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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1385461
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-14 
確定日 2022-02-04 
事件の表示 特願2015−533927「発電車両を電源とする新方式大規模社会電力給電インフラシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年3月5日国際公開、WO2015/029260〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)8月26日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年10月16日付け:拒絶理由通知書
平成30年 2月23日 :意見書、手続補正書の提出
同年 7月30日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年12月 5日 :手続補正書の提出
平成31年 1月 4日付け:手続補正指令書
同年 1月24日 :手続補正書の提出
同年 3月 8日付け:補正の却下の決定、拒絶査定
令和 元年 6月17日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 6月30日付け:拒絶理由通知書(当審)
同年 9月 1日 :意見書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1〜3に係る発明は、令和元年6月17日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

〔本願発明〕
【請求項1】
個別発電車両が発電する電力を、それぞれの発電車両から外部社会電力送電インフラ網へ常時給電可能とすることで、結果として膨大な電力量を新たに社会電力エネルギー供給インフラとして、提供可能としたシステム。

第3 当審の拒絶の理由の概要
当審の拒絶の理由のうち、本願発明に係るものは次の理由1〜3である。

理由1:〔新規性〕及び〔進歩性〕、引用文献1
理由2:〔新規性〕及び〔進歩性〕、引用文献2
理由3:〔進歩性〕、引用文献3、4、5

新規性〕:本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

進歩性〕:本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2008−136344号公報
引用文献2:特開2004−136860号公報
引用文献3:特開2009−22066号公報
引用文献4:特開2012−200043号公報
引用文献5:特開2011−164700号公報

第4 引用文献
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項
上記引用文献1には、次の事項が記載されている。
なお、以降の各文献の記載事項における下線は、当審で付したものである。

「【0001】
発明の分野
本発明は、電力発電の分野に関する。より特別には、本発明は、車両の本体上に形成された太陽集積器(ソーラーコレクタ:solar collector)から電力を、例えば、公共高圧送電線網による使用のために供給し、車両が停止または運転中においても電力を供給する、列車の貨車または客車のようなレール車両に関する。本発明はまた、磁気浮揚車両や、推進のための電力を受け取るために、懸垂索に沿って走らなければならない車輪付きバスのような、車両外使用のために太陽電力(ソーラーパワー:solar power)を供給する他の種類の軌道制限車両に関する。
【0002】
発明の背景
公共高圧送電線網は、時折、電力需要に対応できないことがある。この状況は、人口の増加とその結果による需要の増加のため、改善されそうもない。更に、従来、高圧送電線網が依存していた電力源(電力発電設備)は現在、必要とされる電力を供給しているが、典型的には、地球の温暖化の原因となる危険性を冒して、化石燃料を使用することで供給している。
【0003】
すべて高圧送電線網に貢献する、多数の異なる電力源を有することが、より強固な高圧送電線網を可能にすることは自明である。本発明は、このことを目的としており、多数の異なる個々の資源からの電力発電設備を組み合わせて、産業および私的な立場の両者から、全人口の恩恵のために、公共電力高圧送電線網による電力の分配を目指している。
【0004】
地球温暖化および他の環境問題を考慮すると、各電力源は、太陽電力または地熱エネルギーまたは風力電力のようにクリーンであることが理想的である。これらの中で、太陽電力のみが、少なくとも、ある程度は、いかなる場所でも利用できる。
【0005】
太陽電力集積器はすでに、ある程度は、電力高圧送電線網へ電力を供給するために使用されているが、太陽集積器のコストは、非常に好ましい環境における大規模な適用以外での使用を難しくする。しかし、太陽集積器技術における最近の進展により、高圧送電線網へ電力を供給する太陽集積器の小規模な適用に対しても、それがコストの面からも価値のあることである可能性が高まってきた。
【0006】
必要なことは、小規模な個々のレベルで、高圧送電線網に太陽電力を提供し、または、高圧送電線網に依存するのではなく、そのような太陽電力を使用することにより、高圧送電線網への負荷を少なくとも減少するために、太陽集積器技術における最近の成果を利用する方法である。
【0007】
従来技術も、当然、太陽集積器を家庭またはビジネスの一部として設置し、太陽集積器から供給される電力を使用し、電力の一部を高圧送電線網に供給することを教示している。しかし、本発明は、レール車両または他の軌道制限車両の一部として太陽集積器を設置し、電力を車両の推進システムに供給するのではなく、おそらくは高圧送電線網によることになるが、電力を車両外使用のために供給し、しかも車両が運転中も停止中も電力を供給することを目指している。」

「【0016】
軌道制限車両という用語は、ここでは、レールに沿って移動する車両、磁気浮揚列車システムにおけるような、ガイドウェイに沿って移動する車両、または、車両の電力用に、懸垂索から電力の供給を受けるために、懸垂索に従って移動しなければならない車輪付きバスを意味するものとして使用される。ここで使用される「列車」という用語は、任意の単独の車両または、直列に接続された複数の車両を包括する。ここで使用されているように、列車は、鉄道、鉄道路線、通勤路線、および貨物路線の列車(そのいずれも、車輪の回転で移動する列車、または磁気により浮揚する列車であってよい)を包括すると理解されるべきである」

「【0020】
ここで、本発明によれば、軌道制限車両は、車両本体の表面に形成された太陽集積器、特に、現在開発中で、下記に記述する太陽電池の新しい種類を使用して、そして更に、再生制動を使用して、車両外使用のための電力を供給する。電力は、ここでは電力ノードと称されるものに供給される。電力ノードは、車両から供給された電力を、公共電力高圧送電線網に導くことができ(あるいは、仲介体を介して)、あるいは、軌道制限車両、または電力ノードが電気的に接続されている他の車両による、可能性のある再使用を含めて、電力を局所的に使用されるように導くことができる。」

「【0024】
太陽電力という用語は、広く解釈されるべきである。本発明は、太陽エネルギーから導出された電力を供給するだけでなく(再生制動からの電力の供給に加えて)、赤外線または、電磁スペクトルの他の非可視光部分からの電力も供給することを包括する。従って、太陽集積器は、ここでは、太陽光線/電磁放射(可視および非可視共に)からのエネルギーを収集するだけでなく、太陽から発したのではない電磁放射からのエネルギー(例えば、他の星から発する電磁放射を含む)を収集する装置を示すものと理解されるべきである。例えば、「太陽集積器」は、任意の対象物から、その対象物が熱エネルギーを有する、つまり、非ゼロ度(絶対温度目盛で)の温度を有する結果として放射された赤外線放射から電力を導出できる。
【0025】
ここで図1を参照すると、本発明による軌道制限車両11は、太陽電力(上述したように、ここで使用される用語として)を電力に変換し、その電力を電力ルーター11bに供給する太陽集積器11aを備え、その電力ルーター11bは、電力が車両に必要かどうかによって、今度はその電力を、車両推進システム11dまたはインタフェース11cを介して電力ノード12の分散カプラ13に供給する。ある実施の形態においては、車両は、電力の供給に対して、車両に対価を支払うために使用できる会計情報を伝達できる。(車両11内の電力ルーター11bはオプションであり、太陽から導出された電力を内部的に利用しない車両の場合は、当然必要ない。)
電力ノード12のカプラ13は、少なくとも1つの構成要素が、車両が走行する際に制限される軌道に沿って位置し、あるいは、その軌道の一部として設けられ、単独の分離個所には位置せず、軌道に沿って分散されているという点において、「分散型」として記述される。例えば、カプラは、下記に説明するように、懸垂索システム、または第3レール(そしておそらく第4レールも)、またはレール、またはガイドウェイを含むことができる。そのような構成要素は、連続分散型として更に正確に記述される。(連続分散構成要素に加えて、カプラは、下記に記述されるように、離散個所に、1台または2台以上の通信端末を含むことができ、それにより、軌道制限車両が電力ノードへ電力を供給したことに対して対価を支払う場合に必要となる上記の会計の目的で、軌道制限車両と通信ができる。)
ここで図1と図2Aを参照すると、図1のカプラ13と軌道制限車両11は、カプラが1台のみの離散構成要素を含み、軌道制限車両が計量を行う実施の形態において、より詳細に示されている。カプラ13は、分散コネクタ13a(例えば、懸垂索システム)を、軌道制限車両から電力を受ける(連続)分散構成要素として、およびノード通信端末13bを、離散構成要素として含むように示されている。軌道制限車両のインタフェース11cは、電力を供給するための(車両)コネクタ21と、供給された電力を計量するメーター22と、会計情報を提供するための車両通信端末と自律機関23を含むように示されており、会計情報は、本実施の形態においては、車両口座番号だけでなく、計量も含む。自律機関は、人間の介在なしに、車両通信端末を操作して、会計情報を、通信チャネル24を介して提供する。通信チャネルは、複数のアクセスを許容する、つまり、2台以上の軌道制限車両が同時にノード通信端末と通信することを可能にする。通信端末は、ワイヤレス送信の場合は、大気中を、符号分割多元接続(CDMA)の1つの、あるいは他の変形方式のように、複数アクセスを可能にする変調方式により変調されて伝播するキャリアであってよい。一方、通信チャネルは、カプラの連続分散構成要素上を、つまり、分散コネクタ13a上を伝播するキャリアであってよい。ノード通信端末13bは、会計情報を受け取ると、その会計情報を第3者設備(例えば、高圧送電線網を含む)へ提供でき、またはそれを会計モジュール14に提供して、会計モジュール14は、後日、軌道制限車両に対して対価を支払うためにデータ格納装置14aに格納できる。」

「【0033】
電力を、高圧送電線網による使用が可能な状態にすることは有利なので、電力ノード12は、しばしば、エネルギー格納装置18a(例えば、バッテリおよびAC/DC変換器)を含む。高圧送電線網へのインタフェース18は、高圧送電線網からの要求があると、エネルギー格納装置18aから電力を引き出す。電力ノードは、電力ノードが供給した調整済電力の合計に基づき、高圧送電線網(または、もし関与しているならば、電力市場売買人のような仲介者)から対価を受けることができる。このため、当然のことながら、電力ノードから高圧送電線網へ供給される電力は計量しなければならず、高圧送電線網(または仲介者)は、電力ノードから受け取った電力を計量することができ、また、電力ノードから、高圧送電線網により供給された電力に対して対価を支払う口座、つまり電力ノード口座を示す会計情報を受け取ることができる(おそらくは、事業関係の開始時のみであり、それ以降は、変更のため必要になった場合のみ)。第3者が、そのような電力ノード口座に対して対価を支払う実施の形態が、図3を参照して記載されるが、本発明はもちろん、第3者が含まれない実施の形態も包括している。更に、おそらくは高圧送電線網により供給される装置を使用して、電力ノードに計量を行わせることも可能である。」

「【0044】
ここで図4および図1と図3を参照すると、計量が各軌道制限車両11により行われ、第3者設備30が車両に支払いをするという、本発明の典型的な適用においては、第1ステップにおいて、1台または2台以上の車両のそれぞれは、電気的かつ通信可能なように、電力ノード12の(分散)カプラ13に結合する。電力の伝送とは反対に、伝達のための結合に関しては、結合により伝達チャネルが確立される。ある場合には、電力伝送のための電気的結合もまた、上記のように制御チャネルを介して行われる(つまり、周波数または時間スロットまたは他の複数アクセス装置が、電力を分散コネクタを介して供給するために必要となり、それはおそらく、他のレール車両により、電力を電力ノードに供給するためにも使用される)。
【0045】
次のステップ42においては、車両11は、車両本体上の太陽集積器11aを使用して(そしておそらくは、再生制動システムも使用して)電力を生成し、その一部(またはすべて)を、車両のインタフェースを介して電力ノードの(分散)カプラ13に供給し、供給された電力を計量する。(計量は、上記のように、電力ノードにより代わりに行うこともできる。)次のステップ43においては、電力ノードのカプラは、電力を電力ルーター16に供給し、可能な伝送ルートにより電力高圧送電線網19へその電力を供給する。次のステップ44においては、カプラは車両から、車両により供給された電力に対して支払われる口座を示す情報と、計量情報、つまり、車両により供給された電力を示す情報を含む会計情報を受け取る。車両の代わりに、電力ノードにより行われた計量の場合は、会計情報は、レール車両により電力ノードに供給された電力に対して支払われる口座を示す情報のみを含む。ここで記述したが、口座番号は、各レール車両に対して示されるが、本発明は、調和して作動して、電力を電力ノードに供給する軌道制限車両の全体の列車も包括し、その場合は、全体の列車に対して1つの口座しか使用されない。」

「【0047】
次のステップ46においては、電力ノードは、車両から受け取った電力を調整して、おそらくは、調整された電力の一部のみを公共電力高圧送電線網19または仲介者(図示せず)に伝送する。次のステップ47においては、公共電力高圧送電線網または仲介者は、調整された電力に対して、第3者設備に支払いを行い、第3者設備は、電力ノード(そして、高圧送電線網または仲介者への電力のそれぞれの貢献度に基づいて、他の電力モードに対しても)に対して支払いを行う。電力高圧送電線網設備または仲介者は、電力ノードに対して直接支払うことももちろんできる。いずれにせよ、電力ノードに関する会計情報が使用されなければならない。例えば、上述したように、各電力ノードは、それが供給した調整済電力に対して支払いを受ける口座を有することができる。」

「【0049】
【図1】図1は、本発明によるシステムのブロック図であり、太陽エネルギーから導出された電力を生成する装置を含み、車両外使用のために、電力を電力ノードのカプラに供給するためのインタフェースを含む軌道制限車両を示しており、また、車両に関連する口座に貸方記入するような会計のための構成要素を含む電力ノードの構成要素を示している。
【図2A】図2Aは、車両が電力の計量を行う実施形態において、車両のインタフェースと、電力ノードのカプラを、より詳細に示している。
【図2B】図2Bは、車両が電力の計量を行う実施形態において、車両のインタフェースと、電力ノードのカプラを、より詳細に示している。
【図3】図3は、複数の電力ノードが、軌道制限車両から供給された電力を、電力高圧送電線網に供給し、第3者が、車両に関連する口座に対して対価を支払う本発明の実施の形態を示すブロック図/フロー図である。
【図4】図4は、本発明による、電力ノードと、多数の電力ノードに対して機能する第3者設備の操作方法を例示するフローチャートである。」

「【図1】



(2)引用発明1
上記段落0016によれば、「軌道制限車両」は、「レールに沿って移動する車両」などを意味するから、上記段落0001の「レール車両」は、「軌道制限車両」といえるものである。
また、段落0025の「太陽電力(上述したように、ここで使用される用語として)を電力に変換し」は、段落0024の「太陽電力という用語は、広く解釈されるべきである。本発明は、太陽エネルギーから導出された電力を供給するだけでなく(再生制動からの電力の供給に加えて)、赤外線または、電磁スペクトルの他の非可視光部分からの電力も供給することを包括する。」との記載や、図1の太陽集積器11aからの出力が「太陽電力」とされていることからして、「太陽エネルギー等を電力に変換し」のことであると認められる。
さらに、上記段落0045及び図1の「電力高圧送電線網19」は、上記段落0001において、「本発明」が「公共高圧送電線網」を対象としていることや、上記段落0047の「公共電力高圧送電線網19」との記載からして「公共電力高圧送電線網19」のことであると認められる。
すると、上記(1)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。なお、各構成の末尾の括弧は、各構成に対応する引用文献1の記載箇所である。

〔引用発明1〕
車両の本体上に形成された太陽集積器から電力を、公共高圧送電線網による使用のために供給し、車両が停止または運転中においても電力を供給する、軌道制限車両に関するものであって、(段落0001、0016)
軌道制限車両11は、太陽エネルギー等を電力に変換し、その電力を電力ルーター11bに供給する太陽集積器11aを備え、その電力ルーター11bは、電力が車両に必要かどうかによって、その電力を車両推進システム11dまたはインタフェース11cを介して電力ノード12の分散カプラ13に供給し、(段落0001、0025、図1)
軌道制限車両は、太陽集積器を使用して、そして更に、再生制動を使用して、車両外使用のための電力を供給し、(段落0020)
2台以上の車両のそれぞれは、電力ノード12の(分散)カプラ13に結合し、(段落0044、図1)
電力ノードのカプラは、電力を電力ルーター16に供給し、可能な伝送ルートにより公共電力高圧送電線網19へその電力を供給し、(段落0045、0047)
電力ノード12は、エネルギー格納装置18aを含み、高圧送電線網へのインタフェース18は、高圧送電線網からの要求があると、エネルギー格納装置18aから電力を引き出す(段落0033、図1)
システム。(段落0049、図1)

2 引用文献2
(1)引用文献2の記載事項
上記引用文献2には、次の事項が記載されている。

「【0003】
【図1】は本発明による受・給電装置を停留所近傍や交差点近傍に設置した概要例である。
1は受・給電子でそれぞれ2組路面に埋設した例であるが、さらに多くの組を設けてもよい。
3は、車輪を直接的にまたは補助的に駆動するモータと床面下に取付けた車長相当の受・給電体2と受・給電要求や車輌番号等の信号をやりとりする送・受信器と、の3つを装備した車輌であり、必ずしも蓄電器(池)を搭載した車輌でなくても良い。
4は車輌3が近づいた時に前記受給電子1より接触子が頭だしする制御と車輌3と電力をやりとりするための電力スイッチである。
【0004】
5は受・給電体2との接触検出および車輌3の番号や要求データや次の受・給電装置の位置などの信号をやりとりする信号制御器である。6は全体の情報を処理・制御する制御装置、7は蓄電器(池)、8はソーラ電源、9は風力電源、10は商用電源、11は売買電用積算電力計である。
同図に従ってまず前記ブレーキ区間での動作を説明すると、車輌3は右側より受電要求の信号を送信しながら走行してきて、同図では最右端の受・給電子1に近づく。
すると同図での最右端の信号制御器5と制御装置6は車輌3からの信号を解析し、正当であれば最右端の受・給電子1の頭だしをおこなう。
次ぎに受・給電子1と受・給電体2が正当に接触していることを確認後電カスイッチ4をオンにして、車両3のモータからの電力を受・給電体2、受・給電子1を経由して蓄電器(池)7に蓄える。
これにより車輌3にブレーキがかかることになり、前記蓄電器(池)7に蓄えられた電力量は車輌番号と共に制御装置6に記憶される。
前記蓄電器(池)に蓄えるかわりに、商用電源10に売電してもよい。」

「【0011】
【図3】は、受・給電子1の構造概要の1例である。
同図で21は路面等に埋め込むブロックで、2つの貫通孔20を備え、2つの接触子22が前記貫通孔20に沈み、車輌3通過時頭だしする。
2つの上下動縦レバー23はバネ付きで前記接触子22を支えている。
上下動横レバー27は中心にネジ孔があり、小型モータ25のネジ切り回転軸26の回転方向により、上下する。
信号制御器5は、まず前記車輌3からの受・給電要求が正当である場合、接触子22を貫通孔20を通って頭だしし、さらに接触子22の双方に車輌3から送られる高周波電流が流れている場合に限り、別途電力用スイッチ4をオンにして接触子22に通電する。
上記の動作が終了した時、電力スイッチ4もオフにし小型モータ25を逆回転させ、接触子22を貫通孔20の中に沈める。
本受・給電子は貫通孔20より雨水が流れ込み、排水溝28に流失するので、一種の排水装置と見なしてもよい。
なお、防水ケース29は小型モータ25と信号制御器16・17を格納し、浸水から守る役割をする。
【本発明による効果】
以上本発明によれば、停留所の前後、坂道の上下等でのエネルギーを車輌に与えまたは回収できるため、完全に電気だけの大型車輌−とくに都市での特定ルートでの巡回車(路面電車、ゴミ収集車、配送車、福祉車)など停車、走行を繰り返す車輌−は車内搭載エネルギーが小さくても実用可能になる。
このため、かなりの車輌が電気化され、排ガス・地球温暖化防止に役立ち、都市市街地の生活空間(歩行者と車輌の共存)が再生化されることが期待できる。
また、ソーラ電源または風力電源または車輌のブレーキ電源を複数または単一で利用が基本のため、〈商用電源は過不足のとき利用〉原価償却後の燃料は非常に安価になることが予想され、石油など資源のない我国の都市交通システムとして、効果は大きいと思われる。
(また、震災時・救急時の電源としても別途利用できる。)」

「【図1】



(2)引用発明2
上記段落0004の「車両3のモータからの電力を受・給電体2、受・給電子1を経由して蓄電器(池)7に蓄える。」との記載、及び、同段落の「前記蓄電器(池)に蓄えるかわりに、商用電源10に売電してもよい」との記載に基づけば、引用文献2には「車両3のモータからの電力を受・給電体2、受・給電子1を経由して商用電源10に売電する」ことが記載されていると認められる。
また、前記段落0003、0004及び図1における、車両3及び路面側の受・給電子1、制御装置6等からなる構成は、商用電源10に売電するための「システム」といえる。
すると、上記(1)から、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。なお、各構成の末尾の括弧は、各構成に対応する引用文献2の記載箇所である。

〔引用発明2〕
車輪を直接的にまたは補助的に駆動するモータと床面下に取付けた車長相当の受・給電体2と受・給電要求や車輌番号等の信号をやりとりする送・受信器と、の3つを装備した車輌3と、(段落0003)
路面に埋設した多くの組の受・給電子1、車輌3が近づいた時に前記受・給電子1より接触子が頭だしする制御と車輌3と電力をやりとりするための電力スイッチ4、受・給電体2との接触検出および車輌3の番号や要求データや次の受・給電装置の位置などの信号をやりとりする信号制御器5、及び、全体の情報を処理・制御する制御装置6を備え、(段落0003、0004、図1)
ブレーキ区間での車輌3のモータからの電力を受・給電体2、受・給電子1を経由して商用電源10に売電し、(段落0004、図1)
かなりの車輌が電気化され、排ガス・地球温暖化防止に役立ち、都市市街地の生活空間(歩行者と車輌の共存)が再生化されることが期待できる(段落0011)
システム。

第5 対比、判断
1 引用発明1(理由1)について
(1)対比
本願発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1の、太陽エネルギー等を電力に変換する太陽集積器11a、及び、再生制動を使用して電力を供給する構成を備えた「軌道制限車両11」は、発電に係る構成を備えた車両であるから、本願発明の「発電車両」に相当する。

引用発明1の「公共高圧送電線網」は、公共のものであるから、「社会」の「インフラ網」であるといえる。
また、引用発明1の「公共高圧送電線網」は、軌道制限車両11及び電力ノード12からなるシステムの外部に存在するものである。
以上から、引用発明1の「公共高圧送電線網」は、本願発明の「外部社会電力送電インフラ網」に相当する。

そして、引用発明1の、「車両の本体上に形成された太陽集積器から電力を、公共高圧送電線網による使用のために供給」する「軌道制限車両」は、「車両が停止または運転中においても電力を供給する」ものであるから、「発電車両が発電する電力を、発電車両から外部社会電力送電インフラ網へ常時給電可能とする」ものである点で、本願発明と引用発明1は一致する。
さらに、引用発明1は、電力ノード12の(分散)カプラ13に2台以上の車両のそれぞれが結合されるから、「個別発電車両が発電する電力を、それぞれの発電車両から外部社会電力送電インフラ網へ常時給電可能とする」ものである点で、本願発明と引用発明1は一致する。

また、引用発明1は、引用文献1の上記段落0002の記載によれば、公共高圧送電線網の電力需要への対応を想定したものである。この公共高圧送電線網の電力需要は、膨大な電力量となり得るものであり、また、実社会において軌道制限車両が大多数であることも想定される事項であるから、膨大な電力量を提供可能であることは明らかである。よって、引用発明1のシステムは、「結果として膨大な電力量を新たに社会電力エネルギー供給インフラとして、提供可能としたシステム」といえ、本願発明と引用発明1は、この点で一致する。

以上のとおり、本願発明は、引用発明1と全ての発明特定事項で一致するから、引用文献1に記載された発明である。

(2)請求人の主張について
請求人は、令和2年9月1日に提出された意見書において、以下の主張を行っている。

(主張1)
「・「軌道制限車両」は「発電車両」に相当するは、失当です。本願発明の「発電車両」は上記(2頁上段)に記載されているように、通常の既存車両に本願発明「必要装置」が具備した状態の車両です。また、既存車両用電力と、「発電車両」が供給する「社会電力」の電源は区別しており、「発電車両」が搭載するバッテリーは、もともと既成車両用分1基のみで、「社会電力」はバッテリー経由をしないで車外へ送電されます。前記処置の理由は「発電車両」が世界で広く、急速に、普及させるための手段で、そうすることで、地球温暖化問題が多少でも早期に改善可能となることを期待するためです。もし、「発電車両」である既存車両の限度ある電力資源、あるいはバッテリー資源が、「発電車両」が原因で、消耗するようなことがあれば、前記車両のメーカーあるいはユーザーは、温暖化対策に理解あるとはいえ、「発電車両」への理解も協力も後ろ向きとなるのは避けられないでしょう。このような状況が広がることは、現在のEV車の普及が遅々とした状況にあるのと同様で、地球温暖化防止対策の方策となります。」

(主張2)
「・文献発明「軌道制限車両」は「軌道車両(いわゆる電車)」一種類のみですが、本願発明の「発電車両」は、いわゆる「自動車」と「電車」の二種類を包含する車両です。」

(主張3)
「・文献1の「図1」によると、「公共高圧送電線網」ではなく、「電力高圧送電線網」(19)となっています。」

(主張4)
「・本願発明1の「外部社会電力送電インフラ網」とは、いわゆる電力業界用語である「系統送電網」です。」

(主張5)
「・文献1の「軌道制限車両」はいわゆる電車であり、停車中も外部からの給電を可能とするから、逆に停車中でも外部への送電(給電)も可能なことは理解できます。しかし、文献1の「軌道制限車両」が停車中に発電し、外部への給電を行う電力は極く僅かなものと判断できます(図1)。一つは「回生制動からの電力(回生電力)」、二つ目が「太陽電力」ですが、「回生電力」は車両が停車中は発電不能です(バッテリー使用すれば別ですが)。「太陽電力(この装置も悪天候の場合は機能しません)」は、車両の狭い表面(壁面)の「太陽集積器(発電パネル)」からの電力です(段落0020−図1)。このような貧弱(太陽集積器、おそらく狭い面積の太陽光パネル―0020―図1)の電力で、停車中に外部に送電する意味(目的)が、理解できません。」

(主張6)
「・文献1の「軌道制限車両」が二両連結の場合、「電力高圧送電線網」への給電接続口は、連結で一か所であり、二両連結車両のそれぞれの車両が別途に接続給電を行っているわけではありません(段落0200−図1)。」

(主張7)
「・「膨大」あるいは「膨大な電力量を新たに社会電力エネルギ―供給インフラとして、提供可能なシステム」に類似するような文面は、文献1発明書面上には見当たりません。本願発明の「発電車両による社会大規模給電インフラ構築システム」は、世界中で場所、天候、日夜を問わず、莫大なエネルギー消費を伴いながら大な数の車両群が走行中です。この車両群の膨大な走行エネルギーの一部を電気エネルギーへ変換させ、この電力を社会大規模主要電力源とすることを目的とするのが「本願発明」の内容です。したがって、本願発明文中に、「膨大」あるいは「膨大な電力量」とかの表現は、単なる誇張としての表現ではなく、実需を考慮する推定値です。推定値とするのは、本願の「システム」は現時点で紙上の設計だからです。文献1の発明には「*結果として膨大な電力量を新たに社会エネルギー供給インフラとして、提供可能としたシステム」である点で、本願発明1と一致する、とする本審判断があります。
しかし、文献1発明の書類上では、(社会へ供給する)「莫大な電気量」を提供する大多数の「軌道制限車両」の、どの電源が『莫大な電気量』となる電力を供給するのか明確ではありません。
・「走行中の電車は発電所にもなる、余剰電力で600所帯分を供給」とのネット記事があります(2013年12月3日付、添付資料1参照)。
「東京都と茨城県を結ぶ新交通システムの「つくばエキスプレス」を使って、12月1日から売電事業が始まった。走行中の列車がブレーキを掛けた時に発生する回生電力のうち、他の列車の運行や冷暖房など利用した後の余剰分を電力会社に販売する。一般家庭で600所帯分になる」。・・・・・・・「電力会社に売電することにした。鉄道会社で回生電力を売電するのは公式には初めてのケースとみられる。供給先は東京電力になる」。
・いっぽう、JR東日本社の広報記事(添付資料2参照)(「再生可能エネルギーの導入推進」によると、「・・・・・・・・・2011年2月には、東京駅東海道線ホーム(9・10番線)を全面利用して453kWの発電パネルを設置しました。2014年2月には、京葉車両センター内に当社では初めてとなる1,050kWのメガソーラを使用開始し、発電した電気を、両センターで消費するほか、当社の配電線を介して鉄道運行に活用しています。このような取組みの結果2016年度の太陽光パネによる発電電力量のうち、約160万kWhを自家消費しました。」との内容。
・上記記事内容から推測すると、鉄道会社は自社の車両から得た回生電力の大半は自家消費に回し、太陽光電力は自社車両から得るものはほぼゼロであり、自家用に利用する太陽光電力は、自社敷地内に設置した太陽光電力」に関し、各1社の場合の事例となりますが、現時点において、他の大多数の同業者も大なり小なり事情は類似しているものと推定できます(将来的には、本願発明システムが実現された場合は状況は大きく変化するでしょう)。
・本審の判断として、「したがって、文献発明1は、『結果として膨大なで電力量を新たに社会電力エネルギ―供給インフラとして、提供可能としたシステム』である点で、本願発明1と一致する。」とした内容は、失当です。」

しかしながら、上記主張1〜7は、いずれも採用することができない。その理由は次のとおりである。

(主張1について)
本願発明は、「発電車両」と特定されているのみであって、当該記載からは、「発電する機能、構成等を備えた車両」程度の技術的事項が把握されるにとどまるから、当該技術的事項の範囲を超える事項に基づく上記主張1は、特許請求の範囲に基づかないものとして、これを採用することはできない。

(主張2について)
請求人が主張するとおり「電車」も特許の範囲に含めることが請求されているから、当該「電車」に係る範囲において、少なくとも電車(軌道制限車両)が含まれている引用発明1との間に差異を認めることはできない。

(主張3について)
上記第4の1(2)で認定したとおり、引用文献1の図1の「電力高圧送電線網19」は、「公共電力高圧送電線網19」のことであると認められるから、「公共高圧送電線網」であるといえる。

(主張4について)
請求人の主張のとおりであるとしても、「系統送電網」は、引用発明1の「公共(電力)高圧送電線網」の一般的な態様と認められるから、「外部社会電力送電インフラ網」について、本願発明と引用発明1との間に相違する点は認められない。

(主張5について)
引用発明1において、公共高圧送電線網による使用のために供給される電力は、複数台の軌道制限車両によるものであるから、個々の軌道制限車両における太陽集積器や再生制動の発電能力についてのみでは停車中に外部に送電する意味(目的)を判断することはできない。したがって請求人の上記主張は、採用することができない。

(主張6について)
本願発明は、「個別発電車両が発電する電力を、それぞれの発電車両から外部社会電力送電インフラ網へ常時給電可能とすること」が特定されているのみであって、給電の態様までは特定されていないから、請求人が主張する上記引用文献1の接続に係る構成は、本願発明に対する相違点とは認められない。

(主張7について)
引用発明1において、公共電力高圧送電線網に供給される電力の量が軌道制限車両の数に応じて決まることは、当然に想定されることであって、膨大な電力量は、車両数の設定により得られる結果の一つに過ぎないものである。
また、上記記事内容が示すものは、一部の事例にすぎず、当該事例により車両数の規模を大きくすることが制限されるものではないから、引用発明1において、膨大な電力量は上記結果の一つとして想定されるものである。

(3)まとめ
以上から、本願発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができない。

2 引用発明2(理由2)ついて
(1)対比
本願発明と引用発明2とを対比する。

引用発明2の、ブレーキ区間での車両3のモータからの電力は、モータにおいてブレーキにより発電されたものと認められるから、引用発明2の「車両3」は、本願発明の「発電車両」に相当する。

引用発明2の「商用電源10」は、本願発明の「外部社会電力送電インフラ網」に相当する。

そして、引用発明2は、車輌3のブレーキ区間でのモータからの電力を、多くの組のうち対応する受・給電子1を経由して商用電源10に売電するものであるから、「発電車両が発電する電力を、発電車両から外部社会電力送電インフラ網へ常時給電可能とする」ものである点で、本願発明と引用発明2は一致する。
さらに、引用発明2は、車輌3として「かなりの車輌」を想定しているから、「個別発電車両が発電する電力を、それぞれの発電車両から外部社会電力送電インフラ網へ常時給電可能とする」ものである点で、本願発明と引用発明2は一致する。

引用発明2は、「かなりの車輌が電気化され、排ガス・地球温暖化防止に役立ち、都市市街地の生活空間(歩行者と車輌の共存)が再生化されることが期待できる」というものであるから、引用発明2のシステムにより商用電源10に売電される電力量は、「膨大」なものといえるし、「新たに社会電力エネルギー供給インフラとして、提供可能」なものともいえる。
したがって、引用発明2のシステムは、「結果として膨大な電力量を新たに社会電力エネルギー供給インフラとして、提供可能としたシステム」である点で、本願発明と一致する。

以上のとおり、本願発明は、引用発明2と全ての発明特定事項で一致するから、引用文献2に記載された発明である。
よって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2020-12-25 
結審通知日 2021-01-12 
審決日 2021-01-29 
出願番号 P2015-533927
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (H02J)
P 1 8・ 121- WZ (H02J)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 小池 正彦
樫本 剛
発明の名称 発電車両を電源とする新方式大規模社会電力給電インフラシステム  

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