまた、集電体と、本発明の負極活物質を含む負極合剤層とを有する負極に関する。なお、本明細書の実施例では、黒鉛からなる核材表面を低結晶炭素で被覆した黒鉛粒子を用いて負極を作製しているが、被覆のない黒鉛粒子を用いて作製した負極であっても充放電に伴う体積変化に対する寄与は同じである。それ故、本発明の負極において、表面を被覆していない黒鉛粒子を混合して用いてもよい。」

「【0085】
<製造例1:負極活物質>
[1:黒鉛粒子粉末の調製(1)]
50重量部の平均粒径5μmのコークス粉末、20重量部のタールピッチ、7重量部の平均粒径48μmの炭化ケイ素及び10重量部のコールタールを混合しながら200℃で1時間加熱した。得られた混合物を、ハンマーミルを用いて粉砕し、その混合物を油圧プレス機を用いて圧縮し、ペレット状に成形した。次いで窒素雰囲気下、2800℃で20時間焼成して、黒鉛の結晶性を高めた。得られた焼成物を、ハンマーミルを用いて粉砕し、微細な黒鉛粒子の粉末を得た。この粉末を、風流分級装置を用いて、平均粒径20μmにした。本粉末を、黒鉛粒子粉末1とする。」

「【0088】
[3:被覆層が形成された黒鉛粒子粉末の調製]
上記で調製した100重量部の黒鉛粒子粉末1又は2を、160重量部のノボラック型フェノール樹脂メタノール溶液(日立化成工業株式会社製)に浸漬した。メタノールを用いて黒鉛粒子粉末を分散させて、黒鉛粒子及びフェノール樹脂の混合物溶液を調製した。この溶液から、黒鉛粒子及びフェノール樹脂の混合物を濾取し、真空中にて80℃で24時間乾燥させた。乾燥後の混合物を、400℃で10時間加熱して、黒鉛の核材表面に炭素を主成分として含有する被覆層が形成された黒鉛粒子の粉末を得た。黒鉛粒子粉末1又は2から得られた粉末を、それぞれ被覆層が形成された黒鉛粒子粉末1又は2とする。」

「【0090】
[4:被覆層が形成された黒鉛粒子粉末の分級(1)]
風流分級装置を用いて、上記で調製した被覆層が形成された黒鉛粒子粉末1を、粒径50μm以上の粗大粒子及び粒径50μm未満の大粒子に分級した。前記大粒子からなる粉末の平均粒径D50は、18.7μmだった。
【0091】
次に、風流分級装置を用いて、前記粒径50μm未満の大粒子を、粒径15μm以上の中粒子及び粒径15μm未満の小粒子に分級した。粒度分布測定装置を用いて測定した、前記小粒子からなる粉末の平均粒径D50は、8.2μmだった。
【0092】
プラネタリーミキサ(プライミクス、ハイビスミックス2P-03型)を用いて、前記大粒子からなる粉末及び前記小粒子からなる粉末を、体積比に基づきそれぞれ所定量混合し、十分に撹拌した。得られた黒鉛粒子粉末を、実施例1〜6(NM1〜6)とする。」

「【0098】
【表1】



「【0099】
[6:被覆層が形成された黒鉛粒子粉末の物性解析]
X線広角回折法により、実施例1〜12及び比較例1〜3の黒鉛粒子粉末に含まれる黒鉛結晶の面指数(002)面の間隔(d002)を決定した。X線回折装置には、微小部X線回折装置(リガク、RU-200)を用い、X線源はCuKαを用いた。」

「【0102】
ガス吸着を利用したBET比表面積測定装置(カウンタクローム、AUTOSORB-1)を用いて、実施例1〜12及び比較例1〜3の黒鉛粒子粉末の比表面積を決定した。吸着ガスには、窒素を用いた。」

「【0105】
【表2】



ここで、実施例1は、表1に記載されたD10及びD50の値が本件特許発明1と対比するのに最もふさわしくかつ特許異議申立人も引用しているので、当該実施例1に着目すると、甲第2号証には次の事項が記載されている。
・【0090】ないし【0092】より、被覆層が形成された黒鉛粒子粉末1を、粒径50μm未満の大粒子、粒径15μm未満の小粒子に分級し、前記大粒子からなる粉末及び前記小粒子からなる粉末を所定量混合した黒鉛粒子粉末が実施例1であることが読み取れる。
また、【0088】より、被覆層が形成された黒鉛粒子粉末1は、黒鉛の核材表面に炭素を主成分として含有する被覆層が形成された黒鉛粒子の粉末であることが読み取れる。
そうすると、実施例1の黒鉛粒子粉末は、黒鉛の核材表面に炭素を主成分として含有する被覆層が形成された黒鉛粒子を含むものである。
・【0099】及び表2によると、実施例1の黒鉛粒子粉末は、CuKα線を用いたX線広角回折法により決定した黒鉛結晶の面指数(002)面の間隔(d002)が0.3345〜0.3355である。
・【0102】及び表2によると、実施例1の黒鉛粒子粉末は、窒素を利用したBET比表面積測定装置を用いて決定した比表面積が3.6m2/gである。
・【0010】及び表1によると、実施例1の黒鉛粒子粉末は、累積体積10%における粒径D10が9.2μmであり、累積体積50%における粒径をD50が17.8μmである。
・【0001】によると、本発明は、リチウムイオン二次電池用の負極材に関するものである。

(2)引用発明2
上記記載事項より、甲第2号証には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「黒鉛の核材表面に炭素を主成分として含有する被覆層が形成された黒鉛粒子を含み、
CuKα線を用いたX線広角回折法により決定した黒鉛結晶の面指数(002)面の間隔(d002)が0.3345〜0.3355であり、
窒素を利用したBET比表面積測定装置を用いて決定した比表面積が3.6m2/gであり、
累積体積10%における粒径D10が9.2μmであり、
累積体積50%における粒径をD50が17.8μmである、
リチウムイオン二次電池用の負極材。」

3 甲第3号証
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【0031】
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明する。
[実施例1]
コールタールを熱処理して得られる石炭系生コークスを窒素ガス雰囲気下1300℃で焼成し、真比重2.12、大きさ2〜5cmのニードルコークスの塊を得た。ついで分級機構の付いた衝撃式粉砕機で平均粒径21.0μmに粉砕した。得られた炭素粉末を黒鉛ケースに入れ、窒素雰囲気で昇温速度20℃/分で1000℃まで昇温した後、1000℃で5分維持した。ついで、350メッシュの篩を通し、リチウム二次電池負極用炭素材料を得た。得られた炭素材料の、ラマンスペクトルで測定されるR値(ID/IG)、広角X線回折で測定されるd(002)、Lc(002)、真比重、かさ密度、窒素ガス吸着のBET法による比表面積、灰分の値を表1に示した。各種物性値の測定方法は以下のとおりである。」

第5 当審の判断
1 甲第1号証に記載された発明について
(1) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明1を対比する。
(ア)引用発明1の「体積基準で測定された小粒子側からの10%積算部の粒径(d10)が9.6μmで、体積基準平均粒径(d50)が15.2μmで、体積基準で測定された小粒子側からの90%積算部の粒径(d90)が23.3μmである」ことは、本件特許発明1の「体積基準の粒度分布において、(1)小径側からの累積が10%となるときの粒子径(D10)が5μm〜14μmである(2)小径側からの累積が50%となるときの粒子径(D50)が15μm〜27μmである(3)小径側からの累積が90%となるときの粒子径(D90)が20μm〜55μmである」ことに含まれる。
但し、本件特許発明1は「(4)9.516μm以下の粒子径の積算値Q3が4%〜30%である」のに対して、引用発明1はそのような特定がない点で相違する。

(イ)引用発明1の「窒素吸着BET1点法によって行なう測定で求められる比表面積が2.3m2/g」であることは、本件特許発明1の「窒素ガス吸着のBET法による比表面積が1.0m2/g〜5.0m2/g」であることに含まれる。

(ウ)引用発明1の「リチウムイオン二次電池用負極の形成に使用されるリチウムイオン二次電池用黒鉛粒子」は、本件特許発明1の「リチウムイオン二次電池用負極材」に相当する。
但し、本件特許発明1は「複数の扁平状の黒鉛粒子がその配向面が非平行となるように集合又は結合している粒子を含」むのに対して、引用発明1は「球状の粒子表面に凹凸構造が形成された黒鉛粒子を含」む点で相違する。

(エ)本件特許発明1は「CuKα線を用いたX線回折測定により求められる黒鉛結晶の層間距離d(002)が3.38Å以下であり、」「真比重が2.22以上である」のに対して、引用発明1はそのような特定がない点で相違する。

したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「体積基準の粒度分布において、下記(1)〜(3)を満たし、窒素ガス吸着のBET法による比表面積が1.0m2/g〜5.0m2/gである、リチウムイオン二次電池用負極材。
(1)小径側からの累積が10%となるときの粒子径(D10)が5μm〜14μmである
(2)小径側からの累積が50%となるときの粒子径(D50)が15μm〜27μmである
(3)小径側からの累積が90%となるときの粒子径(D90)が20μm〜55μmである。」

(相違点1)
本件特許発明1は「(4)9.516μm以下の粒子径の積算値Q3が4%〜30%である」のに対して、引用発明1はそのような特定がない点。
(相違点2)
本件特許発明1は「複数の扁平状の黒鉛粒子がその配向面が非平行となるように集合又は結合している粒子を含」むのに対して、引用発明1は「球状の粒子表面に凹凸構造が形成された黒鉛粒子を含」む点。
(相違点3)
本件特許発明1は「CuKα線を用いたX線回折測定により求められる黒鉛結晶の層間距離d(002)が3.38Å以下であり、」「真比重が2.22以上である」のに対して、引用発明1はそのような特定がない点。

イ 判断
(ア)特許法第29条第1項第3号について
本件特許発明1と引用発明1には、上記の通り相違点がある。
よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明でない。

(イ)特許法第29条第2項について
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
引用発明1の「リチウムイオン二次電池用黒鉛粒子」は 球状の粒子表面に凹凸構造が形成された黒鉛粒子を含むものである。
そして、黒鉛粒子の形態についての甲第1号証の記載は、「本発明の黒鉛粒子の形態は、特に限定はされないが、球状、回転楕円体状、塊状、板状、多角形状などが挙げられ、中でも球状、回転楕円体状、塊状、多角形状が負極とした時に粒子の充填性を向上することができるので好ましい。また、本発明の黒鉛粒子の表面形態は、特に限定はされないが、後述の図2のSEM写真に示す様に凹凸構造を有することが好ましい。凹凸構造としては、例えば、(1)球状や回転楕円体状などの粒子表面に穴が開いた凹部構造や、(2)球状や回転楕円体状などの粒子表面に微粒子が結着した凸部構造などが挙げられる。」(【0102】、【0103】)にとどまり、「リチウムイオン二次電池用黒鉛粒子」が、複数の扁平状の黒鉛粒子がその配向面が非平行となるように集合又は結合している粒子を含むことや、そのような粒子を含ませることの動機は記載されていない。
したがって、上記相違点2に係る構成は、引用発明1に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人は、甲第1号証の実施例1の粉末サンプルは、「粉砕」した「球状天然黒鉛」と「原料有機物ピッチ」との捏合物の成型体について、「不活性雰囲気1000℃で脱VM焼成を行い、更に3000℃で黒鉛化」してから「粗砕、微粉砕」したものであるから(【0225】)、実施例1と同様に作製した実施例2の粉末サンプルは、本件特許明細書の負極材A〜Cと同様に、黒鉛物質を粉砕したものであり、黒鉛化温度などの製造条件も共通しているので、甲第1号証の実施例2の粉末サンプルは、本件特許明細書の負極材A〜Cと同様に「複数の扁平状の黒鉛粒子が、配向面が非平行となるように集合又は結合している複合粒子を含んでい」(【0076】)る蓋然性が高い旨を主張している。(特許異議申立書第19−20頁)

(イ)上記主張について検討する。
a 本件特許明細書の負極材A〜Cについて
負極材A及び負極材Bは、「コークス粉末」と「コールタールピッチ」を混合後、粉砕したものに「炭化ケイ素」を混合した後、この混合物を金型に入れ100MPaでプレス成形し、この成形体を窒素雰囲気中で1000℃で熱処理した後、さらに窒素雰囲気中で3000℃で熱処理し、黒鉛化した成形体を粉砕してたものである(【0073】、【0074】)。また、負極材Cは、負極材AとBを混合したものである(【0074】)。
b 甲第1号証の実施例2の粉末サンプルについて
実施例2の粉末サンプルは、「球状天然黒鉛」に粗面化工程を施して表面に凹凸構造を有した黒鉛を得て、その黒鉛に「原料有機物ピッチ」を捏合した後、この捏合物を0.20MPaで加圧処理を行った成形体を不活性雰囲気1000℃で焼成し、更に3000℃で黒鉛化した黒鉛質成形体を粉砕したものである(【0225】、【0227】)。
c 当審の判断
上記aのとおり、本件特許明細書の負極材A〜Cの原料は「コークス粉末」、「コールタールピッチ」及び「炭化ケイ素」であるのに対して、甲第1号証の実施例2の粉末サンプルの原料は「球状天然黒鉛」及び「原料有機物ピッチ」であり、まず、原料そのものから相違する。そして、製造方法においても、上記bのとおり、甲第1号証は粗面化工程を有することで相違し、プレス成型の圧力も、本件特許明細書が100MPaであるのに対して、甲第1号証は0.20MPaであり大きく相違している。そうすると、共通するのは、1000℃で熱処理した後、さらに3000℃で熱処理し、黒鉛化した成形体を粉砕する点のみである。
以上のように、製造方法で共通しているにはごく一部であるから、甲第1号証の実施例2の粉末サンプルは、本件特許明細書の負極材A〜Cと同様に「複数の扁平状の黒鉛粒子が、配向面が非平行となるように集合又は結合している複合粒子を含んでい」る蓋然性が高いとはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張を採用することができない。

(2)本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、甲第1号証に記載された発明でない。また、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

2 甲第2号証に記載された発明について
(1) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明2を対比する。
(ア)引用発明2の「累積体積10%における粒径D10が9.2μmであり、累積体積50%における粒径をD50が17.8μmである」ことは、本件特許発明1の「体積基準の粒度分布において、(1)小径側からの累積が10%となるときの粒子径(D10)が5μm〜14μmである(2)小径側からの累積が50%となるときの粒子径(D50)が15μm〜27μmである」ことに含まれる。
但し、本件特許発明1は「(3)小径側からの累積が90%となるときの粒子径(D90)が20μm〜55μmである(4)9.516μm以下の粒子径の積算値Q3が4%〜30%である」のに対して、引用発明1はそのような特定がない点で相違する。

(イ)引用発明2の「CuKα線を用いたX線広角回折法により決定した黒鉛結晶の面指数(002)面の間隔(d002)が0.3345〜0.3355」であることは、本件特許発明1の「CuKα線を用いたX線回折測定により求められる黒鉛結晶の層間距離d(002)が3.38Å以下」であることに含まれる。

(ウ)引用発明2の「窒素を利用したBET比表面積測定装置を用いて決定した比表面積が3.6m2/g」であることは、本件特許発明1の「窒素ガス吸着のBET法による比表面積が1.0m2/g〜5.0m2/g」であることに含まれる。

(エ)引用発明2の「リチウムイオン二次電池用の負極材」は、本件特許発明1の「リチウムイオン二次電池用負極材」に相当する。
但し、本件特許発明1は「複数の扁平状の黒鉛粒子がその配向面が非平行となるように集合又は結合している粒子を含む」のに対して、引用発明2は「黒鉛の核材表面に炭素を主成分として含有する被覆層が形成された黒鉛粒子を含」む点で相違する。

(オ)本件特許発明1は「真比重が2.22以上である」のに対して、引用発明2はそのような特定がない点で相違する。

したがって、本件特許発明1と引用発明2とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「体積基準の粒度分布において、下記(1)〜(2)を満たし、CuKα線を用いたX線回折測定により求められる黒鉛結晶の層間距離d(002)が3.38Å以下であり、窒素ガス吸着のBET法による比表面積が1.0m2/g〜5.0m2/gである、リチウムイオン二次電池用負極材。
(1)小径側からの累積が10%となるときの粒子径(D10)が5μm〜14μmである
(2)小径側からの累積が50%となるときの粒子径(D50)が15μm〜27μmである。」

(相違点1)
本件特許発明1は「(3)小径側からの累積が90%となるときの粒子径(D90)が20μm〜55μmである(4)9.516μm以下の粒子径の積算値Q3が4%〜30%である」のに対して、引用発明2はそのような特定がない点。
(相違点2)
本件特許発明1は「複数の扁平状の黒鉛粒子がその配向面が非平行となるように集合又は結合している粒子を含む」のに対して、引用発明2は「黒鉛の核材表面に炭素を主成分として含有する被覆層が形成された黒鉛粒子を含」む点。
(相違点3)
本件特許発明1は「真比重が2.22以上である」のに対して、引用発明2はそのような特定がない点。

イ 判断
(ア)特許法第29条第1項第3号について
本件特許発明1と引用発明2には、上記の通り相違点がある。
よって、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明でない。

(イ)特許法第29条第2項について
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
引用発明2の「リチウムイオン二次電池用の負極材」は、黒鉛の核材表面に炭素を主成分として含有する被覆層が形成された黒鉛粒子を含むものである。
そして、黒鉛粒子の形態についての甲第2号証の記載は、「黒鉛粒子の形状は、球状、塊状又は扁平球状であることが好ましい。・・・或いは、黒鉛粒子の形状は、例えば燐片状又は繊維状のように、アスペクト比の大きな形状であっても良い。」(【0019】)にとどまり、「リチウムイオン二次電池用の負極材」が、複数の扁平状の黒鉛粒子がその配向面が非平行となるように集合又は結合している粒子を含むことや、そのような粒子を含ませることの動機は記載されていない。
また、甲第3号証には、炭素粉末の結晶の層間距離d(002)と真比重との関係について記載されているが、黒鉛粒子の形態について何ら記載されていない。
したがって、上記相違点2に係る構成は、引用発明2、又は、引用発明2及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明、又は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人は、甲第2号証の実施例1に使用されている「黒鉛粒子粉末1」は、「コークス」と「タールピッチ」等の混合物の成形体を「窒素雰囲気下、2800℃で20時間焼成して、黒鉛の結晶性を高め」てから「粉砕」したものであるから(【0085】)、「黒鉛粒子粉末1」は、本件特許明細書の負極材A〜Cと同様に、黒鉛物質を粉砕したものであり、黒鉛化温度などの製造条件も共通しているので、この「黒鉛粒子粉末1」は、本件特許明細書の負極材A〜Cと同様に「複数の扁平状の黒鉛粒子が、配向面が非平行となるように集合又は結合している複合粒子を含んでい」(【0076】)る蓋然性が高い旨を主張している。(特許異議申立書第23−24頁)

(イ)上記主張について検討する。
「黒鉛粒子粉末1」は甲第2号証の実施例1における中間生成物であり、甲第2号証の実施例1の最終生成物である黒鉛粒子粉末は、「黒鉛粒子粉末1」をノボラック型フェノール樹脂メタノール溶液に浸漬し、この溶液から、黒鉛粒子及びフェノール樹脂の混合物を濾取し、乾燥後に加熱して得た、黒鉛の核材表面に炭素を主成分として含有する被覆層が形成された黒鉛粒子の粉末であるところの被覆層が形成された黒鉛粒子粉末1である(【0088】)。
ここで、本件特許明細書の負極材A〜Cと比較すべきものは、甲第2号証の実施例1の最終生成物であるところの被覆層が形成された黒鉛粒子粉末1である。そうすると、甲第2号証の実施例1の黒鉛粒子粉末の製造方法は、黒鉛の核材表面に炭素を主成分として含有する被覆層を形成する点で、本件特許明細書における負極材A〜Cの製造方法と相違しており、本件特許明細書の負極材A〜Cと同様に「複数の扁平状の黒鉛粒子が、配向面が非平行となるように集合又は結合している複合粒子を含んでい」る蓋然性が高いとはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張を採用することができない。

(2)本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、甲第2号証に記載された発明でない。また、甲第2号証に記載された発明、又は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし3は、いずれも、特許法第29条第1項及び特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-05-23 
出願番号 P2019-515075
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 山本 章裕
須原 宏光
登録日 2021-09-06 
登録番号 6939880
権利者 昭和電工マテリアルズ株式会社
発明の名称 リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
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