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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1385649
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-11 
確定日 2022-06-17 
事件の表示 特願2017−548443「拡張現実パルスオキシメトリ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月22日国際公開、WO2016/149428、平成30年 5月17日国内公表、特表2018−512204〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)3月16日(パリ条約による優先権主張 2015年3月16日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和2年1月30日付けで拒絶理由が通知され、同年5月1日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月28日付けで拒絶査定されたところ、同年12月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和2年12月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年12月11日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「 【請求項1】
ユーザの酸素飽和度を決定するためのシステムであって、
a.前記ユーザの頭部に取り外し可能に結合可能な頭部搭載型部材と、
b.前記頭部搭載型部材に結合されている1つまたは複数の電磁放射エミッタであって、前記1つまたは複数の電磁放射エミッタは、可視スペクトルから赤外スペクトル内の少なくとも2つの異なる波長を伴う光を前記ユーザの眼のうちの少なくとも一方の方向に放出するように構成されており、かつ、前記ユーザの眼の網膜および強膜を含んでいる関連付けられた照射野を有している、1つまたは複数の電磁放射エミッタと、
c.前記頭部搭載型部材に結合されている1つまたは複数の電磁放射検出器であって、前記1つまたは複数の電磁放射検出器は、前記ユーザの眼の網膜または強膜の少なくとも1つの血管に衝突した後に反射された光を受け取るように構成されている、1つまたは複数の電磁放射検出器と、
d.前記1つまたは複数の電磁放射エミッタおよび1つまたは複数の電磁放射検出器に作用可能に結合されたコントローラであって、前記コントローラは、前記1つまたは複数の電磁放射エミッタに、光のパルスを放出させながら、また、前記1つまたは複数の電磁放射検出器に、前記放出された光のパルスに関連する光の吸収レベルを検出させることであって、前記波長のうちの第1の波長は、脱酸素化ヘモグロビンに敏感であるように選択されており、前記波長のうちの第2の波長は、酸素化ヘモグロビンに敏感であるように選択されている、ことと、前記1つまたは複数の電磁放射検出器によって検出された前記第1の波長を有する光によって前記第2の波長を有する光を除算した比率を決定することによって前記血管内の酸素飽和度レベルに比例する出力を生成することとを行うように構成されている、コントローラと
を備える、システム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年5月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「 【請求項1】
ユーザの酸素飽和度を決定するためのシステムであって、
a.前記ユーザの頭部に取り外し可能に結合可能な頭部搭載型部材と、
b.前記頭部搭載型部材に結合されている1つまたは複数の電磁放射エミッタであって、前記1つまたは複数の電磁放射エミッタは、可視スペクトルから赤外スペクトル内の少なくとも2つの異なる波長を伴う光を前記ユーザの眼のうちの少なくとも一方の方向に放出するように構成されている、1つまたは複数の電磁放射エミッタと、
c.前記頭部搭載型部材に結合されている1つまたは複数の電磁放射検出器であって、前記1つまたは複数の電磁放射検出器は、前記ユーザの眼の少なくとも1つの血管に衝突した後に反射された光を受け取るように構成されている、1つまたは複数の電磁放射検出器と、
d.前記1つまたは複数の電磁放射エミッタおよび1つまたは複数の電磁放射検出器に作用可能に結合されたコントローラであって、前記コントローラは、前記1つまたは複数の電磁放射エミッタに、光のパルスを放出させながら、また、前記1つまたは複数の電磁放射検出器に、前記放出された光のパルスに関連する光の吸収レベルを検出させることであって、前記波長のうちの第1の波長は、脱酸素化ヘモグロビンに敏感であるように選択されており、前記波長のうちの第2の波長は、酸素化ヘモグロビンに敏感であるように選択されている、ことと、前記1つまたは複数の電磁放射検出器によって検出された前記第1の波長を有する光によって前記第2の波長を有する光を除算した比率を決定することによって前記血管内の酸素飽和度レベルに比例する出力を生成することとを行うように構成されている、コントローラと
を備える、システム。」

2 補正の適否
(1)新規事項について
本願の国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下「翻訳文等」という。)には、「照射野」に関して段落【0023】に「図5を参照すると、例証目的のために、種々の統合された構成要素を特徴とする装着可能コンピューティング構成の頭部搭載可能構成要素(58)の上部直交図が、図示される。・・・例証的実施形態は、冗長構成を示し、右眼(13)用の1つの検出器デバイス(830;関連付けられた視野または捕捉野は、30である)および1つのエミッタデバイス(834;関連付けられた照射野は、826である)と、左眼(12)用の1つの検出器デバイス(828;関連付けられた視野または捕捉野は、28である)および1つのエミッタデバイス(832;関連付けられた照射野は、824である)とを伴う。・・・好ましくは、各エミッタ(832、834)は、LED等によって、約660nmおよび約940nm等の2つの波長において電磁放射を制御可能に放出するように構成され、好ましくは、照射野(824、826)は、眼の強膜の脈管または眼の網膜の脈管等の酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンを含む標的組織を照射するように配向され、エミッタは、制御されたパルス状放出周期を用いて、同時に、または逐次的に、両波長を放出するように構成されてもよい。・・・」と、「照射野(824、826)は、眼の強膜の脈管または眼の網膜の脈管等の酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンを含む標的組織を照射する」旨記載されているのみであり、これらの記載から見て、網膜または強膜のいずれかに照射することにより、網膜または強膜のいずれかの脈管の状況を観察することが前提とされていることは明らかである。
一方、本件補正により追加された「照射野」が「前記ユーザの眼の網膜」と「強膜」とをともに含む構成である「前記ユーザの眼の網膜および強膜を含んでいる関連付けられた照射野を有している」構成及び「前記ユーザの眼の網膜または強膜の少なくとも1つの血管に衝突した後に反射された光を受け取るように構成」は、網膜及び強膜を同時に照射し、その照射野において網膜または強膜の血管に衝突した後に反射された光の内のいずれか一方を選択する構成を含むよう特定されているということになり、該構成は翻訳文等には記載されていない。
そして、上記補正により追加された「前記ユーザの眼の網膜および強膜を含んでいる関連付けられた照射野を有している」構成及び「前記ユーザの眼の網膜または強膜の少なくとも1つの血管に衝突した後に反射された光を受け取るように構成」の内、網膜及び強膜を同時に照射し、その照射野において網膜または強膜の血管に衝突した後に反射された光の内のいずれか一方を選択する構成は、翻訳文等には記載がなく、翻訳文等から自明でもないから、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。したがって、本件補正は、翻訳文等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2)特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて
前記(1)のとおり、本件補正は翻訳文等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえないが、仮に、上記補正により追加された「前記ユーザの眼の網膜および強膜を含んでいる関連付けられた照射野を有している」構成が翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であったとすると、本件補正は、「システム」が有する「照射野」が「前記ユーザの眼の網膜および強膜を含んでいる関連付けられた」ものであり、「少なくとも1つの血管に衝突した後に反射された光」が「前記ユーザの眼の網膜または強膜」からのものである旨の限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

イ 引用文献の記載事項
(ア)引用文献1
a 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、米国特許出願公開第2007/0270673号明細書(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(引1a)「[0012] In accordance with one aspect of the present invention, a method and apparatus ("utility") is provided for monitoring ocular perfusion and/or oxygen saturation. As noted above, it may be desirable to monitor ocular perfusion or oxygen saturation in connection with certain medical procedures. In addition, there may be other circumstances where it is desired to monitor ocular perfusion or oxygen saturation, e.g., after eye surgery or otherwise to monitor eye health. The utility involves an optical instrument for use in monitoring patient perfusion and/or oxygen saturation and a positioning structure for positioning at least a portion of the optical instrument so as to monitor the noted ocular parameter(s). For example, the optical instrument may include an optical transmitter assembly for transmitting an optical signal in relation to tissue of a patient's eye and an optical receiver assembly for receiving the optical signal after interaction with the tissue, e.g., reflection from the tissue area. Such a device may further include a processor for providing information regarding perfusion or oxygen saturation. For example, perfusion or oxygen saturation may be monitored based on measurements of signal attenuation at one or more wavelengths. A variety of algorithms have been developed in this regard. The positioning structure may include an eye contact for maintaining the instrument portion in a substantially fixed position in relation to a retina of the patient. For example, the instrument portion may include a fiber end for transmitting or receiving the optical signal. Alternatively or additionally, the utility may include headgear, e.g., in the form of eye glasses or virtual realty-style headgear, for reducing ambient light interference and/or providing the noted positioning structure.

[0013] In accordance with another aspect of the present invention, a fiber optic pathway is used in performing imaging spectroscopy to determine oxygen saturation, e.g., of ocular or other tissue. An associated apparatus comprises an imaging system for obtaining at least one image of tissue of interest; at least one fiber optic pathway disposed between the imaging system and the tissue of interest for use in obtaining the image(s); and a processor for processing the images to obtain information regarding the oxygen saturation of the tissue of interest. The fiber optic pathway(s) may be used to transmit light to the tissue of interest and/or transmit reflected light from the tissue of interest to an optical receiver (e.g., a camera). The processor may be operative for digitally subtracting images corresponding to different wavelengths and to correlate the result to an oxygen saturation value. In this regard, the processing may effectively combine reflectance imaging and oximetry.

[0014] In accordance with one aspect of the present invention, a utility is provided for use in detecting a potential onset of patient blindness. The utility involves identifying a physiological parameter potentially related to an onset of patient blindness, monitoring the identified physiological parameter during a medical procedure, and, based on monitoring, taking potentially corrective action in the event of an indication related to a potential onset of patient blindness. It will be appreciated that any physiological parameter determined to be relevant to the onset of patient blindness may be monitored in this regard. Parameters that may be relevant in this regard include ocular pressure, perfusion and oxygen saturation. Any one or combination of these parameters may be monitored during the medical procedure. With regard to perfusion and oxygen saturation, the measurement may be in the arterial, capillary or venous phase of blood perfusion of the retina. These measurements can be perfusion or saturation related and will generally involve measurements of different wavelengths. It may be desirable to monitor such a parameter during a variety of medical procedures, including emergency room procedures and surgical procedures, among others. For example, post-operative blindness has been identified as a problem in relation to certain spinal procedures. 」(当審訳:「[0012]本発明の一実施形態によれば、眼灌流及び/又は酸素飽和度を監視するための方法及び装置(「ユーティリティー」)が提供される。上述のように、特定の医療行為に関連して眼灌流又は酸素飽和度を監視することは望ましい場合がある。さらに、例えば、眼科手術後や眼の健康状態を監視するために、眼灌流又は酸素飽和度を監視することが望ましい他の状況が存在する。このようなユーティリティーは、患者の灌流及び/又は酸素飽和度を監視するために使用される光学機器及び所定の眼のパラメータを監視するような光学機器の少なくとも一部を位置決めするための位置決め構造を含む。光学機器は、例えば、患者の眼の組織に関連した光信号を伝えるための光トランスミッター装置及び組織との相互作用、例えば、組織の領域からの反射の後の光信号を受信するための光受信装置を含むことができる。そのような装置は、灌流又は酸素飽和度に関する情報を提供するプロセッサをさらに含みうる。例えば、灌流又は酸素飽和度は、一つ又はそれ以上の波長での信号減衰の計測に基づいて監視委されてもよい。この点に関してさまざまなアルゴリズムが開発されてきた。位置決め構造は、機器の一部を患者の網膜に関連した位置への実質的な固定を維持するための眼への接合を含むことができる。例えば、機器の一部は光信号を送受信するファイバ端部を含みうる。代替的に又は追加的に、ユーティリティーは、周辺の光を入れないことにより減少させるため、及び/又は、所定の位置決め構造を提供するための、例えば、眼鏡又はバーチャルリアリティヘッドギアを形成するようなヘッドギアを含みうる。
[0013]本発明の他の実施形態によれば、例えば、眼や他の組織の酸素飽和度を決定するためにイメージング分光法を実行するのに使用される。関連する装置は、少なくとも一つの関心ある組織イメージを撮るための撮像システム、画像を撮るために使用される撮像システムと関心ある組織の間に配置された少なくとも一つの光ファイバ経路及び関心ある組織の酸素飽和度に関する情報を得るための画像を処理するプロセッサを含む。光ファイバ経路は、関心ある組織に光を伝搬するため、及び/又は、関心領域からの反射光を光受信器(例えばカメラ)に伝搬するために使用される。プロセッサは、異なる波長に応じた画像をデジタル的に減算し、結果を酸素飽和度の値に結びつけるように動作する事ができる。これに関し、処理は、撮像画像の反射と酸素測定法とを効果的に組み合わせることができる。
[0014]本発明の一実施形態によれば、ユーティリティーは、患者の失明の潜在的な発症を検出するために提供される。ユーティリティーは、患者の失明の発症に潜在的に関連した生理学的パラメータを識別し、医学的な処置中の識別された生理学的なパラメータをモニタし、モニタすることに基づいて患者の失明の潜在的な発症に関連した兆候を示す潜在的な正確な症状を得ることを含む。患者の失明の発症に関連した決定された生理学的なパラメータがこの点において監視されることが理解されるであろう。これに関して関連するであろうパラメータは、眼圧、灌流及び酸素飽和度である。これらのパラメータの一つ又は組み合わせを、医療処置中に監視することができる。灌流及び酸素飽和度に関して、測定は網膜の血液灌流の動脈、毛細血管又は静脈の相であり得る。これらの測定は、関連した灌流又は飽和であり得、一般に異なる波長の測定を含む。緊急処置室における処置及び外科的処置などの様々な医療処置中にそのようなパラメータを関することが望ましい場合がある。例えば、術後の目覚ましさは、特定の脊椎の処置に関連する問題として認識される。」)

(引1b)「[0034] FIG. 3A illustrates a patient interface 300 that may be used to monitor ocular perfusion and/or retinal oxygen saturation. The interface 300 includes a mounting system for mounting input and output optical pathways 304 and 306 onto a patient's eye 308. The lens 310 may be placed onto the surface of the cornea at the beginning of a surgical procedure and may be replaced or moved as necessary during the course of the procedure. Moreover, the lens 310 may have channels for tear duct drainage and cooling of the eye. The lens 310 may be provided in different sizes to minimize damage to the cornea and is preferably sufficiently big or stable to minimize contact lens movement relative to the center of the pupil. In this manner, the relative positioning of the pupil and the optical pathways 304 and 306 remains relatively stable so that the amount of detected light will be sufficient for processing. If the amount of light received becomes insufficient, appropriate visual, audible or other alarms may be triggered to alert the caring physician(s) of the condition.」(当審訳:「[0034]図3Aは、眼灌流及び/又は網膜酸素飽和度を測定するための患者インターフェース300を示す。インターフェース300は、患者の眼308上に入力及び出力光経路304及び306を取り付けるための取り付けシステムを含む。レンズ310は、外科的手術のはじめに角膜の表面上に配置しても良いし、手術の過程で必要に応じ交換又は移動しても良い。さらにレンズ310は、涙の排水ダクトのための及び眼の冷却のためのチャネルを有しても良い。レンズ310は、角膜へのダメージを最小にするために異なるサイズで設けられても良く、瞳孔の中心に対するコンタクトレンズの動きを最小限にするために十分な大きさ及び安定性を有していることが好ましい。このようにして、瞳孔と光経路304及び306との相対的位置は比較的に安定しているので、検出された光の量は、処理のために十分である。受光した光が不十分になると、適切な視覚的、音響的又は他の警告が、担当医師に警告することができる。」)

(引1c)[0036] In operation, the input pathway 304 may be connected to one or more optical sources. For example, the sources may be operated to sequentially transmit light at multiple frequencies within the frequency range of 400-1000 nm so as to obtain multiple images. The output pathway 306 may be optically coupled to a CCD or CMOS camera or other optical detector. Although a single input pathway 304 and a single output pathway 306 are shown, it will be appreciated that multiple input and/or multiple output pathways may be used. As a further alternative, a single optical pathway may be used for the input and output optical signals. Moreover, each of the illustrated optical pathways may comprise a fiber optic bundle including numerous optical fibers. The bundle is preferably a coherent optical imaging bundle and is flexible and of low mass so as not to put excessive torque on the eye or contact lens.」(当審訳:「[0036]動作に関し、入力経路304は一つ又は複数の光源に接続されても良い。例えば、光源は、複数の画像を得るために、400−1000nmの周波数範囲内の複数の周波数の光を順次伝搬するよう操作できる。出力経路306は、CCD又はCMOSカメラ若しくは他の光学素子に光学的に結合される。単一の入力経路304及び単一の出力経路306が示されているが、複数の入力経路及び/又は複数の出力経路が使用されることも許容される。さらなる代替として、単一の光学的経路が、入力及び出力の光信号のために使用されることもできる。さらに、図示の光経路は多数の光ファイバを有する光ファイバ束を含むことができる。その束は、好ましくはコヒーレント光学結像束であり、眼やコンタクトレンズに過度なトルクを与えないように、可撓性で低質量である。」)


(引1d)「[0042] FIGS. 6A-6E illustrate an optical system 600 in accordance with the present invention. The illustrated system 600 includes an optical board 602, including a number of optical components as will be described below, and a processor 604 embodied as a computer. The optical board 602 is operative for transmitting optical beams of first and second wavelengths to a patient's eye via fiber optics and for receiving corresponding beams from the patient's eye as described above. The processor 604 is operative for calculating optical parameters as described above. It will be appreciated that the optical components of the board 602 and processing functionality of the processor 604 may be packaged in a single medical instrument housing. However, the illustrated embodiment of the system 600 allows for simple illustration of various functional components of the invention

[0043] The illustrated optical board 602 includes an optical transmission system 608 and an optical detection system 606. The optical transmission system 608 is operative to transmit optical signals into an input fiber 609 for transmission to one or both of the patient's eyes. As best shown in FIG. 6D, the optical transmission system 608 includes first and second optical sources 615 and 616 associated with drive components 614. For example, the first and second sources 615 and 616 may be LEDs for transmitting beams of first and second wavelengths. The drive components 614 may include electronics for driving the sources 615 and 616. In this regard, the drive components 614 may drive the sources 615 and 616 in response to signals from the processor 614 so as to provide the desired multiplexing or other timing of the transmitted signals.

[0044] In the illustrated embodiment, the optical beams from the sources 615 and 616 are both transmitted to the patient's eye via a common input fiber 609. This is accomplished in the illustrated embodiment by way of the dichroic beam combiner cube 617. The cube 617 is formed in two halves with an optical coating at the interface therebetween. The coating is substantially transparent to the beam transmitted by source 615 but is effective to redirect beams transmitted by the source 616 such that beams from the sources 615 and 616 exit the beam combiner 617 coaxially. The input fiber 609 terminates a ferrule that is mounted on the optical board 602. The beams exiting the beam combiner 617 are admitted into the input fiber 609 via optics 618, such as a focusing lens. The various components 614-619 are mounted on the optical board 602 by appropriate mounting mechanisms.

[0045] The optical detection system, as best shown in FIG. 6C, includes collection optics 611 and a detector 612. The output fiber terminates in a ferrule 610 mounted on the optical board 602. Light transmitted from the output fiber 607 is directed onto a detector surface of the detector 612 by the optics 612, which may include columnating or imaging lenses. The detector 612 receives the optical signal and generates an electrical signal corresponding to the optical signal. This electrical signal is transmitted to the processor 604 via cable 613. In this regard, the detector 612 may further include additional electronic components such as an analog-to-digital converter, an amplifier or other components for conditioning electrical signal from the detector 612. 」(当審訳:「[0042]図6A〜6Eは、本発明による光学システム600を示す。図示のシステム600は、後述するいくつかの部品と、コンピュータとして具体化されるプロセッサ604を含む。光学基板602は、光ファイバを通して患者の眼へ第1及び第2の波長の光ビームを透過させ、上述のように患者の眼から対応するビームを受けるように動作する。プロセッサ604は、上述のように光学パラメータを計算するように動作する。基板602の光学部品とプロセッサ604の処理能力は単一の医療機器ハウジング内に収納されても良いことが理解される。しかしながら、システム600の図示された実施形態は、本発明の様々な機能部品を説明を簡単にする。
[0043]図示された光学基板602は、光伝送システム608と光検出システム606を含む。光伝送システム608は、患者の一つまあ他は両方の眼に伝送するために入力ファイバ609の中に光信号を伝送するよう動作する。図6Dに最も良く示されるように、光伝送システム608は、駆動部品614で駆動される第1及び第2の光源615及び616を含む。例えば、第1及び第2の光源は、第1及び第2の波長の光を伝送するLEDであり得る。駆動部品614は、光源615及び616を駆動するための電子回路を含む。これに関し、駆動部品614は、伝送信号の所望の多重化又は他のタイミングを提供するように、プロセッサ614からの信号に応答して光源15及び616を駆動する。
[0044]図示された実施形態において、光源615及び616からの光ビームは、何れも、共通の入力ファイバ609を通じて患者の眼に伝達される。これは、ダイクロイック合波キューブ617による図示された実施例において達成される。キューブ617は、それらの間の界面における光学コーティングで2分割され形成されている。コーティングは、光源615により伝搬されるビームには、実質的に透過であるが、光源616により伝搬されるビームは方向を変更することにより、光源615及び616からのビームがビーム合波器617で同軸に出射される。入力ファイバ609は、光学基板602に取り付けられたフェルールに終端する。ビーム合波器617から出謝したビームは集束レンズのような光学系618を通して入力ファイバ609に入射する。様々な部品614−619が適切な取り付け機構によって、光学基板602に取り付けられる。
[0045]図6Cに最も良く示されように、光検出システムは、収集光学系611と検出器612とを含む。出力ファイバは、光学基板602上に取り付けられたフェルール610に終端する。出力ファイバ607から出力された光は、円柱状又は撮像レンズを含む光学系612によって検出器612の検出器表面に向けられる。検出器612は、光学信号を受信し光学信号に対応した電気信号に変換する。この電気信号はケーブル613を通じてプロセッサ604に伝搬される。これに関して、検出器612は、AD変換器、増幅器又は検出器からの電気信号を調整するための他の部品のような追加の電気部品をさらに含むことができる。」)

b 引用文献1に記載された発明
(a)上記(引1a)に記載の「装置」と「ユーティリティー」は、単に同じものを言い換えているものであるから「装置」として整理する。
そうすると、引用文献1には、以下の装置が記載されている。

「酸素飽和度を監視するための装置は、
患者の酸素飽和度を監視するために使用される光学機器と、
所定の眼のパラメータを監視するような光学機器の少なくとも一部を位置決めするための位置決め構造
を含み、
光学機器は、
患者の眼の組織に関連した光信号を伝えるための光トランスミッター装置と、
組織の領域からの反射の後の光信号を受信するための光受信装置
を含み、
位置決め構造は、
機器の一部を患者の網膜に関連した位置への実質的な固定を維持し、
装置は、
所定の位置決め構造を提供するための、バーチャルリアリティヘッドギアを形成するようなヘッドギアと、
関心ある組織の酸素飽和度に関する情報を得るための画像を処理するプロセッサを含み、
プロセッサは、
異なる波長に応じた画像をデジタル的に減算し、結果を酸素飽和度の値に結びつけるように動作し、
酸素飽和度に関して、測定は網膜の動脈、毛細血管又は静脈の相である眼の組織の酸素飽和度を決定するためにイメージング分光法を実行する装置。」

(b)上記(引1d)より、引用文献1には、以下の光学システム600が記載されている。(なお、上記(引1d)において、「光検出システム606」と「光検出システム」とは、同じものを指していることから、「光検出システム606」として整理した。また、「プロセッサ614」は、「プロセッサ604」の明らかな誤記であるといえることから、「プロセッサ604として整理した。)

「プロセッサ604と、
光伝送システム608と、
光検出システム606を含み、
光伝送システム608は、
駆動部品614で駆動される第1及び第2の光源615及び616を含み、
第1及び第2の光源は、第1及び第2の波長の光を伝送するLEDであり、
駆動部品614は、
伝送信号の所望の多重化又は他のタイミングを提供するように、プロセッサ604からの信号に応答して光源15及び616を駆動し、
光検出システム606は、
検出器612を含み、
検出器612は、
光学信号を受信し光学信号に対応した電気信号に変換し、
この電気信号はケーブル613を通じてプロセッサ604に伝搬される
光学システム600。」

(c)上記(引1b)及び(引1c)より、引用文献1には、「網膜酸素飽和度を測定するための患者インターフェース300の入力光経路304は光源に接続され、光源は、400−1000nmの周波数範囲内の複数の周波数の光を順次伝搬するよう操作できる」旨記載されており、上記(a)における装置も「眼の組織の酸素飽和度を決定するため」の装置であるから、上記(a)における装置の「患者の眼の組織に関連した光信号を伝えるための光トランスミッター装置」で使用する光も「400−1000nmの周波数範囲内の複数の周波数の光」であるといえる。

(d)上記(b)の「光学システム600」は、上記(a)の「光学機器」の構成を具体的に記載したものであるといえる。そして、上記(b)の「プロセッサ604」、「光伝送システム608」及び「光検出システム606」は、それぞれ、上記(a)における装置の「プロセッサ」、「光トランスミッター装置」及び「光受信装置」と同じものを指していることから、上記(b)の文言を使用して整理するとともに、(b)において、「プロセッサ604」は、「光学システム600」に含まれるものであることから、上記(a)における装置に含まれる「プロセッサ」も、「光学機器」に含まれるものとして整理することとする。

(e)以上、上記(a)〜(d)を踏まえると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「酸素飽和度を監視するための装置は、
患者の酸素飽和度を監視するために使用される光学システム600と、
所定の眼のパラメータを監視するような光学システム600の少なくとも一部を位置決めするための位置決め構造
を含み、
光学システム600は、
患者の眼の組織に関連した光信号を伝えるための光伝送システム608と、
組織の領域からの反射の後の光信号を受信するための光検出システム606と
関心ある組織の酸素飽和度に関する情報を得るための画像を処理するプロセッサ604と
を含み、
光伝送システム608は、
駆動部品614で駆動される第1及び第2の光源615及び616を含み、
第1及び第2の光源は、第1及び第2の波長の光を伝送するLEDであり、
第1及び第2の波長の光は、400−1000nmの周波数範囲内の異なる周波数の光であり、
駆動部品614は、
伝送信号の所望の多重化又は他のタイミングを提供するように、プロセッサ604からの信号に応答して光源15及び616を駆動し、
光検出システム606は、
検出器612を含み、
検出器612は、
光学信号を受信し光学信号に対応した電気信号に変換し、
この電気信号はケーブル613を通じてプロセッサ604に伝搬され、
プロセッサ604は、
異なる波長に応じた画像をデジタル的に減算し、結果を酸素飽和度の値に結びつけるように動作し、
酸素飽和度に関して、測定は網膜の動脈、毛細血管又は静脈の相である眼の組織の酸素飽和度を決定するためにイメージング分光法を実行し、
位置決め構造は、
機器の一部を患者の網膜に関連した位置への実質的な固定を維持し、
装置は、
所定の位置決め構造を提供するための、バーチャルリアリティヘッドギアを形成するようなヘッドギアを含む装置。」

(イ)引用文献2について
a 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2004−167080号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(引2a)「【0014】
ここで、図8の光吸収係数の波長依存性を考慮し、光源に、赤色(例えば660nm程度)と赤外(例えば940nm)の2色を使用し、血液中の酸素化ヘモグロビンと遊離(還元)ヘモグロビンとでの各波長の光源における光吸収係数の差を利用すれば、動脈血の、酸素飽和度を求めることができる。パルスオキシメトリーは正確な測定ができる優れた方法であるが、対象が動脈流に限られるという制限がある。」

(引2b)「【図8】


b 引用文献2に記載された事項
(a)上記(引2a)より、引用文献2には、以下の事項が記載されている。

「光吸収係数の波長依存性を考慮し、光源に、赤色(例えば660nm程度)と赤外(例えば940nm)の2色を使用し、血液中の酸素化ヘモグロビンと遊離(還元)ヘモグロビンとでの各波長の光源における光吸収係数の差を利用すれば、動脈血の、酸素飽和度を求めることができるパルスオキシメトリー。」

(b)上記(引2b)より、660nm程度の波長の赤色光は、モル吸収係数が、酸化ヘモグロビンに対して遊離(還元)ヘモグロビンが高い、即ち酸化ヘモグロビンよりも遊離(還元)ヘモグロビンに敏感な光である点が見て取れる。そして、940nmの赤外光は、モル吸収係数が遊離(還元)ヘモグロビンよりも酸素化ヘモグロビンが高い、即ち遊離(還元)ヘモグロビンよりも酸素化ヘモグロビンに敏感である点が見て取れる。

(c)上記(a)及び(b)を踏まえると、引用文献2には、以下の技術事項(以下「技術事項2」という。)が記載されている。

「遊離(還元)ヘモグロビンに敏感な光である660nm程度の波長の赤色光と、酸素化ヘモグロビンに敏感である940nmの赤外光とを使用し、血液中の酸素化ヘモグロビンと遊離(還元)ヘモグロビンとでの各波長の光源における光吸収係数の差を利用すれば、動脈血の、酸素飽和度を求めることができるパルスオキシメトリー。」

(ウ)引用文献5について
a 引用文献5に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2013−059439号公報(以下「引用文献5」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(引5a)「【0023】
図1は、本発明の実施形態に係るパルスオキシメータ1の機能構成を示す図である。図1に示すように、パルスオキシメータ1は、被測定者の動脈血中の酸素飽和度を測定する装置であり、発光部10と、受光部20と、抽出部30と、演算処理部50と、表示部60とを備える。なお、このパルスオキシメータ1は、本発明の生体信号測定装置の一例であり、発光部10と受光部20とにより生体信号測定部が構成される。
【0024】
発光部10は、発光素子11、発光素子12、および駆動回路13を有する。発光素子11および発光素子12は、2つの異なる長の光を交互に発光するように駆動回路13によって駆動される。本例において、発光素子11は、波長がおよそ940nmの赤外光(IR)を発光する発光ダイオードであり、また、発光素子12は、波長がおよそ660nmの赤色光(R)を発光する発光ダイオードである。
【0025】
受光部20は、受光素子21および増幅器22を有する。受光素子21は、発光部10から被測定者の生体組織500に向けて上記の異なる2波長の光が交互に照射されると、当該生体組織500を透過又は反射したそれぞれの波長の光を受光し、それぞれの光の受光強度に応じた電気信号に変換する。増幅器22は、受光素子21からの電気信号を所定に増幅する。本例において、受光素子21は、フォトダイオードである。また、生体組織500は、例えば被測定者の指先や耳朶である。」

(引5b)「【0028】
演算処理部50は、第1演算処理部51および第2演算処理部52を有する。本例では、上記のA/D変換器34と第1演算処理部51、および、第1演算処理部51と第2演算処理部52とは、それぞれ例えば8ビットのデータバスで接続されている。なお、第1演算処理部51と第2演算処理部52とはそれぞれ独立して制御可能である物理的に異なる素子であるのが好ましい。
【0029】
第1演算処理部51は、本例ではCPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)であり、デジタル化された上記2波長のそれぞれの光に対応する電気信号から動脈血の酸素飽和度を算出する。より具体的には、第1演算処理部51は、赤色光(R)の波長の吸光度の脈動成分をΔAR、赤外光(IR)の波長の吸光度の脈動成分をΔAIRとすると、ランバート・ベールの法則に基づき、Ф1=ΔAR/ΔAIRで与えられるこれら2波長の吸光度の比Ф1を算出する。そして、第1演算処理部51は、算出した上記2波長の吸光度の比Ф1に基づいて、被測定者の動脈血の酸素飽和度や脈拍数などを算出し、その算出結果をタイミングデータに対応付けて表示部60へと出力する。表示部60は、第1演算処理部51から入力される動脈血の酸素飽和度の現在の値およびその経時的な変化等を表示する。」

b 引用文献5に記載された事項
(a)上記(引5a)及び(引5b)より、引用文献5には、以下の「パルスオキシメータ1」が記載されている。

「被測定者の動脈血中の酸素飽和度を測定する装置であり、発光部10と、受光部20と、抽出部30と、演算処理部50と、表示部60とを備えるパルスオキシメータ1において、
発光部10は、
発光素子11、発光素子12、および駆動回路13を有し、
発光素子11は、波長がおよそ940nmの赤外光(IR)を発光する発光ダイオードであり、
発光素子12は、波長がおよそ660nmの赤色光(R)を発光する発光ダイオードであり、
受光部20は、
受光素子21および増幅器22を有し、
受光素子21は、
発光部10から被測定者の生体組織500に向けて上記の異なる2波長の光が交互に照射されると、当該生体組織500を透過又は反射したそれぞれの波長の光を受光し、それぞれの光の受光強度に応じた電気信号に変換し、
演算処理部50は、
第1演算処理部51および第2演算処理部52を有し、
第1演算処理部51は、
デジタル化された上記2波長のそれぞれの光に対応する電気信号から動脈血の酸素飽和度を算出し、
赤色光(R)の波長の吸光度の脈動成分をΔAR、赤外光(IR)の波長の吸光度の脈動成分をΔAIRとすると、ランバート・ベールの法則に基づき、Ф1=ΔAR/ΔAIRで与えられるこれら2波長の吸光度の比Ф1を算出し、
算出した上記2波長の吸光度の比Ф1に基づいて、被測定者の動脈血の酸素飽和度を算出する
パルスオキシメータ1。」

(b)上記(a)において、「赤色光(R)の波長の吸光度の脈動成分をΔAR、赤外光(IR)の波長の吸光度の脈動成分をΔAIR」は、何れも、「受光素子21」が「それぞれの光の受光強度に応じ」て「変換し」た「電気信号」に基づくものであるから、「受光素子21」が検出した信号であるといえる。
そうすると、引用文献5には、上記「パルスオキシメータ1」が「被測定者の動脈血の酸素飽和度を算出する」方法として、以下の技術事項(以下「技術事項5」という。)が記載されている。

「受光素子21が検出した波長がおよそ660nmの赤色光(R)の吸光度の脈動成分をΔARと、
受光素子21が検出した波長がおよそ940nmの赤外光(IR)の吸光度の脈動成分をΔAIRとし、
ランバート・ベールの法則に基づき、Ф1=ΔAR/ΔAIRで与えられるこれら2波長の吸光度の比Ф1を算出し、
算出した上記2波長の吸光度の比Ф1に基づいて、被測定者の動脈血の酸素飽和度を算出する方法。」

(ウ)参考文献について
本件補正により追加された電磁照射エミッタが「前記ユーザの眼の網膜および強膜を含んでいる関連付けられた照射野を有して」いる点についての「強膜」に関する技術を示す文献として、以下の参考文献を示す。
a 参考文献1について
本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった米国特許出願公開第2014/163329号明細書には、図面とともに、次の記載がある。

(参1a)「[0127] In various embodiment described herein, the physiological parameter may be a measurement of and/or indicative of heart rate or pulse rate, blood flow, a temperature (e.g. body temperature), or a substance (e.g., a chemical component) in the eye of the subject, which may be, for example, a substance in the aqueous humor or vitreous humor, or in the blood of the retina, conjunctiva, or sclera. A wide variety of substances in blood, aqueous humor or vitreous humor can be detected using spectroscopic methods, as described herein and as known to those of skill in the relevant art. Substances that may be detected include, but are not limited to, glucose, oxygen, glycosylated hemoglobin, salts, proteins, lipids, gases, hormones, and drugs. The physiological parameter may be measured directly, or derived from a parameter that is measured directly. Blood flow may be determined, for example, with laser Doppler or thermal flowmetry based on optical temperature measurements. Heart rate or pulse rate can be determined from ocular pulse measurements (see e.g., U.S. Pat. No. 3,948,248 issued to Zuckerman et al. on Apr. 6, 1976 which is incorporated herein by reference). Other physiological parameters may be measured by methods known to those having skill in the art.」(当審訳:「本明細書に記載の様々な実施形態において、生理学的パラメータは、心拍数又は脈拍数、血流、温度(例えば体温)、又は、例えば、房水又は硝子体中の、又は、網膜、結膜又は強膜中の物質である対象の眼の中の物質(例えば化学物質)の測定値及び/又は指標であり得る。血液、房水又は硝子体の中の様々な種類の物質は、本明細書に記載され及び当業者に知られているような分光法を使用して検出できる。検出できる物質は、限定され得るわけではないが、グルコース、酸素、糖化ヘモグロビン、塩、タンパク質、脂質、ガス、ホルモン及び薬物が挙げられる。生理学的パラメータは、直接測定されても良く、又は、直接測定されたパラメータから導出されても良い。血流は、例えば、レーザドップラ又は光学温度測定に基づく熱流量で決定される。心拍数又は脈拍数は、眼のパルス測定(例えば、1976年4月6日発行、Zuckermanらによる米国特許第3948248号明細書を参照)から決定することができる。他の生理学的パラメータは当業者が知っているような方法で測定される。」)

(参1b)「[0321] A noncontact eye interrogation system 5100 which measures and displays physiological parameters 5126 to a runner is built into treadmill 5128. The eye interrogation system includes gaze attraction and tracking components to align the runner's eyes with an interrogation signal source 5106 and a response signal sensor 5120. The system includes a signal processing circuitry to activate the interrogation source 5106 and response signal sensor 5110 during exercise and to obtain physiological data from the detected signals. The noncontact eye interrogation system 5100 unobtrusively monitors and displays heart rate, respiration rate, body temperature, and oxygen saturation in the blood. In the example shown in FIG. 51, the system may include signal processing circuitry (including hardware and software) that causes the physiological parameter 5126 to be displayed on a liquid crystal display (LCD) 5130 display on the treadmill 5128.」(当審訳:「[0321]ランナーに生理学的パラメータ5126を測定し表示する非接触の眼の問い合わせシステム5100は、トレンドミル5128内に組み込まれる。眼の問い合わせシステムは、問い合わせ信号源5106及び応答信号センサ5120とともにランナーの目を整列させるための視線を集中させ及び追跡する部品を含む。システムは、運動中に問い合わせ源5106と応答信号センサ5110を活性化し、検出された信号から生理学的データを得るための信号処理回路を含む。接触の眼の問い合わせシステム5100は、心拍数、体温及び血中酸素濃度を、目立たないように監視し表示する。図51に示される例では、システムは、トレンドミル5128の液晶表示装置(LCD)5130に生理学的パラメータ5123を表示させるための信号処理回路(ハードウェア及びソフトウェアを含む)を含む。」)

b 参考文献2について
本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった米国特許第6494576号明細書には、図面とともに、次の記載がある。

(参2a)「The light that has traversed through the retina and through the choroid, and has been reflected from the sclera back through the choroid and retina once again, and then through the transparent media of the eye, and through the optical system of the camera, impinges on the video camera. The purpose of the 660 nm band-pass filter is to allow only wavelengths close to 660 nm to be photographed by the video camera during the non-pulsatile phase of chorio-retinal circulation; this comprises only the venous non-oxygenated blood and the non-pulsatile arteriole oxygenated blood, both of which are not in an arteriole-pulse phase during recording by the video camera. Similarly, by placing a band-pass filter narrowly grouped around 940 nm before the video camera, this filter would allow recording the absorption (and transmission) that takes place during the pulsatile phase, which would include the newly pulsed oxyhemoglobin that has flowed into the vascular bed of the choroid and retina, as well as the non-pulsatile oxyhemoglobin and reduced non-oxygenated hemoglobin noted previously. The difference between the oxygen saturation recorded at 940 nm is due to the incoming pulse phase of oxyhemoglobin and the dormant non-pulsatile oxyhemoglobin and reduced hemoglobin will determine the relative oxygenation of that portion of the choroid and retina in the eye.」(6欄53行−7欄10行、当審訳:「網膜を通過し及び脈絡膜を通過して横切り、強膜で反射し再び網膜及び脈絡膜を通じて、そして眼の透明媒体を通し、カメラの光学システムを通過した光は、ビデオカメラに照射される。660nmのバンドバスフィルタの目的は、何れもビデオカメラによって記録している間の動脈脈波相ではない、静脈非酸素化血液と非拍動酸素化細動脈血液とのみを含む脈絡網膜循環の非脈動相の間にビデオカメラによって撮影される660nm近傍の波長だけが許容されることである。同様にビデオカメラの前に940nmあたりの狹域バンドパスフィルタを配置することによって、このフィルタは、以前記録されたパルスではないオキシヘモグロビンと減少した酸素化されていないヘモグロビンと同様に、網膜及び脈略膜の膜状相の中に流れる新しくパルス化されたオキシヘモグロビンを含む拍動相の間に起こる吸収(および透過)を記録できる。940nmで記録された酸素飽和度の間の差は、オキシヘモグロビンの拍動相に従い非拍動性オキシヘモグロビンの休止及び還元したヘモグロビンは眼の脈絡膜及び網膜のその部分の酸素化の比率を決定する。」)

(参2b)「Taking a photograph at the top of the pulsewave as well as at the bottom of the pulsewave can be expedited by using a digital LED finger recording plethysmograph (such as manufactured by Datascope). With each pulse, the camera can be programmed to take a picture at the top of the pulsewave, and/or at the bottom of the pulsewave, in order that the photographs can be overlapped and, through the process of digital subtraction, the oxygen saturation can be determined for various parts of the choroid and sclera and optic nerve region. A plethysmograph on earlobe can also be used to determine the top and bottom of the arteriole pulsewave form, but a finger clip is preferable.」(7欄24−35行、当審訳:「パルスウェーブの底部と同様にパルスウェーブ上部での撮影は、(データスコープとして作られたような)デジタルLEDフィンガーレコーディングプレシモグラフを使うことによって迅速化できる。各パルスでは、カメラは、撮像画像が重ね合わされるために、及び、デジタル的に減算することで、酸素飽和度が脈絡膜及び強膜、及び視神経領域のいろいろな部分で決定するために、パルスウェーブの上部で及び/又はパルスウェーブの下部で写真を撮るようにプログラムされている。フィンガークリップが好ましいが、耳たぶのプレスモグラフもまた、動脈の脈波の上部及び底部を決定するために使用することがでいる。」)

c 周知技術について
上記(参1a)より、参考文献1には、「生理学的パラメータは、・・・強膜中の物質・・・の測定値・・・であり、・・・分光法を使用して・・・検出できる物質は、・・・酸素、・・・が挙げられる」旨記載されていることから、参考文献1には、生理学的パラメータとして酸素を、分光法を使用して強膜から検出する技術が記載されているといえる。そして、上記(参1b)より、参考文献1の「システム・・・は、・・・血中酸素飽和度を、・・・監視・・・する。」ものであるから、参考文献1には、血中酸素飽和度を、光を使用して強膜から検出する技術が記載されているといえる。
また、上記(参2a)より、参考文献2には、「強膜で反射した」光により酸素飽和度を決定すること、及び、2つの波長を使用して検出することが記載され、上記(参2b)より、参考文献2には、「酸素飽和度」を「強膜」で決定する旨記載されていることから、参考文献2にも、血中酸素飽和度を、光を使用して強膜から検出する技術が記載されているといえる。
そうすると、血中酸素飽和度を、光を使用して強膜から検出する技術は周知技術であるといえる。

ウ 引用発明との対比
(ア)本件補正発明と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「患者」は、本件補正発明の「ユーザ」に相当する。そして、引用発明の「酸素飽和度を監視するための装置」は、「眼の組織の酸素飽和度を決定するためにイメージング分光法を実行」するものであって、「眼」は「患者」のものであるから、「患者」の「酸素飽和度を決定するため」の「装置」であるといえる。
そうすると、引用発明の「患者」の「酸素飽和度を決定するため」の「装置」は、本件補正発明の「ユーザの酸素飽和度を決定するためのシステム」に相当する。

b 引用発明の「ヘッドギア」は、本件補正発明の「頭部搭載型部材」に相当する。そして、引用発明の「バーチャルリアリティヘッドギアを形成するようなヘッドギア」は、「患者」の頭部に取り外し可能に結合可能な部材であるから、引用発明の「患者」の頭部に取り外し可能に結合可能な「バーチャルリアリティヘッドギアを形成するようなヘッドギア」は、本件補正発明の「a.前記ユーザの頭部に取り外し可能に結合可能な頭部搭載型部材」に相当する。

c 引用発明の「第1及び第2の光源615及び616」は、「第1及び第2の波長の光を伝送するLEDであ」るから、本件補正発明の「前記1つまたは複数の電磁放射エミッタ」に相当する。また、引用発明の「第1及び第2の波長の光は、400−1000nmの周波数範囲内の複数の周波数の光であり」、「400−1000nmの周波数範囲内の複数の周波数の光」は、「可視スペクトルから赤外スペクトル内」の波長を伴う光である。

d 引用発明の「光伝送システム608」は、「患者の眼の組織に関連した光信号を伝えるための」のものである。また、引用発明の「装置」に含まれる「位置決め構造は、機器の一部を患者の網膜に関連した位置への実質的な固定を維持」するものであって、「バーチャルリアリティヘッドギアを形成するようなヘッドギア」は、「所定の位置決め構造を提供するため」のものである。
そうすると、引用発明の「光伝送システム608」に含まれる「第1及び第2の光源615及び616」からの「光信号」は、「バーチャルリアリティヘッドギアを形成するようなヘッドギア」からなる「位置決め構造」により「「患者の眼」の「網膜」の方向に放出するように位置決めされているといえるから、引用発明の「第1及び第2の光源615及び616」は、「バーチャルリアリティヘッドギアを形成するようなヘッドギア」に結合され、「光信号」を「患者の眼」の方向に放出し、「患者の眼の」「網膜」を含んでいる関連付けられた照射野を有しているといえる。

e 以上c及びdを踏まえると、引用発明の「バーチャルリアリティヘッドギアを形成するようなヘッドギア」に結合され、「400−1000nmの周波数範囲内の複数の周波数の光」を、「患者の眼」の方向に放出するように構成され、かつ、「患者の眼の」「網膜」を含んでいる関連付けられた照射野を有している「第1及び第2の光源615及び616」と、本件補正発明の「 b.前記頭部搭載型部材に結合されている1つまたは複数の電磁放射エミッタであって、前記1つまたは複数の電磁放射エミッタは、可視スペクトルから赤外スペクトル内の少なくとも2つの異なる波長を伴う光を前記ユーザの眼のうちの少なくとも一方の方向に放出するように構成されており、かつ、前記ユーザの眼の網膜および強膜を含んでいる関連付けられた照射野を有している、1つまたは複数の電磁放射エミッタ」とは、「b’.前記頭部搭載型部材に結合されている1つまたは複数の電磁放射エミッタであって、前記1つまたは複数の電磁放射エミッタは、可視スペクトルから赤外スペクトル内の少なくとも2つの異なる波長を伴う光を前記ユーザの眼のうちの少なくとも一方の方向に放出するように構成されており、かつ、前記ユーザの眼の網膜を含んでいる関連付けられた照射野を有している、1つまたは複数の電磁放射エミッタ」である点で共通する。

f 引用発明の「光検出システム606」に含まれる「検出器612」は、本件補正発明の「電磁放射検出器」に相当する。そして、引用発明の「光検出システム606」は、「組織の領域からの反射の後の光信号を受信するための」ものであって、「組織」は「患者の眼の組織」であり、「測定は網膜の動脈、毛細血管又は静脈の相である眼の組織の酸素飽和度を決定するため」ものであるから、引用発明の「光検出システム606」に含まれる「検出器612」は、「患者の眼の」「網膜の動脈、毛細血管又は静脈」に衝突した後に反射された光を受け取るように構成されていることは明らかである。また、引用発明の「装置」に含まれる「位置決め構造は、機器の一部を患者の網膜に関連した位置への実質的な固定を維持」するものであり、「バーチャルリアリティヘッドギアを形成するようなヘッドギア」は、「所定の位置決め構造を提供するため」のものであるから、引用発明の「光検出システム606」に含まれる「検出器612」は、「バーチャルリアリティヘッドギアを形成するようなヘッドギア」からなる「位置決め構造」により「患者の眼の」「網膜の動脈、毛細血管又は静脈」に衝突した後に反射された光を受け取るように位置決めされているといえるから、引用発明の「光検出システム606」に含まれる「検出器612」は、「バーチャルリアリティヘッドギアを形成するようなヘッドギア」に結合しているといえる。
そうすると、引用発明の「バーチャルリアリティヘッドギアを形成するようなヘッドギア」に結合し、「患者の眼の」「網膜の動脈、毛細血管又は静脈」に衝突した後に反射された光を受け取るように構成されている「検出器612」と、本件補正発明の「 c.前記頭部搭載型部材に結合されている1つまたは複数の電磁放射検出器であって、前記1つまたは複数の電磁放射検出器は、前記ユーザの眼の網膜または強膜の少なくとも1つの血管に衝突した後に反射された光を受け取るように構成されている、1つまたは複数の電磁放射検出器」とは、「 c’.前記頭部搭載型部材に結合されている1つまたは複数の電磁放射検出器であって、前記1つまたは複数の電磁放射検出器は、前記ユーザの眼の網膜の少なくとも1つの血管に衝突した後に反射された光を受け取るように構成されている、1つまたは複数の電磁放射検出器」で共通する。

g 引用発明は「プロセッサ604からの信号に応答して光源15及び616を駆動し」、「検出器612は、光学信号を受信し光学信号に対応した電気信号に変換し、この電気信号はケーブル613を通じてプロセッサ604に伝搬され」るから、引用発明の「プロセッサ604」は、本件補正発明の「コントローラ」に相当し、引用発明の「光源15及び616を駆動し」「検出器612」から「電気信号」が「ケーブル613を通じて」「伝搬され」る「プロセッサ604」は、本件補正発明の「前記1つまたは複数の電磁放射エミッタおよび1つまたは複数の電磁放射検出器に作用可能に結合されたコントローラ」に相当する。
そして、引用発明の「プロセッサ604は、異なる波長に応じた画像をデジタル的に減算し、結果を酸素飽和度の値に結びつけるように動作」するから、引用発明の「光源15及び616を駆動し」、「検出器612」から「電気信号」が「ケーブル613を通じて」「伝搬され」、「異なる波長に応じた画像をデジタル的に減算し、結果を酸素飽和度の値に結びつけるように動作」する「プロセッサ604」と、本件補正発明の「前記1つまたは複数の電磁放射エミッタに、光のパルスを放出させながら、また、前記1つまたは複数の電磁放射検出器に、前記放出された光のパルスに関連する光の吸収レベルを検出させることであって、前記波長のうちの第1の波長は、脱酸素化ヘモグロビンに敏感であるように選択されており、前記波長のうちの第2の波長は、酸素化ヘモグロビンに敏感であるように選択されている、ことと、前記1つまたは複数の電磁放射検出器によって検出された前記第1の波長を有する光によって前記第2の波長を有する光を除算した比率を決定することによって前記血管内の酸素飽和度レベルに比例する出力を生成することとを行うように構成されている、コントローラ」とは、「前記1つまたは複数の電磁放射エミッタに、光のパルスを放出させながら、また、前記1つまたは複数の電磁放射検出器に、前記放出された光のパルスに関連する光の吸収レベルを検出させることであって」、「前記1つまたは複数の電磁放射検出器によって検出された前記第1の波長を有する光と前記第2の波長を有する光によって前記血管内の酸素飽和度レベルを生成することとを行うように構成されている、コントローラ」で共通する。
そうすると、引用発明の「プロセッサ604」と、本件補正発明の「コントローラ」とは、「d’.前記1つまたは複数の電磁放射エミッタおよび1つまたは複数の電磁放射検出器に作用可能に結合されたコントローラであって、前記コントローラは、前記1つまたは複数の電磁放射エミッタに、光のパルスを放出させながら、また、前記1つまたは複数の電磁放射検出器に、前記放出された光のパルスに関連する光の吸収レベルを検出させることであって、前記1つまたは複数の電磁放射検出器によって検出された前記第1の波長を有する光と前記第2の波長を有する光とによって前記血管内の酸素飽和度レベルを生成することとを行うように構成されている、コントローラ」である点で共通する。

(イ)以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)「 ユーザの酸素飽和度を決定するためのシステムであって、
a.前記ユーザの頭部に取り外し可能に結合可能な頭部搭載型部材と、
b’.前記頭部搭載型部材に結合されている1つまたは複数の電磁放射エミッタであって、前記1つまたは複数の電磁放射エミッタは、可視スペクトルから赤外スペクトル内の少なくとも2つの異なる波長を伴う光を前記ユーザの眼のうちの少なくとも一方の方向に放出するように構成されており、かつ、前記ユーザの眼の網膜を含んでいる関連付けられた照射野を有している、1つまたは複数の電磁放射エミッタと、
c’.前記頭部搭載型部材に結合されている1つまたは複数の電磁放射検出器であって、前記1つまたは複数の電磁放射検出器は、前記ユーザの眼の網膜の少なくとも1つの血管に衝突した後に反射された光を受け取るように構成されている、1つまたは複数の電磁放射検出器と、
d’.前記1つまたは複数の電磁放射エミッタおよび1つまたは複数の電磁放射検出器に作用可能に結合されたコントローラであって、前記コントローラは、前記1つまたは複数の電磁放射エミッタに、光のパルスを放出させながら、また、前記1つまたは複数の電磁放射検出器に、前記放出された光のパルスに関連する光の吸収レベルを検出させることであって、前記1つまたは複数の電磁放射検出器によって検出された前記第1の波長を有する光と前記第2の波長を有する光とによって前記血管内の酸素飽和度レベルを生成することとを行うように構成されている、コントローラと
を備える、システム。」

(相違点1)電磁放射エミッタの照射野及び前記1つまたは複数の電磁放射検出器が受け取る光が、本件補正発明は、照射野が「前記ユーザの眼の網膜および強膜を含んでいる関連付けられた」ものであって、受け取る光が「網膜または強膜の少なくとも1つの血管に衝突した後に反射された光」であるのに対し、引用発明は、照射野が「網膜」に関連づけられているものの、強膜についての特定はなく、受け取る光が「網膜の動脈、毛細血管又は静脈の相である眼の組織」からの反射光である点。

(相違点2)前記コントローラが、前記血管内の酸素飽和度レベルの出力することが、本件補正発明は、「前記1つまたは複数の電磁放射エミッタ」が「放出する」光の「可視スペクトルから赤外スペクトル内の少なくとも2つの異なる波長」「のうちの第1の波長は、脱酸素化ヘモグロビンに敏感であるように選択されており、前記波長のうちの第2の波長は、酸素化ヘモグロビンに敏感であるように選択され」、「前記1つまたは複数の電磁放射検出器によって検出された前記第1の波長を有する光によって前記第2の波長を有する光を除算した比率を決定することによって前記血管内の酸素飽和度レベルに比例する出力を生成すること」であるのに対し、引用発明は「異なる波長に応じた画像をデジタル的に減算し、結果を酸素飽和度の値に結びつける」ことである点。

エ 判断
以下、相違点について検討する。
(ア)相違点1について
電磁放射エミッタの照射野をどの程度の範囲とするかは、検出する環境や使用機器等により適宜設定されるものである。
そして、上記イ(ウ)cで検討したとおり、酸素飽和度を、光を使用して強膜から検出する技術は周知技術であるから、酸素飽和度の検出を、網膜以外に強膜から検出するようにすることは、当業者において容易に想到できるものであり、そのためには、電磁放射エミッタの照射野に「強膜」を含ませなければならないことは明らかである。
そうすると、電磁放射エミッタの照射野を「前記ユーザの眼の網膜および強膜を含んでいる関連付けられた」ものとし、受け取る光を「網膜または強膜の少なくとも1つの血管に衝突した後に反射された光」とすることは、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるといえる。
なお、上記2(1)で検討したとおり、「前記ユーザの眼の網膜および強膜を含んでいる関連付けられた照射野を有している」構成及び「前記ユーザの眼の網膜または強膜の少なくとも1つの血管に衝突した後に反射された光を受け取るように構成」の内、網膜及び強膜を同時に照射し、その照射野において網膜または強膜の血管に衝突した後に反射された光の内のいずれか一方を選択する構成は、翻訳文等には記載がなく、当該構成は自明の事項でなく、本件補正は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであると説示したところであるが、当該構成が、新たな技術的事項を導入するものでないと判断できるのであれば、当該構成は技術常識を考慮することにより自明の事項であるといえることとなるから、そのような観点から見ても、引用発明において、上記周知技術を参酌し、電磁放射エミッタの照射野に「強膜」を含ませ、電磁放射エミッタの照射野を「前記ユーザの眼の網膜および強膜を含んでいる関連付けられた」ものとし、受け取る光を「網膜または強膜の少なくとも1つの血管に衝突した後に反射された光」とすることは、当業者が容易に想到できたものであるといえる。

(イ)相違点2について
引用発明において「酸素飽和度の値」を、どのように求めるかは、単に「異なる波長に応じた画像をデジタル的に減算し、結果を酸素飽和度の値に結びつける」との特定のみで、具体的にどのような波長を選択し、どのように算出するかは記載されていない。
そして、一般的に、同一技術分野の周知技術を採用することは当業者において通常行いうる事項であるところ、酸素飽和度を算出するために、「波長がおよそ660nmの赤色光(R)」と、「波長がおよそ940nmの赤外光(IR)」を使用して、「波長がおよそ660nmの赤色光(R)」と「波長がおよそ940nmの赤外光(IR)の測定値」とから、これらの吸光度の脈動成分をそれぞれΔAR及びΔAIRとしたとき、ランバート・ベールの法則に基づき、Ф1=ΔAR/ΔAIRで与えられるこれら2波長の吸光度の比Ф1を算出し、算出した上記2波長の吸光度の比Ф1に基づいて、被測定者の動脈血の酸素飽和度を算出する方法」は、技術事項5に見られるように周知であるから、引用発明において、当該周知技術を採用する動機付けはあるといえる。
また、「波長がおよそ660nmの赤色光(R)」と、「波長がおよそ940nmの赤外光(IR)」を使用して「酸素飽和度」を算出するに際して、「波長がおよそ660nmの赤色光(R)」が「遊離(還元)ヘモグロビン」即ち本件補正発明における「脱酸素化ヘモグロビン」に敏感であって、「波長がおよそ940nmの赤外光(IR)」が「酸素化ヘモグロビン」に敏感であることは、技術事項2に見られるように自明の事項である。
そうすると、引用発明に技術事項5に見られるような周知技術を適用し、引用発明の「第1及び第2の光源は、第1及び第2の波長の光」として、「波長がおよそ660nmの赤色光(R)」と、「波長がおよそ940nmの赤外光(IR)」を選択し、「酸素飽和度を決定するため」の方法として、「受光素子21が検出した」「波長がおよそ660nmの赤色光(R)の吸光度の脈動成分」である「ΔAR」と、「波長がおよそ940nmの赤外光(IR)の吸光度の脈動成分」である「ΔAIR」とから「Ф1=ΔAR/ΔAIRで与えられるこれら2波長の吸光度の比Ф1を算出し、算出した上記2波長の吸光度の比Ф1に基づいて、被測定者の動脈血の酸素飽和度を算出する」方法とした場合、「波長がおよそ660nmの赤色光(R)」が「脱酸素化ヘモグロビン」に敏感であって、「波長がおよそ940nmの赤外光(IR)」が「酸素化ヘモグロビン」に敏感であることは、技術事項2に見られるように自明の事項であるから、引用発明に技術事項5に見られる周知技術を適用したものは、技術事項2を踏まえれば、上記相違点2に係る構成を充足している。
したがって、引用発明において、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

(ウ)効果について
本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1,2及び5に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(エ)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであって、仮に、違反しないものであったとしても、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年12月11日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年5月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜19に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1−19に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2−5に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:米国特許出願公開第2007/0270673号明細書
引用文献2:特開2004−167080号公報
引用文献3:特開2008−099834号公報
引用文献4:米国特許出願公開第2002/0072658号明細書
引用文献5:特開2013−59439号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、2、5及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)イに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「システム」が有する「照射野」が「前記ユーザの眼の網膜および強膜を含んでいる関連付けられた」ものであり、「少なくとも1つの血管に衝突した後に反射された光」が「前記ユーザの眼の網膜または強膜」からのものである旨の限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(2)ウ、エに記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 井上 博之
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-01-19 
結審通知日 2022-01-20 
審決日 2022-02-02 
出願番号 P2017-548443
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 55- Z (A61B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 福島 浩司
渡戸 正義
発明の名称 拡張現実パルスオキシメトリ  
代理人 山本 健策  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 石川 大輔  
代理人 飯田 貴敏  

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