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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03F
管理番号 1385477
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-06 
確定日 2022-03-07 
事件の表示 特願2018−501430「増幅器の出力回路」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月31日国際公開、WO2017/145241〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)2月22日を国際出願日とする特願2018−501430号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成30年 6月14日 :手続補正書の提出
令和 元年 5月10日付け:拒絶理由の通知
令和 元年 6月 3日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 元年11月 1日付け:拒絶査定
令和 2年 2月 6日 :審判請求書の提出
令和 2年 8月25日付け:拒絶理由の通知
令和 2年10月21日 :意見書及び手続補正書(以下、この手続補
正書による手続補正を「本件補正」という
。)
令和 2年12月 7日付け:拒絶理由の通知(以下、「当審拒絶理由通
知」という。)
令和 3年 2月 5日 :意見書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1−3に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1−3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「 入力端子と出力端子と共通端子を有する3端子増幅素子と、
前記3端子増幅素子の前記共通端子に接続されて前記3端子増幅素子に略一定の電流を流す定電流回路とを備え、
前記3端子増幅素子の前記出力端子は接地され、
前記3端子増幅素子の前記共通端子と前記定電流回路の接続点と接地の間で増幅出力が取り出され、
前記接続点と前記増幅出力の端の間に、直流を遮断するコンデンサが設けられ、
前記定電流回路により、前記増幅出力の端に流す出力の反作用を吸収し、出力に伴う消費電流の変化をなくし、電源回路に信号に相関した電流を流さない出力部を構成したことを特徴とするオーディオ用増幅器の出力回路。」


第3 拒絶の理由
当審拒絶理由通知の理由の概要は、次のとおりのものである。

理由1.(進歩性)本件出願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2003−243944号公報
引用文献2:特開平11−298991号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:実願昭50−025797号(実開昭51−107248号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)

理由2.(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

・請求項1−3
(1)請求項1の記載は、「…を特徴とする」が「オーディオ用増幅器」を修飾しているのか、「出力回路」を修飾しているのかが不明瞭である。
前者の修飾関係の場合、(A)「出力回路」は「オーディオ用増幅器」の一部分を成すのか、それとも、(B)「出力回路」と「オーディオ用増幅器」とは別体を成すのか不明であり、(A)の場合は「オーディオ用増幅器」のどの部分が「出力回路」に当たるのか不明であり、(B)の場合は別体である「オーディオ用増幅器」の構成を限定したところで、「出力回路」は何も限定されないので、請求項1の記載によってどのような発明を規定しようとしているのかが不明である。
後者の修飾関係の場合、「…を特徴とする」という回路構成及び機能は「出力回路」を限定するものと解されるから、これらとは別の限定を加えると解される「オーディオ用増幅器の」という文言によって、「出力回路」の何を限定しようとしているのかが不明である。

(2)「3端子増幅素子」と「オーディオ用増幅器」との関係が不明である。


第4 明確性要件(当審拒絶理由通知の理由2)について
事案に鑑み、明確性要件について先に検討する。

1 本願の記載内容について
(1)本願請求項1は、前記第2のとおりの記載である。

(2)発明の詳細な説明の記載内容
本願の明細書(以下、「本願明細書」という。)には、以下の記載がある。なお、段落番号は本願の国際公開(国際公開第2017/145241号)に従う。

ア 「実施例1
[0012] 実施例1に係る増幅器の出力回路の回路図を、図1に示す。
トランジスタ(3端子増幅素子)Qは、ベース(入力端子)Bとコレクタ(出力端子)Cとエミッタ(共通端子)Eを備える。トランジスタQのエミッタEに定電流回路CSが接続されている。この接続点Pに増幅出力端10aが接続されている。コレクタCは接地されている。
[0013] 信号源SIGの信号はトランジスタQで増幅される。増幅された信号は、増幅出力端10aと10bの間に現れる。増幅出力端10bは接地である。接続点Pと増幅出力端10aの間に、直流を遮断するコンデンサC2を設けてもよい。
[0014] コンデンサC1は信号源SIGの直流を遮断する。抵抗R1及びR2はバイアス回路を構成する。
[0015] 実施例1のトランジスタQのエミッタEに定電流回路CSが接続されているのでトランジスタQの消費電流が変化しない。実施例1によれば、オーディオプリアンプ等において、信号に相関した電流を電源回路に流さない出力部を構成出来る。
[0016] 更に、図示しない前段の増幅部についても同様にトランジスタのエミッタに定電流回路Sが接続されるようにして、信号による消費電流の変化がない回路を選択すれば、増幅部とこの出力部の全体で、信号に相関した電流を電源回路に流さないプリアンプ等を構成出来る。
実施例2
[0017] 実施例2に係る増幅器の出力回路の回路図を、図2に示す。
トランジスタQ2及びQ3はダーリントン接続である。後段のトランジスタQ3のエミッタに定電流回路CSが接続されている。この接続点Pに増幅出力端10aが接続されている。増幅出力端10a、10bにはスピーカSPが接続されている。
[0018] 出力トランジスタをダーリントン接続にする等で出力電流を大きく取れるようにすれば、オーディオパワーアンプで、信号に相関した電流を電源回路に流さない出力部を構成出来る。
[0019] 更に、図示しない前段の増幅部についても同様に、トランジスタのエミッタに定電流回路Sが接続されるようにして、信号による消費電流の変化がない回路を選択すれば、増幅部とこの出力部の全体で、信号に相関した電流を電源回路に流さないパワーアンプ等を構成出来る。
実施例3
[0020] 実施例3に係る増幅器の出力回路の回路図を、図3に示す。
[0021] 実施例3は、実施例2をコンプリメンタリ出力回路に適用したものである。コンプリメンタリ回路は、PNP型(第1極性)トランジスタQ2,Q3及びNPN型(第2極性)トランジスタQ2’、Q3’とを備える。
[0022] コンプリメンタリ出力回路のトランジスタQ2及びQ3、並びに、トランジスタQ2’及びQ3’はダーリントン接続である。後段のトランジスタQ3、Q3’のエミッタに定電流回路CS、CS’が接続されている。これらの接続点P、P’に増幅出力端10aが接続されている。
[0023] トランジスタの電流増幅率は電流依存性がありそれが出力信号の歪となる。 出力トランジスタをPNPとNPNの組み合わせとし、コンプリメンタリ出力回路を構成することにより、電流依存性による特性の曲りを打ち消して歪を改善した出力信号を得ることが出来る。コンプリメンタリ出力回路においても、信号に相関した電流を電源回路に流さない出力部を構成出来る。」

イ 「【図1】

【図2】

【図3】



2 判断
当審拒絶理由通知で示した(第3、理由2.(1))ように、請求項1の記載は、「…を特徴とする」の修飾先を2通りに想定できる。そこで、本願明細書の記載から修飾関係を一意特定できないかを検討する。

(1)本願明細書には、「実施例1に係る増幅器の出力回路の回路図を、図1に示す。」([0012])との記載、「実施例2に係る増幅器の出力回路の回路図を、図2に示す。」([0017])との記載及び「実施例3に係る増幅器の出力回路の回路図を、図3に示す。」([0020])との記載があるが、図1ないし図3が「出力回路」の全体を示しているのか、それとも一部を示しているのかは、これらの記載からは直ちに明らかとはいえない。

(2)本願明細書の「実施例1のトランジスタQのエミッタEに定電流回路CSが接続されているのでトランジスタQの消費電流が変化しない。実施例1によれば、オーディオプリアンプ等において、信号に相関した電流を電源回路に流さない出力部を構成出来る。」([0015])との記載によれば、トランジスタQのエミッタEに定電流回路CSが接続された回路が「出力部」を構成していると理解できるが、該「出力部」と本願発明の「出力回路」との異同は前記記載から明らかとはいえない。したがって、本願発明の「出力回路」がトランジスタQ及び定電流回路CSを含むのか否かについても明らかではない。
このことは、本願明細書の「出力トランジスタをダーリントン接続にする等で出力電流を大きく取れるようにすれば、オーディオパワーアンプで、信号に相関した電流を電源回路に流さない出力部を構成出来る。」([0018])との記載についても同様である。

(3)本願明細書の「実施例3は、実施例2をコンプリメンタリ出力回路に適用したものである。」([0021])との記載に関し、該「コンプリメンタリ出力回路」と本願発明の「出力回路」との異同は不明である。また、「コンプリメンタリ出力回路においても、信号に相関した電流を電源回路に流さない出力部を構成出来る。」([0023])との記載に関し、「コンプリメンタリ出力回路」が「出力部」を構成することは理解できるものの、「コンプリメンタリ出力回路」及び「出力部」と、本願発明の「出力回路」との異同は不明である。

(4)本願明細書のその他の記載を参照しても、本願発明の「出力回路」が図1ないし図3のどの範囲を意味しているのかは、明らかではない。

(5)以上(1)〜(4)によれば、本願の請求項1の「…を特徴とする」という記載(「3端子増幅素子」、「定電流回路」及び「コンデンサ」による構成を特定する記載)が「オーディオ用増幅器」を修飾しており、本願発明は前記構成の一部分ないしそれとは別体の「出力回路」を特定しているのか、それとも、「…を特徴とする」という記載が「出力回路」を修飾しており、「出力回路」自体が「3端子増幅素子」、「定電流回路」及び「コンデンサ」の全てを備えているのかが、明らかとはいえない。

(6)上記に関し、請求人は、令和3年2月5日の意見書(以下、単に「意見書」という。)にて、以下の3点を主張する。

主張1 本願発明は「オーディオ用増幅器の出力回路。」である。「オーディオ用増幅器の出力回路。」は一体であって「オーディオ用増幅器」と「出力回路」に分かれるものではない。

主張2 本願発明の「オーディオ用増幅器の出力回路。」は、負荷であるスピーカーを駆動する回路であり、増幅器の最終段である出力段に相当するものである。

主張3 「増幅器の…回路」といった表現は、発明の名称として多数存在することから、「増幅器の…回路」といった発明の名称が直ちに不明確とはならないと思料する。

(7)主張1について検討すると、請求人は、特許請求の範囲の「…を特徴とする」が「出力回路」を修飾している旨を主張していると解されるが、その根拠が明らかではなく、該主張は採用できない。

(8)主張2について検討する。
本願発明は負荷としてのスピーカーを駆動することについて特定されていない。
加えて、本願明細書を参照しても、本願発明に対応する実施例1について、「実施例1によれば、オーディオプリアンプ等において、信号に相関した電流を電源回路に流さない出力部を構成出来る。」([0015])との記載があり、本願発明はプリアンプを含んでいると理解される。プリアンプは後段にパワーアンプ等を接続して使用するものであって、アンプの最終段としてスピーカーを駆動するものではないから、この観点からも、本願発明は負荷としてスピーカーを駆動することに限定されない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

(9)主張3について検討すると、「増幅器の…回路」という表現が他の出願において発明の名称として使用されていることと、該表現が本願発明を特定するための記載として明確であることとは無関係であるから、請求人の主張は採用できない。

(10)前記(5)及び(7)〜(9)によれば、本願発明の技術的範囲は、第三者に不測の不利益を及ぼす程度にまで、不明確である。
よって、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


第5 進歩性(当審拒絶理由通知の理由1)について
本願発明は前記第4のとおり不明確であり、これに関する請求人の主張も採用できないものであるが、仮に、請求人の主張1が正しいとした場合について、本願発明の進歩性についての判断を示す。
この場合においても、請求人の主張2については、前記第4、2(8)のとおり請求項1の記載及び本願明細書の記載に反するから、採用することができない。
したがって、以下では本願発明を、特許請求の範囲の「…を特徴とする」の前に特定される構成を備えた出力回路であって、オーディオ用増幅器として機能する出力回路であると解釈する。

1 引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

ア 「【0012】ECM(1)用のICは音声信号が入力されるマイクコンデンサ(2)と、音声信号によるマイクコンデンサ(2)の静電容量の変化により生ずる信号電圧をインピーダンス変換するインピーダンス変換回路(3)から構成されている。
【0013】マイクコンデンサ(2)は、音声信号によって振動する振動板と対向する容量電極板との間にエレクトレット層を介して構成されている。また、インピーダンス変換回路(3)は、マイクコンデンサ(2)の一端がゲートに接続された接合型電界効果トランジスタ(以下、J−FET(4)と称す)と、J−FET(4)のゲート(5)とアース間に接続されたショットキーバリアダイオード(6)とから構成されている。J−FET(4)のソース(7)とドレイン(8)との間にはRFバーストノイズを抑制するためのコンデンサ(9)が接続されている。また、J−FET(4)はソース接地回路を構成している。このJ−FET(4)は入力された信号に対して増幅する機能を有する。
【0014】本発明の特徴とする点は抵抗素子(106)に代えて、ショットキーバリアダイオード(6)を高抵抗素子として採用した点である。ショットキーバリアダイオード(6)は金属と半導体との成す接合ダイオードであり、通常のPN接合ダイオードに比して高抵抗である。これにより、高抵抗素子を小さな素子面積で形成することが可能となる。」

イ 「【0024】図6は本発明の第4の実施の形態に係るエレクトレットコンデンサマイクロフォンを示す図である。尚、図において図1と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。本実施形態はバイポーラトランジスタ(15)とショットキーバリアダイオード(6)とを接続するものである。図6では、コレクタ接地(エミッタフォロア)について開示したが、エミッタ接地、ベース接地であってもなんら問題はない。(また、固定電流源(11)はベース、エミッタ、コレクタのどの端子に接続されてもよい。)図6では、コレクタ接地のバイポーラトランジスタ(15)に、エミッタと電源との間に固定電流源(11)を接続したものを開示した。尚、図6ではPNP型のバイポーラトランジスタ(15)について開示したが、NPN型のバイポーラトランジスタ(15)であってもよい。」

ウ 「【図1】



エ 「【図6】



オ 図6の回路図から、以下の事項が読み取れる。

バイポーラトランジスタ(15)と、
前記バイポーラトランジスタ(15)のベースにマイクコンデンサ(2)が接続され、
前記バイポーラトランジスタ(15)のエミッタに接続された固定電流源(11)とを備え、
前記バイポーラトランジスタ(15)のコレクタは接地され、
前記バイポーラトランジスタ(15)のエミッタと前記固定電流源(11)の接続点で出力が取り出され、
前記バイポーラトランジスタ(15)のベースにショットキーバリアダイオード(6)のアノードが接続され、
前記ショットキーバリアダイオード(6)のカソードが接地され、
前記バイポーラトランジスタ(15)のエミッタとコレクタとの間にコンデンサ(9)が接続され、
前記ショットキーバリアダイオード(6)、前記バイポーラトランジスタ(15)及びコンデンサ(9)によりインピーダンス変換回路(3)が構成される回路。

(2)引用発明
引用文献1の「図6は本発明の第4の実施の形態に係るエレクトレットコンデンサマイクロフォンを示す図である。尚、図において図1と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。」(【0024】)との記載によれば、図6の回路図に示される「マイクコンデンサ(2)」、「インピーダンス変換回路(3)」、「ショットキーバリアダイオード(6)」及び「コンデンサ(9)」については、それぞれ図1の同一符号に関する説明があてはまると認められる。
そうすると、前記(1)によれば、引用文献1には図6に関する以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「エレクトレットコンデンサマイクロフォンであって(【0024】)、
バイポーラトランジスタ(15)と、
前記バイポーラトランジスタ(15)のベースにマイクコンデンサ(2)が接続され、
前記バイポーラトランジスタ(15)のエミッタに接続された固定電流源(11)とを備え、
前記バイポーラトランジスタ(15)のコレクタは接地され、
前記バイポーラトランジスタ(15)のエミッタと前記固定電流源(11)の接続点で出力が取り出され、
前記バイポーラトランジスタ(15)のベースにショットキーバリアダイオード(6)のアノードが接続され、
前記ショットキーバリアダイオード(6)のカソードが接地され、
前記バイポーラトランジスタ(15)のエミッタとコレクタとの間にコンデンサ(9)が接続され、
前記ショットキーバリアダイオード(6)、前記バイポーラトランジスタ(15)及びコンデンサ(9)によりインピーダンス変換回路(3)が構成され(以上、前記(1)オ)、
前記マイクコンデンサ(2)に音声信号が入力され(【0012】)、
前記インピーダンス変換回路(3)は、音声信号によるマイクコンデンサ(2)の静電容量の変化により生ずる信号電圧をインピーダンス変換し(【0012】)、
前記コンデンサ(9)は、RFバーストノイズを抑制するためのものであり(【0013】)、
ショットキーバリアダイオード(6)を高抵抗素子として採用した(【0014】)
エレクトレットコンデンサマイクロフォン。」

2 引用文献2及び3並びに周知技術
当審拒絶理由で引用した引用文献2及び引用文献3には、それぞれ以下の事項が記載されている。

(1)引用文献2
ア 「【0007】このパワーアンプは、オペアンプ101で構成され、その非反転端子には入力信号Vinが印加され、反転端子にはゲイン設定用の抵抗R1,R2が接続されている。そして、オペアンプ101の出力端子100に出力された信号Voutは、大容量の出力カップリングコンデンサC1で直流分がカットされ、スピーカなどの負荷102を鳴らすようになっている。」

イ 「【図6】



(2)引用文献3
ア 「 第1図は従来の音響機器における要部を示す接続図で、図において、(1)は商用電源、(2)は音響機器の電源スイッチ、(3)は電源スイッチ(2)に一次側巻線が接続された電源トランス、(4)は電源トランス(3)の二次側巻線に接続されたブリッジ整流回路、(5)は平滑用コンデンサである。また、(6)は音声信号が供給される入力端、(7)は直流阻止用コンデンサ、(8)は平滑用コンデンサ(5)を介して直流電源が供給され、直流阻止用コンデンサ(7)を介して供給される音声信号を増幅する音声出力回路で、シングル・エンデッド・プッシュプル出力回路を形成するトランジスタ(8a)(8b)およびトランジスタ(8a)(8b)を駆動する駆動トランジスタ(8c)などから構成されている。(9)は音声出力回路(8)の出力端子に接続された直流阻止用コンデンサ、(10)は直流阻止用コンデンサ(9)を通して音声信号が供給され、音声を再生するスピーカである。」(第1ページ最終段落−第2ページ第1段落)

(3)周知技術
引用文献2及び3の前記記載から明らかなように、「出力信号の直流を遮断する目的で出力端子と負荷との間にコンデンサを設けること」(以下、「周知技術」という。)は、オーディオ技術分野で周知である。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。

(1)引用発明の「バイポーラトランジスタ(15)」は、本願発明の「3端子増幅素子」に相当する。
引用発明のバイポーラトランジスタ(15)の「ベース」、「コレクタ」及び「エミッタ」は、それぞれ本願発明の「入力端子」、「出力端子」及び「共通端子」に相当する。
よって、本願発明と引用発明とは「入力端子と出力端子と共通端子を有する3端子増幅素子」を備える点で一致する。

(2)引用発明の「固定電流源(11)」は、固定の電流を流すものと認められるから、本願発明の「定電流回路」に相当する。
引用発明の「固定電流源(11)」は、「バイポーラトランジスタ(15)のエミッタに接続され」ているから、「バイポーラトランジスタ(15)」に略一定の電流を流すと認められる。
よって、本願発明と引用発明とは「前記3端子増幅素子の前記共通端子に接続されて前記3端子増幅素子に略一定の電流を流す定電流回路」を備える点で一致する。

(3)引用発明では「バイポーラトランジスタ(15)のコレクタは接地され」ているから、本願発明と引用発明とは、「前記3端子増幅素子の前記出力端子は接地され」る点で一致する。

(4)引用発明では「前記バイポーラトランジスタ(15)のエミッタと前記固定電流源(11)の接続点で出力が取り出され」ており、かつ、「前記バイポーラトランジスタ(15)のベースにマイクコンデンサ(2)が接続され」ているところ、該出力は「音声信号によるマイクコンデンサ(2)の静電容量の変化により生ずる信号電圧をインピーダンス変換し」たものであるから、マイクコンデンサ(2)により生ずる信号電圧は、バイポーラトランジスタ(15)のベースに入力され、バイポーラトランジスタ(15)の増幅作用を受けてそのエミッタから出力されたものであると認められる。そうすると、引用発明の「出力」は増幅出力といえる。
よって、本願発明と引用発明とは、「前記3端子増幅素子の前記共通端子と前記定電流回路の接続点」で「増幅出力が取り出され」る点で共通する。

(5)引用発明では「前記マイクコンデンサ(2)に音声信号が入力され」、前記(4)のとおり「音声信号によるマイクコンデンサ(2)の静電容量の変化により生ずる信号電圧」がバイポーラトランジスタ(15)によって増幅されて出力として取り出されるから、結局のところ、引用発明の「エレクトレットコンデンサマイクロフォン」は、入力された音声信号を増幅して出力する回路、すなわち、オーディオ用増幅器として機能する出力回路である。
よって、本願発明と引用発明とは「オーディオ用増幅器の出力回路」である点で共通する。

(6)一致点及び相違点について
上記(1)ないし(5)で検討したように、本願発明と引用発明とは、

「入力端子と出力端子と共通端子を有する3端子増幅素子と、
前記3端子増幅素子の前記共通端子に接続されて前記3端子増幅素子に略一定の電流を流す定電流回路とを備え、
前記3端子増幅素子の前記出力端子は接地され、
前記3端子増幅素子の前記共通端子と前記定電流回路の接続点で増幅出力が取り出されることを特徴とするオーディオ用増幅器の出力回路。」

で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
本願発明では「前記3端子増幅素子の前記共通端子と前記定電流回路の接続点」と「接地」の間で増幅出力が取り出されるのに対し、引用発明の「バイポーラトランジスタ(15)のエミッタと前記固定電流源(11)の接続点で」の出力が、どことの間で取り出されるのか特定されていない点。

<相違点2>
本願発明では「前記接続点と前記増幅出力の端の間に、直流を遮断するコンデンサが設けられ」るのに対し、引用発明にはそのようなコンデンサが存在しない点。

<相違点3>
本願発明は「前記定電流回路により、前記増幅出力の端に流す出力の反作用を吸収し、出力に伴う消費電流の変化をなくし、電源回路に信号に相関した電流を流さない出力部を構成した」ものであるのに対し、引用発明ではそのような構成が特定されていない点。

4 判断
(1)相違点1について
引用発明におけるバイポーラトランジスタ(15)のエミッタと固定電流源(11)との接続点での出力が、どことの間で取り出されるのかに関し、引用文献1で明示はないものの、電子回路の技術分野において、接地が基準電位として機能し、当該基準電位との間で出力を取り出すことは、技術常識であるから、当該相違点1は実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
オーディオ技術分野において、「出力信号の直流を遮断する目的で出力端子と負荷との間にコンデンサを設けること」は、前記第5、2で示したように周知技術であり、引用発明において、同様の目的のため、出力の際にコンデンサを設けることは当業者が容易になし得ることである。

(3)相違点3について
引用発明において、前記(1)及び前記(2)で示した出力形態をとる場合、固定電流源(11)からバイポーラトランジスタ(15)へ流れる電流と、固定電流源(11)から直流を遮断するためのコンデンサ及び負荷を経て接地へ流れる電流との和は一定となるから、固定電流源(11)の作用によって、前記出力の反作用を吸収し、出力に伴う消費電流の変化をなくし、電源回路に信号に相関した電流を流さないという、本願発明と同様の作用効果が得られるものと認められる。
よって、相違点3に係る構成は容易になし得る。

(4)効果について
また、上記相違点1ないし3を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術による作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものではない。

5 請求人の主張について
(1)請求人は、意見書において、「(相違点1)乃至(相違点3)に加えて、下記の点でも相違する」として、以下の相違点ア及び相違点イの看過を主張する。

(相違点ア)本願発明1はショットキーバリアダイオードを備えないのに対し、引用文献1に記載の回路は「バイポーラトランジスタ(15)」のベース端子に、必須の構成要素として「ショットキーバリアダイオード(6)」を備える点。

(相違点イ)本願発明1はその「前記増幅出力の端」に負荷であるスピーカが接続され、当該スピーカーを駆動する、増幅器の最終の段である出力段に相当するのに対し、引用文献1に記載の回路は「マイクコンデンサ(2)」の音声信号を増幅する、増幅器の最初の段である入力段に相当する点。

(2)相違点アについて、本願発明は、請求項1に記載された以外の回路素子の有無について何も特定していない。これは、発明の詳細な説明において、実施例1が「抵抗R1及びR2はバイアス回路を構成する」([0014]、図1)と記載され、実施の際にバイアス抵抗としてR1及びR2を用いるものの、本願発明では抵抗R1及びR2について何ら特定がないことと整合する。
そうすると、本願発明は、ショットキーバリアダイオードの有無についても特定されておらず、ショットキーバリアダイオードを備えることを除外していないといえる。加えて、引用発明の「ショットキーバリアダイオード(6)」は、「高抵抗素子として採用」されたものに過ぎず、これの有無によって「固定電流源(11)」の機能に変化が生じるものでもないから、引用発明が「ショットキーバリアダイオード(6)」を備えるからといって、その増幅に係る動作を本願発明のものと異にすることもない。
したがって、相違点アは存在しない。

(3)相違点イについて、前記第4、2(8)に示したように、本願発明は「前記増幅出力の端に負荷であるスピーカが接続されること」や「本願発明が増幅器の最終の段である出力段に相当する」ことに限定されていない。
よって、相違点イは存在しない。

(4)以上(2)及び(3)のとおり、請求人が主張する相違点ア及び相違点イは存在しないから、請求人の主張は採用できない。

6 小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第6 むすび
前記第4のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、前記第5のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び3に示された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-03-30 
結審通知日 2021-04-01 
審決日 2021-04-20 
出願番号 P2018-501430
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H03F)
P 1 8・ 121- WZ (H03F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 丸山 高政
谷岡 佳彦
発明の名称 増幅器の出力回路  
代理人 大木 健一  

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