• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1385567
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-28 
確定日 2022-06-29 
事件の表示 特願2017−518543「眼科用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月14日国際公開、WO2016/055464、平成29年11月24日国内公表、特表2017−534605〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年10月6日(パリ条約による優先権主張 2014年10月6日(IT)イタリア国)を国際出願日とする特許出願(特願2017−518543号)であり、その主な手続の経緯は、次のとおりである。

令和1年10月3日付け 拒絶理由通知
令和2年 3月13日 手続補正書及び意見書の提出
同年 4月23日付け 拒絶査定
令和2年 8月28日 審判請求書の提出
令和3年 6月 8日付け 拒絶理由通知(当審)
同年 9月15日 意見書及び手続補正書の提出

第2 本願発明

本願の特許請求の範囲の請求項1〜21に係る発明は、令和3年9月15日提出の手続補正書により補正(以下、「本件補正」という。)された特許請求の範囲の請求項1〜21に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
濃度約0.30ng/mlのEGFを含有する単離された臍帯血血漿を含む角膜病変の処置における薬剤。」

第3 拒絶の理由

当審において令和3年6月8日付けで通知した特許法第29条第2項に基づく拒絶の理由(理由3(2))は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2(これは、本件補正後の請求項1に対応する。)に係る発明は、引用文献6に記載された発明及び引用文献5の記載から、本願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、という理由を含むものである。

引用文献6:スペイン国特許出願公開第2368394号明細書(ES2368394A1)
引用文献5:VERSURA P et al.,EFFICACY OF STANDARDIZED AND QUALITY−CONTROLLED CORD BLOOD SERUM EYE DROP THERAPY IN THE HEALING OF SEVERE CORNEAL EPITHELIAL DAMAGE IN DRY EYE,CORNEA,米国,LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS,2013年 4月,VOL:32,NR:4,p.1−7(PAGE(S):412−418),URL,http://dx.doi.org/10.1097/ICO.0b013e3182580762

第4 引用文献に記載された事項及び引用発明

1 引用文献6に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献6に記載された事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献6には、以下の記載がある。
なお、引用文献6は外国語(スペイン語)で記載されているため、当審合議体による日本語訳で摘記する。
なお、下線は当審合議体が付した。以下、この審決において同様である。

・摘記ア(特許請求の範囲の請求項1−4)
「特許請求の範囲
1.眼表面の病変の治療に使用するための臍帯血血漿を含む医薬組成物。
2.前記組成物は点眼薬の形態であることを特徴とする、請求項1に記載の使用のための臍帯血血漿を含む医薬組成物。
3.前記血漿の濃度は20%〜80%(v/v)の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の使用のための臍帯血血漿を含む医薬組成物。
4.治療される前記眼表面の前記病変には、三叉神経麻痺による神経栄養性角結膜炎、糖尿病又はヘルペス性角膜炎に続発する栄養障害性角膜潰瘍、兎眼性角結膜炎、乾性角結膜炎(シェーグレン症候群及び非シェーグレン症候群)、角膜上皮幹細胞疲弊症及び角膜栄養障害(例えば、糖尿病、ヘルペスの既往症)、あらゆる病因の持続性上皮欠損、重症アトピー性角結膜炎、再発性角膜びらん、上輪部角結膜炎、ヘルペス後又は熱傷による角膜移植の術後処置が含まれることを特徴とする、請求項1に記載の使用のための臍帯血血漿を含む医薬組成物。

・摘記イ(p.2の1欄7行〜2欄13行)
「本発明は、ヒトにおける眼表面の病変の治療に使用するための、臍帯血血漿を含む点眼薬としての組成物に関する。さらに本発明は、この組成物の調製方法に関する。
眼表面の病変の従来の治療法には、例えば人工涙液、治療用コンタクトレンズ、羊膜カバー、瞼板縫合術及び局部成長因子の使用が含まれる。近年、自家血清及び臍帯血血清から得られる点眼薬並びに多血小板血漿(PRP)点眼薬としての眼表面の病変の治療に有効な治療用組成物が開発されている。
急性又は慢性白血病のような先天性又は後天性骨髄疾患患者の治療用に臍帯血の利用可能性が開けたので、自発的に臍帯血を提供するドナーの人数、さらには安全に管理された条件でこの血液を保管する臍帯血バンクの数も世界的に増加した。
臍帯血は分娩時に当業者に周知の方法で収集される。新生児の出生及び臍帯の切除後に臍帯の単回穿刺が行われる。次いで、上記臍帯血は遠心分離又は濾過で分画されて、細胞移植用の出発物質である赤血球、白血球及び血小板といった有形成分が存在する層と、通常廃棄される血漿と呼ばれるもう一つの層との二つの異なる層が得られる。この血漿は−80℃の温度で凍結させることができる。
本発明は、臍帯からの血漿から得られる点眼薬がヒトにおける眼表面のさまざまな病変に対して有効な治療効果を有するという驚くべき発見を出発点としている。
本発明の組成物の使用は、従来の治療と比べて多くの利点を有する。臍帯血血漿の使用の利点は、自家血とは異なり、即座に利用可能であり、さらに、小児科の患者の場合には時として困難になる患者からの採血が必要ないことである。また、自家血由来の点眼薬の処方から治療開始までの遅延時間が数日、さらには数週間になることがあるという結果をもたらす、上記血液の事後処理も必要ない。
他のさらなる臍帯血血漿の使用の利点は、血清とは異なり、血漿は、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子−β(TGF−β)、インスリン様成長因子1(IGF1)、神経成長因子(NGF)などの成長因子や、ビタミンA、フィブロネクチン、サブスタンスP、α2マクログロブリンといったアンチプロテアーゼなどを豊富に含むことである。さらに、臍帯血血漿は、自家血清と比較して、細胞の増殖、分化、成熟及び拡大を誘発する高濃度の抗炎症性サイトカイン並びに血漿及び血小板因子を有する。
したがって、本発明は、臍帯血血漿を含む点眼薬としての、眼表面の病変の治療に有効な医薬組成物を提供する。」

・摘記ウ(p.2の2欄31〜47行)
「点眼薬における血漿の最終濃度は本発明の組成物の最終的な用途に応じて決まる。
本発明の組成物で治療することができる眼表面の病変には、三叉神経麻痺による神経栄養性角結膜炎、糖尿病又はヘルペス性角膜炎に続発する栄養障害性角膜潰瘍、兎眼性角結膜炎、乾性角結膜炎(シェーグレン症候群及び非シェーグレン症候群)、角膜上皮幹細胞疲弊症及び角膜栄養障害(例えば、糖尿病、ヘルペスの既往症)、あらゆる病因の持続性上皮欠損、重症アトピー性角結膜炎、再発性角膜びらん、上輪部角結膜炎、ヘルペス後又は熱傷による角膜移植の術後処置が含まれる。」

・摘記エ(p.2の2欄54行〜p.3の4欄7行)
「実施例1
眼表面の病変の治療用に臍帯血血漿を20%含む点眼薬の調製。臍帯血を採取して抗凝固剤(CDP)入りの滅菌バッグに詰め、新鮮な状態(2〜22℃)で保存した。臍帯血の採取から点眼薬の調製までの時間は12〜44時間であった。
臍帯血は22℃で10分間、1730xgで遠心分離された。次いで、抽出プレスを用いて血漿を分離し、2〜3mLのサンプルが採取され、B型肝炎表面抗原、B型肝炎コア抗体、C型肝炎抗体、HIV−1/2抗体、梅毒トレポネーマ抗体、NATによるHCV−RNA、HIV−1−RNA及びHBV−DNA、HTLV−I/II抗体、並びにクルーズトリパノソーマ抗体の検査を含む血清学的調査が行われた。
血漿を収容するバッグは秤量され、パンチを用いてPBSを加えて、20%の臍帯血血漿の最終濃度を得た。次いで、得られた全量を5mLずつ分割して滅菌容器に加え、これらの容器を密閉してコードを付した。
調製された点眼薬は、以下に示すように、CMV IgG抗体陽性であることが判明した場合でも母体の血清学的調査で陰性、臍帯血血漿の血清学的調査で陰性、好気性菌、嫌気性菌及び真菌類に関する微生物学的試験で陰性、白血球含有量100未満、赤血球含有量6000未満という試験結果が得られれば、隔離され供用される。調製された点眼薬は−80℃で保存されれば、3年の保存可能期間を有する。」

(2)引用発明
上記(1)の引用文献6の記載、特に、摘記アの請求項1、4、摘記イの「本発明は、ヒトにおける眼表面の病変の治療に使用するための、臍帯血血漿を含む点眼薬としての組成物に関する。」なる記載、及び、摘記エの実施例1において、採取した臍帯血血漿を抗凝固剤(CPD)入りの滅菌バッグに詰めて保存したものから眼表面の病変の治療のための点眼薬を調製しており、調製された眼の表面の病変の治療に使用するための医薬組成物には、抗凝固剤(CPD)が含まれているといえることから、引用文献6には、以下の発明が記載されているといえる。

「ヒトの眼表面の病変の治療に使用するための臍帯血血漿を含む医薬組成物であって、前記医薬組成物は抗凝固剤(CPD)を含み、
前記眼表面の病変には、三叉神経麻痺による神経栄養性角結膜炎、糖尿病又はヘルペス性角膜炎に続発する栄養障害性角膜潰瘍、兎眼性角結膜炎、乾性角結膜炎(シェーグレン症候群及び非シェーグレン症候群)、角膜上皮幹細胞疲弊症及び角膜栄養障害(例えば、糖尿病、ヘルペスの既往症)、あらゆる病因の持続性上皮欠損、重症アトピー性角結膜炎、再発性角膜びらん、上輪部角結膜炎、ヘルペス後又は熱傷による角膜移植の術後処置が含まれる、前記臍帯血血漿を含む医薬組成物。」

(以下、「引用発明」という。また、引用発明における「三叉神経麻痺による神経栄養性角結膜炎、糖尿病又はヘルペス性角膜炎に続発する栄養障害性角膜潰瘍、兎眼性角結膜炎、乾性角結膜炎(シェーグレン症候群及び非シェーグレン症候群)、角膜上皮幹細胞疲弊症及び角膜栄養障害(例えば、糖尿病、ヘルペスの既往症)、あらゆる病因の持続性上皮欠損、重症アトピー性角結膜炎、再発性角膜びらん、上輪部角結膜炎、ヘルペス後又は熱傷による角膜移植の術後処置」を「所定の眼の疾患」という。)

2 引用文献5の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献5には、以下の記載がある。
なお、引用文献5は外国語(英語)で記載されているため、当審合議体による日本語訳で摘記する。(なお、図面については原文で記載し、部分訳も併記した。)
また、本文中に上付きで記載される参照文献番号の記載は省略した。

・摘記5a(要約)
「目的: 品質管理された臍帯血血清(CBS)ベースの点眼薬を標準化し、重度のドライアイ(DE)患者の角膜上皮の治癒における1か月のCBS治療の有効性を評価した。
方法: 17人の移植片対宿主病(GVHD)と13人の重度の持続性角膜欠損を伴うシェーグレン症候群患者が、登録された臨床試験(ClinicalTrials.gov NCT01234623)の枠組みに登録された。滅菌CBS点眼薬は、1つの眼あたり、1日につき0.15ngの上皮成長因子を供給するように調製され、1日用量の投与容器で1か月間投与された。上皮欠損の程度は、平方ミリメートルの領域で評価され、自覚症状スコア(眼表面疾患指数スコア)、シルマーテストI、分裂時間、涙液浸透圧、角膜エステシオメトリー(コシェボンネットエステシオメーター)、結膜擦過、及びインプリント杯細胞数を用いた細胞診は、ベースライン時(V0)、治療後15日(V1)及び30日(V2、エンドポイント)に実施された。満足度と耐容性の質問票は、V1とV2で評価された。
結果: 角膜上皮損傷(それぞれ、平均±SD、16.1±13.7対40.9±30mm2/area)、不快症状(眼表面疾患指数スコア、22.3±10.3vs.39.3±16.9)、擦過細胞診スコア(3.8±1.2vs.6.6±2.1)、及び涙液浸透圧(312.5±7vs.322±9.1mOsm/L)において、エンドポイントでの、ベースラインに対する有意な減少が示され、一方で、角膜エステシオメトリーでは有意な改善が見られた(48.2±2.1対49.7±2.1ナイロン/mm/長さ、P、0.05)。全ての患者は、点眼時に高い満足度を報告した。
結論: 異種CBSベースの点眼薬は、重傷の角膜上皮の治癒及び自覚症状の緩和における有望な治療的アプローチを表す。これらの点眼剤(drops)は、容易に利用可能な、品質管理された血液製剤として臍帯血バンクから入手できる。」

・摘記5b(p.412の右欄1段落)
「眼表面上皮の病気は、さまざまな病因を伴う多くの臨床状態で発生する。医療管理の中核は、健康な結膜及び角膜上皮の新たな成長を安定化又は促進することである。さまざまな治療アプローチが導入されており、近年、血液製剤に基づく局所用製品の投与により、かなりの進歩が達成されている。これらには、自己血清(AS)、成長因子に富む血漿、血小板溶解物などの患者自身の血液から調製された点眼薬と、臍帯血血清(CBS)などのドナーから調製された点眼薬の両方が含まれる。これらは全て、生物学的に活性な成分、特に成長因子を含んでいることが使用の根拠となっている。」

・摘記5c(「MATERIALS AND METHODS」の項目、p.413〜414の「Treatment − Preparation of CBS Eye Drops」の2〜4段落)
「治療−CBS点眼薬の調製
・・・
臍帯静脈から平均80mLの臍帯血を採取し、室温で2時間凝固させた。3000rpmで15分間遠心分離した後、層流フードの下で血清を注意深く分離した(・・・;各バッチで滅菌試験を実施した)。血清を−80℃で6ヶ月間凍結保存した(検疫期間)。
手順と保管が成長因子の含有量を減少させる可能性を検討するために、上皮成長因子(EGF)及びトランスフォーミング成長因子(TGF)−β1の量を、7種のCBS調製物のさまざまな時点で調査した(・・・)。点眼薬の原料として使用するCBSのスクリーニングは、CBSを保管する前にEGF含有量を分析することで行った(1.5ng/mlを超えるEGF含有量を閾値として選択)。
検疫期間後、事前に選択した血清を解凍してプールし、全ての患者を治療するために必要な量の血清を得て、無菌操作により冷蔵滅菌リン酸緩衝生理食塩水で20%に希釈し、ろ過(・・・)した。次いで、調製物をルアーロック式1mL滅菌シリンジに分注した。充填されたシリンジを密封し、患者に送達するためのラベル付き封筒に詰めた。CBS調製物の供給には1日1本のシリンジを使用した。30人の患者のうち5人では、COL−20機器(・・・)を使用して単回投与バイアルを準備し、上記のように梱包、凍結、保管した。患者は、使用日の前夜にシリンジ又はバイアル1本を解凍した後、1日8回、1つの眼につき1滴、投与するように指示された。」

・摘記5d(「RESULT」の項目の1段落)
「結果
CBS点眼薬の調製法を図1に説明する。CBS中のEGF及びTGF−β1測定のデータを図2に示す;これらの因子の含有量は、手順全体を通して有意な変動はなかった。・・・。EGFの供給は、最終的な調製物において、1日、1つの眼あたり0.15ngと推定された。」

・摘記5e(FIGURE 1.)
「図1. (対象の)ドナー適性から(患者への点眼剤の)配達にいたるCBSの準備手順が要約されている。全てのステップは、UNI ENISO 9001:2008認定ラボで実施された。

は、EGF及びTGF−β1の測定が行われた準備手順中の箇所を示し、番号が付けられており、番号1〜6は、図2に要約されたデータに対応し、また、

は、無菌制御が実行されたポイントを示す。





・摘記5f(FIGURE 2.)



図2. CBS点眼薬の調製のさまざまな時点でのEGF及びTGFβ1含有量の検討を、7つ(A〜G)の試料で前もって行った。各時点には、図1で詳しく説明する以下の1〜6の番号を付した。1:新鮮な、集められたCBS; 2:検疫期間後; 3:希釈後; 4:ろ過後; 5:1か月の凍結保管後; 6:2ヶ月の凍結保管後。
分析した試料は、EGF(700〜2100pg/mL)及びTGF−β1(800〜1900ng/mL)の両者がかなり変動していたが、手順全体では大幅な変動は観察されず、この手順は、これらの成長因子の含有量に影響を与えたり、減少させたりしないことを示唆する。」

・摘記5g(「DISCUSSION」の項目、p.415の右欄1段落〜p.416.右欄2段落5行)
「持続性の角膜上皮欠損の治癒におけるCBSの有効性は、過去の文献で報告されており、治療後の損傷領域の減少の臨床的証拠によって評価されている。結果は主に成長因子の補充に関連していたが、最近のin vitroデータは、CBSを補充した培地がヒト結膜および輪部上皮細胞の増殖だけでなく分化もサポートすることを示した。
しかしながら、以前の記事は、ドナーの選択、微生物学的品質保証のための標準化されたプロトコル、又は最終的な調製物における成長因子の含有量に関する詳細は報告していなかった。本研究はこれらの問題を調査し、得られたデータは、EGF及びTGF−β1の含有量が、さまざまな調整ステップ、検疫、および保管期間を通じて有意には変化しなかったことを示した。本研究で使用した点眼液は、最終調製時に1日1眼あたり0.15ngと推定される標準化されたEGF含有量を達成するように調製され、これにより、組成の変動に関連する応答の偏りを回避できた。
コストの制限のため、成長因子のコンテンツ制御はEGFのみに制限されていたが、より広範囲が推奨されることを認識している。涙腺から分泌されるサイトカインであるEGFは、マイトジェン効果と眼表面の恒常性における役割のために最終製品を標準化するためのバイオマーカーとして任意に選択された。しかしながら、以前の研究で使用された1人のドナー−1人の患者ベースとは対照的に、プール収集物は最終製品の標準化における合理的な妥協案である可能性がある。
この研究では、1か月のCBS治療により、登録された全ての患者の角膜上皮の損傷領域が大幅に減少し、痛みを伴う病気の感覚が改善されることを示した。」

第5 本願発明と引用発明との対比・判断

1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「臍帯血血漿」は、本願発明の「単離された臍帯血血漿」に相当する。
引用発明の「所定の眼の疾患」には、糖尿病又はヘルペス性角膜炎に続発する栄養障害性角膜潰瘍、乾性角結膜炎(シェーグレン症候群及び非シェーグレン症候群)、角膜上皮幹細胞疲弊症及び角膜栄養障害(例えば、糖尿病、ヘルペスの既往症)、再発性角膜びらんのように、角膜で生じる病変が含まれるので、引用発明の「所定の眼の疾患」である「ヒトの眼表面の病変の治療に使用するための」「医薬組成物」は、本願発明の「角膜病変」に相当する。
さらに、引用発明の「治療」、「医薬組成物」は、それぞれ、本願発明の「処置」、「薬剤」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明は以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
単離された臍帯血血漿を含む角膜病変の処置における薬剤。
<相違点>
臍帯血血漿を含む薬剤について、本願発明では「濃度約0.30ng/mlのEGFを含有する」ことが特定されているのに対し、引用発明では、かかる特定はなされていない点。

2 判断
(1)相違点について
相違点について検討する。
ア(ア)引用文献6には、「所定の眼の疾患」を含む眼表面の病変の治療に使用するための引用発明の医薬組成物を「点眼薬の形態」で用いること(摘記アの請求項2)が記載されているところ、引用文献5には、引用発明の「所定の眼の疾患」に相当する乾性角結膜炎(シェーグレン症候群)の患者の治療のために使用可能な点眼薬についての技術が開示されており、当該引用文献5には、以下のa〜cの事項が記載されていると認められる。
a 血液製剤に相当する臍帯血血清(CBS)ベースの点眼薬とすること(摘記5a)。
b 自己血清や血漿、臍帯血血清(CBS)等の血液製剤に基づく点眼薬は、全て、生物学的に活性な成分、特に成長因子を含んでいることが使用の根拠となっていること(摘記5b)、及び、上記血液製剤に相当する臍帯血血清(CBS)ベースの点眼薬が、上皮成長因子(EGF)を1つの眼あたり、1日につき0.15ngの量で供給するように調製されたこと(摘記5aの方法(Methods)の欄、摘記5d及び摘記5g)。
c より具体的には、臍帯血血清(CBS)ベースの最終製品の点眼液は1mLシリンジ又は1日用量バイアルに等分されたものであり(摘記5eの「・薬局」の欄)、患者に対し、使用日の前夜に上記シリンジ又はバイアル1本を解凍した後、1日8回、1つの眼につき1滴投与するという指示が出されたこと(摘記5c)、1か月のCBS治療(すなわち臍帯血血清(CBS)ベースの点眼薬を投与する治療)により、登録された全ての患者の角膜上皮の損傷領域が大幅に減少し、痛みを伴う病気の感覚が改善されたこと(摘記5g)。
(イ)上記a〜cから、引用文献5の臍帯血血清(CBS)ベースの点眼剤は、患者にEGFを上記のような所望の量で供給できるように調製されているので、EGFは、上記点眼剤の主要な有効成分であるといえる。
(ウ)ここで、引用発明の医薬組成物は臍帯血血漿を含むものであり、一方、引用文献5に記載の点眼薬は臍帯血血清ベースのものであるが、血清に含まれず血漿にのみ含まれる成分として血液凝固因子があり、逆に血漿には含まれず血清にのみ含まれる成分として、血小板凝集に伴い放出される血小板由来増殖因子などがあるという違いを除いて、血清と血漿とは基本的に同様の成分からなるといえることは、本願優先日前の技術常識である(要すれば、「生化学辞典(第4版)」、(株)東京化学同人、2007年12月10日発行、p.444の「血清」の項目及びp.440の「血漿」の項目の記載、及び「廣川 薬科学大辞典〔第4版〕−常用版−」、(株)廣川書店、平成19年4月25日第1刷発行、p.534の「血清」の項目に、血清について、血漿から(血液凝固因子である)フィブリノーゲンを除いたものにほぼ相当することが記載されていることを参照。)。
(エ)そして、引用文献6には、引用発明の「臍帯血血漿」の利点として、EGF(上皮成長因子)をはじめとする成長因子等が豊富に含まれていることが記載されている(摘記イ)から、上記血清と血漿とは基本的に同様の成分からなるとの上記(ウ)の技術常識を踏まえた当業者は、引用発明の臍帯血血漿を含む医薬組成物の主要な有効成分として「EGF」に着目するといえる。
(オ)上述のとおり、引用発明の医薬組成物は、引用文献5の臍帯血血清(CBS)ベースの点眼薬と同様に「点眼薬の形態」(摘記アの請求項2)で用いられるものであり、かつ、引用発明の臍帯血血漿と引用文献5に記載の臍帯血血清は、基本的に同様の成分からなるといえるのであるから、引用発明の医薬組成物を「点眼薬の形態」とする際に、その有効成分として、引用文献5の臍帯血血清(CBS)ベースの点眼薬における主要な有効成分であり、かつ引用発明の臍帯血血漿にも含まれている「EGF」(摘記イ)に、当業者は着目するといえる(上記(ア)〜(エ))。
そして、当業者は、上記「点眼薬の形態」におけるEGFの濃度を決定するにあたり、引用文献5の臍帯血血清(CBS)ベースの点眼薬におけるEGFの用量・用法、すなわち、全ての患者において治療効果が確認された(摘記5g)、1ml容器を用いて1日8回、1つの眼につき1滴投与して、1眼あたり0.15ngの1日量のEGFを投与すること(摘記5aの方法(Methods)の欄、摘記5d及び摘記5g)が可能であるEGF濃度を参考にすることを、当然に想起するといえる。

イ(ア)ところで、市販されている点眼薬の一般的な1滴容量は30〜70μl(=0.03〜0.07ml)である(例えば、病院薬学、1998年、24巻、6号、p.595−600のp.597の右欄14〜15行)。そして、例えば、点眼薬の一般的な1滴容量を50μlとする場合、引用文献5で投与される点眼薬は1日8回、1つの眼につき1滴投与されるから、1日につき、1つの眼につき50μl×8滴=400μl投与され、一方、1つの眼につき投与される1日量のEGFは0.15ngであるから、引用文献5の点眼薬におけるEGF濃度は0.15ng/400μl(=0.15ng/0.4ml)=0.375ng/ml程度と算出される。(なお、引用文献5の点眼薬における濃度の算出に用いた50μlが一般的な範囲であることは、引用発明5と同様、角結膜上皮障害治療薬である点眼薬として、47.03μl/滴、51.04μl/滴、49.27μl/滴といった凡そ50μl/滴程度の容量の製品が知られていること(医薬品情報学、2012年、14巻、2号、p.62−68のp.64の表1の角結膜上皮障害治療の欄)からも理解できる。)
(イ)加えて、例えば、令和3年6月8日付けの拒絶理由通知における引用文献9である「Blood Transfus 2010,Vol.8,p.107−112;DOI:10.2450/2009.0091−09」のp.109の右欄1段落には1日当たり5〜10回の範囲が記載されており、また、「『新製剤学』、(株)南山堂、1984年4月25日第2刷発行、p.20−21、」の特にp.21の「i)点眼液」の項目には、1回あたり数滴点眼する旨が記載されているように、点眼薬の1日あたりの適用回数や1回あたりの投与滴数は、所望の薬効等を考慮して当業者が適宜調整し得るものであることは、本願の優先日前の技術常識であるし、点眼薬の1回あたりの点眼滴数を1〜2滴程度に指示することも一般的である(例えば、上記「病院薬学」のp.599の図5)。
(ウ)そうすると、引用発明の医薬組成物を「点眼薬の形態」にする際に、シェーグレンのドライアイは通常両目に起こる症状であること、及び同じ疾患の処置のために点眼薬を片眼に投与する場合と両眼に投与する場合とで通常は同じ薬剤濃度の点眼薬を使用することを踏まえて、引用文献5の点眼薬における上記EGFの供給量から想定されるEGF濃度も参考にして、両眼に対する1日分の1ml容器での使い切り濃度として約0.30ng/mlのEGFを含有する点眼薬を調製することは、当業者が、格別の困難性を伴うことなくなし得る、通常の創意工夫の範囲内のことと認められる。

ウ さらに、引用文献6の実施例1(摘記エ)には、臍帯血血漿を20%含む点眼薬を調製したことが記載されるところ、引用文献5の図2から、ドナーから集められた臍帯血血漿(摘記5fの図2の「1:新鮮な、集められたCBS」のデータ参照。)のEGF濃度が約900〜2100pg/ml(つまり、約0.9〜2.1ng/ml)の範囲であったことが読み取れ、これを20%濃度に希釈した場合には、EGF濃度は0.18〜0.42のng/mLの範囲になり、本願発明における約0.30ng/mlのEGF濃度は、上記範囲内の濃度であることからも、引用発明の医薬組成物を「点眼薬の形態」にする際に、本願発明で特定されるEGF濃度を有する医薬組成物とすることに格別の困難性があったとは認められない。

エ したがって、引用発明の医薬組成物を点眼薬の形態にする際に、EGFの濃度を約0.30ng/mlに決定して、引用発明を相違点に係る本願発明の構成を有するものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)本願発明の効果について
本願発明の効果に関し、本願明細書には、【0061】以降に、「例」として、最終EGF濃度が0.15ng/mlの臍帯血血漿からの眼用製剤の調製法が記載されるのみで、当該眼用製剤を実際に患者に投与した結果についての具体的な記載はなく、本願発明の「濃度約0.30ng/mlのEGFを含有する単離された臍帯血血漿を含む角膜病変の処置における薬剤」を調製して、実際に患者に投与した結果についての記載はない。
そして、効果については、本願明細書の【0069】において、「臍帯血血漿は、成長因子の驚くほど優れた生物的ソースであり、治癒のスピードの予期せぬ増大に寄与する。」と一般的な記載がされるのみであるところ、臍帯血血漿に成長因子が含まれていることや、臍帯血血漿を含む薬剤が眼表面の病変の治療に有効であることは引用文献6に記載されている(特に摘記ア及び摘記イ)し、引用文献5にも、自己血清や血漿、臍帯血血清(CBS)等の血液製剤に基づく局所用の点眼薬は、生物学的に活性な成分、特に成長因子を含んでいることが使用の根拠となっていること(摘記5b)が記載されているのであるから、本願明細書の【0069】に記載の効果は、引用文献6及び引用文献5の記載から、当業者が予測し得る効果に過ぎない。

(3)請求人の主張について
ア 請求人は、令和3年9月15日提出の意見書の「3.」「(3)」「エ」において、以下の旨を主張する。
(ア)主張1
血清とは異なり、血漿は、EGFなどの成長因子を豊富に含むことが引用文献6に記載されていることも勘案すると、引用文献5に記載された臍帯血血清中のEGFの濃度に関する情報を、引用文献6に記載された臍帯血血漿を含む医薬組成物に適用する論理付けを行うことには困難性がある。
(イ)主張2
引用文献6には、臍帯血血漿がどの程度のEGFを含んでいるか記載されていない。
引用文献5の図2には、回収直後の7種の臍帯血血清中のEGFの濃度は、900弱〜2100弱pg/mL(0.9弱〜2.1弱ng/mL)であったことが示されており、各臍帯血血清におけるEGFの濃度は、治療用血清の調製及び保管の間で大幅には変化しなかったことが記載され、また、点眼薬の原料として使用する臍帯血血清のスクリーニングにおける閾値として1.5ng/mlを超えるEGF含有量を適用したことが記載されているが、引用文献5に示された血清中のEGFの濃度は、本願発明で特定されたEGFの濃度とは大きく異なる。
引用文献5には、重度のドライアイ患者の角膜上皮を治療するために、1日あたり、1つの眼に0.15ngのEGFを供給することが記載され、患者には、1日8回、1つの眼につき1滴、投与するように指示したことが記載されているが、これらの記載から算出される血清中のEGFの濃度も、本願発明において特定された濃度とは大きく異なる。

イ 上記主張1及び主張2について検討する。
(ア)主張1について検討する。
引用文献6には、引用発明の「臍帯血血漿」の利点として、EGF(上皮成長因子)をはじめとする成長因子等が豊富に含まれていることが記載されており(摘記イ)、当業者は、引用発明の臍帯血血漿を含む医薬組成物の主要な有効成分として「EGF」に着目するといえるのであるし、引用文献5は、引用発明の「所定の眼の疾患」に相当する患者の治療のために使用可能な点眼薬についての技術を開示するものであって、かつ、EGFの供給量について規定するものであること、血清と血漿とは基本的に同様の成分からなることが技術常識であることも上記(1)アで記載したとおりであるから、当業者は、引用文献5に記載された臍帯血血清中のEGFに関する情報を、引用文献6に記載された臍帯血血漿を含む医薬組成物に適用する十分な動機付けがあるといえる。
したがって、請求人の主張1は採用できない。

(イ)次に、主張2について検討する。
請求人の主張2における「引用文献5に示された血清中のEGFの濃度」は、回収直後の7種の臍帯血血清中のEGFの濃度(0.9弱〜2.1弱ng/mL)、又は点眼薬の原料として使用する臍帯血血清のスクリーニングにおける閾値である1.5ng/mlを超えるEGF含有量(EGFの濃度)を意味するものと解されるが、これらの濃度はいずれも点眼薬の原料におけるEGF濃度であり、引用文献5において最終的に患者に投与される点眼薬のEGFの濃度ではない。
そして、引用文献5に記載の、1日8回、1つの眼につき1滴、1つの眼あたり1日につき0.15ngのEGFを供給するための点眼薬の濃度を、点眼薬の一般的な1滴容量である50μlで換算した場合のEGF濃度が0.375ng/ml程度と算出されることは上記(1)イ(ア)で記載したとおりであり、これは、本願発明において特定された濃度である「約0.30ng/ml」と大きく異なるとまではいえない。
したがって、請求人の主張2も採用できない。

(4)よって、本願発明は、引用発明(引用文献6に記載された発明)、上記で指摘した引用文献5及び6に記載された事項、並びに本願の優先日前の技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用文献6に記載された発明、引用文献5及び6に記載された事項、並びに本願の優先日前の技術常識に基いて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 前田 佳与子
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-01-19 
結審通知日 2022-01-25 
審決日 2022-02-09 
出願番号 P2017-518543
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 前田 佳与子
特許庁審判官 穴吹 智子
渕野 留香
発明の名称 眼科用組成物  
代理人 野河 信久  
代理人 金子 早苗  
代理人 飯野 茂  
代理人 井上 正  
代理人 河野 直樹  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 大宅 郁治  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ