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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1385632
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-19 
確定日 2022-06-23 
事件の表示 特願2016−166231「印刷物、印刷物を用いた容器及び印刷物の選別方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 1日出願公開、特開2018− 30355〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年8月26日の出願であって、令和2年3月26日付けで拒絶理由が通知され、同年5月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月29日付けで拒絶査定がされ、同年11月19日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明は、令和2年5月11日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
なお、令和2年11月19日に提出された手続補正書による補正は、明細書についての明瞭でない記載の釈明を目的とするものと判断されるものである。

「【請求項1】
基材上の任意の箇所に絵柄層を有する印刷物であって、前記印刷物は、前記基材の前記絵柄層を有する側の任意の箇所に表面保護層を有し、
前記表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物を含み、
前記表面保護層のうち前記印刷物の最表面に位置する表面保護層が下記の条件1−1及び1−2を満たす、印刷物。
<条件1−1>
JISZ8741:1997の、60度における鏡面光沢度G60の平均が6.0〜15.0%。
<条件1−2>
前記G60のバラツキが0.8%以上。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。

・請求項1−7に係る発明の条件1−2に係る「G60のバラツキ」について、一般にバラツキを表す指標としては標準偏差や分散など様々な異なる指標が存在し、単に「バラツキ」と記載するのみではどのように測定・算定される値であるのかが不明である。本願明細書には定義又はこれに代わる記載がなされているとはいえないし、本願明細書【0033】の「G60のバラツキは、9箇所の測定値のバラツキを意味するものとする」旨の記載を参酌しても、当該測定値から「G60のバラツキ」がどのように算定されるのかが不明である。
したがって、請求項1−7で特許を請求する範囲を明確に把握できない。

第4 当審の判断
明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、上記見地をふまえ、検討する。

2 特許請求の範囲の請求項1の記載
本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は上記第2のとおりである。

3 発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明にはおおむね次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。

・「【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の[1]〜[3]の印刷物、印刷物を用いた容器及び印刷物の選別方法を提供する。
[1]基材上の任意の箇所に絵柄層を有する印刷物であって、前記印刷物は、前記基材の前記絵柄層を有する側の任意の箇所に表面保護層を有し、前記表面保護層のうち前記印刷物の最表面に位置する表面保護層が下記の条件1−1及び1−2を満たす、印刷物。
<条件1−1>
JIS Z8741:1997の、60度における鏡面光沢度G60の平均が6.0〜15.0%。
<条件1−2>
前記G60のバラツキが0.8%以上。
[2]上記[1]に記載の印刷物を用いてなる容器。
[3]基材上の任意の箇所に絵柄層を有し、前記基材の前記絵柄層を有する側の任意の箇所に表面保護層を有する印刷物として、前記表面保護層のうち前記印刷物の最表面に位置する表面保護層が上記の条件1−1及び1−2を満たすか否かを判定し、満たすものを選別する、印刷物の選別方法。」

・「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[印刷物]
本発明の印刷物は、基材上の任意の箇所に絵柄層を有する印刷物であって、前記印刷物は、前記基材の前記絵柄層を有する側の任意の箇所に表面保護層を有し、前記表面保護層のうち前記印刷物の最表面に位置する表面保護層が下記の条件1−1及び1−2を満たすものである。
<条件1−1>
JIS Z8741:1997の、60度における鏡面光沢度G60の平均が6.0〜15.0%。
<条件1−2>
前記G60のバラツキが0.8%以上。」

・「【0027】
また、本発明の印刷物は、表面保護層のうち印刷物の最表面に位置する表面保護層が下記の条件1−1及び条件1−2を満たすことを要する。
【0028】
<条件1−1>
JIS Z8741:1997の、60度における鏡面光沢度G60の平均が6.0〜15.0%。
<条件1−2>
前記G60のバラツキが0.8%以上。
【0029】
G60の平均が6.0%未満であり条件1−1を満たさない場合、光沢が不足して、印刷物の高級感を優れたものとすることができない。また、G60の平均が15.0%を超えて条件1−1を満たさない場合、光沢が高すぎることにより、印刷物の自然な風合いを優れたものとすることができない。
条件1−1において、G60の平均は、6.5〜13.0%であることが好ましく、7.0〜12.0%であることがより好ましく、8.0〜10.0%であることがさらに好ましい。
【0030】
G60のバラツキが0.8%未満であり条件1−2を満たさない場合、天然物に特有の光沢のゆらぎが再現されておらず、自然物の風合いが不十分となる。
一方、G60のバラツキが大きすぎる場合、部分的に欠陥を有するような印象を与え、高級感が不十分となる場合がある。このため、条件1−2において、G60のバラツキは、0.8〜3.0%であることが好ましく、0.8〜2.5%であることがより好ましく、0.8〜2.0%であることがさらに好ましい。
【0031】
なお、自然な風合いを規定する手段として、表面形状による規定も考えられる。しかし、表面形状を規定するJIS B0601では、触針式の表面形状測定器より表面形状を測定することを規定しており、触針の先端半径は最小でも2μmであるため(JIS B0601で準用するJIS B0633)、触針が入り込めないような微細な凹凸(高周波の凹凸)を正確に測定することができない。
そこで、本発明では、微細な表面形状を間接的に表すことができる鏡面光沢度に着目し、鏡面光沢度により自然な風合いを表現している。
また、鏡面光沢度として「60度における鏡面光沢度」を採用した理由は以下の通りである。
【0032】
物品の表面凹凸は、傾斜角の小さい低周波の凹凸に対して、傾斜角が中程度の中周波の凹凸が重なり、さらに、傾斜角の大きい高周波の凹凸が重なることにより形成されている。そして、一般的な物品の表面凹凸を形成する割合は、低周波の凹凸が最も多く、次いで中周波の凹凸、次いで高周波の凹凸である。したがって、傾斜角分布を−90度〜+90度として傾斜角分布図を描くと、0度を最大値として、徐々に割合が低下していく正規分布(ガウシアン分布)曲線となる。
傾斜角と物品の見え方との関係は、傾斜角の小さい面が多い場合、鏡面光沢度は上昇して高級感は得られやすいが、人工的な印象を受けて自然な風合いが低下しやすい。一方、傾斜角の大きい面が多い場合、自然な風合いは良好となりやすいが、高級感が低下しやすい。
鏡面光沢度の測定光の入射角度をθ度としたとき、(90−θ)度以上の傾斜面には測定光が入射しない。即ち、JIS Z8741で規定する75度及び85度の鏡面光沢度は、測定値に反映されていない傾斜面の割合が多くなり過ぎるため、これらのパラメータ単独で自然な風合い及び高級感を表すのは適切ではないと考えられる。一方、JIS Z8741で規定する20度及び45度の鏡面光沢度は、測定値に反映される傾斜面の割合が多くなり過ぎてしまい、測定値に占める傾斜角の大きい面の寄与度が小さくなるため、これらのパラメータ単独で自然な風合いを表すのは適切ではないと考えられる。
以上の理由から、本発明では、60度における鏡面光沢度を採用している。
【0033】
本明細書において、60度鏡面光沢度G60の平均は、9箇所の測定の平均値を意味するものとする。また、60度鏡面光沢度G60のバラツキは、9箇所の測定値のバラツキを意味するものとする。60度鏡面光沢度G60を測定する9つの箇所は、任意の箇所を中心測定箇所として設定し、該中心測定箇所から幅方向の左右にそれぞれ2箇所、流れ方向の上下にそれぞれ2箇所とすることが好ましい。その際、各測定箇所の間隔は任意である。
なお、印刷物が後述する金属光沢層を有する場合、60度鏡面光沢度G60は、金属光沢層を有さない箇所で測定するものとする。」

・「【0061】
[印刷物の選別方法]
本発明の印刷物の選別方法は、基材上の任意の箇所に絵柄層を有し、前記基材の前記絵柄層を有する側の任意の箇所に表面保護層を有する印刷物として、前記表面保護層のうち前記印刷物の最表面に位置する表面保護層が下記の条件1−1及び1−2を満たすか否かを判定し、満たすものを選別するものである。
<条件1−1>
JIS Z8741:1997の、60度における鏡面光沢度G60の平均が6.0〜15.0%。
<条件1−2>
前記G60のバラツキが0.8%以上。
【0062】
判定条件1−1のG60の平均は、6.5〜13.0%であることが好ましく、7.0〜12.0%であることがより好ましく、8.0〜10.0%であることがさらに好ましい。
判定条件1−2のG60のバラツキは、0.8〜3.0%であることが好ましく、0.9〜2.5%であることがより好ましく、1.0〜2.0%であることがさらに好ましい。」

・「【実施例】
【0066】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
【0067】
1.測定及び評価
実施例及び比較例で作製した印刷物、並びに参考例の印刷物について、以下の測定及び評価を行った。結果を表1又は表2に示す。
【0068】
1−1.表面形状
実施例1〜3の印刷物の最表面に位置する表面保護層、比較例1〜2の印刷物の最表面に位置する表面保護層、並びに参考例1〜4で用いた基材について、カットオフ値を2.5mmとした際の、JIS B0601:2001の算術平均粗さRa、JIS B0601:2001の最大高さRz、JIS B0601:2001の粗さ曲線の最大谷深さRvを測定した。なお、測定は小坂研究所株式会社製の商品名SE−340を用い、以下の測定条件とした。
[表面粗さ検出部の触針]
小坂研究所社製の商品名SE2555N(先端曲率半径:2μm、頂角:90度、材質:ダイヤモンド)
[表面粗さ測定器の測定条件]
・評価長さ(基準長さ):カットオフ値λcの5倍
・触針の送り速さ:0.5mm/s
・予備長さ:(カットオフ値λc)×2
・縦倍率:2000倍
・横倍率:10倍
【0069】
1−2.鏡面光沢度
実施例1〜3の印刷物の最表面に位置する表面保護層、比較例1〜2の印刷物の最表面に位置する表面保護層、並びに参考例1〜4で用いた基材について、測定器としてBYK Gardner社のmicro−TRI−glossを用いて、JIS Z8741:1997の、60度における鏡面光沢度G60を測定した。
【0070】
1−3.自然な風合い
印刷物を様々な角度から観察し、天然物のような光沢のゆらぎを有するか否かをポイントとして自然な風合いを評価した。自然な風合いに感じるものを2点、どちらとも言えないものを1点、自然な風合いに感じないものを0点として、20人の被験者が評価を行い、平均点を算出した。平均点が1.7以上のものを「A」、平均点が1.4以上1.7未満のものを「B」、平均点が1.0以上1.4未満のものを「B−」、平均点が1.0未満のものを「C」とした。
【0071】
1−4.高級感
高級感を感じるものを2点、どちらとも言えないものを1点、高級感を感じないものを0点として、20人の被験者が印刷物の高級感について評価を行い、平均点を算出した。平均点が1.4以上のものを「A」、平均点が1.0以上1.4未満のものを「B」、平均点が1.0未満のものを「C」とした。
【0072】
1−5.素朴な質感
表面が適度に荒れていて、人間の手が過度に加わっていない印象を受けることをポイントとして、印刷物の素朴な質感を評価した。質感が素朴に感じるものを2点、どちらとも言えないものを1点、質感が素朴に感じないものを0点として、20人の被験者が評価を行い、平均点を算出した。平均点が1.7以上のものを「AA」、平均点が1.4以上1.7未満のものを「A」、平均点が1.0以上1.4未満のものを「B」、平均点が1.0未満のものを「C」とした。
【0073】
2.印刷物の作製
[実施例1]
紙基材(坪量:270g/m2、コートボール紙、日本製紙社製、商品名:コラボファインW)の一方の面(印刷面の紙基材の表面形状:Ra2.5μm、Rz16.8μm、Rv10.2μm、Rvのバラツキ1.0μm)の全面に、厚み1μmのクリーム色の第1絵柄層をオフセット印刷により形成した。次いで、第1絵柄層上に、厚み1μmのセピア色の第2絵柄層をオフセット印刷により部分的に形成した。第1絵柄層及び第2絵柄層により、天然素材を表現した絵柄(クラフト紙を表現した絵柄)を形成した。さらに、任意の箇所に、黒色の文字情報からなる厚み1μmの第3絵柄層をオフセット印刷により形成し、第1絵柄層〜第3絵柄層からなる絵柄層を形成した。なお、第1絵柄層〜第3絵柄層のインキは無溶剤であり、樹脂成分の100%は電離放射線硬化性樹脂組成物であった。
次いで、絵柄層上に、無溶剤の表面保護層形成用インキ1(DICグラフィックス社製、商品名:UVカルトン ACT OPニス、回転数400rpmでのタック値:5.0、樹脂成分の100%は電離放射線硬化性樹脂組成物)をオフセット印刷により塗布、紫外線照射して、厚み1μmの表面保護層を形成し、実施例1の印刷物を得た。
なお、タック値は、東洋精機製作所のインコメーター(型番:EM−1)を用いて測定した。
【0074】
[実施例2]
実施例1の無溶剤の表面保護層形成用インキ1に電離放射線硬化性化合物のモノマーを添加して、無溶剤の表面保護層形成用インキ2(回転数400rpmでのタック値:3.5、樹脂成分の100%は電離放射線硬化性樹脂組成物)を調製した。表面保護層形成用インキとして、該無溶剤の表面保護層形成用インキ2を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の印刷物を得た。
【0075】
[実施例3]
実施例1の無溶剤の表面保護層形成用インキ1に電離放射線硬化性化合物のオリゴマーを添加して、無溶剤の表面保護層形成用インキ3(回転数400rpmでのタック値:6.5、樹脂成分の100%は電離放射線硬化性樹脂組成物)を調製した。表面保護層形成用インキとして、該無溶剤の表面保護層形成用インキ3を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例3の印刷物を得た。
【0076】
[比較例1]
実施例1の無溶剤の表面保護層形成用インキ1を、無溶剤の表面保護層形成用インキ4(DICグラフィックス社製、商品名:UVカルトンドライオフ箔押し用マットOPニス、マット剤を5〜10質量%含有、回転数400rpmでのタック値:4.0、樹脂成分の100%は電離放射線硬化性樹脂組成物)に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例1の印刷物を得た。
【0077】
[比較例2]
実施例1の無溶剤の表面保護層形成用インキ1を、無溶剤の表面保護層形成用インキ5(DICグラフィックス社製、UVクリアーEX 1085 コートニス、回転数400rpmでのタック値:測定不能、樹脂成分の100%は電離放射線硬化性樹脂組成物)に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の印刷物を得た。
【0078】
[参考例1]
市販のクラフト紙(レンゴー社製、商品名:CRKKH、坪量:370g/m2)上の任意の箇所に、実施例1と同様の第3絵柄層を形成し、参考例1の印刷物を得た。
【0079】
[参考例2]
市販のクラフト紙(クリアウォーター社製、商品名:CKB、坪量:290g/m2)上の任意の箇所に、実施例1と同様の第3絵柄層を形成し、参考例2の印刷物を得た。
【0080】
[参考例3]
実施例1と同じ紙基材上の任意の箇所に、実施例1と同様の第3絵柄層を形成し、参考例3の印刷物を得た。
【0081】
[参考例4]
市販のコート紙(日本製紙社製、商品名:JETエースW、坪量:260g/m2)上の任意の箇所に、実施例1と同様の第3絵柄層を形成し、参考例4の印刷物を得た。
【0082】
【表1】

【0083】
表1の結果から、条件1−1及び1−2を満たす実施例1〜3の印刷物は、自然な風合い及び高級感に優れ、意匠性に極めて優れることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の印刷物及び容器は、自然な風合い及び高級感に優れ、意匠性に極めて優れる点で有用である。また、本発明の印刷物の選別方法は、自然な風合い及び高級感を兼ね備えた印刷物を正確に選択することができる点で有用である。」

4 判断
本願発明の発明特定事項である「G60」及び「G60のバラツキ」に関する発明の詳細な説明の記載は上記3のとおりであり、発明の詳細な説明には、「G60」について、その定義及び具体的な求め方が記載されているものの、「G60のバラツキ」については、【0033】に「9箇所の測定値のバラツキを意味する」ことが記載され、【0007】、【0010】、【0028】及び【0061】に「0.8%以上」であることが記載され、【0030】及び【0062】に「0.8〜3.0%であることが好ましく、0.9〜2.5%であることがより好ましく、1.0〜2.0%であることがさらに好ましい」ことが記載され、【0082】の【表1】に実施例及び比較例の値が記載されているにとどまり、「G60のバラツキ」の定義及びその具体的な求め方は記載されていない。
ところで、「バラツキ」を表す指標として、一般に、平均値に対する個々のデータの差(偏差)の平方和をデータ数で除した値である「分散」、「分散」の正の平方根である「標準偏差」、偏差の絶対値の和をデータ数で除した値である「平均偏差」及び「標準偏差」をデータの平均値で除した値である「変動係数」等の指標があることが認められ、これを、本願の「G60のバラツキ」について当てはめてみると、データである「G60」の単位は「%」であるから、「分散」の単位の次元は「%」の二乗となり、「標準偏差」の単位の次元は「%」となり、「平均偏差」の単位の次元は「%」となり、「変動係数」の単位の次元は無次元となるため、「平均偏差」が一般的な指標としてはいえないと仮定したとき、一見すると、本願の「G60のバラツキ」は「標準偏差」を意味するものと推認されるようにいえなくもない。
しかし、例えば、特開2016―58682号公報の【0033】に「複数のオン抵抗値の標準偏差(σ)及び平均値(Av)を算出し、平均値(Av)に対する3σの比%として、ばらつきV%が算出される。」と、「バラツキ」を表す指標として「標準偏差」を3倍したものを用いることが記載されており、この場合も単位の次元は「%」になる。
そうすると、本願において、「G60のバラツキ」の単位が「%」であるからといって、「G60のバラツキ」が一義的に「標準偏差」を示すことが当業者の出願時の技術常識から明らかであるとはいえない。
したがって、本願発明の発明特定事項である「G60のバラツキ」の意味について、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載からも、また、当業者の出願時の技術常識を考慮しても、明確であるとはいえない。
よって、本願発明に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎としても、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。

5 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において「拒絶理由通知に対する意見書でも述べましたように、本願発明における条件1−2のバラツキの単位は「%」であり、「標準偏差」は分散の正の平方根であり、単位の次元はデータの単位であることに鑑みますと、本願発明における「バラツキ」とは、「標準偏差」であることは、当業者は十分に理解できると考えます。
審査官殿は、平均偏差も単位の次元がデータの単位と同一の指標であるとご指摘されています。しかしながら、平均偏差は、例えば下記ウェブサイトに記載されていますように、数学的取り扱いが不便であることから一般的な指標ではありません。当該ウェブサイトでも『標準偏差の方が多用される』と記載されています。敢えて平均偏差等の一般的ではない指標を用いるのであれば、その旨を記載するのが通常であるところ、単に「バラツキ」と記載されていることから、印刷分野に限らずバラツキの指標として一般的に用いられる「標準偏差」と解釈することが妥当です。
参照ウェブサイト:https://kotobank.jp/word/%E5%B9%B3%E5%9D%87%E5%81%8F%E5%B7%AE-128853
従いまして、明細書の記載及び技術常識によれば、当業者であれば本願の「G60のバラツキ」を「標準偏差」であると一義的に理解可能であると思料いたします。
以上説明しました通り、本願請求項1〜7に係る発明は明確であると確信いたします。」と主張する。
そこで、該主張について検討する。
「標準偏差」の単位の次元がデータの単位と同じとなるからといって、上記4のとおり、「平均偏差」や「標準偏差」を3倍したものの単位の次元も「%」であるから、本願発明における「G60のバラツキ」が一義的に「標準偏差」であることにはならない。
また、上記ウェブサイトに、平均偏差が数学的取り扱いが不便であり、標準偏差の方が多用されることが記載されているとしても、本願発明における「G60のバラツキ」が一義的に「標準偏差」であることにはならない。
さらに、単に「バラツキ」と記載されている場合に、一義的に「標準偏差」と解釈することが妥当であることを示す証拠はない。
そうすると、本願発明における「G60のバラツキ」が一義的に「標準偏差」であることを当業者は十分に理解できるとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

6 むすび
したがって、本願発明に関して、本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第5 結語
上記第4のとおり、本願発明、すなわち請求項1に係る発明に関して、本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-04-22 
結審通知日 2022-04-26 
審決日 2022-05-09 
出願番号 P2016-166231
審決分類 P 1 8・ 537- Z (B32B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 加藤 友也
植前 充司
発明の名称 印刷物、印刷物を用いた容器及び印刷物の選別方法  
代理人 大谷 保  

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