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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1385490 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-04-10 |
確定日 | 2022-06-22 |
事件の表示 | 特願2018− 73153「白血球減少症及び血小板減少症に対する治療方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月 2日出願公開、特開2018−118998〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年5月15日(パリ条約による優先権主張 2014年5月15日、2014年5月15日、2014年6月27日、2014年6月27日、2014年11月24日、2014年11月24日、いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2017−512879号の一部を平成30年4月5日に新たな出願としたものであり、その主な手続の経緯は、次のとおりである。 平成30年12月18日付け 特許法第50条の2の通知を伴う拒絶理由通知 令和 1年 7月 5日 手続補正書及び意見書の提出 同年12月 5日付け 補正却下の決定及び拒絶査定 令和 2年 4月10日 審判請求書及び手続補正書の提出 令和 3年 4月27日付け 拒絶理由通知書(当審) 同年11月11日 意見書及び手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1〜10に係る発明は、令和3年11月11日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】 化学式2の化合物の有効量を含む、血小板減少症を患う人を治療するための組成物。 【化1】 」 第3 拒絶の理由 当審において令和3年4月27日付けで通知した特許法第29条第2項の理由のうち、本願の特許請求の範囲の請求項1に対する理由の概略は、以下のとおりである。 本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、並びに引用文献1、4及び5の記載から、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。 <引用文献一覧> ・引用文献1:Biol.Pharm.Bull.,2004,Vol.27,No.7,p.1121-1125 ・引用文献4:血栓止血誌,2003,Vol.14,No.3,p.227-237 ・引用文献5:日本内科学会雑誌,2001,第90巻第3号,p.513-518 第4 引用文献に記載された事項及び引用発明 1 引用文献1に記載された事項及び引用発明 (1)引用文献1に記載された事項 引用文献1には、以下の事項が記載されている。原文は外国語で記載されているため、当審合議体による日本語訳で摘記する。ただし、図表は原文で摘記し、(当審注)で日本語訳を記載した。また、下線は当審合議体が付した。 (摘記1a) 「造血に対するモノアセチルジグリセリドの刺激効果 ・・・ 鹿の角から精製されたモノアセチルジグリセリド、及び同一の合成化合物は、造血を刺激することが示されている。本研究では、8つのモノアセチルジグリセリドを合成した。そのうちの1つである1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロール(3)は、天然に存在するモノアセチルジグリセリドの1つと構造的に同一であり、培養コロニー形成単位(CFUc)アッセイにより造血の最も強力な刺激を示し、1.0μg/mlの濃度で1.54±0.23の刺激指数(SI)を有していた。さらに、1.0μg/mlの濃度である化合物3は、巨核球培養、照射されたMS-5間質細胞によるLin-Sca-1+細胞の長期培養(SI,1.69±0.16)及び多くの敷石状のコロニー(SI,10.4±0.25)において、強力な増殖刺激活性を示した。0.5、5、及び50mg/kg/dの濃度である化合物3をi.p.及びp.o.投与したマウスモデルでは、脾臓のコロニー形成単位(CFUs)アッセイでアッセイした場合、照射されたC57BL/6マウスに同系骨髄移植をした7日後に、in vivoで造血が効果的に刺激された。これらのデータは、モノアセチルジグリセリドが造血の促進に重要な臨床的可能性を有することを示唆している。」(p.1121の文献タイトル〜要約) (当審注:原文の「3」という記載は「1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロール(3)」と称される化合物を意味する記載であるので、原文の「3」を日本語訳では「化合物3」と記載した。以下同様である。) (摘記1b) 「伝統的な東洋医学では、鹿の角からの抽出物であるCervus nippon TEMMENICK(Cervidae)が、数千年以上に渡って様々な病気の治療に使用されていた。伝統的に、鹿の角の水抽出物は、貧血、食欲不振、及び倦怠感のある患者の「強壮剤」として使用されていた1-3)。最近になって、鹿の角の抽出物は、癌の化学療法及び/又は放射線療法によって誘発された造血障害からの回復を促進することが観察された4,5)。我々は以前に、鹿の角から精製されたモノアセチルジグリセリドが、この伝統医薬で造血を刺激する活性成分であることを報告した6)。我々はまた、これらのモノアセチルジグリセリドのうちの4つが、グリセロール及び適切な脂肪酸から新たに合成され、これらが同様の活性を有することを示した7)。 本研究では、鹿の角由来モノアセチルジグリセリドの生物活性の調査を拡大して、これらの化合物の8つを合成し、in vitroで造血幹細胞を刺激する能力について研究した。 ここでは、我々は、これらの合成化合物の1つである1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロール(3)が、天然に存在するモノアセチルジグリセリドの1つと構造的に同一であり、in vitro及びin vivoで最も強力な造血刺激を示したことを報告する。その作用機序を決定するために、我々は、造血幹細胞および骨髄間質細胞に対する化合物3の効果をin vitroで研究した。」(p.1121左欄本文1〜25行) (摘記1c) 「巨核球培養 2週間妊娠したC57BL/6マウスの胎児から肝臓を取り出した。肝臓を細かく切り刻み、23ゲージの針で繰り返し吸引し、ナイロンウールに通して破片や塊を取り除いた11)。細胞を10%FBSを含む高グルコース(2.5g/ml)DMEM(GIBCO)に懸濁し、化合物3(1μg/ml)、インターロイキン(IL)-11(50ng/ml)又はTPO(50ng/ml)を含む6ウェルプレートで、3日ごとに培地を交換して、ウェルあたり1×105細胞で7日間培養した。巨核球及び前血小板の数を倒立顕微鏡下で数えた。」(p.1122右欄の「Megakaryocyte Culture」) (当審注:「TPO」は「トロンボポエチン」を意味する。) (摘記1d) 「モノアセチルジグリセリドの合成 天然に存在する化合物と構造的に同一の8つのモノアセチルジグリセリドを合成した(図1)。これらのモノアセチルジグリセリドの1つである1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロール(3)は、in vitroで造血の最も高い刺激を示した。 」(p.1122右欄の「Synthesis of Monoacetyldiglycerides」、及びp.1123左欄のFig.1.) (当審注:Fig.1.中の四角囲いは当審合議体が付した。) (摘記1e) 「巨核球培養 化合物3(1μg/ml)、IL-11(50ng/ml)又はTPO(50ng/ml)の存在下で胎児肝幹細胞を7日間培養し、巨核球及び前血小板の数を数えたところ、TPOの2.63±0.03及びIL-11の1.43±0.22と比較して、化合物3の刺激指数は1.69±0.16であることがわかった(表5)。 」(p.1123右欄の「Megakaryocyte Culture」、及びp.1124左欄のTable 5.) (当審注: Table 5.中の四角囲いは当審合議体が付した。 そして、Table 5.の説明の日本語訳は「表5.巨核球(前血小板)の増殖アッセイにおける、化合物3の刺激指数」であり、Table 5.の脚注の日本語訳は、「*P<0.005。刺激指数=(サンプルウェル上の巨核球の数)/(コントロールウェル上の巨核球の数)。全ての試験はそれぞれ3回以上繰り返した。」である。 また、「TPO」は「トロンボポエチン」、「IL-11」は「インターロイキン11」をそれぞれ意味しており、下記の摘記5bに記載のように、「TPO」及び「IL-11」は、骨髄系幹細胞が分化して巨核球や血小板になる過程に関与する造血因子である。) (摘記1f) 「脾臓におけるコロニー形成単位(CFUs) のin vivoでのアッセイ 造血の回復に対する化合物3のin vivo効果を決定するために、CFUsアッセイを、強く放射線照射されたマウスで実施した。50mg/kg/dの用量の化合物3で治療されたマウスは、脾臓結節及び未分化前駆細胞の顕著な増加を示した(図4)。同様の結果が、0.5及び5.0mg/kg/dの化合物3で処理されたマウスで観察された(データは示していない。)。」(p.1123右欄の「Colony Forming Units in Spleen(CFUs) Assay in Vivo」) (摘記1g) 「 」(p.1124左欄の「Fig.4.」) (当審注:「i.p又はp.o.」は「腹腔内投与又は経口投与」を意味する。 そして、Fig.4.の説明の日本語訳は以下のとおりである。 「図4. 化合物3で治療したマウスの脾臓の顕微鏡検査 (A、D)コントロールマウス;(B、E)化合物3(50mg/kg/d i.p.)で治療されたマウス;(C、F)化合物3(50mg/kg/d p.o.)で治療されたマウス;(E、F)化合物3で処理されたマウスの顕微鏡写真切片の高倍率。矢印は前駆細胞で構成される脾臓結節の増加を示す。化合物3のi.p又はp.o.による治療(B、C、E、F)は、脾臓結節の数と未分化前駆細胞及び巨核球の数を著しく増加させた。」) (摘記1h) 「CFUsアッセイを使用して、in vivoでの原始幹細胞に対する天然及び合成モノアセチルジグリセリドの生物活性を評価した。強く放射線照射されたマウスでは、BMTの8日後の脾臓コロニーがCFUsアッセイによって複数の分化したコミットされた細胞で構成されているのに対し、14日目にはコロニーは未分化の多能性幹細胞で構成されていた9,13,14)。したがって、我々は、後期形成の14日間の培養に対する化合物3の効果をテストした。この化合物を経口又は腹腔内投与すると(図示せず)、亜致死量の全身放射線及び/又はマイトマイシンCによって誘発された損傷からの造血幹細胞の回復が促進されることがわかった(未発表データ)。」 (p.1124右欄下から5行〜p.1125左欄7行) (当審注:「CFUsアッセイ」は「脾臓のコロニー形成単位アッセイ」、「BMT」は「骨髄移植(bone marrow transplantation)」をそれぞれ意味する。) (摘記1i) 「造血細胞及び間質細胞に対する化合物3の作用機序はまだ完全には解明されていないが、この化合物は、前駆細胞の刺激とIL-3及びGM-CSFの分泌を誘導することによって作用する可能性が最も高い。化合物3に応答して細胞から分泌されるサイトカインは、骨髄幹細胞の成長と分化を刺激するだけでなく、間質細胞の機能を刺激する可能性がある。化合物3及び他のモノアセチルジグリセリドは、酵素PKCを活性化し、続いてさまざまな転写因子を活性化する可能性があるジアシルグリセロール(DAG)と同様に、転写レベルで作用する可能性がある16)。 要約すると、我々の結果は、これまでに記載されていないクラスの化合物であるモノアセチルジグリセリドが造血の強力な刺激因子であることを示している。 これらのモノアセチルジグリセリドは、将来の臨床使用にかなりの見込みがある。」(p.1125左欄下から12行〜同頁右欄2行) (2)引用文献1に記載された発明(引用発明) 引用文献1は、鹿の角から精製されたモノアセチルジグリセリドと同一構造を有するモノアセチルジグリセリドを8つ合成し(摘記1a及び1d)、特にそのうちの1つである1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロール(化合物3) が、造血の最も強力な刺激を示したこと等から、造血の促進に重要な臨床的可能性を有すること(摘記1a)について示唆している文献である。 引用文献1には、巨核球培養のin vitroの実験(摘記1c及び1e)において、マウス胎児の肝臓に由来する細胞を10%FBSを含む高グルコース(2.5g/ml)DMEM(GIBCO)に懸濁した液に化合物3(1μg/ml)を添加した組成物(摘記1c)が用いられ、化合物3が巨核球に対する強力な刺激活性(刺激指数=1.69±0.16*)を示したこと(摘記1e)が記載されている。 そして、上記実験では、刺激活性の強度を示す刺激指数を「刺激指数=(サンプルウェル上の巨核球の数)/(コントロールウェル上の巨核球の数)」の式により算出しているので(摘記1e)、化合物3が巨核球に対する強力な刺激活性を示したことは、化合物3が巨核球の増殖を強力に促進したことを意味するといえる。 以上の記載から、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロール(化合物3)を含む組成物であって、10%FBSを含む高グルコース(2.5g/ml)DMEM(GIBCO)に懸濁したマウス胎児の肝臓に由来する細胞からの巨核球の増殖を促進する作用を有する、前記組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。) 2 本願優先日当時の技術常識(以下、「技術常識」という。)を示す引用文献4には、以下の事項が記載されている。 (摘記4a) 「1) 血小板減少をきたす疾患 血小板減少症を診察した場合に鑑別すべき代表的な疾患を表1に示す.」 (p.230右欄2〜4行) (摘記4b) 「 」(p.228左欄の表1) (当審注:表1中の四角囲いは当審合議体が付した。 そして、表1中の「ITP」は「特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura)」を意味する。) 3 本願優先日当時の技術常識を示す引用文献5には、以下の事項が記載されている。 (摘記5a) 「III.血液 2. 造血因子の臨床応用 ・・・ はじめに 血液には赤血球,白血球,血小板など様々な血球が存在するが,これらはすべて血液幹細胞に由来することが明らかになっている.血液幹細胞が増殖・分化して成熟血球となる過程には多数の造血因子が関与する(図).」 (文献タイトル〜p.513左欄1〜6行) (摘記5b) 「 」(p.514の図.) (当審注:図.中の四角囲いは当審合議体が付した。 そして、図.中の「TPO」は「トロンボポエチン」、「IL-11」は「インターロイキン11」である。) (摘記5c) 「1.生物活性からみた造血因子の臨床応用 表1に代表的な造血因子と,その生物活性から期待される臨床応用についてまとめて示した.・・・血小板減少症に対してはthrombopoietin(TPO)とinterleukin-11(IL-11)が有効と考えられている.」 (p.513左欄13行〜同頁右欄4行) (摘記5d) 「 」(p.515の表1) (当審注:表1中の四角囲いは当審合議体が付した。) 第5 本願発明と引用発明との対比・判断 1 本願発明と引用発明との対比 引用発明における「1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロール(化合物3)」は、その名称及び化学構造(摘記1dのFig.1.の(3)の化学式)から、本願発明における「化学式2の化合物」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「下記の化学式2の化合物を含む、組成物。 」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) 本願発明は、化学式2の化合物の「有効量」を含む、「血小板減少症を患う人を治療するための」組成物であるのに対し、引用発明は、「10%FBSを含む高グルコース(2.5g/ml)DMEM(GIBCO)に懸濁したマウス胎児の肝臓に由来する細胞からの巨核球の増殖を促進する作用を有する」組成物である点。 2 相違点について (1)引用文献1には、引用発明における化合物3(本願発明における化学式2の化合物)の作用について、以下のア〜エの事項が記載されている。 ア 摘記1eには、巨核球培養のin vitroの実験(摘記1c及び1e)では、化合物3の巨核球への刺激指数(Stimulation Index)は1.69±0.16*であり、TPO(トロンボポエチン)の刺激指数(2.63±0.03*)及びIL-11(インターロイキン-11)の刺激指数(1.43±0.22)と同程度であったことが記載されている。 イ 摘記1gの図4には、化合物3(50mg/kg/d i.p.)で治療されたマウス(図4のC、F)又は化合物3(50mg/kg/d p.o.)で治療されたマウス(図4のE、F)の脾臓の顕微鏡検査画像が記載されており、上記図4の画像は、造血の回復に対する化合物のin vivo効果を調べる実験を、強く放射線照射されたマウスで実施した結果(摘記1f)を示すものである。そして、摘記1gの図4の説明には、定量的に評価した具体的な数値は示されていないが、上記治療により、脾臓結節の数と未分化前駆細胞及び巨核球の数が著しく増加したことが記載されている。 ウ 摘記1hには、未発表データであるが、化合物3の経口又は腹腔内投与により、亜致死量の全身放射線及び/又はマイトマイシンCによって誘発された損傷からの造血幹細胞の回復が促進されることがわかったことが記載されている。 エ 摘記1iには、化合物3は、前駆細胞の刺激とIL-3及びGM-CSFの分泌を誘導することによって作用する可能性が高く、化合物3に応答して細胞から分泌されるサイトカインは、骨髄幹細胞の成長と分化を刺激する可能性があることが記載されている。 (2)相違点について、上記(1)を参酌して判断する。 ア 上記「第4 1(2)」で説示したように、引用発明の化合物3による「巨核球の増殖を促進する」という薬理作用は、in vitroの実験(摘記1c及び1e)で定量的に評価した刺激指数の数値で示された作用であるが、化合物3を腹腔内投与又は経口投与した実験結果に関する記載(上記(1)イ及びウ)を参酌した当業者は、化合物3は腹腔内投与又は経口投与によりin vivoでも上記薬理作用を発揮して、巨核球の増殖を促進することを理解できるといえる。 そして、骨髄系幹細胞(骨髄幹細胞)が増殖・分化して成熟血球になる過程で、巨核球が血小板に分化すること(摘記5b)、及びIL-3及びGM-CSF(上記(1)エ)が、骨髄幹細胞から赤血球、好中球、血小板等の各種の血球に分化する過程に関与する造血因子であること(摘記5a及び5b)は、いずれも技術常識である。 そうすると、上記(1)イ及びウ、並びに上記技術常識から、腹腔内投与又は経口投与された化合物3がin vivoで巨核球の増殖を促進した結果として、in vivoで血小板の増殖が促進されることを、当業者は期待するといえる。 イ さらに、引用文献1における「これらのデータは、モノアセチルジグリセリドが造血の促進に重要な臨床的可能性を有することを示唆している」(摘記1a)及び「これらのモノアセチルジグリセリドは、将来の臨床使用にかなりの見込みがある」(摘記1i)という記載は、「マウス」において有効であった化合物3を「人」の疾患の治療に適用できる可能性を示唆するものであるし、また、巨核球培養のin vitroの実験で化合物3との比較対照に用いられ、巨核球の増殖を促進する作用を示したTPO及びIL-11(上記(1)ア)は、血小板減少症の治療(摘記4a及び4b)又は化学療法後の血小板減少回復促進への臨床応用が期待される造血因子である(摘記5c及び5d)。 そうすると、当業者は、化合物3を投与した「人」において血小板の増殖が促進されることを期待して、引用発明の組成物を「血小板減少症を患う人を治療するための」という用途に適用し、その際に、化合物3の上記用途に必要な「有効量」を決定することを、容易に想到しえたといえる。 ウ よって、引用発明、並びに引用文献1、4及び5の記載から、引用発明を本願発明の構成を備えたものにすることを、当業者は容易に想到しえたといえる。 3 本願発明の効果について (1)本願明細書に実施例9(【0101】〜【0106】)には、抗癌化学治療後の膵臓癌患者に対してPLAGを投与した臨床試験の結果が記載されており、本願明細書の「rac−1−パルミトイル−2−リノレオイル−3−アセチルグリセロール(rac−1−palmitoyl−2−linoleoyl−3−acetylglycerol、PLAG)」(【0015】)という記載から、上記臨床試験で投与された「PLAG」は、本願発明の「化学式2の化合物」及び引用発明の「化合物3」に相当する。 そして、本願明細書には、上記臨床試験において、PLAG処理群では、血小板数が50,000/μl未満に減少した患者及び血小板数が25,000/μl未満に減少した患者は無かったこと等の効果が示されたのに対し、対照群では、50,000/μl未満に血小板数が減少した患者や血小板数が25,000/μl未満に減少した患者がいたこと等の結果が得られたことが、記載されている(【0102】、【0103】及び図8)。 上記臨床試験の結果から、本願発明の組成物の投与によって、抗癌化学治療後の膵臓癌患者における血小板減少が抑制されたという効果が奏されたことを、当業者は理解するといえる。 (2)そこで、上記効果について検討する。 当業者が、引用発明における化合物3(本願発明における化学式2の化合物、実施例9で用いられたPLAG)を投与した「人」において、血小板の増殖が促進されることを期待することは、上記2で説示したとおりである。 そして、引用文献1には、定量的に評価した具体的な数値は示されていないが、強く放射線照射されたマウスに化合物3を投与して巨核球の数が著しく増加したこと(上記2(1)イ)、及び未発表データであるが、化合物3の投与により亜致死量の全身放射線及び/又はマイトマイシンCによって誘発された損傷からの造血幹細胞の回復が促進されることがわかったこと(上記2(1)ウ)が記載されている。 さらに、引用文献1には、化合物3は、鹿の角から精製されたモノアセチルジグリセリドと同一構造の合成化合物であるところ(摘記1a及び1b)、「最近になって、鹿の角の抽出物は、癌の化学療法及び/又は放射線療法によって誘発された造血障害からの回復を促進することが観察された」という従来技術(摘記1b)が記載されている。 そうすると、化合物3を、実施例9に記載の「抗癌化学治療後の膵臓癌患者」すなわち「化学療法後」の患者に投与したPLAG処理群において奏された、血小板減少が抑制されたという効果は、上記2(1)イ及びウの説示、並びに引用文献1における上記記載から、当業者が予測しえた程度の効果にすぎない。 よって、本願発明の効果は、引用発明、並びに引用文献1、4及び5の記載から当業者が予測しえた程度の効果であり、格別顕著な効果であるとはいえない。 4 小括 以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、並びに引用文献1、4及び5の記載から、当業者が容易に想到しえたものである。 5 請求人の主張について 請求人は、令和3年11月11日提出の意見書において、引用発明は幹細胞(例えば造血幹細胞)を刺激することについて観察しているに過ぎず、いずれの引用文献にも、本願明細書の実施例9(【0101】〜【0106】)で、PLAG処理群では血小板数が50,000/μl未満に落ちた患者、25,000/μl未満に落ちた患者及び血小板数値が>70%減少した患者はいなかった等の、人における血小板減少症の治療について記載も示唆もされていないので、本願発明の顕著な効果は当業者にとって予測不可能である、という趣旨の主張をしている。 そこで、上記主張について検討する。 請求人が主張する、本願明細書の実施例9における「PLAG処理群では血小板数が50,000/μl未満に落ちた患者、25,000/μl未満に落ちた患者及び血小板数値が>70%減少した患者はいなかった」等の記載は、「抗癌化学治療後の膵臓癌患者」すなわち「化学療法後」の患者に投与したPLAG処理群において、血小板減少が抑制されたという効果を血小板数で具体的に記載したものにすぎず、上記効果が当業者が予測しえた程度のものであることは、上記3で説示したとおりである。 よって、請求人の上記主張を参酌しても、上記2及び3の説示に誤りはない。 第6 むすび 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、並びに引用文献1、4及び5に記載された事項に基いて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 審判長 藤原 浩子 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2022-01-13 |
結審通知日 | 2022-01-18 |
審決日 | 2022-02-03 |
出願番号 | P2018-073153 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61K)
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最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
藤原 浩子 |
特許庁審判官 |
穴吹 智子 前田 佳与子 |
発明の名称 | 白血球減少症及び血小板減少症に対する治療方法 |
代理人 | 特許業務法人平木国際特許事務所 |