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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1385526
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-30 
確定日 2022-06-21 
事件の表示 特願2018−200373「通信端末、表示方法およびプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月28日出願公開、特開2019− 49999、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成20年12月26日に出願した特願2008−335025号の一部を、平成23年10月18日に新たな特許出願とした特願2011−229182号の一部を、平成26年4月25日に新たな特許出願とした特願2014−090931号の一部を、平成28年2月12日に新たな特許出願とした特願2016−025211号の一部を、平成29年6月28日に新たな特許出願とした特願2017−126506号の一部を、平成30年10月24日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年 8月 1日付け :拒絶理由通知書
令和元年11月13日 :意見書の提出
令和2年 3月25日付け :拒絶査定(原査定)
令和2年 6月30日 :審判請求書の提出
令和3年 7月27日付け :拒絶理由通知書
(以下、「当審拒絶理由(1)」という。)
令和3年10月 1日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 1月26日付け :拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
(以下、「当審拒絶理由(2)」という。)
令和4年 3月31日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要

原査定(令和2年3月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

理由1(進歩性)について
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1、5、6
・引用文献等 A〜C

・請求項 2
・引用文献等 A〜D

・請求項 3
・引用文献等 A〜C、E

・請求項 4
・引用文献等 A〜E

<引用文献等一覧>
A.特開平11−203227号公報
B.特開2007−49433号公報
C.特開2004−145377号公報
D.米国特許出願公開第2008/0307322号明細書
E.特開2002−278691号公報

なお、令和2年3月25日付け拒絶査定(原査定)においては、引用文献等一覧に記載されている引用文献の番号の順番が、上記引用文献Dと引用文献Eの文献番号について入れ違いに表示されているが、正しくは、令和元年8月1日付けの拒絶理由通知の引用文献等一覧に記載されている上記の順番であることは、当該拒絶理由通知及び原査定の内容から見て明らかであり、原査定の引用文献等一覧における引用文献DとEの文献番号の順番の入れ違いは誤記であると認められる。

第3 当審拒絶理由の概要

1.当審拒絶理由(1)の概要は次のとおりである。

理由1(進歩性)について
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1、5、6
・引用文献等 V〜X

・請求項 2
・引用文献等 V〜Y

・請求項 3、4
・引用文献等 V〜Z

<引用文献等一覧>
V.特開平11−203227号公報(拒絶査定時の引用文献A)
W.特開2004−126786号公報
X.特開2007−116260号公報
Y.米国特許出願公開第2008/0307322号明細書(拒絶査定時の引用文献D)
Z.特開2002−278691号公報(拒絶査定時の引用文献E)

2.当審拒絶理由(2)の概要は次のとおりである。

理由1(サポート要件)について
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



令和3年10月1日になされた手続補正により、本願の請求項1に係る「通信端末」の発明の構成として、「ユーザの操作に基づいて、表示手段により表示された他の端末のユーザが入力した情報を選択し、消去する消去手段」及び「消去手段により消去した情報を他のユーザ端末に対して送信しない」との構成が追加されたが、これらの構成は、本願の発明の詳細な説明にサポートされたものではない。
また、本願の請求項5に係る「表示方法」の発明においても、また、本願の請求項6に係る「プログラム」の発明においても、上記請求項1と同様の記載があることから、同様の理由により、これらは本願の発明の詳細な説明にサポートされたものではない。また、請求項2〜4は、請求項1を引用する形式の従属項であるから、上記請求項1と同様の拒絶理由を有する。

理由2(進歩性)について
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1、5、6
・引用文献等 1〜3、6、7

・請求項 2〜4
・引用文献等 1〜7

<引用文献等一覧>
1.特開平11−203227号公報
(拒絶査定時の引用文献A、当審拒絶理由(1)の引用文献V)
2.特開2004−126786号公報
(当審拒絶理由(1)の引用文献W)
3.特開2007−116260号公報
(当審拒絶理由(1)の引用文献X)
4.米国特許出願公開第2008/0307322号明細書
(拒絶査定時の引用文献D、当審拒絶理由(1)の引用文献Y)
5.特開2002−278691号公報
(拒絶査定時の引用文献E、当審拒絶理由(1)の引用文献Z)
6.特表2007−518146号公報
7.清水理史&できるシリーズ編集部、「できるGroove2007
Windows Vista対応」、株式会社インプレスジャパン、
2007.05.01発行

第4 本願発明

本願の請求項1〜6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明6」という。)は、令和4年3月31日になされた手続補正では特許請求の範囲の補正がなかったため、令和3年10月1日になされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される発明であり、このうち、本願発明1は、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
ユーザによる情報の入力を受け付ける入力受付手段と、
他の端末のユーザが入力した情報と共に、他のユーザの端末であることを識別可能な識別情報を受信する受信手段と、
識別情報ごとに、他の端末のユーザが入力した情報を吹き出し内に表示する際の吹き出しの背景色を規定する背景色規定手段と、
受信した情報から送信元の識別情報を検出し、背景色規定手段によって規定された識別情報ごとの背景色をもとに、送信元の識別情報に対応する背景色を決定する背景色決定手段と、
決定された背景色を有する吹き出し内に、他の端末のユーザが入力した情報を表示する表示手段と、
ユーザの操作に基づいて、ユーザが通信を望まない他のユーザを受信拒否ユーザとして設定する設定手段と、
ユーザの操作に基づいて、表示手段により表示された他の端末のユーザが入力した情報を選択し、消去する消去手段とを備え、
決定された背景色が、ユーザが入力した情報を表示する吹き出しの背景色とは異なり、
受信手段が、受信拒否ユーザとして設定されている他のユーザが入力した情報を受信しないものであり、
消去手段により消去した情報を他のユーザ端末に対して送信しない、通信端末。」

また、本願発明2〜4は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明5及び6は、本願発明1をそれぞれ「表示方法」及び「プログラム」の発明として、カテゴリ表現が異なるだけの発明として特定したものである。

第5 当審拒絶理由(2)について

1.当審拒絶理由(2)の理由1(サポート要件)について

当審では、本願の請求項1〜6に係る「通信端末」の発明の構成として、「ユーザの操作に基づいて、表示手段により表示された他の端末のユーザが入力した情報を選択し、消去する消去手段」及び「消去手段により消去した情報を他のユーザ端末に対して送信しない」との構成は、本願の発明の詳細な説明にサポートされたものではないとの拒絶の理由を通知しているが、令和4年3月31日に提出された手続補正において、本願明細書の段落【0070】を「このようにすることにより、吹き出しに表示される内容がどのプレイヤから発せられたものかを、より視認しやすくすることができる。」と補正した上で、同日付けの意見書で釈明した結果、この拒絶の理由は解消した。

2.当審拒絶理由(2)の理由2(進歩性)について

(1)引用文献1、引用発明1について
当審拒絶理由(2)に引用された引用文献1(拒絶査定時の引用文献A、当審拒絶理由(1)の引用文献V)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審付与。以下同様。)

「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はインターネット等のネットワークを用いたコミュニケーション技術の一つであるテキストによるチャットの表現方法を拡張した技術に関する。
【0002】
【従来の技術】チャットシステムの一般的な構成を図1に示す。チャットシステムは、サーバ用コンピュータ100と、n個のクライアント用コンピュータ110−1n0とから構成されている。サーバ用コンピュータ上では、チャットサーバ部101が動作し、クライアント用コンピュータ110−1n1上では、チャットクライアント111−1n1が各々動作する。
【0003】チャットクライアント111は、メッセージ作成部112とメッセージ表示部113で構成される。サーバ用コンピュータ100は、チャットサーバ部101を含む。チャットクライアント1n1は、メッセージ作成部1n2とメッセージ表示部1n3で構成される。
【0004】チャットシステム内のメッセージ送受信は、つぎのように行われる。
【0005】チャットクライアント111は、メッセージ作成部112でメッセージを作成し、チャットサーバ部101に送信すると共にメッセージ表示部113に送る。チャットサーバ部101は、チャットサーバ部に接続されたチャットクライアントからのメッセージを集め、集めたメッセージをチャットクライアント1n1に配布する。その際に、メッセージが配付されるのは、チャットクライアントが管理しているチャットルームに接続されているチャットクライアントに鍵られる(当審注:「限られる」の誤記と認める。)。チャットクライアント111のメッセージ表示部113ならびに、チャットクライアント1n1のメッセージ表示部1n3は、送られたメッセージを、各々の画面上に表示する。」

「【0019】
【発明の実施の形態】本発明のチャットシステムの装置構成の概略は、従来の構成と同様である。ただし、本発明のシステムでは、従来システムのメッセージを拡張し、ユーザID、吹き出し形状番号を新たにメッセージ作成部で付加しており、これに対応してメッセージ表示部の動作も変更されている。さらに、チャットサーバーとチャットクライアントにおいては、チャットクライアントの背景表示のための機能が追加されている。チャットクライアントは、チャットサーバーに接続される際には、チャットサーバーが管理するチャットルームを選択するための情報をチャットサーバーに送信する。チャットサーバーは、これを受けて、そのチャットルームに対応する背景イメージデータを当該チャットクライアントに送信する。そのチャットクライアントは、この背景イメージデータをチャットクライアント画面の背景として使用する。
【0020】図6に、本システムでのチャットクライアントのメッセージ作成部の処理の流れを示す。
【0021】図6のステップC1において、チャットクライアントのメッセージ作成部は、発言者からの発言内容を受領する。メッセージ作成部は、ステップC2で、発言内容からメッセージを作成する。ステップC3において、メッセージ作成部は、発言者が選択した吹き出し形状に対応する番号を受領する。ステップC4では、この吹き出し形状に対応する番号を、ステップC2で作成したメッセージに付加する。
【0022】次に、メッセージ作成部は、ステップC5で、発言者のニックネームをメッセージに付加する。そして、ステップC6では、ニックネームが付加されたメッセージに、発言者を特定するための情報であるユーザIDを付加する。最後に、チャットクライアントのメッセージ作成部は、ステップC7において、サーバ、及び同一チャットクライアント内のメッセージ表示部へ、作成したメッセージを送信する。
【0023】図7に、本システムでのチャットクライアントのメッセージ表示部の処理の流れを示す。
【0024】図7のステップD1で、サーバからメッセージを受信したメッセージ表示部は、ステップD2で、メッセージを発言内容とニックネーム、ユーザID、吹き出し形状番号に分解する。ステップD3では、吹き出し形状番号と吹き出し形状の対応を示したテーブルを参照し、吹き出し形状を決定する。
【0025】次にステップD5で、メッセージ表示部は、ユーザーIDから色テーブルを検索し、ステップD6で対応する色が色テーブルに格納されているか否かを判定する。なお、この色テーブルは、メッセージ表示部に内蔵されている。ユーザIDに対応する色が色テーブルに格納されていれば、後のステップD14で、その色と前述の吹き出し形状を用いて描画する。
【0026】もしステップD6において、検索が失敗したら、メッセージ表示部は、ステップD7色テーブルに、ユーザーIDと色の組みを追加登録する。後述するステップD14では、追加した色を吹き出し描画色として用いる。
【0027】次に、メッセージ表示部は、ステップD9で、発言を表示する位置(Y軸方向)を算出する。そして、ステップD10の判定で、算出した位置が画面のY座標の最大値より大きいと判定された場合、すなわち画面が既にメッセージで埋まっている場合は、メッセージ表示部は、ステップD11で、画面をスクロールし、新たな発言を表示できる領域を画面上に確保する。そして、発言内容の表示位置(Y座標)を、ステップD12で再度算出する。スクロールする必要がない場合は、後述するステップD14では、ステップD9で得たY座標を用いる。
【0028】更に、メッセージ表示部は、ステップD13で、発言内容を表示するX軸方向の描画位置をランダムに決定し、ステップD14で、上記の吹き出し形状、および色を用い、ニックネームならびに発言内容を描画する。
【0029】図8に、チャットクライアントのメッセージ表示部におけるメッセージを描画する際の、各データの関連図を示す。メッセージ210は、ニックネーム201、発言内容202、ユーザID203、吹き出し形状番号204で構成される。吹き出しの色は、ユーザーID203をキーに色テーブル301を検索し、一意に決まる。吹き出しの形状は、吹き出し形状番号204をキーに形状テーブル302を参照し、決定される。
【0030】クライアント画面には、上記で決定された吹き出し形状で、ニックネーム201ならびに発言内容202が描画される。また、描画の際に、発言の表示位置を、横方向にランダムに決定する。
【0031】このようにして表示されたチャット画面の例を図9に示す。
【0032】次に、本発明の他の実施例について図10を参照して説明する。この実施例では、図9のチャット画面のように入力した順序で上から下に表示されているのではなく、Y軸方向の表示位置も画面上にランダムに表示されている。また、吹き出しで画面が埋め尽くされないように、時間が経過するごとに、吹き出しの表示が薄くなって行き、一定時間経過した場合、画面から消えるようにすることもできる。
【0033】
【発明の効果】第1の効果は、チャットする画面の表現力を向上することができることにある。その理由は、背景にイメージ、メッセージに枠線を表示でき、かつ、メッセージの表示が左端でなくランダムに表示されるため
である。
【0034】第2の効果は、ユーザがメッセージを強調することができることにある。その理由は、発言者が送るメッセージの枠線形状を発言者の意図にしたがって変更することができるためである。
【0035】第3の効果は、発言者をメッセージから容易に特定することができることにある。その理由は、発言者毎にメッセージの背景色を一意に決定しているからからである。」

したがって、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明1>
「チャットシステムは、サーバ用コンピュータ100と、n個のクライアント用コンピュータ110−1n0とから構成され、サーバ用コンピュータ上では、チャットサーバ部101が動作し、クライアント用コンピュータ110−1n1上では、チャットクライアント111−1n1が各々動作し、
チャットクライアント111は、メッセージ作成部112とメッセージ表示部113で構成され、
チャットクライアント111は、メッセージ作成部112でメッセージを作成し、チャットサーバ部101に送信すると共にメッセージ表示部113に送り、
チャットサーバ部101は、チャットサーバ部に接続されたチャットクライアントからのメッセージを集め、集めたメッセージをチャットクライアント1n1に配布し、その際に、メッセージが配付されるのは、チャットクライアントが管理しているチャットルームに接続されているチャットクライアントに限られ、
チャットクライアント111のメッセージ表示部113ならびに、チャットクライアント1n1のメッセージ表示部1n3は、送られたメッセージを、各々の画面上に表示する、
チャットシステムのクライアント用コンピュータであって、
チャットクライアントのメッセージ作成部の処理は、
発言者からの発言内容を受領し、
発言内容からメッセージを作成し、
発言者が選択した吹き出し形状に対応する番号を受領し、
この吹き出し形状に対応する番号を、メッセージに付加し、
次に、発言者のニックネームをメッセージに付加し、
そして、ニックネームが付加されたメッセージに、発言者を特定するための情報であるユーザIDを付加し、
最後に、サーバ、及び同一チャットクライアント内のメッセージ表示部へ、作成したメッセージを送信する、
処理であり、
チャットクライアントのメッセージ表示部の処理は、
サーバからメッセージを受信し、
メッセージを発言内容とニックネーム、ユーザID、吹き出し形状番号に分解し、
吹き出し形状番号と吹き出し形状の対応を示したテーブルを参照し、吹き出し形状を決定し、
次に、メッセージ表示部は、ユーザーIDから色テーブルを検索し、
対応する色が色テーブルに格納されているか否かを判定し、
ユーザIDに対応する色が色テーブルに格納されていれば、その色と前述の吹き出し形状を用いて描画し、
更に、上記の吹き出し形状、および色を用い、ニックネームならびに発言内容を描画する、
処理であり、
メッセージ210は、ニックネーム201、発言内容202、ユーザID203、吹き出し形状番号204で構成され、吹き出しの色は、ユーザーID203をキーに色テーブル301を検索し、一意に決まり、吹き出しの形状は、吹き出し形状番号204をキーに形状テーブル302を参照し、決定され、
クライアント画面には、上記で決定された吹き出し形状で、ニックネーム201ならびに発言内容202が描画され、
発言者毎にメッセージの背景色を一意に決定しているから、発言者をメッセージから容易に特定することができる、
チャットシステムのクライアント用コンピュータ。」

(2)引用文献2の記載事項について
当審拒絶理由(2)に引用された引用文献2(当審拒絶理由(1)の引用文献W)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0028】
ゲーム装置100は、・・・(中略)・・・NIC(Network Interface Card)109と、を備える。(以下、略)」

「【0068】
(他の実施形態)
図7は、本発明の他の実施形態に係る通信装置の概要構成を示す模式図である。なお、図7においては、図3と同様の機能を果たす要素には、同じ符号を付してある。以下、本図を参照して説明する。なお、理解を容易にするため、上記実施形態と同様の機能を果たす要素については、適宜説明を省略する。
【0069】
本実施形態の通信装置301は、上記実施形態の各要素に加え、背景画像取得部701と、キャラクタ画像位置取得部702と、をさらに備える。ここで、送信部304は、当該ユーザに割り当てられたユーザ識別子を当該送信側メッセージにさらに指定して送信する。一方、受信部305により受信される受信側メッセージには、ユーザ識別子がさらに指定される。
【0070】
ユーザ識別子は、チャットをするユーザに重複なく割り当てられる数字や文字列であり、ネットワーク接続やチャット通信サービスを受ける際のユーザIDや、ネットワーク接続の際に割り当てられたIPアドレス、NIC109に割り当てられているMAC(Media Access Control)アドレス等を適用することができる。
さらに、・・・(略)・・・

したがって、当該引用文献2には、次の技術事項(以下、「引用文献2技術事項」という。)が記載されていると認められる。

<引用文献2技術事項>
「送信側メッセージおよび受信側メッセージに指定されるユーザ識別子は、チャットをするユーザに重複なく割り当てられる数字や文字列であり、ネットワーク接続やチャット通信サービスを受ける際のユーザIDや、ネットワーク接続の際に割り当てられたIPアドレス、NIC(Network Interface Card)に割り当てられているMAC(Media Access Control)アドレス等を適用することができること。」

(3)引用文献3の記載事項について
当審拒絶理由(2)に引用された引用文献3(当審拒絶理由(1)の引用文献X)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の通信端末による通信の態様が多様化しており、回線交換による従来の音声通話に加え、IP(Internet Protocol)網を利用したパケット通信など新たな態様の通信が行われている。例えば、通信端末間でリアルタイムに文字をやりとりすることで会話を行う「チャットメール」がある(特許文献1参照)。チャットメールは、予め登録しておいたメンバー間でグループを形成し、このグループ内でリアルタイムに文字などのデータ通信を行う「グループ通信」と呼ばれる通信態様の1つである。
【0003】
最近注目を集めているグループ通信の1つに、PoC(Push to Talk over Cellular)と呼ばれるものがある。PoCは、グループを形成する複数の通信端末同士がリアルタイム通信を行うことを可能にする技術である。PoCでは、送信側となる1つの通信端末から受信側となる複数の通信端末へ一斉にデータを送信することができる。」

「【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の通信システムの構成の一例を示す図である。
本発明に係る通信システムは、例えば図1に示すように、3以上の通信端末(100−1、100−2、100−3…)と、通信サーバ装置200とを有する。
【0016】
通信端末100−i(iは正整数を示す)は、例えば携帯電話機等の無線通信端末であり、基地局(300−1、300−2、300−3…)を介して通信網300に接続される。また、通信端末100−iは、通信網300に接続される通信サーバ装置200の制御にしたがってデータ通信を行う。本実施形態では、一例として、PoC(Push to Talk over Cellular)によるグループ通信を行うものとする。
なお、図1においてはiの数は4個であるが、本発明はこれに限定されず、iは3以上の自然数であればどれでもよい。
【0017】
このデータ通信において伝送されるデータには、例えば通話の音声や、画像、文字等のデータが含まれる。」

「【0046】
次に、本実施形態の通信開始要求を受信した際の通信端末100−iの動作例について説明する。
図3は、本実施形態の通信端末100−iの動作例を示すフローチャートである。
ステップST1:
通信部2が、自端末宛ての呼び出しを通信網300から受信し、この呼び出しが通信サーバ装置200からのPoC通信の通信開始要求であった場合はST2に進み、その他の呼び出しであった場合は従来どおりであるため省略する。
なお、通信サーバ装置200経由で他の通信端末装置から通信開始要求が送付される本実施形態のようなシステムの場合は、受信した呼び出しのそうふもとを参照したり、受信した呼び出しの内容に通信サーバ装置200へのログインに用いるパラメータが記載されているか、等の多様な手法により本発明で言う通信開始要求なのか、通常の回線交換による音声通話目的の着信なのか、メール受信なのかを判断すればよい。
ステップST2:
制御部7は、ステップST1において通信部2が受信した通信開始要求に応じて、記憶部6に記憶されたPoCアプリを読み出して起動し、PoC関連の処理を開始する。なお、このステップではまだ通信開始要求を受信したこともPoC処理を開始したこともユーザに通知しない(表示部5による通知を行わない)。
【0047】
ステップST3:
制御部7は、ステップST1において通信部2が受信した通信開始要求に含まれる、通信開始端末100−1のID情報(電話番号等)を取得する。
ステップST4:
制御部7は、ステップST3で取得した通信開始端末100−1のID情報で記憶部6内を検索する。記憶部6は、例えば、名前、電話番号及びEmailアドレスがID情報として関連付けられて記憶しているので、検索の方法としては、通信開始端末100−1から受信したID情報のうち、例えば名前を使用して記憶部6を検索し、一致するID情報を抽出する方法がある。一致する名前が複数存在した場合には、例えば、受信したID情報の内の他のID情報、すなわち電話番号やEmailアドレス等を使用して再度検索をかけて絞り込む。
【0048】
ステップST5:
制御部7は、ステップST4において検索を行った結果、ステップST3で受信した通信開始端末100−1のID情報と一致するID情報が記憶部6内にあった場合はステップST6へ、なかった場合はステップST10へ進む。
ステップST6:
制御部7は、ステップST5において一致した記憶部6内のID情報を参照し、通信拒否処理を行うように関連付けられて記憶部6に記憶されていた場合はステップST10に、通信拒否処理を行わないように関連付けられて記憶されていた場合はステップST7に進む。
【0049】
ステップST7:
制御部7は、ユーザにグループ通信の通信開始要求を受信したことを通知する。例えば、表示部5にグループ通話開始要求受信通知画面、すなわち、グループ通信の通信開始要求を受信したこと、通信開始端末の情報(名前、電話番号等)、参加者リスト等を表示する。或いは振動や音声で通信開始要求を受信したことを通知する。
ステップST8:
制御部7は、ユーザがグループ通信に参加するか否かをキー入力部3等によるユーザの入力を通して判断し、参加すると判断した場合はステップST9へ、参加しないと判断した場合はステップST13へ進む。
また、後述するステップST10においてグループ通信を拒否する設定になっていたり、記憶部6内にないID情報からの通信開始要求であってもグループ通信開始要求の受信を表示する設定になっていた場合には、ユーザが「参加する」という入力を所定時間内に行わない限りは通信拒否通知を自動送信する。
【0050】
ステップST9:
制御部7は、通信部2に通信開始端末100−1への参加通知(通信開始通知)を送信させる。この場合、制御部7は、記憶部6から読み出したPoCアプリに通常のPoC通信処理を行わせる。通常のPoC通話処理については上述したとおりであるので、ここでは省略する。
ステップST10:
制御部7は、ステップST4における記憶部6の検索の結果、通信開始端末100−1からのID情報に一致するID情報がない場合、或いは記憶部6内にID情報があったが、そのID情報は通信拒否処理を行うように関連付けられて記憶部6に記憶されていた場合は、通信拒否に設定されているID情報を有する通信端末からの通信開始要求に対する処理の設定を確認し、ユーザに通知する設定であった場合はステップST7に、通知しない設定であった場合はステップST11に進む。
すなわち、たとえ記憶部6内にない相手からのグループ通信開始の要求、もしくは記憶部6内にある相手でありなおかつグループ通信自体は拒否するよう記憶部6に記憶していたとしても、一応はグループ通信開始要求を受信しているということを表示させる、という設定になっているか否かを確認する。また、グループ通信開始要求に対してたとえ不参加通知(通信拒否通知)を送信するときでも、制御部7の処理能力上、バックグラウンドで送信しても制御部7の処理が重くなったり、操作中の処理が中断されたりしてユーザが驚いたりすることが無い。
【0051】
ステップST11:
制御部7は、(グループ通信の通信開始要求の受信を表示・鳴動させること無く)通信部2に通信開始端末100−1で不参加通知(通信拒否通知)を送信させ、通信サーバ装置200との通信を切断する。このとき、もしユーザによって何らかの他のアプリケーション等の操作が行われている状態であったとしても、操作中のアプリケーションを終了することなく不参加通知を送信させることが好ましい。これにより、ユーザとしては通信を行うつもりのない相手からの通信開始要求により操作が妨げられて不快な思いをすることがなくなる。
また、後述するステップST14では、通信に関する履歴を残すよう記憶するが、本ステップST11においては、履歴を記録することが無いことが好ましい。すなわち、履歴を残さないことにより、ユーザには通信を希望しない相手から、通信要求を希望したことにまったく気を遣わせないことが出来る。
ステップST12:
制御部7は、PoCアプリを終了させ、通常の待ち受け状態に戻る。
【0052】
ステップST13:
制御部7は、通信部2に通信開始端末へ不参加通知(通信拒否通知)を送信させ、通信サーバ装置200との通信を切断する。」

「【図1】



「【図2】



「【図3】



したがって、当該引用文献3には、次の技術事項(以下、「引用文献3技術事項」という。)が記載されていると認められる。

<引用文献3技術事項>
「通信端末間でリアルタイムに文字をやりとりすることで会話を行うチャットメールは、予め登録しておいたメンバー間でグループを形成し、このグループ内でリアルタイムに文字などのデータ通信を行う「グループ通信」と呼ばれる通信態様の1つであり、
グループ通信の1つに、PoC(Push to Talk over Cellular)があり、PoCは、グループを形成する複数の通信端末同士がリアルタイム通信を行うことを可能にする技術であって、PoCでは、送信側となる1つの通信端末から受信側となる複数の通信端末へ一斉にデータを送信することができ、
3以上の通信端末(100−1、100−2、100−3…)と、通信サーバ装置200とを有する通信システムにおける通信端末100−i(iは正整数を示す)は、例えば携帯電話機等の無線通信端末であり、基地局(300−1、300−2、300−3…)を介して通信網300に接続され、通信網300に接続される通信サーバ装置200の制御にしたがってデータ通信を行い、PoC(Push to Talk over Cellular)によるグループ通信を行うものとし、このデータ通信において伝送されるデータには、例えば通話の音声や、画像、文字等のデータが含まれ、
通信開始要求を受信した際の通信端末100−iの動作について、
通信部2が、自端末宛ての呼び出しを通信網300から受信し、この呼び出しが通信サーバ装置200からのPoC通信の通信開始要求であった場合、制御部7は、通信部2が受信した通信開始要求に応じて、記憶部6に記憶されたPoCアプリを読み出して起動し、PoC関連の処理を開始し、
制御部7は、通信部2が受信した通信開始要求に含まれる、通信開始端末100−1のID情報(電話番号等)を取得し、取得した通信開始端末100−1のID情報で記憶部6内を検索し、検索を行った結果、
通信開始端末100−1からのID情報に一致するID情報がない場合、或いは記憶部6内にID情報があったが、そのID情報は通信拒否処理を行うように関連付けられて記憶部6に記憶されていた場合は、通信拒否に設定されているID情報を有する通信端末からの通信開始要求に対する処理の設定を確認し、
ユーザに通知する設定であった場合は、制御部7は、ユーザにグループ通信の通信開始要求を受信したことを通知し、ユーザがグループ通信に参加するか否かをキー入力部3等によるユーザの入力を通して判断し、参加しないと判断した場合は、通信部2に通信開始端末へ不参加通知(通信拒否通知)を送信させ、通信サーバ装置200との通信を切断し、
ユーザに通知しない設定であった場合は、通信部2に通信開始端末100−1で不参加通知(通信拒否通知)を送信させ、通信サーバ装置200との通信を切断する、
通信端末。」

(4)引用文献4の記載事項について
当審拒絶理由(2)に引用された引用文献4(拒絶査定時の引用文献D、当審拒絶理由(1)の引用文献Y)には、特に、FIG.3を参照すると、吹き出し近傍にキャラクタを表示する技術事項が開示されており、また、特に段落【0033】を参照すると、吹き出しの背景イメージを指定することが開示されている。

(5)引用文献5の記載事項について
当審拒絶理由(2)に引用された引用文献5(拒絶査定時の引用文献E、当審拒絶理由(1)の引用文献Z)には、特に、図26に関する記載を参照すると、吹き出し内に手書き情報を表示するチャットシステムが開示されている。

(6)引用文献6及び7の記載事項について
ア 当審拒絶理由(2)に引用された引用文献6には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0037】
図2に示すように、チャットインターフェースは、共有される画像又は他の映像群を表示するフィルムストリップ領域204を含むことができる。例えば、フィルムストリップ領域204は、チャットセッションの間にローカルユーザによってリモートユーザに送信される、及び/又はリモートユーザからローカルユーザによって受信される一連の画像又は他の映像を表示することができる。この画像は、64×64画素、128画素×128画素、160画素×160画素、或いは、最大の大きさで1、2、又は3インチ以下のような他のかなり小さいサイズのようなサムネイルサイズとすることができる。サムネイル画像は、正方形、長方形、又は他の形状とすることができる。ユーザは、スクロール制御206を使って、フィルムストリップじゅうをくまなくスクロールすることができる。
【0038】
ユーザは、フィルムストリップ内に表示又は置かれた受信画像を、不揮発性メモリに保存することができ、その保存されたフィルムストリップに名前を付けることができる。例として、ユーザは、保存ボタン244をクリックすることができる。ユーザは、任意で、保存されているフィルムストリップ内の画像についてのサイズ又は解像度を選択することができる。例えば、ユーザは、元のフル解像度及びサイズで画像を保存すべきであるという条件をつけることができる、或いは、異なるサイズ及び/又は解像度で画像を保存すべきであるという条件をつけることができる。更なる例として、ユーザは、スライダを使って、各画像の新しいサイズ及び/又は解像度を指定又は選択することもできる。任意で、ユーザは、最長画像エッジについて160画素から1024画素までの範囲内というような、限定数の解像度のうちの1つにサイズ変更された画像を保存することに、制約され得る。
【0039】
ユーザは、そのユーザによって選択された画像を削除する、そのユーザによって送信された画像のみを削除する、そのユーザによって受信された画像のみを削除する、或いは、全ての画像を削除するように、チャットアプリケーションに命じることにより、フィルムストリップを変更することができる。例として、ユーザは、deleteキーを打つ、又は、削除ボタン242をクリックするというように削除コマンドを選択して、フィルムストリップ領域204から、選択された一又はそれ以上の画像を削除することができる。」

「【図2】



イ 当審拒絶理由(2)に引用された引用文献7には、次の事項が記載されている。



」(第77頁右欄)

ウ 引用文献6及び7に記載された技術事項について

上記ア及びイの記載事項を参照すると、他のユーザと情報をやり取りするチャットシステムにおいて、ユーザの操作により、チャットに関する情報を削除する技術は、周知技術であると認められる。

3.原査定の拒絶の理由に引用された引用文献について

(1)引用文献Bの記載事項について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Bには、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0062】
[第2の実施の形態]
本実施の形態に係る多地点会議システム2は、上記第1の実施の形態に係る多地点会議システム1と殆ど同じであるが、会議端末側に接続要求が送られてこないように予め設定しておくことが可能である点を特徴とする。以下、多地点会議システム2について説明するが、上記多地点会議システム1と共通する部分については、同一の符号を用い、説明を省略することとする。
【0063】
図14は、本実施の形態に係る会議制御サーバ30の機能構成を示すブロック図である。図14において、会議制御サーバ30は、会議端末情報保持部21、公開設定保持部22、ログイン処理部23、公開設定部24、リスト要求処理部25、および接続要求処理部26に加えて、接続拒否設定保持部31および接続拒否設定部32をさらに有する。
【0064】
接続拒否設定保持部31は、ログイン中の各会議端末10についての当該会議端末に対する他の会議端末からの接続要求を拒否するか否かの設定(以下、「接続拒否/許可設定」と称す)を保持する記憶領域である。ここでは、接続拒否設定保持部31は、ログイン中の会議端末10のそれぞれについて、オンが「拒否する」を示しオフが「拒否しない(許可する)」を示す接続拒否フラグを保持する。
【0065】
接続拒否設定部32は、会議端末10から当該会議端末に対する他の会議端末からの接続要求を拒否するか否かの指示を受け付け、当該指示に基づいて、接続拒否設定保持部31に保持される接続拒否/許可設定を設定する。また、本実施の形態では、接続拒否設定部32は、ある会議端末10が新たにログインした場合、当該会議端末10についての接続拒否/許可設定を接続拒否設定保持部31に新たに登録する。このとき、初期設定は、「拒否する」でも「拒否しない」でもよいが、ここでは「拒否する」である。
【0066】
本実施の形態では、接続要求処理部26は、会議端末10から特定の会議端末10に対する接続要求を受け付けると、接続拒否設定保持部31に保持されている上記特定の会議端末10の接続拒否/許可設定を参照し、拒否しない旨が設定されている場合には上記特定の会議端末10に接続要求を送り、拒否する旨が設定されている場合には接続要求を送らない。」

(2)引用文献Cの記載事項について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Cには、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0086】
〈メッセージの受信〉
メッセージがあることの通知を受けた受信端末(送信先端末)は、エージェント受信手段の機能によって他のコンピュータからエージェントオブジェクトを受信する。
【0087】
このとき受信端末は、まず、該メッセージを受信するか否かの判定を行う。たとえば、あらかじめ該IDからの受信に対して拒否設定がしてある場合は、サーバ2に受信拒否を通知する。この場合、サーバ2は、受信拒否されたことを送信元IDの端末に通知し、送信メッセージテーブルから当該データを削除する。」

第6 対比・判断

1.本願発明1について

(1)対比
本願発明1と上記引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明1のチャットクライアントのメッセージ作成部は、「発言者からの発言内容を受領し」、「発言内容からメッセージを作成し」、「作成したメッセージを送信する」処理をするものであるところ、この処理がチャットシステムのクライアント用コンピュータ上で動作するチャットクライアントの動作であることに鑑みれば、「発信者からの発言内容を受領する」とは、発言者となるユーザの入力操作に応じて、チャットクライアントがユーザによる発言内容である情報の入力を受け付ける(受領する)ことを意味していると認められるから、引用発明1の当該チャットクライアントの「メッセージ作成部」は、ユーザによる情報の入力を受け付ける機能実現手段を含むといえる。
そうしてみると、引用発明1の当該「メッセージ作成部」は、本願発明1の「ユーザによる情報の入力を受け付ける入力受付手段」を含むものといえる。

イ 引用発明1の「クライアント用コンピュータ」で動作するチャットクライアントのメッセージ作成部は、サーバにメッセージを送信していることから、通信機能を有したコンピュータ端末であるといえる。したがって、引用発明1の当該「クライアント用コンピュータ」は、後述する相違点を除き、本願発明1の「端末」及び「通信端末」に相当する。

ウ 引用発明1のチャットクライアントのメッセージ表示部は、「サーバからメッセージを受信し、メッセージを発言内容とニックネーム、ユーザID、吹き出し形状番号に分解し」ているところ、サーバから受信したメッセージは、他のクライアント用コンピュータ上で動作するチャットクライアントのメッセージ作成部が受領し、サーバに送信したものであるから、当該サーバから受信したメッセージに含まれる「発言内容」は、他のクライアント用コンピュータのユーザが入力した情報であるといえる。したがって、引用発明1における当該サーバから受信したメッセージに含まれる「発言内容」は、本願発明1の「他の端末のユーザが入力した情報」に相当するといえる。
また、当該サーバから受信したメッセージに含まれる「ユーザID」は、他のクライアント用コンピュータを操作して当該「発言内容」を入力した他のユーザである「発言者を特定するための情報」であるから、本願発明1の「他のユーザの端末であることを識別可能な識別情報」と、引用発明1の「ユーザID」とは、「他の端末のユーザに関わる識別情報」である点で共通する。
以上のことから、引用発明1の上記「発言内容」と共に上記「ユーザID」を含む「メッセージ」を受信する「メッセージ表示部」は、本願発明1の「他の端末のユーザが入力した情報と共に、他のユーザの端末であることを識別可能な識別情報を受信する受信手段」と、「他の端末のユーザが入力した情報と共に、他の端末のユーザに関わる識別情報を受信する受信手段」を含む点で共通するといえる。

エ 引用発明1のチャットクライアントのメッセージ表示部は、「吹き出し形状番号と吹き出し形状の対応を示したテーブルを参照し、吹き出し形状を決定し」、「次に、ユーザーIDから色テーブルを検索し、対応する色が色テーブルに格納されているか否かを判定し」、「ユーザIDに対応する色が色テーブルに格納されていれば、その色と前述の吹き出し形状を用いて描画し」、「更に、上記の吹き出し形状、および色を用い、ニックネームならびに発言内容を描画する」処理をすることで、「吹き出しの色は、ユーザーID203をキーに色テーブル301を検索し、一意に決まり」、「発言者毎にメッセージの背景色を一意に決定している」ものであるから、引用発明1の「色テーブル」は、本願発明1の「識別情報ごとに、他の端末のユーザが入力した情報を吹き出し内に表示する際の吹き出しの背景色を規定する背景色規定手段」に相当する。

オ 上記エを踏まえると、引用発明1の「ユーザーIDから色テーブルを検索し、対応する色が色テーブルに格納されているか否かを判定し、ユーザIDに対応する色が色テーブルに格納されていれば、その色と前述の吹き出し形状を用いて描画し、更に、上記の吹き出し形状、および色を用い、ニックネームならびに発言内容を描画する」処理は、本願発明1の「受信した情報から送信元の識別情報を検出し、背景色規定手段によって規定された識別情報ごとの背景色をもとに、送信元の識別情報に対応する背景色を決定する」こと、及び「決定された背景色を有する吹き出し内に、他の端末のユーザが入力した情報を表示する」ことに相当するといえる。

カ 上記エ及びオを踏まえると、本願発明1と引用発明1とは、「識別情報ごとに、他の端末のユーザが入力した情報を吹き出し内に表示する際の吹き出しの背景色を規定する背景色規定手段」と、「受信した情報から送信元の識別情報を検出し、背景色規定手段によって規定された識別情報ごとの背景色をもとに、送信元の識別情報に対応する背景色を決定する背景色決定手段」と、「決定された背景色を有する吹き出し内に、他の端末のユーザが入力した情報を表示する表示手段」とを備える点で一致する。

キ 引用発明1において、「チャットクライアント111は、メッセージ作成部112でメッセージを作成し、チャットサーバ部101に送信すると共にメッセージ表示部113に送」るから、表示される発言内容には、ユーザー自身の発言も含まれることが明らかであって、「吹き出しの色は、ユーザーID203をキーに色テーブル301を検索し、一意に決まり」、「発言者毎にメッセージの背景色を一意に決定しているから、発言者をメッセージから容易に特定することができる」ことから、他のユーザの入力した情報を表示する吹き出しのために決定された背景色が、ユーザが入力した情報を表示する吹き出しの背景色とは異なるものと認められる。
そうしてみると、本願発明1と引用発明1とは、「決定された背景色が、ユーザが入力した情報を表示する吹き出しの背景色とは異なる」点で共通する。

(2)一致点・相違点
以上のことから、本願発明1と引用発明1とは、以下の点において一致、及び相違する。

<一致点>
「ユーザによる情報の入力を受け付ける入力受付手段と、
他の端末のユーザが入力した情報と共に、他の端末のユーザに関わる識別情報を受信する受信手段と、
識別情報ごとに、他の端末のユーザが入力した情報を吹き出し内に表示する際の吹き出しの背景色を規定する背景色規定手段と、
受信した情報から送信元の識別情報を検出し、背景色規定手段によって規定された識別情報ごとの背景色をもとに、送信元の識別情報に対応する背景色を決定する背景色決定手段と、
決定された背景色を有する吹き出し内に、他の端末のユーザが入力した情報を表示する表示手段とを備え、
決定された背景色が、ユーザが入力した情報を表示する吹き出しの背景色とは異なる、
通信端末。」

<相違点>
相違点1
「他の端末のユーザに関わる識別情報」が、本願発明1では、「他のユーザの端末であることを識別可能な識別情報」であるのに対し、引用発明1では、「発言者を特定するための情報であるユーザID」である点。

相違点2
通信端末において、本願発明1では、「ユーザの操作に基づいて、ユーザが通信を望まない他のユーザを受信拒否ユーザとして設定する設定手段」を備え、「受信手段が、受信拒否ユーザとして設定されている他のユーザが入力した情報を受信しないものである」のに対し、引用発明1には、そのような特定がされていない点。

相違点3
通信端末において、本願発明1では、「ユーザの操作に基づいて、表示手段により表示された他の端末のユーザが入力した情報を選択し、消去する消去手段」を備え、「消去手段により消去した情報を他のユーザ端末に対して送信しない」のに対し、引用発明1には、そのような特定がされていない点。

(3)相違点についての検討
事案に鑑みて、上記相違点3について先に検討する。
上記相違点3に係る本願発明1の「ユーザの操作に基づいて、表示手段により表示された他の端末のユーザが入力した情報を選択し、消去する消去手段」を備え、「消去手段により消去した情報を他のユーザ端末に対して送信しない」との構成は、上記「第5 1.(1)」、「第5 1.(2)」、「第5 1.(3)」、「第5 1.(6)ア」及び「第5 1.(6)イ」でそれぞれ示した引用文献1、引用文献2、引用文献3、引用文献6及び引用文献7のいずれにも記載も示唆もされていない。

特に、上記「第5 1.(6)」で示したように、引用文献6及び7を参照すると、他のユーザと情報をやり取りするチャットシステムにおいて、ユーザの操作により、チャットに関する情報を削除する技術は、周知技術であると認められる。
しかしながら、当該チャットに関する情報を削除するという周知技術を、引用発明のチャットシステムにおける「クライアント用コンピュータ」に適用したとしても、当該クライアント用コンピュータにおいて「情報を削除する」構成が当業者にとって容易に想到し得るといえるにとどまり、1つのチャットクライアントから送信されたメッセージが他のチャットクライアントに「送信される」ことが当然の前提である引用発明のチャットシステムにおいて、「消去手段により消去した情報を他のユーザ端末に対して送信しない」構成を含めて、当業者が容易に想到し得るとする根拠は見いだせない。
また上記相違点3に係る構成は、上記「第5 1.(4)」及び「第5 1.(5)」で示した引用文献4及び5にも記載も示唆もされておらず、本願出願前に周知技術であるともいえない。

したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明1〜7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2〜6について

本願発明2〜4は、上記相違点3に係る本願発明1の上記構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2〜7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
また、本願発明5及び6は、本願発明1をそれぞれ「表示方法」及び「プログラム」の発明として、カテゴリ表現が異なるだけの発明として特定したものであるから、本願発明5及び6のいずれも、上記相違点3に係る本願発明1の上記構成と同一の構成を備えるものであるため、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2〜7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

よって、当審拒絶理由(2)の理由2(進歩性)は解消した。

第7 当審拒絶理由(1)について

当審拒絶理由(1)の理由1(進歩性)の証拠として挙げた引用文献V〜Zは、それぞれ当審拒絶理由(2)の理由2(進歩性)の証拠として挙げた引用文献1〜5であるから、上記「第6 対比・判断」で示したように、本願発明1〜6は、当業者であっても、当審拒絶理由(1)における引用文献V〜Zに基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
よって、当審拒絶理由(1)の理由1は解消した。

第8 原査定についての判断

令和4年3月31日になされた手続補正では特許請求の範囲の補正がなかったため、令和3年10月1日になされた手続補正による補正後の請求項1〜6は、上記相違点3に係る構成を有するものとなった。当該構成は、原査定における引用文献A、D、E(当審拒絶理由(2)における引用文献1、4、5)、そして上記「第5 3.(1)」及び「第5 3.(2)」で示した引用文献B及びCには記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明1〜6は、当業者であっても、原査定における引用文献A〜Eに基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第9 むすび

以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2022-06-08 
出願番号 P2018-200373
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 稲葉 和生
特許庁審判官 小田 浩
角田 慎治
発明の名称 通信端末、表示方法およびプログラム  
代理人 特許業務法人ライトハウス国際特許事務所  

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