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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02B
管理番号 1385607
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-28 
確定日 2022-06-02 
事件の表示 特願2018−154217「大型往復ピストン燃焼エンジン、ならびにそのようなエンジンを制御する制御機器および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年1月10日出願公開、特開2019−2406〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年7月12日(パリ条約による優先権主張2012年7月17日 欧州特許庁)に出願した特願2013−146160号の一部を平成30年8月20日に新たな特許出願としたものであって、令和2年6月26日付けで拒絶査定がされた。これに対し、令和2年10月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和3年4月26日付けで当審により拒絶理由が通知され、令和3年10月22日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願発明は、令和3年10月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜11に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「シリンダライナを備える少なくとも一つのシリンダと、前記シリンダライナ内に可動式に配置された少なくとも一つのピストンと、クランクシャフトハウジング内に回転可能に配置されたクランクシャフトとを有する大型往復ピストン燃焼エンジンであって、
前記ピストンは、何れの場合も、ピストンロッドを介してクロスヘッドに接続され、前記クロスヘッドは、何れの場合も、接続ロッドを介して前記クランクシャフトに接続され、前記クランクシャフトが駆動され、
制御装置が設けられて、当該往復ピストン燃焼エンジンの圧縮比が制御され、前記制御装置は、クロスヘッドまたはクロスヘッドピンに提供されて、前記ピストンロッドを、前記クロスヘッドに対する距離を変化させるように移動させるようになっており、
前記クロスヘッドは、前記ピストンロッドの直線移動を前記接続ロッドの非直線移動に変換することを特徴とする大型往復ピストン燃焼エンジン。」


第3 令和3年4月26日付け拒絶理由の概要
令和3年4月26日付けで当審により通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)は以下の理由を含むものである。

進歩性)本件出願の請求項1〜11に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等
1. 特開2005−113843号公報
2. 特公昭63−52221号公報
3. 特開昭64−35029号公報


第4 当審の判断
1.引用文献の記載事項及び引用発明
(1)引用文献1記載事項
当審拒絶理由に引用し、本願の優先権主張の日前に頒布された上記引用文献1には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0023】
図1および2には、主軸受3を介してクランク軸4が設置された台板2から構築された大型のマルチシリンダ2ストロークターボ過給ディーゼルエンジン1が示してある。この種のエンジンのシリンダの数は、通常は4〜12である。便宜上、1つのシリンダの断面図しか示していない。台板2は、溶接された縦桁と、鋳鋼の軸受支持体を有する溶接された横桁とからなっている。
【0024】
エンジン1のピストン5は、クロスヘッド8によって接続ロッド7に連結されたピストンロッド6を介してクランク軸4に接続されている。
【0025】
台板2に、溶接設計されたエンジンフレーム9が取り付けられている。エンジンフレーム9に、縦に延びる外壁10とシリンダライナ12を保持する天板11が設けてある。ここで、天板11に、エンジンのシリンダ数に等しい数の貫通穿孔が一列に設けてあり、各穿孔にシリンダライナ12が収容されている。掃気口が設けてあるシリンダライナ12の下部は、エンジンフレーム9まで延びている。」
イ 「【0027】
図3を参照すると、ガイドシュー15を介してクロスヘッド8に作用する横方向の力を受けるための垂直ガイド面14は、例えば溶接等によって横補剛材13に設置される。横補剛材13の両側に、2つのガイド面14が横方向に対向して配置され、その間にクロスヘッドのガイドシュー15が設けてある。クロスヘッド8の各側に1つの横補剛材13が設けてあるため、各クロスヘッドに尽きガイド面14が4つある。4つのガイド面14のうち2つは該当するクロスヘッド8の片側の横補剛材13に設置され、残る2つのガイド面14はクロスヘッド8の反対側の横補剛材13に設置される。ガイド面14は上方に延び、天板11まで到達する。エンジンフレームの上方の領域でガイド面14同士を接続するために上部16が設けてある。よって、クロスヘッドの片側の横補剛材13に設置されたガイド面14の上部は、クロスヘッド8の反対側の横補剛材に設置されたガイド面14に接続される。好ましい実施形態によれば、上部16は、エンジンの全長に渡る単一の貫通板である。」
ウ 「【図1】


エ 「【図2】


オ 「【図3】



(2)引用発明
上記記載を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「シリンダライナ12と、シリンダと、クロスヘッド8によって接続ロッド7に連結されたピストンロッド6を介してクランク軸4に接続されているピストン5とを有する大型のマルチシリンダ2ストロークターボ過給ディーゼルエンジン1。」

2.対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「シリンダライナ12と、シリンダと」を有する態様は、シリンダがシリンダライナ12を備えるから、本願発明1の「シリンダライナを備える少なくとも一つのシリンダ」に相当する。
(2)引用発明の「ピストン5」は、シリンダライナ12内を上下に移動するように配置されていることが技術常識であるから、本願発明1の「前記シリンダライナ内に可動式に配置された少なくとも一つのピストン」に相当する。
(3)引用発明の「クランク軸4」は、クランクシャフトハウジング内に回転可能に配置されていることが技術常識であるから、本願発明1の「クランクシャフトハウジング内に回転可能に配置されたクランクシャフト」に相当する。
(4)引用発明の「クロスヘッド8によって接続ロッド7に連結されたピストンロッド6を介してクランク軸4に接続されているピストン5」の態様は、引用文献1の図1及び2を参照すると、ピストン5がピストンロッド6を介してクロスヘッド8に接続されていることであるから、本願発明1の「前記ピストンは、何れの場合も、ピストンロッドを介してクロスヘッドに接続され」る態様に相当する。
(5)引用発明の「クロスヘッド8によって接続ロッド7に連結されたピストンロッド6を介してクランク軸4に接続されているピストン5」の態様は、引用文献1の図1及び2を参照すると、クロスヘッド8が、接続ロッド7を介してクランク軸4に接続されており、ピストン5の上下動によりクランク軸4が駆動されるから、本願発明1の「前記クロスヘッドは、何れの場合も、接続ロッドを介して前記クランクシャフトに接続され、前記クランクシャフトが駆動され」る態様に相当する。
(6)引用発明の「クロスヘッド8によって接続ロッド7に連結されたピストンロッド6を介してクランク軸4に接続されているピストン5」の態様は、引用文献1の【0027】の記載を参照すると、ピストンロッド6が「ガイドシュー15と「ガイド面14」により直線移動すること、及び接続ロッド7が非直線移動することが明らかであり、クロスヘッド8がピストンロッド6の直線移動を接続ロッド7の非直線移動に変換していると表現できるから、本願発明1の「前記クロスヘッドは、前記ピストンロッドの直線移動を前記接続ロッドの非直線移動に変換する」態様に相当する。
(7)引用発明の「大型のマルチシリンダ2ストロークターボ過給ディーゼルエンジン1」は、「大型往復ピストン燃焼エンジン」と表現できるものである。

そうすると、本願発明1と引用発明とは、以下の一致点及び相違点でそれぞれ一致し、相違する。
<一致点>
「シリンダライナを備える少なくとも一つのシリンダと、前記シリンダライナ内に可動式に配置された少なくとも一つのピストンと、クランクシャフトハウジング内に回転可能に配置されたクランクシャフトとを有する大型往復ピストン燃焼エンジンであって、
前記ピストンは、何れの場合も、ピストンロッドを介してクロスヘッドに接続され、前記クロスヘッドは、何れの場合も、接続ロッドを介して前記クランクシャフトに接続され、前記クランクシャフトが駆動され、
前記クロスヘッドは、前記ピストンロッドの直線移動を前記接続ロッドの非直線移動に変換することを特徴とする大型往復ピストン燃焼エンジン。」

<相違点>
本願発明1は、「制御装置が設けられて、当該往復ピストン燃焼エンジンの圧縮比が制御され、前記制御装置は、クロスヘッドまたはクロスヘッドピンに提供されて、前記ピストンロッドを、前記クロスヘッドに対する距離を変化させるように移動させるようになって」いるのに対して、引用発明は、往復ピストン燃焼エンジンの圧縮比を制御する機構を有していない点。

3.判断
上記相違点について検討する。
クロスヘッドを有する内燃機関において、燃焼効率を向上させるために、圧縮比を可変とすることで最適な圧縮比とすることは、周知である(例えば、当審拒絶理由に引用した上記引用文献2の1欄13行〜3欄6行参照。)。
また、内燃機関の圧縮比可変装置として、コンロッドとピストンピンとの間に、回転量に応じてピストンのコンロッドに対する相対位置を変化させる偏心軸受を介装した圧縮比可変機構は、周知である(例えば、当審拒絶理由に引用した引用文献3の請求項1、図1〜4(C)、及び1頁右欄5行〜2頁左上欄14行、図5参照、並びに引用文献3の従来技術の欄に記載されている「実開昭61−204936号」(実願昭60−87585号)のマイクロフィルムの7頁1行〜10頁11行、第5図、第6図参照。)。
そうすると、引用発明において、燃焼効率の向上は自明の課題であって、圧縮比を可変として最適な圧縮比とすることで燃焼効率を向上できることが周知であるから、引用発明に上記周知の圧縮比可変機構を用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、上記周知の圧縮比可変機構は、ピストンピンにおいて、ピストンの直線移動をコンロッドの非直線移動に変換するものであって、直線移動を非直線移動に変換するピストンピンに偏心軸受を用いるものであるから、引用発明に適用した場合、直線移動するピストンロッド6と非直線移動する接続ロッド7とを回転自在に繋ぐクロスヘッド8を偏心軸受とすることとなり、その結果、圧縮比を可変とする制御装置が設けられて、マルチシリンダ2ストロークターボ過給ディーゼルエンジン1の圧縮比が制御され、前記制御装置は、クロスヘッド8に提供されて、ピストンロッド6を、クロスヘッド8に対する距離を変化させるように移動させると表現できるものとなる。
したがって、引用発明において、上記周知の事項を適用することで、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明1の奏する効果は、引用発明及び周知の事項から、当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものでない。

4.小括
ゆえに、本願発明1は、引用発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第5 まとめ
以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願発明は、特許法第29条第2項の規定を満たしていないから、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 山本 信平
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-01-05 
結審通知日 2022-01-06 
審決日 2022-01-18 
出願番号 P2018-154217
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 山本 信平
特許庁審判官 佐々木 正章
鈴木 充
発明の名称 大型往復ピストン燃焼エンジン、ならびにそのようなエンジンを制御する制御機器および方法  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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