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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1385569 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-09-01 |
確定日 | 2022-02-14 |
事件の表示 | 特願2016−511540「グルタチオンを含む酵母抽出物のメラニン産生抑制剤としての利用」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 8日国際公開、WO2015/151867〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年3月20日(優先権主張 2014年3月31日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成31年 2月26日付け:拒絶理由通知 同年 4月26日受付:手続補正書及び意見書の提出 令和 1年 9月24日付け:拒絶理由通知(最後) 令和 2年 1月30日受付:手続補正書及び意見書の提出 同年 5月14日付け:補正の却下の決定 同年 5月14日付け:拒絶査定 同年 9月 1日受付:審判請求書、手続補正書の提出 同年10月26日受付:手続補正書(方式)の提出 令和 3年 9月17日付け:拒絶理由通知書 同年11月22日受付:意見書の提出 第2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、令和2年9月1日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 グルタチオン含有酵母抽出物を含有するメラニン産生抑制剤を含有するメラニン産生抑制用飲食品であって、前記酵母抽出物中のグルタチオン含量が、乾燥酵母抽出物中で17.68質量%以上であるメラニン産生抑制剤を含有するメラニン産生抑制用飲食品。」 第3 拒絶の理由 当審において、令和3年9月17日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりのものである。 理由(進歩性) 本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献10に記載された発明に基づいて、又は引用文献11に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献10:小西享他,酵母エキスの開発と展開,月刊フードケミカル,2001年,Vol.17,No.10,p.55-60 引用文献11:美容食品素材の市場動向,食品と開発 8月号,2004年,Vol.39, No.8,p.43-49 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献10(小西享他,酵母エキスの開発と展開,月刊フードケミカル,2001年,Vol.17,No.10,p.55-60)に記載された事項及び引用文献10に記載された発明 (1)本願優先日前に頒布された引用文献10には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。 (10−1)(55頁左欄下から6行〜下から4行) 「酵母エキスは食品であり、酵母から、酵素分解抽出、自己消化法または熱水抽出法などの方法により製造される。」 (10−2)(55頁右欄10行〜16行) 「当社は従来よりトルラ酵母を生産し,5’−IG高含有酵母エキス「アロマイルド」とグルタチオン高含有「酵母エキスYH」を製造・販売してきた。今回,グルタチオン含量を15%に高めた「酵母エキスYH15(仮称)」とヌクレオチド高含有「酵母エキスNT」を開発したので,これらの機能性について,最近の話題を含めて紹介したい。」 (10−3)(55頁右欄17行〜56頁左欄9行、右欄表2) 「2.グルタチオン高含有「酵母エキスYH」及び「酵母エキスYH15(仮称) 2.1 特徴 グルタチオンは,グルタミン酸,システイン,グリシンの3種のアミノ酸よりなるトリペプチドで,一般に酵母や動物の肝臓中に高濃度で分布し,さらに植物,微生物にも微量存在する(表1)。 「酵母エキスYH」はグルタチオン高含有酵母を純粋培養し、熱水抽出法により酵母内容成分を抽出し,乾燥・製品化している。この「酵母エキスYH」は還元型グルタチオンを8.0%以上含有することが最大の特徴であり,他にビタミン類も多く含まれている1)。 この食品は、健康食品の素材として長くご愛顧いただいてきたが,顧客より「グルタチオンがさらに高含有であれば,錠剤の大きさが小さくなり摂取しやすい」との要望が多かったこともあり,グルタチオン含量を15%と高めた「酵母エキスYH15(仮称)」を開発するに至った。この酵母エキスは、(1)(審決注:原文は丸数字であるが括弧内の数字で示す。以下、引用文献の記載における丸数字は全て同様に表記する。)添加量が約半分で機能訴求が可能になり,(2)添加量の低減によりバリエーションが豊富になった等,利便性が高くなり,さらにご愛顧いただけるものと期待している。この酵母エキスの品質規格を表2に示した。 」 (10−4)(57頁右欄9行〜18行) 「2.5 美肌効果 太陽光に含まれる紫外線はシミ,ソバカス,日焼けおよび皮膚がんの要因になると言われる。紫外線により細胞内に活性酸素が生じ,肌が炎症を起こし,メラニン色素が生成される。またシミはメラニンとリボフスチン等の過酸化脂質が結合して生じるもので,メラニンの生成を阻害することが重要となる。グルタチオンはメラニン色素の生成に関与する酵素チロシナーゼの活性を阻害する働きがある。」 (2)引用文献10に記載された発明 上記(1)の記載事項によれば、酵母エキスは食品であり(記載事項(10−1))、「酵母エキスYH」はグルタチオン高含有酵母を純粋培養し、熱水抽出法により酵母内容成分を抽出し、乾燥・製品化したものであり(記載事項(10−3))、グルタチオン含量を15%と高めた「酵母エキスYH15(仮称)」を開発したこと(記載事項(10−2)及び(10−3))が記載されている、そして、「酵母エキスYH15(仮称)」の機能として、美肌効果があり、グルタチオンはメラニン色素の生成に関与する酵素チロシナーゼの活性を阻害する働きがあること(記載事項(10−4))が記載されている。 そうすると、引用文献10には、次の発明が記載されていると認められる。 「メラニン色素の生成に関与する酵素チロシナーゼの活性を阻害する働きがあるグルタチオンを15%含有する酵母抽出物を含む食品。」(以下、「引用発明10」という。) 2 引用文献11(美容食品素材の市場動向,食品と開発 8月号,2004年,Vol.39, No.8,p.43-49)に記載された事項及び引用文献11に記載された発明 (1)本願優先日前に頒布された引用文献11には、以下の記載がある。 (11−1)(48頁左欄13行〜20行) 「■グルタチオン高含有酵母 グルタチオンはグルタミン酸,システイン,グリシンという3つのアミノ酸が結びついた物質でメラニン色素の前駆物質を作るチロシナーゼ酵素の活性を阻害するとともに、過酸化脂質の生成を抑えてシミの発生を防ぐことが報告されている。」 (11−2)(48頁左欄31行〜38行) 「興人の販売しているグルタチオン高含有の「酵母エキスYH」も,美白作用を期待する美容食品用途で,ここ数年10%程のコンスタントな伸びを示している。「−YH」は,グルタチオン含量が8%以上と15%以上の2タイプあり,他の酵母エキスに比べて酵母臭が少ないのが特徴。」 (2)引用文献11に記載された発明 上記(1)の記載事項によれば、グルタチオン高含有の「酵母エキスYH」は、美白作用が期待される美容食品であり、グルタチオン含量が15%以上のタイプがあることが記載されている(記載事項(11−2))。そして、グルタチオンは、メラニン色素の前駆物質を作るチロシナーゼ酵素の活性を阻害する作用を有することが記載されている(記載事項(11−1))。 そうすると、引用文献11には、次の発明が記載されていると認められる。 「メラニン色素の前駆物質を作るチロシナーゼ酵素の活性を阻害する作用を有するグルタチオンを15%以上含有する酵母エキスを含有する美容食品。」(以下、「引用発明11」という。) 第5 引用発明10に基づく進歩性欠如 1 対比 本願発明と引用発明10を対比する。 引用発明10の「食品」は、本願発明の「飲食品」に含まれるものであるから、両者は、「グルタチオン含有酵母抽出物を含む飲食品」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点1 飲食品の用途が、本願発明では、「メラニン産生抑制用」であるのに対し、引用発明10ではそのような特定はない点 相違点2 本願発明では、酵母抽出物中のグルタチオン含量が、乾燥酵母抽出物中で17.68質量%以上であるのに対し、引用発明10では15%である点 相違点3 飲食品が、本願発明では、「グルタチオン含有酵母抽出物を含有するメラニン産生抑制剤を含有する」ことが特定されているのに対し、引用発明10ではそのような特定がない点 2 判断 (1)相違点1について 引用文献10には、「酵母エキスYH15(仮称)」の機能性として(記載事項(10−2))、美肌効果が記載されており(記載事項(10−4))、「美肌効果」の欄中において、グルタチオンは、メラニン色素の生成に関与する酵素チロシナーゼの活性を阻害する働きがあることが記載されている(記載事項(10−4))。つまり、グルタチオンはチロシナーゼの活性を阻害することにより、メラニンの産生を抑制する作用を有するといえる。 そうすると、引用発明10のグルタチオンを含有する食品の用途を、「メラニン産生抑制用」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2)相違点2について 摂取上の容易性をも考慮しつつ、その機能を発揮する成分の含有割合を高めることは、当業者が必要に応じ検討しかつ行い得た範囲のことであるし、また、引用文献10には、顧客からグルタチオンがさらに高含有である製品の要望があったことが記載されていること(記載事項(10−3))も併せ考慮すれば、引用発明10において、メラニン色素の生成に関与する酵素チロシナーゼの活性を阻害する働きがあるグルタチオン含有割合を15%からさらに高めること、及び、そうすることで当該グルタチオンによりさらに高められた酵素チロシナーゼ活性阻害作用を通じてメラニン色素の生成をより一層良好に抑えようとすることは、当業者にとり容易に想起し得た範囲のことである。 そして、本願明細書の【0014】には、「酵母抽出物中のグルタチオン含量が15%以上となるためには、培養酵母中のグルタチオン含量ができるだけ高いものから、前述の抽出法により酵母抽出物を抽出する方が効率がよい。酵母中のグルタチオン含量を高める方法としては、公知の方法で良い。例えば、培地中に亜鉛イオンを添加する方法(特開2000−279164号公報)、カドミウム耐性、マクロライド系抗生物質耐性を指標としたグルタチオン高含有酵母株の取得方法(特開2006−42637号公報、特開2006−42638号公報)がある。特開2011−103789号公報のように変異酵母菌体から抽出することでも得ることができる。また、一般に販売されている酵母抽出物を使用することもできる。例えば、興人ライフサイエンス社製の「ハイチオンエキス」YH−15、YH−D18等がある。」と記載されている。この【0014】には、本願優先日当時に公知である文献が複数列挙されて、酵母中のグルタチオン含量を高めるための手段が記載されていることからみて、本願優先日当時、酵母抽出物中のグルタチオン含量を高めるための手段は技術常識であったといえる。 そうすると、そのような技術常識である手段を用いて、引用発明10における酵母抽出物中のグルタチオン含量である15%をさらに高めて、「乾燥酵母抽出物中で17.86質量%以上」とすることは、当業者が容易になし得たことである。 また、本願明細書の【0016】の「本発明は、酵母抽出物中の成分とグルタチオンの相乗効果であるため、グルタチオン含有量が低い又は、グルタチオンが含まない酵母抽出物にグルタチオンを添加することでもグルタチオン含有酵母抽出物とすることができる。」との記載によると、本願発明は、酵母抽出物にグルタチオンを添加する態様をも含むものである。そうすると、引用発明10において、酵母抽出物中のグルタチオン含量を高めようと想起した当業者にとって、酵母抽出物にさらにグルタチオンを添加することによって、「乾燥酵母抽出物中で17.86質量%以上」とすることは、容易になし得たことである。 (3)相違点3について 引用文献10には、引用発明10の認定の基になった「酵母エキスYH15(仮称)」の機能性として、美肌効果が記載されている(記載事項(10−4)の「2.5」の項)。そして、この「2.5 美肌効果」の項において、グルタチオンは、メラニン色素の生成に関与する酵素チロシナーゼの活性を阻害する働きがあることが記載されている(記載事項(10−4))。そうすると、グルタチオンは、チロシナーゼの活性を阻害することにより、メラニンの産生を抑制する作用を有するものであるから、引用発明10におけるグルタチオン含有酵母抽出物は、メラニン産生抑制剤であるといえる。 そうすると、この相違点3は、実質的な相違点ではないし、仮に相違点であるとしても、グルタチオンが有するメラニン抑制作用を考慮すれば、グルタチオン含有酵母抽出物を「メラニン産生抑制剤」と表現することは、当業者が容易になし得ることである。 (4)効果について 本願明細書には、グルタチオン含有酵母抽出物は、グルタチオン単独と比較して2倍以上のメラニン産生抑制効果を有することが示されているが(実施例1及び図1)、引用発明10も、グルタチオンを含有する酵母抽出物を含むものであるし、また、上記(2)での検討結果を踏まえて引用発明10における酵母抽出物中のグルタチオン含量をさらに17.68質量%かそれ以上に高めれば、当該高められた量のグルタチオンにより一層のメラニン産生抑制効果が付加され、以て上記実施例1の抽出物と同様かそれ以上の効果を奏することができることは、当業者であれば容易に予測できるものである。 また、仮に、上記実施例1の酵母抽出物が、例えば引用発明10の酵母抽出物にさらにグルタチオンを追加してグルタチオン含量17.68質量%以上としたものと比較して、予想外のメラニン産生抑制効果をもたらし得るものであるとしても、当該実施例1の酵母抽出物は、本願明細書【0025】〜【0027】記載の特定の抽出工程を経てなるものであって、当該実施例1の酵母抽出物を用いた図1の試験結果は、本願発明に係るあらゆる任意の「グルタチオン含有酵母抽出物」(なお、これには、【0016】にみられるような、酵母抽出物にグルタチオンを追加的に添加してグルタチオン含有量17.68質量%かそれ以上としたものも含まれる)を採用した場合でも、当該実施例1の酵母抽出物によりもたらされるのと同様のメラニン産生抑制効果がもたらされることまでをも裏付けるものとはいえない。 (5)請求人の主張 ア 請求人は、令和3年11月21日受付の意見書において、次の(ア)及び(イ)の点を主張する。 主張(ア) 合議体は、令和3年9月17日付け拒絶理由通知において、上記相違点3に関して、グルタチオンはメラニン産生を抑制する作用を有するものであるから、引用発明10におけるグルタチオン含有酵母抽出物は、メラニン産生抑制剤であるといえること、及び、仮に相違点であるとしても、グルタチオンが含有するメラニン抑制作用を考慮すれば、グルタチオン含有酵母抽出物を「メラニン産生抑制剤」と表現することは、当業者が容易になし得ることである旨認定したが、参考資料1(特開2001−288052号公報)には、酵母抽出物を用いることにより、チロシナーゼ活性を促進し、メラニン産生を促進することが示されているように、酵母抽出物は必ずしもメラニン産生を抑制するわけではないから、引用文献10に、グルタチオンのメラニン抑制作用が記載されていたとしても、本願発明の特定の酵母抽出物を含有するメラニン産生抑制剤は、当業者が容易に想到し得るものではない。 主張(イ) 本願明細書の実施例1は、還元型グルタチオン換算で最終濃度が1.0mMとした上で、本願特定の酵母抽出物はグルタチオン単独と比較して2倍以上のメラニン産生抑制効果を有することを見出したものであり、このような効果は、グルタチオンと酵母抽出物との相乗効果によるものである一方で、引用文献10には、本願のような同濃度のグルタチオン単独と比較した特定の酵母抽出物の効果について記載も示唆もされていないから、引用文献10は本願特定の酵母抽出物を含有するメラニン産生抑制用飲食品を開示する又は示唆するものではない。 イ 請求人の主張に対する合議体の判断 主張(ア)について 請求人は上記意見書において、参考資料1を挙げて、酵母抽出物は必ずしもメラニン産生を抑制するわけではない旨主張するので、参考資料1である特開2001−288052号公報について検討する。 参考資料1には、次の記載がある。 「【請求項1】 シラカバ、キナ、ボダイジュ、アセンヤク、ラベンダー、イラクサ、オトギリソウ、オウレン、酵母、トウキンセンカ及びオウギから選ばれる植物抽出物及び微生物抽出物の1種又は2種以上を有効成分とすることを特徴とするチロシナーゼ活性促進剤。」 「【0013】ここで、本発明のチロシナーゼ活性促進剤は、下記に示した植物及び微生物を抽出原材料とする。 【0014】・・・上記酵母は、サッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母を原材料として用いる。・・・」 このように、参考資料1には、特定の酵母であるサッカロミセス属に属する酵母を原材料とした抽出物は、チロシナーゼ活性促進剤の有効成分となることが記載されているに過ぎないし、グルタチオン及びその含有量とチロシナーゼ活性促進作用との関連について記載も示唆もない。したがって、参考資料1の記載は、上記(3)で説示した、グルタチオンはメラニン産生を抑制する作用を有するものであるから、引用発明10におけるグルタチオン含有酵母抽出物はメラニン産生抑制剤である、もしくは、グルタチオンが有するメラニン抑制作用を考慮すれば、グルタチオン含有酵母抽出物を「メラニン産生抑制剤」と表現することは、当業者が容易になし得ることであるとの認定を否定する根拠にはならない。 よって、当該請求人の主張は採用できない。 主張(イ)について 請求人は、本願発明は、グルタチオンと酵母抽出物を含むことにより、メラニン産生抑制に関する相乗効果を奏するものである旨主張するが、上記(4)で説示したとおり、引用発明10も、グルタチオン及び酵母抽出物を含むものであって、両者を含有する「酵母エキスYH15(仮称)」の機能性として美肌効果があることが記載されているし、また、上記(2)での検討結果を踏まえて引用発明10における酵母抽出物中のグルタチオン含量をさらに17.68質量%かそれ以上に高めれば、当該高められた量のグルタチオンにより一層のメラニン産生抑制効果が付加され、以て上記実施例1の抽出物と同様かそれ以上の効果を奏することができることは、当業者であれば容易に予測できるものである。 ところで、請求人は、上記意見書において、「本願特定の酵母抽出物はグルタチオン単独と比較して2倍以上のメラニン産生抑制効果を有することを見出した」とか、「引用文献10には、本願のような同濃度のグルタチオン単独と比較した特定の酵母抽出物の効果について記載も示唆もなされていない」などと主張していることから、特定の酵母抽出物をグルタチオンと併用したことにより、引用文献10の記載から当業者が予測できる範囲を超える効果を奏する旨主張していると解釈したとしても、本願発明では単に「グルタチオン含有酵母抽出物」と記載するのみであって、酵母抽出物を実施例1で使用された特定のものに限定したものでもないから、当該主張は請求項の記載に基づかないものである。 よって、請求人の当該主張は採用できない。 3 小括 以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 引用発明11に基づく進歩性欠如 1 対比 本願発明と引用発明11を対比する。 引用発明11の「酵母エキス」は、本願発明の「酵母抽出物」に相当する。 また、引用発明11の「美容食品」は、本願発明の「飲食品」に含まれるものである。 そうすると、両者は、「グルタチオン含有酵母抽出物を含む飲食品」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点4 飲食品の用途が、本願発明では、「メラニン産生抑制用」であるのに対し、引用発明11ではそのような特定はない点 相違点5 本願発明では、酵母抽出物中のグルタチオン含量が、乾燥酵母抽出物中で17.68質量%以上であるのに対し、引用発明11では15%以上である点 相違点6 飲食品が、本願発明では、「グルタチオン含有酵母抽出物を含有するメラニン産生抑制剤を含有する」のに対し、引用発明11ではそのような特定がない点 2 判断 (1)相違点4について グルタチオンは、メラニン色素の前駆物質を作るチロシナーゼ酵素の活性を阻害する働きがあるから(記載事項(11−1))、チロシナーゼの活性を阻害することにより、メラニンの産生を抑制する作用を有するものである。そうすると、引用発明11のグルタチオンを含有する食品の用途を、「メラニン産生抑制用」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2)相違点5について 摂取上の容易性をも考慮しつつ、その機能を発揮する成分の含有割合を高めることは、当業者が必要に応じ検討しかつ行い得た範囲のことであるから、引用発明11において、メラニン色素の前駆物質を作るチロシナーゼ酵素の活性を阻害する働きがあるグルタチオン含有割合を15%以上からさらに高めること、及び、そうすることで当該グルタチオンによりさらに高められた酵素チロシナーゼ活性阻害作用を通じてメラニン色素の生成をより一層良好に抑えようとすることは、当業者にとり容易に想起し得た範囲のことである。 そして、本願明細書の【0014】には、「酵母抽出物中のグルタチオン含量が15%以上となるためには、培養酵母中のグルタチオン含量ができるだけ高いものから、前述の抽出法により酵母抽出物を抽出する方が効率がよい。酵母中のグルタチオン含量を高める方法としては、公知の方法で良い。例えば、培地中に亜鉛イオンを添加する方法(特開2000−279164号公報)、カドミウム耐性、マクロライド系抗生物質耐性を指標としたグルタチオン高含有酵母株の取得方法(特開2006−42637号公報、特開2006−42638号公報)がある。特開2011−103789号公報のように変異酵母菌体から抽出することでも得ることができる。また、一般に販売されている酵母抽出物を使用することもできる。例えば、興人ライフサイエンス社製の「ハイチオンエキス」YH−15、YH−D18等がある。」と記載されている。この【0014】では、本願優先日当時に公知である文献を複数挙げて、酵母中のグルタチオン含量を高めるための手段が記載されていることからみて、本願優先日当時、酵母抽出物中のグルタチオン含量を高めるための手段は技術常識であったといえる。 そうすると、そのような技術常識である手段を用いて、引用発明11における酵母抽出物中のグルタチオン含量をさらに高めて、「乾燥酵母抽出物中で17.86質量%以上」とすることは、当業者が容易になし得たことである。 また、本願明細書の【0016】の「本発明は、酵母抽出物中の成分とグルタチオンの相乗効果であるため、グルタチオン含有量が低い又は、グルタチオンが含まない酵母抽出物にグルタチオンを添加することでもグルタチオン含有酵母抽出物とすることができる。」との記載によると、本願発明は、酵母抽出物にグルタチオンを添加する態様をも含むものである。そうすると、引用発明11において、酵母抽出物中のグルタチオン含量を高めようと想起した当業者にとって、酵母抽出物にさらにグルタチオンを添加することによって、「乾燥酵母抽出物中で17.86質量%以上」とすることは容易になし得たことである。 (3)相違点6について 引用文献11には、グルタチオン含量が8%以上又は15%以上の2つのタイプがある「酵母エキスYH」について、美白作用が期待されることが記載されている(記載事項(11−1))。 そして、グルタチオンは、メラニン色素の前駆物質を作るチロシナーゼ酵素の活性を阻害する働きがあるものであるから(記載事項(11−1))、チロシナーゼの活性を阻害することにより、メラニンの産生を抑制する作用を有するものである。そうすると、引用発明11におけるグルタチオン含有酵母抽出物は、メラニン産生抑制剤であるといえる。 そうすると、この相違点6は、実質的な相違点ではないし、仮に相違点であるとしても、グルタチオンが有するメラニン抑制作用を考慮すれば、グルタチオン含有酵母抽出物を「メラニン産生抑制剤」と表現することは、当業者が容易になし得ることである。 (4)効果について 本願明細書には、グルタチオン含有酵母抽出物は、グルタチオン単独と比較して2倍以上のメラニン産生抑制効果を有することが示されているが(実施例1及び図1)、引用発明11も、グルタチオンを含有する酵母抽出物を含むものであるし、また、上記(2)での検討結果を踏まえて引用発明11における酵母抽出物中のグルタチオン含量をさらに17.68質量%かそれ以上に高めれば、当該高められた量のグルタチオンにより一層のメラニン産生抑制効果が付加され、以て上記実施例1の抽出物と同様かそれ以上の効果を奏することができることは、当業者であれば容易に予測できるものである。 また、仮に、上記実施例1の酵母抽出物が、例えば引用発明11の酵母抽出物にさらにグルタチオンを追加してグルタチオン含量17.68質量%以上としたものと比較して、予想外のメラニン産生抑制効果をもたらし得るものであるとしても、当該実施例1の酵母抽出物は、本願明細書【0025】〜【0027】記載の特定の抽出工程を経てなるものであって、当該実施例1の酵母抽出物を用いた図1の試験結果は、本願発明に係るあらゆる任意の「グルタチオン含有酵母抽出物」(なお、これには、【0016】にみられるような、酵母抽出物にグルタチオンを追加的に添加してグルタチオン含有量17.68質量%かそれ以上としたものも含まれる)を採用した場合でも、当該実施例1の酵母抽出物によりもたらされるのと同様のメラニン産生抑制効果がもたらされることまでをも裏付けるものとはいえない。 (5)請求人の主張 請求人は、上記意見書において、上記第5 2(5)アに記載した主張(ア)と同様の主張をするが、この点については、上記第5 2 (5)イで説示したとおりであって、請求人の主張は採用できない。 3 小括 以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献11に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2021-12-13 |
結審通知日 | 2021-12-14 |
審決日 | 2021-12-27 |
出願番号 | P2016-511540 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61K)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
岡崎 美穂 |
特許庁審判官 |
大久保 元浩 冨永 みどり |
発明の名称 | グルタチオンを含む酵母抽出物のメラニン産生抑制剤としての利用 |